(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】真空断熱体及びそれを用いた断熱容器と断熱壁
(51)【国際特許分類】
F16L 59/065 20060101AFI20240419BHJP
F25D 23/06 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
F16L59/065
F25D23/06 V
(21)【出願番号】P 2020092029
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2022-05-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】平野 俊明
(72)【発明者】
【氏名】河原崎 秀司
(72)【発明者】
【氏名】北野 智章
(72)【発明者】
【氏名】宮地 法幸
(72)【発明者】
【氏名】秦 裕一
【審査官】沖田 孝裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/208193(WO,A1)
【文献】特開2009-052649(JP,A)
【文献】特開2009-168202(JP,A)
【文献】国際公開第2012/098896(WO,A1)
【文献】特開2013-031843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 59/065
F25D 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外包材と、
前記外包材に内包される芯材と、
気体吸着デバイスを備えた真空断熱体において、
前記気体吸着デバイスは、
各種気体を吸着する気体吸着物質を内包する真空密閉容器と、
外部からの物理的な荷重により前記真空密閉容器を開封する開封ピンと、
耐荷重スペーサーと、から構成され、前記耐荷重スペーサーは、前記真空断熱体の真空排気中、真空封止前に、前記開封ピンによって前記真空密閉容器を開封しないように設け、
前記開封ピンは、前記真空密閉容器を開封するピン部と、前記ピン部を外方に付勢するバネ部と、前記ピン部と前記バネ部を連結する連結部を備え、前記耐荷重スペーサーで前記連結部を支えるようにしたことを特徴とする真空断熱体。
【請求項2】
外包材と、
前記外包材に内包される芯材と、
気体吸着デバイスを備えた真空断熱体において、
前記気体吸着デバイスは、
各種気体を吸着する気体吸着物質を内包する真空密閉容器と、
外部からの物理的な荷重により前記真空密閉容器を開封する開封ピンと、
耐荷重スペーサーと、から構成され、前記耐荷重スペーサーは、前記真空断熱体の真空排気中、真空封止前に、前記開封ピンによって前記真空密閉容器を開封しないように設け、前記耐荷重スペーサーの材料を、前記芯材の材料と同一にしたことを特徴とする真空断熱体。
【請求項3】
前記耐荷重スペーサーを、前記ピン部と前記真空密閉容器との間に存在させないことを特徴とする請求項
1に記載の真空断熱体。
【請求項4】
前記耐荷重スペーサーの圧縮強度を、10%歪み時で200kPa以上としたことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の真空断熱体。
【請求項5】
前記耐荷重スペーサーは、長期にわたってガスの放出が少ない材料からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の真空断熱体。
【請求項6】
前記耐荷重スペーサーの材料に、連続気泡ウレタンを用いたことを特徴とする請求項1~
5のいずれか1項に記載の真空断熱体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の真空断熱体を用いた断熱容器。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の真空断熱体を用いた断熱壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、真空断熱体及びそれを用いた断熱容器と断熱壁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、断熱箱体内を排気して真空化して真空断熱材とする断熱箱体を開示する。
特許文献2は、長期に亘っての断熱性能を確保するために、ガス透過度の低い樹脂材料から成る外包材内に、さらに侵入した水分や空気を吸着する水分吸着剤や気体吸着剤をあらかじめ設置した真空断熱材を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-119771号公報
【文献】特開2012-102758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、真空断熱材の断熱性能を長期に亘って信頼性高く保つ気体吸着材を失活させることなく、その吸着能力を最大限に発揮させることで、高い断熱性能を長期的に維持することが可能な真空断熱体、断熱容器及び断熱壁を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示における真空断熱体は、外包材と、外包材に内包される芯材と、気体吸着デバイスを備えた真空断熱体において、気体吸着デバイスは、各種気体を吸着する気体吸着物質を内包する真空密閉容器と、外部からの物理的な荷重により前記真空密閉容器を開封する開封ピンと、耐荷重スペーサーと、から構成され、耐荷重スペーサーは、真空断熱体の真空排気中、真空封止前に、開封ピンによって真空密閉容器を開封しないように設けられ、構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本開示における真空断熱体、断熱容器及び断熱壁は、断熱性能を長期に亘って信頼性高く保つ気体吸着物質を失活させることなく、その吸着能力を最大限に発揮させて、高い断熱性能を長期的に維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1における真空断熱体を備えた冷蔵庫の断面図
【
図2】実施の形態1における真空断熱体を適用した冷蔵庫扉の斜視図
【
図4C】実施の形態1における真空断熱体に内包される気体吸着デバイスの真空密閉容器の断面図と上面図
【
図4D】実施の形態1における真空断熱体に内包される気体吸着デバイスの断面図と上面図
【
図4E】実施の形態1における真空断熱体に内包される気体吸着デバイスの開封ピンの構成を示す図
【
図5】実施の形態1における真空断熱体を備えた冷蔵庫扉の製造方法を示すフローチャート
【
図6】実施の形態2における断熱容器の斜視図およびその部品展開斜視図
【
図8】実施の形態2における断熱容器の製造方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示の基礎となった知見等)
近年、地球温暖化防止の観点から、省エネルギー性の向上が強く望まれており、家庭用電化製品においても、緊急の課題となっている。特に、冷蔵庫、冷凍庫および自動販売機等の保温保冷機器では、熱を効率的に利用するという観点から、優れた断熱性能を有する断熱材が求められている。
【0009】
一般的な断熱材として、グラスウール等の繊維材、および、ウレタンフォーム等の発泡体から選択されるものが用いられている。これらの断熱材の断熱性能を向上させるためには、断熱材の厚さを増す必要があるが、断熱材を充填すべき空間に制限があるような場合、例えば省スペース化または空間の有効利用が必要な場合には、適用することができない。
【0010】
そこで、高性能な断熱材として、真空断熱材が提案されている。これは、スペーサーの役割を持つ芯材を、ガスバリア性を有する外包材中に挿入し、内部を減圧して封止した断熱体である。
【0011】
この真空断熱材は、ウレタンフォームと比べると、約20倍の断熱性能を有しており、厚さを薄くしても十分な断熱性能が得られるという優れた特性を有している。
【0012】
したがって、この真空断熱材は、断熱箱体の内容積を大きくしたい顧客要望を満たしつつ、断熱性能の向上による省エネルギー性の向上を図るための有効な手段として注目されている。
【0013】
例えば、冷蔵庫では、冷蔵庫本体を構成する断熱箱体において、ウレタンフォームを、内外箱間の断熱用空間に発泡充填している。そして、その断熱用空間に真空断熱材を追加設置して、その断熱性を高め、断熱箱体の内容積を大きくしている。
【0014】
冷蔵庫等に使用する場合、一般的に、その断熱箱体の断熱用空間は、複雑な形状を呈している。また、真空断熱材は、複雑な形状に追従するような加工、特に厚み方向の加工を行うことが一般的に困難であり平板形状として供される。このため、真空断熱材が被覆できる面積、言い換えると、断熱箱体の伝熱総面積に対して真空断熱材の面積が占める割合の向上には限界がある。
【0015】
そこで、例えば断熱箱体のブロー成形用のエアー送入口から、断熱箱体の断熱用空間に連続気泡ウレタンを充填し、発泡させた後、エアー送入口に接続された真空排気装置によって断熱箱体内を排気して真空化し、断熱箱体自体を真空断熱材とする技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0016】
また、本出願人も、特許文献1と同様に、冷蔵庫本体となる断熱箱体の断熱用空間に、連続気泡ウレタンを充填発泡させた後に真空引きし、断熱箱体自体を真空断熱材としたものを提案している。
【0017】
このように複雑な形状をした断熱用空間には、内箱、外箱それぞれに樹脂をブロー成形や真空成形によって所望の断熱用空間に合わせて成形された外包材と、断熱用空間そのものを形作る連続気泡ウレタンなどの樹脂を発泡成形した芯材を用い、芯材を外包材で覆い、内部を真空封止することにより、複雑な形状に合わせた真空断熱体を得ることができる。
【0018】
このようにして得られた複雑な断熱用空間は従来の平面形状の真空断熱材とその隙間を埋めるための発泡ウレタンを合わせたよりも、総合的な断熱性能が高いため、断熱材の厚みを薄くして内容積を大きくできる効果、外観を小さくできる効果及び軽量化などの効果を生むことが可能となる。
【0019】
以上述べたように、芯材として連続気泡ウレタン、外包材として樹脂成形材料を用いて真空封止して構成された真空断熱体は、その外観形状が、断熱箱体のように複雑なものであっても、その全域を真空断熱することができる。よって、例えば、冷蔵庫に用いることにより、断熱箱体自体の厚みを薄くして、内容積(貯蔵空間)を更に大きくすることができる。
【0020】
また、形状の複雑さはないものの、断熱性を強く期待される用途、例えば、液化した天然ガス(LNG)等の超低温物質を貯蔵するLNG貯蔵タンク、または、LNG輸送タンカーのタンク等の断熱容器用パネルに適用することにより、断熱容器の壁厚を薄くしつつ、断熱容器内への熱の侵入を有効に抑制することが可能となる。よって、LNGタンクであれば、ボイルオフガス(BOG)の発生を有効に軽減させることができ、LNGの自然気化率(ボイルオフレート、BOR)を低下させることが可能となる。
【0021】
このような真空断熱体は、長期に亘っての断熱性能を確保するために、前記外包材としてガス透過度の低い樹脂材料を用いたり、さらに侵入した水分や空気を吸着する水分吸着剤や気体吸着剤を真空断熱体の中にあらかじめ設置したりしている(例えば、特許文献2参照)。
【0022】
この中で気体吸着剤は、真空排気前の大気圧の状態で晒すと、吸着速度が非常に高いことから、すぐに失活してしまい、真空排気後にはそれ以上ほとんど吸着できない状態になるため、気体吸着剤は従来からあらかじめ真空密閉容器に封入してあり、真空排気後に周囲に残留ガスがほとんどない状態にした後に、外部から何らかの方法で前記容器を開封することで、本来の吸着能力を発揮することになる。
【0023】
つまり、開封したいときにすでに開封されていたり、また開封したいときに開封できないことがあってはならない。前者の場合は、開封したいときにはすでに気体吸着剤が失活していることが考えられ、後者の場合は、気体吸着材の性能が全く発揮できないことになる。いずれの場合も初期性能はともかく、長期に亘って真空度が維持できなくなり、断熱性能が維持できないという課題があった。
【0024】
発明者らは、以上のような課題があることを認識し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0025】
そこで、本開示は、気体吸着剤の吸着能力を最大限発揮し、長期に亘って高い断熱性能を維持できる真空断熱体、断熱容器及び断熱壁を提供する。
【0026】
以下図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明を省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0027】
なお、添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0028】
(実施の形態1)
以下、
図1~5を用いて実施の形態1を説明する。
【0029】
[1-1.構成]
[1-1-1.冷蔵庫扉への適用例]
以下に本実施の形態における真空断熱体60を冷蔵庫扉25に適用した例を説明する。
【0030】
図1において、冷蔵庫扉25を備えた冷蔵庫1は、外箱2と内箱3に発泡断熱材(図示せず)を充填し断熱箱体7を形成する。断熱箱体7の内部は、仕切体8により仕切られた冷凍室9と冷蔵室10を備えている。
【0031】
断熱箱体7の上部の機械室22には、圧縮機11が、下部機械室23には蒸発皿13が、冷凍室9の背面に形成した冷却室24には、蒸発器12がそれぞれ配されている。
【0032】
冷凍室9と冷却室24は、冷却室壁体21で仕切られている。断熱箱体7の前面開口部7aにはそれぞれ冷蔵庫扉25を備えている。
【0033】
図3A、
図3Bに示すように、冷蔵庫扉25は、酸素等のガスバリア層31が内部に形成された外板27と、外板27の表面に配され、ガラス板や金属板からなる庫外外観部品14と、酸素等のガスバリア層31が内部に形成された内板26と、内板26の表面に配され、ABS樹脂等からなる庫内外観部品15、さらには外板27と内板26との間の断熱用空間に充填された連続気泡ウレタンフォーム5(真空断熱体の芯材)とを有する。ここで、外板27と内板26が外包材55に相当する。
【0034】
なお、この外包材55とは、連続気泡ウレタンフォーム5(真空断熱体の芯材)の外面を包みこむものである。
【0035】
具体的には、本実施の形態における真空断熱体60は、スペーサーの役割を持つ芯材(連続気泡ウレタンフォーム5)と、ガスバリア性を有する外包材55とからなるものであって、芯材を外包材55中に挿入し、内板26の一部に設けた排気口16を通して内部を減圧して封止材17を用いて封止したものである。外板27と内板26のそれぞれの外周は、熱溶着層32で接着し封止されている。
【0036】
また、
図3A、3Bに示すように、本実施の形態に係る真空断熱体60に対して、庫外外観部品14と庫内外観部品15とを接着剤等で貼り合わせることによって、冷蔵庫扉25が完成する。
【0037】
なお、
図4A、
図4Bは、冷蔵庫扉25の庫外外観部品14と庫内外観部品15を貼り合わせる前の状態、すなわち本実施の形態における真空断熱体60を示している。
【0038】
[1-1-2.製造方法]
次に、実施の形態1に係る真空断熱体60を備えた冷蔵庫扉25の製造方法について説明する。
【0039】
図5において、外板27及び内板26は、酸素ガスバリア性や水蒸気ガスバリア性の高い樹脂シートで構成され、主に、空気と水蒸気の透過を抑制する必要がある。
【0040】
よって例えば、酸素透過度の低い材料であるエチレン・ビニルアルコール共重合体樹脂(EVOH)を、成形性を上げるために、水蒸気透過度の低い材料であるポリプロピレンやポリエチレンで挟んだ多層シートを押出し成形機等で作成し(ステップ1)、真空成形、圧空成形、またはブロー成形などで断熱が必要な箇所に形状が沿う形に成形する(ステップ2)。
【0041】
なお、EVOHの代わりにポリビニルアルコール(PVA)を用いても同様の効果が得られる。また、内板26には排気口16が設けられ、溶着機構(図示せず)が接続されると共に、少なくとも酸素ガスバリア性の高い金属箔を有する封止材17によって封止される。
【0042】
外板27は、完全な平面の場合は、アルミやステンレスなど金属層を含む樹脂ラミネートフィルムを用いる場合が多い。その理由としては、フィルムを用いることで厚みが0.1mm以下であり、後述の熱溶着をする際に、均一加熱が容易であり、信頼性の高い真空断熱体60を得ることが可能だからである。但し、意匠性等の観点から平面でない場合は、厚み0.2mm以上の内板26と同様の樹脂シートを用いる。
【0043】
連続気泡ウレタンフォーム5は、外板27と内板26の間の断熱用空間の形状の金属金型(図示せず)にウレタン液を注入、発泡、離型して成形する(ステップ3、4)。
【0044】
図5を用いて、引き続き冷蔵庫扉25の製造方法について説明する。
【0045】
次に、種々のガスを吸着するガス吸着剤と気体吸着デバイス56(後述)を、連続気泡ウレタンフォーム5と共に箱状の内板26内に設置する。
【0046】
そして、連続気泡ウレタンフォーム5の成形品を、内板26に収め、外板27をかぶせ(ステップ5)、内板26と外板27が接触する外周部に熱と圧力を加えて、内板26と外板27を熱溶着する(ステップ6)。
【0047】
このとき、
図3Aや
図4Aに示すように、外板27及び内板26の接着層(熱溶着層32)がポリプロピレン層である場合は、ポリプロピレン樹脂同士で熱溶着する。
【0048】
ガス吸着剤としては、空気を選択的に吸着する気体吸着剤19、あるいは、水分を吸着する水分吸着剤18が知られている。このガス吸着剤により、真空排気で排気しきれずに残存するガスや、長期間の間にガスバリア性の高い内板26、外板27を透過して侵入する微量なガスを吸着することで、長期間真空度を維持することが可能となる。
【0049】
図4C、
図4D、
図4Eに示すように、に示すように、気体吸着デバイス56は、各種気体を吸着するゼオライトなどから成る気体吸着物質33を内包する真空密閉容器34と、外部からの物理的な荷重により真空密閉容器34を開封する開封ピン35と、開封ピン35の変位を所定量以下に抑える耐荷重スペーサー39から構成されている。
【0050】
また、開封ピン35は、真空密閉容器34を開封するピン部38と、ピン部38を外方に付勢するバネ部36と、ピン部38を支持すると共にピン部38とバネ部36を連結する連結部としてのピン支持部37から構成されている。
【0051】
次に、熱溶着された内板26、外板27の外形を所定の形状にカットする(ステップ7)。
【0052】
熱溶着された内板26、外板27で構成された真空断熱体60に対して排気口16を通して真空排気装置(図示せず)により、所定時間排気を行い(ステップ8)、封止材17を用いて超音波溶着などで溶着封止し(ステップ9)、真空断熱体60を得ることができる。
【0053】
排気時間を短縮し、生産性を向上させるためには連続気泡ウレタンフォーム5(芯材)の通気孔(図示せず)が排気口16につながっていることが望ましい。また封止材17は排気口16から近いほうから、図示しない接着層、金属箔、耐熱保護層で構成されている。
【0054】
接着層は金属箔の内側で融点が180℃以下の接着層であり、耐熱保護層は金属箔の外側で融点が200℃以上の耐熱層である。
【0055】
なお、排気口16は、略円形とし、排気口16の穴径は1mm以上としている。
【0056】
封止後に20~40℃程度で数時間から数日エージングする(ステップ10)ことにより、真空断熱体60中の残留水分が水分吸着剤18によって吸着される。その後に
図4C、
図4D、
図4Eに示すように、気体吸着物質33が封入された真空密閉容器34と開封ピン35からなる気体吸着デバイス56を外板27越しに物理的に荷重をかけて押すこと(ステップ11)により、開封ピン35が真空密閉容器34を開封し、気体吸着物質33が真空断熱体60の密閉空間に晒されることになり、水分を除く残留ガス及びその後の長期に亘って外板27や内板26を通して外部から侵入するガスを吸着することが可能となる。その後、得られた真空断熱体60に庫内外観部品15および庫外外観部品14をそれぞれ接着し(ステップ12、13)、冷蔵庫扉25が完成する。
【0057】
[1-2.動作]
以上のように構成された本実施の形態における真空断熱体60の気体吸着デバイス56は、開封ピン35のピン部38を支持するピン支持部37と気体吸着物質33を内包する真空密閉容器34との間に耐荷重スペーサー39を設けておくことで、ステップ8に示す真空断熱体60の真空排気工程以降において、外板27が大気圧からの圧縮応力によって、気体吸着デバイス56の開封ピン35が押されて、真空密閉容器34を開封してしまうのを防ぐことができる。
【0058】
この耐荷重スペーサー39は、ピン部38が気体吸着物質33が封入された真空密閉容器34にある距離以下に接近することを防ぐ目的で設けられているので、真空密閉容器34とピン部38の間にある必要はなく、真空密閉容器34とピン支持部37との間にあれば良い。また耐荷重スペーサー39に用いられる材料は、同じく大気圧からの圧縮応力に耐える目的で選定されている前記連続気泡ウレタンフォーム5と同じ材料であっても良い。
【0059】
また、ステップ11に示す真空密閉容器34の開封工程においては、開封ピン35の直上部を大気圧縮よりも強い荷重、例えば500KPa程度の荷重をゆっくりかけることで、耐荷重スペーサー39も圧縮されていき、やがてピン部38が気体吸着物質33が封入された真空密閉容器34を開封することができる。
【0060】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、真空断熱体60は、外包材55と、連続気泡ウレタンフォーム5(芯材)と、気体吸着デバイス56を備える。外包材55は、樹脂シート(図示せず)からなる。連続気泡ウレタンフォーム5は、外包材55に内包される。
【0061】
気体吸着デバイス56は、真空密閉容器34と、開封ピン35と、耐荷重スペーサー39から構成されている。真空密閉容器34は、各種気体を吸着する気体吸着物質33を内包する。開封ピン35は、外部からの物理的な荷重により真空密閉容器34を開封する。耐荷重スペーサー39は、開封ピン35の変位を所定量以下に抑える。
【0062】
以上のように、気体吸着デバイス56を構成する真空密閉容器34が、大気圧からの圧縮応力により開封ピン35がある距離以下には接近しないように耐荷重スペーサー39を設けることで、真空排気中、真空封止前に、真空密閉容器34が開封して、気体吸着物質33が大量の残留ガスを吸着してその後の吸着能力を損なわずに性能を維持することが可能な真空断熱体60を提供することができる。
【0063】
また、真空封止後に水分吸着剤18が残留水分を全て吸着した後に、気体吸着デバイス56の真空密閉容器34を開封ピン35によって確実に開封することで、得られた冷蔵庫扉25の真空度並びに断熱性能を長期に亘り維持することができるので、信頼性の高い冷蔵庫扉25を提供することができる。
【0064】
また、開封ピン35は、真空密閉容器34を開封するピン部38と、バネ部36と、ピン部38とバネ部36を連結するピン支持部37(連結部)を備え、耐荷重スペーサー39でピン支持部37を支えるようにしたことにより、真空断熱体60の真空排気工程以降において、外板27が大気圧からの圧縮応力によって、気体吸着デバイス56の開封ピン35が押されて、真空密閉容器34を開封してしまうのを防ぐことができる。さらに、外包材55の表面から押さえつけることで、気体吸着デバイス56の真空密閉容器34を開封ピン35にて開封する際に、ピン支持部37が、外包材55の表面から押さえつけられた力を受け止め、ピン部38により確実に真空密閉容器34を開封することができる。
【0065】
また、この耐荷重スペーサー39はピン部38が気体吸着デバイス56の真空密閉容器34に対して、ある距離以下に接近することを防ぐ目的であるので、真空密閉容器34とピン部38の間にはある必要はなく、真空密閉容器34とピン支持部37との間にあれば良い。こうすることで、開封したいときにはピン部38が耐荷重スペーサー39に邪魔されることがなく、真空密閉容器34を開封することができ、冷蔵庫扉25の真空度並びに断熱性能を長期に亘り維持することができるので、信頼性の高い真空断熱体60を提供することができる。
【0066】
また、耐荷重スペーサー39は大気圧縮に耐えることが必要であり、10%歪みで200kPa以上の圧縮強度を有することが望ましい。
【0067】
また、耐荷重スペーサー39自身も長期に亘って真空空間に晒されるので、ガス放出が少ない材料であることが望ましい。例えば真空断熱体60の芯材として用いている連続気泡ウレタンフォーム5を用いれば、芯材と同様に真空排気で排気され、残留ガスは気体吸着物質33に吸着されるので望ましい。
【0068】
また、本実施の形態における真空断熱体60を、冷蔵機器(図示せず)、冷凍機(図示せず)などの内壁、外壁に使用される断熱壁(図示せず)に用いることで、安価で、長期間にわたって断熱性能を維持できる断熱壁を提供すると共に、機器の省エネ性を高めることができる。
【0069】
(実施の形態2)
以下
図6~10を用いて実施の形態2を説明する。
【0070】
[2-1.構成]
図6、7A、7Bにおいて、本実施の形態における断熱容器40は、酸素等のガスバリア層31bが内部に形成された外箱27bと、酸素等のガスバリア層31bが内部に形成された内箱26bと、外箱27bと内箱26bとの間の断熱用空間に充填された連続気泡ウレタンフォーム5b(芯材)から構成されている。ここで、外箱27bと内箱26bが外包材55に相当する。
【0071】
前記実施の形態1で述べた構成と同様に、排気口16bを通して内部を減圧して封止材17bを用いて封止したものである。外箱27bと内箱26bは、外周を熱溶着層32bで接着し封止されている。
【0072】
外箱27bに連続気泡ウレタンフォーム5bを入れる際に、空気を選択的に吸着する空気吸着剤42bと、水分を吸着する水分吸着剤41bと、上記実施の形態で述べた気体吸着デバイス56を入れており、前記実施の形態1で述べた効果が得られる様、同様の構成にしている。
【0073】
[2-2.製造方法]
図8は、本実施の形態2における断熱容器40の製造方法を示すフローチャートである。基本的な製造フローは実施の形態1のステップ1~9までと同様である。
【0074】
断熱容器40の場合は、外箱27b及び内箱26bいずれも平面形状ではないため、いずれも厚み0.2mm以上の樹脂シートが用いられる。
【0075】
図7A、
図7Bにおいて、気体吸着デバイス56開封工程では、実施の形態1よりも厚いシート越しに開封ピン35を押す必要があり、より大きな荷重、例えば1MPa以上の荷重をゆっくりかけることで、耐荷重スペーサー39も圧縮されていき、やがてピン部38が気体吸着デバイス56の真空密閉容器34を開封することができる。
【0076】
[2-3.動作、効果等]
実施の形態1における内板26を内箱26bとして、外板27を外箱27bとしてそれぞれ箱状に形成することで、安価で、長期間にわたって高い断熱性能を維持できる断熱容器40を提供することができる。
【0077】
尚、上記実施の形態1及び2における真空断熱体は、真空断熱材の断熱性能を長期に亘って信頼性高く保つ目的で気体吸着デバイス56を用いている。
【0078】
これは所定の時間、真空排気を行い、その後真空封止された真空断熱材に対して、窒素、酸素に代表される残留ガス及び封止後に所定の侵入量で外部から入ってきた窒素、酸素に代表されるガスを所定の吸着速度で吸着し、ある決まった平衡圧力に保つ目的で設置されている。
【0079】
気体吸着剤19の吸着能力を下げる主な要因として、真空排気する前、あるいは真空排気中にすでに気体吸着剤19が、気体吸着剤19の周囲のガスを吸着してしまい、本来吸着すべき量に達しない場合が発生する。
【0080】
また、残留ガスや外部からの侵入ガスの含まれる水分は、本来安価な水分吸着剤18が同一空間内に設置されていて、水分吸着剤18が水分を全て吸着し、残りの窒素、酸素ガス等を気体吸着剤19が吸着すべきであるが、気体吸着剤19が水分を吸着してしまい、その分本来吸着すべきガスを吸着できない場合が発生する。
【0081】
本発明は前記の二つのいずれの課題をも解決するために、まず真空断熱材が真空排気後に真空封止されるまでは、気体吸着物質33であるゼオライトが真空密閉容器34内に密閉されており、その後所定の時間や温度条件により、残留水分を水分吸着剤18に完全に吸着させた後に、気体吸着物質33の真空密閉容器34に一体化されている開封ピン35などによって外部から物理的に加えた力によって、真空密閉容器34を開封し、周囲の水分以外のガスを吸着することが可能となる。
【0082】
このようにして、圧力が長期に亘って一定に保たれることで真空断熱材の断熱性能を長期に亘って信頼性高く保つことが可能となるものである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本開示は、安価で断熱性能の高い高品質な真空断熱体を提供することができ、冷蔵庫や電気給湯器等の民生用機器から自動販売機用、自動車用、住宅用の断熱体及びこれを用いた断熱容器、断熱壁として幅広く適用することができる。
また、貯蔵室内の食品を収容するケースなどの断熱容器として適用することもできる。
【符号の説明】
【0084】
1 冷蔵庫
2、27b 外箱
3、26b 内箱
5、5b 連続気泡ウレタンフォーム(芯材)
7 断熱箱体
7a 前面開口部
8 仕切体
9 冷凍室
10 冷蔵室
11 圧縮機
12 蒸発器
13 蒸発皿
14 庫外外観部品
15 庫内外観部品
16、16b 排気口
17、17b 封止材
18、41b 水分吸着剤
19 気体吸着剤
21 冷却室壁体
22 機械室
23 下部機械室
24 冷却室
25 冷蔵庫扉
26 内板
27 外板
31、31b ガスバリア層
32、32b 熱溶着層
33 気体吸着物質
34 真空密閉容器
35 開封ピン
36 バネ部
37 ピン支持部(連結部)
38 ピン部
39 耐荷重スペーサー
40 断熱容器
42b 空気吸着剤
55 外包材
56 気体吸着デバイス
60 真空断熱体