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特許7474961ビスマレイミド化合物とポリチオール化合物による光硬化樹脂
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】ビスマレイミド化合物とポリチオール化合物による光硬化樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/045 20160101AFI20240419BHJP
【FI】
C08G75/045
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019193059
(22)【出願日】2019-10-04
(65)【公開番号】P2021059701
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000199681
【氏名又は名称】川口化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】酢谷 麻紀
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 良二
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-088613(JP,A)
【文献】特開昭58-016232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G75/00-75/32
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1で表されるビスマレイミド化合物と化2で表されるポリチオール化合物を、溶融混合後に光硬化させた樹脂化合物。
【化1】
【化2】
【請求項3】
請求項1に記載の化1で表されるビスマレイミド化合物と請求項1に記載の化2で表されるポリチオール化合物を溶融混合した後に光硬化させ、少なくとも厚みが100μmを有する樹脂成型物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエン-チオール反応を利用した樹脂の硬化法に関する。
【背景技術】
【0002】
エン-チオール反応を用いた樹脂の硬化法は、酸素阻害がなく副反応も起こらないクリックケミストリーとして知られ、熱や光照射によって比較的容易に反応が進行し副生物が生じないことから、得られる樹指の収縮が小さく、気泡の発生もないとされている。
【0003】
エン化合物は、分子中に不飽和結合を2個以上有するポリエン化合物であれば樹脂化が可能であるが、樹脂に耐熱性などの特性を付与する場合は、熱的に安定なビスマレイミドなどのイミド系化合物の選択が一般的である。
【0004】
一方、チオール化合物も分子中にチオール基を2個以上有するポリチオール化合物で樹脂化を可能とするが、3個以上でエン-チオール間の結合が三次元化し強固な硬化樹脂が得られる。
【0005】
これまでのエン-チオール反応を用いた樹脂研究において、ポリエン化合物として芳香族系ビスマレイミド化合物が用いており、主に熱硬化で樹脂を得ている。(特許文献1、2)
【0006】
また光硬化、即ち紫外線硬化でも樹脂を得るが、ポリエン化合物が芳香族系ビスマレイミド化合物の場合は、光(紫外線)を透過し難く、エン-チオール溶融混合樹脂組成物の表面のみの樹脂化に限定される。
【0007】
従って光硬化において、塗膜や100μm未満の薄膜の樹脂形成は可能であるものの、厚みを持った樹脂を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭55-110121号公報
【文献】特開昭58-16232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ビスマレイミド化合物とポリチオール化合物による光硬化樹脂を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手法】
【0010】
上記課題を解決するために、ビスマレイミド化合物(化1)とポリチオール化合物(化2)を溶融混合し、光硬化によって硬化樹脂化合物を得る。
【0011】
【化1】
【0012】
【化2】
【発明の効果】
【0013】
本発明を遂行することで、光硬化でビスマレイミド-ポリチオールからなる硬化樹脂を容易に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【0015】
本発明において使用するビスマレイミド化合物は、化1で表される化合物(1-マレイミド-3-マレイミドメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(以下IPBMと略す)に限定される。
【0016】
また、ポリチオール化合物は、化2で表される化合物(1,3,5-トリス[3-(2-メルカプトエチルスルファニル)プロピル]イソシアヌレート(以下SS32と略す)に限定される。
【0017】
ビスマレイミド化合物とポリチオール化合物の比率は、反応点である各官能基の数が当量であるのが望ましい。化1で表される化合物であるビスマレイミド化合物の官能基数は2であり、化2で表される化合物であるポリチオール化合物の官能基数が3であるため、当量となるモル比率は3:2となる。そのため、官能基数の観点から妥当であると判断されるIPBMとSS32のモル比率は0.72:0.28~0.48:0.52の範囲内であることが望ましい。この範囲から逸脱すると未反応成分が増え、得られる樹脂の特性が低下する可能性がある。ただし、反応性可塑剤を用いた場合にはこの限りではなく、反応性可塑剤の官能基も含め上記のモル比率に収まればよい。
【0018】
硬化樹脂に可撓性を与える場合は可塑剤を用いる。
【0019】
用いられる可塑剤としては、γ‐ブチロラクトンやN-メチル-2-ピロリドンといった高沸点溶媒や樹脂に一般的に使用される可塑剤が使用でき、特にトリフェニルホスフィン(TPP)やトリキシレニルホスフェート(TXP)等のリン酸エステルが望ましい。
【0020】
可塑剤の添加量としては、硬化が可能で物性の低下が許容される範囲であれば添加量に依らないが、添加量が多すぎると破壊強度などの物性の低下が大きくなってしまう。具体的に述べると50重量部以下が望ましく、特に25重量部以下が望ましい。
【0021】
また可塑剤としてより好ましくは反応性可塑剤が挙げられ、長鎖のエンもしくはチオール化合物が使用でき、例えば両末端にチオール基を有するポリサルファイドポリマーが挙げられる。
【0022】
ポリサルファイドポリマーを反応性可塑剤として使用する場合、両末端のチオール間の鎖長が長いほど樹脂に可撓性を付与することができる反面、粘度が高まるためハンドリング性が低下する。従って分子量300~5000程度が望ましく、特に分子量800~2000程度のものが望ましい。
【0023】
また反応性可塑剤であれば反応性を有さない可塑剤よりも一般的に物性の低下は小さく、具体的に述べると300重量部以下が望ましく、特に150重量部以下が望ましい。
【0024】
本発明では開始剤や増感剤を特に必要としないが、適宜添加してもかまわない。
【0025】
その他、IPBM-SS32混合物と相溶する添加剤であれば、必要に応じて添加することができる。
【0026】
光硬化、すなわち紫外線硬化方法は一般的な手法で構わない。光源として例えばメタルハライドランプ、高圧水銀ランプおよびキセノンランプなどがあり、樹脂が硬化できる波長を照射できるランプであればいずれでも構わない。
【0027】
また、光源の照射波長としては、樹脂が硬化できる波長であれば別段指定しないが、波長250~600nmの範囲にあればよく、特に300~450nmの範囲にあることが望ましい。
【実施例
【0028】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。試験に用いた配合を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1~4は本発明における典型的な組み合わせであり、マレイミドとチオール基の比率をほぼ1:1の比率で硬化させている。実施例3および4はポリチオールのチオール分の一部をポリスルフィドポリマーで置き換えており、チオール基とマレイミドは同モルとなるように調整してある。比較例1および2では、一般的に樹脂原料として使用されることが多い、芳香族ビスマレイミド化合物をポリエンとして使用している。
【0031】
硬化試験は以下のように行った。表1で示した配合比率に沿って室温で混合し、150℃で溶融させた。その後、80℃まで温度を下げた後、光透過可能なPP型で成型加工し、光硬化を行った。
【0032】
各配合の光硬化性の優劣を表2に示した。
【0033】
【表2】
【0034】
実施例1~4では可塑剤の有無・種類に限らず、厚さ1000μm程度の樹脂板を硬化することができた。一方で、比較例1、2では表面硬化性は見られるものの、内部の硬化は進まず、24時間照射した後であっても厚みのある樹脂板は得られなかった。
【0035】
表3に得られた樹脂の物性値を示す。
【0036】
【表3】
【0037】
樹脂の熱分解温度は実施例1および2では300℃以上、実施例3および4では250℃以上の耐熱性が得られた。またガラス転移温度では実施例1および2では65℃以上、実施例3では72℃、実施例4ではおよそ30℃である。このように可塑剤の種類および添加量に応じて、ある程度コントロールが可能である。
【0038】
このようにして本発明に従えば、厚みを持ったビスマレイミドとポリチオールの光硬化樹脂を比較的容易に得られる。