(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】自転車
(51)【国際特許分類】
B62M 6/50 20100101AFI20240418BHJP
B62J 45/415 20200101ALI20240418BHJP
B62J 45/413 20200101ALI20240418BHJP
B62J 45/412 20200101ALI20240418BHJP
B62J 45/411 20200101ALI20240418BHJP
B62M 6/65 20100101ALI20240418BHJP
B62J 50/22 20200101ALI20240418BHJP
【FI】
B62M6/50
B62J45/415
B62J45/413
B62J45/412
B62J45/411
B62M6/65
B62J50/22
(21)【出願番号】P 2021179735
(22)【出願日】2021-11-02
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】東 朋幸
(72)【発明者】
【氏名】蓮見 光晴
(72)【発明者】
【氏名】森口 達也
【審査官】中島 昭浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-148656(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0004271(US,A1)
【文献】特開2021-160607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0406999(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/00 - 7/14
B62M 23/00 - 23/02
B62J 45/00 - 45/423
B62J 50/20 - 50/23
B60L 1/00 - 58/40
B60W 10/00 - 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車であって、
車体フレームと、
前記車体フレームに回転可能に支持される操舵輪である前輪と、
前記車体フレームに回転可能に支持される後輪と、
前記車体フレームに回転可能に支持されるクランク軸と、
前記クランク軸に接続され、前記クランク軸とともに回転するペダルと、
前記ペダルの回転を前記後輪へ伝達する伝達部材と、
前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つに対して、少なくとも後進回転のトルクを付与するモータと、
前記車体フレームのロール角又はロール角速度の少なくとも1つを検出するロール検出部と、
前記前輪の操舵の向きを検出する操舵検出部と、を備え、
前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、前記操舵検出部で検出される前記操舵の向き、及び、前記ロール検出部で検出される前記自転車の前記車体フレームのロール角又はロール角速度の少なくとも1つに基づき、前記車体フレームのロール角を維持するためのトルクを、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つに付与
し、
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記自転車の前後方向の傾斜角が、第1傾斜角条件を満たす場合に実行される、自転車。
【請求項2】
請求項1に記載の自転車であって、
前記自転車は、前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、乗員による前記ペダルの踏力が前記伝達部材を通して前記後輪に伝達されることで生じる前進回転のトルクと、前記モータが前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に付与するトルクとの合成トルクが、前記車体フレームのロール角の
維持に寄与するよう構成される、自転車。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自転車であって、
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記前輪の操舵角が第1操舵角条件を満たす場合に実行される、自転車。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記車速が第1車速条件を満たす場合に実行される、自転車。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記モータは、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つのハブに取り付けられるハブモータである、自転車。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作を行っていることを乗員へ報知する報知部をさらに備える、自転車。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記モータにより付与されるロール角を維持するための後進回転のトルクは、前記自転車の進行方向における車速が0の状態で乗員の踏力により相殺可能な範囲内に制限される、自転車。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記伝達部材は、前記ペダルに、前記後輪の前進回転及び後進回転の両方を伝達可能に構成される、自転車。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記ペダルの回転、前記クランク軸の回転、前記車速、前記前輪の操舵角、前記車体フレームのロール角又はロール角速度、前記自転車の前後方向の傾斜角、若しくは、前記自転車に備えられた入力装置に対する乗員からの入力操作の少なくとも1つに基づいて、解除される、自転車。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記自転車に備えられた入力装置に対する乗員の入力操作により、前記モータは、前記ロール角を維持するためのトルクとして常に後進回転のトルクを付与するように設定可能である、自転車。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作をするか否か、又は、前記モータにより付与されるロール角を維持するためのトルクの制御量の少なくとも1つが、前記自転車に備えられた入力装置に対する乗員の入力操作により、設定可能である、自転車。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、
前記前輪が操舵されている方向へ前記車体フレームが傾斜しようとする場合、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に前進回転のトルクが付与されるよう前記モータが制御され、且つ、
前記前輪が操舵されている方向と反対方向へ前記車体フレームが傾斜しようとする場合、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に後進回転のトルクが付与されるよう前記モータが制御される、自転車。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の自転車であって、
前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、前記モータは、前記車体フレームは直立状態でありロール角の変化がない状態からのロール角の変化の開始に対して応答して、当該ロール角の変化を打ち消す方向のトルクを、前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に付与する、自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許第5418512号公報(特許文献1)には、二輪車が、車体を旋回中心側に傾斜させて旋回走行する際に、目標ロール角度と実ロール角度との差の絶対値が小さくなる向きのトルクを電動モータで発生させるように電動モータを制御することが記載されている。二輪車は、旋回走行中の車体に作用する重力による第1ロールモーメントと、目標ヨー角速度及び車体の速さから算出される第2ロールモーメントとの釣り合い条件に基づいて目標ロール角度を算出する。目標ヨー角速度は、検出された操舵角度と車体の速さを用いて決定される。これにより、二輪車が走行中に遠心力を受けながら旋回する際のふらつきを抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術では、走行中の二輪車の姿勢を電動モータのトルクで制御する。しかしながら、車速が0の時すなわち停車時又は低速走行時の制御については考慮されていない。一般的に、自転車の乗員は、停車時には、ペダルから足を離して地面につけることが多い。この場合、乗員は、地面に足をつけた状態で、自転車のロール方向の姿勢を制御できる。発明者らは、あえて、停車時に乗員がペダルを足に置いた状態でロール方向の姿勢制御をすることを支援するシステムを検討した。
【0005】
本願は、乗員が停車時にペダルを足に置いた状態でロール方向の姿勢制御するのを支援することができる自転車を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態における自転車は、車体フレームと、前記車体フレームに回転可能に支持される操舵輪である前輪と、前記車体フレームに回転可能に支持される後輪と、前記車体フレームに回転可能に支持されるクランク軸と、前記クランク軸に接続され、前記クランク軸とともに回転するペダルと、前記ペダルの回転を前記後輪へ伝達する伝達部材と、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つに対して、少なくとも後進回転のトルクを付与するモータと、前記車体フレームのロール角又はロール角速度の少なくとも1つを検出するロール検出部と、前記前輪の操舵の向きを検出する操舵検出部と、を備える。前記自転車は、前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、前記操舵検出部で検出される前記操舵の向き、及び、前記ロール検出部で検出される前記自転車の前記車体フレームのロール角又はロール角速度の少なくとも1つに基づき、前記車体フレームのロール角を維持するためのトルクを、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つに付与する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、乗員が停車時にペダルを足に置いた状態でロール方向の姿勢制御するのを支援することができる自転車が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態における自転車の左側面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における自転車の構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本実施形態におけるモータの動作例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本実施形態におけるモータの動作の変形例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、スタンディングスティル支援制御の処理例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、スタンディングスティル支援制御による自転車の挙動の例を示す図である。
【
図7】
図7は、スタンディングスティル支援制御による自転車の挙動の例を示す図である。
【
図8】
図8は、自転車でスタンディングスティル支援制御を実行する様子を撮影した動画の一部の画像をイラストで示す図である。
【
図9】
図9は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明者らは、自転車に乗る乗員が、停車時にペダルを足に置いた状態でロール方向の姿勢制御をすることを支援するシステムを検討した。検討において、発明者らは、停車時にペダルに足を置いてロール方向の姿勢を制御しようとする乗員の挙動を注意深く観察した。その結果、乗員は、ハンドルを右又は左に切った状態で、自転車が前へ走り出さない程度の小さい踏力をペダルに付与し、且つ、微妙な踏力を調整することで、自転車が左右すなわちロール方向に倒れないようにできることが多いことがわかった。
【0010】
さらに詳しく観察すると、乗員は、次のような動作により、停車時のロール方向の姿勢を維持しやすくなることがわかった。例えば、前輪を左に操舵している場合に自転車が左に傾こうとした場合、乗員は、自転車を前進させる。これにより、自転車が右へ起き上がる方向のモーメントが発生する。その結果、自転車のロール方向の姿勢が維持される。前輪を左に操舵している場合に、自転車が右へ傾こうとした場合、乗員は、重心を勢いよく後方へ移動させて自転車を後進させる。これにより、自転車が左へ起き上がるモーメントが発生する。その結果、自転車のロール方向の姿勢が維持される。
【0011】
前輪を右に操舵している場合も、右に傾こうとした場合は、自転車を前進させ、左に傾こうとした場合は、自転車を後進させる動作を乗員が行う。これにより、自転車のロール方向の姿勢が維持される。
【0012】
乗員は、上記の自転車を前進、後進させて姿勢を制御する動作を、繰り返し練習することで、停車時にペダルに足を置いた状態で、より上手に自転車のロール方向の姿勢を維持できるようになることがわかった。熟練の乗員を観察すると、上記動作を乗員が行う際に、自転車が右又は左に傾こうとする挙動を早く察知し、これにすばやく反応して動作を行うことで、ロール方向の姿勢維持がうまくいくことが多いことがわかった。また、乗員が初心者であっても、自転車を前進させる動作はすばやくできる。しかし、自転車を後進させる動作をすばやく行うには、ある程度、練習が必要であることがわかった。
【0013】
上記の観察で得た知見を基に、発明者らは、自転車が停車しており、且つ、前輪を右又は左に操舵した状態で、操舵の向きと、ロール角又はロール角速度とを検出し、これらを用いてモータにより車輪に対して少なくとも自転車を後進させるトルクを付与する仕組みに想到した。これにより、停車時における乗員がロール方向の姿勢を制御する動作を、効果的に支援し、乗員がロール方向の制御を上手にできるようになることを見出した。下記の実施形態は、この知見に基づくものである。
【0014】
本発明の実施形態における自転車は、車体フレームと、前記車体フレームに回転可能に支持される操舵輪である前輪と、前記車体フレームに回転可能に支持される後輪と、前記車体フレームに回転可能に支持されるクランク軸と、前記クランク軸に接続され、前記クランク軸とともに回転するペダルと、前記ペダルの回転を前記後輪へ伝達する伝達部材と、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つに対して、少なくとも後進回転のトルクを付与するモータと、前記車体フレームのロール角又はロール角速度の少なくとも1つを検出するロール検出部と、前記前輪の操舵の向きを検出する操舵検出部と、を備える。前記自転車は、前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、前記操舵検出部で検出される前記操舵の向き、及び、前記ロール検出部で検出される前記自転車の前記車体フレームのロール角又はロール角速度の少なくとも1つに基づき、前記車体フレームのロール角を維持するためのトルクを、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つに付与する。
【0015】
上記構成において、車速が0であり、且つ、前輪の操舵角が0でない状態において、モータは、検出された操舵の向き、及び、検出されたロール角又はロール角速度に基づいて、前輪又は後輪の少なくとも1つに対して、少なくとも後進回転のトルクを付与する。これにより、停車時に、乗員がペダルに足を置いて微妙な踏力により自転車のロール方向の姿勢を制御する動作を効果的に支援できる。例えば、自転車が右又は左に傾こうとした場合に、ロール検出部によってそれを検出し、モータが、操舵の向きに応じて、ロール方向の姿勢を維持するためのトルクを付与することができる。特に、後進回転のトルクを付与する動作をモータが担うことで、自転車のロール方向の微妙な変化に反応してすばやく自転車を後進させるトルクを車輪に付与することができる。この場合、乗員は、踏力を微妙に調整して前進回転のトルクを調整する動作に専念できる。そのため、乗員は、ロール方向の姿勢の制御を上手に行うことができる。このように、上記構成によれば、乗員が停車時にペダルを足に置いた状態でロール方向の姿勢制御するのを支援することができる。
【0016】
自転車の進行方向における車速が0の状態は、自転車が前にも後ろにも進んでいない状態、すなわち停車状態である。なお、本発明の実施形態においては、停車時のロール方向の姿勢の制御のために車輪に前進又は後進回転のトルクが付与されるため、自転車が前後方向に微妙に動く場合がある。このような停車時のロール制御に伴う微妙な前後の動きがある場合も、車速が0の状態とみなす。
【0017】
前輪の操舵角が0でない状態は、前輪が右又は左に操舵されている状態である。なお、前輪の操舵角が0である状態は、操舵角が厳密に0である状態の他、ロール制御の観点から0と見なせる程度に操舵角が0に近い状態も含まれるものとする。
【0018】
操舵検出部で検出される操舵の向きは、例えば、操舵が、右か左のいずれであるかを示す情報であってもよい。すなわち、モータは、操舵が右か左か、及び、ロール角又はロール角速度の少なくとも1つに基づき、ロール角を維持するためのトルクを前輪又は後輪の少なくとも1つに付与する。操舵検出部は、操舵角を検出するセンサであってもよい。又は、操舵検出部は、操舵角は検出せずに、操舵の向き、すなわち、右操舵か左操舵か、を検出するセンサであってもよい。
【0019】
例えば、自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前輪の操舵角が0でないことが、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作の開始条件であってもよい。なお、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、車速が0でない状態で行われてもよい。すなわち、車速が0且つ前輪の操舵角が0である状態に加えて、車速が0でない状態(例えば、低速走行)においても、モータが、ロール角を維持するためのトルクを付与してもよい。
【0020】
また、操舵角が0の状態では、モータが車輪にトルクを付与しないようにしてもよいし、モータが車輪にトルクを付与してもよい。
【0021】
モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、車速が0であり、且つ、前輪の操舵角が0でない期間の少なくとも一部において、実行されてもよい。例えば、この期間の一部において、モータにより前輪にも後輪にもトルクを付与しない時間が含まれてもよい。
【0022】
前記自転車は、前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、乗員による前記ペダルの踏力が前記伝達部材を通して前記後輪に伝達されることで生じる前進回転のトルクと、前記モータが前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に付与するトルクとの合成トルクが、前記車体フレームのロール角の維持に寄与するよう構成されてもよい。この構成では、モータが前輪又は後輪の少なくとも1つに付与するトルクと、乗員がペダルにより後輪に付与するトルクが合成され、この合成トルクにより、自転車の車体フレームのロール方向のモーメントが生じるよう自転車が構成される。これにより、例えば、ペダルの踏力による後輪の前進回転のトルクに対して、モータにより付与される後進回転のトルクを調整することで、乗員が微妙な踏力を使って停車時のロール角を制御する動作を、効果的に支援できる。
【0023】
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、検出される操舵の向き及び、ロール角の動きに対する応答として、モータが前輪又は後輪の少なくとも1つに対してトルクを付与することにより、自転車のロールモーメントを制御し、その結果として、停車時の自転車の車体フレームのロール方向の動きを小さくして、ロール角を維持するものである。停車時の乗員の微妙な踏力によるロール角の微妙な動きに応じてモータがトルクを付与することで、乗員の踏力によるトルクとモータのトルクの合成トルクにより、ロール角を維持するためのロール方向のモーメントを発生させることができる。
【0024】
なお、「前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作」は、上記の「前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、前記操舵検出部で検出される前記操舵の向き、及び、前記ロール検出部で検出される前記自転車の前記車体フレームのロール角又はロール角速度の少なくとも1つに基づき、前記車体フレームのロール角を維持するためのトルクを、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つに付与する」動作を意味する。この動作の一例は、後述するスタンディングスティル支援制御によるモータの動作(スタンディングスティル支援動作)である。
【0025】
なお、モータによるロール角を維持するためのトルクの決定に、必ずしも、乗員の踏力が用いられなくてもよい。例えば、自転車は、ペダルに対する乗員の踏力を検出するトルクセンサを備えなくてもよい。又は、自転車が踏力を検出するトルクセンサを備える場合も、停車時におけるモータによるロール角を維持するためのトルクの決定に、トルクセンサの踏力が用いられなくてもよい。
【0026】
モータが、前輪又は後輪の少なくとも1つに対して少なくとも後進回転のトルクを付与する構成には、モータが前輪に後進回転のトルクを付与する構成、モータが後輪に後進回転のトルクを付与する構成、モータが前輪又は後輪のいずれか一方に前進回転及び後進回転の両方のトルクを付与する構成、モータが前輪に後進回転のトルク、後輪に前進回転のトルクを付与する構成、モータが前輪に前進回転のトルク、後輪に後進回転のトルクを付与する構成、又は、モータが前輪及び後輪の両方に、前進回転及び後進回転の両方のトルクを付与する構成のいずれかが含まれる。
【0027】
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記前輪の操舵角が第1操舵角条件を満たす場合に実行されてもよい。これにより、操舵角がモータ制御に適した状態の時に、モータによるロール姿勢制御の支援動作を実行できる。例えば、前輪の操舵角が第1操舵角条件を満たすことが、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作の開始条件に含まれてもよい。
【0028】
前記操舵検出部は、例えば、前記前輪の操舵角を検出する操舵角センサであってもよい。又は、前記操舵検出部とは別に、操舵角センサが自転車に設けられてもよい。前記前輪の操舵角は、例えば、自転車が備える操舵角センサにより検出される。
【0029】
第1操舵角条件は、例えば、操舵角が予め設定された適用範囲内である等とすることができる。この場合、操舵角の適用範囲は、操舵角の下限及び上限の少なくとも1つにより設定されてもよい。例えば、前輪の操舵角(左への操舵角又は右への操舵角)が、閾値以上である場合に、モータによるロール姿勢制御の支援動作が実行されてもよい。なお、自転車は、前記操舵角が第1操舵角条件を満たさない場合には、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作が実行されないように構成されてもよい。
【0030】
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記車速が第1車速条件を満たす場合に実行されてもよい。これにより、車速が、モータ制御に適した状態の時に、モータによるロール姿勢制御の支援動作を実行できる。例えば、車速が第1車速条件を満たすことが、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作の開始条件に含まれてもよい。
【0031】
車速は、例えば、自転車が備える車速センサにより検出される。車速は、例えば、自転車の対地速度、若しくは、前輪又は後輪の回転速度等により検出されてもよい。
【0032】
第1車速条件は、例えば、車速が予め設定された適用範囲内である等とすることができる。この場合、車速の適用範囲は、車速の下限及び上限の少なくとも1つにより設定されてもよい。例えば、車速が0又は車速が0を含む低速域である場合に、モータによるロール姿勢制御の支援動作が実行されてもよい。なお、自転車は、前記車速が第1車速条件を満たさない場合には、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作が実行されないように構成されてもよい。
【0033】
なお、前記車速が前記第1車速条件を満たし、且つ、前記操舵角が前記第1操舵角条件を満たす場合に、前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作が実行されてもよい。例えば、前記第1車速条件及び前記第1操舵角条件の両方が、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作の開始条件に含まれてもよい。また、この開始条件は、車速及び操舵角に限られない。例えば、ペダルの回転、クランク軸の回転、ロール角、ロール角速度、入力装置に対する乗員の自転車の前後方向の傾斜角、若しくは、自転車に備えられた入力装置に対する乗員からの入力操作、のうち少なくとも1つが開始条件に含まれてもよい。
【0034】
前記モータは、前記前輪又は前記後輪の少なくとも1つのハブに取り付けられるハブモータであってもよい。これにより、簡単な構成で、停車時の乗員がペダルに足を載せた状態でロール方向の姿勢を制御する動作を支援することができる。
例えば、前輪又は後輪のいずれか一方に、前進回転及び後進回転の両方のトルクを付与するハブモータが設けられてもよい。又は、前輪及び後輪にそれぞれハブモータが設けられてもよい。この場合、前輪及び後輪の一方のハブモータは前進回転のトルクを、他方のハブモータは後進回転のトルクを付与するよう構成されてもよい。又は、前輪及び後輪の両方に、前進回転及び後進回転の両方のトルクを付与するハブモータが設けられてもよい。或いは、後進回転を付与するハブモータが前輪に設けられ、前進回転を後輪に付与するモータが、車体フレームに取り付けられた駆動ユニットに設けられてもよい。
【0035】
前記自転車は、前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作を行っていることを乗員へ報知する報知部をさらに備えてもよい。これにより、停車時におけるロール方向の姿勢制御の支援機能が作動していることを知ることができる。報知部は、例えば、自転車に取り付けられた、ライト、表示装置又はスピーカ等であってもよい。
【0036】
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記自転車の前後方向の傾斜角が、第1傾斜角条件を満たす場合に実行されてもよい。これにより、自転車の前後方向の傾斜が、モータ制御に適した状態の時に、モータによるロール姿勢制御の支援動作を実行できる。例えば、自転車の前後方向の傾斜角が第1傾斜角条件を満たすことが、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作の開始条件に含まれてもよい。なお、前後方向の傾斜角は、車体フレームの前後方向軸の水平面に対する角度である。車体フレームの前後方向軸が水平方向である場合、前後方向の傾斜角は0°となる。前後方向の傾斜角は、例えば、自転車が備える前後傾斜センサ(例えば、ピッチ検出部)により検出される。前後ピッチ検出部は、例えば、ロール検出部と一体的に構成されてもよい。
【0037】
第1傾斜角条件は、例えば、前後方向の傾斜角が予め設定された適用範囲内である等とすることができる。この場合、傾斜角の適用範囲は、傾斜角の下限及び上限の少なくとも1つにより設定されてもよい。例えば、傾斜角の絶対値が閾値より小さい場合に、モータによるロール姿勢制御の支援動作が実行されてもよい。なお、自転車は、前記傾斜角が第1傾斜角条件を満たさない場合には、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作が実行されないように構成されてもよい。
【0038】
モータにより付与されるロール角を維持するための後進方向のトルクは、前記自転車が水平面に接地する場合より、後部が前部より低くなる傾斜面に接地する場合の方が、小さくなるように、モータのトルクが制御されてもよい。これにより、自転車が上り坂にある場合に、モータの後進方向のトルクを小さくすることができる。
【0039】
モータにより付与されるロール角を維持するための後進方向のトルクは、前記自転車が水平面に接地する場合より、後部が前部より高くなる傾斜面に接地する場合の方が、大きくなるように、モータのトルクが制御されてもよい。これにより、自転車が下り坂にある場合に、モータの後進方向のトルクを大きくすることができる。
【0040】
前記モータにより付与されるロール角を維持するための後進回転のトルクは、前記自転車の進行方向における車速が0の状態で乗員の踏力により相殺可能な範囲内に制限されてもよい。これにより、適切な大きさのモータトルクで、乗員による停車時のロール角制御を支援できる。
【0041】
前記伝達部材は、前記ペダルに、前記後輪の前進回転及び後進回転の両方を伝達可能に構成されてもよい。これにより、乗員に、ペダルの回転を通して、モータの挙動をフィードバックすることができる。
【0042】
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、前記ペダルの回転、前記クランク軸の回転、前記車速、前記前輪の操舵角、前記車体フレームのロール角又はロール角速度、前記自転車の前後方向の傾斜角、若しくは、前記自転車に備えられた入力装置に対する乗員からの入力操作の少なくとも1つに基づいて、解除されてもよい。これにより、自転車の状態に応じて、適切なタイミングで、乗員のロール方向の姿勢制御を支援することができる。
【0043】
前記自転車に備えられた入力装置に対する乗員の入力操作により、前記モータは、前記ロール角を維持するためのトルクとして常に後進回転のトルクを付与するように設定可能であってもよい。常に後進回転のトルクをモータにより付与することで、乗員は、ペダルの踏力で前進回転のトルクを調整することでロール方向の姿勢を制御しやすくなる。
【0044】
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作をするか否か、又は、前記モータにより付与されるロール角を維持するためのトルクの制御量の少なくとも1つが、前記自転車に備えられた入力装置に対する乗員の入力操作により、設定可能であってもよい。これにより、乗員が、モータによる停車中のロール制御の支援動作の有無、又はその制御量に対して、入力装置を介して指定することができる。
【0045】
前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、前記前輪が操舵されている方向へ前記車体フレームが傾斜しようとする場合、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に前進回転のトルクが付与されるよう前記モータが制御され、且つ、前記前輪が操舵されている方向と反対方向へ前記車体フレームが傾斜しようとする場合、前記モータにより、前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に後進回転のトルクが付与されるよう前記モータが制御されてもよい。この制御によるモータの動作は、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作の一例である。これにより、効率よく自転車のロール方向のモーメントが制御でき、乗員が停車時にロール方向の姿勢制御するのを支援することができる
【0046】
前記自転車の進行方向における車速が0であり、且つ、前記前輪の操舵角が0でない状態において、前記モータは、前記車体フレームは直立状態でありロール角の変化がない状態からのロール角の変化の開始に対して応答して、当該ロール角の変化を打ち消す方向のトルクを、前記前輪又は前記後輪の少なくとも一方に付与してもよい。このモータの動作は、モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作の一例である。
【0047】
これにより、停車時に乗員がバランスをとり、直立状態でロール方向の動きがほとんどない状態から、車体フレームがロール方向に動き出した場合、その動きの初期段階で、これを打ち消すトルクをモータが付与することができる。そのため、ロール方向の姿勢を維持するためのモータのトルクが小さくてすむ。
【0048】
なお、車体フレームは直立状態でありロール角の変化がない状態は、厳密にセンサで検出されるロール角が直立状態であり且つロール角速度が0である場合の他、乗員が直立状態かつロール方向の動きがないと感じられる程度に、ロール角の直立状態からのずれ、及びロール角速度が、小さい場合も含むものとする。
【0049】
前記モータにより付与されるロール角を維持するためのトルクは、ロール角及びロール角速度の両方に基づいて決定されてもよい。例えば、前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作は、ロール検出部で検出されるロール角と基準値との差分に基づいて目標ロール角速度を決定し、当該目標ロール角速度と検出されたロール角速度との差分に基づいて決定された目標ロール角速度に応じて決定されるトルクを、モータが前輪又は後輪の少なくとも1つに付与する動作であってもよい。基準値は、例えば、予め決められてもよいし、乗員が設定可能であってもよいし、又は、自転車の状態に応じて動的に設定されてもよい。基準値は、例えば、停車時に維持するべき目標ロール状態(例えば、目標ロール角)を示す値であってもよい。基準値は、例えば、直立状態の値であってもよい。検出されたロール角と基準値との差分は、ロール角の基準値に対するずれの向き及びずれの量の両方を含んでもよいし、又は、ずれの向きのみを含んでもよい。検出されたロール角速度と目標ロール角速度の差分は、ロール角速度の目標に対するずれの向き及びずれの量の両方を含んでもよいし、又は、ずれの向きのみを含んでもよい。
【0050】
前記モータによりロール角を維持するためのトルクを付与する動作を、前記モータに実行させるモータ制御部(モータコントローラ)、モータ制御方法、及び、モータ制御プログラム又はそのプログラムを記録した非一時的な(non-transitory)記録媒体も、本発明の実施形態に含まれる。モータ制御部は、前記モータに、ロール角を維持するためのトルクを付与する動作を実行させるようプログラム又は構成されたプロセッサ又は電子回路を有してもよい。
【0051】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態による自転車について説明する。図中、同一又は相当部分には、同一符号を付して、その部材についての説明は繰り返さない。また、各図中の構成部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。なお、以下の説明において、自転車の前後、左右、上下は、乗員が、サドル(シート24)に着座し且つハンドル23を握った状態を基準とした前後、左右、及び上下を意味する。自転車の前後、左右、及び上下の各方向は、自転車の車体フレームの前後、左右及び上下の各方向と同じである。また、自転車の進行方向は、自転車の前後方向と同じである。以下の実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0052】
自転車の車体フレームのロール角は、直立状態を0とし、右又は左に傾く程、ロール角の絶対値が大きくなるよう定義されるものとする。直立状態は、車体フレームの上下方向の軸が垂直方向(重力方向)と一致する状態とする。車体フレームを直立状態からロール方向(左右方向)に傾けた状態は、車体の上下方向の軸が、重量方向に対して左又は右に傾いている状態である。
【0053】
<自転車の全体構成例>
図1は、本実施形態における自転車10の左側面図である。
図1における符号F、B、U、Dは、それぞれ前、後、上、下を表す。
【0054】
図1に示すように、自転車10は、車体フレーム11を有する。車体フレーム11は、前後方向に延びている。車体フレーム11の前部には、ヘッドパイプが設けられる。ヘッドパイプ12は、操舵軸13を回転可能に支持する。操舵軸13の上部には、ハンドル23が取り付けられ、下部にはフロントフォーク26が取り付けられる。フロントフォーク26は、下端で前輪21を回転可能に支持する。車体フレーム11の後部は、後輪を回転可能に支持する。車体フレーム11の上部にはシート24が取り付けられる。車体フレーム11は、下部でクランク軸41を回転可能に支持する。ハンドル23の左右には、ブレーキレバー74が取り付けられる。左のブレーキレバー74は、後輪22のブレーキ76を操作するためのレバーである。右のブレーキレバー74は、前輪21のブレーキ75を操作するためのレバーである。
【0055】
図1に示す例では、車体フレーム11の下部に駆動ユニット40が取り付けられる。クランク軸41は、駆動ユニット40に回転可能に取り付けられる。このように、クランク軸41は、駆動ユニット40を介して車体フレーム11に回転可能に支持されてもよい。なお、駆動ユニット40は省略してもよい。この場合、車体フレーム11の下部にクランク軸41が回転可能に取り付けられてもよい。駆動ユニット40は、ハウジング50と、ハウジング50内に収納されたセンタモータ3を有する。
【0056】
クランク軸41は、自転車の左右方向に延びる。クランク軸41の両端には、クランクアーム31が取り付けられている。クランクアーム31の先端には、それぞれ、ペダル33が取り付けられている。図示しないが、自転車10には、クランク軸41とともに回転する駆動スプロケットと、後輪22とともに回転する従動スプロケットが設けられる。駆動スプロケットと、従動スプロケットの間にチェーン46が巻き掛けられている。なお、チェーン46の代わりに、ベルトが用いられてもよい。駆動スプロケット、チェーン46、従動スプロケットは、ペダルの回転を後輪へ伝達する伝達部材の例である。伝達部材は、これに限られない。例えば、スプロケットとチェーンの代わりに、ギヤとシャフトが設けられてもよい。また、伝達部材は、ワンウェイクラッチを含んでもよい。ワンウェイクラッチは、前転方向の回転を伝達し、後転方向の回転を伝達しない。
【0057】
図1に示す例では、前輪21のハブにモータ2が設けられる。モータ2は、前輪21を車軸27周りに回転させるトルクを、前輪に対して付与する。一例として、モータ2は、ハブに内蔵されるインホイール型のモータ(ハブモータ)である。モータ2は、例えば、ロータ、ステータを含んでもよい。ロータの回転軸は車軸27と、同軸であってもよい。ハブには、モータ2の回転を車輪(前輪21)に伝達するギヤが設けられてもよい。ギヤは、例えば、遊星歯車であってもよい。また、モータ2と車輪(前輪21)の間の回転の伝達経路には、ワンウェイクラッチが設けられてもよい。
【0058】
自転車10は、ロール検出部61を備える。ロール検出部61は、車体フレーム11のロール角又はロール角速度の少なくとも1つを検出するセンサである。ロール検出部61は、例えば、車体フレーム11に取り付けられる。ロール検出部61は、例えば、車体フレーム11(車体)のロール方向の角速度を検出する角速度センサ(ジャイロセンサ)であってもよい。又は、ロール検出部61は、車体フレーム11(車体)の加速度を検出する加速度センサであってもよい。又は、ロール検出部61は、角速度センサ及び加速度センサを含む6軸センサであってもよい。ロール検出部61は、車体フレーム11に対して固定される。ロール検出部61の取り付け位置は、特定の場所に限られない。例えば、車体フレーム11の他、前輪21、後輪22、操舵軸13、シート24又は、駆動ユニット40に、ロール検出部61が取り付けられてもよい。また、駆動ユニット40の中にロール検出部61が収納されてもよい。
【0059】
自転車10は、操舵の向きを検出する操舵検出部62を備える。操舵検出部62は、例えば、操舵角センサであってもよい。又は、操舵検出部62は、操舵の向き(右か左か)を検出するが、操舵角は検出しないセンサであってもよい。操舵検出部62は、例えば、ヘッドパイプ12(車体フレーム11)に取り付けられる。操舵検出部62は、車体フレーム11に対する操舵軸13の回転を検出する。操舵検出部62は、操舵軸13の回転として、ハンドル23、フロントフォーク又は前輪21の車体フレーム11に対する回転を検出してもよい。
【0060】
クランク軸41の周りには、乗員の踏力を検出するトルクセンサ63が設けられる。トルクセンサ63は、クランク軸41を軸周りに回転させるトルクを検出する。トルクセンサ63は、例えば、磁歪式のような非接触式、又は、弾性体変量検出式のような接触式のトルクセンサを用いることができる。磁歪式トルクセンサは、磁歪効果を有し、クランク軸の回転力を受ける磁歪材と、磁歪材の力による透磁率の変化を検出する検出コイルを有する。
【0061】
自転車10は、後輪22の回転を検出する車速センサ(スピードセンサ)64を備える。車速センサ64は、例えば、後輪22とともに回転する被検出素子と、車体フレーム11に対して固定され、被検出素子の回転を検出する検出素子を有する。検出素子は、機械的、磁気的又は光学的に被検出素子を検出する。なお、車速センサ64は、後輪22に限らず、例えば、前輪21、モータ3、クランク軸41、伝達ギヤ、チェーン等、自転車10の進行に伴って回転する回転体の回転を検出するものであってもよい。
【0062】
図示しないが、自転車10は、クランク軸41の回転を検出するクランク軸回転センサを有してもよい。クランク軸回転センサは、例えば、クランク軸41とともに回転する被検出素子と、車体フレーム11に対して固定され、被検出素子の回転を検出する検出素子を有してもよい。検出素子は、機械的、光学的又は磁気的に、被検出素子を検出することができる。
【0063】
図示しないが、自転車10は、モータ2及びセンタモータ3を制御するモータ制御部(モータコントローラ)を有する。例えば、駆動ユニット40のハウジング50内の基板に実装された電子機器により、モータ制御部が構成される。電子機器は、例えば、プロセッサ又は電子回路を有する。モータ制御部は、ロール検出部61、操舵検出部62、トルクセンサ63、車速センサ64、モータ2及びセンタモータ3と電気的に接続される。この接続は、有線であっても無線であってもよい。
【0064】
自転車10は、バッテリユニット35を備える。バッテリユニット35は、前輪21のハブのモータ2、及び、駆動ユニット40のモータ3に電力を供給する。バッテリユニット35は、図示しないバッテリ及び電池制御部を有する。バッテリは、充放電可能な充電池である。電池制御部は、バッテリの充放電を制御するとともに、バッテリの出力電流及び残容量等を監視する。バッテリユニット35は、例えば、車体フレーム11に配置されてもよい。
【0065】
ハンドル23には、表示装置37が設けられている。表示装置37は、例えば、ディスプレイ及びユーザ操作を受け付けるボタン、又はタッチパネル等の入力装置を有する。表示装置37は、自転車10に関する各種情報を表示する。なお、表示装置37は、省略されてもよい。また、乗員に情報を報知する装置として、表示装置37に加えて、又は表示装置37に替えて、ライト(ランプ)又はスピーカ等が設けられてもよい。また、表示装置37とは別に、スイッチやレバー等の入力装置がハンドル23に設けられてもよい。
【0066】
自転車10は、変速機構を備えてもよい。変速機構は、乗員による変速操作器の操作に応じて変速比を変更する機構である。変速操作器は、例えば、ハンドル23に設けられる。変速機構は、例えば、駆動スプロケット及び従動スプロケットの少なくとも1つを多段スプロケットにすることで構成できる。変速操作器の操作に応じてチェーン46が巻き掛けられる多段スプロケットが切り替わる。変速機構は、このような外装変速機であってもよいし、内装変速機であってもよい。
【0067】
図2は、本実施形態における自転車10の構成例を示すブロック図である。
図2に示す例では、クランク軸41の回転と、センタモータ3の回転を合成する合成機構53が設けられる。クランク軸41と合成機構53の間にはワンウェイクラッチ51が設けられる。センタモータ3と合成機構53の間にも、ワンウェイクラッチ52が設けられる。
【0068】
合成機構は、例えば、筒状部材を有する。筒状部材の内部にクランク軸41が配置される。合成機構には、駆動スプロケット(図示略)が取り付けられる。合成機構は、例えば、クランク軸41及び駆動スプロケットと同じ回転軸を中心にして回転する。なお、合成機構は、上記例に限られない。例えば、合成機構は、センタモータ3の回転をチェーン46へ伝達する補助スプロケットを含んでもよい。この場合、クランク軸からの駆動スプロケットの回転と、センタモータ3からの補助スプロケットの回転が合成されてチェーン46に伝達される。
【0069】
駆動スプロケットと従動スプロケット(図示略)にはチェーン46がかけられる。従動スプロケットと後輪22の間には、ワンウェイクラッチ54が設けられる。クランク軸41の回転と、センタモータ3の回転は、合成機構53で合成されて後輪22へ伝達される。ここで、ワンウェイクラッチ51、52、54は、前転方向の回転を伝達し、後転方向の回転を伝達しない。そのため、クランク軸41及びセンタモータ3の前進回転のみが後輪22に伝達され、後輪回転は伝達されない。
【0070】
前輪21のハブに設けられたモータ2は、後進回転を前輪21へ伝達するよう構成される。前輪21とモータ2の間には、ワンウェイクラッチは設けられない。なお、前輪21とモータ2の間に、減速機(ギヤ)が設けられてもよい。
【0071】
<モータ制御部の構成例>
図2の例では、モータ制御部5が、操舵検出部62、ロール検出部61、トルクセンサ63、及び車速センサ64で検出される情報に基づき、モータ2及びセンタモータ3を制御する。モータ制御部5の制御によりモータ2及びセンタモータ3は、少なくとも、アシスト走行モード及びスタンディングスティル支援モードで動作する。アシスト走行モードは、自転車10の走行中に、センタモータ3により、乗員の踏力をアシストするモードである。本例では、アシスト走行モードを通常モードとする。スタンディングスティル支援モードは、自転車10の停車中に、モータ2及びセンタモータ3により、乗員のロール方向の姿勢制御を支援するモードである。
【0072】
すなわち、モータ制御部5は、自転車10の状態に応じて、走行アシスト制御と、スタンディングスティル支援制御とを切り替えて実行する。この切り替えは、例えば、操舵検出部62で検出される操舵の向き、及び、車速センサ64で検出される車速に基づいて切り替えられる。
【0073】
アシスト走行モード、すなわち走行アシスト制御では、モータ制御部5は、少なくともトルクセンサ63で検出された踏力に応じてセンタモータ3が後輪22へ付与する前進方向のトルク、すなわち補助力を制御する。なお、モータ制御部5は、車速センサ64で検出された車速をさらに用いてセンタモータ3の補助力を制御してもよい。また、走行アシスト制御では、モータ制御部5は、センタモータ3が後輪22へ付与する前進方向のトルク及びモータ2が前輪へ付与する前進方向のトルクの少なくとも一方を、補助力として制御してもよい。例えば、アシスト走行モードでは、前輪21及び後輪22の両方にモータ2及びセンタモータ3が前進回転のトルクを付与してもよい。
【0074】
スタンディングスティル支援モード、すなわちスタンディングスティル支援制御では、モータ制御部5は、操舵検出部62で検出される操舵の向き、及び、ロール検出部61で検出されるロール角又はロール角速度の少なくとも1つに基づき、モータ2及びセンタモータ3の少なくとも1つを制御し、車体フレーム11のロール角を維持するためのトルクを発生させる。
【0075】
モータ制御部5は、一例として、MCU(Motor Control Unit)である。モータ制御部5は、例えば、プロセッサ、メモリ、モータ駆動回路、及び、モータ監視部を備える。プロセッサは、メモリのプログラムを実行することにより、走行アシスト制御、及び、スタンディングスティル支援制御のそれぞれにおけるモータ2及びセンタモータ3の制御を決定する。例えば、モータ2及びセンタモータ3の指令値を決定する。なお、プロセッサの少なくとも一部の機能は、プロセッサ以外の専用回路によって実現されてもよい。
【0076】
モータ制御部5の機能を実現するために、プロセッサは、操舵検出部62、ロール検出部61、トルクセンサ63、車速センサ64、又はクランク軸回転センサ65の少なくとも1つから情報を取得する。プロセッサは、取得した情報に基づき、モータ2又はセンタモータ3の少なくとも1つに対する制御信号を出力する。モータ駆動回路が、制御信号に従って動作することで、モータ3又はセンタモータ3が駆動される。モータ駆動回路は、例えば、モータ2及びセンタモータ3のそれぞれに設けられたインバータである。プロセッサからの制御信号に応じた電力をバッテリユニット35がモータ2及びセンタモータ3に供給する。電力が供給されたモータ2、センタモータ3は回転し、モータ制御部5により制御されたトルクを発生させる。
【0077】
モータ監視部は、モータ2及びセンタモータ3の電流、電圧、回転数、回転速度、等のモータ2及びセンタモータ3の駆動に関する値を検出する。プロセッサ又はモータ駆動回路は、モータ監視部で検出された値を用いて、処理を実行又は動作してもよい。モータ監視部は、例えば、モータ回転センサからモータの回転数又は回転速度等のモータの回転を示す値を取得することができる。
【0078】
操舵検出部62は、車体フレーム11に対する操舵軸13の回転を検出し、回転に応じた信号を、モータ制御部5へ出力する。操舵検出部62は、回転の向き(右か、左か、又は回転なしか)を示す信号を出力してもよい。または、操舵検出部62は、操舵角を出力してもよい。プロセッサは、操舵検出部62からの信号に基づいて、操舵検出部62は、回転の向きを決定してよい。
【0079】
ロール検出部61は、車体(すなわち車体フレーム)のすくなくともロール方向の姿勢の変化を示す値又は信号を出力する。ロール検出部61は、例えば、車体のヨー角、ロール角及びピッチ角のうち少なくともロール角の角度又は角速度を出力する。ロール検出部61が6軸センサの場合、ロール検出部61は、車体のヨー角速度、ロール角速度及びピッチ角速度、並びに、車体の前後方向の加速度、左右方向の加速度、及び、上下方向の加速度を出力する。ロール検出部61は、検出された電気信号から、ロール角速度又はロール角を算出する回路を有してもよい。或いは、モータ制御部5が、ロール検出部61からの値又は信号を受け取って、ロール角速度又はロール角度に変換するよう構成されてもよい。
【0080】
車速センサ64は、後輪22(又は他の回転体)の回転角を検出し、回転角に応じた信号をモータ制御部5へ出力する。例えば、車速センサ64は、後輪22の回転を所定の角度毎に検出し、矩形波信号又は正弦波信号を出力する。プロセッサは、車速センサ64の出力信号から後輪22の回転速度を算出する。なお、回転速度の算出を車速センサ64が実行するよう構成されてもよい。
【0081】
トルクセンサ63は、検出したトルクの大きさに応じた振幅の電圧信号を出力する。トルクセンサ63は、電圧信号をトルク値に換算するトルク演算回路を有していてもよい。トルク演算回路は、例えば、出力されたアナログ電圧信号をAD変換によってデジタル値に変換する。検出されたトルクの大きさは、デジタル信号として外部に出力される。なお、モータ制御部5が、トルクセンサ63からアナログ信号を受け取ってデジタル値に変換するよう構成されてもよい。
【0082】
<モータ動作例>
図3は、本実施形態におけるモータの動作例を示すフローチャートである。
図3に示す例では、モータ制御部5は、通常モードで、アシスト走行制御(S11)を実行し、自転車10が、スタンディングスティル支援実施条件を満たす場合(S12でYES)に、スタンディングスティル支援制御(S13)を実行する。スタンディングスティル支援制御において、自転車10が、スタンディングスティル支援解除条件を満たす場合(S14でYES)、モータ制御部5は、スタンディングスティル支援制御を終了して、アシスト走行制御(S11)を実行する。
【0083】
S12におけるスタンディングスティル支援実施条件(以下、単に実施条件と称する。)は、一例として、
図3に示すように、車両停止(停車状態)であり、且つ、右又は左に操舵されている(操舵角が中立でない)とをすることができる。
【0084】
S12における車両停止は、例えば、車速センサ64で検出される車速に基づき判断することができる。例えば、モータ制御部5は、車速Vが第1車速閾値Vth1より低い場合(V<Vth1)に車両停止と判断してもよい。又は、モータ制御部5は、検出される車速Vが0(V=0)の場合に、車両停止と判断してもよい。
【0085】
S12における操舵の向きの条件は、例えば、操舵検出部62で検出される操舵角Sに基づき判断することができる。一例として、操舵角Sの絶対値が第1操舵角閾値Sth1超え(|S|>Sth1)であることを条件としてもよい。又は、操舵角Sが0でない(S≠0)ことを条件としてもよい。或いは、モータ制御部5は、操舵角の値ではなく、操舵検出部62で検出される操舵の向きを示す値に基づいて、操舵の向きの条件を判断してもよい。
【0086】
なお、実施条件は、
図3の例に限られない。例えば、
図3に示す2つの条件項目のうち1つを省略してもよい。また、例えば、
図3の条件に加えて、ペダリング状態、ロール状態、又は前後方向の傾斜角の少なくとも1つを実施条件に追加してもよい。例えば、車両停止、且つ、操舵角S>Sth1、且つ、ペダリング停止であることを、実施条件としてもよい。ペダリング停止は、例えば、クランク軸回転センサ65で検出されるクランク時の回転数又は回転角を用いて判断できる。一例として、クランク時の回転数又は回転角が閾値を越えない場合に、ペダリング停止と判断できる。
【0087】
ロール状態は、ロール検出部61で検出されるロール角又はロール角速度の少なくとも1つを用いて判断できる。車体フレーム11のロール方向の傾きが閾値を越えないこと、又は、ロール角の所定時間内の変動量が許容範囲内であることを実施条件に追加してもよい。一例として、右方向及び左方向のいずれにおいても、ロール角が閾値を越えないことが、実施条件に追加されてもよい。或いは、ロール角速度の絶対値が閾値を越えないことが上記条件に追加されてもよい。これにより、例えば、自転車10が左右方向に大きく傾いている場合又は、ロール角の変化が激しく安定していない場合のように、モータによるロール制御の効果が低い場合には、スタンディングスティル支援制御を実行しないようにすることができる。また、ロール角及びロール角速度の両方が閾値より小さいことを、実施条件としてもよい。これにより、ある程度、直立状態に近く、かつ、ロール方向の動きがなく安定した状態で、スタンディングスティル支援制御を開始できる。
【0088】
前後方向の傾斜角の条件は、例えば、ロール検出部61で検出される車体フレーム11のピッチ角度によって判断できる。この場合、ロール検出部61は、ピッチ角速度を検出できるジャイロセンサ又は6軸センサとすることができる。モータ制御部5は、例えば、ロール検出部61で検出されるピッチ角度に基づいて、自転車10の前後方向の傾斜角を決定することができる。なお、前後方向の傾斜角は、ロール検出部61とは別に設けられた傾斜センサにより、検出されてもよい。自転車10が上り坂にある場合は、車体フレーム11の前部が後部より高くなる。自転車10が下り坂にある場合は、車体フレーム11の前部が後部より低くなる。いずれも場合も、前後方向の傾斜角は0ではない。
【0089】
モータ制御部5は、例えば、車体フレーム11の前部が後部より低くなる場合の前後方向の傾斜角Pkと、車体フレーム11の前部が後部より高くなる場合の前後方向の傾斜角Pnのいずれも、閾値Pk_th1、Pn_th1より小さい(Pk<Pk_th1 AND Pn<Pn_th1)ことを、実施条件とすることができる。なお、閾値は、Pk_th1=Pn_th2であってもよいし、Pk_th1≠Pn_th2であってもよい。例えば、閾値を、Pk_th1<Pn_th2とすることで、上り坂の場合の傾斜角の実施条件を、下り坂の場合より緩くすることができる。
【0090】
S14において、スタンディングスティル支援解除条件(以下、単に解除条件と称する。)は、一例として、
図3に示すように、ペダリング開始、クランク回転角>閾値、車速>閾値、操舵角が中立近傍、ロール角又はロール角速度>閾値、又は、スイッチ操作ありとすることができる。モータ制御部5は、これらのうち、いずれかに該当する場合に、解除条件を満たすと判断してもよい。操舵角、及び、ロール角又はロール角速度については、操舵検出部62及びロール検出部61の検出結果を用いて判断できる。
【0091】
S14において、ペダリングの開始は、例えば、クランク軸回転センサ65で検出されるクランク軸の回転数を用いて判断することができる。例えば、モータ制御部5は、単位時間当たりのクランク軸の回転数が閾値を越える場合に、ペダリング開始と判断できる。クランク軸回転角は、クランク軸回転センサ65で検出される回転角を用いて判断できる。例えば、クランク軸の回転角が閾値(例えば1回転(360°))を越えた場合に、解除条件を満たすと判断されてもよい。このように、ペダリングの開始、及びクランク軸の回転を、解除条件とすることで、乗員が自転車10を前に進めるためにペダルをこぎ始めたことを契機として、自動的にスタンディングスティル支援制御を解除できる。
【0092】
S14において、車速>閾値を解除条件とすることで、自転車10が停止状態から発信して走り始めたことを契機として、自動的にスタンディングスティル支援制御を解除できる。この場合、閾値は、例えば、人が歩く速度程度に設定されてもよい。
【0093】
S14において、操舵角が中立近傍であることを解除条件とすることで、車輪のトルクによりロール方向のトルクが発生しにくい状態での、無駄なスタンディングスティル支援制御を避けることができる。また、乗員が、操舵を中立状態(右にも左にも操舵していない状態)としたことを契機として、自動的に、スタンディングスティル支援制御を解除できる。
【0094】
S14において、ロール角又はロール角速度>閾値を解除条件とすることで、過度に車体フレームが右又は左に傾いた場合に、モータ制御量が過剰となることを避けることができる。
【0095】
S14において、スイッチ操作は、例えば、ハンドル23に設けられたスイッチに対する乗員の操作であってもよい。例えば、スタンディングスティル支援制御中に、スイッチが押された場合に、モータ制御部5は、スタンディングスティル支援制御を解除することができる。これにより、乗員は、自らの意志によりスタンディングスティル支援制御を解除することができる。
【0096】
なお、解錠条件は、
図3に示す例に限られない。例えば、
図3に示す条件項目の少なくとも1つを省略してもよい。また、これらの条件以外に、さらに、条件が追加されてもよい。
【0097】
図4は、本実施形態におけるモータの動作の変形例を示すフローチャートである。
図4に示す例では、乗員によるスタンディングスティル支援開始スイッチ操作があった場合(S11-2でYES)に、実施条件の判断(S12)が実行され、実施条件を満たす場合は、スタンディングスティル支援制御(S13)が実行される。すなわち、乗員によるスイッチ操作がなければ、スタンディングスティル支援制御は、実行されない。これにより、乗員が、スタンディングスティル支援制御の有効/無効を制御できる。例えば、自転車10が備える入力装置が、乗員によるスタンディングスティル支援制御の有効/無効を切り替えるスイッチ操作を受け付ける。なお、
図4において、
図10~S15は、
図3と同様の処理とできる。
【0098】
図3及び
図4に示す動作において、スタンディングスティル支援制御(S13)を実行中は、表示装置37が、ランプを点けるか、又は、画面にその旨を表示してもよい。これにより、乗員は、制御モードを把握することができる。或いは、スタンディングスティル支援制御の開始時及び解除時に、表示装置37その他の出力装置が、開始又は解除を示す音又は光を出力してもよい。
【0099】
<スタンディングスティル支援制御例>
図5は、
図4のS13におけるスタンディングスティル支援制御の処理例を示すフローチャートである。
図5に示す例では、モータ制御部5は、操舵検出部62の出力に基づき、現在の操舵角を検出する(S21)。モータ制御部5は、ロール検出部61の出力に基づき、現在のロール角及びロール角速度を算出する(S22)。モータ制御部5は、S21で検出した操舵角により、操舵の向き、すなわち、操舵が左か右かを決定する(S23)。
【0100】
モータ制御部5は、目標ロール角を決定し、現在のロール角と目標ロール角との差分を算出する(S24)。この差分には、例えば、現在のロール角が目標ロール角に対して右又は左のいずれにずれているのかという、ずれの向きと、ずれの量を示す値が含まれてもよい。目標ロール角は、例えば、直立状態のロール角(0°)であってもよいし、スタンディングスティル支援制御開始時のロール角、その他、自転車10の状態に応じた値であってもよい。又は、目標ロール角は、乗員が、自転車10の入力装置から入力することで設定されてもよい。目標ロール角は、基準値の一例である。例えば、S24において、モータ制御部5は、予め決められた基準値と、現在のロール角との差分を算出してもよい。
【0101】
モータ制御部5は、目標ロール角(基準値)と現在のロール角との差分に応じて、目標ロール角速度を算出し、現在のロール角速度と目標ロール角速度との差分を算出する(S25)。例えば、現在のロール角が目標ロール角に対して左にずれている場合には、右方向のロール角速度を目標ロール角速度とし、現在のロール角が目標ロール角に対して右にずれている場合には、左方向のロール角速度を目標ロール角速度とすることができる。このように、モータ制御部5は、基準値に対する現在のロール角のずれの向きに応じて、目標ロール角速度の向きを決定してもよい。また、基準値に対する現在のロール角のずれの量(差)に応じて、目標ロール角速度の大きさが決定されてもよい。なお、乗員の入力装置に対する入力操作によって設定された制御量に基づいて目標ロール角速度の大きさが決定されてもよい。例えば、上記ロール角のずれの量を、設定された制御量に応じて調整した値を、目標ロール角速度の大きさに決定してもよい。又は、目標ロール角速度の大きさは、予め設定された値であってもよい。
【0102】
モータ制御部5は、S25で算出した現在のロール角速度と目標ロール角速度の差分に応じたモータトルクを決定する(S26)。モータ制御部5は、この差分を0に近づけるロール角速度を生じさせるモータトルクを決定する。例えば、目標ロール角が現在のロール角よりも左にあり、現在車体フレームが右に動いている場合(現在のロール角速度が右方向である場合)、左方向のロール角速度を生じさせるモータトルクが決定される。決定されるモータトルクの値には、モータトルクの方向(前進回転か後進回転か)と、トルクの大きさの情報が含まれる。
【0103】
S26において、モータトルクの方向の決定には、S23で決定した操舵の向きが用いられる。例えば、操舵の向き、すなわちハンドルを切っている方向と反対方向のロール角速度を生じさせる場合は前進回転、操舵の向きにロール角速度を生じさせる場合は後進回転のトルクがモータトルクとして決定される。また、S26では、目標ロール角速度の大きさに応じて、モータトルクの大きさが決定されてもよい。
【0104】
図5に示す処理により、車体フレーム11のロール角とロール角速度が、目標値に追随するようにモータを制御することができる。モータ制御部5は、S26で決定したモータトルクをモータ2又はセンタモータ3に出力させる。
図2に示す構成の場合、モータ制御部5は、S26で後進回転のトルクをモータトルクに決定した場合には、前輪のハブのモータ2に決定したモータトルクを出力させる。S26で前進回転のトルクをモータトルクに決定した場合は、モータ制御部5は、センタモータ3に決定したモータトルクを出力させる。これにより、ロール角を目標値に維持するためのトルクが、モータ2又はセンタモータ3により車輪に付与される。
【0105】
図5の例では、ロール角とロール角速度の両方を用いて、ロール角を維持するためのモータトルクが決定される。これにより、車体フレーム11のロール角が基準値(例えば、直立状態)から大きく外れる前に、モータ駆動を開始することができる。そのため、モータトルクが小さくてすむ。なお、スタンディングスティル制御は、
図5に示す例に限られない。例えば、モータ制御部5は、ロール角が基準値から所定範囲内にある場合に、現在のロール角速度を打ち消す方向のロール角速度を発生させるトルクをモータに出力させてもよい。また、ロール角及びロール角速度のいずれかを用いてモータトルクが決定されてもよい。
【0106】
図6及び
図7は、スタンディングスティル支援制御による自転車10の挙動の例を示す図である。例えば、上記
図5に例示したようなスタンディングスティル支援制御により、停車時の自転車10は、
図6及び
図7に示す挙動をすることになる。
図6に示す例では、停車時にハンドルを左に切った状態で、例えば、乗員のペダリング、重心移動、その他の動作により車体フレーム11が左に傾斜しようとする場合、モータにより、車輪に前進回転のトルクが付与される(
図6の左側の図)。車体フレーム11が右に傾斜しようとする場合、モータにより、車輪に後進回転のトルクが付与される(
図6の右側の図)。これらの場合、いずれも、車輪のトルクにより車体フレーム11を起き上がらせる方向のモーメントが発生し、ロール角が維持される。
【0107】
図7に示す例では、停車時にハンドルを右に切った状態で、例えば、乗員の動作により車体フレーム11が左に傾斜しようとする場合、モータにより、車輪に後進回転のトルクが付与される(
図7の左側の図)。車体フレーム11が右に傾斜しようとする場合、モータにより、車輪に前進回転のトルクが付与される(
図7の右側の図)。これらの場合、いずれも、車輪のトルクにより車体フレーム11を起き上がらせる方向のモーメントが発生し、ロール角が維持される。
【0108】
図8は、本実施形態の自転車10でスタンディングスティル支援制御を実行する様子を撮影した動画の一部の画像をイラストで示す図である。
図8では、時系列に従って各画像に番号を付している。
図8に示す例において、(1)の画像で、乗員は、自転車10を減速させる。その後、(2)の画像では、乗員は、自転車10を停車させ、ハンドルを左に切っている。この乗員の動作により、スタンディングスティル支援制御は開始される。この時、乗員は、足をペダルに載せたままである。(3)の画像において、乗員は、足をペダルに載せたまま、重心が左右方向の中心に位置するようにバランスをとりながら、踏力を微妙に調整する。この時、モータは、ロール検出部で検出されるロール角の微妙な変化に反応し、ロール角を維持する方向のトルクを車輪に付与する。これにより、乗員が感知しにくい微小なロール方向(左右方向)の動きを初期段階でモータにより打ち消すことができる。
【0109】
乗員は、踏力により前進回転のトルクを後輪にかけることができるが、後進回転のトルクは踏力ではかけられない。本実施形態のように、後進回転のトルクをモータが担うことで、乗員は、踏力によるロール方向の姿勢制御がし易くなる。乗員は、モータによる後進回転のトルクを、ペダルの反力で感じながら、踏力を調整することで、前進及び後進の両方のトルクを調整することができる。例えば、乗員は、後進回転のトルクが過大であると感じた場合は、ペダリングすることでモータのトルクを相殺できる。
【0110】
なお、スタンディングスティル支援制御では、モータが後進回転のトルクを常に出力するように、乗員が設定可能であってもよい。この場合、乗員は、後進回転のトルクを車輪にかけたい場合は、踏力を緩めればよい。前進回転のトルクを車輪にかけたい場合は、乗員は、ペダリングにより、モータのトルクを相殺しさらに踏力をかけるとよい。このようなスタンディングスティル支援制御の設定は、自転車10のハンドル23に設けられた入力装置を介して乗員から受け付けることができる。
【0111】
図8の(4)の画像では、乗員は、ハンドル23を中央(右にも左にも切っていない状態)に戻し、ペダルを踏み込もうとしている。操舵角が0になるか、又は、ペダリングでクランク軸が1回転すると、スタンディングスティル支援制御は解除される。乗員はペダリングを続けることで自転車10は発進する。
【0112】
(モータ構成の変形例)
図9は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
図9に示す例では、後輪22のハブにモータ3が設けられる場合の例である。この場合、モータ3は、インホイール型とすることができる。この場合、センタモータ3が設けられないため、駆動ユニットはなくてもよい。モータ3は、後輪22に前進回転のトルクを付与する。モータ3と後輪22の間には、前進回転のみ伝達するワンウェイクラッチ55が設けられる。
図9の例では、
図2の場合と同様に、通常モードの走行アシスト制御の時は、モータ制御部5は、トルクセンサ63及び車速センサ64の検出結果に応じた補助力をモータ3に出力させる。或いは、アシスト走行制御において、モータ制御部5は、モータ2及びモータ3の両方に補助力を出力させてもよい。スタンディングスティル支援制御の時は、モータ制御部5は、ロール検出部61及び操舵検出部62の検出結果に基づいて、モータ2に後進回転のトルクを出力させ、モータ3に前進回転のトルクを出力させる。
【0113】
図10は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。なお、
図10では、各種センサ及び検出部の図示を省略している。これらセンサ又は検出部は、
図9と同様に構成できる。以下、
図11~
図13においても同様である。
図10に示す例では、後輪22のハブにモータ3が設けられ、前輪21のハブにはモータは設けられない。駆動ユニットは設けられなくてもよい。モータ3が、後輪22に対して、前進回転及び後進回転の両方のトルクを付与する。モータ3と後輪22の間にワンウェイクラッチは設けられない。モータ制御部5は、走行アシスト制御では、モータ3に前進回転のトルクを出力させる。スタンディングスティル支援制御では、モータ制御部5は、モータ3に前進回転及び後進回転の両方のトルクを出力させる。なお、スタンディングスティル支援制御では、後進回転のトルクのみをモータ3に出力させてもよい。
【0114】
図11は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
図11に示す例では、前輪21のハブにモータ2が設けられ、後輪22のハブにモータ3が設けられる。駆動ユニットは設けられない。モータ2と前輪21の間には、前進回転のみを伝達するワンウェイクラッチが設けられる。モータ制御部5は、走行アシスト制御では、モータ2又はモータ3の少なくとも1つに前進回転のトルクを出力させる。スタンディングスティル支援制御では、モータ制御部5は、モータ2に前進回転、モータ3に後進回転のトルクを出力させる。
【0115】
図12は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
図12に示す例では、前輪21のハブにモータ2が設けられ、後輪22のハブにモータ3が設けられない。モータ2と前輪21の間には、ワンウェイクラッチは設けられない。モータ制御部5は、走行アシスト制御では、モータ2に前進回転のトルクを出力させる。スタンディングスティル支援制御では、モータ制御部5は、モータ2に前進回転及び後進回転の両方のトルクを出力させる。なお、モータ制御部5は、スタンディングスティル支援制御において、モータ2に後進回転のトルクのみを出力させてもよい。なお、
図12の構成において、後輪22のハブに、前進回転及び後進回転の両方のトルクを付与するモータをさらに設けてもよい。
【0116】
図13は、モータ構成の変形例を示すブロック図である。
図13に示す例は、
図12に示す構成において、クランク軸41と後輪22との間にワンウェイクラッチが設けられない。後輪22とクランク軸41は双方向に回転が伝達される。この構成により、ライダーに、ペダル回転を通して、モータの挙動を直接的に伝えることができる。
【0117】
図10、
図12及び
図13の例のように、前輪21又は後輪22のいずれか一方に、前進回転及び後進回転の両方のトルクを付与するモータを設ける構成の場合、モータが1つでよいので、モータを2つ設ける場合に比べて、構造及び制御を簡単にできる。また、前輪21にモータ2で前進及び後進回転の両方のトルクを付与する構成の場合、前輪21のトルクにより効率よくロールモーメントを与えることができる。
【0118】
図2、
図9及び
図11の例のように、前輪21及び後輪22のそれぞれに対してモータを設ける場合、スタンディングスティル支援制御においては、前輪21及び後輪22の一方のモータが前進回転のトルクを出力し、他方のモータが後進回転のトルクを出力するよう制御できる。そのため、1つのモータで前進回転及び後進回転を切り替えて出力する構成に比べて、切り替えによるタイムラグが発生しない。
【0119】
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、上記の自転車10のモータ制御部5は、通常モードのアシスト走行制御と、スタンディングスティル支援制御を切り替えて実行するよう構成されている。これに対して、モータ制御部5は、アシスト走行制御を実行せず、スタンディングスティル支援制御のみ実行するよう構成されてもよい。
【0120】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0121】
2:モータ、3:センタモータ(モータ)、5:モータ制御部、10:自転車、11:車体フレーム、21:前輪、22:後輪、33:ペダル、クランク軸41、61:ロール検出部61:操舵検出部