(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法およびミクロフィブリル化セルロース成形体
(51)【国際特許分類】
D21H 19/24 20060101AFI20240419BHJP
B29C 43/18 20060101ALI20240419BHJP
B29C 43/58 20060101ALI20240419BHJP
B32B 23/14 20060101ALI20240419BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20240419BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20240419BHJP
D21H 27/30 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
D21H19/24 A
B29C43/18
B29C43/58
B32B23/14
B32B27/42 101
D21H11/18
D21H27/30 B
(21)【出願番号】P 2023558488
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2022035890
【審査請求日】2023-09-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591045703
【氏名又は名称】利昌工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(73)【特許権者】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】奥村 浩史
(72)【発明者】
【氏名】古田 尚
(72)【発明者】
【氏名】入山 朋之
(72)【発明者】
【氏名】川邊 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】小幡谷 英一
(72)【発明者】
【氏名】山内 秀文
(72)【発明者】
【氏名】足立 幸司
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-312281(JP,A)
【文献】特開平05-245971(JP,A)
【文献】特開2003-201695(JP,A)
【文献】特開2010-168716(JP,A)
【文献】特開2016-113595(JP,A)
【文献】国際公開第2008/010464(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/071287(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 19/24
B29C 43/18
B29C 43/58
B32B 23/14
B32B 27/42
D21H 11/18
D21H 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されるミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法であって、
ミクロフィブリル化セルロースおよび0質量%以上10質量%以下の水から構成された第1予備成形シートを準備する工程と、
前記第1予備成形シートを1時間以上水に曝して膨潤させ、第2予備成形シートを得る工程と、
前記第2予備成形シートに含まれる前記水を、重量平均分子量が1000以下であるフェノール樹脂を含有する溶液に置換して、第3予備成形シートを得る工程と、
得られた前記第3予備成形シートを乾燥する工程と、
乾燥した前記第3予備成形シートを、120℃以上200℃以下の温度で、厚さ方向に1MPa以上10MPa以下の圧力をかけて熱プレスする工程と、を含む、ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項2】
前記第1予備成形シートを準備する工程は、ミクロフィブリル化セルロースから構成された複数枚のシート状のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を積層して熱プレスすることにより前記第1予備成形シートを得る工程を含む、請求項1に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項3】
前記熱プレスする工程は、前記第3予備成形シートを複数枚重ねて熱プレスする工程を含む、請求項1または請求項2に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項4】
前記第2予備成形シートを得る工程は、容器に溜められた水に前記第1予備成形シートを72時間以下の時間浸漬する工程を含む、請求項1または請求項2に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項5】
前記溶液は、メタノールを含む、請求項1または請求項2に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項6】
前記第3予備成形シートにおける前記フェノール樹脂の含有割合は、10質量%以上30質量%以下である、請求項1または請求項2に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項7】
前記第2予備成形シートの厚さは、前記第1予備成形シートの厚さの160%以上である、請求項1または請求項2に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項8】
前記フェノール樹脂の重量平均分子量は、100以上である、請求項1または請求項2に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法。
【請求項9】
ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されており、
前記フェノール樹脂の含有割合は、15質量%以上
30質量%以下であり、
20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率が、2.0%以下である、ミクロフィブリル化セルロース成形体。
【請求項10】
板状であって、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されており、
前記フェノール樹脂の含有割合は、15質量%以上
30質量%以下であり、
20℃の水に24時間浸漬させた際の厚さ方向の寸法変化率が、2.0%以下である、ミクロフィブリル化セルロース成形体。
【請求項11】
曲げ弾性率が、9.0GPa以上である、請求項9または請求項10に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体。
【請求項12】
曲げ強度が、150MPa以上である、請求項9または請求項10に記載のミクロフィブリル化セルロース成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法およびミクロフィブリル化セルロース成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースミクロフィブリルを用いた高強度材料が、特許第3641690号(特許文献1)に開示されている。また、ミクロフィブリル化セルロースの成形品の製造方法が、特開2009-96167号公報(特許文献2)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3641690号
【文献】特開2009-96167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
比較的高い強度を有するミクロフィブリル化セルロース成形体は、種々の環境下において使用されるが、ミクロフィブリル化セルロース成形体については、高い寸法安定性が求められる。もちろん、対環境性を考慮して採用される材料として、ミクロフィブリル化セルロース以外に含まれる物質は、できるだけ少ないことが望ましい。また、ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造においては、良好な生産性が求められる。上記した特許文献1および特許文献2に開示の技術では、これらのような問題に対応することが困難である。
【0005】
そこで、生産性が良好であり、得られたミクロフィブリル化セルロース成形体の高い寸法安定性を実現することができるミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従ったミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されるミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法である。ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースおよび0質量%以上10質量%以下の水から構成された第1予備成形シートを準備する工程と、第1予備成形シートを1時間以上水に曝して膨潤させ、第2予備成形シートを得る工程と、第2予備成形シートに含まれる水を、フェノール樹脂を含有する溶液に置換して第3予備成形シートを得る工程と、得られた第3予備成形シートを乾燥する工程と、乾燥した第3予備成形シートを、120℃以上200℃以下の温度で、厚さ方向に1MPa以上10MPa以下の圧力をかけて熱プレスする工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
このようなミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法によれば、生産性が良好であり、得られたミクロフィブリル化セルロース成形体の高い寸法安定性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の構成を示す概略斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すミクロフィブリル化セルロース成形体の概略断面図である。
【
図3】
図3は、本開示の一実施形態に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法における代表的な製造工程を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1予備成形シートの一例を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す第1予備成形シートの概略断面図である。
【
図6】
図6は、水により第1予備成形シートを膨潤させる状態を示す概略断面図である。
【
図7】
図7は、フェノール樹脂を含有する溶液に浸漬した状態を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、熱プレスを実施する際の概略断面図である。
【
図9】
図9は、4枚のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を4枚積層して熱プレスする場合の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
以下、この発明の実施の形態について説明する。本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されるミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法である。ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースおよび0質量%以上10質量%以下の水から構成された第1予備成形シートを準備する工程と、第1予備成形シートを1時間以上水に曝して膨潤させ、第2予備成形シートを得る工程と、第2予備成形シートに含まれる水を、重量平均分子量が1000以下であるフェノール樹脂を含有する溶液に置換して第3予備成形シートを得る工程と、得られた第3予備成形シートを乾燥する工程と、乾燥した第3予備成形シートを、120℃以上200℃以下の温度で、厚さ方向に1MPa以上10MPa以下の圧力をかけて熱プレスする工程と、を含む。
【0010】
ミクロフィブリル化セルロース成形体(以下、単に「成形体」ということもある。)については、材料として比較的強度が高いため、高い強度が求められる状況で多く利用されている。ここで、本発明者らは種々の環境下、特に湿気の多い環境下において使用される場面について考えた。成形体が水分を多く吸収すると、成形体の寸法が変化し、成形体に反りが生じたり、成形体が膨潤して、その結果強度不足に陥るおそれがある。そこで、高い寸法安定性を実現しながら、容易に製造することができるミクロフィブリル化セルロース成形体について鋭意検討した。そして、ミクロフィブリル化セルロース成形体におけるミクロフィブリル化セルロースの繊維間に水分が入り込むような空隙をできるだけなくすことを考え、本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法を見出した。
【0011】
本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法により製造されるミクロフィブリル化セルロース成形体は、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成される。このようなミクロフィブリル化セルロース成形体は、ミクロフィブリル化セルロース以外の材料がフェノール樹脂だけであるため、耐環境性を良好にすることができる。ここで、本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースおよび0質量%以上10質量%以下の水から構成された第1予備成形シートを準備し、第1予備成形シートを1時間以上水に曝して膨潤させ、第2予備成形シートを得る工程を含む。水はセルロースとの親和性が高い分子なので、第1予備成形シートにおいて押し固められたミクロフィブリル化セルロースの繊維間に十分に浸透して、第1予備成形シートを十分に膨潤させて第2予備成形シートを得ることができる。次に、第2予備成形シートに含まれる水を、重量平均分子量が1000以下であるフェノール樹脂を含有する溶液に置換して第3予備成形シートを得る工程を含む。ここで、水によって第2予備成形シートは十分に膨潤しており、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間の間隔が広くなっているため、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間にフェノール樹脂を含有する溶液を十分に染みわたらせることができる。すなわち、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間にある水を、フェノール樹脂を含有する溶液に置き換えて、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間にフェノール樹脂を含有する溶液を配置することができる。そして、これを乾燥し、120℃以上200℃以下の温度で、厚さ方向に1MPa以上10MPa以下の圧力をかけて熱プレスすることにより、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間のフェノール樹脂を熱硬化させて、ミクロフィブリル化セルロース成形体を得ることができる。このようなミクロフィブリル化セルロース成形体については、フェノール樹脂が繊維間に十分に染みわたっているため、繊維間において、水分が入り込むような空隙を極めて少なくすることができる。そうすると、湿気の多い環境下に曝されたとしても、水分をほとんど吸収しない。したがって、高い寸法安定性を実現することができる。また、熱プレスにおいては、上記した温度および圧力で実施することができるため、例えば100MPaといった高い圧力は不要であり、生産性が良好である。
【0012】
以上より、このようなミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法によれば、生産性が良好であり、得られたミクロフィブリル化セルロース成形体の高い寸法安定性を実現することができる。
【0013】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法において、第1予備成形シートを準備する工程は、ミクロフィブリル化セルロースから構成された複数枚のシート状のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を積層して熱プレスすることにより第1予備成形シートを得る工程を含んでもよい。このようにすることにより、所望の厚さを有するミクロフィブリル化セルロース成形体を得やすくすることができ、より生産性を良好にすることができる。
【0014】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法において、熱プレスする工程は、第3予備成形シートを複数枚重ねて熱プレスする工程を含んでもよい。このようにすることにより、所望の厚さを有するミクロフィブリル化セルロース成形体を得やすくすることができると共に、ミクロフィブリル化セルロース成形体の内部にフェノール樹脂をより染みわたらせて、より寸法安定性を向上することができる。
【0015】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法において、第2予備成形シートを得る工程は、容器に溜められた水に第1予備成形シートを72時間以下の時間浸漬する工程を含んでもよい。このようにすることにより、より効率的に水による膨潤を実施することができる。
【0016】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法において、溶液は、メタノールを含んでもよい。このようにすることにより、より置き換えやすくすることができる。したがって、得られたミクロフィブリル化セルロース成形体の寸法安定性をより向上させることができる。
【0017】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法において、第3予備成形シートにおけるフェノール樹脂の含有割合は、15質量%以上30質量%以下であってもよい。このようにすることにより、ミクロフィブリル化セルロースにおける高強度を維持しながら、高い寸法安定性を実現することができる。
【0018】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法において、第2予備成形シートの厚さは、第1予備成形シートの厚さの160%以上であってもよい。このようにすることにより、よりフェノール樹脂を含浸させやすくすることができ、より確実に高い寸法安定性を実現することができる。
【0019】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法において、フェノール樹脂の重量平均分子量は、100以上であってもよい。このようなフェノール樹脂は、分子サイズが好適であり、より確実に高い寸法安定性を実現することができる。
【0020】
本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体は、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されている。フェノール樹脂の含有割合は、15質量%以上である。20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率が、2.0%以下である。
【0021】
このようなミクロフィブリル化セルロース成形体は、高い湿度の環境下においても、水分を吸収し、膨潤して強度不足が発生したり、反りが発生するおそれを低減することができる。したがって、より利便性を向上したミクロフィブリル化セルロース成形体とすることができる。
【0022】
また、本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体は、板状であって、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されている。フェノール樹脂の含有割合は、15質量%以上である。20℃の水に24時間浸漬させた際の厚さ方向の寸法変化率が、2.0%以下である。
【0023】
このようなミクロフィブリル化セルロース成形体は、高い湿度の環境下においても、水分を吸収し、膨潤して強度不足が発生したり、反りが発生するおそれを低減することができる。したがって、より利便性を向上したミクロフィブリル化セルロース成形体とすることができる。
【0024】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体において、フェノール樹脂の含有割合は、30質量%以下であってもよい。このようにすることにより、より確実に利便性を向上したミクロフィブリル化セルロース成形体とすることができる。
【0025】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体において、曲げ弾性率が、9.0GPa以上であってもよい。このようなミクロフィブリル化セルロース成形体は、変形しにくい成形体を実現することができ、さらに材料としての利便性の向上を図ることができる。
【0026】
上記ミクロフィブリル化セルロース成形体において、曲げ強度が、150MPa以上であってもよい。このようなミクロフィブリル化セルロース成形体は、高い強度を実現することができ、さらに材料としての利便性の向上を図ることができる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の実施形態に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の構成について説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の構成を示す概略斜視図である。
図2は、
図1に示すミクロフィブリル化セルロース成形体の概略断面図である。
【0028】
図1および
図2を参照して、本開示の一実施形態に係るミクロフィブリル化セルロース成形体11は、例えば板状とすることができる。成形体11の厚さT
1は、例えば、0.1mm以上2.0mm以下とすることができる。成形体11の厚さは、ミクロフィブリル化セルロース成形体11の厚さ方向(Z方向)の一方の面12aから厚さ方向の他方の面12bまでの長さである。成形体11の横方向(幅方向)は、X方向で示され、成形体11の縦方向(奥行方向)は、Y方向で示される。
【0029】
ミクロフィブリル化セルロース成形体11は、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されている。ミこのようなミクロフィブリル化セルロース成形体は、ミクロフィブリル化セルロース以外の材料がフェノール樹脂だけであるため、耐環境性を良好にすることができる。
【0030】
本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体11において用いられるミクロフィブリル化セルロースは、セルロースナノファイバーとも呼ばれるものであり、ミクロフィブリル状のセルロース繊維である。ミクロフィブリル化セルロースの原材料としては、例えば、植物由来の例として木材や綿花があり、動物由来の例としては、キチン由来のもの、キトサン由来のものを用いることとしてもよい。
【0031】
用いられるミクロフィブリル化セルロースの繊維径としては、10nm以上1000nm以下のものが採用される。このようにすることにより、成形体11におけるミクロフィブリル化セルロースをより緻密に絡ませることができる。したがって、得られた成形体11の強度を高くすることができる。
【0032】
フェノール樹脂としては、例えば、いわゆるレゾール型のフェノール樹脂が好適に用いられる。このようなフェノール樹脂は、例えば、塩基性触媒の存在下でフェノールまたはフェノール化合物とホルムアルデヒドとを縮合反応することにより得られる。また、水溶性レゾールを用いることとしてもよい。フェノール樹脂の重量平均分子量は、1000以下である。このようなフェノール樹脂は、水により膨潤させた第1予備成形シートの内部により染み込ませやすくすることができる。したがって、より確実に高い寸法安定性を実現することができる。ここで、フェノール樹脂の重量平均分子量は、100以上であってもよい。このようなフェノール樹脂は、分子サイズが好適であり、より確実に高い寸法安定性を実現することができる。
【0033】
フェノール樹脂の含有割合は、全体の10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。また、ミクロフィブリル化セルロースの含有割合は、全体の70質量%以上90質量%以下であることが好ましい。ミクロフィブリル化セルロースの含有割合を70質量%以上90質量%以下とすることにより、成形体11として十分な強度を確保することができる。また、フェノール樹脂の含有割合を10質量%以上30質量%以下とすることにより、繊維間にフェノール樹脂を十分に染みわたらせて、繊維間の空隙を少なくすることができ、高い寸法安定性をより確実に実現することができる。
【0034】
ここで、成形体11の吸水率については、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率が、2.0%以下である。このような成形体11は、高い湿度の環境下においても、水分を吸収し、膨潤して強度不足が発生したり、反りが発生するおそれを低減することができる。したがって、より利便性を向上した成形体11とすることができる。
【0035】
また、成形体11の寸法変化率については、20℃の水に24時間浸漬させた際の厚さ方向の寸法変化率(以下、「厚さ変化率」と呼ぶ場合もある。)が、2.0%以下である。このような成形体11は、高い湿度の環境下においても、水分を吸収し、膨潤して強度不足が発生したり、反りが発生するおそれを低減することができる。したがって、より利便性を向上した成形体11とすることができる。
【0036】
また、成形体11において、フェノール樹脂の含有割合は、10質量%以上30質量%以下である。よって、より確実に利便性を向上した成形体11とすることができる。
【0037】
また、成形体11において、曲げ弾性率が、9.0GPa以上である。このような成形体11は、高い強度を実現することができ、さらに材料としての利便性の向上を図ることができる。
【0038】
また、成形体11において、曲げ強度が、150MPa以上である。このような成形体11は、高い強度を実現することができ、さらに材料としての利便性の向上を図ることができる。
【0039】
次に、このようなミクロフィブリル化セルロース成形体11を製造する際の製造方法について説明する。
図3は、本開示の一実施形態に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法における代表的な製造工程を示すフローチャートである。
【0040】
図3を参照して、まず、第1予備成形シートを準備する(
図3において、ステップS11、以下「ステップ」を省略する)。第1予備成形シートは、ミクロフィブリル化セルロースと、0質量%以上10質量%以下の水と、から構成されている。
【0041】
図4は、第1予備成形シートの一例を示す概略断面図である。
図5は、
図4に示す第1予備成形シートの概略断面図である。
図4および
図5を参照して、第1予備成形シート21aは、シート状であって、厚さT
2としては、例えば、0.1mm以上0.5mm以下のものが採用される。第1予備成形シート21aは、例えば、以下のようにして得ることができる。まず、ミクロフィブリル化セルロースを水に分散させた分散液を準備し、この分散液を吸引濾過してシート状とすることにより、例えば含水率が65質量%以上85質量%以下のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を得る。このミクロフィブリル化セルロース含有組成物を厚さ方向に圧縮して水分をある程度除去し、固形分を90質量%以上100質量%以下とする第1予備成形シート21aを得る。同様にして、複数枚の第1予備成形シートを得る。
【0042】
次に、第1予備成形シート21aを1時間以上水に曝して膨潤させ、第2予備成形シートを得る(S12)。
図6は、水により第1予備成形シート21aを膨潤させる状態を示す概略断面図である。
【0043】
図6を参照して、まずこの工程においては、水14を溜めた容器13を準備する。そして、第1予備成形シート21aを浸漬させる。具体的には、第1予備成形シート21aの全面が水14に浸かるように、第1予備成形シート21aを容器13中の水14内に投入する。このようにして、第1予備成形シート21aを水に曝す。その後、所定の時間が経過するまでそのまま放置する。具体的には、20℃の水温の水14に24時間浸漬させて放置する。そうすると、第1予備成形シート21aは水14により膨潤する。すなわち、ミクロフィブリル化セルロース含有組成物を構成するミクロフィブリル化セルロースの繊維間に水14が入り込む。このようにして、第2予備成形シートを得る。第2予備成形シートは、主に厚さ方向において膨潤する。なお、第2予備成形シートを得る工程は、容器に溜められた水に第1予備成形シートを72時間以下の時間浸漬する工程を含んでもよい。このようにすることにより、より効率的に水による膨潤を実施することができる。
【0044】
ここで、第2予備成形シートの厚さは、第1予備成形シート21aの厚さの160%以上であってもよい。このようにすることにより、よりフェノール樹脂を含浸させやすくすることができ、より確実に高い寸法安定性を実現することができる。
【0045】
次に、第2予備成形シートに含まれる水を、フェノール樹脂を含有する溶液に置換して、第3予備成形シートを得る(S13)。
図7は、フェノール樹脂を含有する溶液に浸漬した状態を示す概略断面図である。
【0046】
図7を参照して、この工程においては、フェノール樹脂を含有する溶液16を溜めた容器15を準備する。そして、第2予備成形シート23aを浸漬させる。具体的には、第2予備成形シート23aの全面が溶液16に浸かるように、第2予備成形シートを容器15中の溶液16内に投入する。
【0047】
ここで、フェノール樹脂を含有する溶液16として、例えば、フェノール樹脂のメタノール溶液が用いられる。すなわち、フェノール樹脂を含有する溶液16は、メタノールを含む。メタノールの他に、例えば水溶性の有機溶媒、具体的には、エタノール、(イソ)プロパノール、(イソ)ブタノール等を用いてもよい。
【0048】
次に、得られた第3予備成形シートを乾燥する(S14)。乾燥する工程としては、例えば、室温(25℃)において、24時間の放置により実施する。
【0049】
次に、乾燥した第3予備成形シートを、120℃以上200℃以下の温度で、厚さ方向に1MPa以上10MPa以下の圧力をかけて熱プレスする(S15)。この場合、熱プレスする工程は、第3予備成形シートを複数枚重ねて熱プレスする工程を含む。
図8は、熱プレスを実施する際の概略断面図である。
【0050】
図8を参照して、準備された4枚の第3予備成形シート24a,24b,24c,24dを重ねるようにして、120℃以上200℃以下の温度に熱せられた一対の金属板17a,17bの間に配置する。そして、矢印D
1で示す方向に1MPa以上10MPa以下の圧力を加える。具体的には、例えば、金属板17a,17bの温度を150℃とし、6.5MPaの圧力を1.5時間加える。
【0051】
このようにして、
図1に示す本開示に係るミクロフィブリル化セルロース成形体11を得る。上記ミクロフィブリル化セルロース成形体11の製造方法により製造されるミクロフィブリル化セルロース成形体11は、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成される。このようなミクロフィブリル化セルロース成形体11は、ミクロフィブリル化セルロース以外の材料がフェノール樹脂だけであるため、耐環境性を良好にすることができる。また、上記ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法によると、ミクロフィブリル化セルロースおよび0質量%以上10質量%以下の水から構成された第1予備成形シート21aを準備し、第1予備成形シート21aを1時間以上水に曝して膨潤させ、第2予備成形シート23aを得る工程を含む。水はセルロースとの親和性が高い分子なので、第1予備成形シート21aにおいて押し固められたミクロフィブリル化セルロースの繊維間に十分に浸透して、第1予備成形シート21aを十分に膨潤させて第2予備成形シート23aを得ることができる。次に、第2予備成形シートに含まれる水を、重量平均分子量が1000以下であるフェノール樹脂を含有する溶液に置換して、第3予備成形シートを得る工程を含む。ここで、水によって第2予備成形シートは十分に膨潤しており、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間の間隔が広くなっているため、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間にフェノール樹脂を含有する溶液を十分に染みわたらせることができる。すなわち、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間にある水を、フェノール樹脂を含有する溶液に置き換えて、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間にフェノール樹脂を含有する溶液を配置することができる。そして、これを乾燥し、120℃以上200℃以下の温度で、厚さ方向に1MPa以上10MPa以下の圧力をかけて熱プレスすることにより、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間のフェノール樹脂を熱硬化させて、ミクロフィブリル化セルロース成形体を得ることができる。このようなミクロフィブリル化セルロース成形体については、フェノール樹脂が繊維間に十分に染みわたっているため、繊維間において、水分が入り込むような空隙を極めて少なくすることができる。そうすると、湿気の多い環境下に曝されたとしても、水分をほとんど吸収しない。したがって、高い寸法安定性を実現することができる。また、熱プレスにおいては、上記した温度および圧力で実施することができるため、例えば100MPaといった高い圧力は不要であり、生産性が良好である。
【0052】
以上より、このようなミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法によれば、生産性が良好であり、得られたミクロフィブリル化セルロース成形体の高い寸法安定性を実現することができる。
【0053】
この場合、第3予備成形シート24a,24b,24c,24dを複数枚重ねて熱プレスする工程を含むため、所望の厚さを有するミクロフィブリル化セルロース成形体11を得やすくすることができると共に、ミクロフィブリル化セルロース成形体11の内部にフェノール樹脂をより染みわたらせて、より寸法安定性を向上することができる。
【0054】
なお、以下のようにして製造することにしてもよい。第1予備成形シートを準備する工程は、ミクロフィブリル化セルロースから構成された複数枚のシート状のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を積層して熱プレスすることにより第1予備成形シートを得る工程を含む。
図9は、4枚のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を4枚積層して熱プレスする場合の概略断面図である。
【0055】
図9を参照して、金属板18a,18bの間に、4枚のシート状のミクロフィブリル化セルロース含有組成物25a,25b,25c,25dを積層して配置し、矢印D
2で示す方向に圧力を加えて、第1予備成形シートを得る。このようにして得られた予備成形シートを用いて、上記と同様に第2予備成形シートを得る。そして、第3予備成形シートを得た後、熱プレスを行い、成形体11を得る。
【0056】
この場合、所望の厚さを有するミクロフィブリル化セルロース成形体を得やすくすることができ、より生産性を良好にすることができる。
【0057】
なお、上記の実施の形態においては、容器に溜められた水に浸漬させることにより、第1予備成形シートを水に曝して膨潤させることとしたが、これに限らず、第1予備成形シートを流水に曝すことにより、水による膨潤を実施することにしてもよい。
【実施例】
【0058】
サンプル1~サンプル12に示す配合、手法に沿って成形体を成形し、評価試験を実施した。評価結果については、表1および表2に示す。サンプル1~サンプル7が、本発明の範囲内となる。サンプル8~サンプル12が、本発明の範囲外となる。
【0059】
(サンプル1)
水中に10質量%の濃度で分散させたミクロフィブリル化セルロース(株式会社スギノマシン製「BiNFi-S(ビンフィス) BMa10010」:繊維径10nm~50nm以下)を準備した。そして、水で1質量%となるまで希釈し、その後、濾過により含水量が85質量%となるまで水を除去して、厚さが2.5mmのシート状のMFC含有組成物を得た。
【0060】
次に、このシート状のMFC含有組成物1枚を目付47g/cm2の2枚のガラス不織布に挟み、2枚のステンレス製の金属板に挟んで、150℃で2時間加熱加圧成形をして、第1予備成形シートを得た。圧力については、0.5MPaから段階的に上昇させていき、最終的に4MPaとなるように行った。得られた第1予備成形シートの厚さは、0.5mmであり、含水率は、0質量%以上10質量%以下であった。
【0061】
第1予備成形シートを温度20℃の水に24時間浸漬させて、第2予備成形シートを得た。この第2予備成形シートの厚さは、0.85mmであった。
【0062】
次に、第2予備成形シートを重量平均分子量が200であるフェノール樹脂のメタノール溶液に24時間浸漬させ、第3予備成形シートを得た。
【0063】
その後、得られた第3予備成形シートを室温(25℃)において24時間乾燥させた。乾燥させた第3予備成形シート1枚を2枚のステンレス製の金属板に挟み、150℃で6.5MPaの圧力で1.5時間加熱加圧成形をしてミクロフィブリル化セルロースとフェノール樹脂とから構成された成形体を得た。
【0064】
得られた成形体については、厚さが0.66mmであり、密度が1.40g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、26.5質量%であった。また、温度20℃および相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は、11.0GPaであり、曲げ強度が245MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は、1.9%であり、厚さ方向の寸法変化率は、1.4%であった。
【0065】
なお、フェノール樹脂の重量平均分子量については、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定されるポリスチレン換算の分子量を示すものである。
【0066】
また、吸水率については、「JIS A5905」に準拠した以下の方法により求めた。予め温度20℃相対湿度65%の環境下で72時間以上養生した成形体の試験片(10cm×10cm)を20℃の水に24時間浸漬した。その後、測定された浸漬前の試験片の質量(W1)と浸漬後の試験片の質量(W2)とを用い、下記の式(1)により吸水率を算出した。
【0067】
吸水率(%)=((W2-W1)/W1)×100・・・(1)
【0068】
また、厚さ変化率については、「JIS A5905」に準拠した以下の方法により求めた。予め温度20℃相対湿度65%の環境下で72時間以上養生した成形体の試験片(10cm×10cm)を20℃の水に24時間浸漬した。その後、測定された浸漬前の試験片の厚さ(T1)と浸漬後の試験片の厚さ(T2)とを用い、下記の式(2)により厚さ変化率を算出した。
【0069】
厚さ変化率(%)=((T2-T1)/T1)×100・・・(2)
【0070】
また、この成形体について、曲げ弾性率、曲げ強度および密度を測定した。測定は、JIS-K6911に準拠した。以下のサンプルの測定についても同様である。
【0071】
(サンプル2)
第3予備成形シートを4枚積層して加熱加圧成形した以外はサンプル1と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.57mmであり、密度が1.43g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、28.2質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は11.0GPaであり、曲げ強度は245MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は0.6%であり、厚さ変化率は0.7%であった。
【0072】
(サンプル2)
第3予備成形シートを4枚積層して加熱加圧成形した以外はサンプル1と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.57mmであり、密度が1.43g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、28.2質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は11.0GPaであり、曲げ強度は245MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は0.6%であり、厚さ変化率は0.7%であった。
【0073】
(サンプル3)
第3予備成形シートを10枚積層して加熱加圧成形した以外はサンプル1と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが6.52mmであり、密度が1.43g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、28.5質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は11.0GPaであり、曲げ強度は245MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は0.3%であり、厚さ変化率は0.4%であった。
【0074】
(サンプル4)
第3予備成形シートを4枚積層し、プレス圧力を2.0MPaとして加熱加圧成形した以外はサンプル1と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.65mmであり、密度が1.39g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、28.3質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は11.4GPaであり、曲げ強度は237MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は0.7%であり、厚さ変化率は0.8%であった。
【0075】
(サンプル5)
第3予備成形シート1枚を、プレス温度を130℃として加熱加圧成形した以外はサンプル1と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが0.66mmであり、密度が1.38g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、26.5質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は12.0GPaであり、曲げ強度は259MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は1.7%であり、厚さ変化率は1.2%であった。
【0076】
(サンプル6)
第3予備成形シート1枚を、プレス温度を170℃として加熱加圧成形した以外はサンプル1と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが0.66mmであり、密度が1.38g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、26.5質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は11.4GPaであり、曲げ強度は246MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は1.9%であり、厚さ変化率は1.6%であった。
【0077】
(サンプル7)
含水率が85質量%で厚さが2.5mmであるシート状のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を4枚積層して加熱加圧成形した以外はサンプル1と同様の方法で第1予備成形シートを得た。得られた第1予備成形シートの厚さは2.0mmであった。さらにサンプル1と同様の方法で、第2予備成形シートおよび第3予備成形シートを得た。得られた第3予備成形シートを室温(25℃)において24時間乾燥させた。乾燥させた第3予備成形シート1枚を、ステンレス製の金属板に挟み、150℃で6.5MPaのプレス圧力で1.5時間加熱加圧成形を行い、成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.29mmであり、密度が1.42g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、17.8質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は9.5GPaであり、曲げ強度は180MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は2.0%であり、厚さ変化率は1.9%であった。
【0078】
(サンプル8)
含水率が85質量%で厚さが2.5mmであるシート状のミクロフィブリル化セルロース含有組成物を4枚積層し、プレス温度を150℃、プレス圧力を4MPa、プレス時間を2時間として加熱加圧成形して成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.00mmであり、密度が1.45g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、0質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は10.5GPaであり、曲げ強度は148MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は46.3%であり、厚さ変化率は59.1%であった。
【0079】
(サンプル9)
重量平均分子量が200であるフェノール樹脂のメタノール溶液に0.33時間(20分)浸漬させて第3予備成形シートを得た以外が、サンプル2と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.26mmであり、密度が1.39g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、12.3質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は11.0GPaであり、曲げ強度は132MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は12.8%であり、厚さ変化率は13.8%であった。
【0080】
(サンプル10)
第3予備成形シートを4枚積層し、プレス圧力を0.5MPaとして加熱加圧成形した以外はサンプル2と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.52mmであり、密度が1.37g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、26.5質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は12.5GPaであり、曲げ強度は57MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は10.7%であり、厚さ変化率は9.8%であった。
【0081】
(サンプル11)
第1予備成形シートを20℃の水に0.33時間(20分)浸漬した以外はサンプル2と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが2.20mmであり、密度が1.38g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、12.0質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は10.9GPaであり、曲げ強度は128MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は13.4%であり、厚さ変化率は14.0%であった。
【0082】
(サンプル12)
重量平均分子量が2340であるフェノール樹脂のメタノール溶液を用いた以外はサンプル1と同様の方法で成形体を得た。得られた成形体については、厚さが0.63mmであり、密度が1.34g/cm3であった。フェノール樹脂の含有割合は、18.0質量%であった。また、温度20℃、相対湿度65%の環境下において、曲げ弾性率は10.9GPaであり、曲げ強度は190MPaであった。そして、20℃の水に24時間浸漬させた際の吸水率は20.5%であり、厚さ変化率は21.4%であった。
【0083】
【0084】
【0085】
表1および表2を参照して、サンプル1~サンプル7についてはいずれも、フェノール樹脂の含有割合は、15質量%以上であり、吸水率が2.0%以下である。具体的には、フェノール樹脂の含有割合は、30質量%以下である。また、20℃の水に24時間浸漬させた際の厚さ方向の寸法変化率がいずれも、2.0%以下である。そして、曲げ弾性率がいずれも、9.0GPa以上である。また、曲げ強度がいずれも、150MPa以上である。
【0086】
これに対し、サンプル8およびサンプル9については、フェノール樹脂の含有割合は、15質量%以下である。このような成形体については、成形体の積層の界面をフェノール樹脂で十分に濡らすことができず、層間における接着強度が弱くなり、吸水率および厚さ変化率が大きくなると考えられる。また、曲げ強度も低くなっている。
【0087】
また、プレス圧力が1MPaよりも小さい0.5MPaであるサンプル10については、加熱加圧成形時にフェノール樹脂がシート表面に染み出ないため、成形体の積層の界面をフェノール樹脂で十分に濡らすことができず、層間における接着強度が弱くなり、吸水率および厚さ変化率が大きくなると考えられる。また、曲げ強度も低くなっている。
【0088】
また、浸水時間が1時間未満であり、0.33時間であるサンプル11については、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間の隙間が十分に広がらず、フェノール樹脂が内部まで含浸しないため、樹脂含侵量が低くなり、上記と同様に吸水率および厚さ変化率が大きくなると考えられる。また、曲げ強度も低くなっている。
【0089】
また、フェノール樹脂の重量平均分子量が1000よりも大きく2340であるサンプル12については、フェノール樹脂の分子サイズが大きいため、ミクロフィブリル化セルロースの繊維間の隙間に染み込んでいける量が限定的であり、多くのフェノール樹脂が表面に載った状態となっていると考えられる。その結果、樹脂の含有量のわりに耐水性が良くなく、吸水率および厚さ変化率が大きくなると考えられる。
【0090】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0091】
この発明に係るミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法およびミクロフィブリル化セルロース成形体は、良好な生産性および得られたミクロフィブリル化セルロース成形体の高い寸法安定性が要求される場合に、特に有効に利用される。
【符号の説明】
【0092】
11 ミクロフィブリル化セルロース成形体、12a,12b 面、13,15 容器、14 水、16 溶液、17a,17b,18a,18b 金属板、21a 第1予備成形シート、23a 第2予備成形シート、24a,24b,24c,24d 第3予備成形シート、25a,25b,25c,25d ミクロフィブリル化セルロース含有組成物。
【要約】
ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースと、フェノール樹脂と、から構成されるミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法である。ミクロフィブリル化セルロース成形体の製造方法は、ミクロフィブリル化セルロースおよび0質量%以上10質量%以下の水から構成された第1予備成形シートを準備する工程と、第1予備成形シートを1時間以上水に曝して膨潤させ、第2予備成形シートを得る工程と、第2予備成形シートに含まれる水を、重量平均分子量が1000以下であるフェノール樹脂を含有する溶液に置換して第3予備成形シートを得る工程と、得られた第3予備成形シートを乾燥する工程と、乾燥した第3予備成形シートを、120℃以上200℃以下の温度で、厚さ方向に1MPa以上10MPa以下の圧力をかけて熱プレスする工程と、を含む。