(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】落雷監視システム、及び落雷監視方法
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20240419BHJP
G01H 9/00 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
G01W1/10 E
G01H9/00 E
(21)【出願番号】P 2024504508
(86)(22)【出願日】2023-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2023039300
【審査請求日】2024-01-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平原 尚也
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-147279(JP,A)
【文献】国際公開第2022/201342(WO,A1)
【文献】特開2009-264943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W1/10
G01H9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光解析ユニットと情報処理装置を含んで構成され、
送電線に沿って付設される光ファイバに沿って設定された測定点における前記光ファイバの周波数毎の振動強度の時間変化をDAS(Distributed Acoustic Sensing)により取得し、
通信可能に接続する落雷位置標定システム(LLS:Lightning Location System)から、落雷の発生位置と前記落雷の発生時刻を示す情報を取得し、
前記発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における前記周波数毎の振動強度の時間変化に前記落雷に起因する振動強度の時間変化の態様を含む前記測定点を有する径間を落雷検出径間として抽出し、
抽出した前記落雷検出径間のうち、前記発生位置から所定距離内に存在する径間を近傍径間として特定し、特定した前記近傍径間を示す情報を生成する、
落雷監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の落雷監視システムであって、
隣接する複数の径間の夫々の前記測定点について、前記発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間に同じ周波数において予め設定された閾値以上の大きさの振動が観測されていることを前記態様として、前記落雷検出径間を抽出する、
落雷監視システム。
【請求項3】
請求項1に記載の落雷監視システムであって、
前記近傍径間の前記測定点の前記発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における前記周波数毎の振動強度の時間変化に、前記近傍径間への直撃雷に起因する振動強度の時間変化の態様が含まれている場合に、前記近傍径間に直撃雷があったことを示す情報を生成する、
落雷監視システム。
【請求項4】
請求項3に記載の落雷監視システムであって、
落雷の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間に複数の周波数帯に亘り予め設定された閾値以上の大きさの複数の振動が観測されていることを前記態様として、前記近傍径間における直撃雷の有無を判定する、
落雷監視システム。
【請求項5】
請求項3に記載の落雷監視システムであって、
前記近傍径間の前記測定点の前記発生時刻よりも後の前記周波数毎の振動強度から把握される前記光ファイバの固有振動数と、予め記憶している通常時における前記近傍径間の前記周波数毎の振動強度から把握される前記光ファイバの固有振動数とを対照することにより、前記近傍径間の送電設備に異常が生じているか否かを判定し、判定した結果を示す情報を生成する、
落雷監視システム。
【請求項6】
請求項1に記載の落雷監視システムであって、
前記近傍径間を示す情報をユーザインタフェースを介して出力する、
落雷監視システム。
【請求項7】
請求項3に記載の落雷監視システムであって、
前記近傍径間に直撃雷があったことを示す情報をユーザインタフェースを介して出力する、
落雷監視システム。
【請求項8】
請求項5に記載の落雷監視システムであって、
前記近傍径間の前記送電設備に異常が生じていると判定した場合に、その旨を示す情報をユーザインタフェースを介して出力する、
落雷監視システム。
【請求項9】
請求項3に記載の落雷監視システムであって、
径間毎の直撃雷があった場合に行うべき対応を示す情報を記憶し、
直撃雷があったと判定した前記近傍径間について行うべき対応を示す情報をユーザインタフェースを介して出力する、
落雷監視システム。
【請求項10】
光解析ユニットと情報処理装置を含んで構成される落雷監視システムにおいて、
前記情報処理装置が、
送電線に沿って付設される光ファイバに沿って設定された測定点における前記光ファイバの周波数毎の振動強度の時間変化をDAS(Distributed Acoustic Sensing)により取得するステップ、
通信可能に接続する落雷位置標定システム(LLS:Lightning Location System)から、落雷の発生位置と前記落雷の発生時刻を示す情報を取得するステップ、
前記発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における前記周波数毎の振動強度の時間変化に前記落雷に起因する振動強度の時間変化の態様を含む前記測定点を有する径間を落雷検出径間として抽出するステップ、及び、
抽出した前記落雷検出径間のうち、前記発生位置から所定距離内に存在する径間を近傍径間として特定し、特定した前記近傍径間を示す情報を生成するステップ
を実行する、落雷監視方法。
【請求項11】
請求項10に記載の落雷監視方法であって、
前記情報処理装置が、前記近傍径間の前記測定点の前記発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における前記周波数毎の振動強度の時間変化に、前記近傍径間への直撃雷に起因する振動強度の時間変化の態様が含まれている場合、前記近傍径間に直撃雷があったことを示す情報を生成するステップ
を更に実行する、落雷監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、落雷監視システム、及び落雷監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、OPGW(OPtical fiber composite overhead Ground Wire)(光ファイバ複合架空地線)を有する架空送電線に発生した事故の位置を標定する事故検出位置標定システムについて記載されている。事故検出位置標定システムは、架空送電線を支持する鉄塔に設けられた事故検出器が事故を検出すると衝撃/振動印加装置でOPGWに機械的衝撃や振動を印加し、上記光ファイバの伝搬光の状態変化を検出する。事故検出位置標定システムは、落雷電流によりOPGWに複合された光ファイバの伝搬光の偏波状態の時間変化を検出することにより落雷位置の標定を行う。
【0003】
特許文献2には、OPGWの光ファイバにパルス光を入射させてから後方レイリー散乱光が戻ってくるまでの時間や後方レイリー散乱光の位相差と強度に基づき、光ファイバの伸縮による振動を算出する光ファイバ振動測定システム(DAS: Distributed Acoustic Sensing)を用いてOPGWの固有振動数を含む周波数領域についての振動情報を生成し、生成した振動情報に基づき送電設備の異常を検出する異常検出装置について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-177055号公報
【文献】特開2023-50257号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】"光ファイバセンサによるCFRP複合材料の落雷衝撃計測の可能性調査",明松圭昭、景山和郎、村山英晶,学校法人 金沢工業大学 材料システム研究所、[online],インターネット<URL: https://www.jstage.jst.go.jp/article/zairyosystem/34/0/34_51/_article/-char/ja/>,令和5年10月20日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
送電線や送電鉄塔、変電設備などの送変電設備に対する直撃雷の発生は事故や故障に直結する。そのため、送電設備の保守においては、送電設備に対する落雷の状況をリアルタイムに監視し、直撃雷があった際はその影響を迅速に把握し必要な場合は早急に復旧対応を実施する必要がある。
【0007】
特許文献1に記載の事故検出位置標定システムは、落雷電流によるOPGWの光ファイバの伝搬光の偏波状態の時間変化を検出することにより落雷位置の標定を行う。しかし、同システムは実施に際して各鉄塔に事故検出装置や衝撃/振動印加装置を設置する必要があり多大なコストを要する。
【0008】
特許文献2には、光ファイバ振動測定システム(DAS)を用いて生成した振動情報に基づき送電設備の異常を検出することが記載されている。しかし、同文献には、送電設備に対する直撃雷の有無や、直撃雷の影響を検出する仕組みについては記載されていない。
【0009】
尚、落雷の発生日時や発生位置(緯度、経度)、雷電流の大きさや電荷量等の情報をリアルタイムに取得する仕組みとして、LLS(Lightning Location System:落雷位置標定システム)がある。しかし、LLSによる落雷位置の標定精度は数百メートル程度であり、落雷の発生位置の特定を必ずしも精度よく行うことができない。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、送電設備に対する落雷の影響に関する情報を迅速かつ適切に提供することが可能な、落雷監視システム、及び落雷監視方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段の一つは、落雷監視システムであって、光解析ユニットと情報処理装置を含んで構成され、送電線に沿って付設される光ファイバに沿って設定された測定点における前記光ファイバの周波数毎の振動強度の時間変化をDAS(Distributed Acoustic Sensing)により取得し、通信可能に接続する落雷位置標定システム(LLS:Lightning Location System)から、落雷の発生位置と前記落雷の発生時刻を示す情報を取得し、前記発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における前記周波数毎の振動強度の時間変化に前記落雷に起因する振動強度の時間変化の態様を含む前記測定点を有する径間を落雷検出径間として抽出し、抽出した前記落雷検出径間のうち、前記発生位置から所定距離内に存在する径間を近傍径間として特定し、特定した前記近傍径間を示す情報を生成する。
【0012】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、送電設備に対する落雷の影響に関する情報を迅速かつ適切に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】落雷監視システムの概略的な構成を示す図である。
【
図2】DASにより振動状態を測定する仕組みを説明する図である。
【
図3A】落雷発生地点と送電設備との位置関係の一例を示す図である。
【
図3B】光ファイバの周波数毎の振動強度の時間変化の一例である。
【
図4B】落雷監視装置が備える主な機能を示す図である。
【
図5】落雷監視処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその一実施形態に即して添付図面を参照しつつ説明する。本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。以下の説明において、符号の前に付した「S」の文字は処理ステップの意味である。
【0016】
図1に本発明の一実施形態として説明する落雷監視システム1の概略的な構成を示している。落雷監視システム1は、変電所6等に設けられる落雷監視装置100と、落雷位置標定システム(Lightning Location System)(以下、「LLS300」と称する。)と、を含む。
【0017】
落雷監視装置100は、情報処理装置(コンピュータ)を用いて構成される。落雷監視装置100は、図示しない通信ネットワークを介してLLS300と通信可能に接続している。通信ネットワークは、例えば、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット(internet)、PLC(Power Line Communication)、公衆通信網、専用線等である。
【0018】
落雷監視装置100は、送電線3に架設されているOPGW4(OPtical fiber composite overhead Ground Wire)(光ファイバ複合架空地線)の光ファイバ4aを振動検知センサとして用い、光ファイバ4aに沿って設定された複数の測定位置(以下、「測定点」と称する。)の夫々における光ファイバ4aの伸縮に基づく振動状態(振動強度、振動周波数)を測定する技術(分布型多点振動測定法(以下、「DAS」(Distributed Acoustic Sensing)と称する。)により、各測定点の振動状態を取得する。DASでは、例えば、C-OTDR(Coherent detection Optical Time Domain Reflectometer)の原理により各測定点の振動状態を取得する。
【0019】
図2は、落雷監視装置100がDASにより各測定点の振動状態を測定する仕組みを説明する図である。同図に示すように、落雷監視装置100は、光ファイバ4aの端面から光パルス(レーザーパルス。以下、「入射光」とも称する。)を入射し、各測定点における、光パルスの後方散乱光の位相差の変化速度(≒伸縮周波数)を測定する。尚、上記の位相差は、後方散乱光どうしの干渉による強度変化から推定する。そして、落雷監視装置100は、測定した上記変化速度に基づき、各測定点における光ファイバ4aの縦波と横波の振動周波数(例えば、最大10kHzの範囲の振動周波数)を求める。また、落雷監視装置100は、振動周波数毎の位相差に基づき、各測定点における振動強度(スペクトル強度、振動振幅)を求める。尚、落雷監視装置100は、入射光を上記端面に入射した時点から戻り光を受光した時点までの経過時間に基づき、各測定点の位置(上記端面からの距離)を求める。
【0020】
上記の測定点は、例えば、光ファイバに沿って送電鉄塔2の径間よりも短い所定間隔d(m)毎に設定される(0(m)、d(m)、・・・・、N(m)、N+d(m)、N+2d(m))。例えば、
図1に示すように、所定間隔dを5(m)とし、送電線3の最長70(km)の範囲に測定点を設定した場合、光ファイバに沿って14000程度の測定点が設定される。落雷監視装置100は、各測定点の振動状態に基づき、各測定点において落雷により生じた衝撃や振動に関する情報を取得する。
【0021】
図1に戻り、LLS300は、送電設備(送電鉄塔2、送電線3、変電所6等)が存在する地域において生じた落雷に関する情報(以下、「落雷情報」と称する。)を取得し、取得した落雷情報を落雷監視装置100に迅速(リアルタイム)に提供(送信)する。LLS300は、落雷により発生する電磁界を捉え、例えば、到来時間差法により落雷情報を取得する。落雷情報は、落雷の発生日時や発生位置(緯度、経度)を示す情報を含む。LLS300の落雷位置の標定精度(標定誤差)は、数百メートル程度である。
【0022】
図3Aは、送電設備の周辺のある地域に落雷が発生した場合における、落雷発生地点と送電設備の位置関係の一例を示す。同図には、送電鉄塔2の識別子(以下、「鉄塔ID」と称する。)が「19」~「23」の送電鉄塔2の付近の地点aに落雷が発生したこと示している。落雷が発生すると、落雷発生地点の周辺に存在する送電鉄塔2の径間のOPGW4に落雷(雷鳴)に起因する振動(音)が発生する。
【0023】
図3Bは、
図3Aに示した、径間の識別子(以下、「径間ID」と称する。)が、「20_21」、「21_22」、「22_23」、及び「23_24」の各径間の所定の測定点について測定された光ファイバ4aの周波数毎の振動強度の時間変化の一例である。各グラフにおいて、時間は紙面の上から下に流れる。また、同図における色の濃淡は、周波数毎の振動強度(任意単位(Arbitrary Unit))を表す(色が薄い程、振動強度が大きい)。
【0024】
尚、落雷に伴う振動(音)は、落雷の発生時点よりも少し前から生じ、落雷の発生後も暫く継続する。そのため、同図に示す各グラフには、地点aに落雷が発生した時刻の前後少なくともいずれかの所定期間(多くは数分程度)に亘り落雷に起因する振動が観測されている。
【0025】
同図に示すように、地点aから近い位置に存在する、径間IDが「21_22」、「22_23」の隣接する各径間のグラフの、落雷の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における同じ周波数(8.25Hz程度を中心とする周波数)には、強い振動強度(予め設定された閾値以上の大きさの振動強度)が観測されている。ここで雷鳴が所定の大きさ以上の音圧を有する場合、1つの径間だけでなく複数の径間に亘って同一周波数帯の振動が観測されることが知見されている。従って、これらの振動は同一の落雷によるものであると判断できる。
【0026】
一方、径間に直撃雷があった場合、落雷の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間に複数の周波数帯に亘って複数の強い振動(予め設定された閾値以上の大きさの振動強度)が観測されることが知見されているが、これらのグラフにはそのような振動は観測されていない。そのため、これらの径間には直撃雷は発生していないと判断できる。
【0027】
また、径間IDが「23_24」の径間のグラフには、広い周波数範囲(5~7.5Hz)に亘って強い振動が観測されている。しかし、同グラフには、径間IDが「21_22」、「22_23」のグラフにおいて強い振動が観測されている8~9Hzの周波数帯にはそのような振動は観測されていない。そのため、径間IDが「23_24」の径間のグラフにおいて観測されている強い振動は、地点aに発生した上記落雷とは異なる落雷によるものであると判断できる。
【0028】
落雷監視装置100は、以上のような観点から、各径間の測定点において取得した光ファイバ4aの振動状態の周波数毎の時間変化に基づき、径間の周辺に発生した落雷に関する情報や、径間(径間の送電設備)に生じた直撃雷に関する情報を提供する。
【0029】
図4Aは、落雷監視装置100の主な構成を示す図である。同図に示すように、落雷監視装置100は、プロセッサ101、主記憶装置102(メモリ)、補助記憶装置103(外部記憶装置)、入力装置104、出力装置105、通信装置106、及び光解析ユニット107を備える。これらはバス(bus)や通信ケーブル等を介して通信可能に接続されている。尚、落雷監視装置100は、その全部又は一部が、例えば、クラウドシステムによって提供される仮想サーバのように、仮想的な情報処理資源を用いて実現されるものであってもよい。
【0030】
プロセッサ101は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、AI(Artificial Intelligence)チップ等を用いて構成されている。
【0031】
主記憶装置102は、プロセッサ101がプログラムを実行する際に利用する記憶装置であり、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリ(NVRAM(Non Volatile RAM))等である。
【0032】
補助記憶装置103は、プログラムやデータを記憶する装置であり、例えば、SSD(Solid State Drive)、ハードディスクドライブ、光学式記憶装置(CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)等)等で構成することができる。補助記憶装置103には、記録媒体の読取装置や通信装置106を介して、非一時的な記録媒体や非一時的な記憶装置を備えた他の情報処理装置からプログラムやデータを読み込むことができる。補助記憶装置103に格納(記憶)されているプログラムやデータは主記憶装置102に随時読み込まれる。
【0033】
入力装置104は、外部からの情報の入力を受け付けるインタフェースであり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、音声入力装置等である。
【0034】
出力装置105は、処理経過や処理結果等の各種情報を外部に出力するインタフェースである。出力装置105は、例えば、上記の各種情報を可視化する表示装置(液晶モニタ、LCD(Liquid Crystal Display)等)、上記の各種情報を音声化する装置(音声出力装置(スピーカ等))、上記の各種情報を文字化する装置(印字装置等)である。尚、例えば、情報処理装置10が通信装置106を介して他の装置との間で情報の入力や出力を行う構成としてもよい。
【0035】
入力装置104と出力装置105は、ユーザとの間での対話処理(情報の受け付け、情報の提供等)を実現するユーザインタフェースを構成する。
【0036】
通信装置106は、通信ネットワーク(LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、インターネット、公衆通信網、専用線等)を介して他の装置との間の通信を実現する装置である。通信装置106は、通信媒体を介して他の装置との間の通信を実現する、有線方式又は無線方式の通信インタフェースであり、例えば、NIC(Network Interface Card)、無線通信モジュール、USBモジュール(USB:Universal Serial Bus)等である。
【0037】
光解析ユニット107は、DASにより測定点の振動状態を測定する装置であり、C-OTDRによる振動測定機器や信号処理回路を含む。光解析ユニット107は、光ファイバ4aの端面に入力する光パルス(レーザー光)を生成するCW(連続波)レーザー光源、光パルス発生器、光増幅器、光学機器(光検波器、光干渉器)、信号処理回路(位相計算回路等)等を含む。尚、光解析ユニット107と光ファイバ4aとの接続は、例えば、変電所内に設けられているOPGWの芯線の接続口(ソケット)に光解析ユニット107のレーザー光源の出射部を光学的に接続することにより行われる。そのため、接続に際して停電等の電力系統への影響を生じさせることはない。
【0038】
落雷監視装置100には、例えば、オペレーティングシステム、ファイルシステム、DBMS(DataBase Management System)(リレーショナルデータベース、NoSQL等)、KVS(Key-Value Store)等が導入されていてもよい。
【0039】
落雷監視装置100が備える各種の機能は、プロセッサ101が、主記憶装置102に格納されているプログラムを読み出して実行することにより、もしくは、落雷監視装置100を構成するハードウェア(FPGA、ASIC、AIチップ等)自体によって実現される。落雷監視装置100は、各種の情報(データ)を、例えば、データベースのテーブルやファイルシステムが管理するファイルとして記憶する。
【0040】
図4Bは、落雷監視装置100の主な機能を説明するブロック図である。同図に示すように、落雷監視装置100は、記憶部110、振動状態測定部120、落雷情報取得部125、落雷検出径間抽出部130、近傍径間特定部132、直撃雷有無判定部135、設備異常有無判定部140、対応情報生成部145、及び落雷情報提示部150の各機能を備える。
【0041】
上記機能のうち、記憶部110は、測定点毎振動状態111、落雷情報112、落雷検出径間113、近傍径間114、直撃雷有無判定結果115、設備異常有無判定結果116、対応情報117、及び送電設備情報118を記憶する。
【0042】
振動状態測定部120は、DASにより各径間の各測定点の振動状態(振動強度、振動周波数)の時間変化(時系列データ)を測定し、測定した結果を測定点毎振動状態111として管理する。測定点毎振動状態111は、例えば、
図3Bの各グラフに示されている情報を含む。
【0043】
落雷情報取得部125は、LLS300から落雷情報を受信し、受信した落雷情報を落雷情報112として管理する。落雷情報112は、少なくとも落雷発生位置(緯度、経度)と落雷発生日時を示す情報を含む。落雷情報112は、例えば、
図3Aに表示されている情報を含む。
【0044】
落雷検出径間抽出部130は、測定点毎振動状態111に基づき、落雷に起因する振動状態を含む径間(以下、「落雷検出径間」と称する。)を抽出し、抽出した径間の径間IDを落雷検出径間113として管理する。例えば、落雷検出径間抽出部130は、落雷の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における周波数毎の振動強度の時間変化に、落雷に起因する振動強度の時間変化の態様(パターン)を含む測定点を有する径間を落雷検出径間として抽出する。上記の落雷に起因する振動強度の時間変化の態様は、例えば、隣接する複数の径間の夫々の前記測定点について、落雷の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間(落雷による音波が送電設備に到達するまでの時間を考慮した所定期間)に同じ周波数(同じ周波数範囲)において予め設定された閾値以上の大きさの振動が観測されていることである。
【0045】
近傍径間特定部132は、落雷検出径間のうち、落雷情報112が示す落雷発生位置の近傍に存在する径間(以下、「近傍径間」と称する。)が存在するか否かを判定し、存在する場合は当該径間の径間IDを近傍径間114として管理する。近傍径間特定部132は、例えば、送電設備情報118から、各径間が存在する位置を示す情報を取得し、落雷発生位置から所定の距離(例えば、1.5km等)内に存在する径間を近傍径間として特定する。尚、送電設備情報118は、鉄塔IDや径間IDに対応づけられた送電設備の情報(送電鉄塔2の位置、送電鉄塔2やその周辺に設けられている送電設備に関する情報等)を含む。
【0046】
直撃雷有無判定部135は、近傍径間の振動状態に基づき、近傍径間の送電設備に直撃雷があったか否かを判定し、直撃雷があった場合はその旨を示す情報を直撃雷有無判定結果115として管理する。例えば、直撃雷有無判定部135は、近傍径間の測定点の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における周波数毎の振動強度の時間変化に、近傍径間への直撃雷に起因する振動強度の時間変化の態様が含まれている場合に、近傍径間に直撃雷があったと判定する。上記の近傍径間への直撃雷に起因する振動強度の時間変化の態様は、例えば、落雷の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間に複数の周波数帯に亘り予め設定された閾値以上の大きさの複数の振動が観測されていることである。
【0047】
設備異常有無判定部140は、直撃雷有無判定部135が近傍径間の送電設備に直撃雷があったと判定した場合に、当該送電設備に異常(素線切れ、部分変形等)が生じているか否かを判定し、判定した結果を設備異常有無判定結果116に管理する。設備異常有無判定部140は、例えば、近傍径間の測定点の落雷の発生時刻よりも後の周波数毎の振動強度から把握される光ファイバ4aの固有振動数と、予め記憶しておいた通常時(直撃雷の発生前)における近傍径間の周波数毎の振動強度から把握される光ファイバ4aの固有振動数とを対照することにより、近傍径間の送電設備に異常が生じているか否かを判定する。例えば、設備異常有無判定部140は、通常時の固有振動数とは異なる固有振動数が所定数以上観測されている場合に、近傍径間の送電設備に異常が生じていると判定する。
【0048】
対応情報生成部145は、直撃雷があった近傍径間を示す情報(近傍径間の径間ID)や、当該近傍径間(当該近傍径間の送電設備)に対して送電設備の管理者(保守員等)がとるべき対応を示す情報(以下、「対応情報」と称する。)を生成し、生成した対応情報を対応情報117として管理する。対応情報生成部145は、対応情報の生成に必要な情報を送電設備情報118から取得する。対応情報生成部145は、例えば、径間IDに対応づけて対応情報を送電設備情報118に管理しており、直撃雷があった近傍径間の径間IDを送電設備情報118と対照することにより対応情報を生成する。
【0049】
落雷情報提示部150は、対応情報117の内容を管理者に提示(表示装置に表示する等)する。落雷情報提示部150は、例えば、対応情報117の内容を記載した画面(例えば、後述する落雷情報提示画面600)を生成して管理者に提示する。
【0050】
図5は、落雷監視装置100が行う処理(以下、「落雷監視処理S500」と称する。)を説明するフローチャートである。以下、同図とともに落雷監視処理S500について説明する。
【0051】
尚、以下の説明の前提として、LLS300は、落雷が発生すると直ちに落雷情報を生成し、生成した落雷情報を落雷監視装置100に送信する(落雷監視装置100からLLS300にアクセスし、落雷監視装置100がLLS300から落雷情報を読み出す(取得する、受信する)方式でもよい)ものとする。また、落雷監視装置100の振動状態測定部120は、DASによりリアルタイムに各径間の各測定点の振動状態(振動強度、振動周波数)の時間変化を測定し、各測定点の最新の振動状態を測定点毎振動状態111として管理しているものとする。
【0052】
同図に示すように、落雷情報取得部125は、LLS300からの落雷情報の受信をリアルタイムに待機している(S511:No)。落雷情報取得部125は、LLS300から落雷情報を受信すると(S511:Yes)、受信した落雷情報を落雷情報112として管理する。
【0053】
S512では、落雷検出径間抽出部130が、測定点毎振動状態111に基づき落雷検出径間を抽出し、抽出した径間を示す情報を落雷検出径間113として管理する。
【0054】
S513では、近傍径間特定部132が、S511で受信した落雷情報112が示す落雷の発生位置に対する近傍径間が存在するか否かを判定する。近傍径間が存在すると判定した場合(S513:Yes)、近傍径間特定部132は、近傍径間を示す情報を近傍径間114として管理し、その後、処理はS514に進む。一方、近傍径間特定部132が近傍径間が存在しないと判定した場合(S513:No)、処理はS511に戻る。
【0055】
S514では、直撃雷有無判定部135が、S513で特定した近傍径間の振動状態(特定した近傍径間について測定点毎振動状態111から取得される振動状態)に基づき、近傍径間(の送電設備)に直撃雷があったか否かを判定する。直撃雷有無判定部135が近傍径間に直撃雷があったと判定した場合(S514:Yes)、処理はS515に進む。一方、直撃雷有無判定部135が近傍径間に直撃雷はなかったと判定した場合(S514:No)、処理はS511に戻る。
【0056】
S515では、設備異常有無判定部140が、S513で特定した近傍径間の送電設備に異常が生じているか否かを判定する。設備異常有無判定部140が、S513で特定した近傍径間の送電設備に異常が生じていると判定した場合(S515:Yes)、判定した結果を示す情報を設備異常有無判定結果116管理し、その後、処理はS516に進む。一方、設備異常有無判定部140が、S513で特定した近傍径間の送電設備に異常が生じていないと判定した場合(S515:No)、処理はS517に進む。
【0057】
S516では、対応情報生成部145が、異常が生じていると判定した近傍径間について対応情報を生成し、生成した対応情報を対応情報117として管理する。
【0058】
S517では、落雷情報提示部150が、落雷情報112の内容や、S514で直撃雷があると判定した近傍径間に関する情報(径間ID等)、対応情報117の内容等を管理者に提示する。
【0059】
図6は、落雷情報提示部150が、管理者に提示する画面(以下、「落雷情報提示画面600」と称する。)の一例である。
【0060】
同図に示すように、例示する落雷情報提示画面600は、落雷情報の表示欄611、直撃雷情報の表示欄612、及び、対応情報の表示欄613を有する。
【0061】
このうち、落雷情報の表示欄611には、
図5のS511で落雷情報取得部125がLLS300から取得(受信)した落雷情報の内容が、例えば、
図3Aに示す態様で表示される。
【0062】
直撃雷情報の表示欄612には、
図5のS514で直撃雷有無判定部135が直撃雷があったと判定した近傍径間を示す情報(径間ID)が表示される。直撃雷情報の表示欄612の内容を参照することで、管理者は落雷による影響の可能性がある近傍径間を容易に把握することができる。
【0063】
対応情報の表示欄613には、対応情報が表示される。対応情報の表示欄613の内容を参照することで、管理者は直撃雷があった近傍径間について行うべき対応を迅速に確認することができ、効率よく必要な対応をとることができる。
【0064】
以上に説明したように、本実施形態の落雷監視システム1によれば、LLS300から取得される落雷情報と、DASを用いて取得される情報とに基づき、直撃雷による送電設備への影響や、直撃雷があったと判断される近傍径間の送電設備に対してとるべき対応を示す情報を迅速に管理者に提供することができる。そして、管理者は、落雷監視システム1により提供される情報により、落雷による送電設備への影響を迅速かつ適切に把握することができ、送電設備の巡視や点検作業、保守作業を効率よく行うことができる。
【0065】
また、本実施形態の落雷監視システム1は、送電鉄塔2等に特別な装置を設けることなく、光ファイバ振動測定システム(DAS)の仕組みを利用して容易に実施することができる。
【0066】
尚、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0067】
例えば、径間毎に雷鳴に起因する振動を観測した時刻の差から落雷位置を推定し、落雷位置の推定精度の向上を図るようにしてもよい。
【0068】
また例えば、落雷情報提示部150が、管理者から径間(径間ID)の指定を受け付け、受け付けた径間に対応する、測定点毎振動状態111の内容を管理者に提示(例えば、
図3Bに示す態様で提示)するようにしてもよい。
【0069】
また例えば、落雷検出径間抽出部130による落雷検出径間の抽出や、直撃雷有無判定部135による、近傍径間の送電設備に直撃雷があったか否かの判定を、例えば、
図3Bに示すグラフ(画像)について画像認識処理を行うことにより抽出される特徴量を説明変数として入力すると、落雷検出径間や、近傍径間に直撃雷があったか否かの判定結果を出力するように学習した機械学習モデルを用いて行うようにしてもよい。
【0070】
また例えば、落雷監視装置100が、DASにより取得した振動状態から落雷撃力に関する情報を取得し、取得した上記情報や、上記情報の信頼性(LLS300から取得される電荷量や電流値との整合性)に関する情報を提示(例えば、落雷情報提示画面600に表示)するようにしてもよい(落雷撃力の取得については、例えば、非特許文献1「"光ファイバセンサによるCFRP複合材料の落雷衝撃計測の可能性調査",明松圭昭,景山和郎,村山英晶,学校法人 金沢工業大学 材料システム研究所を参照)。
【符号の説明】
【0071】
1 落雷監視システム
2 送電鉄塔
3 送電線
4 OPGW
4a 光ファイバ
100 落雷監視装置
107 光解析ユニット
110 記憶部
111 測定点毎振動状態
112 落雷情報
113 落雷検出径間
114 近傍径間
115 直撃雷有無判定結果
116 設備異常有無判定結果
117 対応情報
118 送電設備情報
120 振動状態測定部
125 落雷情報取得部
130 落雷検出径間抽出部
132 近傍径間特定部
135 直撃雷有無判定部
140 設備異常有無判定部
145 対応情報生成部
150 落雷情報提示部
S500 落雷監視処理
600 落雷情報提示画面
【要約】
落雷監視システムは、送電線に沿って付設される光ファイバに沿って設定された測定点における光ファイバの周波数毎の振動強度の時間変化をDAS(Distributed Acoustic Sensing)により取得し、LLS(落雷位置標定システム)から、落雷の発生位置と発生時刻を取得し、発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における周波数毎の振動強度の時間変化に、落雷に起因する振動強度の時間変化の態様を含む測定点を有する径間を落雷検出径間として抽出し、落雷検出径間のうち、発生位置から所定距離内に存在する径間を近傍径間として特定し、近傍径間の測定点の発生時刻の前後少なくともいずれかの所定期間における周波数毎の振動強度の時間変化に、近傍径間への直撃雷に起因する振動強度の時間変化の態様が含まれている場合に、近傍径間に直撃雷があったことを示す情報を生成する。