(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】脱硝触媒および排ガス浄化方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/54 20240101AFI20240418BHJP
B01J 35/60 20240101ALI20240418BHJP
B01J 23/28 20060101ALI20240418BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
B01J35/54 301A
B01J35/60 F
B01J23/28 A ZAB
B01D53/94 222
(21)【出願番号】P 2022541580
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2021028879
(87)【国際公開番号】W WO2022030521
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2020132650
(32)【優先日】2020-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱パワー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】兼田 慎平
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 啓一郎
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-141711(JP,A)
【文献】特開平07-222929(JP,A)
【文献】特開2005-169210(JP,A)
【文献】特開2003-159534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/73
53/86-53/90
53/94
53/96
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒成分を含んで成る成形体からなり且つ該成形体の表面にマイクロクラックを有する脱硝触媒を、主たるガス流れ方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が全マイクロクラックの数に対して80~100%であるように、ガス流れの中に設置して、燃焼排ガスから窒素酸化物を除去することを含む、燃焼排ガスの浄化方法。
【請求項2】
触媒成分を含んで成る成形体からなり、該成形体はガスが主に流れるところであるマクロ流路を形成するための壁部を有し、該壁部の表面にマイクロクラックが在り、マクロ流路の方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が全マイクロクラックの数に対して80~100%である、燃焼排ガス浄化用の脱硝触媒。
【請求項3】
エキスパンドメタルからなる基材と、エキスパンドメタルの網目を埋めるように前記基材に担持された触媒成分とを含有して成る板状成形体からなり、
該板状成形体はガスが主に流れるところであるマクロ流路を形成するための壁部を有し、該壁部の表面にマイクロクラックが在り、マクロ流路の方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が全マイクロクラックの数に対して80~100%である、燃焼排ガス浄化用の脱硝触媒。
【請求項4】
マクロ流路の方向が、エキスパンドメタルの短目方向に対して略平行である、請求項3に記載の脱硝触媒。
【請求項5】
エキスパンドメタルのボンドが成形体の表面および裏面に点状に浮き出すように、触媒成分が担持されている、請求項3または請求項4に記載の脱硝触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝触媒および排ガス浄化方法に関する。より詳細に、本発明は、耐摩耗性および耐剥離性に優れる脱硝触媒および脱硝触媒の交換頻度が低く長期間の運転が可能な排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所、各種工場、自動車などから排出される排煙中の窒素酸化物(NOx)を除去する方法として、アンモニア(NH3)等の還元剤を用いた選択的接触還元による排煙脱硝法が、知られている。この脱硝法に用いられる触媒として、酸化チタン(TiO2)系触媒、ゼオライト系触媒などが知られている。触媒の形状としては、ハニカム状、板状などが知られている。
【0003】
石炭焚きボイラの排ガスには煤塵が多く含まれていることがある。排ガスに含まれる煤塵によって脱硝触媒が削られ摩耗したり、剥離したりすることがある。また煤塵に含まれているアルカリ成分などが脱硝触媒の反応活性点を失活させることがある。その結果、脱硝の効率が徐々に低下する。
【0004】
脱硝効率の低下を防ぎ、触媒寿命を延ばすなどの観点から、種々の脱硝触媒が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1は、網状基材に、その網目を充填するように触媒成分を担持してなる排ガス浄化用板状脱硝触媒であって、該触媒成分は、酸化チタン、酸化珪素、酸化バナジウムおよび/または酸化モリブデンを含む第一成分の層と、該第一成分の層の上に被覆された、酸化モリブデンおよび酸化バナジウムを含む第二成分の層からなり、前記充填された第一成分の厚みは前記網状基材の厚みよりも薄く、かつ前記第二成分の層は、前記第一成分の層の上で、網状基材の外面以下に被覆されていることを特徴とする排ガス浄化用板状脱硝触媒を開示している。特許文献1は、さらに、石炭焚のボイラ排ガスで使用する脱硝触媒は、長時間曝した場合の摩耗を抑えるため、なるべく表面を緻密にして形成されるが、求められる脱硝性能を維持するため触媒表面には多くのクラックを有することが望ましいと、述べている。
【0006】
特許文献2は、隔壁により区画された多数の平行流路の束を外周壁で囲んだハニカム構造を有し、コーディエライトを主成分とするセラミックから成る排ガス浄化用セラミック触媒担体において、該隔壁の厚さが0.04~0.15mm、該外周壁の厚さが0.3mm以上、該外周壁の任意の断面におけるマイクロクラック密度が0.004~0.02μm/μm2であることを特徴とする排ガス浄化用セラミック触媒担体を開示している。
【0007】
特許文献3は、Ti、SiおよびWを含む無機酸化物担体と、VおよびMoから選ばれる少なくとも1種以上を含む金属成分とからなる石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒であって、カルシウム塩の物理的な沈着孔となる、幅が4~20μm、深さが20~300μmのデポジット孔を有し、このデポジット孔開口部面積の総和が触媒内壁表面積に占める割合が5~10%であり、BET法による比表面積(SABET)と、水銀圧入ポロシメトリー法による5nmから5μmの触媒細孔が示す比表面積(SAHg)との差(SABET-SAHg)が15~25m2/gの範囲にあることを特徴とする石炭およびバイオマス混焼排ガス処理用ハニカム触媒を開示している。
【0008】
特許文献4は、排ガス浄化用触媒の製造方法において、Rh含有触媒コート層中に、排ガス流入口から排ガス排出口に向かって直線的な勾配でRh含有触媒コート層の深さ方向に向かって深くなる溝(テーパー溝)を第1のRh含有触媒コート層と第2のRh含有触媒コート層との境目に形成させることを開示している。
【0009】
特許文献5は、ハニカム体が少なくとも部分的に少なくとも第1のマクロ構造を備える板から成り、このマクロ構造がハニカム形状、平均流路幅及び主な機械的特性を決定し、その際ハニカム体が一つの流れ方向へ流体を貫流可能な平均流路幅を備える複数の流路を有し、板の少なくとも一部が少なくとも部分域において補助的なミクロ構造を備え、このミクロ構造が平均流路幅の0.01~約0.3倍で少なくとも15μmの高さを有し、その際にミクロ構造が流れ方向に対して直角に又は角度を成して延び、かつ1~10mmの間隔を置いて流れ方向に連続的に設けられることを特徴とする金属製ハニカム体を開示している。特許文献5は、ミクロ構造として、流れ方向に対し直角に又は角度を成して延び片側又は両側に向かって板表面から突出する凹み、筋、節、溝などを例示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-296449号公報
【文献】特開平9-155189号公報
【文献】特開2016-123954号公報
【文献】特開2017-217590号公報
【文献】特開平3-505701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、耐摩耗性および耐剥離性に優れる脱硝触媒および脱硝触媒の交換頻度が低く長期間の運転が可能な排ガス浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0013】
〔1〕 触媒成分を含んで成る成形体からなり且つ該成形体の表面にマイクロクラックを有する脱硝触媒を、主たるガス流れ方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が全マイクロクラックの数に対して80~100%であるように、ガス流れの中に設置して、燃焼排ガスから窒素酸化物を除去することを含む、燃焼排ガスの浄化方法。
【0014】
〔2〕 触媒成分を含んで成る成形体からなり、該成形体はガスが主に流れるところであるマクロ流路を形成するための壁部を有し、該壁部の表面にマイクロクラックが在り、マクロ流路の方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が全マイクロクラックの数に対して80~100%である、燃焼排ガス浄化用の脱硝触媒。
【0015】
〔3〕 エキスパンドメタルからなる基材と、エキスパンドメタルの網目を埋めるように前記基材に担持された触媒成分とを含有して成る板状成形体からなり、
該板状成形体はガスが主に流れるところであるマクロ流路を形成するための壁部を有し、該壁部の表面にマイクロクラックが在り、マクロ流路の方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が全マイクロクラックの数に対して80~100%である、燃焼排ガス浄化用の脱硝触媒。
【0016】
〔4〕 マクロ流路の方向が、エキスパンドメタルの短目方向に対して略平行である、〔3〕に記載の脱硝触媒。
〔5〕 エキスパンドメタルのボンドが成形体の表面および裏面に点状に浮き出すように、触媒成分が担持されている、〔3〕または〔4〕に記載の脱硝触媒。
【発明の効果】
【0017】
本発明の脱硝触媒は、耐摩耗性および耐剥離性に優れ、脱硝率の低下が抑制され、長寿命である。本発明の脱硝触媒および浄化方法は、燃焼排ガス中の窒素酸化物の除去において使用でき、煤塵を多く含む、石炭焚きボイラ、石炭-バイオマス混焼ボイラなどからの石炭燃焼排ガス中の窒素酸化物の除去において好適に使用できる。このような効果が生じるメカニズムは、明らかになっていない。
図9に示すように、煤塵を含有するガスがマイクロクラックの縁に衝突するので縁付近において摩擦切削作用Cが大きくなると推測できる。また、流線密度の差異によって生じる渦がマイクロクラックの内表面部分を掘削する作用および剥がそうとする動的揚力Lを生じさせると推測できる。本願発明においては、ガス流れの方向に沿った方向のマイクロクラックの割合が多い。マイクロクラックがガス流れの方向に沿った方向になるほど、クラック側面の傾斜が緩やかになる。傾斜角が小さいほどガスの衝突頻度が低下し摩擦切削作用Cが小さくなると考えられ、また傾斜角が小さいほど流線密度の差異が小さくなり掘削作用または動的揚力が小さくなると考えられる。また、マイクロクラックの形成時に成形体表面の収縮が生じるのでその収縮によって成形体表面が高密度化または高稠密化する、または成形体の表面の応力がマイクロクラックによって解放され表面の応力が減少すると考えられる。これらのようなことで、本願発明の脱硝触媒は、高い強度を有し、摩耗および剥離が生じ難くなるのではないかと推測する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例の脱硝触媒を構成する成形体の表面および裏面の光学顕微鏡観察像を示す図である。
【
図2】実施例の脱硝触媒を構成する成形体における、マイクロクラックの方向のガス流れ方向に対する角度の度数分布を示す図である。
【
図3】比較例の脱硝触媒を構成する成形体の表面および裏面の光学顕微鏡観察像を示す図である。
【
図4】比較例の脱硝触媒を構成する成形体における、マイクロクラックの方向のガス流れ方向に対する角度の度数分布を示す図である。
【
図5】実施例1および比較例1の脱硝触媒の摩耗相対減量を示す図である。
【
図6】実施例1および比較例1の脱硝触媒の触媒成分残存率を示す図である。
【
図7】実施例1および比較例1の脱硝触媒の触媒交換年数比を示す図である。
【
図9】クラック周辺におけるガス流れの大まかな様子を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の脱硝触媒は、触媒成分を含んで成る成形体からなる。
【0020】
本発明の脱硝触媒を構成する成形体は、例えば、ハニカム、板、コルゲートボードなどの形状を成していることができる。ハニカム形状の成形体は、例えば、触媒成分を押出成形することによって得ることができる。板形状の成形体は、例えば、メタルラス(エキスパンドメタル、パンチングメタルなど)、無機繊維織布または不織布などの板形状の基材に、触媒成分を含浸、塗布などすることによって得られる。触媒成分は、基材の網目若しくは布目を埋めるように担持することが好ましい。これら基材のうち、エキスパンドメタルが好ましい。板形状の成形体として、例えば、平坦部と凸条部とを有するものを挙げることができる。複数枚の板形状の成形体を凸条部が平坦部に当接して平坦部間に隙間ができるように重ね合わせて用いることができる。コルゲートボード形状の成形体は、例えば、平板形状の成形体と、波板形状の成形体とを当接して平坦部間に隙間ができるように重ね合わせることによって得られる。波板形状の成形体や平坦部と凸条部とを有する成形体は、例えば、平板形状の成形体に曲げプレス成形などを施すことによって得ることができる。
【0021】
本発明の脱硝触媒を構成する成形体は、ガスが主に流れるところであるマクロ流路を形成するための壁部を有する。該壁部は、板形状の成形体からなる脱硝触媒においては板形状の成形体そのものであり、ハニカム脱硝触媒においては近接する多角形の孔が共用する辺を構成する部分である。
【0022】
本発明の脱硝触媒を構成する成形体は、マクロ流路の方向が、基材であるエキスパンドメタルの短目方向に対して略平行となるように形成することが好ましい。また、本発明の脱硝触媒を構成する成形体は、エキスパンドメタルのボンドが成形体の表面および裏面に点状に浮き出すように、触媒成分が担持されていることが好ましい。
【0023】
触媒成分としては、チタンの酸化物、モリブデンおよび/またはタングステンの酸化物、ならびにバナジウムの酸化物を含有して成るもの(チタン系触媒); CuやFeなどの金属が担持されたゼオライトなどのアルミノケイ酸塩を主に含有して成るもの(ゼオライト系触媒); チタン系触媒とゼオライト系触媒とを混合して成るもの;などを挙げることができる。これらのうちチタン系触媒が好ましい。
【0024】
チタン系触媒の例としては、Ti-V-W触媒、Ti-V-Mo触媒、Ti-V-W-Mo触媒等を挙げることができる。
Ti元素に対するV元素の割合は、V2O5/TiO2の重量百分率として、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。Ti元素に対するMo元素および/またはW元素の割合は、モリブデンの酸化物とタングステンの酸化物とを併用する場合(MoO3+WO3)/TiO2の重量百分率として、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0025】
成形体の作製において、チタンの酸化物の原料として、酸化チタン粉末または酸化チタン前駆物質を用いることができる。酸化チタン前駆物質としては、酸化チタンスラリ、酸化チタンゾル;硫酸チタン、四塩化チタン、チタン酸塩、チタンアルコキシドなどを挙げることができる。本発明においては、チタンの酸化物の原料として、アナターゼ型酸化チタンを形成するものが好ましく用いられる。
バナジウムの酸化物の原料として、五酸化バナジウム、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル等のバナジウム化合物を用いることができる。
タングステンの酸化物の原料として、パラタングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、三酸化タングステン、塩化タングステン等を用いることができる。
モリブデンの酸化物の原料として、モリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデンなどを用いることができる。
【0026】
本発明に用いられる成形体には、助触媒または添加物として、Pの酸化物、Sの酸化物、Alの酸化物(例えば、アルミナ)、Siの酸化物(例えば、ガラス繊維)、Zrの酸化物(例えば、ジルコニア)、石膏(例えば、二水石膏など)、ゼオライトなどが含まれていてもよい。これらは、粉末、ゾル、スラリ、繊維などの形態で、成形体作製時に用いることができる。
【0027】
本発明の脱硝触媒を構成する成形体は、その表面(または壁部の表面)にマイクロクラックを有する。
クラックは、ナノクラックと、マイクロクラックと、マクロクラックとに大別される。成形体の表面に在るクラックの開口は、走査型電子顕微鏡による観察像において、地の色よりも濃い色をしている。そこで、本発明においては、走査型電子顕微鏡による観察像をピクセルサイズ2μmの画像処理装置によって白黒の二階調に変換したときに観察される黒色部分をクラックとみなす。よって、ピクセルサイズより小さいクラックは、地の色と区別できず、二階調化によって白色となるので、本発明においてはナノクラックとみなし、マイクロクラックから除外する。一方、本発明の脱硝触媒を構成する成形体は、その表面にマクロクラックが無いことが好ましい。マクロクラックは、クラック幅が500μm超過のものである。マクロクラックは、成形体の機械的耐性に影響を及ぼし、剥離、脱落、破断などを引き起こすことがある。なお、基材の形状(例えば、エキスパンドメタルのボンド1若しくはストランド2)が成形体の表面に浮き出しているときは、その浮き出しによって生じる黒色部分は、マクロクラックおよびマイクロクラックから除外する。
【0028】
本発明におけるマイクロクラックは、95%クラック幅が好ましくは100μm以下である。95%クラック幅はクラック幅の全測定値の長さ基準累積分布において小さい方から累積して95%となるときの値B95である。マイクロクラックの5%クラック幅は、特に限定されないが、好ましくは2μm以上である。5%クラック幅は、クラック幅の全測定値の長さ基準累積分布において小さい方から累積して5%となるときの値B5である。なお、本発明においては、クラック幅が2μm以上500μm以下の範囲について、長さ基準累積分布を作成する。また、クラック間隔の平均値は、好ましくは200~500μmである。
【0029】
マイクロクラックは、面内異方性を持つことが好ましい。具体的には、主たるガス流れの方向若しくはマクロ流路の方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が、全マイクロクラックの数に対して80~100%である。
主たるガス流れの方向若しくはマクロ流路の方向に対するマイクロクラックの方向の角度は、成形体の表面内において、一つのマイクロクラックの両端を結んだ線分の方向と、主たるガス流れの方向若しくはマクロ流路の方向とが、交差する点における鋭角の角度として定義する。
【0030】
マイクロクラックは、成形体を作製する際に使用する、触媒成分の量、水の量、混練条件、成形条件、基材の形状、乾燥条件、焼成条件などを制御することにより得ることができる。マイクロクラックは、乾燥収縮、構造的な曲げ、引張またはせん断力、基材などの形状における応力集中などによって、生じると考えられる。マイクロクラックの方向は、乾燥収縮、構造的な曲げ、引張またはせん断力、基材などの形状に由来する、応力集中において異方性を生じるように、ブリーティング水の量、成形時の加圧方向(または加圧ロールの向き)、成形時の圧力分布、成形時の空気の巻き込み、乾燥時の温度または湿度、基材の異方性などを調整することによって、制御することができる。そして、得られた成形体から本発明所定の統計的数値を満たすマイクロクラックの在る成形体の群を選び、脱硝装置において使用することができる。
【0031】
本発明の燃焼排ガスの浄化方法は、前記の脱硝触媒を、主たるガス流れ方向に対するマイクロクラックの方向の角度が±30度以内であるマイクロクラックの数が全マイクロクラックの数に対して80~100%であるように、ガス流れの中に設置して、燃焼排ガスから窒素酸化物を除去することを含む。燃焼排ガスの浄化は、例えば、本発明の脱硝触媒の充填された固定床に、燃焼排ガスと還元剤(アンモニア)とを通すことによって、行うことができる。
本発明の脱硝触媒は、燃焼排ガスに煤塵が多量に含まれていても、摩耗若しくは剥離し難く、長期間に亘って脱硝性能を維持する。したがって、火力発電所、工場などに在るボイラから排出されるガスの浄化において、好適に使用できる。
【0032】
実施例1
酸化チタン粉末に、三酸化モリブデン、メタバナジン酸アンモニウムおよびシリカゾルを加え、更にアルミニウム化合物粉末とアルミナシリケート繊維を加え、水分調整しながら混練して触媒ペーストを得た。水分量はマイクロクラックが均一に形成されるように調節した。これをエキスパンドメタルからなる長尺の基材に塗布し、次いで硬質金属製仕上げのロールにてプレス加工して平板形状の成形品を得た。この成形品を120℃で1時間乾燥させた。次いで、焼成炉に入れ、2時間かけて室温から500℃まで温度を上げ、500℃で2時間維持し、次いで2時間かけて室温まで冷却して、成形体を得た。得られた成形体の表面および裏面の無作為に選んだ領域における光学顕微鏡観察像を
図1に示す。エキスパンドメタルのボンドが表面および裏面に点状に浮き出していた。ほとんどのマイクロクラックがエキスパンドメタルの短目方向SDに沿って形成されていた。ガス流れ方向に対するマイクロクラックの方向の角度の度数分布を
図2に示す。この成形体を脱硝触媒として使用した。
【0033】
平均粒径500μmのグリッドを、自然落下させて、脱硝触媒試験片に、所定のグリッド量、落下距離および入射角度にて、マイクロクラックの主方向に略平行となるように、衝突させた。この衝突処理前後の重量変化(摩耗減量)を測定した。そして、後述する比較例1において得られた成形体の摩耗減量に対する割合(摩耗相対減量)を算出した。結果を
図5に示す。
【0034】
比較例1
酸化チタン粉末に、三酸化モリブデン、メタバナジン酸アンモニウムおよびシリカゾルを加え、更にアルミニウム化合物粉末とアルミナシリケート繊維を加え、水分調整しながら混練して触媒ペーストを得た。水分量はマイクロクラックが均一に形成されるように調節した。これを、エキスパンドメタルからなる長尺の基材に塗布し、次いで軟質樹脂製仕上げのロールにてプレス加工して平板形状の成形品を得た。この成形品を120℃で1時間乾燥させた。次いで、焼成炉に入れ、2時間かけて室温から500℃まで温度を上げ、500℃で2時間維持し、次いで2時間かけて室温まで冷却して、成形体を得た。得られた成形体の表面および裏面の無作為に選んだ領域における光学顕微鏡観察像を
図3に示す。エキスパンドメタルのボンドが裏面のみに点状に浮き出していた。ガス流れ方向に対するマイクロクラックの方向の角度の度数分布を
図4に示す。この成形体を脱硝触媒として使用した。
【0035】
平均粒径500μmのグリッドを、自然落下させて、脱硝触媒試験片に、所定のグリッド量、落下距離および入射角度にて、マイクロクラックの主方向に略直交するように、衝突させた。この衝突処理前後の重量変化(摩耗減量)を測定した。
【0036】
実施例1の脱硝触媒と比較例1の脱硝触媒とを、石炭炊きの火力発電所の脱硝装置に取り付けて、営業運転を行った。2年間の営業運転の後、比較例1の脱硝触媒は、摩耗および剥離が激しく、塗布した触媒成分が3割程度しか残っていなかった(
図6)ので、新品の脱硝触媒に交換した。実施例1の脱硝触媒は、ほとんど摩耗および剥離していなかったので、そのまま使用をさらに4年間続けた。6年間の営業運転の後、実施例1の脱硝触媒は、塗布した触媒成分が未だ9割程度残っていたが、脱硝率が若干低下してきたので新品の脱硝触媒に交換した。結果を
図6および
図7に示す。
【符号の説明】
【0037】
1:ボンド
2:ストランド
SD:短目方向
LD:長目方向