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特許7474736白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20240418BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240418BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240418BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALN20240418BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20240418BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240418BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/06
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
C12N5/071
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021212506
(22)【出願日】2021-12-27
(65)【公開番号】P2023096623
(43)【公開日】2023-07-07
【審査請求日】2023-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】楊 飛
(72)【発明者】
【氏名】黒田 康嵩
(72)【発明者】
【氏名】片山 一朗
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】楊 伶俐
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03336175(EP,A1)
【文献】特表2011-517662(JP,A)
【文献】D. Parsad, et al.,Activity and expression of matrix metaloproteinases in vitiligo patients,Journal of Investigative Dermatology,2008年,Vol. 128,S214,No. Supple. 1
【文献】Shintaro Inoue, et al.,Rhododendrol-induced leukoderma update II: Pathophysiology, mechanisms, risk evaluation, and possible mechanism-based treatments in comparison with vitiligo,Journal of Dermatology,2021年05月05日,Vol. 48, No. 7,969-978
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48~33/98
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)~(3)の工程を含む、白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(1)MMP-2を発現可能なヒト真皮組織又はヒト真皮組織由来の細胞に、被験物質を接触させる工程
(2)当該組織又は細胞におけるMMP-2の発現又は活性を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、MMP-2の発現又は活性を減少させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する工程
【請求項2】
白斑が、尋常性白斑又は化学物質誘発性脱色素斑である請求項記載の方法。
【請求項3】
化学物質誘発性脱色素斑が、ロドデノール誘発性脱色素斑である請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白斑は、皮膚メラノサイトの欠損によって皮膚に脱色素斑が生じる病態である。白斑の病因としては、遺伝因子、自己免疫因子、フェノール誘導体やカテコール誘導体等の化学物質による誘発等が知られているが、白斑の発症機序や病態形成機序は未だ不明である。
白斑の一般的な治療法は、コルチコステロイドの外用、カルシニューリン阻害薬(タクロリムス及びピメクロリムス)の外用、紫外線(UVB)療法等がある。しかし、何れも確実な治療法ではなく、白斑は決定的な治療法が存在しない難病の一つとされている。
【0003】
マトリクスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase:MMP)は細胞外基質成分であるコラーゲン等のタンパク質を分解する分解酵素である。MMPは、細胞外基質の生理学的な維持や再構築に必要であり、胚発生、形態形成、生殖、組織再吸収及び組織再構築等の種々の正常な生理学的プロセスに不可欠な酵素である一方、炎症、関節炎、心臓血管疾患、線維症及び癌のような病理学的プロセスにも関連している。現在ヒトのMMPは20種類以上知られており、ドメイン構造に応じて、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメライシン、膜型MMP及びマトリリシン等に分類される。
【0004】
最近では、表皮細胞のMMP-9が表皮細胞とメラノサイトの接着に関わり、MMP-9阻害によって、メラノサイトの表皮基底膜からの剥離を抑制し、白斑におけるメラノサイトの消失を抑制する可能性が報告されている(非特許文献1及び特許文献1)。一方で血清サンプル中でのMMP-2の発現は変化が見られなかったことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2020-504719号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】JCI insight. 2020 June 4; 5(11): e133772
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、白斑の予防又は改善剤を評価又は選択する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、表皮と真皮の間に存在する皮膚基底膜(basement membrane:BM)に着目して検討を進めたところ、白斑の病変部では皮膚基底膜の構造に異常が生じており、その原因として白斑の病変部の真皮線維芽細胞がMMP-2を過剰に発現していることを見出した。そして、白斑の病変部で産生が亢進しているMMP-2及びその阻害因子であるTIMP-2の発現を指標とすることにより、白斑の予防又は改善剤を探索又は評価することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の1)~2)に係るものである。
1)以下の(1)~(3)の工程を含む、白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(1)MMP-2を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程
(2)当該組織又は細胞におけるMMP-2の発現又は活性を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、MMP-2の発現又は活性を減少させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する工程
2)以下の(4)~(6)の工程を含む、白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(4)TIMP-2を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程
(5)当該組織又は細胞におけるTIMP-2の発現を測定する工程
(6)(5)で測定された結果に基づいて、TIMP-2の発現を増加させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、白斑を予防又は改善する新しい機序の白斑の予防又は改善剤を探索又は評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】免疫電顕法による皮膚基底膜構成分子(IV型コラーゲン)の局在観察の結果を示す図である。
図2】健常人と白斑患者病変部の真皮線維芽細胞におけるMMP-2発現を示す図である。
図3】MMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を導入した三次元皮膚モデルにおける皮膚基底膜の異常とメラノサイトの消失を示す図である。(A)モデル構築図、(B)脱色素様現象の観察図、(C)免疫染色顕微鏡画像。
図4】MMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を導入したヒト皮膚組織培養系における皮膚基底膜の異常とメラノサイトの消失を示す図である。
図5】MMP-2過剰発現マウス線維芽細胞を導入したマウス皮膚真皮における脱色素斑形成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、MMP-2(matrix metalloproteinase-2)は、ゼラチナーゼに分類されるMMPであり、ゼラチナーゼAとも呼ばれる。MMP-2は、細胞外基質であるゼラチン、IV、V、VII、X、XI型コラーゲンやフィブロネクチン、エラスチンさらにはプロテオグリカン分解活性を有し、主に基底膜成分を分解する酵素である。MMP-2の過剰発現や活性化は基底膜破壊や癌の浸潤との関係が明らかになっている(Quintero-Fabian, S. et al. Role of Matrix Metalloproteinases in Angiogenesis and Cancer. Frontiers in Oncology 9, doi:10.3389/fonc.2019.01370 (2019))。
【0013】
TIMPs(tissue inhibitor of metalloproteinases)は、MMPの内因性インヒビターであり、MMPsによる細胞外基質の分解と合成のバランスを調節している。TIMP-2は、活性型MMP-2と複合体を形成し、MMP-2の活性を抑制する(Arpino, V., Brock, M. & Gill, S. E. The role of TIMPs in regulation of extracellular matrix proteolysis. Matrix Biology 44-46, 247-254, doi:https://doi.org/10.1016/j.matbio.2015.03.005 (2015))。
【0014】
皮膚基底膜(basement membrane)は、表皮と真皮の間に存在する薄い膜状をした細胞外マトリックスである。皮膚基底膜は主にはIV型コラーゲンとラミニンで構成される。皮膚基底膜の働きとしては、細胞の機能の維持や真皮の構造を保つほか、表皮角化細胞(ケラチノサイト)や色素細胞(メラノサイト)等の足場としての働き、細胞の代謝の制御、細胞極性の維持等があり、皮膚を支える重要な役割を担っている。
【0015】
白斑は、皮膚メラノサイトの欠損によって皮膚に脱色素斑が生じる病態である。後天的にメラノサイトが減少・消失して脱色素斑が生じる尋常性白斑、化学物質によって誘発される化学物質誘発性脱色素斑等がある。当該化学物質としては、ラズベリーケトン、ラズベリーケトンの還元型であるロドデノール(4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール)、ハイドロキノンモノベンジルエーテル等のフェノール誘導体、4-tert-ブチルカテコール等のカテコール誘導体等が挙げられる。
【0016】
後記実施例に示すように、免疫電顕法による皮膚基底膜構成分子(IV型コラーゲン)の局在観察の結果、白斑の病変部では皮膚基底膜構成分子の分布が不均一になっていた(図1)。また、白斑の病変部の真皮では、MMP-2が過剰に発現していた(図2)。なお、MMP-2と比べてMMP-9の発現は低かった。さらに、MMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を導入した3次元皮膚モデル及びヒト皮膚組織培養系ではメラノサイトの消失が認められ(図3及び図4)、MMP-2過剰発現マウス線維芽細胞を導入したマウス皮膚真皮では脱色素斑形成が認められた(図5)。
これらの結果より、白斑の病変部では皮膚基底膜の構造に異常が生じており、その原因として白斑の病変部の真皮線維芽細胞がMMP-2を過剰に発現していることが示された。従って、白斑の病変部で発現が亢進しているMMP-2の制御は白斑の予防又は治療のターゲットとなり得、MMP-2及びその阻害因子であるTIMP-2の発現を指標とすることにより白斑の予防又は改善剤を評価又は選択することができる。
【0017】
本発明の白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法は、以下の(1)~(3)の工程を含む。
(1)MMP-2を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程
(2)当該組織又は細胞におけるMMP-2の発現又は活性を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、MMP-2の発現又は活性を減少させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する工程
【0018】
また、本発明の白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法は、以下の(4)~(6)の工程を含む。
(4)TIMP-2を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程
(5)当該組織又は細胞におけるTIMP-2の発現を測定する工程
(6)(5)で測定された結果に基づいて、TIMP-2の発現を増加させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する工程
【0019】
前記MMP-2を発現可能な組織又は細胞、及びTIMP-2を発現可能な組織又は細胞としては、生来的にMMP-2遺伝子又はTIMP-2遺伝子を有し、これを発現する能力のある組織又は細胞、及び外来的にMMP-2遺伝子又はTIMP-2遺伝子を発現可能に導入された組織又は細胞が挙げられる。当該組織又は細胞は、生体から採取された組織又は細胞であってもよく、培養細胞であってもよい。
生来的にMMP-2遺伝子又はTIMP-2遺伝子を有し、これを発現する能力のある組織又は細胞としては、生体のあらゆる組織又は細胞が挙げられるが、好ましくは、哺乳動物から採取された皮膚組織又は細胞、例えば、表皮組織、表皮組織由来の細胞(表皮角化細胞等)、真皮組織、真皮組織由来の細胞(線維芽細胞等)、又はそれらに由来する培養細胞等が挙げられる。好ましくは真皮組織、真皮組織由来の細胞(線維芽細胞等)であり、より好ましくは真皮組織由来の細胞(線維芽細胞等)である。
哺乳動物としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ブタ、サル等が挙げられる。好ましくはヒトである。
【0020】
外来的にMMP-2遺伝子又はTIMP-2遺伝子を発現可能に導入された組織又は細胞は、例えば、哺乳動物の任意の組織又は細胞にMMP-2又はTIMP-2をコードする遺伝子を導入して、当該組織又は細胞がMMP-2又はTIMP-2を発現するように、あるいはMMP-2又はTIMP-2の発現が強化されるように形質転換することによって得ることができる。
また、MMP-2遺伝子又はTIMP-2遺伝子のプロモーター領域の下流にルシフェラーゼ等のレポーター遺伝子を融合させたコンストラクトが導入された細胞を用いることもできる。遺伝子やコンストラクトを細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーションやリポフェクション等によるベクター導入が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
培養細胞としては、3次元培養皮膚細胞も好適に用いられ、具体的には、EpiDerm TM(MatTek Corporation社製)、EpiSkin(SkinEthic社製)、RHE(SkinEthic社製)、Labcyteエピモデル(J-TEC社製)等が挙げられる。
【0022】
前記被験物質としては、白斑の予防又は改善剤として使用することが可能な物質であれば、特に制限されず、例えば、動植物、海洋生物、微生物等及びその抽出物;それらに由来する天然成分;合成化合物;ならびにそれらの混合物及び組成物等が挙げられる。
【0023】
前記組織又は細胞に被験物質を接触させる手段としては、当該分野で公知の手段であればよく、例えば、当該被験物質の組織又は細胞培養培地への添加、組織又は細胞への直接的な添加(例えば、滴下、塗布、散布、噴霧、パッチ等)が挙げられる。
被験物質の濃度及び接触量は、被験物質の形態、化学的性質、細胞毒性等に基づいて適宜設定すればよい。例えば、適当な濃度に希釈した被験物質の所定量を、25~37℃、5%CO2の条件下で24~48時間、真皮線維芽細胞等に曝露することが挙げられる。
【0024】
前記組織又は細胞におけるMMP-2の発現又は活性、及びTIMP-2の発現は、当該分野で公知の方法に従って測定することができる。MMP-2及びTIMP-2の発現は、タンパク質発現、mRNA発現又はプロモーターの活性化等を指標として測定することができる。
【0025】
タンパク質発現の測定方法の例としては、免疫組織化学、ELISA、ウエスタンブロット、免疫沈降、質量分析等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
mRNA発現の測定方法としては、ドットブロット法、ノーザンブロット法、RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、マイクロアレイ、RNAシーケンス法等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
プロモーターの活性測定方法としては、レポーター遺伝子を用いたプロモーター活性や転写活性の蛍光・光学的測定(レポーターアッセイ)が挙げられる。
【0026】
MMP-2の活性は、例えば、ウェスタンブロッティング、ザイモグラフィーや市販ELISAキットによる活性化タンパク質の検出により測定することができる。
【0027】
次いで、前記のとおり測定された結果に基づいて、MMP-2の発現又は活性を減少させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する。あるいは、TIMP-2の発現を増加させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する。
斯かる評価又は選択は、例えば、被験物質添加前後で、又は被験物質添加群と被験物質非添加群若しくは対照物質添加群とを比較することによって行われる。あるいは、評価は、種々の濃度の被験物質間で測定結果を比較することによって行われる。
【0028】
例えば、被験物質添加群において、MMP-2の発現又は活性が、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群と比べて低い場合、当該被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する。この場合、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群に対して、被験物質添加群におけるMMP-2の発現又は活性が統計学的に有意に低いか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群におけるMMP-2の発現又は活性を100%としたときに、被験物質添加群におけるMMP-2の発現又は活性が一定以下、例えば、90%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下であるか否かによって判断することができる。
【0029】
また、被験物質添加群において、TIMP-2の発現が、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群と比べて高い場合、当該被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する。この場合、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群に対して、被験物質添加群におけるTIMP-2の発現が統計学的に有意に高いか否かによって判断することができる。あるいは、被験物質添加前、被験物質非添加群又は対照物質添加群におけるTIMP-2の発現を100%としたときに、被験物質添加群におけるTIMP-2の発現が一定以上、例えば、110%以上、好ましくは130%以上、より好ましくは150%であるか否かによって判断することができる。
【0030】
斯くして得られた白斑の予防又は改善剤は、白斑の予防治療のために、化粧品、医薬部外品、医薬品等に配合することにより使用できる。
【0031】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の態様をさらに開示する。
【0032】
<1>以下の(1)~(3)の工程を含む、白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(1)MMP-2を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程
(2)当該組織又は細胞におけるMMP-2の発現又は活性を測定する工程
(3)(2)で測定された結果に基づいて、MMP-2の発現又は活性を減少させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する工程
【0033】
<2>以下の(4)~(6)の工程を含む、白斑の予防又は改善剤の評価又は選択方法。
(4)TIMP-2を発現可能な組織又は細胞に、被験物質を接触させる工程
(5)当該組織又は細胞におけるTIMP-2の発現を測定する工程
(6)(5)で測定された結果に基づいて、TIMP-2の発現を増加させる被験物質を白斑の予防又は改善剤として評価又は選択する工程
【0034】
<3>白斑が、好ましくは尋常性白斑又は化学物質誘発性脱色素斑である<1>又は<2>記載の方法。
<4>化学物質誘発性脱色素斑が、好ましくはフェノール誘導体又はカテコール誘導体によって誘発される化学物質誘発性脱色素斑であり、より好ましくはロドデノールによって誘発される化学物質誘発性脱色素斑である<3>記載の方法。
<5>MMP-2を発現可能な組織又は細胞、あるいはTIMP-2を発現可能な組織又は細胞が、好ましくは哺乳動物の表皮組織、表皮組織由来の細胞、真皮組織、真皮組織由来の細胞、又はそれらに由来する培養細胞であり、より好ましくは真皮組織又は真皮組織由来の細胞であり、より好ましくは真皮組織由来の細胞である<1>~<4>のいずれかに記載の方法。
<6>哺乳動物が、好ましくはヒトである<5>記載の方法。
<7>MMP-2の発現、あるいはTIMP-2の発現が、好ましくはタンパク質発現、mRNA発現又はプロモーターの活性化を指標として測定される<1>~<6>のいずれかに記載の方法。
【実施例
【0035】
試験例1 免疫電顕法による皮膚基底膜構成分子(IV型コラーゲン)の局在観察
日本及び米国の大学又は医療機関より入手した健常人及び尋常性白斑患者のヒト皮膚組織の凍結切片に一次抗体(抗IV型コラーゲン-マウスモノクローナルIgG1、100倍希釈、abcam社、商品コード:#ab6311)を一晩反応させ、洗浄後、金粒子(直径1.4nm)標識二次抗体(抗マウスIgG-ヤギポリクローナル抗体、Nanoprobes社、商品コード:#2001;200倍希釈)を室温で2時間反応させた。さらに増幅キット(GoldEnhance EM、Nanoprobes社、商品コード:#2113)で金粒子の直径を30-50nmまで増大させ、常法に従ってサンプルを固定・脱水後、エポキシ樹脂に包埋・薄切・電子染色後、電顕観察を行った。
【0036】
結果を図1に示す。
図1中、金粒子に由来する黒いドットはIV型コラーゲン分子が存在する部分を示す。左側の健常人では、白矢印で示す皮膚基底膜上に黒い金粒子(1例を矢じりで示す)が一列に並んでいるが、右側の白斑患者の病変部においては、皮膚基底膜上の黒い金粒子は一部に限られ、ほとんどの金粒子は皮膚基底膜から離れた真皮にて観察された。この結果から、白斑の病変部では、皮膚基底膜構成分子であるIV型コラーゲンの分布が不均一になっていることがわかった。
【0037】
試験例2 MMPの免疫染色
健常人(5人)及び尋常性白斑患者(5人)のヒト皮膚組織の凍結切片に一次抗体(下記、100倍希釈)を一晩反応させ、洗浄後、核染色剤(DAPI Solution,和光純薬社; 商品コード:340-07971; 500倍希釈)を混合した二次抗体(anti-mouse Alexa Fluor 555; 商品コード:A-21424又はanti-mouse Alexa Fluor 488; 商品コード: A-11001 Invitrogen社;500倍希釈)を室温1時間で反応させ、さらに洗浄後、封入し撮影した。写真より画像解析ソフト(Image J)で単位面積あたりの蛍光強度を算出した。
本試験に使用した一次抗体は以下の通りである:MMP-2(抗MMP2-マウスモノクローナルIgG2a、Abcam社、商品コード:#ab86607), MMP-9(抗MMP9-マウスモノクローナルIgG2a、Abcam社、商品コード:#ab119906)
【0038】
結果を図2に示す。
緑色に蛍光発色させたMMP-2は、白斑の病変部の真皮で健常人に比べて顕著に発現亢進していた。一方で赤色に蛍光発色させたMMP-9も、白斑の病変部の真皮で発現がやや増加していることを確認した。白斑患者、健常者の各6検体の染色像から蛍光強度を定量した結果、MMP-2は約7倍に増加しているのに対し、MMP-9の増加は2倍程度にとどまった。
図中、青色の蛍光発色は細胞核を示す。
【0039】
試験例3 3次元皮膚モデルにおけるMMP-2過剰発現
MMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞の樹立
ヒトMMP-2(RefSeq: BC002576.2)を組み込んだベクター(pEBMulti-Puro、wako社)を、Lipofectamine 3000 (Thermo Fisher Scientific社)を用いてヒト線維芽細胞(lifeline社;商品コード:FC-0001)に導入し、puromycinの選別により安定的なMMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を樹立した。
【0040】
コラーゲン溶液(5mg/mL;高研社;商品コード:IAC-50)を添加したDMEM培地に前記のMMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を播種(最終濃度2.5x106cells/ml)し、transwell (corning社, #3412)中、37℃で30分培養した。培養後、硬化したコラーゲンゲルを半分に切り、半切したゲルを別のtranswell(corning社, #3412)に移し、空いている半分に通常のヒト線維芽細胞を播種したコラーゲンを添加したDMEM培地を注入し、37℃で培養してコラーゲンをゲル化させた。培養2日後には、それぞれのコラーゲンゲルは自然に一体化し、コラーゲンゲル層の半分は通常ヒト線維芽細胞(図3A、緑)、残り半分はMMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞(図3A、黄)を含むコラーゲンゲル層が形成された。ゲルの上にメラノサイトと(Themofisher社; 商品コード:C2025C)ケラチノサイト(kurabo社; 商品コード:KK-4009)を均一に播種し、1週間培養して3次元皮膚モデルを構築した。3次元皮膚モデル構築における培養条件は、参考文献(J Dermatol Sci,2005;40:105-114)に記載された条件に準じた。1週間培養後、構築された3次元皮膚モデルの外見観察を行い、次いで皮膚基底膜関連分子であるラミニン5(LN5、旧名称、現名称:ラミニン332)とメラノサイトマーカーであるTRP1の免疫染色を以下に従って行った。3次元皮膚モデルの凍結切片に一次抗体(下記、100倍希釈)を一晩反応させ、洗浄後、核染色剤(DAPI Solution,和光純薬社; 商品コード:340-07971; 500倍希釈)を混合した二次抗体 (anti-rabbit Alexa Fluor 555又はanti-mouse Alexa Fluor 488; Invitrogen社;500倍希釈)を室温1時間で反応させ、さらに洗浄後、封入し撮影した。本試験に使用した一次抗体は以下の通りである:ラミニン5 (抗Laminin5-マウスモノクローナルIgG1、Abcam社、商品コード:#ab78286), TRP1 (抗TRP1-ウサギポリクローナル抗体、Sigma社、商品コード:#HPA000937)
【0041】
結果を図3に示す。
通常のヒト線維芽細胞を含む左半円には色素の存在が認められた一方、MMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を含む右半円では脱色素様の現象が観察された(図3B)。さらにメラノサイトのマーカーであるTRP1を用いてその局在を免疫染色で確認した結果、色素存在部である通常のヒト線維芽細胞を含む左半円(Mock)の切片ではメラノサイトが存在したが、脱色素側であるMMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を含む右半円(pEB-MMP2)の切片ではメラノサイトは存在しなかった(図3C、赤色に蛍光発色)。また、皮膚基底膜関連分子であるラミニン5(LN5)を免疫染色したところ、色素存在部であるMockの切片では皮膚基底膜上で線状に確認されたが、脱色素側であるpEB-MMP2の切片では皮膚基底膜から離れたコラーゲンゲル中にて多く観察され(図3C、緑色に蛍光発色)、試験例1の白斑患者における皮膚基底膜構成分子であるIV型コラーゲンの組織所見(図1)と一致した。
図中、青色の蛍光発色は細胞核を示す。
【0042】
試験例4 ヒト皮膚組織培養系におけるMMP-2過剰発現
日本の医科大学より入手したヒト皮膚組織を1センチメートル角前後に分割し、通常ヒト線維芽細胞又は試験例3で樹立させたMMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞(両細胞とも予め蛍光色素PKH-26で標識)を、真皮へ注射した(5x106cells/mlの懸濁液を100ul注射)。その後、transwellで1週間培養し、以下に従って免疫染色し、内部の変化を観察した。培養したヒト皮膚組織の凍結切片に一次抗体(下記、100倍希釈)を一晩反応させ、洗浄後、二次抗体 (anti-rabbit Alexa Fluor 555又はanti-mouse Alexa Fluor 488; Invitrogen社;500倍希釈)を室温1時間で反応させ、さらに洗浄後、封入し撮影した。本試験に使用した一次抗体は以下の通りである:Collagen IV (抗Collagen IV-マウスモノクローナルIgG1、biogenex社、商品コード:#AM3795M), TRP1 (抗TRP1-ウサギポリクローナル抗体、Sigma社、商品コード:#HPA000937)
【0043】
結果を図4に示す。
皮膚基底膜成分であるコラーゲンIVの蛍光染色(緑)で示される皮膚基底膜(矢じり)は、通常ヒト線維芽細胞(コントロール細胞)を導入した皮膚では連続した基底膜構造を維持していたが(図4左)、MMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を導入した皮膚では、皮膚基底膜の断片化が確認された(図4右)。メラノサイトマーカーであるTRP1の蛍光染色(赤)で示されるメラノサイトは、コントロール細胞を導入した皮膚では皮膚基底膜上に局在が認められたのに対し(図4左のインサート)、MMP-2過剰発現ヒト線維芽細胞を導入した皮膚では、メラノサイトの消失(図4右のインサート)が確認された。
【0044】
試験例5 マウス皮膚真皮におけるMMP-2過剰発現
試験例3と同様にして、マウスMMP-2(RefSeq: BC070430.1)を組み込んだベクター(pEBMulti-Puro, wako)を、Lipofectamine 3000 (Thermo Fisher Scientific)を用いてマウス線維芽細胞(SCR社;商品コード:M2300-57)に導入し、puromycinの選別により安定的なMMP-2過剰発現マウス線維芽細胞を樹立した。
【0045】
ヒトと同様に、表皮にメラノサイトが存在するKRT14-Kitlマウス(理研BRC, 9週齢雄)を被験体とし、毛刈り後、その背部真皮へ通常マウス線維芽細胞またはMMP-2過剰発現マウス線維芽細胞を注射して移植した(2.5x106cells/mlの懸濁液を100ul注射)。移植3週間後、除毛剤で毛を完全に除いた後、撮影した。
【0046】
結果を図5に示す。
通常マウス線維芽細胞を移植したマウスでは、明らかな皮膚色変化が観察されなかった(図5左)。一方、MMP-2過剰発現マウス線維芽細胞を移植したマウスは、移植部位に明らかな白斑(ヒト白斑患者と同様のまだら)が観察された(図5右)。
図1
図2
図3
図4
図5