(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】病原体検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20240419BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20240419BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240419BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
G01N35/00 E
G01N33/569 L
G01N33/53 D
G01N21/64 F
(21)【出願番号】P 2021503468
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003633
(87)【国際公開番号】W WO2020179303
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019041038
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】原 恒平
(72)【発明者】
【氏名】西尾 和晃
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-206670(JP,A)
【文献】特開2008-070321(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118259(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0323819(US,A1)
【文献】特開2015-178993(JP,A)
【文献】LAU, Lincoln L. H.,Viral Shedding and Clinical Illness in Naturally Acquired Influenza Virus Infections,JID,2010年05月15日,201,1509-1516
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00
G01N 1/02
G01N 33/48~33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の体温を計測し、前記体温を示す情報を出力する取得部と、
前記対象者が保有する病原体または前記対象者の周囲の空気中の病原体を捕集する捕集部と、
前記捕集部で捕集された前記病原体を検出する検出部と、
前記検出部での検出結果を通知する通知部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、前記取得部が出力した前記体温が所定の閾値を超え、且つ前記検出部での検出結果が陰性であった場合に、前記病原体を再検出するよう前記検出部を制御
し、
前記制御部は、前記病原体を再検出するよう前記検出部を制御する際に、再検出にかける時間を前回の検出にかける時間と同じになるように制御する、または、
前記制御部は、前記病原体を再検出するよう前記検出部を制御する前に、前記病原体を再捕集するよう、かつ再捕集にかける時間を前回の捕集にかける時間と同じになるよう前記捕集部を制御し、前記捕集部で再捕集された前記病原体を再検出するよう前記検出部を制御する
病原体検出装置。
【請求項2】
前記病原体検出装置は、さらに、前記病原体を再検出するよう前記制御部が前記検出部を制御するか否かを、所定の指示に応じて決定する決定部を備える
請求項
1に記載の病原体検出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記取得部が出力した前記体温が所定の閾値を超え、且つ前記検出部での検出結果が陰性であった場合に、前記病原体を再検出するよう前記検出部を制御する動作を所定の回数行う
請求項1
または2に記載の病原体検出装置。
【請求項4】
前記通知部は、さらに、前記取得部が出力した前記体温が所定の閾値を超え、且つ前記検出部での検出結果が陰性であった場合に、前記捕集部での病原体の捕集方法に関する通知を行う
請求項1~
3のいずれか1項に記載の病原体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象者に応じて病原体の検出動作を変更する病原体検出装置および病原体検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
介護施設、病院、学校等でのインフルエンザ等の感染症の感染拡大は社会問題である。特許文献1は、蛍光分光法、表面増強ラマン散乱分光法、または、抗原抗体反応を利用した免疫クロマトデバイスにより空気中を浮遊するウイルスの濃度を計測することを開示する。
【0003】
非特許文献1は、感染者の保持ウイルス量は感染者の体温と相関があり、体温と保持ウイルス量とが比例することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-178993号公報
【文献】Lincoln L. H. Lau, Benjamin J. Cowling, Vicky J. Fang, Kwok-Hung Chan, Eric H. Y. Lau, Marc Lipsitch, Calvin K. Y. Cheng, Peter M. Houck, Timothy M. Uyeki, J. S. Malik Peiris, and Gabriel M. Leung, "Viral Shedding and Clinical Illness in Naturally Acquired Influenza Virus Infections", The Journal ofInfectious Diseases, 201 1509-1516 (2010)
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、対象者の容態によらず、病原体を検出できたか否かによって陽性か陰性かの判断がなされるため、例えば対象者の呼気に含まれる病原体を捕集して検出する際の試料の捕集ミス等に起因する偽陰性の問題があった。
【0006】
本開示は、対象者の病原体の検出における偽陰性を低減できる技術を提供する。
【0007】
本開示の一態様に係る病原体検出装置は、対象者の体温を計測し、前記体温を示す情報を出力する取得部と、前記対象者が保有する病原体または前記対象者の周囲の空気中の病原体を捕集する捕集部と、前記捕集部で捕集された前記病原体を検出する検出部と、前記検出部での検出結果を通知する通知部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記が出力した前記体温が所定の閾値を超え、且つ前記検出部での検出結果が陰性であった場合に、前記病原体を再検出するよう前記検出部を制御する。
【0008】
尚、この包括的又は具体的な態様は、方法、システム、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能な記録媒体で実現されてもよく、装置、システム、方法、集積回路、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は、例えばCD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)等の不揮発性の記録媒体を含む。
【0009】
本開示によれば、対象者の病原体の検出における偽陰性を低減できる。本開示の一態様における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態に係る病原体検出装置の外観の一例を示す図
【
図2】実施の形態に係る病原体検出装置の概略構成を示す図
【
図3】実施の形態に係るサイクロンの機能を説明するための図
【
図6】表面プラズモン共鳴を利用する場合の基材の構造の一例を示す図
【
図7】実施の形態に係る病原体検出装置の機能構成の一例を示すブロック図
【
図8】対象者の保持ウイルス量と対象者の体温との関係を示すグラフ示す図
【
図9】実施の形態に係る病原体検出装置の動作の一例を示すフローチャート
【
図10】実施の形態に係る通知部による捕集方法に関する通知の一例を示す図
【
図11】実施の形態に係る通知部による再検出をするか否かを選択させるための通知の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
(実施の形態)
[病原体検出装置の概要]
病原体検出装置は、空気中に浮遊する、例えばインフルエンザウイルスのようなウイルスを始めとする病原体を捕集可能な捕集機能と、捕集した病原体を含む抽出液を検査することで病原体を検出する機能を有する。検出においては、抗体が特異的に抗原と結合する作用を利用し、病原体を含む抽出液に含まれる病原体構成物に特異的に結合する抗体を用いる。
【0013】
図1は、実施の形態に係る病原体検出装置10の外観の一例を示す図である。
【0014】
病原体検出装置10は、対象者(例えば病原体検出装置10によって病原体を有しているか否かの検査を受ける被験者)が吐き出す息を対象者から直接採取する構成である。病原体検出装置10は、
図1に示すように、例えば、筐体の外側に人の体温を計測する体温計測装置100と、検出対象となる空気を採取するための空気吸入口210と、検出結果を表示する表示装置500とが露出されている。なお、
図1で示した病原体検出装置10の外観は一例であり、この構成に限定されるものではない。
【0015】
図2は、実施の形態に係る病原体検出装置10の概略構成を示す図である。
【0016】
図2に示すように、病原体検出装置10は、体温計測装置100と、捕集装置200と、検出装置300と、コントローラ400と、表示装置500とを備える。以下に、体温計測装置100、捕集装置200、検出装置300、コントローラ400および表示装置500の詳細について説明する。
【0017】
[体温計測装置]
体温計測装置100は、対象者の体温を計測する温度センサである。体温計測装置100は、例えば、対象者の身体に接触することで対象者の体温を計測する接触型の温度センサ、または、対象者の身体に接触せずに対象者の体温を計測する非接触型の温度センサである。接触型の温度センサは、例えば熱電対などを利用した温度センサである。非接触型の温度センサは、例えば赤外線センサを利用して対象者の身体から放出される赤外線量を計測することで体温を計測する温度センサである。体温計測装置100は、上記の例に限定されるものではなく、対象者の体温を計測できるものであれば他の公知のものを用いてもよい。体温計測装置100は、体温の計測結果を記憶するメモリを有していてもよい。
【0018】
体温計測装置100は、体温の計測結果として、計測した体温に対応付けて、当該体温を計測した計測日時、及び/または、当該体温の対象者を識別する識別情報をメモリに記憶してもよい。体温計測装置100は、体温の計測結果をコントローラ400に出力する。
【0019】
[捕集装置の構成]
捕集装置200は、空気中の病原体を含み得る微粒子を捕集して捕集液に混合する。
図2に示すように、捕集装置200は、吸引器202と、捕集液タンク204と、ポンプ206と、サイクロン208と、空気吸入口210と、洗浄液タンク212と、ポンプ214と、廃液タンク220と、液体流路222と、を備える。以下に、捕集装置200の各構成要素について説明する。
【0020】
吸引器202は、空気吸入口210から周辺の雰囲気空気を吸入する。周辺の雰囲気空気は、周辺の雰囲気空気中を浮遊する微粒子を含む。微粒子は病原体を含み得る。周辺の雰囲気空気は、空気吸入口210よりサイクロン208に吸入される。
【0021】
捕集液タンク204は、空気中の病原体を捕集するための捕集液を保持するための容器である。
【0022】
ポンプ206は、捕集液タンク204内の捕集液をサイクロン208に供給する。
【0023】
サイクロン208は、空気吸入口210および捕集液タンク204に接続されており、吸引器202により空気吸入口210から吸入された空気中の病原体を含み得る微粒子と、ポンプ206により捕集液タンク204から供給された捕集液とを混合する。サイクロン208は、液体流路222を介して検出装置300に接続されている。微粒子が混合された捕集液(以下、試料という)は、サイクロン208から液体流路222を介して検出装置300に排出される。
【0024】
洗浄液タンク212は、サイクロン208および液体流路222を洗浄するための洗浄液を保持するための容器である。洗浄液タンク212は、サイクロン208に接続されており、洗浄液タンク212内の洗浄液は、ポンプ214によってサイクロン208に供給される。
【0025】
廃液タンク220は、不要な液体を貯蔵するための容器である。
【0026】
液体流路222は、サイクロン208から排出された試料を、検出装置300に導くための経路である。
【0027】
図3は、実施の形態に係るサイクロン208の機能を説明するための図である。
【0028】
空気中に浮遊するインフルエンザウイルスのようなウイルスを捕集するには、もともと空気中に極微量しか浮遊していないことが予想されるため、大量の空気を取り込み、取り込んだ空気中のウイルスを液中に捕集することが必要となる。ここで液中にウイルスを捕集するのは、前述した抗体とウイルス構成物との結合を、一般に溶液中で行わせるためである。液体はウイルス構成物を変性することが無いよう不純物を除去した純水、あるいは純水に一般的にバイオ材料の溶媒として用いられるリン酸バッファを溶解した溶液であってもよい。例えば、PBS(Phosphate buffered saline)およびトリス等が知られている。
【0029】
大量の空気を取り込む手段は、サイクロン208であってもよい。サイクロン208では、
図3の(a)に示すように、吸引器202に接続されている吸引口281から空気が吸い込まれることで、空気吸入口210からサイクロン208内に空気が取り込まれ、取り込まれた空気は、サイクロン208内で高速に回転する。その際、取り込まれた空気に含まれる一定の大きさ以上の微粒子は、サイクロン208内における空気の流れに追従できず、遠心力でサイクロン208の内壁面に飛ばされ、空気から分離される。そして、空気から分離された微粒子は、サイクロン208の下部に集められる。
【0030】
このように、空気中に浮遊するインフルエンザウイルスは、サイクロン208の吸引を稼動することで、空気吸入口210からサイクロン208内に入り、遠心力によってサイクロン208の内壁面に向けて飛ばされる。そのサイクロン208の下部に所定の量の捕集液283を吸引開始前に満たしておくと、
図3の(b)に示すようにサイクロン208内の気流によって液が渦巻状の回転を行い、サイクロン208の内壁面を捕集液283がせり上がり、内壁面に向けて飛ばされたインフルエンザウイルスを溶液に捕捉することができる。捕集液283は、例えば、ポンプ206に接続されているサイクロン208の捕集液流入口282からサイクロン208内に供給される。
【0031】
なお、捕集装置200は、空気中からのウイルスを捕集することに限らずに、対象者の咽頭、鼻腔等から滅菌綿棒等の検体採取器具を使用して採取された対象者の粘膜または粘液、鼻腔吸引により採取された粘液等からウイルスを捕集してもよい。捕集装置200によるウイルスの捕集は、上記の例に限定されるものではなく、対象者からのウイルスを捕集できるものであれば他の公知の方法を用いてもよい。
【0032】
[検出装置の構成]
次に、検出装置300について、
図2および
図4を参照しながら具体的に説明する。
図4は、実施の形態に係る検出装置300の構成を示す図である。
【0033】
検出装置300は、捕集装置200によって微粒子が混合された捕集液からウイルスの量を検出する。
図2および
図4に示すように、検出装置300は、センサデバイス302と、導入部306と、光源308と、ビームスプリッタ310と、レンズ312と、検出部314と、を備える。以下に、検出装置300の各構成要素について説明する。
【0034】
センサデバイス302は、センサセル304を備える。なお、
図2では、センサデバイス302は、単一のセンサセル304を備えているが、複数のセンサセルを備えてもよい。
【0035】
本実施の形態では、センサデバイス302は、0.1pM~100nMの濃度範囲のウイルスを検出できる。本実施の形態では、ウイルス量を光学的に検出するために、表面増強蛍光法が利用される。
【0036】
センサセル304は、励起光が照射されたときに、表面プラズモンを生じさせることにより、ウイルスに結合した蛍光物質からの蛍光を増強する。
図4に示すように、センサセル304は、流路304aおよび検出領域304bを備える。
【0037】
流路304aは、導入部306から滴下されたサンプル液体3061を検出領域304bに導くための経路である。
【0038】
検出領域304bは、表面プラズモンを利用してウイルスを光学的に検出するための領域である。検出領域304bには、例えば、
図6に示す様な金属微細構造体が配置されており、光源308から励起光が照射されることにより表面プラズモンが生じる。金属微細構造体には、第1の抗体が固定されている。第1の抗体は、ウイルスに特異的に結合する固定化抗体である。検出領域304bの詳細については、
図4および
図5を用いて後述する。
【0039】
導入部306は、第2の抗体および試料をセンサセル304に導入する。具体的には、導入部306は、第2の抗体と試料とを含むサンプル液体3061をセンサセル304に滴下する。第2の抗体は、蛍光物質で標識された標識化抗体である。試料は、ウイルスを含み得る液体であり、本実施の形態ではサイクロン208から排出された捕集液である。
【0040】
試料にウイルスが含まれれば、当該ウイルスは、第1の抗体を介して金属微細構造体に結合する。このとき、ウイルスは、蛍光物質で標識された第2の抗体とも結合している。つまり、金属微細構造体に、第1の抗体、ウイルス、第2の抗体および蛍光物質の複合体が結合される。この状態で金属微細構造体に光が照射されると、ウイルスと間接的に結合している蛍光物質から蛍光が発せられ、当該蛍光が表面プラズモンによって増強される。以降において、表面プラズモンによって増強された蛍光を表面増強蛍光と呼ぶ。
【0041】
光源308は、センサセル304に励起光を照射する光照射部の一例である。光源308としては、公知の技術を特に限定することなく利用することができる。例えば半導体レーザ、ガスレーザ等のレーザを光源308として利用することができる。なお、光源308は、ウイルスに含まれる物質と相互作用が小さい波長(例えば400nm~2000nm)の励起光を照射してもよい。さらには、励起光の波長は、半導体レーザが利用できる波長600nm~850nmであってもよい。
【0042】
ビームスプリッタ310は、光源308から照射された励起光から検出領域304bで発生した表面増強蛍光を分離する。具体的には、ビームスプリッタ310は、光源308からの励起光を通過させ、センサセル304で発生した表面増強蛍光を分離して検出部314に導く。
【0043】
レンズ312は、ビームスプリッタ310を通過した光源308からの励起光を検出領域304bに集光する。
【0044】
検出部314は、ビームスプリッタ310により導かれた表面増強蛍光を分光し、特定の波長帯の光を検出することにより、試料中のウイルスの量に相当する電気信号を出力する。検出部314は、特定の波長帯の光を検出できるものであれば公知の技術を特に限定無く利用することができる。例えば、検出部314として、光を分光するために特定の波長帯を透過させる干渉フィルター、回折格子を用いて分光するツェルニー型分光器、および、エシェル型分光器等を利用することができる。さらには、検出部314は、光源308からの励起光を除去するためのノッチフィルター、あるいは、光源308からの励起光を遮断し、かつ、センサセル304で発生した表面増強蛍光を透過させることができるロングパスフィルターを含んでもよい。
【0045】
ウイルスの濃度が低く、かつ、高精度のウイルス濃度検出を行う場合、検出部314がウイルスの濃度の検出を完了するまでに要する時間は長くなる。言い換えると、検出にかける時間を長くすることで、ウイルスの濃度の測定精度を高め得る(詳細は後述する)。
【0046】
検出装置300は、特定の波長帯の光の強度とウイルス濃度との相関データを記憶しているメモリを有してもよい。検出部314が特定の波長帯の光の強度を検出した場合、検出部314は、メモリが記憶している相関データにおいて検出した強度に対応するウイルス濃度を特定し、特定したウイルス濃度を検出部314が検出したウイルス濃度として出力してもよい。
【0047】
相関データを生成する場合、相関データに含まれる特定の波長帯の光の強度は、検出装置300が、ウイルス濃度の検出開始から所定時間経過時に検出する強度に基づいて決定してもよい。ウイルス濃度の検出開始時刻は、サンプル液体3061がセンサセル304に滴下された時刻であってもよい。検出部314はウイルス濃度の検出開始から当該所定時間経過時に特定の波長帯の光の強度を検出してもよい。
【0048】
検出装置300は、検出部314による検出値と、相関データとを用いて、ウイルス濃度を算出するとしたが、ウイルス濃度の算出は、コントローラ400などの他の機器により行われてもよい。この場合、他の機器が相関データを記憶しているメモリを有する。
【0049】
なお、検出装置300は、上記の例に限定されるものではなく、ウイルスを検出できるものであれば他の公知の方法を用いてもよい。
【0050】
[コントローラの構成]
コントローラ400は、病原体検出装置10全体の動作を制御する。具体的には、コントローラ400は、捕集装置200、検出装置300および表示装置500を制御する。コントローラ400は、体温計測装置100において計測された体温の計測結果を取得する。
【0051】
より具体的には、コントローラ400は、測定の開始を制御して、吸引器202に周辺の空気の吸引を開始させ、かつ、ポンプ206に、捕集液タンク204からサイクロン208に捕集液を供給させる。これにより、サイクロン208において捕集液と微粒子とが混合され、試料がサイクロン208から検出装置300に供給される。さらには、コントローラ400は、光源308に光を照射させ、検出部314に表面増強蛍光を検出させる。
【0052】
例えば、コントローラ400は、体温計測装置100が出力した体温の計測結果に応じて、捕集装置200および検出装置300を制御する。コントローラ400は、検出装置300により得られた検出結果を表示装置500に表示させる。コントローラ400は、入力パラメータに基づいて、予め設定された条件で、各ポンプを制御して所定体積のサンプル液体を検出装置300に供給することができる。さらに、コントローラ400は、計時機能を有しており、各動作に要した時間の情報を生成し記憶してもよい。コントローラ400は、検出装置300から計測値を受信して、計測値と時間情報とに基づいて、空気中を浮遊するウイルスの濃度の経時的変化を算出してもよい。
【0053】
コントローラ400は、例えば1以上の専用の電子回路によって実現される。1以上の専用の電子回路は、1個のチップ上に集積されてもよいし、複数のチップ上に個別に形成されてもよい。コントローラ400は、1以上の専用の電子回路の代わりに、汎用のプロセッサ(図示せず)と、ソフトウェアプログラムまたはインストラクションが格納されたメモリ(図示せず)とによって実現されてもよい。この場合、ソフトウェアプログラムまたはインストラクションが実行されたときに、プロセッサは、コントローラ400として機能する。
【0054】
[表示装置の構成]
表示装置500は、体温の計測結果、および、ウイルスの検出結果等の情報を表示する。表示装置500は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、または、電子ペーパーである。表示装置500は、上記の例に限定されるものではなく、情報を表示できる装置であれば他の公知の表示装置を用いてもよい。
【0055】
次に、検出装置300における検出方法を詳細に説明する。
【0056】
1個のインフルエンザウイルスの中にはおよそ1000個のNP(nucleoprotein)なるウイルス構成物が含まれている。このため、より数が多いNPによって検出を容易にするために、インフルエンザウイルスを破砕し、インフルエンザウイルスの中に含まれるNPを抽出する前処理を事前に、例えば、病原体と抗体とを反応させる前に、行っておいてもよい。インフルエンザウイルスの破砕には、界面活性剤を注入することで、インフルエンザウイルスの表面を覆う膜物質を破り、内部のNPを抽出する方法が用いられる。破砕に用いられる界面活性剤としては、Tween20、TritonX、サルコシルなどが知られている。なお、補足したウイルスを破砕せずに、そのまま検出のための抗体と反応させてもよい。
【0057】
前処理は、上記の破砕の他に、夾雑物を取り除く処理、ウイルスまたはウイルス構成物を濃縮する処理、ウイルスまたはウイルス構成物を検出に用いる蛍光物質または磁気物質などの標識物質で標識する処理のいずれかを含んでいてもよい。前処理は、病原体の検出を促進するための処理であれば上記の例に限定されるものではない。病原体の検出を促進するための処理とは、病原体の量を効率よく検出するための処理であってもよいし、病原体の量を精度よく検出するための処理であってもよい。
【0058】
一般にバイオ材料の検出には、抗原と抗体とを反応させる抗原抗体反応を利用して行うことが知られている。ここで抗原は、インフルエンザウイルス、あるいはインフルエンザウイルスを破砕した際に内部に含まれる構成部材であるNPである。抗体は、抗原に特異的に反応し結合する。以下に、抗原抗体反応での検出方法の詳細について
図5を用いて説明する。
【0059】
図5は、抗原抗体反応の詳細を説明するための図である。
【0060】
まず、上述したセンサセル304内に配置された基材404の表面に、抗原となるウイルスあるいはウイルス構成物であるNPと結合する第1の抗体406を形成する。第1の抗体406は、NP407を基材404表面近傍に捕捉する役割を果たす。第1の抗体406は、例えば、IgG抗体であり、IgG抗体の中でもインフルエンザウイルス、あるいはインフルエンザウイルスの構成物であるNPに特異的に結合する能力を有するものを用いてもよい。第1の抗体406は、捕捉抗体とも言う。無機の基材と有機の抗体とを結合させるためにSAM膜405(自己組織化単分子膜)が、基材404の表面に修飾されている。第1の抗体406は、SAM膜405を介して基材404の表面に固定される。
【0061】
SAM膜405は、基材404の表面に形成された金の単結晶薄膜411の表面に形成される。これにより、SAM膜405は、単結晶薄膜411との間で、アルカンチオール(R-SH)が結合されることでAu-S-Rで結合されるため、密で規則正しい単分子膜となる。このように、抗原抗体反応では、第1の抗体406を基材404の表面に形成されたSAM膜405と結合させる。
【0062】
次に、基材404の表面に固定された第1の抗体406に、抗原であるNP407を含む溶液が注入される。つまり、センサセル304の検出領域304bにNP407を含む溶液が注入される。この時、第1の抗体406は、抗原であるNP407と結合を開始し、その後時間経過とともに全体として結合する数が増加する。結合する数が増加する一方で、結合したものは、解離する。このため、第1の抗体406とNP407とは、結合および解離を繰り返し、平衡状態に達する。
【0063】
次に、センサセル304の検出領域304bに、第2の抗体408を含む溶液が注入される。第2の抗体408は、第1の抗体406と同様に、例えば、インフルエンザウイルスあるいはインフルエンザウイルスの構成物であるNP407と結合することが可能なIgG抗体である。第2の抗体408には、検出を行うための信号を発する標識物質409があらかじめ結合されている。標識物質409は、例えば、所定の波長のレーザ光が照射されると蛍光を発する物質であってもよい。標識物質409は、例えば、785nmの波長を持つレーザ光が照射されると、800nmの蛍光を発するDylight(登録商標)800などである。標識物質409が結合された第2の抗体408は、標識抗体410ともいう。
【0064】
空気中にウイルスが存在する場合には、サイクロン208を稼動したときにサイクロン208内の捕集液283中にウイルスが捕捉される。補足されたウイルスは、破砕されることでウイルス内部に含まれるNP407が抽出される。これにより得られたNP407を含む溶液がセンサセル304の検出領域304bに注入されることで、つまり、センサセル304に配置された基材404の表面に注入されることで、NP407は、基材404の表面に形成された捕捉抗体としての第1の抗体406と結合する。さらに蛍光を発する標識物質409が結合された標識抗体としての第2の抗体408を含む溶液が注入されることで、第2の抗体408は、第1の抗体406と結合した抗原であるNP407と結合する。第1の抗体406と抗原であるNP407と第2の抗体408とを結合させることは、サンドイッチアッセイと称される。サンドイッチアッセイが行われた検出領域304b中の溶液に、第2の抗体408に結合させた標識物質409に蛍光を励起させる励起光であるレーザ光を照射し、励起された蛍光を計測することで検出すべき信号を得ることができる。
【0065】
光源308は繰り返しセンサセル304にレーザ光を照射する。これにより検出部314は、標識物質409から励起された蛍光を繰り返し検出する。光源308は所定周期でセンサセル304にレーザ光を照射してもよい。センサセル304に繰り返しレーザ光が照射される場合、第1の抗体406、NP407、および、標識抗体410の3者が結合した数である結合数が増加すると、発光する蛍光の強度が増す。NP407と結合しない標識抗体410は、液層に浮遊する。NP407および標識抗体410の結合数は、注入された溶液の液量やセンサセル304の液層を保持する厚みに応じて変化する。
【0066】
標識抗体410の溶液を注入した初期の段階では、NP407と標識抗体410の結合数が徐々に増える。標識抗体410の標識物質409に蛍光を励起させるレーザ光の強度を強くすると、NP407と結合していない浮遊した標識抗体410の標識物質409も発光する。この場合の蛍光を検出しても、NP407の検出を精度よく行うことができないため、レーザ光を闇雲に強くすることはできない。一方で、非常に微量の空気中のウイルスから得たNP407の量は少ないため、この場合には、励起光を強くしてもよい。
【0067】
そこで、基材404の表面近傍のNP407と結合した標識抗体410からの信号を強くするために、表面プラズモン共鳴を利用する。
図6は、表面プラズモン共鳴を利用する場合の基材の構造の一例を示す図である。
【0068】
表面プラズモン共鳴は、古くから知られており、例えば、
図6に示すように、基材441の表面にナノサイズの突起442を形成し、その表面にAu等の単結晶薄膜411を形成することで、表面近傍に電磁場の強い領域が形成される。電磁場の強い領域は基材441の極表面近傍に形成されるため、NP407と結合した第2の抗体408の信号を発する標識物質409を、NP407と結合せず浮遊し基材441の表面近傍から離れた標識抗体410の標識物質409が発する光より強く発光させることができる。表面プラズモン共鳴とサンドイッチアッセイとを組み合わせることで、空気中の微量のウイルスを効果的に検出することが可能となり、さらに第2の抗体408とNP407とが結合を開始した初期の段階の、徐々に信号強度が上昇する過渡的な状態も効果的に検出できる。
【0069】
次に、病原体検出装置10の機能構成について説明する。
【0070】
図7は、実施の形態に係る病原体検出装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【0071】
図7に示すように、病原体検出装置10は、取得部11と、捕集部12と、検出部13と、制御部14と、通知部15と、決定部16とを備える。
【0072】
取得部11は、対象者の体温を取得する。取得部11は、対象者の体温を計測することで対象者の体温を取得する。取得部11は、例えば、体温計測装置100により実現される。取得部11は対象者の体温を計測し、体温を示す情報を出力してもよい。
【0073】
捕集部12は、対象者が保有する病原体または対象者の周囲の空気中の病原体を捕集する機能を有する。対象者が保有する病原体または対象者の周囲の空気中の病原体とは、例えば、対象者から吹き出された呼気に含まれる病原体のことである。対象者から吹き出された呼気に含まれる病原体は、対象者から吹き出される前に対象者が保有していた病原体であり、対象者から吹き出された後、対象者の周囲の空気中に含まれる。病原体は、ウイルスであり、例えば、インフルエンザウイルスである。捕集部12は、捕集液に病原体を混合することで得られた試料を検出部13に排出する。捕集部12は、例えば、捕集装置200により実現される。捕集部12は、対象者の呼気を含む空気を捕集する。対象者の呼気は対象者が保有した病原体を含みうる。対象者の呼気を含む空気は対象者の周囲の空気に含まれる病原体を含みうる。
【0074】
検出部13は、捕集部12で捕集された病原体を検出する機能を有する。なお、捕集部12で病原体が捕集されなかった場合には、検出対象である病原体が存在しないため検出部13での検出結果は陰性となる。検出部13は、具体的には、反応部13aと光照射部13bとを有する。
【0075】
反応部13aは、捕集部12で捕集された病原体と標識物質409とを反応させる。反応部13aは、例えば、第1の抗体406と、NP407と、標識物質409が結合された第2の抗体408とを反応させることで、互いに結合させる。このように、「病原体と標識物質との反応」には、病原体と標識物質との間接的な反応、つまり、病原体と標識物質に結合された物体(抗体)との反応が含まれる。なお、反応部13aにおける反応は、表面プラズモン共鳴を利用することに限らずに、標識物質409を病原体と結合させる反応であればどのような反応であってもよい。反応部13aは、例えば、検出装置300のセンサセル304により実現される。
【0076】
光照射部13bは、反応部13aにおいて反応させることで得られた反応物(つまり、試料)に励起光を照射する。光照射部13bは、例えば、光源308により実現される。
【0077】
これにより、検出部13は、励起光の照射により標識物質409から生じる蛍光の強度に基づき、試料に含まれる病原体の量を検出する。検出部13は、励起光の照射により標識物質409から生じる蛍光の強度を検出し、検出した蛍光の強度が所定の閾値を超えているか否かに応じて、対象者が病原体に感染していることを検出してもよい。例えば、検出部13は、検出した蛍光の強度が所定の閾値を超えている場合、対象者が病原体に感染していると検出し、検出部13での検出結果は陽性となる。例えば、検出部13は、検出した蛍光の強度が所定の閾値を超えていない場合、対象者が病原体に感染していないと検出し、検出部13での検出結果は陰性となる。
【0078】
検出部13は、検出した蛍光の強度と、予め記憶されている蛍光の強度、および、標識物質の量の相関データとに基づいて、標識物質の量を検出してもよい。検出部13は、反応部13aにおける反応開始、つまり、検出開始から所定時間経過時において検出した蛍光の強度と、相関データとに基づいて、検出した蛍光の強度に相関データにおいて対応付けられている標識物質の量を特定し、特定した標識物質の量を出力してもよい。標識物質の量は、試料に含まれる病原体の数または試料に含まれる病原体の濃度に相関する。ゆえに、標識物質の量と、予め記憶されている標識物質の量と病原体の数または濃度との相関データとに基づいて、病原体の数または病原体の濃度を出力してもよい。
【0079】
なお、相関データは、異なる2以上の時間経過時の蛍光の強度と標識物質の量との相関関係が含まれていてもよい。
【0080】
なお、検出部13は、捕集部12で捕集された病原体に対して検出を促進するための前処理を行ってもよい。
【0081】
検出部13は、例えば、検出装置300、コントローラ400などにより実現される。
【0082】
制御部14は、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、病原体を再検出するよう検出部13を制御する。例えば、制御部14は、病原体を再検出するよう検出部13を制御する動作を所定の回数行う。再検出する際、検出にかける時間、検出に用いるレーザ、相関データなどの各種条件は、最初の検出を行う際の条件と同一であっても異なっていてもよい。なお、制御部14は、病原体を再検出するよう検出部13を制御する前に、さらに病原体を再捕集するよう捕集部12を制御してもよい。この場合、制御部14は、最初の検出を行った病原体を洗浄等によって完全に排出してから、捕集部12で再捕集された病原体を再検出するよう検出部13を制御する。例えば、以下では、制御部14は、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、病原体を再捕集するよう捕集部12を制御し、捕集部12で再捕集された病原体を再検出するよう検出部13を制御するとして説明する。つまり、制御部14は、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、捕集部12および検出部13を再度制御し、当該体温が所定の閾値以下である場合には、検出部13での検出結果が陰性であっても陽性であっても、捕集部12および検出部13を再度制御することを行わない。
【0083】
制御部14は、例えば、コントローラ400により実現される。
【0084】
通知部15は、検出部13での検出結果を通知する。通知部15は、例えば、対象者が病原体に感染しているか否かを示す検出結果を通知してもよいし、検出された病原体の標識物質の量を示す検出結果を通知してもよい。詳細は後述するが、通知部15は、さらに、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、捕集部12での病原体の捕集方法に関する通知を行ってもよい。通知部15は、例えば表示装置500により実現され、上記通知を表示により行う。
【0085】
なお、通知部15は、上記通知を表示により行うことに限らずに、音声により行ってもよいし、印刷物を印刷することで行ってもよいし、LED(Light Emitting diode)などの光源を点灯させることで行ってもよい。
【0086】
決定部16は、病原体を再検出するよう制御部14が検出部13を制御するか否かを、所定の指示に応じて決定する。所定の指示は、例えば、対象者による指示、または、再検出するか否かについての予め決められた設定による指示等である。決定部16は、制御部14に対して、所定の指示が再検出しないことを示す場合には病原体を再検出しないよう検出部13を制御させ、所定の指示が再検出することを示す場合には病原体を再検出するよう検出部13を制御させる。
【0087】
決定部16は、例えば、コントローラ400により実現される。
【0088】
[保持ウイルス量と体温との関係]
次に、対象者の保持ウイルス量と対象者の体温との関係について
図8を用いて説明する。
【0089】
図8は、対象者の保持ウイルス量と対象者の体温との関係を示すグラフを示す図である。
図8の左側の縦軸は、対象者の鼻または喉から採取したウイルス量を示し、右側の縦軸は、当該対象者の体温を示す。
図8の横軸は、ウイルスの感染による症状が出てからの日数を示し、当該症状が出た日を0で示している。
【0090】
図8から、ウイルス量と体温との間には正の相関があることがわかる。これにより、対象者の体温が所定の閾値より高い場合に、当該対象者は、高濃度のウイルスを保持している可能性が高いと推測できる。所定の閾値は、対象者の平熱よりも高い体温であり、例えば、37℃としてもよい。所定の閾値は、対象者に応じて異なる値が設定されていてもよく、例えば、平熱に1℃加えた値としてもよい。つまり、対象者の平熱が36℃であれば、37℃が所定の閾値として設定され、対象者の平熱が36.5℃であれば、37.5℃が所定の閾値として設定されてもよい。
【0091】
[病原体検出装置の動作]
次に、病原体検出装置10の動作について説明する。
【0092】
図9は、実施の形態に係る病原体検出装置10の動作の一例を示すフローチャートである。
【0093】
まず、取得部11は、対象者の体温を取得する(S1)。
【0094】
次に、制御部14は、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超えているか否かを判定する(S2)。
【0095】
取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超えていないと判定された場合(S2でNo)、捕集部12は、対象者が保有する病原体または対象者の周囲の空気中の病原体を捕集する(S3)。例えば、捕集部12は、対象者の呼気を採取し、捕集した試料を検出部13へ送る。
【0096】
次に、検出部13は、捕集部12で捕集された病原体を検出する(S4)。例えば、検出部13は、捕集部12で捕集された病原体と標識物質409とを反応させ、反応物に励起光を照射する。
【0097】
次に、制御部14は、検出部13での検出結果が陰性であるか否かを判定する(S5)。例えば、検出部13は、検出した蛍光の強度が所定の閾値を超えている場合、対象者が病原体に感染していると検出し、検出部13での検出結果は陽性となる。例えば、検出部13は、検出した蛍光の強度が所定の閾値を超えていない場合、対象者が病原体に感染していないと検出し、検出部13での検出結果は陰性となる。
【0098】
制御部14は、検出結果が陰性であった場合(S5でYes)、病原体の再検出等をせずにそのまま陰性と判定する(S6)。
【0099】
制御部14は、検出結果が陽性であった場合(S5でNo)、そのまま陽性と判定する(S7)。
【0100】
このように、対象者の体温が所定の閾値を超えていない場合には、病原体の再検出等が行われずに、そのまま検出部13での検出結果が通知される。対象者の体温が低い場合には、対象者が病原体に感染している可能性が低く、再検出の必要性が低いためである。
【0101】
一方で、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超えていると判定された場合(S2でYes)、対象者の体温が所定の閾値を超えていない場合と同様に、捕集部12は、対象者が保有する病原体または対象者の周囲の空気中の病原体の捕集を行い(S8)、検出部13は、捕集部12で捕集された病原体の検出を行い(S9)、制御部14は、検出部13での検出結果が陰性であるか否かを判定する(S10)。
【0102】
制御部14は、検出結果が陽性であった場合(S10でNo)、そのまま陽性と判定する(S11)。
【0103】
制御部14は、検出結果が陰性であった場合(S10でYes)、当該対象者について検出部13での病原体の検出の動作が1回目かどうかを判定する(S12)。なお、ここでの1回目とは、例えば直近の数分から数10分程度の間において1回目のことを意味し、病原体検出装置10を用いて当該対象者について病原体の検出の動作を行ったのが初めてであることを意味するのではない。
【0104】
検出部13での病原体の検出の動作が1回目であった場合(S12でYes)、通知部15は、捕集部12での病原体の捕集方法に関する通知を行う(S13)。ここで、捕集部12での病原体の捕集方法に関する通知について
図10を用いて説明する。
【0105】
図10は、実施の形態に係る通知部15による捕集方法に関する通知の一例を示す図である。
図10には、通知部15として表示装置500を示し、表示装置500に表示される捕集方法に関する通知が示されている。
【0106】
例えば、正しく呼気の捕集が行われなかった可能性があるため、
図10に示されるように、対象者に対して、正しく呼気の捕集が行われるように促す表示がされる。具体的には、対象者に対して口を空気吸入口210に近づけるように促して呼気がなるべく空気吸入口210から漏れないようにし、例えば10秒間等の長時間空気を吹き入れるように促してより多くの病原体が捕集されるようにする。これにより、後述する病原体の再検出において正確な検出結果が得られる可能性が高まる。
【0107】
この対象者は体温が高く病原体に感染している可能性が高いにもかかわらず、1回目の検出では、検出結果が陰性であったため、つまり病原体が検出されなかったため、正しく呼気の捕集が行われなかったり、正しく抗原抗体反応が行われなかったりして、検出にあたり何かしらのミスがあった可能性がある。つまり、このまま判定を陰性としてしまうと、偽陰性である可能性がある。そこで、ステップS8からの処理が再度行われる。つまり、制御部14は、病原体を再捕集するよう捕集部12を制御し(再度のS8)、捕集部12で再捕集された病原体を再検出するよう検出部13を制御する(再度のS9)。
【0108】
制御部14は、病原体を再捕集するよう捕集部12を制御する際に、再捕集にかける時間を前回の捕集にかける時間よりも長くするように制御してもよい。再捕集にかける時間が長ければ、多くの病原体を捕集し得るからである。例えば、再捕集にかける時間を前回の捕集にかける時間の2倍以上にしてもよい。例えば、制御部14は、空気吸入口210からサイクロン208に空気を取り込む際の時間を長くしたり、サイクロン208における処理の時間を長くしたりしてもよい。
【0109】
制御部14は、病原体を再検出するよう検出部13を制御する際に、再検出にかける時間を前回の検出にかける時間よりも長くするように制御してもよい。例えば、再検出にかける時間を前回の検出にかける時間の2倍以上にしてもよい。前回の検出の検出時間において標識抗体410、NP407、第1の抗体406の3者が結合した数である結合数が飽和していない場合、再検出における検出時間において結合数の増加が見込めるからである。
【0110】
例えば、制御部14は、1回目では捕集及び検出に1分かけていたのを2回目では5分かけるというように、捕集部12および検出部13を制御してもよい。このように、再捕集または再検出にかける時間を前回よりも長くすることで、病原体の再検出において正確な検出結果が得られる可能性が高まる。
【0111】
例えば、再検出は、前回の検出と異なる検出方法で行われてもよい。例えば、再検出は、前回の検出において用いられた抗体と異なる抗体を用いる検出方法で行われてもよい。
【0112】
そして、再検出においても検出結果が陰性であり、検出部13での病原体の検出の動作が1回目でない場合(S12でNo)、つまり、再検出が一度行われた場合、制御部14は、陰性と判定する(S14)。再検出しても検出結果が変わらず陰性であったことから、偽陰性でない可能性が高まったためである。
【0113】
そして、通知部15は、検出結果を通知する(S15)。例えば、表示装置500に陰性または陽性を示す内容が表示され、対象者は自身が陽性であるのか陰性であるのかを確認できる。
【0114】
なお、対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出結果が陰性であった場合に、再検出を行うか否かを対象者に選択させてもよい。これについて、
図11を用いて説明する。
【0115】
図11は、実施の形態に係る通知部15による再検出をするか否かを選択させるための通知の一例を示す図である。
図11には、通知部15として表示装置500を示し、表示装置500に表示される再検出をするか否かを選択させるための通知が示されている。
【0116】
例えば、対象者は、再検出が必要な場合には、表示装置500(例えばタッチパネルディスプレイ等)に表示された「はい」を選択し、再検出が不要な場合には、「いいえ」を選択する。例えば、「はい」が選択された場合には、所定の指示として再検出することを示す指示(信号)が生成され、決定部16は、当該所定の指示に応じて、病原体を再検出するよう制御部14が検出部13を制御すると決定する。これにより、ステップS13およびステップS8以降の処理が再度行われる。例えば、「いいえ」が選択された場合には、所定の指示として再検出しないことを示す指示(信号)が生成され、決定部16は、当該所定の指示に応じて、病原体を再検出するよう制御部14が検出部13を制御することをしないと決定する。これにより、ステップS13およびその後のステップS8以降の処理が再度行われない。
【0117】
対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出結果が陰性であった場合に、再検出を行うという機能を有効にするか否かを病原体検出装置10の管理者等による設定によって選択されてもよい。例えば、当該設定が再検出を行わないという内容である場合には、ステップS1、ステップS2およびステップS8からステップS14での処理は実施されず、ステップS3からステップS7およびステップS15の処理は実施されてもよい。例えば、当該設定が再検出を行わないという内容である場合には、所定の指示として再検出をするという機能をオフすることを示す指示(信号)が生成され、決定部16は、当該所定の指示に応じて、病原体を再検出するよう制御部14が検出部13を制御することをしないと決定する。これにより、対象者の体温が所定の閾値よりも高く、且つ1回目の検出結果が陰性であっても、再検出が行われずそのまま陰性と判定される。
【0118】
図9に示す例では、制御部14は、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、病原体を再検出するよう検出部13を制御する動作を所定の回数として1回行うが、これに限らない。所定の回数は、1回に限らず、2回以上であってもよく、例えば、病原体検出装置10の管理者等によって任意の回数に決められてもよい。
【0119】
[効果など]
以上説明したように、病原体検出装置10は、対象者の体温を計測し、体温を示す情報を出力する取得部11と、対象者が保有する病原体または対象者の周囲の空気中の病原体を捕集する捕集部12と、捕集部12で捕集された病原体を検出する検出部13と、検出部13での検出結果を通知する通知部15と、制御部14と、を備える。制御部14は、取得部11が出力した体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、病原体を再検出するよう検出部13を制御する。
【0120】
これによれば、対象者の体温が所定の閾値より高いかどうかで病原体による感染の危険性が高いかどうかが判断され、対象者の体温が所定の閾値よりも高い場合には、検出結果が陰性であったとしても病原体の再検出が行われる。これにより、対象者の体温が所定の閾値よりも高い場合に、病原体検出装置10が対象者から試料を採取し検出する過程でなんらかの検出ミスが起きて検出結果が陰性であったときでも、再検出が行われるため、対象者の病原体の検出における偽陰性を低減でき、病原体による感染拡大を防ぐことができる。
【0121】
制御部14は、病原体を再検出するよう検出部13を制御する際に、再検出にかける時間を前回の検出にかける時間よりも長くするように制御してもよい。
【0122】
これによれば、病原体の検出に時間をかけるほど検出精度を高めることができるため、病原体の再検出において正確な検出結果が得られる可能性が高まる。
【0123】
制御部14は、病原体を再検出するよう検出部13を制御する前に、さらに病原体を再捕集するよう捕集部12を制御し、捕集部12で再捕集された病原体を再検出するよう検出部13を制御してもよい。
【0124】
これによれば、前回の検出において陰性となった原因として、捕集部12において検出部13で検出を行うための病原体を正しく捕集できていなかった可能性があるため、再捕集を行うことで、病原体の再検出において正確な検出結果が得られる可能性が高まる。
【0125】
制御部14は、病原体を再捕集するよう捕集部12を制御する際に、再捕集にかける時間を前回の捕集にかける時間よりも長くするように制御してもよい。
【0126】
これによれば、病原体の捕集に時間をかけるほど病原体をより多く捕集できるため、病原体の再検出において正確な検出結果が得られる可能性が高まる。
【0127】
病原体検出装置10は、さらに、病原体を再検出するよう制御部14が検出部13を制御するか否かを、所定の指示に応じて決定する決定部16を備えていてもよい。
【0128】
これによれば、状況によっては、必ずしも再検出をすることが望まれないこともあるため、再検出をするか否かを所定の指示によって切り替えることができる。
【0129】
制御部14は、取得部11が出力した体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、病原体を再検出するよう検出部13を制御する動作を所定の回数行ってもよい。
【0130】
通知部15は、さらに、取得部11が出力した体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、捕集部12での病原体の捕集方法に関する通知を行ってもよい。
【0131】
これによれば、前回の検出において陰性となった原因として、捕集部12において検出部13で検出を行うための病原体を正しく捕集できていなかった可能性があるため、捕集方法に関する通知(例えば正しい捕集方法についての通知)が行われることで、対象者に正しい捕集方法を認識させることができる。
【0132】
(その他の実施の形態)
以上、本開示の一つまたは複数の態様に係る病原体検出装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。本開示の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を本実施の形態に施したものや、異なる実施の形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本開示の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0133】
例えば、上記実施の形態では、制御部14は、病原体を再検出するよう検出部13を制御する際に、再検出にかける時間を前回の検出にかける時間よりも長くするように制御するとしたが、これに限らない。例えば、再検出にかける時間と前回の検出にかける時間とを同じとしてもよい。
【0134】
例えば、上記実施の形態では、制御部14は、病原体を再捕集するよう捕集部12を制御する際に、再捕集にかける時間を前回の捕集にかける時間よりも長くするように制御するとしたが、これに限らない。例えば、再捕集にかける時間と前回の捕集にかける時間とを同じとしてもよい。
【0135】
例えば、上記実施の形態では、制御部14は、病原体を再検出するよう検出部13を制御する前に、さらに病原体を再捕集するよう捕集部12を制御し、捕集部12で再捕集された病原体を再検出するよう検出部13を制御するとしたが、これに限らない。例えば、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超え、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に、再捕集が行われなくてもよく、前回捕集部12で捕集された病原体を再度使って病原体の再検出が行われてもよい。
【0136】
例えば、上記実施の形態では、病原体検出装置10は、決定部16を備えていたが、備えていなくてもよい。
【0137】
例えば、上記実施の形態では、通知部15は、捕集部12での病原体の捕集方法に関する通知を行うとしたが、当該通知を行わなくてもよい。
【0138】
例えば、本開示は、病原体検出装置10として実現できるだけでなく病原体検出装置10による病原体検出方法として実現できる。
【0139】
病原体検出方法は、対象者の体温を取得する取得部11と、対象者が保有する病原体または対象者の周囲の空気中の病原体を捕集する捕集部12と、捕集部12で捕集された病原体を検出する検出部13と、検出部13での検出結果を通知する通知部15と、制御部14と、を備える病原体検出装置10による病原体検出方法であって、
図9に示されるように、取得部11で取得された対象者の体温が所定の閾値を超え(S2でYes)、且つ検出部13での検出結果が陰性であった場合に(S10でYes)、病原体を再検出するよう検出部13を制御部14に制御させる(再度のS9)。
【0140】
病原体検出方法は、対象者の体温を示す情報を取得し、前記対象者の第1呼気を含む第1空気を捕集する第1捕集を実行し、前記第1空気から病原体の量を検出する第1検出を実行し、前記第1検出に基づいて前記対象者が陰性かを示す第1判断を行い、前記情報が前記体温は所定の閾値を超えることを示し、且つ、前記第1判断が陰性を示す場合、(a)処理iがi=2~n(nは2以上の整数)で実行され、または、(b) 前記第1空気から病原体の量を検出する追加検出が実行され、前記処理iは、前記対象者の第i呼気を含む第i空気を捕集する第i捕集、前記第i空気から病原体の量を検出する第i検出、前記第i検出に基づいて前記対象者が陰性かを判断する第i判断を含んでもよい。
【0141】
そして、本開示は、病原体検出方法に含まれるステップを、コンピュータに実行させるためのプログラムとして実現できる。さらに、本開示は、そのプログラムを記録したCD-ROM等である非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体として実現できる。
【0142】
例えば、本開示が、プログラム(ソフトウェア)で実現される場合には、コンピュータのCPU、メモリおよび入出力回路等のハードウェア資源を利用してプログラムが実行されることによって、各ステップが実行される。つまり、CPUがデータをメモリまたは入出力回路等から取得して演算したり、演算結果をメモリまたは入出力回路等に出力したりすることによって、各ステップが実行される。
【0143】
なお、上記各実施の形態において、病原体検出装置10に含まれる各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPUまたはプロセッサなどのプログラム実行部が、ハードディスクまたは半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。
【0144】
上記各実施の形態に係る病原体検出装置10の機能の一部または全ては典型的には集積回路であるLSIとして実現される。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。また、集積回路化はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後にプログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、またはLSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0145】
上記各実施の形態に係る病原体検出装置10の機能の一部または全てを、CPU等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現してもよい。
【0146】
上記各実施の形態に係る病原体検出装置10の機能の一部または全てを、外部サーバが実行することにより実現してもよい。
【0147】
上記で用いた数字は、全て本開示を具体的に説明するために例示するものであり、本開示は例示された数字に制限されない。
【0148】
本開示の主旨を逸脱しない限り、本開示の各実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本開示は、対象者または対象者の周囲の空間から病原体を検出できる病原体検出装置および病原体検出方法などとして有用である。
【符号の説明】
【0150】
10 病原体検出装置
11 取得部
12 捕集部
13 検出部
13a 反応部
13b 光照射部
14 制御部
15 通知部
16 決定部
100 体温計測装置
200 捕集装置
202 吸引器
204 捕集液タンク
206 ポンプ
208 サイクロン
210 空気吸入口
212 洗浄液タンク
214 ポンプ
220 廃液タンク
222 液体流路
281 吸引口
282 捕集液流入口
283 捕集液
300 検出装置
302 センサデバイス
304 センサセル
304a 流路
304b 検出領域
306 導入部
308 光源
310 ビームスプリッタ
312 レンズ
314 検出部
400 コントローラ
404 基材
405 SAM膜
406 第1の抗体
407 NP
408 第2の抗体
409 標識物質
410 標識抗体
411 単結晶薄膜
441 基材
442 突起
500 表示装置
3061 サンプル液体