(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】スクリューオーガ
(51)【国際特許分類】
E21B 17/22 20060101AFI20240419BHJP
E21B 10/44 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
E21B17/22
E21B10/44
(21)【出願番号】P 2023116225
(22)【出願日】2023-07-14
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】519335440
【氏名又は名称】株式会社サン・エンジニア
(73)【特許権者】
【識別番号】514142968
【氏名又は名称】株式会社サンワールド
(74)【代理人】
【識別番号】100210295
【氏名又は名称】宮田 誠心
(74)【代理人】
【識別番号】100088133
【氏名又は名称】宮田 正道
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋
(72)【発明者】
【氏名】角田 和明
(72)【発明者】
【氏名】小林 眞
【審査官】五十幡 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014869(JP,A)
【文献】特公昭63-038500(JP,B2)
【文献】特許第2645979(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00-49/10
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーガロッドの外周にスクリュー羽根が設けられているスクリューオーガであって、
オーガロッドは、下端に掘削ビットを取り付け可能な先端部と先端部の上端から軸線方向に延出する基端部とを有し、
基端部におけるオーガロッドの直径が、先端部におけるオーガロッドの直径よりも長くなって
おり、
オーガロッドの外周において、オーガロッドの外周から外側に張り出す湾曲押圧面を側面とした円弧形状のコテ部が設けられており、
基端部に設けられているコテ部は、オーガロッドの軸線方向に平行な幅が、先端部に設けられているコテ部に比べて、長くなっていることを特徴とするスクリューオーガ。
【請求項2】
基端部に設けられているコテ部は、オーガロッドの軸線からオーガロッドの外周から湾曲押圧面の最も外側に張り出した位置までの半径方向の距離が、先端部に設けられているコテ部に比べて、短くなっていることを特徴とする請求項1に記載のスクリューオーガ。
【請求項3】
先端部におけるオーガロッドの直径に対する基端部におけるオーガロッドの直径の比率が1.2~1.4となっていることを特徴とする請求項1に記載のスクリューオーガ。
【請求項4】
基端部におけるオーガロッドの直径に対するスクリュー羽根の羽根径の比率が1.5~1.2となっていることを特徴とする請求項1に記載のスクリューオーガ。
【請求項5】
基端部におけるオーガロッドの外周において、コテ部が複数設けられており、複数のコテ部は、基端部におけるオーガロッドの外周に沿って、螺旋状に配置されていることを特徴とする
請求項1から4のいずれかに記載のスクリューオーガ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に坑を形成するためのスクリューオーガに関する。
【背景技術】
【0002】
地中に建築物を支持する杭を築造するために、スクリューオーガを所定の深度まで回転させながら貫入して、引き抜くことによって、杭を築造するための坑を形成する。
【0003】
このようなスクリューオーガとして特許文献1に示すものがある。特許文献1のスクリューオーガは、オーガロッドの外周にスクリュー羽根が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のスクリューオーガでは、貫入及び引抜の際での掘削土の地上への排出量を抑制することに限界がある。掘削土の排出量が多くなると、地上の作業ヤードが狭くならざるを得ず、現場での安全確保が難しくなることや、工程遅延が生じる可能性がある。
【0006】
また、掘削土の排出量の抑えるために、オーガロッド外周面からスクリュー羽根の外縁までの距離を短くすることが考えられる。しかし、掘削抵抗が大きくなり、掘削時間の増大してしまうこととなる。
【0007】
そこで、本発明は、掘削土の排出量の抑制と掘削抵抗の増大の抑制とを両立できるスクリューオーガを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1のスクリューオーガは、オーガロッドの外周にスクリュー羽根が設けられているスクリューオーガであって、オーガロッドは、下端に掘削ビットを取り付け可能な先端部と先端部の上端から軸線方向に延出する基端部とを有し、基端部におけるオーガロッドの直径が、先端部におけるオーガロッドの直径よりも長くなっており、オーガロッドの外周において、オーガロッドの外周から外側に張り出す湾曲押圧面を側面とした円弧形状のコテ部が設けられており、基端部に設けられているコテ部は、オーガロッドの軸線方向に平行な幅が、先端部に設けられているコテ部に比べて、長くなっている。
【0009】
請求項1のスクリューオーガは、上記構成となっていることによって、掘削土がスクリュー羽に沿って先端部から基端部へと相対的に上昇し、オーガロッドの直径が長い基端部に達すると、掘削土が孔壁に向かってより押圧される。これにより、掘削された現地土の一部が孔壁に填圧されて、掘削土の排出量を抑制できる。
【0010】
また、請求項1のスクリューオーガは、上記構成となっていることによって、オーガロッド外周面からスクリュー羽根の外縁までの距離を短くなるのが基端部だけであり、掘削抵抗の増大を抑制することができる。
【0011】
さらに、請求項1のスクリューオーガは、孔壁の圧密が促進されて、孔壁の崩壊を防止できる。
【0012】
加えて、請求項1のスクリューオーガは、コテ部が効率よく掘削土を孔壁に向かって押圧することができる。これにより、掘削土の排出量を抑制することができるとともに、孔壁の圧密が促進されて、孔壁の崩壊を防止できる。
【0013】
本発明の請求項2のスクリューオーガは、請求項1のスクリューオーガにおいて、基端部に設けられているコテ部は、オーガロッドの軸線からオーガロッドの外周から湾曲押圧面の最も外側に張り出した位置までの半径方向の距離が、先端部に設けられているコテ部に比べて、短くなっている。
【0014】
本発明の請求項3のスクリューオーガは、請求項1のスクリューオーガにおいて、先端部におけるオーガロッドの直径に対する基端部におけるオーガロッドの直径の比率が1.2~1.4となっている。
【0015】
請求項3のスクリューオーガは、請求項1と同様の作用効果に加えて、掘削抵抗の増大を最小限にとどめながら、掘削土の排出量を抑制することができる。
【0016】
本発明の請求項4のスクリューオーガは、請求項1のスクリューオーガにおいて、基端部におけるオーガロッドの直径に対するスクリュー羽根の羽根径の比率が1.5~1.2となっている。
【0017】
請求項4のスクリューオーガは、請求項1と同様の作用効果に加えて、掘削によって形成した抗の寸法精度を向上させることができる。
【0018】
請求項5のスクリューオーガは、請求項1から4のいずれかのスクリューオーガにおいて、基端部におけるオーガロッドの外周において、コテ部が複数設けられており、複数のコテ部は、基端部におけるオーガロッドの外周に沿って螺旋状に配置されている。
【0019】
本発明の請求項5のスクリューオーガは、請求項1から4と同様の作用効果に加えて、基端部において、複数のコテ部の配置によって、より効率よく掘削土を孔壁に向かって押圧することができる。これにより、掘削土の排出量をさらに抑制することができるとともに、孔壁の圧密がさらに促進されて、孔壁の崩壊を防止できる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1から5のいずれかの発明は、掘削における掘削土の排出量の抑制と掘削抵抗の増大の抑制とを両立できる。加えて、孔壁の圧密がさらに促進されて、孔壁の崩壊を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態のスクリューオーガの正面図である。
【
図5】ミニチュアのスクリューオーガモデルの一覧図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態のスクリューオーガ1について、
図1から
図4を参照して説明する。
【0023】
スクリューオーガ1は、掘削機に取り付けられて、その軸線周りに回動させることによって、坑を掘削することができるようになっている。
【0024】
スクリューオーガ1は、オーガロッド2の外周にスクリュー羽根3が設けられている。
【0025】
オーガロッド2は、下端に掘削ビット6を取り付け可能な先端部4と先端部4の上端から軸線方向に延出する基端部5とを有する。
【0026】
基端部5におけるオーガロッド2の直径が、先端部4におけるオーガロッド2の直径よりも長くなっている。
【0027】
オーガロッド2には内部に流体経路が設けられている。
【0028】
図4に示すように、先端部4の下端近傍には、流体を吐出する吐出口7が設けられている。スクリューオーガ1の引抜時に、吐出口7から水硬性固化材を注入して杭を築造することができる。
【0029】
オーガロッド2の外周において、複数のコテ部8が設けられている。
【0030】
各コテ部8は、オーガロッド2の外周から外側に張り出す湾曲押圧面を側面とした円弧形状となっている。
【0031】
基端部5における複数のコテ部8は、それぞれオーガロッド2の外周に沿って螺旋状に配置されている。
【0032】
各コテ部8の上端面又は下端面は、スクリュー羽根3の上面又は下面と面一となっている。
【0033】
以下、本願発明の作用・効果を確認するために、ミニチュアのスクリューオーガモデルで、人工軟弱土に掘削を行った実験について説明する。
【0034】
ミニチュアのスクリューオーガモデルは、基端部におけるオーガロッドの直径と先端部におけるオーガロッドの直径との比率を変えた4種類の検討例と、比較のための基端部におけるオーガロッドの直径と先端部におけるオーガロッドの直径とが一定の2種類の比較例を作製した。
【0035】
4種類の検討例及び2種類の比較例のミニチュアのスクリューオーガモデルの詳細を
図5に示す。
【0036】
比較例は、検討例の先端部におけるオーガロッドの直径と同じ直径で一定となっている比較例1と、その比較例1よりオーガロッドが太い直径で一定となっている比較例2となっている。
【0037】
各検討例は、先端部におけるオーガロッドの直径は同じである。各検討例は、基端部におけるオーガロッドの直径は、検討例1から検討例4の順に長くなっている。つまり、先端部におけるオーガロッドの直径に対する基端部におけるオーガロッドの直径の比率は、検討例1から検討例4の順に大きくなっている。
【0038】
また、各検討例は、羽根径は同じである。各検討例は、基端部におけるオーガロッドの直径は、検討例1から検討例4の順に長くなっている。つまり、基端部におけるオーガロッドの直径に対するスクリュー羽根の羽根径の比率は、検討例1から検討例4の順に小さくなっている。
【0039】
図5に示すように、4種類の検討例及び2種類の比較例の羽根径は、すべて同一となっている。よって、人工軟弱土における掘削予定体積も、4種類の検討例及び2種類の比較例で同一となっている。
【0040】
人工軟弱土は、ベントナイトとセメントミルクを練り混ぜて作製した。
【0041】
電気ドリルの先端に4種類の検討例及び2種類の比較例のスクリューオーガモデルを取り付けて、人工軟弱土を掘削する。
【0042】
掘削土量及び掘削抵抗測定実験では、掘削は、スクリューオーガモデルを正転させて、人工軟弱土の所定の深さまで貫入させる。次いで、正転させたままスクリューオーガモデルの引抜を行って坑を形成する。
【0043】
スクリューオーガモデルの貫入の際の電気ドリルの電流値(抵抗値)を測定する。測定される電流値が大きくなればなるほど、掘削抵抗が大きいことが分かるようになっている。
【0044】
4種類の検討例及び2種類の比較例の各スクリューオーガモデルでの電流値の測定結果を、以下の表1に示す。
【0045】
【0046】
比較例1及び検討例1-4では、先端部におけるオーガロッドの直径が同じ場合は、基端部におけるオーガロッドの直径が長くなればなるほど、電流値が大きくなり、掘削抵抗が大きくなる傾向があることが分かる。
【0047】
一方、検討例3と比較例2を比較すると、基端部直径が同じですが、検討例3の方が比較例2より電流値が小さくなり、掘削抵抗を抑制できていることが分かる。
【0048】
さらに、検討例4と比較例2を比較すると、基端部直径は検討例4の方が長いにも関わらず、検討例4の方が比較例2より電流値が小さくなり、掘削抵抗を抑制できていることが分かる。
【0049】
従って、4種類の検討例及び比較例2の電流値の測定結果から、基端部におけるオーガロッドの直径が、先端部におけるオーガロッドの直径よりも長くなっているという検討例の構成は、基端部におけるオーガロッドの直径が大きくなっても、掘削抵抗を抑制できることが分かる。
【0050】
スクリューオーガモデルの貫入を行った際に、人工軟弱土が地表に排出される掘削土の量を貫入時掘削土量とする。スクリューオーガモデルの引抜を行った際に、人工軟弱土が地表に排出される掘削土の量を引抜時掘削土量とする。
【0051】
各スクリューオーガモデルにおいて、貫入時掘削土量と引抜時掘削土量との合計を、総掘削土量とする。
【0052】
4種類の検討例及び2種類の比較例の各スクリューオーガモデルでの総掘削土量の結果を、以下の表2に示す。
【0053】
【0054】
オーガロッド外周面からスクリュー羽根の外縁までの距離は、羽根径と基端部直径(先端部直径)との差となる。
【0055】
比較例2は、比較例1よりも羽根径と基端部直径との差が小さいため、総掘削土量は大幅に少なくなるが、前述の通り、掘削抵抗も大きい。
【0056】
4種類の検討例は、比較例1よりも総掘削土量が少なくなっている。
【0057】
従って、4種類の検討例及び比較例1の総掘削土量の測定結果から、基端部におけるオーガロッドの直径が、先端部におけるオーガロッドの直径よりも長くなっているという検討例の構成は、採掘土の排出量を抑制できていることが分かる。
【0058】
掘削における掘削土の排出量の抑制と、掘削抵抗の増大の抑制という観点では、先端部におけるオーガロッドの直径に対する基端部におけるオーガロッドの直径の比率は、1.2~1.4の範囲であることが望ましい。
【0059】
以下、4種類の検討例及び2種類の比較例の各スクリューオーガモデルで形成した坑にセメントミルクを流し込んで作成したセメント柱製造実験について説明する。
【0060】
前述の掘削土量及び掘削抵抗測定実験で形成した4種類の検討例及び2種類の比較例の坑にセメントミルクを流し込んだ。
【0061】
5日間養生した後に、人工軟弱土を削り、各4種類の検討例及び2種類の比較例のセメント柱を取り出した。
【0062】
各セメント柱の上部、中間部、下部の周長を測定して直径を算出した。
【0063】
各セメント柱の直径の平均と、羽根径とを比較して、採掘によって形成された坑の寸法精度を評価する。
【0064】
4種類の検討例及び2種類の比較例の各スクリューオーガモデルでのセメント柱製造実験の結果を、以下の表3に示す。
【0065】
【0066】
羽根径に対するセメント柱の平均直径の比率に着目すると、検討例1-4は、比較例2とは違って1を超えている。比較例2のように、羽根径に対するセメント柱の平均直径の比率が1を下回るとセメント柱の出来形不足となるため望ましくない。加えて、検討例1-4は、比較例1と比べて、羽根径に近いセメント柱の平均直径となっている。したがって、検討例1-4は、掘削によって形成した坑の寸法精度が向上している。
【0067】
坑の寸法精度の向上という観点では、基端部におけるオーガロッドの直径に対するスクリュー羽根の羽根径の比率が1.5~1.2の範囲であることが望ましい。
【0068】
上記実施形態では、オーガロッド2には内部に流体経路が設けられており、先端部4の下端近傍には、流体を吐出する吐出口7が設けられている場合について説明したが、これに限定されることはない。流体経路及び吐出口が設けられていないスクリューオーガであってもよい。
【0069】
上記実施形態では、コテ部8の個数は一例であり、これに限定されることはない。コテ部の個数は、掘削における掘削土の排出量の抑制、掘削抵抗の増大の抑制、坑の寸法精度の向上等の目的に応じて、自由に変更可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 スクリューオーガ
2 オーガロッド
3 スクリュー羽根
4 先端部
5 基端部
6 掘削ビット
7 吐出口
8 コテ部
【要約】
【課題】掘削土の排出量の抑制と掘削抵抗の増大の抑制とを両立できるスクリューオーガを提供すること。
【解決手段】スクリューオーガ1は、オーガロッド2の外周にスクリュー羽根3が設けられているスクリューオーガであって、オーガロッド2は、下端に掘削ビット6を取り付け可能な先端部4と先端部4の上端から軸線方向に延出する基端部5とを有し、基端部5におけるオーガロッド2の直径が、先端部4におけるオーガロッド2の直径よりも長くなっている。
【選択図】
図1