(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】グラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法及びそれから製造されたグラファイトシート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240418BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20240418BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C01B32/205
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2022526305
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 KR2020014236
(87)【国際公開番号】W WO2021091116
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】10-2019-0142892
(32)【優先日】2019-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514225065
【氏名又は名称】ピーアイ アドヴァンスド マテリアルズ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PI Advanced Materials CO., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ヒュン ソプ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン・ドン ユン
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-017169(JP,A)
【文献】特開2012-087047(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0127561(US,A1)
【文献】特開2015-093988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
C08F 2/00-2/60
C08G 73/10
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二無水物単量体、ジアミン単量体、ボロンナイトライド及び有機溶媒を混合して反応させ、ボロンイオンとキレート化したポリアミック酸溶液を形成するステップ;前記ポリアミック酸溶液に脱水剤及びイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成するステップ;前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャストし、乾燥してゲルフィルムを製造するステップ;及び前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するステップ;を含み、ボロンナイトライドは、前記ポリイミドフィルムの総重量のう
ち0.05重量%
~1重量%で含まれる、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物またはこれらの組み合わせを含む、請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ジアミン単量体は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタンまたはこれらの組み合わせを含む、請求項1または2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱処理は、100℃~700℃で行われる、請求項
1~3のいずれか一項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法及びそれから製造されたグラファイトシートに関するものであり、より詳細には熱伝導度に優れ、製造コストを節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法及びこれから製造されたグラファイトシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器は、軽量化、小型化、薄型化、及び高集積化しており、これによって電子機器には多くの熱が発生している。このような熱は製品の寿命を短くするか、故障や誤動作などを引き起こす可能性がある。したがって、電子機器に対する熱管理が重要な課題となっている。
グラファイトシートは、銅やアルミニウムなどの金属シートよりも高い熱伝導度を有し、電子機器の放熱部材として注目されている。このようなグラファイトシートは様々な方法で製造することができるが、例えば、高分子フィルムを炭化及び黒鉛化して製造することができる。特に、ポリイミドフィルムは、これらの優れた機械的熱的寸法安定性、化学的安定性などによってグラファイトシート製造用高分子フィルムとして脚光を浴びている。
ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートの物性は、ポリイミドフィルムの物性の影響を受けるものと知られている。したがって、様々なグラファイトシート用ポリイミドフィルムの開発がなされているが、さらに高い熱伝導度を有するグラファイトシートを製造できるポリイミドフィルムが依然として必要な実情である。
一方、ポリイミドフィルムを黒鉛化してグラファイトシートを製造するためには、通常、2800℃以上の温度が求められるが、このような場合、大きな電力使用量によってグラファイトシート製造コストが上昇するという問題がある。したがって、より低い温度で黒鉛化可能なポリイミドフィルムの開発が求められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、熱伝導度に優れ、製造コストを節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルムを提供することである。
本発明の他の目的は、前記ポリイミドフィルムの製造方法を提供することである。
本発明の別の目的は、前記ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1.本発明の一態様によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルムが提供される。前記ポリイミドフィルムは、二無水物単量体とジアミン単量体との反応によって形成されたポリアミック酸をイミド化して調製され、前記反応は、金属化合物を含んで行われ、ポリアミック酸は、金属イオンとキレートを形成してもよい。
2.前記第1具現例において、前記金属は、ニッケル、白金、ボロン、アルミニウムまたはこれらの組み合わせを含んでもよい。
3.前記第1または第2具現例において、前記金属化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
4.前記第1~第3具現例のいずれか一つにおいて、前記金属化合物は、ボロンナイトライドを含んでもよい。
5.前記第1~第4具現例のいずれか一つにおいて、前記金属化合物は、ポリイミドフィルムの総重量のうち約0.05重量%~約1重量%で含まれてもよい。
6.前記第1~第5具現例のいずれか一つにおいて、前記二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物またはこれらの組み合わせを含んでもよい。
7.前記第1~第6具現例のいずれか一つにおいて、前記ジアミン単量体は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタンまたはこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0005】
8.本発明の他の態様によれば、ポリイミドフィルムの製造方法が提供される。前記ポリイミドフィルムの製造方法は、二無水物単量体、ジアミン単量体、金属化合物及び有機溶媒を混合して反応させ、金属イオンとキレート化したポリアミック酸溶液を形成するステップ;前記ポリアミック酸溶液に脱水剤及びイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成するステップ;前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャストし、乾燥してゲルフィルムを製造するステップ;及び前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するステップ;を含んでもよい。
9.前記第8具現例において、前記熱処理は、約100℃~約700℃で行われてもよい。
【0006】
10.本発明の別の態様によれば、グラファイトシートが提供される。前記グラファイトシートは、前記第1~第7具現例のいずれか一つのポリイミドフィルム、または前記第8または第9具現例のポリイミドフィルムの製造方法で製造されたポリイミドフィルムから製造されてもよい。
11.前記第10具現例において、前記グラファイトシートは、前記ポリイミドフィルムを2800℃未満の温度で黒鉛化して製造されてもよい。
12.前記第10または第11具現例において、前記グラファイトシートは、金属化合物を含まずに製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートに対して、熱伝導度が約1.1~約1.6倍さらに高いこともある。
13.前記第10~第12具現例のいずれか一つにおいて、前記グラファイトシートは、熱伝導度が約1,300W/m・K以上であってもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、熱伝導度に優れ、製造コストを節減できるグラファイトシート用ポリイミドフィルム、その製造方法及びそれから製造されたグラファイトシートを提供する効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を説明するにおいて、関連公知技術に関する具体的な説明が、本発明の要旨を不要に曖昧にする可能性があると判断される場合、その詳細な説明は省略する。
本明細書上で言及した「含む」、「有する」、「なされる」などが使用される場合、「~のみ」が使用されない限り、他の部分が追加されてもよい。構成要素を単数で表現した場合に、特に明示的な記載事項がない限り、複数を含む場合を含む。
また、構成要素を解析するにおいて、別途の明示的な記載がなくても、誤差範囲を含むものと解釈する。
本明細書において、数値範囲を示す「a~b」で、「~」は、≧aかつ≦bと定義する。
【0009】
グラファイトシート用ポリイミドフィルム
本発明の一態様によれば、グラファイトシート用ポリイミドフィルムが提供される。前記グラファイトシート用ポリイミドフィルムは、二無水物単量体とジアミン単量体との反応によって形成されたポリアミック酸をイミド化して調製され、前記反応は、金属化合物を含んで行われ、前記ポリアミック酸は、金属イオンとキレートを形成することができる。金属化合物を含まずに製造されたポリイミドフィルムは、コンパクトな線状高分子積層構造を有するのに対し、金属化合物を含んで製造されたポリイミドフィルムは、エンタングルメント(entanglement)が増加した嵩高い(bulky)高分子構造を有するようになり、より低い温度で黒鉛化することができる。また、金属化合物を含んで製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートは、金属成分の熱伝導相乗効果によって熱伝導度によって優れる。
【0010】
前記金属化合物は、ポリアミック酸とキレートを形成できる金属イオンを提供できるものであれば、その種類は、特に制限されない。
一具現例によれば、金属化合物のうち金属は、ニッケル、白金、ボロン、アルミニウムまたはこれらの組み合わせを含んでもよい。例えば、金属はボロンを含んでもよく、このような場合、熱伝導度が上昇して黒鉛化温度を下げる効果があるが、これに限定されるものではない。
一具現例によれば、金属化合物は、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物またはこれらの組み合わせを含んでもよい。例えば、金属化合物は、金属窒化物を含んでもよく、このような場合、熱伝導度が上昇して黒鉛化温度を下げる効果があるが、これに限定されるものではない。
一具現例によれば、金属化合物は、ボロンナイトライドを含んでもよく、この場合、面方向の熱伝導度が高く、機械的安定性、耐熱性に優れ、ポリイミドフィルムの黒鉛化に効果的であるが、これに限定されるものではない。
【0011】
金属化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、金属化合物は、ポリイミドフィルムの総重量を基準として、約0.05重量%~約1重量%(例えば、0.05重量%、0.1重量%、0.15重量%、0.2重量%、0.25重量%、0.3重量%、0.35重量%、0.4重量%、0.45重量%、0.5重量%、0.55重量%、0.6重量%、0.65重量%、0.7重量%、0.75重量%、0.8重量%、0.85重量%、0.9重量%、0.95重量%、または1重量%)で含まれてもよく、前記範囲において、熱伝導度が上昇して黒鉛化温度を下げる効果がある。一具現例によれば、金属化合物は、ポリイミドフィルムの総重量のうち約0.05重量%~約0.9重量%、別具現例によれば、約0.05重量%~約0.8重量%で含まれてもよいが、これに限定されるものではない。
【0012】
二無水物単量体としては、当技術分野において通常使用される二水無物単量体が制限なく使用されてもよい。例えば、二無水物単量体は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物またはこれらの組み合わせを含んでもよく、このような場合、熱伝導度が上昇して黒鉛化温度を下げる効果があるが、これに限定されるものではない。
ジアミン単量体としては、当技術分野において通常使用されるジアミン単量体が制限なく使用されてもよい。例えば、ジアミン単量体は、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタンまたはこれらの組み合わせを含んでもよく、このような場合、熱伝導度が上昇して黒鉛化温度を下げる効果があるが、これに限定されるものではない。
【0013】
ポリイミドフィルムの厚さは、特に制限されない。ポリイミドフィルムの厚さは、例えば、約30μm~約120μm、他の例を挙げると、約30μm~約80μm、別の例を挙げると、約50μm~約80μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0014】
前述のグラファイトシート用ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの製造分野において通常使用される様々な方法で製造されてもよい。一具現例によれば、二無水物単量体、ジアミン単量体、金属化合物及び有機溶媒を混合して反応させ、金属イオンとキレート化したポリアミック酸溶液を形成するステップ;前記ポリアミック酸溶液に脱水剤及びイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成するステップ;前記ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャストし、乾燥してゲルフィルムを製造するステップ;及び前記ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成するステップ;を含んで製造されてもよい。
【0015】
まず、二無水物単量体、ジアミン単量体、金属化合物及び有機溶媒を混合して反応させ、金属イオンとキレート化したポリアミック酸溶液を形成する。二無水物単量体、ジアミン単量体、金属化合物に関する説明は前述しているので、これに関する説明は省略する。
ポリアミック酸溶液は、二無水物単量体とジアミン単量体とを実質的に等モル量となるように、金属化合物と共に有機溶媒中に溶解して反応させて得られる。二無水物単量体及びジアミン単量体は、単量体の種類及び所望のポリイミドフィルムの物性によって、全ての単量体を一度に添加するかまたは各単量体を順次添加してもよく、このような場合、単量体間の部分的重合が起こり得る。
有機溶媒は、ポリアミック酸が溶解できる溶媒であれば、特に限定されず、例えば、非プロトン性極性有機溶媒(aprotic polar organic solvent)であってもよい。非プロトン性極性有機溶媒の非制限的な例として、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶媒、p-クロロフェノール、o-クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N-メチルピロリドン(NMP)、ガンマ-ブチロラクトン(GBL)、ジグリム(Diglyme)などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用されてもよい。場合によっては、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、水などの補助溶媒を用いてポリアミック酸の溶解度を調節することもできる。一具現例において、有機溶媒はアミド系溶媒であってもよく、例えば、N,N-ジメチルホルムアミドまたはN,N-ジメチルアセトアミドであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0016】
その後、ポリアミック酸溶液に脱水剤及びイミド化剤を混合してポリイミド前駆体組成物を形成してもよい。
脱水剤とは、ポリアミック酸に対する脱水作用によって閉環反応を促進するものであり、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’-ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪酸無水物、アリールホスホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上混合して使用されてもよい。その中でも、入手の容易性及びコストの観点から、酢酸無水物、プロピオン酸無水物、乳酸無水物などの脂肪族酸無水物を単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
イミド化剤とは、ポリアミック酸に対する閉環反応を促進する効果を有する成分を意味し、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン及び複素環式3級アミンなどが使用されてもよい。その中でも、触媒としての反応性の観点から、複素環式3級アミンが使用されてもよい。その例としては、キノリン、イソキノリン、β-ピコリン、ピリジンなどがあり、これらは単独でまたは2種以上混合して使用されてもよい。
脱水剤及びイミド化剤の添加量は、特に限定されるものではないが、脱水剤は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して、約0.5モル~約5モル(例えば、0.5モル、1モル、1.5モル、2モル、2.5モル、3モル、3.5モル、4モル、4.5モルまたは5モル)、例えば、約1.0モル~約4モルの割合で添加されてもよく、イミド化剤は、ポリアミック酸のうちアミック酸基1モルに対して、約0.05モル~約3モル(例えば、0.05モル、0.1モル、0.5モル、1モル、1.5モル、2モル、2.5モルまたは3モル)、例えば、約0.2モル~約2モルの割合で添加されてもよく、前記範囲内でイミド化が十分であり、フィルム状にキャストすることが容易である。
一具現例によれば、ポリアミック酸は、ポリイミド前駆体組成物の総重量を基準として約5重量%~約35重量%(例えば、5重量%、10重量%、15重量%、20重量%、25重量%、30重量%、または35重量%)で含まれてもよい。前記範囲において、前駆体組成物は、フィルムを形成するのに適した分子量及び溶液粘度を有する。前駆体組成物の総重量を基準として、ポリアミック酸は、例えば、約10重量%~約30重量%、他の例を挙げると、約15重量%~約20重量%で含まれてもよいが、これに限定されるものではない。
【0017】
一具現例によれば、ポリイミド前駆体組成物は、25℃で約100,000cP~約500,000cP(例えば、100,000cP、150,000cP、200,000cP、250,000cP、300,000cP、350,000cP、400,000cP、450,000cPまたは500,000cP)の粘度を有してもよい。前記範囲において、ポリアミック酸が所定の重量平均分子量を有するようにしながらも、ポリイミドフィルム製膜時に工程性に優れるものとすることができる。ここで、「粘度」とは、ブルックフィールド(Brookfield)粘度計を用いて測定することができる。前駆体組成物は、25℃で、例えば、約150,000cP~約450,000cP、他の例を挙げると、約200,000cP~約400,000cP、別の例を挙げると、約250,000cP~約350,000cPの粘度を有してもよいが、これに限定されるものではない。
【0018】
一具現例によれば、ポリアミック酸は、重量平均分子量(Mw)が約100,000g/mol以上、例えば、約100,000g/mol~約500,000g/mol(例えば、100,000g/mol、150,000g/mol、200,000g/mol、250,000g/mol、300,000g/mol、350,000g/mol、400,000g/mol、450,000g/molまたは500,000g/mol)であってもよく、前記範囲で、より優れた熱伝導度を有するグラファイトシートの製造に有利であるが、これに限定されるものではない。ここで、「重量平均分子量」とは、ゲル透過クロマトグラフィー(gel permeation chromatography)を用いて測定されもよい。
【0019】
その後、ポリイミド前駆体組成物を支持体上にキャストし、乾燥してゲルフィルムを製造することができる。
支持体は、当技術分野において通常使用される支持体が制限なく使用されてもよく、このような支持体の例としては、ガラス板、アルミニウム箔、無端(endless)ステンレスベルト、ステンレスドラムなどが挙げられる。
乾燥は、例えば、約40℃~約300℃、他の例を挙げると、約80℃~約200℃、別の例を挙げると、約100℃~約180℃、別の例を挙げると、約100℃~約130℃の温度で行われてよく、これによって脱水剤及びイミド化剤が活性化し、部分的に硬化及び/または乾燥が起こることによってゲルフィルムを形成することができる。ゲルフィルムは、ポリアミック酸からポリイミドへの硬化の中間段階にあり、自己支持性を有する。
【0020】
場合によっては、最終的に得られるポリイミドフィルムの厚さ及び大きさを調節し、配向性を向上させるためにゲルフィルムを延伸するステップをさらに含んでもよく、延伸は、機械搬送方向(MD)及び機械搬送方向に対する横方向(TD)のうち少なくとも1つの方向で行われてもよい。
ゲルフィルムの揮発分含有量は、これに限定されるものではないが、約5重量%~約500重量%、例えば、約5重量%~約200重量%、他の例を挙げると、約5重量%~約150重量%であってもよく、前記範囲において、後にポリイミドフィルムを得るために熱処理する過程中、フィルム破断、色調ムラ、特性変動などの欠点が生じることを回避する効果がある。ここで、ゲルフィルムの揮発分含有量は、下記式1を用いて算出することができ、式1のうち、Aはゲルフィルムの重量、Bはゲルフィルムを450℃で20分間加熱した後の重量を意味する。
<式1>
(A-B)×100/B
【0021】
その後、ゲルフィルムを熱処理してポリイミドフィルムを形成することができる。
熱処理は、例えば、約100℃~約700℃、他の例を挙げると、約200℃~約600℃、別の例を挙げると、約250℃~約550℃の範囲の可変的な温度で、例えば、約0.05時間~約0.4時間、他の例を挙げると、約0.08時間~約0.3時間、別の例を挙げると、約0.1時間~約0.2時間の間で行われてもよく、これによってゲルフィルムに残存する溶媒などが除去され、残っているほとんどのアミック酸基がイミド化してポリイミドフィルムが得られる。
場合によっては、前記のようにして得られたポリイミドフィルムを約400℃~約650℃の温度で約5秒~約400秒間加熱して仕上げ、ポリイミドフィルムをさらに硬化することもでき、得られたポリイミドフィルムに残留し得る内部応力を緩和するために、所定の張力下でこれを行うこともできる。
【0022】
グラファイトシート
本発明の他の態様によれば、前述のグラファイトシート用ポリイミドフィルムから製造されるグラファイトシートが提供される。前述のポリイミドフィルムは、より低い温度、例えば、2,800℃未満(例えば、2,700℃以下、2,600℃以下、2,500℃以下、2,400℃以下、2,300℃以下、2,200℃以下、2,100℃以下、2,00℃以下または1,900℃以下)、他の例を挙げると、約1,900℃~約2,300℃、別の例を挙げると、約1,950℃~約2,250℃、別の例を挙げると、約2,000℃~約2,200℃、別の例を挙げると、約2,050℃~約2,150℃の温度で黒鉛化することができ、グラファイトシートの製造コストを下げることができ、金属成分によってグラファイトシートの熱伝導度を向上させることができる。
【0023】
一具現例によれば、グラファイトシート(すなわち、金属化合物を含んで製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシート)は、金属化合物を含まないことを除き、同一の条件下で製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートに対して、熱伝導度がさらに高いこともある。例えば、グラファイトシートは、金属化合物を含まずに製造されたポリイミドフィルムから製造されたグラファイトシートに対して、熱伝導度が約1.1倍~約1.6倍(例えば、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍または1.6倍)、他の例を挙げると、約1.1倍~約1.5倍、別の例を挙げると、約1.2倍~約1.5倍さらに高いこともあるが、これに限定されるものではない。
一具現例によれば、グラファイトシートは、熱伝導度が約1,300W/m・K以上(例えば、1,350W/m・K以上、1,400W/m・K以上、1,450W/m・K以上、1,500W/m・K以上、1,550W/m・K以上、1,600W/m・K以上または1,650W/m・K以上)であってもよい。例えば、グラファイトシートの熱伝導度は、約1,300W/m・K~約2,000W/m・K、他の例を挙げると、約1,300W/m・K~約1,800W/m・K、別の例を挙げると、約1,400W/m・K~約1,800W/m・Kであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0024】
グラファイトシートの厚さは、特に制限されない。グラファイトシートの厚さは、例えば、約15μm~約70μm、他の例を挙げると、約15μm~約50μm、別の例を挙げると、約20μm~約40μmであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
前述のグラファイトシートは、グラファイトシートの製造分野において通常使用される様々な方法で製造することができる。例えば、グラファイトシートは、ポリイミドフィルムを炭化及び黒鉛化することによって製造することができる。
炭化は、例えば、約1,000℃~約1,500℃の温度で約1時間~約5時間の間で行われてもよいが、これに限定されるものではない。炭化工程を通じてポリイミドフィルムの高分子鎖が熱分解され、非晶質炭素体、非晶質炭素体及び/または無定形炭素体を含む予備グラファイトシートを形成することができる。
黒鉛化は、例えば、2,800℃未満(例えば、2,700℃以下、2,600℃以下、2,500℃以下、2,400℃以下、2,300℃以下、2,200℃以下、2,100℃以下、2,000℃以下または1,900℃以下)、他の例を挙げると、約1,900℃~約2,300℃、別の例を挙げると、約1,950℃~約2,250℃、別の例を挙げると、約2,000℃~約2,200℃、別の例を挙げると、約2,050℃~約2,150℃の温度で約1時間~約10時間の間で行われてもよいが、これに限定されるものではない。黒鉛化工程を通じて非晶質炭素体、非晶質炭素体及び/または無定形炭素体の炭素が再配置され、グラファイトシートを形成することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施例を通じて本発明の構成及び作用をさらに詳細に説明することにする。ただし、これは、本発明の好ましい例として提示されたものであり、いかなる意味でもこれによって本発明が制限されるものと解釈されてはいけない。
【0027】
実施例1
二無水物単量体として、ピロメリット酸無水物50g、ジアミン単量体として、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル50g、金属化合物として、ボロンナイトライド(Boron Nitride、3M社)1g、有機溶媒として、ジメチルホルムアミド300gを混合した後、重合してポリアミック酸溶液を製造した。
製造したポリアミック酸溶液100gに、脱水剤である酢酸無水物20g、イミド化剤であるβ-ピコリン3g、ジメチルホルムアミド15gを混合し、最終粘度が300,000cPであるポリイミド前駆体組成物を製造した。
製造したポリイミド前駆体組成物をドクターブレードを用いてSUSプレート(100SA、Sandvik社)上に80μm厚さでキャストし、100℃で5分間乾燥してゲルフィルムを製造した。前記ゲルフィルムをSUSプレートと分離した後、300℃で5分間熱処理し、500℃で5分間熱処理して50μm厚さを有するポリイミドフィルムを製造した。このとき、ポリイミドフィルムの総重量のうち金属化合物の含有量は0.05重量%であった。
【0028】
実施例2~5及び比較例1
金属化合物の含有量を下記表1に記載の通りに変更したことを除き、実施例1と同一の方法を用いてポリイミドフィルムを製造した。
【0029】
評価例:グラファイトシートの熱伝導度(単位:W/m・K)測定
実施例及び比較例で製造したポリイミドフィルムを電気炉を用いて窒素ガス下で1℃/分の速度で1,000℃まで昇温した後、前記温度で3時間の間保持して炭化した。その後、アルゴン気体下で20℃/分の速度で下記表1に記載された温度まで昇温した後、前記温度で3時間の間保持して黒鉛化してグラファイトシートを製造した。
このように製造したグラファイトシートに対して熱拡散率測定装置(LFA 467、Netsch社)を用いて、レーザーフラッシュ(laser flash)法で平面方向の熱拡散率を測定し、前記熱拡散率測定値に密度(重量/体積)及び比熱(DSCを使用した比熱測定値)を乗じて熱伝導度を算出し、その結果を下記表1に示した。
【0030】
【0031】
前記表1から確認できるように、本発明の金属化合物を含んで製造された実施例1~5のポリイミドフィルムは、そうでない比較例1のポリイミドフィルムに比べてより低い温度で黒鉛化したにもかかわらず、より優れた熱伝導度を有するグラファイトシートを製造することができた。
本発明の単なる変形または変更は、この分野における通常の知識を有する者によって容易に実施することができ、このような変形や変更はいずれも、本発明の領域に含まれるものと認められる。