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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】ステント
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/02 20060101AFI20240419BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20240419BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20240419BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20240419BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240419BHJP
   A61L 33/02 20060101ALI20240419BHJP
   A61L 33/12 20060101ALI20240419BHJP
   A61L 33/04 20060101ALI20240419BHJP
   A61F 2/82 20130101ALI20240419BHJP
【FI】
A61L31/02
A61L31/08
A61L31/16
A61L31/10
A61L31/14 500
A61L31/14
A61L33/02
A61L33/12
A61L33/04
A61F2/82
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019115506
(22)【出願日】2019-06-21
(65)【公開番号】P2021000263
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】307028884
【氏名又は名称】株式会社 日本医療機器技研
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100167977
【弁理士】
【氏名又は名称】大友 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】新留 琢郎
(72)【発明者】
【氏名】徐 薇
(72)【発明者】
【氏名】山下 修蔵
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0202125(US,A1)
【文献】特開2016-163619(JP,A)
【文献】特開2009-125219(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139647(WO,A1)
【文献】特表平07-503288(JP,A)
【文献】特開2013-245427(JP,A)
【文献】特開2016-223027(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
A61L 33/00-33/18
A61F 2/82
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト・クロム合金から形成されているコア構造体と、コア構造体表面の少なくとも一部を被覆する単一または複数の被覆層と、を具備したステントであって、前記被覆層の少なくとも一つは、内膜肥厚抑制剤を含有し、かつ、架橋結合が導入されていないフィブロインから構成された、変形追随性を有し、かつ、血管内皮細胞接着性と抗血小板接着性を併せ有するステントを製造する方法であって、
ヘキサフルオロイソプロパノールを溶媒とするフィブロイン溶液をスプレーコーティングすることにより前記被覆層を形成するステントの製造方法において、
前記被覆層の少なくとも一つを、前記内膜肥厚抑制剤を含有するフィブロイン溶液のスプレーコーティングにより形成する、方法。
【請求項2】
請求項1に記載のステントの製造方法において、前記内膜肥厚抑制剤がシロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、ゾタロリムスおよび/またはパクリタキセルであるステントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内の管腔、特に血管の治療に用いられるステントに関する。
【背景技術】
【0002】
冠動脈の狭窄や閉塞によって引き起こされる虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)は、心筋への血液(栄養や酸素など)の供給を妨げる重篤な疾患であり、日本人の死因の第二位に挙げられる。当該疾患の治療として、近年では、胸部を切開するような外科的な手術(冠動脈バイパス手術)ではなく、カテーテルを用いた低侵襲性の術式(経皮的冠動脈形成術)が広く普及している。中でも、冠動脈ステント留置術は、従来のバルーン形成術に比べて、狭窄の再発(再狭窄)の発症率が小さいため、最も有効な治療法であると考えられている。
【0003】
現在用いられている薬剤溶出性ステントの多くは、内膜肥厚抑制剤を担持するためにポリエステル系高分子がコーティングされている。しかしながら、当該ポリエステルは血管内皮細胞によるステント内腔の内皮化を阻害するため、慢性期に血小板凝集による血栓形成を引き起こすリスクを内在しており、また、血栓症を防止するために、副作用発現率の高い抗血小板薬を内服しなければならないという問題を有している。
特許文献1には、基材の表面が抗血栓性と血管内皮細胞接着性を併せ持つ生体適合性高分子層で覆われ、生体に埋め込みまたは接合して使用される生体適合性器具(ステント)であって、前記高分子層が、細胞接着ペプチド含有高分子の架橋による高分子マトリックスよりなる生体適合性器具が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載のステントにおいては、被覆層に架橋結合が導入されているため、血管内挿入時におけるステントの変形追随性に不安があり、また、ステントはステンレス等の生体非吸収性の金属材料から形成され、生体内で所定期間機能した後、消失する生体吸収性ステントに関する示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2011-096402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、血管内に挿入しやすく、表面に抗血栓性と血管内皮細胞接着性を併せ持つ被覆層を有するステントを提供すること、とくに、所定期間経過後、生体内で徐々に消失する生体吸収性ステントを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、ステントの被覆層を形成する生分解性素材として、優れた生体親和性を有するフィブロインに注目して鋭意検討の結果、本発明に到達した。
【0007】
本発明第1の構成は、コア構造体と、コア構造体表面の少なくとも一部を被覆する単一または複数の被覆層と、を具備したステントであって、前記被覆層の少なくとも一つは、内膜肥厚抑制剤を含有し、かつ、架橋結合が導入されていないフィブロインから構成された、変形追随性を有し、かつ、血管内皮細胞接着性と抗血小板接着性を併せ有することを特徴とするステントである。
本発明において、コア構造体とは、螺旋状に形成された、拡張性を有する管状部材(ステント骨格部材)をいう。本発明において、前記被覆層の層厚は、1μm以上、10μm以下であることが好ましい。
【0008】
本発明第2の構成は、前記第1の構成において、前記コア構造体が金属材料から形成されていることを特徴とする。前記金属材料としては、従来から知られている金属材料が用いられるが、具体例としては、ステンレス鋼、タンタル、ニッケル‐チタン合金(ニチノールを含む)、コバルト・クロム合金、非生体吸収性のマグネシウム合金、生体吸収性のマグネシウム合金などの金属材料が用いられる。
本発明第3の構成は、前記第2の構成において、前記金属材料の中でも、コバルト・クロム合金が用いられることを特徴とする。
【0009】
本発明第4の構成は、前記第2の構成において、前記金属材料が生体吸収性マグネシウム合金であるステントであることを特徴とする。本発明で用いられる生体吸収性マグネシウム合金としては、AZシリーズ(Mg-Al-Zn)(AZ31、AZ61、AZ91など)、AMシリーズ(Mg-Al-Mn)、AEシリーズ(Mg-Al-RE)、EZシリーズ(Mg-RE-Zn)、ZKシリーズ(Mg-Zn-Zr)、WEシリーズ(Mg-RE-Zr)、AXまたはAXJシリーズ(Mg-Al-Ca)などが挙げられるが、なかでも、人体に対する為害性のあるアルミニウム(Al)とレアメタル(RE)を含有しないマグネシウム合金が挙げられる。
【0010】
本発明第6の構成は、前記第1の構成のステントにおいて、前記内膜肥厚抑制剤がシロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、ゾタロリムスおよび/またはパクリタキセルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明第1の構成のステントは、コア構造体表面の少なくとも一部、好ましくは、コア構造体表面の全域を被覆する被覆層が、内膜肥厚抑制剤を含有するフィブロインから形成されていることにより、血管内膜肥厚を抑制しつつ、血管内皮細胞接着性と抗血小板接着性(抗血栓性)とを有しており、しかも、被覆層が、架橋結合が導入されていないフィブロインから形成されているため変形追随性を有しており、バルーンに取り付けられたステントは血管内に挿入されて所定の箇所に留置されやすいという特性を有する。
また、本発明において被覆層を形成するフィブロインには、架橋結合の導入がないため、ステントのコア構造体を生体吸収性マグネシウム合金から形成した場合、所定期間経過後、マグネシウム合金とともに、フィブロイン層も生分解されて消失して、生体吸収性ステントを形成することができる。
【0012】
本発明第3の構成のステントは、従来から使用されているコバルト・クロム合金からステントが形成されているが、内膜肥厚抑制剤を含有し、かつ架橋結合が導入されていないフィブロインから被覆層が形成されているため、変形追随性を有し、所定箇所の血管内に挿入しやすく、しかも、血管内皮細胞接着性と抗血小板接着性を有しているため、従来のステント使用に伴う副作用が軽減されるという効果を奏する。
【0013】
本発明第4の構成において、コア構造体を生体吸収性マグネシウム合金で形成した場合には、被覆層のフィブロインは、マグネシウム合金の溶出を適度に抑制する効果を有しており、所定期間経過後、ステントは血管内から消失するので、ステント挿入に伴う後遺症がなく、ステント挿入に伴う患者への負担・副作用を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明からより明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。添付図面において、複数の図面における同一の参照番号は、同一部分を示す。
図1】本発明ステントの構成要素を示す模式図。
図2】本発明ステントの骨格構造の一例を示す平面図。
図3】本発明ステントの骨格構造の他の一例を示す平面図。
図4】本発明ステントの縮径ならびに拡径がもたらす物理変化を示す模式図。
図5】内径3mmに拡径された本発明ステントの顕微鏡観察像の一例である。
図6】拡径前後の本発明に係るステント(実施例1)の表面SEM像である。
図7】拡径前後の本発明に係るステント(実施例2)の表面SEM像である。
図8】拡径前後の比較例1の表面SEM像である。
図9】血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)浸漬28日後の本発明に係るステント(実施例3)の表面SEM像である。
図10】血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)浸漬28日後の比較例2(a)および3(b)の表面SEM像である。
図11】血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)浸漬日後の本発明に係るステント(実施例3)の表面に接着した内皮細胞染色像である。
図12】血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)浸漬日後の比較例2(a)および3(b)の表面に接着した内皮細胞染色像である。
図13】血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)浸漬日後の本発明に係るステント(実施例3)の表面に接着した血小板染色像である。
図14】血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)浸漬日後の比較例2(a)および3(b)の表面に接着した血小板染色像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(ステントの基本構造)
本発明のステントの一例は、図1に示すように、生体非吸収性のSUS316L、CoCr合金、NiTi合金ならびに生体吸収性マグネシウム合金(生体吸収性Mg合金)のような金属材料からなるコア構造体1と、前記コア構造体1の表面全域あるいは一部の表面に形成された薬剤を含有するフィブロイン層2から構成される。尚、コア構造体1と薬剤含有フィブロイン層2との間または薬剤含有フィブロイン層2上に、薬剤を含有しない単一のフィブロイン層が形成されてもよい。
【0016】
(コア構造体)
本発明のステントのコア構造体としては、従来から知られている金属材料、具体例としては、ステンレス鋼、タンタル、ニッケル‐チタン合金(ニチノールを含む)、コバルト・クロム合金、非生体吸収性のマグネシウム合金、生体吸収性のマグネシウム合金などの金属材料が用いられる。
本発明のステントのコア構造体を構成する生体吸収性マグネシウム合金は、90質量%以上のマグネシウム(Mg)を主成分、亜鉛(Zn)、ジルコニウム(Zr)およびマンガン(Mn)を副成分として含有し、かつ、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ジスプロシウム(Dy)、サマリウム(Sm)、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ランタン(La)の内の少なくとも1種のレアアース(RE)およびアルミニウム(Al)を含有していなく、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)および銅(Cu)からなるグループから選ばれる不可避的不純物の含有量が30ppm以下であるマグネシウム合金から構成されるのが好ましい。
本発明において好ましい生体吸収性マグネシウム合金は、質量%で、1.00~2.00%のZn、0.05%以上0.80%未満のZr、0.05~0.40%のMnを含有し、残部がMgおよび不可避的不純物からなり、アルミニウム(Al)とレアメタル(RE)を含有しないマグネシウム合金が好ましい。
【0017】
(マグネシウム合金表面のフッ化処理)
マグネシウム合金表面の防食性を向上させるために、マグネシウム合金表面に化成処理を施すことが考えられる。最適な化成処理の一つとして、フッ化処理が挙げられる。フッ化処理の条件は、フッ化マグネシウム層を形成することができる限り、特に限定されないが、例えば、フッ化水素酸水溶液などの処理液中にマグネシウム合金を浸漬して行うことができる。浸漬に際しては、例えば、50~200ppm、好ましくは80~150ppmで振盪を行うのが好ましい。その後、フッ化マグネシウム層が形成されたマグネシウム合金を取り出し、洗浄液(例えば、アセトン水溶液)で十分洗浄する。洗浄は、例えば超音波洗浄を行い、洗浄後、マグネシウム合金を乾燥させる場合、減圧下50~60℃において24時間以上乾燥させる方法が用いられるのが好ましい。
フッ化マグネシウム層は、フッ化マグネシウムを主成分として構成される。例えば、90%以上含まれるMgFを主成分として構成されてもよい。さらに、副成分として、MgOならびにMg(OH)のような酸化物ならびに水酸化物を含有していてもよい。
【0018】
(フィブロイン)
本発明において用いられるフィブロインは、分子が規則正しく並び、主にグリシン、アラニン、セリンを含む結晶性部分とチロシンなどを含む非晶性部分とで構成され、通常、繊維状たんぱく質の一種として知られているものであれば、特に限定されない。例えば、市販品として入手すること、繭からの抽出や絹糸腺からの抽出などのこれまでに知られている抽出方法を利用することなどが挙げられる。本発明において用いられるフィブロインには架橋結合の導入は行われていない。ここで架橋結合の導入が行われていない場合としては、フィブロイン分子間においてアミノ酸の官能基にペプチド結合以外の共有結合が形成されない場合が挙げられる。
【0019】
(コア構造体の表面性状)
コア構造体表面を平滑にして均一な酸化被膜を形成するための前処理として、レーザー加工されたステント骨格を鏡面研磨するのが好ましい。
【0020】
(コア構造体のステント骨格形状)
本発明のステントは、従来のものを含めて種々の骨格形状を用いることができる。例えば、図2ならびに図3に示す骨格形状が挙げられる。
【0021】
(薬剤層)
本発明のステントは、コア構造体の表面全域あるいは一部の表面に、フィブロインと薬剤からなる被覆層が形成されている。薬剤としては、血管内膜肥厚抑制剤が適当であり、シロリムス、エベロリムス、バイオリムスA9、ゾタロリムス、パクリタキセル等が挙げられる。
【0022】
(被覆層形成方法)
フィブロインを含む被覆層(以下、フィブロイン層と称する場合がある)を形成するために、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を溶媒とするフィブロイン溶液をスプレーコーティングする方法が用いられるのが好ましい。スプレーコーティングはステント骨格の全表面にフィブロイン溶液を均一に塗布することが好ましい。また、より結晶性の高いフィブロイン層を形成するために、フィブロイン溶液をスプレーコーティングするのと同時あるいはスプレーコーティングした後、エタノールをスプレーコーティングしてもよい。フィブロイン層が形成された後、減圧下における24時間以上の乾燥工程を設けるのが好ましい。
【0023】
(ステントの性能)
上記のように、フィブロインと薬剤からなる被覆層が形成されたステントでは、37℃のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)において、所望の薬剤徐放挙動が得られ、37℃、5%CO雰囲気下の血漿模擬溶液において、優れた血管内皮細胞接着性ならびに抗血小板接着性が認められる。
また、ステントは、使用時、バルーンカテーテルへのクリンプ(縮径)ならびにステンティング(拡径)による塑性弾性変形を受けることになる(図4
【実施例
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0025】
ステントサンプルとして、CoCr合金ならびに生体吸収性Mg合金からなるコア構造体を、図2に示すデザインを有するステント骨格に加工した。尚、図3に示すデザインを採用した場合においても、同様の結果が得られた。
【0026】
(1)ステント骨格の作製
CoCr合金ならびに生体吸収性Mg合金からなる厚さ150μm(外径1.8mm/内径1.5mm)の細管を、それぞれ図2に示す形状にレーザー加工して、ステント骨格を得た。
【0027】
(2)電解研磨
CoCr合金製ならびに生体吸収性Mg合金製のステント骨格を、電解液中に陽極側として浸漬させ、陰極側である金属板との間に直流電源を介して接続した後、電圧を印加することによって陽極のステント骨格を厚さ70μm(CoCr合金)ならびに100μm(生体吸収性Mg合金)になるまで鏡面研磨して平滑表面を有するコア構造体を得た。尚、生体吸収性Mg合金製のコア構造体については、生体吸収性Mg合金の耐食性を向上させるために、電解研磨後にフッ化水素酸を用いて表面処理を施した。
【0028】
(3)テストサンプル
CoCr合金製ならびに生体吸収性Mg合金製のコア構造体を用いて、下記の実施例および比較例に示すステントサンプルを作製した後、バルーンカテーテルの遠位端部分に取り付けたバルーンに、ステントサンプルが外径1.1mm(CoCr合金)ならびに外径1.2mm(生体吸収性Mg合金)になるようにクリンプ(縮径)した後、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌を行った。この条件と同一条件でそれぞれ計5本のサンプルを調製した。
【0029】
(フィブロイン層の変形追従性評価)
血管留置後のステントが性能を発揮するには、コア構造体表面の被覆層が剥離・脱離してはならない。つまり、バルーンカテーテルによるコア構造体の拡張(拡径)に対して、薬剤含有フィブロイン層が剥離・脱離することなく、追従しなければならない。そこで、バルーンカテーテルにクリンプしたCoCr合金ステントサンプルを、37℃のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に2分間浸漬した後、内径が3mmになるまで均一に拡径(図5)し、100rpmで14日間振盪した。14日目にステントサンプルを採取し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてステントサンプル表面の変化を観察した。
【0030】
(フィブロイン層からのシロリムス溶出性評価)
上記(変形追随性評価)と同様の方法により、37℃のPBS中で拡径したCoCr合金ステントサンプルを、100rpmで14日間振盪した。1,3,7,14日目にPBSを採取し、紫外可視分光光度計UV-2450(SHIMADZU社)を用いてUV吸収(278nm)を測定した。
【0031】
(フィブロイン層による防食性評価)
生体吸収性Mg合金ステントサンプルに対するフィブロイン層による防食効果を評価した。上記(変形性追随性評価)と同様の方法により、37℃の血漿模擬溶液(EMEM+10%FBS)中で拡径した生体吸収性Mg合金ステントサンプルを、5%CO雰囲気下、100rpmで28日間振盪した。この段階において、ステントはバルーンカテーテルへのクリンプ(縮径)ならびに拡径による塑性弾性変形(物理変化)を受けたことになる(図4)。28日目に、抽出したステントサンプルのラディアルフォースを測定すると共に、表面をSEM観察した。また、クロム酸で超音波洗浄し、水酸化マグネシウム等の腐食生成物を完全に除去し、コア構造体の重量変化を評価した(n=5)。尚、ラディアルフォース測定には、RX550/650(Machine Solutions社)を用いた。
【0032】
(フィブロイン層の内皮細胞接着性評価)
上記(変形性追随性評価)と同様の方法により、37℃のPBS中で拡径した生体吸収性Mg合金ステントサンプルを、5×10/500μlのヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を含有する細胞培地に配置して、37℃・5%CO雰囲気下で培養した。培養4日後に、ステントサンプルをPBSで洗浄し、ステントサンプル表面の細胞を2.5%グルタルアルデヒド+4%パラホルムアルデヒドを用いて固定化処理した。次に、界面活性剤Triton X-100を用いて処理した後、細胞核および細胞アクチンをそれぞれDAPIおよびファロイジンを用いて染色した。そして、蛍光顕微鏡を用いてステントサンプル表面の細胞形態を観察した。
【0033】
(フィブロイン層の抗血小板接着性評価)
上記(変形性追随性評価)と同様の方法により、37℃のPBS中で拡径した生体吸収性Mg合金ステントサンプルを、500μlの血小板含有血漿に配置して、37℃・5%CO雰囲気下で培養した。尚、血小板血漿は、ウサギ血液を1500rpmで15分間遠心分離することによって得た。培養1時間後に、ステントサンプルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、ステントサンプル表面の細胞を2.5%グルタルアルデヒド+4%パラホルムアルデヒドを用いて固定化処理した。次に、エタノール水溶液を用いて脱水処理した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてステントサンプル表面の血小板接着を観察した。
【0034】
[実施例1]
0.5wt%シロリムスを含有する1wt%フィブロイン溶液をCoCr合金製のコア構造体の表面にスプレーコーティングし、重量200±20μg、層厚2μmのシロリムス含有フィブロイン層を有するステントサンプル(図1)を調製した。
まず、コア構造体を研磨した後、コーティング装置のマンドレルに装着し、ノズル下9mmの位置で、120rpmを伴う往復運動をさせつつ、0.5wt%シロリムスと1wt%フィブロインをHFIPに溶解したコーティング溶液を0.02mL/分でノズルより噴射し、約120秒間にわたって、コア構造体の端から中央までの表面にコーティングした。続いて、減圧下において3分間乾燥した後、残りの半分をコーティングした。そして、全面コーティングサンプルを、減圧下において24時間乾燥した。
【0035】
[実施例2]
0.5wt%シロリムスを含有する1wt%フィブロイン溶液とエタノールとを同時にCoCr合金製のコア構造体の表面にスプレーコーティングし、重量200±20μg、層厚2μmのシロリムス含有フィブロイン層を有するステントサンプル(図1)を調製した。まず、コア構造体を研磨した後、コーティング装置のマンドレルに装着し、ノズル下9mmの位置で、120rpmを伴う往復運動をさせつつ、0.5wt%シロリムスと1wt%フィブロインをHFIPに溶解したコーティング溶液とエタノールとを同時に0.02mL/分でノズルより噴射し、約120秒間にわたって、コア構造体の端から中央までの表面にコーティングした。続いて、減圧下において3分間乾燥した後、残りの半分をコーティングした。そして、全面コーティングサンプルを、減圧下において24時間乾燥した。
【0036】
[比較例1]
実施例1と同様の方法により、0.5wt%シロリムスを含有する1wt%ポリ乳酸(PLLA)のTHF溶液をCoCr合金製のコア構造体の表面にスプレーコーティングし、重量200±20μg、層厚2μmのシロリムス含有PLLA層を有するステントサンプルを調製した。
【0037】
(フィブロイン層の変形追従性評価結果)
内径3mmに拡径した直後ならびに振盪14日目において、採取したステントサンプルの表面を観察した結果を図6~8に示す。
本発明に基づくステントサンプル(実施例1および2)のシロリムス含有フィブロイン層には、拡径に伴う亀裂が認められず(図6および7)、コア構造体に対する優れた接着性と変形追従性を有することが示唆された。一方、本発明に該当しないシロリムス含有PLLAを有するステントサンプル(比較例1)では、拡径に伴う複数の亀裂が認められ(図8)、優れた結晶性を有するPLLAが拡径に追従し難いことが示唆された。
【0038】
(フィブロイン層からのシロリムス溶出性評価結果)
振盪1,3,7,14日目において、PBS中に溶出したシロリムスを定量した。PBS浸漬前のコア構造体表面に塗布したシロリムス量を基に、シロリムス溶出率を算出した結果を表1に示す。
本発明に基づくシロリムス含有フィブロイン層を有するステントサンプル(実施例1および2)は、経時的なシロリムス溶出性が認められ、フィブロインの結晶構造が優れたシロリムス担持能と徐放能を併せ持つことが示唆された。一方、本発明に該当しないシロリムス含有PLLA層を有するステントサンプル(比較例1)では、1日目にシロリムス溶出が認められるが、3日目以降には経時的な変化がなく、PLLAの優れた結晶性によりシロリムス溶出が抑制されていることが示唆された。
【0039】
【表1】
【0040】
[実施例3]
実施例1と同様の方法により、0.5wt%シロリムスを含有する1wt%フィブロイン溶液を生体吸収性Mg合金製のコア構造体の表面にスプレーコーティングし、合計200±20μgのシロリムス含有フィブロイン層を有するステントサンプル(図1)を調製した。
【0041】
[比較例2]
実施例1と同様の方法により、0.5wt%シロリムスを含有する1wt%PLLAのTHF溶液を生体吸収性Mg合金製のコア構造体の表面にスプレーコーティングし、合計200±20μgのシロリムス含有PLLA層を有するステントサンプルを調製した。
【0042】
[比較例3]
生体吸収性Mg合金製のコア構造体を研磨したステントサンプルを調製した。
【0043】
(フィブロイン層による防食性評価結果)
振盪28日目において、採取したステントサンプルのコア構造体の重量を測定すると共に、コア構造体の表面を観察した。浸漬前のコア構造体の重量を基に、浸漬・振盪後の重量残存率を算出した結果を表2に、表面SEM観察した結果を図9ならびに10に示す。尚、浸漬前のコア構造体の重量は、いずれも5.9mgであった。
また、浸漬前のステントサンプルのラディアルフォースを基に、浸漬・振盪後のステントサンプルのラディアルフォース残存率を算出した結果を表3に示す。尚、浸漬前のステントサンプルのラディアルフォースは、いずれも64.0N/mmであった。
【0044】
本発明に基づくシロリムス含有フィブロイン層を有するステントサンプル(実施例3)は、比較サンプル(比較例2および3)に比べて、重量残存率ならびにラディアルフォース残存率が高く、フィブロイン層によって腐食が抑制されていることが示唆された。本発明に該当しないシロリムス含有PLLA層を有するステントサンプル(比較例2)では、拡径に伴う複数の亀裂が引き金となり、局所的な腐食をもたらしていることが示唆された。また、いずれの被覆層も有さないステントサンプル(比較例3)では、激しい腐食が生じていることが示唆された。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
(フィブロイン層の内皮細胞接着性評価結果)
培養4日目において、ステントサンプルの表面に接着した細胞を観察した結果を図11ならびに12に示す。
本発明に基づくステントサンプル(実施例3)の表面に接着した細胞は、比較サンプル(比較例2および3)に比べて、細胞骨格が伸展しており、フィブロイン層の優れた細胞適合性が認められた。一方、本発明に該当しないステントサンプル(比較例2および3)では、接着した細胞の数も少なく、骨格の伸展も軽微であった。
【0048】
(フィブロイン層の抗血小板接着性評価結果)
培養4日目において、ステントサンプルの表面に接着した血小板を観察した結果を図13ならびに14に示す。
本発明に基づくステントサンプル(実施例3)の表面に接着した血小板の密度は、比較サンプル(比較例2および3)に比べて、明白に小さく、フィブロイン層の優れた抗血小板接着性が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、変形追随性を有し、かつ、血管内皮細胞接着性と抗血小板接着性を併せ有するステントを提供することにより、医療技術発展に大いに貢献するので、産業上の利用可能性が極めて大きい。
【0050】
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲内での種々の変更および修正は、請求の範囲から発明の範囲内のものと解釈される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14