(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】脳機能評価システム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20240419BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20240419BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20240419BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A61B5/11 230
G16H50/20
(21)【出願番号】P 2023140712
(22)【出願日】2023-08-31
【審査請求日】2023-08-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】300080917
【氏名又は名称】青木 恭太
(73)【特許権者】
【識別番号】505386270
【氏名又は名称】株式会社ソフトシーデーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【氏名又は名称】福田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】青木 恭太
(72)【発明者】
【氏名】新島 健司
(72)【発明者】
【氏名】木村 正樹
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-061625(JP,A)
【文献】特開2016-049282(JP,A)
【文献】特開2021-016634(JP,A)
【文献】特開2019-054988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0089073(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06-5/22
10/00-10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳機能評価システムであって、
手指同士が接触する期間を持つ手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への該例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、
該制御演算部は、該映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間を持つと共に、
手指同士の接触期間である手指接触期間の測定データについて、非接触期間の測定データに基づいて補正を行い、
該映像有期間の該測定データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、
該計算方法により算出した値を、脳機能の評価値とすることを特徴とする脳機能評価システム。
【請求項2】
脳機能評価システムであって、
手指同士が接触する期間を持つ手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への該例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、
該制御演算部は、該映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間と、該映像を停止した後、該映像有期間の映像に倣って引き続き該被験者が運動を行う映像無期間とを持つと共に、
手指同士の接触期間である手指接触期間の測定データについて、非接触期間の測定データに基づいて補正を行い、
該映像無期間の該測定データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、
該計算方法により算出した値を、脳機能の評価値とすることを特徴とする脳機能評価システム。
【請求項3】
前記手指運動を繰り返す動作は、親指と他の指とでタップする指タッピング動作であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の脳機能評価システム。
【請求項4】
前記補正は、刺激運動周波数において、手指接触期間の逆位相にあたる期間の前記測定データによって行うことを特徴とする
請求項1又は請求項2に記載の脳機能評価システム。
【請求項5】
前記例示データは、前記手指運動を繰り返す動作の1周期の一部が手指接触期間となっていることを特徴とする請求項3に記載の脳機能評価システム。
【請求項6】
前記手指接触期間は、刺激運動周波数の周期の10%以下であることを特徴とする
請求項5に記載の脳機能評価システム。
【請求項7】
認知障害の評価に用いることを特徴とする請求項3に記載の脳機能評価システム。
【請求項8】
軽度認知障害の評価に用いることを特徴とする請求項3に記載の脳機能評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能評価システムに関し、詳しくは、手指を接触させる動作を含む手指運動を繰り返す動作による脳機能評価において、評価を簡便に行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、認知症等の脳機能障害を含む脳機能を評価する方法として、MMSE(Mini Mental State Examination)などの質問形式の検査や、指間を接触させたり、離したりを繰り返す指タッピング動作(以下、指タップともいう)などの運動機能から解析する方法が知られている。
また、出願人は、映像に沿って手のひらを回動し、その回動の角度の変化を周波数解析し、回動の周期の周波数とそれよりも高い周波数との比率で評価する方法を開発している。
ところで、指タッピング等の手指同士を接触させる動作も、被験者がイメージしやすく、手のひらの回動よりも簡単な手指の繰り返し運動として有効である。
【0003】
しかしながら、手のひらの回動と異なり手指同士を接触させる動作は、接触の瞬間、動きが不連続になるため、繰り返しの周期が分断され、その分、不要な周波数成分が発生する。そのため、手のひらの回動と同様には評価ができないという問題があった。
そこで、測定可能な手指の繰り返し運動を増やす意味で、手指同士を接触させる動作を含む繰り返し動作においても、繰り返しの周期の周波数とそれよりも高い周波数との比率で、運動調節機能の能力を評価することが可能な方法が求められていた。
【0004】
このような技術に対して、本願出願人は、手指の回動を用いた協調運動評価システムについて、既に出願を行っている(特許文献1参照)。より詳しくは、協調運動評価を行うために、映像に沿って手指を回動し、手指の回動の角度をセンサで検知し、そのデータを周波数分析し、評価値を得るシステムである。
しかしながら、上述のように、本先行技術による構成では、手指同士を接触させる動作を含む場合に同様の評価が難しく、上記問題の解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑み、手指同士の接触動作を含んだ手指の繰り返し動作から取得されるデータを適宜補正することにより、高精度で安全かつ簡便に、回動動作を用いた場合と同様に脳機能を評価可能なシステムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、脳機能の程度を評価可能なシステムであって、手指同士が接触する期間を持つ手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、該制御演算部は、該映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間を持つと共に、該映像有期間の測定データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、該計算方法により算出した値を、脳機能の評価値とする手段を採る。
【0008】
また、本発明は、脳機能の程度を評価可能なシステムであって、手指同士が接触する期間を持つ手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、該制御演算部は、該映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間と、該映像を停止した後、該映像有期間の映像に倣って引き続き該被験者が運動を行う映像無期間とを持つと共に、該映像無期間の測定データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、該計算方法により算出した値を、脳機能の評価値とする手段を採る。
【0009】
さらに、本発明は、手指運動を繰り返す動作が、親指と他の指とでタップする指タッピング動作である手段を採る。
【0010】
またさらに、本発明は、前記制御演算部が、手指同士の接触期間の前記測定データについて、非接触期間の測定データに基づいて補正する手段を採る。
【0011】
さらにまた、本発明は、前記補正が、刺激運動周波数において、指接触期間以外の測定データによって行う手段を採る。
【0012】
またさらに、本発明は、前記例示データが、手指運動を繰り返す動作の1周期の一部が指接触期間となっている手段を採る。
【0013】
さらにまた、本発明は、前記指接触期間が、刺激運動周波数の周期の10%以下である手段を採る。
【0014】
そしてまた、本発明は、認知障害あるいは軽度認知障害の評価に用いる手段を採る。
【0015】
本発明に係る脳機能評価システムによれば、手指を接触させる動作を含む手指運動を繰り返す動作から得られたデータを適宜補正することによって、周波数成分による解析が可能となって、手の回動より簡単な多くの動作を用いて、脳機能の評価を行うことが可能となるため、対象者の拡大や対象者の負担軽減に資すると共に、高精度で安全かつ簡便に評価を行うことができる、といった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る脳機能評価システムの実施例を示すシステムブロック図である。
【
図2】本発明に係る脳機能評価システムの実施の手順を示す模式図である。
【
図3】本発明に係る脳機能評価システムの測定データを示す説明図である。
【
図4】本発明に係る脳機能評価システムの実施時の測定データを示す説明図である。
【
図5】本発明に係る脳機能評価システムのデータの周波数成分を示す図である。
【
図6】本発明に係る脳機能評価システムのデータの補正の手順を示す模式図である。
【
図7】本発明に係る脳機能評価システムにおける手指接触期間と周波数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る脳機能評価システムは、手指同士が接触する期間を持つ手指運動を繰り返す動作によって、脳機能評価を短時間で簡便・安全・客観的かつ数量的に行うことが可能なことを最大の特徴とする。
以下、本発明に係る脳機能評価システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
なお、以下で示される脳機能評価システムの全体構成及び各部の構成は、下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内、即ち、同一の作用効果を発揮できる構成態様の範囲内で適宜変更することができるものである。
【0019】
図1から
図7に従って、本発明を説明する。
図1は、本発明に係る脳機能評価システムの実施例を示すシステムブロック図である。
図2は、本発明に係る脳機能評価システムの実施の手順を示す模式図である。
図3は、本発明に係る脳機能評価システムによるセンサからの測定データを示す説明図である。
図4は、本発明に係る脳機能評価システムの実施時、センサからの測定データを時間に沿って示した説明図である。
図5は、本発明に係る脳機能評価システムのデータの周波数成分を示すヒストグラム図である。
図6は、本発明に係る脳機能評価システムのデータの補正の手順を示す模式図であり、(a)から(c)が、補正を行う位置を特定するための相関値を算出する手順を示し、(d)から(e)が、補正を行い、その際の始点、終点の整合を図る手順を示している。
図7は、本発明に係る脳機能評価システムにおける手指接触期間を示す波形図と周波数特性及びNSM値を示す図であり、(a)は手指接触期間が全体の40%の場合、(b)は20%、(c)は10%の場合を示している。
【0020】
評価装置1は、脳機能評価を行うためのシステムである。このシステムで、被験者の運動を測定、解析することで、被験者の脳機能の程度を評価するものである。また、進行の状態が把握しにくい認知障害や認知障害の初期である軽度認知障害(MCI)の評価を数値化できる。
本実施形態では、親指と他の指とでタップする指タッピング動作での評価について説明する。
評価装置1は、主に、センサ100、表示部110、制御演算部130、記憶部140からなる。
【0021】
センサ100は、被験者の運動を計測するものであり、詳しくは、被験者の親指の先端と人差指の先端との距離を計測するものである。
計測値は、指間の距離がゼロの状態、言い換えれば、指同士が接触している状態と、指間の距離が最も大きくなった状態とを往復する値として取得される。
往復の速さは、ガイドとして表示する画像に沿う速度とする。ガイドの往復の速さは、1周期1秒程度とする。センサによる測定によって、手指の動きの周波数成分として、例えば、25Hz程度までの周波数成分の測定を行うのであれば、25Hzの倍である50Hz以上の周期でのサンプリングが必要である。本実施例では、余裕を持たせ、100Hzでサンプリングする。
【0022】
センサ100は、親指の先端と人差指の先端とに指キャップ状の測定器を取り付け、両方の測定器の距離を、磁気的又は光学的に読み取る方法である。かかる方法によって、指間の距離を正確に計測することができる。
また、カメラ映像から親指、人差指の距離を算出する方法でもよい。かかる方法を採ることによって、被験者への装置取付等の負担を軽減することができる。
さらに、他の例としては、性能及び価格の点から、LEAP MOTION(リープ モーション インコーポレーテッド社 登録商標)等の赤外線センサが挙げられる。手から数十センチ離れた位置に、LEAP MOTIONを置くことで、被験者の手に特別な処理を行うこと無く、手指の動きを三次元で詳細に計測することができる。例えば、親指の先端と人差指の先端の両方の動きの3軸データを抽出できる。したがって、指間の距離も正確に計測することができる。
【0023】
表示部110は、被験者に対し、手指の動きの基準となる例示データに対応した映像データである例示映像を示したり、計測結果や評価値を表示したりする部分である。表示部110は、被験者が手指の繰り返し運動をしながら、無理なく視ることができる位置にあると好適である。そのような位置にあることで、手指の繰り返し運動に集中できるからである。大きさは、被験者が、目を凝らすことなく確認できる大きさが好適である。また、手指の繰り返し運動の映像を表示するため、表示部110上の手の大きさが実際の手の大きさに近い方が、より違和感が少なく好適である。
【0024】
尚、音声によって、被験者に対して検査のガイダンスを行ったり、開始や終了を通知したり、測定値や評価値の通知を行ったりすることが可能なスピーカ120を備える態様も考え得る。表示部110によって通知等を行うことができるが、音声でも伝えることで、より通知の効果が高くなると共に、視力の弱い人には、表示部110による通知よりも有効である。
また、測定自体についても、音声でも説明したほうが、被験者にとって理解しやすいことが多い。例えば、「指タップ映像にあわせて指をタップしてください」や「表示が消えても指を動かし続けてください」等、音声で説明された方が、被験者にとってスムーズに作業を進めることができる。
さらに、音声、ランプ等について、指を動かす周期に応じて変化させることで、映像の代わりとしても良く、特に視覚障害者や視力の弱い人に対して、好適である。
【0025】
制御演算部130は、評価装置1全体の制御、データの演算等を行う部分である。言い換えれば、表示部110への映像データ210の表示の指示及び取得した測定データ230の演算を行う。
制御としては、評価装置1の起動、測定のガイダンスの表示の指示、表示部110への例示画像である映像データ210の表示の指示、スピーカ120への発音の指示、センサ100の動作指示、取得データの記憶部140への格納、表示部110への測定値、評価値の表示の指示等を行う。
また、制御演算部130は、手指同士の接触期間およびその周辺の期間の測定データについて、非接触期間の測定データに基づいて補正を行う。
取得した測定データ230は、ピリオドごとに分けられ、管理される。
各ピリオドの測定データ230は、記憶部140に分割せず格納され、分割のための情報を別に格納される。必要に応じて、1秒単位の測定単位データ240に分割されたデータを生成してもよい。また、データの処理方法によっては、1秒単位の測定単位データ240に分割して記憶部140に格納しても良い。
ピリオド単位で評価値を算出する。いずれのピリオドについても、評価値を算出することができる。
所定のピリオドについて、測定単位データ240毎に手指接触期間の補正を行い、FFTを行い、手指の繰り返しの周波数である刺激運動周波数250と、測定データ230との関係を算出する。算出された複数の値から代表値を算出し、評価値とする。
左右両方の手指について計測する場合には、左右別に、測定単位データ240毎に、刺激運動周波数250と測定データ230との関係を算出し、代表値の算出を行い、2つの代表値を適宜処理して、最終の評価値とする。
【0026】
制御演算部130の各動作、処理を説明する。
測定のガイダンスの表示の指示としては、表示部110に、「運動評価の測定を行います。画面の手の動きにあわせて、親指と人差し指を付けたり離したりしてください。10秒後に映像は消えますが、映像が消えた後も15秒間、親指と人差し指を付けたり離したりする動作を消えた映像と同じように繰り返してください」等の説明を表示する。被験者に対し、スムーズに測定へ移行させることができる。
表示部110への例示画像の表示の指示によって、記憶部140内の映像データ210を動画として、表示部110に表示する。映像データ210は、動画データでもいいし、静止画データの集合でもよい。被験者に対し、指タップする様子を教示するものである。
【0027】
センサ100に対しては、測定開始、中止の指示を行う。計測中、センサ100からデータを受信し、計測時刻と共に、記憶部140に測定データ230として記憶する。
測定を開始し、ピリオド1の期間である10秒間が経過後、表示部110の表示を停止する。センサ100のデータは、この時点で、ピリオド1のデータとしてグループ化し、1秒単位の測定単位データ240群として、記憶部140に記憶する。その後、5秒ごとに、ピリオド2から4のデータとして、センサ100のデータを各1グループとし、1秒単位の測定単位データ240群として、記憶部140に記憶する。
映像を消してから15秒後に、「お疲れ様でした。測定終了です。」等、表示部110に表示し、必要に応じて音声も出力する。
【0028】
測定完了後、測定データの周波数分析等を行い、評価値を算出する。このとき、測定データは、手指接触期間241により発生した複数の周波数を含むことになる。したがって、計測結果のままでは、理想刺激運動が単一波を持つことを前提とした運動調節機能評価方式を用いることができない。そこで、手指接触期間により発生した複数の周波数成分を低減するように、測定データを補正する。
具体的には、測定データの手指接触期間241を手指非接触期間のデータで補正し、単一周波数である刺激運動周波数250と、補正後の測定単位データ230の周波数との関係を算出し、代表値を算出し、評価値を得る。
このように、制御演算部130は、映像に倣って被験者が運動を行う映像有期間と、映像を停止した後、映像有期間の映像に倣って引き続き該被験者が運動を行う映像無期間とを持つと共に、映像無期間の測定データから、手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、刺激運動周波数成分以外の周波数から1つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比(刺激運動外成分を刺激運動周波数成分で割った値)を算出する計算方法を持ち、該計算方法により算出した値を、脳機能の評価値、あるいは、評価値の元データとするものである。
【0029】
尚、映像有期間は、少なくとも8秒以上、好ましくは10秒以上とする。被験者が映像に示された動きを認識し、その動きにあわせた動きを開始するために少なくとも3秒、さらに被験者の映像にあわせた動きを評価するために5秒以上の計測期間が必要である。また、映像無期間は、少なくとも10秒以上、好ましくは15秒以上とする。10秒より少ないと、刺激映像消失後の被験者運動の変化を評価するための測定データが不足するからである。
【0030】
記憶部140は、プログラム及びデータを記憶する部分である。不揮発性メモリと揮発性メモリから成る。不揮発性メモリには、プログラムや、手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データ200、例示データに対応した映像データ210など、値が確定したデータが記憶されている。
プログラムは、評価装置1の制御の手順を記述した部分である。評価装置1製造時に組み込まれていても良く、あるいは、適宜アプリケーションとして、後からインストールされても良い。
例示データ200、映像データ210は、被験者に運動をさせるためのガイドとなるデータである。そのため、例示データ200、映像データ210は、常に評価装置1内に記憶されている必要がある。測定データ230、測定単位データ240、基本周波数成分250、HIGH周波数成分260は、測定の都度、発生、計算されるデータであるので、揮発性メモリに記憶される。
【0031】
例示データ200、映像データ210、測定データ230、測定単位データ240について説明する。
例示データ200は、指間を広げたり、狭めたりする際の指の距離を示す値であり、最も指間を開いた状態から、指間を接触させ、再度、指間を最も開いた状態とするまでを1周期とし、1秒間で1周期することを示すものである。波形としては、1秒間で1周期のサイン波を基本とする。波形をサイン波とすることによって、手を180度回動させる場合と同様の周波数構成とすることができる。1周期のサイン波形の一部は、ある値で制限された形となるが、1周期の中に停止期間があるだけで、全体としては、1秒1周期のサイン波を基本周波数とすることができる。
また、例示データは、手指運動を繰り返す動作の1周期の一部が手指接触期間となっていることとする。
手指接触期間及びその近辺の測定データは、補正する必要があるので、手指接触期間は、非接触期間よりも小さくする。本実施例では、1周期の1/5を指接触期間としている。
例示データとしては、少なくとも1周期のデータを持ち、必要な回数繰り返す等、適宜使用する。例示データは、理想刺激運動データとも言う。
【0032】
映像データ210は、例示データ200に対応した実際の手指の位置を示す映像の集合体である。映像群は、静止画の集合でもいいし、1周期の動画データでも良い。
測定データ230は、各ピリオドごとのデータであり、測定単位データ240は、測定データ230を更に分割したデータである。
25Hz程度までの周波数成分を抽出するため、データのサンプリング周波数は、最低で50Hz必要である。本実施例では、サンプリング周波数を100Hzとしている。従って、0.01秒間隔で、計測したデータ群となっている。
【0033】
脳機能の評価値を求める際、測定するピリオドについて、その全域のデータである測定データ230を、一括で処理することも考えられるが、突発的な変動などのノイズに近い動作を排除するために、測定単位データ240毎に処理を行う。
分割する単位時間の長さは、手指運動を繰り返す動作の1周期以上である。処理にFFTを用いる場合、基本周波数の周期以上の期間が無いと基本周波数の抽出を十分に行うことができないからである。
本実施例では、基本周波数である1Hzの計測可能な期間として、測定データ230を1秒ごとに分割して、測定単位データ240とする。
つまり、測定データの計測期間を複数の単位期間に分割するものである。
各単位期間ごとに、理想刺激運動に対する測定値の特徴量を算出し、その代表値を、脳機能の評価値とする。
【0034】
図3は、理想的な指タップ運動である理想刺激運動と、理想刺激運動に対応する被験者の反応運動例の指間の距離値を示す図である。横軸は時間である。縦軸は、指間の距離値である。
理想刺激運動は、サイン波形の一部が欠けた波形であり、1Hzを基本周波数としている。
映像有期間である最初の10秒間、理想刺激運動の映像データに倣って、被験者が反応し、映像無期間である後半の15秒は、理想刺激運動の映像データを停止し、被験者が、理想刺激運動を推定かつ記憶し、反応した波形である。
最初の10秒は、刺激運動映像が表示されているので、健常者では反応運動が理想刺激運動と大きく異なることはない。しかし、10秒以降は刺激運動映像の表示が停止しているので、反応運動と理想刺激運動の差は補正されることなく蓄積して、相互の差は拡大する。
前半は、被験者が、理想刺激運動を見たままに、似せた運動を行うため、脳の記憶に関する部分の関与は少ない。後半は、過去に見た理想刺激運動についての記憶に基づき運動を行うため、脳の記憶に関する部分の関与が大きくなる。
そのため、後半で、理想刺激運動とのズレが大きくなる被験者は、認知障害や軽度認知障害の特徴の一つである、直前の動作の記憶(短期記憶)について障害があると推定することができる。
【0035】
本発明では、理想刺激運動がサイン波形の一部を欠いた波形となり、1Hzを基本周波数とし、他の周波数を含む波形である。
この理想刺激運動に倣った被験者の運動の測定データも、サイン波形の一部が欠けた波形に倣ったものであるので、基本周波数である1Hz以外の周波数を元々、内存している。
そのため、基本周波数と他の周波数との比から被験者の評価を行うと、本来の評価値とズレを生じる可能性がある。
そこで、測定データに対し、手指接触期間241部分を補正する処理を行う。
補正処理は、刺激運動周波数において、手指接触期間の逆位相にあたる期間の測定データを用いて行う。
【0036】
補正の概要としては、手指接触期間及びその近傍を含まず、最大値を含む区間を基準データ(補正データ)とし、反転(-1倍)し、手指接触期間を含む測定データ区間との相関係数を求め、相関係数が最も大きくなる位置を基準として補正を行う。
また、補正データと測定データの接続点で連続になるよう、補正データを線形接続する。線形接続するには、様々な方法があるが、本実施例では、補正データの時間軸を調整する方法について説明する。
すなわち、関数at+bを補正データの各時刻の値に加える。a,bは、接続点である始点、終点で連続するような値とする。
【0037】
詳細を
図6に沿って説明する。
測定データ230は、
図6(a)のように、例示データ200と同様に、概ねサイン波で一部が平坦な波形である。波形の最も高い位置が、最大指間隔値271であり、親指と人差指の間の距離が最も大きな状態を表している。波形の最も低い位置が、接触時指間隔値272であり、指間が接触している状態である。このときの値を、ゼロとする。
また、仮に、サイン波でマイナス部分も存在するとした場合を、サイン波推定波形242としている。このときの値は、推定される最小指間隔値273である。
例えば、親指と人差指とが接触している期間である手指接触期間241が、1周期の10分の1であるとすると、手指接触期間241は、0.1秒である。その際の推定される最小値273は、サイン波形から算出して、約-0.1である。
補正は、手指接触期間241に加え、前後の0.1秒も行うとすると、合わせて0.3秒間について補正を行うことになる。補正期間30%に対して50%から60%程度を基準として補正すると、補正される期間と、補正するデータが重なることが無いので、好適である。補正の期間は、測定、実験等で決定する。
【0038】
手指接触期間241付近を補正するためのデータは、測定データの手指の非接触期間から取得する。手指接触期間241の影響が少ないデータとして、最も遠い領域と考えられる最大指間隔値271付近のデータを用いる。
補正を行う際、補正される領域の波形と補正で用いる波形との相関係数が高いほど、スムーズな補正ができると考えられる。そこで、最大指間隔値271付近の補正に用いる予定の波形を切り出し、相関確認用データ270とする。
相関確認用データ270は、例えば、最大値271から左右に0.25秒分、全体として0.5秒分のデータである(
図6(a))。
【0039】
相関確認用データ270に-1を掛け、波形形状を上下反転させる。
従って、相関確認用データ270は、補正すべき手指接触期間241付近の形状と似た形状となる(
図6(b))。
【0040】
0.5秒分の相関確認用データ270と、測定データの任意の領域の0.5秒分との相関係数について、相関関数を用いて算出する。
確認する領域は、1周期の開始点から、1周期の終了点から若干のオーバーラップ分まである。データを順次移動させながらすべての相関係数を算出する(
図6(c))。
相関係数が最も大きかった領域が、元のデータと相関確認用データ270の波形が最も合致する位置である。相関確認用データ270ともっとも合致する領域の中心部分3/10を補正する.
【0041】
図6(d)は、元の波形データと、補正用データ280の関係を示すものである。この例では、相関確認用データ270の中央の0.3秒分を補正用データ280としている。手指接触期間241の0.1秒と前後の0.1秒で、計0.3秒分の測定データを補正する。
手指接触期間241の前後の波形のゆがみが少ない場合は、前後を0.1秒よりも狭めても良い。その際は、補正用データ280の範囲を、それに応じて狭める。
【0042】
補正用データ280の補正用データ始点281を測定データ補正始点290に、補正用データ終点282を測定データ補正終点291に合わせる。(
図6(e))。
始点、終点を連続となるように、補正用データを線形接続する。始点、終点で連続となるようにat+bの係数a,bを決定して補正用データにat+bの各時刻の値を加える。
補正のためのa,bを算出する。測定データ補正始点290のy値をh
0、測定データ補正終点291のy値をh
1とする。
補正用データ始点281のx、y値をx
0、y
0、補正用データ終値282のx、y値をx
1、y
1とする。
連立式
(式1) h
0=y
0+ax
0+b
(式2) h
1=y
1+ax
1+b
連立方程式に、h
0、y
0、x
0、h
1、y
1、x
1を代入してa,bを得る。本実施例では、h
0=0.3、y
0=-0.7、x
0=0.6、h
1=0.3、y
1=-0.7、x
1=0.9とする。
a,bを算出するとa=0、b=1.0である。
補正用データに0t+1.0を加えることで、補正用データを線形接続することができる。
したがって、測定単位データ240と調整後補正用データ284とは、接続部分でスムーズな接続とすることができ、全体として無用な高い周波数成分を抑えた波形とすることができる。
【0043】
このように、測定データを補正することによって、手の回内・回外運動と同様に、刺激運動周波数250と測定データ230との関係を算出する評価方法が利用可能となる。
【0044】
刺激運動周波数250と測定データ230との関係を算出する方法として、NSM(Non Smoothness Measure)の値を算出する方法がある。
NSMとは、刺激運動を正弦波とした場合に、被験者の動きである測定単位データが、その正弦波とどの程度異なっているかを数値化するものである。
測定単位データ240を周波数成分に変換し、刺激運動周波数250と、それ以外のより高い周波数との信号強度の比率を算出する。
【0045】
具体的なNSMの算出手順を説明する。
測定単位データ240をFFT(Fast Fourier Transform)によって、周波数成分ごとの信号強度と位相に変換する。本実施例では、手指を1Hz周期で動かしているので、基本周波数である刺激運動周波数250は、1Hzである。
周波数成分として、1、2,3,4,5、6,7,8,9・・・25Hzの成分が挙げられる。
信号強度の周波数成分の例を、
図5に示す。基本周波数である刺激運動周波数250が1Hzである。2,3,4,5,6,7,8,9・・・25HzがHIGH周波数260となる。HIGH周波数の成分の信号強度合計が、HIGH周波数成分となる。
【0046】
周波数nの信号強度成分値をpnとすると、NSM(Non Smoothness Measure)の値は、
(式3)NSM=(p2+p3+p4+・・・+p25)/p1
(式3)において、pnは、nHz成分の信号強度である。
基本周波数であるp1の信号強度値で、p2からp25の周波数成分の信号強度合計であるHIGH周波数成分を割った値である。
測定データ230が、理想刺激運動と同じ波形であれば、p2からp25の値はゼロであるので、NSMはゼロとなる。理想刺激運動との隔たりが大きいほど、p2からp25の値は大きくなり、NSM値は増加する。言い換えれば、NSM値が大きければ、基準についてのブレの成分量の比率が大きいことになる。
NSM値は、1秒単位のデータである測定単位データ240単位で算出される。
この例では、p2からp25のすべての値を加算したが、検査上有効と思われる成分のみを加算しても良いし、周波数ごとに重み付けを変更しても良い。
【0047】
NSMは、理想刺激運動を基準とした被験者の反応運動を見るものであるので、理想刺激運動を例示画像として表示して、計測を開始する。
例えば、例示画像の表示無しとしてしまうと、基準がないことから、被験者は思い思いの運動周期で反応する。すると、計測の基準が、単位時間に何回できたか、を見るような形になりがちであり、運動能力を評価することには適するが、脳の運動調節機能を評価することは困難となる。
被験者は、可能な限り、速く、手指を動かすことを強いられ、疲労してしまうことも多い。例示画像の表示は、被験者の負担を軽減する意味でも有効である。
また、本実施例では、手指の接触動作を含むので、手指の接触時間を管理しないと、測定の精度が落ちてしまう。例示映像を用いることによって、被験者は、全体の動きの周期と共に、手指の接触時間も例示映像に合わせることになるので、手指の接触時間を管理できる。
したがって、接触時間についての補正を精度よく行うことができ、結果的に、測定精度を向上させることができる。
本実施例では、例示データの周期を1秒周期としている。周期が短いと、高齢者等での負担が大きくなるからである。周期が1秒であれば、比較的ゆっくりとした周期であるので、被験者が、十分追従できる。
このような値とすることで、子供から高齢者まで多くの人について、容易に作業ができるため、精神的な負担なく、測定を行うことができる。
【0048】
測定単位データごとに、NSMで刺激運動周波数と測定データとの関係を算出した後、NSM値群について、代表値を算出する。
例えば、5個のNSM値が算出された際、それらから代表値を算出する。
代表値としては、平均値、中央値、最小値などが考えられる。
また、標準偏差値、変動幅を用いることも考えられる。標準偏差値を用いることによって、被験者の運動の安定性を評価できる。健常者であれば、ばらつきは小さいので、標準偏差値は小さくなる。障害の程度が大きくなるほど、標準偏差値は大きくなるからである。
変動幅を用いることによって、被験者の手指の運動の変動の最大幅を把握することができる。健常者であれば、ブレの最大幅は極めて小さくなるが、障害の程度が大きくなるほど、変動が大きくなるからである。
代表値が、平均値の場合は、5個のNSM値の平均を算出する。
例示画像を見ながら手指を動かす場合など、測定データ230が比較的安定している場合は、NSM値にバラツキ、ブレが少なく、ノイズは小さいことから、代表値として平均値が有効である。
例示画像を見ずに、手指を動かす場合など、測定データが比較的不安定な場合には、NSM値にバラツキがあり、上下のブレが大きいので、上下に振れた値を除外できる中央値が有効である。
【0049】
また、単純に左右それぞれの計測値を評価値とするのではなく、左右の値の差分、その絶対値を取っても良い。このような値を用いることで、左右の動作の違いから、脳機能の状態を詳細に推定できる場合もある。
【0050】
図2、
図4に沿って、測定手順について説明する。
図2は、測定の様子を模式的に表したものである。図に示すように、測定は両方の手について行う。
左右いずれかの手のみでも測定可能であるが、一般的に、左右の手指を同時に動かした場合には、左右の動きが極めて良く同期する。また、左右の手を同期させて動かす際には、運動調節性能が向上する。両手動作の場合には、両手の協調と共により広範囲の脳機能が連合して動作し、運動調節機能が向上すると考えられるからである。逆に、片手のみでの動作を実施した場合、運動の調整機能が劣化すると考えられる。
図4は、ピリオド1から4の例示データと測定データを示す図である。横軸は時間、縦軸は指の間隔の距離値であり、各ピリオドにおける例示データの指間隔の距離の波形と、被験者の指間隔の距離の波形を表したものである。波形の上部に記載した連番は、測定単位データを順番に並べた測定単位データ番号220である。本実施例では、1秒単位で25秒間なので、1から25となる。
各ピリオドの波形のデータが、波形データ230であり、各ピリオドでの1秒単位のデータが、波形単位データ240である。
【0051】
測定は、4つのピリオドが連続して行われる。ピリオド1は映像有期間であり、被験者は、表示部110の映像データ210に倣って、被験者の右手RH、被験者の左手LHの指をタッピングする(
図2上部)。
図4に沿って言えば、例示データ200に倣って、被験者が指タッピングを行い、例示データ200に近い動作を行う。したがって、測定データ230は、例示データに近い形のデータとなる。
なお、測定データ230は、右手のデータと左手のデータの両方がある。
【0052】
ピリオド1に連続して、ピリオド2,3,4が行われる。
ピリオド2,3,4は、映像無しの期間であり、被験者は、表示部110の映像が消えた後も、引き続き、指タッピングを行う。(
図2下部)。
ピリオド1には、被験者に動きを慣れさせる意味と、映像を記憶させる意味があるので、8秒以上必要である。本実施例では、余裕を見て10秒としている。
ピリオド2,3,4は、計測作業を行う部分である。ピリオド2は計測を行う期間であり5秒間の期間を要する。ピリオド3,4は、継続して指タッピングを行う期間である。
ピリオド2,3,4の合計期間は、10秒以上が適当である。本実施例では、余裕を見て、各ピリオド2,3,4とも5秒とし、合計15秒としている。
図4に沿って言えば、被験者は、映像無期間であるピリオド2,3,4の間、例示データ200の映像を思い出しながら、例示データ200に近い動作になるよう指タッピングを行う。したがって、測定データ230は、記憶の中の例示データに倣った形であり、ピリオド1よりも例示データとの差は大きくなる。
【0053】
本実施例では、ピリオド2の波形データ230を評価値生成のために用いる。つまり、評価値生成に用いる映像無期間の測定データは、映像無期間を複数の分割した際の最初の期間であるピリオド2のみから取得する。
脳機能のうち脳機能障害について考えると、認知障害、軽度認知障害については、短期記憶について確認することが重要である。
ピリオド2は、刺激映像が消えた直後なので、非常に短期であるが、運動記憶に頼って指を動かしている部分である。そのため、ピリオド2のデータは、記憶と運動との連動についての相関を確認するために有効なデータといえる。
また、測定データにピリオド2を用いる際の、ピリオド3、4の意味合いとして、これらのデータを補助的に用いることも場合によってあり得ると共に、被験者にピリオド3,4まで手指を動かすことを指示することで、後半にダレてしまうような被験者であっても、良好な前半のデータを取得することができるため、有効である。
【0054】
ピリオド2の右手と左手の波形単位データ240を選択する。波形単位データ240は、波形単位データ番号が11から15の5つである。それぞれ5個である。
これらについて、NSM値を求める。
求められたNSM値について、右手と左手各々の代表値として、中央値を求める。
評価値として、左右の手の代表値のいずれかを選択しても良く、あるいは、両方から導かれた数値としても良い。
【0055】
健常者の場合には、左右の手の動きは、きわめて良く同期する。従って、左右の手の動きは、ほぼ同じであるので、当然、左右のそれぞれの代表値も近い値となる。したがって、代表値が十分良好な場合は、左右いずれの値を使っても十分である。
軽度認知障害(MCI)の検査の場合、左右差はあまりないと想定されるので、計測がより良好な右側の計測値に注目する。計測が良好であることが保証されている場合には、左右ともに解析し、左右それぞれの計測値の良い方若しくは悪い方を評価値とすることも考えられる。
算出された評価値に基づいて、被験者に対して、医師への相談を進めたり、定期的な検査を勧めたりしていく。
【0056】
このように、本実施例によれば、脳機能の評価、特に、認知障害、軽度認知障害の評価について、対象者に対し、多くの質問等を行ったり、器具等の装着を行ったりすることなく評価できるため、対象者の負担が少なく、容易に評価を行うことができる。
また、本実施例によれば、わずか25秒で、認知障害や軽度認知障害の数値評価が可能であり、検査効率を向上させることができる。
さらに、本実施例によれば、測定の基準として映像があるので、個人のバラツキが少なく、精度よくデータを収集することができる。
またさらに、本実施例によれば、繰り返し動作が1秒に一回であるので、高齢者でも楽に行うことができる。
【0057】
実施例として、ピリオド2の測定データを用いた例を説明したが、ピリオド1を用いることで、被験者の測定時間を短くすることができる。
例示無しの期間での測定を行う際には、合計18~25秒程度の時間がかかるが、例示有りのみの場合は、8~10秒程度でよいので、被験者の負担をさらに軽減することができる。
尚、測定時間は、被験者の手指の動きの慣れ、計測の精度から、少なくとも8秒以上必要であるが、本実施例では、余裕を見て10秒としている。
【0058】
測定は、ピリオド1、10秒のみである。ピリオド1は映像有期間であり、被験者は、表示部110の映像データ210に倣って、被験者の右手RHおよび左手LHの指タッピングを行う(
図2上部)。
図4に沿って言えば、ピリオド1で完了するので、10秒間、例示データ200に倣って、被験者が指タッピングを行い、例示データ200に近い動作を行うのみで測定が完了する。
ピリオド1の右手と左手の波形単位データ240、それぞれ10個、計20個について、それぞれのNSM値を算出する。右手、左手それぞれに、代表値を算出する。例示データに倣った動作であり、変動は少ない場合が多いので、代表値は平均値とする。
右手、左手の代表値のいずれか、または両方を用いて、評価値を算出する。
【0059】
被験者は、10秒という短時間で、スピーディーに、認知障害、軽度認知障害等の脳機能についての検査を受けることができるので、検査へのハードルも低くなり、検査の機会を増やすことができる。
そして、検査で医師の確認が必要と判断された場合は、その旨を通知し、診断を促すことができる。
【0060】
本発明に係る評価システムは、短時間で検査が可能であることから、特定の個人について、定期的に検査を行い、評価値の変化を確認することで、脳機能の状態についての微妙な変化を確認することができる。
したがって、定期的な健康診断等に取り入れることも有益である。
【0061】
本実施例では、手指の接触期間の測定データを、非接触期間の測定データで補正する例を説明したが、手指接触期間241の長さを調整することで、補正処理を省略する例を説明する。
既に説明したように、手指接触期間241を持つことによって、例示データが、刺激運動周波数250以外の周波数を含むことになる。
手指接触期間241が、1周期1秒に対して、0.4秒の場合の例示データの波形図と、例示データの周波数スペクトル図を
図7(a)に示す。波形図は、サイン波の後半に0.4秒間、手指接触期間241があり、その間、波形は平坦である。
周波数スペクトル図は、基本波である1Hzに加えて、2Hzから10Hz付近に手指接触期間241に対応する値が入っている。
例えば、信号強度値は、1Hzが25.2、2Hzが4.66、3Hzが2.21等の値である。その際の各値をNSM値として換算すると、約0.38である。
一般的に、NSMでの被験者の計測値は、0.1程度の場合を含むので、ノイズとして0.38の値は大きく、補正を行わないと信頼できる評価値とならない。
【0062】
手指接触期間241が、1周期1秒に対して、0.2秒の場合の例示データの波形図と、例示データの周波数スペクトル図を
図7(b)に示す。例示データの波形図に示すように、サイン波の最下値付近に0.2秒間、手指接触期間241がある。周波数スペクトル図で信号強度値を見ると、1Hzが30.7、2Hzが1.16、3Hzが0.96等の値であり、NSM値に換算すると、0.15である。
被験者の計測値としてあり得る0.1を超えており、補正無しでは、信頼できる評価値を得られない。
【0063】
手指接触期間241が、1周期1秒に対して、0.1秒の場合の例示データの波形図と、例示データの周波数スペクトル図を
図7(c)に示す。例示データの波形図に示すように、サイン波の最下値付近に0.1秒間、手指接触期間241がある。周波数スペクトル図で信号強度値を見ると、1Hzが31.0、2Hzが0.86、3Hzが0.67等の値であり、NSM値に換算すると、0.072である。
被験者の計測値としてあり得る0.1を下回っており、補正無しでも、信頼できる評価値を得ることが可能である。
【0064】
被験者に対して、単に1秒間隔で指タップすることを指示した場合、全体の周期は1秒間隔程度であっても、手指接触期間241を調整することは難しい。
しかし、例示データで、全体の周期と手指接触期間241の期間を規定することによって、被験者は、例示データ及び例示データに対応した映像データに倣って手指を動かすので、手指接触期間241を0.1秒に管理することも十分可能である。
したがって、本発明において、被験者が、例示データに倣って手指接触期間241を0.1秒とする指タップ動作を行うことができれば、測定データの補正を行うことなく、評価値を生成することもできる。言い換えれば、手指接触期間を、刺激運動周波数の周期の10%以下にすることで、測定データの補正を行うことなく、評価値を生成することもできる。
【0065】
本発明は、脳機能の評価システムに関するものであり、指タップ等の手指を接触させる動作を含む動作により、脳機能の評価を数値化できる点が特徴の一つである。
脳機能に関わる障害の一つとして、認知症がある。認知症は、徐々に進行していく病気であり、且つ、完治が難しい病気である。そのため、進行状況を数値化できる本発明は、認知症の判別、評価のためのシステムとして有効である。
また、認知症の初期である軽度認知障害(MCI)の判別は、認知症よりもさらに判別が難しい。本発明であれば、短時間で、軽度認知障害(MCI)についてのより精密な検査が必要か否かの目安とすることができる。
定期健診等の際、本発明の脳機能評価システムを用いることによって、認知症や軽度認知障害の早期発見に寄与することができる。
さらに、個人ごとに脳機能評価値を管理するによって、脳機能、認知症、軽度認知障害(MCI)についての進行の度合いを、高精度で確認することができ、認知症、軽度認知障害(MCI)の早期発見に寄与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る脳機能評価システムは、高精度で安全かつ簡便に、脳機能の程度を評価可能なシステムであって、特に、認知障害や軽度認知障害の評価に有効であり、産業上の利用可能性は大きいと解する。
【符号の説明】
【0067】
1 評価装置
100 センサ
110 表示部
120 スピーカ
130 制御演算部
140 記憶部
200 例示データ
210 映像データ
220 測定単位データ番号
230 測定データ
240 測定単位データ
241 手指接触期間
242 サイン波推定波形
250 刺激運動周波数(基本周波数)
260 HIGH周波数
270 相関確認用データ
271 最大指間隔値
272 接触時指間隔値
273 推定される最小指間隔値
280 補正用データ
281 補正用データ始点
LH 被験者の左手
RH 被験者の右手
【要約】
【課題】高精度で安全かつ簡便に、脳機能の程度を評価可能なシステムを提供する。
【解決手段】手指同士が接触する期間を持つ手指運動を繰り返す動作を映像として例示するための例示データを記憶する記憶部と、該例示データに対応した映像データを映し出す表示部と、被験者の運動を計測するセンサと、表示部への例示データの表示の指示及び取得した測定データの演算を行う制御演算部と、で構成され、制御演算部は、映像に倣って該被験者が運動を行う映像有期間を持つと共に、該映像有期間の測定データから、該手指運動を繰り返す刺激動作の周波数成分である刺激運動周波数の成分と、該刺激運動周波数成分以外の周波数から1 つ以上の成分の和である刺激運動外成分を抽出し、該刺激運動外成分と該刺激運動周波数成分の比を算出する計算方法を持ち、該計算方法により算出した値を、脳機能の評価値とする手段を採る。
【選択図】
図1