(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体、及びフレキソ印刷版の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/00 20060101AFI20240418BHJP
B41C 1/055 20060101ALI20240418BHJP
B41N 1/00 20060101ALI20240418BHJP
G03F 7/26 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
G03F7/00 502
B41C1/055
B41N1/00
G03F7/26 511
(21)【出願番号】P 2022577032
(86)(22)【出願日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2021046025
(87)【国際公開番号】W WO2022158172
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021007103
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021007168
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】秋山 弘貴
(72)【発明者】
【氏名】宮本 慎二
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/122001(WO,A1)
【文献】特開2010-237583(JP,A)
【文献】特開2002-357907(JP,A)
【文献】特開2014-119594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、支持体(a)と、
該支持体(a)上に積層される感光性樹脂組成物層(b)と、
該感光性樹脂組成物層(b)上に積層される赤外線アブレーション層(c)と、を備え、
前記赤外線アブレーション層(c)が、下記一般式(1)で表される構成単位c1を有する樹脂を含有する、
フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【化1】
(ここで、式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、非極性基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、又は、非極性基を表す。)
【請求項2】
前記構成単位(c1)の含有量が、前記樹脂の総量に対して、40質量%以上100質量%以下である、
請求項1に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項3】
前記一般式(1)のR
3及びR
4が、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シリル基、シロキサニル基である、
請求項1又は2に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項4】
前記一般式(1)のR
3及びR
4が、水素原子である、
請求項1~3のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項5】
前記一般式(1)のR
1及びR
2が、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シリル基、シロキサニル基である、
請求項1~4のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項6】
前記一般式(1)のR
1及びR
2が、それぞれ独立に、アルキル基又はフェニル基である、
請求項1~5のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項7】
前記一般式(1)のR
1及びR
2が、アルキル基である、
請求項1~6のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項8】
前記樹脂は、前記構成単位(c1)とは異なり、側鎖に芳香族基を含む構成単位(c2)をさらに有する、
請求項1~7のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項9】
前記構成単位(c2)は、モノビニル置換芳香族炭化水素に由来する構成単位を含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項10】
前記赤外線アブレーション層(c)が、カーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックのpHが、2.0以上5.0以下である、
請求項1~9のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項11】
前記赤外線アブレーション層(c)が分散剤を含有し、
前記分散剤の溶解度パラメータ(SP値)が、9.5以上12.5以下である、
請求項1~10のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項12】
前記赤外線アブレーション層(c)における前記樹脂と前記カーボンブラックの配合比(樹脂/カーボンブラック)が、80/20~50/50の範囲にある、
請求項1~11のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を用い、
前記支持体(a)側から紫外線を照射する第一の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)に赤外線を照射してパターンを描画加工する第二の工程と、
前記パターンが描画加工された前記赤外線アブレーション層(c)をマスクとして、前記感光性樹脂組成物層(b)に紫外線照射してパターン露光する第三の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)と前記感光性樹脂組成物層(b)の未露光部を除去する第四の工程と、を、有する、
フレキソ印刷版の製造方法。
【請求項14】
請求項1~12のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を用い、
前記支持体(a)側から紫外線を照射する第一の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)に赤外線を照射してパターンを描画加工する第二の工程と、
前記パターンが描画加工された前記赤外線アブレーション層(c)をマスクとして、前記感光性樹脂組成物層(b)に紫外線照射してパターン露光する第三の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)と前記感光性樹脂組成物層(b)の未露光部を除去してフレキソ印刷版を製造する第四の工程と、
前記フレキソ印刷版を用いて印刷する第五の工程と、を、有する、
フレキソ印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体、及びフレキソ印刷版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷画像のさらなる高精細化が求められている。一方、従来から、フレキソ印刷版の製造過程において、CTP(Computer To Plate)技術によりネガフィルムを用いず、デジタルイメージを直接レーザーで描画する方法が広く用いられている。
【0003】
当該CTP技術においては、フレキソ印刷版製造用の原版として、一般的に、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の基板上に、感光性樹脂組成物層、赤外線で切除可能な赤外線アブレーション層、カバーフィルムが順に積層されたものが用いられる。
【0004】
赤外線で切除可能な赤外線アブレーション層は、一般的に、赤外線以外の放射線に対して不透明の材料である赤外線吸収剤と樹脂とを含有する。
【0005】
印刷画像のさらなる高精細化や、印刷時のインキ転写性の向上を図るための技術として、従来から、印刷版の表面にマイクロセルを配置する技術が知られている。また、フレキソ印刷版の製造過程において用いるレーザー描画装置についても高解像度化が図られており、レーザー解像度も従来の2540DPIから4000、5080DPIと高解像度化が進んでおり、さらには8000DPIなどに高解像度化が進んでいくことが予測される。
【0006】
上述したことから、より微小なマイクロセルを形成させるために、フレキソ印刷版においては、レーザー描画での微細加工化がより一層必要となる。そのためにはフレキソ印刷版の製造過程において、赤外線レーザー描画性に優れる赤外線アブレーション層を得るための技術が求められている。
【0007】
赤外線アブレーション層に関して例えば、特許文献1においては、樹脂としてモノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンからなる共重合体又はモノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンからなる共重合体を水素添加処理したものを使用する技術が提案されている。また、特許文献2においては、樹脂としてポリアミドを使用する技術が提案されており、特許文献3においては、樹脂としてケン化度が60~100モル%の部分ケン化ポリ酢酸ビニルとカチオン性ポリマーを使用する技術が提案されている。さらに、特許文献4においては、樹脂として変性オレフィンを使用する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4080068号公報
【文献】特許第2916408号公報
【文献】特開2016-188900号公報
【文献】特開2015-11330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したバインダーを用いた赤外線アブレーション層を用いても8000DPIなどの高解像度における微小パターン(1×1ピクセルや2×2ピクセル画像など)においては赤外線アブレーション層がアブレーションに十分なエネルギーを得ることができず、微小なマイクロセルを形成することが困難であった。
【0010】
そこで本発明においては、上述した従来技術の問題点に鑑み、高解像度化により十分な描画エネルギーを得られない場合においても、レーザー感度に優れる赤外線アブレーション層を有するフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体、及びそれを用いたフレキソ印刷版の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、感光性樹脂組成物層と、特定の構成の赤外線アブレーション層とを有するフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体により、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記の通りである。
〔1〕
少なくとも、支持体(a)と、
該支持体(a)上に積層される感光性樹脂組成物層(b)と、
該感光性樹脂組成物層(b)上に積層される赤外線アブレーション層(c)と、を備え、
前記赤外線アブレーション層(c)が、下記一般式(1)で表される構成単位c1を有する樹脂を含有する、
フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
【化1】
(ここで、式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、非極性基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、又は、非極性基を表す。)
〔2〕
前記構成単位(c1)の含有量が、前記樹脂の総量に対して、40質量%以上100質量%以下である、
〔1〕に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔3〕
前記一般式(1)のR
3及びR
4が、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シリル基、シロキサニル基である、
〔1〕又は〔2〕に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔4〕
前記一般式(1)のR
3及びR
4が、水素原子である、
〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔5〕
前記一般式(1)のR
1及びR
2が、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シリル基、シロキサニル基である、
〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔6〕
前記一般式(1)のR
1及びR
2が、それぞれ独立に、アルキル基又はフェニル基である、
〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔7〕
前記一般式(1)のR
1及びR
2が、アルキル基である、
〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔8〕
前記樹脂は、前記構成単位(c1)とは異なり、側鎖に芳香族基を含む構成単位(c2)をさらに有する、
〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔9〕
前記構成単位(c2)は、モノビニル置換芳香族炭化水素に由来する構成単位を含む、
〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔10〕
前記赤外線アブレーション層(c)が、カーボンブラックを含有し、
前記カーボンブラックのpHが、2.0以上5.0以下である、
〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔11〕
前記赤外線アブレーション層(c)が分散剤を含有し、
前記分散剤の溶解度パラメータ(SP値)が、9.5以上12.5以下である、
〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔12〕
前記赤外線アブレーション層(c)における前記樹脂と前記カーボンブラックの配合比(樹脂/カーボンブラック)が、80/20~50/50の範囲にある、
〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体。
〔13〕
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を用い、
前記支持体(a)側から紫外線を照射する第一の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)に赤外線を照射してパターンを描画加工する第二の工程と、
前記パターンが描画加工された前記赤外線アブレーション層(c)をマスクとして、前記感光性樹脂組成物層(b)に紫外線照射してパターン露光する第三の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)と前記感光性樹脂組成物層(b)の未露光部を除去する第四の工程と、を、有する、
フレキソ印刷版の製造方法。
〔14〕
〔1〕~〔12〕のいずれか一項に記載のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を用い、
前記支持体(a)側から紫外線を照射する第一の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)に赤外線を照射してパターンを描画加工する第二の工程と、
前記パターンが描画加工された前記赤外線アブレーション層(c)をマスクとして、前記感光性樹脂組成物層(b)に紫外線照射してパターン露光する第三の工程と、
前記赤外線アブレーション層(c)と前記感光性樹脂組成物層(b)の未露光部を除去してフレキソ印刷版を製造する第四の工程と、
前記フレキソ印刷版を用いて印刷する第五の工程と、を、有する、
フレキソ印刷方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高解像度化により十分な描画エネルギーを得られない場合においても、レーザー感度に優れる赤外線アブレーション層を有するフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体、及びそれを用いたフレキソ印刷版の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体の概略断面図である。
【
図2】本実施形態のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を用いたフレキソ印刷版の製造方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0016】
〔フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体〕
本実施形態のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体は、少なくとも、支持体(a)と、該支持体(a)上に積層される感光性樹脂組成物層(b)と、該感光性樹脂組成物層(b)上に積層される赤外線アブレーション層(c)と、を備え、赤外線アブレーション層(c)が、下記一般式(1)で表される構成単位(c1)を有する樹脂を含有する。
【化2】
(ここで、式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、非極性基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、非極性基を表す。)
【0017】
図1に、本実施形態のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体(以下、単に「本構成体」ともいう)の概略断面図を示す。本構成体は、支持体(a)と、フレキソ印刷版の凹凸パターンが形成される感光性樹脂組成物層(b)と、その凹凸パターン形成時にマスクとして機能する赤外線アブレーション層(c)とが積層されたものであり、各層の間には必要に応じて他の層が設けられていてもよい。以下、本構成体について、詳説する。
【0018】
(支持体(a))
本構成体に用いる支持体(a)としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステルフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられる。
【0019】
このなかでも、支持体(a)としてはポリエステルフィルムが好ましい。支持体(a)に用いるポリエステルとしては、特に制限されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0020】
支持体(a)の厚みは、特に制限されないが、好ましくは50~300μmである。
【0021】
また、支持体(a)と、後述する感光性樹脂組成物層(b)との間の接着力を高める目的で、支持体(a)上に接着剤層を設けてもよい。当該接着剤層としては、特に制限されないが、例えば、WO2004/104701号公報に記載の接着剤層が挙げられる。
【0022】
(感光性樹脂組成物層(b))
本構成体は、支持体(a)上に感光性樹脂組成物層(b)を有する。感光性樹脂組成物層(b)は、支持体(a)上に直接積層されていてもよいし、上記接着剤層等を介して間接的に積層されていてもよい。
【0023】
感光性樹脂組成物層(b)は、特に制限されないが、例えば、熱可塑性エラストマー(b-1)を含有し、好ましくは、エチレン性不飽和化合物(b-2)、光重合開始剤(b-3)、液状ジエンをさらに含有していてもよい。また、感光性樹脂組成物層(b)は、必要に応じて、補助添加成分をさらに含有してもよい。以下、各成分について詳説する。
【0024】
<熱可塑性エラストマー(b-1)>
熱可塑性エラストマー(b-1)としては、特に制限されないが、例えば、モノビニル置換芳香族炭化水素に由来する構成単位と共役ジエンに由来する構成単位とを有する共重合体が挙げられる。なお、熱可塑性エラストマー(b-1)は、その他の単量体に由来する構成単位をさらに有していてもよい。このような熱可塑性エラストマーを用いることにより、本構成体を用いて製造したフレキソ印刷版の耐刷性がより向上する傾向にある。
【0025】
当該熱可塑性エラストマー(b-1)としては、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよいが、モノビニル置換芳香族炭化水素からなる重合体ブロックと共役ジエンからなる重合体ブロックと、を有する、ブロック共重合体が好ましい。このような熱可塑性エラストマーを用いることにより、本構成体を用いて製造したフレキソ印刷版の耐刷性がより向上する傾向にある。
【0026】
当該熱可塑性エラストマー(b-1)を構成するモノビニル置換芳香族炭化水素としては、特に制限されないが、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、第三級ブチルスチレン、α-メチルスチレン、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
このなかでも、感光性樹脂組成物層(b)を比較的低温で平滑に成形できる観点から、モノビニル置換芳香族炭化水素としてはスチレンが好ましい。
【0028】
熱可塑性エラストマー(b-1)を構成する共役ジエンとしては、特に制限されないが、例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン、3-ブチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
このなかでも、本構成体を用いて製造したフレキソ印刷版の耐刷性の観点から、共役ジエンとしてはブタジエンが好ましい。
【0030】
熱可塑性エラストマー(b-1)の数平均分子量(Mn)は、常温における粘凋性の観点から、20,000以上300,000以下であることが好ましく、50,000以上200,000以下であることがより好ましい。数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定することができ、ポリスチレン換算分子量で表される。
【0031】
熱可塑性エラストマー(b-1)が、モノビニル置換芳香族炭化水素からなる重合体ブロックと、共役ジエンからなる重合体ブロックと、を有するブロック共重合体である場合、熱可塑性エラストマー(b-1)は、例えば、下記の一般式群(I)で表される直鎖状ブロック共重合体、及び/又は下記の一般式群(II)で表される直鎖状ブロック共重合体若しくはラジアルブロック共重合体を包含する。
【0032】
一般式群(I):
(A-B)n、A-(B-A)n、A-(B-A)n-B、B-(A-B)n
一般式群(II):
[(A-B)k]m-X、[(A-B)k-A]m-X、[(B-A)k]m-X、[(B-A)k-B]m-X
【0033】
一般式群(I)及び(II)中、Aは、モノビニル置換芳香族炭化水素からなる重合体ブロックを示す。また、Bは、共役ジエンからなる重合体ブロックを示す。Xは、四塩化ケイ素、四塩化スズ、エポキシ化大豆油、ポリハロゲン化炭化水素化合物、カルボン酸エステル化合物、ポリビニル化合物、ビスフェノール型エポキシ化合物、アルコキシシラン化合物、ハロゲン化シラン化合物、エステル系化合物等のカップリング剤の残基又は多官能有機リチウム化合物等の重合開始剤の残基を示す。
【0034】
一般式群(I)及び(II)中、n、k及びmは、1以上の整数を示し、例えば1~5である。
【0035】
熱可塑性エラストマー(b-1)中の共役ジエン及びモノビニル置換芳香族炭化水素の含有量は、核磁気共鳴装置(1H-NMR)を用いて測定することができる。具体的には、1H-NMRの測定機器として、JNM-LA400(JEOL製、商品名)を用い、溶媒に重水素化クロロホルムを用い、サンプル濃度を50mg/mLとし、観測周波数を400MHz、化学シフト基準にTMS(テトラメチルシラン)を用い、パルスディレイを2.904秒、スキャン回数を64回、パルス幅を45°、測定温度を25℃に設定し、測定することができる。
【0036】
熱可塑性エラストマー(b-1)において、モノビニル置換芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合比率(質量比)は、本構成体を用いて製造したフレキソ印刷版の耐刷性の観点から、モノビニル置換芳香族炭化水素/共役ジエン=10/80~90/20の範囲にあることが好ましく、10/90~85/15の範囲にあることがより好ましく、10/90~60/40の範囲にあることがさらに好ましい。
【0037】
上記共重合比率(質量比)において、モノビニル置換芳香族炭化水素の割合が10以上であると、感光性樹脂組成物層(b)において十分な硬度が得られ、通常の印刷の圧力により適切な印刷を行うことができる。また、上記共重合比率(質量比)においてモノビニル置換芳香族炭化水素の割合が90以下であると、感光性樹脂組成物層(b)において適切な硬度が得られ、印刷工程においてインキを印刷対象に十分に転移できる。
【0038】
熱可塑性エラストマー(b-1)には、必要に応じて、他の官能基が導入されていたり、水素添加等の化学修飾がなされていたり、他の成分が共重合されていたりしてもよい。
【0039】
感光性樹脂組成物層(b)中の熱可塑性エラストマー(b-1)の含有量は、本構成体を用いて得られるフレキソ印刷版の耐刷性の観点から、感光性樹脂組成物層(b)の全量を100質量%としたとき、40質量%以上であることが好ましく、40質量%以上80質量%以下であることがより好ましく、45質量%以上80質量%以下であることがさらに好ましく、45質量%以上75質量%以下であることがさらにより好ましい。
【0040】
<エチレン性不飽和化合物(b-2)>
感光性樹脂組成物層(b)は、上述したように、エチレン性不飽和化合物(b-2)を含有することが好ましい。エチレン性不飽和化合物(b-2)とは、ラジカル重合可能な不飽和二重結合を有する化合物である。
【0041】
このようなエチレン性不飽和化合物(b-2)としては、特に制限されないが、例えば、エチレン、プロピレン、ビニルトルエン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類;アセチレン類;(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体;ハロオレフィン類;アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;アクリルアミドやメタクリルアミド等の不飽和アミド及びその誘導体;無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその誘導体;酢酸ビニル類;N-ビニルピロリドン;N-ビニルカルバゾール;N-置換マレイミド化合物等が挙げられる。
【0042】
このなかでも、紫外線硬化性や硬化後の感光性樹脂組成物層(b)の耐刷性の観点から、エチレン性不飽和化合物(b-2)としては、(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体が好ましい。
【0043】
上記各誘導体としては、特に制限されないが、例えば、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基等を有する脂環族化合物;ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、あるいはナフタレン骨格、アントラセン骨格、ビフェニル骨格、フェナントレン骨格、フルオレン骨格等を有する芳香族化合物;アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、グリシジル基等を有する化合物;アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールやトリメチロールプロパン等の多価アルコールとのエステル化合物;ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン等のポリシロキサン構造を有する化合物等が挙げられる。
【0044】
また、エチレン性不飽和化合物(b-2)は、窒素、硫黄等の元素を含有した複素芳香族化合物であってもよい。
【0045】
上記(メタ)アクリル酸及び/又はその誘導体としては、特に制限されないが、例えば、ヘキサンジオール、ノナンジオール等のアルカンジオールのジアクリレート及びジメタクリレート;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ブチレングリコールのジアクリレート及びジメタクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート;ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート;イソボロニル(メタ)アクリレート;フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート;ペンタエリトリットテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
本構成体を用いて得られるフレキソ印刷版の機械強度の観点から、エチレン性不飽和化合物(b-2)としては、少なくとも1種類以上の(メタ)アクリレートを用いることが好ましく、少なくとも1種類以上の2官能(メタ)アクリレートを用いることがより好ましい。
【0047】
エチレン性不飽和化合物(b-2)の数平均分子量(Mn)は、本構成体の製造時及び/又は保管時におけるエチレン性不飽和化合物(b-2)の不揮発性を向上する観点から100以上であることが好ましく、他成分との相溶性の観点から1000未満であることが好ましく、200以上800以下であることがより好ましい。
【0048】
感光性樹脂組成物層(b)におけるエチレン性不飽和化合物(b-2)の含有量は、本構成体を用いて得られるフレキソ印刷版の耐刷性の観点から、感光性樹脂組成物層(b)の全量を100質量%としたとき、2質量%以上30質量%以下であることが好ましく、2質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
<光重合開始剤(b-3)>
感光性樹脂組成物層(b)は、光重合開始剤(b-3)を含有することが好ましい。光重合開始剤(b-3)とは、光のエネルギーを吸収し、ラジカルを発生する化合物であり、崩壊型光重合開始剤、水素引抜き型光重合開始剤、水素引抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物等が挙げられる。
【0050】
このような光重合開始剤(b-3)としては、特に制限されないが、例えば、ベンゾフェノン、4,4-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3’,4,4’-テトラメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;t-ブチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン類;ミヒラーケトン;ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノ-プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン、トリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル類;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド類;メチルベンゾイルホルメート;1,7-ビスアクリジニルヘプタン;9-フェニルアクリジン;アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等のアゾ化合物類が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
このなかでも、本構成体を用いて製造したフレキソ印刷版の耐刷性の観点から、光重合開始剤(b-3)としては、カルボニル基を有する化合物が好ましく、ベンゾフェノン類、チオキサントン類などの芳香族カルボニル化合物がより好ましい。
【0052】
感光性樹脂組成物層(b)における光重合開始剤(b-3)の含有量は、本構成体を用いて製造したフレキソ印刷版の耐刷性の観点から、感光性樹脂組成物層(b)の全量を100質量%としたとき、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
<液状ジエン>
感光性樹脂組成物層(b)には、液状ジエンを含有することが好ましい。液状ジエンとは液状の炭素・炭素二重結合を有する化合物である。ここで、本明細書中、「液状ジエン」の「液状」とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する性状を意味する。液状ジエンは、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマー性を備える。
【0054】
液状ジエンとしては、特に制限されないが、例えば、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエンの変性物、液状ポリイソプレンの変性物、液状アクリルニトリル-ブタジエンの共重合体、液状スチレン-ブタジエン共重合体が挙げられる。液状ジエンは、ジエン成分が50質量%以上の共重合体であるものとする。
【0055】
このなかでも、本構成体及びこれを用いたフレキソ印刷版の機械物性の観点から、液状ジエンとしては液状ポリブタジエンが好ましい。
【0056】
また、液状ジエン、好ましくは液状ポリブタジエンの1,2-ビニル結合量は、本構成体及びこれを用いたフレキソ印刷版の硬度を適切なものとする観点から、1%以上80%以下が好ましく、5%以上70%以下がより好ましく、5%以上65%以下がさらに好ましい。
【0057】
ここで「1,2-ビニル結合量」とは、1,2-結合、3,4-結合、及び1,4-結合の結合様式で組み込まれている共役ジエン単量体の中で、1,2-結合で組み込まれているものの割合である。1,2-ビニル結合量は、液状ポリブタジエンの1H-NMR(磁気共鳴スペクトル)のピーク比から求めることができる。
【0058】
なお、1,2-ビニル結合を有する液状ポリブタジエンである1,2-ポリブタジエンは、二重結合であるビニルが側鎖になっているため、ラジカル重合の反応性が高く、感光性樹脂組成物層(b)の硬度を高める観点において好ましい。
【0059】
また、液状ポリブタジエンは、通常、1,2-ビニル結合を有する1,2-ポリブタジエンと、1,4-ビニル結合を有する1,4-ポリブタジエンとの混合物であるが、本構成体及びこれを用いたフレキソ印刷版の柔軟性を向上させるためには、液状ジエン中に、1,4-ポリブタジエンを含有させることが有効である。1,4-ポリブタジエンには、シス型の1,4-ポリブタジエンと、トランス型の1,4-ポリブタジエンとがある。1,4-ポリブタジエンは、シス型及びトランス型のいずれにおいても、二重結合であるビニル基が内部に存在するため、ラジカル重合における反応性が低く、柔軟な樹脂を形成することが可能である。
【0060】
複数の異なる1,2-ビニル結合量を有する液状ポリブタジエンを混合して用いる場合は、その平均値を、上記1,2-ビニル結合量とする。
【0061】
感光性樹脂組成物層(b)の反応性を容易に調整できるという観点から、1,2-ビニル結合量が10%以下の液状ポリブタジエンと、1,2-ビニル結合量が80%以上の液状ポリブタジエンとを混合し、全体の1,2-ビニル結合量を調整することが好ましい。より好ましくは、5%以下の1,2-ビニル結合量の液状ポリブタジエンと、80%以上の1,2-ビニル結合量の液状ポリブタジエンとを混合し、全体の1,2-ビニル結合量を調整することが好ましい。
【0062】
また、液状ジエンの数平均分子量については、20℃において液状である限り、特に限定されないが、本構成体を用いて得られるフレキソ印刷版の耐刷性、取扱性の観点から、好ましくは500以上60000以下であり、より好ましくは500以上50000以下であり、さらに好ましくは800以上50000以下である。
【0063】
感光性樹脂組成物層(b)における液状ジエンの含有量は、本構成体及びこれを用いたフレキソ印刷版の耐刷性の観点から、感光性樹脂組成物層(b)の全量を100質量%としたとき、10質量%以上40質量%以下が好ましく、15質量%以上40質量%以下がより好ましく、20質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。
【0064】
<補助添加成分>
補助添加成分としては、特に制限されないが、例えば、極性基含有ポリマー、液状ジエン以外の可塑剤、安定剤以外の熱重合防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染料・顔料等が挙げられる。
【0065】
極性基含有ポリマーとしては、特に制限されないが、例えば、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、燐酸基、スルホン酸基等の親水性基、それらの塩等の極性基を有する水溶性又は水分散性共重合体が挙げられる。さらに具体的には、カルボキシル基含有アクリロニトリル-ブタジエンゴム、カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシル基を含有した脂肪族共役ジエンの重合体、燐酸基、又はカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物の乳化重合体、スルホン酸基含有ポリウレタン、カルボキシル基含有ブタジエンラテックス等が挙げられる。これらの極性基含有ポリマーは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0066】
このなかでも、本構成体を用いたフレキソ印刷版において高い解像度を得る観点から、極性基含有ポリマーとしては、カルボキシル基含有ブタジエンラテックスが好ましい。
【0067】
液状ジエン以外の可塑剤としては、特に制限されないが、例えば、ナフテン油、パラフィン油等の炭化水素油;液状アクリルニトリル-ブタジエン共重合体、液状スチレン-ブタジエン共重合体等の液状のジエンを主体とする共役ジエンゴム;数平均分子量2000以下のポリスチレン;セバシン酸エステル、フタル酸エステル等のエステル系可塑剤が挙げられる。これらその他の可塑剤は、ヒドロキシル基やカルボキシル基を有していてもよい。また、これらその他の可塑剤には(メタ)アクリロイル基等の光重合性の反応基が付与されていてもよい。その他の可塑剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
熱重合防止剤及び酸化防止剤としては、樹脂材料又はゴム材料の分野において通常使用されるものを用いることができる。具体的には、フェノール系の材料が挙げられる。
【0069】
このようなフェノール系の材料としては、特に制限されないが、例えば、ビタミンE、テトラキス-(メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。熱重合防止剤及び酸化防止剤は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
紫外線吸収剤としては、特に制限されないが、例えば、公知のベンゾフェノン系化合物、サルチレート系化合物、アクリロニトリル系化合物、金属錯塩系化合物、ヒンダートアミン系化合物が挙げられる。また下記に示す、染料・顔料を紫外線吸収剤として使用してもよい。
【0071】
このような紫外線吸収剤としては、特に制限されないが、例えば、2-エトキシ-2’-エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0072】
染料・顔料は、視認性向上のための着色手段として有効である。
【0073】
染料としては、特に制限されないが、例えば、水溶性である塩基性染料、酸性染料、直接染料等や、非水溶性である硫化染料、油溶染料、分散染料等が挙げられる。特にアントラキノン系染料、インジゴイド系染料、アゾ系染料が好ましく、アゾ系油溶染料等がより好ましい。
【0074】
顔料としては、特に制限されないが、例えば、天然顔料、合成無機顔料、合成有機顔料等が挙げられる。合成有機顔料としては、アゾ系顔料、トリフェニルメタン系顔料、キノリン系顔料、アントラキノン系顔料、フタロシアニン系顔料が挙げられる。
【0075】
上述した補助添加成分の総添加量は、感光性樹脂組成物層(b)の全量を100質量%としたとき、0質量%以上10質量%以下が好ましく、0質量%以上5質量%以下がより好ましく、0質量%以上3質量%以下がさらに好ましい。
【0076】
(赤外線アブレーション層(c))
本構成体は、上述した感光性樹脂組成物層(b)の上に、赤外線アブレーション層(c)が積層されている。赤外線アブレーション層(c)は、所定の樹脂を含有し、赤外線レーザーで切除可能であり、かつ、赤外線以外の光線遮蔽層としての機能を有している。
【0077】
赤外線アブレーション層(c)を高精細に加工するためには、赤外線アブレーション層(c)のレーザーに対する感度を向上させる必要がある。ここで、「レーザーに対する感度が高い」とは、同じレーザーエネルギーで描画した際に、よりアブレーションされる体積、特に深さ方向へ大きくアブレーションされることを意味する。
【0078】
検討の結果、本発明者らは、赤外線アブレーション層(c)のレーザー感度を向上させるには、赤外線アブレーション層に含まれる樹脂が解重合しやすいことが重要であることを見出した。「解重合」とは重合反応の逆反応で、重合体が単量体に分解する反応をいう。
【0079】
赤外線照射により赤外線アブレーション層は瞬間的に数百度の高温に達する。その際に、解重合しやすい樹脂であると短時間のアブレーションであっても効率よく樹脂中の主鎖の分解が起こり、それにより分子量が急激に下がり、赤外線アブレーション層から除去される。一方で、解重合しにくい樹脂、例えば側鎖に極性基を有する樹脂ではアブレーション時に側鎖の分解のみが起こり主鎖の切断が起こりにくい。そのため、赤外線照射後も樹脂が赤外線アブレーション層に残ってしまう。縮重合により得られた樹脂は、分解時に環構造を形成したのち、主鎖の切断が起こることが知られている。これにより、短時間での熱処理である赤外線アブレーションでは分子量の低下が起こりにくくレーザー感度が悪くなってしまう。
【0080】
これらのメカニズムから、赤外線アブレーション層(c)は解重合しやすい樹脂を含有することが重要である。一般に、主鎖の開裂は枝分かれなど高分子中に存在する熱的に不安定な部分から開始しやすいことが分かっている。しかし、この際に上述した様に枝分かれに当たる側鎖が極性を持っていると側鎖の分解が支配的に起こりやすくなり、主鎖の切断が生じにくいので好ましくない。
【0081】
そのため、赤外線アブレーション層(c)に含まれる樹脂の側鎖は、非極性基であることが重要である。また、主鎖開裂が進行する際には分子内または分子間での連鎖移動の寄与が無視できない。そのため、連鎖移動により引く抜かれやすい第三級水素を持たない方が良い。すなわち、枝分かれの対称面に当たる部分も非極性基であることが重要である。
【0082】
(樹脂)
本実施形態の赤外線アブレーション層(c)に含まれる樹脂は、下記一般式(1)で表されるように、2つの非極性基が結合する4級炭素原子を含む構成単位(c1)を有し、必要に応じて、他の構成単位を有していてもよい。
【化3】
(ここで、式(1)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、非極性基を表し、R
3及びR
4は、それぞれ独立に、水素原子、非極性基を表す。)
【0083】
なお、本実施形態において、「単量体」とは、重合前の化合物を意味し、「構成単位」とは、単量体が重合することで構成される所定の繰り返し単位を意味する。
【0084】
上記一般式(1)における非極性基としては、炭素原子及び/又はケイ素原子と水素原子により構成される基であれば特に制限されないが、例えば、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シリル基、シロキサニル基、などが挙げられる。なお、非極性基には水素原子は含まれない。
【0085】
この中でも、赤外線アブレーション層(c)のレーザー感度の観点から、R1、R2、R3及びR4の示す基としては、アルキル基、フェニル基、が好ましく、また、R1及びR2の示す基が、アルキル基、フェニル基であり、R3及びR4の非極性基が、アルキル基、フェニル基であること、または、R1及びR2の示す基が、アルキル基、フェニル基であり、R3及びR4が、水素原子であることがより好ましい。これにより、後述する溶剤系現像液への現像性がより向上する傾向にある。また、上記構成有することにより、後述するカーボンブラックの分散性がより向上し、水系現像液への現像性がより向上する傾向にある。
【0086】
また、この中でも、後述する水系現像液及び溶剤系現像液への現像性の観点から、R1の示す基としては、アルキル基、フェニル基、アシル基が好ましい。
【0087】
上記非極性基の炭素数は、好ましくは1以上20以下であり、より好ましくは1以上10以下であり、さらに好ましくは1以上5以下である。
【0088】
一般式(1)を満たす単量体としては、特に制限されないが、例えば、イソブチレン、2-メチル-2-ブテン、2,3ジメチル-2-ブテン、及びこれらのメチル基がエチル基などの他のアルキル基に置換したもの、これらの変性物;α-メチルスチレン、シス-(1-メチル-1-プロペニル)ベンゼン、トランス-(1-メチル-1-プロペニル)ベンゼン、及びこれらのメチル基がエチル基などの他のアルキル基に置換したもの、これらの変性物;1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。
【0089】
樹脂が構成単位(c1)を有することにより、樹脂単体で溶剤系現像液に対して優れた現像性を有するだけでなく、後述する高極性カーボンブラックを高い分散性を維持したまま分散することができ、これにより水系現像液に対して高い現像性を発現することができる。
【0090】
一般式(1)においてR3及びR4が、水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シリル基、シロキサニル基であることが好ましく、共に水素原子であることがより好ましい。これにより、樹脂の解重合性がより向上するため、赤外線アブレーション層(c)のレーザー感度がより向上する傾向にある。また、溶剤系現像液への現像性がより向上するほか、カーボンブラックの分散性がより向上し、水系現像液への現像性がより向上する傾向にある。
【0091】
このような構成を満たすものとして、具体的には、イソブチレン、α-メチルスチレン、及びこれらのメチル基がエチル基などの他のアルキル基に置き換わったもの等が挙げられる。なお、α-メチルスチレンなどのフェニル基を有する単量体を用いることにより、赤外線アブレーション層(c)の耐ピンホール性がさらに向上する傾向にある。また、このような単量体を用いることにより、水系現像液及び溶剤系現像液への現像性がより向上する傾向にある。
【0092】
更に、一般式(1)においてR1及びR2が、それぞれ独立に、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、フェニル基、アルケニル基、アラルキル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、シリル基、シロキサニル基であることが好ましく、アルキル基、フェニル基であることがより好ましく、それぞれ独立に、アルキル基であることがさらに好ましい。R1及び/又はR2がアルキル基であることにより、ゴム状弾性を得ることができる。そのため、エラストマーにおけるソフト部となることができ、赤外線アブレーション層(c)の可撓性がより向上する傾向にある。また、R1及び/又はR2がフェニル基であることにより、本構成体を比較的低温で平滑に成形できる傾向にある。
【0093】
また、構成単位(c1)は1種単独で用いても、2種以上を併用していてもよい。例えば、上記樹脂は、構成単位(c1)として、R1及びR2がアルキル基である構成単位と、R1及びR2の一方がアルキル基であり、もう一方がフェニル基である構成単位とを有していてもよい。これにより、アルキル基とフェニル基の両方の特性を向上することができる。
【0094】
このような構成を満たすものとして、具体的には、イソブチレン、及びこれらのメチル基がエチル基などの他のアルキル基に置換したものが挙げられる。
【0095】
また、構成単位(c1)の含有量は、樹脂の総量に対して、好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上であり、よりさらに好ましくは70質量%以上であり、さらにより好ましくは80質量%以上である。また、構成単位(c1)の含有量は、樹脂の総量に対して、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは95質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下であり、よりさらに好ましくは85質量%以下であり、さらにより好ましくは80質量%以下である。これらの数値の上下限は任意に組み合わせられる。
【0096】
構成単位(c1)の含有量が40質量%以上であることにより、赤外線アブレーション層(c)のレーザー感度および可撓性がより向上する傾向にある。また、構成単位(c1)の含有量が100質量%以下であることにより、赤外線アブレーション層(c)の耐ピンホール性がより向上する傾向にある。
【0097】
また、構成単位(c1)の含有量が上記範囲内であることにより、溶剤系現像液への現像性がより向上し、また、カーボンブラックの分散性がより向上するため、水系現像液への現像性がより向上する傾向にある。
【0098】
赤外線アブレーション層(c)で用いる上記樹脂は、構成単位(c1)とは別に、側鎖に芳香族基を含む構成単位(c2)を含有することが好ましい。構成単位(c2)としては、モノビニル置換芳香族炭化水素に由来する構成単位(c2)が好ましい。モノビニル芳香族炭化水素は一般式(1)で表される単量体と化学的に結合されていても良いし、別々の樹脂として添加しても良いが、分散性やそれによるレーザー加工均一性の観点で化学的に結合し共重合体となっていることが好ましい。樹脂がモノビニル置換芳香族炭化水素に由来する構成単位(c2)を含有することで、耐ピンホール性がより向上する傾向にある。
【0099】
モノビニル芳香族炭化水素化合物としては、特に制限されないが、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルピリジン、p-メチルスチレン、第三級ブチルスチレン等の単量体が挙げられる。このなかでも、本構成体を比較的低温で平滑に成形できることからスチレンが好ましい。構成単位(c2)は、1種のみを単独でも2種以上の併用でもよい。
【0100】
構成単位(c2)の含有量は、樹脂の総量に対して、好ましくは0質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、さらに好ましくは10質量%以上であり、よりさらに好ましくは15質量%以上であり、さらにより好ましくは20質量%以上である。また、構成単位(c2)の含有量は、樹脂の総量に対して、好ましくは60質量%以下であり、より好ましくは55質量%以下であり、さらに好ましくは50質量%以下であり、よりさらに好ましくは45質量%以下であり、さらにより好ましくは40質量%以下である。これらの数値の上下限は任意に組み合わせられる。
【0101】
構成単位(c2)の含有量が0質量%以上であることにより、赤外線アブレーション層(c)の耐ピンホール性がより向上する傾向にある。また、構成単位(c2)の含有量が60質量%以下であることにより、赤外線アブレーション層(c)のレーザー感度および可撓性がより向上する傾向にある。なお、「0質量%以上」とは、構成単位(c2)を含有している態様と、含有していない態様の両方を含むものである。これらの数値の上下限は任意に組み合わせられる。
【0102】
なお、赤外線アブレーション層(c)で用いる上記樹脂における構成単位(c1)及び(c2)等の含有量や比率は、核磁気共鳴装置(1H-NMR)を用いて測定することができる。
【0103】
赤外線アブレーション層(c)は、上記樹脂以外にもその他の樹脂を含有してもよい。その場合、上記樹脂の含有量は、赤外線アブレーション層(c)の全樹脂成分に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上100質量%以下である。上記樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、赤外線アブレーション層(c)のレーザー感度および可撓性がより向上する傾向にある。また、上記その他の樹脂として側鎖に極性基を有する樹脂を使用する場合には、レーザー感度の観点から、上記樹脂を全樹脂成分中で70%以上含有することが好ましい。
【0104】
上記樹脂の含有量は、赤外線アブレーション層(c)の総量に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、上記樹脂の含有量は、赤外線アブレーション層(c)の総量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。これらの数値の上下限は任意に組み合わせられる。
【0105】
上記樹脂の含有量が20質量%以上であることにより、赤外線アブレーション層(c)の耐ピンホール性および可撓性がより向上する傾向にある。また、上記樹脂の含有量が90質量%以下であることにより、赤外線アブレーション層(c)のレーザー感度や遮蔽性がより向上する傾向にある。
【0106】
また、上記樹脂の含有量が上記範囲内であることにより、溶剤系現像液及び水系現像液への現像性と、カーボンブラックの分散性がより向上する傾向にある。
【0107】
(赤外線吸収物質)
赤外線アブレーション層(c)は、アブレーション加工を行うため赤外線吸収物質を含有してもよい。赤外線吸収物質には通常750~2000nmの範囲で強い吸収をもつ単体あるいは化合物が使用される。
【0108】
そのような赤外線吸収物質としては、特に制限されないが、例えば、カーボンブラック、グラファイト、亜クロム酸銅、酸化クロムなどの無機顔料;ポリフタロシアニン化合物、シアニン色素、金属チオレート色素などの色素類などが挙げられる。粒径が小さいほど赤外線レーザーに対する感度も高くなるが、特にカーボンブラックは粒径が13nm以上85nm以下の広い範囲で使用が可能であり、赤外線吸収物質として好ましい。また、カーボンブラックは下記遮蔽物質としても機能し得る。これら赤外線吸収物質は、使用するレーザー光線で切除可能な感度を付与する範囲で添加される。
【0109】
(遮蔽物質)
赤外線アブレーション層(c)は、マスクとしての役割を担うため、紫外線などの非赤外線に対する遮蔽物質を含有してもよい。非赤外線に対する遮蔽物質としては紫外光を反射または吸収する物質を用いることができる。紫外線吸収剤やカーボンブラック、グラファイトなどが挙げられる。
【0110】
赤外線吸収物質及び遮蔽物質の総含有量は、赤外線アブレーション層(c)の総量に対して、好ましくは10質量%以上80質量%以下であり、好ましくは20質量%以上70質量%以下であり、好ましくは30質量%以上60質量%以下である。赤外線吸収物質及び遮蔽物質の総含有量が上記範囲内であることにより、レーザー感度及び遮蔽性がより向上する傾向にある。
【0111】
(カーボンブラック)
赤外線アブレーション層(c)が溶剤系現像液に対して優れた現像性を発現するには、赤外線アブレーション層(c)中の樹脂を低極性にすることが重要である。しかしながら、樹脂が低極性であると水系現像液に対しては現像性が低下してしまう。一方で、赤外線アブレーション層(c)が水系現像液に対して優れた現像性を発現するには、赤外線アブレーション層(c)中の樹脂を高極性にすることが重要であるが、樹脂が高極性であると溶剤系現像液に対して現像性が低下してしまう。
【0112】
そこで、検討の結果、ある特定の構造を有した樹脂と、低極性のカーボンブラックを組み合わせることにより、赤外線アブレーション層(c)が溶剤系現像液に対しても、水系現像液に対しても優れた現像性を発現することが分かってきた。
【0113】
本実施形態の赤外線アブレーション層(c)は、アブレーション加工を行うための赤外線吸収物質として、またマスクとしての役割を担うための非赤外線の遮蔽物質としてカーボンブラックを含有することが好ましい。
【0114】
溶剤系現像液及び水系現像液の双方に対して高い現像性を発現する観点から、カーボンブラックのpHは2.0以上5.5以下であることが好ましい。低pHのカーボンブラックは、その表面に官能基が多数導入されている状態であり、通常のカーボンブラックよりも親水性である。これにより、特に水系現像液に対して優れた現像性を発現することができる。
【0115】
カーボンブラックのpHは、2.5以上5.0以下がより好ましく、2.5以上4.5以下がさらに好ましい。カーボンブラックのpHは、ASTM D1512に準拠して、カーボンブラックと蒸留水の混合液を作製し、ガラス電極pHメーターにより測定する値である。
【0116】
カーボンブラックは、その製造方法から、例えばファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等に分類されるが、所望の特性を得るためにファーネスブラックが好ましい。
【0117】
ファーネスブラックは、高温ガス中に原料として石油系や石炭系の油を吹き込み、不完全燃焼させてカーボンブラックを得る方法であり、広く公知の方法を用いて製造することができる。
【0118】
カーボンブラックとしては上記を満たす範囲で、従来からブラックマトリックスを形成するために使用されているカーボンブラックを使用することができる。具体例としては三菱ケミカル製のMA7、MA8、MA11、MA14、MA77、MA100、MA100R、MA100S、MA220、MA230,#970、#1000、#2350、#2360等、東海カーボン製のトーカブラック#8300等が挙げられる。
【0119】
本構成体の赤外線アブレーション層(c)の膜厚は、印刷版用感光性樹脂構成体に対して露光処理を行う工程の際の紫外線に対する遮光性を確保する観点からは厚い方がよく、アブレーション性を高くする観点からは薄い方がよい。
【0120】
カーボンブラックの含有量は、赤外線アブレーション層(c)の総量に対して、好ましくは10質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは20質量%以上60質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以上50質量%以下である。カーボンブラックの含有量が上記範囲内であることにより、レーザー感度及び遮蔽性がより向上する傾向にある。
【0121】
また、赤外線アブレーション層(c)における上記樹脂とカーボンブラックの配合比(樹脂/カーボンブラック)は、好ましくは80/20~50/50の範囲にあり、より好ましくは75/25~55/45の範囲にあり、さらに好ましくは70/30~60/40の範囲にある。配合比(樹脂/カーボンブラック)が上記範囲内であることにより、レーザー感度及び遮蔽性がより向上する傾向にある。
【0122】
(分散剤)
赤外線アブレーション層(c)はカーボンブラックの分散性を補助する目的で分散剤を含有することが好ましい。ここで、分散剤としては、赤外線吸収剤の表面官能基と相互作用しうる吸着部と、バインダーポリマーと相溶し得る樹脂相溶部を有する化合物が好ましい。このような分散剤を用いることにより、カーボンブラックの分散性がより向上し、水系現像液への現像性がより向上する傾向にある。
【0123】
分散剤の吸着部としては、特に制限されないが、例えば、アミノ基、アミド基、ウレタン基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン基、ニトロ基が挙げられる。このなかでも、アミノ基、アミド基、ウレタン基が好ましい。
【0124】
また、樹脂相溶部としては、特に制限されないが、例えば、飽和アルキル、不飽和アルキル、ポリエーテル、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリル、ポリオールが挙げられる。
【0125】
分散剤の溶解度パラメータ(SP値)は、9.5以上12.5以下であることが好ましく、10.0以上12.0以下であることがより好ましい。溶解度パラメータ(SP値)が上記範囲内であることにより、カーボンブラックの分散性がより向上し、水系現像液への現像性がより向上する傾向にある。
【0126】
本実施形態における溶解度パラメータSP値δは、下記式(1)のように定義される。
δ=(ΔE/V)1/2 [(cal/cm3)1/2]・・・(1)
ここで、Vは溶媒のモル分子容、ΔEは凝集エネルギー(蒸発エネルギー)である。
【0127】
溶媒のモル分子容と凝集エネルギーは、例えば文献「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE, Vol. 14, 147-154, 1974」のように公知の値から求めることもできる。
【0128】
一方で、上記のパラメータが公知でない場合は、濁点滴定法と呼ばれる手法を用いて溶解度パラメータ(SP値)を実測することも可能である。
【0129】
具体的には、まず、SP値未知のサンプルをSP値既知の良溶媒に溶解させた溶液に対して、上記良溶媒よりもSP値が低い貧溶媒を滴下していき、溶質が析出し始めた貧溶媒の体積を測定する。続いて、新たに調製したSP値未知のサンプルをSP値既知の良溶媒に溶解させた溶液に対して、上記良溶媒よりもSP値が高い貧溶媒を滴下していき、溶質が析出し始めた貧溶媒の体積を測定する。ここで求めたそれぞれの貧溶媒の体積を下記式(2)に適用することで求めることができる。
δ=(Vml
1/2・δml+Vmh
1/2・δmh)/(Vml
1/2+Vmh
1/2)・・・(2)
ここで、Vmlは、SP値が低い貧溶媒の体積、VmhはSP値が高い貧溶媒の体積、δmlはSP値が低い貧溶媒のSP値、δmhはSP値が高い貧溶媒のSP値である。
【0130】
なお、後述する実施例に記載のSP値は全て上記濁点滴定法により実測した値を用いている。
【0131】
本実施形態の赤外線アブレーション層(c)の分散剤の含有量は、赤外線アブレーション層(c)中に赤外線吸収剤を均一に分散させつつ、赤外線アブレーション層(c)の強度を確保できる範囲内で選択し、添加することが好ましい。分散剤の含有量が少ないと、赤外線吸収剤を赤外線アブレーション層(c)中に十分に分散させることができないが、分散剤が多すぎると膜の強度が低下しピンホールを多発させるおそれがある。
【0132】
このような観点から、分散剤の含有量は、赤外線アブレーション層(c)の全体に対して、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上30質量%以下がより好ましく、3質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0133】
カーボンブラックとの関係においては、カーボンブラックの分散性の観点から、分散剤の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることがさらに好ましい。また、赤外線アブレーション層の膜強度の観点から、分散剤の含有量は、カーボンブラック100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、20質量部以下であることがさらに好ましい。
【0134】
本実施形態のフレキソ印刷原版において、赤外線アブレーション層(c)の分散剤は、分岐構造を有していることが好ましい。分岐構造を有している場合、分散剤の結晶性が低いため、高い分散性が得られる。
【0135】
本実施形態の赤外線アブレーション層(c)の分散剤の重量平均分子量は、赤外線アブレーション層中に赤外線吸収剤を均一に分散させつつ、分散剤がブリードアウトしない範囲内で選択することが好ましい。
【0136】
分散剤がブリードアウトした場合、赤外線吸収剤、例えばカーボンブラックと相互作用できないため、分散不良が生じ、剥離が重くなり、赤外線吸収剤、例えばカーボンブラックが凝集してピンホールが生じる。
【0137】
このような観点から、分散剤のゲル浸透カラムクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算で測定された重量平均分子量は、1000以上10000以下が好ましく、2000以上7000以下がより好ましく、2500以上5000以下がさらに好ましい。
【0138】
(膜厚)
本構成体の赤外線アブレーション層(c)の膜厚は、本構成体に対して露光処理を行う工程の際の紫外線に対する遮蔽性を確保する観点からは厚い方がよく、アブレーション性を高くする観点からは薄い方がよい。
【0139】
以上のような観点から、赤外線アブレーション層(c)の膜厚は0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.5μm以上15μm以下がより好ましく、1.0μm以上10μm以下がさらに好ましい。
【0140】
赤外線アブレーション層(c)の非赤外線遮蔽効果としては、赤外線アブレーション層(c)の光学濃度が2以上となることが好ましく、光学濃度が3以上となることがより好ましい。
【0141】
光学濃度は、D200-II透過濃度計(GretagMacbeth社製)を用いて測定できる。また、光学濃度はいわゆる視感(ISO visual)であり、測定対象の光は400~750nm程度の波長領域である。
【0142】
赤外線アブレーション層(c)の形成方法としては、特に制限されないが、例えば、赤外線吸収物質と非赤外線の遮蔽物質の両方をかねてカーボンブラックを使用する場合、まず、所定の溶媒を用いて樹脂溶液を調製し、そこにカーボンブラックと分散剤とを添加し、カーボンブラックを樹脂溶液中に分散させてからポリエステルフィルム等のカバーフィルム上にコーティングし、その後、このカバーフィルムを、感光性樹脂組成物層(b)にラミネート又はプレス圧着して赤外線レーザーで切除可能な非赤外線の遮蔽層を転写させる方法等がある。
【0143】
樹脂溶液にカーボンブラックを分散させる方法としては、撹拌羽根による強制撹拌と超音波や各種ミルを利用した撹拌を併用する方法が効果的である。あるいは樹脂とカーボンブラックと分散剤を、押し出し機やニーダーを用いて予備混練してから溶剤に溶解する方法も、カーボンブラックの良好な分散性を得るために有効である。また、ラテックス溶液の状態にある樹脂中に、カーボンブラックを強制分散させてもよい。
【0144】
赤外線アブレーション層(c)を製膜するための溶液や分散液等の溶媒は、使用する樹脂や赤外線吸収剤の溶解性を考慮して適宜選択できる。溶媒は一種のみを用いてもよく、二種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
【0145】
また、例えば、比較的低沸点の溶媒と高沸点の溶媒を混合して、溶媒の揮発速度を制御することで、赤外線アブレーション層(c)の膜質を向上させることも有効である。
【0146】
赤外線アブレーション層(c)を製膜するための溶媒としては、特に制限されないが、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、エチレングリコール、プロピレングリコール、エタノール、水、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-ペンタン、アセトニトリルやその類縁体等が挙げられる。
【0147】
本構成体の赤外線アブレーション層(c)を製膜するためのカバーフィルムは、寸法安定性に優れたフィルムであることが好ましく、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等が好ましい。
【0148】
カバーフィルムは未処理の状態で使用してもよいが、必要に応じて離型処理、帯電防止処理等の機能を付与したものを使用してもよい。
【0149】
(中間層(d))
本構成体は、感光性樹脂組成物層(b)と、赤外線アブレーション層(c)との間に、1層以上の中間層(d)を、さらに有していてもよい。中間層(d)は、特に制限されないが、例えば、酸素阻害層、接着層、及び/又は保護層とすることができる。以下、各層について説明する。
【0150】
高精細かつハイライト領域を有する印刷物を作製するためには、フレキソ印刷版に微小なドットを形成する必要がある。このような微小なドットを形成する観点から、中間層(d)は、酸素阻害能を有する酸素阻害層であることが好ましい。
【0151】
感光性樹脂組成物層(b)を紫外線の照射により硬化する際、硬化はラジカル重合によって進行する。このラジカル重合の際に酸素が共存するとラジカル生成化合物と酸素が反応して重合反応が抑制される。このように重合反応が抑制されると、感光性樹脂組成物層(b)の露光部に未反応部分が残るおそれがある。この未反応部分は、後述する第四の工程で除去されてしまうため、最終的にフレキソ印刷版に形成されるパターンは先端に曲線部を有する形状になる。これは、感光性樹脂組成物層(b)の赤外線アブレーション層(c)側の部分が特に酸素による重合阻害の影響を受けやすく、赤外線アブレーション層(c)の直下にあたる感光性樹脂組成物層(b)に未反応部分が生じやすいためである。
【0152】
これに対して、紫外線硬化時に酸素の共存量を減少させると重合反応が抑制されにくくなり、最終的に形成されるパターンは先端に平面部を有する形状になる。したがって、先端に平坦部を有するパターンを作製しようとする場合、中間層(d)が酸素阻害能を有することにより、感光性樹脂組成物層(b)に接する酸素を減少させることが有効である。
【0153】
また、中間層(d)は、感光性樹脂組成物層(b)と赤外線アブレーション層(c)の接着性を向上する接着層であってもよい。これによって取り扱い性がより向上する傾向にある。
【0154】
さらに、中間層(d)は、赤外線アブレーション層(c)を保護する機能も有してもよい。従来のフレキソ印刷版の製造工程においては、カバーフィルムと積層した赤外線アブレーション層(c)をフィルム送りする際、赤外線アブレーション層(c)がロールと接触したり、フィルムロール輸送中に巻き締まりが生じたりすることによって、ロール内において赤外線アブレーション層(c)とそれに積層されるカバーフィルムとがこすれたりする。これにより、赤外線アブレーション層(c)が物理的に欠落し、ピンホールが生じるおそれがある。また、感光性樹脂組成物層(b)を押し出し成型しながら赤外線アブレーション層(c)上に塗設する方法により感光性樹脂組成物層(b)と赤外線アブレーション層(c)を積層させる場合には、加熱溶融した感光性樹脂組成物が赤外線アブレーション層(c)上を流動した際に生じる摩擦よって、ピンホールが生じるおそれがある。
【0155】
このような赤外線アブレーション層(c)のピンホールの発生を防ぐために、本構成体を構成する中間層(d)は、保護層としての物理的な強度、耐熱性を有することが好ましい。
【0156】
〔フレキソ印刷版の製造方法〕
本実施形態のフレキソ印刷版の製造方法は、本構成体を用いて、まず、支持体(a)側から紫外線を照射する第一の工程と、赤外線アブレーション層(c)に赤外線を照射してパターンを描画加工する第二の工程と、パターンが描画加工された赤外線アブレーション層(c)をマスクとして、感光性樹脂組成物層(b)に紫外線を照射してパターン露光する第三の工程と、赤外線アブレーション層(c)と感光性樹脂組成物層(b)の未露光部を除去する第四の工程とを有する。
【0157】
その後、必要に応じて後露光処理する工程を行い、感光性樹脂組成物層の硬化物によるフレキソ印刷版(凸版印刷版)が得られる。なお、剥離性付与の観点から、フレキソ印刷版の表面をシリコーン化合物及び/又はフッ素化合物を含有する液と接触させてもよい。
【0158】
図2に、本実施形態のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を用いたフレキソ印刷版の製造方法を示す概略図を示す。以下各工程について詳説する。
【0159】
(第一の工程)
第一の工程において、支持体(a)側から感光性樹脂組成物層(b)へ紫外線照射する方法は、特に制限されず、公知の照射ユニットを使用して行うことができる。この際に照射する紫外線の波長は、好ましくは150~500nmであり、より好ましくは300~400nmである。
【0160】
紫外線の光源としては、特に制限されないが、例えば、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ジルコニウムランプ、カーボンアーク灯、紫外線用蛍光灯等を使用できる。
【0161】
なお、この第一の工程は、後述する第二の工程の前に行っても、第二の工程の後に行ってもよい。
【0162】
(第二の工程)
第二の工程において、赤外線アブレーション層(c)に赤外線を照射してパターンを描画加工する方法は、特に制限されず、公知の照射ユニットを使用して行うことができる。なお、赤外線アブレーション層(c)への赤外線の照射は、赤外線アブレーション層(c)側から行うことができる。
【0163】
本構成体が、カバーフィルムを有している場合には、赤外線照射前にまずカバーフィルムを剥離する。その後、赤外線アブレーション層(c)に赤外線をパターン照射して、赤外線の照射部の樹脂を分解し、パターンを描画加工する。これにより、感光性樹脂組成物層(b)上に赤外線アブレーション層(c)のマスクを形成することができる。
【0164】
第一の工程において、好適な赤外線レーザーとしては、例えば、ND/YAGレーザー(例えば、1064nm)又はダイオードレーザー(例えば、830nm)が挙げられる。CTP製版技術に好適なレーザーシステムは市販されており、例えば、ダイオードレーザーシステムCDI Spark(ESKO GRAPHICS社)を使用できる。このレーザーシステムは、本構成体を保持する回転円筒ドラム、IRレーザーの照射装置、及びレイアウトコンピュータを含み、画像情報は、レイアウトコンピュータからレーザー装置に直接送信される。
【0165】
(第三の工程)
第三の工程は、パターンが描画加工された赤外線アブレーション層(c)をマスクとして、感光性樹脂組成物層(b)に紫外線を照射してパターン露光する。この際、マスクを通過した光が感光性樹脂組成物層(b)の硬化反応を促進し、赤外線アブレーション層(c)に形成されたパターンが、凹凸が反転して、感光性樹脂組成物層(b)に転写される。紫外線の照射は、本構成体の全面に照射してもよい。
【0166】
第三の工程は、本構成体をレーザーシリンダに取り付けた状態で行うことができるが、一般的には、本構成体をレーザー装置から取り外し、慣用の照射ユニットを用いて照射する。照射ユニットは、第一の工程における紫外線照射で例示したものと同様のユニットを使用できる。
【0167】
(第四の工程)
第四の工程は、赤外線アブレーション層(b)と感光性樹脂組成物層(c)の未露光部を除去する工程である。第四の工程(現像工程における、除去方法は特に制限されず、従来公知の方法を適用できる。
【0168】
具体的には、上記のように、本構成体の感光性樹脂組成物層(b)を露光し、その後、未露光部分を溶剤現像用の溶剤又は水現像用の洗浄液で洗い流すか、あるいは40℃~200℃に加熱された未露光部分を吸収可能な所定の吸収層に接触させ、吸収層を除去することで未露光部分を取り除く。
【0169】
その後に、必要に応じて後露光処理することによって、フレキソ印刷版が製造される。
【0170】
なお、赤外線アブレーション層(c)と感光性樹脂組成物層(b)との間に中間層(d)を有する場合には、現像工程において同時に取り除いてもよい。
【0171】
未露光部を溶剤現像するために用いられる現像用の溶剤としては、特に制限されないが、例えば、ヘプチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート等のエステル類;石油留分、トルエン、デカリン等の炭化水素類;やテトラクロルエチレン等の塩素系有機溶剤にプロパノール、ブタノール、ペンタノール等のアルコール類を混合したもの;が挙げられる。未露光部の洗い出しは、ノズルからの噴射によって、またはブラシによるブラッシングで行われる。
【0172】
また、水現像用の洗浄液としては、水、アルカリ性水溶液、中性洗剤、界面活性剤を好適に用いることができる。
【0173】
界面活性剤とは、アニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0174】
アニオン系界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、硫酸エステル塩、高級アルコール硫酸エステル、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、硫酸化オレフィン、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、リン酸エステル塩、ジチオリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0175】
両性界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、アミノ酸型両性界面活性剤、ベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
【0176】
ノニオン系界面活性剤としては、特に制限されないが、例えば、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物等のポリエチレングリコール型界面活性剤やグリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール、及びソルビタンの脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエステル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等の多価アルコール型界面活性剤等が挙げられる。
【0177】
また、アルカリ性水溶液には、pH調整剤を用いてもよい。pH調整剤としては、有機材料、無機材料のいずれでもよいが、pHを9以上に調整できるものが好ましい。pH調整剤としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、琥珀酸ナトリウム等が挙げられる。
【0178】
熱現像の吸収層としては、特に制限されないが、例えば、不織布材料、紙素材、繊維織物、連続気泡発泡体、及び多孔質材料が挙げられる。このなかでも、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンからなる不織布材料、及びこれらの不織布材料の組み合わせが好ましく、ナイロン又はポリエステルの不織布連続ウェブがより好ましい。
【0179】
〔フレキソ印刷方法〕
本実施形態のフレキソ印刷方法は、上記フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を用い、支持体(a)側から紫外線を照射する第一の工程と、赤外線アブレーション層(c)に赤外線を照射してパターンを描画加工する第二の工程と、パターンが描画加工された赤外線アブレーション層(c)をマスクとして、感光性樹脂組成物層(b)に紫外線照射してパターン露光する第三の工程と、赤外線アブレーション層(c)と感光性樹脂組成物層(b)の未露光部を除去してフレキソ印刷版を製造する第四の工程と、フレキソ印刷版を用いて印刷する第五の工程と、を、有する。
【0180】
フレキソ印刷方法における第一の工程から第四の工程までは、上述のとおりである。
【0181】
(第五の工程)
第五の工程は、第一の工程から第四の工程によって得られたフレキソ印刷版を用いて印刷する工程である。フレキソ印刷版を用いた印刷方法は、フレキソ印刷版の凸部に対してインキを付着させ、そのインキを基材に転写させる方法であれば、特に制限されない。
【実施例】
【0182】
以下に、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0183】
〔フレキソ印刷版の製造〕
以下の実施例及び比較例において、フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を製造した。
【0184】
((1)支持体と感光性樹脂組成物層の積層体の製造)
タフプレンA(旭化成製、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体)60質量部と、B-2000(日本石油化学製、液状ポリブタジエン)30質量部、1,9-ノナンジオールジアクリレート7質量部、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン2質量部、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール0.3質量部とを加圧ニーダーで混練し、感光性樹脂組成物を調製した。
【0185】
次に、押し出し成型機に感光性樹脂組成物を投入し、T型ダイスから押し出し成型された感光性樹脂組成物層の片方の面に支持体(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を貼り合わせ、感光性樹脂組成物層の支持体積層側とは反対の面に離型フィルム(三菱化学社製、ダイアホイルMRV100)を貼り合わせて、支持体と感光性樹脂組成物層の積層体を得た。
【0186】
((2)赤外線アブレーション層に用いる樹脂の製造)
<樹脂1の製造>
2Lのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換した後、注射器を用いて、n-ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)456.1mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)656.5mLを加え、重合容器を-70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した後、イソブチレンモノマー161.1g(2871mmol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。p-ジクミルクロライド0.647g(2.8mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド1.22g(14mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン8.67mL(79.1mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から1.5時間同じ温度で撹拌を行った後、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約1mLを抜き取った。続いて、あらかじめ-70℃に冷却しておいたスチレンモノマー77.9g(748mmol)、n-ヘキサン23.9mLおよび塩化ブチル34.3mLの混合溶液を重合容器内に添加した。該混合溶液を添加してから45分後に、約40mLのメタノールを加えて反応を終了させた。
【0187】
反応溶液から溶剤等を留去した後、トルエンに溶解し2回水洗を行った。さらにトルエン溶液を多量のメタノールに加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより樹脂1を得た。スチレンの含有割合を1H-NMRにより求めたところ30質量%であった。
【0188】
<樹脂2~9の製造例>
使用するモノマーの種類、配合比を下記表1のように変更した以外は樹脂1と同様にして樹脂2~9を得た。下記表1に、樹脂の構成材料及び物性を示す。
【0189】
<樹脂10の製造例>
攪拌機を有する容器に、水2kg、第三リン酸カルシウム65g、炭酸カルシウム40g、ラウリル硫酸ナトリウム0.40gを投入し、混合液を得た。次いで、60Lの反応器に、水25kgを投入して80℃に昇温し、混合液及びメタクリル酸メチル21.5kg、ラウロイルパーオキサイド110g、2-エチルヘキシルチオグリコレート430gを投入した。その後、約75℃を保って懸濁重合を行い、発熱ピークを観測後、92℃に1℃/minの速度で昇温した。そして、60分間熟成し、重合反応を実質終了した。
【0190】
次いで、50℃まで冷却して懸濁剤を溶解させるために、20質量%硫酸を投入した。そして、重合反応溶液を、1.68mmメッシュの篩にかけて凝集物を除去し、得られたビーズ状ポリマーを洗浄脱水乾燥処理し、樹脂10を得た。
【0191】
【0192】
((3)赤外線アブレーション層積層体の製造)
<赤外線アブレーション層積層体1の製造例>
樹脂1:6.5質量部と、トルエン:54.0質量部と、シクロヘキサノン:36.0質量部と、を混合し、樹脂1を溶剤に溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、#1000)を3.5質量部をさらに投入し、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0193】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液をカバーフィルムとなる100μmの厚さのPETフィルム上に、乾燥後の膜厚が2.5μmとなるようにコーティングし、90℃で2分間の乾燥処理を施して、赤外線アブレーション層とカバーフィルムとの積層体である赤外線アブレーション層積層体1を得た。
【0194】
<赤外線アブレーション層積層体2~10の製造例>
使用する樹脂を、下記表2のように変更した以外は、赤外線アブレーション層積層体1と同様にして、赤外線アブレーション層積層体2~10を得た。
【0195】
<赤外線アブレーション層積層体11の製造例>
タフプレン315(旭化成製、スチレン-ブタジエンブロック共重合体)7.8質量部と、トルエン70.4質量部と、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート(PMA)17.6質量部と、を混合し、タフプレン315を溶剤に溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、MCF-88)をさらに投入し、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0196】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体1と同様にして、赤外線アブレーション層積層体11を得た。
【0197】
<赤外線アブレーション層積層体12の製造例>
ポリアミド(ヘンケル社製、マクロメルト6900)7.8質量部と、トルエン44.0質量部と、2-プロパノール44.0質量部と、を混合し、ポリアミドを溶剤に溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、MCF-88)をさらに投入し、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0198】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体1と同様にして、赤外線アブレーション層積層体12を得た。
【0199】
<赤外線アブレーション層積層体13の製造例>
ゴーセノールKL-05(ケン化度78~82モル%のポリ酢酸ビニル、日本合成化学工業(株)製)10質量部と、ε-カプロラクタム10質量部、N-(2-アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩90質量部、及び水100質量部を、ステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃で1時間加熱し、水溶性ポリアミドを調製した。次いで水分を除去して得られた水溶性ポリアミド10質量部を、水40質量部、メタノール20質量部、n-プロパノール20質量部、及びn-ブタノール10質量部に溶解させ、溶液を得た。
【0200】
得られた溶液に、カーボンブラック(三菱ケミカル製、#1000)を混合し、3本ロールミルを用いて混練分散させ、カーボンブラック分散液を得た。
【0201】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体1と同様にして、赤外線アブレーション層積層体13を得た。
【0202】
<赤外線アブレーション層積層体14の製造例>
攪拌装置付き加熱密閉容器にトルエン41部を仕込み、攪拌しながら変性ポリオレフィンハードレン13-LP(東洋紡製)を3.0部添加し、40℃の条件下で攪拌溶解を行った(第一段階)。常温まで放冷後、赤外線吸収物質としてカーボンブラックである三菱ケミカル製、MCF-88を6部添加し、90分プレミキシングを行った後に、サンドミルを用いカーボンブラックの分散を行った(第二段階)。その後再度40℃まで加熱を行い、トルエンを38.8部、メチルエチルケトンを3部およびハードレン13-LPを8.2部添加し攪拌溶解を行い(第三段階)、カーボンブラック:樹脂=35:65質量比の赤外線アブレーション層の塗工液を調製した。
【0203】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体1と同様にして、赤外線アブレーション層積層体14を得た。
【0204】
<赤外線アブレーション層積層体15の製造例>
セプトン2005(クラレ社製、スチレン:20wt%、プロピレン構造(R1がメチル基、R2~R4が水素原子):40wt%)7.8質量部と、トルエン70.4質量部と、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート(PMA)17.6質量部と、を混合し、セプトン2005を溶剤に溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、MCF-88)をさらに投入し、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0205】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体1と同様にして、赤外線アブレーション層積層体15を得た。
【0206】
【0207】
((4)フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体の作製)
<実施例1>
支持体と感光性樹脂組成物層の積層体から離型フィルムをはがし、赤外線アブレーション層積層体1を、赤外線アブレーション層が感光性樹脂組成物層に接するように、温度25℃、湿度40%の環境でラミネートし、120℃に設定したホットプレート上でカバーフィルム面をホットプレートの加熱部に接触するように配置して、1分間熱を加えて実施例1のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体1を得た。
【0208】
上述のようにして作製した実施例1のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体1を、以下のように評価した。評価結果を下記表3に示す。なお、評価はフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を10cm×15cmの大きさに切り出し、カバーフィルムをはがして行った。
【0209】
(評価方法)
<レーザー感度の評価>
フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を、Esko CDI SPARK2530に設置し、解像度8000dpi、レーザー強度3.0Jにおいて、2×1ピクセルの計2ピクセルを形成する画像パターンを持つテスト画像でレーザー描画を行った。
【0210】
その後、アブレーション部をレーザー顕微鏡(VK-X100、キーエンス(株)製;対物レンズ100倍)を用いて観察し、レーザーによって削れている長径方向(2ピクセル側)の赤外線アブレーション層表面の長さと、感光性樹脂組成物層との界面の長さを測定し、感光性樹脂組成物層との界面/赤外線アブレーション層表面の長さを、レーザー感度の指標として、下記のように評価した。
(評価基準)
A:穴は貫通しており感光性樹脂組成物との界面/赤外線アブレーション層表面の長さが0.50以上
B:穴は貫通しており感光性樹脂組成物との界面/赤外線アブレーション層表面の長さが0.40以上0.50未満
C:穴は貫通しており感光性樹脂組成物との界面/赤外線アブレーション層表面の長さが0.30以上0.40未満
D:穴は貫通しており感光性樹脂組成物との界面/赤外線アブレーション層表面の長さが0.30未満
E:穴は貫通していない
【0211】
<可撓性の評価>
フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を、中央付近を起点に、支持体が内側になるように180°(支持体が接触する程度)折り曲げ、その後、赤外線アブレーション層表面にしわが発生するか試験を行い、下記のように評価した。
(評価基準)
A:しわが発生しない。
B:しわが発生するが、構成体の端部のみにごくわずかに発生する。
C:しわが発生し、構成体の端部に複数発生する。
D:しわが発生し、構成体の端部だけでなく中央付近にしわがみられる。
E:構成体の全面にしわが発生する。
【0212】
<ピンホール評価>
赤外線アブレーション層積層体1を、赤外線アブレーション層が感光性樹脂組成物層に接するよう温度180℃でラミネートしサンプルを得た。このサンプルにおいて、赤外線アブレーション層のカバーフィルムを除去した後、ライトテーブル上に置き、顕微鏡検査を行った。赤外線アブレーション層において、長径20μm以上のサイズのピンホールの個数を数え、平均値を算出し、(個/m2)の値を算出し、下記のように評価した。
(評価基準)
A:ピンホールの数が、平均2(個/m2)より少ない。
B:ピンホールの数が、平均2(個/m2)以上で5(個/m2)より少ない。
C:ピンホールの数が、平均5(個/m2)以上で10(個/m2)より少ない。
D:ピンホールの数が、平均10(個/m2)以上で20(個/m2)より少ない。
E:ピンホールの数が、平均20(個/m2)以上である。
【0213】
<実施例2~10及び比較例1~5>
それぞれ赤外線アブレーション層積層体の種類を赤外線アブレーション層積層体2~12に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~15のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体2~15を作製し、評価を行った。評価結果を下記表3に示す。
【0214】
【0215】
((101-1)親水性共重合体の合成)
撹拌装置と温度調節用ジャケットを取り付けた耐圧反応容器に、水125質量部と、反応性乳化剤として(α-スルフォ(1-ノニルフェノキシ)メチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)のアンモニウム塩「アデカリアソープ」(旭電化工業製)2質量部を初期仕込みし、内温を80℃に昇温し、スチレン10質量部、ブタジエン60質量部、ブチルアクリレート23質量部、メタアクリル酸5質量部、及び、アクリル酸2質量部からなる単量体混合物とt-ドデシルメルカプタン2質量部との油性混合液と、水28質量部、ペルオキソ二硫酸ナトリウム1.2質量部、水酸化ナトリウム0.2質量部、及び、(α-スルフォ(1-ノニルフェノキシ)メチル-2-(2-プロペニルオキシ)エトキシ-ポリ(オキシ-1,2-エタンジイル)のアンモニウム塩2質量部からなる水溶液を、油性混合液を5時間、水溶液を6時間かけて一定の流速で添加した。ついで、80℃の温度をそのまま1時間保って、重合反応を完了し、共重合体ラテックスを得た後、冷却した。
【0216】
さらに、生成した共重合体ラテックスを水酸化ナトリウムでpHを7に調整した後、スチームストリッピング法により未反応の単量体を除去し、200メッシュの金網で濾過し、最終的には、ろ液の固形分濃度が40質量%になるように調整して親水性共重合体の水分散液を得た。
【0217】
得られた親水性共重合体の水分散液を50℃の真空乾燥機でドライアップすることにより、水を除去し、親水性共重合体を得た。
【0218】
((101-2)ベースフィルム(支持体)の作製)
支持体(ベースフィルム)にコートする接着剤層用の溶液として、スチレンと1,3-ブタジエンのブロック共重合体であるタフプレン912(旭化成株式会社製、商品名)を55質量部、パラフィンオイル(平均炭素数33、平均分子量470、15℃における密度0.868)を38質量部、1,9-ノナンジオールジアクリレートを2.5質量部、2,2-ジメトキシ-フェニルアセトフェノンを1.5質量部、エポキシエステル3000M(共栄社化学株式会社製、商品名)を3質量部、及びバリファストイエロー3150(オリエント化学工業製、商品名)を1.5質量部の割合で、トルエンに溶解させ固形分25%の溶液を得た。
【0219】
その後、ナイフコーターを用いて厚さ100μmポリエステルフィルムの片側に紫外線透過率(UV透過率)10%となるように塗布し、80℃で1分間乾燥して、接着剤層を有する支持体(ベースフィルム)を得た。
【0220】
支持体のUV透過率は、紫外線露光機AFP-1500(旭化成株式会社製、商品名)を用い、UV照度計MO-2型機(オーク製作所製、商品名、UV-35フィルター)で透過強度を測定し計算した。
【0221】
((101-3)支持体と感光性樹脂組成物層の積層体の製造)
上記(101-1)で調製した親水性共重合体32質量部と、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体[D-KX405:クレイトン製]28質量部を、加圧ニーダーを用いて140℃で混合後、液状ポリブタジエン[LBR-352:クラレ製]32質量部、1,9-ノナンジオールジアクリレート8質量部、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート5質量部、2,2-ジメトキシフェニルアセトフェノン2質量部、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール1質量部、カルビノール変性シリコーンオイル[KF-6000:信越化学製]1質量部の液状混合物を15分掛けて少しずつ加えて、加え終えてさらに20分混練し、感光性樹脂組成物を得た。
【0222】
次に、押し出し成型機に感光性樹脂組成物を投入し、T型ダイスから押し出し成型された感光性樹脂組成物層の片方の面に、上記支持体の接着剤層の形成面を貼り合わせ、感光性樹脂組成物層の支持体積層側とは反対の面に離型フィルム(三菱化学社製、ダイアホイルMRV100)を貼り合わせて、支持体と感光性樹脂組成物層の積層体を得た。
【0223】
((102)赤外線アブレーション層に用いる樹脂の製造)
<樹脂101の製造>
2Lのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換した後、注射器を用いて、n-ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)456.1mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)656.5mLを加え、重合容器を-70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した後、イソブチレンモノマー161.1g(2871mmol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。p-ジクミルクロライド0.647g(2.8mmol)及びN,N-ジメチルアセトアミド1.22g(14mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン8.67mL(79.1mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から1.5時間同じ温度で撹拌を行った後、重合溶液からサンプリング用として重合溶液約1mLを抜き取った。続いて、あらかじめ-70℃に冷却しておいたスチレンモノマー77.9g(748mmol)、n-ヘキサン23.9mLおよび塩化ブチル34.3mLの混合溶液を重合容器内に添加した。該混合溶液を添加してから45分後に、約40mLのメタノールを加えて反応を終了させた。
【0224】
反応溶液から溶剤等を留去した後、トルエンに溶解し2回水洗を行った。さらにトルエン溶液を多量のメタノールに加えて重合体を沈殿させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより樹脂101を得た。スチレンの含有割合を1H-NMRにより求めたところ30質量%であった。
【0225】
<樹脂102~105の製造例>
使用するモノマーの種類、配合比を下記表4のように変更した以外は樹脂101と同様にして樹脂102~105を得た。下記表4に、樹脂の構成材料及び物性を示す。
【0226】
【0227】
((103)赤外線アブレーション層積層体の製造)
<赤外線アブレーション層積層体101の製造例>
樹脂1:6.5質量部と、トルエン:54.0質量部と、シクロヘキサノン:36.0質量部と、を混合し、樹脂1を溶剤に溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、#1000、pH=3.5)3.5質量部と、Solsperse39000(日本ルーブリゾール株式会社製、SP値:11.5)と1.2質量部をさらに投入し、その後、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0228】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液をカバーフィルムとなる100μmの厚さのPETフィルム上に、乾燥後の膜厚が3.0μmとなるようにコーティングし、90℃で2分間の乾燥処理を施して、赤外線アブレーション層とカバーフィルムとの積層体である赤外線アブレーション層積層体101を得た。
【0229】
<赤外線アブレーション層積層体102~107、109~119、129の製造例>
使用する樹脂を、下記表5のように変更した以外は、赤外線アブレーション層積層体101と同様にして赤外線アブレーション層積層体102~107、109~119、129を得た。
【0230】
なお、カーボンブラックとして用いたMA77(三菱ケミカル製)のpHは2.5であり、トーカブラック#8300(東海カーボン製)のpHは5.0であり、トーカブラック#5500(東海カーボン製)のpHは6.0であった。これらpHは、ASTM D1512に準拠して、カーボンブラックと蒸留水の混合液を作製し、ガラス電極pHメーターにより測定して求めたものである(以下同じ)。
【0231】
また、分散剤として用いた、ディスパロンDA-703-50(楠本化成製)のSP値は11.0であり、Solsperse S11200(日本ルーブリゾール株式会社製)のSP値は9.5であり、Solsperse S18000(日本ルーブリゾール株式会社製)のSP値は8.1であり、アジスパーPB881(味の素ファインテクノ製) のSP値は12.1であった。これらSP値は、濁点滴定法で求めたものである(以下同じ)。
【0232】
<赤外線アブレーション層積層体108の製造例>
攪拌装置付き加熱密閉容器にトルエン41部を仕込み、攪拌しながら塩素化プロピレンスーパークロンHP-205(日本製紙製、塩素化度68%)を3.0部添加し、40℃の条件下で攪拌溶解を行った(第一段階)。常温まで放冷後、赤外線吸収物質としてカーボンブラックである三菱ケミカル製、#1000を6部、分散剤S39000を1.1部添加し、90分プレミキシングを行った後に、サンドミルを用いカーボンブラックの分散を行った(第二段階)。その後再度40℃まで加熱を行い、トルエンを38.8部、メチルエチルケトンを3部およびスーパークロンHP-205を8.2部添加し攪拌溶解を行い(第三段階)、カーボンブラック:樹脂=35:65質量比の赤外線アブレーション層の塗工液を調製した。
【0233】
上記のようにして得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体101と同様にして、赤外線アブレーション層積層体108を得た。
【0234】
<赤外線アブレーション層積層体120の製造例>
使用するカーボンブラックを、Printex35(デクサ製、pH=9.5)に変更した以外は、赤外線アブレーション層積層体8と同様にして赤外線アブレーション層積層体120を得た。
【0235】
<赤外線アブレーション層積層体121の製造例>
スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体エラストマーの水素添加物(旭化成製、タフテックH1051)7.8質量部と、トルエン70.4質量部と、プロピレングリコール1-モノメチルエーテル2-アセタート(PMA)17.6質量部と、を混合し、樹脂を溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、#30、pH=8.0)を4.2質量部、Solsperse39000(日本ルーブリゾール株式会社製)を0.6質量部をさらに投入し、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0236】
得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体1と同様にして、赤外線アブレーション層積層体121を得た。
【0237】
<赤外線アブレーション層積層体122の製造例>
使用するカーボンブラックを、#1000(三菱ケミカル製、pH=3.5)に変更した以外は、赤外線アブレーション層積層体121と同様にして赤外線アブレーション層積層体122を得た。
【0238】
<赤外線アブレーション層積層体123の製造例>
ポリアミド(ヘンケル社製、マクロメルト6900)7.8質量部と、トルエン44.0質量部と、2-プロパノール44.0質量部と、を混合し、樹脂を溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、#30、pH=8.0)4.2質量部、Solsperse39000(日本ルーブリゾール株式会社製)0.6質量部をさらに投入し、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0239】
得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体101と同様にして、赤外線アブレーション層積層体123を得た。
【0240】
<赤外線アブレーション層積層体124の製造例>
使用するカーボンブラックを、#1000に変更した以外は、赤外線アブレーション層積層体123と同様にして赤外線アブレーション層積層体124を得た。
【0241】
<赤外線アブレーション層積層体125の製造例>
ゴーセノールKL-05(ケン化度78~82モル%のポリ酢酸ビニル、日本合成化学工業(株)製)10質量部と、ε-カプロラクタム10質量部、N-(2-アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩90質量部、及び水100質量部を、ステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃で1時間加熱し、水溶性ポリアミドを調製した。次いで水分を除去して得られた水溶性ポリアミド10質量部を、水40質量部、メタノール20質量部、n-プロパノール20質量部、及びn-ブタノール10質量部に溶解させ、溶液を得た。溶液に、カーボンブラック(三菱ケミカル製、MA-100、pH=3.5)を混合し、3本ロールミルを用いて混練分散させ、カーボンブラック分散液を得た。
【0242】
得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体101と同様にして、赤外線アブレーション層積層体125を得た。
【0243】
<赤外線アブレーション層積層体126の製造例>
使用するカーボンブラックを、#30に変更した以外は、赤外線アブレーション層積層体125と同様にして赤外線アブレーション層積層体126を得た。
【0244】
<赤外線アブレーション層積層体127の製造例>
酸変性ポリマー(東亜合成製、UC-3510)0.5質量部と、スチレン-ブタジエン-スチレンエラストマーの水素添加物(旭化成製、タフテックH1051)1.3質量部と、トルエン44質量部と、を混合し、樹脂を溶解させた。その後、カーボンブラック(三菱ケミカル製、#30、pH=8.0)4.2質量部、Solsperse39000(日本ルーブリゾール株式会社製)0.6質量部をさらに投入し、ビーズミルで4時間混合しカーボンブラック分散液を得た。
【0245】
得られたカーボンブラック分散液を用いたこと以外は、赤外線アブレーション層積層体101と同様にして、赤外線アブレーション層積層体127を得た。
下記表5に、構成材料を示す。
【0246】
<赤外線アブレーション層積層体128の製造例>
使用するカーボンブラックを、#1000に変更した以外は、赤外線アブレーション層積層体127と同様にして赤外線アブレーション層積層体128を得た。
【0247】
【0248】
((104)フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体の製造)
<実施例101>
支持体と感光性樹脂組成物層の積層体から離型フィルムをはがし、赤外線アブレーション層積層体101を、赤外線アブレーション層が感光性樹脂組成物層に接するように、温度25℃、湿度40%の環境でラミネートし、120℃に設定したホットプレート上でカバーフィルム面をホットプレートの加熱部に接触するように配置して、1分間熱を加えて実施例101のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体101を得た。
【0249】
上述のようにして作製した実施例101のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体101を、以下のように評価した。評価結果を下記表6に示す。なお、評価はフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を10cm×15cmの大きさに切り出し、カバーフィルムをはがして行った。
【0250】
(評価方法)
<溶剤系現像液に対する現像性評価>
フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を、3-メトキシブチルアセテートを現像液として、「AFP-1500」現像機(旭化成社製、商品名)の回転するドラムに両面テープを貼り付けて固定を行い、液温25℃で現像を行い、60℃で2時間乾燥させた。0.8mm現像するのに要する時間を測定した。
【0251】
同様に支持体と感光性樹脂組成物層の積層体から離型フィルムをはがし、現像を行った。赤外線アブレーション層があることによりどれだけ現像時間が変化するかにより、赤外線アブレーション層の現像性を評価した。
(評価基準)
A:赤外線アブレーション層があることで現像時間が30秒未満悪化する。
B:赤外線アブレーション層があることで現像時間が30秒以上1分未満悪化する。
C:赤外線アブレーション層があることで現像時間が1分以上2分未満悪化する。
D:赤外線アブレーション層があることで現像時間が2分以上3分未満悪化する。
E:赤外線アブレーション層があることで3分以上時間を追加しても十分に洗浄できない。
【0252】
<水系現像液に対する現像性評価>
日本電子精機製現像機(JOW-A3-P)にニッサン石鹸1%水溶液を充填し、(2)で得られた印刷原版の赤外線アブレーション層のカバーフィルムを剥がして液温40℃で現像した。60℃で10分乾燥させた。0.8mm現像するのに要する時間を測定した。
【0253】
同様に支持体と感光性樹脂組成物層の積層体から離型フィルムをはがし、現像を行った。赤外線アブレーション層があることによりどれだけ現像時間が変化するかにより、赤外線アブレーション層の現像性を評価した。
(評価基準)
A:赤外線アブレーション層があっても現像時間の悪化は1分未満であった。
B:赤外線アブレーション層があることで現像時間が1分以上2分未満悪化する。
C:赤外線アブレーション層があることで現像時間が2分以上3分未満悪化する。
D:赤外線アブレーション層があることで現像時間が3分以上5分未満悪化する。
E:赤外線アブレーション層があることで5分以上時間を追加しても十分に洗浄できない。
【0254】
<カーボンブラック分散性の評価>
フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体を適切な大きさに切断した後、紫外線硬化樹脂を用いて樹脂包埋した。樹脂包埋後、クライオミクロトーム法により作製した断面をSEM観察試料とした。
〇断面加工条件
使用装置:ウルトラミクロトーム UC6(LEICA製)
設定温度:-80℃
設定切削厚み:100nm
〇SEM観察条件
測定装置:走査型電子顕微鏡 S4800(日立製)
加速電圧:1.0kV
観察倍率:5.0k
赤外線アブレーション層を観察し、得られた断面SEM観察像から下記のように評価した。
(評価基準)
A:カーボンブラックが均一に分散しており凝集塊がみられない。
B:カーボンブラックが均一に分散しており、凝集塊が一視野に2個未満である。
C:カーボンブラックが均一に分散しており、凝集塊が一視野に5個未満である。
E:カーボンブラックが偏在しており、凝集塊が一視野に5個以上存在する、もしくはカーボンブラックが存在しない領域が広く存在する。
【0255】
<実施例102~119及び比較例101~110>
それぞれ赤外線アブレーション層積層体の種類を赤外線アブレーション層積層体102~129に変更した以外は、実施例101と同様にして、実施例102~119及び比較例101~110のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体102~129を作製し、評価を行った。評価結果を、下記表6に示す。
【0256】
【産業上の利用可能性】
【0257】
本発明のフレキソ印刷版用感光性樹脂構成体は、広く一般商業印刷分野において、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0258】
1…フレキソ印刷版用感光性樹脂構成体、a…支持体、b…感光性樹脂組成物層、b’…パターン露光された感光性樹脂組成物層、c…赤外線アブレーション層、c’…パターンが描画加工された赤外線アブレーション層