(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
G01S 17/894 20200101AFI20240418BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20240418BHJP
G01S 7/481 20060101ALI20240418BHJP
H04N 7/18 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
G01S17/894
G01S17/931
G01S7/481 Z
H04N7/18 J
(21)【出願番号】P 2021527683
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024761
(87)【国際公開番号】W WO2020262446
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2019122037
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】李 剣
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-252357(JP,A)
【文献】特開2009-257981(JP,A)
【文献】特開2017-090409(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110413(WO,A1)
【文献】特開2011-239145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S17/00-17/95
H04N 7/18
B60R 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターレンズと、
前記アウターレンズの内側に収容されている灯具ユニットと、
前記アウターレンズの内側に収容されており、奥行き方向について
区切られた複数のレンジ
の各々について、露光と発光のタイミングを
相違させることにより、
各レンジに対応する画像を取得するよう構成され
たゲーティングカメラと、
を備え、
前記各レンジ
における前記タイミングは、
前記アウターレンズの付着物と前記アウターレンズの内面反射による光点が前記画像に
写り込まないように定められ
ており、
前記複数のレンジとは別に、前記画像に対して前記アウターレンズの付着物が写るように前記タイミングが定められた補助レンジが用意されており、前記補助レンジに対応する画像を取得する動作に切り替え可能であることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
前記ゲーティングカメラは
、自動的に前
記タイミングを最適化するコントローラを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
アウターレンズと、
前記アウターレンズの内側に収容されており、奥行き方向について区切られた複数のレンジの各々について露光と発光のタイミングを相違させることにより、各レンジに対応する画像を取得するよう構成されたゲーティングカメラと、
を備え、
前記各レンジにおける前記タイミングは、前記アウターレンズの付着物と前記アウターレンズの内面反射による光点が前記画像に写り込まないように定められており、
前記複数のレンジとは別に、前記画像に対して前記アウターレンズの付着物が写るように前記タイミングが定められた補助レンジが用意されており、前記補助レンジに対応する画像を取得する動作に切り替え可能であることを特徴とする物体識別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
自動運転やヘッドランプの配光の自動制御のために、車両の周囲に存在する物体の位置および種類をセンシングする物体識別システムが利用される。物体識別システムは、センサと、センサの出力を解析する演算処理装置を含む。センサは、カメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)、ミリ波レーダ、超音波ソナーなどの中から、用途、要求精度やコストを考慮して選択される。
【0003】
一般的な単眼のカメラからは、奥行きの情報を得ることができない。したがって、異なる距離に位置する複数の物体が重なっている場合に、それらを分離することが難しい。
【0004】
奥行き情報が得られるカメラとして、TOFカメラが知られている。TOF(Time Of Flight)カメラは、発光デバイスによって赤外光を投光し、反射光がイメージセンサに戻ってくるまでの飛行時間を測定し、飛行時間を距離情報に変換した画像を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-257983号公報
【文献】国際公開WO2017/110413A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本出願人は、TOFカメラに代わるセンサ(以下、本明細書においてゲーティングカメラと称する)を提案している(特許文献1,2)。ゲーティングカメラは、撮影範囲を複数のレンジに区切り、レンジ毎に露光タイミングおよび露光時間を変化させて複数回、撮像する。これにより、対象のレンジ毎に画像が得られ、各画像は対応するレンジに含まれる物体のみを含む。
【0007】
本発明者は、ゲーティングカメラを車両用灯具(ヘッドランプ)に内蔵することを検討した。この場合、ゲーティングカメラによる撮影は、ヘッドランプのアウターレンズ越しに行われることとなる。アウターレンズに付着したゴミや雨滴、アウターレンズの内面反射は、ゲーティングカメラの画像を劣化させる。
【0008】
本発明は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、車両用灯具に内蔵されるゲーティングカメラの画質の改善にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のある態様は車両用灯具に関する。車両用灯具は、アウターレンズと、アウターレンズの内側に収容されるゲーティングカメラを備える。ゲーティングカメラは、奥行き方向について複数のレンジに区切り、各レンジについて、露光と発光のタイミングを、そのレンジについて定められた所定値にセットして撮影するよう構成される。各レンジの、露光と発光のタイミングは、画像に対してアウターレンズが影響を与えないように定められる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アウターレンズの付着物や内面反射の影響が少ない画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る物体識別システムのブロック図である。
【
図2】ゲーティングカメラの動作を説明する図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、ゲーティングカメラにより得られる画像を説明する図である。
【
図4】ゲーティングカメラを内蔵する車両用灯具の断面図である。
【
図5】
図5(a)、(b)は、アウターレンズ越しのゲーティングカメラによる撮影を説明する図である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、アウターレンズの影響が除外された撮影を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、実施の形態に係る物体識別システム10のブロック図である。この物体識別システム10は、自動車やバイクなどの車両に搭載され、車両の周囲に存在する物体OBJの種類(カテゴリ、あるいはクラスともいう)を判定する。
【0014】
物体識別システム10は、主としてゲーティングカメラ20および演算処理装置40を備える。ゲーティングカメラ20は、投光器22、イメージセンサ24、コントローラ26を含む。ゲーティングカメラ20による撮像は、奥行き方向について複数N個(N≧2)のレンジRNG1~RNGNに区切って行われる。隣接するレンジ同士は、それらの境界において奥行き方向にオーバーラップしてもよい。
【0015】
投光器22は、コントローラ26から与えられる投光タイミング信号S1と同期して、プローブ光L1を車両前方に照射する。プローブ光L1は赤外光であることが好ましいが、その限りでなく、所定の波長を有する可視光であってもよい。
【0016】
イメージセンサ24は、コントローラ26から与えられる撮影タイミング信号S2と同期した露光制御が可能であり、画像IMGを生成可能に構成される。イメージセンサ24は、プローブ光L1と同じ波長に感度を有しており、物体OBJが反射した反射光(戻り光)L2を撮影する。
【0017】
コントローラ26は、レンジRNGごとに予め定められた投光タイミングと露光タイミングを保持している。コントローラ26は、あるレンジRNGiを撮影するとき、そのレンジに対応する投光タイミングと露光タイミングにもとづいて投光タイミング信号S1および撮影タイミング信号S2を生成し、撮影を行う。ゲーティングカメラ20は、複数のレンジRNG1~RNGNに対応する複数の画像IMG1~IMGNを生成することができ、i番目の画像IMGiには、対応するレンジRNGiに含まれる物体のみが写ることとなる。
【0018】
図2は、ゲーティングカメラ20の動作を説明する図である。
図2にはi番目のレンジRNG
iを測定するときの様子が示される。投光器22は、投光タイミング信号S1と同期して、時刻t
0~t
1の間の発光期間τ
1の間、発光する。最上段には、横軸に時間、縦軸に距離をとった光線のダイアグラムが示される。ゲーティングカメラ20から、レンジRNG
iの手前の境界までの距離をd
MINi、レンジRNG
iの奥側の境界までの距離をd
MAXiとする。
【0019】
ある時刻に投光器22を出発した光が、距離dMINiに到達してその反射光がイメージセンサ24に戻ってくるまでのラウンドトリップ時間TMINiは、
TMINi=2×dMINi/c
である。cは光速である。
【0020】
同様に、ある時刻に投光器22を出発した光が、距離dMAXiに到達してその反射光がイメージセンサ24に戻ってくるまでのラウンドトリップ時間TMAXiは、
TMAXi=2×dMAXi/c
である。
【0021】
レンジRNGiに含まれる物体OBJのみを撮影したいとき、コントローラ26は、時刻t2=t0+TMINiに露光を開始し、時刻t3=t1+TMAXiに露光を終了するように、撮影タイミング信号S2を生成する。これが1回の露光動作である。
【0022】
i番目のレンジRNGiを撮影する際に、複数回の露光を行ってもよい。この場合、コントローラ26は、所定の周期τ2で、上述の露光動作を複数回にわたり繰り返せばよい。
【0023】
なお、
図2の制御タイミングt
0~t
3を与えたときに、実際に撮影される画像には、距離d
MINiより手前の狭い領域(
図2にpで示す)に含まれる物体が、レンジRNG
iに含まれる物体よりも相対的に低い露出で写り込む。同様に距離d
MAXiより奥側の狭い領域(
図2にqで示す)に含まれる物体も、相対的に低い露出で写り込む。
【0024】
図3(a)、(b)は、ゲーティングカメラ20により得られる画像を説明する図である。
図3(a)の例では、レンジRNG
2に物体(歩行者)OBJ
2が存在し、レンジRNG
3に物体(車両)OBJ
3が存在している。
図3(b)には、
図3(a)の状況で得られる複数の画像IMG
1~IMG
3が示される。画像IMG
1を撮影するとき、イメージセンサはレンジRNG
1からの反射光のみにより露光されるため、画像IMG
1にはいかなる物体像も写らない。
【0025】
画像IMG2を撮影するとき、イメージセンサはレンジRNG2からの反射光のみにより露光されるため、画像IMG2には、物体像OBJ2のみが写る。同様に画像IMG3を撮影するとき、イメージセンサはレンジRNG3からの反射光のみにより露光されるため、画像IMG3には、物体像OBJ3のみが写る。このようにゲーティングカメラ20によれば、レンジ毎に物体を分離して撮影することができる。
【0026】
図1に戻る。演算処理装置40は、ゲーティングカメラ20によって得られる複数のレンジRNG
1~RNG
Nに対応する複数の画像IMG
1~IMG
Nにもとづいて、物体の種類を識別可能に構成される。演算処理装置40は、機械学習によって生成された予測モデルにもとづいて実装される分類器42を備える。分類器42のアルゴリズムは特に限定されないが、YOLO(You Only Look Once)、SSD(Single Shot MultiBox Detector)、R-CNN(Region-based Convolutional Neural Network)、SPPnet(Spatial Pyramid Pooling)、Faster R-CNN、DSSD(Deconvolution -SSD)、Mask R-CNNなどを採用することができ、あるいは、将来開発されるアルゴリズムを採用できる。
【0027】
演算処理装置40は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。演算処理装置40は、複数のプロセッサの組み合わせであってもよい。あるいは演算処理装置40はハードウェアのみで構成してもよい。
【0028】
複数のレンジそれぞれについて、対応する画像に写る物体像の大きさの範囲(許容範囲という)が規定されている。分類器42は、検出対象の物体像のサイズは、許容範囲に含まれるという前提(制約)のもと、複数の画像IMGそれぞれに含まれる物体像の種類を識別する。
【0029】
たとえば、分類器42の出力(検出データという)OUTi(i=1,2,…N)は、i番目の画像データIMGiに含まれる各物体像のサイズ情報と、その種類(カテゴリ)の情報を含む。検出データOUTが、物体ごとのバウンディングボックスの情報を含む場合、バウンディングボックスの高さと幅を、物体のサイズ情報とすることができる。種類の情報は、複数の種類それぞれに該当する可能性(所属確率)を示してもよいし、最も所属確率が高い種類の識別子を含んでもよい。
【0030】
図4は、ゲーティングカメラ20を内蔵する車両用灯具200の断面図である。車両用灯具200は、筐体210、アウターレンズ220、ハイビームおよびロービームの灯具ユニット230H/230Lおよびゲーティングカメラ20を備える。灯具ユニット230H/230Lおよびゲーティングカメラ20は、筐体210に収容されている。
【0031】
図5(a)、(b)は、アウターレンズ220越しのゲーティングカメラ20による撮影を説明する図である。
図5(a)に示すように、アウターレンズ220には、雨滴や汚れなどの付着物222が付着している。撮影対象のレンジRNG
1の手前の境界までの距離d
MINが短すぎると、撮影レンジRNG
1にアウターレンズ220が含まれることとなる。その結果、
図5(b)に示すように、付着物222が画像IMG
1に写り込む。また画像IMG
1には、アウターレンズ220の内面反射による光点224が写り込む。さらに画像IMG
1は、アウターレンズ220に起因する歪み226の影響を受ける場合もある。
【0032】
このようなアウターレンズの影響を受けた画像IMG
1にもとづいて物体認識を行うと、識別率が低下する。そこで、ゲーティングカメラ20は、アウターレンズ220を撮影範囲から除外するように構成される。
図2を参照して説明したように、あるレンジを撮影したときに物体が写り込む範囲は、投光と露光のタイミングt
0~t
3にもとづいて定まる。つまり本実施の形態では、各レンジRNGごとの、露光と発光のタイミング(t
0~t
3)は、対応する画像に対するアウターレンズの影響が低減するように定められる。「アウターレンズの影響が低減する」とは、(i)アウターレンズの付着物が画像IMGに写り込まないこと、(ii)アウターレンズの内面反射による光点が画像IMGに写り込まないこと、などを含む。
【0033】
図6(a)、(b)は、アウターレンズの影響が除外された撮影を説明する図である。
図6(a)に示すように、最も手前のレンジRNG
1は、アウターレンズ220を含まないように定められる。ただし、レンジRNG
1がアウターレンズ220を含んでいない場合であっても、アウターレンズ220の影響が画像IMG
1に現れる場合がある。そこで、アウターレンズ220の影響が表される範囲を撮影除外範囲、撮影除外範囲よりも奥側を撮影可能範囲として定め、レンジRNG
1を、撮影可能範囲内で規定するとよい。これにより
図6(b)に示すように、レンジRNG
1について得られる画像IMG
1には、アウターレンズ220の付着物などが写り込まず、高画質が得られることとなる。
【0034】
各レンジRNG1~RNGNそれぞれについて、アウターレンズ220の影響を低減するような露光と発光のタイミングは、投光器22、イメージセンサ24およびアウターレンズ220の位置関係から、理論的に計算してもよい。
【0035】
ただし、実際の車両用灯具200では、
図3に示すように、イメージセンサ24の撮像面ISと、投光器22の発光面ESは一致しているとは限らない。また投光器22の発光面ESとアウターレンズ220の距離と、イメージセンサ24の撮像面ISとアウターレンズ220の距離も一致しているとは限らない。このような事情から、理論計算によって、投光および露光に関するタイミングを決定することは容易でない。
【0036】
そこでコントローラ26は、各レンジRNGiについて、投光および露光に関するタイミングを変化させながら、イメージセンサ24の出力画像IMGiを監視し、画像IMGiに対するアウターレンズ220の影響が低減されるように、露光と発光のタイミングを最適化してもよい。コントローラ26に変えて、車両用灯具200の外部のコンピュータによってこの最適化処理を行ってもよい。
【0037】
あるいは、車両用灯具200の設計段階、あるいは検査工程において、設計者あるいは検査員がマニュアルで、投光および露光に関するタイミングを変化させながら、イメージセンサ24の出力画像を監視し、露光と発光のタイミングを最適化してもよい。
【0038】
なお、アウターレンズ220の影響を受けないように定められた複数のレンジRNG
1~RNG
Nとは別に、アウターレンズ220の影響を受けるように投光および露光に関するタイミングが定められた補助レンジRNG
0を保持しておいてもよい。この補助レンジRNG
0は、
図6(a)の除外範囲と一致させてもよい。そして、車両の停車中や走行中に、補助レンジRNG
0に切り替えて撮影を行えば、得られた画像にもとづいて、アウターレンズ220の付着物を検出することができる。
【0039】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、車両用灯具に関する。
【符号の説明】
【0041】
S1 投光タイミング信号
S2 撮影タイミング信号
10 物体識別システム
20 ゲーティングカメラ
22 投光器
24 イメージセンサ
26 コントローラ
40 演算処理装置
42 分類器
200 車両用灯具
210 筐体
220 アウターレンズ
230 灯具ユニット