(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】神経損傷のための組み合わせ治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240418BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20240418BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20240418BHJP
A61K 38/44 20060101ALI20240418BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20240418BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240418BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240418BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240418BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240418BHJP
C07K 14/78 20060101ALN20240418BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/44
A61K31/728
A61K47/36
A61P39/06
A61P25/00
A61P17/02
C07K14/78
(21)【出願番号】P 2023072552
(22)【出願日】2023-04-26
(62)【分割の表示】P 2018566821の分割
【原出願日】2017-11-29
【審査請求日】2023-04-26
(32)【優先日】2016-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501177609
【氏名又は名称】ラモット・アット・テル・アビブ・ユニバーシテイ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】RAMOT AT TEL AVIV UNIVERSITY LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】509142793
【氏名又は名称】ザ メディカル リサーチ, インフラストラクチャー, アンド ヘルス サーヴィシーズ ファンド オブ ザ テル アヴィヴ メディカル センター
【住所又は居所原語表記】6 Weizmann Street, 6423906 Tel-Aviv, Israel
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ロックカインド, シモン
(72)【発明者】
【氏名】ネヴォ, ズヴィ
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0104225(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0212404(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0187487(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0091550(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第1927415(CN,A)
【文献】NEUROSCIENCE,米国,2006年,VOL:137, NR:2,PAGE(S):519 - 529,http://dx.doi.org/10.1016/j.neuroscience.2005.09.029
【文献】Interface Focus,2012年,Vol.2, No.3,278-291,https://doi.org/10.1098/rsfs.2012.0016
【文献】JOURNAL OF FUNCTIONAL BIOMATERIALS,2012年03月19日,VOL:3, NR:4,PAGE(S):199 - 208,http://dx.doi.org/10.3390/jfb3010199
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00-45/08
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
A61L 27/00-27/60
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、抗酸化剤、及び酢酸グラチアマーを含む組成物を有効成分として含有することを特徴とする、神経損傷を治療するための医薬。
【請求項2】
ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、抗酸化剤、及び酢酸グラチアマーを含む組成物を有効成分として含有することを特徴とする、神経損傷後の神経原性ショックを予防又は治療するための医薬。
【請求項3】
前記神経損傷が、中枢神経系(CNS)の一部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
前記神経損傷が、脊髄損傷(SCI)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項5】
前記神経損傷が、外傷性脳損傷(TBI)又は外傷性視神経症(TON)を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そのある実施形態では、神経損傷のための組み合わせ治療に関する。
【背景技術】
【0002】
脊髄損傷(SCI)などの中枢神経系(CNS)の損傷は、現在のところ、成功的な治療法がない。SCIは、感覚及び運動の即時的な喪失と関連しており、損傷の部位の高さより下の反射機能の永久的な欠損とも関連している。さらに、CNSの損傷は通常、再生及び治癒に対する完全な機能不全によって特徴付けられる。SCI後に起こる即時事象は、虚血、免疫応答を活性化させる小グリア細胞、及び近隣の管組織からの損傷した細胞の浸潤を含む。これらは、毛細血管に対するアポトーシス性及び壊死性の傷害によるものである。損傷は、同時に、プロテオグリカン(PGs)、コラーゲン、及びミエリン由来の残余などの連結組織マトリックス物質の分泌を含む傷害に対する応答における星状細胞及びマクロファージなどのグリア細胞の非特異的な反応性の変化を伴なう。これらの物質は、瘢痕組織の形成をもたらし、軸索の出芽の阻害、及び神経再生の制限をもたらす。実際、科学的な報告は、シナプスの可塑性及び再生パラメータにおける改良を誘導するためのコンドロイチナーゼABCなどの抗グリオーシス剤を使用した治療を記述している(例えばBradbury EJ et al.,Nature.11;416(6881):636-40,2002;and Barritt AW et al.,J Neurosci.18;26(42):10856-67,2006)。
【0003】
水和ゲル(ヒドロゲル)は、生理学的温度及びpHで粘性でありかつ半固体の物質であり、組織工学及び再生医療のために使用されることができる。例えば、ヒアルロン酸ベースのヒドロゲルは、神経再生などのために細胞及び組織のための増殖支持環境を提供する(Suzukiら,2003;Itohら,2005)一方で、向栄養性剤及び抗酸化剤の遊走及び再生を誘導する。
【0004】
国際特許出願公開WO2009/022339は、神経組織の再生及び修復のための抗酸化剤ナトリウムジスムターゼ及びラミニンペプチドを含むヒアルロン酸ベースのヒドロゲルの使用を開示する。
【発明の概要】
【0005】
本発明のある実施形態の一つの側面によれば、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、抗酸化剤、及び抗グリオーシス剤を含むことを特徴とする組成物が提供される。
【0006】
本発明のある実施形態の一つの側面によれば、ヒドロゲルを生成させる方法であって、
(i)ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤を含む組成物を水に懸濁させて、少なくとも40%の水を含む懸濁液を得ること、及び
(ii)抗グリオーシス剤を前記懸濁液に添加し、それによりヒドロゲルを生成させること
を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0007】
本発明のある実施形態によれば、前記抗酸化剤が、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)である。
【0008】
本発明のある実施形態によれば、前記SODが、配列番号4によって規定されるアミノ酸配列を含む。
【0009】
本発明のある実施形態によれば、前記ラミニンポリペプチドが、配列番号1によって規定される。
【0010】
本発明のある実施形態によれば、前記抗酸化剤が、配列番号4によって規定されるアミノ酸配列を含むスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)であり、前記ラミニンポリペプチドが、配列番号1によって規定される。
【0011】
本発明のある実施形態によれば、前記抗グリオーシス剤が、抗nogoA及びコンドロイチナーゼABCからなる群から選択される。
【0012】
本発明のある実施形態によれば、前記ラミニンポリペプチドが、配列番号1によって規定され、前記抗グリオーシス剤が、抗nogoAを含む。
【0013】
本発明のある実施形態によれば、前記ラミニンポリペプチドが、配列番号1によって規定され、前記抗グリオーシス剤が、コンドロイチナーゼABCを含む。
【0014】
本発明のある実施形態によれば、前記ヒアルロン酸、前記抗酸化剤、及び前記ラミニンポリペプチドが、架橋されている。
【0015】
本発明のある実施形態によれば、本発明の組成物を含むことを特徴とするマトリックスが提供される。
【0016】
本発明のある実施形態によれば、本発明の組成物を含むことを特徴とするヒドロゲルが提供される。
【0017】
本発明のある実施形態によれば、前記ヒアルロン酸が、前記ヒドロゲル中に約0.5~1.5%の濃度範囲で与えられる。
【0018】
本発明のある実施形態によれば、前記ラミニンポリペプチドが、前記ヒドロゲル中に約20~100μg/mlの濃度範囲で与えられる。
【0019】
本発明のある実施形態によれば、前記抗酸化剤が、前記ヒドロゲル中に約5~40μg/mlの濃度範囲で与えられる。
【0020】
本発明のある実施形態によれば、前記ヒアルロン酸、前記ラミニンポリペプチド、及び前記抗酸化剤が、約0.01~0.6%の全濃度で与えられる。
【0021】
本発明のある実施形態によれば、前記ヒアルロン酸、前記ラミニンポリペプチド、及び前記抗酸化剤が、約0.4%の全濃度で与えられる。
【0022】
本発明のある実施形態によれば、前記抗グリオーシス剤が、前記ヒドロゲル中に約5~300μg/mlの濃度範囲で与えられる。
【0023】
本発明のある実施形態の一つの側面によれば、必要のある対象において神経組織の形成又は再生を誘導する方法であって、本発明の組成物、マトリックス、又はヒドロゲルを対象に移植し、それにより対象における神経組織の形成又は再生を誘導することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0024】
本発明のある実施形態の一つの側面によれば、必要のある対象において神経損傷を治療する方法であって、本発明の組成物、マトリックス、又はヒドロゲルを対象の神経損傷に又はその近くに移植し、それにより対象における神経損傷を治療することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0025】
本発明のある実施形態の一つの側面によれば、必要のある対象において神経損傷後の神経原性ショックを予防又は治療する方法であって、本発明の組成物、マトリックス、又はヒドロゲルを対象の神経損傷に又はその近くに移植し、それにより対象における神経原性ショックを予防又は治療することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0026】
本発明のある実施形態によれば、前記移植が、前記神経損傷後48時間以内に実行される。
【0027】
本発明のある実施形態によれば、前記神経損傷が、中枢神経系(CNS)の一部である。
【0028】
本発明のある実施形態によれば、前記神経損傷が、脊髄損傷(SCI)を含む。
【0029】
本発明のある実施形態によれば、前記神経損傷が、外傷性脳損傷(TBI)又は外傷性視神経症(TON)を含む。
【0030】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本明細書では本発明のいくつかの実施形態を単に例示し添付の図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の実施形態を例示考察することだけを目的としていることを強調するものである。この点について、図面について行う説明によって、本発明の実施形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0032】
【
図1】
図1は、未処理の細胞、及び誘導再生ゲル(GRG)単独で処理された細胞又はGRGと抗グリオーシス剤とで処理された細胞と比較した、いくつかの抗グリオーシス誘導再生ゲル(AGRG)で処理されたニューロン細胞の顕微鏡写真を示す。倍率は20倍である。細胞の形態学的評価によれば、AGRG3(GRG+抗nogoA)での処理は、最高の数及び密度のニューロン細胞を生じ、その次がAGRG1(GRG+コンドロイチナーゼABC)、AGRG2(GRG+ミトマイシンC)及びAGRG4(GRG+コンドロイチナーゼABC+ミトマイシンC+抗nogoA)である。三つの抗グリオーシス剤(コンドロイチナーゼABC+ミトマイシンC+抗nogoA、対照として示されている)での処理は、貧弱な量のニューロン細胞しか生じなかった。
【0033】
【
図2A-2C】
図2A-2Cは、脊髄損傷(SCI)の60日後のラットの肢のBasso-Beattie-Bresnahan(BBB)機能評価の代表的な写真を示す。
図2Aは、未処理の対照ラットにおける動きなし(スコア0)を示す。
図2Bは、GRGを移植されたラットにおけるわずかな動き(スコア2)を示す。
図2Cは、AGRG3(GRG+抗nogoA)を移植されたラットにおける以前は麻痺していた肢における二つの関節の活発な動きと第三の関節のわずかな動き(スコア6)を示す。
【0034】
【
図3】
図3は、SCIラットモデルにおける体性感覚によって引き起こされる電位(SSEP)の代表的なグラフを示し、AGRG3(GRG+抗nogoA)の移植が回復された伝導性を生じたことを証明する。SCIの前のSSEP(ベースライン)、SCIの直後(0日目)のSSEP、及びSCIの60日後のSSEPが示されている。黒い矢印は、刺激を示し、赤い矢印は、引き起こされた電位を示す。
【0035】
【
図4】
図4は、AGRG3(GRG+抗nogoA)を移植されたSCIラットにおける軸索の出芽を証明する代表的な組織学的顕微鏡写真を示す。倍率は40倍である。AGRG3を移植されてNFで染色されたラットから得られた近位部位、損傷部位、及び遠位部位の断面が示されている。矢印は、いくつかの観察されたニューロン繊維を示す。軸索の出芽は、明るい色として見られる。
【0036】
【
図5】
図5は、対照の未処理のSCIラットと比較したAGRG(GRG+抗nogoA,GRG+コンドロイチナーゼABC)を移植されたSCIラットの生存率(パーセントでの)をまとめた表及びグラフを示す。
*P<対照に対して0.05、
**P<対照に対して0.1。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、そのある実施形態では、神経損傷のための組み合わせ治療に関する。
【0038】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示される細部、または、実施例によって例示される細部に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、あるいは、様々な方法で実施、または、実行される。また、本明細書中において用いられる表現法および用語法は説明のためであって、限定として見なされるべきでないことを理解しなければならない。
【0039】
本発明を実施に移している間に、本発明者は、神経損傷の治療、及び神経損傷後の神経原性ショックの予防及び治療のための組み合わせ療法を設計した。この組み合わせ療法は、ヒアルロン酸、抗酸化剤、ラミニンペプチド(配列番号1)、及び抗グリオーシス剤(例えばコンドロイチナーゼABC、抗nogoA)での共治療に基づいており、神経組織の再生を支持することができる。ゲルとして処方された場合、この処方は、抗グリオーシス誘導再生ゲルのためのAGRGと称される。
【0040】
以下に及び実施例において記述されるように、本発明者は、抗グリオーシス成分としてのコンドロイチナーゼABC又は抗nogoAを含むAGRGでの処理は、インビトロでのニューロン細胞の生存率及び品質を増大させること、及びこの効果は、GRG単独(つまり、ヒアルロン酸、抗酸化剤、及びラミニンペプチド(配列番号1))での処理、又は抗グリオーシス剤単独での処理では達成されないことを証明する(実施例2、
図1)。さらに、本発明者は、脊髄損傷(SCI)の部位又はこの近くにGRG及び抗nogoAからなるAGRGを移植すると、SCIラットモデルにおける神経再生が促進され、特に以前は麻痺していた肢における改善された動き及び促進された伝導性の回復をもたらし、グリア瘢痕バリアを通る軸索の貫通を促進することを証明する(実施例4、
図2A~C,3,4)。それに加えて、本発明者は、GRGと抗nogoA又はコンドロイチナーゼABCとからなるAGRGは、脊髄ショックに対して保護効果を有し、SCI処理ラットにおける死亡率を減少させることを証明する(実施例6、
図5)。
【0041】
従って、本発明の第一の側面によれば、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、抗酸化剤、及び抗グリオーシス剤を含むことを特徴とする組成物が提供される。
【0042】
本明細書で使用されるように、用語「ヒアルロン酸(HA)」は、ヒアルロナンやヒアルロネートとしても知られており、交互ベータ-1,4及びベータ-1,3グリコシド結合によって一緒に連結されたN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びグルクロン酸(GlcUA)の繰り返しの二糖単位からなる、硫酸化されていないグルコサミノグリカンを意味する。具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、Na-HAである。具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、約104Dalton~約3×106Daltonの分子量を有する。HAの分子量は、例えばデジタル粘度計Brookfield brand Cone/Plate DVII+Per(Brookfield Engineering Laboratories Inc.Middleboro,MA 02346-1031 USA)を使用した粘度測定によって評価されることができる。HAの分子量はまた、Discheのアッセイにおいて得られた図と、還元糖のためのPark-Johnson(Park J.T.Johnson M.J.A submicrodetermination of glucose J.Biol.Chem.181,149-151,1949)決定によって得られたデータとの間の矛盾によっても計算されることができる。
【0043】
本明細書で記述されるヒアルロン酸は、天然に生じるHA、合成HA、又はそれらの組み合わせを含む。具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、雄鶏のとさかや臍帯などの生物から、又は溶血性グループAもしくはCストレプトコッカスなどの細菌培養物から抽出されて単離されることができるか、又は当該技術分野では周知の方法を使用して合成的に製造されることができる。
【0044】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、生物学的に不活性であるほど化学的又は生物学的構成成分から十分純粋であり、従って、通常の条件下で他の物質と低い反応率を有する。
【0045】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、生物適合性であるほど十分に純粋であり、従って、生物の細胞、組織、又は体液と接触したとき、ヒアルロン酸は、免疫学的反応及び/又は拒絶、細胞死などの悪影響を誘導しない。
【0046】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%純粋である。
【0047】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、分析用(即ち、99.5%~100%)のヒアルロン酸、又は医薬用等級(98%~100%)のヒアルロン酸である。
【0048】
本明細書で記述されるヒアルロン酸は、水溶液中で高度に水和したゲルを形成することができる。
【0049】
本発明の組成物中のHAの全量は、カルバゾール試薬を使用するDischeのルーチン試験(Dische Z.A new specific color reaction of hexuronic Acids.J.Biol.Chem,167,189-197,1947)によるウロン酸(ラクロン酸)の決定法などの当該技術分野では公知の方法によって決定されることができるが、これに限定されない。
【0050】
本明細書で使用されるように、用語「ラミニン」は、細胞外マトリックス糖タンパク質のファミリーであって、基底膜の主要な非コラーゲン成分を形成するものを意味する。ラミニンは、細胞接着、分化、遊走、信号伝達、神経突起の生長、及び転移を含む幅広い生物学的過程に関係している。ラミニンは、三つの非同一の鎖、つまりラミニンアルファ、ベータ及びガンマ鎖からなり、それぞれの鎖は、別個の遺伝子によってコードされている。
【0051】
本明細書で使用されるように、「ラミニンポリペプチド」は、ラミニンポリペプチドの少なくとも4つの連続するアミノ酸を含むアミノ酸配列であって、生物学的活性(例えば、支持細胞の生存、増殖、繁殖、分化、及び/又は遊走)を示すアミノ酸配列を意味する。
【0052】
本発明のある実施形態によれば、ラミニンポリペプチドは、LAMA1(例えば、GenBank Accession No.NP_005550.2)、LAMA2(例えば、GenBank Accession Nos.NP_000417.2及びNP_001073291.1)、LAMA3(例えば、GenBank Accession Nos.NP_937762.1及びNP_000218.2)、LAMA4(例えば、GenBank Accession Nos.NP_001098677.1,NP_001098676.1,NP_002281.2,NP_001098679.1,及びNP_001098678.1)、及びLAMA5(例えば、GenBank Accession No.NP_005551.3)などのラミニンアルファ鎖;LAMB1(例えば、GenBank Accession No.NP_002282.1)、LAMB2(例えば、GenBank Accession No.NP_002283.3)、LAMB3(例えば、GenBank Accession Nos.NP_000219.2及びNP_001017402.1)、及びLAMB4(例えば、GenBank Accession No.NP_031382.2)などのラミニンベータ鎖;及び/又はLAMC1(例えば、GenBank Accession No.NP_002284.3)、LAMC2(例えば、GenBank Accession Nos.NP_005553.2及びNP_061486.2)、及びLAMC3(例えば、GenBank Accession No.NP_006050.3)などのラミニンガンマ鎖のアミノ酸配列を含むことができる。
【0053】
具体的な実施形態によれば、ラミニンポリペプチドは、ラミニン配列の反復アミノ酸(例えば、4個又は5個のアミノ酸反復アミノ酸)を含む。
【0054】
本発明の組成物に含まれることができるラミニンポリペプチドの非限定的な例は、配列番号1,2、又は3によって規定されるペプチド[KSIKVAVRSYIGSRCV(配列番号1),IKVAV(配列番号2),YIGSR(配列番号3)]を含む。
【0055】
具体的な実施形態によれば、ラミニンポリペプチドは、配列番号1(KSIKVAVRSYIGSRCV)によって規定される。
【0056】
具体的な実施形態によれば、ラミニンポリペプチドは、5~50個、5~25個、5~20個、16~50個、又は16~25個のアミノ酸長さである。
【0057】
具体的な実施形態によれば、ラミニンポリペプチドは、少なくとも16個のアミノ酸長さであるが、50個のアミノ酸長さよりは短い。
【0058】
本明細書において使用される用語「ポリペプチド」には、天然のペプチド(分解産物または合成的に合成されたペプチドまたは組換えペプチドのいずれか)、ペプチド模倣体(典型的には合成的に合成されたペプチド)そしてペプチドアナログであるペプトイドおよびセミペプトイドが含まれ、これらは、例えば、ペプチドを体内でより安定化させる修飾、またはペプチドの細胞浸透能力を高める修飾を有し得る。そのような修飾には、N末端修飾、C末端修飾、ペプチド結合の修飾(CH2-NH、CH2-S、CH2-S=O、O=C-NH、CH2-O、CH2-CH2、S=C-NH、CH=CHまたはCF=CHを含むが、これらに限定されない)、骨格の修飾、および残基の修飾が含まれるが、これらに限定されない。ペプチド模倣体化合物を調製するための方法はこの分野では十分に知られており、例えば、Quantitative Drug Design,C.A.Ramsden Gd.,Chapter 17.2,F.Choplin Pergamon Press(1992)に具体的に記載される(これは、全体が本明細書中に示されるように参考として組み込まれる)。これに関するさらなる詳細が本明細書中下記に示される。
【0059】
ペプチド内のペプチド結合(-CO-NH-)は、例えば、N-メチル化結合(-N(CH3)-CO-)、エステル結合(-C(R)H-C-O-O-C(R)-N-)、ケトメチレン結合(-CO-CH2-)、α-アザ結合(-NH-N(R)-CO-)(式中、Rは任意のアルキル(例えば、メチル)である)、カルバ結合(-CH2-NH-)、ヒドロキシエチレン結合(-CH(OH)-CH2-)、チオアミド結合(-CS-NH-)、オレフィン二重結合(-CH=CH-)、レトロアミド結合(-NH-CO-)、ペプチド誘導体(-N(R)-CH2-CO-)(式中、Rは、炭素原子において自然界で示される「通常」の側鎖である)によって置換することができる。
【0060】
これらの修飾は、ペプチド鎖に沿った結合の任意のところに存在させることができ、そして同時に数カ所(2カ所~3カ所)においてさえ存在させることができる。
【0061】
天然の芳香族アミノ酸(Trp、TyrおよびPhe)は、フェニルグリシン、Tic、ナフチルアラニン(Nal)、フェニルイソセリン、トレオニノール、Pheの環メチル化誘導体、Pheのハロゲン化誘導体、またはo-メチル-Tyrなどの合成された非天然型の酸に置換することができる。
【0062】
上述のことに加えて、本発明のペプチドは一以上の修飾されたアミノ酸または一以上の非アミノ酸モノマー(例えば脂肪酸、複合体炭水化物など)も含むことができる。
【0063】
用語「アミノ酸」(単数又は複数)は、20個の天然に存在するアミノ酸;例えばヒドロキシプロリン、ホスホセリン、及びホスホトレオニンを含む、しばしばインビボで翻訳後修飾されたアミノ酸;及び2-アミノアジピン酸、ヒドロキシリシン、イソデスモシン、ノルバリン、ノルロイシン、及びオルニチンを含むがこれらに限定されない他の非通常アミノ酸を含むものとして理解される。さらに、用語「アミノ酸」は、D-アミノ酸及びL-アミノ酸の両方を含む。
【0064】
下記の表1~表2には、本発明において使用されることができる、天然に存在するアミノ酸のすべて(表1)および非通常型アミノ酸または修飾型アミノ酸(例えば、合成アミノ酸、表2)が示される。
【0065】
【0066】
【0067】
本発明のペプチドは、線状形態で使用されることが好ましいが、環化がペプチド特性を深刻に阻害しない場合は、環状形状のペプチドも使用されることができることは理解されるだろう。
【0068】
本発明のペプチドは、治療又は診断に使用され、これらの用途では、ペプチドが可溶形態であることが要求される。従って、本発明のペプチドは、セリン及びトレオニンを含むがこれらに限定されない一つ以上の非天然の又は天然の極性アミノ酸を含むことが好ましい。かかるアミノ酸は、それらの水酸基含有側鎖のためにペプチドの可溶性を増大させることができる。
【0069】
本発明のペプチドは、ペプチド合成の分野における当業者に既知の任意の技術によって合成されることができる。固相ペプチド合成については、多くの技術の要約が、Stewart,J.M.およびYoung,J.D.(1963)「Solid Phase Peptide Synthesis」W.H.Freeman Co.(San Francisco)に、および、Meienhofer,J.(1973)「Hormonal Proteins and Peptides」第2巻、46頁、Academic Press(New York)に見出されうる。古典的な溶液合成の概括については、Schroder,G.およびLupke,K.(1965)The Peptides、第1巻、Academic Press(New York)を参照のこと。
【0070】
一般的に、これらの方法は、一つ以上のアミノ酸又は好適に保護されたアミノ酸を順に付加してペプチド鎖を生長させることを含む。通常、第一アミノ酸のアミノ基又はカルボキシル基は、好適な保護基によって保護される。保護された又は誘導体化されたアミノ酸は、次に、アミド結合を形成させるのに好適な条件下で、好適に保護されている相補性(アミノ又はカルボキシル)基を有する配列中の次のアミノ酸を付加することによって、不活性な固体支持体に取り付けられるか、又は溶液中で利用されることができる。次に、保護基がこの新しく付加されたアミノ酸残基から除去され、次のアミノ酸(好適に保護されている)が、次に付加され、これが繰り返される。全ての所望のアミノ酸が適切な配列で結合された後、いかなる残存する保護基(及びいかなる固体支持体)も順に又は同時に除去され、最終的なペプチド化合物が得られる。この一般的な手順を簡単に改変することによって、生長中の鎖に二つ以上のアミノ酸を同時に付加することが可能である。これは例えば、(キラル中心をラセミ化しない条件下で)保護されたトリペプチドを適切に保護されたジペプチドをカップリングさせて、脱保護後にペンタペプチドを形成させることによって行なうことができる。ペプチド合成のさらなる記述は、米国特許第6472505号に開示されている。
【0071】
本発明のペプチド化合物を調製するための好ましい方法は、固相ペプチド合成を含む。
【0072】
大規模のペプチド合成は、Andersson Biopolymers 2000;55(3):227-50によって記述されている。
【0073】
多量の又は長いポリペプチド(例えば、20個以上のアミノ酸)が望ましい場合、本発明のポリペプチドは、組み換え技術を使用して生成されることができる。この技術は、例えば、Bitter et al.,(1987)Methods in Enzymol.153:516-544,Studier et al.(1990)Methods in Enzymol.185:60-89,Brisson et al.(1984)Nature 310:511-514,Takamatsu et al.(1987)EMBO J.6:307-311,Coruzzi et al.(1984)EMBO J.3:1671-1680,Brogli et al.,(1984)Science 224:838-843,Gurley et al.(1986)Mol.Cell.Biol.6:559-565及びWeissbach & Weissbach,1988,Methods for Plant Molecular Biology,Academic Press,NY,Section VIII,pp 421-463によって記述されている。
【0074】
組成物はさらに、抗酸化剤を含む。この抗酸化剤は、酸化ストレス(フリーラジカルによって生じる酸化的損傷)から細胞又は巨大分子(例えば、多糖類)を保護することができる。従って、抗酸化剤は、巨大分子の酸化的脱重合体化を防止することによって巨大分子の生存率を延ばすことができる。
【0075】
好適な抗酸化剤の非限定的な例は、グルタチオン、ビタミンC(アスコルビン酸ナトリウム)、ビタミンE(トコフェロール及びトコトリエノール)、N-Ac-L-システイン、ヒドロキノン、グルタミン酸などの分子、又はカタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、もしくは他のペルオキシダーゼ、及びグルコース-6リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)などの酵素を含む(Osmen I.,Naziroglu M.,Okutan R.Comparative study of antioxidant enzymes in tissues surrounding implant in rabbits.Cell.Biochem.Funct.24:275-281,2006を参照)。
【0076】
具体的な実施形態によれば、抗酸化剤は、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)である。
【0077】
本明細書で使用されるように、用語「スーパーオキシドジスムターゼ」E.C.No:1.15.1.1は、スーパーオキシド(O2
-)ラジカルの通常の分子状酸素(O2)又は過酸化水素(H2O2)へのジスムーテーション(又は分割)を触媒する酵素を意味する。スーパーオキシドジスムターゼは、抗酸化剤としてのその公知の活性に加えて、インビボで使用された場合、抗炎症剤としても作用することができる。本発明の組成物で使用されることができるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)酵素の非限定的な例は、SOD-1(可溶性)、SOD-2(ミトコンドリア)、又はSOD-3(細胞外)を含む。これらの具体例は、ホモ・サピエンスの可溶性スーパーオキシドジスムターゼ1(SOD-1)GenBank Accession No.NP_000445(配列番号4);ホモ・サピエンスのミトコンドリアのスーパーオキシドジスムターゼ2(SOD-2)GenBank Accession Nos.NP_001019637.1(アイソタイプB),NP_001019636.1(アイソタイプA),NP_000627.2(アイソタイプA);ホモ・サピエンスの細胞外スーパーオキシドジスムターゼ3(SOD-3)GenBank Accession No.NP_003093.2;サッカロミセス・セレヴィシアエのSOD-1 GenBank Accession No.NP_012638.1;及びラットス・ノルヴェギクスのSOD-1 GenBank Accession No.NP_058746である。
【0078】
具体的な実施形態によれば、SODは、配列番号4によって規定されるアミノ酸配列を含む。
【0079】
本発明の抗酸化剤は、例えばHartman JR.,et al.,1986(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol:83,pp 7142-7146)に記述されるような組み換え技術によって製造されることができる。例えば、スーパーオキシドジスムターゼ1(GenBank Accession No.NM_000454;配列番号5)をコードするポリヌクレオチドは、宿主細胞(例えば、細菌細胞、酵母細胞、哺乳類細胞)中での発現に好適な核酸構築物中にライゲーションされることができる。かかる核酸構築物は、細胞中でのポリヌクレオチド配列の転写を構成的又は誘導的態様で指向させるためのプロモーター配列を含み、また、このベクターを原核生物、真核生物、又は好ましくは両方の中での複製及び一体化のために好適にするための配列(例えば、シャトルベクター);転写及び翻訳開始配列、エンハンサー、転写及び翻訳ターミネーター、及びmRNAの翻訳効率を増大させることができるポリアデニル化シグナル;分泌のためのシグナル配列;発現されたポリペプチドの安定性、製造、精製、収率又は毒性を増大させるように改変された配列を含むことができる。
【0080】
抗酸化剤は、回収されて、様々な標準的なタンパク質精製技術を使用して精製されることができる。これらの技術としては、例えば、親和性クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、濾過、電気泳動、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、コンカナバリンAクロマトグラフィー、クロム酸塩フォーカシング及び差分的可溶化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
具体的な実施形態によれば、抗酸化剤は、組み換えポリペプチドの抗酸化剤としての効果的な使用を可能にするために化学的又は生物学的構成成分から十分純粋であるように精製される(retrieved)。抗酸化剤(例えば、SOD)の活性は、当該技術分野では周知の方法によって決定されることができ、例えば、キサンチンオキシダーゼによるキサンチンの酸化中にスーパーオキシドアニオンラジカルが生成されたときのニトロテトラゾリウムブルーの還元の抑制率としての560nmでの測定を含む。
【0082】
具体的な実施形態によれば、抗酸化剤(例えば、SOD)は、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、又は少なくとも99%純粋である。
【0083】
具体的な実施形態によれば、抗酸化剤(例えば、SOD)は、分析用又は医薬用等級の抗酸化剤である。
【0084】
本明細書で使用されるように、用語「グリオーシス」は、中枢神経系(CNS)への損傷に対する応答におけるグリア細胞(例えば、星状細胞及びマクロファージ)の非特異的変化を意味する。通常、グリオーシスは、グリア細胞の増殖、グリア細胞の肥大、及び連結組織マトリックス物質(例えば、プロテオグリカン(PGs)、コラーゲン、及びミエリン由来残渣)の分泌を含む。グリオーシスは、その極端な形態において、損傷領域におけるグリア細胞の緻密な繊維状ネットワークを含むCNSにおける瘢痕組織の形成をもたらし、軸索の出芽の阻害、及び神経再生の制限をもたらす。
【0085】
グリオーシスの決定方法は、当該技術分野で公知であり、以下の実施例においてさらに記述され、ニューロン細胞の生存、及び星状細胞の生存及び品質、GAGなどの阻害性の細胞内の、細胞の周囲の、及び細胞外(ECM)の成分の生合成及び蓄積を決定するインビトロ方法、及びCNS損傷(例えばSCI)への応答における神経の再生を決定するインビボ方法を含む。
【0086】
本明細書で使用されるように、用語「抗グリオーシス剤(anti-gliotic agent)」は、グリオーシスの程度を減少させることができる薬剤を意味する。通常、抗グリオーシス剤は、瘢痕バリアを分解するか及び/又はそのさらなる形成を阻害することによってグリオーシスの程度を減少させる。具体的な実施形態によれば、この減少は、抗グリオーシス剤の非存在下での減少と比較して、少なくとも1.05倍、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、又は少なくとも20倍である。
【0087】
他の具体的な実施形態によれば、この減少は、抗グリオーシス剤の非存在下での減少と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、又は少なくとも50%である。
【0088】
具体的な実施形態によれば、組成物は、少なくとも一種類の抗グリオーシス剤を含む。
【0089】
具体的な実施形態によれば、組成物は、一種類の抗グリオーシス剤を含む。
【0090】
他の具体的な実施形態によれば、組成物は、複数の別個の(例えば、2,3,4又は5種類の)抗グリオーシス剤を含む。
【0091】
具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、グリオーシスタンパク質、即ちグリオーシスの過程に参加するタンパク質に対して指向された抗体である。
【0092】
別の具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、グリオーシスの過程を改善することができる酵素である。
【0093】
別の具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、グリオーシスの過程を改善することができるペプチドである。
【0094】
別の具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、グリオーシスの過程を改善することができる増殖因子である。
【0095】
別の具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、グリオーシスの過程を改善することができる小分子である。
【0096】
別の具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、グリオーシスの過程を改善することができるポリヌクレオチド分子である。
【0097】
抗グリオーシス剤の非限定的な例は、コンドロイチナーゼABC(E.C.No 4.2.2.4)、β-D-キシロシド(E.C.No 217.897.1)、コラゲナーゼ タイプI(E.C.No 232-582-9)、ミトマイシン(マイトマイシン)C(CAS No 50-07-7)、MMP-3-マトリックスメタロプロテイナーゼ(E.C.No 3.4.24)、抗NogoA、抗TGFβ1,2&3、アンギオテンシン転化酵素(ACEa,E.C No 3.4.15.1)、抗NG-2ドメイン、デコリン(例えば、Uniprot accession No.P07585などのヒトデコリン)、PAPN-ベータアミノプロピオニル、マンノース-6-ホスフェート(CAS No 3672-15-9)、酸化された組み換えヒトガレクチン-1、コパキソン(酢酸グラチアマー)、及びトリペプチド(ser-gly-gly)を含む。
【0098】
具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、抗nogoA及びコンドロイチナーゼABCからなる群から選択される。
【0099】
具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、抗nogoAを含む。
【0100】
本明細書中で使用されるように、用語「nogoA(nogo A)」は、レチクロン4、ニューロエンドクリン-特異的タンパク質、神経突起生長阻害剤、NOGO、神経突起増殖阻害剤220としても知られており、RTN4遺伝子のタンパク質などの発現産物を意味する。具体的な実施形態によれば、nogoAタンパク質は、以下のGenBank Numbers NP_008939,NP_065393,NP_722550,NP_997403及びNP_997404に与えられるようなヒトのタンパク質を意味する。
【0101】
本発明で使用される用語「抗体」は、抗原のエピトープに結合することができる無傷の分子及びその機能的フラグメント(例えば、Fab,F(ab′)2,Fv,scFv,dsFv、又はVHやVLなどの単一のドメイン分子)を含む。
【0102】
本発明のいくつかの実施形態を実施するための好適な抗体フラグメントは、免疫グロブリン軽鎖(本明細書では、「軽鎖」と称する)の相補性決定領域(CDR)、免疫グロブリン重鎖(本明細書では、「重鎖」と称する)の相補性決定領域、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域、軽鎖、重鎖、Fdフラグメント、及びFv、単鎖FvFv(scFv)、ジスルフィドで安定化されたFv(dsFv)、Fab、Fab′及びF(ab′)2などの軽鎖及び重鎖の両方の可変領域全体を本質的に含む抗体フラグメントを含む。
【0103】
具体的な実施形態によれば、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0104】
他の具体的な実施形態によれば、抗体は、ポリクローナル抗体である。
【0105】
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、及びそれらのフラグメントを製造する方法は、当該技術分野では周知である(例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1988を参照。この文献は、参照によって本明細書中に組み入れられる)。
【0106】
具体的な実施形態によれば、抗体は、ヒト抗体又はヒト化された抗体である。
【0107】
ヒト抗体又はヒト化された抗体を製造する方法は、当該技術分野では周知である。
【0108】
非ヒト(例えば、ネズミ科の動物)抗体のヒト化された形態は、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又はそのフラグメント(Fv,Fab,Fab′,F(ab′)2、又は抗体の他の抗原結合配列)のキメラ分子であり、これは、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む。ヒト化された抗体は、ヒトの免疫グロブリン(受容者抗体)を含み、この中に、受容者の相補性決定領域(CDR)からの残基が所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(提供者抗体)(マウスやラットやウサギなど)のCDRからの残基によって置換されている。ある場合には、ヒトの免疫グロブリンのFv枠組み残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。ヒト化された抗体は、受容者抗体及び輸入されたCDR又は枠組み配列のいずれにも見出されない残基を含む。一般的に、ヒト化された抗体は、少なくとも一つ、通常は二つの可変ドメインの実質的に全てを含み、そこでは、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応するCDR領域の全て又は実質的に全て、及びFR領域の全て又は実質的に全てがヒトの免疫グロブリンコンセンサス配列である。ヒト化された抗体は、最適には、免疫グロブリン、通常はヒト免疫グロブリンの不変領域(Fc)の少なくとも一部も含むだろう[Jones et al.,Nature,321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature,332:323-329(1988);and Presta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593-596(1992)]。
【0109】
本発明の具体的な実施形態で使用されることができる抗nogoA抗体は、当該技術分野で公知であり、例えばBiotest Ltd.,Abcam and EMD Milliporeから商業的に入手することができる。
【0110】
他の具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、コンドロイチナーゼABCを含む。
【0111】
本明細書で使用されるように、用語「コンドロイチナーゼABC」E.C.No 4.2.2.4は、コンドロイチンABCライアーゼ、コンドロイチナーゼ、及びコンドロイチンABCエリミナーゼとしても知られ、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸、及びデルマタン硫酸に作用して、以下の反応を触媒する酵素を意味する:1,4-ベータ-D-ヘキソサミニル及び1,3-ベータ-D-グルクロノシル又は1,3-アルファ-L-イズロノシル結合を含む多糖の、4-デオキシ-ベータ-D-グルク-4-エヌロノシル基を含む二糖への削除的分解。
【0112】
この酵素は、コンドロイチン4-硫酸、コンドロイチン6-硫酸、及びデルマタン硫酸に作用する。
【0113】
コンドロイチナーゼABCは、例えばSigma and R&D Systemsから商業的に入手することができる。
【0114】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、配列番号1によって規定されるラミニンポリペプチド、抗酸化剤、及び抗グリオーシス剤を含む組成物であって、前記抗グリオーシス剤が抗nogoAを含む組成物が提供される。
【0115】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、配列番号1によって規定されるラミニンポリペプチド、抗酸化剤、及び抗グリオーシス剤を含む組成物であって、前記抗グリオーシス剤がコンドロイチナーゼABCを含む組成物が提供される。
【0116】
具体的な実施形態によれば、組成物の成分は、架橋されている。
【0117】
具体的な実施形態によれば、組成物のヒアルロン酸、抗酸化剤、及びラミニンペプチドは、架橋されている。
【0118】
組成物中に含まれる成分の架橋(即ち、共有結合又はイオン結合による結合)は、当該技術分野で公知のいかなる架橋剤又はカップリング剤を使用しても行なわれることができる。基本的に、架橋の原理は、遊離の一級アミノ基をカルボキシル基と組み合わせるか、又は近い位置の水酸基の間で酸化し、反応性アルデヒドを形成させ、それら自身の間で相互作用させるか又はチオール残基を介して形成されることができる追加のコンジュゲートのアミンと相互作用させることである。
【0119】
具体的な実施形態によれば、架橋は、結合された要素の生物学的活性に影響を与えない。
【0120】
好適な架橋剤の非限定的な例は、ジメチルスベリミデート(イミドエステル架橋剤);Bis(スルホスクシニミジル)スベラート(BS3,NHS-エステル架橋剤);ホルムアルデヒド;1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(EDC;カルボジイミド架橋剤);N-ヒドロキシスクシニミド(NHS)[Mao J.S,et al.,Biomaterials.24,1621-1629,2003;Choi Y.S.,et al.,J.Biomed.Mater.Res.48,631-639,1999;Richert L.,et al.,Biomacromolecules,5,284-294,2004)];ジビニルスルホン(DVS);及びゲニピン[Sung H.W.,et al.,J Biomed.Mater.Res.A,64A:427-438,2003;Chen SC.,et al.,J.Control Release.96,285-300,2004;Mwale F.,et al.,Tissue Eng.,11,130-40,2005;Chen H.,et al.,Biomacromolecules,7,2091-2098,2006]を含む。エクスビボ又はインビボでの架橋のためには、光反応性アミノ酸類似物(例えば、ロイシン及びメチオニンのジアジリン類似物)が組成物に添加されて、紫外光への露出後に、ジアジリンが活性化されて、相互作用する側鎖(例えば、カルボキシル又はアミノ基)に結合することができる。
【0121】
具体的な実施形態によれば、架橋は、非毒性及び/又は生物学的適合性の薬剤を使用して行なわれる。これらの薬剤の非限定的な例は、3-ジメチル-アミノプロピル)-N-エチル-カルボジイミド(EDC-N;Sigma-Aldrich-Fluka,St Louis,Missouri 63178、カタログ番号03459)、ジビニルスルホン(DVS;Sigma、カタログ番号V-370-0)、及びゲニピン(Sigma、カタログ番号G-4796)を含む。
【0122】
従って、具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、抗酸化剤、及びラミニンポリペプチドが架橋されている、本明細書に記載されたような組成物が与えられる。
【0123】
他の具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、抗酸化剤、ラミニンポリペプチド、及び抗グリオーシス剤が架橋されている、本明細書に記載されたような組成物が与えられる。
【0124】
具体的な実施形態によれば、本明細書に記載された組成物は、神経細胞の生存、神経再生、及び/又はグリア瘢痕組織の増殖の防止に対して組み合わされた改良された活性を有する。本明細書中で使用されるように、句「組み合わされた改良された活性」は、少なくとも相加的な、しかし好ましくは相乗的な改良された活性を意味する。
【0125】
本発明の組成物中に含まれる成分は、合成又は組み換え技術を使用して調製されることができるので、それらは、分析用又は医薬品用の等級の滅菌調製物として得られることができることに注意すべきである。
【0126】
上述の通り、本発明者は、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド(配列番号1)、抗酸化剤(スーパーオキシドジスムターゼ)、及び抗グリオーシス剤(例えば、抗nogoA、コンドロイチナーゼABC)から新規のヒドロゲルを生成した。
【0127】
従って、本発明の具体的な実施形態によれば、本明細書中で記載された組成物を含むヒドロゲルが提供される。
【0128】
本発明の別の側面によれば、ヒドロゲルを生成させる方法であって、
(i)ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤を含む組成物を水に懸濁させて、少なくとも40%の水を含む懸濁液を得ること、及び
(ii)抗グリオーシス剤を前記懸濁液に添加し、それによりヒドロゲルを生成させること
を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0129】
具体的な実施形態によれば、工程(i)は、国際特許出願公開WO2009/022339の教示に従って行なわれる。この公報の内容は、本明細書中にその全体を組み入れられる。
【0130】
本明細書中で使用されるように、用語「ヒドロゲル」は、本発明のある実施形態の組成物と水を含む材料であって、水が40%以上を構成する材料を意味する。
【0131】
具体的な実施形態によれば、ヒドロゲルは、少なくとも約50%の水、少なくとも約60%の水、少なくとも約70%の水、少なくとも約80%の水、少なくとも約90%の水、少なくとも約95%の水、少なくとも約96%の水、少なくとも約97%の水、少なくとも約98%の水、又は少なくとも約99%の水を含む。
【0132】
具体的な実施形態によれば、ヒドロゲルは、粘性(例えば、動きがないときは約0cP、動きがあるときは約110~130cP)を有する。
【0133】
具体的な実施形態によれば、ヒドロゲルは、透明である。
【0134】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、組成物(例えばヒドロゲル)中、約0.3~2%の濃度範囲、例えば約0.4~1.8%、例えば約0.5~1.6%、例えば約0.5~1.5%、例えば約0.6~1.4%、例えば約0.8~1.2%、例えば約1.2%の濃度範囲で与えられる。
【0135】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸は、組成物(例えばヒドロゲル)中、約0.5~1.5%の濃度範囲で与えられる。
【0136】
具体的な実施形態によれば、ラミニンポリペプチド(例えば、配列番号1)は、組成物(例えばヒドロゲル)中、約10~200μg/mlの濃度範囲、例えば約20~100μg/ml、例えば約50μg/mlの濃度範囲で与えられる。
【0137】
具体的な実施形態によれば、ラミニンポリペプチド(例えば、配列番号1)は、組成物(例えばヒドロゲル)中、約20~100μg/mlの濃度範囲で与えられる。
【0138】
具体的な実施形態によれば、抗酸化剤(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ)は、ヒドロゲル中、約8μM(約0.25μg/ml)~8mM(約250μg/ml)の濃度範囲で与えられる。例えば、抗酸化剤(例えば、スーパーオキシドジスムターゼ)は、ヒドロゲル中、約0.5μg/ml~約200μg/ml、例えば約1μg/ml~約100μg/ml、例えば約2μg/ml~約80μg/ml、例えば約4μg/ml~約40μg/ml、例えば約5μg/ml~約50μg/ml、例えば約10μg/ml~約50μg/ml、例えば約15μg/ml~約40μg/ml、例えば約20μg/ml~約30μg/ml、例えば約25μg/mlの濃度範囲で与えられることができる。
【0139】
具体的な実施形態によれば、抗酸化剤は、組成物(例えば、ヒドロゲル)中、約5~40μg/mlの濃度範囲で与えられる。
【0140】
具体的な実施形態によれば、組成物(例えば、ヒドロゲル)中のヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤の比率は、HA 0.01mg:ラミニンポリペプチド 50μg:SOD 250μg/ml~HA 1.2mg:ラミニンポリペプチド 50μg:SOD 250μg/mlである。
【0141】
具体的な実施形態によれば、組成物(例えば、ヒドロゲル)中のヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤の比率は、HA 約0.4mg:ラミニンポリペプチド 50μg:SOD 250μg/mlである。
【0142】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤は、約0.01~0.6%の全濃度で与えられる。
【0143】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤は、約0.02~0.5%の全濃度で与えられる。
【0144】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤は、約0.4%の全濃度で与えられる。
【0145】
具体的な実施形態によれば、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、及び抗酸化剤は、約0.02%の全濃度で与えられる。
【0146】
具体的な実施形態によれば、抗グリオーシス剤は、組成物(例えば、ヒドロゲル)中、約5~300μg/mlの濃度範囲で与えられる。
【0147】
本発明のある実施形態によれば、方法は、組成物を架橋することをさらに含む。架橋のために使用されることができる方法及び薬剤は、当該技術分野で周知であり、かつ本明細書中でさらに上述されている。
【0148】
具体的な実施形態によれば、ヒドロゲルは、当該技術分野で周知の方法によって凍結乾燥され、乾燥マトリックスが得られる。
【0149】
具体的な実施形態によれば、乾燥マトリックスは、50%未満、30%未満、10%未満、5%未満、2%未満、1%未満、又は0.5%未満の水を含む。水を含まないマトリックスは、酵素分解又は(例えば微生物による)汚染にさらされることなしに長期間保存されることができることに注意すべきである。
【0150】
従って、具体的な実施形態によれば、本明細書中に記載された組成物を含むマトリックスが提供される。
【0151】
本明細書中で使用されるように、句「マトリックス」は、本発明の組成物を含む二次元又は三次元の骨格(支持枠組みとも称される)を意味する。かかる骨格は、機械的安定性及び支持をさらに与えることができる。
【0152】
マトリックスは、意図される用途に応じて乾燥形態又は湿潤形態で保存されるか、又は凍結されることもできる。
【0153】
具体的な実施形態によれば、乾燥マトリックスは、ヒドロゲルが形成されるまで水溶液(例えば水)中でさらに水和されることができる。
【0154】
具体的な実施形態によれば、マトリックスの寸法は、治療されるべき損傷(例えば、神経損傷又は脊髄損傷)に応じて変化しうる。例えば、マトリックスの大きさは、治療されるべき損傷の大きさより小さいか又は実質的に同じ大きさであることができる。代替的に、マトリックスの大きさは、損傷の大きさより大きくすることができる。
【0155】
骨格材料は、二次元又は三次元構造へとゲル化、重合体化、又は固化(例えば、凝集、凝固、疎水性相互作用、又は架橋によって)されることができる天然又は合成の有機ポリマーを含むことができる。
【0156】
本発明の骨格は、単一ポリマー、コポリマー又はそれらのブレンドから均一に作られることができる。しかし、本発明の骨格を複数の異なるポリマーから形成させることも可能である。骨格を形成するために使用されるポリマーの数及び配置は、特に限定されない。生物適合性であり、繊維化することができ、好適な速度で分解するいかなる組み合わせも使用されることができる。
【0157】
コポリマー中のポリマーの選択及びポリマーの比率は、骨格の剛性を最適化するために調節されることができる。骨格の分子量及び架橋密度も、骨格の機械的特性及び分解速度(分解可能な骨格の場合)の両方を制御するためにも調節されることができる。機械的特性は、移植部位の組織の機械的特性を模倣するように最適化されることもできる。
【0158】
骨格材料組成物中で使用されるポリマーは、生物適合性で、生物分解性で、及び/又は生物腐食性であり、細胞のための接着物質として作用することができる。例示的な実施形態では、構造骨格材料は、複雑な形状に容易に加工されることができ、生体内状況下で所望の形状を維持するのに好適な剛性及び機械的強度を有する。
【0159】
特定の実施形態では、構造骨格材料は、非吸収性又は非生物分解性のポリマー又は材料であることができる。かかる非吸収性の骨格材料は、宿主生物中に長期間又は永久に移植されるように設計された材料を製造するために使用されることができる。
【0160】
本明細書中で使用されるように、句「非生物分解性ポリマー」は、生体内で少なくとも実質的に(即ち、50%以上)分解しないか又は腐食しないポリマーを意味する。用語「非生物分解性」及び「非吸収性」は、等価であり、本明細書中では交換可能に使用される。骨格材料として有用な生物適合性で非生物分解性ポリマーの例は、以下のものを含むが、これらに限定されない:ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド(ナイロンなど)、ポリエステル、レーヨン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、アクリル、ポリイソプレン、ポリブタジエン、及びポリブタジエン-ポリイソプレンコポリマー、ネオプレン、及びニトリルゴム、ポリイソブチレン、オレフィンゴム(エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンモノマーゴム、及びポリウレタンエラストマーなど)、シリコーンゴム、フルオロエラストマー、及びフルオロシリコーンゴム、酢酸ビニルのホモポリマー及びコポリマー(エチレン酢酸ビニルコポリマーなど)、アクリレートのホモポリマー及びコポリマー(ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、エチレンジメタクリレート、及びヒドロキシメチルメタクリレートなど)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリロニトリルブタジエン、ポリカーボネート、ポリアミド、フルオロポリマー(ポリテトラフルオロエチレン及びポリフッ化ビニルなど)、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリルのホモポリマー及びコポリマー、酢酸セルロース、アクリロニトリルブタジエンスチレンのホモポリマー及びコポリマー、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリイミド、ポリイソブチレン、ポリメチルスチレン、及び当該技術分野で公知の他の類似化合物。
【0161】
他の実施形態では、構造骨格材料は、「生物腐食性」又は「生物分解性」のポリマー又は材料であることができる。
【0162】
本明細書中で使用されるように、句「生物分解性ポリマー」は、生体内で分解するポリマーであって、時間にわたるポリマーの腐食が組成物の放出と同時に又は組成物の放出に続いて起こるポリマーを意味する。用語「生物分解性」及び「生物腐食性」は、等価であり、本明細書中では交換可能に使用される。
【0163】
かかる生物腐食性又は生物分解性の骨格材料は、一時的な構造を製造するために使用されることができる。骨格材料として有用な生物適合性で生物分解性ポリマーの例は、以下のものを含むが、これらに限定されない:ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、及びこれらのコポリマー、ポリエステル(ポリグリコライドなど)、ポリ無水物、ポリアクリレート、ポリアルキルシアノアクリレート(n-ブチルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレートなど)、ポリアクリルアミド、ポリオルトエステル、ポリホスファゼン、ポリペプチド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアルキレンオキサイド、アルギネート、アガロース、デキストリン、デキストラン、ポリ無水物、バイオポリマー(コラーゲン、エラスチン、アルギネート、キトサン、グリコサミノグリカンなど)及びかかるポリマーの混合物。なお別の実施形態では、非生物分解性の骨格材料及び生物腐食性及び/又は生物分解性の骨格材料の混合物が、部分的に永久でかつ部分的に一時的な生物模倣構造を形成するために使用されることができる。
【0164】
具体的な実施形態によれば、PLA,PGA、及びPLA/PGAコポリマーが本発明の骨格を形成するために使用されることができる。
【0165】
例示的な実施形態では、骨格材料は、天然に生じる物質(例えば、フィブリノーゲン、フィブリン、トロンビン、キトサン、コラーゲン、アルギネート、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)、アルブミン、コラーゲン、合成ポリアミノ酸、プロラミン、多糖(アルギネートなど)、ヘパリン)、及び糖単位の他の天然に存在する生物分解性のポリマーを含む。
【0166】
具体的な実施形態によれば、本発明の骨格は、多孔質である。多孔度は、当該技術分野で公知の様々な技術によって制御されることができる。
【0167】
具体的な実施形態によれば、骨格は、合成生物材料から製造され、電気を伝導することができ、体内で自然に腐食する。例示的な実施形態では、骨格は、電気を伝導することができる生物適合性ポリマー(例えば、ポリピロールポリマー)を含む。ポリアニリン、ポリアセチリン、ポリ-p-フェニレン、ポリ-p-フェニレン-ビニレン、ポリチオフェン、及びヘモシンは、電気を伝導することができる他の生物適合性ポリマーの例であり、本発明の関連で使用されることができる。他の腐食性で伝導性のポリマーも周知である(例えば、Zelikin et al.,Erodible Conducting Polymers for Potential Biomedical Applications,Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,2002,41(1):141-144を参照)。上述の電気伝導性ポリマーのいずれも、展性のあるか又は成形可能な骨格に付与又は被覆されることができる。
【0168】
骨格は、当該技術分野で公知の様々な技術を使用して作成されることができる。塩浸出、ポロゲン、固相-液相分離(凍結乾燥とも称される)、及び相反転製造は、多孔質の骨格を製造するために使用されることができる。繊維の引っ張り及び織り(Vacanti,et al.,(1988)Journal of Pediatric Surgery,23:3-9参照)は、より整列されたポリマー糸条を有する骨格を製造するために使用されることができる。当業者は、標準的なポリマー加工技術が様々な多孔度及び微小構造を有するポリマー骨格を作り出すために利用されることができることを認識するだろう。
【0169】
骨格材料は、当業者には容易に入手することができ、通常、溶液の形で入手することができる(供給者は、例えばイギリスのBDH、及びノルウェーのPronova Biomedical Technology a.s.である)。骨格材料の選択及び製造の一般的な概説については、「Standard Guide for Characterization and Testing of Alginates as Starting Materials Intended for Use in Biomedical and Tissue Engineering Medical Products Applications」と題するAmerican National Standards Institute publication No.F2064-00を参照されたい。
【0170】
具体的な実施形態によれば、骨格は、生物分解性の膜(例えば、AESCULAPのLyoduraのようなデューラフィルムを含む。
【0171】
具体的な実施形態によれば、ヒドロゲル又はマトリックスは、幹細胞又は分化した細胞(例えば、神経先祖細胞)などのエクスビボで播種された細胞をさらに含む。
【0172】
本発明によって使用されることができる幹細胞の非限定的な例は、胚性幹細胞、誘導された多能性幹細胞(iPS)、神経先祖細胞、造血幹細胞(例えば、骨髄幹細胞、臍帯血細胞、末梢血幹細胞)、成体幹細胞、及び間葉性幹細胞を含む。
【0173】
本発明のある実施形態によれば、幹細胞は、神経先祖細胞(胚性又は胎児の神経組織又は脳から得られるもののような)である。
【0174】
具体的な実施形態によれば、分化した細胞は、神経細胞である。
【0175】
上述のように、及び以下の実施例で記述されるように、本発明者は、ヒアルロン酸、ラミニンポリペプチド、スーパーオキシドジスムターゼ、及び抗グリオーシス剤を含む組成物(例えば、ヒドロゲルの形態の)が、神経細胞の生存を増加させて、神経の再生を支持することができることを見出した。
【0176】
従って、本発明のある実施形態の側面によれば、必要のある対象において神経組織の形成又は再生を誘導する方法であって、本発明の組成物、マトリックス、又はヒドロゲルを対象に移植し、それにより対象における神経組織の形成又は再生を誘導することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0177】
本明細書中で使用されるように、用語「対象」は、いかなる性別及びいかなる年齢(新生児、幼児、少年、青年、成人、及び老人を含む)の哺乳類の対象(例えば、ヒト)を意味する。
【0178】
具体的な実施形態によれば、この用語は、以下に記述されるように病気(例えば、神経損傷、神経原性ショック)にかかっている個体を包含する。
【0179】
具体的な実施形態によれば、対象は、病気を特徴付ける徴候(単数又は複数)を示す。
【0180】
獣医学用途もまた、想定される。従って、具体的な実施形態によれば、本発明の組成物、マトリックス、及びヒドロゲルの成分は、異種反応を回避するように選択される。
【0181】
本発明のある実施形態の別の側面によれば、必要のある対象において神経損傷を治療する方法であって、本発明の組成物、マトリックス、又はヒドロゲルを対象の神経損傷に又はその近くに移植し、それにより対象における神経損傷を治療することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0182】
本発明のある実施形態の別の側面によれば、必要のある対象において神経損傷を治療することにおいて使用するための、本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルが提供される。
【0183】
本明細書中で使用されるように、句「神経損傷」は、組織再生を必要とする神経組織の傷害(即ち、非機能性組織、ガン性又は前ガン性組織、損傷した組織、破壊された組織、繊維化した組織、又は虚血の組織)又は喪失(例えば、外傷後の、又は感染症による、又は遺伝子疾患によるものなど)を示すいかなる傷害、疾患、又は症状を意味する。具体的な実施形態によれば、神経損傷は、外傷によって生じ、疾患によっては生じない。
【0184】
具体的な実施形態によれば、神経組織及び/又は神経損傷は、中枢神経系(CNS)の一部である。
【0185】
本明細書中で使用されるように、「中枢神経系(CNS)」は、対象の脳、脊髄、及び/又は視神経を意味する。
【0186】
具体的な実施形態によれば、神経損傷は、脊髄損傷を含む。
【0187】
本明細書中で使用されるように、句「脊髄損傷(SCI)」は、外傷によって生じ、疾患によっては生じない脊髄に対する損傷を意味する。脊髄損傷は、多くの原因を有する:具体的な実施形態によれば、SCIは、交通事故、落下、スポーツ損傷又は暴力からの主要な外傷によって生じる。脊髄及び神経根のどの場所が損傷されたかに依存して、徴候は、幅広く変化しうる(例えば、痛みから麻痺や失禁まで)。SCIは、不完全な損傷であるか、又は完全な損傷(つまり、機能の完全な喪失)でありうる。具体的な実施形態によれば、SCIは、完全なSCIである。
【0188】
具体的な実施形態によれば、神経損傷は、外傷性脳損傷(TBI)を含む。
【0189】
本明細書中で使用されるように、句「外傷性脳損傷(TBI)」は、外傷によって生じ、疾患によっては生じない脳損傷を意味する。TBIは、多くの原因を有する:具体的な実施形態によれば、TBIは、落下、自動車の衝突、スポーツ時の衝突、又は格闘によって生じる。この句は、閉鎖頭部損傷、震盪、又は挫傷、及び穿通頭部損傷を含む軽度のTBI及び重度のTBIの両方を含む。
【0190】
具体的な実施形態によれば、神経損傷は、外傷性視神経症(TON)を含む。
【0191】
本明細書中で使用されるように、句「外傷性視神経症(TON)」は、外傷によって生じ、疾患によっては生じない視神経に対する損傷を意味する。具体的な実施形態によれば、TONは、部分的な又は完全な視力の喪失をもたらす。TONは、多くの原因を有する:具体的な実施形態によれば、TONは、穿通眼窩外傷、視神経管内の骨折、又は神経鞘の血腫から生じる視神経繊維の解剖学的妨害によって生じる。
【0192】
句「治療する」は、病気(疾患、傷害、又は症状)の発展を阻害又は阻止すること、及び/又は病気の減少、緩解、又は回復を生じさせることを意味する。当業者は、様々な方法及びアッセイが病気の発展を評価するために使用されることができること、及び同様に、様々な方法及びアッセイが病気の減少、緩解、又は回復を評価するために使用されることができることを理解するだろう。具体的な実施形態によれば、治療することは、生存率を増加させることを含む。
【0193】
従って、本発明のある実施形態の別の側面によれば、必要のある対象において神経損傷後の生存率を増加させる方法であって、本発明の組成物、マトリックス、又はヒドロゲルを対象の神経損傷に又はその近くに移植し、それにより対象における神経損傷後の生存率を増加させることを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0194】
本発明のある実施形態の別の側面によれば、必要のある対象において神経損傷後の生存率を増加させることにおいて使用するための、本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルが提供される。
【0195】
具体的な実施形態によれば、増加は、データベース及び公知文献から得られることができる、本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルの移植の非存在下での増加と比較して、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、又は少なくとも20倍である。
【0196】
他の具体的な実施形態によれば、増加は、データベース及び公知文献から得られることができる、本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルの移植の非存在下での増加と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%である。
【0197】
具体的な実施形態によれば、病気(例えば神経損傷)と関連する死亡は、神経原性ショックによるものである。
【0198】
従って、本発明のある実施形態の別の側面によれば、必要のある対象において神経損傷後の神経原性ショックを予防又は治療する方法であって、本発明の組成物、マトリックス、又はヒドロゲルを対象の神経損傷に又はその近くに移植し、それにより対象における神経原性ショックを予防又は治療することを含むことを特徴とする方法が提供される。
【0199】
本発明のある実施形態の別の側面によれば、必要のある対象において神経損傷後の神経原性ショックを予防又は治療することにおいて使用するための、本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルが提供される。
【0200】
本明細書で使用されるように、句「予防する」は、疾患のリスクを有しうるが、疾患、傷害、又は症状の徴候をまだ示していないか又は疾患、傷害、又は症状を有するものとしてまだ診断されていない対象において、疾患、傷害、又は症状が生ずることを抑制することを意味する。当業者は、様々な方法及びアッセイが病気の発展を評価するために使用されることができることを理解するだろう。
【0201】
本明細書中で使用されるように、句「神経原性ショック」は、CNSへの損傷(例えばSCI)後に生じる自律経路の妨害に帰せられる低下した心拍数をしばしば伴なう、低血圧を生じるショックを意味する。神経原性ショックの診断方法及びその進展の評価方法は、当該技術分野で公知であり、放射線造影、血行動力学的モニタリング、及び/又は臨床試験を含むが、これらに限定されない。
【0202】
具体的な実施形態によれば、本発明の方法又は組成物は、以下のものを含む神経原性ショックの徴候の少なくとも一つを予防及び/又は治療するが、これらに限定されない:突然の過度の血管拡張による瞬間的な低血圧、血管拡張による暖かい赤らんだ皮膚、及び血管収縮の不能性、血管拡張による持続性勃起;(肋間筋の神経制御の喪失(これは通常、第五頸椎より下の損傷による)による頻脈、徐脈、横隔膜呼吸の不能性、横隔膜の神経制御の喪失(これは通常、第三頸椎より上の損傷による)による、損傷の直後の呼吸停止、器官の機能不全、又は死。
【0203】
具体的な実施形態によれば、本発明の方法又は組成物は、神経原性ショックから生じる器官機能不全又は死を治療するか又は予防する。
【0204】
具体的な実施形態によれば、本発明の方法又は組成物は、例えば上述の徴候を含むがそれらに限定されない神経原性ショックの少なくとも一つの徴候を示す対象を治療する。
【0205】
具体的な実施形態によれば、本発明の方法又は組成物は、低血圧、徐脈、及び横隔膜呼吸からなる群から選択される神経原性ショックの少なくとも一つの徴候を示す対象を治療する。
【0206】
当業者は、いつ、どのようにして組成物、マトリックス又はヒドロゲルを移植して対象内で例えば組織形成を誘導するかを決定することができる。例えば、Artzi Z,et al.,2005,J.Clin.Periodontol.32:193-9;Butler CE and Prieto VG,2004,Plast.Reconstr.Surg.114:464-73を参照されたい。
【0207】
具体的な実施形態によれば、本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルは、神経損傷の部位に局所的に移植される。
【0208】
例えば、脊髄損傷を治療するためには、本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルは、損傷中に直接(例えば、損傷の中心に)、及び損傷の近くに(例えば、損傷された部位から約0.5cmの距離に)移植される。移植後、移植物は、外科用接着剤(例えば、BioGlue,CryoLife)によって固定されることができ、最後に、筋肉及び皮膚面が閉じられて縫合される。
【0209】
具体的な実施形態によれば、組成物、マトリックス又はヒドロゲルは、神経損傷後12時間以内に、24時間以内に、48時間以内に、72時間以内に、又は96時間以内に移植される。それぞれの時間は、本発明の別個の実施形態を表わす。
【0210】
具体的な実施形態によれば、組成物、マトリックス又はヒドロゲルは、神経損傷後48時間以内に移植される。
【0211】
具体的な実施形態によれば、組成物、マトリックス又はヒドロゲルは、神経損傷後24時間以内に移植される。
【0212】
本発明の組成物、マトリックス、及び/又はヒドロゲルは、所望により、FDA承認キット又は(包装材料を有する)製品などのパック又はディスペンサー装置において提示されることができ、これらは、活性成分を含む一つ以上の用量形態を含むことができる。例えば、パックは、ブリスターパックのような金属又はプラスチックの箔を含むことができる。パック又はディスペンサー装置は、対象への投与、移植、及び/又は対象の治療のための指示を伴なうことができる。パック又はディスペンサー装置は、医薬の製造、使用又は販売を規制する政府機関によって指示された形態で容器に関連される注意書きを収容することもできる。かかる注意書きは、ヒトへの又は獣医学的投与のための組成物の形態の政府機関による承認を反映する。かかる注意書きは、例えば、処方医薬又は承認された製品挿入物のための米国食品及び医薬管理局によって承認されたラベルの形であることができる。適合性の薬学的担体中に処方された本発明の組成物、マトリックス又はヒドロゲルは、調製されて、好適な容器中に配置され、上述したような示された症状の治療のためにラベルを貼られることができる。
【0213】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0214】
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。
【0215】
用語「からなる(consisting of)」は、「含み、それらに限定される(including and limited to)」ことを意味する。
【0216】
表現「から本質的になる(consisting essentially of)」は、さらなる成分、工程および/または部分が、主張される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物、方法または構造がさらなる成分、工程および/または部分を含み得ることを意味する。
【0217】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0218】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1~6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0219】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0220】
本明細書中で使用される用語「方法(method)」は、所与の課題を達成するための様式、手段、技術および手順を示し、これには、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者に知られているそのような様式、手段、技術および手順、または、知られている様式、手段、技術および手順から、化学、薬理学、生物学、生化学および医学の技術分野の実施者によって容易に開発されるそのような様式、手段、技術および手順が含まれるが、それらに限定されない。
【0221】
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
【0222】
本明細書中上記に描かれるような、および、下記の請求項の節において特許請求されるような本発明の様々な実施形態および態様のそれぞれは、実験的裏付けが下記の実施例において見出される。
【実施例】
【0223】
次に下記の実施例が参照されるが、下記の実施例は、上記の説明と一緒に、本発明を非限定様式で例示する。
【0224】
本願で使用される用語と、本発明で利用される実験方法には、分子生化学、微生物学および組み換えDNAの技法が広く含まれている。これらの技術は文献に詳細に説明されている。例えば以下の諸文献を参照されたい:「Molecular Cloning:A laboratory Manual」Sambrookら、(1989);「Current Protocols in Molecular Biology」I~III巻、Ausubel,R.M.編(1994);Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、米国メリーランド州バルチモア(1989);Perbal「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、米国ニューヨーク(1988);Watsonら、「Recombinant DNA」Scientific American Books、米国ニューヨーク;Birrenら編「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」1~4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press、米国ニューヨーク(1998);米国特許の第4666828号、同第4683202号、同第4801531号、同第5192659号および同第5272057号に記載される方法;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」I~III巻、Cellis,J.E.編(1994);「Current Protocols in Immunology」I~III巻、Coligan,J.E.編(1994);Stitesら編「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、米国コネティカット州ノーウォーク(1994);MishellとShiigi編「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H. Freeman and Co.、米国ニューヨーク(1980);利用可能な免疫アッセイ法は、特許と科学文献に広範囲にわたって記載されており、例えば:米国特許の第3791932号、同第3839153号、同第3850752号、同第3850578号、同第3853987号、同第3867517号、同第3879262号、同第3901654号、同第3935074号、同第3984533号、同第3996345号、同第4034074号、同第4098876号、同第4879219号、同第5011771号および同第5281521号;「Oligonucleotide Synthesis」Gait,M.J.編(1984);「Nucleic Acid Hybridization」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1985);「Transcription and Translation」Hames,B.D.およびHiggins S.J.編(1984);「Animal Cell Culture」Freshney,R.I.編(1986);「Immobilized Cells and Enzymes」IRL Press(1986);「A Practical Guide to Molecular Cloning」Perbal,B.(1984)および「Methods in Enzymology」1~317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press、米国カリフォルニア州サンディエゴ(1990);Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization-A Laboratory Course Manual」CSHL Press(1996);これらの文献の全ては、あたかも本願に完全に記載されているように援用するものである。その他の一般的な文献は、本明細書を通じて提供される。それらの文献に記載の方法は当業技術界で周知であると考えられ、読者の便宜のために提供される。それらの文献に含まれるすべての情報は本願に援用するものである。
【0225】
実施例1
星状細胞の生存に対する抗グリオーシス剤のインビトロでの影響
材料及び方法
化学物質 - 1mMの用量のBt-cAMP(N6,2′-O-ジブチリルアデノシン3′,5′-サイクリックモノホスフェート、ナトリウム塩、Sigmaカタログ番号D0627、分子量491.37);及び0.25~0.5mMの用量のテオフィリン(テオフィリン無水物-1,3-ジメチルキサンチン、Sigmaカタログ番号T1633、分子量180.2)が、星状細胞の活性化のために使用された。
【0226】
使用された抗グリオーシス剤は、以下のものであった:
- Proteus vulgarisからのコンドロイチナーゼABC(Sigmaカタログ番号C2905)。これは、グリア瘢痕において蓄積されたGAGに対して作用するグリコサミノグリカン(GAG)分解酵素である。
- β-D-キシロシド(p-ニトロフェニル-ベータ-D-キシロピラノシド又は4-ニトロフェニル-β-D-キシロピラノシドとも称される。Sigmaカタログ番号C3667又はN2132、分子量271.2)。これは、GAG鎖の人工的な受容体であり、天然の受容体(即ち、コアタンパク質)を置換して、可溶性の小分子量のGAG鎖を生じ、これは、培養物中で細胞外環境において見出され、インビボで腎臓を介して排出される。
- Clostridium histolyticumからのコラゲナーゼ タイプI(Sigmaカタログ番号C0130)。コラーゲンは、グリア瘢痕中に蓄積される傾向があり、神経成長の阻害、及び繊維出芽の阻害を生じる。
- Streptomyces caespitosusからのミトマイシンC(Sigmaカタログ番号M0503)。この薬剤は、星状細胞を特異的に排除し、それによってグリア細胞の反応性を減少させる。
- MMP-3-マトリックスメタロプロテイナーゼ、ヒトのストロムリシンSTR1(Sigmaカタログ番号SRP7783)。これは、エンドプロテアーゼでありかつアグレカナーゼであり、細胞外マトリックス(ECM)の維持及び再モデル化、GAG、フィブロネクチン、ラミニン及びコラーゲンの分解において役割を有する触媒活性を示し;正常なプロテオグリカン(PG)の合成を防止する。
- ウサギ抗NogoA、組み換え体(Enco Scientific Services LTD.、カタログ番号SC-25660)。Nogo(ミエリン由来の残渣)は、生長を阻害するCNS白質の成分である。
- マウス抗TGFβ1,2&3(モノクローナルマウスIgGクローン#1011,Biotest Ltd,Kfar Saba、イスラエル、カタログ番号MAR1835)。
- アンギオテンシン転化酵素(ACE)ヒト組み換え体(Biotest Ltd,Kfar Saba、イスラエル、カタログ番号929-ZN ACE/CD143)。この酵素は、体細胞型のプロテイナーゼクリアリングペプチド基質であり、PGのコアタンパク質を含む。
【0227】
細胞培養 - 星状膠細胞腫細胞U-87MG(ATCC(登録商標)HTB-14(商標)、American Type Culture Collection,Rockville,MD、米国)由来のヒト脳細胞の星状細胞培養物は、増殖培地[最小必須培地(MEM)中の10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(PS)]中で培養された。その後、細胞は、トリプトシン-EDTA0.25%で回収され、遠心分離され、80%のコンフルエンスでのサブ培養のために再懸濁され、計数され、アッセイ培地(1%FBS)中に1×106個/mlの最終濃度で再懸濁された。細胞懸濁物(5×105個/ウェル)は、1.5ml/ウェルのアッセイ培地を含む6ウェルプレート(500μl/ウェル)中に播種され、24±1時間、37±10℃で5%CO2の条件下でインキュベートされ、顕微鏡で検査された。その後、90%の細胞コンフルエンスで、プレートは、以下の群に従って処理された:
- 未処理の対照;
- 2つの活性化された対照[Bt2-cAMP(1mM)単独で活性化された星状細胞、又はテオフィリン(0.25mM)との組み合わせで活性化された星状細胞];及び
- 活性化されて異なる抗グリオーシス剤で処理された8つのもの(即ち、Bt2-cAMP(1mM)及びテオフィリン(0.25mM)で活性化されて、示された抗グリオーシス剤で処理された星状細胞)。
【0228】
抗グリオーシス剤は、以下のようにして添加された:コンドロイチナーゼABC(0.2U/ml)、コラゲナーゼ(2mg,50μl),β-D-キシロシド(2.5mM,20μl),MMP-3(0.5μg,20μl),抗TGFβ1,2&3(10μg,20μl)、ミトマイシンC(50μg/25μl)、ACEヒト組み換え体(0.5μg、25μl)、及び抗NogoA(5U,25μl)。各処理からの1枚のプレートは、48±1時間、37±10℃で5%CO2の条件下でインキュベートされ、その後、形態学的評価及び計数に供された。両方の細胞(細胞内及び細胞周囲)及び培地からの35S-GAG分子を単離して定量するために、各処理について追加の3枚のプレートに、20μCiの放射性35S-放射性ヌクレオチド[蓄積されて生合成されたGAG分子を放射能(35S-GAG)によってラベルする、担体非含有の硫酸塩、New England Nuclear via Perkin-Elmerカタログ番号NEX041H、比活性1050~1600Ci/mM]を添加され、48時間インキュベートされた。35S-GAGの単離は、Weintsteinら(Connect Tissue Res.2012;53(2):169-79)によって記載されたようにして行なわれた。
【0229】
結果
活性化された星状細胞に対する抗グリオーシス剤の活性を検査するために、星状細胞のインビトロ培養物は、Bt2-cAMP及びテオフィリンの両方によって活性化され、いくつかの抗グリオーシス剤で処理された。星状細胞の活性化剤、特にテオフィリンは、培養物中の星状細胞の数を15.9%まで有意に減少させた一方、Bt2-cAMPは、32.8%までの緩やかな減少を生じた(表3)。以下の表3に示されるように、活性化された星状細胞培養物に添加された抗グリオーシス剤の大部分は、活性化によって誘導される細胞死から星状細胞を救済した。
【0230】
【0231】
星状細胞の活性化は、細胞内、細胞周囲、及び細胞外のいずれにおいても、培養物中のグリコサミノグリオン(GAG)の蓄積を生じた。従って、GAGは、瘢痕バリアの形成又は排除についてのトレーサーとして役立つことができる。
【0232】
上(表3)で示されるように、Bt2-cAMP及びテオフィリンでの48時間の活性化は、生存細胞の量をそれぞれ32.8%及び15.9%に大幅に減少させた。従って、Bt2-cAMP及びテオフィリンと共にインキュベートされた抗グリオーシス剤の実際の効果を観察するために、単離された35S-GAGは、Bt2-cAMP及びテオフィリンと共に48時間培養された後の生存細胞の量に従って正規化された。従って、テオフィリンウェル及び全ての処理されたウェルについての35S-GAG単離分子の量は、6倍された。結果は、以下の表4に示される。表4は、8つの試験された薬剤のうちの5つが、活性化された星状細胞培養物中において蓄積されたGAGのレベルを減少させることができたことを示す。GAGの蓄積を減少させることにおいて最も効率的な抗グリオーシス剤は、コンドロイチナーゼABCであり、これは、35S-GAGの蓄積をテオフィリン対照に対して5.5%まで減少させた。次が抗NogoA(15.3%)、抗TGFβ1,2&3(19.8%)、ミトマイシンC(20.2%)、及びACEヒト組み換え体(22.9%)であった。
【0233】
【0234】
実施例2
ニューロン細胞の生存に対するAGRGのインビトロでの影響
材料及び方法
化学物質 - 上述の実施例1に記載された通りの抗グリオーシス剤。
【0235】
誘導再生ゲル(GRG)及び抗グリオーシス誘導再生ゲル(AGRG) - 抗酸化剤であるスーパーオキシドジスムターゼ及びラミニンペプチド(KSIKVAVRSYIGSRCV、配列番号1)を含む、ヒアルロン酸ベースのヒドロゲル(本明細書中では、誘導再生ゲル(GRG)と称する)は、国際出願公開WO2009/022339に記載されたようにして生成された。簡単に述べると、0.02%のGRGは、以下の三つの成分から調製された:
1.ヒアルロン酸(HA):PBS中の1%ヒアルロン酸(HA)の2mlゲル(1:1w/w)の1つのシリンジ(Biotechnology-Ferring.Biotechnology General Israel Ltd.イスラエル)が、50mlチューブに添加された。
2.ラミニンペプチド:二つの細胞-生物学的に活性なペンタペプチドIKVAV(ニューロンの成長を促進することに関与するラミニンのエピトープ(配列番号2))及びYIGSR(細胞基質接着を促進することに関与するラミニンのエピトープ(配列番号3))を含むラミニンを模倣する16個の合成アミノ酸(配列番号1)は、LN,International Marketing Dept.of ChinaPeptide Co.Ltd.、中国から入手された。ラミニンペプチドは、1mlのリン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)中に可溶化された50μgの濃度で使用され、0.45ミクロンの濾紙で濾過された。1mlのLNペプチドの濾過された溶液は、HAを含む50mlチューブに添加された。全ての操作は、滅菌条件下で行なわれた。
3.スーパーオキシドジスムターゼ(SOD):20μgのSODヒト組み換え体(Merck Millipore Mercury、イスラエル)は、1mlのPBS中に可溶化された。
【0236】
その後、1mlの滅菌濾過されたLM,1mlのSODの滅菌溶液、0.2mlのヒアルロン酸、及び2.8mlのPBSは、0.02%の濃度の5mlのGRGが得られるまで混合された。GRGは、2~4℃で維持され、均一な透明ゲルを形成した。
【0237】
抗グリオーシス誘導再生ゲル(AGRG)は、GRGと抗グリオーシス剤の組み合わせからなるヒドロゲルである。いくつかのAGRGは、それぞれの抗グリオーシス剤をGRGに添加して混合することによって生成された。AGRGは、使用されるまで2~4℃に維持された。5mlのGRG0.02%に、以下の抗グリオーシス剤がピペットを使用して添加された:コンドロイチナーゼABC(5U/mlのストック濃度)は、AGRG1、AGRG4、及び最後の群について細胞アッセイ培地中で1:50(10μl)に希釈された。ミトマイシンC(2mg/mlのストック濃度)は、AGRG2、AGRG4、及び最後の群について細胞アッセイ培地中で1:80(6.25μl)に希釈された。抗ヒトnogo(100μg/mlのストック濃度)は、AGRG3、AGRG4、及び最後の群について細胞アッセイ培地中で1:40(12.5μl)に希釈された。
【0238】
細胞培養 - 転移部位:骨髄(神経芽細胞腫、SK-N-SH)(ATCC(登録商標)HTB-11(商標)、American Type Culture Collection,Rockville,MD、米国)由来のヒト脳細胞のニューロン培養物は、増殖培地[最小必須培地(MEM)中の10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(PS)]中で培養された。その後、細胞は、80%のコンフルエンスで回収され、計数され、アッセイ培地(1%FBS)中に1×106個/mlの最終濃度で再懸濁された。細胞懸濁物(3×105個/ウェル)は、二つの24ウェルプレート中に播種され、24±1時間、37±10℃で5%CO2の条件下でインキュベートされ、顕微鏡で検査された。次のステップにおいて、AGRGの様々な組み合わせが以下のように培養物に添加された:
- 未処理の細胞、
- GRG0.02%
- コンドロイチナーゼABC+GRG0.02%(本明細書中ではAGRG1と称する)、
- ミトマイシンC+GRG0.02%(本明細書中ではAGRG2と称する)、
- 抗ヒトnogoA+GRG0.02%(本明細書中ではAGRG3と称する)、
- コンドロイチナーゼABC+ミトマイシンC+抗ヒトnogoA+GRG0.02%(本明細書中ではAGRG4と称する)、及び
- コンドロイチナーゼABC+ミトマイシンC+抗ヒトnogoA。
【0239】
各処理群から三連が評価された。
【0240】
48±1時間、37±1℃で5%CO2の条件下でのインキュベーション後、各処理群からの細胞は、計数され、残りの複製物は、写真撮影され、BCAタンパク質アッセイ(Thermo fisher Scientific、カタログ番号23225)を製造者の指示に従って行なうことによって、タンパク質決定のために処理された。
【0241】
結果
インビトロでのニューロン細胞に対する様々なAGRGの組み合わせの活性を検査するために、ニューロン培養物は、GRGと、コンドロイチナーゼABC、抗NogoA又はミトマイシンCのうちのいずれか一つを含むAGRGで、又はGRGと、コンドロイチナーゼABC、抗NogoA及びミトマイシンCを含むAGRGで処理され、対照の培養物(未処理の細胞、GRG単独で処理された細胞、又は三つの抗グリオーシス剤で処理された細胞)と比較された。
【0242】
図1に示されるように、そして以下の表5に要約されるように、AGRG3(GRG+抗NogoA)の添加は、培養物中のニューロン細胞の数を有意に増加させたが、GRGでの処理、三つの抗グリオーシス剤の組み合わせでの処理、及び他のAGRG組み合わせは、細胞の数を減少させた。AGRG2での結果、及び三つの抗グリオーシス剤の組み合わせでの結果は、抗グリオーシス剤であるミトマイシンCはニューロン細胞に対して高い毒性を有するが、それは活性化された星状細胞に対して強い抗グリオーシス作用を有するということを示す(上述の実施例1に示されるように)。
【0243】
【0244】
タンパク質含有量は、細胞の状態を示しうる。なぜなら、通常、タンパク質含有量が高いほど、良好な状態を示すからである。従って、細胞の品質をさらに検査するために、上記の培養物のタンパク質濃度分析が行なわれた。以下の表6に示されるように、AGRG3処理の後のタンパク質含有量は、未処理の対照と比較して88.07%であったが、AGRG2処理の後のタンパク質含有量は、極めて低かった。驚くべきことに、AGRG1処理の後のタンパク質含有量は、全ての他の処理と比較して最高(97.14%)であったが、細胞の数は、61%に減少していた(上記の表5)。このことは、コンドロイチナーゼABCがAGRGのための追加の抗グリオーシス剤の候補であることを示す。
【0245】
これらのことを総合すると、星状細胞培養物アッセイにおいて見出された三つの最も効果的な抗グリオーシス剤(実施例1、コンドロイチナーゼABC、抗NogoA、及びミトマイシンC)のうち、抗NogoAが、GRGと組み合わされるべき最も有望な抗グリオーシス剤である。
【0246】
【0247】
実施例3
GRG又は抗グリオーシス剤と比較した、星状細胞とニューロン細胞の共培養物の生存に対するAGRGのインビトロでの影響
化学物質 - 上述の実施例1に記載された通りの抗グリオーシス剤。
【0248】
GRG及びAGRG - 上述の実施例2に記載された通り。0.02%~0.6%の間の様々な濃度のGRGが調製される。
【0249】
星状細胞の培養 - 上述の実施例1に記載された通り。
【0250】
【0251】
ニューロン細胞の培養 - 上述の実施例2に記載された通り。
処理群は、以下のものを含む:
- 未処理の細胞、
- GRG、
- 抗nogoA、
- コンドロイチナーゼABC、
- GRG+抗nogoAを含むAGRG、
- GRG+コンドロイチナーゼABCを含むAGRG、
- 抗nogoA+コンドロイチナーゼABC、
- GRG+抗nogoA+コンドロイチナーゼABCを含むAGRG。
【0252】
星状細胞とニューロン細胞の組み合わせ培養 - 星状膠細胞腫細胞由来のヒト脳細胞、及び転移部位:骨髄由来のヒト脳細胞(U-87MG,ATCC(登録商標)HTB-14(商標)及び神経芽細胞腫、SK-N-SH,ATCC(登録商標)HTB-11(商標)、American Type Culture Collection,Rockville,MD、米国)の細胞培養物は、増殖培地[最小必須培地(MEM)中の10%ウシ胎児血清(FBS)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(PS)]中で培養される。その後、細胞は、トリプトシン-EDTA0.25%で回収され、遠心分離され、サブ培養のために再懸濁される。細胞は、80%のコンフルエンスで計数され、アッセイ培地(1%FBS)中に1×106個/mlの最終濃度で再懸濁される。細胞懸濁物(5×105個/ウェル)は、1.5ml/ウェルのアッセイ培地を含む6ウェルプレート(500μl/ウェル)中に播種され、24±1時間、37±10℃で5%CO2の条件下でインキュベートされ、顕微鏡で検査される。90%の細胞コンフルエンスで、プレートは、以下の群に従って処理される:
【0253】
【0254】
以下の濃度が使用される:Bt2-cAMP-1mM、テオフィリン-0.25mM,GRG-0.02%と0.5%の間の様々な濃度、抗nogoA-細胞アッセイ培地中で1:40(12.5μl)に希釈される200μg/mlのストック濃度、及びコンドロイチナーゼABC-細胞アッセイ培地中で1:50(10μl)に希釈される5U/mlのストック濃度。各処理からの1枚のプレートが48時間、37±10℃で5%CO2の条件下でインキュベートされる。インキュベート後、形態学的に評価され、計数される。各処理からの追加の3枚のプレートに、20μCiの放射性35S-放射性ヌクレオチドが添加され、上述の実施例で記載されたように処理される。
【0255】
実施例4
神経再生に対するAGRGのインビボでの影響
材料及び方法
化学物質 - 上述の実施例1に記載された通りの抗グリオーシス剤。
【0256】
GRG及びAGRG - 上述の実施例2に記載された通りだが、以下の点を変更した:0.4%の濃度のGRG(1mlの滅菌濾過されたLM,1mlのSODの滅菌溶液、2mlのヒアルロン酸、及び1mlのPBSが、0.4%の濃度の5mlのGRGが得られるまで混合された)、5μlの抗nogoA(200U,Enco Scientific services LTD.、イスラエル)、4μlのコンドロイチナーゼABC(5U,Sigma Aldrich Israel LTD.、イスラエル)。
【0257】
急性完全脊髄損傷(SCI)モデル - 20匹のSprague-Dawleyラット(それぞれ、約250gの体重)は、手術されて、その後6ヶ月間、追跡調査された。全ての手術は、高倍率の顕微鏡を使用して行なわれた。脊髄は、背側から露出された。重なっている筋肉は、収縮させられ、T7-T8板が除去され、脊髄は、微小ハサミを使用して横に切開され、脊髄の2mmのセグメントが除去された。各ラットは、耳に印を付けられ、研究の開始前に作成された無作為化リストに従って、様々な処理群に無作為に割り当てられた:
1.対照群 - 完全なSCIを有し、さらなる処理を受けなかったラット
2.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にGRGを移植されたラット
3.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にAGRG(GRG及び抗nogoA)を移植されたラット
【0258】
損傷の全領域は、生物学的コポリマーからなる生物分解性の膜(Lyodura,AESCULAP)で被覆され、外科用接着剤(BioGlue,CryoLife)で取り付けられて、移植物が所望の部位に固定された。最後に、筋肉及び皮膚面が閉じられて、縫合された。
【0259】
手術後のラットのケアは、不快さ及び痛みを最小限にするように行なわれた。手術後の最初の2週間は、ラットの生存にとって最も重要であるとみなされる。従って、手術後の最初の5日間は、痛覚脱失が与えられた。これは、抗生物質及び痛覚脱失薬を含む。それに加えて、ラットは、獣医の助けによって一日2回、排尿及び排便を補助された。ラットは、滅菌おがくず及び滅菌食料を含む、換気されたケージ中で維持された。対麻痺のラットは、ケージ中で単独で維持されたが、毎日1時間、大きな施設の中にグループで集められた。ラットは、6ヶ月まで監視され、各群からの何匹かのラットは、1ヶ月又は3ヶ月間監視された。実験の終了時に、ラット(各群についてn=3)は、全身麻酔下で屠殺された。
【0260】
電気生理学的測定 - 体性感覚によって引き起こされる電位(SSEP)は、手術の直後に及びその後は月に1回、各ラットについて記録された。脊髄の伝導性は、坐骨神経の刺激によって研究され、ラットの頭皮に配置された二つのディスク状の記録電極(活性電極及び参照電極)から記録された。これらの電極は、頭皮に取り付けられた(活性電極は、中央線の体性感覚皮質にわたって取り付けられ、参照電極は、二つの眼の間に取り付けられた)。接地電極は、腿に、刺激の側に配置された。坐骨神経は、双極刺激電極によって刺激された。0.1ミリ秒の持続時間中に256回の刺激パルスが、3秒-1の割合で生成された。刺激強度は、肢のわずかな動きが検出されるまで徐々に増大された。二つの連続的な試験における刺激への反応としての引き起こされた電位の出現は、陽性であるとみなされた。
【0261】
機能試験 - 機能試験は、21点開放場Basso-Beattie-Bresnahan(BBB)スケールに従って各ラットの運動能力活性を試験することによって評価された。スコア0は、後肢に何の自発的な動きもない場合に与えられ、一方、スコア21は、正常な動きを示す。この試験は、手術後、7日目ごとに行なわれた。
【0262】
組織学 - ラットは屠殺され、脊髄セグメントは、全ての試験されたラットから回収された。サンプルは、損傷部位に対して近位及び遠位の両方で採取され、4%のパラホルムアルデヒド溶液中に固定された。各脊髄サンプルから三つの断面が作成された:近位部分、損傷領域、及び遠位部分。組織は、トリムされ、パラフィン中に包埋され、約2~3ミクロンの厚さに切断され、コリンアセチルトランスフェラーゼ(CHAT、運動神経細胞の染色)、又はNeuro Filament(NF、全ての神経繊維の染色)で染色された。サンプルは、蛍光顕微鏡を使用して評価され、神経繊維の数、及び寸法(4μm又はそれ以上)が計数された。
【0263】
結果
神経再生に対するAGRGのインビボでの影響は、GRG及び抗nogoAからなるAGRGを使用して、完全脊髄損傷(SCI)ラットモデルにおいて評価された。結果は、SCIの部位又はこの部位の近くでのAGRGの移植が、このモデルにおける神経再生を促進したことを明らかに示した。具体的には、以下のようであった:
1.
以前は麻痺していた肢における改善された動き - AGRG群のBasso-Beattie-Bresnahan(BBB)スケールのスコアは、SCIの60日後に6に到達した。つまり、ラットは、少なくとも一つ又は二つの関節を広範囲に動かすことができ、さらに第三の関節をわずかに動かすことができた。一方、未処理の対照群では、スコアは、0~1であり、GRGで処理されたラットでは、スコアは3に到達し、わずかな動きのみが検出された(
図2A~C)。
2.
以前は麻痺していた肢における伝導性の促進された回復 - 回復された伝導性(体性感覚によって引き起こされる電位)は、SCIの60日後からAGRG群において顕著であったが、未処理群では伝導性は見出されなかった(
図3)。
3.
グリア瘢痕バリアを通した促進された軸索の貫通 - Neurofilament(NF)染色(これは、全てのニューロン繊維を染色する)は、AGRGを移植された損傷された脊髄の全ての断面(近位部分、損傷領域、及び遠位部分)における神経繊維の存在を示した(
図4)。即ち、AGRGは、グリア瘢痕を通した軸索の出芽を促進することができた。対照的に、未処理の対照ラットからの脊髄のNF染色は、近位部分及び遠位部分のみにおける神経繊維の存在を示し、損傷領域での出芽は検出されなかった。
【0264】
これらの結果を総合すると、GRG及び抗nogoAを含むAGRGは、一方では、軸索の成長及び出芽を促進することによって、他方では、瘢痕バリアを減少させること及びそのさらなる形成を防止することによって、神経再生のための最適な環境を提供した。
【0265】
実施例5
GRG又は抗グリオーシス剤と比較した、神経再生に対するAGRGのインビボでの影響
化学物質 - 上述の実施例1に記載された通りの抗グリオーシス剤。
【0266】
GRG及びAGRG - 上述の実施例2に記載された通り。0.02%と0.6%の間の様々な濃度のGRGが調製された。
【0267】
急性完全脊髄損傷(SCI)モデル - 上述の実施例4に記載される通り。処理群は、以下のものを含む:
1.対照群 - 完全なSCIを有し、さらなる処理を受けなかったラット
2.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にGRGを移植されたラット
3.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にAGRG(GRG及び抗nogoA)を移植されたラット
4.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にAGRG(GRG及びコンドロイチナーゼABC)を移植されたラット
5.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にAGRG(GRG及びコンドロイチナーゼABC及び抗nogoA)を移植されたラット
6.脊髄の切開領域において抗nogoAを移植されたラット
7.脊髄の切開領域においてコンドロイチナーゼABCを移植されたラット
8.脊髄の切開領域において抗nogoA+コンドロイチナーゼABCを移植されたラット
【0268】
電気生理学的測定、機能試験、及び組織学 - 上述の実施例4に記載される通り。
【0269】
実施例6
脊髄損傷後の神経原性ショック及び死亡の防止に対するAGRGのインビトロでの影響
材料及び方法
化学物質 - 上述の実施例1に記載された通りの抗グリオーシス剤。
【0270】
AGRG - 上述の実施例2に記載された通り。0.4%のGRGが調製された。
【0271】
急性完全脊髄損傷(SCI)モデル - 上述の実施例4に記載される通り。処理群は、以下のものを含む:
1.対照群 - 完全なSCIを有し、さらなる処理を受けなかったラット
2.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にAGRG(GRG及び抗nogoA)を移植されたラット
3.二つの切開跡の縁と直接接触して、脊髄の切開領域にAGRG(GRG及びコンドロイチナーゼABC)を移植されたラット
【0272】
統計分析 - カイ二乗試験が、処理群の間の生存率の統計学的有意性を評価するために使用された。
【0273】
結果
SCI後の神経原性ショック及び罹患率に対するAGRGの影響を評価するため、ラットの生存率が評価された(手術後の最初の7週間の間に組織学的評価のために屠殺されたラットは、数に入れられなかった)。
図5に示されるように、AGRGは、脊髄ショックに対して保護効果を有していた。対照のラットの約半分は、最初の72時間以内に(手術的SCIによる)脊髄ショックのために死亡した。一方、いずれかのAGRGで処理されたラットの約80%は、生き残った。これらの結果を総合すると、GRG及び抗nogoA又はコンドロイチナーゼABCを含むAGRGは、SCI処理されたラットにおける死亡率を減少させた。
【0274】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0275】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。
【0276】
【配列表】