(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】光応答性ヌクレオチドアナログの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 491/052 20060101AFI20240419BHJP
C07H 19/24 20060101ALI20240419BHJP
C07H 21/04 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C07D491/052 CSP
C07H19/24
C07H21/04 A ZNA
(21)【出願番号】P 2020569625
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002851
(87)【国際公開番号】W WO2020158687
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019014890
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】藤本 健造
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107163169(CN,A)
【文献】国際公開第2016/159211(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/022158(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021945(WO,A1)
【文献】FRANCISCO, Carla S.,Synthesis of novel psoralen analogues and their in vitro antitumor activity,BIOORGANIC & MEDICINAL CHEMISTRY,2013年,21,5047-5053
【文献】GIA, O.,Pyrrolocoumarin derivatives: DNA-binding properties,JOURNAL OF PHOTOCHEMISTRY AND PHOTOBIOLOGY, B: BIOLOGY,1988年,2,435-442
【文献】FUJIMOTO, Kenzo,DNA Photo-cross-linking Using Pyranocarbazole and Visible Light,ORGANIC LETTERS,2018年,20,2802-2805
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H、C07K、C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式Iの化合物からなる、光反応性架橋剤:
[化8]
(ただし、式Iにおいて、
Rは、メチル基であり、
Xは、酸素原子であり、
R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、-OH基、アミノ基、ニトロ基、メチル基、フッ化メチル基、エチル基、フッ化エチル基、及びC1~C3のアルキルスルファニル基からなる群から選択された基であり、
Y基が、以下の(i)~(iii)に示される原子及び基からなる群から選択された基である:
(i)次の式Yaで表される基:
[化9]
(ただし、式Yaにおいて、
R11は、水素原子又は水酸基であり、
R12は、水酸基、又は-O-Q
1
基であり、
R13は、水酸基、又は-O-Q
2
基であり、
Q
1
は、
Q
1
に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
1
に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
トリチル基、モノメトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、トリメトキシトリチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、アセチル基、ベンゾイル基;
からなる群から選択される基であり、
Q
2
は、
Q
2
に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
2
に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
2-シアノエチル-N,N-ジアルキル(C1~C4)ホスホロアミダイト基、メチルホスホンアミダイト基、エチルホスホンアミダイト基、オキサザホスホリジン基、チオホスファイト基、-PH(=O)OHのTEA塩、-PH(=O)OHのDBU塩、-PH(=S)OHのTEA塩、-PH(=S)OHのDBU塩;
からなる群から選択される基である);
(ii)次の式Ybで表される基:
[化10]
(ただし、式Ybにおいて、
R21は、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、
Q
1
は、式YaのQ
1
として記載された基であり、
Q
2
は、式YaのQ
2
として記載された基である); 及び
(iii)次の式Ycで表される基:
[化11]
(ただし、式Ycにおいて、
R31は、アミノ基の保護基、水素原子、又は、R31に結合するNHと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
R32は、水酸基、又は、R32に結合するCOと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
Lは、C1~C3のアルカンジイル基、又は単結合である)。
【請求項2】
式IにおけるY基が、以下の条件を満たす式Yaで表される基である、
請求項1に記載の光反応性架橋剤:
式Yaで表される基において、
R11は、水素原子又は水酸基であり、
R12は、水酸基、又は-O-Q
1基であり、
R13は、水酸基、又は-O-Q
2基であり、
Q
1は、
Q
1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、又は核酸であり、
Q
2は、
Q
2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、又は核酸であり、
ただし、R12とR13が同時に水酸基である場合を除く。
【請求項3】
請求項1~2のいずれかに記載の光反応性架橋剤を使用して、ピリミジン環を有する核酸塩基との間に光架橋を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光域の光による光架橋(光クロスリンク)能を有する光応答性ヌクレオチドアナログ(光応答性ヌクレオチド類似化合物)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学の分野の基本的な技術に、核酸の連結及び核酸の架橋がある。核酸の連結や架橋は、例えば、ハイブリダイゼーションと組みあわせて、遺伝子の導入や、塩基配列の検出のために使用され、あるいは、例えば、遺伝子発現の阻害に使用される。そのために、核酸の連結及び架橋の技術は、分子生物学の基礎研究だけではなく、例えば、医療分野における診断や治療、あるいは治療薬や診断薬等の開発や製造、工業及び農業分野における酵素や微生物等の開発や製造に使用される極めて重要な技術である。
【0003】
核酸の光反応技術として、5-シアノビニルデオキシウリジンを使用した光連結技術(特許文献1:特許第3753938号、特許文献2:特許第3753942号)、3-ビニルカルバゾール構造を塩基部位に持つ修飾ヌクレオシドを使用した光架橋技術(特許文献3:特許第4814904号、特許文献4:特許第4940311号)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許第3753938号
【文献】日本国特許第3753942号
【文献】日本国特許第4814904号
【文献】日本国特許第4940311号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
核酸の光反応技術の重要性から、核酸の光反応技術に使用可能な新しい化合物が、さらに求められている。本発明の目的は、核酸の光反応技術に使用可能な新しい光反応性化合物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、核酸の光反応技術に使用可能な光反応性架橋剤となる光反応性化合物を鋭意探索してきたところ、核酸塩基の塩基部分に代えてピラノカルバゾール骨格構造を備えた化合物が、このような核酸の光反応技術に使用可能な光反応性架橋剤となることを見いだした。
【0007】
この化合物は、特徴的なピラノカルバゾール構造を有しており、比較的に小さなこの構造によって光架橋性を発揮しているために、様々に修飾して多様な用途で使用することができる。さらに、この化合物のこの特徴的な構造は、核酸の塩基に類似した構造を有しているために、人工塩基(人工核酸塩基)として使用することができる。すなわち、この化合物の特徴的な構造を人工塩基として導入して、人工ヌクレオシド(ヌクレオシドアナログ)、及び人工ヌクレオチド(ヌクレオチドアナログ)を製造することができ、このような人工ヌクレオチドを配列中に含んだ人工核酸(修飾核酸)を製造することができる。このような人工核酸が、光反応によって架橋を形成すると、それは、二重らせんの一方の鎖からもう一方の鎖へと形成された光架橋(光クロスリンク)となるので、光反応性の核酸類は、所望の配列に特異的に反応可能な二重らせんの光クロスリンク剤として使用することができる。
【0008】
この化合物を使用した光反応性架橋剤は、特徴的なピラノカルバゾール構造に由来して、従来よりも長波長の光照射によって、例えば可視光域の光照射によって、光架橋反応させることができるという特徴を備える。そのために、DNAや細胞の損傷をできるだけ回避したいという場合に、この化合物による光反応性架橋剤は、長波長の光照射によって光架橋可能であるので、特に有利である。
【0009】
なお、この光反応性化合物は、光照射によって光反応を開始するものであるが、それまで安定していた化合物が、光照射というシグナルに応答して反応を開始するという意味を強調して、光反応性を光応答性ということがある。
【0010】
本発明者は、このピラノカルバゾール骨格構造を備えた化合物について、さらに研究を進めたところ、ピラノカルバゾール骨格構造の特定の位置に置換基を付したところ、優れた光反応性を維持した化合物であると同時に、後述する方法によって極めて効率よく合成できる化合物となることを見いだして、本発明に到達した。そして、この製造方法によれば、ピラノカルバゾール骨格構造を備えた光反応性化合物を、短時間で、高い収率で、合成することができる。
【0011】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
次の式Iの化合物:
【化1】
(ただし、式Iにおいて、
Rは、C1~C3のアルキル基、C1~C3のハロゲン化アルキル基、置換又は無置換のフェニル基、又は、置換又は無置換のシクロヘキシル基であり、
Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、
R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、-OH基、アミノ基、ニトロ基、メチル基、フッ化メチル基、エチル基、フッ化エチル基、及びC1~C3のアルキルスルファニル基からなる群から選択された基であり、
Yは、水素原子、糖(糖は、リボース、及びデオキシリボースを含む)、多糖類(多糖類は、核酸のポリリボース鎖、及びポリデオキシリボース鎖を含む)、ポリエーテル、ポリオール、アルカノールアミン、アミノ酸、ポリペプチド鎖(ポリペプチド鎖は、ペプチド核酸のポリペプチド鎖を含む)、又は水溶性合成高分子である)
を製造する方法であって、
次の式IIの化合物:
【化2】
(ただし、式Iにおいて、R1及びR2は、それぞれ独立して、式IのR1及びR2として記載された基である)
へ、次の式IIIの化合物:
【化3】
(ただし、式IIIにおいて、Rは、式IのRとして記載された基である)
を、有機溶媒と酸触媒の存在下でペヒマン縮合反応させて、次の式IVの化合物:
【化4】
(ただし、式IVにおいて、
Rは、式IのRとして記載された基であり、
R1及びR2は、それぞれ独立して、式IのR1及びR2として記載された基である)
を得る工程、を含む製造方法。
(2)
式IにおけるY基が、以下の(i)~(iv)に示される原子及び基からなる群から選択された基である、(1)に記載の製造方法:
(i)水素原子;
(ii)次の式Yaで表される基:
【化5】
(ただし、式Ybにおいて、
R11は、水素原子又は水酸基であり、
R12は、水酸基、又は-O-Q
1基であり、
R13は、水酸基、又は-O-Q
2基であり、
Q
1は、
Q
1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
トリチル基、モノメトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、トリメトキシトリチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、アセチル基、ベンゾイル基;
からなる群から選択される基であり、
Q
2は、
Q
2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
2-シアノエチル-N,N-ジアルキル(C1~C4)ホスホロアミダイト基、メチルホスホンアミダイト基、エチルホスホンアミダイト基、オキサザホスホリジン基、チオホスファイト基、-PH(=O)OHのTEA塩、-PH(=O)OHのDBU塩、-PH(=S)OHのTEA塩、-PH(=S)OHのDBU塩;
からなる群から選択される基である);
(iii)次の式Ybで表される基:
【化6】
(ただし、式Ybにおいて、
R21は、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、
Q
1は、式YaのQ
1として記載された基であり、
Q
2は、式YaのQ
2として記載された基である); 及び
(iv)次の式Ycで表される基:
【化7】
(ただし、式Ycにおいて、
R31は、アミノ基の保護基、水素原子、又は、R31に結合するNHと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
R32は、水酸基、又は、R32に結合するCOと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
Lは、リンカー部、又は単結合である)。
(3)
次の式Iの化合物:
【化8】
(ただし、式Iにおいて、
Rは、C1~C3のアルキル基、C1~C3のハロゲン化アルキル基、置換又は無置換のフェニル基、又は、置換又は無置換のシクロヘキシル基であり、
Xは、酸素原子又は硫黄原子であり、
R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、-OH基、アミノ基、ニトロ基、メチル基、フッ化メチル基、エチル基、フッ化エチル基、及びC1~C3のアルキルスルファニル基からなる群から選択された基であり、
Yは、水素原子、糖(糖は、リボース、及びデオキシリボースを含む)、多糖類(多糖類は、核酸のポリリボース鎖、及びポリデオキシリボース鎖を含む)、ポリエーテル、ポリオール、アルカノールアミン、アミノ酸、ポリペプチド鎖(ポリペプチド鎖は、ペプチド核酸のポリペプチド鎖を含む)、又は水溶性合成高分子である)。
(4)
式IにおけるY基が、以下の(i)~(iv)に示される原子及び基からなる群から選択された基である、(3)に記載の化合物:
(i)水素原子;
(ii)次の式Yaで表される基:
【化9】
(ただし、式Ybにおいて、
R11は、水素原子又は水酸基であり、
R12は、水酸基、又は-O-Q
1基であり、
R13は、水酸基、又は-O-Q
2基であり、
Q
1は、
Q
1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
トリチル基、モノメトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、トリメトキシトリチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、アセチル基、ベンゾイル基;
からなる群から選択される基であり、
Q
2は、
Q
2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q
2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
2-シアノエチル-N,N-ジアルキル(C1~C4)ホスホロアミダイト基、メチルホスホンアミダイト基、エチルホスホンアミダイト基、オキサザホスホリジン基、チオホスファイト基、-PH(=O)OHのTEA塩、-PH(=O)OHのDBU塩、-PH(=S)OHのTEA塩、-PH(=S)OHのDBU塩;
からなる群から選択される基である);
(iii)次の式Ybで表される基:
【化10】
(ただし、式Ybにおいて、
R21は、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、
Q
1は、式YaのQ
1として記載された基であり、
Q
2は、式YaのQ
2として記載された基である); 及び
(iv)次の式Ycで表される基:
【化11】
(ただし、式Ycにおいて、
R31は、アミノ基の保護基、水素原子、又は、R31に結合するNHと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
R32は、水酸基、又は、R32に結合するCOと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
Lは、リンカー部、又は単結合である)
(5)
(3)~(4)のいずれかに記載の化合物からなる、光反応性架橋剤。
(6)
(3)~(4)のいずれかに記載の化合物を使用して、ピリミジン環を有する核酸塩基との間に光架橋を形成する方法。
(7)
上記の式IIの化合物へ、上記の式IIIの化合物を、有機溶媒と酸触媒の存在下でペヒマン縮合反応させて、上記の式IVの化合物を得る工程、を含む方法によって、上記の式Iの化合物を製造し、
当該式Iの化合物を使用して、ピリミジン環を有する核酸塩基との間に光架橋を形成する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、核酸の光反応技術に使用可能な新しい光反応性化合物を、短時間で収率良く合成して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1はヌクレオシドアナログ(
MEPK)の合成のスキーム(スキーム1)である。
【
図2】
図2に
MEPKを含むオリゴ核酸のMSスペクトルである。
【
図3A】
図3Aは光照射0secにおける架橋サンプルのクロマトグラムである。
【
図3B】
図3Bは、光照射60secにおける架橋サンプルのクロマトグラムである。
【
図5】
図5はヌクレオシドアナログ(
MEPD)の合成のスキーム(スキーム2)である。
【
図6】
図6はヌクレオシドアナログ(
MEPA)の合成のスキーム(スキーム3)である。
【
図7】
図7はヌクレオシドアナログ(
PCX)の合成のスキーム(スキーム4)である。
【
図8A】
図8Aはヌクレオシドアナログ(
PCX)合成の手順の概略の説明図である。
【
図9】
図9はヌクレオシドアナログ(
PCX)の合成の手順の概略の説明図である。
【
図10】
図10は
MEPK、
MEPD、
MEPAの合成を対比する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施他の形態に限定されるものではない。
【0015】
[光反応性化合物の製造方法]
本発明に係る光反応性化合物の製造は、
【0016】
【0017】
を製造する方法であって、
次の式IIの化合物:
【0018】
【0019】
へ、次の式IIIの化合物:
【0020】
【0021】
を、有機溶媒と酸触媒の存在下でペヒマン縮合反応させて、次の式IVの化合物:
【0022】
【0023】
を得る工程、を含む製造方法にある。
【0024】
[式IにおけるR]
好適な実施の態様において、式IにおけるRは、C1~C3のアルキル基、C1~C3のハロゲン化アルキル基、置換又は無置換のフェニル基、又は、置換又は無置換のシクロヘキシル基とすることができる。
【0025】
好適な実施の態様において、アルキル基は、例えばC1~C3のアルキル基、好ましくはC1~C2のアルキル基とすることができ、例えばメチル基、エチル基をあげることができる。好適な実施の態様において、ハロゲン化アルキル基は、例えばC1~C3のハロゲン化アルキル基、好ましくはC1~C2のハロゲン化アルキル基とすることができる。ハロゲンとしては、例えばBr、Cl、F、Iをあげることができる。ハロゲン化は、アルキル基の水素原子がハロゲン原子で置換されており、置換の個数は、1個又はそれ以上とすることができ、例えば1個、2個、3個とすることができる。好適な実施の態様において、フェニル基は、置換又は無置換とすることができ、例えばフェニル基の水素原子を、C1~C2のアルキル基又はハロゲン原子で置換することができ、置換の個数は、1個又はそれ以上とすることができ、例えば1個、2個、3個とすることができる。好適な実施の態様において、シクロヘキシル基は、置換又は無置換とすることができ、例えばシクロヘキシル基の水素原子を、C1~C2のアルキル基又はハロゲン原子で置換することができ、置換の個数は、1個又はそれ以上とすることができ、例えば1個、2個、3個とすることができる。
【0026】
[式IにおけるX]
好適な実施の態様において、式IにおけるXは、酸素原子又は硫黄原子とすることができ、好ましくは酸素原子とすることができる。
【0027】
[式IにおけるR1及びR2]
好適な実施の態様において、式IにおけるR1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、-OH基、アミノ基、ニトロ基、メチル基、フッ化メチル基、エチル基、フッ化エチル基、及びC1~C3のアルキルスルファニル基からなる群から選択された基とすることができる。
【0028】
好適な実施の態様において、ハロゲン原子としては、例えばBr、Cl、F、Iの原子をあげることができる。フッ化メチル基としては、例えば-CH2F、-CHF2、-CF3をあげることができる。フッ化エチル基としては、例えば-CH2-CH2F、-CH2-CHF2、-CH2-CF3、-CHF-CH3、-CHF-CH2F、-CHF-CHF2、-CHF-CF3、-CF2-CH3、-CF2-CH2F、-CF2-CHF2、-CF2-CF3をあげることができる。C1~C3のアルキルスルファニル基としては、例えば-CH2-SH基、-CH2-CH2-SH基、-CH(SH)-CH3基、-CH2-CH2-CH2-SH基、-CH2-CH(SH)-CH3基、-CH(SH)-CH2-CH3基をあげることができる。好適な実施の態様において、R1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、-NH2基、-OH基、-CH3基とすることができ、好ましくは、水素原子とすることができる。
【0029】
好適な実施の態様において、R1を上述の基とすると同時にR2を水素原子とすることができる。
【0030】
好適な実施の態様において、R1及びR2は、それぞれ独立に、式Iの左端の六員環において、窒素原子の結合する炭素原子をC1位と付番して、六員環の炭素原子を時計回りに順にC2位、C3位、C4位、C5位、C6位と付番した場合に、C2位、C3位、C4位、C5位のいずれかの位置の炭素原子の置換基とすることができる。好適な実施の態様において、R1及びR2は、それぞれC3位及びC4位の置換基とすることができる。好適な実施の態様において、R1をC3位の置換基とすると同時に、R2をC4位の水素原子とすることができる。
【0031】
[式I’の化合物]
好適な実施の態様において、式Iの化合物は、次の式I’で表される化合物とすることができる:
【化16】
【0032】
ただし、式I’において、R、R1、X、及びYは、式Iにおいて述べた基を表す。
【0033】
[式IにおけるY]
Yは、水素原子、糖(糖は、リボース、及びデオキシリボースを含む)、多糖類(多糖類は、核酸のポリリボース鎖、及びポリデオキシリボース鎖を含む)、ポリエーテル、ポリオール、アルカノールアミン、アミノ酸、ポリペプチド鎖(ポリペプチド鎖は、ペプチド核酸のポリペプチド鎖を含む)、又は水溶性合成高分子である。
【0034】
好適な実施の態様において、Yは、水素原子とすることができ、この場合に式Iの化合物は、上記の式IVで表される化合物である。
【0035】
[式Yaで表される基]
好適な実施の態様において、Yは、次の式Yaで表される基とすることができ、この場合に式Iの化合物は、次の式Vで表される化合物となる。
【0036】
【0037】
【0038】
[式Vの置換基]
式Vにおいて、R、R1、R2、Xは、式Iにおいて述べた基を表し、R11、R12、R13は、式Yaについて述べた基を表す。
【0039】
[式YaのR11、R12、R13]
式Yaにおいて、R11は、水素原子又は水酸基であり、R12は、水酸基、又は-O-Q1基であり、R13は、水酸基、又は-O-Q2基である。
【0040】
上記Q1は、
Q1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
トリチル基、モノメトキシトリチル基、ジメトキシトリチル基、トリメトキシトリチル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、アセチル基、ベンゾイル基;
からなる群から選択される基とすることができる。
【0041】
上記Q2は、
Q2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基;
Q2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド、核酸又はペプチド核酸; 及び
以下から選択される保護基:
2-シアノエチル-N,N-ジアルキル(C1~C4)ホスホロアミダイト基、メチルホスホンアミダイト基、エチルホスホンアミダイト基、オキサザホスホリジン基、チオホスファイト基、-PH(=O)OHのTEA塩、-PH(=O)OHのDBU塩、-PH(=S)OHのTEA塩、-PH(=S)OHのDBU塩;
からなる群から選択される基とすることができる。
【0042】
2-シアノエチル-N,N-ジアルキル(C1~C4)ホスホロアミダイト基は、次の構造を有しており、
上記ジアルキル基となるR基とR’基は、それぞれC1~C4のアルキル基とすることができる。このような2-シアノエチル-N,N-ジアルキル(C1~C4)ホスホロアミダイト基として、例えば、2-シアノエチル-N,N-ジメチルホスホロアミダイト基、2-シアノエチル-N,N-ジエチルホスホロアミダイト基、2-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト基をあげることができる。
【0043】
メチルホスホンアミダイト基は、次の構造を有しており、
上記R基とR’基は、それぞれ水素原子又はC1~C4のアルキル基とすることができる。
【0044】
エチルホスホンアミダイト基は、次の構造を有しており、
上記R基とR’基は、それぞれ水素原子又はC1~C4のアルキル基とすることができる。
【0045】
オキサザホスホリジン基は、次の構造を有しており、
【化19】
上記の構造において、水素原子がC1~C4のアルキル基によって置換された置換体も含む。
【0046】
チオホスファイト基は、次の構造を有しており、
【化20】
上記の構造において、水素原子がC1~C4のアルキル基によって置換された置換体も含む。
【0047】
-PH(=O)OHのTEA塩、-PH(=S)OHのTEA塩は、それぞれのトリエチルアミン(TEA)の塩である。
【0048】
-PH(=O)OHのDBU塩、-PH(=S)OHのDBU塩は、それぞれのジアザビシクロウンデセン(DBU)の塩である。
【0049】
好適な実施の態様において、Q1は、Q1に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド又は核酸とすることができる。
【0050】
好適な実施の態様において、Q1は、上述の保護基とすることができ、好ましくは、ジメトキシトリチル基、トリチル基、モノメトキシトリチル基、トリメトキシトリチル基とすることができ、特に好ましくはジメトキシトリチル基とすることができる。
【0051】
好適な実施の態様において、Q2は、Q2に結合するOと一体となって形成されるリン酸基によって形成されるリン酸ジエステル結合を介して連結されるヌクレオチド又は核酸とすることができる。
【0052】
好適な実施の態様において、Q2は、上述の保護基とすることができ、好ましくは、2-シアノエチル-N,N-ジアルキル(C1~C4)ホスホロアミダイト基、オキサザホスホリジン基、チオホスファイト基とすることができ、特に好ましくは2-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロアミダイト基とすることができる。
【0053】
好適な実施の態様において、式Yaにおいて、R11を水素原子、R12を水酸基、R13を水酸基とすることができる。すなわち、Yは、デオキシリボースとすることができる。
【0054】
好適な実施の態様において、式Yaにおいて、R11を水酸基、R12を水酸基、R13を水酸基とすることができる。すなわち、Yは、リボースとすることができる。
【0055】
[式Ybで表される基]
好適な実施の態様において、Yは、次の式Ybで表される基とすることができ、この場合に式Iの化合物は、次の式VIで表される化合物となる。
【0056】
【0057】
【0058】
[式VIの置換基]
式VIにおいて、R、R1、R2、Xは、式Iにおいて述べた基を表し、R21、Q1、Q2は、式Ybについて述べた基を表す。
【0059】
[式YbのR21、Q1、Q2]
式Ybにおいて、R21は、水素原子、メチル基、又はエチル基を表し、Q1は、式YaのQ1として記載された基とすることができ、Q2は、式YaのQ2として記載された基とすることができる。
【0060】
好適な実施の態様において、式Ybに含まれる次の式Yb1:
【0061】
【0062】
で表される骨格構造を、次の式:
【0063】
【0064】
で表されるD-トレオニノール構造;
次の式:
【0065】
【0066】
で表されるL-トレオニノール構造; 又は、
次の式:
【0067】
【0068】
で表されるセリノール構造とすることができる。
【0069】
[式Ycで表される基]
好適な実施の態様において、Yは、次の式Ycで表される基とすることができ、この場合に式Iの化合物は、次の式VIIで表される化合物となる。
【0070】
【0071】
【0072】
[式VIIの置換基]
式VIIにおいて、R、R1、R2、Xは、式Iにおいて述べた基を表し、R31、R32、Lは、式Ycについて述べた基を表す。
【0073】
[式YcのR31、R32、L]
式Ycにおいて、R31は、アミノ基の保護基、水素原子、又は、R31に結合するNHと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
R32は、水酸基、又は、R32に結合するCOと一体となって形成されたペプチド結合によって結合されたポリペプチドを表し、
Lは、リンカー部、又は単結合である。
【0074】
好適な実施の態様において、Lのリンカー部として、アルカンジイル基を使用することができる。アルカンジイル基としては、例えばC1~C3、好ましくはC1~C2のものを使用でき、特に好ましくはメチレン基、エチレン基とすることができる。
【0075】
好適な実施に態様において、Lは、メチレン基、エチレン基又は単結合とすることができる。Lが単結合である場合とは、Lと結合するNとCとが単結合で結合している状態を言う。
【0076】
アミノ基の保護基としては、アミノ基の保護基として公知の保護基をあげることができる。好適な実施の態様において、アミノ基の保護基として、フルオレニルメトキシカルボニル基(Fmoc)、tert-ブトキシカルボニル基(Boc)、ベンジルオキシカルボニル基(Cbz)、及びアリルオキシカルボニル基(Alloc)からなる群から選択された保護基を使用することができる。
【0077】
好適な実施の態様において、式Ycにおいて、R31を水素原子、R32を水酸基、Lを単結合とすることができる。すなわち、Yをアミノ酸とすることができる。
【0078】
[光反応性ヌクレオシドアナログ]
上記式Iで表される化合物は、YがYaであってリボース又はデオキシリボースである場合に、塩基部分が光反応性人工塩基で置換された、光反応性ヌクレオチドアナログ(光架橋性修飾ヌクレオシド)となっており、これを天然のヌクレオシドにおいて使用される公知の手段で核酸へ組み込んで、光架橋性の修飾核酸を調製することができる。
【0079】
上記式Iで表される化合物は、YがYbである場合に、天然のヌクレオシドであればリボース(又はデオキシリボース)構造の糖骨格である部分が、上記式Ybで表される骨格構造で代替されたものとなっている。そこでこの化合物についても、塩基部分が光反応性人工塩基で置換された、光反応性ヌクレオチドアナログ(光架橋性修飾ヌクレオシド)ということができる。驚くべきことに、この光反応性ヌクレオチドアナログは、このような骨格構造の相違にも関わらず、核酸への組み込みと光反応性に関しては、YがYaであってリボース又はデオキシリボースである光反応性ヌクレオチドアナログと同様に扱うことできるものとなっており、これを天然のヌクレオシドにおいて使用される公知の手段で核酸へ組み込んで、光架橋性の修飾核酸を調製することができる。
【0080】
[光反応性人工アミノ酸]
上記式Iで表される化合物は、YがYcであってアミノ酸である場合に、光反応性の人工塩基構造を備えた、光反応性人工アミノ酸ということができる。そしてこの光反応性人工アミノ酸は、アミノ酸であるから、天然のアミノ酸において使用される公知の手段でポリペプチド鎖へ組み込んで、光反応性人工ポリペプチド(光架橋性の修飾ポリペプチド)を調製することができる。
【0081】
[式IIの化合物]
式IIにおいて、R1、R2は、式Iにおいて述べたR1、R2とすることができる。
【0082】
[式II’の化合物]
好適な実施の態様において、式IIの化合物は、次の式II’で表される化合物とすることができる:
【0083】
【0084】
[式IIIの化合物]
式IIIにおいて、Rは、式Iにおいて述べたRとすることができる。ただし、ペヒマン縮合反応の進行の観点から、Rは水素原子であってはならない。
【0085】
[ペヒマン縮合反応]
本発明の製造方法において、式IIの化合物へ、式IIIの化合物を、ペヒマン縮合反応させて、式IVの化合物が合成される。ペヒマン縮合反応によって、環が形成されて、3環構造から4環構造となっている。好適な実施の態様において、ペヒマン縮合反応は、有機溶媒と酸触媒の存在下で、加熱して行われる。有機溶媒としては、好ましくはC1~C3のアルコール、さらに好ましくはエタノールが使用できる。酸触媒としては、好ましくは硫酸触媒が使用される。加熱の温度としては、例えば70℃以上、好ましくは80℃以上、さらに好ましくは85℃以上の温度へと加熱される。
【0086】
本発明の製造方法においては、式IIの化合物へ、式IIIの化合物を、ペヒマン縮合反応させることによって、式IVの化合物を、極めて高い収率で、極めて短時間で合成することができ、これによって式Iの化合物を飛躍的に効率よく合成することができるものとなっている。
【0087】
[式IVの化合物]
式IVにおいて、R、R1、R2は、式Iにおいて述べたR、R1、R2とすることができる。
【0088】
式IVの化合物は、式IにおけるYが水素原子となっている。このYの位置の水素原子を、公知の手段によって置換して、式IにおけるYとして述べられた基とすることができる。すなわち、ペヒマン縮合反応させる工程の後に、式IVの化合物のNH基のHを、Yへ置換して、式Iの化合物を調製する工程、を行うことができる。ただし、式IのYが水素原子である場合には、このような置換の工程は当然に必要がない。
【0089】
本発明において、式Iの化合物を飛躍的に効率よく合成することができる原因として、この式IVの化合物が極めて収率良く合成されて、副生成物が少ない結果、その後の副反応が極めて低減されることによって、式Iの化合物に至る全体の反応が、効率のよいものになっているのではないかと本発明者は考えている。
【0090】
[式IV’の化合物]
好適な実施の態様において、式IVの化合物は、次の式IV’で表される化合物とすることができる。ペヒマン縮合において式II’の化合物が使用された場合には、この式IV’で表される化合物が得られる:
【0091】
【0092】
[光反応性修飾核酸]
好適な実施の態様において、式Iの化合物は、これを光反応性ヌクレオシドアナログとすることができ、これをリン酸ジエステル結合を介して核酸中に導入して、光反応性修飾核酸とすることができる。
【0093】
[修飾核酸製造用試薬]
好適な実施の態様において、式Iの化合物は、リン酸ジエステル結合を介して核酸中に導入して光反応性修飾核酸を製造するために使用できる。すなわち、式Iの化合物は、修飾核酸製造用試薬とすることができる。修飾核酸製造用試薬とするためには、公知の核酸合成手段によって使用可能な試薬の形態とすればよく、例えばホスホロアミダイト法、及びH-ホスホネート法によって使用可能な修飾核酸合成用試薬(修飾核酸合成用モノマー)とすることができる。
【0094】
[光反応性架橋剤]
好適な実施の態様において、式Iの化合物は、メチルピラノカルバゾール部分が光反応によって架橋を形成することができる。式Iの化合物を、1本鎖の修飾核酸として形成すると、これと相補的な1本鎖の核酸と二重らせんを形成することができ、メチルピラノカルバゾール部分が光反応によって架橋を形成することができ、結果として、二重らせんの一方の鎖からもう一方の鎖へと形成された鎖間の光架橋(光クロスリンク)を形成することができる。すなわち、式Iの化合物は、光反応性架橋剤として使用することができる。
【0095】
[光架橋の形成]
好適な実施の態様において、光反応性修飾核酸は、これを1本鎖核酸として使用すると、これと相補的な1本鎖核酸とハイブリダイズして二重らせんを形成することができる。二重らせんの形成にあたって、メチルピラノカルバゾール構造部分に対して、相補鎖中において塩基対を形成すべき位置にある核酸塩基については、特段の制約がなく、自由に選択できる。形成された二重らせんに光照射を行うと、二重らせんを形成する核酸鎖の間に、光反応によって架橋を形成することができる。この光架橋は、配列中でメチルピラノカルバゾール構造部分が核酸塩基として位置する位置から配列中で1塩基分だけ5’末端側に位置する核酸塩基に対して、相補鎖中において塩基対を形成する位置にある核酸塩基と、メチルピラノカルバゾール構造との間に形成される。言い換えれば、この光架橋は、メチルピラノカルバゾール構造部分に対して、相補鎖中において塩基対を形成すべき位置にある核酸塩基から、配列中で1塩基分だけ3’末端側に位置する核酸塩基と、メチルピラノカルバゾール構造との間に形成される。
【0096】
[光架橋の塩基特異性]
好適な実施の態様において、メチルピラノカルバゾール構造が光架橋を形成可能である相手方の塩基は、ピリミジン環を有する塩基である。一方で、メチルピラノカルバゾール構造は、プリン環を有する塩基とは光架橋を形成しない。すなわち、本発明に係る光架橋性の化合物は、天然の核酸塩基としては、シトシン、ウラシル、及びチミンに対して光架橋を形成し、一方で、グアニン及びアデニンに対しては光架橋を形成しないという、特異性を有している。
【0097】
[光反応性架橋剤の配列選択性]
好適な実施の態様において、光反応性修飾核酸(光架橋性修飾核酸)は、修飾核酸と相補的な塩基配列を有する配列とハイブリダイズさせて二重らせんを形成させた後に、光架橋させることができる。これによって、目的とする特定の配列に対してのみ光クロスリンク反応(光架橋反応)を行わせることができる。すなわち、本発明に係る光反応性架橋剤は、非常に高い塩基配列選択性を、所望に応じて配列設計して、付与することができる。
【0098】
[光照射の波長]
光架橋のために照射される光の波長は、例えば350~600nmの範囲、好ましくは400~600nmの範囲、さらに好ましくは400~550nmの範囲、さらに好ましくは400~500nmの範囲、さらに好ましくは400~450nmの範囲とすることができ、特に400nmの波長を含む光が好ましい。好適な実施の態様において、これらの範囲の波長にある単波長のレーザー光を使用することができる。このように本発明では、可視光域の波長の光照射によって、光架橋を形成することができる。従来の光反応性架橋剤では、これらの範囲よりも短波長の光照射を必要としていた。本発明によれば、従来の光反応性架橋剤よりも長波長の光照射によって光架橋を形成できることから、光照射による核酸や細胞への悪影響を最小限とすることができる点で、有利である。
【0099】
[光反応の時間]
本発明による光架橋は、極めて迅速に進行する。例えば、光反応性の化合物として知られるソラレンであれば数時間を要する(350nm光照射)ような場合に、それよりもはるかに長波長の光照射によって、例えばわずか10秒間~60秒間(400nm光照射)で光反応が進行して光架橋する。すなわち、本発明に係る光架橋剤を使用すれば、例えば1~120秒間、又は1~60秒間の光照射によって、光反応を進行させて光架橋を形成させることができる。
【0100】
[光反応の温度]
好適な実施の態様において、光架橋反応を進行させるためには、一般に0~50℃、好ましくは0~40℃、さらに好ましくは0~30℃、さらに好ましくは0~20℃、さらに好ましくは0~10℃、さらに好ましくは0~5℃の範囲の温度で光照射を行う。
【0101】
[光反応の条件]
好適な実施の態様において、光架橋は、光反応を利用しているために、pH、塩濃度などに特段の制約がなく、核酸類等の生体高分子が安定に存在可能なpH、塩濃度とした溶液中で、光照射によって行うことができる。
【0102】
[光反応性人工ポリペプチド]
好適な実施の態様において、式Iの化合物は、これを光反応性人工アミノ酸とすることができ、これをペプチド結合を介してポリペプチド鎖のアミノ酸配列中に導入して、光反応性人工ポリペプチド(光架橋性の修飾ポリペプチド)とすることができる。光反応性人工アミノ酸の光応答性は、ポリペプチド鎖中へ導入されても維持されるから、光反応性人工アミノ酸がどのようなアミノ酸配列のポリペプチド鎖へ導入されても、得られるポリペプチドは、光反応性人工ポリペプチドとなる。
【0103】
[光反応性人工ポリペプチド製造用試薬]
光反応性人工アミノ酸のポリペプチド鎖中への導入は、公知の手段によって行うことができる。すなわち、公知のポリペプチド鎖の合成手段において、天然のアミノ酸等に代えて、光応答性人工アミノ酸を使用して、ペプチド合成を行えばよい。光応答性人工アミノ酸は、所望により、公知の保護基によって保護して、ペプチド合成することができる。このようなペプチド合成手段として、例えば、Fmocペプチド固相合成法、及びBocペプチド固相合成法等をあげることができる。したがって、式Iの化合物を、これらの所望に応じた形態として、光反応性人工ポリペプチド製造用試薬とすることができる。
【実施例】
【0104】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0105】
[ヌクレオシドアナログ(
MEPK)の合成]
図1のスキーム1に示す合成経路に沿って、光応答性人工ヌクレオシドアナログ分子(ヌクレオシドアナログ、あるいは光反応性素子又は光架橋素子ということがある)(
MEPK)を合成し、さらに修飾核酸合成モノマーを合成し、これを導入した修飾DNAを合成した。各工程の詳細は後述して説明する。
【0106】
スキーム1の各合成ステップにおいて、(a)~(e)の条件はそれぞれ次の通りである。r.t.は室温を意味する。
(a) Ethyl acetoacetate,H2SO4,EtOH,90℃,2h
(b) KOH,TDA-1,Chlorosugar,CH3CN,r.t.,8h
(c) NaOCH3,CH3OH,CHCl3,r.t.,10h.
(d) DMTrCl,DMAP,Pyridine,r.t.,24h.
(e) (iPr2N)2PO(CH2)2CN,tetrazole,CH3CN,r.t.,4h
【0107】
[化合物12の合成]
ナスフラスコに化合物11(5.00g,27.3mmol)、Ethyl acetoacetate(3.79mL,30.0mmol)、EtOH(30mL)を入れ、氷上で攪拌した。そこに、conc.H2SO4(7mL)を滴下した。そこに、EtOH(10mL)を追加し90℃で2時間攪拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)で原料の消失を確認し攪拌を停止させた。溶液にアセトン加え再結晶を行った。再結晶で得られた化合物を濾過しクロロホルムで洗浄後、乾燥させ化合物12(4.90g,19.6mmol,72%)を得た。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ 11.64(s, 1H), 8.53(s, 1H), 8.25(d, 1H, J = 7.68 Hz), 7.53 (d, 1H, 8.00 Hz), 7.44(t, 1H, J = 7.56 Hz), 7.40(s, 1H), 7.24(t, 1H, J = 7.36 Hz), 6.26(s, 1H), 2.59(s, 3H) SALDI-MS : Calc’d for C16H11NNaO2 [M + Na]+ = 272.0681, Found 272.0682.
【0108】
【0109】
[化合物13の合成]
化合物12(300mg,1.20mmol)、KOH(260mg,10.1mmol)を加えN2置換した。CH3CN(50mL)、TDA-1(250μL)を加え攪拌した。30分後、Chlorosugar(1.17g,3.00mmol)を添加し、室温で6時間攪拌した。TLC(CHCl3)で確認し反応停止させた。吸引濾過で沈殿物を除き、濾液をエバポレーターによって溶媒を除去した。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ 11.67(s, 1H), 8,47(s, 1H), 8,17(dt, 2H, J = 11.4 Hz), 7.50-7.43(m, 2H), 7.25(dt, 1H, J = 8.54 Hz), 6.33(d, 1H, J = 4.75 Hz), SALDI-MS : Calc’d for C16H11NNaO2 [M + Na]+ = 272.0681, Found 272.0682.
【0110】
【0111】
[化合物14の合成]
化合物3(1.58g,3.82mmol)が入ったナスフラスコにMeOH(40mL)、CHCl3(30mL)を加えNaOMe(1.00g)添加し10時間室温で攪拌した。その後、エバポレーターによって溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH=9:1)で精製した。精製後、乾燥し化合物4(360mg,0.985mmol,82%)を得た。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ 8.62 (d, 1H, 3.04 Hz), 8.30(d, 1H, 7.68 Hz), 7.89-7.80(m, 2H), 7.48(t, 1H, 7.78 Hz), 7.31(t, 1H, J = 5.96 Hz), 6.71(t, 1H, J = 7.8 Hz), 6.30(s, 1H), 5.42(s, 1H), 5.16(s, 1H), 4.50(d, 1H, 3.44 Hz), 3.89(d, 1H, 3.72 Hz), 3.78(s, 2H), 2.59(s, 3H), 2.17-2.12(m, 1H), 1.14-1.06(m, 1H) SALDI-MS : Calc’d for C21H19NNaO5 [M + Na]+ = 388.1155, Found 388.1152.
【0112】
【0113】
[化合物15の合成]
ナスフラスコに化合物4(375mg,1.03mmol)、DMAP(12.3mg,0.101mmol)を加えN2置換後、Dry Pyridine(10ml)を氷浴上で加えた。DMTrCl(525mg,1.55mmol)を入れた。その後、室温で24時間攪拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)で原料の消失を確認後、反応溶液をエバポレーターで濃縮した。Tolueneで数回共沸させた。その後、カラムクロマトグラフィー(CHCl3:MeOH=19:1)により精製し白色粉末(128mg,0.192mmol,18.6%)を得た。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ SALDI-MS : Calc’d for C21H19NNaO5 [M + Na]+ =, Found.
【0114】
【0115】
[化合物16の合成]
ナスフラスコ中の化合物15(129mg,0.192mmol)にCH2Cl2(4.17mL)をN2下で加えた。その後、0.25M Tetrazole(800μL,0.211mmol)、(iPr2N)2PO(CH2)2CN(121μL,0.384mmol)を滴下し室温1時間攪拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)で反応を確認し、攪拌を停止させた。反応溶液を分析漏斗に移し、NaClaqで数回洗浄した。そしてNa2SO4で有機層を乾燥させ、エバポレーターによって溶媒を除去し化合物6(95.1mg,0.112mmol,58.3%)を得た。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ SALDI-MS : Calc’d for C51H54N3NaO8P [M + Na]+ = 890.3541, Found 890.3544.
【0116】
【0117】
[
MEPKを含むオリゴ核酸の合成]
オリゴ合成機を用いて次の配列(5’-TGCAXCCGT-3’,X=
MEPK)を合成した。反応終了後、28%アンモニア水(1mL)を用いて、30min切り出しを行い(2回)、その後65℃で4h脱保護を行った。その後、スピードバックで溶媒を留去し、精製水100μLに溶かし、HPLCによって精製を行った。その後MALDI-TOF-MSによる解析を行い目的物の同定を行った。
図2に
MEPKを含むオリゴ核酸のMSスペクトルを示す。
Calc’d for [M + H]
+ = 2812.528, Found 2813.467.
【0118】
[MEPKを含むオリゴ核酸の光架橋の検討]
[光架橋反応]
100μM ODN1(5’-TGCAXCCGT-3’,X=MEPK)、100μMODN2(5’-ACGGGTGCA-3’)、50μM deoxyuridine、100mM NaClを含む50mMカコジル酸buffer(pH7.4)をアニーリングし、4°Cで静置した。その後、UV-LED(OmniCure,LX405-S)を用いて400nmの光照射を4°Cで60sec行った。
【0119】
[HPLC解析]
架橋サンプル50μLをHPLCで解析した。解析には50mMギ酸アンモニウムとアセトニトリルを用い、分析開始時ギ酸アンモニウム98%、30分時点でギ酸アンモニウム70%、アセトニトリル30%になるように直線的に溶媒比率を変化させた。流速1.0mL/min、カラム温度60℃、検出波長は260nmで分析を行った。このようにして得られた光照射前後のHPLCクロマトグラムを、
図3A及び
図3Bに示す。
図3Aは、光照射0secにおける架橋サンプルのクロマトグラムである。
図3Bは、光照射60secにおける架橋サンプルのクロマトグラムである。この光架橋反応の説明図を、
図3Cに示す。
【0120】
図3Bに示されるように、光照射60sec後、Retention time 15分に新たにピークが現れた。このピークを分取し、MALDI-TOF-MSによる解析を行い目的物の同定を行った。
図4にこの目的物(光架橋産物)のMSスペクトルを示す。
Calc’d for [M + H]
+ = 5575.036, Found = 5577.948.
【0121】
[ヌクレオシドアナログ(
MEPD)の合成]
図5のスキーム2に示す合成経路に沿って、光応答性人工ヌクレオシドアナログ分子(
MEPD)を合成し、修飾核酸合成モノマーを合成した。さらに、これを導入した修飾DNAを合成した。各工程の詳細は後述して説明する。
【0122】
スキーム2の各合成ステップにおいて、(f)~(j)の条件はそれぞれ次の通りである。r.t.は室温を意味する。
(f) Ethyl acetoacetate,H2SO4,EtOH,90℃,2h,
(g) NaH,NaI,Ethyl bromoacetate,DMF,r.t.,8h
(h) [1]. NaOH,THF/MeOH/H2O,r.t.,5h.
[2]. D-Threoninol,EDCI,HOBt,DMF,r.t.,24h.
(i) DMTrCl,DMAP,Pyridine,r.t.,24h.
(j) (iPr2N)2PO(CH2)2CN,tetrazole,CH3CN,r.t.,4h.
【0123】
[化合物21の合成]
氷上に置いたナスフラスコに化合物12(300mg,1.20mmol)、NaI(540mg,3.60mmol)、NaH(148mg,3.60mmol)を入れ、真空後N2置換した。そこに、DMFを10mLをゆっくり滴下し加えた。20分の攪拌後、Ethyl bromoacetate(266μL,2.40mmol)を加え、室温8時間攪拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)で原料の消失を確認した。MeOHを少量加え反応を停止させた後、エバポレーターで溶媒を除去した。溶媒を除去後、AcOEtを入れ、分液を行なった。有機層をNa2SO4によって脱水後、エバポレーターによって溶媒を除去した。除去後、カラムクロマトグラフィー(CHCl3)によって精製を行なった。分取した化合物を乾燥させ化合物21(230mg,0.688mmol,77%)を得た。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ 8.59(s, 1H), 8.28(d, 1H, 7.68 Hz), 7.61(s, 1H), 7.57 (d, 1H, 8.16 Hz), 7.49(t, 1H, J = 7.60 Hz), 7.30(t, 1H, J = 7.62 Hz) 6.28(s, 1H), 5.39(s, 2H), 4.17-4.14(m, 2H), 2.58(s, 3H), 1.22(t, 3H, 6.12 Hz) ESI-FT-ICR MS : Calc’d for C20H18NO4 [M + H]+ = 336.1230, Found 336.1230.
【0124】
【0125】
[化合物22の合成]
ナスフラスコに化合物21(230mg,0.688mmol)、THF(9mL)/MeOH(6mL)/H2O(3mL)混合溶媒を加えた。そこに、NaOH(82.6mg,1.27mmol)加え、室温5時間攪拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)で原料の消失を確認した。0.1Mに調整したHClaqを反応溶液中に加えpH2になるようにした。AcOEtを入れ、分液を行なった。有機層をNa2SO4によって脱水後、エバポレーターによって溶媒を除去し真空乾燥した。真空乾燥後の化合物(195mg)にDMF(10mL)、D-Threoninol(133mg,1.37mmol)、HOBt(172mg,1.27mmol)を加えN2下で室温20分攪拌した。その後、EDCI(244mg,1.27mmol)を加え室温24時間攪拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)で原料の消失を確認した。MeOHを少量加え反応を停止させた後、エバポレーターで溶媒を除去した。溶媒を除去後、AcOEtを入れ、分液を行なった。有機層をNa2SO4によって脱水後、エバポレーターによって溶媒を除去した。真空乾燥させ、化合物22(140mg,0.355mmol,52%)を得た。
1H-NMR(400 MHz, DMSO-d6) δ 8.62(s, 1H), 8.28(d, 1H, 7.72 Hz), 7.98(d, 1H, 8.84 Hz), 7.57-7.58 (m, 2H), 7.49(t, 1H, J = 7.64 Hz), 7.29(t, 1H, J = 7.34 Hz) 5.16(d, 2H, 3.76 Hz), 4.72(d, 1H, 4.64 Hz), 4.64(t, 1H, 5.52 Hz), 3.93-3.89(m, 1H), 3.67-3.62(m, 1H), 3.54-3.48(m, 1H), 3.41-3.36(m, 1H), 2.61(s, 3H), 1.03(d, 3H, 6.40 Hz) SALDI-FT-ICR MS : Calc’d for C22H22N2NaO5 [M + H]+ =417.1409, Found 417.1418.
【0126】
【0127】
[ヌクレオシドアナログ(
MEPA)の合成]
図6のスキーム3に示す合成経路に沿って、光応答性人工ヌクレオシドアナログ分子(
MEPA)を合成した。さらに修飾核酸合成モノマーを合成し、これを導入した修飾DNAを合成した。各工程の詳細は後述して説明する。
【0128】
[Boc体の合成]
氷上に置いたナスフラスコに化合物12(メチルピラノカルバゾール)(300mg,1.20mmol)、NaI(540mg,3.60mmol)、NaH(148mg,3.60mmol)を入れ、真空後、窒素置換した。そこに、DMFを10mLをゆっくり滴下し加えた。20分の攪拌後、Boc-Ser-OMe bromide(677mg,2.40mmol)を加え、室温6時間攪拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)で原料の消失を確認した。MeOHを少量加え反応を停止させた後、エバポレーターで溶媒を除去した。溶媒を除去後、AcOEtを入れ、分液を行なった。有機層をNa2SO4によって脱水後、エバポレーターによって溶媒を除去した。除去後、カラムクロマトグラフィー(CHCl3)によって精製を行なった。分取した化合物を乾燥させ化合物31を得た。質量分析を行い、目的化合物を190mg,0.422mol,収率35%で得た。
FT-ICR MS: Calcd [M+H]+ : 449.2071, Found 449.2075
【0129】
【0130】
[MEPAの合成]
化合物31(メチルピラノカルバゾール)のBoc体(206mg,0.46mmol)とNaOH(180mg,23mmol)をTHF/MeOH/H2O(3:2:1,30mL)に溶解させ、室温で2時間撹拌させた後、1N HCl(250mL)を加え、EtOHによる抽出を行った後、エバポレータにより溶媒を除去した。その後、ジクロロメタン(10mL)に溶解させ、Trifluoroacetic acid(3mL)を加え、室温で12時間撹拌した。TLC(CHCl3:MeOH=9:1)後、ニンヒドリンによる染色を行い、スポットを確認した。エバポレータにより溶媒を除去し、質量分析により化合物32の同定を行った。
FT-ICR MS Calcd [M+H]+=391.0899 found [M+H]+=391.0900
【0131】
【0132】
[ヌクレオシドアナログ(
PCX)の合成]
本願発明に係るヌクレオシドアナログ(
MEPK)の合成と対比させるために、比較例として、ヌクレオシドアナログ(
PCX)の合成を行った。
図7のスキーム4に示す合成経路に沿って、光応答性人工ヌクレオシドアナログ分子(
PCX)を合成し、さらに修飾核酸合成モノマーを合成し、これを導入した修飾DNAを合成した。この合成は、次の手順で行った:
2-ヒドロキシカルバゾールを出発物質とし、InCl
2を加え、窒素置換を行った後、Ethyl propiolateを加え、80°Cで24時間以上撹拌した。その後、カラムクロマトグラフィーによる精製を行った。ピラノカルバゾールとクロロシュガーをアセトニトリル中でカップリングさせた後、メタノール中でナトリウムメトキシドによりトリチル期の除去を行った。ヌクレオシド体を得た後、常法に従い、トリチル化、アミダイト化を経て、化合物45を得た。
【0133】
このヌクレオシドアナログ(
PCX)合成の手順の概略の説明図を、
図8Aに示す。
図8Aの右端の生成物がヌクレオシドアナログ(
PCX)である。このヌクレオシドアナログ(
PCX)は、ヌクレオシドアナログ(
MEPK)とは、メチル基の有無を除いては同じ構造であり、すなわち同様にピラノカルバゾール骨格を備えている。そしてヌクレオシドアナログ(
PCX)が、
図8Aの手順で合成できることを本発明者はこれまでに見いだしている。しかし、この
図8Aの手順による合成では、
図8Bに示す異性体が生じてしまい、収率が低く、高コストとなるものであった。
【0134】
[ヌクレオシドアナログ(
PCX)の合成とヌクレオシドアナログ(
MEPK)の合成の対比]
本願実施例において上述したヌクレオシドアナログ(
PCX)の合成の手順の概略の説明図を、
図8Aと対照しやすいようにまとめて、
図9に示す。
図8Aの経路による合成と対比すると、この
図9の経路による合成は、各図の左端の化合物から各図の中央の化合物までの1モルあたりの合成コストが、縮合剤コストで1/100倍、酸触媒コストで1/3000倍へとコストダウンされ、合成時間が1/24倍へと短縮され、収率が25%から72%へと大幅に向上したものとなっていた。すなわち、メチル基の有無を除いて同様の構造を備えた化合物の合成を行うにあたって、本発明の合成方法によれば、これまでの方法に比べて、コスト、時間、収率が、大幅に改善されたものとなっていた。
【0135】
[
PCXの合成手順と、
MEPK、
MEPD、
MEPAの合成手順との対比]
実施例において上述した通り、
MEPK、
MEPD、
MEPAの合成手順は、いずれも
図9の右端の化合物から中央の化合物への合成の工程が共通している。この工程については、
PCXの合成手順で示した通り、
図7Aの右端の化合物から中央の化合物への合成の工程によって行って、メチル基の有無を除いて同様の構造を備えた化合物を、合成することができる。そこで、このようにして得られるメチル基の有無を除いて同様の構造を備えた化合物の合成までの所要時間を、対比すると、
MEPKについては1ヶ月から1週間にまで時間が短縮されており、
MEPDについては2ヶ月から2週間にまで時間が短縮されており、
MEPAについては6ヶ月から1週間にまで時間が短縮されたものとなっていた。これらの時間短縮が一律でないのは、
図8Bに示す化合物及びその他の化合物が副生成物として生成することによって、その後の操作によって生じる副生成物がさらに多様に増大してしまった結果、それらを除去する操作がそれぞれで必要となったためである。この対比結果の説明図を
図10に示す。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明によれば、核酸の光反応技術に使用可能な光反応性架橋剤となる化合物を、短時間で収率よく製造することができる。本発明は産業上有用な発明である。
【配列表】