(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】レーザーダイオードバーの製造方法、レーザーダイオードバー、及び波長ビーム結合システム
(51)【国際特許分類】
H01S 5/22 20060101AFI20240419BHJP
H01S 5/40 20060101ALI20240419BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
H01S5/22 610
H01S5/40
H01S5/343 610
(21)【出願番号】P 2020070401
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-01-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 貴敏
(72)【発明者】
【氏名】大野 啓
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-054295(JP,A)
【文献】特開2006-066869(JP,A)
【文献】特開2003-060318(JP,A)
【文献】特開2006-156958(JP,A)
【文献】特開2010-108993(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0079724(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーの製造方法であって、
(0001)面を面方位とし、且つ、(0001)面からm軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を付与された基板面を有する窒化物半導体基板を準備する工程と、
前記波長ビーム結合システムに必要なサイズの前記レーザーダイオードバーを決定するとともに、前記窒化物半導体基板内に、前記オフ角の主軸方向と導波路方向とが一致するように前記レーザーダイオードバーの形成予定位置に係るレイアウトを設定する工程と、
前記窒化物半導体基板上に、第1導電型クラッド層、活性層及び第2導電型クラッド層からなる積層構造体を形成する工程と、
前記窒化物半導体基板面内に形成する予定の前記レーザーダイオードバーのゲインピーク波長の分布を推定する工程と、
前記オフ角の主軸方向と、前記導波路方向とが一致するように、前記積層構造体に、ストライプ状に配列された複数のエミッターを形成する工程と、
前記窒化物半導体基板から、前記複数のエミッターを有する前記レーザーダイオードバーを切り出す工程と、
前記レーザーダイオードバーの前記ゲインピーク波長の分布に基づいて、前記レーザーダイオードバーの光出射面と非出射面とを決定し、前記光出射面に透過膜を形成すると共に、前記非出射面に反射膜を形成する工程と、
前記レーザーダイオードバーのゲインピーク波長の分布と、前記波長ビーム結合システムの構成で決定されるロック波長とに基づいて、前記波長ビーム結合システム中における前記レーザーダイオードバーの配設位置を決定する工程と、
を含むレーザーダイオードバーの製造方法。
【請求項2】
前記窒化物半導体基板は単結晶の窒化ガリウム基板であり、
前記オフ角の主軸方向は、前記窒化ガリウム基板のm軸方向であり、
前記活性層はInを含む、
請求項1に記載のレーザーダイオードバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーダイオードバーの製造方法、レーザーダイオードバー、及び波長ビーム結合システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銅、金、樹脂など種々の材料において、レーザー加工への期待が高まっている。例えば、自動車産業では、電動化、小型化、高剛性化、デザイン自由度向上、及び生産性向上などが求められ、レーザー加工への期待は非常に高い。特に、電気自動車用のモーターやバッテリーの、銅加工においては、光吸収効率の高い青紫~青色(波長350~450nm)のレーザー光源が求められており、生産性の高い加工を実現するには、高出力で集光性の高いビーム品質を備えたレーザー光源が必要となる。
【0003】
複数のレーザー光を集光し、高出力、高いビーム品質のレーザー光が得られるシステムとして、波長ビーム結合(WBC(Wavelength Beam Combining))システムが知られている。波長ビーム結合システムは例えば、特許文献1に記載されている。
【0004】
波長ビーム結合システムは、レーザーダイオードバー、ビームツイスターユニット、透過型又は反射型の回折格子及び外部共振ミラーを有している。レーザーダイオードバーには、光を出射するエミッターが配置されており、エミッターの一方の端面から複数のビーム光が出射される。ビームツイスターユニットは、レーザーダイオードバーから出射された複数のビーム光をそれぞれ90°回転させ、近い波長を有した個々のビーム光が相互に干渉することを防ぐ。回折格子が透過型の場合、回折格子は、入射したビーム光を、その波長で決定される回折角で回折し、出射する。回折格子から出射されたビーム光は、外部共振ミラーに入射され、部分透過型ミラーである外部共振ミラーによってビーム光の一部が回折格子の方向に垂直反射される。これにより、レーザーダイオードバーが有する個々のエミッターと、回折格子と、外部共振ミラーとの位置関係で一意に決定される波長(ロック波長と呼ぶことがある)のレーザー光が、レーザーダイオードバーのレーザー光が出射する側と反対側に設けられた反射膜と、外部共振ミラーとの間で、光の外部共振を起こし、レーザー光が出力される。
【0005】
レーザーダイオードバーの個々のエミッターは、それぞれ回折格子からの相対位置が異なっているため、異なる波長で外部共振を起こし、レーザー光が発振することになるが、外部共振ミラーにて一点に結合される。したがって、波長ビーム結合システムでは、個々のエミッター数の出力を足し合わせた、高出力、高品質のレーザー光を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、波長ビーム結合システムでは、レーザーダイオードバーの構造に起因して、レーザーダイオードバーが最も強く発振することのできる波長の値(ゲインピーク波長と呼ぶことがある)と、波長ビーム結合システムの構成によって一意に決定されるロック波長に差が生じる場合がある。この差が大きくなると、レーザー発振ができなくなるおそれがあり、発振性能が低下するという課題がある。
【0008】
本開示の目的は、発振性能の向上した波長ビーム結合システム、並びに波長ビーム結合システムの発振性能を向上させることができるレーザーダイオードバーの製造方法及びレーザーダイオードバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決する主たる本開示は、
波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーの製造方法であって、
(0001)面を面方位とし、且つ、(0001)面からm軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を付与された基板面を有する窒化物半導体基板を準備する工程と、
前記窒化物半導体基板上に、第1導電型クラッド層、活性層及び第2導電型クラッド層からなる積層構造体を形成する工程と、
前記窒化物半導体基板が有するオフ角の主軸方向と、エミッターの導波路方向とが一致するように、前記積層構造体に、ストライプ状に配列された複数のエミッターを形成する工程と、
前記窒化物半導体基板から、前記複数のエミッターを有する前記レーザーダイオードバーを切り出す工程と、
を含むレーザーダイオードバーの製造方法である。
【0010】
又、他の局面では、
波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーであって、
(0001)面を面方位とし、且つ、(0001)面からm軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を付与された基板面を有する窒化物半導体基板と、
前記窒化物半導体基板上に形成された第1導電型クラッド層、活性層及び第2導電型クラッド層からなる積層構造体と、
前記窒化物半導体基板が有するオフ角の主軸方向と、エミッターの導波路方向とが一致するように、前記積層構造体に、ストライプ状に形成された複数のエミッターと、
を備えるレーザーダイオードバーである。
【0011】
又、他の局面では、
前記レーザーダイオードバーと、
前記レーザーダイオードバーの前記複数のエミッターそれぞれから出射された複数のレーザー光を回折する回折格子と、
前記回折格子によって回折されたレーザー光の一部を反射して前記レーザーダイオードバー側に戻し、自身と前記レーザーダイオードバーの反射膜との間で外部共振させる外部共振ミラーと、を備える、
波長ビーム結合システムである。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係るレーザーダイオードバーの製造方法によれば、波長ビーム結合システムの発振性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】透過型回折格子を用いた波長ビーム結合システムの概略図
【
図4】反射型回折格子を用いた波長ビーム結合システムの概略図
【
図5】レーザーダイオードバーと回折格子との関係を示す図
【
図6】表2の各エミッターのロック波長と、エミッター位置との関係を示した図
【
図7】レーザーダイオードバーのエミッターの波長範囲を示す図
【
図8】レーザーダイオードバーのエミッター内においてレーザー発振可能な範囲を示す図
【
図9】レーザーダイオードバーのエミッター内においてレーザー発振可能な範囲を示す図
【
図10】レーザーダイオードバーのエミッター内においてレーザー発振可能な範囲を示す図
【
図11】オフ角の主軸が+m軸方向である窒化ガリウム基板及び、+a軸方向である窒化ガリウム基板内のオフ角分布を示す図
【
図12】実施例及び比較例の窒化ガリウム基板のオフ角分布を示す図
【
図13】窒化ガリウム基板にレーザーダイオードバーをレイアウトした配置図
【
図14】
図12の窒化ガリウム基板内のゲイン波長の分布を示す図
【
図15】実施例のレーザーダイオードバーのλ
g_CENTERを示す図
【
図16】実施例のレーザーダイオードバーの、左側のλ
gから右側のλ
gの差分を示す図
【
図17】実施例のレーザーダイオードバーにおいて、透過膜と反射膜とを入れ替えた場合のΔλ
g_BARを示す図
【
図18】実施例のレーザーダイオードバーの位置と数量を示す図
【
図19】比較例のレーザーダイオードバーの位置と数量を示す図
【
図20】実施例及び比較例における、レーザーダイオードバーの数量とλ
g_CENTERの値とを比較した図
【
図21】レーザーダイオードバーの長手方向の長さとΔλ
g_BARとの関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、波長ビーム結合システムの構成と、レーザーダイオードバーの構成と、レーザーダイオードバーのロック波長と、レーザーダイオードバーが発振できる波長の範囲と、を具体的な例に基づいて説明する。
【0015】
<波長ビーム結合システム>
図3に、透過型の波長ビーム結合システム30を示す。実際の波長ビーム結合システムは
図3に示した要素以外にも、光学部品等の要素を有する場合がある、それらは省略されている。
【0016】
波長ビーム結合システム30は、複数のレーザーダイオードバー20a~20eを含むレーザーダイオードバーアレイ20Tと、透過型の回折格子37と、外部共振ミラー38と、を有する。なお、実際には、レーザーダイオードバー20a~20eと、回折格子37との間には、図示しないビームツイスターユニット等の光学部品が設けられている場合がある。
【0017】
図4に反射型の波長ビーム結合システム40を示す。波長ビーム結合システム40は、反射型の回折格子39を用いる以外は、透過型の波長ビーム結合システム30と同様の構成を有する。
【0018】
波長ビーム結合システム30では、レーザーダイオードバー20a~20eから出射された光が、回折格子37,39によって回折された後、外部共振ミラー38によって一部が回折格子の方向に垂直反射される。これにより、レーザーダイオードバー20a~20eの反射膜17と、外部共振ミラーとの間で光の外部共振が生じ、レーザー光が出力される。なお、複数のレーザーダイオードバー20a~20eは、短波長のレーザーダイオードバー20aから長波長のレーザーダイオードバー20eが順に配置されていてよい。
【0019】
<レーザーダイオードバー>
図2に、レーザーダイオードバー20を示す。レーザーダイオードバー20は、互いに間隔をおいて形成された複数のエミッター13を有する。複数のエミッター13は、ストライプ状に、レーザーダイオードバー20の長手方向に沿って一列に配列されている。
【0020】
具体的には、レーザーダイオードバー20のエミッター13は、窒化物半導体基板10上に第1導電型クラッド層21、活性層22、及び、第2導電型クラッド層23の積層構造体12に形成されている。また、レーザーダイオードバー20は、その上面にP側電極15を有し、その下面にN側電極24を有している。また、レーザーダイオードバー20の光が出射される側の端面全体に透過膜16が設けられ、透過膜16と対向する光が出射されない側の端面全体に反射膜17が設けられている。
図2に示すレーザーダイオードバー20は、
図3~5に示すような波長ビーム結合システム30において、レーザーダイオードバー20a~20eとして用いることができる。
【0021】
なお、レーザーダイオードバー20の長手方向をWとし、導波路方向をDとする。
図2に示す白抜き矢印は、レーザーダイオードバー20の母材である窒化物半導体基板10のオフ角の主軸方向を示す。
【0022】
P側電極15は、レーザーダイオードバー20の端面において互いに間隔をおいて形成された複数のエミッター13に電流を注入する電流注入領域である。P側電極15は、レーザーダイオードバー20の長手方向に亘ってストライプ状に配列されている。電源供給部(図示せず)からレーザーダイオードバー20のP側電極15に、並列に電流が注入されることで、各P側電極15に対応した複数のエミッター13から、導波路方向(即ち、外部共振方向)に同時にレーザー光25が出射される。
【0023】
図2に示すレーザーダイオードバー20は、リッジストライプと呼ばれる凸部がストライプ状に形成された電流注入領域を持つ構造を有しているが、レーザーダイオードバー20は、埋め込み構造を有していてもよく、その場合には、選択的に電流注入領域を形成すればよい。
【0024】
<ロック波長>
図2、
図3及び
図5を参照して、波長ビーム結合システム30に必要とされるレーザーダイオードバー20のロック波長の算出方法について説明する。
【0025】
図5は、レーザーダイオードバー20a~20eの各エミッターとロック波長の算出方法について、説明する図である。
図6は、レーザーダイオードバー20a~20eの各エミッター13とロック波長との関係を示す図である。
【0026】
レーザーダイオードバー20の各エミッター13から出射されるレーザー光25のうち、回折格子37の回折条件を満たし、かつ、外部共振ミラー38により垂直反射されるロック波長のみが、元のエミッター13に帰還することで、レーザーダイオードバー20の光が出射されない端面(反射膜17)と、外部共振ミラー38との間で、外部共振が発生し、レーザー発振ができる。
【0027】
図3に示すレーザーダイオードバー20、及び注入領域に対応する各エミッター13のロック波長をλ
L、回折格子37の周期をd、入射角をα、出射角をβ、次数をmとすると、ロック波長λ
Lは、下記式(1)で計算できる。
d(sinα+sinβ)=mλ
L・・・・・・(1)
【0028】
なお、ここで次数は、m=1の回折格子配置を選択するのが一般的である。
【0029】
例えば、
図3のように5個のレーザーダイオードバー20a~20eを、入射角αを21.6degから、0.8degずつ大きくなるよう配置して、レーザー波長ビーム結合システム30を構成した場合、各レーザーダイオードバー20a~20eの中心に位置するエミッター13のロック波長λ
L_CENTER(以下、「レーザーダイオードバー20の長手方向中心位置のロック波長λ
L_CENTER」と称する)はレーザーダイオードバー20a及び20bが、435.9nm、440.3nm、レーザーダイオードバー20eが453.0nmと、表1に示すように約4.3nmずつ長い波長となる。
【0030】
【0031】
次に、レーザーダイオードバー20a~20e内のλLについて、レーザーダイオードバー20を例に用いて説明する。
【0032】
図5に示す例では、レーザーダイオードバー20には25個のエミッター13が形成されている。また、レーザーダイオードバー20の長手方向の長さWを10mmとなっている。
【0033】
ここで、3,000本/mmの溝周期の回折格子(d=0.333μm)37を用いて、400~500nm程度の波長の光を入射角αが21.6°、レーザーダイオードバー20の長さWが10mm、レーザーダイオードバー20から回折格子37までの距離Lが2.6mとなるように配置する。
【0034】
このとき、表2に示すように、レーザーダイオードバー20の右側から1番目のエミッターのロック波長λ
Lが435.37nmとなり、レーザーダイオードバー20の各エミッターのロック波長λ
Lは、1エミッターごとに約0.05nmずつ長波となる。したがって、25番目のエミッターのロック波長λ
Lが、420T.51nmとなり、レーザーダイオードバー20の両端のエミッターのロック波長λ
Lの差Δλ
L_BAR(以下、「レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差Δλ
L_BAR」と称する)は約1.1nmとなる(
図6を参照)。
【0035】
【0036】
同様に、レーザーダイオードバー20から回折格子37までの距離Lが1.3mの場合には、表3に示すように、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差ΔλL_BARは2.3nmである。
【0037】
【0038】
上述のように、波長ビーム結合システム30の配置や部品の設計によって、レーザーダイオードバー20の長手方向中心位置のロック波長λL_CENTER、及び、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差ΔλL_BARの変化量に差はあるが、Wが10mmの場合、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差ΔλL_BARは、1.0~2.5nmが必要となる。なお、上記では透過型の波長ビーム結合システム30に基づいて説明をしたが、反射型の波長ビーム結合システム40においても同様にレーザーダイオードバー20の長手方向中心位置のロック波長λL_CENTER、及び、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差ΔλL_BARの変化量を算出することができる。
【0039】
<レーザーダイオードバーが発振できる波長の範囲>
図7を参照して、レーザーダイオードバー20が発振できる波長の範囲を説明する。
図7中の曲線は、レーザーダイオードバー20のゲイン波長スペクトルの一例を示す。レーザーダイオードバー20がレーザー発振できるのは、ゲイン波長強度が所定値以上の波長に限られる。換言すれば、レーザーダイオードバー20のゲインピーク波長λ
gから所定範囲内のロック波長は発振し、所定範囲外のロック波長は発振しない。
図7の例では、波長ビーム結合システム30の構成からロック波長が波長1であった場合、発振できる波長の範囲内なので、レーザー発振するが、ロック波長が波長2であった場合、レーザー発振できる波長の範囲外なので、発振しない。
【0040】
図8~
図10は、ひとつのレーザーダイオードバー20に配置される各エミッター13のゲインピーク波長λ
gと、波長ビーム結合システム30の構成で決定されるロック波長λ
Lとの関係を示したものである。ロック波長λ
Lは、回折格子37への入射角の変化に対応する一意の値と、傾きを持っている。ゲインピーク波長λ
gは、
図7で示したように、レーザー発振できる一定の範囲を有している。
【0041】
ロック波長λ
Lとゲインピーク波長λ
gとの関係が、
図8に示す例のようであれば、全てのエミッター13において、ゲインピーク波長λ
gの上下限の範囲のいずれかの値が、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差Δλ
L_BARの範囲に収まっているので、レーザーダイオードバー20の全てのエミッター13を発振させることができる。
【0042】
図9のような場合も、全てのエミッター13を発振させることができる。レーザーダイオードバー20のエミッターのゲインピーク波長λ
gの向きが、ロック波長λ
Lの傾きと異なる向きの場合、ゲインピーク波長λ
gの上下限のいずれも、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差Δλ
L_BARの範囲内に収まらない。このままだと、全てのエミッター13でレーザー発振させることができないが、
図3のレーザーダイオードバー20の出射面と非出射面とを入れ替えて、反射膜17と透過膜16とを成膜すれば、ゲインピーク波長λ
gの分布は反転し、傾きを反転することができる。したがって、
図8と同じ構成となり、ゲインピーク波長λ
gの上下限の範囲のいずれかは、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差Δλ
L_BARの範囲に収まっているので、レーザーダイオードバー20の全てのエミッターを発振させることができる。
【0043】
これに対して、
図10のように、レーザーダイオードバー20の長手方向に沿った各位置におけるゲインピーク波長λ
gの傾きの大きさ(すなわちレーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BAR)が、レーザーダイオードバー20の長手方向に沿った各位置におけるロック波長λ
Lの傾きの大きさ(すなわちレーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差Δλ
L_BAR)より大きい場合、レーザーダイオードバー20の両端部において、ゲインピーク波長λ
gの発振できる上下限のいずれもが、レーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差Δλ
L_BARの範囲に収まらないため、外部共振によるレーザー発振が得られないことになる。
【0044】
本開示のレーザーダイオードバー20は、当該レーザーダイオードバー20の製造時の工夫により、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARを小さくし、レーザーダイオードバー20に形成される複数のエミッター13のうち、発振できないエミッター13を低減する。
【0045】
次にレーザーダイオードバー20の製造方法と、レーザーダイオードバー20のゲインピーク波長の算出方法および分布形状の特徴と、について述べる。
【0046】
<レーザーダイオードバーの製造方法>
図1は、レーザーダイオードバー20の製造方法を示す図である。
【0047】
レーザーダイオードバー20の製造方法は、窒化物半導体基板10上に第1導電型クラッド層21と、活性層22と、第2導電型クラッド層23と、形成する工程と、エミッター13を形成する工程と、P側電極及びN側電極を形成する工程と、を有する。第1導電型クラッド層21、活性層22、及び第2導電型クラッド層23は、エピタキシャル成長により形成することができる。また、エミッター13は、リッジストライプ構造として形成されてよい。
【0048】
レーザーダイオードバー20の製造方法は、さらに、複数のエミッター13を有するレーザーダイオードバー20を複数切り出す工程と、レーザーダイオードバー20の光出射側の端面に、透過膜16を形成し、透過膜16が形成された面と対向する端面に反射膜17を形成する工程と、を有する。さらに、切り出した複数のレーザーダイオードバー20を複数組み合わせることで、波長ビーム結合システム30で用いられるレーザーダイオードバーアレイ20Tが製造される。
【0049】
<ゲインピーク波長の算出方法及び分布形状の特徴>
ゲインピーク波長λgは、窒化物半導体基板10上に第1導電型クラッド層21と、活性層22と、第2導電型クラッド層23を積層する工程(以下、エピタキシャル成長と呼ぶ)後に、公知のPhoto Luminescence Spectroscopy測定(以下、PL測定と呼ぶ)を行うことによって、エピタキシャル成長後に、一定の精度で算出することができる。
【0050】
窒化物半導体基板10内のゲインピーク波長λgの分布は、エピタキシャル成長のガス流量や、設備条件、基板の出来栄えにより、様々な特徴をもった分布となる。例えばエピタキシャル成長において、基板面内の温度分布が同心円状であった際には、その面内分布は同心円状になる。また、基板10の結晶面(0001)の法線(結晶軸)から基板表面の法線のずれ量(本発明では、オフ角と呼ぶ)が、窒化物半導体基板10の上下方向で異なっていた場合は、オフ角の分布にともない、ゲインピーク波長λgは窒化物半導体基板10の上下方向に分布する。
【0051】
特に、窒化物半導体の活性層に層全体の組成から、インジウム(In)が3%以上、より詳細には7%以上が含まれている場合は、窒化物半導体基板10のオフ角分布によるゲインピーク波長λgの基板内の分布が顕著に表れる。
【0052】
発振波長が350nm~450nm程度の青紫~青色の半導体レーザーを製造する場合、バンドギャップから計算される波長が、発振波長に近い窒化ガリウム基板(以降、GaN基板と呼ぶ)が母材として好ましく用いられる。
【0053】
通常、GaN基板は、活性層の結晶出来栄えの向上を目的として、ある軸に対して、一定のオフ角(0°より大きく、0.3°~0.7°程度)を傾けている。基板面内のオフ方向の主軸は一意に定まっており、オフ角の主軸方向(オフ角が0°の結晶面に対するスライス面の傾き方向を表す。以下同じ)は、±m軸方向もしくは、±a軸方向の一軸方向であることが一般的である。
【0054】
また、GaN基板は、熱膨張係数が異なる異種基板を使った結晶成長により形成されるため、一般に、SiやGaAsに比べると、GaN基板内に結晶反りが生じやすい。そのため、本願の発明者らの知見によると、GaN基板の(0001)面にオフ角を設けてインゴットからGaN基板を切り出すと、GaN基板の基板面内においては、
図11に示すように、オフ角の主軸方向の一方側から他方側に向かって、オフ角が次第に大きくなる。
【0055】
本願の発明者らの知見によると、例えば、活性層にInGaN層を用いる場合、InGaN層のIn組成はGaN基板面内に存在するオフ角分布に影響を受け、オフ角が大きい領域ではIn組成が小さくなりやすく、発振波長が短波となりやすい(
図14を参照)。具体的には、GaN基板上に、InGaN層をエピタキシャル成長させて形成された半導体レーザーにおいては、当該半導体レーザーの発光波長は、GaN基板のオフ角の変化に応じて30nm/°の割合で変化する。
【0056】
これは、レーザーダイオードバー20をGaN基板上に形成する際、レーザーダイオードバー20(エミッター13)の導波路方向がGaN基板のオフ角の主軸方向と一致している場合、当該レーザーダイオードバー20の長手方向の両端位置でのGaN基板のオフ角の差が小さくなることを意味する。つまり、レーザーダイオードバー20(エミッター13)の導波路方向が、GaN基板のオフ角の主軸方向と一致するように、レーザーダイオードバー20を形成することによって、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARを小さくすることが可能である。本願の発明者らは、かかる知見に基づいて、レーザーダイオードバー20の製造方法を考案した。
【0057】
以下、本発明の実施の形態におけるレーザーダイオードバー20の製造方法を具体的に説明する。
【0058】
<基板の準備>
本開示のレーザーダイオードバー20の製造方法では、窒化物半導体基板10は主面(0001)を有し、m軸又はa軸の少なくとも一方の軸に0°より大きいオフ角を有する。本実施形態では、窒化物半導体基板10としてGaN基板を用いている。GaN基板10は、+m軸方向をオフ角の主軸方向にとり、GaN基板10の中心に0.5°のオフ角を付与し、GaN基板10内のオフ角の分布は+m軸方向に+0.3~+0.7°、+a軸方向のオフ角の分布は、―0.1°~0.1°である。
【0059】
<レーザーダイオードバーのレイアウト>
波長ビーム結合システム30に必要なレーザーダイオードバー20の大きさを確定させ、GaN基板10内に、レーザーダイオードバー20を配置する位置と数量を決定する。
【0060】
<エピタキシャル成長>
GaN基板10に、第1導電型クラッド層21と、活性層全体の組成に対してInを7%含んだ活性層22と、第2導電型クラッド層23をエピタキシャル成長により形成する。成長温度起因によるゲインピーク波長λgの分布がつかないことを目的として、エピタキシャル成長時の基板の温度は、第1導電型クラッド層21及び第2クラッド層23は、900~1,150℃で、活性層22は、800~850℃で、行われることが好ましい。より好ましくは、GaN基板10の面内の温度分布は、±2℃に収まるように、GaN基板10を加熱する部材の形状加工で、温度制御を行っておく。
【0061】
<ゲインピーク波長の算出>
エピタキシャル成長を実施したGaN基板10の面内について、励起波長325nmのHe-Cdレーザーを励起光とするPL測定を室温で行う。このことで、活性層22から、光が励起され、GaN基板10内にレイアウトするレーザーダイオードバー20のゲインピーク波長λgの値を、一定の精度で知ることができる。
【0062】
GaN基板10内のPL測定の結果を取得し、ゲインピーク波長λgのGaN基板10内の分布を描く。PL測定のピークトップ波長とゲインピーク波長λgとは、活性層22の構造、例えば活性層22内の井戸層の数量によって、同値とは限らず、数nm程度、オフセットすることが考えられるので、事前にゲインピーク波長λgとPLピーク波長とのオフセット値を把握しておくことが望ましい。
【0063】
PL測定とオフセット値とを参考にして、GaN基板10内にレーザーダイオードバー20を配置した際の、各レーザーダイオードバー20のゲインピーク波長の基準値λg_CENTER(レーザーダイオードバー20が有する長手方向に並ぶ複数のエミッター13のうちの中間位置に存在するエミッター13のゲインピーク波長を意味する。以下同じ)を割り出す。
【0064】
あわせて、GaN基板10の+m軸方向を上にした際の、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARを算出する。
【0065】
<レーザーダイオードバーのエミッター形成、切り出し、光出射面の選択、及び膜形成>
エピタキシャル成長を実施したGaN基板10のオフ角の主軸方向11、すなわちm軸方向と、レーザーダイオードバー20の導波路方向Dとを一致させて、エミッター13を形成する。ついで、P側電極15及びN側電極24を形成し、エミッター13を形成したGaN基板10から、レーザーダイオードバー20を切り出し、レーザーダイオードバー20の左端エミッター13のゲインピーク波長λgから右端のエミッター13のゲインピーク波長λgを引いた値がプラスのレーザーダイオードバー20には、-m軸方向に透過膜16を、+m軸方向に反射膜17を形成し、左端エミッター13のゲインピーク波長λgから右端のエミッター13のゲインピーク波長λgを引いた値がマイナス値のレーザーダイオードバー20には、-m軸方向に反射膜17を、+m軸方向に透過膜16を形成する。
【0066】
レーザーダイオードバー20の出射面から見た、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARを算出する。上述の通り、左端エミッター13のλgから右端のエミッター13のゲインピーク波長λgを引いた値がマイナスの場合、値はプラスに変換される。
【0067】
<レーザーダイオードバーの選別>
まず、GaN基板10内に形成した複数のレーザーダイオードバー20それぞれについて、全エミッター13を発振可能とするためのレーザーダイオードバー20のゲインピーク波長λgの範囲(即ち、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BAR)を算出しておく。
【0068】
次に、波長ビーム結合システム30の構成から(
図6に示したレーザーダイオードバー20の長手方向に沿う各位置におけるロック波長等)、レーザーダイオードバー20の配設位置に応じた、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARを算出する。
【0069】
このようにして、波長ビーム結合システム30に適用できるレーザーダイオードバー20の位置が割りだせるため、選別を行うことが可能となる。そして、選別したレーザーダイオードバー20を、実際の波長ビーム結合システム30に搭載し、全エミッター13が発振しているか否かの確認を行う。そして、搭載された各レーザーダイオードバー20の全エミッター13が発振している場合、波長ビーム結合システム30は、完成品として扱われることになる。
【0070】
以下、本開示の一実施例に係るレーザーダイオードバー20の製造方法、及び比較例レーザーダイオードバーの製造方法について説明する。
【0071】
[実施例]
<基板の準備>
図12に示すように、主面(0001)からなり、+m軸方向をオフ角の主軸方向とし、基板中心にm軸方向は+0.55°のオフ角を、基板内のオフ角分布は基板中心から20mmの距離で、+0.28~+0.68°、+a軸方向のオフ角の中心は0.02°、基板中心から20mmの距離の分布は、―0.08°~+0.14°の2インチサイズのGaN基板10を準備した。
【0072】
<レーザーダイオードバーのレイアウト>
レーザーダイオードバー20の導波路方向の長さを2.0mm、長手方向の長さを10.0mmとし、GaN基板10のオフ角の主軸方向とレーザーダイオードバー20の導波路方向を一致させ、GaN基板10内にレーザーダイオードバー20を、
図13に示すように60個配置した。
【0073】
<エピタキシャル成長>
GaN基板10に、第1導電型クラッド層21と、活性層全体の組成に対して7.0%のInを含んだ窒化物半導体の活性層22と、第2導電型クラッド層23と、をエピタキシャル成長により形成した。またエピタキシャル成長時のGaN基板10の温度は、第1導電型クラッド層21および、第2クラッド層23は、980℃で、活性層22は、820℃で実施し、GaN基板10を加熱するカーボン製の均熱板を30μmの差分をもつように湾曲に形状させることで、エピタキシャル成長中のGaN基板10の表面温度は、第1導電型クラッド層21および、第2クラッド層23の成長時は、978~982℃、活性層22の成長時は、818~822℃に収まるように、温度制御を行って、エピタキシャル成長を実施した。
【0074】
<各レーザーダイオードバーのλg_CENTER、Δλg_BARの算出>
エピタキシャル成長を実施したGaN基板10を、励起波長325nmのHe-Cdレーザーを励起光とする室温のPL測定で、GaN基板10面内を測定した。
【0075】
図14はPL測定から計算したゲインピーク波長λ
gの結果を示す。
図14に示すように、ゲインピーク波長λ
gの分布は、GaN基板10内のオフ角の分布に依存していることがわかる。なお、PL測定のピークトップ波長から4.0nm加えた値がゲインピーク波長λ
gであることを事前に確認した。
【0076】
ゲインピーク波長λ
gの位置と、
図13に示すレイアウトとを重ね合わせ、60個の各レーザーダイオードバー20のゲインピーク波長の基準値λ
g_CENTERを算出した。
図15に、GaN基板10内の各レーザーダイオードバー20のゲインピーク波長の基準値λ
g_CENTERの値を示す。
【0077】
ついで、GaN基板10の+m軸方向を上にした際の、60個の各レーザーダイオードバーのレーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARを、
図16のように算出した。
【0078】
<レーザーダイオードバーのエミッター形成、切り出し、光出射面の選択及び膜形成>
エピタキシャル成長を実施したGaN基板10のオフ角の主軸方向、すなわちm軸方向と、レーザーダイオードバー20の導波路方向を一致させて、エミッター13を形成した。結晶方位は、GaN基板10に付与されているオリフラ18を基準とした。ついで、P側電極15及びN側電極24を形成し、エミッター13を形成したGaN基板10から、レーザーダイオードバー20を切り出し、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARがプラスのレーザーダイオードバー20には、-m軸方向に透過膜を、+m軸方向に反射膜を形成した。一方、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARがマイナス値のレーザーダイオードバー20には、-m軸方向に反射膜17を、+m軸方向に透過膜16を形成した。
【0079】
図17に、レーザーダイオードバー20の出射面から見た、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARを示す。
図17内のレーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARがマイナスの値、すなわち、
図17の色付けしているレーザーダイオードバー20は、出射面が逆になり、マイナス値のレーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARは、反転されて、プラスの値となる。これにより、透過膜と反射膜とが反対のレーザーダイオードバー20を得ることができた。
【0080】
<レーザーダイオードバーの選別>
波長ビーム結合システム30を、回折格子周期d=0.33μm、L=2.6m、で構成した。この波長ビーム結合システム30において、レーザーダイオードバー20に必要なレーザーダイオードバー20の両端位置のロック波長差ΔλL_BARは、1.1nmであった。また、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARが異なる複数のレーザーダイオードバー20を波長結合システム30へ搭載し、全エミッターが発振できるレーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARは、1.1±1.0nmであることを確認した。
【0081】
GaN基板10内の60個のレーザーダイオードバー20で、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARが1.1±1.0nmを満たすレーザーダイオードバー20は、
図18に示す色が塗られてない位置のレーザーダイオードバー20であり、60個中53個存在していた。それらの53個のレーザーダイオードバー20を、レーザーダイオードバー20のゲインピーク波長の基準値λ
g_CENTERが異なる場合、配置位置を変えて、波長ビーム結合システム30に搭載したところ、全てのレーザーダイオードバー20において、全エミッター13が発振することを確認した。
【0082】
[比較例]
比較例では、オフ角の主軸方向ではない結晶軸、すなわちa軸方向と、レーザーダイオードバー20の導波路方向を一致させて、エミッター13を形成した以外は、実施例とほぼ同値のGaN基板10を用いた。また、その他の条件は、実施例と同じで、レーザーダイオードバー20を作成した。比較例では、
図19に示すように、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARが1.1±1.0nmを満たすレーザーダイオードバーは、GaN基板10にレイアウトしたレーザーダイオードバー20の60個中、22個存在していた。
【0083】
22個のレーザーダイオードバー20を、波長ビーム結合システム30に搭載したところ、2個のレーザーダイオードバー20は、全エミッター13での発振が確認できなかった。
【0084】
本来であれば、22個のレーザーダイオードバー20の全エミッター13が発振するはずだが、PL測定のピーク波長からゲイン波長を計算するときの、一定の換算ばらつきがあり、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλg_BARが大きかった可能性がある。または、実施例において、レーザーダイオードバー20を切り出す際の長手方向は、GaN結晶10が有する劈開面と一致しているため、原子レベルで整った出射面をしているが、比較例では一致していないため、出射面が整わず、レーザー発振が阻害された可能性がある。前述の可能性のいずれか又は両方の複合的な要因で、比較例には、全エミッター13が発振しなかったレーザーダイオードバー20が存在したと考えられる。
【0085】
以上のように、本開示のレーザーダイオードバー20の製造方法によれば、窒化物半導体基板(好ましくはGaN基板10)のオフ角の主軸方向(好ましい主軸はm軸)と、レーザーダイオードバー20の導波路方向とが一致するように、エミッター13を構成する。これによって、窒化物半導体基板10のオフ角に起因するゲインピーク波長の分布が存在していても、窒化物半導体基板10内に構成する複数のレーザーダイオードバー20のうちのより多くのレーザーダイオードバー20において、レーザーダイオードバー20の両端位置のゲインピーク波長差Δλ
g_BARを小さくし、
図8のように、波長ビーム結合システム30のロック波長の範囲に収めることができることが可能となる。これにより、波長ビーム結合システム30の発振出力の性能を向上させることが可能である。
【0086】
また、
図20に示すように、比較例に比べて、実施例では、1枚のGaN基板10で、波長ビーム結合システム30に配置するゲインピーク波長の基準値λ
g_CENTERの異なる複数のレーザーダイオードバー20を多く獲得できる。これによって、レーザーダイオードバー20の生産効率を向上することができる。
【0087】
なお、波長ビーム結合システム30の光学系の部品点数削減や、安定性向上の観点から、また、光学系の調整の工数削減等の観点から、レーザーダイオードバー20の長手方向の長さは、長いほうが好ましい。
【0088】
図21は、実施例と比較例において、レーザーダイオードバー20の長さを変化させたときに、Δλ
g_BARが、その長さで構成させる波長ビーム結合システム30の実現に必要な範囲を満たす割合を算出したグラフである。レーザーダイオードバー20の長さが長くなればなるほど、実施例と比較例との適合率の違いは大きくなる。レーザーダイオードバー20の長さが6.0mm以上においては、比較例に比べて、実施例のほうが40%以上、高い適合率を得られることがわかった。
【0089】
上述の実施形態及び実施例は、本開示の実施形態の一例を示したものに過ぎず、本開示の技術的範囲は上述の実施形態及び実施例には限定されない。すなわち、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、様々の形で実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本開示は、波長ビーム結合システムに用いられるレーザーダイオードバーの製造方法として好適である。
【符号の説明】
【0091】
10 窒化物半導体基板
11 オフ角の主軸方向
12 積層構造体
13 エミッター
15 P側電極
16 透過膜
17 反射膜
18 オリフラ
20 レーザーダイオードバー
21 第1導電型クラッド層
22 活性層
23 第2導電型クラッド層
24 N側電極
25 レーザー光
30 透過型の波長ビーム結合システム
31~35 レーザーダイオードバー
20T レーザーダイオードバーアレイ
37 透過型の回折格子
38 外部共振ミラー
39 反射型の回折格子
40 反射型の波長ビーム結合システム