(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】骨再生及び/又は骨増量用メンブレン
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
(21)【出願番号】P 2020044341
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 健介
(72)【発明者】
【氏名】清水 良央
(72)【発明者】
【氏名】鵜沼 英郎
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-050847(JP,A)
【文献】国際公開第2015/030228(WO,A1)
【文献】特開2013-059391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0183990(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げ剛性が0.2~15N・mm
2
である樹脂からなる骨再生及び/又は骨増量用メンブレンであって、弾性的に変形可能であり、母床骨と骨膜との間に埋設して骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成
し、前記骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの片側または両側に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種のカルシウム無機塩の粉末を、コラーゲンまたはゼラチンを用いて結着させているメンブレン。
【請求項2】
請求項1
に記載のメンブレンであって、中央付近が曲線状に突出した断面形状を有することにより、母床骨と骨膜との間に
前記骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成する
メンブレン。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のメンブレンであって、
前記メンブレンは、外圧を与えた場合に患部の面に沿うよう変形可能であり、かつ
前記外圧を一部又は全部開放すると、湾曲された形状に戻る
メンブレン。
【請求項4】
請求項
3に記載のメンブレンであって、前記外圧が、固定具による
前記患部へのメンブレンの固定により与えられる、メンブレン。
【請求項5】
骨再生及び/又は骨増量のための方法に使用するための、
曲げ剛性が0.2~15N・mm
2
である樹脂からなる湾曲した
骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの片側または両側に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種のカルシウム無機塩の粉末を、コラーゲンまたはゼラチンを用いて結着させているメンブレンであって、
前記方法が、
前記メンブレンを母床骨と骨膜との間に埋設して骨膜を挙上し、
前記母床骨と骨膜との間に
前記骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成する工程を含む、メンブレン。
【請求項6】
骨再生及び/又は骨増量のための方法に使用するための、
曲げ剛性が0.2~15N・mm
2
である樹脂からなり、固定具の取り付け具を有
した骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの片側または両側に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種のカルシウム無機塩の粉末を、コラーゲンまたはゼラチンを用いて結着させているメンブレンであって
、前記方法が、樹脂からなる湾曲したメンブレンを患部に沿うよう変形して密着させ、
前記固定具で固定する工程、
前記固定を外すことにより弾性力により骨膜を挙上し、
前記患部と
前記メンブレンとの間に
前記骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成する工程、
を含む、メンブレン。
【請求項7】
前記固定具がネジである、請求項
4又は
6に記載のメンブレン。
【請求項8】
前記樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ塩化ビニル、改質ポリエチレンテレフタレートグリコール、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フルオロポリマー、ポリフッ化ビニリデン、又はペルフルオロアルコキシである、請求項1~
7のいずれか一項に記載のメンブレン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨再生及び/又は骨増量用メンブレンに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科インプラントを稙立する前段階として、抜歯窩内に骨を再生する必要がある(以下、骨再生という)。現状では、(1)生体非吸収性のチタンメッシュ、(2)生体吸収性の乳酸・グリコール酸共重合体またはコラーゲン製の膜、のいずれかで抜歯窩の開口部を覆い、歯肉が抜歯窩に侵入するのを防ぐ間に、歯槽骨の自然な再生能力で抜歯窩内を骨で埋める方法が採られるが、上記(1)でも(2)でも、一度外力を受けて変形すると、元の形状にみずから復元する性質がないため、意図した形状に骨再生することが難しかった。
【0003】
また、歯科インプラントを稙立したい場所の歯槽骨が薄すぎる場合には、骨量を増やす必要があるが(以下、骨増量という)、従来は骨に切れ目を入れて外側に押し広げるなど侵襲の大きな手術が必要であった。
【0004】
非特許文献1には、湾曲したPETメンブレンの片面に低結晶性の水酸アパタイトをコートしたものを、当該PETメンブレンの一部が露出するように抜歯窩に設置し、骨誘導再生により歯槽骨の再生がされたこと及び歯槽骨の再生後に当該PETメンブレンを比較的簡単にピンセットで取り出すことができたことが記載されている。しかし、非特許文献1には、骨膜によって規定されている母床骨の寸法や形状を、現状以上に増やす(母床骨に対し凸状に再生骨を隆起させる)、いわゆる骨増量について記載されておらず、依然として骨増量のための新たな方法、新たなメンブレンが熱望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2014-521434
【文献】特開2010-82146
【文献】特開平3-294209
【文献】国際公開第2014/196503
【文献】特許第5920360号
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Jpn.Soc.Powder Powder Metallurgy Vol. 63, no. 3 “ポリマーとセラミックスの複合化に基づく新しい生体材料”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、骨再生及び/又は骨増量用の新たなメンブレンを提供することを課題とする。より具体的には、骨膜によって規定されている母床骨の形状を、当該メンブレンの設置前の状態と比べてふくらんだ形状とし、母床骨を増量することができる新たなメンブレンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる状況の下、本発明者らは、樹脂からなる骨再生及び/又は骨増量用メンブレンであって、弾性的に変形可能であり、母床骨と骨膜との間に埋設して骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成するために用いるメンブレンにより上記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。従って、本発明は以下の項を提供する:
項1.曲げ剛性が0.2~15N・mm
2
である樹脂からなる骨再生及び/又は骨増量用メンブレンであって、弾性的に変形可能であり、母床骨と骨膜との間に埋設して骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成し、前記骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの片側または両側に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種のカルシウム無機塩の粉末を、コラーゲンまたはゼラチンを用いて結着させているメンブレン。
【0010】
項2.項1に記載のメンブレンであって、中央付近が曲線状に突出した断面形状を有することにより、母床骨と骨膜との間に前記骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成することが可能なメンブレン。
【0011】
項3.項1又は2に記載のメンブレンであって、前記メンブレンは、外圧を与えた場合に患部の面に沿うよう変形可能であり、かつ前記外圧を一部又は全部開放すると、湾曲された形状に戻ることが可能なメンブレン。
【0012】
項4.項3に記載のメンブレンであって、前記外圧が、固定具による前記患部へのメンブレンの固定により与えられる、メンブレン。
【0013】
項5.骨再生及び/又は骨増量のための方法に使用するための、曲げ剛性が0.2~15N・mm
2
である樹脂からなる湾曲した骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの片側または両側に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種のカルシウム無機塩の粉末を、コラーゲンまたはゼラチンを用いて結着させているメンブレンであって、前記方法が、前記メンブレンを母床骨と骨膜との間に埋設して骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成する工程を含む、メンブレン。
【0014】
項6.骨再生及び/又は骨増量のための方法に使用するための、曲げ剛性が0.2~15N・mm
2
である樹脂からなり、固定具の取り付け具を有した骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの片側または両側に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種のカルシウム無機塩の粉末を、コラーゲンまたはゼラチンを用いて結着させているメンブレンであって、前記方法が、樹脂からなる湾曲したメンブレンを患部に沿うよう変形して密着させ、前記固定具で固定する工程、
前記固定を外すことにより弾性力により骨膜を挙上し、前記患部と前記メンブレンとの間に前記骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成する工程、
を含む、メンブレン。
【0016】
項7.前記固定具がネジである、項4又は6に記載のメンブレン。
【0017】
項8.前記樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ塩化ビニル、改質ポリエチレンテレフタレートグリコール、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フルオロポリマー、ポリフッ化ビニリデン、又はペルフルオロアルコキシである、項1~7のいずれか一項に記載のメンブレン。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、骨再生及び/又は骨増量用の新たなメンブレンを提供することができる。より具体的には、骨膜によって規定されている母床骨の形状を、当該メンブレンの設置前の状態と比べてふくらんだ形状とし、母床骨を増量することができる新たなメンブレンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの斜視図(
図1(A))、断面図(
図1(B))を示す。
【
図2】本発明の一実施形態の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの斜視図(
図2(A))、断面図(
図2(B))、及び当該メンブレンを骨膜と母床骨との間に設置した状態の模式断面図(
図2(C)を示す。
【
図3】本発明の一実施形態の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの斜視図を示す。
【
図4】本発明の一実施形態の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンを骨膜と母床骨との間に設置した状態の模式断面図を示す。
【
図5】実施例1から得たエックス線マイクロCT写真を示す。
【
図6】本発明の一実施形態の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの斜視図(
図6(A))と、当該メンブレンを骨膜と母床骨との間に設置した状態の模式断面図(
図6(B))を示す。
【
図10】実施例3から得た組織標本写真を示す。
図10Aは最初から骨膜挙上した試験の結果を示す。
図10Bはメンブレンを一旦押しつけた後に骨膜挙上した試験の結果を示す。新生骨を矢印で示す。
【
図11】実施例3から得たμCT像を示す。
図11Aは最初から骨膜挙上した試験の結果を示す。
図11Bはメンブレンを一旦押しつけた後に骨膜挙上した試験の結果を示す。新生骨を矢印で示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
骨再生及び/又は骨増量用メンブレン
以下、本発明のメンブレンの典型的な実施形態を図面を参照して説明する。
図1に本発明の一実施形態におけるメンブレンの斜視図(
図1(A))及び断面図(
図1(B))を示す。
図1に示すように、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成することが可能なように、中央付近(
図1(B)のii付近)が曲線状に突出した断面形状を有することが好ましい。また、空隙形成の観点から、本発明においては、
図1(B)に示すように、一方の端部から中央部、そして他方の端部に沿って、凹部、凸部及び凹部を有する断面形状が好ましい。例えば、
図1(B)においてはi付近に凹部、ii付近に凸部、iii付近に凹部が形成されている。本明細書において、凹部及び凸部は、それぞれ、メンブレンにより形成される空間の内部から見た場合(例えば、
図1(B)の場合、矢印方向に見た場合)の凹部及び凸部を示す。本発明のメンブレンは、弾性的に変形可能であり、典型的には
図1に示すように湾曲しているため、母床骨と骨膜との間に埋設した場合に、骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成することが可能である。そのことにより、骨膜によって規定されている母床骨の形状を、当該メンブレンの設置前の状態と比べてふくらんだ形状とし、母床骨を増量することができるため好ましい。また、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、上から下に見た場合に略長方形(正方形を含む)であることが好ましい。本発明において、上方向とは、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンを、その膨らんだ側が平面から離れるように当該平面上においた場合に、当該平面に対する垂線における平面側からメンブレン側への方向(例えば、
図1(B)におけるiiの矢印の方向)を示す。また、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、弾性的な変形のしやすさの観点から、両端の断面側(
図1(A)における、図面手前側及び奥側)に、側壁を有さないことが好ましい。同様に、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、弾性的な変形のしやすさの観点から、その長手方向(
図1(A)における実線矢印の方向)と垂直な方向に本体より突出した部分がないことが好ましい。
【0021】
また、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの寸法は、特に限定されない。例えば、当該メンブレンを上から下に見た場合に略長方形(正方形を含む)である実施形態において、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの縦横の比率は、症例毎の欠損域に応じて適宜設定できる。より具体的には、例えば、断面形状の頂部を結ぶ線の方向を縦とした場合の縦方向(
図1(A)の場合、実線矢印方向)の長さと、それに対する横方向の長さ(
図1に示す骨再生及び/又は骨増量用メンブレンを平面上に置いた場合、当該メンブレンが平面と接する2箇所の間の距離(メンブレンは
図1(B)におけるi側とiii側との2箇所で平面と接するため、その2箇所の間の距離))との比率は特に限定されない。例えば、欠損域が1歯分であれば横方向の長さが縦方向の長さよりも長いことが好ましく、例えば、3歯以上の欠損でなれば、反対に、縦方向の長さが横方向の長さよりも長いことが好ましい。さらに具体的には、上記実施形態において、断面形状の頂部を結ぶ線の方向(
図1(A)の場合、実線矢印方向)の長さと、当該方向と垂直な面における断面の、断面形状に沿った(
図1(B)の場合、点線矢印に沿った)、長さとしては、例えば、前者30~100mmに対し、後者30~100mmが好ましく、前者後者共に40~70mmであることがより好ましい。また、使用時に骨欠損部の大きさに応じてハサミ等で切って形を整えることができればよいため、使用前の当該メンブレンの寸法は上記寸法よりも大きくてもよい。
また、湾曲状態も限定されないが、例えば、曲率半径が3mm~20mmであることが好ましく、5mm~15mmであることがより好ましい。また、一方の端部から中央部、そして他方の端部に沿って、凹部、凸部及び凹部を有する断面形状を有する実施形態には、
図1に示すように、断面形状が頂部から底面に向かって単調に(次第に)広がっているものだけでなく、
図2に示すように、断面形状が頂部から底面に向かって一旦広がり、凸部の途中(例えば、
図2(B)におけるii及びiv)から凹部の途中(例えば、
図2(B)におけるi及びv)まで又は凹部の全体にかけて両側の壁面の間隔が狭まるものも包含される。
【0022】
本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの厚さは特に限定されないが、25~500μmが好ましく、75~300μmがより好ましい。
【0023】
本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、母床骨と骨膜との間に埋設した場合に、骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成することが可能なものであれば、上記実施形態に限定されない。
【0024】
例えば、別の実施形態においては、
図3(A)に示すように、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、断面が円弧状である。そして本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、弾性的に変形可能であり、
図3(B)に示すように、上方向から押し下げられると、当該メンブレンの下にある面の形状に合わせて変形する。従って、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンを、骨再生及び/又は骨増量を図ろうとする部位周辺の骨膜下(本発明において、当該箇所を「患部」と称する)に設置した後、当該メンブレンを患部に押し付けると、患部の面に沿うよう変形可能である。また、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、当該メンブレンを押し付けていた外圧を一部又は全部開放すると、湾曲された形状に戻ることが可能である(
図3(C))。本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、弾性的な変形及び元の形状への回復のしやすさの観点から、円弧状の断面側(
図3(A)における、図面手前側及び奥側)に、側壁を有さないことが好ましい。同様に、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、外圧を与えた場合に患部の面に沿うように変形することを妨げることが無いように、その長手方向(
図3(A)における実線矢印の方向)と垂直な方向に本体より突出した部分がないことが好ましい。
【0025】
当該実施形態において本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、使用時に骨欠損部の大きさに応じてハサミ等で切って形を整えることができるため、その形状は特に限定されないが、例えば、好ましい形状の一例として、断面形状が円弧状であること等が挙げられる。また、当該実施形態においても本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、上から下に見た場合に略長方形(正方形を含む)であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンが上から下に見た場合に略長方形(正方形を含む)である実施形態において、断面形状の頂部を結ぶ線の方向(
図3(A)の場合、実線矢印方向)の長さと、当該方向と垂直な面における円弧状断面の、当該円弧形状に沿った(
図1(A)の場合、点線矢印に沿った)、長さとの比は、特に限定されないが、例えば、前者30~100mmに対し、後者30~100mmが好ましく、前者後者共に40~70mmであることがより好ましい。本実施形態においても、骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの好ましい厚さの範囲は前述の通りである。
【0027】
本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの材料は、弾性的に変形可能なものであれば特に限定されず、例えば金属、金属合金、熱可塑性プラスチック、その他の医療グレード材料等を使用することができる。生体吸収性の材料及び生体非吸収性の材料の両方を使用しうるが、長期間にわたって骨形成のための空間を骨膜と母床骨との間に保持するために、生体非吸収性の材料(生体吸収性材料以外の材料)が好ましい。
【0028】
金属の例としてはステンレス鋼、金、白金、チタン、タンタル等が挙げられるがこれに限定されない。
【0029】
金属合金の例としてはニッケルチタン合金(ニチノール)、鉄-マンガン-ケイ素合金、コバルトクロム合金等が挙げられるがこれに限定されない。
【0030】
熱可塑性プラスチックの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ塩化ビニル、改質ポリエチレンテレフタレートグリコール、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリウレタン、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フルオロポリマー(例えばフッ素化エチレンプロピレン、エチレンクロロトリフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリフッ化ビニリデン、ペルフルオロアルコキシ等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0031】
その他の医療グレード材料は、エラストマー有機ケイ素ポリマー、ポリエーテルブロックアミド又は熱可塑性コポリエーテル(PEBAX)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0032】
本発明においては、生体不活性な高分子フィルムが好ましく、なかでも熱可塑性プラスチックがより好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がさらに好ましい。
【0033】
また上記の高分子基材としては、ガラス転移温度が60~150℃であるものが好ましい。これらの素材で作られる骨膜拳上材料は、体温では弾性を失い骨膜が拳上できなくなることを抑制し、かつ上記ガラス転移温度以上に加熱すれば、骨膜拳上材料に任意の形状を付与することができる観点から、上記範囲のものが好ましい。例えば、ガラス転移温度は、ポリエチレンテレフタラートは70~90℃、ポリエチレンナフタレートは120℃、ポリカーボネートは120~130℃、体温よりも十分に高く好ましい。
【0034】
生体吸収性の材料としては、特に限定されないが、生体吸収性プラスチック等が挙げられる。生体吸収性プラスチックとしては、石油由来(ポリビニルアルコール、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレートサクシネート等)、バイオマス由来(ポリ乳酸、ポリヒドロキシアルカン酸(ポリヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート等))、石油及びバイオマス由来(バイオポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸部連3、スターチブレンドポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレートサクシネート等)等が挙げられる。
【0035】
本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、骨膜を母床骨から拳上し続けるために、2000~8000MPaの曲げ弾性率を有することが好ましく、3000~6000MPaの曲げ弾性率を有することがより好ましい。ここで、曲げ弾性率とは、元の形状に回復しようとする性質である。曲げ弾性率は材料の形状に関わらずほぼ特有の量であり、永久変形(塑性変形)を起こさずに元の形状に回復しようとする性質の指標となる。本発明においては、曲げ弾性率は、JIS K 7171に記載の方法により測定することができる。
【0036】
本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、曲げ剛性が0.2~15N・mm
2
であることが好ましく、0.4~12N・mm
2
であることがより好ましい。メンブレンを骨膜と母床骨の間に挿入する際に、医師の手指の力によって材料が適度に変形することが好ましい。力を受けて変形する度合いは、曲げ剛性で表すことができ、これは材料の種類等だけでなく、材料の厚さによって変化する。曲げ剛性の数値が大きいほど曲げにくくなり、数値が小さいほど曲げやすくなる。従って、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、比較的容易に手指で曲げることが可能となり、かつ材料自身の質量で曲がることが抑制され、骨膜を拳上できることから、上記範囲の曲げ剛性のものを用いることが好ましい。
【0037】
例えば、ポリエチレンテレフタラートの曲げ弾性率は2500~7000MPa、ポリエチレンナフタレート2000~3500MPa、ポリカーボネートでは2000~3000MPa、ポリメタクリ酸メチルでは3000から3500MPaであり、これらの材料は骨膜を母床骨から拳上し続けられるだけの弾性を有するため好ましい。また、曲げ剛性は材料の厚さで制御することができ、例えばポリエチレンテレフタラートの場合は、厚さ70ミクロンの場合に約0.4N・mm
2
、厚さ200ミクロンの場合に13N・mm
2
の値であり、骨膜を母床骨から拳上し続けるには適した性質を示す。
【0038】
例として曲げ弾性率約3000MPaの高分子基材を用いるものする。この曲げ弾性率は、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンを構成する高分子基材に付与することが可能な値である。この高分子基材の、25~200μmの範囲の厚さ、好ましくは50~150μmの厚さのものを用意する。すると曲げ剛性は0.2~15.0N・mm
2
の範囲の値をとる。基材の厚さは、体内に設置した後に骨膜拳上メンブレンに加わる応力によって選択できる。例えば、オトガイ部の骨増量を行う場合には、ポリエチレンテレフタラートでは75~150μm程度の厚さが好ましい。基材が薄すぎる場合には骨膜拳上メンブレンに加わる応力に対して十分な弾性を発揮しきれない場合があり、また厚すぎる場合には基材が強固になりすぎて体内に設置する操作に困難をきたす可能性があるからである。また、例えば歯槽骨幅を増大しようとする場合には、歯肉から加わる応力は小さいので、ポリエチレンテレフタラートでは75μm~150μmの膜で骨膜拳上メンブレンを作ることが望ましい。
【0039】
この高分子基材を、骨再生・骨増量しようとする形態に合わせて成形する。例えば、骨増量の過程を簡単に示すために、頭蓋冠のように骨が平坦な部位に、意図的に凸型の骨瘤を作ることを想定する。この場合には
図1(A)、
図2(A)等に示すように、高分子基材をあらかじめ成形しておく。成形の方法は、例えばガラス製試験管等の型に高分子基材を丸めて挿入するか、あるいは基材の両端をクリップではさむなどした状態でガラス転移温度以上に加熱し、1~10時間保持した後に、そのままの形状で室温まで冷却すればよい。
【0040】
また、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンの片側または両側に、硫酸カルシウム、炭酸カルシウムおよびケイ酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも一種のカルシウム無機塩の粉末を、コラーゲンまたはゼラチンを用いて結着させてもよい。このような処理を施しておくことによって、骨膜拳上メンブレンと血液とが接触した時に、無機塩からカルシウムイオンが血液中に溶出する。カルシウムイオンは血液の凝固を促すので、骨膜拳上材料設置の手術の際に出血を抑えて手術を容易にする。また、カルシウムイオンは体液内の内皮細胞を引き寄せて血管新生を促すとともに、破骨細胞と骨芽細胞を活性化させて骨の形成と成熟を早める。
【0041】
上記のように無機塩の粉末をゼラチンまたはコラーゲンで骨膜拳上材料に結着させるための方法としては、例えば、ゼラチンまたはコラーゲンの水溶液に、無機塩とゼラチンまたはコラーゲンが質量比で95:5から70:30となるように加えてよく分散させ、この分散液を骨膜拳上メンブレンとなる高分子基材に塗布して乾燥させ、高分子基材を成形する温度まで加熱すればよい。このときにゼラチンおよびコラーゲンは熱架橋をするため、無機塩を高分子基材に結着させることができる。
【0042】
また、典型的な実施形態において、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、後述するように、固定具を用いて幹部に固定することにより用いることができる。従って、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、固定具を取り付けるための孔部を有していてもよい。また、本発明の一実施形態においては、骨再生及び/又は骨増量用メンブレンを孔部を設けずに作製し、母床骨と骨膜との間に埋設する前に固定及び圧着のための孔部(スクリュー孔等)を、(パンチ等により)開けてもよい。本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、以下に示す方法に用いることができる。
【0043】
骨再生及び/又は骨増量方法
一実施形態において、本発明は、骨再生及び/又は骨増量のための方法であって、樹脂からなる湾曲したメンブレンを母床骨と骨膜との間に埋設して骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成する工程を含む、方法を提供する。
図2(C)に、本発明の方法の一実施形態の概略図を示す。
図2(C)に示すように、メンブレン1を母床骨3と骨膜4との間に設置することにより、骨膜4を設置前の位置から挙上することができる。そのため、母床骨3と骨膜4との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙6を形成することができる。本発明の方法においては、メンブレン1を所望の位置に設置しておくために固定具8により固定することが好ましい。そのため、メンブレン1には、固定具を取り付けるための1つ又は2つ以上(典型的には2~6個(好適な例としては3~4個))の孔部を設けることが好ましい。また、本発明の方法においては、上皮5を糸7で縫合することが好ましい。
【0044】
また、一実施形態において、本発明は、骨再生及び/又は骨増量のための方法であって、
樹脂からなる湾曲したメンブレンを患部に沿うよう変形して密着させ、固定具で固定する工程、
固定を外すことにより患部と該メンブレンとの間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成する工程、
を含む、方法を提供する。
【0045】
図4に、本発明の方法の一実施形態の概略図を示す。
図4(A)に示すように、患部3に樹脂からなるメンブレン1を単に設置した状態だと、メンブレン1と患部3との間に空間ができる。本発明の方法においては、まず、樹脂からなる湾曲したメンブレン1を患部3に沿うよう変形して密着させ、固定具4で固定する工程を行う(
図4(B))。本発明において、患部3は、1つ又は複数の微小な穴10が開いていても良い。その場合、メンブレン1が患部3に密着するとは、穴10の開口部を含む患部3の面にメンブレン1が密着することを意味する。固定具8としては、ネジ(スクリュー)、ワイヤー等が挙げられる。当該工程において、メンブレン1及び固定具8を骨膜5で覆うことが好ましい。
【0046】
次に、本発明の方法においては、固定を外すことにより患部3と該メンブレン1との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙6を形成する工程を行う。本発明においては、一旦メンブレン1を変形して患部3に密着させた後に、固定を外し、メンブレン1が元の形状に戻ろうとすることにより空隙が生じる(
図4(C))。かかる方法により得られた空隙6には、従来よりも骨組織9の再生能及び/又は増量性が高いため、本発明の方法は非常に有用である。また、本発明の方法は、骨造成手術のうち、インレーグラフトだけでなく、オンレーグラフトにも用いることができ、高い再生能及び/又は増量性を示すため、かかる点からも有用である。
【実施例】
【0047】
次に、本実施形態の好適な実施例について説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。また、前述のように本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンは、骨膜を挙上するように用いられる。従って、本明細書において、本発明の骨再生及び/又は骨増量用メンブレンのことを骨膜拳上メンブレンと示すこともある。
【0048】
[実施例1]
以下に、本発明の骨膜拳上メンブレンを用いてウサギ頭蓋骨の骨増量を行った例を示す。
【0049】
ポリエチレンテレフタラートフィルム(東洋紡績株式会社:E5000、125μm)を4cm×4cmの大きさに切断し、この対向する端をクリップ(サンケーキコム、目玉クリップ、はさみ口40mm)でつまみ、140℃の乾燥器に1時間入れ、室温まで冷却した後にクリップを外した。その結果、
図2(A)に示すようにフィルムを湾曲させることができた。この材料の曲げ弾性率は4000MPa、曲げ剛性は2.0N・mm
2
であった。その後、直径1mmの皮革用パンチで、骨ネジを入れるための孔を
図2(A)のように2か所にあけた。
【0050】
ウサギ(ニュージーランド白色種)の頭頂部の皮膚を、両耳を結ぶ線上で切開し、骨膜とともに剥離し、骨膜挙上メンブレンを頭蓋冠に設置し、チタン製骨ネジで固定した。
図2(C)にその模式図を示すが、この図はウサギの頭頂部を正面方向から見た断面図である。すなわち、骨ネジは正中線上にある。その後、骨膜と上皮をかぶせ、縫合した。このとき、母床骨と骨膜拳上メンブレンとの間の空間には、骨ネジを挿入する際の出血によって、血液(血餅)で満たされた状態にした。
【0051】
5週飼育後、ウサギを安楽死させ、エックス線マイクロCTで新生骨形成の様子を確認した。その結果を
図5(A)に示す。ここから、骨膜拳上材料と母床骨とが接触する部位、すなわち両端の狭い部位から徐々に骨形成がなされてきた様子が認められた。模式図を
図5(B)に示す。
【0052】
なお、骨膜拳上メンブレンを設置しない場合には、新生骨の形成が起こらないことは明白である。また、現在入手可能なGTRメンブレンは、どれも曲げ弾性率が小さいため、あたかもセロハンフィルムのように変形に対する弾力が弱すぎて、
図2(C)のように設置しても上皮の重さと張力で容易につぶれてしまい、骨形成のための空間が確保できないことが明らかに推測される。
【0053】
以上の実施例によって、弾性を持つ高分子基材で骨膜を母床骨から拳上することによって母床骨の自然な成長のための空間を確保して、骨増量を行えることが示された。
【0054】
[実施例2]
以下に、本発明の骨膜拳上メンブレンを用いてビーグル犬のソケットプリザベーションと歯槽骨幅増大を行った例を示す。
【0055】
まず、ポリエチレンテレフタラートフィルム(東洋紡績株式会社製:E5100、75
μm)を4cm×3cmの大きさに切断し、これを巻いて直径1.6cmのガラス製試験管の内部に挿入し、140℃で3時間保持した後に室温に冷却した。この処理により、
図6(A)に示すように、長さ4cm、曲率半径1.5cmの成形体が得られた。の材料の曲げ弾性率は4500MPa、曲げ剛性は0.4N・mm
2
であった。そのためこの成形体は手指の力で容易に曲げ伸ばしする曲げ剛性をもち、力を除けば弾性によって元の形状に自然に回復した。これを骨膜拳上メンブレンとして用いた。
【0056】
次に、ビーグル犬(雄、120週齢)1匹の、下顎左右両側の前臼歯(P1~P4)を抜歯し、歯槽骨から骨膜を剥離した。左顎の抜歯窩に対して、
図6(B)に示すように骨膜拳上メンブレンを設置して、骨膜をかぶせて歯肉で覆った。ビーグル犬の歯槽骨幅は約1cmであり、歯槽骨頂の曲率は約5mmであるので、この骨膜拳上材料は骨膜に対して常に歯槽骨から離す方向に応力を与えることになる。また、歯肉は骨膜拳上材料全体を覆いきれなくなるため、骨膜拳上メンブレンは完全には歯肉で覆わず、一部露出した状態(オープンメンブレン)で歯肉を縫合した。右側の抜歯窩には何も設置せず、そのまま頬側と舌側の歯肉を隙間なく縫合した。30日間の飼育の間、雑菌による感染症は認められなかった。30日飼育後に左右の手術部から組織薄片を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行って、光学顕微鏡下で観察した。
【0057】
図7に、本実施例の左下顎第3前臼歯の組織写真を示す。また、図中に黒点線で骨膜挙上メンブレンの設置位置を示す。本骨膜拳上メンブレンは、設置当初と同じく、歯槽頂を丸く覆うような形状を維持したまま残存していた。本実施例の結果として、第一に、抜歯窩が判別できなくなるほどの量の新生骨ができていた。第二に、その新生骨は十分に成熟して皮質骨化していた。第三に、歯槽骨は骨膜拳上メンブレンの形状に従うように、凸型の歯槽頂に再生していた。第四に、新生した歯槽骨と骨膜拳上メンブレンとの間に新生上皮が再生されていた。第五に、歯槽頂直下の歯槽骨幅は、6.1mmであり、後述する比較例1、比較例2よりも骨幅が増大していた。
【0058】
[比較例1]
以下に、実施例1と同様な手術に対して現在入手可能なコラーゲン製メンブレンを使用した例を示す。
【0059】
ビーグル犬(雄、120週齢)1匹に対して、実施例と同様に抜歯と骨膜剥離を行い、左側の抜歯窩に対して株式会社白鵬製のコラーゲン製メンブレン(バイオメンド)を設置した。株式会社イマダ製、荷重変位測定装置FSA-1KE-1000N-Lを用いて測定したところ、このメンブレンの曲げ弾性率は400MPa、曲げ剛性は0.1N・mm
2
以下であった。そのためこの材料は弾性をほとんど示さず、応力で容易に曲がり、応力を取り除いてももとの形状には回復しなかった。また、このメンブレンは、雑菌による感染症を避けるために完全に歯肉で覆う必要があり、設置後も頬側と舌側の歯肉を隙間なく縫合した。右側の処置、および30日飼育後の薄片作製と染色は、実施例と同様にした。
【0060】
図8に、比較例1の左下顎第3前臼歯の組織写真を示す。また、図中に黒点線で骨膜挙動材料の設置位置を示す。本比較例のメンブレンは抜歯窩の開口部に覆いかぶさるように残留していた。本比較例の結果として、第一に、抜歯窩内に新生骨はできていたが、実施例2にくらべてその量が少なかった。これは、メンブレンが抜歯窩の開口部を覆い尽くしていたために、組織再生に必要な細胞の供給が断たれていたためである。第二に、歯槽頂は凹型になっていた。これは本比較例のメンブレンが歯肉からの応力に抗しきることができなかったためである。第四に、歯槽頂直下の歯槽骨幅は5.3mmであり、実施例2よりも狭く、後述の比較例2と同じであった。すなわち、本比較例のメンブレンでは、抜歯窩での新生骨形成は進行したもののその程度は小さく、かつ歯槽骨幅を増大することはできなかった。
【0061】
[比較例2]
以下に、抜歯した後に何も材料を設置せずに歯肉を縫合した例を示す。これは実施例2で用いた犬の、右下顎の例である。
【0062】
図9に、右下顎第3前臼歯の組織写真を示す。結果として、第一に、抜歯後に抜歯窩に何も設置しなかった場合には、抜歯窩内に上皮組織が侵入してしまい、新生骨はほとんど形成されなかった。第二に、歯槽頂直下の歯槽骨幅は5.3mmであり、実施例2よりも狭く、前述の比較例1と同じであった。
[実施例3]
1cm×1cmの大きさに切断したポリエチレンテレフタラートフィルム(東洋紡績株式会社製:厚さ、125μm)を骨膜拳上メンブレンとして用い、骨膜拳上メンブレンをウサギの下顎骨下縁の母床骨と骨膜との間に埋設し、当該メンブレンを母床骨に押し付けた状態で1週間、スクリューにより固定した後、固定を開放して骨膜拳上し、4週間放置する以外、実施例1と同様の処置を行った。処置後のμCT像と組織標本写真を
図10及び11に示す。また、メンブレンを母床骨に押し付けずに最初から骨膜拳上する以外、上記と同じ処置を行った。当該処置後のμCT像と組織標本写真を
図10及び11に示す。
図10及び
図11に示すようにいずれの処置でも歯槽骨幅増大が生じているが、メンブレンを母床骨に一旦押し付けた後、開放する方法のほうが、歯槽骨幅増大が大きい結果となった。
【0063】
以上の実施例1、実施例2、実施例3、比較例1、比較例2から、樹脂からなる弾性的に変形可能なメンブレンを用い、これを母床骨と骨膜との間に埋設して骨膜を挙上し、母床骨と骨膜との間に骨再生及び/又は骨増量のための空隙を形成することにより、骨増量を行えることが示された。
【符号の説明】
【0064】
1…メンブレン、2…孔部、3…患部(母床骨、歯槽骨)、4…骨膜、5…上皮、6…骨再生用空間、7…縫合糸、8…固定具(骨ネジ)、9…骨組織、10…穴、11…歯肉、12…抜歯窩、X…メンブレンの長さ、r…骨膜拳上材料の曲率