(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】電池用多層セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/454 20210101AFI20240418BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240418BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20240418BHJP
H01M 50/429 20210101ALI20240418BHJP
H01M 50/44 20210101ALI20240418BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240418BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240418BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20240418BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H01M50/454
H01M50/403 D
H01M50/403 B
H01M50/417
H01M50/429
H01M50/44
H01M50/457
H01M50/489
B32B27/12
B32B27/32 E
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021193998
(22)【出願日】2021-11-30
【審査請求日】2021-11-30
(32)【優先日】2020-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510017505
【氏名又は名称】レナタ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ウサマ・エル バラダイ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ヘーリング
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0133275(KR,A)
【文献】特開平11-329390(JP,A)
【文献】特開2014-167918(JP,A)
【文献】特開2011-210680(JP,A)
【文献】特開2010-287697(JP,A)
【文献】特表2014-534603(JP,A)
【文献】特開2007-141497(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105185939(CN,A)
【文献】特開2015-084318(JP,A)
【文献】特開2016-126998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/403-50/489
B32B 27/12
B32B 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用多層セパレータ(200)であって、少なくとも、
-前記多層セパレータ(200)の内層を形成するポリオレフィンベースの基材層(204)と、
-前記ポリオレフィン基材層(204)の両面に積層された樹脂層(203)であって、ポリオレフィンから形成されている、樹脂層(203)と、
-各樹脂層(203)の表面に積層されたセルロース繊維ベースの外層(202)と、を含む構造を有し、
前記外層(202)は、
セパレータの構造へのデンドライトマイグレーションを避けるために、200nmより長く2mm以下の長さのセルロース繊維を含み、
前記ポリオレフィンベースの基材層(204)は厚さ5~15μmであり、前記樹脂層(203)は厚さ12~75μ
mであり、前記セルロース繊維ベースの外層(202)は厚さ1~5μ
mである、
リチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項2】
前記ポリオレフィンベースの基材層(204)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は実質的にポリプロピレン若しくはポリエチレンを含むブレンドからなる群から選択される少なくとも1つでできている、請求項1に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項3】
前記ポリオレフィンベースの基材層(204)は、低密度ポリエチレン(LPDE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、又は実質的にLPDE、LLDPE、若しくはこれらの混合物を含むブレンドでできている、請求項1に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項4】
前記ポリオレフィンベースの基材層(204)は、重合α-オレフィン含有量が20重量%、または16重量%であるco-α-オレフィンからなる群から選択される、エチレンとα-オレフィンとのランダムコポリマーでできている、請求項1に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項5】
前記ポリオレフィンベースの樹脂層(203)は、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は実質的にポリプロピレン若しくはポリエチレンを含むブレンドからなる群から選択される少なくとも1つでできている、請求項1~4のいずれか一項に記載に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項6】
前記セルロース繊維ベースの外層(202)は、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートフタレート、ニトロセルロース,セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、これらのアンモニウム、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つでできている、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項7】
前記セルロース繊維ベースの外層(202)の前記セルロース繊維は、精製セルロース繊維、セルロースミクロフィブリル、セルロースナノフィブリル、リグニン、及びこれらの誘導体である、請求項1~6のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項8】
前記ポリオレフィンベースの基材層(204)は融点が80~124℃であり、前記樹脂層(203)は融点が130~160℃である、請求項1~7のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項9】
前記樹脂層(203)は、ラミネート法、油圧法、又は濾過法によって積層される、請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項10】
前記セルロース繊維ベースの外層(202)は、ラミネート法、油圧法、濾過法又はスロットダイコーティング法によって積層される、請求項1~9のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項11】
前記樹脂層(203)の厚さは、25μmであり、
前記セルロース繊維ベースの外層(202)の厚さは、2μmである、
請求項1から10のうちいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の多層セパレータ(200)を含む、リチウムイオン電池。
【請求項13】
-ポリオレフィンベースの基材層(204)を形成するステップと、
-ポリオレフィンから形成された樹脂層(203)を、前記ステップで形成された前記ポリオレフィン基材層(204)の両面に、ラミネート法、油圧法、又は濾過法によって積層するステップと、
-長さが200nmより長く2mm以下であるセルロース繊維を含むセルロース繊維ベースの外層(202)を、各樹脂層(203)の表面に、ラミネート法、油圧法、濾過法、又はスロットダイコーティング法によって積層するステップと、
を含
む、
請求項1~
12のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)の製造方法。
【請求項14】
ポリオレフィンベースの基材層(204)を形成する前記ステップは、
-線状低密度ポリエチレンを炭酸カルシウム粒子と配合した混合物を形成するサブステップと、
-前記混合物を押出して前駆体フィルムにするサブステップと、
-前記ポリオレフィンベースの基材層(204)を得るために、前記前駆体フィルムを冷却し、応力をかけるサブステップと、
を含む、請求項
13に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)の製造方法。
【請求項15】
前記混合物は、重量で表して、40%~45%の線状低密度ポリエチレンと50%の炭酸カルシウムとを含む、請求項
14に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)の製造方法。
【請求項16】
セルロース繊維ベースの外層(202)を積層する前記ステップは、ナノフィブリル化セルロース層を各樹脂層(203)の表面に積層するステップである、請求項
13~
15のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用多層セパレータ(200)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用多層イオン伝導性セパレータ及びかかる多層セパレータの製造方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、リチウムイオン電池用多層イオン伝導性セパレータ及びかかるセパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、化石燃料に代わり、高いエネルギー密度と長いサイクル寿命を確保する持続可能なクリーンエネルギー源を保証する成熟技術として、この数十年で注目が高まっている。
【0004】
電池の構成要素のなかで、イオン伝導性セパレータは、短絡を避け、電池の良好な機能を保証するための中心的役割を果たす。
【0005】
実際には、2つの電極間に挿入されたセパレータは、電気的に絶縁されており、イオン伝導性である。更に、セパレータは、上記の特性を、特に高温などの有害条件下で維持する必要がある。
【0006】
従来、リチウムイオン電池のセパレータは、ポリプロピレン(PP)若しくはポリエチレン(PE)又はこれらの化合物の組み合わせなどのポリオレフィン層で作製される。
【0007】
電池設計の技術分野において、ポリオレフィン層をセパレータとして使用することで、突発的熱暴走を回避する高温でのシャットダウン効果が確保されることは周知である。しかし、このポリオレフィン層は、濡れ性が低い。
【0008】
この濡れ性という特性は、従来液体電解質を使用して信頼できるサイクル性を得ているリチウムイオン電池にとって、きわめて重要で、問題である。
【0009】
PE及びPPの融点が低い(130℃~160℃)ためにセパレータの耐収縮性も弱く、そのため、このようなセパレータは高温での使用から除外される。
【0010】
この数年、上記の特性、特にシャットダウン効果に影響することなく、ポリオレフィンベースのセパレータの低い濡れ性と高収縮というこれらの制限を克服することに焦点を合わせて、数件の取り組みがなされてきた。
【0011】
非特許文献1は、高い熱安定性及び電解質濡れ性を有するリチウムイオン電池用セパレータとして、多孔質ポリベンゾイミダゾール(PBI)膜を記載している。従来のPE層は、PBI溶液に浸漬され、70℃の真空オーブン内で24時間乾燥される。得られた多孔質PBI膜は、高いイオン伝導性と、200℃まで寸法収縮のない高い熱安定性を保証する。しかし、多孔質PBI膜の調製は、有機化学の使用、精製、及び沈澱プロセスを伴ういくつかの長い製造ステップを必要とし、これはプロセスの開発及びスケール拡大性に大きく影響する。
【0012】
環境影響の少ない化学の開発を促進するため、非特許文献2は、セルロースジアセテートとSiO2との組み合わせでできた複合体コーティングで被覆されたPE層を含むポリオレフィンセパレータを提案している。
【0013】
SiO2の重量比は、複合体セパレータの細孔径に直接影響する。セパレータの構造内でデンドライトマイグレーションを促進して電池故障を引き起こす可能性がある大きな細孔径の生成を避けるため、SiO2の量は慎重に調節する必要がある。
【0014】
非特許文献3は同じアプローチをとっている。この文献は、エチルセルロース層のコーティングを用いて、ポリオレフィンベースのセパレータの濡れ性、サイクル性及び耐熱収縮性を大幅に改善するための解決策を提案している。
【0015】
しかし、提案された被覆層の細孔径の寸法は約3μmであり、リチウムイオン電池分野でイオン伝導性セパレータに要求されるサブマイクロメーターからはまだ程遠い。
【0016】
特許文献1は、セルロースナノファイバーを含む二次電池用セパレータを開示している。セパレータは、ミクロ細孔の多孔質構造として、セルロースナノファイバーの間に形成される。セルロースナノファイバーの使用は、セパレータの濡れ性及び熱安定性を、従来のポリオレフィンベースのセパレータと比較して増強する。しかし、多孔質構造は、気孔率が80%に達する場合があり、10μmまでの細孔径を有する。ここでも、上記の値はリチウムイオン電池の要件に合致せず、かかる解決策をリチウムイオン電池に直接適用することはできない。
【0017】
特許文献2は、セルロースベースの多層セパレータのシャットダウン機能を改善することができる、二次電池用セパレータに関する。多層セパレータは、セルロースベースのナノファイバーとポリエチレンナノ粒子とで形成された基材と、基材の両面のうちの一面上に積層された樹脂層とを含み、当該樹脂はポリオレフィンから形成されている。ナノメートルサイズのナノファイバーの使用は、セパレータの細孔構造を「閉鎖」し、デンドライト浸透を低減する。しかし、ナノセルロース基材表面をポリオレフィン樹脂で覆うと、電解質保持性が低減し、膜ベースのセパレータ(例えば、多孔質PBI膜)の場合のような1つの中心を有する細孔径分布が確保されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許出願公開第2014/0335424号明細書
【文献】米国特許出願公開第2018/0013117号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】Li and al,“A low cost shutdown sandwich-like composite membrane with superior thermos-stability for lithium-ion battery”,Journal of Membrane Science,(蘭),2017,542,p.1-7
【文献】Chen et al,“Porous cellulose diacetate-SiO2 composite coating on polyethylene separator for high-performance lithium-ion battery”,Carbohydrate Polymers,(蘭),2016,147 p.517-524
【文献】Xiong and al,“Ethylcellulose-coated polyolefin separators for lithium-ion batteries with improved safety performace”,Carbohydrate Polymers,2014,(蘭)、101,p.1140-1146
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上記の背景に基づき、本発明の当面の1つの目的は、現行技術に関連する上記の識別された欠点及びその他の欠点を、少なくとも軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の目的は、独立請求項に記載のリチウムイオン電池用の多層セパレータ及び、かかる多層セパレータの製造方法によって、並びに従属請求項に記載の実施形態によって、達成される。
【0022】
より具体的には、本発明の第1の態様は、少なくとも、多層セパレータの内層を形成するポリオレフィンベースの基材層と、ポリオレフィン基材層の両面上に積層された樹脂層であって、ポリオレフィンから形成されている樹脂層と、各樹脂層の表面上に積層されたセルロース繊維ベースの外層と、を含む構造を有する、リチウムイオン電池用多層セパレータに関する。
【0023】
多層構造の最外層としてセルロース層を含む本発明による多層セパレータは、熱安定性を増大し、より高い電解質保持性をもたらす。
【0024】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は実質的にポリプロピレン若しくはポリエチレンを含むブレンドからなる群から選択される少なくとも1つでできている。
【0025】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層は、低密度ポリエチレン(LPDE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、又は実質的にLPDE、LLDPE若しくはこれらの混合物を含むブレンドでできている。
【0026】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層は、重合α-オレフィン含有量が約20重量%、好ましくは16重量%であるco-α-オレフィンからなる群から選択される、エチレンとα-オレフィンとのランダムコポリマーでできている。
【0027】
好ましくは、樹脂層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は実質的にポリプロピレン若しくはポリエチレンを含むブレンドからなる群から選択される少なくとも1つでできている。
【0028】
好ましくは、セルロース繊維ベースの外層は、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートフタレート、ニトロセルロース,セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、これらのアンモニウム、及びこれらの塩からなる群から選択される少なくとも1つでできている。
【0029】
好ましくは、セルロース繊維ベースの外層のセルロース繊維は、精製セルロース繊維、セルロースミクロフィブリル、セルロースナノフィブリル、リグニン及びこれらの誘導体である。
【0030】
好ましくは、セルロース繊維ベースの外層は、長さ2mm~100nmの繊維サイズを有する。
【0031】
好ましくは、セルロース繊維ベースの外層のセルロース繊維は、長さ200nmのサイズを有する精製セルロース繊維である。
【0032】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層は厚さ5~15μmであり、樹脂層は厚さ12~75μm、好ましくは25μmであり、セルロース繊維ベースの外層は厚さ1~5μm、好ましくは2μmである。
【0033】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層は融点が80~124℃であり、樹脂層は融点が130~160℃である。
【0034】
好ましくは、樹脂層は、ラミネート法、油圧法、又は濾過法によって積層される。
【0035】
好ましくは、セルロース繊維ベースの外層は、ラミネート法、油圧法、濾過法、又はスロットダイコーティング法によって積層される。
【0036】
更に、本発明の第2の態様は、本発明による多層セパレータを含むリチウムイオン電池である。
【0037】
更に、本発明の第3の態様は、リチウムイオン電池用多層セパレータの製造方法に関し、上記方法は、以下のステップを含む:
1.ポリオレフィンベースの基材層を形成するステップ;μ
2.ポリオレフィンから形成された樹脂層を、上記ステップで形成されたポリオレフィン基材層の両面に、ラミネート法、油圧法、又は濾過法によって積層するステップ;
3.セルロース繊維ベースの外層を、各樹脂層の表面に、ラミネート法、油圧法、濾過法、又はスロットダイコーティング法によって積層するステップ。
【0038】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層を形成するステップは:
4.線状低密度ポリエチレンを炭酸カルシウム粒子と配合した混合物を形成するサブステップ;
5.上記混合物を押出して前駆体フィルムにするサブステップ;
6.ポリオレフィンベースの基材層を得るために、上記前駆体フィルムを冷却し、応力をかけるサブステップ
を含む。
【0039】
好ましくは、上記混合物は、重量で表して、40%~45%の線状低密度ポリエチレンと50%の炭酸カルシウムとを含む。
【0040】
好ましくは、セルロース繊維ベースの外層を積層するステップは、ナノフィブリル化セルロース層を各樹脂層の表面上に積層するステップである。
【0041】
更なる利点及び特徴は、以下の発明を実施するための形態を図面と共に読むことで明らかとなるであろう。
【0042】
続いて、本発明を、例示として添付図面を参照してより詳細に記載するが、これらに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明の一実施形態に従うリチウムイオン電池用多層セパレータの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、本発明の実施形態に従うリチウムイオン電池用多層セパレータ200の断面図である。
【0045】
多層セパレータ200は、電気絶縁及びイオン伝導を確保するためにリチウムイオン電池の2つの電極間に挿入できるイオン伝導性セパレータである。
【0046】
本発明の多層セパレータ200は、
-多層構造の内層を形成するポリオレフィンベースの基材層204と、
-ポリオレフィン基材層204の両面に積層された樹脂層203であって、ポリオレフィンから形成されている、樹脂層203と、
-各樹脂層203の表面に積層されたセルロース繊維ベースの外層202と、
を含む構造を示す。
【0047】
したがって、本発明の多層セパレータ200は、2つのセルロース繊維ベースの外層202と、この2つのセルロース繊維ベースの外層202の間に挟まれた3つのポリオレフィンベースの内層203、204、203を含む構造を示す。
【0048】
ポリオレフィンベースの基材層204は、シャットダウン効果をもたらし、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は実質的にポリプロピレン若しくはポリエチレンを含むブレンドからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0049】
好ましくは、より低いシャットダウン温度を達成するために、ポリオレフィンベースの基材層204は、低密度ポリエチレン(LPDE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、又は実質的にLPDE、LLDPE若しくはこれらの混合物を含むブレンドであってもよい。
【0050】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層204は、重合α-オレフィン含有量が約20重量%、好ましくは16重量%であるco-α-オレフィンからなる群から選択される、エチレンとα-オレフィンとのランダムコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0051】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層204は、エチレン-ブテンコポリマーと、エチレン-ヘキセンコポリマーとを含んでもよい。
【0052】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層204は、融点が80~124℃である。
【0053】
ポリオレフィンベースの樹脂層203、より高い機械的特性(より高い突刺強度)をもたらし、ポリエチレン、ポリプロピレン、又は実質的にポリプロピレン若しくはポリエチレンを含むブレンドからなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0054】
好ましくは、ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、又は実質的にLPDE、LLDPE、若しくはこれらの混合物を含むブレンドであってもよい。
【0055】
好ましくは、ポリオレフィンベースの樹脂層203は、融点が130~160℃である。
【0056】
樹脂層203の厚さは12~75μmであってもよく、ポリオレフィン基材層204の厚さは5~15μmであってもよい。
【0057】
好ましくは、ポリオレフィンベースの基材層204はポリエチレンであり、ポリオレフィンベースの樹脂層203はポリプロピレンである。
【0058】
樹脂層203は、フィルムの形態で調製されてもよく、ポリオレフィンベースの基材層204の両面にラミネート法で積層されてもよい。一般的なコーティング法の場合、ポリマー樹脂を溶媒に溶解した後で塗布するが、この方法は、加工時間が長く生産性が低いという問題がある。本発明による樹脂層は、フィルムの形態で調製されて、ラミネート法で積層されることから、溶媒を使用する必要がなく、そのため調製プロセスを簡素化する。
【0059】
更に、樹脂層203は別々に調製され、厚さ、気孔率、組成などの樹脂層の特性を容易に調節できる。
【0060】
別の実施形態では、樹脂層203はフィルムの形態で調製されてもよく、ポリオレフィンベースの基材層204の両面に油圧法又は濾過法で積層されてもよい。
【0061】
外層202は、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートフタレート、ニトロセルロース,セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、これらのアンモニウム塩、及びこれらの塩からなる群から作製されたセルロース繊維からなる。
【0062】
セルロース繊維は、好ましくは精製セルロース繊維、セルロースミクロフィブリル、セルロースナノフィブリル、リグニン、及びこれらの誘導体である。
【0063】
セルロース繊維
【0064】
外層203のセルロース繊維は、長さ2mm以下のサイズを有する。
好ましくは、セルロース繊維は、セパレータの構造へのデンドライトマイグレーションを避けるため、長さ約2mm~約100nmのサイズを有する。
【0065】
好ましくは、外層203のセルロース繊維は、精製セルロース繊維、又はセルロースナノフィブリルであり、長さ約200nmのサイズを有する。
【0066】
セルロース繊維ベースの外層202は、別々に調製されてもよく、かつ各樹脂層203の外面に、ラミネート法、油圧、濾過法又はスロットダイコーティング法によって積層されてもよい。
【0067】
本発明の一実施形態によると、セルロース繊維ベースの外層202の精製セルロース繊維(FBr)は、以下のステップを含む精製法によって得ることができる:
a)予め乾燥したセルロース繊維を水性媒体中に分散してセルロース繊維ペーストを得るステップであって、セルロース繊維含有量が上記セルロース繊維ペーストの総重量に対して1~15重量%で変動する、ステップ;
b)上記セルロース繊維ペーストを、精製セルロース繊維(すなわち、ショッパーリグラー値(Schopper-Riegler degree)が約30~95°SRで変動するセルロース繊維)が得られるように剪断するステップ。
【0068】
本発明による精製法は、製紙産業分野の場合と同様に、セルロース繊維を機械処理して、セルロース繊維の水和(ステップa)、フィブリル化、及び短繊維化を行い、薄いエレメントを作製する(ステップb)。
【0069】
本発明によるセルロース繊維ベースの外層202は、より高い電解質保持性と熱安定性とを確保し、一方で、ポリオレフィンベースの樹脂層203は、より高い突刺強度と、セパレータ内(特にポリオレフィンベースの基材層204の内側)のデンドライト浸透を制限するため、及び電池の短絡を回避するために必要な、より狭い細孔径分布を確保する。
【0070】
樹脂層203の突刺強度が高くなると、デンドライト成長時のセパレータ損傷リスクが低下する。ポリオレフィンベースの樹脂層203を、ポリオレフィンベースの基材層204の両側に使用することで、故障のリスクをかなり低減できる。
【0071】
本発明の多層セパレータ200により、セルロースとポリオレフィンベースの材料の利点が合わさって、セルロース材料/ポリオレフィン材料/セルロース材料の材料構造を含み、高い熱安定性、低収縮、高い電解質保持性及びシャットダウン効果を示す、多層セパレータが得られる。
【0072】
本発明の多層セパレータ200は、以下に記載の製造例に従って調製できるが、この例は、これらに限定するものではない。
【0073】
メルトフローインデックスが2.0である線状低密度ポリエチレン(LLDPE)をステアリン酸カルシウムで表面処理した炭酸カルシウム粒子と配合した。炭酸カルシウムは、1μmの平均粒径を有する。次いで、それぞれ40重量%、45重量%、及び50重量%のCaCOが充填されたLLDPを有するポリマー組成物をキャスト押出して、各々約25μmの厚さを有する前駆体フィルムにした。得られた前駆体フィルムの各々を冷却し、2.5対1の延伸比で横断方向にテンター応力をかけた。
【0074】
得られた白色多孔質フィルムの1層(ポリオレフィンベースの基材層204を形成)を、次いで、2枚の延伸ポリプロピレンミクロ多孔質膜(樹脂層203を形成)で挟み、接合して、3層構造PP/PE/PP(ポリオレフィンベースの内層203、204、203を形成)を形成した。最後に、この3層構造に、スロットダイ技術を用いて、3層構造の両側に厚さ2μmのナノフィブリル化セルロース(NFC)層をコーティングし、80℃で終夜乾燥した。乾燥後、本発明による多層セパレータは、以下の構造を有する:
NFC/PP/PE/PP/NFC
【0075】
図面及び記載には、本発明の典型的なコーティングの好ましい実施形態を開示しており、具体的な用語を用いているが、これらは一般的かつ説明目的のみで使用されており、限定を目的とするものではない。本発明の範囲は以下の特許請求の範囲に記載されている。
【符号の説明】
【0076】
200 多層セパレータ
202 外層
203 樹脂層
204 基材層