(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】油剤付与ガイド、及び紡糸引取機
(51)【国際特許分類】
D01D 5/096 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
D01D5/096 Z
(21)【出願番号】P 2020021400
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592146689
【氏名又は名称】株式会社丸ウ製陶所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】豊田 海
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
(72)【発明者】
【氏名】川本 和弘
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-116404(JP,A)
【文献】特開2003-201619(JP,A)
【文献】国際公開第03/060204(WO,A1)
【文献】特開平05-230706(JP,A)
【文献】特開昭58-197308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00 - 13/02
D02G 1/00 - 3/48
D02J 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方から下方へ走行している糸に油剤を付与するための油剤付与ガイドであって、
前記油剤を上方から下方へ流すための流路が形成されたガイド本体を備え、
前記流路は、
前記糸が接触し、前記油剤が流れる油剤流動方向における下流側の端部において前記糸が離れる糸接触面と、
前記油剤流動方向において前記糸接触面よりも下流側に配置され、前記油剤流動方向において下流側へ向かうほど糸道から遠ざかるように形成された、前記油剤を排出するための油剤排出面と、
前記流路の幅方向において前記流路の両端に形成された一対の規制面と、を有し、
前記一対の規制面の前記幅方向における間隔は、前記糸接触面の前記幅方向における両側に形成された部分のうち最も狭い部分において、0.35mm以下であることを特徴とする油剤付与ガイド。
【請求項2】
上方から下方へ走行している糸に油剤を付与するための油剤付与ガイドであって、
前記油剤を上方から下方へ流すための流路が形成されたガイド本体を備え、
前記流路は、
前記糸が接触し、前記油剤が流れる油剤流動方向における下流側の端部において前記糸が離れる糸接触面と、
前記油剤流動方向において前記糸接触面よりも下流側に配置され、前記油剤流動方向において下流側へ向かうほど糸道から遠ざかるように形成された、前記油剤を排出するための油剤排出面と、
前記流路の幅方向において前記流路の両端に形成された一対の規制面と、を有し、
前記一対の規制面は、
前記糸接触面の前記幅方向における両側には形成されており、
前記油剤排出面のうち少なくとも前記油剤流動方向における上流側の端部の、前記幅方向における両側には形成されて
おらず、
前記ガイド本体が、上方から下方へ走行している前記糸を前記糸接触面と接触させるための向きに配置されているとき、
前記幅方向と直交する断面において、
前記油剤排出面と鉛直線とのなす角度が60度以上72度以下であることを特徴とする油剤付与ガイド。
【請求項3】
前記ガイド本体が、上方から下方へ走行している前記糸を前記糸接触面と接触させるための向きに配置されているとき、
前記幅方向と直交する断面において、
前記油剤排出面と鉛直線とのなす角度が60度以上72度以下であることを特徴とする請求項1に記載の油剤付与ガイド。
【請求項4】
前記糸接触面の両側に形成された前記一対の規制面の前記幅方向における間隔のうち、
前記糸接触面から前記糸が離れる位置における前記間隔が最も狭いことを特徴とする請求項1
~3のいずれかに記載の油剤付与ガイド。
【請求項5】
前記幅方向と直交する断面において、
前記糸接触面から前記糸が離れる点から糸走行方向における下流側へ延びる糸道と、前記油剤排出面の前記油剤流動方向における上流側端部とのなす角度が、50度以上であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の油剤付与ガイド。
【請求項6】
前記油剤排出面は、
前記油剤流動方向において前記糸接触面よりも下流側に配置された第1排出面と、
前記油剤流動方向において前記第1排出面よりもさらに下流側に配置され、前記第1排出面に対して屈曲した第2排出面と、を有し、
前記ガイド本体が、上方から下方へ走行している前記糸を前記糸接触面と接触させるための向きに配置されているとき、
前記幅方向と直交する断面において、
前記第1排出面と鉛直線とのなす第1角度よりも、前記第2排出面と鉛直線とのなす第2角度が小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の油剤付与ガイド。
【請求項7】
前記第2角度が50度以下であることを特徴とする請求項6に記載の油剤付与ガイド。
【請求項8】
糸を紡出する紡糸装置と、
前記紡糸装置から紡出された前記糸を引き取ってボビンに巻き取る引取装置と、
糸走行方向において前記紡糸装置と前記引取装置との間に配置された、請求項1~7のいずれかに記載の油剤付与ガイドと、を備えることを特徴とする紡糸引取機。
【請求項9】
前記紡糸装置は、55デシテックス以下の太さの糸を紡出可能であることを特徴とする請求項8に記載の紡糸引取機。
【請求項10】
質量パーセント濃度が85%以上の油剤を前記油剤付与ガイドに供給可能な給油装置、を備えることを特徴とする請求項8又は9に記載の紡糸引取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸に油剤を付与する油剤付与ガイド、及び、油剤付与ガイドを備える紡糸引取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、合成繊維の紡糸工程において、走行中の糸に油剤を付与するための油剤付与ガイドが開示されている(特許文献1の
図3参照)。油剤付与ガイドには、油剤吐出孔から吐出された油剤が下方へ流れる流路が形成されている。上記流路は、略鉛直に延びており糸が接触する糸接触面と、糸接触面よりも下方に配置され且つ斜め後ろ下方に延びた油剤排出面と、流路の幅方向において糸接触面及び油剤排出面の両側に形成された、糸が流路から幅方向に外れることを規制する規制面と、を有する。糸接触面に接触した糸は、油剤の流動方向において、糸接触面の下流側端部で糸接触面から離れる。油剤吐出孔から吐出された油剤は流路を流れ、糸接触面に接触している走行中の糸に付着する。流路を流れる油剤のうち、糸に付着しなかった一部の油剤は、油剤付与ガイドから飛散し、或いは油剤排出面を伝って滴下して排出される(回収される)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、糸の太さ或いは油剤の濃度等の条件によっては、糸に付着しなかった油剤が飛散或いは滴下しやすくなるという問題が生じることが、本願発明者により知見された。本願発明者による鋭意検討の結果、油剤の飛散等は以下のような原因で発生していることが知見された。すなわち、糸接触面から離れた直後の糸の近傍において、流路内(例えば、油剤排出面と規制面とによって囲まれた空間内)に油剤が意図せず溜まると、糸が油剤付与ガイドから出る際に、溜まった油剤が糸に引きずられて流路から飛び出してしまう。これにより、油剤が飛散等すると考えられる。
【0005】
本発明の目的は、油剤付与ガイドにおいて、糸に付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明の油剤付与ガイドは、上方から下方へ走行している糸に油剤を付与するための油剤付与ガイドであって、前記油剤を上方から下方へ流すための流路が形成されたガイド本体を備え、前記流路は、前記糸が接触し、前記油剤が流れる油剤流動方向における下流側の端部において前記糸が離れる糸接触面と、前記油剤流動方向において前記糸接触面よりも下流側に配置され、前記油剤流動方向において下流側へ向かうほど糸道から遠ざかるように形成された、前記油剤を排出するための油剤排出面と、前記流路の幅方向において前記流路の両端に形成された一対の規制面と、を有し、前記一対の規制面の前記幅方向における間隔は、前記糸接触面の前記幅方向における両側に形成された部分のうち最も狭い部分において、0.35mm以下であることを特徴とする。
【0007】
一般的に、油剤付与ガイドは、糸接触面が上側に位置し、油剤排出面が下側に位置するような向きに配置される。このように配置された油剤付与ガイドに供給された油剤は、糸接触面及び油剤排出面を伝って、上方から下方へ流れる。上述したように、糸接触面から離れた糸の近傍において、流路内に油剤が意図せず溜まると、溜まった油剤が糸に引きずられて流路から飛び出し、飛散等するおそれがある。特に、流路の上記幅方向における両端部を流れる油剤は、糸と接触することなく(つまり、糸に付着する可能性がなく)油剤流動方向下流側へ流れ、上記空間内に溜まってしまう可能性が高い。また、付着しない油剤の量が多い場合は、油剤排出面から油剤が滴下し排出される(回収される)。
【0008】
本発明では、一対の規制面の上記幅方向における間隔は、糸接触面の幅方向における両側に形成された部分のうち最も狭い部分において、0.35mm以下と狭くなっている。これにより、流路のうち幅が狭い部分を流れる油剤が、糸に接触しやすくなる(すなわち、糸に付着しやすくなる)。このため、糸に付着することなく油剤流動方向下流側へ流れる油剤の量を減らすことができ、その結果、上記空間内に油剤が溜まることを抑制できる。したがって、油剤付与ガイドにおいて、糸に付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制できる。
【0009】
第2の発明の油剤付与ガイドは、上方から下方へ走行している糸に油剤を付与するための油剤付与ガイドであって、前記油剤を上方から下方へ流すための流路が形成されたガイド本体を備え、前記流路は、前記糸が接触し、前記油剤が流れる油剤流動方向における下流側の端部において前記糸が離れる糸接触面と、前記油剤流動方向において前記糸接触面よりも下流側に配置され、前記油剤流動方向において下流側へ向かうほど糸道から遠ざかるように形成された、前記油剤を排出するための油剤排出面と、前記流路の幅方向において前記流路の両端に形成された一対の規制面と、を有し、前記一対の規制面は、前記糸接触面の前記幅方向における両側には形成されており、前記油剤排出面のうち少なくとも前記油剤流動方向における上流側の端部の、前記幅方向における両側には形成されていないことを特徴とする。
【0010】
本発明では、油剤流動方向において、糸が糸接触面から離れる位置(以下、離隔位置とする)のすぐ下流側に、規制面が形成されていない部分が存在する。これにより、離隔位置の油剤流動方向下流側において、油剤が溜まりうる空間を小さくすることができる。したがって、本発明においても、油剤付与ガイドにおいて、糸に付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制できる。
【0011】
第3の発明の油剤付与ガイドは、前記第1又は第2の発明において、前記糸接触面の両側に形成された前記一対の規制面の前記幅方向における間隔のうち、前記糸接触面から前記糸が離れる位置における前記間隔が最も狭いことを特徴とする。
【0012】
本発明では、上述した離隔位置及びその周辺において上記間隔が狭いため、油剤が溜まりうる空間を小さくすることができる。したがって、油剤の飛散等をさらに抑制できる。
【0013】
第4の発明の油剤付与ガイドは、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記幅方向と直交する断面において、前記糸接触面から前記糸が離れる点から糸走行方向における下流側へ延びる糸道と、前記油剤排出面の前記油剤流動方向における上流側端部とのなす角度が、50度以上であることを特徴とする。
【0014】
上記角度が小さい場合、糸接触面から離れた直後の糸と油剤排出面との間に挟まれた空間において、表面張力の影響が大きくなり油剤が溜まりやすくなるおそれがある。本発明では、上記角度が50度以上と大きいため、表面張力の影響を小さくできる。したがって、糸と油剤排出面との間に挟まれた空間に油剤が溜まることを抑制できる。
【0015】
第5の発明の油剤付与ガイドは、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記ガイド本体が、上方から下方へ走行している前記糸を前記糸接触面と接触させるための向きに配置されているとき、前記幅方向と直交する断面において、前記油剤排出面と鉛直線とのなす角度が60度以上72度以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明では、油剤排出面と鉛直線とのなす角度が60度以上72度以下とすることで、糸と油剤排出面との間に挟まれた空間に油剤が溜まることの抑制と、重力によって、油剤を油剤排出面に沿ってスムーズに排出することとを両立できる。
【0017】
第6の発明の油剤付与ガイドは、前記第1又は第2の発明において、前記油剤排出面は、前記油剤流動方向において前記糸接触面よりも下流側に配置された第1排出面と、前記油剤流動方向において前記第1排出面よりもさらに下流側に配置され、前記第1排出面に対して屈曲した第2排出面と、を有し、前記ガイド本体が、上方から下方へ走行している前記糸を前記糸接触面と接触させるための向きに配置されているとき、前記幅方向と直交する断面において、前記第1排出面と鉛直線とのなす第1角度よりも、前記第2排出面と鉛直線とのなす第2角度が小さいことを特徴とする。
【0018】
例えば上述した第4の発明のように、糸道と油剤排出面の油剤流動方向における上流側端部とのなす角度を大きくすることにより、糸と油剤排出面との間に挟まれた空間に油剤が溜まることを抑制できる。一方、当該角度を大きくすることにより油剤排出面と鉛直線とのなす角度も大きくなった場合、油剤排出面が水平に近づくため、重力を利用した油剤の排出効率が低下しうる(特に、糸を走行させる前に油剤を流し始める際に、排出効率の低下の影響が大きくなる)。より具体的には、油剤流動方向において、油剤排出面の下流側部分から油剤が排出されにくくなると、油剤排出面の上流側部分にも油剤が溜まりやすくなってしまうおそれがある。この点、本発明では、第1角度を大きくした場合でも第2角度を小さくすることができるため、油剤排出の効率の低下を抑制できる。
【0019】
第7の発明の油剤付与ガイドは、前記第6の発明において、前記第2角度が50度以下であることを特徴とする。
【0020】
本発明では、第2角度が50度以下と小さいため、油剤排出の効率の低下をより確実に抑制できる。
【0021】
第8の発明の紡糸引取機は、糸を紡出する紡糸装置と、前記紡糸装置から紡出された前記糸を引き取ってボビンに巻き取る引取装置と、糸走行方向において前記紡糸装置と前記引取装置との間に配置された、前記第1~第7のいずれかの発明の油剤付与ガイドと、を備えることを特徴とする。
【0022】
一般的に、紡糸装置からは高速で糸が紡出されるため、油剤付与ガイドにおいて意図せず溜まった油剤が、高速走行する糸に高速で引きずられて飛散等するおそれが大きい。このような紡糸引取機に上記油剤付与ガイドを適用して、糸に付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制することは、特に有効である。
【0023】
第9の発明の紡糸引取機は、前記第8の発明において、前記紡糸装置は、55デシテックス以下の太さの糸を紡出可能であることを特徴とする。
【0024】
細い糸に油剤を付与する場合、流路を流れる油剤のうち、上記幅方向において流路の両端部を流れる油剤は、糸と接触することなく(つまり、糸に付着する可能性がなく)油剤流動方向下流側へ流れやすくなる。このため、油剤付与ガイドにおいて油剤が意図せず溜まる量が多くなるおそれがある。このような紡糸引取機に上記油剤付与ガイドを適用して、糸に付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制することは、特に有効である。
【0025】
第10の発明の紡糸引取機は、前記第8又は第9の発明において、質量パーセント濃度が85%以上の油剤を前記油剤付与ガイドに供給可能な給油装置、を備えることを特徴とする。
【0026】
一般的に、濃度が高い油剤は、動粘度が高く糸に付着しにくい(例えば、複数のフィラメントからなる糸において、フィラメント間に油剤が入り込みにくい)。このため、糸に付着せずに油剤流動方向下流側へ流れる油剤の量が多くなる。このような紡糸引取機に上記油剤付与ガイドを適用して、糸に付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制することは、特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1実施形態に係る紡糸引取機を示す側面図である。
【
図3】第1実施形態の油剤付与ガイドの正面図である。
【
図5】第1実施形態の効果確認結果を示す表である。
【
図6】第2実施形態の油剤付与ガイドの正面図である。
【
図7】(a)は、
図6のVII-VII線断面図であり、(b)は、(a)の一部の拡大図である。
【
図8】第2実施形態の効果確認結果を示す表である。
【
図9】第2実施形態の変形例に係る油剤付与ガイドの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
次に、本発明の第1実施形態について説明する。なお、説明の便宜上、
図1及び
図2に示す方向を上下方向、左右方向及び前後方向とする。上下方向は、重力が作用する鉛直方向である。前後方向は、上下方向と直交する、後述のボビンBが並べて配置される方向である。左右方向は、上下方向及び前後方向の両方と直交する方向である。また、糸Yの走行する方向を糸走行方向とする。
【0029】
(紡糸引取機)
第1実施形態に係る紡糸引取機1の概略について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
図1は、第1実施形態に係る紡糸引取機1を示す側面図である。
図2は、後述する油剤付与装置3を示す模式図である。
図1に示すように、紡糸引取機1は、紡糸装置2と、油剤付与装置3と、延伸装置4と、引取装置5とを備える。
【0030】
紡糸装置2は、例えば左右方向に並べて配置された複数の紡糸口金2aの吐出口(不図示)から、合成繊維(例えばポリエステル)からなる複数の糸Yをそれぞれ紡出するように構成されている。一例として、紡糸装置2は、
図1に示すように、12本の糸Yを紡出可能である。各糸Yは、例えば複数のフィラメントfから構成されるマルチフィラメント糸である。但し、これには限られず、糸Yは1本のフィラメントfから構成されていても良い。紡糸装置2は、紡糸口金2aの吐出口の開口面積に応じて、紡出する糸Y(フィラメントf)の太さを変更可能である。一例として、紡糸装置2は、55デシテックス以下の細い糸Yを紡出することが可能である。また、紡糸装置2の下方には、紡糸装置2から紡出された直後の複数の糸Yを冷却する不図示の冷却装置が設けられている。
【0031】
油剤付与装置3は、上方から下方へ走行している複数の糸Yに対応して設けられた複数の油剤付与ガイド11と、複数の油剤付与ガイド11に油剤を供給する給油装置12(
図2参照)とを有する。油剤付与装置3は、例えば、給油装置12から供給管13を介して油剤付与ガイド11に油剤を供給するように構成されている(
図2の紙面左向きの矢印を参照)。供給管13を通って油剤付与ガイド11に供給された油剤は、糸Yと接触して糸Yに付着する。糸Yに付着せずに残った一部の油剤は、例えば、油剤付与ガイド11の下方に配置された回収路14を通って(
図2の紙面右下向きの矢印を参照)、回収箱15に回収される。
【0032】
複数の油剤付与ガイド11は、複数の糸Yに対応して、紡糸装置2及び冷却装置(不図示)の下方に配置されている。複数の油剤付与ガイド11は、糸走行方向において冷却装置と引取装置5との間(言い換えると、紡糸装置2と引取装置5との間)に配置されている。油剤付与ガイド11は、紡糸口金2aから紡出された複数のフィラメントfをまとめて1本の糸Yにするとともに、給油装置12から供給された油剤を糸Yに付与するように構成されている。油剤付与ガイド11の詳細については後述する。給油装置12は、油剤として、例えば、水と油との混合物(エマルション)を供給可能に構成されている。給油装置12は、様々な濃度の油剤を供給することが可能である。一例として、給油装置12は、質量パーセント濃度が85%以上の、濃度の高い油剤を供給することが可能である。
【0033】
延伸装置4は、油剤付与装置3の下方に配置されている。延伸装置4は、保温ボックス16と、保温ボックス16内に収容された複数の加熱ローラ16aとを有する。延伸装置4は、複数の加熱ローラ16aにより、複数の糸Yをそれぞれ加熱しつつ延伸する。糸Yに付与された油剤に含まれる水分は、例えば加熱ローラ16aによって糸Yを加熱することにより蒸発し、油剤から除去される。
【0034】
引取装置5は、紡糸装置2から紡出される複数の糸Yを引き取り、複数のボビンBに巻き取ってパッケージPを形成する。
図1及び
図2に示すように、引取装置5は、糸Yを引き取る第1ゴデットローラ17及び第2ゴデットローラ18と、引き取られた糸YをボビンBに巻き取る巻取部19とを備える。巻取部19は、複数の支点ガイド21と、複数のトラバースガイド22と、ターレット23と、2本のボビンホルダ24と、コンタクトローラ25とを有する。
【0035】
複数の支点ガイド21は、糸Yがトラバースガイド22によって綾振りされる際の支点となるガイドである。複数の支点ガイド21は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向に配列されている。複数のトラバースガイド22は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向に並べて配置されている。トラバースガイド22は、不図示のモータによって駆動され、糸Yを前後方向に綾振りさせる。
【0036】
ターレット23は、軸方向が前後方向と略平行な円板状の部材である。ターレット23は、不図示のターレットモータによって回転駆動される。2本のボビンホルダ24は、それぞれ、軸方向が前後方向と平行であり、ターレット23の上端部及び下端部に回転自在に支持されている。各ボビンホルダ24には、複数の糸Yに対して個別に設けられた複数のボビンBが前後方向に並べて装着されている。2つのボビンホルダ24は、個別のモータ(不図示)によって回転駆動される。コンタクトローラ25は、上側のボビンホルダ24に支持された複数のパッケージPの表面に接触することで、巻取中のパッケージPの表面に接圧を付与して、パッケージPの形状を整える。
【0037】
以上のような巻取部19において、上側のボビンホルダ24が回転駆動されると、トラバースガイド22によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される。また、パッケージPが満巻きになった場合、ターレット23が回転させられることにより、2本のボビンホルダ24の上下の位置が入れ換わる。これにより、下側に位置していたボビンホルダ24が上側に移動し、このボビンホルダ24に装着されたボビンBに糸Yを巻き取ってパッケージPを形成することができる。
【0038】
(油剤付与ガイドの構造)
次に、油剤付与ガイド11の構造について、
図3及び
図4を参照しつつ説明する。
図3は、油剤付与ガイド11の正面図である。
図4は、
図3のIV-IV線断面図である。以下、油剤が流れる方向を油剤流動方向とする。また、左右方向と略平行な、流路31(後述)の幅方向を、単に幅方向とする。
【0039】
油剤付与ガイド11は、油剤を流すための流路31が形成されたガイド本体30を有する。ガイド本体30は、例えば、アルミナやジルコニア等のセラミックス材料で形成されているが、これには限られない。
【0040】
流路31は、少なくとも上下方向に延び、油剤を上方から下方へ流すように構成されている。流路31の一部は、糸Yを上方から下方へ案内するための通路としても機能する。
図3及び
図4に示すように、流路31は、供給孔32と、吐出口33と、流動面34と、一対の規制壁35(規制壁35a、35b)とを有する。
【0041】
供給孔32は、ガイド本体30の後側部分に形成され、前後方向に延びた孔である。供給孔32は、上述した供給管13が後方から差し込まれることが可能に形成されている。吐出口33は、ガイド本体30の前後方向における中間部且つ供給孔32の前端に配置されている。吐出口33は、流動面34の上側に配置され、前向きに開口している。
【0042】
流動面34は、ガイド本体30の前後方向における中間部に形成された、油剤を上方から下方へ伝わらせる面である。流動面34は、糸接触面36と、油剤排出面37とを有する。糸接触面36は、吐出口33の下側に形成された、概ね前向きの面である。糸接触面36は、概ね上下方向に延びている。糸接触面36は、例えば、下方へ向かうほど後方へわずかに湾曲している。但し、これには限られず、糸接触面36は、例えば上下方向に沿って略平面状に設けられていても良い。糸接触面36は、上方から下方へ走行している糸Yが接触し、且つ、上方から下方へ油剤が流れるように形成されている。糸接触面36のうち糸Yが最初に接触する位置(吐出口33のすぐ下側の位置)が糸接触面36の上端である。また、幅方向と直交する断面(
図4参照)において、糸Yが糸接触面36から離れる点を離隔点P1とする。糸接触面36から離れた直後の糸Yは、離隔点P1を接点とする糸接触面36の接線を描くように走行する(すなわち、糸Yの通り道である糸道101(
図4参照)の一部が、上記接線に相当する)。
【0043】
なお、吐出口33の上側には、糸接触面36と同様に、少なくとも前側を向いた面39が形成されている。面39は、吐出口33に対して上方且つ後方に延びた面である。面39の下端(吐出口33のすぐ上側の端)に糸Yが接触する。面39は、流動面34には含まれない。
【0044】
油剤排出面37は、糸接触面36の下側に形成され、糸接触面36と接続された面である。油剤排出面37の上端は、糸接触面36の下端と接続されている。油剤排出面37は、斜め後ろ下方へ延びている(
図4参照)。すなわち、油剤排出面37は、油剤流動方向において下流側へ向かうほど、糸道101から遠ざかるように形成されている。油剤排出面37は、例えば、油剤流動方向において少なくとも上流側の部分が略平面状に形成されている。糸Yに付着しなかった油剤は、油剤排出面37を伝って下方へ流れ、さらに、回収路14(
図2参照)の上に落下する。これにより、油剤が回収路14を通って回収箱15(
図2参照)に回収される。
【0045】
糸接触面36と油剤排出面37との境界は、例えば以下のように定義される。上述したように、油剤排出面37は、油剤流動方向において少なくとも上流側の部分が、略平面状に形成されている。そこで、例えば、幅方向と直交する断面において、油剤排出面37の油剤流動方向上流側部分の外縁に沿って延びた直線と、流動面34の実際の外縁とが離れる点(
図4の点P2を参照)を、油剤排出面37の油剤流動方向における上流端(言い換えると、上端)と定義する。点P2は、糸接触面36の油剤流動方向における下流端(言い換えると、下端)にも相当する。そして、糸接触面36のうち、例えば、点P2から上方に0.88mm以内の領域を、糸接触面36の油剤流動方向における下流側端部(言い換えると、下端部)と定義する。上述した離隔点P1は、糸接触面36の油剤流動方向における下流側端部に含まれる。
【0046】
一対の規制壁35は、ガイド本体30の前側部分に形成され、前後方向及び上下方向に延びた壁である。一対の規制壁35は、糸接触面36及び油剤排出面37の左右両側に設けられている。一対の規制壁35の幅方向内側には、一対の規制面38(規制面38a、38b)がそれぞれ形成されている。一対の規制面38は、少なくとも糸接触面36及び油剤排出面37の幅方向における外側(言い換えると、流路31の幅方向における両端)に形成されている。規制面38a、38bは、幅方向における糸Yの移動を規制するとともに、流路31を流れる油剤が左右方向に広がることを防ぐ。
【0047】
ここで、近年、糸Yの太さ或いは油剤の濃度等の条件によっては、油剤付与ガイド11に供給された油剤が回収されずに飛散或いは滴下しやすくなるという問題が生じることが、本願発明者により知見された。本願発明者による鋭意検討の結果、油剤の飛散等は以下のような原因で発生していることが知見された。すなわち、糸接触面36から離れた直後の糸Yの近傍において、例えば表面張力の影響により、流動面34(糸接触面36及び油剤排出面37)と、規制面38a、38bとによって囲まれた空間(
図4の空間Sを参照)内に、油剤が意図せず溜まりうる。このように油剤が意図せず溜まると、糸Yが油剤付与ガイド11から出る際に、溜まった油剤が糸Yに引きずられて流路31から飛び出してしまう。これにより、油剤が飛散等すると考えられる。
【0048】
このような現象は、糸Yが細くなるほど顕著になる。糸Yが細い場合、流路31を流れる油剤のうち、幅方向において流路31の両端部を流れる油剤は、糸Yと接触することなく(つまり、糸Yに付着する可能性がなく)油剤流動方向下流側へ流れやすくなる。このため、空間Sに油剤が溜まりやすくなってしまう。
【0049】
また、近年、油剤に含まれる水分の量を少なくして当該水分を容易に蒸発させることができるように、濃度の高い油剤の使用が検討されている。しかしながら、濃度の高い油剤を用いた場合、以下のような問題が発生しうる。すなわち、濃度が高い油剤は、一般的に動粘度が高く、糸Yに付着しにくい(例えば、複数のフィラメントfからなる糸Yにおいて、フィラメントf間に油剤が入り込みにくい)。このため、糸Yに付着せずに油剤流動方向下流側へ流れる油剤の量が多くなる。このため、空間Sに油剤が溜まりやすくなってしまう。
【0050】
そこで、糸Yに付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制するために、第1実施形態の油剤付与ガイド11は以下のように構成されている。
【0051】
(油剤付与ガイドの詳細構成)
一対の規制面38のうち、糸接触面36の幅方向両側に配置された部分の幅方向における間隔(以下、単に「間隔」とも呼ぶ)は、複数のフィラメントfをまとめるために、下側(油剤流動方向における下流側)に向かうほど狭くなっている。すなわち、
図3に示すように、糸接触面36の油剤流動方向上流端における上記間隔(間隔G1)よりも、離隔点P1(
図4参照)が形成された油剤流動方向の位置における上記間隔(間隔G2)の方が狭い。糸接触面36の幅方向両側に配置された規制面38aと規制面38bとの間隔のうち、間隔G2が最も狭い。さらに、間隔G2は、従来よりも狭く、0.35mm以下となっている(従来品の上記間隔は0.53mm)。
【0052】
これにより、流路31のうち幅が狭い部分を流れる油剤が糸Yに接触しやすくなる(すなわち、糸に付着しやすくなる)。このため、糸に付着することなく油剤流動方向下流側へ流れる油剤の量を減らすことができ、その結果、空間S内に油剤が溜まることを抑制できると本願発明者は考えた。
【0053】
また、上述したように、糸接触面36の幅方向両側に配置された規制面38aと規制面38bとの間隔のうち、間隔G2が最も狭い。このため、離隔点P1及びその周辺において、空間Sが小さくなるので、油剤が空間Sに溜まることが抑制され、油剤の飛散等がさらに抑制される。
【0054】
(効果確認試験)
上記間隔G2を従来よりも狭くすることによる効果を確認するため、本願発明者は、以下のような確認試験を行った。まず、本願発明者は、油剤付与ガイドとして、後述する3種類の試験体(実施例1、実施例2、比較例)を8個ずつ準備した。
【0055】
実施例及び比較例の油剤付与ガイドの条件について、具体的に説明する。実施例1においては、間隔G1が1.2mm、間隔G2が0.35mmである。実施例2においては、間隔G1が0.9mm、間隔G2が0.27mmである。比較例(従来品)においては、間隔G1が1.8mm、間隔G2が0.53mmである。
【0056】
糸Yの例として、ポリエステルからなる2種類の太さのFDY糸(48フィラメント・55デシテックス、及び、24フィラメント・44デシテックス)を用いた。油剤の例として、質量パーセント濃度が90%の油剤を用いた。そして、油剤を油剤付与ガイド11に供給しつつ糸Yを走行させ、油剤の飛散・滴下の発生状況(飛散・滴下の有無)の評価を行った。なお、油剤が飛散等しているかどうかの状況確認は、具体的には以下のようにして行った。すなわち、例えばクリーンルームで使用可能なシーズシー株式会社のポラリオンライトNP-1(「NP-1」は型番)に付属のグリーンフィルターを取り付けて観察対象箇所に光を当て、油剤の飛散があるか否かを目視にて確認した。なお、観察範囲は、油剤付与ガイドの下端から下側に30mm~180mmの範囲とした。
【0057】
まず、55デシテックスの糸Yを用いた評価結果は、
図5の紙面上側の表に示すとおりである。表において、「油剤の飛散・滴下の有無」の評価として、3段階の評価(すなわち、「無し」「飛散有」「飛散及び滴下有」)を記載している。「無し」は、油剤の飛散も滴下も発生していない、良好な結果を示す評価である。「飛散有」は、油剤の飛散は発生している一方で、油剤の滴下は発生していないことを示す。「飛散及び滴下有」は、油剤の飛散及び滴下の両方が発生していることを示す。
【0058】
実施例1においては、8個の試験体のうち「無し」の評価の試験体が6個、「飛散有」の評価の試験体が2個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が0個であった。実施例2においても、同様に、8個の試験体のうち「無し」の評価の試験体が6個、「飛散有」の評価の試験体が2個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が0個であった。比較例においては、8個の試験体のうち「無し」の評価の試験体が2個、「飛散有」の評価の試験体が5個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が1個であった。このように、間隔G2を0.35mm以下と狭くすることにより、油剤の飛散等が抑制される効果が顕著に見られた。その理由は、上述したように、糸Yに付着することなく油剤流動方向下流側へ流れる油剤の量が減り、その結果、上記空間内に油剤が溜まることを抑制できたためと考えられる。
【0059】
次に、44デシテックスの糸Yを用いた評価結果は、
図5の紙面下側の表に示すとおりである。55デシテックスの糸Yを用いた場合と比べて、油剤の飛散・滴下が多い傾向が見られた。その理由は、上述したように、流路31流れる油剤のうち、幅方向において流路31の両端部を流れる油剤が、糸Yと接触することなく(つまり、糸Yに付着する可能性がなく)油剤流動方向下流側へ流れやすくなるためであると考えられる。
【0060】
実施例1においては、「無し」の評価の試験体が0個、「飛散有」の評価の試験体が3個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が5個であった。実施例2においては、「無し」の評価の試験体が0個、「飛散有」の評価の試験体が6個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が2個であった。比較例においては、「無し」の評価の試験体が0個、「飛散有」の評価の試験体が1個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が7個であった。このように、糸Yが44デシテックスと細い場合には、いずれの試験体においても油剤の飛散があったものの、間隔G2を0.35mm以下と狭くすることにより、油剤の滴下が抑制される効果が見られた。このように、糸Yの太さによらず、油剤の飛散或いは滴下は、間隔G2を狭くすることにより抑制された。
【0061】
以上のように、間隔G2は、0.35mm以下と狭くなっている。これにより、流路31のうち幅が狭い部分を流れる油剤が糸Yに接触しやすくなる(すなわち、糸Yに付着しやすくなる)。このため、糸Yに付着することなく油剤流動方向下流側へ流れる油剤の量を減らすことができ、その結果、空間S内に油剤が溜まることを抑制できる。したがって、油剤付与ガイド11において、糸Yに付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制できる。
【0062】
また、糸接触面36の幅方向両側に配置された規制面38aと規制面38bとの間隔のうち、間隔G2が最も狭い。このため、離隔点P1及びその周辺において、油剤が溜まりうる空間を小さくすることができるので、油剤の飛散等をさらに抑制できる。
【0063】
また、一般的に、紡糸装置2からは高速で糸が紡出されるため、意図せず溜まった油剤が、高速走行する糸Yに高速で引きずられて飛散等するおそれが大きい。このような紡糸引取機1に油剤付与ガイド11を適用して、糸Yに付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制することは、特に有効である。
【0064】
また、55デシテックス以下の細い糸Yに油剤を付与する場合、流路31を流れる油剤のうち、幅方向において流路31の両端部を流れる油剤は、糸Yと接触することなく(つまり、糸に付着する可能性がなく)油剤流動方向下流側へ流れやすくなる。このため、油剤付与ガイド11において油剤が意図せず溜まる量が多くなるおそれがある。このような紡糸引取機1に油剤付与ガイド11を適用して、糸Yに付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制することは、特に有効である。
【0065】
また、質量パーセント濃度85%以上と濃度が高い油剤は、動粘度が高く糸Yに付着しにくい。このため、糸Yに付着せずに油剤流動方向下流側へ流れる油剤の量が多くなる。このような紡糸引取機1に油剤付与ガイド11を適用して、糸Yに付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制することは、特に有効である。
【0066】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について、
図6、
図7(a)、(b)を参照しつつ説明する。但し、第1実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
図6は、第2実施形態に係る油剤付与ガイド40の正面図である。
図7(a)は、
図6のVII-VII線断面図である。
図7(b)は、
図7(a)に示された領域R1の拡大図である。
【0067】
第2実施形態に係る油剤付与ガイド40(
図6、
図7(a)、(b)参照)は、第1実施形態の油剤付与ガイド11と同様に、紡糸引取機1(
図1参照)の油剤付与装置3(
図1参照)に備えられたガイドである。
【0068】
(油剤付与ガイドの構造)
油剤付与ガイド40の構造について説明する。油剤付与ガイド40は、流路51(油剤付与ガイド11の流路31に対応)が形成されたガイド本体50(油剤付与ガイド11のガイド本体30に対応)を有する。流路51は、供給孔52と、吐出口53と、流動面54(糸接触面56及び油剤排出面57)と、一対の規制壁55(規制壁55a、55b)とを有する。
【0069】
供給孔52は、油剤付与ガイド11の供給孔32に対応する。吐出口53は、油剤付与ガイド11の吐出口33に対応する。流動面54は、油剤付与ガイド11の流動面34に対応する。糸接触面56は、油剤付与ガイド11の糸接触面36に対応する。油剤排出面57は、油剤付与ガイド11の油剤排出面37に対応する。一対の規制壁55は、油剤付与ガイド11の一対の規制壁35に対応する。規制壁55には、油剤付与ガイド11の規制面38に対応する規制面58(規制面58a、58b)が形成されている。また、吐出口53の上側には、油剤付与ガイド11の面39に対応する面59が形成されている。以下、油剤付与ガイド40と油剤付与ガイド11との主な共通点・相違点について説明する。
【0070】
糸接触面56の下端部は、油剤付与ガイド11と同様に定義される。すなわち、幅方向と直交する断面(
図7(a)参照)において、糸Yが糸接触面56から離れる点を離隔点P3とする。糸接触面56から離れた直後の糸Yは、離隔点P3を接点とする糸接触面56の接線を描くように走行する(すなわち、糸Yの通り道である糸道102の一部が、上記接線に相当する)。
【0071】
油剤排出面57の上端は、糸接触面56の下端と接続されている。油剤排出面57は、油剤流動方向において下流側へ向かうほど、糸道102から後方へ遠ざかるように形成されている(
図7(a)参照)。油剤排出面57は、例えば、油剤流動方向における全体に亘って略平面状である(つまり、幅方向と直交する断面図において略直線状である)。
【0072】
糸接触面56と油剤排出面57との境界は、油剤付与ガイド11と同様に、例えば以下のように定義される。すなわち、幅方向と直交する断面において、油剤排出面57の油剤流動方向上流側部分の外縁に沿って延びた直線と、流動面54の実際の外縁とが離れる点(
図7(a)の点P4を参照)を、油剤排出面57の油剤流動方向における上流端(言い換えると、上端)と定義する。点P4は、糸接触面56の油剤流動方向における下流端(言い換えると、下端)にも相当する。そして、糸接触面56のうち、例えば、点P4から上方に0.61mm以内の領域を、糸接触面56の油剤流動方向における下流側端部(言い換えると、下端部)と定義する。離隔点P3は、糸接触面56の油剤流動方向における下流側端部に含まれる。また、油剤排出面57のうち、例えば、点P4から後方に3mm以内の領域を、油剤排出面57の油剤流動方向における上流側端部と定義する。
【0073】
油剤付与ガイド40において、一対の規制面58は、糸接触面56の幅方向における両側に形成されている。一方、一対の規制面58は、油剤排出面57の幅方向における両側には形成されていない。つまり、流路51には、離隔点P3の油剤流動方向下流側において、規制面58a、58bが形成されていない部分が存在する。これにより、離隔点P3の油剤流動方向下流側において、流動面54と規制面58a、58bとによって囲まれた空間(つまり、油剤が溜まりうる空間)が小さくなる。なお、
図7(a)では、一対の規制面58は、油剤排出面57の全域の幅方向における両側に形成されていない。
【0074】
また、規制面58aと規制面58bとの幅方向における間隔(以下、単に「間隔」とする)は、油剤付与ガイド11と同様に、下側(油剤流動方向における下流側)に向かうほど狭くなっている。すなわち、
図5に示すように、糸接触面56の油剤流動方向上流端における上記間隔(間隔G1)よりも、離隔点P3が形成された油剤流動方向の位置における上記間隔(間隔G2)の方が狭い。規制面58aと規制面58bとの間隔のうち、間隔G2が最も狭い。
【0075】
また、
図7(a)に示すように、幅方向と直交する断面において、離隔点P3を接点とする糸接触面56の接線(糸道102を参照)と、油剤排出面57の油剤流動方向における上流側端部とのなす角度をθaとする。このとき、θaは、例えば50度以上であることが好ましい。その理由は、θaが小さいと、糸接触面56から離れた直後の糸Yと油剤排出面57との間に挟まれた空間において、表面張力の影響が大きくなり油剤が溜まりやすくなるおそれがあるためである。θaを50度以上と大きくすることにより、表面張力の影響が小さくなり、糸Yと油剤排出面57との間に挟まれた空間に油剤が溜まることを抑制できる。なお、当該構成は、第1実施形態の油剤付与ガイド11に適用されても良い。
【0076】
また、第2実施形態のように、ガイド本体50が、上方から下方へ走行している糸Yを糸接触面56と接触させるための向きに配置されているとき、幅方向と直交する断面において、油剤排出面57と鉛直線とのなす角度をθbとする。より詳細には、θbは、鉛直線と、油剤排出面57の油剤流動方向における上流側端部(定義は上述したとおり)の面とのなす角度である。θbは、例えば60度以上72度以下であることが好ましい。θbを60度以上と大きくすることにより、表面張力の影響が小さくなり、糸Yと油剤排出面57との間に挟まれた空間に油剤が溜まることを抑制できる。また、θbを72度以下と小さくすることにより、油剤排出面57の向きが鉛直方向に近くなり、油剤排出面57に沿う向きの重力の成分が大きくなる。したがって、重力によって、油剤が油剤排出面に沿ってスムーズに排出される。なお、当該構成は、第1実施形態の油剤付与ガイド11に適用されても良い。
【0077】
なお、
図7(b)に示すように、離隔点P3から規制壁55の前端までの前後方向における距離をLとしたとき、Lを小さくすることによっても、流動面54と規制面58a、58bとによって囲まれた空間(油剤が溜まりうる空間)を小さくすることができる。但し、Lが短すぎると、油剤が前側に漏れる懸念があるため、Lは例えば0.75mm以上であることが好ましい。当該構成は、第1実施形態の油剤付与ガイド11に適用されても良い。
【0078】
(効果確認試験)
上記のように、油剤排出面57の幅方向における両側に規制面58a、58bが形成されていないことによる効果を確認するため、本願発明者は、第1実施形態と同様に、以下のような確認試験を行った。本願発明者は、油剤付与ガイドとして、2種類の試験体(上述した実施例2、及び、後述の実施例3)を8個ずつ準備した。実施例3の試験体は、第2実施形態に係る油剤付与ガイド40である。実施例3の試験体は、油剤排出面57の幅方向における両側に規制面58a、58bが形成されていないことを除き、上述した実施例2の試験体(油剤付与ガイド11)と同条件である。つまり、実施例3の試験体において、間隔G1は0.9mm、間隔G2は0.27mmである。また、走行させた糸Yの種類、油剤の濃度等の試験条件は、第1実施形態における確認試験の条件と同じである。
【0079】
まず、55デシテックスの糸Yを用いた評価結果は、
図8の紙面上側の表に示すとおりである。実施例3においては、8個の試験体のうち「無し」の評価の試験体が8個、「飛散有」の評価の試験体が0個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が0個であった。また、44デシテックスの糸Yを用いた評価結果は、
図8の紙面下側の表に示すとおりである。実施例3においては、8個の試験体のうち「無し」の評価の試験体が8個、「飛散有」の評価の試験体が0個、「飛散及び滴下有」の評価の試験体が0個であった。いずれの太さの糸Yを走行させた場合にも、油剤の飛散・滴下が抑制されていることが確認された。その理由は、上述したように、油剤が溜まりうる空間が小さいことにより、油剤が意図せず溜まることが抑制されるためであると考えられる。
【0080】
以上のように、離隔点P3の油剤流動方向下流側において、規制面58a、58bが形成されていない部分が存在する。これにより、離隔点P3の油剤流動方向下流側において、流動面54と規制面58a、58bとによって囲まれた空間(つまり、油剤が溜まりうる空間)を小さくすることができる。したがって、油剤付与ガイド40において、糸Yに付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制できる。
【0081】
また、上述したθaが50度以上と大きいため、表面張力の影響を小さくでき、糸Yと油剤排出面57との間に挟まれた空間に油剤が溜まることを抑制できる。
【0082】
また、上述したθbが60度以上72度以下の範囲にあることで、表面張力の影響を小さくでき、糸Yと油剤排出面57との間に挟まれた空間に油剤が溜まることを抑制できる。且つ、油剤排出面57に沿う向きの重力の成分が大きくなる。したがって、重力によって、油剤を油剤排出面57に沿ってスムーズに排出できる。
【0083】
次に、第2実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、第2実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0084】
(1)一対の規制面58は、油剤排出面57の幅方向における両側に全く形成されていないものとしたが、これには限られない。例えば、一対の規制面58は、油剤流動方向における油剤排出面57の上流側端部(定義は上述したとおり)の幅方向両側に形成されておらず、油剤排出面57の上流側端部以外の部分の幅方向両側に形成されていても良い。つまり、一対の規制面58は、油剤排出面57の油剤流動方向における少なくとも上流側端部の幅方向両側に存在しないように形成されていれば良い。
【0085】
(2)上述した実施例3における間隔G2が0.27mmである(つまり、実施例3における間隔G2が実施例2と同じである)ものとしたが、間隔G2はこの値に限られない。すなわち、規制面58a、58bが、油剤排出面57の油剤流動方向上流側端部の幅方向両側に形成されていないことにより、糸接触面56から離れた直後の糸Yの近傍において、油剤が溜まりうる空間を小さくすることができる。このようにすることで、糸Yに付着しなかった油剤が意図せず溜まることを抑制できる。
【0086】
(3)上述したθaが50度以上であることが好ましいものとしたが、これには限られない。θaは、50度よりも小さくても良い。
【0087】
(4)上述したθbが60度以上72度以下であることが好ましいものとしたが、これには限られない。θbは、60度よりも小さく又は72度よりも大きくても良い。
【0088】
(5)上述したように、θaを大きくすることにより、糸Yと油剤排出面57との間に挟まれた空間に油剤が溜まることを抑制できる。一方、θaを大きくすることによりθbも大きくなった場合、油剤排出面57が水平に近づくため、重力による油剤の排出効率が低下しうる(特に、糸を走行させる前に油剤を流し始める際に、排出効率の低下の影響が大きくなる)。より具体的には、油剤流動方向において、油剤排出面57の下流側部分から油剤が排出されにくくなると、油剤排出面57の上流側部分にも油剤が溜まりやすくなってしまうおそれがある。そこで、例えば
図9に示すように、油剤付与ガイド60の油剤排出面61は、上述した油剤排出面57とは異なり、全体が略平面状になっていなくても良い。油剤排出面61は、例えば、第1排出面62と、第2排出面63とを有する。第1排出面62は、油剤排出方向において糸接触面56のすぐ下流側に形成された面である。幅方向と直交する断面において、第1排出面62と鉛直線とのなす角度(第1角度)は、上述したθbである。第2排出面63は、油剤排出方向において第1排出面62よりも下流側に形成された面である。第2排出面63は、第1排出面62に対して屈曲している。幅方向と直交する断面において、第2排出面63と鉛直線とのなす角度(第2角度)をθcとしたとき、θcはθbよりも小さい。これにより、θbを大きくした場合でもθcを小さくすることができるため、重力を利用した油剤排出の効率の低下を抑制できる。より具体的には、θcは50度以下であると好ましい。θcを50度以下と小さくすることにより、油剤排出の効率の低下をより確実に抑制できることが、本願発明者によって知見された。当該変形例は、第1実施形態の油剤付与ガイド11に適用されても良い。なお、θa及びθbは、例えば第2実施形態において示した角度の範囲に収まっていても良いが、必ずしもこれに限られない。
【0089】
次に、第1実施形態及び第2実施形態に共通の変形例について説明する。
【0090】
(1)離隔点P1(離隔点P3)よりも糸走行方向下流側の糸道101(糸道102)が、離隔点P1(離隔点P3)を接点とする接線と同一であるものとしたが、これには限られない。例えば、糸接触面36(糸接触面56)が略平面状であり、糸接触面36(糸接触面56)から糸Yが離れる位置において、糸Yが後側に屈曲させられても良い。
【0091】
(2)一対の規制面38(一対の規制面58)の幅方向における間隔のうち、上述した間隔G2が最も狭いものとしたが、これには限られない。上記間隔は、例えば、油剤流動方向において離隔点P1(離隔点P3)が形成された位置よりも上流側或いは下流側において、最も狭くなっていても良い。
【0092】
(3)油剤付与ガイド11、40は、紡糸引取機1に設けられているものとしたが、これには限られない。油剤付与ガイド11、40は、紡糸引取機1とは別の、糸を上方から下方へ走行させる繊維機械に設けられても良い。
【符号の説明】
【0093】
1 紡糸引取機
2 紡糸装置
5 引取装置
11 油剤付与ガイド
12 給油装置
30 ガイド本体
31 流路
36 糸接触面
37 油剤排出面
38 規制面
40 油剤付与ガイド
50 ガイド本体
51 流路
56 糸接触面
57 油剤排出面
58 規制面
101 糸道
102 糸道
B ボビン
G2 間隔
P1 離隔点
P3 離隔点
Y 糸
θa 角度
θb 角度(第1角度)
θc 角度(第2角度)