(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】脛骨切除支援装置
(51)【国際特許分類】
A61F 2/46 20060101AFI20240419BHJP
A61F 2/38 20060101ALI20240419BHJP
A61B 17/17 20060101ALI20240419BHJP
A61B 17/15 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A61F2/46
A61F2/38
A61B17/17
A61B17/15
(21)【出願番号】P 2020128344
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】508282465
【氏名又は名称】帝人ナカシマメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二木 康夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 高明
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-137273(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0085134(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0184173(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00-2/80
A61B 17/15
A61B 17/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工膝関節全置換術に使用される脛骨切除支援装置であって、
膝関節の前方に配置されるベースと、
前記ベースに取り付けられた、大腿骨の遠位部の切除面に接触させられる第1接触面を有する大腿骨パドルと、
前記第1接触面と直交する方向に移動可能となるように前記ベースに取り付けられた移動体と、
切除前の脛骨の近位部に接触させられる第2接触面を有し、前記第1接触面と平行な膝関節の前後方向に延びる
第1揺動軸回りに揺動可能となるように前記移動体に取り付けられた脛骨パドルと、
操作量に応じて前記移動体を移動させる駆動機構と、
前記第1接触面と直交する方向に移動可能となるように前記ベースに取り付けられた、脛骨の近位部を切除する際に使用される脛骨カッティングガイドを位置決めするためのリファレンスガイドと、
前記第1揺動軸と平行な第2揺動軸回りに揺動可能なアライメントバーを含むアライメントユニットと、
を備える、脛骨切除支援装置。
【請求項2】
前記リファレンスガイドは、前記移動体とは独立して移動可能である、請求項1に記載の脛骨切除支援装置。
【請求項3】
前記リファレンスガイドは、脛骨に打ち込まれる一対の位置決めピンまたはドリルが挿通される一対の貫通穴を有し、
前記脛骨カッティングガイドは、前記一対の位置決めピンまたは前記ドリルによって形成される一対のドリル孔によって位置決めされる、請求項1または2に記載の脛骨切除支援装置。
【請求項4】
前記第1接触面から前記第2接触面までの距離を表示する第1距離表示部と、
前記第1接触面から前記脛骨カッティングガイドのソーガイド面までの距離を表示する第2距離表示部と、をさらに備える、請求項1~3の何れか一項に記載の脛骨切除支援装置。
【請求項5】
前記アライメントユニットは、前記移動体または前記ベースに着脱可能
であり、前記第1接触面と直交する方向と前記アライメントバーの延在方向との間の前記第2揺動軸回りの角度を表示する角度表示部を含
む、請求項1~4の何れか一項に記載の脛骨切除支援装置。
【請求項6】
前記角度表示部は第1角度表示部であり、
前記アライメントバーは、膝関節の左右方向に延びる第3揺動軸回りにも揺動可能であり、
前記アライメントユニットは、前記第1接触面と直交する方向と前記アライメントバーの延在方向との間の前記第3揺動軸回りの角度を表示する第2角度表示部を含む、請求項5に記載の脛骨切除支援装置。
【請求項7】
前記第1接触面と前記第2接触面の間の角度を固定可能な角度固定機構をさらに備える、請求項1~6の何れか一項に記載の脛骨切除支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工膝関節全置換術に使用される脛骨切除支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工膝関節全置換術(TKA)では、大腿骨の遠位部および脛骨の近位部が切除され、それらの切除面に人工膝関節の大腿骨コンポーネントおよび脛骨コンポーネントが装着される。
【0003】
例えば、特許文献1には、人工膝関節全置換術に使用される外科手術装置が開示されている。この外科手術装置は、脛骨の近位部を切除した後に大腿骨の遠位部を切除する際に使用される大腿骨カッティングガイドを位置決めするための大腿骨切除支援装置である。
【0004】
具体的に、特許文献1に開示された外科手術装置は、膝関節の前方に配置されるベースと、ベースに取り付けられた脛骨パドル(特許文献1では「第1組織係合手段」と称呼)と、脛骨パドルと対向する大腿骨パドル(特許文献1では「第2組織係合手段」と称呼)を含む。脛骨パドルは、脛骨の近位部の切除面に接触させられる接触面(特許文献1では「組織係合面」と称呼)を有し、大腿骨パドルは、切除前の大腿骨の遠位部(大腿骨顆)に接触させられる接触面(特許文献1では「組織係合面」と称呼)を有する。
【0005】
大腿骨パドルは、脛骨パドルの接触面と平行な膝関節の前後方向に延びる揺動軸回りに揺動可能となるようにヘッドに取り付けられている。ヘッドは、脛骨パドルの接触面と直交する方向に移動可能となるようにベースに取り付けられている。
【0006】
さらに、ベースには、脛骨パドルの接触面と直交する方向に移動可能となるようにドリル案内体が取り付けられている。ドリル案内体は、大腿骨カッティングガイドを位置決めするためのものである。
【0007】
より詳しくは、ドリル案内体には、脛骨パドルの接触面と平行な膝関節の前後方向に延びる一対の貫通穴が設けられている。外科手術装置の使用方法としては、脛骨の近位部が切除された後、脛骨の近位部の切除面と切除前の大腿骨の遠位部の間に脛骨パドルおよび大腿骨パドルが差し込まれ、大腿骨パドルが脛骨パドルから遠ざかるようにヘッドが移動させられる。ドリル案内体はヘッドと共に移動する。その後、ドリル案内体の貫通穴を通じて大腿骨に一対のドリル孔が形成され、これらのドリル孔にドリルピンが挿入される。大腿骨切除支援装置が撤去された後、大腿骨に打ち込まれたドリルピンに大腿骨カッティングガイドが取り付けられ、その大腿骨カッティングガイドのスリットに沿ってソーにより大腿骨が切除される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示された大腿骨切除支援装置を用いれば、大腿骨パドルと脛骨パドルの間を広げることによって側副靭帯などの膝関節周囲の軟部組織に適度な張力を与えることができ、その状態で大腿骨の遠位部の切除面の位置を決定することができる。しかも、大腿骨パドルが揺動可能であって大腿骨パドルの接触面と脛骨パドルの接触面との間の角度が変更可能であるので、張力が与えられた軟部組織における膝関節の内側(体の中心線に近い側)と外側(体の中心線から遠い側)とでの伸長の大小を把握することができる。
【0010】
ところで、特許文献1に開示された大腿骨切除支援装置は、まず脛骨の近位部を切除し、その切除面を基準面とするものである。一方、膝関節の屈曲中心軸は大腿骨側に位置するため、まず大腿骨の遠位部をその屈曲中心軸に平行に切除し、その切除面を基準面として脛骨の近位部の切除面の位置を決定したいという要望がある。
【0011】
そこで、本発明は、大腿骨の遠位部の切除面を基準面とすることができる脛骨切除支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の脛骨切除支援装置は、人工膝関節全置換術に使用される脛骨切除支援装置であって、膝関節の前方に配置されるベースと、前記ベースに取り付けられた、大腿骨の遠位部の切除面に接触させられる第1接触面を有する大腿骨パドルと、前記第1接触面と直交する方向に移動可能となるように前記ベースに取り付けられた移動体と、切除前の脛骨の近位部に接触させられる第2接触面を有し、前記第1接触面と平行な膝関節の前後方向に延びる揺動軸回りに揺動可能となるように前記移動体に取り付けられた脛骨パドルと、操作量に応じて前記移動体を移動させる駆動機構と、前記第1接触面と直交する方向に移動可能となるように前記ベースに取り付けられた、脛骨の近位部を切除する際に使用される脛骨カッティングガイドを位置決めするためのリファレンスガイドと、を備える、ことを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、大腿骨パドルの第1接触面が大腿骨の遠位部の切除面に接触させられ、脛骨カッティングガイドを位置決めするためのリファレンスガイドが第1接触面と直交する方向に移動可能であるので、大腿骨の遠位部の切除後にその切除面を基準面として脛骨の近位部の切除面の位置を決定することができる。しかも、脛骨パドルが取り付けられた移動体が第1接触面と直交する方向に移動可能であるので、大腿骨パドルと脛骨パドルの間を広げることによって側副靭帯などの膝関節周囲の軟部組織に適度な張力を与えることができ、その状態で脛骨の近位部の切除面の位置を決定することができる。さらに、脛骨パドルが揺動可能であって大腿骨パドルの接触面と脛骨パドルの接触面との間の角度が変更可能であるので、張力が与えられた軟部組織における膝関節の内側と外側とでの伸長の大小を把握することができる。
【0014】
前記リファレンスガイドは、前記移動体とは独立して移動可能であってもよい。この構成によれば、大腿骨パドルの第1接触面から脛骨パドルの第2接触面までの距離に拘らずに、脛骨の近位部の切除面の位置を決定することができる。
【0015】
前記リファレンスガイドは、脛骨に打ち込まれる一対の位置決めピンまたはドリルが挿通される一対の貫通穴を有し、前記脛骨カッティングガイドは、前記一対の位置決めピンまたは前記ドリルによって形成される一対のドリル孔によって位置決めされてもよい。
【0016】
上記の脛骨切除支援装置は、前記第1接触面から前記第2接触面までの距離を表示する第1距離表示部と、前記第1接触面から前記脛骨カッティングガイドのソーガイド面までの距離を表示する第2距離表示部と、をさらに備えてもよい。この構成によれば、医師が第1距離表示部で第1接触面から第2接触面までの距離を確認しながら駆動機構を操作することができるとともに、第2距離表示部を参照してリファレンスガイドを所望の位置に移動させることができる。
【0017】
前記揺動軸は第1揺動軸であり、上記の脛骨切除支援装置は、前記移動体または前記ベースに着脱可能なアライメントユニットであって、前記第1揺動軸と平行な第2揺動軸回りに揺動可能なアライメントバーと、前記第1接触面と直交する方向と前記アライメントバーの延在方向との間の前記第2揺動軸回りの角度を表示する角度表示部を含むアライメントユニットをさらに備えてもよい。この構成によれば、膝関節の前方から見たときにアライメントバーの中心線を脛骨骨軸と一致させれば、脛骨骨軸と直交する方向に対する大腿骨パドルの第1接触面の角度を把握することができる。また、アライメントバーを含むアライメントユニットは移動体またはベースに着脱可能であるので、大腿骨パドルおよび脛骨パドルの大腿骨と脛骨の間への差し込み、および駆動機構の操作は、アライメントユニットを移動体またはベースから取り外した状態で行うことができる。
【0018】
前記角度表示部は第1角度表示部であり、前記アライメントバーは、膝関節の左右方向に延びる第3揺動軸回りにも揺動可能であり、前記アライメントユニットは、前記第1接触面と直交する方向と前記アライメントバーの延在方向との間の前記第3揺動軸回りの角度を表示する第2角度表示部を含んでもよい。この構成によれば、膝関節の側方から見たときにアライメントバーの中心線を脛骨骨軸と平行にすれば、脛骨骨軸と直交する方向に対する大腿骨パドルの第1接触面の角度を把握することができる。
【0019】
上記の脛骨切除支援装置は、前記第1接触面と前記第2接触面の間の角度を固定可能な角度固定機構をさらに備えてもよい。この構成によれば、脛骨パドルの向きを調整した後にその状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大腿骨の遠位部の切除面を基準面とすることができる脛骨切除支援装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態に係る脛骨切除支援装置の斜視図である。
【
図2】大腿骨パドルが取り付けられたベース、移動体およびリファレンスガイドの斜視図である。
【
図3】脛骨パドルが取り付けられた揺動体および第1揺動軸の斜視図である。
【
図5】アライメントユニットが取り外された状態の脛骨切除支援装置の斜視図である。
【
図7】
図5のVII-VII線に沿った断面図である。
【
図8】(a)は切除前の大腿骨の遠位部および脛骨の近位部を示す図であり、(b)は脛骨切除支援装置の使用方法を説明するための図である。
【
図9】(a)はアライメントバーを脛骨に沿わせたときの脛骨切除支援装置の正面図、(b)はアライメントバーを脛骨に沿わせたときの脛骨切除支援装置の側面図である。
【
図10】(a)は脛骨カッティングガイドの斜視図、(b)は脛骨カッティングガイドの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る、人工膝関節全置換術に使用される脛骨切除支援装置1を示す。この脛骨切除支援装置1は、
図8(a)および(b)に示すように、大腿骨25の遠位部を切除した後に脛骨26の近位部を切除する際に使用される脛骨カッティングガイド17(
図10(a)および(b)参照)を位置決めするためのものである。
【0023】
具体的に、脛骨切除支援装置1は、
図1~7に示すように、膝関節の前方に配置されるベース3と、ベース3に取り付けられた大腿骨パドル2Aと、大腿骨パドル2Aと対向する脛骨パドル2Bを含む。さらに、脛骨切除支援装置1は、脛骨パドル2Bが揺動体6を介して取り付けられた移動体4と、移動体4を移動させる駆動機構10と、ベース3に取り付けられたリファレンスガイド7と、アライメントユニット8を含む。
【0024】
大腿骨パドル2Aおよび脛骨パドル2Bは、大腿骨25と脛骨26の間に差し込まれるものである。大腿骨パドル2Aは、大腿骨25の遠位部の切除面25a(
図8(b)参照)に接触させられる第1接触面21を有し、脛骨パドル2Bは、
図8(b)に示すように切除前の脛骨26の近位部に接触させられる第2接触面22を有する。
【0025】
以下、説明の便宜上、
図2~7中に記すように、第1接触面21と平行な膝関節の前後方向をX方向、膝関節の左右方向をY方向、第1接触面21と直交する方向をZ方向という。
【0026】
ベース3の本体31は、Z方向から見たときに、大腿骨パドル2AのY方向の中心を通るX方向中心線の延長線上に位置する本体31を含む。本実施形態では、本体31が直方体状であるが、本体31の形状は特に限定されるものではない。本体31には、当該本体31をZ方向に貫通する支持穴32が設けられている。
【0027】
大腿骨パドル2Aは、X方向に延びるアーム23により本体31に取り付けられている。本実施形態では、アーム23が大腿骨パドル2AのX方向中心線からずれた位置に位置している。ただし、アーム23は、大腿骨パドル2AのX方向中心線上に位置してもよい。
【0028】
さらに、ベース3は、大腿骨パドル2Aと本体31の間で、本体31からZ方向に沿って下向きに延びる、X方向に扁平な板状の柱33を含む。
【0029】
移動体4は、ベース3の本体31の下方に位置する、Z方向に扁平な板状の本体41と、本体41からZ方向に沿って上向きに突出するロッド42を含む。ロッド42はベース3の本体31の支持穴32に挿入され、これにより移動体4がZ方向に移動可能となるようにベース3に取り付けられている。
【0030】
ロッド42の周面のうちX方向の一方(大腿骨パドル2Aと反対側)の部分には、Z方向に凹凸を繰り返す歯面43が形成されている。一方、ベース3の本体31には、当該本体31をY方向に貫通する操作軸34が回転可能に保持されている。操作軸34は、医師などの使用者によって操作される。
【0031】
操作軸34の中央には、
図6に示すように、歯面43と噛み合うピニオン35が設けられている。このため、操作軸34が操作されると、その操作量(回転量)に応じた分だけ移動体4がZ方向に移動する。すなわち、操作軸34、ピニオン35および歯面43は、操作量に応じて移動体4を移動させる駆動機構10を構成する。
【0032】
さらに、ロッド42の周面のうちY方向の一方(
図2では、左下)の部分には、Z方向に並ぶ複数の歯44が形成されている。各歯44の断面形状は、Y方向の一方に突出する頂点が上側に寄せられた三角形状である。一方、ベース3の本体31には、
図7に示すように、1つの歯44と係合するラチェットレバー36が軸37を介して揺動可能に取り付けられている。
【0033】
ラチェットレバー36は、スプリング38によって、歯44との係合状態が維持される方向に付勢されている。このような構造により、ベース3に対するロッド42の下向きの移動は可能であるが、上向きの移動はラチェットレバー36を操作しない限り不能となっている。
【0034】
さらに、移動体4は、本体41の中央から下向きに突出するブロック47と、ベース3の柱33の一方の側面(本実施形態では、アーム23側の側面)に沿うように本体41の1つのコーナーから下向きに突出する脚45を含む。ブロック47は本実施形態では直方体状であり、ブロック47には、X方向に延びる貫通穴48が設けられている。また、ブロック47の下面には、断面逆T字状でX方向に延びるレール49が設けられている。
【0035】
揺動体6は、内部に移動体4のブロック47が挿入される、矩形環状のフレーム61を含む。脛骨パドル2Bは、X方向に延びるアーム24によりフレーム61に取り付けられている。本実施形態では、アーム24が、大腿骨パドル2A側のアーム23と対向するように、脛骨パドル2BのY方向の中心を通るX方向中心線からずれた位置に位置している。ただし、アーム24は、脛骨パドル2BのX方向中心線上に位置してもよい。
【0036】
フレーム61には、X方向に延びる貫通穴62が設けられている。そして、フレーム61の貫通穴62およびブロック47の貫通穴48に、X方向に延びる第1揺動軸63が挿入されることにより、脛骨パドル2Bが第1揺動軸63回りに揺動可能となるように揺動体6を介して移動体4に取り付けられている。なお、X方向から見たときに、脛骨パドル2Bの第2接触面22は、第1揺動軸63の中心線を通る。
【0037】
ベース3の柱33のX方向の一方(大腿骨パドル2Aと反対側)の面には、大腿骨パドル2Aの第1接触面21から脛骨パドル2Bの第2接触面22までの距離D1(
図8(b)参照)に関する目盛33aが形成されている。上述したように脛骨パドル2Bは揺動可能であるので、距離D1は、第1接触面21と第2接触面22上の第1揺動軸63の中心線の延長線との間の距離である。一方、移動体4の脚45には、第2接触面22(第1揺動軸63の中心線の延長線)の現在位置を示すマーク45aが形成されている。これらの目盛33aおよびマーク45aは、大腿骨パドル2Aの第1接触面21から脛骨パドル2Bの第2接触面22までの距離D1を表示する第1距離表示部11を構成する。
【0038】
揺動体6のフレーム61には、X方向の一方(脛骨パドル2Bから遠い方)の辺から上向きに突出する中空(門形状)の振り子64が設けられている。振り子64の先端には、第1揺動軸63を中心とする周方向に並ぶ複数の溝65が形成されている。
【0039】
一方、移動体4の本体41には、振り子64に沿うように、当該本体41のX方向の一方(脛骨パドル2Bから遠い方)の端部から上向きに突出する壁46が設けられている。壁46の先端には、1つの溝65に嵌合可能な突起53を有する係止部材52が設けられている。
【0040】
係止部材52は、
図6に示すように、壁46に固定された、Z方向に延びる軸51に沿って摺動可能であり、スプリング54によって下向きに付勢されている。壁46の上面には、係止部材52を回転不能に保持するための窪みが形成されている。スプリング54の付勢力に抗して係止部材52を窪みから引き上げるとともに、係止部材52を回転(例えば、
図5に示す状態から90度回転)させて突起53を壁46の上面に接触させた状態が通常状態である。すなわち、通常状態では、脛骨パドル2Bが自由に揺動可能である。
【0041】
一方、係止部材52を通常状態から
図5に示す状態まで回転させて突起53を溝65に嵌合させれば、脛骨パドル2Bが揺動不能となる。このとき、係止部材52は壁46の上面に形成された窪みに嵌まり込む。すなわち、軸51、スプリング54、係止部材52および溝65は、大腿骨パドル2Aの第1接触面21と脛骨パドル2Bの第2接触面22との間の角度であるパドル間角度を固定可能な角度固定機構16を構成する。この角度固定機構16により、脛骨パドル2Bの向き(揺動角度)を調整した後にその状態を維持することができる。なお、角度固定機構16の構成はこれに限らず、適宜変更可能である。
【0042】
壁46の一方(脛骨パドル2Bと反対側)の面には、パドル間角度に関する目盛46aが形成されている。一方、振り子64の内部には、脛骨パドル2Bの第2接触面22の現在角度を示す針66が設けられている。これらの目盛46aおよび針66は、パドル間角度を表示するパドル間角度表示部13を構成する。
【0043】
リファレンスガイド7は、Z方向に移動可能となるようにベース3の柱33に取り付けられている。本実施形態では、リファレンスガイド7が移動体4とは独立してZ方向に移動可能である。リファレンスガイド7は、図略の固定ねじにより、柱33に対して任意の位置で固定可能である。
【0044】
より詳しくは、リファレンスガイド7は、ベース3の柱33と嵌合する、柱33に沿って摺動可能な筒状部71と、筒状部71の内部空間と連続する溝74が形成された、筒状部71の上方に位置するガイド部72を含む。溝74の幅は柱33の幅よりも広くなっており、この溝74に柱33および脚45が挿入されている。
【0045】
リファレンスガイド7は、脛骨カッティングガイド17を位置決めするためのものである。
図10(a)および(b)に示すように、脛骨カッティングガイド17には、スリット19が設けられている。このスリット19に、脛骨カッティング用のソーが挿入される。すなわち、スリット19の下面がソーガイド面19a、上面がソー押え面19bである。なお、脛骨カッティングガイド17には必ずしもスリット19が設けられる必要はなく、脛骨カッティングガイド17がソーガイド面19aのみを有してもよい。
【0046】
脛骨カッティングガイド17は、本実施形態では、
図8(b)に示すように脛骨26に打ち込まれる一対の位置決めピン70によって位置決めされる。つまり、脛骨カッティングガイド17は、
図10(a)および(b)に示すように、位置決めピン70がそれぞれ挿通される一対の貫通穴18を有する。なお、位置決めピン70は単なる円柱状体であってもよいし、ねじや釘を位置決めピン70として利用してもよい。
【0047】
一方、リファレンスガイド7のガイド部72には、X方向に延びる一対の貫通穴73が設けられている。貫通穴73は、溝74の両側に位置しており、Y方向に並んでいる。各貫通穴73の直径は、位置決めピン70の直径とほぼ等しい。ガイド部72の上面は、大腿骨パドル1Aの第1接触面21と平行である。
【0048】
貫通穴73からガイド部72の上面までの距離は、脛骨カッティングガイド17の貫通穴18からソーガイド面19aまでの距離と等しい。すなわち、リファレンスガイド7のガイド部72の上面の位置は、後で脛骨カッティングガイド17を設置したときのソーガイド面19aの位置を示す。このため、リファレンスガイド7のガイド部72の上面の位置が脛骨切除位置の目安になる。
【0049】
ベース3の柱33のX方向の一方(大腿骨パドル2Aと反対側)の面には、大腿骨パドル2Aの第1接触面21から脛骨カッティングガイド17のソーガイド面19a(すなわち、リファレンスガイド7のガイド部72の上面)までの距離D2(
図8(b)参照)に関する目盛33bが形成されている。一方、ガイド部72には、当該ガイド部72の上面の現在位置を示すマーク72aが形成されている。これらの目盛33bおよびマーク72aは、大腿骨パドル2Aの第1接触面21から脛骨カッティングガイド17のソーガイド面19aまでの距離D2を表示する第2距離表示部12を構成する。
【0050】
アライメントユニット8は、本実施形態では、移動体4に着脱可能である。具体的に、アライメントユニット8は、
図4に示すように、脛骨26に沿わされる直線状のアライメントバー91を含む。本実施形態では、アライメントバー91が、第1揺動軸63と平行な第2揺動軸83回りに揺動可能であるとともに、Y方向に延びる第3揺動軸92回りにも揺動可能である。
【0051】
より詳しくは、アライメントユニット8は、アライメントバー91の他に、移動体4のレール49が挿入される断面逆T字状の溝を有する把持部81と、把持部81に第2揺動軸83を介して揺動可能に接続された中間体82を含む。アライメントバー91は、中間体82に、第3揺動軸92を介して揺動可能に接続されている。レール49と把持部81との嵌合により、移動体4に取り付けられたときの移動体4に対するアライメントユニット8の相対位置はX方向にシフト可能である。
【0052】
中間体82には、第2揺動軸83を中心とする周方向に延びる円弧状の目盛板85が設けられており、この目盛板85に、大腿骨パドル2Aの第1接触面21と直交する方向とアライメントバー91の延在方向との間の第2揺動軸83回りの角度であるX軸回り傾斜角度に関する目盛85aが形成されている。一方、把持部81には、アライメントバー91の延在方向に対する第1接触面21の直交方向の現在角度を示す針84(本実施形態では、針84が不動で、目盛板85がアライメントバー91と共に揺動)が設けられている。これらの目盛85aおよび針84は、X軸回り傾斜角度を表示する第1角度表示部14を構成する。
【0053】
また、アライメントバー91には、第3揺動軸92を中心とする周方向に延びる円弧状の目盛板93が設けられており、この目盛板93に、大腿骨パドル2Aの第1接触面21と直交する方向とアライメントバー91の延在方向との間の第3揺動軸92回りの角度であるY軸回り傾斜角度に関する目盛93aが形成されている。一方、中間体82には、アライメントバー91の延在方向に対する第1接触面21の直交方向の現在角度を示す針86(本実施形態では、針86が不動で、目盛板93がアライメントバー91と共に揺動)が設けられている。これらの目盛93aおよび針86は、Y軸回り傾斜角度を表示する第2角度表示部15を構成する。
【0054】
次に、
図8(a)および(b)を参照して、脛骨切除支援装置1の使用方法を説明する。まず、使用者(医師)が大腿骨25の遠位部を切除する。
図8(a)および(b)では伸展位の場合であるため大腿骨25の遠位部の遠位端が切除されるが、屈曲位の場合は大腿骨25の遠位部の後端が切除される。その後、使用者が大腿骨25の遠位部の切除面25aと切除前の脛骨26の近位部の間に大腿骨パドル2Aおよび脛骨パドル2Bを差し込み、脛骨パドル2Bが大腿骨パドル2Aから遠ざかるように操作軸34(駆動機構10)を操作する。この操作軸34の操作により、側副靭帯などの膝関節周囲の軟部組織に任意の張力を与えることができる。一方、脛骨パドル2Bは、脛骨26の近位部の形状に合うように揺動する。これにより、張力が与えられた軟部組織における膝関節の内側と外側とでの伸長の大小を把握することができる(具体的には、パドル間角度表示部13によって把握できる)。
【0055】
使用者は、第1距離表示部11を参照しながら大腿骨パドル2Aと脛骨パドル2Bの間を広げることによって軟部組織に適度な張力を与えた後、第2距離表示部12を参照しながらリファレンスガイド7を所望の位置に固定する。ついで、リファレンスガイド7の貫通穴73を通じて脛骨26に一対のドリル孔を形成し、これらのドリル孔に貫通穴73を通じて位置決めピン70を挿入する。なお、位置決めピン70の形態によっては、脛骨26へのドリル孔の形成は不要となる場合もある。その後、脛骨切除支援装置1を撤去し、脛骨26に打ち込まれた位置決めピン70に脛骨カッティングガイド17を取り付け(位置決めピン70を貫通穴18に挿通)、その脛骨カッティングガイド17のスリット19に沿ってソーにより脛骨26を切除する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の脛骨切除支援装置1では、大腿骨パドル2Aの第1接触面21が大腿骨25の遠位部の切除面25aに接触させられ、脛骨カッティングガイド17を位置決めするためのリファレンスガイド7がZ方向(第1接触面21と直交する方向)に移動可能であるので、大腿骨25の遠位部の切除後にその切除面25aを基準面として脛骨26の近位部の切除面の位置を決定することができる。しかも、脛骨パドル2Bが揺動体6を介して取り付けられた移動体4がZ方向に移動可能であるので、大腿骨パドル2Aと脛骨パドル2Bの間を広げることによって側副靭帯などの膝関節周囲の軟部組織に適度な張力を与えることができ、その状態で脛骨26の近位部の切除面の位置を決定することができる。さらに、脛骨パドル2Bが揺動可能であってパドル間角度が変更可能であるので、張力が与えられた軟部組織における膝関節の内側と外側とでの伸長の大小を把握することができる。
【0057】
しかも、脛骨切除支援装置1は第1距離表示部11および第2距離表示部12を含むので、医師が第1距離表示部11で第1接触面21から第2接触面22までの距離D1を確認しながら駆動機構10を操作することができるとともに、第2距離表示部12を参照してリファレンスガイド7を所望の位置に移動させることができる。また、第2距離表示部12に表示される距離D2から第1距離表示部11に表示される距離D1を差し引けば、骨切り量(第2接触面22から脛骨カッティングガイド17のソーガイド面19aまでの距離)も把握することができる。
【0058】
さらに、移動体4に着脱可能なアライメントユニット8が第2揺動軸83回りに揺動可能なアライメントバー91および第1角度表示部14を含むので、
図9(a)に示すように膝関節の前方から見たときにアライメントバー91の中心線を脛骨骨軸26aと一致させれば、脛骨骨軸26aと直交する方向に対する大腿骨パドル2Aの第1接触面21の角度を把握することができる。また、アライメントユニット8は移動体4に着脱可能であるので、大腿骨パドル2Aおよび脛骨パドル2Bの大腿骨25と脛骨26の間への差し込み、および駆動機構10の操作は、アライメントユニット8を移動体4から取り外した状態で行うことができる。
【0059】
しかも、アライメントバー91は第3揺動軸92回りにも揺動可能であり、アライメントユニット8が第2角度表示部15を含むので、
図9(b)に示すように膝関節の側方から見たときにアライメントバー91の中心線を脛骨骨軸26a(実際のTKAでは、脛骨骨軸26aが直接確認できないので、脛骨前縁などを参考に類推)と平行にすれば、脛骨骨軸26aと直交する方向に対する大腿骨パドル2Aの第1接触面21の角度を把握することができる。
【0060】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、アライメントバー91は、必ずしも第2揺動軸83および第3揺動軸92回りに揺動可能である必要はなく、第2揺動軸83回りにのみ揺動可能であってもよい。あるいは、アライメントユニット8全体が省略されてもよい。なお、第1角度表示部14(場合によっては第2角度表示部15も)を有するアライメントユニット8は、特許文献1に開示された外科手術装置に取り付けても有用である。
【0062】
また、前記実施形態では、アライメントユニット8が移動体4に着脱可能であるが、アライメントユニット8はベース3に着脱可能であってもよい。この場合、大腿骨パドル2Aおよび脛骨パドル2Bの大腿骨25と脛骨26の間への差し込み、および駆動機構10の操作は、アライメントユニット8をベース3から取り外した状態で行うことができる。あるいは、アライメントユニット8を揺動体6に取り付ければ、アライメントバー91を第1揺動軸63回りに揺動可能とすることができる。この場合、第2揺動軸83は不要である。
【0063】
リファレンスガイド7は、移動体4と共にZ方向に移動してもよい。ただし、前記実施形態のようにリファレンスガイド7が移動体4とは独立してZ方向に移動可能であれば、大腿骨パドル2Aの第1接触面21から脛骨パドル2Bの第2接触面22までの距離D1に拘らずに、脛骨26の近位部の切除面の位置を決定することができる。
【0064】
さらに、リファレンスガイド7の貫通穴73を通じて脛骨26に一対のドリル孔を形成する場合、それらのドリル孔によって脛骨カッティングガイド17が位置決めされてもよい。この場合、脛骨カッティングガイド17には、貫通穴18の代わりに、ドリル孔と嵌合する一対のピンが設けられる。
【符号の説明】
【0065】
1 脛骨切除支援装置
10 駆動機構
11 第1距離表示部
12 第2距離表示部
13 パドル間角度表示部
14 第1角度表示部
15 第2角度表示部
16 角度固定機構
17 脛骨カッティングガイド
18 貫通穴
19a ソーガイド面
2A 大腿骨パドル
2B 脛骨パドル
21 第1接触面
22 第2接触面
25 大腿骨
25a 切除面
26 脛骨
3 ベース
4 移動体
63 第1揺動軸
7 リファレンスガイド
70 位置決めピン
8 アライメントユニット
83 第2揺動軸
92 第3揺動軸
91 アライメントバー