(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】超音波流量計
(51)【国際特許分類】
G01F 1/66 20220101AFI20240419BHJP
G01F 1/667 20220101ALI20240419BHJP
【FI】
G01F1/66 B
G01F1/66 101
G01F1/667 A
(21)【出願番号】P 2020186556
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-06-20
(73)【特許権者】
【識別番号】500524419
【氏名又は名称】株式会社アイシーティー
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(72)【発明者】
【氏名】白石 勝
(72)【発明者】
【氏名】和田崎 桂司
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-115632(JP,A)
【文献】特開2005-292102(JP,A)
【文献】特開2020-169940(JP,A)
【文献】特開2020-118660(JP,A)
【文献】特開2018-77066(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0144930(US,A1)
【文献】米国特許第7201065(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0131242(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0260589(US,A1)
【文献】米国特許第6474165(US,B1)
【文献】米国特許第5460047(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/66-1/667
G01P 5/24-5/26
G01N 29/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管(P)の周囲壁(1)に設けられている孔部(11)から配管軸心(Lp )に直交する方向に差込まれる挿入細管(5)と、該挿入細管(5)の先端に設けられたヘッド部(3)とを、備えた超音波流量計に於て、
上記ヘッド部(3)は、上流側の第1超音波センサ(S
1 )と下流側の第2超音波センサ(S
2 )から成るセンサユニット(Sy )を複数具備し、
上記複数のセンサユニット(Sy )は、ヘッド軸心(L
3 )廻りに等分配角度(β)をもって、配設され、
上記ヘッド軸心(L
3 )を上記配管軸心(Lp )に略一致させるように上記挿入細管(5)とヘッド部(3)を配管(P)内へ差込んだ流量測定姿勢において、上記ヘッド部(3)の複数の上記センサユニット(Sy )から配管(P)の周囲壁内面(10)に対して、超音波(W
1 )(W
2 )を放射線状に発信し、上記周囲壁内面(10)から反射した各超音波(W
1 )(W
2 )を受信し、上記ヘッド部(3)から上記周囲壁内面(10)までの各周方向位置毎の半径方向距離を測定すると共に、
上記等分配角度(β)を中心角度(θ)とする略扇型の分割区域(Z)の各流路面積及び各流量を算出し、
各流量を合算して、配管全体の流量を求めるように構成したことを、特徴とする超音波流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
図10に示すように、配管55内の流量を算出する超音波流量計は、流体の流れ方向51に対して斜めに対面状に配設される一対の超音波センサ52,53を備え、上流側の第1超音波センサ52から発信された第1超音波V
1 が、流体の流れに乗って、下流側の第2超音波センサ53に受信されるまでの第1伝播(伝搬)時間を計測し、かつ、下流側の第2超音波センサ53から発信された第2超音波V
2 が、流体の流れに逆らって、上流側の第1超音波センサ52に受信されるまでの第2伝播(伝搬)時間を計測し、第1伝播時間と第2伝播時間の差分から流速を求め、該求めた流速に基づいて流量を算出するトランジットタイム計測式の超音波流量計が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、従来、トランジットタイム計測式の超音波流量計として、
図11に示す如く、流体が流れる配管55内に測定ユニット56を配管軸心に直交する方向から配管55内に挿入(差込み)して保持し、計測を行うものが知られている(特許文献2参照)。即ち、
図11に於て、S
1 が第1超音波センサ、S
2 が第2超音波センサであり、反射板58にて、第1・第2超音波センサS
1 ,S
2 からの超音波を反射して、その反射した超音波を、第2・第1超音波センサS
2 ,S
1 で受信し、流速を計測するものである。さらに、従来から、
図12に示すように、第1超音波センサS
1 と第2超音波センサS
2 を測定路(窓部)61の上端面61Aに設けると共に、下端面61Bを超音波の反射面とした測定ユニット57を、配管軸心Lp に直交する方向から深く配管55内に差込み、流速を計測する装置が公知であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭59-9518号公報
【文献】特開平11-201790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、
図10~
図12、及び、上記特許文献1,2に示された超音波流量計は、いずれも、配管内の流路全体の断面積のほんの僅かな一部位についてのみ平均流速を求め、その平均流速に流路の横断面積を乗じて、流量を算出していたため、(配管内を流れる)全体の流量を精度良く算出できなかった。
【0006】
しかも、上記流路横断面積自体が、配管内面への錆・スケール等の付着に伴って、経年変化している場合には、全体流量の算出値は、さらに不正確となるという問題があった。
また、配管記録(ドキュメント)が紛失する等によって、配管の内径寸法が不明である場合には、流量を算出できないという問題が発生する。
【0007】
そこで、本発明は、配管内面への錆・スケール等が付着して流路横断面積が変化していたり、上記ドキュメント紛失に伴って配管の内径寸法が不明───従って流路横断面積が不明───であっても、精度良く流量を算出できる超音波計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る超音波流量計は、配管の周囲壁に設けられている孔部から配管軸心に直交する方向に差込まれる挿入細管と、該挿入細管の先端に設けられたヘッド部とを、備えた超音波流量計に於て;上記ヘッド部は、上流側の第1超音波センサと下流側の第2超音波センサから成るセンサユニットを複数具備し;上記複数のセンサユニットは、ヘッド軸心廻りに等分配角度をもって、配設され;上記ヘッド軸心を上記配管軸心に略一致させるように上記挿入細管とヘッド部を配管内へ差込んだ流量測定姿勢において、上記ヘッド部の複数の上記センサユニットから配管の周囲壁内面に対して、超音波を放射線状に発信し、上記周囲壁内面から反射した各超音波を受信し、上記ヘッド部から上記周囲壁内面までの各周方向位置毎の半径方向距離を測定すると共に;上記等分配角度を中心角度とする略扇型の分割区域の各流路面積及び各流量を算出し;各流量を合算して、配管全体の流量を求めるように構成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高精度な流量計測が可能となる。特に、配管の内面に錆・スケールが付着して配管の内部断面積が減少したり、あるいは逆に、セメントライニング管等で内部断面積が増加していても、高精度に全体の流量を算出できる。さらには、ドキュメント紛失等で内径不明の配管(内径不明管)であっても、正確に流量測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施の一形態を示し、配管軸心方向から見た一部断面図である。
【
図9】本発明のトランジット式超音波計測方法についての基本原理を説明するグラフ図である。
【
図11】他の従来例を示す図であって、(A)は一部断面正面図、(B)は一部断面側面図である。
【
図12】別の従来例を示す図であって、(A)は一部断面正面図、(B)は作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
本発明に係る超音波流量計は、(温度計によって)水温を予め測定し、該当水温における水中音速を(水中音速データに基づいて)求める。その後、超音波の伝播(伝搬)時間を計測し、さらに計測した流速に基づいて流量を算出(演算)するトランジットタイム計測式(伝播時間差式)を活用しつつ、以下、説明するように、その測定精度等を著しく向上させた流量計である。
【0012】
図1~
図8に於て、配管Pの周囲壁1に予め形成された(消火栓や空気弁等の)孔部11から、配管軸心Lp に直交する方向に差込まれる挿入細管5と、この挿入細管5の先端に設けられたヘッド部3とを、備えている。この挿入細管5の基端(上端)には、ハンドル部材20と制御ボックス21とを有し、このボックス21内に(図外の)制御部との接続用コネクタ等が内設されている。
そして、ヘッド部3には、上流側の第1超音波センサS
1 と、下流側の第2超音波センサS
2 から成るセンサユニットSy を、複数、備えている。
【0013】
各センサユニットSy における第1超音波センサS
1 と第2超音波センサS
2 は、配管軸心Lp に平行な方向に沿って、上流側・下流側に、配設される。
しかも、複数のセンサユニットSy は、ヘッド軸心L
3 廻りに、等分配角度βをもって、配設されている(
図5,
図7参照)。
【0014】
ところで、配管P内に挿入されたヘッド部3の軸心L3 は、配管Pの軸心Lp に、略一致させる。従って、複数のセンサユニットSy は、配管軸心Lp 廻りに、等分配角度βをもって、配設されていると、言うこともできる。
【0015】
ところで、
図5~
図8に示す図例に於ては、軸心L
3 ,Lp の方向から見て、ヘッド部3は、正八角形の場合を示す。その正八角形の内で、一辺3Aは、挿入細管5の下端と、連結される構造であるため、センサユニットSy は配設できない。従って、本発明の説明に於て、センサユニットSy を、ヘッド軸心L
3 廻りに等分配角度βをもって、配設するとは、全ての等分配角度に配設する場合に限らず、全ての等分配角度の内の一つに配設しない場合をも、包含するものと定義する。
【0016】
そして、ヘッド軸心L3 を配管軸心Lp に略一致させるように、挿入細管5とヘッド部3を、配管P内へ差込んだ流量測定姿勢において、ヘッド部3の複数(図例では7個)のセンサユニットSy から、配管Pの周囲壁内面10に対して、第1超音波W1 と第2超音波W2 を、放射線状に発信し、周囲壁内面10から反射した各超音波W1 ,W2 を受信する。
【0017】
このようにして、ヘッド部3から周囲壁内面10までの(各周方向位置毎の)半径方向距離を測定すると共に、(前述した)等分配角度βを中心角度θとする略扇型───ショートケーキ型───の分割区域Zの各流路面積及び各流量を、算出可能となる。
但し、上記中心角度θは等分配角度βと相等しいが、β/2分だけ、ヘッド軸心L
3 廻りに回転させて、分割区域Zを、設定する(
図1と
図5参照)。
【0018】
ところで、
図5と
図7において既に述べたように、ヘッド部3と挿入細管5とが連結されているヘッド部3の一辺3Aには、センサユニットSy が全く省略されている。
故に、
図1に於て、中心角度θ
0 をもって示した一区域Z
0 では、半径方向距離及び流量を算出できない。
【0019】
そこで、以下のような演算方法によって、前記一区域Z
0 の流量を求めれば良い。
即ち、θ
0 =θとすれば、
図1では、8区域Z(Z
0 )に分割されているが、断面略扇型(ショートケーキ型)の中心角度θで示した7区域の流量は算出できたから、その平均流量をもって、中心角度θ
0 で示した一区域Z
0 の流量であると予測すれば、8区域全体の流量を求め得る。
又は、
図1に於て、中心角度θの一区域Z
0 に隣設した2区域Z,Zの流量の平均値をもって、一区域Z
0 の流量と予測すれば、8区域全体の流量を求めることができる。
【0020】
本発明は、
図1,
図5等に示したように、8等分に限らず、6等分や12等分等の場合もある。従って、N等分された場合では、測定できない前述の一区域Z
0 の流量は、(N-1)区域の合計流量に、(N/N-1)を掛けて算出すれば良い。あるいは、一区域Z
0 に隣設した2区域Z,Zの流量の平均値をもって、一区域Z
0 の流量を想定する方法も、活用できる。
【0021】
図6と
図7と
図8に示す実施形態に於て、8枚の帯板片7をもって横断面正八角形に組立てられている。
上辺の帯板片7Aを除いて7枚の帯板片7には、2個ずつの貫孔9,9を設け、この貫孔9,9は、
図8に示すように、第1・第2超音波W
1 ,W
2 がラジアル外方向にゆくに従って、相互に接近するように、僅かに傾斜させて、第1・第2超音波W
1 ,W
2 が嵌着される。
【0022】
また、
図6と
図8に示すように、低い8角錐状のカバー部材12,13が付設される。各カバー部材12,13の底面には、浅い(8角形の)凹所14が形成され、上記帯板片7,7Aが横断面8角形状に組合わせた状態で、凹所14に嵌着され、ボルト杆体15及びボルト16等にて、組立てられている。上述のような低角錐形状のカバー部材12,13を付設するヘッド部3は、流れを乱すことが少なく、従って、精度良く、流速及び流量を算出可能となる。
【0023】
図9は、横軸に時間を、縦軸に超音波の発信・受信の強さを示すグラフ図である。
(a1)は、第1超音波センサS
1 から発信された第1超音波W
1 が、t
1 時間後に、第2超音波センサS
2 にて第1超音波受信波W
1Rとして受信されたことを示す。他方、(a2)は、第2超音波センサS
2 から発信された第2超音波W
2 が、t
2 時間後に、第1超音波センサS
1 にて第2超音波受信波W
2Rとして受信されたことを示す。
Δt=t
2 -t
1 であって、配管P内の流れFの影響による。
【0024】
このΔtを求めることで、(
図1に示した)各分割区域Zの流速を算出できる。しかも、各分割区域Zの半径方向距離───半径───は、(t
1 +t
2 )/2に基づいて算出できる。
従って、各分割区域Zについて算出された、半径方向距離と、中心角度θに基づいて、扇型の断面形状を有する各区域Zの流量を演算できる。
【0025】
具体例として、
図1では、7つの分割区域Zの各々の流量を合計し、さらに、前述した方法によって、残りの区域Z
0 の流速・流量も、略正確に、演算可能であるため、7つの分割区域Zの合計流量と、残りの一つの区域Z
0 の算出流量とを、合計すれば、(360°にわたっての)配管Pの全体の流量を、高精度に求めることができる。
【0026】
従来例として示した
図10,
図11,
図12のいずれに於ても、配管55の全体の流路を横切る、僅かな(狭い)部位の流速を計測すると共に、この流速に基づいて、流路全面積の流量を演算する方法では、誤差が大きく、演算された流量の精度は低いものであったといえる。
さらに、配管55の内面は、錆・スケール等の付着等によって、経年変化(断面積の減少)を起こしている場合には、一層、演算される流量の精度は低いものであった。
【0027】
なお、上述の図示の実施形態では、流路の全体の断面を、8つの区域Z,Z0 に区分けした場合を示したが、これを3区域~12区域に区分けするも自由である。3区域未満では、流量計測精度が従来とほとんど変わらないこととなり、逆に、12区域を越せば、ヘッド部3の製作が急に困難となると共に流量計測精度はほとんど改善しない結果となってしまう。
【0028】
本発明は、以上詳述したように、配管Pの周囲壁1に設けられている孔部11から配管軸心Lp に直交する方向に差込まれる挿入細管5と、該挿入細管5の先端に設けられたヘッド部3とを、備えた超音波流量計に於て;上記ヘッド部3は、上流側の第1超音波センサS1 と下流側の第2超音波センサS2 から成るセンサユニットSy を複数具備し;上記複数のセンサユニットSy は、ヘッド軸心L3 廻りに等分配角度βをもって、配設され;上記ヘッド軸心L3 を上記配管軸心Lp に略一致させるように上記挿入細管5とヘッド部3を配管P内へ差込んだ流量測定姿勢において、上記ヘッド部3の複数の上記センサユニットSy から配管Pの周囲壁内面10に対して、超音波W1 ,W2 を放射線状に発信し、上記周囲壁内面10から反射した各超音波W1 ,W2 を受信し、上記ヘッド部3から上記周囲壁内面10までの各周方向位置毎の半径方向距離を測定すると共に;上記等分配角度βを中心角度θとする略扇型の分割区域Zの各流路面積及び各流量を算出し;各流量を合算して、配管全体の流量を求めるように構成したので、配管全体の流量を(従来よりも)著しく高い精度をもって、求めることができる。
さらに、配管内面への錆・スケール等の付着によって、流路横断面形状及び面積が変化(減少)している場合であても、あるいは、ドキュメント紛失に伴って配管に内径寸法(断面積)が全く不明である場合であっても、各周方向位置毎の半径を測定する本発明では、高い精度をもって、配管全体の流量を、算出できる。
【符号の説明】
【0029】
1 周囲壁
3 ヘッド部
5 挿入細管
10 周囲壁内面
11 孔部
L3 ヘッド軸心
Lp 配管軸心
P 配管
S1 第1超音波センサ
S2 第2超音波センサ
Sy センサユニット
W1 超音波
W2 超音波
Z 分割区域
β 等分配角度
θ 中心角度