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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】皮脂腺調整剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/744 20150101AFI20240419BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240419BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20240419BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20240419BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20240419BHJP
   A61K 8/99 20170101ALN20240419BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20240419BHJP
【FI】
A61K35/744
A61P17/00
A61P17/08
A61P17/16
A61P17/10
A61K8/99
A61Q19/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020555653
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2019043999
(87)【国際公開番号】W WO2020096058
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2018211210
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10902
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】591246849
【氏名又は名称】ニチニチ製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 貴志
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-101006(JP,A)
【文献】特表2012-500257(JP,A)
【文献】ZOUBOULIS CC. et al.,Propionibacterium acnes and sebaceous lipogenesis: a love-hate relationship?,Journal of Investigative Dermatology,2009年,Vol.129,pp.2093-2096
【文献】古野哲生ほか,機能性乳酸菌抽出物(LFK)の美容素材への応用,フレグランスジャーナル,2005年,Vol.33, No.9,pp.85-88
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 -35/768
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 -90/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株(FERM BP-10902)の菌体及びその菌体成分からなる群から選択される少なくとも1種を含有する皮脂腺正常化用外用剤であって、前記菌体成分が、乳酸菌の溶菌酵素及び加熱処理物である、剤
【請求項2】
前記菌体が死菌体である、請求項1に記載の外用剤。
【請求項3】
皮脂分泌の促進若しくは抑制用、乾燥肌の予防若しくは改善用、脂性肌の予防若しくは改善用、保湿用、抗ニキビ用、又は体臭の抑制用である、請求項1又は2に記載の外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮脂腺正常化用外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ニキビ(ざ瘡、尋常性ざ瘡)は毛包脂腺系の慢性炎症性疾患であり、原因は、アンドロゲンの脂腺刺激作用による皮脂の分泌亢進、毛漏斗部の角化障害による毛穴の狭窄、毛漏斗部の生物の存在が重要な発症要因と考えられており、その他にも遺伝的要因、年齢、食事性因子、温度湿度などの環境要因、機械的刺激、ストレス、化粧品、薬剤などの内的・外的因子も関与すると考えられている。
【0003】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌は、生体に対して多様な効果を有することが知られている。
【0004】
例えば、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis) NF-1011株は、血圧上昇抑制作用及び心臓肥大防止効果(特許文献1)、免疫賦活効果(特許文献2)、インターフェロン産生増強効果(特許文献3)、感染防御効果(特許文献4)、制癌増強効果(特許文献5)、抗癌剤の毒性軽減効果(特許文献6)、生体抗酸化能賦活効果(特許文献7)などが報告されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1~7では基本的には乳酸菌を経口摂取することが記載されており外用剤としての用途は想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開平5-201871号公報
【文献】日本国特開平8-99887号公報
【文献】日本国特開平8-259450号公報
【文献】日本国特開平8-283166号公報
【文献】日本国特開平8-295631号公報
【文献】日本国特開平9-48733号公報
【文献】日本国特開2017-1961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた皮脂腺の正常化作用を有する外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株の菌体及びその菌体成分が、皮脂腺細胞において、アクネ菌存在下ではアクネ菌によって誘導される皮脂産生を抑制させ、アクネ菌の非存在下では皮脂線を刺激して皮脂を産生させることを見出した。
【0009】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の皮脂腺正常化用外用剤を提供するものである。
【0010】
項1.エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分からなる群から選択される少なくとも1種、又はエンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体から抽出された成分であって、酢酸エチルに可溶な成分を含有する皮脂腺正常化用外用剤。
項2.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスである、項1に記載の外用剤。
項3.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスNF-1011株(FERM BP-10902)である、項1又は2に記載の外用剤。
項4.前記菌体が死菌体である、項1~3のいずれか一項に記載の外用剤。
項5.前記乳酸菌の菌体成分が、乳酸菌の溶菌酵素及び加熱処理物である、項1~4のいずれか一項に記載の外用剤。
項6.皮脂分泌の促進若しくは抑制用、乾燥肌の予防若しくは改善用、脂性肌の予防若しくは改善用、保湿用、抗ニキビ用、又は体臭の抑制用である、項1~5のいずれか一項に記載の外用剤。
項7.エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分からなる群から選択される少なくとも1種、又はエンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体から抽出された成分であって、酢酸エチルに可溶な成分を皮脂腺正常化を必要とする哺乳動物の皮膚に適用する工程を含む、皮脂腺正常化方法。
項8.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスである、項7に記載の方法。
項9.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスNF-1011株(FERM BP-10902)である、項7又は8に記載の方法。
項10.前記菌体が死菌体である、項7~9のいずれか一項に記載の方法。
項11.前記乳酸菌の菌体成分が、乳酸菌の溶菌酵素及び加熱処理物である、項7~10のいずれか一項に記載の方法。
項12.皮脂腺正常化用外用剤の製造における、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分からなる群から選択される少なくとも1種、又はエンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体から抽出された成分であって、酢酸エチルに可溶な成分の使用。
項13.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスである、項12に記載の使用。
項14.前記エンテロコッカス属に属する乳酸菌がエンテロコッカス・フェカリスNF-1011株(FERM BP-10902)である、項12又は13に記載の使用。
項15.前記菌体が死菌体である、項12~14のいずれか一項に記載の使用。
項16.前記乳酸菌の菌体成分が、乳酸菌の溶菌酵素及び加熱処理物である、項12~15のいずれか一項に記載の使用。
【発明の効果】
【0011】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分は、皮脂線細胞において通常の場合は皮脂腺を刺激し皮脂を産生させる一方、異常に皮脂が産生される場合は皮脂の産生を抑制させることができる。そのため、当該菌体及びその菌体成分は、皮脂腺正常化用外用剤、特に、皮脂分泌の促進若しくは抑制用、乾燥肌の予防若しくは改善用、脂性肌の予防若しくは改善用、保湿用、抗ニキビ用、又は体臭の抑制用の外用剤の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】試験例1におけるアクネ菌の存在下又は非存在下で、LFK又はFK-23を添加したSZ-95皮脂腺細胞の蛍光顕微鏡による観察結果を示す写真である。バーは50μm
図2】試験例2におけるFK-23の分画方法を示す図である。
図3】試験例2におけるアクネ菌の存在下又は非存在下で、FK-23の画分を添加したSZ-95皮脂腺細胞の蛍光顕微鏡による観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
なお、本明細書において「含有する、含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0015】
本発明の皮脂腺正常化用外用剤は、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分からなる群から選択される少なくとも1種、又はエンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体から抽出された成分であって、酢酸エチルに可溶な成分を含有することを特徴とする。
【0016】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌としては、特に限定されず、例えば、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカス・アビウム(Enterococcus avium)、エンテロコッカス・カッセリフラバス(Enterococcus casseliflavus)、エンテロコッカス・ガリナルム(Enterococcus gallinarum)、エンテロコッカス・フラベセンス(Enterococcus flavescens)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはエンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・フェシウム等であり、より好ましくはエンテロコッカス・フェカリスである。また、エンテロコッカス・フェカリスの中でも、好ましくは健常者の糞便から分離された菌株であるエンテロコッカス・フェカリスNF-1011株である。エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305-8566))に1991年10月8日に受託番号FERM P-12564として寄託されている。また、この菌株は、現在国際寄託に移管されており、その受託番号はFERM BP-10902である。尚、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターは、2012年4月に独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センターと統合され、現在、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)にてその微生物寄託業務は承継されている。
【0017】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体は、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の構成物全体である限り特に限定されず、生菌体であっても、死菌体であってもよい。菌体は、凍結乾燥物等の乾燥物であってもよい。エンテロコッカス属に属する乳酸菌の生菌体は、ATCC、IFO、JCM等の国内分譲機関、国際分譲機関等から取り寄せることができるし、生物体から単離することもできる。
【0018】
また、培養により容易に大量に得ることができるため、培養して得られた生菌体を用いると生産コストが安く経済的である。エンテロコッカス属に属する乳酸菌の生菌体は、公知の方法に従って培養することにより、増殖させることもできる。例えば、該乳酸菌を、適量の滅菌ロゴザ液体培地に播種し、35~37℃にて10~16時間好気的に静置培養し、前培養液を得て、これを大容量の滅菌ロゴザ液体培地に加え同様に静置培養することによって、大量の生菌体を得ることができる。生菌体を採用する場合、例えば、培養液そのものを用いてもよいし、該培養液の固形分(例えば、培養液から遠心分離等で生菌体を沈殿させて得られた沈殿物、その後必要に応じて生理食塩水等で洗浄して得られた沈殿物等)を用いてもよいし、該固形分の懸濁液(例えば、生理食塩水などの等張液に懸濁して得られた懸濁液等)を用いてもよい。
【0019】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌の死菌体は、特に限定されないが、例えば、生菌体の加熱処理物であることができる。熱処理の温度は、100℃以上であれば特に限定されないが、好ましくはオートクレーブ処理ができる温度(例えば、110~125℃)である。熱処理時間は、例えば、1分間以上、好ましくは5~20分間、より好ましくは5~15分間程度である。
【0020】
乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株の菌体は、例えば、FK-23 (商標)としてニチニチ製薬株式会社より市販されている。
【0021】
本発明において「乳酸菌の菌体成分」とは、乳酸菌の細胞壁が破壊されることにより細胞外に放出される成分を意味する。
【0022】
乳酸菌の菌体成分は、特に限定されないが、例えば、生菌体の細胞壁破壊処理物である。この細胞壁破壊は、生菌体の細胞壁の全体であってもよいし、又は一部分であってもよい。細胞壁破壊処理方法としては、例えば、熱処理、物理的力による処理、溶菌酵素による処理等、或いはこれらを組み合わせた処理が挙げられる。これらの中でも、好ましくは溶菌酵素による処理を含む方法が挙げられ、より好ましくは(a)溶菌酵素による処理、並びに(b)熱処理及び物理的力による処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理(好ましくは熱処理)を含む方法が挙げられ、更に好ましくは(a)溶菌酵素による処理後に、(b)熱処理及び物理的力による処理からなる群より選択される少なくとも1種の処理(好ましくは熱処理)を行うことを含む方法が挙げられる。
【0023】
熱処理の温度は、100℃以上であれば特に限定されないが、好ましくはオートクレーブ処理ができる温度(例えば、110~125℃)である。熱処理時間は、細胞壁の一部又は全部を破壊できる限り特に限定されず、熱処理の温度に応じて適宜設定することができる。熱処理時間は、例えば1分間以上、好ましくは5~20分間、より好ましくは5~15分間程度である。
【0024】
物理的力による処理の方法は、細胞壁の一部又は全部を破壊できる限り特に限定されない。例えば、超音波処理、フレンチプレス等が挙げられる。
【0025】
溶菌酵素による処理に用いる酵素は、細胞壁の一部又は全部を破壊できる限り特に限定されず、細菌類を溶菌するために一般的に用いられている酵素を広く用いることができる。溶菌酵素としては、例えば、リゾチーム、アクチナーゼ、ザイモリエース、キタラーゼ、ムタノシリン、アクロモペプチターゼ等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはリゾチームである。溶菌酵素は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
溶菌酵素による処理条件は、溶菌酵素の種類、溶菌対象(生菌体)量等に応じて適宜設定することができる。例えば、溶菌酵素を終濃度0.01~1 mg/mLになるように生菌体懸濁液に添加し、30~40℃で1~10時間処理すればよい。
【0027】
乳酸菌の菌体成分は、該乳酸菌の菌体を構成する成分である限り特に制限されない。該菌体成分は、好ましくは水溶性成分である。水溶性成分は、例えば、乳酸菌を細胞壁破壊した物から、遠心分離等により固形分を除いて得られる。
【0028】
乳酸菌エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株の菌体成分は、例えば、LFK (商標)としてニチニチ製薬株式会社より市販されている。
【0029】
エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分としては、特にエンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体から抽出された成分であって、酢酸エチルに可溶な成分を使用することが好ましい。後述する実施例で示すように、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体から抽出された成分の中で、酢酸エチルに可能な成分が皮脂腺正常化作用を有している。
【0030】
本発明の外用剤は、エンテロコッカスに属する乳酸菌の菌体及び菌体成分により皮脂腺正常化作用を発揮するため、皮脂分泌の促進若しくは抑制用、乾燥肌の予防若しくは改善用、脂性肌の予防若しくは改善用、保湿用、抗ニキビ用、体臭の抑制用などの外用剤として好適に使用される。また、本発明の外用剤には、外用の医薬品及び化粧料が含まれる。当該化粧料には、医薬部外品も包含される。また、本発明の外用剤は、ヒトを含む哺乳動物の皮膚(頭皮を含む)に適用されるものである。
【0031】
医薬品を調製する場合、乳酸菌の菌体及び菌体成分を、公知の成分とともに、外用固形剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤などの形態に調製して、外用の製剤にすることが可能である。
【0032】
医薬品には、外用剤に使用される公知の添加剤、例えば、抗菌剤、清涼剤、乳化剤、油分、酸化防止剤、界面活性剤、香料、紫外線吸収剤、色素、エタノール、水、保湿剤、増粘剤、可溶化剤、ゲル化剤などから選択される1種又は2種以上を配合することができる。
【0033】
医薬品中に含まれる乳酸菌の菌体及び菌体成分の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0034】
化粧料の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、粉末系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等の幅広い剤型を採り得る。
【0035】
化粧料の用途も任意であり、例えば、基礎化粧品であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク等が挙げられ、メークアップ化粧品であれば、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等が挙げられ、その他、洗顔料、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、制汗剤、入浴剤等が挙げられる。
【0036】
化粧料には、乳酸菌の菌体及び菌体成分以外に、通常化粧料に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0037】
化粧料中に含まれる乳酸菌の菌体及び菌体成分の割合は、特に制限されず、例えば、0.01~99質量%の濃度を挙げることができる。
【0038】
後述する実施例で示すように、本発明者らは、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分が、皮脂線細胞において通常の場合は皮脂腺を刺激し皮脂を産生させる一方、異常に皮脂が産生される場合は皮脂の産生を抑制させることを見出したことから、皮脂分泌の促進若しくは抑制作用、(高齢者、腎疾患の患者、糖尿病の患者などの)乾燥肌の予防若しくは改善作用、脂性肌の予防若しくは改善作用、保湿作用、抗ニキビ作用、体臭(例えば、腋臭症)の抑制作用などが期待できる。ここで、ニキビ、腋臭症などの体臭などは過剰に皮脂が分泌されることを原因とするものである。
【0039】
そのため、エンテロコッカス属に属する乳酸菌の菌体及びその菌体成分は、皮脂線細胞において顕著に優れた正常化作用(特に、皮脂分泌の正常化作用)を有するので、皮脂腺正常化用外用剤、特に、皮脂分泌の促進若しくは抑制用、乾燥肌の予防若しくは改善用、脂性肌の予防若しくは改善用、保湿用、抗ニキビ用、体臭の抑制用などの外用剤の有効成分として有用である。
【実施例
【0040】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0041】
試験例1
<実験方法>
1.菌体試料の調製(FK-23)
エンテロコッカス・フェカリスNF-1011株を液体培地(グルコース2%、酵母エキス2%、ペプトン2%、リン酸水素二カリウム4%)中で37℃、18時間培養した。マイクロフィルトレーション膜で集菌及び洗浄し、生菌体を回収した。これを110℃で10分間熱処理し、処理後、スプレードライで乾燥させた。得られた死菌体乾燥物を、菌体試料(FK-23)として、以下の実験で用いた。
【0042】
2.菌体試料の調製(LFK)
エンテロッコカス・フェカリスNF-1011株をロゴサ液体培地10 mlに播種し、37℃にて15時間好気的に静置培養(前培養)し、菌体濃度が約109個/mlの菌体液(シード)を得た。これをロゴサ液体培地10Lに播種(菌体濃度:106個/ml)し、37℃で16時間好気的に静置培養し、生菌数約109個/mlの菌体液を得た。得られた菌体液を遠心分離(12,000×g、20分間)して集菌し、これを生理食塩水(0.85%塩化ナトリウム水溶液)で2回洗浄して、蒸留水100 mlに懸濁し、菌体懸濁液を得た。当該菌体懸濁液にリゾチームを終濃度0.1 mg/ml量となるよう添加し、37℃で4時間処理後、110℃で10分間加熱処理して、菌体処理物を得た。得られた菌体処理物を、菌体試料(LFK)として、以下の実験で用いた。
【0043】
3.SZ-95皮脂腺細胞分化試験
SZ-95:ヒト皮脂腺細胞株は、デッサウ医療センター(ドイツ)から輸入し、Sebomed basal medium (Millipore, Billerica, MA)に、10%FCS (Thermo Fisher Scientific Inc., Yokohama, Japan)、50 IU/mlペニシリン及び50μg/mlストレプトマイシン(Nacalai Tesque, Kyoto, Japan)、5 ng/mlヒトEGF (PeproTech GmbH, Hamburg, Germany)を添加して培養した。培地は一日置きに交換し、60~70%コンフルエントで細胞を継代培養した。
【0044】
その後、hEGFを含まない培地中で24時間、アクネ菌抽出物の存在下若しくは非存在下で、細胞をLFK及びFK-23に曝した。SZ-95細胞は、5.0×104 cells/wellの濃度で8ウェルチャンバースライドに播種した。LFK及びFK-23は終濃度300μg/mlで添加し、アクネ菌は2.0×105 CFU/mlで添加し、37℃24時間でインキュベートした。インキュベーション後、脂質相溶性の指示薬BODIPYを終濃度1μMで添加し、EVOS FLマイクロイメージングシステムで観察した。同様の試験を実施し、再現性があることを確認した。
【0045】
<結果>
結果を図1に示す。アクネ菌を含まない場合、LFK及びFK-23は皮脂線を刺激し皮脂を産生させた。それに対して、アクネ菌を含む場合、LFK及びFK-23はアクネ菌によって誘導される皮脂産生を抑制させた。
【0046】
試験例2
<実験方法>
試験例1で確認された効果を示すFK-23中の成分を探索するために、図2に示す方法にてFK-23の分画を行った。
【0047】
試験例1で調製したFK-23を飽和食塩水に懸濁し、吸引ろ過により得られたろ液を、酢酸エチルとで溶媒分配を行った。得られた酢酸エチル層は、減圧エバポレーターによって乾固した後、酢酸エチルを添加し、可溶性分と不溶性分とに分けた。酢酸エチルに可溶な成分を、90% MeOHとヘキサンとで溶媒分配を行ったところ、90% MeHO画分に強い活性がみられたので、中圧カラムを用いた精製を行った。中圧カラムは、ODS (SHOKO Purif-Pack (商標)-EX ODS-50μm、SIZE 20, 60×20 mm I.D.、昭光サイエンス株式会社製)を使用した。溶出は、アセトニトリルと水との混合溶媒を用い、50%アセトニトリル、60%アセトニトリル、70%アセトニトリル、80%アセトニトリル、90%アセトニトリル、100%アセトニトリルの順に、段階的に溶出を行った。
【0048】
得られたそれぞれの画分について、試験例1と同様のSZ-95皮脂腺細胞分化試験を行った。
【0049】
<結果>
結果を図3に示す。図3では50%アセトニトリル画分にて試験例1に近い結果が得られているので、酢酸エチル可溶性画分に皮脂腺正常化作用を示す成分が含まれていることが分かった。
図1
図2
図3