(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】移動体用音発生装置
(51)【国際特許分類】
H04R 1/28 20060101AFI20240418BHJP
H04R 1/02 20060101ALI20240418BHJP
H04R 7/26 20060101ALI20240418BHJP
B60R 11/02 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H04R1/28 310B
H04R1/02 102B
H04R1/28 310Z
H04R7/26
B60R11/02 S
(21)【出願番号】P 2023001630
(22)【出願日】2023-01-10
(62)【分割の表示】P 2021076048の分割
【原出願日】2018-02-28
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2017048662
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017048663
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017048664
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017048665
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017048666
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017048667
(32)【優先日】2017-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000221926
【氏名又は名称】東北パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】土肥 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 智
(72)【発明者】
【氏名】根岸 孝之
(72)【発明者】
【氏名】小林 博之
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038443(WO,A1)
【文献】特開2006-345498(JP,A)
【文献】特開2004-172945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/28
H04R 1/02
H04R 7/26
B60R 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体が形成する箱状の空間に向けて音を放射するスピーカユニットと、スピーカユニットを収容するエンクロージャと、を備え、
前記スピーカユニットに、前記スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配され、
前記エンクロージャの少なくとも一部が、前記移動体のボディを兼ねていることを特徴とする移動体用音発生装置。
【請求項2】
前記エンクロージャは、前記移動体のボディを形成するフレームを兼ねていることを特徴とする請求項1に記載の移動体用音発生装置。
【請求項3】
前記フレームは、管状に形成され、かつ、栓部材により塞がれ、
前記エンクロージャは、前記栓部材及び前記フレームにより形成されていることを特徴とする請求項2に記載の移動体用音発生装置。
【請求項4】
前記エンクロージャは、前記ボディとしてのピラー、サイドシル、リインフォースメント、クロスメンバー、アンダーカバー、センタートンネルから選ばれる少なくとも1つにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の移動体用音発生装置。
【請求項5】
前記共振素子の少なくとも一部が、前記ボディに取り付けられたグロメットを兼ねていることを特徴とする請求項1~4何れか1項に記載の移動体用音発生装置。
【請求項6】
前記共振音の1/4波長は、人体頭部の耳珠間幅よりも長いことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の移動体用音発生装置。
【請求項7】
前記共振音の1/4波長は、前記耳珠間幅の2倍よりも長いことを特徴とする請求項6に記載の移動体用音発生装置。
【請求項8】
請求項1~7何れか1項に記載の移動体用音発生装置を備える移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体用音発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スピーカ装置(音発生装置)では、磁気回路に入力される入力信号と、振動板が振動することによって発生する発生音と、の間に位相差が生じることが知られている。このようなスピーカ装置がノイズキャンセル装置として用いられることがある。このとき、ノイズを集音するとともにノイズと逆位相の音を発生させて打ち消そうとしても、集音から音発生までの時間差だけでなく、上記の位相差により、発生音がノイズの逆位相からずれやすく、発生音とノイズとが打ち消し合いにくかった。そこで、位相差の周波数特性(位相特性)を予め測定又は算出しておき、発生音がノイズの逆位相となるように入力信号を制御する方法も考えられる。しかしながら、例えば最低共振周波数の前後のように位相差の変化率が高くなる周波数帯域が存在することがあるため、このような周波数帯域の前後においては、発生音がノイズの逆位相からずれやすいという不都合があった。
【0003】
一方、振動板の等価質量と最低共振周波数とを調節することにより、入力信号と発生音との位相差の低減を図ったスピーカユニットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された従来のスピーカユニットでは、振動板の等価質量と最低共振周波数との積を400g・Hz以下に設定することで位相差を低減しており、即ち、位相差の変化率も低くなっている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたスピーカユニットでは、振動板を軽くしたり最低共振周波数を低くしたりする必要があり、設計の自由度が低く、特定の周波数のノイズしか低減することができないという不都合があった。
【0005】
また、特許文献1に記載の技術では、上記のヘッドレストに頭を載せた特定の個人を対象としてノイズを打ち消すものであるが、車両などの移動体が形成する箱状の空間の内部の全般に亘ってノイズを打ち消したいとの要望もある。このような要望に応えるべく箱状の空間の内部にノイズを打ち消すためのスピーカユニットを配置したとき、スピーカユニットの発生音が、相対する壁面間での反射音による定在波の影響を受けることがある。
【0006】
このような定在波の影響により、スピーカユニットへの入力信号と、箱状の空間の各所に伝わるノイズ打消し用の音と、の位相差が、入力信号の周波数が変化したときに急激に変化するといった乱れが生じる場合がある。このような位相差の乱れがあると、集音したノイズを逆位相の音で打ち消すべくスピーカユニットでの入力信号の位相を調整しても、ノイズの打消しが困難となる恐れがある。また、このような定在波に起因する位相差の乱れの程度は、箱状の空間における場所ごとに異なることがある。このような乱れの程度のバラつきがあると、箱状の空間の各所でノイズの打消しの程度にバラつきが出る恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の第1の課題は、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節可能な音発生装置を提供することが一例として挙げられる。
【0009】
また、本発明の第2の課題は、箱状の空間の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができるアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを提供すること等が一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載の本発明の移動体用発生装置は、移動体が形成する箱状の空間に向けて音を放射するスピーカユニットと、スピーカユニットを収容するエンクロージャと、を備え、前記スピーカユニットに、前記スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配され、前記エンクロージャの少なくとも一部が、前記移動体のボディを兼ねていることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例1に係る移動体用音発生装置が設けられた車両を示す側面図である。
【
図2】(A)は
図1に示す車両を構成する車両ボディの斜視図であり、(B)は車両ボディを構成するピラーの分解斜視図であり、(C)は(A)の概略断面図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るスピーカユニットを示す断面図である。
【
図6】実施例1に示す音発生装置の機械要素を示す模式図である。
【
図7】実施例1に示す音発生装置の機械要素を回路要素に置換した等価回路である。
【
図8】比較例のスピーカユニットの機械要素を回路要素に置換した等価回路である。
【
図9】実施例1及び比較例のスピーカユニットにおける等価回路のインピーダンス及び発生音の周波数特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】実施例1及び比較例のスピーカユニットにおける位相特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図11】ノイズ信号と前記スピーカユニットが発生するキャンセル信号とこれらの合成信号との波を示すグラフである。
【
図12】他の実施例に係る移動体用音発生装置に用いられる管部材の分解斜視図である。
【
図13】本発明の実施例2に係るスピーカユニットを示す断面図である。
【
図14】本発明の実施例3に係るスピーカユニットを示す断面図である。
【
図15】前記実施例3のスピーカユニットの機械要素を回路要素に置換した等価回路図である。
【
図16】実施例3及び比較例のスピーカユニットにおける等価回路のインピーダンス及び発生音の周波数特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図17】実施例3及び比較例のスピーカユニットにおける位相特性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図18】本発明の実施例4に係るスピーカユニットを示す断面図である。
【
図19】本発明の実施例5に係るスピーカユニットを示す断面図である。
【
図20】本発明の実施例6に係るスピーカユニットを示す断面図である。
【
図21】本発明の実施例7に係ると移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図22】実施例7に示す移動体用音発生装置の機械要素を回路要素に置換した等価回路である。
【
図23】本発明の実施例8に係ると移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図24】本発明の実施例9に係ると移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図25】本発明の実施例10に係ると移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図26】本発明の実施例11に係ると移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図27】実施例7~11の変形例に係る移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図28】実施例7~11の変形例に係る移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図29】本発明の実施例12に係る移動体用音発生装置が設けられた車両を示す側面図である。
【
図30】
図1に示すスピーカユニットの配置を説明するための説明図である。
【
図31】本発明の実施例13に係る音発生装置が設けられた移動体を示す側面図である。
【
図34】実施例13の音発生装置及び比較例2の音発生装置における音圧の周波数依存性を示すグラフである。
【
図35】本発明の実施例14に係る音発生装置が設けられた移動体を示す側面図である。
【
図36】実施例14の音発生装置及び比較例3の音発生装置における音圧の周波数依存性を示すグラフである。
【
図37】実施例13、14の第1及び第2の変形例にかかる音発生装置のスピーカユニットを示す正面図である。
【
図38】実施例13、14の第3の変形例にかかる音発生装置のスピーカユニットを示す側面図である。
【
図39】実施例13、14の第4の変形例にかかる音発生装置のスピーカユニットを示す側面図である。
【
図40】実施例13、14の第5の変形例にかかる音発生装置のスピーカユニットを示す背面図である。
【
図41】実施例13、14の第6の変形例にかかる音発生装置のスピーカユニットを示す平面図である。
【
図42】実施例13、14の第7の変形例にかかる音発生装置のスピーカユニットを示す斜視図及び側面図である。
【
図43】本発明の実施例に係る移動体用音発生装置を備える移動体を示す側面図である。
【
図45】
図44中のI-I線に沿う断面を模式的に示す図である。
【
図46】前記移動体用音発生装置を示す断面図である。
【
図47】前記移動体用音発生装置の機械要素を回路要素に置換した等価回路図である。
【
図48】前記移動体用音発生装置における等価回路のインピーダンス及び発生音の周波数特性を示すグラフである。
【
図49】前記移動体用音発生装置における入力信号と発生音との位相差の周波数依存性を示すグラフである。
【
図50】本発明の実施例16に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す模式図である。
【
図51】
図51に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステムに対応したシミュレーション用のミニチュアボックスを示す模式図である。
【
図52】
図51に示されているミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の音圧特性を示すグラフである。
【
図53】
図51に示されているミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の位相特性を示すグラフである。
【
図54】比較例4に対応したシミュレーション用のミニチュアボックスを示す模式図である。
【
図55】
図54に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の音圧特性を示すグラフである。
【
図56】
図54に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の位相特性を示すグラフである。
【
図57】比較例4に対応したシミュレーション用のミニチュアボックスを示す模式図である。
【
図58】
図57に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の音圧特性を示すグラフである。
【
図59】
図57に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の位相特性を示すグラフである。
【
図60】本発明の実施例17に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す模式図である。
【
図61】本発明の実施例18に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す模式図である。
【
図62】本発明の実施例19に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムが備えるスピーカユニットの内部構造を示す図である。
【
図63】本発明の実施例20に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。
【
図64】本発明の実施例21に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。
【
図65】本発明の実施例22に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。
【
図66】本発明の実施例23に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。
【
図67】本発明の実施例24にかかる移動体用音発生装置を示す斜視図である。
【
図68】
図1の移動体用音発生装置の概略構成を示す断面図である。
【
図69】
図68の移動体用音発生装置の機械要素を回路要素に置換した等価回路図である。
【
図70】
図68の移動体用音発生装置における等価回路のインピーダンス及び発生音の周波数特性を示すグラフである。
【
図71】
図68の移動体用音発生装置における入力信号と発生音との位相差の周波数依存性を示すグラフである。
【
図72】本発明の実施例25にかかる移動体用音発生装置を示す斜視図である。
【
図73】
図72の管部材の他端に設けられた振動部材の断面図である。
【
図74】
図72の移動体用音発生装置の概略構成を示す断面図である。
【
図75】本発明の実施例26にかかる移動体用音発生装置を示す斜視図である。
【
図76】
図75の移動体用音発生装置の概略構成を示す断面図である。
【
図77】本発明の実施例27にかかるアクティブノイズコントロール用スピーカシステムが設けられた車両を示す側面図である。
【
図78】アクティブノイズコントロール用スピーカシステムが設けられた車両を示す平面図である。
【
図79】アクティブノイズコントロール用スピーカシステムの管部材の要部を示す正面図である。
【
図81】アクティブノイズコントロール用スピーカシステムにおける後方側のスピーカ装置を示す背面図である。
【
図82】本発明の実子例28に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムが設けられた移動体を示す平面図である。
【
図83】
図82に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステムにおける後方側のスピーカ装置を示す背面図である。
【
図84】本発明の実施例29に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムが設けられた車両を示す側面図である。
【
図85】
図84に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステムが設けられた車両を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明の一実施形態に係る移動体用音発生装置は、スピーカユニットと、スピーカユニットを収容するエンクロージャと、を備える。エンクロージャ及びスピーカユニットの少なくとも何れかに、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配される。
【0013】
音発生装置における入力信号と発生音との位相差の周波数特性(位相特性)は、周波数が高くなるにしたがって位相差が小さくなる傾向を示す。任意の周波数帯域において音発生装置における入力信号と発生音との位相差が無い場合、音発生装置における入力信号と発生音との位相差の絶対値は任意の周波数帯域から周波数が高くなるに従って大きくなる傾向を示す。
【0014】
上述したようにエンクロージャ及びスピーカユニットの少なくとも何れかに、共振素子を配することで、移動体用音発生装置による発生音の音圧の周波数特性(音圧特性)は、スピーカユニットの最低共振周波数に応じたピーク以外に、共振素子が発生する共振音の共振周波数(素子共振周波数)に応じた周波数において、サブピークを有する。尚、「スピーカユニットの最低共振周波数」とは、共振素子を除く部分の共振周波数を意味する。移動体用音発生装置における入力信号と発生音との位相差の周波数特性(位相特性)は、周波数が高くなるにしたがって位相差が小さくなる傾向を示すが、音圧特性がサブピークを有することにより、位相特性のグラフが、サブピークの周波数やその近傍において下向きに凸に変形しようとする。従って、位相特性のグラフには、位相差の変化が比較的緩やかな平坦領域が形成される。このような平坦領域の周波数においては、移動体用音発生装置による発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。また、スピーカユニットの最低共振周波数及びその近傍において、音発生装置における入力信号と発生音との位相差の変化率が比較的急峻に変化する傾向がある。従って、サブピークの周波数はスピーカユニットの最低共振周波数の近傍に設定されていることが好ましい。
【0015】
また、エンクロージャの少なくとも一部が、移動体のボディを兼ねているため、省スペース化を図ることができる。
【0016】
また、エンクロージャは、移動体のボディを形成するフレームを兼ねていてもよい。
【0017】
また、フレームは、管状に形成され、かつ、栓部材により塞がれ、エンクロージャは、栓部材及びフレームにより形成されていてもよい。これにより、フレームの構造を有効に利用できるため、より一層、省スペース化を図ることができる。
【0018】
また、エンクロージャは、ボディとしてのピラー、サイドシル、リインフォースメント、クロスメンバー、アンダーカバー、センタートンネルから選ばれる少なくとも1つにより形成されていてもよい。
【0019】
共振素子の少なくとも一部が、ボディに取り付けられたグロメットを兼ねていてもよい。これにより、グロメットとは別に共振素子を設ける必要がなくなり、コストダウンを図ることができる。
【0020】
また、共振素子の共振音の1/4波長は、人体頭部の耳珠間幅よりも長いことが好ましく、耳珠間幅の2倍よりも長いことがより好ましい。それにより、ユーザーの頭部に共振音の音波が到達した際、左右の耳における音圧の絶対値の差を小さくすることができる。即ち、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士には、最大で耳珠間幅だけ経路差が生じ得る。このとき、共振音の1/4波長が耳珠間幅(又はその2倍)よりも長いことで、左右の耳に到達する音波同士の位相差が小さくなり、音圧の絶対値の差が小さくなる。従って、上記のような平坦領域を形成することによる効果の左右差を低減することができる。また、音発生装置とユーザーの頭部との位置関係が変化した場合でも、同様に左右差を低減することができる。
【0021】
尚、耳珠間幅とは、左右の耳珠点間の直線距離であって、一般的には0.15m程度であるが、想定するユーザーの人種や性別等に応じて適宜な値を採用すればよい。また、1/4波長が0.15mとなる共振音の周波数は567Hzである。
【0022】
また、本実施形態における移動体は、上記の移動体用音発生装置を備える。このような移動体によれば、移動体用音発生装置に音を放射させることにより、箱状の空間内において低音域の音響特性を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の一実施形態に係る移動体用音発生装置は、スピーカユニットを備える。スピーカユニットに、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配され、空間を囲む複数の面のうち少なくとも2つが交わる交差部に向けてスピーカユニットの音が放射されている。ここで、箱状の空間を形成する移動体は複数の面を有しており、例えば、移動体の進行方向において、前面、後面、左側面、右側面、下面(底面)、及び、上面(天面)を有する。
【0024】
上述したようにスピーカユニットに共振素子を配することで、共振素子の共振周波数を適宜に設定することにより、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0025】
また、スピーカユニットの音が交差部に向けて放射されることで、スピーカユニットから放射された低音が少なくとも2つの面で反射されて移動体の空間内で反響しやすい。また、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性を向上させることができ、低音域のノイズを低減させやすくなる。
【0026】
本発明の一実施形態に係る移動体用音発生装置は、スピーカユニットと、該スピーカユニットを収容するエンクロージャと、を備える。エンクロージャ及びスピーカユニットの少なくとも何れかに、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配され、空間を囲む複数の面のうち少なくとも2つが交わる交差部に向けて移動体用音発生装置の音が放射されていることを特徴とする。
【0027】
上述したようにエンクロージャ及びスピーカユニットの少なくとも何れかに共振素子を配することで、共振素子の共振周波数を適宜に設定することにより、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0028】
また、移動体用音発生装置の音が交差部に向けて放射されることで、スピーカユニットから放射された低音が少なくとも2つの面で反射されて移動体の空間内で反響しやすい。また、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性を向上させることができ、低音域のノイズを低減させやすくなる。
【0029】
本発明の一実施形態に係る移動体用音発生装置は、スピーカユニットと、該スピーカユニットを収容するエンクロージャと、該エンクロージャの内部空間に一端が連通する管部材と、を備えている。スピーカユニット、エンクロージャ及び管部材の少なくとも何れかに、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配され、管部材の他端が、空間を囲む複数の面のうち少なくとも2つが交わる交差部を向いて開口している。
【0030】
上述したようにスピーカユニット、エンクロージャ及び管部材の少なくとも何れかに共振素子を配することで、共振素子の共振周波数を適宜に設定することにより、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0031】
エンクロージャの内部空間(スピーカユニットを収容する空間)に管部材の一端が連通していることで、スピーカユニットの背面側で生じた音のうち、管部材の長さに応じた低音域の成分が管部材内で共鳴し、他端から放射される。尚、エンクロージャと管部材とが一体に形成されていてもよい。さらに、管部材の他端が、移動体の空間を囲む複数の面のうち少なくとも2つが交わる交差部を向いて開口していることで、他端から放射された低音が少なくとも2つの面で反射されて移動体の空間内で反響しやすく、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性を向上させることができ、低音域のノイズを低減させやすくなる。
【0032】
管部材の他端は、複数の面のうち3つが交わる角部を向いて開口していてもよい。それにより、他端から放射された低音が3つの面で反射されて移動体の空間内で反響しやすく、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性をより向上させ、より低音域のノイズを低減させやすい。
【0033】
スピーカユニットは、移動体のインストルメントパネルの上面において前面側から音を放射するようにインストルメントパネルに設けられ、管部材の他端は、インストルメントパネルの下方において、前述した移動体が有する複数の面のうち前面と下面と側面とが交わる角部を向いて開口していてもよい。それにより、スピーカユニットがインストルメントパネルに設けられ、インストルメントパネルの上面において前面側から音を放射することで、放射された音を搭乗者に届きやすくすることができ、搭乗者に対するノイズキャンセル効果の向上を図ることができる。
【0034】
さらに、管部材の他端がインストルメントパネルの下方において移動体の前面と下面と側面とが交わる角部を向いて開口していることで、他端から放射されて角部周辺で反射された音は、対向する角部(移動体の後面と、上面と、反対側の側面と、が交わる角部)に向かって進行し、角部同士の間で定在波を形成する。このとき、角部間の距離は、対向する一対の面間の距離よりも長いことから、波長の長い定在波を形成することができ、移動体の空間内で低音を効率よく反響させることができる。
【0035】
スピーカユニット及びエンクロージャは、インストルメントパネル内に設けられ、管部材は、インストルメントパネル内を通過するようにしてもよい。それにより、スピーカユニット及びエンクロージャがインストルメントパネル内に設けられるとともに、管部材がインストルメントパネル内を通過することで、移動体用音発生装置を移動体に設けた場合に外観を良好に保つことができる。また、管部材の他端近傍がインストルメントパネルから突出することで露出していても、他端はインストルメントパネルの下方に位置していることから目立ちにくい。
【0036】
管部材は、少なくとも長手方向の一領域において、他端に向かうにしたがって断面形状が変化するようにしてもよい。それにより、管部材の他端から放射される音の音響特性を向上させることができる。また、管部材は、他端近傍の領域において、他端に向かうにしたがって断面形状が変化することがより好ましい。
【0037】
スピーカユニット及びエンクロージャが移動体の座席の下方に設けられ、管部材の一部が移動体の空調用ダクトと一体であり、管部材が移動体の進行方向における前方側に向かって延びている構成としてもよい。それにより、空調用ダクトを管部材として利用して低コスト化するとともに、ダクトを通すために移動体に形成された空間を利用することができる。尚、管部材の一部は、空調用ダクトのうち温風又は冷風が通過する通路部として共用されていてもよい。また、通路部が仕切り部によって仕切られて2以上の通路を有するとともに、1の通路が温風又は冷風の通過用に用いられ、他の通路を管部材の一部としてもよい。また、座席の下方におけるスピーカユニットの設置スペースが狭くても(即ち、スピーカユニットを小型化しても)、管部材の他端が交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0038】
エンクロージャが、移動体のインストルメントパネルに設けられた箱部の一部であり、スピーカユニットの前面が箱部の外側に向けられており、管部材の他端が、移動体の進行方向における少なくとも前面と下面とが交わる交差部を向いて開口している構成としてもよい。それにより、箱部の内側の空間を利用してスピーカユニットの背面側から放射された音を反響させることができる。さらに、インストルメントパネルは移動体の前方側に設けられるものであり、移動体の前面と下面とが交わる交差部に対して管部材の他端を向けやすい。また、箱部内の空間の狭小化を抑制するためにスピーカユニットを小型化しても、管部材の他端が交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0039】
スピーカユニット及びエンクロージャが、移動体が形成する箱状の空間内に収容されたスペアタイヤのホイール内に設けられている構成としてもよい。それにより、スペアタイヤのホイール内の空間を利用してスピーカユニット及びエンクロージャを設置することができる。尚、スペアタイヤのホイールは、移動体に取り付けて幅方向から見た際に、いずれかの面(例えば移動体の幅方向における内側の面)が凹状に形成されている。この凹状の部分にスピーカユニット及びエンクロージャが配置されていることを、「ホイール内に収容されている」という。また、スピーカユニット及びエンクロージャは、全体がホイール内に収容されていてもよいし、一部が収容されていてもよい。それにより、スペアタイヤのホイール内に収容するためにスピーカユニットを小型化しても、管部材の他端が交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0040】
スピーカユニット及びエンクロージャが、移動体の幅方向の中央部に設けられ、エンクロージャに、2本の管部材が接続され、2本の管部材が、幅方向において互いに反対側に向かって延び、その他端が、移動体の側面と、少なくとも他の1面と、が交わる交差部を向いて開口している構成としてもよい。それにより、幅方向の両側において管部材の他端から放射された低音が反響し、搭乗者にとって迫力のある再生音とすることができる。また、幅方向中央部においてスピーカユニットの設置スペースが狭くても、管部材の他端が交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0041】
スピーカユニット及びエンクロージャが、移動体の進行方向における後方側の交差部近傍に設けられ、管部材が、移動体のサイドシルの内側を通過し、その他端が、進行方向においてサイドシルよりも前方側の交差部を向いて開口している構成としてもよい。それにより、管部材の他端により放射された低音が交差部において反射され、低音域の音圧等の音響特性をより一層向上させることができる。また、スピーカユニットを低音再生用のスピーカユニット(例えば、100Hz以下の音を再生可能なスピーカユニットや、最低共振周波数が100Hz以下のスピーカユニット)としてもよい。周波数100Hz以下の音波は、指向性を感じにくいものであり、このような音波を放射するスピーカユニットを搭乗者の遠くに配置しても、音波を充分に届かせることができる。
【0042】
また、本発明の実施形態に係る移動体用音発生装置は、扉体を有する移動体が形成する箱状の空間に向けて音を放射するスピーカユニットと、該スピーカユニットを収容するエンクロージャと、を備え、エンクロージャ及びスピーカユニットの少なくとも何れかに、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配され、スピーカユニット及びエンクロージャが、扉体内に収容されている。
【0043】
音発生装置における入力信号と発生音との位相差の周波数特性(位相特性)は、周波数が高くなるにしたがって位相差が小さくなる傾向を示す。任意の周波数帯域において音発生装置における入力信号と発生音との位相差が無い場合、音発生装置における入力信号と発生音との位相差の絶対値は任意の周波数帯域から周波数が高くなるに従って大きくなる傾向を示す。
【0044】
エンクロージャ及びスピーカユニットの少なくとも何れかに共振素子を備えることで、共振素子の共振周波数を適宜に設定することにより、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0045】
また、エンクロージャの内部空間に一端が連通し、他端が空間に開口する管部材を備えることが好ましい。エンクロージャの内部空間に管部材の一端が連通していることで、スピーカユニットの後方側(箱状の空間に向けて音を放射する側(音放射側)の反対側)で生じた音のうち、管部材の長さに応じた低音域の成分が管部材内で共鳴し、他端から放射される。尚、エンクロージャと管部材とが一体に形成されていてもよい。
【0046】
また、スピーカユニットは、移動体における座席の座面よりも上方に設けられ、管部材の他端は、扉体の下方において空間に向けて開口していることが好ましい。それにより、スピーカユニットを移動体における座席の座面よりも上方に設けても、低音域の成分の音響特性が高い扉体の低い位置で低音域の成分が放射されるため、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0047】
また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音再生用スピーカ(例:ウーファー、サブウーファー)と比べて低音域の音圧が低い小型のスピーカユニットを用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができるため、スピーカユニットの小口径化が可能となる。
【0048】
また、管部材の他端が、扉体の下端部と当該扉体の下端部に対向する移動体の一部との間の間隙に向けて開口していることが好ましい。それにより、当該他端から放射された低音域の成分が、間隙を形成する扉体の下面と移動体の一部との2つの面で反射される。よって移動体の空間内で反響しやすく、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0049】
また、管部材の他端が、間隙を形成する移動体の一部を向いて開口していることが好ましい。それにより、他端から放射された低音域の成分が、間隙を形成する扉体の下面と移動体の一部との2つの面で反射される。よって移動体の空間内で反響しやすく、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0050】
また、扉体の上下方向における間隙の長さが、箱状の空間の内側(例えば座席がある位置)に向かって大きくなるように形成されていることが好ましい。このように箱状の空間の内側に向かって、扉体の上下方向における間隙の長さが広がることで、フレア効果により、風切音を生じにくくすること、或いは空気の乱れを生じにくくすることができる。さらに、管部材の他端から放射された低音域の成分が、間隙を形成する扉体の下面と移動体の一部との2つの面で反射されて移動体の空間内で反響しやすく、移動体用音発生装置における低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0051】
また、管部材の他端が、移動体における座席の座面の位置よりも低い位置で開口していることが好ましい。それにより、移動体の空間内で低音を効率よく反響させることができる。
【0052】
また、管部材が、扉体の内部にあることが好ましい。それにより、移動体の空間内で低音を効率よく反響させることができる。
【0053】
また、本発明の実施形態に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムでは、移動体が形成する箱状の空間に向けて音放射部から音を放射するスピーカ装置が、次のように配置されている。即ち、このスピーカ装置が、箱状の空間内において、移動体の前後方向及び左右方向の何れの方向においても略中央に音放射部の少なくとも一部が位置するように、配置されている。
【0054】
箱状の空間内の略中央で音を発生させることで、空間内の定在波と、スピーカ装置から空間内の各所に伝わる音と、の一次共振音が、中央以外の位置で音を発生させた場合の一次共振音よりも高音域に現れる。これにより、ノイズの打消しに有効な中低音域については入力信号に対する位相差が、入力信号の周波数、及び、空間内の場所に依らず安定する。その結果、箱状の空間の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができる。
【0055】
ここで、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムでは、スピーカ装置が、箱状の空間内において、移動体の上下方向についても、略中央に音放射部の少なくとも一部が位置するように、配置されていることが好ましい。これにより、ノイズ打消し用の入力信号に対する位相差について一層安定させることができる。その結果、箱状の空間の各所におけるノイズを一層良好に打ち消すことができる。
【0056】
また、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムにおいて、スピーカ装置が、音を発するスピーカユニットを音放射部として備えている。そして、箱状の空間内において、移動体の前後方向及び左右方向の何れの方向についても略中央に、スピーカユニット自体が配置されていてもよい。これによれば、システムの構成が簡単なものとなり、車両への設置についての手間を抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムにおいて、スピーカ装置が、音を発するスピーカユニットと、スピーカユニットの音を導いて一端の開口から音を放射する、音放射部としての音導管と、を備えている。そして、箱状の空間内において、移動体の前後方向及び左右方向の何れの方向についても略中央に、音導管の開口が配置されていてもよい。これによれば、箱状の空間内におけるスピーカユニットの配置については自由度が増すこととなり、設計や車両への設置についての手間を抑えることができる。
【0058】
また、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムにおいて、スピーカ装置が、音を発するスピーカユニットを備えている。そして、このスピーカ装置の構成要素の何れかに、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配されていることが好ましい。
【0059】
共振素子を備えることで、共振素子の共振周波数を適宜に設定することにより、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。この結果、箱状の空間の各所におけるノイズを一層良好に打ち消すことができる。
【0060】
本発明の実施形態にかかる移動体用音発生装置は、移動体が形成する箱状の空間に向けて音を放射するスピーカユニットと、スピーカユニットを収容する収容部と、収容部の内部空間に一端が連通し、他端が移動体の箱状の空間に開口する管部材と、を備えるものである。これら収容部、管部材及びスピーカユニットの少なくとも何れかには、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配されている。また、スピーカユニット、収容部及び管部材は、移動体の箱状の空間内に備えられた椅子に収容されている。
【0061】
収容部、管部材及びスピーカユニットの少なくとも何れかに共振素子が配されていることで、共振素子の周波数を適宜設定することにより、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調整することができる。
【0062】
また、管部材は、椅子の骨組みであることが好ましい。このように、従来から椅子に用いられている骨組みを管部材として兼用することにより、椅子の容積や重量の増加を最小限にすることができる。
【0063】
また、収容部が椅子の背もたれの下部に収容されており、管部材の他端が背もたれの上部に配置されていることが好ましい。それにより、放音する部分である管部材の他端が椅子に着座した者の耳の近傍に位置するので、着座した者にノイズのキャンセル音を確実に伝えることができる。
【0064】
本発明の実施形態に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムは、移動体が形成する箱状の空間に向けて音放射部から音を放射するスピーカ装置を少なくとも2つ備える。2つのスピーカ装置は、それぞれが備えるスピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子が配される。そして、それら2つのスピーカ装置が、箱状の空間において、移動体の進行方向の前方側及び後方側、又は、幅方向の一方側及び他方側における隅部に音放射部の少なくとも一部が位置するように、それぞれ配置されている。
【0065】
まず、共振素子を備えることで、共振素子の周波数を適宜設定することにより、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調整することができる。
【0066】
そして、アクティブノイズコントロール用スピーカシステムが上記のようなスピーカ装置を少なくとも2つ備え、それぞれが移動体の2つの隅部に配置されている。これにより、各隅部における空きスペースが狭小であっても、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム全体の放射音の音圧特性を向上させ、ノイズのキャンセル音の音響特性を向上させることができる。
【0067】
ここで、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムでは、スピーカ装置を4つ備えていてもよい。そして、これらのスピーカ装置が、進行方向の前方側及び後方側、及び、幅方向の一方側及び他方側における4箇所の隅部に音放射部の少なくとも一部が位置するように、それぞれ配置されていることが好ましい。これにより、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム全体の放射音の音圧特性を一層向上させ、ノイズのキャンセル音の音響特性を一層向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムでは、スピーカユニットの背面を収容する収容部と、収容部の内部空間に一端がつながるとともに他端が前記箱状の空間において開口した管部材と、を有していることが好ましい。これにより、スピーカユニットの背面側で生じた音のうち、管部材の長さに応じた低音域の成分が管部材内で共鳴し、他端から放射される。隅部においては低音が反響しやすいことから、管部材の他端から放射された低音が反響し、ノイズのキャンセル音について、低音域の音響特性を特に向上させることができる。尚、収容部と管部材とが一体に形成されていてもよい。
【0069】
また、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムでは、2つのスピーカ装置が、前方側及び後方側における隅部に音放射部の少なくとも一部が位置するように、それぞれ配置されている。そして、前方側に配置されたスピーカ装置におけるスピーカユニットと、後方側に配置されたスピーカ装置におけるスピーカユニットと、が、所定の時間差をつけて動作することが好ましい。それにより、2つのスピーカユニットの放射音によって移動体の空間内に形成される定在波の節の位置を適宜に調節し、ノイズのキャンセル音について、良好な音響特性を得ることができる。
【0070】
また、本実施形態のアクティブノイズコントロール用スピーカシステムでは、上述したように、2つのスピーカ装置が、前方側及び後方側における隅部に音放射部の少なくとも一部が位置するように、それぞれ配置されている。そして、前方側に配置されたスピーカ装置における管部材の他端は、箱状の空間を囲む複数の面のうち少なくとも2つの面が交わる前方側交差部を向いて開口している。また、後方側に配置されたスピーカ装置における管部材の他端は、上記の複数の面のうち他の少なくとも2つの面が交わる後方側交差部を向いて開口している。そして、前方側及び後方側の管部材の他端から放射された音波によって形成される定在波の波長は、前方側交差部と後方側交差部との間隔に等しいことが好ましい。それにより、前後の管部材の他端から放射された音波は、各交差部において反射され、交差部間に定在波が形成される。交差部同士の間隔に等しい波長を有する定在波が生じることで、上述のようにこの定在波の節の位置を調節し、ノイズのキャンセル音について、比較的波長の長い音(即ち、低音)における音響特性を向上させることができる。一方、前方側と後方側とで時間差なく管部材の他端から音を放射した場合、このような波長の定在波の節は、交差部同士の中間位置に形成されるため、移動体が前方側の座席及び後方側の座席を備える場合、前方側の座席の頭部位置のやや後方に節が位置することがあり、前方座席の頭部位置において音圧が低下しやすい。従って、所定の時間差を設けることによって節をさらに後方側にずらせば、ノイズのキャンセル音について、前方座席の搭乗者にとっての低音域の音響特性を向上させることができる。
【実施例】
【0071】
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1に係る移動体用音発生装置(以下、「音発生装置」と略記することもある)1Aが設けられた車両Cを示す側面図である。
図2(A)は
図1に示す車両を構成する車両ボディの斜視図であり、(B)は車両ボディを構成するピラーの分解斜視図であり、(C)は(A)の概略断面図である。
【0072】
まず、移動体用音発生装置1Aを説明する前に、移動体としての車両Cについて説明する。車両Cは、金属製の車両ボディ11と、車両ボディ11の前後方向前側に設けられたフロント開口11Aを覆うウインドシールド(フロントガラス)12と、車両ボディ11の幅方向両側に設けられたサイド開口11Bを覆うサイドドア13と、車両ボディ11の前後方向後ろ側に設けられたリア開口11Cを覆うリアドア14と、を有している。
【0073】
車両Cには、前後方向前側からエンジンルーム、車室が形成され、車室内の後ろにトランクルームが形成されている車もある。車室内には、運転席、助手席、後部座席などの座席SHが複数配置されている。
【0074】
また、上記車両ボディ11は、例えば、
図2及び
図3に示すように、ピラーP1~P3、サイドシル(図示せず)、リインフォースメント(図示せず)、クロスメンバー(図示せず)といった複数の長尺のフレームと、これらフレームに支持されるパネル11D、11E、11F、11Gやアウタパネルなどから形成されている。ピラーP1~P3は、車両ボディ11のパネル11D及び11G間を支持する管状のフレームである。ここで、長尺のフレームとは、長手方向と短手方向を有する平面形状を有するフレームを言う。
【0075】
ピラーP1~P3は、サイド開口11Bの枠の一部をなしている。本実施例では、3つのピラーP1~P3が左右それぞれに設けられている。ピラーP1は、前方側のサイド開口11Bの後枠及び後方側のサイド開口11Bの前枠をなしていて、上下方向に沿って設けられている。また、ピラーP2は、後方側のサイド開口11Bの後枠をなしていて、上下方向に沿っている。ピラーP3は、前方側のサイド開口11Bの前枠をなしていて、上下方向に沿っている。ここで、サイド開口11Bとは、車両ボディ11の側面に設けられた開口をいい、サイドドア13等で開閉される開口である。前枠とは、車両Cの前方側にある枠をいい、後枠とは、車両Cの後方側にある枠を言う。
【0076】
本実施例では、車両ボディ11には3つのピラーP1~P3が左右それぞれに設けられているが、これに限ったものではなく、ピラーP1~P3としては1以上設けられていればよい。ピラーP1~P3は、
図2(C)に示すように、アウターピラーPo及びインナーピラーPiから構成された管部材である。アウターピラーPo及びインナーピラーPiは、長尺状の中間部(板部)21と、中間部21の短手方向両側から延在する一対の端部22と、を有する断面略U字状に形成されている。中間部21は、長尺状で平板状に形成されている。端部22は、中間部21から延び、折り曲げられた又は湾曲した形状を備えている。アウターピラーPo及びインナーピラーPiは、互いの中間部21同士が対向するように一対の端部22の端部同士を重ねている。これにより、管状に形成される。なお、アウターピラーPoの外側にはアウタパネルが配置されるが、
図2(B)及び
図2(C)からは省略されている。
【0077】
本実施例では、アウターピラーPo及びインナーピラーPiは、両者とも断面略U字状に形成されていたが、これに限ったものではない。例えば、アウターピラーPo及びインナーピラーPiの何れか一方を断面略U字状に設け、他方を平板状に設けて、断面略U字状の一方の開口を平板状の他方で塞いで管状に設けるようにしてもよい。
【0078】
次に、移動体用音発生装置1Aについて説明する。移動体用音発生装置1Aは、
図1、
図3及び
図4に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット21A、22Aと、スピーカユニット21A、22Aを収容する収容部としてのエンクロージャ31A、32Aと、を備えている。車両Cの前方側には、スピーカユニット21A、エンクロージャ31Aが配置され、車両Cの後方側には、スピーカユニット22A、エンクロージャ32Aが配置されている。
【0079】
図3に示すように、スピーカユニット21Aは、ピラーP1内に配置され、ピラーP1の一部がエンクロージャ31Aの一部を形成している。また、
図4に示すように、スピーカユニット21Bは、ピラーP2内に配置され、ピラーP2の一部がエンクロージャ31Aの一部を形成している。なお、スピーカユニット21A、22Aの詳細な構成については、後述する。
【0080】
エンクロージャ31Aの一部は、ピラーP1の一部を兼ねている。
図3に示す例では、ピラーP1の一端側(上方側)の側面に開口31A1が設けられている。この開口31A1をスピーカユニット21Aの後述する振動板が覆うように、スピーカユニット21AがピラーP1内に収容されている。開口31A1は、ピラーP1の座席SH側の部分に幅方向に貫通して設けられている。これにより、スピーカユニット21Aは、その正面が座席SHに向けて配置されている。
【0081】
ピラーP1は、その長手方向に離間して配置された一対の栓部材41により内部が塞がれている。一対の栓部材41は、ピラーP1の開口31A1を挟んだ長手方向両側を塞いでいる。スピーカユニット21Aは、一対の栓部材41間に配置されている。即ち、一対の栓部材41、一対の栓部材41間のピラーP1がエンクロージャ31Aを形成している。
【0082】
エンクロージャ32Aの一部は、ピラーP2の一部を兼ねている。
図4に示す例では、ピラーP2の一方側(上方側)の端面に開口32A1が設けられている。この開口32A1をスピーカユニット22Aの後述する振動板が覆うように、スピーカユニット22AがピラーP2内に収容されている。これにより、スピーカユニット22Aは、その正面が上方に向けて配置されている。
【0083】
ピラーP2は、栓部材42により塞がれている。スピーカユニット22Aは、栓部材42よりも上方に配置されている。即ち、栓部材42及び栓部材42よりも上方のピラーP2がエンクロージャ32Aを構成している。エンクロージャ31A、32Aの大きさは、栓部材41、42の配置位置に調整することができる。上述したようにエンクロージャ31A、32Aの少なくとも一部が、車両CのピラーP1、P2ボディを兼ねているため、ピラーP1、P2の構造を有効に利用して、省スペース化を図ることができる。
【0084】
次に、上述したスピーカユニット21A、22Aの詳細な構成について、
図5を参照して説明する。スピーカユニット21A、22Aは、
図5に示すように、フレーム200と、フレーム200に接続される振動板300と、振動板300をフレーム200に接続するエッジ400と、振動板300に直接的に接続される筒状のボイスコイル500と、ボイスコイル500をフレーム200に接続するダンパ6と、ボイスコイル500の内側に挿入される磁気回路7と、振動板300に接続された弾性部材8A(共振素子)と、を備える。即ち、スピーカユニット21A、22Aは、一般的なコーン型のスピーカ装置に弾性部材8Aが設けられたものである。また、スピーカユニット21A、22Aは、ノイズを集音する集音部と、ボイスコイルに入力信号を送信する送信部と、を備えた外部装置とともに移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット21A、22Aと外部装置とによってノイズキャンセル装置が構成されるようになっている。
【0085】
磁気回路7は、ボイスコイル500の内側において、
図5における下から順に、磁石71とプレート72と磁石73とが積み重ねられた突出形状を有している。
【0086】
弾性部材8Aは、例えばゴムによって平面視円環状に形成され、その外周縁81が振動板300の音放射面(本実施例では中央部よりもボイスコイル500側)に接続されるとともに、内周縁82が自由端となる。この弾性部材8Aの自由端の内側におもり85が接続される。
【0087】
このようなスピーカユニット21A、22Aにおいて音を放射する際、振動板300及び弾性部材8Aは次のように振動する。振動板300は、その内周側(ボイスコイル500側)に対して外周縁(エッジ側)にほとんど遅れが生じず、全体が一体的に振動する。一方、弾性部材8Aは、外周縁においては振動板300と一体的に振動するものの、その弾性により、内周縁においては外周縁よりも遅れて振動する。言い換えれば、弾性部材8A内を伝搬する振動の波は、内周縁に対して外周縁よりも遅れて到達するので、内周縁における振動の波の位相と、外周縁における振動の波の位相と、の間に所定の差が生じる。
【0088】
従って、移動体用音発生装置1Aにおける機械要素を
図6のように模式的に示すことができる。即ち、弾性部材8Aが、振動板300に接続されるとともに所定の質量を有する剛体83と、剛体83に接続されて伸縮時に機械抵抗を生じるとともに所定の質量を有するバネ84と、により構成されているとみなすことができる。また、弾性部材8Aには、おもり85が接続されている。また、振動板300については機械要素を図示しないが、振動板300とダンパ6とエッジ400は、弾性及び質量を有していることから、バネ84とおもり85と機械抵抗とにより構成されているものとみなすことができる。
【0089】
図6に示すような機械要素を電気的な回路要素に置換すると、
図7に示すような電気回路となる。即ち、振動板300による部分P10と、弾性部材8Aによる部分P11と、が直列に接続された回路となる。振動板300による部分P10においては、ダンパ6、エッジ400及びボイスコイル500の機械抵抗による抵抗R1と、ダンパ6及びエッジ400のコンプライアンスによるコンデンサC1と、振動板300、ダンパ6及びエッジ400の振動質量によるコイルL1と、が直列に接続されている。また、弾性部材8Aによる部分P11においては、バネ84のコンプライアンスによるコンデンサC2と、バネ84の機械抵抗による抵抗R2と、が直列に接続されるとともに、コンデンサC2及び抵抗R2に対し、おもり85の振動質量によるコイルL2が並列に接続されている。
【0090】
図7から明らかなように、振動板300は、RLC共振回路から構成され、ダンパ6、エッジ400及びボイスコイル500の機械抵抗、コンプライアンス、振動板300、ダンパ6及びエッジ400の振動質量に応じた共振周波数を有する。一方、弾性部材8Aも、RLC共振回路から構成され、バネ84のコンプライアンス、バネ84の機械抵抗、おもり85の振動質量に応じた共振周波数を有する。このとき、弾性部材8Aの共振周波数は、スピーカユニット21A、22Aの最低共振周波数(即ち、弾性部材8Aを取り除いた状態のスピーカユニット21A、22Aの最低共振周波数)とは異なる値に設定されている。従って、スピーカユニット21A、22Aの振動板300が振動する際、弾性部材8Aはスピーカユニット21A、22Aの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させ、共振素子として機能する。なお、共振音の1/4波長は、耳珠間幅(例えば0.15m)の2倍よりも充分に長い。
【0091】
ここで、スピーカユニット21A、22Aから弾性部材8Aを取り除いた比較例の音発生装置について、同様に機械要素を回路要素に置換すると、
図8に示すような電気回路となる。即ち、抵抗R1とコンデンサC1とコイルL1とが直列に接続された回路となる。
【0092】
実施例1のスピーカユニット21A、22A、及び、比較例の音発生装置におけるインピーダンスの周波数特性、及び、音圧の周波数特性(音圧特性)について、上記の電気回路に基づいて算出したシミュレーション結果を
図9に示す。
図9の横軸は周波数を対数表示したものであり、左側の縦軸は音圧を示し、右側の縦軸はインピーダンスを示す。また、
図9の一点鎖線が実施例1に対応し、実線が比較例に対応する。
【0093】
弾性部材8Aが設けられていない比較例において、インピーダンスは約70Hzで最大値となり、これが最低共振周波数となる。一方、弾性部材8Aが設けられた実施例1において、インピーダンスは約80Hzで最大値となり、これが最低共振周波数となるとともに、30~40Hzにおいて極大値をとる。従って、実施例1のスピーカユニット21A、22Aにおける音圧は、約90Hzで最大となり、30~40Hzにおいて極大値となる。即ち、音圧特性は、最低共振周波数よりも低域側の所定の周波数(30~40Hz)にサブピークを有する。従って、弾性部材8Aを設けることにより、最低共振周波数と異なる所定の周波数にサブピークが形成される。このサブピークの周波数は、上述した弾性部材8Aの共振周波数(素子共振周波数)によって定まる。
【0094】
次に、実施例1のスピーカユニット21A、22A、及び、比較例の音発生装置における位相特性のシミュレーション結果を
図10に示す。尚、位相特性とは、ボイスコイル500に入力される入力信号と発生音との位相差の周波数依存性を意味する。また、
図10の横軸は周波数を対数表示したものであり、縦軸は位相(位相が-180°以下の値については、360°を加算した値で表示し直している)を示す。また、
図10の一点鎖線が実施例1に対応し、実線が比較例に対応する。ノイズ信号を検出し、ノイズキャンセルのために音発生装置からキャンセル信号を放射した際に、ノイズ信号とキャンセル信号との間に位相差が生じてしまうと、キャンセル効果が低下したり、逆にノイズが増大したりしてしまうことがある。例えば、ノイズ信号とキャンセル信号との位相差が60°の場合について、ノイズ信号、ノイズ信号と振幅の等しいキャンセル信号及びこれらの合成信号の波を
図11に示す。ノイズ信号及びキャンセル信号が放射された空間において実際に発生する音の音圧は、合成信号の振幅となる。
図11の例では、ノイズ信号とキャンセル信号とで振幅が等しい場合には、ノイズ信号の振幅と合成信号の振幅とが等しくなり、ノイズ信号とキャンセル信号との位相差が60°を超えるとキャンセル効果が得られなくなる。
【0095】
比較例の音発生装置の位相特性では、最低共振周波数において位相差が-90°となり、周波数が低くなるにしたがって位相差も低下していく。一方、実施例1の移動体用音発生装置1Aでは、最低共振周波数において位相差が-100°となり、周波数が低くなるにしたがって位相差も低下していくものの、所定の周波数の前後において位相差が略一定となる平坦領域を有している。即ち、所定の周波数の前後において、実施例1の移動体用音発生装置1Aの方が比較例の音発生装置よりも、位相差の変化率が低くなる。実施例1において、所定の周波数における位相差は約-80°となっている。また、実施例1では、所定の周波数における位相差の変化率は約0となり、最低共振周波数における位相差の変化率よりも低い。
【0096】
上記の構成により、スピーカユニット21A、22Aに共振素子としての弾性部材8Aが配されていることで、平坦領域の周波数においては、スピーカユニット21A、22Aによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、弾性部材8Aの素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。即ち、弾性部材8Aの共振周波数は、
図9に示すようにスピーカユニット21A、22Aの最低共振周波数とは異なる周波数帯にサブピークが発生するような範囲で異ならせればよい。
【0097】
なお、上述した実施例1によれば、エンクロージャ31A、32Aの一部がピラーP1、P2により構成されていたが、これに限ったものではない。エンクロージャ31A、32Aが、車両ボディ11を構成する長尺状の管状のフレームであるサイドシルを兼ねるようにしてもよい。サイドシルは、上述した車両ボディ11のサイド開口11Bの下枠をなしている。サイドシルは、前後方法に沿った環状に設けられている。ここで上枠、下枠とは、車両の上側、下側にある枠をいう。
【0098】
また、上述した実施例1によれば、車両ボディ11を構成するピラーP1~P3やサイドシルSSなどの管状のフレームを音響管41A、42A、4Bの一部にしていたが、本発明はこれに限ったものではない。例えば、車両ボディ11を構成する長尺のフレームFのうちリインフォースメント、クロスメンバー、センタートンネルなどは、
図12に示すように、底板91と、底板91の幅方向から立設した一対の立板92と、から構成された断面略U字状に設けられているものもある。このようなフレームFにその開口を覆う、車両ボディ11とは別に設けられた覆い部材93を取り付けて管部材を形成し、エンクロージャ31A、32Aの一部としてもよい。即ち、管部材が、車両ボディ11を構成する長尺のフレームFを少なくとも備えていればよい。また、アンダーカバーのようにある程度の面積のあるパネル状の車両ボディ11に、例えば受け皿状の別部材の筐体を取り付けて、エンクロージャ31A、32Aとしてもよい。
【0099】
[実施例2]
次に、実施例2について
図13を参照して説明する。
図13は、本発明の実施例2に係るスピーカユニット21B、22Bを示す。実施例1のスピーカユニット21A、22Aに代えて、
図13に示すスピーカユニット21B、22Bを採用してもよい。
【0100】
実施例2のスピーカユニット21B、22Bは、フレーム200と、振動板300と、エッジ400と、ボイスコイル500と、ダンパ6と、磁気回路7と、弾性部材8Bと、を備え、弾性部材8Bが、振動板300の一部として設けられている。即ち、振動板300が、エッジ400に接続された円環状の外周部31と、外周部31と離隔するとともにボイスコイル500に接続された円環状の内周部32と、を有し、外周部31と内周部32との間に円環状の弾性部材8Bが設けられている。弾性部材8Bの外縁部81が外周部31に接続され、内縁部82が内周部32に接続されることで、振動板300が弾性部材8Bを有して一体に形成されている。
【0101】
上記の構成により、振動板300の一部に弾性部材8Bとして機能する部分を形成すればよく、部品点数を削減することができる。
【0102】
[実施例3]
次に、実施例3について
図14を参照して説明する。
図14は、本発明の実施例3に係るスピーカユニット21C、22Cを示す断面図である。実施例1のスピーカユニット21A、22Aに代えて、
図14に示すスピーカユニット21C、22Cを採用してもよい。尚、
図14ではスピーカユニット21C、22Cの左側を省略して示しているが、スピーカユニット21C、22Cは左右対称であり、左側においても右側と同様の構成を有している。スピーカユニット21C、22Cは、フレーム200と、振動板300と、エッジ400と、ボイスコイル500と、ダンパ6と、磁気回路7Cと、内側に閉空間A1を形成する弾性部材8Cと、を備える。弾性部材8Cは、磁気回路7Cを外側から隠すような形状を有する部材であって、円板状の胴体部86と、胴体部86の外側に設けられた円環状のエッジ部87と、を有し、エッジ部87の外側の外縁が振動板300の音放射面の中間部(具体的には中央部)に接続されている。磁気回路7Cは、ヨーク74と、ボイスコイル500の外側においてヨーク74の上側に積み重ねられた磁石75と、磁石75の上側に積み重ねられたプレート76と、ボイスコイル500の内側においてヨーク74から突出するとともに貫通孔77が形成された突出部78と、を有する。
【0103】
また、ボイスコイル500はボイスコイル支持部501に接続され、ボイスコイル支持部501は、ダンパ6を介してフレーム200に接続されている。ボイスコイル支持部501の上端側は、キャップ部材100によって閉じられており、下端側は開口している。ボイスコイル支持部501の上端側にキャップ部材100が設けられていることで、キャップ部材100と弾性部材8Cとの間に閉空間A1が形成されている。また、ボイスコイル支持部501内の空間は、ヨーク74の突出部78に形成された貫通孔77を介して外部とつながっている。
【0104】
スピーカユニット21C、22Cの回路要素に置換すると、
図15に示すような電気回路となる。即ち、振動板300による部分P10と、弾性部材8C及び閉空間A1による部分P13と、振動板300及び閉空間A1による部分P14と、が直列に接続された回路となる。弾性部材8C及び閉空間A1による部分P13では、エッジ部87のコンプライアンスによるコンデンサC3と、エッジ部87の機械抵抗による抵抗R3と、胴体部86から見た閉空間A1のコンプライアンスによるコンデンサC4と、胴体部86から見た閉空間A1の機械抵抗による抵抗R4と、が直列に接続され、胴体部86及びエッジ部87の振動質量によるコイルL3と並列に接続されている。振動板300及び閉空間A1による部分P14では、振動板300から見た閉空間A1のコンプライアンスによるコンデンサC5と、振動板300から見た閉空間A1の機械抵抗による抵抗R5と、が直列に接続されている。
【0105】
実施例3のスピーカユニット21C、22Cにおけるインピーダンスの周波数特性、及び、音圧の周波数特性について、上記の電気回路に基づいて算出したグラフを
図16に示す。実施例3のスピーカユニット21C、22Cにおいても、実施例1のスピーカユニット21A、22Aと同様に、最低共振周波数とは異なる所定の周波数にサブピークが形成される。さらに、実施例3のスピーカユニット21C、22Cの位相特性を
図17に示す。実施例3のスピーカユニット21C、22Cにおいても、実施例1のスピーカユニット21A、22Aと同様に、所定の周波数の前後において変化率が低くなる。
【0106】
上記の構成により、弾性部材8Cを設けて閉空間A1を形成することで、閉空間A1の大きさを変更することにより、所定の周波数を適宜に調節することができる。
【0107】
[実施例4]
次に、実施例4について
図18を参照して説明する。
図18は、本発明の実施例4に係るスピーカユニット21D、22Dを示す断面図である。実施例1のスピーカユニット21A、22Aに代えて、
図18に示すスピーカユニット21D、22Dを採用してもよい。
【0108】
スピーカユニット21D、22Dは、フレーム200と、振動板300と、エッジ400と、ボイスコイル500と、ダンパ6と、磁気回路7Dと、弾性部材8Dと、を備える。尚、スピーカユニット21D、22Dは実施例3のスピーカユニット21C、22C(
図14)と同様に左右対称であり、
図18ではスピーカユニット21D、22Dの左側を省略して示している。弾性部材8Dは、実施例3のスピーカユニット21C、22Cにおける弾性部材8Cの胴体部86の略中央に孔88が形成されたものである。従って、弾性部材8Dを設けても閉空間が形成されないようになっている。
【0109】
また、実施例4のスピーカユニット21D、22Dにおいても、実施例3のスピーカユニット21C、22Cと同様に、ボイスコイル500がボイスコイル支持部501に接続され、ボイスコイル支持部501は、ダンパ6を介してフレーム200に接続されている。ボイスコイル支持部501の上端側は、キャップ部材100によって閉じられており、下端側は開口している。ボイスコイル支持部501の上端側にキャップ部材100が設けられていることで、キャップ部材100と弾性部材8Dとの間には空間A2が形成されている。空間A2は、孔88を介して外部とつながっている。また、ボイスコイル支持部501内の空間(キャップ部材100よりも下側の空間)は、ヨーク74の突出部78に形成された貫通孔77を介して外部とつながっている。
【0110】
上記の構成により、弾性部材8Dを設けて空間A2を形成することで、空間A2の大きさを変更することにより、所定の周波数を適宜に調節することができる。
【0111】
[実施例5]
次に、実施例5について
図19を参照して説明する。
図19は、本発明の実施例5に係るスピーカユニット21E、22Eを示す断面図である。実施例1のスピーカユニット21A、22Aに代えて、
図19に示すスピーカユニット21E、22Eを採用してもよい。
【0112】
図19は、本発明の実施例5に係るスピーカユニット21E、22Eを示す断面図である。スピーカユニット21E、22Eは、フレーム200と、振動板300と、エッジ400と、ボイスコイル500と、ダンパ6と、磁気回路7Eと、弾性部材8Eと、を備える。尚、スピーカユニット21E、22Eは実施例3のスピーカユニット21C、22C(
図14)と同様に左右対称であり、
図19ではスピーカユニット21E、22Eの左側を省略して示している。磁気回路7Eは、実施例3、4の磁気回路7C、7Dの構成に加え、音放射方向の前方側に向かって延びて弾性部材8Eに接続される延長部79を有する。延長部79は、磁気回路7Eのヨーク74の突出部78と一体に形成されていてもよいし、別体に形成されていてもよい。また、延長部79が突出部78と一体に形成されない場合、延長部79は磁性体で構成されていなくてもよい。また、ボイスコイル500はボイスコイル支持部501に接続され、ボイスコイル支持部501は、ダンパ6を介してフレーム200に接続されている。ヨーク74の突出部78に形成された貫通孔77は、上端側が延長部79によって閉じられ、突出部78に形成された貫通孔77は下端側が開口して外部とつながっている。
【0113】
また、振動板300における弾性部材8Eよりも下方側の部分には、孔33が形成され、フレーム200にも孔23が形成されている。従って、弾性部材8Eの下方側の空間は、孔33及び孔23を介して外部とつながっている。
【0114】
弾性部材8Eは、実施例3のスピーカユニット21C、22Cにおける弾性部材8Cの胴体部86にエッジ部89が形成されたものである。即ち、胴体部86のうちエッジ部89より外側の部分(2つのエッジに挟まれた部分)が振動本体部90Aとなり、エッジ部89より内側の部分が被固定部90Bとなる。被固定部90Bの背面に延長部79が固定され、被固定部90Bが振動しないようになっている。
【0115】
[実施例6]
次に、実施例6について
図20を参照して説明する。
図20は、本発明の実施例6に係るスピーカユニット21F、22Fを示す断面図である。実施例1のスピーカユニット21A、22Aに代えて、
図20に示すスピーカユニット21F、22Fを採用してもよい。
【0116】
スピーカユニット21F、22Fは、フレーム200と、振動板300と、エッジ400と、ボイスコイル500と、ダンパ6Fと、磁気回路7と、を備える。尚、スピーカユニット21F、22Fは実施例3のスピーカユニット21C、22C(
図14)と同様に左右対称であり、
図20ではスピーカユニット21F、22Fの左側を省略して示している。振動板300はダンパ6Fの中間部(具体的には中央部)に接続されている。即ち、ダンパ6Fのうち振動板300と接続部分63よりも内側の内側部分64を介し、ボイスコイル500が振動板300に間接的に接続され、外側部分65によって振動板300がフレーム200に接続されている。従って、振動板300に接続された内側部分64が弾性部材として機能し、振動板300とボイスコイル500との間に弾性部材が設けられた構成とみなすことができる。
【0117】
なお、本発明は、前記実施例1~6に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0118】
例えば、前記実施例1では、入力信号に対する発生音の位相差の絶対値が所定の周波数において約80°であるものとしたが、所定の周波数における位相差は適宜な値に設定されていればよい。例えば、所定の周波数にける位相差の絶対値を65°以下としてもよく、このように設定することで、特に、発生音の音圧とノイズの音圧とが等しい場合、又は、発生音の音圧よりもノイズの音圧の方が小さい場合には、発生音とノイズとの合成波の振幅(音圧)を小さくすることができ、ノイズが低減される。共振周波数と所定の周波数とを充分に離れた値とし、位相差の変化率が低い範囲を広くすることができ、この範囲において発生音をノイズの逆位相からずれにくくすることができる。
【0119】
例えば、
図10に示される位相特性の最低周波数(周波数20Hz)における位相差は0°~-90°の間にあるが、これに限られず、0°~90°の間にあってもよく、適宜設定できる。
【0120】
[実施例7]
次に、本発明の実施例7に係る移動体用音発生装置について
図21を参照して説明する。
図21は、本発明の実施例7に係る移動体用音発生装置1Gを示す断面図であり、
図21は、移動体用音発生装置1Gの機械要素を回路要素に置換した等価回路図である。実施例1のエンクロージャ31A、32Aに代えて、
図21に示す共振素子としての管状部102や振動部材103を配したエンクロージャ31G、32Gを用いてもよい。
【0121】
スピーカユニット20は、上述した実施例1~6に示したスピーカユニット21A~21F、22A~22Fと同じでもよいし、21A~21F、22A~22Fから弾性部材8A~8Eを除いたもの、即ち共振素子が配されていないものでもよい。
【0122】
エンクロージャ31G、32Gは、スピーカユニット20の後方側(音放射側の反対側)を囲んで後方空間S11を形成するエンクロージャ本体301と、スピーカユニット20の前方側(音放射側)を囲んで前方空間S12を形成する前方収容部302と、を有する。エンクロージャ本体301は、壁部として、後方空間S11と外部空間とを区画する外壁部301Aを有する。前方収容部302は、壁部として、前方空間S12と外部空間とを区画する外側区画壁302Aを有する。これら外壁部301A、外側区画壁302Aが、ピラーP1、P2や栓部材41、42などから構成されている。
【0123】
外側区画壁302Aには、管状部102と、振動部材103と、が設けられている。尚、管状部102が、外側区画壁302Aのうち音放射方向に沿って延びる部分に設けられ、振動部材103が、外側区画壁302Aのうちスピーカユニット20と対向する部分に設けられているものとするが、管状部102および振動部材103は、それぞれ外側区画壁302Aの適宜な位置に設けられていればよい。
【0124】
管状部102は、外側区画壁302Aを貫通するとともに、外側区画壁302Aの面直方向に沿って延びる円筒状に形成されている。尚、管状部102は、外側区画壁302Aの面直方向に対して傾きを有していてもよいし、角筒状に形成されていてもよい。また、図示の例では、前方収容部302から外側にのみ突出した管状部102を示しているが、管状部102は、内側にのみ突出していてもよいし、外側および内側に突出していてもよい。
【0125】
音波が管状部102を通過する際、管状部102の内側の気体(空気)が振動する。このとき、管状部102の内側の気体は、内径や長さに応じた振動質量を有することから、管状部102は、この振動質量に応じた共振周波数を有する。管状部102の共振周波数は、スピーカユニット20の最低共振周波数とは異なる値に設定されている。従って、スピーカユニット20が音を放射した際、管状部102は、スピーカユニット20の最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させ、共振素子として機能する。
【0126】
振動部材103は、重量部103Aと、弾性支持部103Bと、を有する。重量部103Aは、例えば金属部材によって平板状に形成されたおもりである。弾性支持部103Bは、例えばゴム等の弾性部材によって形成され、重量部103Aの周縁部に設けられる。外側区画壁302Aのうち振動部材103が設けられる部分には開口が形成されており、振動部材103によってこの開口が塞がれる。即ち、弾性支持部103Bによって、重量部103Aの外周縁と、外側区画壁302Aの開口の内周縁と、が接続され、重量部103Aが外側区画壁302Aに対して振動可能に支持される。
【0127】
スピーカユニット20の振動板の振幅により放射された空気の疎密波(音波)によって重量部103Aが振動しようとする。振動部材103は、重量部103Aおよび弾性支持部103Bの機械抵抗やコンプライアンス、振動質量に応じた共振周波数を有する。このとき、振動部材103の共振周波数は、スピーカユニット20の最低共振周波数とは異なる値に設定されている。従って、スピーカユニット20の放射音が外側区画壁302Aにおいて反射される際、振動部材103は、スピーカユニット20の最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させ、共振素子として機能する。
【0128】
以上のような音発生装置1Gでは、共振素子としての管状部102および振動部材103が設けられていることから、スピーカユニット20の前方側から放射されるとともに前方空間S12を通過して管状部102から外部空間に放射される音は、スピーカユニット20の最低共振周波数だけでなく、管状部102および振動部材103の共振周波数においても音圧が強められる。
【0129】
以下、音発生装置1Gが放射する音に関し、音圧の周波数依存性(音圧特性)、及び、スピーカユニット20のボイスコイルへの入力信号と発生音との位相差の周波数依存性(位相特性)について説明する。
【0130】
まず、音発生装置1Gの機械要素を回路要素に置換した等価回路図を
図22に示す。前方収容部302による部分P15と、管状部102による部分P16と、振動部材103による部分P17と、が並列に接続されており、並列に接続された部分全体を、前方要素による部分P20とする。スピーカユニット20による部分P18と、エンクロージャ本体301による部分P19と、前方要素による部分P20と、が直列に接続されている。
【0131】
前方収容部302は、その容積によって定まるコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、前方収容部302による部分P15においては、コンプライアンスによるコンデンサCb2と、機械抵抗による抵抗Rb2と、が直列に接続されている。
【0132】
管状部102は、その内側の気体の振動質量と、振動時の機械抵抗と、を有しており、管状部102による部分P16においては、振動質量によるコイルmpと、機械抵抗による抵抗Rmpと、が直列に接続されている。
【0133】
振動部材103は、重量部103Aおよび弾性支持部103Bの振動質量と、弾性支持部103Bのコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、振動部材103による部分P17においては、振動質量によるコイルm2と、コンプライアンスによるコンデンサCm2と、機械抵抗による抵抗Rm2と、が直列に接続されている。
【0134】
スピーカユニット20は、ダンパおよびエッジの機械抵抗と、ダンパおよびエッジのコンプライアンスと、振動板、ダンパおよびエッジの振動質量と、を有しており、スピーカユニット20による部分P18においては、機械抵抗による抵抗Rmと、コンプライアンスによるコンデンサC0と、振動質量によるコイルm0と、が直列に接続されている。
【0135】
エンクロージャ本体301は、その容積によって定まるコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、エンクロージャ本体301による部分P19においては、コンプライアンスによるコンデンサCb1と、機械抵抗による抵抗Rb1と、が直列に接続されている。
【0136】
音発生装置1Gにおける音圧特性は、スピーカユニット20の最低共振周波数に応じたピーク(約100Hz)と、他の回路要素によるサブピーク(約50Hz)と、を有する。サブピークの周波数は、主に管状部102および振動部材103の共振周波数(素子共振周波数)によって定まる。
【0137】
上記の構成により、エンクロージャ31G、32Gに共振素子としての管状部102および振動部材103が配されているため、位相特性のグラフに平坦領域が形成される。平坦領域の周波数においては、音発生装置1Gによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、管状部102および振動部材103の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0138】
また、共振素子として管状部102および振動部材103が設けられていることで、管状部102の内径や長さを調節したり、振動部材103の機械抵抗やコンプライアンス、振動質量を調節したりすることにより、素子共振周波数を調節することができ、適宜な周波数帯域に平坦領域を形成することができる。
【0139】
また、共振音の1/4波長が耳珠間幅(例えば0.15m)の2倍よりも長いことで、ユーザー(移動体の搭乗者)の頭部に共振音の音波が到達した際、左右の耳における音圧の絶対値の差を小さくすることができる。即ち、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士には、最大で耳珠間幅だけ経路差が生じ得る。このとき、共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いことで、左右の耳に到達する音波同士の位相差が小さくなり、音圧の絶対値の差が小さくなる。従って、上記のような平坦領域を形成することによる効果の左右差を低減することができる。また、音発生装置とユーザーの頭部との位置関係が変化した場合(例えば搭乗者が座席において頭部を動かした場合)でも、同様に左右差を低減することができる。
【0140】
[実施例8]
次に、本発明の実施例8に係る移動体用音発生装置について
図23を参照して説明する。
図22は、本発明の実施例8に係る音発生装置1Hを示す断面図である。実施例1のエンクロージャ31A、32Aに代えて、
図23に示す共振素子としての振動部材103を配したエンクロージャ31H、32Hを用いてもよい。
【0141】
実施例8のエンクロージャ31H、32Hは、エンクロージャ本体301と、前方収容部302と、を有し、前方収容部302の外側区画壁302Aには、振動部材103が設けられている。
【0142】
上記の構成により、エンクロージャ31H、32Hに振動部材103が配されることで、実施例8の音発生装置1Gと同様に、位相特性のグラフに平坦領域が形成される。平坦領域の周波数においては、音発生装置1Hによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、振動部材103の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0143】
[実施例9]
次に、本発明の実施例9に係る移動体用音発生装置について
図24を参照して説明する。実施例1のエンクロージャ31A、32Aに代えて、
図24に示す共振素子としての振動部材103を配したエンクロージャ31H、32Hを用いてもよい。
【0144】
実施例9のエンクロージャ31H、32Hは、エンクロージャ本体301を有し、エンクロージャ本体301には、スピーカユニット20の後方空間S11を第1後方空間S111と第2後方空間S112とに区画する内側区画壁301Dが形成されている。即ち、エンクロージャ本体301には、第1後方空間S111を囲む第1収容部301Bと、第2後方空間S112を囲む第2収容部301Cと、が形成されている。内側区画壁301Dには、振動部材103が設けられている。サブピークの周波数は、主に振動部材103の共振周波数により定められている。
【0145】
上記の構成により、実施例1の音発生装置1Aと同様に、位相特性のグラフに平坦領域が形成されていることで、平坦領域の周波数においては、音発生装置1Iによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、振動部材103の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0146】
[実施例10]
次に、本発明の実施例10に係る移動体用音発生装置について
図25を参照して説明する。
図25は、本発明の実施例10に係る音発生装置1Jを示す断面図である。実施例1のエンクロージャ31A、32Aに代えて、
図25に示す共振素子としての管状部102を配したエンクロージャ31J、32Jを用いてもよい。
【0147】
エンクロージャ31J、32Jは、エンクロージャ本体301を有し、エンクロージャ本体301には内側区画壁301Dが形成されている。内側区画壁301Dには、管状部102が設けられている。サブピークの周波数は、主に管状部102の共振周波数により定められている。
【0148】
上記の構成により、エンクロージャ31J、32Jに共振素子としての振動部材103が配されていることで、実施例1の音発生装置1Aと同様に、位相特性のグラフに平坦領域が形成される。こ平坦領域の周波数においては、音発生装置1Jによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、管状部102の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0149】
[実施例11]
次に、本発明の実施例11に係る移動体用音発生装置について
図26を参照して説明する。
図26は、本発明の実施例11に係る音発生装置1Kを示す断面図である。実施例1のエンクロージャ31A、32Aに代えて、
図26に示す共振素子としての管状部102を配したエンクロージャ31K、32Kを用いてもよい。
【0150】
エンクロージャ31K、32Kは、エンクロージャ本体301を有し、エンクロージャ本体301には内側区画壁301Dが形成されている。内側区画壁301Dには、管状部102が設けられている。エンクロージャ本体301の外壁部301Aには、振動部材103が設けられている。
【0151】
上記の構成により、エンクロージャ31K、32Kに共振素子として管状部102が配されることで、位相特性のグラフに平坦領域が形成される。平坦領域の周波数においては、音発生装置1Kによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、管状部102の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0152】
なお、本発明は、前記実施例7~11に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0153】
例えば、前記実施例7~11では、1つの管状部102または振動部材103が設けられたり、1つずつの管状部102と振動部材103とが組み合わされたりするものとしたが、2つ以上の管状部102や振動部材103が組み合わされたりしてもよい。即ち、
図27、28に示すように、複数の管状部102が設けられる構成としてもよい。
【0154】
図27に示す変形例の音発生装置1Lでは、前方収容部302の外側区画壁302Aに管状部102が設けられるとともに、エンクロージャ本体301のうち後方空間S11と前方空間S12とを区画する壁部303に他の管状部102が設けられている。このような構成では、スピーカユニット20の前方側から放射された音は、外側区画壁302Aの管状部102のみを通過して外部空間に放射される。一方、スピーカユニット20の後方側から放射された音は、これら2つの管状部102を通過して外部空間に放射される。
【0155】
図28に示す変形例の音発生装置1Mでは、エンクロージャ本体301に、上記の壁部303と対向する壁部とを接続する壁部304が形成され、後方空間S11が区画され、この壁部304に管状部102が設けられている。従って、スピーカユニット20の後方から放射された音は、壁部304の管状部102を通過した後、壁部303の管状部102を通過して前方空間S12に到達し、さらに外側区画壁302Aの管状部102を通過して外部空間に放射される。
【0156】
このように複数の管状部102を組み合わせることによっても、適宜な周波数帯域に平坦領域を形成することができる。
【0157】
また、前記実施例7~11では、共振素子として管状部102および振動部材103を例示したが、共振素子は、共振周波数を有して振動することで音発生装置の音圧特性にサブピークを形成するようなものであればよい。例えば、重量部を備えずに弾性部材のみによって構成された振動部材を共振素子として用いてもよい。このとき、弾性部材自体の重量が振動質量となる。
【0158】
また、前記実施例7~11では、エンクロージャ31、32に管状部102や振動部材103を配していたが、これに限ったものではない。エンクロージャ31、32を構成する管状のピラーP1、P2などのフレーム自体が共振素子であってもよい。
【0159】
なお、車両ボディ11には、電線などを通すため、あるいは電着電装等の水抜き孔として貫通孔が設けられている。そして、貫通孔と電線などの隙間や水抜き孔(貫通孔)を埋めて防水を図るために車両ボディ11にグロメットが設けられることがある。上記振動部材103が、車両ボディ11に取り付けられたグロメットを兼ねていてもよい。これにより、グロメットとは別に振動部材103を設ける必要がなくなり、コストダウンを図ることができる。
【0160】
また、前記実施例1では、共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いものとしたが、共振音の1/4波長を、耳珠間幅よりも長く設定してもよい。また、例えば音発生装置がユーザーの正面又は背面に配置され、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士に経路差が生じにくい場合等、左右の耳に到達する音波同士の位相差が生じにくい場合には、共振音の1/4波長が耳珠間幅以下であってもよい。
【0161】
[実施例12]
図29は、本発明の実施例12に係る移動体用音発生装置(以下単に「音発生装置」と略記することもある。)1Nが設けられた車両Cを示す側面図である。
【0162】
移動体用音発生装置1Nは、
図29に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット2Nを備えている。
【0163】
車両は、ウインドシールドW(フロントガラス)の内面と、車両ボディの上面S1と、下面S2と、車両Cの進行方向における前面S3と、幅方向に対向する一対の側面S4(車両の扉体を含む)と、車両Cの進行方向における図示しない後面と、によって囲まれた箱状の車内空間A3を形成している。また、前面S3にインストルメントパネルIが設けられ、インストルメントパネルIの後方側に対向するように座席(運転席及び助手席)SHが設けられている。本実施例では、移動体用音発生装置1Nが運転席の前方側に設けられるものとするが、助手席の前方側に設けられていてもよいし、両方に設けられていてもよい。尚、車両ボディは、パネル及びフレーム(中空体)を有していてもよく、例えばモノコックボディなどが挙げられる。
【0164】
スピーカユニット2Nは、実施例1で説明した
図5に示すスピーカユニット21A、22Aと同様に構成されているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0165】
次に、上述したスピーカユニット2Nの配置について
図29及び
図30を参照して説明する。同図に示すように、上記スピーカユニット2Nの正面側(振動板側)がインストルメントパネルIの下方において、前面S3と下面S2と運転席側の側面S4とが交わる角部C11を向いている。これにより、角部C11に向けてスピーカユニット2Nの正面からの音が放射されている。
【0166】
スピーカユニット2Nから放射された音は、角部C11及びその周囲の面S2~S4によって反射され、角部C11と対向する対向角部(上面S1と後面と助手席側の側面とが交わる角部)に向かって進行し、対向角部及びその周囲において再び反射され、角部C11に向かって進行する。このように角部C11から対向角部に向かう音波と、対向角部から角部C11に向かう音波と、によって、角部C11と対向角部との間の距離に応じた波長の定在波が形成される。この定在波の周波数と、スピーカユニット2Nの共鳴周波数と、は略一致しており、スピーカユニット2Nから放射された低音が、車内空間A3において定在波を形成する。上述のように、スピーカユニット2Nは車内空間A3に形成される定在波に応じた共鳴周波数を有していることから、スピーカユニット2Nから放射される音のうち共鳴した成分が定在波を形成する。
【0167】
以上のように音が放射されることで、車内空間A3には、スピーカユニット2Nの前面側から放射された音が反響する。
【0168】
上記の構成により、スピーカユニット2Nの音が複数の面のうち3つが交わる角部C11に向けて放射されることで、スピーカユニット2Nから放射された低音が少なくとも2つの面で反射されて車両Cの車内空間A3内で反響しやすい。また、移動体用音発生装置1Nにおける低音域の音圧等の音響特性を向上させることができ、低音域のノイズを低減させやすくなる。
【0169】
また、共振素子としての管状部4および振動部材103が発生する共振音の1/4波長が耳珠間幅(例えば0.15m)の2倍よりも長いことで、ユーザー(移動体の搭乗者)の頭部に共振音の音波が到達した際、左右の耳における音圧の絶対値の差を小さくすることができる。即ち、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士には、最大で耳珠間幅だけ経路差が生じ得る。このとき、共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いことで、左右の耳に到達する音波同士の位相差が小さくなり、音圧の絶対値の差が小さくなる。従って、上記のような平坦領域を形成することによる効果の左右差を低減することができる。また、音発生装置とユーザーの頭部との位置関係が変化した場合(例えば搭乗者が座席において頭部を動かした場合)でも、同様に左右差を低減することができる。
【0170】
なお、上述した実施例12によれば、スピーカユニット2Nの正面を角部C11に向けていたがこれに限ったものではない。スピーカユニット2Nからの音が角部C11に向けて放射されていればよく、スピーカユニット2Nの背面が角部C11に向けて配置されていてもよい。
【0171】
また、上述したスピーカユニット2Nとしては、実施例2~6で説明した
図13、14、18~20に示すスピーカユニット21B,22B、…21F,21Fと同様に構成してもよい。
【0172】
また、上述した移動体用音発生装置1Nとしては、実施例7~11で説明した
図21、23~27に示す移動体用音発生装置1G~1Mと同様に構成してもよい。
【0173】
[実施例13]
図31は、本発明の実施例13に係る移動体用音発生装置1Oが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図32は、音発生装置1Oの管部材の要部を示す正面図であり、
図33は、管部材を示す斜視図であり、
図34は、実施例13の移動体用音発生装置1O及び比較例2の移動体用音発生装置における音圧の周波数依存性を示すグラフである。
【0174】
移動体用音発生装置1Oは、
図31に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、スピーカユニット2と、スピーカユニット2を収容する収容部としてのエンクロージャ3と、エンクロージャ3に接続された管部材4と、を備える。
【0175】
本実施例13では、スピーカユニット2、エンクロージャ3及び管部材4の少なくとも何れかに、共振素子が配されていればよい。即ち、スピーカユニット2として、実施例1~5に示すような弾性部材8A~8Eなどの共振素子が配されたものを用いてもよい。また、実施例7~11に示すようにエンクロージャ3に管状部102や振動部材103などの共振素子が配されていてもよい。また、管部材4に、振動部材や管部材などの共振素子を配してもよいし、管部材4自身が共振周波数を有するため、その周波数をスピーカユニット2の最低共振周波数と異なる値にして、管部材4自身を共振素子として配してもよい。この場合、管部材4を共振素子として流用することができ、コストダウンを図ることができる。
【0176】
スピーカユニット2の振動板は、スピーカユニット2が音を放射する側(前面側)を上方に向けるとともに、磁気回路側(背面側)を下方に向けるように設置されている。また、スピーカユニット2の振動板の振動方向(音放射方向)が、インストルメントパネルIの上面に対して所定の角度(例えば30°)だけ傾斜するように、インストルメントパネルIにスピーカユニット2を設けてもよい。尚、振動板の傾斜角度は、ウインドシールドWの角度や、スピーカユニット2と座席SHとの距離等に応じて適宜に設定されていればよく、スピーカユニット2の中心軸又は振動板が傾斜していなくてもよい。また、スピーカユニット2の中心軸又は振動板が運転席又は助手席に向けられていてもよい。
【0177】
エンクロージャ3は、箱状に形成されるとともにインストルメントパネルI内に設けられ、その天面に振動板が配置され、底面及び4つの側面によって形成された内部空間にスピーカユニット2を配置して、スピーカユニット2の背面がエンクロージャ3に収容される。また、エンクロージャ3は、振動板に応じた傾斜を有して設けても構わない。また、エンクロージャ3は、幅方向において、側面S4近傍に配置されている。このようなエンクロージャ3にスピーカユニット2が収容されることで、スピーカユニット2は、インストルメントパネルIの上面において前面から音を放射するように、インストルメントパネルI内に設けられる。また、スピーカユニット2の背面側で生じた音は、エンクロージャ3の内部空間に向けて放射される。
【0178】
管部材4は、適宜な金属や樹脂等によって両端が開口した筒状に形成され、エンクロージャ3におけるスピーカユニット2の背面側である下面に一端E1がエンクロージャ3の下面に連結されるとともに、他端E2が運転席の足元(アクセルペダルの近傍)に配置されている。管部材4の断面形状及び断面積は一端E1側から他端E2側にかけて略一定であり、後述するように車内空間A3に形成される定在波に応じた共鳴周波数(例えば30~100Hz)を有するような長さに形成されている。管部材4は、エンクロージャ3の底面に一端E1が連結されていることで、一端E1においてエンクロージャ3の内部空間に連通している。また、他端E2は、
図32、33にも示すように、インストルメントパネルIの下方において、前面S3と下面S2と運転席側の側面S4とが交わる角部C11を向いて開口している。
【0179】
管部材4は、一端E1側においてインストルメントパネルI内を通過し、他端E2側においてインストルメントパネルIの外側に突出している。また、管部材4は、幅方向において、一端E1から他端E2にかけて、運転席側の側面S4から一旦離れるように延びた後、側面S4に再び近づくように延びている。即ち、管部材4を前後方向(車両Cの進行方向)から見ると、助手席側に向かって凸に湾曲した形状となっている。また、管部材4は、前後方向において、一端E1から他端E2に向かうにしたがって前方側に向かうように延びている。
【0180】
以上のような音発生装置1Oにおいてスピーカユニット2が音を放射した際の音の進行及び反射について説明する。まず、スピーカユニット2の前面側から放射された音は、振動板の傾斜に応じて斜め後方に進行し、運転席のヘッドレスト(運転者の頭部)近傍に向かう。尚、前面側から放射された音は、ウインドシールドWや上面S1において反射されてヘッドレストに向かってもよい。
【0181】
スピーカユニット2の背面側で生じた音は、エンクロージャ3の内部空間で反響するとともに、一端E1から管部材4内に入り、管部材4内を進行する。このとき、スピーカユニット2の背面側で生じた音のうち、管部材4の長さに応じた低音域の成分が管部材4内で共鳴する。従って、管部材4の他端E2からは、低音域の成分を主とする音が放射される。他端E2から放射された音は、角部C11及びその周囲の面S2~S4によって反射され、角部C11と対向する対向角部(上面S1と後面と助手席側の側面とが交わる角部)に向かって進行し、対向角部及びその周囲において再び反射され、角部C11に向かって進行する。このように角部C11から対向角部に向かう音波と、対向角部から角部C11に向かう音波と、によって、角部C11と対向角部との間の距離に応じた波長の定在波が形成される。この定在波の周波数と、管部材4の共鳴周波数と、は略一致しており、管部材4によって増幅されて他端E2から放射された低音が、車内空間A3において定在波を形成する。上述のように、管部材4は車内空間A3に形成される定在波に応じた共鳴周波数を有していることから、他端E2から放射される音のうち共鳴した成分が定在波を形成する。
【0182】
以上のように音が放射されることで、車内空間A3には、スピーカユニット2の前面側から放射された中高音域の成分を主とする音と、管部材4の他端E2から放射された低音域の成分を主とする音と、が反響する。
【0183】
ここで、実施例13の音発生装置1Oの音響特性について具体的に説明する。まず、実施例13の音発生装置1Oにおいて、エンクロージャ3の容量(内部空間の体積)を1L、管部材4の内径を32mm、管部材4の長さを500mmとした。そして、音発生装置1Oにおいて管部材4の他端E2を閉塞して音がほとんど放射されないようにしたものを比較例2の移動体用音発生装置とした。実施例13及び比較例2の移動体用音発生装置について、運転席のヘッドレスト近傍において、音圧の周波数依存性を測定した。
【0184】
以上のような実施例13及び比較例2の音発生装置1Oにおける音圧の周波数依存性の測定結果を
図34のグラフに示す。
図34の横軸は測定された音の周波数(Hz)示し、縦軸は音圧(dB)を示し、実線が実施例13に対応し、破線が比較例2に対応する。また、横軸の目盛りは対数表示となっている。この測定結果では、約30Hz~70Hzにおいて、実施例13の方が比較例2よりも音圧が高くなり、特に60Hz前後において約15Hz高くなった。従って、管部材4の他端E2から放射された音により、低音域において音響特性が向上したという結果が得られた。
【0185】
上記の構成により、管部材4の他端E2が、車内空間A3を囲む複数の面のうち3つが交わる角部C11を向いて開口していることで、他端E2から放射された低音が3つの面で反射されて車内空間A3で反響しやすく、音発生装置1Oにおける低音域の音響特性を向上させることができ、低音域のノイズを低減させやすくなる。
【0186】
また、スピーカユニット2が、中高音域の音圧が低音域の音圧よりも高くなるように音を放射するものである場合には、スピーカユニット2の振動を小さくすることができ、車両ボディに振動が伝わって異音が発生することを抑制することができる。また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音域の音圧が低い小型のスピーカユニット2を用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができる。さらに、スピーカユニット2の前面から放射される低音の音圧が比較的低いことから、低音域において、スピーカユニット2の前面から放射された音と管部材4の他端E2から放射された音とが弱め合いにくい。
【0187】
音発生装置1Oにおいて、スピーカユニット2の前面から主に中高音域の音が放射され、管部材4の他端E2から主に低音域の音が放射される。中高音域(例えば1000~10000Hz)と低音域(例えば10~1000Hz)とでは、最適な放射位置が異なる場合があるが、中高音域が放射される位置と、低音域の音が放射される位置と、が離れていることで、それぞれを最適な位置に配置し、極めて良好な音響特性を得ることができる。
【0188】
また、管部材4の他端E2が角部C11を向いて開口することで、他端E2から放射された音によって角部C11と対向角部との間に定在波が形成される。このとき、角部C11と対向角部との間の距離は、対向する一対の面(上面S1と下面S2、前面S3と後面、一対の側面S4)間の距離よりも長いことから、波長の長い定在波を形成することができ、車内空間A3において低音を効率よく反響させることができる。
【0189】
また、スピーカユニット2及びエンクロージャ3がインストルメントパネルI内に設けられるとともに、管部材4がインストルメントパネルI内を通過することで、音発生装置1Oを車両Cに設けた場合に外観を良好に保つことができる。
【0190】
[実施例14]
次に、本発明の実施例14に係る移動体用音発生装置について
図35、
図36を参照して説明する。
図35は、本発明の実施例14に係る移動体用音発生装置1Pが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図13は、実施例14の移動体用音発生装置1P及び比較例3の移動体用音発生装置における音圧の周波数依存性を示すグラフである。
【0191】
移動体用音発生装置1Pは、
図35に示すように、スピーカユニット2と、エンクロージャ3と、管部材4Pと、を備える。
【0192】
管部材4Pは、一端E1がエンクロージャ3の内部空間に連通するとともに、他端E2が運転席の足元の角部(アクセルペダルの近傍)に配置されている。即ち、他端E2は、前面S3と下面S2とが交差する第1交差部R11近傍において開口している。また、他端E2の開口方向は、第1交差部R11を向いておらず、下方からやや後方側に傾斜した方向となっている。尚、他端E2は、幅方向において側面S4に近接した位置に設けられていてもよいし、離隔した位置に設けられていてもよい。管部材4Pは、前後方向において、一端E1から他端E2にかけて、一旦前方側に向かうように延びた後、再び後方側に戻るように延び、幅方向から見て前方側に向かって凸に湾曲した形状となっている。
【0193】
以上のような移動体用音発生装置1Pにおける管部材4Pの他端E2から放射された音の進行及び反射について説明する。実施例13と同様に低音域の成分を主とする音が他端E2から放射され、第1交差部R11近傍の下面S2によって反射され、後面と上面S1とが交差する第2交差部に向かって進行する。さらに、この音は第2交差部及びその周辺において反射され、第1交差部R11に向かって進行する。このように第1交差部R11から第2交差部に向かう音波と、第2交差部から第1交差部R11に向かう音波と、によって、一対の交差部間の距離に応じた波長の定在波が形成される。
【0194】
ここで、実施例14の移動体用音発生装置1Pの音響特性について具体的に説明する。まず、実施例14の移動体用音発生装置1Pにおいて、エンクロージャ3の容量(内部空間の体積)を1L、管部材4Pの内径を32mm、管部材4Pの長さを700mmとした。そして、移動体用音発生装置1Pにおいて管部材4Pの他端E2を閉塞して音がほとんど放射されないようにしたものを比較例3の移動体用音発生装置とした。実施例14及び比較例3の移動体用音発生装置について、運転席のヘッドレスト近傍において、音圧の周波数依存性を測定した。
【0195】
以上のような実施例14及び比較例3の移動体用音発生装置における音圧の周波数依存性の測定結果を
図36のグラフに示す。
図36の横軸は測定された音の周波数(Hz)示し、縦軸は音圧(dB)を示し、実線が実施例14に対応し、破線が比較例3に対応する。また、横軸の目盛りは対数表示となっている。この測定結果では、約30Hz~100Hz付近において、実施例14の方が比較例3よりも音圧が高くなり、特に50Hz前後において約15dB高くなった。従って、管部材4Pの他端E2から放射された音により、低音域において音響特性が向上したという結果が得られた。
【0196】
上記の構成により、実施例13と同様の効果を奏することができる。さらに、管部材4Pの他端E2が第1交差部R11近傍において開口することで他端E2から放射された音によって一対の交差部間に定在波が形成される。このとき、一対の交差部間の距離は、対向する一対の面(上面S1と下面S2、前面S3と後面、一対の側面S4)間の距離よりも長いことから、波長の長い定在波を形成することができ、車内空間A3において低音を効率よく反響させることができる。
【0197】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0198】
例えば、前記実施例13では、管部材4の断面形状及び断面積が略一定であるものとしたが、インストルメントパネルIの内部構造に合わせ、第1の変形例として
図37(A)に示すように、長手方向における他端近傍の領域において、エンクロージャ3に接続された一端E1から他端E2に向かうにしたがって断面積は一定で断面形状が変化する内径が拡大された管部材4Qを用いてもよい。具体的には、A-A´線、B-B´線及びC-C´線に沿う断面図に示すように、断面形状が、一端E1側において略正円であり、他端E2に向かうにしたがって扁平な楕円状となっていく(楕円の長径が長くなっていく)管部材4Qを用いてもよい。このような構成によれば、管部材4Qの他端E2から放射される音の音響特性を向上させることができる。また、管部材は、例えば長手方向の全体に亘って他端に向かうにしたがって断面形状が変化してもよいし、長手方向の中央部の領域において他端に向かうにしたがって断面形状が変化してもよい。
【0199】
また、前記実施例14では、収容部としてのエンクロージャ3と管部材4とが別部材であるものとしたが、第2の変形例として
図37(B)に示すように、収容部と管部材とが一体に形成された管状収容部4Rを用いてもよい。このとき、管状収容部4Rは、スピーカユニット2側から他方側に延びるにしたがって、内径が小さくなる部分があり、この部分が収容部4R1となり、収容部4R1を挟んでスピーカユニット2の反対側が管状部材としての管部4R2となる。即ち、管部4R2の一端は収容部4R1と連続的に設けられている。
【0200】
また、前記実施例14では、スピーカユニット2及びエンクロージャ3がインストルメントパネルIに設けられるものとしたが、スピーカユニット2及びエンクロージャ3は、その他の場所に設けられていてもよい。
【0201】
例えば、第3の変形例として
図38に示すように、スピーカユニット2及びエンクロージャ3が車両Cの座席SHの下方に設けられた移動体用音発生装置1Sとしてもよい。移動体用音発生装置1Sが設けられた車両Cには、空調用ダクトDuが設けられている。空調用ダクトDuは、前方側(例えばインストルメントパネル内)に設けられた空調機から、後部座席の足元に冷風又は温風を送るために前後方向に沿って延びるものであって、
図38(C)に示すように、管状の通路部Du0を有する。通路部Du0は、仕切り部Du3によって仕切られることにより、冷風又は温風が通過する第1通路Du1と、第2通路Du2と、を有する。第2通路Du2は例えば第1通路Du1の補強用に設けられたものである。
【0202】
移動体用音発生装置1Sの管部材4は、エンクロージャ3の前面に一端E1が接続されて前方側に向かって延び、第2通路Du2に接続され、第2通路Du2が管部材として機能して前方側に向かって延び、他端側において第2通路Du2とは別体となり、前方側の交差部又は角部を向いて開口している。即ち、管部材4の一端E1と他端との間の部分が空調用ダクトDuと一体に形成されている。尚、空調用ダクトDuに第2通路が形成されず、管部材4の一部が第1通路Du1と一体に形成された構成としてもよい。
【0203】
このような第3の変形例の移動体用音発生装置1Sによれば、空調用ダクトDuを管部材4として利用して低コスト化するとともに、空調用ダクトDuを通すために車両Cに形成された空間を利用することができる。さらに、座席SHの下方におけるスピーカユニット2の設置スペースが狭くても、管部材4の他端が角部又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0204】
また、第4の変形例として
図39(A)に示すように、スピーカユニット2及びエンクロージャ3Tが、車両CのインストルメントパネルIに設けられた箱部としてのグローブボックスGの一部として形成された移動体用音発生装置1Sとしてもよい。移動体用音発生装置1Sが設けられた車両CのインストルメントパネルIには、幅方向に沿った回動軸を有して回動することで開閉する(二点鎖線で図示)グローブボックスGが設けられている。グローブボックスGの下方側の空間が他の部分G0(被収容物を収容することができる空間)と区画されることにより、エンクロージャ3Tが形成されている。スピーカユニット2は、その前面をグローブボックスGの外側に向けるとともに、前面を前方側且つ下方側に向けるようにエンクロージャ3Tに収容されている。管部材4は、一端E1がエンクロージャ3Tの下方側に接続され、他端E2が角部C11を向いて開口している。
【0205】
尚、管部材4の他端E2は、前面S3と下面S2とが交差する交差部を向いて開口していてもよい。また、
図39(B)に示すように、スピーカユニット2の前面が車両Cの進行方向における後方側を向いていてもよい。また、車両Cに取り付けられている既存のグローブボックスGにエンクロージャ3Tを形成してスピーカユニット2を収容してもよいし、移動体用音発生装置1Tがあらかじめ設けられたグローブボックスGを作製してもよい。また、グローブボックスGを区画せず、グローブボックスGを閉じた際に形成される閉空間又は密閉空間がエンクロージャとして機能する構成としてもよい。
【0206】
このような第4の変形例の移動体用音発生装置1Tによれば、エンクロージャ3TがグローブボックスGの一部であることで、角部C11に対して管部材4の他端を向けやすい。また、グローブボックスG内の空間の狭小化を抑制するためにスピーカユニット2を小型化しても、管部材4の他端E2が角部C11又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができ、低音域のノイズを低減しやすい。
【0207】
また、第5の変形例として
図40に示すように、スピーカユニット2及びエンクロージャ3Uが、車内空間A3に収容されたスペアタイヤTのホイールT1内に設けられた移動体用音発生装置1Vとしてもよい。スペアタイヤTは、例えば車両Cの進行方向における後方側に形成されたタイヤ収容部に収容され、ホイールT1とタイヤT2とを有する。ホイールT1には、車両Cに取り付けられて使用される際に幅方向内側を向く面に、凹部T0が形成されている。凹部T0の内周面は円筒状に形成されており、エンクロージャ3Uは外周寸法が凹部T0と同程度かやや小さい円筒状に形成されている。エンクロージャ3Uは、この凹部T0内に収容される。
【0208】
また、エンクロージャ3Uの高さは凹部T0の深さよりも大きく、エンクロージャ3Uの一部分(下方部分)が凹部T0に収容され、他の一部分(上方部分)が凹部T0から突出している。尚、上下方向においてエンクロージャ3U全体が凹部T0に収容される構成としてもよい。エンクロージャ3Uには2本の管部材4の一端E1がそれぞれ接続されている。管部材4の他端E2は、車両Cの側面S4と下面S2と後面とが交わる角部C12を向いて開口しているものとするが、側面S4と上面と後面とが交わる角部を向いて開口していてもよいし、後面と他の面(側面S4、下面S2又は上面)とが交わる交差部を向いて開口していてもよい。
【0209】
尚、車両の下面S2の表面には、前後方向又は幅方向に延びる補強用のリブRBによって凹凸が形成され、この表面上に平板状のカバー部が設けられることがある。この凹凸とカバー部との間に形成される隙間を管部材として利用してもよい。
【0210】
このような第5の変形例の移動体用音発生装置1Vによれば、スペアタイヤTの凹部T0に収容するためにスピーカユニット2を小型化しても、管部材4の他端E2が角部C12又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0211】
また、第6の変形例として
図41(A)に示すように、スピーカユニット2及びエンクロージャ3Vが車両Cにおける幅方向の中央部に設けられた移動体用音発生装置1Vとしてもよい。スピーカユニット2及びエンクロージャ3Vは、前方側の2つの座席SHの間且つ下方に設けられ、エンクロージャ3Vの前面に2本の管部材4の一端E1が接続されている。2本の管部材4は、一方が進行方向に対して右側に延びて他方が左側に延び、即ち、幅方向において互いに反対側に向かって延びている。また、2本の管部材4の他端E2は、それぞれ、左右の角部C11を向いて開口している。
【0212】
尚、管部材4の他端E2は、車両Cの側面S4と下面S2とが交わる交差部を向いて開口していてもよい。また、
図41(B)に示すように、エンクロージャ3Vに2つのスピーカユニット2が収容され、一方のスピーカユニット2が前方側に音を放射し、他方のスピーカユニット2が後方側に音を放射する構成としてもよい。このような構成によれば、2つのスピーカユニット2が背面側から放射する音同士が弱め合い、音放射時にエンクロージャ3が振動することを抑制することができる。
【0213】
このような第6の変形例の移動体用音発生装置1Vによれば、前方側の2つの座席SHの間且つ下方の空間を利用することができる。また、この空間における設置スペースが狭くても、管部材4の他端E2が角部C11又は交差部を向いて開口していることで、低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。さらに、幅方向の両側において管部材4の他端E2から放射された低音が反響し、搭乗者にとって迫力のある再生音とすることができる。2つのスピーカユニット2の背面が連結していることで、スピーカユニット2自体の振動が車両C内に伝搬することを抑止できる。
【0214】
また、第7の変形例として
図42に示すように、低音再生用のスピーカユニット2W及びエンクロージャ3Wが、車両Cの進行方向における後方側に設けられるとともに、車両Cの上面S1と後面S5とが交わる交差部CR1近傍に設けられ、管部材4が車両CのサイドシルSSの内側を通過して前方側の角部C11に向かって延びる移動体用音発生装置1Wとしてもよい。エンクロージャ3Wは、幅方向の中央部且つ後部側の座席SHのヘッドレストの後方に設けられ、前面を上方に向けてスピーカユニット2Wが収容され、エンクロージャ3Wの下面に管部材4の一端E1が接続されている。管部材4は、スピーカユニット2Wの下面から下方且つ車両Cの一方の側面に向かって延び、車両Cの扉体の下方において前後方向に延びるサイドシルSSの内側を通過して前方側に向かって延びる。さらに、管部材4は、サイドシルSSよりも前方側において、一旦上方側に向かった後に下方側を向かうことにより、他端E2が角部C11に向かって開口している。
【0215】
スピーカユニット2Wから放射された音は交差部CR1に向かい、管部材4の他端から放射された音は角部C11に向かう。尚、エンクロージャが幅方向の左右いずれかに配置され、スピーカユニットから放射された音が上面S1と側面S4と後面S5とが交わる角部に向かう構成としてもよい。また、管部材4の他端E2は、サイドシルSSよりも前方側の交差部を向いて開口していればよく、前面S3と下面S2とが交わる交差部を向いていてもよいし、側面S4におけるサイドシルSSよりも前方側の部分と下面S2とが交わる交差部を向いていてもよい。
【0216】
このような第7の変形例の移動体用音発生装置1Wによれば、スピーカユニット2W及び管部材4の他端E2により放射された低音が前後の角部又は交差部において反射され、低音域の音圧等の音響特性をより一層向上させることができ、低音域のノイズを一層低減しやすい。
【0217】
また、スピーカユニットが放射する音の周波数依存性は、適宜に設定されていればよい。スピーカユニットが前面側から放射する低音域の音圧が高い場合でも、管部材で共鳴して他端から放射される低音の音圧が充分に高ければ、前面側からの音と他端からの音とが弱め合ってしまっても低音の音圧を確保することができる。即ち、管部材における共鳴によって低音の音圧が充分に向上する場合には、低音域から中高音域まで同程度の音圧となるように音を放射するスピーカユニットや、低音域の音圧が中高音域の音圧よりも高くなるように音を放射するスピーカユニットを用いてもよいし、中高音域用のスピーカユニット(ツイータ)を用いてもよい。また、スピーカユニットの形状は特に限定されず、コーン型であってもよいしドーム型であってもよい。
【0218】
また、前記実施例14では、インストルメントパネルIの上面においてスピーカユニット2の前面側から音を放射するものとしたが、スピーカユニットは、例えばインストルメントパネルIの後面(運転席と対向する面)において前面側から音を放射してもよい。また、スピーカユニット2がインストルメントパネルI内に設けられるものとしたが、スピーカユニットがインストルメントパネルIの外側に設けられる(例えばインストルメントパネルIの上面に載置される)構成としてもよい。このとき、管部材はインストルメントパネルI内を通過せずに外側に沿うように設けられていてもよい。このような構成によれば、移動体用音発生装置を車両に対して後付により設置する際に、設置作業を容易に実施することができる。
【0219】
また、前記実施例14では、管部材4の他端E2が、前面S3と下面S2と運転席側の側面S4とが交わる角部C11を向いて開口するものとしたが、他端は、車内空間A3を囲む複数の面(ウインドシールドWの内面、上面S1、下面S2、前面S3、一対の側面S4、後面)のうち任意の3つが交わる角部(
図33に示す角部C11~C13)を向いて開口していればよい。また、管部材の他端は、これらの複数の面のうち2つが交わる交差部(
図33に示すR11~R18)を向いて開口していてもよいし、1つの面に対向するように開口していてもよいし、面に沿っていてもよい。
【0220】
尚、角部C11は、車両Cの前面S3と下面S2と側面S4とが交わる角部であって、角部C12は、車両Cの後面S5と下面S2と側面S4とが交わる角部であって、角部C13は、車両Cの後面S5と上面S1と側面S4とが交わる角部である。また、交差部R11は、車両Cの前面S3と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R12は、車両Cの下面S2と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R13は、車両Cの前面S3と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R14は、車両Cの後面S5と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R15は、車両Cの後面S5と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R16は、車両Cの前面S3と上面S1とが交わる交差部であって、交差部R17は、車両Cの上面S1と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R18は、車両Cの後面S5と上面S1とが交わる交差部である。
【0221】
また、前記実施例13、14では、他端E2、E2から放射された音によって一対の角部間又は一対の交差部間に定在波が形成されるものとしたが、一対の面間(例えば、移動体における前面と後面との間や、一対の側面の間、下面と上面との間)に定在波が形成されるような向きに他端が開口していてもよい。
【0222】
また、前記実施例14では、車両Cに1つの音発生装置1Pが設けられるものとしたが、管部材の他端が互いに対向する位置に設けられた一対の移動体用音発生装置を組み合わせてもよい。例えば、実施例14の音発生装置1Pに対し、管部材の他端が対向角部に設けられた移動体用音発生装置が組み合わされてもよい。このとき、一方の移動体用音発生装置によって形成される定在波の節の位置と、他方の移動体用音発生装置によって形成される定在波の節の位置と、がずれるように他端を配置することが好ましい。さらに、一方の定在波の節の位置と、他方の定在波の腹の位置と、が略一致するように他端を配置することがより好ましい。このような構成によれば、2つの定在波の節同士をずらしたり節と腹とを略一致させたりことにより、車内空間A3において音圧の位置依存性を小さくすることができる。
【0223】
また、前記実施例12では、共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いものとしたが、共振音の1/4波長を、耳珠間幅よりも長く設定してもよい。また、例えば音発生装置がユーザーの正面又は背面に配置され、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士に経路差が生じにくい場合等、左右の耳に到達する音波同士の位相差が生じにくい場合には、共振音の1/4波長が耳珠間幅以下であってもよい。
【0224】
[実施例15]
以下、本発明の実施例について
図43~48を参照して以下説明する。
図43は、本発明の実施例に係る移動体用音発生装置1Xが設けられた移動体としての車両Cを示す側面図であり、
図44は、車両Cの一部を示す側面図であり、
図45は、
図44中のI-I線に沿う断面を模式的に示す図であり、
図46は、移動体用音発生装置1Xを示す断面図であり、
図47は、移動体用音発生装置1Xの機械要素を回路要素に置換した等価回路図であり、
図48は、移動体用音発生装置1Xにおける等価回路のインピーダンス及び発生音の周波数特性を示すグラフであり、
図49は、移動体用音発生装置1Xにおける入力信号と発生音との位相差の周波数依存性を示すグラフである。
【0225】
車両Cは、図示しないウインドシールド(フロントガラス)の内面と、車両ボディBの上面(天面)S1と、下面(底面)S2と、車両Cの進行方向の前方側における前面S3と、幅方向(左右方向)に対向する一対の側面S4(車両ドアD等の扉体を含む)と、車両Cの進行方向の後方側における後面(不図示)と、によって囲まれた箱状の車内空間A3(空間)を形成している。また、前面S3にインストルメントパネルIが設けられ、インストルメントパネルIの後方側に対向するように前方側座席(運転席及び助手席)、前方側座席の後方側に後方側座席が設けられている。なお、
図44では、助手席側の座席は省略しているので、運転席側の座席に符号「SH」を付す。
【0226】
なお、本実施例では、
図43、44に示すように、移動体用音発生装置1Xが、運転席の幅方向側に位置する扉体としての車両ドアD、D1(
図44に示す)内に設けられているものとするが、助手席側の車両ドアD、D2(
図43に示す)に設けられていてもよいし、その両方に設けられていてもよい。また、移動体用音発生装置1Xが、後方側座席の車両ドアD、D3(
図43に示す)に設けられていてもよく、前面S3に対向するバックドアD、D4(
図43に示す)に設けられていてもよい。即ち、本発明は、車両Cの何れの車両ドアDにも適用することができる。
【0227】
車両Cは、骨格を成す車両ボディBと、この車両ボディBの一部であるフレームに取り付けられる車両ドアDと、を有して構成されている。なお、車両ボディBは、パネル、フレーム(中空体)を有していてもよく、例えばモノコックボディなどが挙げられる。車両ドアDは、車両外装部材である金属製のアウタパネルPo1と、該アウタパネルPo1と対向する車内内装部品である合成樹脂製のインナパネルPi2と、を有して構成されている。アウタパネルPo1には、窓枠Fwが設けられ、窓枠Fwの開口は昇降ガラスGaによって開閉される。インナパネルPi2は、上端がアウタパネルPo1の窓枠Fwの下端部に合わさるようにアウタパネルPo1に重ねて設けられている。フレームは、車両ドアDを囲むように上端部、下端部(サイドシルSS)、前端部、後端部から成る枠状に形成されている。フレームにおいて、下端部を形成する部分をサイドシルSSと記す。
【0228】
ここで、車両ドアDが閉じた状態(車両ドアDがフレームの開口を覆った状態)で、車両ドアDのインナパネルPi2の下面Da(車両ドアDの下端部)とサイドシルSSとの間には、車内空間A3の一部である間隙Kがある。この間隙Kから車内空間A3に向けて音波が放射される。即ち、後述する管部材(音導管)4の他端E2が間隙Kに向けて開口している。
【0229】
車両ドアDのインナパネルPi2の下面DaとサイドシルSSとの間には、間隙Kがあるが、車両ドアDの上下方向における間隙Kの長さは、車内空間A3に近付くに従って徐々に大きくなるように形成されている。即ち、インナパネルPi2の下面DaからサイドシルSSまでの上下の距離が、車内空間A3に近付くに従って大きくなるような傾斜面から形成されている。又は、サイドシルSSが、車内空間A3に近付くに従ってインナパネルPi2の下面Daからの上下の距離が大きくなるような傾斜面を有していてもよく、間隙Kを形成する両方が傾斜面を有していてもよい。
【0230】
このように間隙Kが、車内空間A3に近付くに従って徐々に大きくなるように形成されている。即ち、箱状の車内空間A3の内側に向かって、車両ドアDの上下方向における間隙の長さが広がっている。
【0231】
移動体用音発生装置1Xは、
図44~
図46に示すように、車両Cに設けられたスピーカユニット2と、スピーカユニット2を収容するエンクロージャ3と、エンクロージャ3に接続された管部材4と、を備える。移動体用音発生装置1Xは、ノイズを集音する集音部と、スピーカユニット2に入力信号を送信する送信部と、を備えた外部装置とともに移動体としての車両Cに設けられ、移動体用音発生装置1Xと外部装置とによってノイズキャンセル装置が構成されるようになっている。
【0232】
スピーカユニット2は、フレームと、フレームに接続される振動板と、振動板をフレームに接続するエッジと、振動板に接続される筒状のボイスコイルと、ボイスコイルをフレームに接続するダンパと、ボイスコイルの内側に挿入される磁気回路と、を備えた一般的なコーン型のスピーカユニットである。尚、スピーカユニットして、例えば薄型スピーカ等の他の構成のものを用いてもよい。
【0233】
スピーカユニット2は、インナパネルPi2において上方側でかつ前方側に設けられている。即ち、スピーカユニット2は、車両Cに搭載された座席SHの座面Sよりも上方側に位置するように設けられている。また、振動板は、スピーカユニット2が音放射側を幅方向の一方側(運転席側又は助手席側)に向けるとともに、後方側(音放射側の反対側、磁器回路側)を幅方向の他方側に向けるように設置されている。尚、車両ドアDの内面に対するスピーカユニット2の振動板の振動方向(音放射方向)は、スピーカユニット2と座席SHとの距離等に応じて適宜に設定されていればよい。
【0234】
エンクロージャ3は、スピーカユニット2の後方側(音放射側の反対側)を囲んで後方空間R1を形成する箱状に形成されたエンクロージャ本体301を有する。エンクロージャ本体301は、後方空間R101と外部空間とを区画する。
【0235】
エンクロージャ本体301には、管部材4と、振動部材5と、が設けられている。尚、管部材4が、エンクロージャ本体301のうち音放射方向に沿って延びる部分に設けられ、振動部材5が、エンクロージャ本体301のうちスピーカユニット2と対向する部分に設けられているものとするが、管部材4および振動部材5は、それぞれエンクロージャ本体301の適宜な位置に設けられていればよい。
【0236】
このようなエンクロージャ3にスピーカユニット2が収容されていることで、スピーカユニット2は、インナパネルPi2の車内空間A3に向けて音波を放射するようにインナパネルPi2内に設けられる。また、スピーカユニット2の後方側(音放射側の反対側)で生じた音波は、エンクロージャ3の後方空間R101に向けて放射される。後方空間R101に向けて放射された音波は、管部材4の長さに応じた低音域の成分が管部材内で共鳴し、他端E2から放射される。
【0237】
管部材4は、その一端E1が後方空間R101に連通し、他端E2が車内空間A3に開口している。管部材4は、
図44及び
図45に示すように、他端E2がインナパネルPi2の下面Daに開口するように、インナパネルPi2の内部において下方に延びている。なお、
図46においては、図の左右方向が
図44及び
図45における上下方向となっている。また、他端E2は、サイドシルSSを向いて開口している。そして、管部材4は、インナパネルPi2とサイドシルSSとの間隙Kから車内空間A3に向けて音波を放射するように設けられている。
【0238】
振動部材5は、重量部51と、弾性支持部52と、を有する。重量部51は、例えば金属部材によって平板状に形成されたおもりである。弾性支持部52は、例えばゴム等の弾性部材によって形成され、重量部51の周縁部に設けられる。エンクロージャ本体301のうち振動部材5が設けられる部分には開口が形成されており、振動部材5によってこの開口が塞がれる。即ち、弾性支持部52によって、重量部51の外周縁と、エンクロージャ本体301の開口の内周縁と、が接続され、重量部51がエンクロージャ本体301に対して振動可能に支持される。
【0239】
スピーカユニット2の振動板が振幅することで生じる前方収容部32の空気の疎密波(音波)により重量部51が振動しようとする。振動部材5は、重量部51および弾性支持部52の機械抵抗やコンプライアンス、振動質量に応じた共振周波数を有する。このとき、振動部材5の共振周波数は、スピーカユニット2の最低共振周波数(即ち、共振素子を備えないスピーカユニットの最低共振周波数)とは異なる値に設定されている。従って、スピーカユニット2が放射した音により、振動部材5は、スピーカユニット2の最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させ、共振素子として機能する。
【0240】
以上のような移動体用音発生装置1Xでは、共振素子としての振動部材5が設けられていることから、スピーカユニット2の前方側から放射されるとともに後方空間R101を通過して管部材4から車内空間A3に放射される音は、スピーカユニット2の最低共振周波数だけでなく、振動部材5の共振周波数においても音圧が強められる。
【0241】
以下、移動体用音発生装置1Xが放射する音に関し、音圧の周波数依存性(音圧特性)、及び、スピーカユニット2のボイスコイルへの入力信号と発生音との位相差の周波数依存性(位相特性)について説明する。
【0242】
まず、移動体用音発生装置1Xの機械要素を回路要素に置換した等価回路図を
図47に示す。エンクロージャ3による部分P21と、管部材4による部分P22と、振動部材5による部分P23と、が並列に接続されており、並列に接続された部分全体を部分P25とする。スピーカユニット2による部分P24と、前方要素による部分P25と、が直列に接続されている。
【0243】
エンクロージャ3は、その容積によって定まるコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、エンクロージャ3による部分P21においては、コンプライアンスによるコンデンサCb1と、機械抵抗による抵抗Rb1と、が直列に接続されている。
【0244】
管部材4は、その内側の気体の振動質量と、振動時の機械抵抗と、を有しており、管部材4による部分P22においては、振動質量によるコイルmpと、機械抵抗による抵抗Rmpと、が直列に接続されている。
【0245】
振動部材5は、重量部51および弾性支持部52の振動質量と、弾性支持部52のコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、振動部材5による部分P23においては、振動質量によるコイルm2と、コンプライアンスによるコンデンサC2と、機械抵抗による抵抗Rm2と、が直列に接続されている。
【0246】
スピーカユニット2は、ダンパおよびエッジの機械抵抗と、ダンパおよびエッジのコンプライアンスと、振動板、ダンパおよびエッジの振動質量と、を有しており、スピーカユニット2による部分P24においては、機械抵抗による抵抗Rmと、コンプライアンスによるコンデンサCと、振動質量によるコイルm0と、が直列に接続されている。
【0247】
このように機械要素を回路要素に置換することにより、回路全体の合成インピーダンスを求めることができる。このようなインピーダンスに基づき、移動体用音発生装置1Xの音圧特性を求めることができ、さらに音圧特性に基づいて位相特性も求めることができる。
【0248】
上記のような等価回路に基づいて求めた移動体用音発生装置1Xのインピーダンスの周波数特性、及び、音圧特性のシミュレーション結果を
図48に示す。尚、
図48では、左側の縦軸が音圧特性に対応し、右側の縦軸がインピーダンスに対応している。また、周波数を示す横軸は対数表示されている。
【0249】
移動体用音発生装置1Xにおける音圧特性は、スピーカユニット2の最低共振周波数に応じたピーク(約30Hz)と、他の回路要素によるサブピーク(約90Hz)と、を有する。サブピークの周波数は、主に管部材4および振動部材5の共振周波数(素子共振周波数)によって定まる。
【0250】
移動体用音発生装置1Xの位相特性のシミュレーション結果を
図49に示す。
図49では、位相が-180°以下の値については、360°を加算した値で表示し直し、位相が180°よりも大きい値については、360°を減算した値で表示し直している。スピーカユニット2の最低共振周波数(約30Hz)の前後において、位相差の変化率が高くグラフが急峻な形状を有し、高周波数側ほど位相差の絶対値が大きくなる傾向があるが、このシミュレーション結果には、下向きに凸の部分が形成される。この下向きに凸の部分は、上記のサブピークによるものである。これにより、約40~80Hzの周波数帯域において、位相差が約30~50°の範囲に収まっている。即ち、位相特性のグラフには、位相差の変化が緩やかな平坦領域(約40~80Hz)が形成されている。
【0251】
90Hzのサブピークに対応する波長は3.4m(1/4波長は0.85m)である。従って、共振素子としての振動部材5が発生する共振音の1/4波長は、耳珠間幅の2倍よりも充分に長い。
【0252】
以上のような移動体用音発生装置1Xによってノイズキャンセルしようとした場合、ノイズ信号と、移動体用音発生装置1Xが放射するキャンセル信号と、の間に位相差が生じてしまうと、キャンセル効果が低下したり、逆にノイズが増大したりしてしまうことがある。例えば、ノイズ信号とキャンセル信号との位相差が60°の場合について、ノイズ信号、ノイズ信号と振幅の等しいキャンセル信号及びこれらの合成信号の波を
図11に示す。ノイズ信号及びキャンセル信号が放射された空間において実際に発生する音の音圧は、合成信号の振幅となる。
図11の例では、ノイズ信号とキャンセル信号とで振幅が等しい場合には、ノイズ信号の振幅と合成信号の振幅とが等しくなり、ノイズ信号とキャンセル信号との位相差が60°を超えるとキャンセル効果が得られなくなる。
【0253】
従って、移動体用音発生装置1Xの位相特性を予めシミュレーションによって算出したり実際に測定したりしておき、放射音がノイズの逆位相となるように入力信号を制御すればよい。
【0254】
上記の構成により、エンクロージャ3が共振素子としての振動部材5を備え、位相特性のグラフに平坦領域が形成されていることで、平坦領域の周波数においては、移動体用音発生装置1Xによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、振動部材5の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0255】
また、共振素子として振動部材5が設けられていることで、振動部材5の機械抵抗やコンプライアンス、振動質量を調節したりすることにより、素子共振周波数を調節することができ、適宜な周波数帯域に平坦領域を形成することができる。
【0256】
また、エンクロージャ3の後方空間R101に一端E1が連通し、他端E2が車内空間A3に開口する管部材4を備えていることで、スピーカユニット2の後方空間R101で生じた音のうち、管部材4の長さに応じた低音域の成分が音導管内で共鳴し、他端E2から放射される。
【0257】
また、管部材4の他端E2が、車両ドアDの下方において車内空間A3に向けて開口していることで、スピーカユニット2を車両Cにおける座席SHの座面Sよりも上方に設けても、低音域の成分の音響特性が高い車両ドアDの低い位置で低音域の成分が放射されるため、移動体用音発生装置1Xにおける低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0258】
また、上記のように低音域の音響特性が向上することで、低音再生用スピーカ(例:ウーファー、サブウーファー)と比べて低音域の音圧が低い小型のスピーカユニットを用いた場合でも、良好な音響特性を得ることができるため、スピーカユニット2の小口径化が可能となる。
【0259】
また、管部材4の他端E2が、車両ドアDの下面Daと下面Daに対向するサイドシルSSとの間の間隙Kに向けて開口していることで、当該他端E2から放射された低音域の成分が、間隙Kを形成する車両ドアDの下面DaとサイドシルSSとの2つの面で反射される。よって車内空間A3内で反響しやすく、移動体用音発生装置1Xにおける低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0260】
また、車両ドアDの上下方向における間隙Kの長さが、車内空間A3の内側(例えば座席SHがある位置)に向かって大きくなるように形成されていることで、車内空間A3の内側に向かって、車両ドアDの上下方向における間隙Kの長さが広がり、フレア効果により、風切音を生じにくくすること、或いは空気の乱れを生じにくくすることができる。さらに、管部材4の他端E2から放射された低音域の成分が、間隙Kを形成する車両ドアDの下面DaとサイドシルSSとの2つの面で反射されて車内空間A3内で反響しやすく、移動体用音発生装置1Xにおける低音域の音圧等の音響特性を向上させることができる。
【0261】
また、管部材4の他端E2が、車両Cにおける座席SHの座面Sの位置よりも低い位置で開口していることで、車内空間A3で低音を効率よく反響させることができる。
【0262】
また、管部材4が、車両ドアDの内部にあることで、車内空間A3で低音を効率よく反響させることができる。
【0263】
また、共振素子としての管部材4および振動部材5が発生する共振音の1/4波長が耳珠間幅(例えば0.15m)の2倍よりも長いことで、ユーザー(移動体の搭乗者)の頭部に共振音の音波が到達した際、左右の耳における音圧の絶対値の差を小さくすることができる。即ち、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士には、最大で耳珠間幅だけ経路差が生じ得る。このとき、共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いことで、左右の耳に到達する音波同士の位相差が小さくなり、音圧の絶対値の差が小さくなる。従って、上記のような平坦領域を形成することによる効果の左右差を低減することができる。また、音発生装置とユーザーの頭部との位置関係が変化した場合(例えば搭乗者が座席において頭部を動かした場合)でも、同様に左右差を低減することができる。
【0264】
尚、本発明の実施例に係る移動体用音発生装置1Xは、車両C等の室内におけるノイズ音(例えば車両C等が移動する際に発生する音等)をキャンセル可能なノイズキャンセル装置としても用いることができる。
【0265】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施例に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施例に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【0266】
例えば、上記実施例では、スピーカユニット2、エンクロージャ3、管部材4の何れかの箇所に共振素子が配されていたものが挙げられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの複数箇所に配されたり、1箇所あるいは複数箇所に複数個配されたりしてもよい。また、管部材4の形状・構造を適宜設計することにより、管部材4自体に共振素子の機能を併せ持たせてもよい。この場合も「管部材に共振素子が配され」た状態の一態様であると解釈するものとする。
【0267】
また、上記実施例では、共振素子として振動部材5を例示したが、共振素子は、共振周波数を有して振動することで移動体用音発生装置1Xの音圧特性にサブピークを形成するようなものであればよい。例えば、重量部を備えずに弾性部材のみによって構成された振動部材を共振素子として用いてもよい。このとき、弾性部材自体の重量が振動質量となる。
【0268】
また、上記実施例では、移動体用音発生装置1Xが管部材4を備える構成としたが、本発明はこれに限定されることはなく、管部材4を備えなくてもよい。さらに、管部材4は、車両ドアD、D1内に設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、スピーカユニット2およびエンクロージャ3を車両ドアD内に収容し、管部材4のみを車両ドアD、D1外に設けてもよい。
【0269】
また、上記実施例では、管部材4の他端E2は、インナパネルPi2の下面Daに開口しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、管部材4の他端は、車内空間A3に開口されていればよく、アウタパネルPo1の下面に開口していてもよく、車両ドアDの上方において車内空間A3に向けて開口していてもよい。
【0270】
また、上記実施例では、スピーカユニット2は、座面Sよりも上方に設けられているが、これに限定されることはなく、座面Sよりも下方に設けられてもよい。
【0271】
また、上記実施例では、共振素子としての振動部材5が発生する共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いものとしたが、共振音の1/4波長を、耳珠間幅よりも長く設定してもよい。また、例えば音発生装置がユーザーの正面又は背面に配置され、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士に経路差が生じにくい場合等、左右の耳に到達する音波同士の位相差が生じにくい場合には、共振音の1/4波長が耳珠間幅以下であってもよい。
【0272】
[実施例16]
まず、実施例16に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。
【0273】
図50は、本発明の実施例16に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す模式図である。
【0274】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1Yは、移動体としての車両Cに設けられ、不図示の集音部で集音されたノイズと略逆位相の音をノイズ打消し用に発する1つのスピーカ装置10を備える。
【0275】
車両Cは、次のような箱状の車内空間A3を形成している。車内空間A3は、車両Cの上下方向Di2が、ウインドシールド(フロントガラス)Wの内面と、車両ボディの上面(天面)S1と、下面(底面)S2と、で区画される。また、車両Cの進行方向(前後方向Di1)が、ウインドシールド(フロントガラス)Wの内面と、車両Cの前後方向Di1における前面S3と、後面S5と、で区画され、車両Cの幅方向(左右方向Di3)が、一対の側面S4(車両の扉体を含む)で区画される。車内空間A3の前方側には、運転席SH1及び助手席SH2が設けられ、後方側に三人掛けのベンチ状の後方座席SH3が設けられている。
【0276】
スピーカ装置10は、音を発する音放射部としてのスピーカユニット2と、このスピーカユニット2を収容するエンクロージャ3と、を備えている。
【0277】
スピーカユニット2は、実施例1で説明した
図5に示すスピーカユニット21A、22Aと同様に構成されているため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0278】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1Yでは、上述した実施例1に示すようにノイズの逆位相としやすいキャンセル音を発生するスピーカユニット2を有するスピーカ装置10が次のような位置に配置されている。即ち、車内空間A3内において、車両Cの前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央にスピーカユニット2自体が位置するようにスピーカ装置10が配置されている。具体的には、
図50に示されているように、運転席SH1及び助手席SH2と、後方座席SH3と、の間で、左右方向Di3の略中央となる位置の下面S2に、振動板300を上面S1に向けて配置されている。前後方向Di1に比べて左右方向Di3が小さい場合は、必ずしも左右方向Di3は中央で無くても良い。
【0279】
本実施例のスピーカ装置10における位相特性では、スピーカユニット2の最低共振周波数に応じたピーク(約45Hz)と、弾性部材8Aによるサブピーク(約100Hz)と、を有する。サブピークの周波数は、主に弾性部材8Aの共振周波数(素子共振周波数)によって定まる。
【0280】
100Hzのサブピークに対応する波長は3.4m(1/4波長は0.85m)である。従って、共振素子としての弾性部材8Aが発生する共振音の1/4波長は、耳珠間幅(例えば0.15m)の2倍よりも充分に長い。
【0281】
本実施例では、スピーカ装置10をこのような位置に配置することで、車内空間A3に発生させるキャンセル音について次のような効果を得ることができる。以下、このスピーカ装置10の位置によって得ることができる効果について、車両Cを想定したミニチュアボックスを用いたシミュレーションによって説明する。
図51は、
図50に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステムに対応したシミュレーション用のミニチュアボックスを示す模式図である。
【0282】
このシミュレーションでは、車両Cを想定したミニチュアCMBの、前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央にスピーカ装置10のスピーカユニット2が位置している。そして、検証用に、9つの集音マイクM1~M9が、前後方向Di1配列されている。このシミュレーションは、スピーカユニット2が発したキャンセル音を、各集音マイクM1~M9で集音して音圧と、入力信号に対する位相差と、を計測する実測シミュレーションである。
【0283】
図52は、
図51に示されているミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の音圧特性を示すグラフである。そして、
図53は、
図51に示されているミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の位相特性を示すグラフである。
【0284】
図52に示されている音圧特性のグラフG1では、縦軸にキャンセル音の音圧(dB)がとられ、横軸に周波数(Hz)がとられている。そして、第1集音マイクM1でのキャンセル音の音圧特性が一点鎖線で描かれ、第3集音マイクM3でのキャンセル音の音圧特性が二点鎖線で描かれ、第5集音マイクM5でのキャンセル音の音圧特性が三点鎖線で描かれている。また、第7集音マイクM7でのキャンセル音の音圧特性が実線で描かれ、第9集音マイクM9でのキャンセル音の音圧特性が点線で描かれている。
【0285】
図53に示されている位相特性のグラフG2では、縦軸に入力信号に対するキャンセル音の位相差(deg)がとられ、横軸に周波数(Hz)がとられている。そして、第1集音マイクM1でのキャンセル音の位相特性が一点鎖線で描かれ、第3集音マイクM3でのキャンセル音の位相特性が二点鎖線で描かれ、第5集音マイクM5でのキャンセル音の位相特性が三点鎖線で描かれている。また、第7集音マイクM7でのキャンセル音の位相特性が実線で描かれ、第9集音マイクM9の位相特性が点線で描かれている。
【0286】
ここで、本実施例でのスピーカ装置10の位置による効果を検証するために、本シミュレーションでは、スピーカ装置10を本実施例とは異なる位置に配置した2種類の比較例についても同様の計測が行われる。
【0287】
図54は、比較例4に対応したシミュレーション用のミニチュアボックスを示す模式図である。また、
図55は、
図54に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の音圧特性を示すグラフである。そして、
図8は、
図54に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の位相特性を示すグラフである。
【0288】
図54~
図56に示されている比較例4のシミュレーションでは、ミニチュアCMBの、前後方向Di1の略中央から前方側に150mmずれた位置にスピーカ装置10のスピーカユニット2が位置している。左右方向Di3については略中央にスピーカ装置10のスピーカユニット2が位置している。
【0289】
図55に示されている音圧特性のグラフG3、及び
図56に示されている位相特性のグラフG4は、各々、
図52に示されている音圧特性のグラフG1、及び
図53に示されている位相特性のグラフG2と同様のグラフである。
図55の音圧特性のグラフG3には、比較例4の条件下における、第1集音マイクM1、第3集音マイクM3、第5集音マイクM5、第7集音マイクM7、及び第9集音マイクM9での各キャンセル音の音圧特性が各種線で描かれている。同様に、
図56の位相特性のグラフG4には、第1集音マイクM1、第3集音マイクM3、第5集音マイクM5、第7集音マイクM7、及び第9集音マイクM9での各キャンセル音の位相特性が各種線で描かれている。
【0290】
また、
図57は、比較例4に対応したシミュレーション用のミニチュアボックスを示す模式図である。また、
図58は、
図57に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の音圧特性を示すグラフである。そして、
図59は、
図57に示されている比較例4のミニチュアボックスにおける各所の集音マイクで集音されたキャンセル音の位相特性を示すグラフである。
【0291】
図57~
図59に示されている比較例4のシミュレーションでは、ミニチュアCMBの、前後方向Di1の略中央から前方側に300mmずれた位置にスピーカ装置10のスピーカユニット2が位置している。左右方向Di3については略中央にスピーカ装置10のスピーカユニット2が位置している。
【0292】
そして、
図58の音圧特性のグラフG5には、比較例4の条件下における、第1集音マイクM1、第3集音マイクM3、第5集音マイクM5、第7集音マイクM7、及び第9集音マイクM9での各キャンセル音の音圧特性が各種線で描かれている。同様に、
図59の位相特性のグラフG4には、第1集音マイクM1、第3集音マイクM3、第5集音マイクM5、第7集音マイクM7、及び第9集音マイクM9での各キャンセル音の位相特性が各種線で描かれている。なお、このミニチュアボックスは実際の車両の約1/5のサイズである。そのため、検証結果の周波数を実際の車両のサイズに換算すると、検証結果の周波数の1/5相当と考えて良い。
【0293】
スピーカ装置10のスピーカユニット2が前後方向Di1の略中央からずれて位置している比較例3及び比較例4では、
図55及び
図58から分かるように、何れも、200Hz~300Hzの間に1次共振のピークが現れる。実際の車両サイズで換算すると40Hz~50Hzに相当する。その結果、
図56及び
図59から分かるように、何れも、1次共振周波数の周辺で位相差の急変が生じている。このため、これらの比較例3及び比較例4では、位相差の急変により各所でのキャンセル音の位相がノイズ音の逆位相からずれ易くノイズの打消しが困難となる恐れがある。また、これらの位相差の変化は、ミニチュアCMBの各所の相互間で異なる様相を呈している。その結果、各所でノイズの打消しの程度にバラつきが出る恐れがある。
【0294】
ここで、一般に、箱状の空間内で音が発生した場合、空間を区画する壁面のうちで相対する壁面間での反射音による定在波が形成されることがある。上記の1次共振は、この定在波の影響によるものであり、比較例3及び比較例4では、この定在波の影響を強く受けて、上記のような位相差の乱れが生じていると考えられる。
【0295】
これに対し、本実施例では、
図51~
図53のシミュレーションから分かるように、まず、
図55及び
図58に示されているような1次共振のピークが高域側へと移動している。これにより、ノイズの打消しに有効な100Hz以下の中低音域については音圧、及び、入力信号に対する位相差の両方が、
図52及び
図53に示されているように入力信号の周波数、及び、空間内の場所に依らず安定する。
【0296】
本実施例では、車内空間A3内において前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央にスピーカユニット2自体が位置するようにスピーカ装置10が配置することで、上記のように音圧と位相差の両方について安定させることができる。これにより、集音したノイズに基づいて調整した入力信号によるキャンセル音について、車内空間A3の各所でノイズの逆位相からずれにくくすることができる。その結果、車内空間A3の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができる。
【0297】
また、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1Yでは、スピーカ装置10が、音を発するスピーカユニット2を音放射部として備えている。そして、車内空間A3内において、車両Cの前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央に、スピーカユニット2自体が配置されている。これにより、システムの構成が簡単なものとなり、車両Cへのアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1Yの設置についての手間を抑えることができる。
【0298】
また、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1Yでは、スピーカ装置10が、音を発するスピーカユニット2と、スピーカユニット2を収容するエンクロージャ3と、を備えている。そして、
図2に示されているように、スピーカユニット2における振動板300に接続された弾性部材8Aが配されている。この弾性部材8Aが、スピーカユニット2の最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させる共振素子となっている。
【0299】
共振素子としての弾性部材8Aを備えることで、スピーカ装置10による発生音の音圧特性は、スピーカユニット2の最低共振周波数に応じたピーク以外に、弾性部材8Aによる共振音に応じた周波数において、サブピークを有する。スピーカ装置10における位相特性は、周波数が高くなるにしたがって位相差が小さくなる傾向を示すが、音圧特性がサブピークを有することにより、位相特性のグラフが、サブピークの周波数やその近傍において下向きに凸に変形しようとする。従って、位相特性のグラフには、位相差の変化が比較的緩やかな平坦領域が形成される。このような平坦領域の周波数においては、スピーカ装置10による発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。弾性部材8Aによる共振音の周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。この結果、車内空間A3の各所におけるノイズを一層良好に打ち消すことができる。
【0300】
また、共振素子としての弾性部材8Aが発生する共振音の1/4波長が耳珠間幅(例えば0.15m)の2倍よりも長いことで、ユーザー(移動体の搭乗者)の頭部に共振音の音波が到達した際、左右の耳における音圧の絶対値の差を小さくすることができる。即ち、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士には、最大で耳珠間幅だけ経路差が生じ得る。このとき、共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いことで、左右の耳に到達する音波同士の位相差が小さくなり、音圧の絶対値の差が小さくなる。従って、上記のような平坦領域を形成することによる効果の左右差を低減することができる。また、音発生装置とユーザーの頭部との位置関係が変化した場合(例えば搭乗者が座席において頭部を動かした場合)でも、同様に左右差を低減することができる。
【0301】
[実施例17]
次に、本発明の実施例17に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例17では、スピーカ装置の配置位置が実施例16とは異なる。以下、実施例17について、この実施例16との相違点に注目して説明を行う。
【0302】
図60は、本発明の実施例17に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す模式図である。尚、この
図60では、
図50に示されている構成要素と同等な構成要素については
図50と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0303】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1Zでは、まず、スピーカ装置10Zは、次のような構成を有している。即ち、
図2に示されている実施例1のスピーカユニット2と同様に、共振素子としての弾性部材8Aを備えたスピーカユニット2Zと、このスピーカユニット2Zを収容するエンクロージャ3Zと、を備えている。
【0304】
そして、本実施例では、車内空間A3内において、車両Cの前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央にスピーカユニット2Z自体が位置するようにスピーカ装置10Zが配置されている。具体的には、
図60に示されているように、運転席SH1及び助手席SH2と、後方座席SH3と、の間で、左右方向Di3の略中央となる位置の上面S1に、振動板300を下面S2に向けて配置されている。
【0305】
このような位置に配置されたスピーカ装置10Zでも、実施例16と同様に、車内空間A3内の各所で、ノイズの打消しに有効な中低音域について、
図52や
図53に示されている音圧特性及び位相特性の安定したキャンセル音を得ることができることはいうまでもない。従って、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1Zによっても、車内空間A3の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができる。
【0306】
[実施例18]
次に、本発明の実施例18に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例18でも、スピーカ装置の配置位置が実施例16とは異なる。以下、実施例18についても、実施例16との相違点に注目して説明を行う。
【0307】
図61は、本発明の実施例18に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す模式図である。尚、この
図61でも、
図50に示されている構成要素と同等な構成要素については
図50と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0308】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1AAでも、スピーカ装置10AAは、
図2に示されている実施例1のスピーカユニット2と同様のスピーカユニット2AAと、このスピーカユニット2AAを収容するエンクロージャ3AAと、を備えている。
【0309】
そして、本実施例では、車内空間A3内において、車両Cの前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央にスピーカユニット2AA自体が位置するようにスピーカ装置10AAが配置されている。具体的には、
図60に示されているように、運転席SH1及び助手席SH2と、後方座席SH3と、の間で、左右方向Di3の略中央となる位置に振動板300を上面S1に向けて配置されている。さらに、本実施例では、スピーカ装置10AAが、車内空間A3内において、車両Cの上下方向Di2においても、略中央にスピーカユニット2AA自体が位置するように、配置されている。
【0310】
このような位置にスピーカ装置10AA配置された本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1AAによっても、実施例16と同様に、車内空間A3の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができる。さらに、本実施例によれば、上下方向Di2についても、車内空間A3内の各所で音圧特性及び位相特性の安定したキャンセル音を得ることができる。従って、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1AAによれば、車内空間A3の各所におけるノイズを一層良好に打ち消すことができる。
【0311】
[実施例19]
次に、本発明の実施例19に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例19では、スピーカ装置が備えるスピーカユニットが実施例16とは異なる。以下、実施例19について、この実施例16との相違点に注目して説明を行う。
【0312】
図62は、本発明の実施例19に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムが備えるスピーカユニットの内部構造を示す図である。尚、この
図62では、
図2に示されている構成要素と同等な構成要素については
図2と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0313】
本実施例のスピーカユニット2BBは、
図2に示されている実施例1のスピーカユニット21A、22Aと異なり、弾性部材8Aが設けられていない。このため、本実施例のスピーカユニット2BBは、本来の最低共振周波数を有し、この周波数の近傍で音圧が変化する。本実施例では、スピーカユニット2BBのキャンセル音のための入力信号を制御するに当たって、上記の本来の最低共振周波数を考慮した制御が行われることとなる。
【0314】
本実施例では、このスピーカユニット2BBを有するスピーカ装置が、
図50に示されている実施例16と同じ位置に配置されることで、定在波による影響の抑制効果が得られる点は、実施例16と同じであることはいうまでもない。ただし、実施例16では、スピーカユニット2に弾性部材8Aを設けることで、スピーカ装置の発生音それ自体についても音圧特性や位相特性を安定させ、ノイズを一層良好に打ち消すことができる点は上述したとおりである。
【0315】
なお、上述したスピーカ装置10、10AAとしては、実施例7で説明した
図21に示す移動体用音発生装置1Gと同じ構成であってもよい。
【0316】
[実施例20]
次に、本発明の実施例20に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例20では、スピーカ装置の構造が実施例16とは異なる。以下、実施例20について、この実施例16との相違点に注目して説明を行う。
【0317】
図63は、本発明の実施例20に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。尚、この
図63では、
図50に示されている構成要素と同等な構成要素については
図50と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0318】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1CCでは、まず、スピーカ装置10CCは、次のような構成を有している。即ち、スピーカ装置10CCが、音を発するスピーカユニット2CCと、スピーカユニット2CCを収容するエンクロージャ3CCと、スピーカユニット2CCの音を導いて一端の開口631から音を放射する、音放射部としての音導管4CCと、を備えている。スピーカユニット2CCは、
図2に示されている実施例1のスピーカユニット21A、22Aと同等なものである。音導管4CCは、筒状の部材であって、上記の開口631とは反対側の端部がエンクロージャ3CCにおける、スピーカユニット2CCの音放射側の壁に接続され、このスピーカユニット2CCに向かって開口している。
【0319】
本実施例では、スピーカユニット2CCを収容したエンクロージャ3CCが、車内空間A3における後面S5の近傍に配置されている。また、このエンクロージャ3CCは、スピーカユニット2CCの音放射側が車内空間A3の下面S2側となるように配置されている。このエンクロージャ3CCから延出する音導管4CCが、車内空間A3における前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央となる位置に向かって、下面S2に沿って延びている。そして、この略中央の位置に音導管4CCの開口631が配置されている。本実施例では、上下方向Di2については、音導管4CCの開口631は、車内空間A3の下面S2寄りに位置している。
【0320】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1CCでは、上記の略中央の位置に配置された開口631からノイズのキャンセル音が放射されることとなる。これにより、この略中央の位置にスピーカユニットを配置した場合と同様に定在波の影響を抑えて、車内空間A3の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができる。
【0321】
ここで、本実施例では、スピーカユニット2CCを収容したエンクロージャ3CCについては、車内空間A3内における配置については設計時の自由度が増すこととなる。このため、本実施例では、設計時の高い自由度の下、エンクロージャ3CCの後面S5の近傍への配置が決定されている。同様に、音導管4CCの配置ルートについても設計時の高い自由度が担保されており、この高い自由度の下、下面S2に沿った配置ルートが決定されている。
【0322】
[実施例21]
次に、本発明の実施例21に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例21でも、スピーカ装置の構造が実施例16とは異なる。以下、実施例21について、実施例16との相違点に注目して説明を行う。
【0323】
図64は、本発明の実施例21に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。尚、この
図64でも、
図50に示されている構成要素と同等な構成要素については
図50と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0324】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1DDは、
図63に示されている実施例20のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1CCの変形例となっている。本実施例のスピーカ装置10DDでも、スピーカユニット2DDを収容したエンクロージャ3DDが、車内空間A3における後面S5の近傍に配置され、音導管4DDが、このエンクロージャ3DDから延出している。
【0325】
本実施例では、スピーカユニット2DDの音放射側が上面S1側となるようにエンクロージャ3DDが配置されている。そして、音導管4DDが、エンクロージャ3DDにおける上面S1側の壁から延出して、上面S1に沿って延びている。この音導管4DDの開口731が、車内空間A3における前後方向Di1及び左右方向Di3の何れの方向においても略中央となる位置に配置されている。本実施例では、上下方向Di2については、音導管4DDの開口731は、車内空間A3の上面S1寄りに位置している。
【0326】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1DDによっても、実施例16と同様に定在波の影響を抑えて、車内空間A3の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができることはいうまでもない。
【0327】
また、本実施例でも、スピーカユニット2DDを収容したエンクロージャ3DDの配置や音導管4DDについて、実施例20と同様に、高い自由度の下、エンクロージャ3DDの後面S5の近傍への配置や、音導管4DDの下面S2に沿った配置ルートが決定されている。
【0328】
[実施例22]
次に、本発明の実施例22に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例22でも、スピーカ装置の構造が実施例16とは異なる。以下、実施例22について、実施例16との相違点に注目して説明を行う。
【0329】
図65は、本発明の実施例22に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。尚、この
図65でも、
図50に示されている構成要素と同等な構成要素については
図50と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0330】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1EEも、
図63に示されている実施例20のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1CCの変形例となっている。本実施例のスピーカ装置10EEでも、スピーカユニット2EEを収容したエンクロージャ3EEが、車内空間A3における後面S5の近傍に配置されている。
【0331】
そして、音導管4EEが、エンクロージャ3EEにおいてスピーカユニット2EEの音放射側となる上面S1側の壁から延出している。このとき、本実施例では、音導管4EEが、上下方向Di2について上面S1よりも中央寄りの位置を延びている。そして、音導管4EEの開口8311が、車内空間A3における前後方向Di1、左右方向Di3、及び上下方向Di2の何れの方向においても略中央となる位置に配置されている。
【0332】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1EEによっても、実施例16と同様に定在波の影響を抑えて、車内空間A3の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができることはいうまでもない。また、本実施例では、音導管4EEの開口8311が上下方向Di2についても略中央となる位置に配置されているので、車内空間A3の各所におけるノイズを一層良好に打ち消すことができる。
【0333】
そして、本実施例でも、スピーカユニット2EEを収容したエンクロージャ3EEの配置や音導管4EEについて、実施例20と同様に、高い自由度の下、エンクロージャ3EEの配置や、音導管4EEの配置ルートが決定されている。
【0334】
[実施例23]
次に、本発明の実施例23に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例23でも、スピーカ装置の構造が実施例16とは異なる。以下、実施例23について、実施例16との相違点に注目して説明を行う。
【0335】
図66は、本発明の実施例23に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムを示す図である。尚、この
図66でも、
図50に示されている構成要素と同等な構成要素については
図50と同じ符号が付されており、以下では、これら同等な構成要素についての重複説明を省略する。
【0336】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1FFも、
図63に示されている実施例20のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1CCの変形例となっている。本実施例のスピーカ装置10FFでは、スピーカユニット2FFを収容したエンクロージャ3FFが、車内空間A3における前面S3の近傍の下面S2上に配置されている。
【0337】
そして、音導管4FFが、エンクロージャ3FFにおいてスピーカユニット2FFの音放射側となる上面S1側の壁から延出している。このとき、本実施例では、音導管4FFが、上下方向Di2について下面S2よりも中央寄りの位置を延びている。そして、音導管4FFの開口931が、車内空間A3における前後方向Di1、左右方向Di3、及び上下方向Di2の何れの方向においても略中央となる位置に配置されている。
【0338】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1FFによっても、実施例16と同様に定在波の影響を抑えて、車内空間A3の各所におけるノイズを良好に打ち消すことができることはいうまでもない。また、本実施例では、音導管4FFの開口931が上下方向Di2についても略中央となる位置に配置されているので、車内空間A3の各所におけるノイズを一層良好に打ち消すことができる。
【0339】
そして、本実施例でも、スピーカユニット2FFを収容したエンクロージャ3FFの配置や音導管4FFについて、実施例20と同様に、高い自由度の下、エンクロージャ3FFの配置や、音導管4FFの配置ルートが決定されている。
【0340】
以上、
図63~
図66を参照して説明した第20~実施例23では、キャンセル音の音源としてのスピーカユニット2CC,・・・,2FFと、キャンセル音の放射口たる音導管4CC,・・・,4FFの開口631,・・・,931と、が各々独立要素となっている。これによって、スピーカユニット2CC,・・・,2FFを収容したエンクロージャ3CC,・・・2FFの配置や音導管4CC,・・・,4FFの配置ルートについて自由度が増すこととなり、設計や車両Cへの設置についての手間を抑えることができる。
【0341】
尚、本発明は、以上に説明した実施例16~23に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0342】
例えば、本発明にいうスピーカ装置の一例として、実施例16~23では、何れも、コーン型のスピーカユニット2,・・・,2FFを有するスピーカ装置10,・・・,10FFが例示されている。しかしながら、本発明にいうスピーカ装置は、スピーカユニットの形状について特に限定されず、この形状がコーン型であってもよいしドーム型であってもよい。
【0343】
また、本発明にいう「移動体の前後方向及び左右方向の何れの方向においても略中央に、前記スピーカユニット自体が配置されている」スピーカ装置の一例として、実施例16~18に次のようなスピーカ装置10,10Z,10AAが例示されている。即ち、スピーカユニット2,2Z,2AAが、上下方向Di2について、車内空間A3の下面S2、上面S1、略中央に配置されたスピーカ装置10,10Z,10AAが例示されている。しかしながら、本発明にいう上記のスピーカ装置は、これらに限るものではなく、移動体の上下方向については任意に設定し得る。
【0344】
また、本発明にいうスピーカユニットと音導管とを備えたスピーカ装置の一例として、実施例20~23に次のようなスピーカ装置10CC,・・・,10FFが例示されている。即ち、車内空間A3における後面S5の近傍にスピーカユニット2CC,2DD,2EEが配置されたスピーカ装置10CC,10DD,10EEや、前面S3の近傍に配置されたスピーカ装置10FFが例示されている。しかしながら、本発明にいう上記のスピーカ装置は、これらに限るものではなく、スピーカユニットの位置は、車内空間の内外を問わず、車両において搭載可能な位置であれば何処であってもよい。また、このスピーカ装置における音導管の配置ルートについても、スピーカユニットの位置や車両の構造に応じて任意に設定し得る。
【0345】
また、本発明にいう共振素子の一例として、実施例16~18,20~23では振動板300に接続された弾性部材8Aが例示されている。また、実施例19ではエンクロージャ31G、31Gに設けられた振動部材103や管状部102が例示されている。しかしながら、本発明にいう共振素子は、これらに限るものではなく、スピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させるものであれば、その具体的な構成や設置場所を問うものではない。
【0346】
また、本発明にいう音導管の一例として、実施例20~23には、スピーカユニット2CC,・・・,2FFを収容したエンクロージャ3CC,・・・,3FFと別部材となった音導管4CC,・・・,4FFが例示されている。しかしながら、本発明にいう音導管はこれに限るものではなく、例えばエンクロージャと一体に形成されたもの等であってもよい。このような音導管の一例としては、例えばエンクロージャ自体が筒状に形成されており、音導管を兼ねているもの等が挙げられる。
【0347】
また、前記実施例1では、共振素子としての弾性部材8Aが発生する共振音の1/4波長が耳珠間幅の2倍よりも長いものとしたが、共振音の1/4波長を、耳珠間幅よりも長く設定してもよい。また、例えば音発生装置がユーザーの正面又は背面に配置され、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士に経路差が生じにくい場合等、左右の耳に到達する音波同士の位相差が生じにくい場合には、共振音の1/4波長が耳珠間幅以下であってもよい。
【0348】
[実施例24]
図67は、本発明の実施例24にかかる移動体用音発生装置1GGを示す斜視図であり、
図68は、移動体用音発生装置1GGの概略構成を示す断面図であり、
図69は、移動体用音発生装置1GGの機械要素を回路要素に置換した等価回路図であり、
図70は、移動体用音発生装置1GGにおける等価回路のインピーダンス及び発生音の周波数特性を示すグラフであり、
図71は、移動体用音発生装置1GGにおける入力信号と発生音との位相差の周波数依存性を示すグラフである。
【0349】
移動体用音発生装置1GGは、
図67に示すように、移動体としての車両に備えられた椅子700に収容されている。
図67中の符号701は座部であり、符号702は背もたれであり、符号703はヘッドレストである。移動体用音発生装置1GGは、
図68に示すように、車両が形成する箱状の空間、すなわち車室に向けて音を放射するスピーカユニット2と、スピーカユニット2を収容する収容部としてのエンクロージャ3GGと、エンクロージャ3GG内に連通した管部材4GGと、を備えている。また、移動体用音発生装置1GGは、ノイズを集音する集音部と、スピーカユニット2に入力信号を送信する送信部と、を備えた外部装置とともに車両に設けられ、この外部装置とともにノイズキャンセル装置を構成する。
【0350】
スピーカユニット2は、フレームと、フレームに接続される振動板と、振動板をフレームに接続するエッジと、振動板に接続される筒状のボイスコイルと、ボイスコイルをフレームに接続するダンパと、ボイスコイルの内側に挿入される磁気回路と、を備えた一般的なコーン型のスピーカユニットである。尚、スピーカユニットとして、例えば薄型スピーカ等の他の構成のものを用いてもよい。
【0351】
エンクロージャ3GGは、スピーカユニット2の後方側(音放射側の反対側)を囲んで後方空間S30を形成するエンクロージャ本体31GGと、スピーカユニット2の前方側(音放射側)を囲んで前方空間S31を形成する前方収容部32GGと、前方空間S31をスピーカユニット2寄りの第1前方空間S311とスピーカユニット2から離れた第2前方空間S312とに区画した内側区画壁33GGと、を有する。エンクロージャ3GGは、
図67に示すように、椅子700の背もたれ702の下部に収容されている。
【0352】
内側区画壁33GGのスピーカユニット2と対向する部分には、振動部材5が設けられている。振動部材5は、重量部51と、弾性支持部52と、を有する。重量部51は、例えば金属部材によって平板状に形成されたおもりである。弾性支持部52は、例えばゴム等の弾性部材によって形成され、重量部51の周縁部に設けられる。内側区画壁33GGのうち振動部材5が設けられる部分には開口が形成されており、振動部材5によってこの開口が塞がれる。即ち、弾性支持部52によって、重量部51の外周縁と、内側区画壁33GGの開口の内周縁と、が接続され、重量部51が内側区画壁33GGに対して振動可能に支持される。
【0353】
スピーカユニット2の振動板が振幅することで生じる前方収容部32GGの空気の疎密波(音波)により重量部51が振動しようとする。振動部材5は、重量部51および弾性支持部52の機械抵抗やコンプライアンス、振動質量に応じた共振周波数を有する。このとき、振動部材5の共振周波数は、スピーカユニット2の最低共振周波数とは異なる値に設定されている。従って、スピーカユニット2が放射した音により、振動部材5は、スピーカユニット2の最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させ、共振素子として機能する。
【0354】
管部材4GGは、
図67に示すように、金属製の中空パイプであり、背もたれ702の骨組みの一部から成る。
図67において骨組みの他の部分は図示を省略している。管部材4GGの一端E1は、エンクロージャ3GGの第2前方空間S312に連通している。管部材4GGの他端E2は開口しており、スピーカユニット2で発生した音がこの他端E2から放射され、背もたれ702を通過して車室に放射される。また、管部材4GGの他端E2は、背もたれ702の上部に配置されているとともに、ヘッドレスト703側に開口している。
【0355】
このように、従来から椅子700に用いられている骨組みを管部材4GGとして兼用することにより、椅子700の容積や重量の増加を最小限にすることができる。また、放音する部分である管部材4GGの他端E2を椅子700に着座した者の耳の近傍に位置させているので、着座した者にノイズのキャンセル音を確実に伝えることができる。
【0356】
以上のような移動体用音発生装置1GGでは、共振素子としての振動部材5が設けられていることから、スピーカユニット2の前方側から放射されるとともに前方空間S31を通過して管部材4から外部空間に放射される音は、スピーカユニット2の最低共振周波数だけでなく、振動部材5の共振周波数においても音圧が強められる。
【0357】
以下、移動体用音発生装置1GGが放射する音に関し、音圧の周波数依存性(音圧特性)、及び、スピーカユニット2のボイスコイルへの入力信号と発生音との位相差の周波数依存性(位相特性)について説明する。
【0358】
まず、移動体用音発生装置1GGの機械要素を回路要素に置換した等価回路図を
図69に示す。前方収容部32GGによる部分P30と、振動部材5による部分P31と、が並列に接続されており、並列に接続された部分全体を、前方要素による部分P32とする。スピーカユニット2による部分P33と、エンクロージャ本体31GGによる部分P34と、前方要素による部分P32と、が直列に接続されている。
【0359】
前方収容部32GGは、その容積によって定まるコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、前方収容部32GGによる部分P30においては、コンプライアンスによるコンデンサCb2と、機械抵抗による抵抗Rb2と、が直列に接続されている。
【0360】
振動部材5は、重量部51および弾性支持部52の振動質量と、弾性支持部52のコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、振動部材5による部分P31においては、振動質量によるコイルm2と、コンプライアンスによるコンデンサC2と、機械抵抗による抵抗Rm2と、が直列に接続されている。
【0361】
スピーカユニット2は、ダンパおよびエッジの機械抵抗と、ダンパおよびエッジのコンプライアンスと、振動板、ダンパおよびエッジの振動質量と、を有しており、スピーカユニット2による部分P33においては、機械抵抗による抵抗Rmと、コンプライアンスによるコンデンサCと、振動質量によるコイルm0と、が直列に接続されている。
【0362】
エンクロージャ本体31GGは、その容積によって定まるコンプライアンスと、振動時の機械抵抗と、を有しており、エンクロージャ本体31GGによる部分P34においては、コンプライアンスによるコンデンサCb1と、機械抵抗による抵抗Rb1と、が直列に接続されている。
【0363】
このように機械要素を回路要素に置換することにより、回路全体の合成インピーダンスを求めることができる。このようなインピーダンスに基づき、移動体用音発生装置1GGの音圧特性を求めることができ、さらに音圧特性に基づいて位相特性も求めることができる。
【0364】
上記のような等価回路に基づいて求めた移動体用音発生装置1GGのインピーダンスの周波数特性、及び、音圧特性のシミュレーション結果を
図70に示す。尚、
図70では、左側の縦軸が音圧特性に対応し、右側の縦軸がインピーダンスに対応している。また、周波数を示す横軸は対数表示されている。
【0365】
移動体用音発生装置1GGにおける音圧特性は、スピーカユニット2の最低共振周波数に応じたピーク(約110Hz)と、他の回路要素によるサブピーク(約40Hz)と、を有する。サブピークの周波数は、主に振動部材5の共振周波数(素子共振周波数)によって定まる。
【0366】
移動体用音発生装置1GGの位相特性のシミュレーション結果を
図71に示す。
図71では、位相が-180°以下の値については、360°を加算した値で表示し直し、位相が180°よりも大きい値については、360°を減算した値で表示し直している。スピーカユニット2の最低共振周波数(約110Hz)近傍において、位相差の変化率が高くグラフが急峻な形状を有し、周波数が高くなるに従って、位相差が小さくなる傾向があるが、このグラフは、約40~50Hz近傍において下向きに凸に変形しようとする。この下向きに凸に変形しようとする部分は、上記のサブピークによるものである。これにより、約60~100Hzの周波数帯域において、位相差が約-120~-90°の範囲に収まっている。即ち、位相特性のグラフには、位相差の変化が緩やかな平坦領域(約60~100Hz)が形成されている。
【0367】
100Hzのサブピークに対応する波長は0.85m(1/4波長は0.21m)である。従って、共振素子としての振動部材5が発生する共振音の1/4波長は、耳珠間幅(例えば0.15m)よりも充分に長い。
【0368】
以上のような移動体用音発生装置1GGによってノイズキャンセルしようとした場合、ノイズ信号と、移動体用音発生装置1GGが放射するキャンセル信号と、の間に位相差が生じてしまうと、キャンセル効果が低下したり、逆にノイズが増大したりしてしまうことがある。例えば、ノイズ信号とキャンセル信号との位相差が60°の場合について、ノイズ信号、ノイズ信号と振幅の等しいキャンセル信号及びこれらの合成信号の波を
図11に示す。ノイズ信号及びキャンセル信号が放射された空間において実際に発生する音の音圧は、合成信号の振幅となる。
図11の例では、ノイズ信号とキャンセル信号とで振幅が等しい場合には、ノイズ信号の振幅と合成信号の振幅とが等しくなり、ノイズ信号とキャンセル信号との位相差が60°を超えるとキャンセル効果が得られなくなる。
【0369】
従って、移動体用音発生装置1GGの位相特性を予めシミュレーションによって算出したり実際に測定したりしておき、放射音がノイズの逆位相となるように入力信号を制御すればよい。
【0370】
上記の構成により、エンクロージャ3GGが共振素子としての振動部材5を備え、位相特性のグラフに平坦領域が形成されていることで、平坦領域の周波数においては、移動体用音発生装置1GGによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、振動部材5の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0371】
また、共振素子としての振動部材5の機械抵抗やコンプライアンス、振動質量を調節したりすることにより、素子共振周波数を調節することができ、適宜な周波数帯域に平坦領域を形成することができる。
【0372】
また、共振素子としての振動部材5が発生する共振音の1/4波長が耳珠間幅(例えば0.15m)よりも長いことで、ユーザー(移動体の搭乗者)の頭部に共振音の音波が到達した際、左右の耳における音圧の絶対値の差を小さくすることができる。即ち、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士には、最大で耳珠間幅だけ経路差が生じ得る。このとき、共振音の1/4波長が耳珠間幅よりも長いことで、左右の耳に到達する音波同士の位相差が小さくなり、音圧の絶対値の差が小さくなる。従って、上記のような平坦領域を形成することによる効果の左右差を低減することができる。また、移動体用音発生装置とユーザーの頭部との位置関係が変化した場合(例えば搭乗者が座席において頭部を動かした場合)でも、同様に左右差を低減することができる。
【0373】
[実施例25]
図72は、本発明の実施例25にかかる移動体用音発生装置1Bを示す斜視図であり、
図73は、
図72の管部材4HHの他端E2に設けられた振動部材5の断面図であり、
図74は、移動体用音発生装置1HHの概略構成を示す断面図である。
【0374】
移動体用音発生装置1HHは、
図72に示すように、移動体としての車両に備えられた椅子700に収容されている。移動体用音発生装置1HHは、
図72,74に示すように、スピーカユニット2と、エンクロージャ3HHと、管部材4HHと、を備えており、実施例24の移動体用音発生装置1GGと同様にノイズキャンセル装置を構成する。
【0375】
エンクロージャ3HHは、エンクロージャ本体31HHと、前方収容部32HHと、を有する。エンクロージャ3HHは、実施例24のエンクロージャ3GGと異なり、内側区画壁33GGを有しておらず、振動部材5が設けられていない。
【0376】
管部材4HHは、実施例24の管部材4GGの他端E2に、振動部材5を取り付けるための拡開部43が設けられている。拡開部43は、管部材4HHのその他の部分よりも内径及び外径が大きい円筒状に形成されており、他端E2に連通しているとともにヘッドレスト703側に開口している。
【0377】
振動部材5は、実施例24の振動部材5と同様に、重量部51と、弾性支持部52と、を有する。拡開部43の開口は、振動部材5によって塞がれる。即ち、弾性支持部52によって、重量部51の外周縁と、拡開部43の開口の内周縁と、が接続され、重量部51が拡開部43に対して振動可能に支持される。振動部材5の共振周波数は、スピーカユニット2の最低共振周波数とは異なる値に設定されている。振動部材5は、実施例24の振動部材5と同様にスピーカユニット2の最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させ、共振素子として機能する。
【0378】
上記の構成の移動体用音発生装置1HHは、実施例24の移動体用音発生装置1GGと同様に、振動部材5によって音圧特性のグラフにサブピークを有し、それにより位相特性のグラフに平坦領域を形成する。従って、平坦領域の周波数においては、移動体用音発生装置1HHによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、振動部材5の素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0379】
[実施例26]
図75は、本発明の実施例26にかかる移動体用音発生装置1IIを示す斜視図であり、
図76は、移動体用音発生装置1IIの概略構成を示す断面図である。
【0380】
移動体用音発生装置1IIは、
図75に示すように、移動体としての車両に備えられた椅子700に収容されている。移動体用音発生装置1IIは、
図75,76に示すように、スピーカユニット2と、エンクロージャ3HHと、管部材4GGと、を備えており、実施例24の移動体用音発生装置1GGと同様にノイズキャンセル装置を構成する。
【0381】
スピーカユニット2は、
図76に示すように、実施例1で説明した
図5に示すスピーカユニット21A、22Aと同等の構成をし、共振素子としての弾性部材8Aを備えている。
【0382】
エンクロージャ3HHは、実施例25のエンクロージャ3HHと同様に、内側区画壁33GGを有しておらず、振動部材5が設けられていない。
【0383】
上記の構成の移動体用音発生装置1IIは、実施例24の移動体用音発生装置1GGと同様に、弾性部材8Aによって音圧特性のグラフにサブピークを有し、それにより位相特性のグラフに平坦領域を形成する。従って、平坦領域の周波数においては、移動体用音発生装置1IIによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。このとき、弾性部材8Aの素子共振周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。
【0384】
なお、本発明は、前記実施例24~25に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0385】
例えば、前記実施例24~25では、エンクロージャ3GG,3HH、管部材4GG,4HH、スピーカユニット2の何れかの箇所に共振素子が配されていたものが挙げられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、これらの複数個所に配されたり、1箇所あるいは複数個所に複数個配されたりしていてもよい。また、管部材の形状・構造を適宜設計することにより、管部材自体に共振素子の機能を併せ持たせてもよい。この場合も「管部材に共振素子が配され」た状態の一態様であると解釈するものとする。
【0386】
また、前記実施例23~25では、共振素子として振動部材5,弾性部材8Aを例示したが、共振素子は、共振周波数を有して振動することで移動体用音発生装置の音圧特性にサブピークを形成するようなものであればよい。例えば、重量部を備えずに弾性部材のみによって構成された振動部材を共振素子として用いてもよい。このとき、弾性部材自体の重量が振動質量となる。
【0387】
また、前記実施例24では、共振素子としての振動部材5が発生する共振音の1/4波長が耳珠間幅よりも長く耳珠間幅の2倍よりも短いものとしたが、共振音の1/4波長を、耳珠間幅の2倍よりも長く設定してもよい。また、例えば、ユーザーの左右の耳に到達する音波同士に経路差が生じにくい場合等、左右の耳に到達する音波同士の位相差が生じにくい場合には、共振音の1/4波長が耳珠間幅以下であってもよい。
【0388】
尚、本発明の実施例にかかる移動体用音発生装置は、移動体の室内におけるノイズ音(例えば移動体が移動する際に発生する音等)をキャンセル可能なノイズキャンセル装置としても用いることができる。
【0389】
[実施例27]
まず、実施例27に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。
【0390】
図77は、本発明の実施例27に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図78は、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJが設けられた車両Cを示す平面図である。
図4は、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJの管部材4の要部を示す正面図であり、
図80は、管部材4を示す斜視図である。そして、
図81は、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJにおける後方側のスピーカ装置10C、10Dを示す背面図である。
【0391】
本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJは、
図77、78に示すように、移動体としての車両Cに設けられ、4つのスピーカ装置10JJA~10JJDを備える。このアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJは、不図示の集音部で集音されたノイズと略逆位相の音を、ノイズ打消し用のキャンセル音として各スピーカ装置10JJA~10JJDから発する。
【0392】
車両Cは、ウインドシールド(フロントガラス)Wの内面と、車両ボディの上面(天面)S1と、下面(底面)S2と、車両Cの進行方向(前後方向)における前面S3と、幅方向に対向する一対の側面S4(車両の扉体を含む)と、車両Cの進行方向における後面S5と、によって囲まれた箱状の車内空間A3を形成している。また、前面S3にインストルメントパネルIが設けられ、インストルメントパネルIの後方側に対向するように前方座席としての運転席SH1及び助手席SH2が設けられている。また、運転席SH1及び助手席SH2の後方側に三人掛けのベンチ状の後方座席SH3が設けられている。運転席SH1及び助手席SH2に搭乗者が着座した際の頭部の位置をそれぞれ頭部位置H1及びH2とし、後方座席SH3の各着座位置に搭乗者が着座した際の頭部の位置を、運転席SH1側から順に頭部位置H3~H5とする。
【0393】
スピーカ装置10JJAは、車内空間A3において、前後方向の前方側且つ幅方向の運転席SH1側(図示例では、前方側を向いた際に右側)の隅部CR11に設けられている。スピーカ装置10JJBは、車内空間A3において、前方側且つ幅方向の助手席SH2側(図示例では、前方側を向いた際に左側)の隅部CR2に設けられている。スピーカ装置10Cは、車内空間A3において、前後方向の後方側且つ運転席SH1側の隅部CR3に設けられている。スピーカ装置10Dは、車内空間A3において、後方側且つ助手席SH2側の隅部CR4に設けられている。即ち、4つのスピーカ装置10JJA~10JJDは、互いに異なる隅部CR11~CR14に配置されている。
【0394】
4つのスピーカ装置10JJA~10JJDを車内空間A3内に配置することで、車両Cの前後方向及び幅方向にキャンセル音の定在波を発生させ、車内空間A3におけるキャンセル音の音響特性を向上させることができる。また、運転席SH1、助手席SH2、後方座席SH3に着座する搭乗者に向けてスピーカ装置10JJA~10JJDから音波が放射されるので、車内空間A3の各所において十分な音圧のキャンセル音を届けることができる。これにより、車内空間A3のノイズを万遍なく打ち消すことができる。
【0395】
スピーカ装置10JJA~10JJDは、それぞれ、スピーカユニット2JJA~2JJDと、スピーカユニット2JJA~2JJDを収容する収容部としてのエンクロージャ3JJA~3JJDと、エンクロージャ3JJA~3JJDに接続された管部材4JJA~4JJDと、を備える。幅方向に対向する前方側のスピーカ装置10JJAとスピーカ装置10JJBとは、幅方向に略直交する面を対称面として略面対称に構成されている。また、後方側のスピーカ装置10JJC及びスピーカ装置10Dも同様の対称性を有している。従って、以下においてスピーカ装置10JJA、10JJBのうち一方についてのみ説明する場合は他方も同様の構成を有し、スピーカ装置10JJC、10JJDのうち一方についてのみ説明する場合は他方も同様の構成を有するものとする。
【0396】
上記スピーカユニット2JJA~2JJDは、実施例1で既に説明した
図80に示すスピーカユニット21A、22Aと同等であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0397】
そして、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJでは、上述したようにノイズの逆位相としやすいキャンセル音を発生するスピーカ装置10JJA~10JJDが上述した4箇所の位置に配置されている。
【0398】
各スピーカ装置10JJA~10JJDのスピーカユニット2JJA~2JJDは、中高音域(例えば1000~10000Hz)の音圧が低音域(例えば10~1000Hz)の音圧よりも高くなるように音波を放射するものであっても構わない。また、振動板300は、スピーカユニット2JJA~2JJDが音波を放射する側(前面側)を車両Cの上方に向けるとともに、磁気回路側(背面側)を車両Cの下方に向けるように設置されている。また、前方側のスピーカユニット2JJA、2JJBの振動板300の振動方向(音放射方向)が、インストルメントパネルIの上面に対して所定の角度(例えば30°)だけ傾斜するように、インストルメントパネルIにスピーカユニット2JJA、2JJBを設けてもよい。また、後方側のスピーカユニット2JJC、2JJDは、その振動板300の振動方向(又は音放射方向)が、上面S1に略直交するように設けられていてもよい。尚、インストルメントパネルIの上面に対して振動板300が傾斜した状態でスピーカユニット2JJA、2JJBがインストルメントパネルに取り付けられている場合には、インストルメントパネルIの上面に対する各振動板300の傾斜角度は、ウインドシールドWの角度や、スピーカユニット2JJA~2JJDと座席SHとの距離等に応じて、必要に応じて適宜に設定されていればよく、スピーカユニット2JJA~2JJDの中心軸又は振動板300を傾斜させなくてもよい。スピーカユニット2の中心軸又は振動板300を傾斜させない場合には、インストルメントパネルIの上面に沿って振動板300が配置されるように、スピーカユニット2を取り付けても構わない。また、スピーカユニット2JJA~2JJDの中心軸又は振動板300が各座席SH1、SH2(後方座席SH3においては各着座位置)に向けられていてもよい。
【0399】
エンクロージャ3JJA~3JJDは、箱状に形成されるとともに、底面及び4つの側面によって形成された内部空間にスピーカユニット2JJA~2JJDを配置して、スピーカユニット2JJA~2JJDの背面側にある一部分がエンクロージャ3JJA~3JJDに収容される。前方側のエンクロージャ3JJA、3JJBは、例えばインストルメントパネルI内に設けられ、後方側のエンクロージャ3JJC、3JJDは、例えばトランクルームの上方に設けられている。また、エンクロージャ3JJA~3JJDは、振動板300から放射された音波がエンクロージャ3JJA~3JJDの一部において反射することを抑止しつつ、この音波が車内空間A3に放射されるように、天面に傾斜面を有して設けても構わない。また、エンクロージャ3JJA~3JJDは、幅方向において、側面S4近傍に配置されており、それぞれ隅部CR11~CR14に配置されている。
【0400】
前方側のスピーカユニット2JJA、2JJBは、上記のようなエンクロージャ3JJA、3JJBに収容されることで、インストルメントパネルIの上面において前面から音波を放射するように、インストルメントパネルI内に設けられる。また、後方側のスピーカユニット2JJA、2JJBは、上面S1に向けて前面から音波を放射するように、トランクルームの上方に設けられる。また、スピーカユニット2JJA~2JJDの背面側で生じた音波は、エンクロージャ3JJA~3JJDの内部空間に向けて放射される。
【0401】
管部材4JJA~4JJDは、公知の金属や樹脂等を用いて両端が開口した筒状に形成され、その断面形状及び断面積は一端E1側から他端E2側にかけて略一定であり、適宜な共鳴周波数(例えば30~100Hz)を有するような長さに形成されている。尚、前方側の管部材4JJA、4JJBと、後方側の管部材4JJC、4JJDと、は略等しい長さを有しており、スピーカユニット2JJA~2JJDが動作(振動板300が振動)してから後述する他端E2において音波が放射されるまでに要する時間は略等しいものとする。
【0402】
前方側の管部材4JJA、4JJBは、エンクロージャ3JJA、3JJBにおけるスピーカユニット2JJA、2JJBの背面側である下面に一端E1が連結されることでエンクロージャ3JJA、3JJBの内部空間につながるとともに、他端E2が運転席SH1又は助手席SH2の足元(運転席SH1においてはアクセルペダルの近傍)に配置されている。また、他端E2は、
図79、80にも示すように、インストルメントパネルIの下方において、前面S3と下面S2と側面S4とが交わる角部C11を向いて開口している。さらに、管部材4JJA、4JJBは、一端E1側においてインストルメントパネルI内を通過し、他端E2側においてインストルメントパネルIの外側に突出している。また、運転席SH1側の管部材4JJAは、幅方向において、一端E1から他端E2にかけて、運転席SH1側の側面S4から一旦離れるように延びた後、この側面S4に再び近づくように延びている。即ち、管部材4JJAを前後方向から見ると、助手席側に向かって凸に湾曲した形状となっている。また、管部材4JJA、4JJBは、前後方向において、一端E1から他端E2に向かうにしたがって前方側に向かうように延びている。
【0403】
後方側の管部材4JJC、4JJDは、
図81に示すように、移動体の幅方向において、エンクロージャ3JJC、3JJDにおける内側の側面に一端E1が連結されることでエンクロージャ3JJC、3JJDの内部空間につながるとともに、外側に向かって延びている。即ち、一端E1から他端E2にかけて、運転席SH1側の管部材4JJCは、エンクロージャ3JJCから助手席SH2側に向かって延び、助手席SH2側の管部材4JJDは、エンクロージャ3JJDから運転席SH1側に向かって延びている。また、管部材4JJC、4JJDは、車両Cの前後方向において、一端E1から他端E2にかけて後方側に向かって延び、管部材4JJCの他端E2がエンクロージャ3JJDの後方側に位置し、管部材4JJDの他端E2がエンクロージャ3JJCの後方側に位置している。このように、管部材4JJC、4JJDは、互いに交差するように延びている。また、管部材4JJC、4JJDの他端E2は、上面S1から離れているものの、上面S1と後面S5と側面S4と、が交わる角部C12を向いて開口している。尚、角部は、3つの面が交わるものであり、少なくとも2つの面が交わる交差部に含まれるものとする。即ち、前方側の角部C11が前方側交差部として機能し、後方側の角部C12が後方側交差部として機能する。
【0404】
以上のようなアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJにおいてスピーカユニット2JJA~2JJDが音波を放射した際の音波の進行及び反射について説明する。まず、前方側のスピーカユニット2JJA、2JJBの前面側から放射された音波は、例えば振動板300がコーン上又はドーム状の形状を有する場合には、振動板300の傾斜に応じて斜め後方に進行し、前方側の頭部位置H1、H2に向かう。尚、前面側から放射された音波は、ウインドシールドWや上面S1において反射されて頭部位置H1、H2に向かってもよい。一方、後方側のスピーカユニット2JJC、2JJDの前面側から放射された音波は、直接、又は、上面S1や後面S5で反射されて後方側の頭部位置H3~H5に向かう。
【0405】
スピーカユニット2JJA~2JJDの背面側で生じた音波は、エンクロージャ3JJA~3JJDの内部空間で反響するとともに、一端E1から管部材4JJA~4JJD内に入り、管部材4JJA~4JJD内を進行する。このとき、スピーカユニット2JJA~2JJDの背面側で生じた音波のうち、管部材4JJA~4JJDの長さに応じた低音域の成分が管部材4JJA~4JJD内で共鳴する。従って、管部材4JJA~4JJDの他端E2からは、低音域の成分を主とする音波が放射される。即ち、開管部材4JJA~4JJDの他端E2から放射される音波は、中高音域の成分がカットされる。カットされるとは、具体的には中高音域の成分の音圧が、低域の成分の音圧よりも低くなることをいう。前方側の管部材4JJA、4JJBの他端E2から放射された音波は、角部C11及びその周囲の面S2~S4によって反射され、角部C11と対向する角部C12(即ち、幅方向において角部C11と反対側の角部C12)に向かって進行する。一方、後方側の管部材4JJC、4JJDの他端E2から放射された音波は、角部C12及びその周囲の面S1、S5、S4によって反射され、反対側の角部C11に向かって進行する。
【0406】
前方側の管部材4JJA、4JJBの他端E2から放射されて角部C12に向かう音波と、後方側の管部材4JJC、4JJDの他端E2から放射されて角部C11に向かう音波と、によって、車両Cの前後方向及び幅方向に対向する角部C11、C12同士の間に定在波が形成される。この定在波は、角部C11、C12を固定端とし、角部C11、C12同士の間隔に応じた波長を有する。
【0407】
このように音波が放射されることで、車内空間A3には、スピーカユニット2JJA~2JJDの前面側から放射された中高音域の成分を主とする音波と、管部材4JJA~4JJDの他端E2から放射された低音域の成分を主とする音波と、が、各々の帯域のキャンセル音として反響する。
【0408】
以上に説明した本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJでは、まず、4つのスピーカ装置10JJA~10JJDに共振素子としての弾性部材8Aが配されている。これにより、各スピーカ装置10JJA~10JJDの発生音では、各スピーカユニット2JJA~2JJDの共振周波数に応じたピーク以外に、共振素子による共振音に応じた周波数において、サブピークを有する。スピーカ装置10JJA~10JJDにおける入力信号と発生音との位相差の周波数特性(位相特性)は、周波数が高くなるにしたがって位相差の絶対値が大きくなる傾向を示す。このとき、音圧特性がサブピークを有することにより、位相特性のグラフが、サブピークの周波数やその近傍において下向きに凸に変形しようとする。従って、位相特性のグラフには、位相差の変化が比較的緩やかな平坦領域が形成される。このような平坦領域の周波数においては、スピーカ装置10JJA~10JJDによる発生音をノイズの逆位相としやすく、ノイズを低減しやすい。弾性部材8Aによる共振音の周波数を適宜に設定することにより、平坦領域を調節することができ、ノイズを低減しやすい周波数帯域を調節することができる。このように、本実施例に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJによれば、各スピーカ装置10JJA~10JJDについて、ノイズのキャンセル音の音響特性を向上させることができる。
【0409】
そして、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJが上記のような4つのスピーカ装置10JJA~10JJDを備え、それぞれが車両Cの4つの隅部CR11~CR14に配置されている。これにより、各隅部CR11~CR14における空きスペースが狭小であっても、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJ全体の放射音の音圧特性を向上させ、ノイズのキャンセル音の音響特性を向上させることができる。
【0410】
また、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJでは、上記のように、4箇所の隅部CR11~CR14に音放射部の少なくとも一部が位置するように4つのスピーカ装置10JJA~10JJDが配置されている。これにより、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJ全体の放射音の音圧特性を一層向上させ、ノイズのキャンセル音の音響特性を一層向上させることができる。
【0411】
また、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJでは、各スピーカ装置10JJA~10JJDが、スピーカユニット2JJA~2JJDと、エンクロージャ3JJA~3JJDと、管部材4JJA~4JJDと、を備える。これにより、各スピーカユニット2JJA~2JJDの背面側で生じた音のうち、管部材4JJA~4JJDの長さに応じた低音域の成分が管部材4JJA~4JJD内で共鳴し、他端E2から放射される。隅部CR11~CR14においては低音が反響しやすいことから、管部材4JJA~4JJDの他端から放射された低音が反響し、ノイズのキャンセル音について、低音域の音響特性を特に向上させることができる。
【0412】
また、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJは、前方側のスピーカユニット2JJA、2JJBと、後方側のスピーカユニット2JJC、2JJDと、が、所定の時間差をつけて動作するように構成されている。それにより、前後のスピーカユニット2JJA~2JJDの放射音によって車内空間A3内に形成される定在波の節の位置を適宜に調節し、ノイズのキャンセル音について、良好な音響特性を得ることができる。
【0413】
また、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJでは、前方側の管部材4JJA、4JJBの他端E2は、前面S3と下面S2と側面S4とが交わる角部C11を向いて開口している。他方、後方側の管部材4JJC、4JJDの他端E2は、上面S1と後面S5と側面S4と、が交わる角部C12を向いて開口している。そして、これら前後の管部材4JJA~4JJDの他端E2から放射された音波によって形成される定在波の波長は、前方側の角部C11と後方側の角部C12との間隔に略等しい。前後の角部C11、C12同士の間隔に等しい波長を有する定在波が生じることで、上述のようにこの定在波の節の位置を調節し、ノイズのキャンセル音について、比較的波長の長い音(即ち、低音)における音響特性を向上させることができる。
【0414】
このとき、前方側と後方側とで時間差なく管部材4JJA~4JJDの他端E2から音を放射した場合、このような波長の定在波の節は、角部C11、C12同士の中間位置に形成される。この場合には、運転席SH1や助手席SH2の頭部位置H1、H2のやや後方に節が位置することがあり、これらの頭部位置H1、H2において音圧が低下しやすい。本実施例では、所定の時間差を設けることによって節をさらに後方側にずらして、ノイズのキャンセル音について、運転席SH1や助手席SH2の搭乗者にとっての低音域の音響特性の向上が図られている。
【0415】
ここで、スピーカユニット2JJA~2JJDとして、中高音域の音圧が低音域の音圧よりも高くなるように音波を放射する、即ち低音域の音圧が低い小型のスピーカユニットを採用した場合には、次のような利点を得ることができる。このような小型のスピーカユニット2JJA~2JJDによれば、その振動を小さくすることができ、車両ボディに振動が伝わって異音が発生することを抑制することができる。そして、上述したように管部材4JJA~4JJDを設けることで低音域の音響特性が向上するので、低音域の音圧が低い小型のスピーカユニット2JJA~2JJDを用いた場合でも、良好な音響特性を担保することができる。さらに、スピーカユニット2JJA~2JJDの前面から放射される低音の音圧が比較的低いことから、低音域において、スピーカユニット2JJA~2JJDの前面から放射された音波と管部材4JJA~4JJDの他端E2から放射された音波とが弱め合いにくい。
【0416】
また、本実施例のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJでは、スピーカユニット2JJA~2JJDの前面から主に中高音域の音波が放射され、管部材4JJA~4JJDの他端E2から主に低音域の音波が放射される。中高音域と低音域とでは、最適な放射位置が異なる場合があるが、中高音域の音波が放射される位置と、低音域の音波が放射される位置と、が離れていることで、それぞれを最適な位置に配置し、キャンセル音について極めて良好な音響特性を得ることができる。
【0417】
また、スピーカユニット2JJA、2JJB及びエンクロージャ3JJA、3JJBがインストルメントパネルI内に設けられるとともに、管部材4JJA、4JJBがインストルメントパネルI内を通過することで、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJを車両Cに設けた場合に外観を良好に保つことができる。
【0418】
また、本実施例のスピーカ装置10JJA~10JJDそれぞれにおける位相特性では、スピーカユニット2JJA~2JJDの最低共振周波数に応じたピーク(約45Hz)と、弾性部材8Aによるサブピーク(約100Hz)と、を有する。サブピークの周波数は、主に弾性部材8Aの共振周波数(素子共振周波数)によって定まる。
【0419】
100Hzのサブピークに対応する波長は3.4m(1/4波長は0.85m)である。従って、共振素子としての弾性部材8Aが発生する共振音の1/4波長は、耳珠間幅(例えば0.15m)の2倍よりも充分に長い。
【0420】
[実施例28]
次に、実施例28に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例28は、車両Cの後方側に設けられたスピーカ装置10JJC、10JJDにおける管部材の構造が、上述した実施例27と異なっている。以下、実施例28について、この実施例27との相違点に注目して説明する。
【0421】
図82は、本発明の実施例2に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1KKが設けられた移動体を示す平面図であり、
図83は、
図82に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1KKにおける後方側のスピーカ装置10KKC、10KKDを示す背面図である。尚、これらの
図82、83では、
図78、81に示されている実施例27の構成要素と同等な構成要素については、
図78、81と同じ符号が付されており、以下ではこれら同等な構成要素の重複説明を省略する。
【0422】
図82、83に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1KKでは、車両Cの後方側に設けられたスピーカ装置10KKC、10KKDにおいて、管部材4KKC及び管部材4KKDが車両Cの進行方向の後方側に向かって延び、管部材4KKCと管部材4KKDとが交差しない構成となっている。
【0423】
以上に説明した実施例28のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1KKでも、上述した実施例27のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJと同様に、ノイズのキャンセル音の音響特性を向上させることができることは言うまでもない。
【0424】
[実施例29]
次に、実施例29に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例29は、4つのスピーカ装置の構造が、上述した実施例27と異なっている。以下、実施例29について、この実施例27との相違点に注目して説明する。
【0425】
図84は、本発明の実施例29に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1LLが設けられた車両Cを示す側面図であり、
図85は、
図84に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1LLが設けられた車両Cを示す平面図である。尚、これらの
図84、85でも、
図77、78に示されている実施例27の構成要素と同等な構成要素については、
図77、78と同じ符号が付されており、以下ではこれら同等な構成要素の重複説明を省略する。
【0426】
図77、78に示されているアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1LLでは、車両Cの前後の隅部CR11~CR14に設けられたスピーカ装置10LLA~10LLDに、実施例27のような管部材が設けられていない。
【0427】
この実施例29のアクティブノイズコントロール用スピーカシステム1LLでも、各スピーカユニット2JJA~2JJDに設けられた共振素子としての弾性部材8Aや、スピーカ装置10LLA~10LLDの4箇所への配置によって得られる利点については上述した実施例27と同じである。ただし、実施例27では、各スピーカ装置10JJA~10JJDに管部材4JJA~4JJDを設けることで、低音域についてキャンセル音の音響特性を向上させることができることは上述したとおりである。
【0428】
[実施例30]
次に、本発明の実施例30に係るアクティブノイズコントロール用スピーカシステムについて説明する。この実施例30では、スピーカ装置においてスピーカユニットの最低共振周波数とは異なる周波数の共振音を発生させるための構造が実施例27とは異なる。以下、実施例30について、この実施例27との相違点に注目して説明を行う。
【0429】
実施例30において、スピーカ装置10JJは、実施例7で既に説明した
図21に示す音発生装置1Gと同等に構成してもよい。本実施例では、後方空間S11を形成するエンクロージャ本体301に、
図77や
図78に示されている管部材4JJA~4JJDが接続される。
【0430】
以上のようなスピーカ装置10JJでは、実施例7と同等の効果を得ることができる。
【0431】
尚、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0432】
例えば、前記実施例では、定在波の節が前方側の頭部位置H1、H2から後方側に離れるように、前方側のスピーカユニット2JJA、2JJBと後方側のスピーカユニット2JJC、2JJDとが時間差を有して動作するものとしたが、この時間差は、時間差がない場合の節の位置と、頭部位置H1~H5と、の関係に応じて適宜に設定されればよい。例えば、時間差がない場合に節が頭部位置H1、H2よりも前方側に位置する場合には、節が頭部位置H1、H2からさらに車両Cの前方側へ離れるような時間差としてもよい。また、時間差がない場合に節が後方側の頭部位置H3~H5近傍に位置する場合には、節が頭部位置H3~H5からさらに車両Cの前方側へ離れるような時間差としてもよい。さらに、車両が前後方向に1列又は3列以上の座席を有する場合には、時間差がない場合の節の位置と各列の頭部位置との関係に応じて時間差を設定すればよい。また、頭部位置と節の位置とが充分に離れている場合や、節による音圧の低下が小さい場合には、このような時間差を設けずに車両Cの前方及び後方のスピーカユニットを略同時に動作させてもよい。
【0433】
また、前記実施例では、角部C11、C12同士の間隔に略等しい波長の定在波について節の位置を変化させるものとしたが、他の波長を有する定在波について節の位置を変化させてもよい。例えば、上記の間隔の約2/3の波長を有する定在波では、角部C11、C12同士の間に2つの節が形成されるが、この節が各座席の頭部位置H1~H5のいずれかから車両Cの前方側又は後方側へさらに離れるように時間差を設定してもよい。
【0434】
また、前記実施形態では、アクティブノイズコントロール用スピーカシステム1JJ、1KK、1LLが、車両Cにおける4つの隅部CR11~CR14に設けられる4つのスピーカ装置10JJA~10JJD、10KKC、10KKD、10LLA~10LLDを備えるものとしたが、アクティブノイズコントロール用スピーカシステムは、少なくとも2つのスピーカ装置を備えていればよい。例えば、2つのスピーカ装置が車両Cの前後方向の前方及び後方の隅部にそれぞれ設けられていてもよいし、幅方向の一方側及び他方側の隅部にそれぞれ設けられていてもよい。
【0435】
また、前記実施例では、管部材4JJA~4JJD、4KKC、4KKDの断面形状及び断面積が略一定であるものとしたが、管部材は、断面積が略一定であるとともに断面形状が変化するものであってもよい。また、前記実施例では前方側の管部材4JJA、4JJBと後方側の管部材4JJC、4JJD、4KKC、4KKDとの長さが略等しいものとしたが、これらの長さは互いに異なっていてもよい。
【0436】
また、前記実施例では、収容部としてのエンクロージャ3JJA~3JJDと管部材4JJA~4JJD、4KKC、4KKDが別部材であるものとしたが、エンクロージャと管部材とが一体に形成された構成としてもよい。例えば、収容部が1つの管状の部材であり、この管状の部材がエンクロージャと管部材とを兼ねていることなどが挙げられる。
【0437】
また、スピーカユニットが放射する音波の周波数特性は、適宜に設定されていればよい。スピーカユニットが前面側から放射する低音域の音圧が高い場合でも、管部材で共鳴して他端から放射される低音の音圧が充分に高ければ、前面側からの音波と他端からの音波とが弱め合ってしまっても低音の音圧を確保することができる。即ち、管部材における共鳴によって低音の音圧が充分に向上する場合には、低音域から中高音域まで同程度の音圧となるように音波を放射するスピーカユニットや、低音域の音圧が中高音域の音圧よりも高くなるように音波を放射するスピーカユニットを用いてもよいし、中高音域用のスピーカユニット(ツイータ)を用いてもよい。また、スピーカユニットの形状は特に限定されず、コーン型であってもよいしドーム型であってもよい。
【0438】
また、前記実施例では、インストルメントパネルIの上面において前方側のスピーカユニット2JJA、2JJBの前面側から音波を放射するものとしたが、スピーカユニットは、例えばインストルメントパネルIの下面(運転席と対向する面)においてスピーカユニットの前面側から音波を放射してもよい。また、スピーカユニット2JJA、2JJBがインストルメントパネルI内に設けられるものとしたが、スピーカユニットがインストルメントパネルIの外側に設けられる(例えばインストルメントパネルIの上面に載置される)構成としてもよい。このとき、管部材はインストルメントパネルI内を通過せずに外側に沿うように設けられていてもよい。このような構成によれば、アクティブノイズコントロール用スピーカシステムを車両に対して後付により設置する際に、設置作業を容易に実施することができる。
【0439】
また、前記実施例では、管部材4JJA~4JJDの他端E2が、3つの面が交わる角部C11、C12を向いて開口するものとしたが、他端は、車内空間A3を囲む複数の面(ウインドシールドWの内面、上面S1、下面S2、前面S3、一対の側面S4、後面S5)のうち2つが交わる交差部(
図80に示すR11~R18)を向いて開口していてもよいし、交差部を向いていなくてもよい。また、後方側の管部材4JJC、4JJDの他端E2が、車両Cの後面S5と上面S1と側面S4とが交わる角部C13を向いて開口していてもよい。尚、交差部R11は、車両Cの前面S3と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R12は、車両Cの下面S2と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R13は、車両Cの前面S3と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R14は、車両Cの後面S5と下面S2とが交わる交差部であって、交差部R15は、車両Cの後面S5と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R16は、車両Cの前面S3と上面S1とが交わる交差部であって、交差部R17は、車両Cの上面S1と側面S4とが交わる交差部であって、交差部R18は、車両Cの後面S5と上面S1とが交わる交差部である。
【0440】
また、前記実施例では、前後方向だけでなく幅方向にも(即ち斜めに)対向する角部C11、C12同士の間に定在波が形成されるものとしたが、他端E2が交差部を向いて開口している場合には、前後方向においてのみ対向する交差部同士の間に定在波が形成されることもある。この場合には、前後方向に対向する交差部同士の間隔に応じた波長を有する定在波について、節を移動させればよい。
【0441】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法等は、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。即ち、本発明は、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。上記に開示した形状、材質等を限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものである。従って、これらの記載は本発明を限定したものではないから、それらの形状、材質等の限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0442】
1A~1M 移動体用音発生装置
11 車両ボディ
21A~21F スピーカユニット
22A~22F スピーカユニット
31A、31G~32K エンクロージャ
32A、32G~32K エンクロージャ
41 栓部材
42 栓部材
102 管部材(共振素子)
103 振動部材(共振素子)
C 車両(移動体)
F フレーム
P1、P2 ピラー