(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-17
(45)【発行日】2024-04-25
(54)【発明の名称】蚊取線香
(51)【国際特許分類】
A01M 1/20 20060101AFI20240418BHJP
A01N 25/20 20060101ALI20240418BHJP
A01N 53/06 20060101ALI20240418BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
A01M1/20 V
A01N25/20 101
A01N53/06 110
A01P7/04
(21)【出願番号】P 2024507105
(86)(22)【出願日】2023-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2023041310
【審査請求日】2024-02-06
(31)【優先権主張番号】P 2022201473
(32)【優先日】2022-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100171310
【氏名又は名称】日東 伸二
(72)【発明者】
【氏名】海部 仁充
(72)【発明者】
【氏名】田丸 友裕
(72)【発明者】
【氏名】下方 宏文
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特許第4226093(JP,B2)
【文献】特開2011-84544(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0046914(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/20
A01N 25/20
A01N 53/06
A01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着火剤付きの蚊取線香であって、
殺虫成分及び線香基材を含有する線香本体を備え、
前記殺虫成分は、25℃における蒸気圧が2×10
-5~1×10
-4mmHgであるピレスロイド系化合物を含み、
前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(1):
0.025≦(X/Y)≦500、かつX<11 ・・・(1)
を満たすように設定されている蚊取線香。
【請求項2】
前記ピレスロイド系化合物は、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1に記載の蚊取線香。
【請求項3】
前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]は、0.005≦X≦10を満たす請求項1に記載の蚊取線香。
【請求項4】
前記着火剤の使用量[Y(重量部)]は、0.02≦Y≦0.2を満たす請求項1に記載の蚊取線香。
【請求項5】
前記線香本体の形状が棒状である請求項1~4の何れか一項に記載の蚊取線香。
【請求項6】
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が4~100mm
2である請求項1~4の何れか一項に記載の蚊取線香。
【請求項7】
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が4mm
2以上15mm
2未満である場合、前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(2):
20≦(X/Y)≦150 ・・・(2)
を満たすように設定されており、
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が15mm
2以上40mm
2未満である場合、前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(3):
10≦(X/Y)≦70 ・・・(3)
を満たすように設定されており、
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が40mm
2以上100mm
2以下である場合、前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(4):
5≦(X/Y)≦20 ・・・(4)
を満たすように設定されている請求項6に記載の蚊取線香。
【請求項8】
前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記線香基材の含有量[Z(重量部)]との関係が、以下の式(5):
0.005≦(X/Z)≦0.09 ・・・(5)
を満たすように設定されている請求項1~4の何れか一項に記載の蚊取線香。
【請求項9】
前記線香基材は、支燃剤及び/又は増量剤を50~80重量%含有する請求項1~4の何れか一項に記載の蚊取線香。
【請求項10】
前記線香基材は、粘結剤を15~40重量%含有する請求項1~4の何れか一項に記載の蚊取線香。
【請求項11】
1分間燃焼させた後における、前記着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは前記殺虫成分の臭いが低減される請求項1~4の何れか一項に記載の蚊取線香。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は着火剤付きの蚊取線香に関する。
【背景技術】
【0002】
蚊等の飛翔害虫を防除することを目的として、燻煙により殺虫成分を処理対象の空間に揮散させる蚊取線香が伝統的な害虫防除製品として遍く知られている。蚊取線香は、屋外でも屋内でも使用可能である。一般的な渦巻き型の蚊取線香の場合、蚊取線香の端部にマッチやライター等で着火させることにより燻煙が発生し、当該燻煙が処理対象の空間に拡がることで、処理対象空間に存在する害虫をノックダウン又は致死させ、さらには当該処理対象空間から害虫を排除又は忌避するように作用する。
【0003】
従来、蚊取線香は、着火させるという作業が必要となるため、必ず手元にライターやマッチ等の着火具が必要となり、それらが無い場合は当然使用ができなかった。また、最近ではオール電化といった火を使わない生活環境も増えつつあることから、着火具をあらかじめ準備していない場合も多く、煩わしさを感じられることもある。
【0004】
そこで、着火具を準備せずとも使用可能な蚊取線香が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載される蚊取線香は、蚊取線香の外端に、酸化剤、燃焼剤、調節剤、及び接着剤を含むマッチのような頭薬を備え、蚊取線香の容器に、発火剤、及び接着剤を含む側薬を備えている。
【0005】
特許文献1に記載の蚊取線香においては、蚊取線香の外端を蚊取線香容器に貼った側薬に擦り合わせることにより、ライターやマッチ等の着火具を準備せずに蚊取線香に着火することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載の蚊取線香は、頭薬を側薬にこすって発火させた際に火薬臭がしばらく残り、当該火薬臭と蚊取線香の有効成分(殺虫成分)の燃焼時の臭いとが相まって、使用者が不快に感じることがあった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、簡便に使用できるものでありながら、使用時の不快臭や、殺虫成分の臭いを低減させる蚊取線香を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る蚊取線香の特徴構成は、
着火剤付きの蚊取線香であって、
殺虫成分及び線香基材を含有する線香本体を備え、
前記殺虫成分は、25℃における蒸気圧が2×10-5~1×10-4mmHgであるピレスロイド系化合物を含み、
前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(1):
0.025≦(X/Y)≦500、かつX<11 ・・・(1)
を満たすように設定されていることにある。
【0010】
本構成の蚊取線香によれば、着火剤付きの蚊取線香であるため、蚊取線香自身が着火機能を有し、ライターやマッチ等の着火具が不要で着火できる。また、線香本体に含まれる殺虫成分は、25℃における蒸気圧が2×10-5~1×10-4mmHgであるピレスロイド系化合物を含み、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、上記の式(1)を満たすように設定されているため、殺虫成分が燃焼することによって、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減することができる。
【0011】
本発明に係る蚊取線香において、
前記ピレスロイド系化合物は、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
【0012】
本構成の蚊取線香によれば、ピレスロイド系化合物が、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群から選択される少なくとも一つであることにより、人に対して安全なものでありながら、蚊類の防除効果に優れた製品となる。
【0013】
本発明に係る蚊取線香において、
前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]は、0.005≦X≦10を満たすことが好ましい。
【0014】
本構成の蚊取線香によれば、殺虫成分の含有量[X(重量部)]が、上記の範囲を満たすことにより、過剰な殺虫成分の燃焼に起因する臭気によって、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減する効果が損なわれることなく、十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができる。
【0015】
本発明に係る蚊取線香において、
前記着火剤の使用量[Y(重量部)]は、0.02≦Y≦0.2を満たすことが好ましい。
【0016】
本構成の蚊取線香によれば、着火剤の使用量[Y(重量部)]が、上記の範囲を満たすことにより、過剰な着火剤の燃焼に起因する不快臭が発生することなく、ライターやマッチ等の着火具が不要で、安全かつ確実に蚊取線香に着火することができる。
【0017】
本発明に係る蚊取線香において、
前記線香本体の形状が棒状であることが好ましい。
【0018】
本構成の蚊取線香によれば、線香本体の形状が棒状であることにより、マッチに近い使用感覚で、蚊取線香に容易に着火することができ、使い勝手のよい製品となる。
【0019】
本発明に係る蚊取線香において、
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が4~100mm2であることが好ましい。
【0020】
本構成の蚊取線香によれば、線香本体の燃焼方向から見た断面積が4~100mm2であることにより、線香本体は十分な強度を有し、衝撃に強いため、折れずに安全かつ確実に着火することができる。
【0021】
本発明に係る蚊取線香において、
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が4mm2以上15mm2未満である場合、前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(2):
20≦(X/Y)≦150 ・・・(2)
を満たすように設定されており、
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が15mm2以上40mm2未満である場合、前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(3):
10≦(X/Y)≦70 ・・・(3)
を満たすように設定されており、
前記線香本体の燃焼方向から見た断面積が40mm2以上100mm2以下である場合、前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(4):
5≦(X/Y)≦20 ・・・(4)
を満たすように設定されていることが好ましい。
【0022】
本構成の蚊取線香によれば、線香本体の燃焼方向から見た断面積の大きさに応じて、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、上記の式(2)~(4)を満たすように適切に設定されているため、蚊取線香のサイズに関わらず、常に着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減することができる。
【0023】
本発明に係る蚊取線香において、
前記殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、前記線香基材の含有量[Z(重量部)]との関係が、以下の式(5):
0.005≦(X/Z)≦0.09 ・・・(5)
を満たすように設定されていることが好ましい。
【0024】
本構成の蚊取線香によれば、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、線香基材の含有量[Z(重量部)]との関係が、上記の式(5)を満たすように設定されているため、線香基材が適切に燃焼することで、適量の殺虫成分を気中に揮散させることができ、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減することができる。
【0025】
本発明に係る蚊取線香において、
前記線香基材は、支燃剤及び/又は増量剤を50~80重量%含有することが好ましい。
【0026】
本構成の蚊取線香によれば、線香基材は、支燃剤及び/又は増量剤を50~80重量%含有することにより、線香本体を安定して燃焼させることができる。
【0027】
本発明に係る蚊取線香において、
前記線香基材は、粘結剤を15~40重量%含有することが好ましい。
【0028】
本構成の蚊取線香によれば、線香基材は、粘結剤を15~40重量%含有することにより、線香本体の成形性や強度を確保することができる。
【0029】
本発明に係る蚊取線香において、
1分間燃焼させた後における、前記着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは前記殺虫成分の臭いが低減されることが好ましい。
【0030】
本構成の蚊取線香によれば、1分間燃焼させることで、着火剤が燃え尽きた後でも十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができ、着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは殺虫成分の臭いを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る蚊取線香の全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の蚊取線香に関する実施形態について、
図1を参照しながら説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0033】
図1は、本発明の一実施形態に係る蚊取線香1の全体斜視図である。蚊取線香1は、線香本体2と、着火剤3とを備えている。
【0034】
<線香本体>
線香本体2は、殺虫成分及び線香基材を含有する。線香本体2は、例えば、殺虫成分と線香基材とを混合した原料粉に適量の水を加えて混練し、これを押出機及び打抜機等によって成形後、自然乾燥又は加熱乾燥することにより得られる。殺虫成分は、原料粉に直接配合せず、成形後に殺虫成分等を含む液剤を滴下や浸漬、スプレーあるいは塗布するように配合してもよい。線香本体2の形状は、
図1に示すように、棒状のもの(いわゆる棒線香)が好ましいが、形状やサイズは特に限定されず、棒状であっても、多少の円弧を描く形状であってもよく、その他、渦巻き状、円錐状(コーン状)、三角錐状、扇状、及び板状等、使用目的に応じて形状やサイズを適宜設定すればよい。例えば、市販されているレギュラータイプの蚊取線香、ミニサイズの蚊取線香、及び太巻きタイプの蚊取線香等を、本発明における線香本体2として採用することもできる。線香本体2は、線香本体2の燃焼方向Aから見た断面積Sが4~100mm
2であることが好ましい。これにより、線香本体2は十分な強度を有し、衝撃に強いため、蚊取線香1が折れずに安全かつ確実に着火することができる。なお、線香本体2の形状が三角錐状のように場所によって断面積Sが異なる場合であっても、燃焼方向Aから見た断面積Sは4~100mm
2の範囲にあればよく、形状や用途に応じて好ましい範囲(例えば、4mm
2以上15mm
2未満、15mm
2以上40mm
2未満、40mm
2以上100mm
2以下)を適宜選択することができる。また、本実施形態では、線香本体2の断面の形状は円形となっているが、三角形、四角形、五角形、及び六角形等の多角形であってもよい。さらに、線香本体2の表面に必要に応じて溝や突起を形成したり、線香本体2を中空構造としてもよい。
【0035】
[殺虫成分]
殺虫成分は、25℃における蒸気圧が2×10-5~1×10-4mmHgであるピレスロイド系化合物を含む。蒸気圧は、例えば、Donovan法(Journal of Chromatography A. Volume 749, Issues 1-2, 1996, Pages 123-129「New method for estimating vapor pressure by the use of gas chromatography」に記載された方法)によって測定することができる。25℃における蒸気圧が2×10-5~1×10-4mmHgであるピレスロイド系化合物は、常温揮散性を有するものである。常温揮散性を有するピレスロイド系化合物としては、例えば、メトフルトリン、プロフルトリン、エムペントリン、トランスフルトリン、テラレスリン、フラメトリン、ジメフルトリン、メパフルトリン、及びヘプタフルトリン等が挙げられる。これら常温揮散性ピレスロイド系化合物のうち、害虫防除効力、安定性、化合物の入手性等を考慮すると、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンが好ましく、メトフルトリンがより好ましい。メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンは、蚊取線香1の燃焼後も長時間に亘って気中に残存するため、着火剤の燃焼に起因する不快臭の低減効果及び殺虫効果を長時間持続させることが可能である。また、メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンは、燻煙の一部が壁面等に付着することで、壁面等に止まるという習性を有する蚊類が接触することによっても、持続的な殺虫効果を発揮することができる。ここで、本明細書において、殺虫効果とは、害虫を致死又はノックダウンさせる効果に加えて、害虫を寄せ付けない害虫忌避効果、及び野外から屋内に害虫が入りこむのを防ぐ侵入阻止効果も含むものとする。
【0036】
上掲の各ピレスロイド系化合物は、単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。また、ピレスロイド系化合物において、その化学構造中に不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体又は幾何異性体が存在する場合は、何れの異性体も使用可能である。
【0037】
なお、従来の蚊取線香に広く用いられてきたアレスリン等の難揮散性ピレスロイド系化合物は、本発明で規定する蒸気圧の範囲から外れるため、本発明においては、それ単独では殺虫成分として使用されることはないが、25℃における蒸気圧が2×10-5~1×10-4mmHgであるピレスロイド系化合物(常温揮散性ピレスロイド系化合物)と併用する場合は、これを排除するものではない。
【0038】
[線香基材]
線香基材は、支燃剤・増量剤(支燃剤及び/又は増量剤)、並びに粘結剤を含むことが好ましい。支燃剤は、蚊取線香1を安定燃焼させるために配合される。増量剤は、線香本体2の成形性を高めるために配合される。支燃剤及び増量剤は、何れか一方が配合されてもよいし、両方が配合されてもよい。粘結剤は、原料粉を結合して固めるバインダーとして配合される。
【0039】
線香基材は、支燃剤・増量剤を50~80重量%含有することが好ましい。支燃剤・増量剤を50~80重量%含有することにより、線香本体2を安定して燃焼させることができる。支燃剤・増量剤の含有量が50重量%より小さい場合、火が途中で消える虞がある。支燃剤・増量剤の含有量が80重量%より大きい場合、燃焼性が高くなり、早く燃え尽きる虞がある。
【0040】
支燃剤・増量剤としては、木炭粉、木粉、除虫菊抽出粕粉、柑橘類表皮粉、茶粉末、ココナッツシェル粉末、珪藻土、タルク、クレー、及びカオリン等が挙げられる。これらの支燃剤・増量剤は、単独又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0041】
線香基材は、粘結剤を15~40重量%含有することが好ましい。粘結剤を15~40重量%含有することにより、線香本体2の成形性や強度を確保することができる。粘結剤の含有量が15重量%より小さい場合、強度が低下し、着火剤3が設けられた線香本体2の端部を擦り板で擦って着火する際に折れる虞がある。粘結剤の含有量が40重量%より大きい場合、燃焼性が低下し、十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができない虞がある。
【0042】
粘結剤としては、タブ粉、澱粉(α澱粉、タピオカ粉等)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びパルプ等が挙げられる。これらの粘結剤は、単独又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0043】
<着火剤>
着火剤3は、
図1に示すように、線香本体2の端部に設けられる。着火剤3を線香本体2に設ける方法としては、例えば、着火剤の原料を含むペーストに線香本体2の端部を浸し、端部を引き上げた後、乾燥させて着火剤3を線香本体2に定着させる方法等が挙げられる。
【0044】
着火剤3の原料としては、塩素酸カリウム、硫黄、松脂、膠、硝子粉、雲母、及びクレー粉等が挙げられる。
【0045】
<殺虫成分の含有量と着火剤の使用量との関係>
本発明者らは、火薬臭と蚊取線香の有効成分の燃焼時の臭いとが相まって、使用者が不快に感じるという問題を解決すべく、鋭意検討したところ、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、特定の条件を満たせば、殺虫成分が燃焼することによって、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減することができるという新たな知見を見い出した。また、殺虫成分の臭いそのものについても低減できることが判明した。すなわち、蚊取線香において、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(1):
0.025≦(X/Y)≦500、かつX<11 ・・・(1)
を満たすように設定されていれば、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを殆ど感じなくなった。
【0046】
殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との比であるX/Yが0.025未満である場合、殺虫成分の含有量[X(重量部)]に対して着火剤の使用量[Y(重量部)]が多いため、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減できない虞がある。一方、X/Yが500を超える場合、着火剤の使用量[Y(重量部)]に対して殺虫成分の含有量[X(重量部)]が多いため、殺虫成分の燃焼に起因する臭気の発生が多くなり、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減させる効果が損なわれる可能性がある。また、蚊取線香の製造時に必要な殺虫成分の配合量が大きくなり、経済的に不利となる。
【0047】
さらに、蚊取線香の線香本体の燃焼方向Aから見た断面積Sの大きさ別に検討したところ、断面積Sが4mm2以上15mm2未満である場合、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(2):
20≦(X/Y)≦150 ・・・(2)
を満たすように設定されていることが好ましく、断面積Sが15mm2以上40mm2未満である場合、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(3):
10≦(X/Y)≦70 ・・・(3)
を満たすように設定されていることが好ましく、断面積Sが40mm2以上100mm2以下である場合、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(4):
5≦(X/Y)≦20 ・・・(4)
を満たすように設定されていることが好ましいことが判明した。線香本体の燃焼方向Aから見た断面積Sの大きさに応じて、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、上記の式(2)~(4)を満たすように適切に設定されていれば、蚊取線香のサイズに関わらず、常に着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減することができる。
【0048】
殺虫成分の含有量[X(重量部)]は、通常の蚊取線香としては、X<11に設定されるが、0.005≦X≦10を満たすことが好ましく、0.05≦X≦7を満たすことがより好ましく、0.1≦X≦5を満たすことが特に好ましい。殺虫成分の含有量[X(重量部)]が0.005未満である場合、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減させる効果、及び十分な殺虫効果が得られない可能性がある。殺虫成分の含有量[X(重量部)]が11を超える場合、過剰な殺虫成分の燃焼に起因する臭気によって、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減させる効果が損なわれる可能性がある。さらに、殺虫成分は直接燃焼に寄与する成分ではないため、蚊取線香の立ち消えが発生する可能性がある。
【0049】
着火剤の使用量[Y(重量部)]は、0.02≦Y≦0.2を満たすことが好ましい。着火剤の使用量[Y(重量部)]が、0.02未満である場合、蚊取線香が着火しない可能性がある。着火剤の使用量[Y(重量部)]が0.2を超える場合、過剰な着火剤の燃焼に起因する不快臭が残る可能性がある。また、着火時に火が大きくなり過ぎる可能性がある。
【0050】
蚊取線香において、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、線香基材の含有量[Z(重量部)]との関係が、以下の式(5):
0.005≦(X/Z)≦0.09 ・・・(5)
を満たすように設定されていることが好ましい。殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、線香基材の含有量[Z(重量部)]との関係が、上記の式(5)を満たすように設定されていれば、線香基材が適切に燃焼することで、適量の殺虫成分を気中に揮散させることができ、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減することができる。ただし、上記の式(5)を満たす場合であっても、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との比であるX/Yが18.75以下であると、着火剤の使用量が相対的に多くなるため、着火剤の燃焼に起因する不快臭が残る場合がある。したがって、上記の式(5)において、上記の式(1)に規定するX/Yが18.75以下である場合は除くことが好ましい。
【0051】
[その他の成分]
線香基材には、その他の成分として、防黴剤、防腐剤、安定化剤、及び効力増強剤等を含有させることも可能である。
【0052】
防黴剤又は防腐剤としては、デヒドロ酢酸塩、ソルビン酸塩、及びp-ヒドロキシ安息香酸塩等が挙げられる。
【0053】
安定化剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、及び2,4-ジ-t-ブチルフェニル3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。このような安定化剤を添加することにより、保存時における殺虫成分の経時的な安定性のみならず、燻煙時の安定性も増強させ、さらに揮散後の有効成分の効力持続性の向上にも寄与し得る。安定化剤の添加量としては、殺虫成分に対し、0.01~0.5倍量とすることが好ましい。
【0054】
効力増強剤としては、ピペロニルブトキサイド、及びN-(2-エチルヘキシル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタ-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド等が挙げられる。
【0055】
線香基材には、着色剤を含有させることも可能であり、具体例としては、マラカイトグリーン、及び食品添加物(食用青色1号、食用黄色4号、食用赤色106号など)等が挙げられる。
【0056】
蚊取線香は、通常、線香に相応しい香りが付けられているが、最近では、アロマ効果やリラックス効果を得ることを目的として、揮散性を有する様々な香料成分が加えられることがある。本発明の蚊取線香は、香料成分の添加の有無によらず、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減することが可能であるが、本発明の蚊取線香においても、アロマ効果やリラックス効果を得ることを目的として、合成系や天然系の様々な香料成分を添加することができる。
【0057】
合成系の香料成分としては、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、イソイースーパー、メチルジヒドロジャスモネート、エチレンブラシレート、ゲラニオール、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、トリシクロデセニルアセテート、オレンジャークリスタル、アンブロキサン、トナリド(6-アセチル-1,1,2,4,4,7-ヘキサメチルテトラリン)、γ-ウンデカラクトン、キャシュメラン、カロン、ヘリオトロピン、ジヒドロインデニル-2,4-ジオキサン、α-イソメチルイオノン、インドール、エチルバニリン、メチルセドリルケトン、メチルβ-ナフチルケトン、ローズフェノン、クマリン、バニリン、スチラックスレジノイド、ベンジルベンゾエート、ウンデカナール、ベンジルサリチレート、イオノン、α-イオノン、β-イオノン、リリーアルデヒド、3,5-ジニトロ-2,6-ジメチル-4-t-ブチルアセトフェノン、アセチルセドレン、2-シクロヘキシリデン-2-フェニルアセトアルデヒド、イソロンギホラノン、及びシス-3-ヘキセノール等が挙げられる。
【0058】
天然系の香料成分としては、シトロネラ油、シナモン油、ユ-カリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油、ラベンダー油、オレンジ油、グレープフルーツ油、シダーウッド油、ゼラニウム油、タイムホワイト油、ハッカ油、ローズ油、オークモス油等の植物精油や植物エキス、さらには香木の粉末、漢薬香料粉末の他、白檀、丁字、甘松、カッ香、沈香、桂皮、冷陵香、安息香、乳香等が挙げられる。
【0059】
これらの香料成分は、単独又は二種以上の混合物として使用することができる。香料成分の含有量は、線香基材全体の重量に対して、0.001~10重量%であることが好ましく、0.005~8重量%であることがより好ましく、0.01~5重量%であることがさらに好ましく、0.05~3重量%であることが特に好ましい。
【0060】
<燃焼時間>
本発明の蚊取線香は、短時間で不快臭の低減効果が得られる。例えば、蚊取線香を1分間燃焼させた後、着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは殺虫成分の臭いが低減される。このように、本発明の蚊取線香は、1分間燃焼させることで、着火剤が燃え尽きた後でも、十分な量の殺虫成分を気中に揮散させることができるとともに、着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは殺虫成分の臭いを低減することができる。
【0061】
<防除対象害虫>
本発明の蚊取線香が防除対象とする害虫は特に限定されないが、例えば、アカイエカ、コガタアカイエカ、ネッタイイエカ、チカイエカ等のイエカ類、ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ等のヤブカ類、ユスリカ類、イエバエ類、チョウバエ類、ノミバエ類、ハチ類、アブ類、ブユ類、ヌカカ類、及びイガ類等の飛翔害虫、並びに、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ、クロゴキブリ等のゴキブリ類、ダニ類、アリ類、ナンキンムシ、チャタテムシ、シバンムシ、及びコクゾウムシ等の匍匐害虫が挙げられる。
【実施例】
【0062】
本発明の蚊取線香について、使用時における不快臭あるいは殺虫成分の臭いの低減効果を確認するため、臭気確認試験を実施した。具体的には、本発明の特徴構成を備えた蚊取線香(実施例1~27)と、比較のため本発明の特徴構成を備えていない蚊取線香(比較例1~12)とを作製し、同条件にて蚊取線香を燃焼させ、発生した不快臭の程度を7人のパネラーによって判定した。なお、以下の実施例及び比較例では、線香本体に含まれる殺虫成分、及び線香本体に設けられる着火剤の重量の単位として「g」が示されているが、本発明の蚊取線香は、任意の倍率でスケールアップ又はスケールダウンが可能である。したがって、単位「g」は、「重量部」と読み替えることができる。
【0063】
〔実施例1〕
殺虫成分として、メトフルトリン(1.5g)、支燃剤・増量剤としてヨウ素吸着能が25mg/gである木炭粉(35g)、植物性粉末である除虫菊抽出粕粉(17.8g)、木粉(10.7g)、及び珪藻土(3g)、並びに粘結剤として、α澱粉(14g)、パルプ(15g)、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)(3g)を混合し、これに水(100g)を添加して十分に混練した。混練物を押出機にかけて棒状(長さ:6~8cm、断面積10~12mm2)に成形し、乾燥させた後、棒状線香の先端に常法に従い、着火剤(0.04g)を付与して実施例1の蚊取線香を作製した。着火剤は、塩素酸カリウム(50重量%)、硝子粉(20重量%)、ゼラチン(15重量%)、珪藻土・陶土(10重量%)、及び顔料等の他成分(5重量%)を含むものとした。実施例1の蚊取線香において、線香基材は、支燃剤・増量剤を67.5重量%含有し、粘結剤を32.5重量%含有する。また、実施例1の蚊取線香において、殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)は37.5であった(表1を参照)。
【0064】
〔実施例2~11〕
殺虫成分の種類及び含有量、並びに着火剤の使用量を表1に示すように設定したこと以外は実施例1と同様にして(但し、殺虫成分の量の変化に対しては木炭粉で全量を調整した)、実施例2~11の蚊取線香を作製した。実施例2~11の蚊取線香において、殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)を表1に示す。
【0065】
〔実施例12〕
殺虫成分として、メトフルトリン(1.5g)、支燃剤・増量剤として植物性粉末である除虫菊抽出粕粉(35g)、柑橘類の表皮粉(8.0g)、及び木粉(32g)、粘結剤として、タブ粉(8.0g)、及びα澱粉(15g)、着色剤(0.35g)、並びに防黴剤として、デヒドロ酢酸ナトリウム(0.15g)を混合し、これに水(100g)を添加して十分に混練した。混練物を押出機にかけて棒状(長さ:6~8cm、断面積20~25mm2)に成形し、乾燥させた後、棒状線香の先端に常法に従い、実施例1と同様の着火剤(0.1g)を付与して実施例12の蚊取線香を作製した。実施例12の蚊取線香において、線香基材は、支燃剤・増量剤を76.1重量%含有し、粘結剤を23.4重量%含有する。また、実施例12の蚊取線香において、殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)は15であった(表1を参照)。
【0066】
〔実施例13~20〕
殺虫成分の種類及び含有量、並びに着火剤の使用量を表1に示すように設定したこと以外は実施例12と同様にして(但し、殺虫成分の量の変化に対しては木炭粉で全量を調整した)、実施例13~20の蚊取線香を作製した。実施例13~20の蚊取線香における殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)を表1に示す。
【0067】
〔実施例21〕
殺虫成分として、メトフルトリン(1.5g)、支燃剤・増量剤として植物性粉末である除虫菊抽出粕粉(35g)、柑橘類の表皮粉(8.0g)、及び木粉(32g)、粘結剤として、タブ粉(8.0g)、及びα澱粉(15g)、着色剤(0.33g)、安定化剤としてBHT(0.02g)、並びに防黴剤として、デヒドロ酢酸ナトリウム(0.15g)を混合し、これに水(100g)を添加して十分に混練した。混練物を押出機にかけて棒状(長さ:6~8cm、断面積50~60mm2)に成形し、乾燥させた後、棒状線香の先端に常法に従い、実施例1と同様の着火剤(0.2g)を付与して実施例21の蚊取線香を作製した。実施例21の蚊取線香において、線香基材は、支燃剤・増量剤を76.1重量%含有し、粘結剤を23.4重量%含有する。また、実施例21の蚊取線香において、殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)は7.5であった。
【0068】
〔実施例22~27〕
殺虫成分の含有量、及び着火剤の使用量を表1に示すように設定したこと以外は実施例21と同様にして(但し、殺虫成分の量の変化に対しては木炭粉で全量を調整した)、実施例22~27の蚊取線香を作製した。実施例22~27の蚊取線香における殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)を表1に示す。
【0069】
〔比較例1~3〕
殺虫成分の含有量、及び着火剤の使用量を表1に示すように設定したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1~3の蚊取線香を作製した。比較例1~3の蚊取線香における殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)を表1に示す。
【0070】
〔比較例4~10〕
殺虫成分の種類及び含有量、並びに着火剤の使用量を表1に示すように設定したこと以外は実施例12と同様にして、比較例4~10の蚊取線香を作製した。比較例4~10の蚊取線香における殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)を表1に示す。
【0071】
〔比較例11~12〕
殺虫成分の含有量、及び着火剤の使用量を表1に示すように設定したこと以外は実施例21と同様にして、比較例11~12の蚊取線香を作製した。比較例11~12の蚊取線香における殺虫成分の含有量(X)と、着火剤の使用量(Y)との比(X/Y)を表1に示す。
【0072】
<試験方法>
実施例1~27、及び比較例1~12の蚊取線香それぞれを、閉め切った小部屋(幅1.8m、奥行き1.3m、高さ2.0m、容積4.7m3)の床面中央に設置し、着火剤が設けられた線香本体の端部を擦り板で擦って着火させた。擦り板は、赤燐(50重量%)、合成樹脂(35重量%)、硫化アンチモン(10重量%)、及び硝子粉(5重量%)を含むものとした。蚊取線香を床面に置いた線香皿にて1分間燃焼させた後、燃焼中の端部を折って消火した。また、コントロールとして、殺虫成分を含まないこと以外は同じ処方の着火剤付きの線香を準備し、同形、同容積の隣室にて、実施例及び比較例の蚊取線香と同時に着火し、同様に1分間燃焼させた後、燃焼中の端部を折って消火した。そして、着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは殺虫成分の臭いの程度の違いについて、実施例及び比較例とコントロールとを比較し、7人のパネラーが「悪臭緩和」を評価した。「悪臭緩和」の評価は、下記の基準に基づく3段階評価とし、7人の平均点を求めた。
(評価基準)
1点:着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは殺虫成分の臭いを顕著に感じる。
3点:着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは殺虫成分の臭いをわずかに感じる。
5点:着火剤の燃焼に起因する不快臭あるいは殺虫成分の臭いを感じない。
【0073】
臭気確認試験を実施する際に、実施例1~27、及び比較例1~12の蚊取線香それぞれについて、「着火」を評価した。着火剤が設けられた線香本体の端部を擦り板で擦り、着火したものは「+」、着火しなかったものは「-」とした。
【0074】
実施例1~27、及び比較例1~12の蚊取線香それぞれについて、以下の基準により総合評価を行った。
++:着火「+」かつ悪臭緩和4.0点以上
+ :着火「+」かつ悪臭緩和2.0点以上4.0点未満
- :着火「-」または悪臭緩和2.0点未満
臭気確認試験の結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
<試験結果>
殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤の使用量[Y(重量部)]との関係が、前述の式(1)を満たす実施例1~27の蚊取線香は、何れも問題なく着火し、蚊取線香自身が着火機能を有していた。また、実施例1~27の蚊取線香は、評点が何れも2.0点以上であり、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減することができた。その中でも、実施例1、2、8~10、12、17~21、及び26の蚊取線香は、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減する効果が特に優れていた。また、実施例1、2、8~10、12、17~21、及び26の蚊取線香は、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、線香基材の含有量[Z(重量部)]との関係が、前述の式(5)を満たすものであり、着火剤の燃焼に起因する不快臭や、殺虫成分の臭いそのものの低減効果は、殺虫成分及び線香基材の含有量にも関係していることが示唆された。
【0077】
これに対し、前述の式(1)を満たさない比較例1、2、4、5、11、及び12の蚊取線香は、臭気確認試験の評点が何れも2.0点未満であり、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減することができなかった。これらのうち、殺虫成分の含有量が11g以上である比較例2、5、及び12の蚊取線香は、殺虫成分の燃焼に起因する臭気によって、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減させる効果が損なわれ、殺虫成分の臭いそのものを低減することができなかったと考えられる。また、殺虫成分として難揮散性ピレスロイド系化合物(すなわち、25℃における蒸気圧が2×10-5~1×10-4mmHgから外れるピレスロイド系化合物)を使用した比較例7~10の蚊取線香についても、臭気確認試験の評点が何れも2.0点未満であり、着火剤の燃焼に起因する不快臭を低減することができなかった。着火剤の使用量が0.02g未満である比較例3、及び6の蚊取線香は、そもそも蚊取線香自身が着火機能を有さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の蚊取線香は、家庭用又は業務用の蚊取線香として害虫を防除する用途に利用可能であるが、使用時の不快臭や、殺虫成分の臭いそのものを低減できるものであるため、特に臭いを気にされる場所、例えば、居間、寝室、食堂、オフィス、教室、病院の待合室等において、好適に利用可能である。
【0079】
1 蚊取線香
2 線香本体
3 着火剤
A 燃焼方向
S 断面積
【要約】
簡便に使用できるものでありながら、使用時の不快臭や、殺虫成分の臭いを低減させる蚊取線香を提供する。
着火剤3付きの蚊取線香1であって、殺虫成分及び線香基材を含有する線香本体2を備え、殺虫成分は、25℃における蒸気圧が2×10-5~1×10-4mmHgであるピレスロイド系化合物を含み、殺虫成分の含有量[X(重量部)]と、着火剤3の使用量[Y(重量部)]との関係が、以下の式(1):
0.025≦(X/Y)≦500、かつX<11 ・・・(1)
を満たすように設定されている。