(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】超音波センサ
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
H04R17/00 330
(21)【出願番号】P 2022505066
(86)(22)【出願日】2021-02-08
(86)【国際出願番号】 JP2021004507
(87)【国際公開番号】W WO2021176954
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2020035467
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桝田 知樹
(72)【発明者】
【氏名】石崎 祐大
(72)【発明者】
【氏名】永原 英知
【審査官】金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-017831(JP,A)
【文献】登録実用新案第3219041(JP,U)
【文献】特開2005-130389(JP,A)
【文献】欧州特許第0119855(EP,B2)
【文献】国際公開第2014/084183(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/161903(US,A1)
【文献】特開2013-135592(JP,A)
【文献】特開2017-094279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、圧電素子と、互いに積層し接合された複数の音響整合層と、で構成され、
前記複数の音響整合層は、前記圧電素子に隣接する第一音響整合層を含み、
前記第一音響整合層は熱可塑性樹脂と無機フィラーからなり、
前記第一音響整合層における前記無機フィラーの重量比率は30%以下であり、
前記無機フィラーは針状フィラーと中空フィラーからなり、
前記無機フィラーに占める前記中空フィラーの重量比率は50%以下である、
超音波センサ。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は液晶ポリマーである、
請求項1に記載の超音波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の送受信を行う超音波センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
互いに接する異なる2つの物質においては、各物質の音響インピーダンスの差異が小さければ、超音波はそれら2つの物質の界面を透過して一方の物質から他方の物質へ伝播する。なお、音響インピーダンスとは、その物質の密度とその物質の音速との積によって表される数値のことである。しかし、互いに接する2つの物質において音響インピーダンスが大きく異なる場合、超音波は、伝播する割合よりも界面で反射する割合の方が高くなる。従って、互いに接する2つの物質においては、各物質の音響インピーダンスの差異が小さくなるに従い、超音波のエネルギー伝播効率は高くなる。
【0003】
しかし、超音波センサに使用される圧電素子は、密度と音速が相対的に高いセラミックスにより構成されるのが一般的である。超音波を伝播させる対象である空気等の気体の密度と音速は、セラミックスの密度と音速より大幅に小さい。従って、圧電素子から空気への超音波のエネルギー伝播効率は非常に低い。
【0004】
この問題を解決するために、圧電素子と気体の間に、圧電素子より音響インピーダンスが小さく、空気より音響インピーダンスが大きい音響整合層を介在させる対策が行われている。これにより、超音波のエネルギー伝播効率を高めることができる。
【0005】
音響インピーダンスの観点から見た場合、圧電素子から音響整合層を経て気体へ超音波が伝播するときのエネルギー伝播効率が最も高くなるのは、各物質の音響インピーダンスが以下の式(1)により示される関係を満たす場合である。
【0006】
Z2^2=Z1×Z3・・・(1)
式(1)において、Z1は圧電素子の音響インピーダンスであり、Z2は音響整合層の音響インピーダンスであり、Z3は気体の音響インピーダンスである。
【0007】
更に、圧電素子で発生した超音波を高効率で気体に伝播させるためには、音響整合層を伝播する超音波のエネルギー損失を低く抑えることが必要となる。音響整合層の内部を伝播する超音波のエネルギー損失の要因の一つは、音響整合層が塑性変形し超音波のエネルギーが熱として散逸することである。従って、音響整合層を伝播する超音波のエネルギー損失を低く抑えるためには、音響整合層に使用する物質が高弾性であることが望ましい。
【0008】
しかし、式(1)から判るように、音響整合層の音響インピーダンスZ2を、気体の音響インピーダンスZ3に近づけるためには、音響インピーダンスZ2の数値を低下させる必要がある。低い音響インピーダンスを有する物質は、低音速や低密度の物質であり、一般に容易に変形する物質が多い。そして、そのような物質は音響整合層に適さない。具体的には、固体である圧電素子と気体とでは、音響インピーダンスの数値が5桁程度異なる。そのため、式(1)を満足させるためには、音響整合層の音響インピーダンスの数値と圧電素子の音響インピーダンスの数値との差異が3桁程度になるように、音響整合層の音響インピーダンスを低くする必要がある。
【0009】
そこで、音響整合層を二層にして圧電素子から気体へ高効率で超音波を伝播させる検討が行われている。ここでは、気体に接し、超音波を気体に放出する音響整合層を第二音響整合層、第二音響整合層と圧電素子の双方と接する音響整合層を第一音響整合層と定義する。そして、圧電素子から第一音響整合層、第二音響整合層を経て気体へ超音波が伝播するときのエネルギー伝播効率が最も高くなるのは、各物質の音響インピーダンスが式(1)から導かれる以下の式(2)、式(3)により示される関係を満たす場合である。
【0010】
Z2^2=Z1×Z3・・・(2)
Z3^2=Z2×Z4・・・(3)
式(2)、式(3)において、Z1は圧電素子の音響インピーダンスであり、Z2は第一音響整合層の音響インピーダンスであり、Z3は第二音響整合層の音響インピーダンスであり、Z4は気体の音響インピーダンスである。
【0011】
また、互いに接する異なる2つの物質で音響インピーダンスの差が大きい場合、それら2つの物質が接触する界面で超音波が反射するため、各物資の音響インピーダンスの大きさは、次の関係を満たすことが望ましい。
圧電素子>第一音響整合層>第二音響整合>気体
このような低音響インピーダンスと超音波エネルギーの高い伝播効率とを実現するために、非常に軽量で硬質な素材が音響整合層に用いられる。多くの場合、この密度制御を実現するために、樹脂材料に中空フィラーを混合させたり、発泡樹脂などを適用したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【0013】
特許文献1は、音響整合層を形成する材料として、カルボジイミド樹脂を主成分とし、無機中空体、又は無機中空体と反応性樹脂を含有する組成物を開示している。特許文献1には、この組成物は、カルボジイミド樹脂の吸湿性が低く、カルボジイミド樹脂と無機中空体の密着性がよい、といった特徴を有することから、高湿度下でも性能が低下しにくい超音波センサを製造することができる、と記されている。
【0014】
しかしながら、この製造工程では200℃で1時間という高温かつ長時間の硬化反応工程が必要である。そのため、この硬化過程において製造物に密度のばらつきが発生する可能性がある。
【0015】
本発明は、熱可塑性樹脂を射出成形することにより製造工程を簡略化し、この熱可塑性樹脂に無機フィラーを所定量混合することで、湿度の影響を受けやすい環境下でも特性変動の小さい音響整合層を生成し、信頼性の高い超音波センサを生産することができる。
【0016】
本発明の超音波センサは、少なくとも、圧電素子と、互いに積層し接合された複数の音響整合層と、で構成される。複数の音響整合層は、圧電素子に隣接する第一音響整合層を含む。第一音響整合層は熱可塑性樹脂と無機フィラーからなり、第一音響整合層における無機フィラーの重量比率は30%以下である。無機フィラーは針状フィラーと中空フィラーからなり、無機フィラーに占める中空フィラーの重量比率は50%以下である。このような組成の熱可塑性樹脂を用いることで、射出成型により音響整合層を簡便に生成することができ、湿度耐性の高い超音波センサを生産することができる。
【0017】
無機フィラーの配合比率を規定した熱可塑性樹脂を用いた第一音響整合層は、射出成型という簡便な工法で生産することができ、密度のばらつきなども非常に小さい。熱可塑性樹脂の構成成分である無機フィラーの配合比率を規定することで、高湿度の環境下であっても音響整合層の吸湿量を低減させることが可能となる。この結果、湿度変化による影響を受けにくい超音波センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、実施の形態1における超音波センサの構成の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1における超音波センサの各実施例における第一音響整合層を形成する配合組成中の無機フィラーに占める中空構造比率に対する第一音響整合層の密度及び吸湿量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
当該技術に関連する業界では、超音波センサに使用する音響整合層を開発するために、非常に軽量で硬質な材料の検討がなされている。音響整合層の軽量化を図るために、この材料に中空フィラーを配合する検討が一般的になされている。本願発明者らは、この中空フィラーを用いた音響整合層の軽量化の検討により着想を得た。この着想を実現するためには材料への中空フィラーの高充填が必要となる。しかし、本願発明者らは、材料に中空フィラーを高充填することによって、吸湿しやすい環境下で超音波センサの特性が変化することを発見した。そして、本願発明者らは、この問題を解決するために本発明の主題を構成するに至った。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の超音波センサの実施形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下で説明する実施の形態は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、いずれも本開示の一例を示すものであり、これにより請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。また、図面は、必ずしも厳密に図示されたものではなく、本開示をわかりやすく示すために適宜省略等を行った模式図である。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における超音波センサ1の構成の一例を模式的に示す断面図である。超音波センサ1は、圧電素子2と第一音響整合層4と第二音響整合層5とを備える。圧電素子2は、圧電セラミックスによって構成され、厚さ方向に分極されている。圧電素子2は、有底筒状の金属筐体3の内面3bに接合されている。
【0022】
圧電素子2の両面に構成された電極2a、2bの内、一方の電極2aは配線6aにより引き出され、他方の電極2bは金属筐体3を介して配線6bで引き出されている。第一音響整合層4は、熱可塑性樹脂と無機フィラーとの混合物により構成されており、金属筐体3の天板の外面3aに接合されている。更に、第二音響整合層5は第一音響整合層4と接着されている。
【0023】
そして、第一音響整合層4と第二音響整合層5とを積層することで、配線6a、6bを介して電気回路(図示せず)から電極2a、2bに印加される駆動交流電圧により励振される圧電素子2の機械的振動が、外部の流体に対して超音波として効率よく出ていく。また、圧電素子2に到達した超音波が効率よく電圧に変換される。
【0024】
本発明における第一音響整合層4は、熱可塑性樹脂と強度確保の為の無機フィラーとの混合物で構成されている。第二音響整合層5は、気体との音響整合の為に音響インピーダンスの小さな材料で構成されている。そして、第一音響整合層4と第二音響整合層5との音響インピーダンス整合と音響シミュレーションの結果から、第一音響整合層4の密度は、0.6g/cm^3以上1.6g/cm^3以下である必要があることがわかった。
【0025】
一方、超音波伝搬の内部損失の低減を考慮すると、第一音響整合層4の密度は、その内部損失を低減できる程度に大きいことが求められる。これにより、第一音響整合層4の密度の下限が決定される。更に、第一音響整合層4の耐熱性を確保する為に、熱可塑性樹脂に混入している無機フィラーの配合量は、所定の耐熱条件を満たすと共に、第一音響整合層4全体の密度が所定範囲に入るように設定する必要がある。これらのことから、本開示においては、無機フィラーを熱可塑性樹脂に重量分率が30%以下となるように混合することとする。なお、以下に示す実施例1~7においては、熱可塑性樹脂に対する無機フィラーの重量分率は22%としている。さらに、以下に示す実施例1~7では、第一音響整合層4の密度を変化させる為に、無機フィラーを針状フィラーおよび中空フィラーで構成し、針状フィラーと中空フィラーの重量分率をパラメータとしている。
【0026】
第一音響整合層4の材料としては、成型時に樹脂の流動性による成形ができる熱可塑性を有する材料が必要である。これらの材料として、例えば、硬質ウレタン樹脂、PPS樹脂、POM樹脂、ABS樹脂、液晶ポリマー、PS樹脂などの樹脂が挙げられる。また、熱可塑性樹脂に混合する無機フィラーには、針状フィラーと中空フィラーを混合して使用する。これにより、材料の密度調整も可能となる。針状フィラーの一例としてガラスファイバーが挙げられる。中空フィラーの一例として、ガラスやセラミックスからなる中空バルーンが挙げられる。
【0027】
また、第二音響整合層5に適した材料としては、気体と圧電素子の音響インピーダンス整合を考慮すると、クローズドポア構造の発泡樹脂で形成されており、複数の孔部とそれに隣接する壁部を備えた構成を持つ硬質樹脂発泡体が挙げられる。硬質樹脂発泡体の例として、硬質アクリル発泡体、硬質塩ビ発泡体、硬質ポリプロピレン発泡体、硬質ポリメタクリルイミド発泡体、硬質ウレタン発泡体が挙げられる。
【0028】
硬質アクリル発泡体の例として積水化成品工業株式会社のフォーマック(登録商標)などが挙げられ、硬質塩ビ発泡体の例としてJFC株式会社のナビセル(登録商標)などが挙げられ、硬質ポリプロピレン発泡体の例として積水化学株式会社のゼットロン(登録商標)などが挙げられ、硬質ポリメタクリルイミド発泡体の例としてダイセル・エボニック株式会社のロハセル(登録商標)などが挙げられる。これらは販売されている。
【0029】
本実施の形態の超音波センサ1は、例えば以下の手順により、製造できる。
【0030】
まず、金属筐体3、圧電素子2、第一音響整合層4、および第二音響整合層5を用意する。第一音響整合層4及び第二音響整合層5は、予め、所定の厚さを有するように加工されている。金属筐体3における天板の内面3bに接着剤などで圧電素子2を張り付ける。また、金属筐体3における天板の外面3aに第一音響整合層4を張り付け、さらに第一音響整合層4の上に第二音響整合層5を張り付ける。その後、圧電素子2に配線6aを、金属筐体3に配線6bをそれぞれ接続する。こうして超音波センサが完成する。なお、金属筐体3と第一音響整合層4との接合方法、および第一音響整合層4と第二音響整合層5との接合方法には、例えば、エポキシ系樹脂による接着を用いている。
【0031】
(実施例)
以下、実施の形態1の超音波センサ1を、条件を変えて複数作製し、それぞれの特性を調べた結果を説明する。なお、以下では、超音波センサ1および第一音響整合層4を、作製条件に応じて、超音波センサ1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1hとし、第一音響整合層4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4hとする。
【0032】
1.試料の作製
(実施例1)
実施例1として、下記の超音波センサ1aを作製した。
【0033】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0034】
第一音響整合層4aを形成する材料として、液晶ポリマーに針状のガラスファイバーと中空のガラスバルーンの混合物を無機フィラーとして配合したものを用いた。なお、この混合物における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、77:5:17である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4aを作製した。なお、この材料の密度は1.20g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4aを貼り合わせ、第一音響整合層4aの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4aおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1aを作製した。
【0035】
(実施例2)
実施例2として、下記の超音波センサ1bを作製した。
【0036】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0037】
第一音響整合層4bを形成する材料として、液晶ポリマーに針状のガラスファイバーと中空のガラスバルーンの混合物を無機フィラーとして配合したものを用いた。なお、この混合物における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、77:7:15である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4bを作製した。なお、この材料の密度は1.23g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4bを貼り合わせ、第一音響整合層4bの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4bおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1bを作製した。
【0038】
(実施例3)
実施例3として、下記の超音波センサ1cを作製した。
【0039】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0040】
第一音響整合層4cを形成する材料として、液晶ポリマーに針状のガラスファイバーと中空のガラスバルーンの混合物を無機フィラーとして配合したものを用いた。なお、この混合物における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、77:13:9である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4cを作製した。なお、この材料の密度は1.30g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4cを貼り合わせ、第一音響整合層4cの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4cおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1cを作製した。
【0041】
(実施例4)
実施例4として、下記の超音波センサ1dを作製した。
【0042】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0043】
第一音響整合層4dを形成する材料として、液晶ポリマーに針状のガラスファイバーと中空のガラスバルーンの混合物を無機フィラーとして配合したものを用いた。なお、この混合物における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、77:15:7である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4dを作製した。なお、この材料の密度は1.35g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4dを貼り合わせ、第一音響整合層4dの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4dおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1dを作製した。
【0044】
(実施例5)
実施例5として、下記の超音波センサ1eを作製した。
【0045】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0046】
第一音響整合層4eを形成する材料として、液晶ポリマーに針状のガラスファイバーと中空のガラスバルーンの混合物を無機フィラーとして配合したものを用いた。なお、この混合物における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、77:18:4である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4eを作製した。なお、この材料の密度は1.40g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4eを貼り合わせ、第一音響整合層4eの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4eおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1eを作製した。
【0047】
(実施例6)
実施例6として、下記の超音波センサ1fを作製した。
【0048】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0049】
第一音響整合層4fを形成する材料として、液晶ポリマーに針状のガラスファイバーと中空のガラスバルーンの混合物を無機フィラーとして配合したものを用いた。なお、この混合物における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、77:21:1である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4fを作製した。なお、この材料の密度は1.50g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4fを貼り合わせ、第一音響整合層4fの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4fおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1fを作製した。
【0050】
(実施例7)
実施例7として、下記の超音波センサ1gを作製した。
【0051】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0052】
第一音響整合層4gを形成する材料として、液晶ポリマーに針状のガラスファイバーを無機フィラーとして配合したものを用いた。なお、この混合物にガラスバルーンは無添加とした。そのため、この混合物における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、77:22:0である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4gを作製した。なお、この材料の密度は1.60g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4gを貼り合わせ、第一音響整合層4gの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4gおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1gを作製した。
【0053】
(比較例1)
比較例1として、下記の超音波センサ1hを作製した。
【0054】
圧電素子2として、厚さ2.65mm、長軸方向の長さ7.4mm、短軸方向の長さ3.55mmの直方体状のチタン酸ジルコン酸鉛を用いた。この圧電素子2は長軸方向に溝を有している。接着剤として、常温で液状であり、加熱により固化するエポキシ系の接着剤を用いた。金属筐体3として厚さ0.2mmのSUS304からなるものを用いた。第二音響整合層5としてポリメタクリルイミド発泡樹脂を用いた。密度は0.07g/cm^3であり、寸法は直径10mm、厚み0.75mmの円板状に加工したポリメタクリルイミド発泡樹脂を第二音響整合層5として使用した。
【0055】
第一音響整合層4hを形成する材料として、無機フィラーが無添加の液晶ポリマーを使用した。このため、この材料における液晶ポリマー、ガラスファイバー、ガラスバルーンの重量比率は、100:0:0である。各素材をこの比率で配合して形成したペレットを、射出成型により、厚さ1.0mm、直径10mmの円板状に成形して第一音響整合層4hを作製した。なお、この材料の密度は1.45g/cm^3であった。そして、圧電素子2を固定した金属筐体3に、この第一音響整合層4hを貼り合わせ、第一音響整合層4hの上に第二音響整合層5を積層して接合した。このようにして、圧電素子2、金属筐体3、第一音響整合層4hおよび第二音響整合層5を備えた超音波センサ1hを作製した。
【0056】
2.特性の評価
まず、射出成型によって作製した第一音響整合層4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4hの各々の吸湿量を測定した。具体的には、70℃95%の恒温恒湿槽に、上記した各条件で作製した第一音響整合層4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4hを100時間投入した。そして、各第一音響整合層4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4hの投入前後の重量をそれぞれ計測し、重量の変化から吸湿量を算出した。次に、第一音響整合層4a、4b、4c、4d、4e、4f、4g、4hを用いて作製した超音波センサ1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1hを上記と同条件の恒温恒湿槽に同時間投入し、投入前後のインピーダンス波形を比較して、周波数のシフト量を計測した。このシフト量が10kHz以下の超音波センサ1を「〇」、このシフト量が10kHzより大きい超音波センサ1を「×」とした。耐熱特性の測定では、-40℃の恒温槽と80℃の恒温槽に、超音波センサ1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1hを各々30分間ずつ投入する熱衝撃試験を200サイクル実施した。そして、各超音波センサ1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1hのセンサ感度を、熱衝撃試験の実施前後でそれぞれ比較し、その変化を確認した。そして、感度変化が20%以上の超音波センサ1を「×」とし、感度変化が20%未満の超音波センサ1を「〇」とした。
【0057】
これら吸湿量と、インピーダンスのシフト量および耐熱特性の判定結果を表1に記載する。なお、この表1には配合組成中の無機フィラー比率、無機フィラー中の中空構造比率も併せて記している。なお、表1において「実施例1」の列には、上記実施例1で作製した第一音響整合層4aに関する各数値、およびこの第一音響整合層4aを備えた超音波センサ1aにおける判定結果を示した。他の実施例2~7および比較例1も同様である。また、表1では、吸湿量の算出結果を「吸湿量(g)」の行に、周波数のシフト量の判定結果を「吸湿耐性(判定結果)」の行に、センサの感度変化の判定結果を「耐熱特性(判定結果)」の行に、それぞれ記載した。
【0058】
【0059】
3.結果の考察
図2は、表1に示す各実施例における第一音響整合層4を形成する配合組成中の無機フィラーに占める中空構造比率に対する第一音響整合層4の密度及び吸湿量を示すグラフである。
図2において、横軸は第一音響整合層4を形成する配合組成中の無機フィラーに占める中空構造比率を表し、縦軸は第一音響整合層4の密度及び吸湿量を表す。
【0060】
表1および
図2に示す様に、第一音響整合層4の吸湿量は、第一音響整合層4を形成する配合組成中の無機フィラーに占める中空フィラーの比率(表1、
図2には、中空構造比率(%)として示す)に関連しており、中空フィラーの比率が少ない程、吸湿量も減少する傾向を示した。また、超音波センサの吸湿耐性(インピーダンスシフト量)は吸湿量との相関があることを確認した。これらの結果より、第一音響整合層4に中空構造のフィラーを導入することにより、吸湿量が増加し、超音波センサの吸湿耐性(インピーダンスシフト量)も悪化することがわかった。表1の判定結果より、無機フィラーに占める中空構造のフィラー比率の好ましい比率は50%以下であることがわかった。この場合、第一音響整合層4の密度は、1.25~1.60g/cm^3に設定することができ、前述した要求される密度の条件を満たすことができる。
【0061】
なお、吸湿量を低減させるために無機フィラーに占める中空構造のフィラー比率(中空構造比率)を0%とした実施例7の第一音響整合層4g(超音波センサ1g)は、低吸湿量でありインピーダンスシフト量も問題ないが、密度が前述した上限の1.6g/cm^3に達している。密度上限よりも超音波センサの音波の伝播性能を向上させるために、無機フィラーにおける中空フィラーの重量比率は、1%以上であることが望ましい。また、無機フィラーを0%とした比較例1の第一音響整合層4h(超音波センサ1h)は、密度は条件を満たすものの、耐熱特性の判定結果が「×」であった。したがって、耐熱性を向上させる観点から、第一音響整合層4における無機フィラーの重量比率は10%以上であることが望ましい。
【0062】
これらの結果より、第一音響整合層4に少なくとも無機フィラーを重量比率で30%以下添加し、さらに無機フィラーに占める中空構造のフィラーを重量比率で50%以下にすることで、耐熱特性にも悪影響を与えず、吸湿耐性に優れた超音波センサ1を得ることができることが分かった。なお、第一音響整合層4における無機フィラーの比率、及び、無機フィラーに占める中空構造のフィラーの比率は、超音波センサに求められる感度、耐熱性、吸湿性に応じて、適宜、上記した範囲内で選択することができる。
【0063】
以上説明したように、第1の開示における超音波センサは、少なくとも、圧電素子と、互いに積層し接合された複数の音響整合層と、で構成され、複数の音響整合層は、圧電素子に隣接する第一音響整合層を含み、第一音響整合層は熱可塑性樹脂と無機フィラーからなり、第一音響整合層における無機フィラーの重量比率は30%以下であり、無機フィラーは針状フィラーと中空フィラーからなり、無機フィラーに占める中空フィラーの重量比率は50%以下である。
【0064】
第2の開示における超音波センサは、第1の開示において、熱可塑性樹脂が液晶ポリマーである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明にかかる超音波センサは、種々の流体の測定用流量計に好適に用いられる。特に、本発明にかかる超音波センサは、高温、もしくは低温といった使用環境下で優れた耐久性を要する用途に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0066】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h 超音波センサ
2 圧電素子
2a,2b 電極
3 金属筐体
3a 外面
3b 内面
4,4a,4b,4c,4d,4e,4f,4g,4h 第一音響整合層
5 第二音響整合層
6,6a,6b 配線