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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】ガラス板用保護シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/04 20060101AFI20240418BHJP
   B65D 85/48 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CES
B65D85/48
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022177856
(22)【出願日】2022-11-07
(65)【公開番号】P2023071173
(43)【公開日】2023-05-22
【審査請求日】2022-11-28
(31)【優先権主張番号】P 2021183596
(32)【優先日】2021-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】落合 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大森 智史
(72)【発明者】
【氏名】南 貴博
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-158557(JP,A)
【文献】特開2008-007670(JP,A)
【文献】特開2013-010907(JP,A)
【文献】特開2021-000791(JP,A)
【文献】特開2019-059939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B65D 85/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂発泡シートで構成されたガラス板用保護シートであって、
前記樹脂発泡シートは、
少なくとも表面がポリエチレン樹脂を含む樹脂組成物で構成され、
厚さが0.1mm以上0.5mm以下であり、
金属イオン抽出試験でのナトリウムイオンとリチウムイオンとの合計抽出量が0.1mg/m以下で、
透湿度が100g/(m・24h)以下で、且つ、
吸水率が2.0g/m以下であるガラス板用保護シート。
【請求項2】
前記樹脂発泡シートは、
両表面の内の少なくとも一方の表面での表面抵抗率が1×1012Ω以上1×1014Ω以下で、
静電気減衰率が40%以上95%以下であり、
前記樹脂組成物がアイオノマー型帯電防止剤を含み、
前記樹脂組成物での該アイオノマー型帯電防止剤の含有量は、前記ポリエチレン樹脂100質量部に対して5質量部以上20質量部以下である請求項1記載のガラス板用保護シート。
【請求項3】
前記樹脂発泡シートは、
4kPaの圧力を厚さ方向に加えて測定した厚さである加圧時厚さが、圧力を加えずに測定した厚さである無荷重厚さの65%以上95%以下であり、
両表面の内の少なくとも一方の表面の算術平均粗さが50μm以上120μm以下であり、且つ、該表面の十点平均粗さを前記算術平均粗さで除した値が3.0以下である請求項1記載のガラス板用保護シート。
【請求項4】
前記樹脂発泡シートは、
4kPaの圧力を厚さ方向に加えて測定した厚さである加圧時厚さが、圧力を加えずに測定した厚さである無荷重厚さの65%以上95%以下であり、
両表面の内の少なくとも一方の表面の算術平均粗さが50μm以上120μm以下であり、且つ、該表面の十点平均粗さを前記算術平均粗さで除した値が3.0以下である請求項2記載のガラス板用保護シート。
【請求項5】
前記樹脂組成物には、アイオノマー型帯電防止剤が含まれており、且つ、該アイオノマー型帯電防止剤のJIS K7210:1999 B法によって測定されるメルトマスフローレイトが25g/10min以下である請求項1又は3記載のガラス板用保護シート。
【請求項6】
前記アイオノマー型帯電防止剤のJIS K7210:1999 B法によって測定されるメルトマスフローレイトが25g/10min以下である請求項2又は4記載のガラス板用保護シート。
【請求項7】
前記樹脂組成物には、アニオン系界面活性剤が含まれており、且つ、
該アニオン系界面活性剤は、前記ポリエチレン樹脂100質量部に対して0.01質量部以上0.5質量部以下の割合で含まれている請求項1乃至4の何れか1項に記載のガラス板用保護シート。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、植物に由来する前記ポリエチレン樹脂を含んでいる請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガラス板用保護シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂発泡シートで構成されたガラス板用保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂発泡シートは、優れた軽量性と緩衝性とを備えているため各種の用途に用いられている。樹脂発泡シートは、緩衝性に優れることからガラス板用の保護シートとして、合紙に代えて用いられている場合がある。また、樹脂発泡シートは、1つの発泡層のみで構成されたものや発泡層の両面に非発泡層などが設けられたものが広く用いられている。後者の樹脂発泡シートは、積層発泡シートなどとも称され、該積層発泡シートもガラス板用保護シートなどに利用されている(下記特許文献1参照)。ガラス板用保護シートに利用される樹脂発泡シートは、ポリエステル樹脂やポリスチレン樹脂などよりも柔軟性に優れたポリエチレン樹脂を含む樹脂組成物によって構成されている。樹脂発泡シートは、少なくともガラスと接する表面がポリエチレン樹脂を含む樹脂組成物によって構成されることで良好な緩衝性を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガラス板用保護シートとして用いられる樹脂発泡シートには、ガラス板の表面を清浄な状態に保つことが求められている。具体的には、静電気によってガラス板に埃などが付着しないようにガラス板用保護シートには帯電防止性が求められている。また、この種のガラス板を保護シートで保護する場合、水等で容易に洗い流せないような物質がガラス板の表面に付着するのを防止することが求められている。
【0005】
このような要望を満足させるため、水で洗い流すことが容易な界面活性剤を樹脂発泡シートに含有させ、ガラス板との界面に当該界面活性剤をいち早く滲出させて帯電防止性を発揮させるとともにこの界面活性剤以外の物質がガラス板に付着することを抑制させることが行われている。
【0006】
ところで、ガラス板用保護シートの上に置かれたガラス板が不用意に動いてしまわないようにガラス板用保護シートとガラス板との間には適度な摩擦力が作用することが求められている。しかしながら、帯電防止のために界面活性剤を使用するとガラス板を滑り易くしてしまうことになり得る。そのため、ガラス板用保護シートについては、ガラス板を清浄に保つという要望を満足しつつガラス板との間に過度な滑りが生じることを抑制することが困難になっている。そこで本発明は、ガラス板との間に過度な滑りが生じることを抑制できるガラス板用保護シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討し、水によって樹脂発泡シートから抽出されるナトリウムイオンとリチウムイオンとが一定量を超える場合にガラス板の表面の清浄性を低下させるおそれがあることを見出した。また、本発明者は、樹脂発泡シートの透湿性や吸湿性の低減を図ることでガラス板の過度な滑りが生じ難い保護シートを提供し得ることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、
樹脂発泡シートで構成されたガラス板用保護シートであって、
前記樹脂発泡シートは、
少なくとも表面がポリエチレン樹脂を含む樹脂組成物で構成され、
厚さが0.1mm以上0.5mm以下であり、
金属イオン抽出試験でのナトリウムイオンとリチウムイオンとの合計抽出量が0.1mg/m以下で、
透湿度が100g/(m・24h)以下で、且つ、
吸水率が2.0g/m以下であるガラス板用保護シート、を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、界面活性剤の滲出作用を積極的に利用しなくてもガラス板の表面を清浄な状態に保つことができ、ガラス板との間に過度な滑りが生じることも抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、樹脂発泡シートの一使用態様を示した概略図である。
図2図2は、一実施形態の樹脂発泡シートの構造を示した概略断面図である。
図3図3は、他の実施形態に係る発泡シートの構造を示す概略断面図である。
図4図4は、他の実施形態に係る発泡シートの構造を示す概略断面図である。
図5図5は、表面粗さの測定で得られる輪郭曲線の例を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施の形態について図を参照しつつ説明する。本実施形態のガラス板用保護シート(以下、単に「保護シート」ともいう)は、樹脂発泡シートで構成されている。本実施形態の保護シートは、例えば、図1に示すような状態で利用される。本実施形態の保護シート1は、ガラス板2を複数枚上下方向に積層して積層体100を形成する際に隣接するガラス板2の間に介装させて用いられる。本実施形態における保護シート1は、押出発泡法等によって作製された樹脂発泡シートで構成されている。
【0012】
本実施形態の保護シート1は、当然ながら図1に示す態様以外にも利用可能である。保護シート1は、図1のように横置きにされた状態(寝かされた状態)のガラス板2の保護に利用されるだけでなく縦置きにされた複数枚のガラス板2を横並びにさせる際にも利用可能である。保護シート1は、図1のように上下方向に縁を揃えて重なるガラス板2の保護に利用されるだけでなく、例えば、上下で僅かに位置ずれして階段状になるように積層されたガラス板2の保護に用いられてもよい。ガラス板2が縦置きにされる場合も同様で垂直方向に対して傾けて立てられた複数枚のガラス板2を横並びにさせる場合は、ガラス板2の縁が揃った状態にはならないが、本実施形態の保護シート1は、そのような態様においても用いることができる。さらには、ガラス板2の並ぶ方向が、垂直方向でも水平方向でもなく斜め方向であるような場合にも本実施形態の保護シート1を利用することができる。
【0013】
縁を揃えずガラス板2が並ぶ場合、ガラス板2と同じ大きさの保護シート1では、端がガラス板2からはみ出してしまう。図1に示す保護シート1は、ガラス板2より一回り小さいため、ガラス板2が種々の並び方をしている場合にもガラス板2からはみ出すことなく用いることができる。なお、保護シート1の大きさについても当然ながら図1の例示に限定されない。ガラス板2全体をより確実に保護するという意味では、保護シート1は、ガラス板2と同じ大きさであっても、ガラス板2よりも一回り大きくてもよい。
【0014】
本実施形態における保護シート1は、例えば、図2~4に示す樹脂発泡シートで構成されている。図2に示すように、一実施形態に係る樹脂発泡シートは、単層構造を有する樹脂発泡シートで構成されており、両面において表面に発泡層10が露出した状態となっている。本実施形態の保護シート1は、発泡層10だけで構成されているために当該発泡層10の両面がガラス板2に接する当接面となっている。
【0015】
本実施形態における保護シート1は、このような単層構造に限らない。図3に示すように、他の実施形態に係る樹脂発泡シートは、発泡層10の片面に非発泡層11を有する。図3に示す保護シート1は、両表面の内の一方が発泡層10で構成され、他方が非発泡層11で構成されている。即ち、図3に示す保護シート1は、発泡層10と非発泡層11とのそれぞれがガラス板2に接する当接面を構成している。
【0016】
本実施形態における保護シート1は、図4に示すようなものであってもよい。図4に示す保護シート1は、発泡層10の両面に非発泡層11を有する樹脂発泡シートである。図4に示す保護シート1の両表面は、それぞれの非発泡層11の表面となっている。即ち、図4に示す保護シート1は、2つの非発泡層11のそれぞれがガラス板2に接する当接面を構成している。
【0017】
本実施形態における保護シート1は、これらの例示に限らず、4層以上の積層構造を有していてもよく、発泡層10を複数有するものであってもよい。
【0018】
本実施形態における前記ガラス板2としては、例えば、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイパネルにおける基板用又はカバーガラス用のガラス板などが挙げられる。
【0019】
本実施形態の樹脂発泡シート(保護シート1)は、ポリエチレン樹脂を含む樹脂組成物で表面が構成されている。本実施形態における前記樹脂組成物は、前記ポリエチレン樹脂と添加剤とを含んでいる。本実施形態の前記樹脂組成物は、前記ポリエチレン樹脂や前記添加剤がそれぞれ単独の状態で含まれる必要は無く、複数のポリエチレン樹脂や複数の添加剤を含んでいてもよい。樹脂組成物は、前記添加剤として高分子型帯電防止剤と界面活性剤とを含む。本実施形態の樹脂組成物は、必要であれば、ポリエチレン樹脂や高分子型帯電防止剤以外にもポリプロピレン樹脂などの別の樹脂を含んでもよい。
【0020】
高分子型帯電防止剤や界面活性剤を含む樹脂組成物は、接する相手材との間に静電気が発生することを防止できるので、ガラス板との当接面を形成するための材料として好適である。図3図4に示すような保護シート1では、発泡層10と非発泡層11とに同じ樹脂組成物を用いても異なる樹脂組成物を用いてもよい。図4に示すような保護シート1では、一方の非発泡層11と他方の非発泡層11とに同じ樹脂組成物を用いても異なる樹脂組成物を用いてもよい。図4に示すような保護シート1では、発泡層10が当該保護シート1の表面を構成することがないので、発泡層10を構成する樹脂組成物での高分子型帯電防止剤や界面活性剤の量を非発泡層11よりも少なくしてもよい。図4に示すような保護シート1では、発泡層10を構成する樹脂組成物に高分子型帯電防止剤と界面活性剤との内の一方、又は、両方を含有させなくてもよい。
【0021】
保護シート1を構成する樹脂発泡シートは、ガラス板2の滑りを抑制する上で、ガラス板2との当接面が所定の粗さを有していることが好ましい。樹脂発泡シートは、両表面が当接面として適した状態になっていることが好ましい。したがって、樹脂発泡シートは、両表面が所定の粗さを有していることが好ましい。
【0022】
樹脂発泡シートは、JIS B 0601(2001)に基づいて測定される算術平均粗さ(Ra)が50μm以上であることが好ましい。樹脂発泡シートは、JIS B 0601(2001)に基づいて測定される十点平均粗さ(RzJIS)が120μm以上であることが好ましい。算術平均粗さ(Ra)の値に対する十点平均粗さ(RzJIS)の値の比率(RzJIS/Ra)は、3.0以下であることが好ましい。
【0023】
算術平均粗さ(Ra)とは、樹脂発泡シートの表面の凹凸形状をミクロンオーダーで計測し、例えば、図5に示すような輪郭曲線RCが得られた場合に、平均線MLから上の山MTに相当する部分の面積を基準長さLの区間で合計した総面積(Sm)と、平均線MLから下の谷VLに相当する部分の面積を基準長さLの区間で合計した総面積(Sv)とを測定し、それらの合計値(Sm+Sv)を基準長さLで除して求められる値(Ra=[(Sm+Sv)/L])である。
【0024】
十点平均粗さ(RzJIS)とは、輪郭曲線RCで最も高さの高い山MTから5番目に高い山MTまでの5つの山の高さの平均値(AVR1)と、最も深さの深い谷VLから5番目に深い谷VLまでの5つの谷VLの深さの平均値(AVR2)との合計値(RzJIS=|AVR1|+|AVR2|)である。
【0025】
算術平均粗さ(Ra)と十点平均粗さ(RzJIS)とは、上記のようにして求められる値である。算術平均粗さ(Ra)は、他の山MTや谷VLに比べて極端に高い山MTや極端に深い谷VLが存在する場合とそれらが存在しない場合とで値は大きく変わらない。一方で、十点平均粗さ(RzJIS)は、高い山MTや深い谷VLが存在する場合、それらが存在しない場合に比べて値が大きくなる。そのため、これらの比率(RzJIS/Ra)が小さいということは、極端に高い山MTや極端に深い谷VLの数が少ないことを意味し、山MTや谷VLの大きさが揃っていることを意味する。
【0026】
算術平均粗さ(Ra)の値が大きな樹脂発泡シートは、ガラス板2を置いた時に密着し難くなり、ナトリウムイオンやリチウムイオンがガラス板2に移行することを抑制できる。また、保護シート1とガラス板2とが密着するような状態であると保護シート1の表面に界面活性剤がブリードアウトした時に保護シート1とガラス板2との間に界面活性剤が膜状に広がってガラス板2が滑り易くなる。したがって、算術平均粗さ(Ra)の値が大きな樹脂発泡シートは、ガラス板2の滑りを抑制し易い点でも保護シート1の構成材料として優れる。
【0027】
樹脂発泡シートの算術平均粗さ(Ra)は、上記のような観点から、50μm以上であることが好ましい。樹脂発泡シートの算術平均粗さ(Ra)は、55μm以上であってもよく、60μm以上であってもよく、70μm以上であってもよい。樹脂発泡シートの算術平均粗さ(Ra)は、75μm以上であってもよく、80μm以上であってもよい。
【0028】
算術平均粗さ(Ra)が極端に大きかったり、樹脂発泡シートの表面に極端に高い山MTなどが存在したりすると保護シート1とガラス板2とが点接触する状態になって却ってガラス板2が滑り易くなるおそれがある。
【0029】
ガラス板2の滑りを抑制する観点からは、樹脂発泡シートの算術平均粗さ(Ra)は、150μm以下であることが好ましい。樹脂発泡シートの算術平均粗さ(Ra)は、140μm以下であってもよく、130μm以下であってもよく、120μm以下であってもよい。該算術平均粗さ(Ra)は、108μm以下であってもよく、100μm以下であってもよく、95μm以下であってもよい。
【0030】
樹脂発泡シートの十点平均粗さ(RzJIS)は、算術平均粗さ(Ra)と同様の理由から、120μm以上であることが好ましい。樹脂発泡シートの十点平均粗さ(RzJIS)は、130μm以上であってもよく、140μm以上であってもよい。
【0031】
樹脂発泡シートの十点平均粗さ(RzJIS)は、300μm以下であることが好ましい。樹脂発泡シートの十点平均粗さ(RzJIS)は、250μm以下であってもよく、200μm以下であってもよい。
【0032】
ガラス板2の滑りを抑制する観点から、算術平均粗さ(Ra)と十点平均粗さ(RzJIS)との比率(RzJIS/Ra)は、3.0以下であることが好ましい。該比率(RzJIS/Ra)は、2.8以下であってもよく、2.5以下であってもよい。該比率(RzJIS/Ra)は、2.2以下であってもよい。該比率(RzJIS/Ra)は、通常、1以上である。該比率(RzJIS/Ra)は、1.3以上であってもよく、1.5以上であってもよく、1.8以上であってもよい。
【0033】
樹脂発泡シートは、片面のみが上記のような好ましい表面粗さとなっていてもよいが、両面ともが上記のような好ましい表面粗さとなっていることが好ましい。表面に非発泡層を設けた樹脂発泡シートでは、上記のような好ましい表面粗さとすることが難しい。従って、本実施形態の保護シート1を構成する樹脂発泡シートは、両表面が発泡層で構成されることが好ましい。両表面を発泡層で構成する上で、樹脂発泡シートは、例えば、発泡層/非発泡層/発泡層の3層構造であってもよく、発泡層/発泡層の2層構造であってもよい。両表面の状態を共通化させる上で、保護シート1は、1つの発泡層のみで構成された単層構造の樹脂発泡シートであってもよい。
【0034】
算術平均粗さ(Ra)や十点平均粗さ(RzJIS)の値は、次のようにして測定することができる。
(表面粗さの測定方法)
樹脂発泡シート(保護シート1)を幅40mm×長さ40mm×シート厚みに切り出し、試験片とする。試験片の表面が平滑な部分について、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製、商品名:VHX-8000)を用いて、20倍の倍率で平面プロファイルを測定する。そして、得られた平面プロファイルから、JIS B 0601:2001に基づいて表面粗さRa、RzJISの値を算出する。
位相補償形低減フィルターによるカットオフは、λc=8mm、λs=25μmに設定する。
試験片の数は5個とする。
各試験片について、表面と裏面のそれぞれの押出方向及び幅方向における表面粗さを5箇所ずつ測定する。
測定した値を算術平均して、樹脂発泡シート(保護シート1)の表面粗さRa、RzJISとする。
【0035】
本実施形態の保護シート1では、静電気的な力によりガラス板2の滑りを抑制することも可能である。即ち、保護シート1を構成する樹脂発泡シートは、静電気を発生させた際に静電気がすぐに消失せずに、時間を掛けて消失する方がガラス板2の滑りを防止するのに有利である。より具体的には、樹脂発泡シート(保護シート1)は、静電気減衰率が95%以下であることが好ましい。樹脂発泡シートの静電気減衰率は、90%以下であってもよく、85%以下であってもよい。樹脂発泡シートの静電気減衰率は、40%以上であることが好ましい。樹脂発泡シートの静電気減衰率は、50%以上であってもよく、55%以上であってもよく、60%以上であってもよい。
【0036】
樹脂発泡シートの静電気減衰率は、次のようにして測定することができる。
(静電気減衰率の測定方法)
静電気減衰率は、JIS L1094「織物及び編物の帯電性試験方法」記載の方法に準拠し測定することができる。
まず、保護シートから一辺が40mmの正方形状の試験片を切り出し、温度22℃、相対湿度60%の雰囲気下に24時間放置して状態調整を行う。
試験装置(商品名「STATICMETER S-411」、nippon static co.ltd製)を用い、状態調整を行った試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ10kVの電圧を印加し、電圧を印加した後の試験片の帯電量の変化を測定する。
電圧の印加を停止した瞬間の帯電量(初期帯電量)と、30秒経過後の帯電量とを読み取り、静電気減衰率を次式にて算出する。
静電気減衰率(%)=[(初期帯電量-30秒後帯電量)/初期帯電量]×100
【0037】
本実施形態の樹脂発泡シート(保護シート1)は、前記のような樹脂組成物を発泡剤などとともに押出機で溶融混練し、該溶融混練によって得られた溶融混練物を前記押出機の押出方向先端側に装着したダイからシート状に押出して発泡させることによって発泡層10を作製することができる。非発泡層11は、上記のような樹脂組成物を共押出法によって、発泡層10の片面又は両面に積層することができる。非発泡層11は、上記のような樹脂組成物をフィルム状に形成した後に熱融着法等によって、発泡層10の片面又は両面に積層することができる。
【0038】
該樹脂発泡シートの幅や厚さは特に限定されるものではないが、厚さについては、0.1mm以上であることが好ましい。樹脂発泡シートの厚さは0.2mm以上であることがより好ましい。樹脂発泡シートの厚さは0.5mm以下であることが好ましく、0.4mm以下であることがより好ましい。
【0039】
非発泡層11を有する樹脂発泡シートの場合は、非発泡層11の厚さは、4μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。非発泡層11の厚さは、30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。非発泡層11は実質的に気泡を有しない層である。
【0040】
発泡層10の平均気泡径は、100μm~500μm程度である。平均気泡径は、ASTM D2842-69の試験方法に準拠して測定できる。発泡層10の気泡膜厚は、4μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。発泡層10の気泡膜厚は、15μm以下であることが好ましく、12μm以下であることがより好ましい。気泡膜厚は、樹脂発泡シートの断面をSEMで撮影し、その画像を用いて、任意の20箇所において厚み方向に樹脂発泡シートに対して垂直の線を引き、線にかかる気泡膜の厚さを測定し、その測定値から算術平均値を算出して求めることができる。非発泡層11の厚さも、気泡膜厚と同様の方法で測定できる。
【0041】
樹脂発泡シートの厚さは、以下のようにして求めることができる。
(厚さの測定)
測定には、定圧厚さ測定器(スタンドタイプ、Teclock社製、デジタルインジケータPCシリーズ型番「PC-440J」)を用い、円筒状の重りを用いて測定する。
測定は、直径3.0cmの円形状の面(面積:7.1cm)に、95gの荷重(自重を含む)を樹脂発泡シートにかけた状態で実施する。
そして、幅方向に5cmごとに50点測定し、その測定値の算術平均値を樹脂発泡シートの厚さとする。
また、50点分の測定箇所を得ることが出来ない場合には、可能な限り測定し、その測定値の算術平均値を厚さとする。
【0042】
前記のように保護シート1の両面を適度な表面粗さとする上で樹脂発泡シートは、1つの発泡層のみで構成されることが好ましい。樹脂発泡シートの表面粗さは、当該樹脂発泡シートの最表層に存在する気泡の膨らみにより調整が可能となる。樹脂発泡シートの最表層に存在する気泡の膨らみは、ダイから押出される樹脂組成物の溶融粘度や、押出直後の冷却条件によって調整することができる。尚、一般に押出時の溶融粘度が高い方が気泡の膨らみにバラツキが生じ難い。押出時の樹脂組成物の溶融粘度は、押出機の温度設定により調整することができる。押出時の樹脂組成物の溶融粘度は、ポリエチレン樹脂や高分子型帯電防止剤の材料選択によっても調整可能である。押出時の樹脂組成物の溶融粘度は、発泡剤の種類や量などによっても調整可能である。
【0043】
保護シート1や保護シート1を構成する樹脂発泡シートについては、上記の測定によって求められる厚さを「標準厚さ」とし、本明細書において特段の断りが無く単に「厚さ」と言う場合は、この「標準厚さ」を意味する。尚、次に示す「無荷重厚さ」とは、この「標準厚さ」を意味する。
【0044】
圧力が加わった時に厚さが大きく減少する樹脂発泡シートを保護シート1として用いると、ガラス板2を乗せた際にガラス板2の重さでガラス板2に密着してしまうことにもなり得る。従って、樹脂発泡シート(保護シート1)は、加圧時の厚さ(以下「加圧時厚さ」という)が「無荷重厚さ」に近いことが好ましい。具体的には、樹脂発泡シート(保護シート1)は、「無荷重厚さ」を「T0」とし、4kPaの圧力を加えた際の「加圧時厚さ」を「Ta」とした場合、荷重を加えていない状態で測定される「無荷重厚さ(T0)」に対する「加圧時厚さ(Ta)」の比率(「Ta/T0×100(%)」、以下「厚さ維持率」ともいう)が、65%以上であることが好ましい。厚さ維持率は、70%以上であってもよく、75%以上であってもよい。尚、保護シート1に良好な緩衝性を発揮させる上で、厚さ維持率は95%以下であることが好ましい。厚さ維持率は90%以下であってもよく、85%以下であってもよい。
【0045】
本実施形態における前記樹脂発泡シートは、見掛け密度が10kg/m以上であることが好ましい。該見掛け密度は、15kg/m以上であることがより好ましい。前記樹脂発泡シートの見掛け密度は、200kg/m以下であることが好ましい。該見掛け密度は、150kg/m以下であることがより好ましく、100kg/m以下であることがさらに好ましい。
【0046】
前記樹脂発泡シートの見掛け密度は、以下のようにして求めることができる。
見掛け密度は、上記のようにして求められる樹脂発泡シートの厚さ(T:mm)と、後述する坪量(Y:g/m)から次の式を使って求めることができる。
見掛け密度(kg/m)=Y/T
【0047】
本実施形態の樹脂発泡シートは、表層部における脂肪酸化合物の保持量を一定以上確保する上において、表層部での樹脂量が厚さ方向中央部に比べて多めになっていることが好ましい。具体的には、樹脂発泡シートは、厚さ方向において3分割し、厚さ方向中央部のシートと両表層部のシートとに分割した際に、表層部のシートの見掛け密度が中央部のシートの見掛け密度の1.1倍以上になっていることが好ましく、1.2倍以上になっていることがより好ましい。表層部のシートの見掛け密度は中央部のシートの見掛け密度の1.3倍以上であってもよく、1.5倍以上であってもよい。また、表層部のシートの見掛け密度は中央部のシートの見掛け密度の3倍以下であることが好ましい。発泡層10の片面又は両面に非発泡層11を形成して、樹脂発泡シートの表層部の樹脂量を多くしてもよい。
【0048】
樹脂発泡シートで構成された保護シートは、金属イオン抽出試験でナトリウムイオンやリチウムイオンが多く抽出される状態であると、ガラス板2に水で洗浄するだけでは除去することが困難な付着物を生じさせてガラス板2の清浄性を低下させてしまうおそれがある。本実施形態の樹脂発泡シート(保護シート1)は、金属イオン抽出試験でのナトリウムイオンとリチウムイオンとの合計抽出量が0.1mg/m以下である。
【0049】
ナトリウムイオンやリチウムイオンの抽出量を求める金属イオン抽出試験は、以下のようにして実施することができる。
(金属イオン抽出試験)
金属イオンの抽出については、島津製作所(株)製 マルチタイプICP発光分光分析装置 ICPE-9000を用いる。
設備の設定は下記の通りとする。
観察方向:軸方向
露光時間:30秒
高周波出力:1.20kW
キャリア流量:0.7mL/min
プラズマ流量:10.0mL/min
補助流量:0.6mL/min
測定を実施する試料は下記の通り準備する。
(1)樹脂発泡シートの任意の箇所から10cm×10cmの試験片を切り出す。
(2)12cm×17cmの大きさの厚手のチャック袋に試験片を入れる。
(3)試験片を入れたチャック袋にさらに超純水を50mL加え、できるだけ空気を抜くようにしてチャックを閉める。
(4)この試験片と超純水とが入ったチャック袋を70℃の乾燥機中に寝かせて入れる。
(5)20min経過後、チャック袋を手で3回振とうし、乾燥機に戻す。このとき、試験片を裏返した状態になるように、取り出した時とは上下が逆になるように乾燥機中に寝かせる。
(6)さらに20min経過後、再度手で3回振とうした後にチャック袋中の超純水を採取してICP測定用の試料とする。
(7)測定で求められたナトリウムイオンとリチウムイオンとの合計抽出量を試験片の表面積(200cm=10cm×10cm×2(面))で除して金属イオン抽出量を求める。)
尚、樹脂発泡シートからは3枚の試験片を採取し、各試験片について試料を得、3回の測定の平均値を樹脂発泡シートからの金属イオン抽出量とする。
【0050】
保護シート1を構成する樹脂発泡シートの表面抵抗率は、1×1014Ω以下であることが好ましい。樹脂発泡シートの表面抵抗率は、1×10Ω以上とすることができる。樹脂発泡シートの表面抵抗率は、1×1012Ω以上であってもよい。保護シート1は、ガラス板2への当接面が両表面の内の一方の面だけである場合、このような好ましい表面抵抗率を有するのは前記当接面となる側だけであってもよい。保護シート1は、両表面ともが上記のような表面抵抗率を有していることが好ましい。
【0051】
樹脂発泡シートの表面抵抗率は、以下のようにして測定することができる。
(表面抵抗率の測定)
表面抵抗率は、JIS K6911:1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」記載の方法により測定することができる。
試験装置は、(株)アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微少電流計、型名「R3840」及びレジスティビティ・チェンバ、型名「R12702A」を使用することができる。
表面抵抗率は、樹脂発泡シートから採取した試験片に、約30Nの荷重にて電極を圧着させ500Vで1分間充電後の抵抗値を測定し、次式により算出することができる。
ρs=(π(D+d)/(D-d))×Rs
ρs:表面抵抗率(MΩ)
D:表面の環状電極の内径(cm)
d:表面電極の内円の外径(cm)
Rs:表面抵抗(MΩ)
試験片は、幅100mm×長さ100mm×厚さT(樹脂発泡シートそのままの厚さ)とする。
測定は、温度20±2℃、相対湿度65±5%RHの環境下で試験片を24時間以上状態調節した後に実施する。
試験環境は、温度20±2℃、相対湿度65±5%RHとする。
試験片の数(n数)は5個とし、原則的に、それぞれ表裏両面を測定することとする。
【0052】
保護シート1は、水分が透過し易い状態にあるとイオンの拡散が活発に起こり得る。また、保護シート1は、水分を含み易く、且つ、水分が透過し易い状態であると低分子量成分も移動し易い状態であり得る。そこで、本実施形態で保護シート1として利用されている樹脂発泡シートは、透湿度が100g/(m・24h)以下で、且つ、吸水率が2.0g/m以下である。
【0053】
保護シート1を構成する樹脂発泡シートの透湿度は、90g/(m・24h)以下であることが好ましく、75g/(m・24h)以下であることがさらに好ましい。透湿度は、例えば、10g/(m・24h)以上であってもよい。
【0054】
樹脂発泡シートの透湿度は、以下の方法によって求めることができる。
(透湿度の測定)
透湿度は、JIS Z0208:1976 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)条件Bに準拠して実施する。
透湿カップ(JIS規格品φ60mm)及び低温恒温恒湿器HPAV-120-20(ISUZU製作所(株)製)を用意し、樹脂発泡シートの無作為に選択した3か所から直径70mm×厚さT(樹脂発泡シートの厚さそのまま)の試験片を3枚切り出す。
無水塩化カルシウム(特級)約15gを使用し、条件Bの通り(温度(40±0.5℃),湿度(90±2%))に測定を行う。
測定間隔は、24,48,72,96時間毎測定し、透湿度を下記式から算出する。
透湿度(g/m・24h)=24×増加質量(g)/(時間間隔(h)×透湿面積2.827×10-3(m))
(24時間に境界面を通過する水蒸気の量(g)を試験片1m当たりに換算した値)
【0055】
保護シート1を構成する樹脂発泡シートの吸水率は、1.8g/m以下であることが好ましく、1.5g/m以下であることがより好ましく、1.2g/m以下であることがさらに好ましく、1.0g/m以下であることが特に好ましい。吸水率は、例えば、0.1g/m以上であってもよい。
【0056】
樹脂発泡シートの吸水率は、以下の方法によって求めることができる。
(吸水率の測定)
測定は、JIS K6767:1999(B法)に準拠して実施する。
試験片:タテ120mm×ヨコ120mm×厚さT(樹脂発泡シートの厚さそのまま)
試験数: 3(両面スキンあり)
測定環境:試験片は、JIS K7100:1999の記号「23/50」2級の標準雰囲気下に24hr以上保持した後、同じ環境下で測定する。
測定方法:
・試験片を24時間吸水させた後に取り出して濃度95%以上のエタノールに5秒間浸漬し、60℃×5分乾燥する。
・乾燥後の試験片を100mm角にカットして、直ちに質量測定する。
・さらに、試験片を60℃×24時間乾燥し、質量測定する。
・吸水率(Qs)は、下記の式により算出する。
Qs(g/m)=(W1-W2)/(2A)
W1(g):100×100mmカット直後の質量
W2(g):60℃で24時間乾燥後の質量
A(cm):試験片の面積(0.1×0.1=0.001m
【0057】
保護シート1は、水分を全く含んでいないと帯電防止性が発揮され難くなる可能性がある。そこで、保護シート1を構成する樹脂発泡シートは、通常の温度や湿度の条件下で、ある程度の水分を含み得ることが好ましい。樹脂発泡シートは、4000ppmを超える水分含有量を示すことが好ましい。樹脂発泡シートの水分含有量は、6000ppm以上であることが好ましく、8000ppm以上であることがさらに好ましい。樹脂発泡シートの水分含有量は、例えば、50000ppm以下であってもよく、40000ppm以下であってもよく、25000ppm以下であってもよい。
【0058】
樹脂発泡シートの水分含有量は、上記の吸水率と樹脂発泡シートの単位面積当たりの質量(坪量)から求めることができる。即ち、樹脂発泡シートの吸水率をXg/mとし、坪量をYg/mとした場合、水分含有量は、下記式により算出することができる。
水分含有量(ppm)=[2X/Y]×10
【0059】
樹脂発泡シートの坪量は、以下の方法によって求めることができる。
(坪量の測定)
樹脂発泡シートから、幅20cmの帯状の試験片を採取する。
試験片は、例えば、押出方向に直交する方向が長さ方向となるように採取する。
試験片の質量W(g)と面積S(cm)とを求め、下記式にて坪量を求める。
坪量(g/m)=W/S×10000
なお、試験片が20cmの幅で押出方向と直交方向に切取ることが難しい場合には、可能な大きさに矩形状に切取り、その質量W(g)と面積S(cm)から上記式にて坪量を求める。
【0060】
樹脂発泡シートの吸水率や水分含有量については、樹脂組成物に含まれる成分によって調整できる。即ち、樹脂発泡シートの形成材料として親水性の高い添加剤の量を増やすと樹脂発泡シートの吸水率や水分含有量の値を増大させることができ、該添加剤の量を減らすと吸水率や水分含有量の値を減少させることができる。
【0061】
樹脂発泡シートの吸水率や水分含有量については、ポリエチレン樹脂によっても調整可能である。ポリエチレン樹脂での吸湿は、通常、結晶領域では生じずアモルファス領域で生じる。したがって、結晶性の低いポリエチレン樹脂を用いると樹脂発泡シートの吸水率や水分含有量の値を増大させることができ、該結晶性の高いポリエチレン樹脂を用いると吸水率や水分含有量の値を減少させることができる。
【0062】
一般にポリエチレン樹脂の分子末端には、水酸基やカルボキシル基などの親水性の官能基が存在している場合がある。そのため、平均分子量の小さなポリエチレン樹脂(単位質量当りの分子数が多いポリエチレン樹脂)を用いると樹脂発泡シートの吸水率や水分含有量の値を増大させることができ、該平均分子量の大きなポリエチレン樹脂を用いると吸水率や水分含有量の値を減少させることができる。
【0063】
ポリエチレン樹脂は、分子量が同じでも分岐が多いほど分子末端の数が増える。したがって、同じ平均分子量のポリエチレン樹脂でも分岐が多い(メルトマスフローレイトの値が低い)ポリエチレン樹脂を用いると樹脂発泡シートの吸水率や水分含有量の値を増大させることができる。
【0064】
樹脂発泡シートの透湿度は、樹脂発泡シートを構成する樹脂組成物における水分子の移動速度(拡散速度)に影響される。したがって、結晶性の低いポリエチレン樹脂を用いると樹脂発泡シートの透湿度の値を増大させることができ、該結晶性の高いポリエチレン樹脂を用いると透湿度の値を減少させることができる。樹脂発泡シートの透湿度は、樹脂発泡シートの連続気泡率にも影響される。したがって、樹脂発泡シートの透湿度は、連続気泡率を高くすると値が増大し、連続気泡率を低下させると値が減少する。
【0065】
このようにして本実施形態の保護シート1を構成する樹脂発泡シートの透湿度、吸水率および水分含有量は、当該樹脂発泡シートの発泡状態や当該樹脂発泡シートの形成に用いる樹脂組成物により適宜調整することができる。
【0066】
本実施形態の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、ベース樹脂であるポリエチレン樹脂と、高分子型帯電防止剤とが挙げられる。樹脂組成物には、これら以外の樹脂を含ませてもよい。樹脂組成物に含まれる樹脂の内、ポリエチレン樹脂と高分子型帯電防止剤との合計量が占める割合は、例えば、85質量%以上とすることができる。該割合は、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、98質量%以上であってもよい。
【0067】
樹脂組成物に含まれる樹脂は、ポリエチレン樹脂と高分子型帯電防止剤とだけであってもよい。樹脂組成物に含まれる樹脂の内、ポリエチレン樹脂や高分子型帯電防止剤とは異なる樹脂の含有量は、15質量%未満であってもよく、10質量%未満であってもよく、5質量%未満であってもよい。そして、該樹脂の含有量は、2質量%未満であっても実質的にゼロであってもよい。
【0068】
前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂の含有量は、例えば、75質量%以上とすることができる。前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂の含有量は、80質量%以上であってもよく、85質量%以上であってもよい。
【0069】
前記樹脂組成物における前記高分子型帯電防止剤の含有量は、例えば、1質量%以上とすることができる。前記高分子型帯電防止剤の含有量は、2質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよい。前記高分子型帯電防止剤の含有量は、例えば、15質量%以下とすることができる。前記高分子型帯電防止剤の含有量は、14質量%以下であってもよく、13質量%以下であってもよい。
【0070】
前記高分子型帯電防止剤の含有量は、例えば、前記樹脂組成物に含まれる前記ポリエチレン樹脂の含有量を100質量部とした際に2質量部以上とすることができる。前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂の含有量を100質量部とした際の前記高分子型帯電防止剤の含有量は、4質量部以上であってもよく、6質量部以上であってもよい。前記高分子型帯電防止剤の含有量は、例えば、前記ポリエチレン樹脂100質量部に対して20質量部以下とすることができる。前記ポリエチレン樹脂100質量部に対する前記高分子型帯電防止剤の含有量は、18質量部以下であってもよく、15質量部以下であってもよい。
【0071】
前記樹脂組成物における前記界面活性剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上とすることができる。前記界面活性剤の含有量は、0.03質量%以上であってもよく、0.05質量%以上であってもよい。前記樹脂組成物における前記界面活性剤の含有量は、例えば、2質量%以下とされる。前記界面活性剤の含有量は、1質量%以下であってもよく、0.5質量%以下であってもよい。
【0072】
前記界面活性剤の含有量は、例えば、前記樹脂組成物に含まれる前記ポリエチレン樹脂の含有量を100質量部とした際に0.01質量部以上とすることができる。前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂の含有量を100質量部とした際の前記界面活性剤の含有量は、0.05質量部以上であってもよく、0.1質量部以上であってもよい。前記界面活性剤の含有量は、例えば、前記ポリエチレン樹脂100質量部に対して1.5質量部以下とすることができる。前記ポリエチレン樹脂100質量部に対する前記界面活性剤の含有量は、1.0質量部以下であってもよく、0.5質量部以下であってもよい。
【0073】
該界面活性剤や前記高分子型帯電防止剤以外に前記樹脂組成物に含有される他の添加剤としては、例えば、滑材、耐候性安定剤、光安定剤、酸化防止剤、抗菌剤、消臭剤、顔料、無機充填剤などがあげられる。前記樹脂組成物における他の添加剤の含有量は、例えば、5質量%以下とされる。他の添加剤の含有量は、2質量%以下であってもよく、1質量%以下であってもよい。他の添加剤の含有量は、実質的にゼロであってもよい。
【0074】
本実施形態における前記樹脂組成物は、滑剤や界面活性剤として用いられたりしている脂肪酸化合物を含まないことが好ましい。前記脂肪酸化合物としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0075】
脂肪酸の具体例としては、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸、さらにこのようなモノカルボン酸の他に、ダイマー酸等のジカルボン酸等が挙げられる。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛等が挙げられる。
【0076】
脂肪酸アミドとは、脂肪酸から誘導される酸アミドである。該脂肪酸アミドとしては、例えば、脂肪族アミン由来のものが挙げられる。
【0077】
脂肪酸アミドの具体例としては、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0078】
脂肪酸エステルの具体例としては、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド、オレイン酸モノグリセリド、ベヘニン酸モノグリセリド、リノール酸モノグリセリド、リシノール酸モノグリセリド、ヒドロキシステアリン酸トリグリセリド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン(5)グリセリンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)グリセリンモノステアレート、ポリオキシエチレン(5)モノオレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ポリアジピン酸ペンタエリストールステアレート、ステアリン酸ステアリル、1,2-オキシステアリン酸、硬化ひまし油等が挙げられる。
【0079】
本実施形態の樹脂発泡シートを構成する樹脂組成物における脂肪酸化合物の合計含有量は、10000ppm以下であることが好ましく、1000ppm以下であることがより好ましく、100ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。脂肪酸化合物の合計含有量は、7ppm以下であってもよく、5ppm以下であってもよい。本実施形態の樹脂発泡シートを構成する樹脂組成物における脂肪酸化合物の合計含有量は、1ppm以上であってもよく、3ppm以上であってもよい。尚、要すれば、脂肪酸化合物の合計含有量は、5ppm以上であってもよく、10ppm以上であってもよく、100ppm以上であってもよい。
【0080】
樹脂発泡シートの脂肪酸化合物の含有量の測定方法は、公知の方法を用いることができる。その方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0081】
前記脂肪酸金属塩については、例えば次のように測定される。
沸騰メタノールに樹脂発泡シートを浸漬して抽出し、放冷して析出した沈殿をろ別する。析出物を希塩酸中に懸濁し、エーテルを用いて溶媒抽出すると、エーテル相に遊離した脂肪酸が、水相に金属がそれぞれ抽出されるので脂肪酸は後述の手法で、金属はICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置等により金属種の特定と定量を行うことができる。
【0082】
前記脂肪酸、前記脂肪酸アミド、及び、前記脂肪酸エステルの定量は、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析計(LC-MS/MS)(例えば、Thermo Fisher Scientific社製 「ACCELA」)を使って行うことができる。
【0083】
尚、脂肪酸化合物の定量に用いる検量線は、定量する脂肪酸化合物(脂肪酸、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル)の1000ppm濃度の基準溶液(メタノール溶液)をメタノールで希釈して作製した濃度の異なる5種類の標準液(5ppm、2ppm、1ppm、0.5ppm、0.2ppm)を使って作成する。
また、LC-MS/MSで測定する試料は、以下のようにして調製する。
・樹脂発泡シートを約2mm角の大きさに切断して約0.15gの抽出試料を採取する。
・該抽出試料を精秤し、該抽出試料を10mlのメタノールとともにPTFE(ポリテトラフロロエチレン)製の耐圧容器に入れ、該耐圧容器を密閉する。
・密閉した耐圧容器を120℃のオーブンで2時間加熱した後、オーブンから取り出して常温の室内で自然放冷する。
・室温まで冷却された耐圧容器を開けて容器内の抽出液を濾紙(No.5A)で濾過する。
・上記の濾過によって得られた濾液をLC-MS/MSでの測定試料とする。
・測定結果から、先に求めた検量線を使って濾液における脂肪酸化合物の量を算出する。
・濾液に含まれる脂肪酸化合物の量から樹脂発泡シートにおける脂肪酸化合物の含有量(ppm)を求める。
【0084】
前記樹脂組成物に含まれる前記ポリエチレン樹脂は、例えば、触媒法(中低圧重合法)によって作製されて、分子構造中に分岐がほとんど存在せずに942kg/m以上の高い密度を有する高密度ポリエチレン樹脂(PE-HD)であってもよい。前記樹脂組成物に含まれる前記ポリエチレン樹脂は、触媒法(中低圧重合法)によって作製され、且つ、コモノマーの導入によって910kg/m以上925kg/m以下の密度となるように作製される直鎖低密度ポリエチレン樹脂(PE-LLD)であってもよい。前記ポリエチレン樹脂は、該直鎖低密度ポリエチレン樹脂(PE-LLD)と前記高密度ポリエチレン樹脂(PE-HD)との間の密度となるように作製される中密度ポリエチレン樹脂(PE-MD)などであってもよい。前記樹脂組成物は、前記ポリエチレン樹脂として、極低密度ポリエチレン樹脂(PE-VLD)を含んでいてもよい。前記ポリエチレン樹脂は、例えば、高圧重合法によって作製され分子構造中に長鎖分岐を有する状態となっている低密度ポリエチレン樹脂(PE-LD)であってもよい。前記ポリエチレン樹脂は、原料調達が容易な観点では、化石燃料に由来するポリエチレン樹脂であってもよい。前記ポリエチレン樹脂は、環境負荷を低減させる観点では、植物に由来するポリエチレン樹脂であってもよい。
【0085】
前記の通り、本実施形態の前記樹脂組成物は、含有するポリエチレン樹脂がこれらのポリエチレン樹脂の内の何れか1種のみである必要は無く、これらの内の複数のポリエチレン樹脂を含んでいてもよい。樹脂組成物は、植物に由来するポリエチレン樹脂を含むことが好ましい。植物に由来するポリエチレン樹脂を含むことにより、ガラス板用保護シートが環境負荷の低減に貢献可能な製品となり得る。
【0086】
前記樹脂組成物中の植物に由来するポリエチレン樹脂の含有量の下限は、例えば、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上でもよい。前記樹脂組成物中の植物に由来するポリエチレン樹脂の含有量の上限は、例えば、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、又は75質量%以下でもよい。前記樹脂組成物中のポリエチレン樹脂が全て植物に由来するポリエチレン樹脂でもよい。
【0087】
本実施形態の前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂は、密度(23℃での密度)が925kg/m以上であることが好ましく、926kg/m以上であることがより好ましい。前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂は、密度が935kg/m以下であることが好ましく、934kg/m以下であることがより好ましい。前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂の密度とは、該樹脂組成物に複数のポリエチレン樹脂が含まれる場合は、複数のポリエチレン樹脂を混合した状態における密度を意味する。
【0088】
前記樹脂組成物における前記ポリエチレン樹脂の密度は、例えば、前記樹脂組成物に複数のポリエチレン樹脂が含まれる場合、その複数のポリエチレン樹脂を前記樹脂組成物に含有させる質量割合でブレンドした混合物を調製し、該混合物を溶融混練して得られる溶融混練物で試料を作製し、該試料の密度を測定することによって求めることができる。
【0089】
前記ポリエチレン樹脂の密度は、例えば、JIS K 7112に記載の方法によって測定することができ、D法(密度こうばい管)によって求めることができる。
【0090】
本実施形態のポリエチレン樹脂は、高圧重合法による重合品である低密度ポリエチレン樹脂(PE-LD)であることが好ましい。樹脂発泡シートには、ポリエチレン樹脂によって結晶領域とアモルファス領域とが形成される。ガラス板2の表面の清浄性の低下は、多くの場合、樹脂発泡シートに含まれている低分子量の成分が樹脂発泡シートの内部からガラス板2との界面に移行して生じる。低密度ポリエチレン樹脂(PE-LD)は、長鎖分岐を有することで樹脂発泡シートに大きなアモルファス領域を形成する上で有利となる。樹脂発泡シートの内部に低分子量成分が含まれる場合、該低分子量成分は、結晶領域よりもアモルファス領域に留まり易い。そのため、樹脂発泡シートに低密度ポリエチレン樹脂(PE-LD)が含まれることで低分子量成分がガラス板2の表面に移行し難くなると考えられる。
【0091】
ポリエチレンの長鎖分岐は、例えば、13C-NMRによって確認することができ、ヘキシル基以上の長さのアルキル基が存在することが確認できればポリエチレンに長鎖分岐が存在していると判断することができる。低密度ポリエチレン樹脂(PE-LD)は、ヘプチル基以上の長さのアルキル基を有することが好ましく、オクチル基以上の長さのアルキル基を有することがより好ましい。
【0092】
上記のようなポリエチレン樹脂は、ある程度嵩高い分子構造を有していることが好ましく、例えば、メルトマスフローレイトが適度な低さを有していることが好ましい。ポリエチレン樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)は、7g/10min以下であることが好ましい。ポリエチレン樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)は、6g/10min以下であることがより好ましく、5g/10min以下であることがさらに好ましい。樹脂発泡シートを押出発泡法で製造する際の設備負荷を軽減する上において、ポリエチレン樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)は、0.1g/10min以上であることが好ましい。ポリエチレン樹脂のメルトマスフローレイト(MFR)は、0.2g/10min以上であることがより好ましく、0.3g/10min以上であることがさらに好ましい。
【0093】
メルトマスフローレイト(MFR)はJIS K7210:1999「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」により測定することができる。メルトマスフローレイト(MFR)は、同規格のB法記載の「b)ピストンが所定の距離を移動する時間を測定する方法」により測定することができる。具体的には、メルトマスフローレイト(MFR)は、例えば、(株)東洋精機製作所製「セミオートメルトインデックサ2A」を用いて、測定することができる。
【0094】
メルトマスフローレイト(MFR)の測定条件は次の通りとすることができる。
試料:3~8g
予熱:270秒
ロードホールド:30秒
試験温度:190℃
試験荷重:21.18N
ピストン移動距離(インターバル):25mm
試料の試験回数は3回とし、その平均をメルトマスフローレイト(g/10min)の値とすることができる。
【0095】
前記高分子型帯電防止剤としては、例えば、オレフィン系ブロックとエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどの親水性ブロックとの共重合体であるポリアルキレンオキサイド型帯電防止剤;カルボン酸塩やスルホン酸塩を分子中に有する高分子量化合物であるアイオノマー型帯電防止剤などが挙げられる。本実施形態の樹脂組成物には高分子型帯電防止剤としてアイオノマー型帯電防止剤を含むことが好ましい。
【0096】
アイオノマー型帯電防止剤は、樹脂組成物にリチウムイオンやナトリウムイオンが含まれていた場合に、これらのイオンがガラス板2との界面に移動するのを阻止する上においても有効に作用すると考えられる。
【0097】
アイオノマー型帯電防止剤が分子構造中に有する塩は、カルボン酸塩であってもスルホン酸塩であってもよい。本実施形態のアイオノマー型帯電防止剤は、エチレンと不飽和カルボン酸とを構成単位に含む共重合体であることが好ましい。該共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、グラフト共重合体であってもよい。
【0098】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、例えば、カルボキシル基の一部もしくは全部がアルカリ金属などで中和された構造のものが採用できる。該不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどが挙げられる。該不飽和カルボン酸としては、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。また、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体でエチレンや不飽和カルボン酸とは別に構成単位となり得る他の単量体としては、酢酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、メタクリル酸メチルのような不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素などが挙げられる。
【0099】
前記エチレン・不飽和カルボン酸ランダム共重合体は、例えば、エチレン成分が60質量%以上90質量%以下の割合で含まれていてもよい。エチレン成分の割合は、70質量%以上88質量%以下であってもよい。前記エチレン・不飽和カルボン酸ランダム共重合体は、例えば、不飽和カルボン酸成分が10質量%以上40質量%以下の割合で含まれていてもよい。不飽和カルボン酸成分の割合は、12質量%以上30質量%以下であってもよい。前記エチレン・不飽和カルボン酸ランダム共重合体は、例えば、他の不飽和単量体成分の含有量が30質量%以下であってもよい。他の不飽和単量体成分の含有量は、20質量%以下であることが好ましい。本実施形態のエチレン・不飽和カルボン酸ランダム共重合体は、エチレン・メタクリル酸ランダム共重合体であることが好ましい。
【0100】
アイオノマーのイオン源としては、アルカリ金属、すなわちリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、またはセシウムが好ましく用いられる。アイオノマーのイオン源としては、カリウムが好適である。アイオノマー中のアルカリ金属カチオン含有量は、アイオノマー型帯電防止剤1kg当たり0.4~4モル、好ましくは0.6~2モルの範囲にあることが望ましい。
【0101】
アイオノマー型帯電防止剤は、樹脂発泡シートでの分散性の観点からは、メルトマスフローレイトが10g/10min以上であることが好ましい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、11g/10min以上であることがより好ましい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、25g/10min以下であってもよい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、20g/10min以下であってもよく、15g/10min以下であってもよい。
【0102】
樹脂組成物の溶融粘度を高めて樹脂発泡シートの表層部での気泡の膨らみのバラツキを抑制し易くする観点からは、メルトマスフローレイトの値が小さなアイオノマー型帯電防止剤を採用してもよい。そのような目的で使用されるアイオノマー型帯電防止剤は、例えば、メルトマスフローレイトが10g/10min未満であってもよい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、8g/10min以下であってもよく、6g/10min以下であってもよい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、5g/10min以下であってもよい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、例えば、1g/10min以上とすることができる。
【0103】
アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、樹脂発泡シートでの分散性の観点からは、25g/10min以下が好ましい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、20g/10min以下であってもよく、15g/10min以下であってもよい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、樹脂発泡シートの表層部での気泡の膨らみのバラツキを抑制し易くする観点からは、1g/10min以上が好ましい。アイオノマー型帯電防止剤のメルトマスフローレイトは、2g/10min以上であってもよく、3g/10min以上であってもよい。
【0104】
前記樹脂組成物に含有される前記界面活性剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
【0105】
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、グリセリンや糖類などの多価アルコールと脂肪酸がエステル結合したエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルやポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型界面活性剤;脂肪酸や多価アルコール脂肪酸エステルにアルキレンオキサイドを付加させたエステル・エーテル型界面活性剤;疎水基と親水基がアミド結合を介している脂肪酸アルカノールアミド等のアミド型界面活性剤などが挙げられる。
【0106】
前記アニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-メチル-N-アシルタウリン塩等のスルホン酸塩型界面活性剤;脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルサルコシン酸塩、N-アシルグルタミン酸塩等のカルボン酸塩型界面活性剤;アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩型界面活性剤;アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル塩型界面活性剤などが挙げられる。塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属やカルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属等が挙げられる。
【0107】
前記カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアンモニウム塩、アルキルベンジルアンモニウム塩などの第4級アンモニウム塩型界面活性剤;N-メチルビスヒドロキシエチルアミン脂肪酸エステル・塩酸塩などのアミン塩型界面活性剤が挙げられる。
【0108】
前記両性界面活性剤としては、アルキルベタイン等のベタイン型界面活性剤;アルキルアミノ脂肪酸塩等のアミノ酸型界面活性剤;アルキルアミンオキシド等のアミンオキシド型界面活性剤などが挙げられる。
【0109】
本実施形態の樹脂組成物は、前記界面活性剤の中でアニオン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。本実施形態の樹脂組成物は、特にアルキルスルホン酸ナトリウムや直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0110】
前記樹脂組成物によって構成される本実施形態の樹脂発泡シートは、前記のようにガラス板2の保護シート1として合紙に代えて用いられ、ガラス板2に面接触した状態にされた後に当該ガラス板2の表面から剥離されるような用いられ方をすることから高分子型帯電防止剤や界面活性剤によって帯電防止性が付与されている。本実施形態の樹脂組成物は、これらは一方のみを含んでいなくても、両方を含んでいなくてもよい。
【0111】
本実施形態の樹脂発泡シートは、上記のような特徴を有することからガラス板用保護シートとして好適に用いられ得る。本実施形態ではガラス板用保護シートとして特定の樹脂発泡シートを例示しているが、本発明のガラス板用保護シートは、上記例示に何等限定されるものではない。
【実施例
【0112】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0113】
まず、ポリエチレン樹脂として以下の「PE1」「PE2」の略称ものを用意した。
PE1:高圧重合法で製造される化石燃料に由来する低密度ポリエチレン樹脂、密度:931kg/m、MFR=4.0g/10min、植物由来度0%、化石燃料由来度100%。
PE2:高圧重合法で製造される植物に由来する低密度ポリエチレン樹脂、密度:923kg/m、MFR=2.7g/10min、植物由来度95%、化石燃料由来度5%。
また、前記高分子型帯電防止剤として以下の「AS1-1」、「AS1-2」、「AS2」、「AS3」の略称で表した4種類のものを用意した。
AS1-1:イオン源としてカリウムを含んだエチレン・メタクリル酸ランダム共重合体であるアイオノマー型帯電防止剤。MFR=12g/10min
AS1-2:イオン源としてカリウムを含んだエチレン・メタクリル酸ランダム共重合体であるアイオノマー型帯電防止剤。MFR=4g/10min
AS2:ポリオレフィンブロックとポリオキシアルキレンによって構成された親水性ブロックとを備えたポリアルキレンオキサイド型帯電防止剤。MFR=28g/10min
AS3:ポリオレフィンブロックとポリオキシアルキレンによって構成された親水性ブロックとを備えたポリアルキレンオキサイド型帯電防止剤。MFR=33g/10min
さらに、界面活性剤として以下の「SA1」、「SA2」、「SA3」、「SA4」の略称で表した4種類のものを用意した。
SA1:アルキルスルホン酸ナトリウム
SA2:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
SA3:ポリエチレングリコール
SA4:ステアリン酸モノグリセリド
また、気泡調整剤として以下の「NA1」の略称で表した1種類のものを用意した。
NA1:アゾジカルボンアミド含有マスターバッチ
【0114】
(評価1)
(実施例1)
(樹脂発泡シートの作製)
(製造例a)
化石燃料に由来するポリエチレン樹脂「PE1」、高分子型帯電防止剤「AS1-1」、気泡調整剤「NA1」のそれぞれを表1に示す割合でブレンドした混和物(配合No.:#E1)を調製した。
押出方向に向けて第一押出機、第二押出機の順に2台の押出機が連結されたタンデム式押出機の先端部(第二押出機の先端部)に出口直径が222mm(スリット幅0.04mm)のサーキュラーダイを装着した。
前記混和物をタンデム式押出機の第一押出機(シリンダー径:φ90mm)に供給し、該第一押出機で最高到達温度が210℃となるように溶融混練しつつ該第一押出機の途中から発泡剤として混合ブタン(イソブタン/ノルマルブタン=50/50(モル比))を圧入してさらに溶融混練を実施した。
混合ブタンの圧入量はポリエチレン樹脂100質量部に対する割合が18質量部となるように調製した。
この第一押出機での溶融混練後は、該第一押出機に連結された第二押出機(シリンダー径:φ150mm)で発泡に適する温度域(111℃)まで溶融混練物を冷却し、前記サーキュラーダイより大気中に押出発泡した。
その時の樹脂温度は112℃であった。
押出発泡された筒状発泡体を、エアーを吹き付けて冷却した後、直径770mm、長さ650mmの冷却マンドレル上を添わせて冷却し、冷却マンドレルの後部側に設けたカッターで押出方向に沿って筒状発泡体を切断し、速度40m/minで巻き取って長尺帯状の発泡シートを得、実施例1の製造例(a)の樹脂発泡シート(保護シート)を得た。また、高分子型帯電防止剤を「AS1-1」に代えて「AS1-2」を使用した材料(配合No.:#E5)で実施例5の樹脂発泡シート(保護シート)を得た。さらに、「AS1-1」の使用量を25質量部に変更した材料(配合No.:#E6)で実施例6の樹脂発泡シート(保護シート)を得た。得られた樹脂発泡シートの坪量、厚さ、見掛け密度を測定した結果を、併せて、表1に示す。
【0115】
(製造例b)
界面活性剤をさらに使用し、該界面活性剤と高分子型帯電防止剤との使用量を下記表1に示すようにしたこと以外は製造例(a)と同様に調製された#E2~#E4の材料で実施例2~4の樹脂発泡シートを作製した。
【0116】
(製造例c)
化石燃料に由来するポリエチレン樹脂「PE1」を、植物に由来するポリエチレン樹脂「PE2」に変更した以外は実施例1と同様に調製された#E7の材料で実施例7の樹脂発泡シートを作製した。
【0117】
(比較例1~4)
使用材料を下記表1に示す内容のもの(配合No.:#C1~#C4)に変更した以外は実施例1と同様に比較例1~4の樹脂発泡シートを作製した。
【0118】
【表1】
【0119】
上記の通り、実施例4で見掛け密度の大きな(発泡度の低い)樹脂発泡シートが得られた以外は、各実施例、比較例とも概ね同じような樹脂発泡シートが得られた。
【0120】
各実施例、比較例の樹脂発泡シートについて、表面抵抗率、透湿量、吸水率、水分含有量、及び、イオン抽出量(Na,K,Li)の測定を行った。また、各実施例、比較例の樹脂発泡シートについて、ガラス板への影響調査を実施した。結果を、表2に示す。
【0121】
【表2】
【0122】
ガラス板への影響調査については、以下のようにして評価した。
【0123】
(接触角)
実施例、比較例で得られた樹脂発泡シートがディスプレイ用ガラス板を包装した状態で長期間保管した場合を模擬し、ガラス板の表面の清浄性にどのような影響を与えるかを接触角にて判定した。
まず、樹脂発泡シートを5cm×10cmの大きさに切って試験片とした。
洗浄・乾燥したガラス板(日本電気硝子株式会社製 無アルカリガラス OA-11)の上にこの試験片を乗せ、該試験片の全体に荷重が加わるように1kgの重りを乗せて、下記サイクルにて恒温恒湿槽(ISUZU製作所製、商品名「HPAV-120-40」)での加熱を行った。
(サイクル条件)
恒温恒湿槽での加熱は、下記(1)~(4)を1サイクルとして実施した。
(1)20℃・60%RHから60℃・90%RHまで1時間で昇温
(2)60℃・90%RHで1時間保持
(3)60℃・90%RHから20℃・60%RHまで1時間で降温
(4)20℃・60%RHで1時間保持
上記のサイクル加熱試験後のガラス板の表面から試験片を取り除き、家庭用アルカリ洗剤(花王株式会社製、商品名「アタック」)を0.4%含有する洗浄水で前記ガラス板を洗浄し、蒸留水にてすすぎ洗いを実施した後、温度30℃、相対湿度0%にて24時間乾燥した。
試料と接していたガラス板表面における精製水の接触角を協和界面科学株式会社製、固液界面解析装置(商品名「DROP MASTER300」)によって測定した。
尚、接触角は、それぞれ20点の測定を行い、その平均値によって算出した。
【0124】
樹脂発泡シートでガラス板(ガラスサイズ50mm×40mm)を挟んで、50℃、70%RHと常温のサイクル試験を実施し、そのあとのガラスを100mLの純水ですすいだ後のガラス板表面に付着している10μm以上の大きさの異物の個数をマイクロスコープを使って測定した。
その結果に基づき、ガラス板に対する汚染性を下記の四段階で判定した。
(ガラス汚染性)
◎: 異物が3個以下
〇: 異物が4個以上10個以下
△: 異物が11個以上25個以下
×: 異物が26個以上
【0125】
(ガラス滑り性)
〇ガラス滑り性評価:ガラス滑り性評価として、動摩擦係数の測定を実施した。
◇前処理
・まず、ガラス板と樹脂発泡シートとをそれぞれ50mm×70mmのサイズに切り出したものを複数枚ずつ用意した。
・ガラス板と樹脂発泡シートを交互に重ね合わせ、直方体状の積層体を作製した。
・その積層体に1kgの重りを載せて、60℃、90%RH環境下で72時間保持した。
・72時間後の積層体からガラス板を取り出し、測定試料とした。
【0126】
(摩擦係数の測定)
摩擦係数試験(JIS K7125)に準拠して、得られた測定試料について、動摩擦係数の測定を行った。
試験装置としては、(株)島津製作所製「オートグラフ AG-X plus 100kN」万能試験機及び同社製「TRAPEZIUM X」万能試験機データ処理を用いた。
相手材料は各実施例、比較例で製造した樹脂発泡シートとし、滑り片としては、固定治具の片面にガラス板(50mm×70mm)を装着して総質量が20gとなるように作製されたものを用い、下記測定条件にて、動摩擦係数を測定した。
試験速度:100mm/min
試験数:3
動摩擦係数(μD):積分平均荷重(N)/法線力0.215(N)
スプリング不使用、PEラインとフックは標準品使用
【0127】
上記の測定で得られた動摩擦係数から、ガラス滑り性を下記のように判定した。
〇:動摩擦係数が3.5以上9以下
△:動摩擦係数が2.0以上3.4以下
×:動摩擦係数が1.0以上1.9以下
【0128】
樹脂発泡シートの各評価を下記のような点数配分として、(1)~(4)の総合得点により総合評価を下した。
結果を、上記表2に示す。
(1)見掛け密度:100kg/m以下、1点。100kg/m超、0点。
(2)接触角:7度以下、2点。7度を超え10度未満、1点。10度以上、0点。
(3)ガラス汚染性:「◎」3点。「〇」2点。「△」1点。「×」0点。
(4)ガラス滑り性:「〇」2点。「△」1点。「×」0点。

総合評価:7点以上「◎」、5~6点「〇」、3~4点「△」、2点以下「×」
【0129】
上記の表からもわかるように本発明によればガラス板との間に過度な滑りが生じることを抑制できるガラス板用保護シートが提供される。
【0130】
(評価2)
#E1~#E7の材料で構成され、下記表3に示すような表面粗さを有する実施例8~実施例14の樹脂発泡シート(保護シート)について、「無荷重厚さ(T0)」に対する「加圧時厚さ(Ta)」の比率(Ta/T0×100(%))や静電気減衰率などの特性を調査した。また、#C1~#C4の材料で構成され、下記表3に示すような表面粗さを有する比較例5~比較例8の樹脂発泡シート(保護シート)についても同様に評価した。結果を、下記表3に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
上記の表からも本発明によればガラス板との間の過度な滑りを抑制可能なガラス板用保護シートが提供されることがわかる。
【符号の説明】
【0133】
1:保護シート、2:ガラス板、10:発泡層、11:非発泡層
図1
図2
図3
図4
図5