(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】磁性積層膜、磁気メモリ素子及び磁気メモリ
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20240419BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20240419BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20240419BHJP
【FI】
H10B61/00
H01L29/82 Z
H10N50/10 Z
(21)【出願番号】P 2020572081
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042667
(87)【国際公開番号】W WO2020166141
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019024012
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 好昭
(72)【発明者】
【氏名】池田 正二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英夫
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 哲郎
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0178705(US,A1)
【文献】特開2014-045196(JP,A)
【文献】米国特許第09218864(US,B1)
【文献】特開2015-179773(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208576(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021468(WO,A1)
【文献】特開2017-059594(JP,A)
【文献】特開2018-022796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H01L 29/82
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β相W
1-xTa
x(0.00<x≦0.30)で構成された重金属層と、磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層とを有し、前記重金属層の厚さが2nm以上8nm以下である磁性積層膜と、
前記記録層に隣接する障壁層と、
前記障壁層と隣接し、磁化の方向が固定された参照層と
を備え、
前記重金属層を流れる書き込み電流によって、前記記録層の前記強磁性層の磁化方向が反転する
磁気メモリ素子。
【請求項2】
前記重金属層は、一部がアモルファスであり、
前記重金属層の厚さが2nm以上5nm以下である
請求項1に記載の磁気メモリ素子。
【請求項3】
前記重金属層は、β相W
1-xTa
x(0.10≦x≦0.28)で構成されている
請求項1又は2に記載の磁気メモリ素子。
【請求項4】
前記記録層の前記強磁性層と、前記重金属層との間にHf層を有する
請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項5】
前記Hf層がZrを含有する
請求項4に記載の磁気メモリ素子。
【請求項6】
磁気メモリ素子用の積層膜であって、
α相W
1-xTa
x(0.08≦x≦0.43)で構成された重金属層と、
磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層と
を備える
磁性積層膜。
【請求項7】
前記重金属層の厚さが2.5nm以上である
請求項6に記載の磁性積層膜。
【請求項8】
前記α相W
1-xTa
x(0.08≦x≦0.43)が、B、C、N、O及びPの内の少なくとも1つ以上を含む
請求項6又は7に記載の磁性積層膜。
【請求項9】
前記記録層の前記強磁性層と、前記重金属層との間にHf層を有する
請求項6~8のいずれか1項に記載の磁性積層膜。
【請求項10】
前記Hf層がZrを含有する
請求項9に記載の磁性積層膜。
【請求項11】
請求項6~10のいずれか1項に記載の磁性積層膜と、
前記記録層に隣接する障壁層と、
前記障壁層と隣接し、磁化の方向が固定された参照層と
を備え、
前記重金属層を流れる書き込み電流によって、前記記録層の前記強磁性層の磁化方向が反転する
磁気メモリ素子。
【請求項12】
前記重金属層の長手方向の一端に設けられ、前記重金属層に電流を導入可能な第1端子と、
前記重金属層の長手方向の他端に設けられ、前記重金属層に電流を導入可能な第2端子と、
前記参照層と電気的に接続された第3端子と
を備え、
前記重金属層を介して前記第1端子と前記第2端子との間に、前記書き込み電流が流れる
請求項1~5、11のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項13】
前記記録層の前記強磁性層は、膜面に対して垂直な方向に磁化している
請求項1~5、11、12のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項14】
前記記録層の前記強磁性層は、面内方向に磁化しており、前記磁化の方向が前記書き込み電流の方向に対して平行である
請求項1~5、11、12のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項15】
前記記録層の前記強磁性層は、面内方向に磁化しており、前記磁化の方向が前記書き込み電流の方向に対して垂直である
請求項1~5、11、12のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項16】
前記記録層の前記強磁性層は、面内方向に磁化しており、前記磁化の方向が前記書き込み電流の方向に対して5度~45度の方向である
請求項1~5、11、12のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項17】
前記参照層は、磁化方向が互いに反平行な方向に固定された2つの強磁性層を有し、
前記記録層の前記強磁性層の磁化方向が、前記参照層の前記強磁性層のいずれか1つと同じ方向を向くことができる
請求項1~5、11~13のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子。
【請求項18】
請求項1~5、11~
17のいずれか1項に記載の磁気メモリ素子と、
前記重金属層に前記書き込み電流を流すことにより、前記磁気メモリ素子にデータを書き込む書き込み電源を備える書き込み部と、
前記障壁層を貫通する読み出し電流を流す読み出し電源と、前記障壁層を貫通した前記読み出し電流を検出し、前記磁気メモリ素子に書き込まれているデータを読み出す電流検出器とを備える読み出し部と
を備える磁気メモリ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性積層膜、磁気メモリ素子及び磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
高速性と高書き換え耐性が得られる次世代不揮発磁気メモリとして、磁気抵抗効果素子(Magnetic Tunnel Junction:MTJ)を記憶素子として用いたMRAM(Magnetic Random Access Memory)が知られている。MRAMに用いる次世代の磁気メモリ素子としては、スピン注入トルクを利用して磁気トンネル接合を磁化反転させるSTT-MRAM(Spin Transfer Torque Random Access Memory)素子(特許文献1参照)やスピン軌道トルクを利用してMTJを磁化反転させるSOT-MRAM(Spin-Orbit Torque Magnetic Random Access Memory)素子(特許文献2参照)が注目されている。
【0003】
STT-MRAM素子は、強磁性層(記録層ともいう)/絶縁層(障壁層ともいう)/強磁性層(参照層ともいう)の3層構造を含むMTJで構成される。STT-MRAM素子は、記録層と参照層の磁化方向が反平行の反平行状態の方が素子の抵抗が高いという性質を有し、平行状態と反平行状態を0と1に対応させてデータを記録する。STT-MRAM素子は、MTJを貫通する電流を流すと、一定方向に向きが揃えられた電子スピンが記録層に流入し、流入した電子スピンのトルクにより記録層の磁化方向が反転する。これによりSTT-MRAM素子は、平行状態と反平行状態とを切り替え、データを記録できる。
【0004】
SOT-MRAM素子は、重金属層上に、強磁性層/絶縁層/強磁性層の3層構造を含むMTJが設けられた構成をしている。SOT-MRAM素子は、現状用いられているCo-Fe形の磁性体の場合、STT-MRAM素子と同様に、記録層と参照層の磁化方向が平行な平行状態より、記録層と参照層の磁化方向が反平行の反平行状態の方が素子の抵抗が高いという性質を有し、平行状態と反平行状態を0と1に対応させてデータを記録する。SOT-MRAM素子では、重金属層に電流を流すことでスピン軌道相互作用によりスピン流を誘起し、スピン流により分極したスピンが記録層に流入することで記録層が磁化反転する。これによりSOT-MRAM素子は、平行状態と反平行状態とを切り替え、データを記録できる。
【0005】
また、SOT-MRAM素子では、高度に集積するために、重金属層上に多数のMTJを配列したアーキテクチャが提案されている(特許文献2参照)。特許文献2のアーキテクチャでは、MTJに電圧を印加することでMTJの磁気異方性を制御できるというメカニズムを利用して、MTJにデータを書き込む。まず、データを書き込むMTJに電圧を印加し、記録層の磁気異方性を低くして、記録層が磁化反転しやすい状態(半選択状態ともいう)にする。その後、重金属層に書き込み電流を流すことで、記録層を磁化反転させ、データを書き込む。このように、特許文献2の磁気メモリでは、MTJに電圧を印加することで、書き込むMTJを選択できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-179447号公報
【文献】特開2017-112351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、通常の重金属を用いたSOT-MRAM素子の書込み効率は、STT-MRAM素子の書き込み効率に比べ1/2程度と小さく、書込み効率を向上する必要がある。そのため、SOT-MRAM素子の書き込み効率を向上することが求められている。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、書き込み効率を向上できる磁性積層膜と、当該磁性積層膜を用いた磁気メモリ素子及び磁気メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による磁性積層膜は、磁気メモリ素子用の積層膜であって、β相W1-xTax(0.00<x≦0.30)で構成された重金属層と、磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層とを備え、前記重金属層の厚さが2nm以上8nm以下である。
【0010】
本発明による磁性積層膜は、磁気メモリ素子用の積層膜であって、α相W1-xTax(0.08≦x≦0.43)で構成された重金属層と、磁化方向が反転可能な強磁性層を含み、前記重金属層と隣接する記録層とを備える。
【0011】
本発明による磁気メモリ素子は、上記の磁性積層膜と、前記記録層に隣接する障壁層と、前記障壁層と隣接し、磁化の方向が固定された参照層とを備え、前記重金属層を流れる書き込み電流によって、前記記録層の前記強磁性層の磁化方向が反転する。
【0012】
本発明による磁気メモリは、上記の磁気メモリ素子と、前記重金属層に前記書き込み電流を流すことにより、前記磁気メモリ素子にデータを書き込む書き込み電源を備える書き込み部と、前記障壁層を貫通する読み出し電流を流す読み出し電源と、前記障壁層を貫通した前記読み出し電流を検出し、前記磁気メモリ素子に書き込まれているデータを読み出す電流検出器とを備える読み出し部とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、重金属層がβ相W1-xTax(0.00<x≦0.30)又はα相W1-xTax(0.08≦x≦0.43)で構成されているので、磁性積層膜のスピン生成効率が従来よりも高く、その分書き込み電流密度を小さくでき、書き込み効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】
図1Aは、本発明の第1実施形態の磁気メモリ素子を示す斜視図である。
【
図1C】
図1Cは、第1端子及び第2端子を重金属層の下部に設けた磁気メモリ素子の例を示す概略断面図である。
【
図2A】
図2Aは、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“0”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、初期状態を示している。
【
図2B】
図2Bは、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“0”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、書き込み電流を流してデータが書き込まれた状態を示している。
【
図2C】
図2Cは、データ“0”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“1”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、初期状態を示している。
【
図2D】
図2Dは、データ“0”を記憶している磁気メモリ素子にデータ“1”を書き込む方法を説明する概略断面図であり、書き込み電流を流してデータが書き込まれた状態を示している。
【
図3】
図3は、磁気メモリ素子に記憶されたデータの読み出し方法を説明する概略断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第1実施形態の磁気メモリ素子を使用した1ビット分の磁気メモリセル回路の回路構成を示す例である。
【
図5】
図5は、
図4に示す磁気メモリセル回路を複数個配置した磁気メモリのブロック図である。
【
図6A】
図6Aは、本発明の第2実施形態の磁気メモリ素子を示す斜視図である。
【
図7A】
図7Aは、変形例の磁気メモリ素子の上面を示す概略図である。
【
図7B】
図7Bは、変形例の磁気メモリ素子の上面を示す概略図である。
【
図9】
図9は、変形例の磁気メモリ素子を示す図である。
【
図11A】
図11Aは、磁性積層膜のコンダクタンスの膜厚依存性を示すグラフである。
【
図11B】
図11Bは、磁性積層膜のスピンホール磁気抵抗比の膜厚依存性を示すグラフである。
【
図12】
図12は、検証実験で作成したタングステン-タンタル合金の相図である。
【
図14A】
図14Aは、強磁性層の磁気異方性定数のHf膜厚依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)第1実施形態
(1-1)第1実施形態の磁性積層膜の全体構成
以下、
図1A、
図1Bを参照して、本発明の実施形態の磁性積層膜1について説明する。
図1Aは、磁性積層膜1を用いて作製された磁気メモリ素子100を示す斜視図である。磁気メモリ素子100は、記録層10の強磁性層18と参照層12の強磁性層14及び強磁性層16との磁化方向が膜面に対して垂直方向である垂直磁化タイプのSOT-MRAM素子である。本明細書では、
図1Aに示すように、重金属層2の長手方向(後述の書き込み電流を流す方向)をx方向(紙面右上方向を+x方向)とし、短手方向をy方向(斜視図では紙面左上方向を+y方向)とし、重金属層2の表面に対して垂直方向をz方向(紙面上方向を+z方向)としている。また、
図1Bは、磁気メモリ素子100のy方向の断面を示す概略図である。本明細書では、+z方向を例えば上側及び上部などとも称し、-z方向を例えば下側及び下部などとも称することとする。
【0016】
図1Aに示すように、磁性積層膜1は、β相のタングステン-タンタル合金(以下、β相W
1-xTa
xと表す。但し、Xは原子比率である。)で形成された重金属層2と、重金属層2と隣接して設けられた記録層10とを備えている。本実施形態では、重金属層2は、第1方向(x方向)に延伸された直方体形状をしており、上面から見たとき長方形状をしている。重金属層2の膜厚(z方向の長さ)は、2nm以上8nm以下、好ましくは2nm以上5nm以下とするのがよい。電子スピンの拡散長が1nm程度であるので、膜厚が2nm以上あるのが望ましい。また、下記で説明する組成のβ相W
1-xTa
xを形成できるので、膜厚が8nm以下、好ましくは5nm以下であることが望ましい。
【0017】
重金属層2は、長さ(x方向の長さ)10nm以上260nm以下程度、幅(y方向の長さ)5nm以上150nm以下程度の長方形状とするのが望ましい。本実施形態では、重金属層2は、重金属層2のy方向の幅を記録層10の幅よりも大きくなるようにしている。
【0018】
また、重金属層2の長さは、電流さえ流すことができれば短ければ短いほどよく、このようにすることで、磁気メモリ素子100を用いて磁気メモリを作製した際、磁気メモリを高密度化できる。重金属層2の幅は、MTJの幅と同じ長さにするのが望ましく、このようにすることで、磁性積層膜1を用いた磁気メモリ素子100の書き込み効率が最も良くなる。重金属層2の形状は、このようにするのが望ましいが、特に限定されない。なお、重金属層2の長さは、重金属層2が1つの記録層10を備えるときに望ましい長さであり、1つの重金属層2が複数の記録層10を備え、第1方向に複数のMTJが配列される場合、すなわち、複数の磁気メモリ素子100が1つの重金属層2を共有するようにする場合は、この限りではない。
【0019】
重金属層2は、A15構造のβ相W1-xTaxで形成されており、導電性を有している。β相W1-xTaxの組成は、0.00<X≦0.30、好ましくは0.10≦X≦0.28、より好ましくは0.17≦X≦0.25、さらに好ましくは0.20≦X≦0.25である。重金属層2をこのような組成のβ相W1-xTaxで形成することで、重金属層がβ相タングステンやプラチナ、β相タンタルで形成された従来の磁性積層膜よりも、スピン生成効率(θSH)が向上するため、スピン反転の効率を向上することができる。スピン生成効率は書き込み電流密度と反比例するので、スピン生成効率が上昇すると、書き込み電流密度を減少でき、磁性積層膜1を用いた磁気メモリ素子100の書き込み効率を向上できる。また、β相W1-xTaxの比抵抗は160~200μΩcmであり、従来のβ相タンタルなどの比抵抗(およそ300μΩcm程度)と比較して比抵抗が低いので、重金属層2での読み出し電流による電圧降下を小さくでき、磁気メモリ素子100の読み出しの遅延を抑制できる。なお、β相W1-xTaxで形成された重金属層2は、一部がアモルファスであってもよい。
【0020】
本実施形態では、このような重金属層2が、例えば、SiやSiO2などで形成された基板5に設けられている。基板5は、一表面に、例えば、Taなどで形成され、厚さが0.5nm~7.0nm程度のバッファ層4が設けられている。重金属層2は、このバッファ層4に隣接して設けられている。基板5としては、FET型のトランジスタや金属配線などが形成された基板などの回路基板であってもよい。この場合、バッファ層4にスルーホールを設けて、重金属層2と基板5に形成された配線などとをコンタクトする。
【0021】
記録層10は、重金属層2のバッファ層4と隣接する面の反対側の面に隣接して形成されており、重金属層2に隣接するハフニウム層(以下、Hf層という。)17と、Hf層17と隣接して形成され、磁化方向が反転可能な強磁性層18とを備えている。記録層10の厚さは、0.8nm~5.0nm、望ましくは、1.0nm~3.0nmである。本実施形態は、記録層10が円柱形状に形成されているが、記録層10の形状は限定されない。
【0022】
強磁性層18は、強磁性体で形成された強磁性膜である。強磁性層18は、磁気メモリ素子100を作製するとき、強磁性層18と後述の障壁層11の界面で界面磁気異方性が生じるように、障壁層11の材質や厚さを考慮して、材質と厚さが選定される。そのため、強磁性層18は、強磁性層18と障壁層11との界面で生じた界面磁気異方性によって、膜面に対して垂直方向(以下、単に垂直方向という。)に磁化している。
図1A、
図1Bでは、強磁性層18の磁化をM10として白抜きの矢印で表しており、矢印の向きが磁化方向を表している。強磁性層18に、上向きの矢印と下向きの矢印の2つ描かれているのは、強磁性層18が膜面に対して垂直な方向で磁化反転可能であることを示している。なお、実際には、磁化方向(矢印の方向)を向いていない成分も含まれている。以下、本明細書の図面において磁化を矢印で表した場合は、このことと同様である。また、記録層10の磁化といった場合、この強磁性層18の磁化M10を指すものとする。
【0023】
このように、強磁性層18に界面磁気異方性を生じさせるために、強磁性層18は、CoFeB、FeB又はCoBで形成するのが望ましい。なお、強磁性層18は、多層膜とすることもでき、その場合は、後述するMgOなどの障壁層11との界面にはCoFeB層、FeB層又CoB層を配置し、Hf層17とCoFeB層、FeB層又CoB層との間に、Co/Pt多層膜、Co/Pd多層膜及びCo/Ni多層膜などのCo層を含む多層膜、Mn-Ga、Mn-Ge及びFe-Ptなどの規則合金又はCo-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt及びCo-Cr-Ta-Pt、CoFeB、FeB、CoBなどのCoを含む合金などを挿入した構成とする。これらの多層膜及び合金は、MTJのサイズに応じて積層数及び膜厚などを適宜調整される。なお、強磁性層18は、強磁性層と非磁性層が交互に積層された多層膜であってもよく、例えば、強磁性層/非磁性層/強磁性層の3層構造とし、2つの強磁性層の磁化が層間相互作用によって結合するようにしてもよい。この場合、非磁性層は、Ta、W、Mo、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Cr、Au、Cu、Os及びReなどの非磁性体で形成される。
【0024】
また、記録層10の強磁性層18を界面磁気異方性によって、垂直方向に磁化させているが、結晶磁気異方性や形状磁気異方性によって、垂直方向に磁化容易軸を生じさせ、強磁性層18を垂直方向に磁化させるようにしてもよい。この場合は、強磁性層18は、例えば、Co、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金が望ましい。具体的に説明すると、Coを含む合金としては、Co-Pt、Co-Pd、Co-Cr-Pt及びCo-Cr-Ta-Ptなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Coを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるCo-richであることが望ましい。Feを含む合金としては、Fe-Pt及びFe-Pdなどの合金が望ましく、特に、これらの合金が、Feを他の元素よりも多く含んでいるいわゆるFe-richであることが望ましい。Co及びFeを含む合金としては、Co-Fe、Co-Fe-Pt及びCo-Fe-Pdなどの合金が望ましい。Co及びFeを含む合金は、Co-richであってもFe-richであってもよい。Mnを含む合金としては、Mn-Ga及びMn-Geなどの合金が望ましい。また、上記で説明したCo、Fe、Ni又はMnを少なくとも1つ以上含む合金に、B、C、N、O、P、Al及びSiなどの元素が多少含まれていてもかまわない。
【0025】
なお、アモルファス金属層上にMgOを積層すると(100)方向に配向した単結晶が支配的なMgO層が形成される性質によって、強磁性層18に隣接してMgO(100)障壁層11を形成しやすくなるので、当該強磁性層18は、アモルファス層であるのが望ましい。このようにすることで、MgO(100)でなる障壁層11をアモルファス強磁性体上に(100)高配向膜として面内方向にも大きなグレインで成長させることができ、MgO(100)の配向性の面内均一性が向上し、抵抗変化率(MR変化率)の均一性を向上することが可能である。
【0026】
Hf層17は、強磁性層18と隣接して設けられている。Hf層17は、ハフニウム(Hf)で形成された薄膜である。なお、Hf層17は、ジルコニウム(Zr)を含んでいてもよい。記録層10は、Hf層17を有することで、強磁性層18の飽和磁化Msが後述の熱処理により増大するのを抑制でき、その結果、書き込み電流密度の上昇も抑制できるので、記録層10の書き込み効率を向上できる。また、Hf層17を挿入することによって強磁性層18の磁化が減少するので、反磁界の大きさが減少し、垂直磁気異方性が増大し、垂直方向に磁化し易くなる。そのため、強磁性層の厚さがより厚いところまで垂直磁化とすることができるので、強磁性層18の熱的安定性を向上できる。Hf層17は、厚さが0.2nm以上、0.7nm以下に、より好ましくは0.3nm以上、0.7nm以下に形成されるのが好ましい。Hf層17を層状に形成するには0.2nm程度の厚さが必要であり、Hf層17の厚さを0.7nmより厚くしても、スピン生成効率の上昇率が飽和し、書き込み効率があまり向上しない。
【0027】
このようなHf層17は、強磁性層18がB(ホウ素)を含む強磁性体で形成されている場合、例えば、CoFeB、FeB若しくはCoBで形成されている又はこれらの合金を含む強磁性体で形成されている場合に大きな効果を奏する。そのため、強磁性層18がCoFeB、FeB又はCoBで構成されている場合は、Hf層17を挿入することが特に好ましい。強磁性層18が多層構造の場合は、Hf層17と隣接する強磁性層をCoFeB、FeB又CoBで形成するのが好ましい。なお、記録層10は、Hf層17を有していなくてもよい。
【0028】
本実施形態では、磁性積層膜1は、基板5上に、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着法)などの一般的な成膜手法により、バッファ層4、重金属層2、Hf層17、強磁性層18の順に成膜することで形成される。重金属層2は、例えば0.32nm程度の極薄のタングステン膜と、例えば、0.16nm程度の極薄のタンタル膜とを交互に積層することで形成される。タングステン/タンタル積層膜は、後述の磁気メモリ素子100作製の際の熱処理により、β相W1-xTax層となる。同時成膜に因る形成、合金ターゲットを用いた成膜でも同様である。β相W1-xTax層の組成は、タングステン膜及びタンタル膜の厚さを適宜変えることやターゲットの組成を変えること、成膜レートを変えることなどで調整できる。なお、説明の便宜上、タングステン「膜」と表記しているが、必ずしも、膜が全面に形成されていなくてもよい。また、記録層10は、公知のリソグラフィ技術により成型される。
【0029】
(1-2)第1実施形態の磁性積層膜を用いた磁気メモリ素子
次に、
図1A、
図1Bを参照して、第1実施形態の磁性積層膜1を用いた磁気メモリ素子100について説明する。磁気メモリ素子100は、重金属層2に隣接して、磁性積層膜1の記録層10と障壁層11と参照層12とを有するMTJを備えるSOT-MRAM素子タイプの磁気メモリ素子である。本実施形態では、記録層10の形状に合わせて、MTJを円柱形状としているが、MTJの形状は限定されない。
【0030】
磁気メモリ素子100の重金属層2及び記録層10については、上記で説明したので説明を省略する。障壁層11は、記録層10の強磁性層18に隣接して形成されている。障壁層11は、MgO、Al2O3、AlN、MgAlOなどの絶縁体、特にMgOで形成されるのが望ましい。また、障壁層11の厚さは、0.1nm~2.5nm、望ましくは、0.5nm~1.5nmである。
【0031】
参照層12は、強磁性層14、非磁性層15、強磁性層16が、障壁層11上にこの順に積層された3層積層膜であり、3層の積層フェリ構造をしている。そのため、強磁性層14の磁化M14の向きと強磁性層16の磁化M16の向きとが反平行であり、磁化M14が-z方向を向いており、磁化M16が+z方向を向いている。本明細書では、磁化方向が反平行といった場合、磁化の方向が概ね180度異なることをいい、磁化が+z方向を向いている場合を上向き、磁化が-z方向を向いている場合を下向きということとする。
【0032】
また、本実施形態では、参照層12の最も障壁層11側の強磁性層14と障壁層11の界面で界面磁気異方性が生じるように、強磁性層14の材質と厚さを選定し、強磁性層14の磁化方向が膜面に対して垂直方向となるようにしている。そして、上記のように参照層12を積層フェリ構造とし、強磁性層14の磁化M14と強磁性層16の磁化M16とを反強磁性的に結合することで、磁化M14と磁化M16を垂直方向に固定している。このように、参照層12は、磁化が垂直方向に固定されている。なお、強磁性層14の磁化M14と強磁性層16の磁化M16とを層間相互作用によって反強磁性的に結合して磁化方向を固定することで、磁化M14と磁化M16の向きを垂直方向に固定するようにしてもよい。
【0033】
本実施形態では、磁化M14を下向きに固定し、磁化M16を上向きに固定しているが、磁化M14を上向きに固定し、磁化M16を下向きに固定してもよい。さらに、結晶磁気異方性又は形状磁気異方性によって、強磁性層14及び強磁性層16の磁化方向を垂直方向とし、強磁性層14の磁化M14と強磁性層16の磁化M16とを層間相互作用によって反強磁性的に結合して磁化方向を固定することで、磁化M14と磁化M16の向きを垂直方向に固定するようにしてもよい。
【0034】
強磁性層14及び強磁性層16は、記録層10と同様の材料で形成することができ、非磁性層15は、Ir、Rh、Ru、Os、Re又はこれら合金などで形成することができる。非磁性層15は、Ruの場合は0.5nm~1.0nm、Irの場合は0.5nm~0.8nm、Rhの場合は0.7nm~1.0nm、Osの場合は0.75nm~1.2nm、Reの場合は0.5nm~0.95nm程度の厚さに形成する。例えば、参照層12を、強磁性層14:障壁層11側からCoFeB(1.5nm)/Ta(0.4nm)/Co(0.6nm)/(Pt(0.8nm)/Co(0.25nm))3/Pt(0.8nm)/Co(1.0nm)、非磁性層15:Ru(0.85nm)、強磁性層16:非磁性層側からCo(1.0nm)/(Pt0.8nm/Co0.25nm)13と構成し、強磁性層14をCo-Fe-Bとすることで、強磁性層14の磁化方向を界面磁気異方性によって垂直方向にすることができる。なお、「(Pt(0.8nm)/Co(0.25nm))3」という記載の括弧の後の「3」という数字は、Pt(0.8nm)/Co(0.25nm)2層膜が3回繰り返し積層されていることを意味している(すなわち、合計6層膜である。)。「(Pt0.8nm/Co0.25nm)13」という記載の「13」についても同様である。
【0035】
強磁性層14は、上記のように、障壁層11上に、例えば、CoFeB、FeB又はCoBなどで構成されるアモルファス強磁性層(0.6nm~2.0nm程度)、Ta、W又はMoなどを含む非磁性層(1.0nm以下)、強磁性層の順に積層した3層膜であってもよい。強磁性層14のアモルファス強磁性層と強磁性層とは、層間相互作用によって強磁性的に結合する。強磁性層14は、例えば、アモルファス強磁性層:Co-Fe-B(1.5nm)/非磁性層:Ta(0.5nm)/強磁性層:垂直磁気異方性を有する結晶質強磁性層などのように構成する。このようにすると、アモルファス強磁性層の磁化方向が垂直方向となり、アモルファス強磁性層と非磁性層を挟んで向かい合う強磁性層の磁化方向も垂直方向となり、強磁性層14の磁化方向を垂直方向とすることができる。
【0036】
キャップ層19は、例えばTaなどの導電性材料で形成された1.0nm程度の層であり、参照層12に隣接して形成されている。なお、磁気メモリ素子100は、キャップ層19を有していなくてもよい。また、キャップ層19は、MgOなどの非磁性層で形成されていてもよい。この場合、例えば、キャップ層19をトンネル電流が流れるようにするなどして、第3端子T3から参照層12に電流が流れるようにされる。
【0037】
このような磁気メモリ素子100は、磁性積層膜1の記録層10上に、例えば、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着法)などの一般的な成膜手法により、障壁層11、参照層12、キャップ層19の順に積層し、その後、300℃~400℃程度の温度で熱処理することで作製される。なお、重金属層2の全面に、記録層10、障壁層11、参照層12、キャップ層19をこの順に成膜し、リソグラフィ技術などによりMTJを成型することで作製してもよい。
【0038】
また、磁気メモリ素子100には、電圧を印加したり、電流を流したりして書き込み動作や読み込み動作をするための3つの端子(第1端子T1、第2端子T2、第3端子T3)が接続されている。磁気メモリ素子100は、3端子の素子である。第1端子T1、第2端子T2及び第3端子T3は、例えばCu、Al及びAuなどの導電性を有する金属で形成された部材であり、その形状は特に限定されない。
【0039】
第1端子T1と第2端子T2とは、両端子間にMTJが配置されるように、重金属層2の一端部と他端部とに設けられている。本実施形態では、重金属層2の第1方向の一端部の表面に第1端子T1が設けられ、重金属層2の第1方向の他端部の表面に第2端子T2が設けられている。第1端子T1はFET型の第1トランジスタTr1が接続され、第2端子T2はグラウンドに接続されている。第1トランジスタTr1は、例えば、ドレインが第1端子T1に接続され、ソースが後述の第1ビット線BL1に接続されて書き込み電圧V
wを供給する書き込み電源に接続され、ゲートがワード線WLに接続されている(
図4参照)。
【0040】
書き込み電源は、第1ビット線BL1を介して、電圧レベルを書き込み電圧Vwに設定でき、第1トランジスタTr1をオンにすることで、書き込み電圧Vwを第1端子T1に印加でき、第1端子T1と第2端子T2の間で書き込み電圧Vwの値に応じた書き込み電流Iwが流れる。例えば、書き込み電圧Vwの値をグラウンドよりも高くすることで、第1端子T1から第2端子T2に書き込み電流Iwを流し、書き込み電圧Vwの値をグラウンドより低くすることで、第2端子T2から第1端子T1に書き込み電流Iwを流す。このように、第1端子T1及び第2端子T2は、重金属層2(の一端部と他端部)に接続され、重金属層2に記録層10の磁化の方向を反転させる書き込み電流Iwを流す。
【0041】
第3端子T3は、キャップ層19上にキャップ層19と接して設けられている。本実施形態では、第3端子T3は、面内方向に切断した断面形状がMTJと同じ円形状をした円柱形状の薄膜であり、MTJ(キャップ層19)の上面に配置され、当該上面の全面をカバーしており、キャップ層19を介して参照層12と電気的に接続されている。また、本実施形態では、FET型の第3トランジスタTr3が第3端子T3に接続されている。第3トランジスタTr3は、例えば、ドレインが第3端子T3に接続され、ソースが第2ビット線BL2に接続されて読み出し電圧V
Readを供給する読み出し電源に接続され、ゲートが読み出し電圧線RLに接続されている(
図4参照)。読み出し電源は、第2ビット線BL2を介して、電圧レベルを読み出し電圧V
Readに設定でき、第3トランジスタTr3をオンとすることで、第3端子T3に読み出し電圧V
Readを印加できる。
【0042】
また、第1トランジスタTr1と第3トランジスタTr3をオンにすることで、第1端子T1と第3端子T3の間で、第1端子T1と第3端子T3の電位差に応じてMTJの抵抗値を読み取るための読み出し電流Irが流れる。例えば、VwをVReadより高く設定することで、第1端子T1から重金属層2及びMTJを介して第3端子T3へ、読み出し電流Irを流すことができる。
【0043】
本実施形態では、重金属層2の上部(MTJが設けられた面)に第1端子T1と第2端子T2とを設け、上側から磁気メモリ素子100へのコンタクトを取るようにしているが、これに限られない。例えば、
図1Cに示す磁気メモリ素子102の様に、重金属層2の下部に(MTJが設けられた面の裏側の面に隣接して)設けられたバッファ層4に隣接して第1端子T1と第2端子T2とを設け、下側から磁気メモリ素子102へのコンタクトを取るようにしてもよい。また、
図1Cに示す磁気メモリ素子102の様に、第2端子T2をグラウンドではなく、例えば、第2トランジスタTr2を介して第3ビット線(
図1Cには不図示)に接続し、第1ビット線BL1(
図1Cには不図示)に接続した第1端子T1と第2端子T2の電位差に応じて書き込み電流Iwを流す方向を変えるようにしてもよい。この場合、例えば、第1ビット線BL1をHighレベルに設定し、第3ビット線をLowレベルに設定し、第1端子T1の電位を第2端子T2の電位より高くして、第1端子T1から第2端子T2に書き込み電流Iwを流す。そして、第1ビット線BL1をLowレベルに設定し、第3ビット線をHighレベルに設定し、第2端子T2の電位を第1端子T1の電位より高くして、第2端子T2から第1端子T1に書き込み電流Iwを流す。また、読み出し時は、第2トランジスタTr2をオフにすることで、第2端子T2へ読み出し電流が流れないようにすることができる。
【0044】
(1-3)磁気メモリ素子の書き込み方法及び読み出し方法
このような磁気メモリ素子100の書き込み方法について、
図1A、
図1Bと同じ構成には同じ番号を付した
図2A、
図2B、
図2C、
図2Dを参照して説明する。磁気メモリ素子100は、記録層10と参照層12の磁化方向が、平行か、反平行かによって、MTJの抵抗が変化する。実際には、磁気メモリ素子100は、参照層12が積層膜であるので、記録層10の磁化方向と、障壁層11に接する参照層12の強磁性層14の磁化方向とが、平行か、反平行かによってMTJの抵抗が変わる。また、記録層10も積層膜の場合、磁気メモリ素子100は、記録層10の障壁層11に接する強磁性層18の磁化方向と、参照層12の障壁層11に接する強磁性層14の磁化方向とが、平行か、反平行かによってMTJの抵抗が変わる。
【0045】
本明細書では、記録層10と参照層12が平行状態といった場合は、記録層10や参照層12が積層膜で、記録層10の障壁層11に接する強磁性層18の磁化方向と、参照層12の障壁層11に接する強磁性層14との磁化方向が平行な状態も含むものとする。そして、記録層10と参照層12が反平行状態といった場合は、記録層10や参照層12が積層膜で、記録層10の障壁層11に接する強磁性層18の磁化方向と、参照層12の障壁層11に接する強磁性層14との磁化方向が反平行な状態であることを指すものとする。
【0046】
磁気メモリ素子100では、平行状態と反平行状態とでMTJの抵抗値が異なることを利用して、平行状態と反平行状態とに“0”と“1”の1ビットデータを割り当てることにより、磁気メモリ素子100にデータを記憶させる。磁気メモリ素子100は、記録層10の磁化方向が反転可能なので、記録層10の磁化方向を反転させることで、MTJの磁化状態を平行状態と反平行状態との間で遷移させ、“0”を記憶したMTJ(以下、ビットともいう)に“1”を記憶させ、“1”を記憶したビットに“0”を記憶させる。本明細書では、このように、記録層10の磁化方向を反転させてMTJの抵抗値を変化させることを、データを書き込むともいうこととする。
【0047】
磁気メモリ素子100の書き込み方法についてより具体的に説明する。本実施形態では、重金属層2がβ相W1-xTaxで形成されており、スピンホール角の符号が負である。そこで、重金属層2のスピンホール角が負である場合を例として説明する。また、図示しない磁場発生装置により、x方向(重金属層2の長手方向)に外部磁場H0を印加できるものとする。
【0048】
まず、データ“1”を記憶している磁気メモリ素子100にデータ“0”を書き込む場合を説明する。この場合、初期状態では、
図2Aに示すように、磁気メモリ素子100は、データ“1”を記憶しており、記録層10の磁化方向が上向きで、参照層12の障壁層11と接する強磁性層14の磁化方向が下向きであり、MTJが反平行状態であるとする。そして、第1トランジスタTr1及び第3トランジスタTr3はオフにされているものとする。最初に、
図2Aに示すように+x方向に外部磁場H
0を印加する。
【0049】
次いで、
図2B(
図2Bでは書き込み後の記録層10の磁化方向を示している)に示すように、第1トランジスタTr1をオンにし、第1端子T1に書き込み電圧V
wを印加する。このとき、書き込み電圧V
wが、グラウンド電圧よりも高く設定されているので、第1端子T1から重金属層2を介して第2端子T2へ書き込み電流Iwが流れ、重金属層2の一端部から他端部へと+x方向に書き込み電流Iwが流れる。第3トランジスタTr3がオフであるので、第1端子T1からMTJを介して第3端子T3へ電流は流れない。本実施形態では、書き込み電流Iwは重金属層2の一端部と他端部との間を流れる。書き込み電流Iwはパルス電流であり、第1トランジスタTr1をオンとする時間を調整することで、パルス幅を変えることができる。
【0050】
重金属層2に書き込み電流Iwが流れると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流(スピン角運動の流れ)が生じ、紙面手前側(
図1A、
図1Bでは-y方向)を向いたスピンが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、当該スピンと向きが反平行で紙面奥側(
図1A、
図1Bでは+y方向)を向いたスピンが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在する。そして、重金属層2を流れるスピン流によって、-y方向を向いたスピンが記録層10に流入する。
【0051】
このとき、記録層10の強磁性層18では、流入したスピンによって磁化M10に+x方向のトルクが働き、トルクによって磁化M10が+x方向に回転し、上向きの磁化M10が反転して下向きとなりMTJが平行状態となる。このとき、外部磁場H0が+x方向にかかっているため、外部磁場H0によってスピンによるトルクが打ち消され、これ以上磁化M10は回転せず、磁化M10は-z方向を向いた状態となる。その後、第1トランジスタTr1をオフにして書き込み電流を止めることで、磁化M10が-z方向に固定され、データ“0”が記憶される。
【0052】
次に、データ“0”を記憶している磁気メモリ素子100にデータ“1”を書き込む場合を説明する。
【0053】
この場合、初期状態では、磁気メモリ素子100は、データ“0”を記憶しており、記録層10の磁化方向が下向きで、参照層12の障壁層11と接する強磁性層14の磁化方向が下向きであり、MTJが平行状態であるとする。そして、第1トランジスタTr1及び第3トランジスタTr3はオフにされているものとする。最初に、
図2Cに示すように+x方向に外部磁場H
0を印加する。
【0054】
次に、
図2D(
図2Dでは書き込み後の記録層10の磁化方向を示している)に示すように、第1トランジスタTr1をオンにし、第3端子T3に書き込み電圧V
wを印加する。このとき、書き込み電圧V
wが、グラウンド電圧よりも低く設定されているので、第2端子T2から重金属層2を介して第1端子T1へ書き込み電流Iwが流れ、重金属層2の一端部から他端部へと-x方向に書き込み電流Iwが流れる。
【0055】
重金属層2に書き込み電流Iwが流れると、重金属層2内で、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果によってスピン流(スピン角運動の流れ)が生じ、紙面奥側(
図1A、
図1Bでは+y方向)を向いたスピンが重金属層2の上面側(+z方向)に流れ、当該スピンと向きが反平行で紙面手前側(
図1A、
図1Bでは-y方向)を向いたスピンが重金属層2の下面側(-z方向)に流れて、重金属層2内でスピンが偏在するそして、重金属層2を流れるスピン流によって、+y方向を向いたスピンが記録層10に流入する。
【0056】
このとき、記録層10の強磁性層18では、流入したスピンによって磁化M10に-x方向のトルクが働き、トルクによって磁化M10が-x方向に回転し、下向きの磁化M10が反転して上向きとなりMTJが反平行状態となる。このとき、外部磁場H0が+x方向にかかっているため、外部磁場H0によってスピンによるトルクが打ち消され、これ以上磁化M10は回転せず、磁化M10は+z方向を向いた状態となる。その後、第1トランジスタTr1をオフにして書き込み電流を止めることで、磁化M10が+z方向に固定され、データ“1”が記憶される。このように、重金属層2に書き込み電流Iwを流すことで、記録層10を磁化反転し、データを書き換えることができる。
【0057】
このように、磁気メモリ素子100では、重金属層2の一端部と他端部との間に書き込み電流Iwを流すことで、MTJの記録層10の磁化方向を反転させ、データ“0”又はデータ“1”を書き込むことができる。
【0058】
なお磁気メモリ素子100は、重金属層2の一端部(第1端子T1)と他端部(第2端子T2)の間に電圧を印加して、重金属層2に書き込み電流を流すと共に、第3端子T3を介してMTJに電圧を印加して記録層10の強磁性層18の磁気異方性を小さくすることで、重金属層2から注入されるスピンによって記録層10の磁化M10を磁化反転するようしてもよい。
【0059】
また、上記例では磁場発生装置により、x方向(重金属層2の長手方向)に外部磁場H0を印加した例を示したが、上述の電圧印加の方法又は重金属層2の下にx方向に容易軸を持つ面内磁気異方性を有する強磁性層/非磁性層/強磁性層三層膜若しくは反強磁性結合した強磁性層/非磁性層/強磁性層三層膜を付与し、β相W1-xTaxを介したx方向の交換結合を用いてもよく、外部磁場発生装置は必ず必要なわけではない。
【0060】
続いて読み出し方法について
図3を用いて説明する。このとき、初期状態では、すべてのトランジスタがオフにされているものとする。まず、書き込み電圧V
wを読み出し電圧V
Readより高い電圧に設定する。次に、読み出しは、第1トランジスタと第3トランジスタとをオンにして、第1端子T1に書き込み電圧V
wを印加し、第3端子T3に読み出し電圧V
Readを印加する。このとき、書き込み電圧V
wが読み出し電圧V
Readよりも高く設定されているので、第1端子T1から重金属層2、記録層10、障壁層11、参照層12、キャップ層19、第3端子T3の順に読み出し電流Irが流れる。読み出し電流Irは、障壁層11を貫通して流れる。読み出し電流Irは、不図示の電流検出器で検出される。読み出し電流Irは、MTJの抵抗値によって大きさが変わるので、読み出し電流Irの大きさからMTJが平行状態か反平行状態か、すなわち、MTJがデータ“0”を記憶しているか、データ“1”を記憶しているかを読み出すことができる。読み出し電流Irは、パルス電流であり、第3トランジスタTr3をオンにする時間を調整することで、パルス幅を調整する。
【0061】
なお、読み出し電流Irは、読み出し電流IrがMTJを流れたとき、読み出し電流Irによって記録層10がスピン注入磁化反転しない程度の弱い電流に設定するのが望ましい。書き込み電圧Vwと読み出し電圧VReadの電位差を適宜調整して、読み出し電流Irの大きさを調整する。また、第1トランジスタTr1をオンにして書き込み電圧Vwをオンにしてから、第3トランジスタTr3をオンにして読み出し電圧VReadをオンにするのが望ましい。このようにすることで、第3端子T3からMTJを介して第2端子T2へ電流が流れることを抑制でき、MTJに読み出し電流以外の電流が流れることを抑制できる。
【0062】
その後、第3トランジスタTr3をオフにした後、第1トランジスタTr1をオフにする。第1トランジスタTr1を第3トランジスタTr3より後にオフにすることで、すなわち、書き込み電圧Vwを読み出し電圧VReadより後にオフすることで、第3端子T3からMTJ及び重金属層2を介して第2端子T2へ、読み出し電圧VReadとグラウンド電圧との電位差に応じた電流が流れることを抑制できる。よって、磁気メモリ素子100は、障壁層11を保護でき、障壁層11をさらに薄くすることもでき、さらには、MTJを流れる電流によって記録層10の磁化状態が変化するReadディスターブも抑制することができる。
【0063】
(1-4)本発明の磁気メモリ素子を備えた磁気メモリ
次に、上記構成を有する磁気メモリ素子100を記憶素子として使用する磁気メモリセル回路の構成例を、
図1A、
図1Bと同じ構成には同じ符号を付した
図4を参照して説明する。
図4は、1ビット分の磁気メモリセル回路200の構成を示している。この磁気メモリセル回路200は、1ビット分のメモリセルを構成する磁気メモリ素子100と、第1ビット線BL1と、第2ビット線BL2と、読み出し電圧線RLと、ワード線WLと、第1トランジスタTr1と、第3トランジスタTr3とを備える。
【0064】
磁気メモリ素子100は、上述の通り、重金属層2の一端部の上面に第1端子T1、他端部の上面に第2端子T2が接続され、キャップ層19の上面に第3端子T3が接続された3端子構造を有する。なお、説明の便宜上、
図4では、記録層10及び参照層12の各層を省略してMTJを示している。
【0065】
第1端子T1は、第1トランジスタTr1のドレインに接続され、第2端子T2は、グラウンドに接続され、第3端子T3は、第3トランジスタTr3のドレインに接続されている。第1トランジスタTr1は、ソースが第1ビット線BL1に接続され、ゲート電極がワード線WLに接続されている。第3トランジスタTr3は、ソースが第2ビット線BL2に接続され、ゲート電極が読み出し電圧線RLに接続されている。
【0066】
磁気メモリ素子100にデータを書き込む方法は次の通りである。まず、磁気メモリ素子100を選択するため、ワード線WLをHighレベルに設定する。そして、読み出し電圧線RLをLowレベルに設定する。一方、書き込み対象のデータに応じて、第1ビット線BL1の電圧(書き込み電圧Vw)をHighレベル又はLowレベルに設定する。これによって、磁気メモリセル回路200が選択され、第1トランジスタTr1はオン状態になって書き込み動作が行われる。
【0067】
具体的には、データ“0”を書き込む場合は、第1ビット線BL1をHighレベル(正の電圧)とする。これにより、第1端子T1から第2端子T2に書き込み電流Iwが流れ(
図2B参照)、データ“0”が書き込まれる。一方、データ“1”を書き込む場合は、第1ビット線BL1をLowレベル(負の電圧)とする。これにより、第2端子T2から第1端子T1に書き込み電流Iwが流れ(
図2D参照)、データ“1”が書き込まれる。
【0068】
磁気メモリ素子100に記憶されているデータを読み出す方法は次の通りである。まず、第1ビット線BL1の電圧をHighレベルに設定し、第2ビット線BL2の電圧(読み出し電圧VRead)をLowレベルに設定する。次に、ワード線WLをHighレベルに設定して第1トランジスタTr1をオンにした後、読み出し電圧線RLをHighレベルに設定して第3トランジスタTr3をオンにし、MTJに電圧を印加する。これにより、磁気メモリセル回路200が選択され、第1端子T1から第3端子T3に読み出し電流Irが流れて読み出し動作が行われる。すなわち、Highレベルとなった第1ビット線BL1より第1端子T1、重金属層2、記録層10、障壁層11、参照層12、キャップ層19、第3端子T3を介してLowレベルとなった第2ビット線BL2へと読み出し電流Irが流れる。この読み出し電流Irの大きさを電流検出器で検出することにより、MTJの抵抗の大きさ、即ち、記憶されたデータを判別し、データを読み出すことができる。なお、磁気メモリセル回路200の構成や回路動作は一例であって、適宜変更されうる。
【0069】
次に、
図4に例示した磁気メモリセル回路200を複数備える磁気メモリ300の構成を、
図5を参照して説明する。磁気メモリ300は、
図5に示すように、メモリセルアレイ311と、Xドライバ312と、Yドライバ313と、コントローラ314とを備えている。メモリセルアレイ311はN行M列のアレイ状に配置された磁気メモリセル回路200を有している。各列の磁気メモリセル回路200は対応する列の第1ビット線BL1と第2ビット線BL2の対に接続されている。また、各行の磁気メモリセル回路200は、対応する行のワード線WLと読み出し電圧線RLに接続されている。
【0070】
Xドライバ312は、複数のワード線WLと読み出し電圧線RLとに接続されており、受信したローアドレスをデコードして、アクセス対象の行のワード線WLをHighレベル又はLowレベルに駆動すると共に、読み出し電圧線RLをHighレベル又はLowレベルに駆動する。
【0071】
Yドライバ313は、磁気メモリ素子100にデータを書き込む書き込み部及び磁気メモリ素子100からデータを読み出す読み出し部として機能する。Yドライバ313は、複数の第1ビット線BL1と第2ビット線BL2に接続されている。Yドライバ313は、受信したカラムアドレスをデコードして、アクセス対象の磁気メモリセル回路200に接続されている第1ビット線BL1及び第2ビット線BL2をデータ書き込み状態或いは読み出し状態に設定する。
【0072】
データ“0”の書き込みにおいて、Yドライバ313は書き込み対象の磁気メモリセル回路200に接続された第1ビット線BL1をHighレベル(正の電圧)とする。また、データ“1”の書き込みにおいてYドライバ313は、書き込み対象の磁気メモリセル回路200に接続された第1ビット線BL1をLowレベル(負の電圧)とする。書き込み時、Xドライバ312は、書き込み対象の磁気メモリセル回路200の属する行のワード線WLをHighレベルに設定し、書き込み対象の磁気メモリセル回路200のMTJにデータを書き込む。さらに、磁気メモリセル回路200に記憶されているデータの読み出しにおいて、Yドライバ313は、まず、読み出し対象の磁気メモリセル回路200に接続された第1ビット線BL1をHighレベルに設定し、第2ビット線BL2をLowレベルに設定する。Xドライバ312は、読み出し対象の磁気メモリセル回路200の属する行のワード線WLをHighレベルに設定した後、読み出し電圧線RLをHighレベルとする。そして、Yドライバ313は、第1ビット線BL1、第2ビット線BL2を流れる読み出し電流Irを電流検出器で検出し、検出した読み出し電流Irと基準値とを比較して、各列の磁気メモリセル回路200の抵抗状態を判別し、これにより、記憶データを読み出す。
【0073】
コントローラ314は、データ書き込み、あるいはデータ読み出しに応じて、Xドライバ312とYドライバ313のそれぞれを制御する。
【0074】
(1-5)作用及び効果
以上の構成において、第1実施形態の磁性積層膜1は、磁気メモリ素子用の積層膜であって、β相W1-xTax(0.00<x≦0.30)で構成された重金属層2と、反転可能な磁化M10を有する強磁性層18を含み、重金属層2と隣接する記録層10とを備え、重金属層2の厚さが2nm以上8nm以下であるように構成した。
【0075】
よって、磁性積層膜1は、重金属層2がβ相W1-xTax(0.00<x≦0.30)で構成されているので、スピン生成効率がタングステンやプラチナ、β相タンタルで形成された従来の磁性積層膜よりも高く、その分書き込み電流密度を小さくでき、磁気メモリ素子100の書き込み効率を向上できる。また、重金属層2の比抵抗も従来より低く、読み出し電流Irによる重金属層2での電圧降下を抑制でき、読み出しの遅延を抑制できる。
【0076】
さらに、磁性積層膜1は、記録層10の強磁性層18と、重金属層2との間に、厚さが0.7nm以下のHf層17を有するようにすることで、強磁性層18の飽和磁化Msが熱処理により増大するのを抑制でき、その結果、書き込み電流密度の上昇も抑制できるので、記録層10の書き込み効率を向上できる。また、磁性積層膜1は、Hf層17の挿入によって、記録層10の強磁性層18の垂直磁気異方性が増大し、膜面に対して垂直方向に磁化し易くなり、強磁性層18の熱的安定性を向上できる。
【0077】
(2)第2実施形態の磁性積層膜
(2-1)第2実施形態の磁性積層膜の構成
図1A、
図1Bと同じ構成には同じ符号を付した
図6A、
図6Bに示すように、第2実施形態の磁性積層膜1aは、第1実施形態の磁性積層膜1とは重金属層2aの構成が異なる。他の構成は、第1実施形態の磁性積層膜1と同じなので、以下では、重金属層2aを中心に説明する。
【0078】
第2実施形態の重金属層2aは、第1実施形態の重金属層2とは異なる材料が形成されている点で異なる。重金属層2aは、α相のタングステン-タンタル合金(以下、α相W1-xTaxと表す。但し、Xは原子比率である。)で形成され、体心立方格子構造(bcc)をしている。α相W1-xTaxの組成は、0.08≦X≦0.43、好ましくは0.12≦X≦0.33、より好ましくは0.15≦X≦0.30、さらに好ましくは0.23≦X≦0.28である。
【0079】
重金属層2aをこのような組成のα相W1-xTaxで構成することで、α相タングステンやプラチナ、β相タンタルで構成された従来の重金属層よりも、重金属層2aのスピン生成効率(θSH)を向上でき、その結果、書き込み電流密度を減少でき、記録層10の書き込み効率を向上できる。また、α相W1-xTaxの比抵抗は30μΩcm未満であり、従来のβ相タンタルなどの比抵抗(およそ300μΩcm程度)と比較して比抵抗が低いので、重金属層2aでの電圧降下を小さくでき、読み出しの遅延を抑制できる。なお、α相W1-xTaxで構成された重金属層2aは、一部がアモルファスであってもよい。
【0080】
また、α相W1-xTaxへのB(ホウ素)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)、P(リン)などの少なくとも1つ以上の添加により、外因性の機構によるθSHを向上でき、その場合、比抵抗も増大できる。したがって、重金属層2aの所望のθSHと比抵抗を、これら不純物をα相W1-xTaxへ添加することで設計可能となる。
【0081】
重金属層2aの膜厚(z方向の長さ)は、2.5nm以上10nm以下とするのがよい。上記の組成範囲のα相W1-xTaxを形成できるので、膜厚が2.5nm以上であることが望ましい。また、あまり厚くすると反転効率が低下するので、膜厚は10nm以下であるのが望ましい。
【0082】
α相W1-xTaxでなる重金属層2aは、β相W1-xTaxでなる重金属層2と同様の方法を用い、成膜時のガス圧をβ相W1-xTaxで作製する場合より低下させることで作製することができる。W1-xTaxは、膜厚と組成(タンタルの混合割合)との組み合わせによってもα相となるかβ相となるか決まるので、組成と膜厚でなる相図を予め作成しておくことで、α相とβ相を作り分けることができる。また、第2実施形態の磁性積層膜1aは、第1実施形態の磁性積層膜1と同様に、磁気メモリ素子としての垂直磁化タイプのSOT-MRAM素子に用いることができる。
【0083】
(2-2)作用及び効果
以上の構成において、第2実施形態の磁性積層膜1aは、磁気メモリ素子用の積層膜であって、α相W1-xTax(0.08≦x≦0.43)で構成された重金属層2aと、反転可能な磁化M10を有する強磁性層18を含み、重金属層2aと隣接する記録層10とを備えるように構成した。
【0084】
よって、磁性積層膜1aは、重金属層2aがα相W1-xTax(0.08≦x≦0.43)で構成されているので、スピン生成効率がα相タングステンやプラチナ、β相タンタルで形成された従来の磁性積層膜よりも高く、その分書き込み電流密度を小さくでき、磁気メモリ素子100の書き込み効率を向上できる。また、重金属層2aの比抵抗も従来より低く、読み出し電流Irによる電圧降下を抑制でき、読み出しの遅延を抑制できる。
【0085】
さらに、磁性積層膜1aは、記録層10の強磁性層18と、重金属層2aとの間に、厚さが0.7nm以下のHf層17を有するようにすることで、記録層10の強磁性層18の飽和磁化Msが熱処理により増大するのを抑制でき、その結果、書き込み電流密度の上昇も抑制できるので、記録層10の書き込み効率を向上できる。また、磁性積層膜1aは、Hf層17の挿入によって、記録層10の強磁性層18の垂直磁気異方性が増大し、膜面に対して垂直方向に磁化し易くなり、強磁性層18の熱的安定性を向上できる。
【0086】
(3)変形例
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0087】
(変形例1)
上記の第1実施形態では、記録層10の強磁性層18が面内方向に対して垂直な方向で反転可能な磁化を有する磁性積層膜1について説明したが、本発明はこれに限られず、記録層の強磁性層が面内方向で反転可能な磁化を有していてもよい。この場合、強磁性層が面内方向に磁化容易軸を有するようにする。例えば、上面から見た記録層の形状を長方形や楕円形など長手方向と短手方向を有する形状とする。このようにすると、強磁性層の面内に、形状磁気異方性により記録層の長手方向に沿った磁化容易軸ができる。その結果、強磁性層の磁化が面内方向(磁化容易軸方向)を向くようになり、強磁性層の磁化が面内方向で反転可能になる。
【0088】
このような面内方向に磁化反転可能な記録層を有する変形例1の磁性積層膜を用いて面内磁化タイプのSOT-MRAM素子を作製できる。
図1A、
図1Bと同じ構成には同じ符号を付した
図7A、
図7B、
図8A、
図8Bに、変形例1の磁性積層膜を用いた磁気メモリ素子100c、100dを示す。
図7Aは、磁気メモリ素子100cの上面を示す概略図であり、
図7Bは、磁気メモリ素子100dの上面を示す概略図である。そして、
図8Aは、
図7Aに示した磁気メモリ素子100cのA-A’断面を示す概略図であり、
図8Bは、
図7Bに示した磁気メモリ素子100dのB-B’断面を示す概略図である。
【0089】
図7Aに示す磁気メモリ素子100cは、MTJが上面から見た形状が長方形状(直方体形状のMTJ)に成型されており、MTJの長手方向が重金属層2の長手方向に対して垂直となるようにMTJが配置されている。そのため、磁気メモリ素子100cは、記録層10cの強磁性層が、形状磁気異方性により、面内方向に磁化しており、強磁性層の磁化M10cの方向が、重金属層2の長手方向(書き込み電流Iwが流れる方向)に対して垂直(
図7A中に矢印A1で示す方向)である。
【0090】
図7Bに示す磁気メモリ素子100dは、MTJが上面から見た形状が長方形状(直方体形状のMTJ)に形成されており、MTJの長手方向が重金属層2の長手方向に対して平行となるようにMTJが配置されている。そのため、磁気メモリ素子100dは、記録層10dの強磁性層が、形状磁気異方性により、面内方向に磁化しており、強磁性層の磁化M10dの方向が、重金属層2の長手方向(書き込み電流が流れる方向)と平行(
図7B中に矢印A2で示す方向)である。
【0091】
なお、面内磁化タイプの磁気メモリ素子では、強磁性層の磁化の反転可能な方向(磁化容易軸の方向)を、重金属層2を流れる書き込み電流の方向と平行な方向又は反平行な方向からずれている方が高速でなおかつ外部磁場発生装置が不要となるためより好ましい。例えば、記録層の強磁性層が、面内方向に磁化し、磁化の方向が書き込み電流Iwの方向に対して5度~45度の方向であるようにし、その方向に反転可能にするのが好ましい。
【0092】
図8Aに示す磁気メモリ素子100cは、磁性積層膜1cの記録層10cに隣接して、障壁層11c、参照層12c、反強磁性層21、キャップ層19の順に形成されており、記録層10c、障壁層11c、参照層12c、反強磁性層21及びキャップ層19でMTJを構成している。磁気メモリ素子100cは、第1実施形態の磁気メモリ素子100とは、記録層10cがHf層を有していない点、記録層10cの強磁性層の磁化M10c及び参照層の強磁性層14c、16cの磁化M14c、M16cが、面内方向で、重金属層2を流れる書き込み電流Iwの方向(
図8Aでは紙面奥側から紙面手前側に向かう方向)と垂直な方向に磁化している点、反強磁性層21を有している点で異なる。他の構成は、第1実施形態の磁気メモリ素子100と同じである。
【0093】
反強磁性層21は、参照層12cの磁化方向を固定するために設けている。反強磁性層21は、例えば、Ir-Mn、Pt-Mn及びNi-Mnなどの反強磁性体でなり、厚さが5nm~15nm程度に形成されている。参照層12c上に反強磁性層21を設けることで、反強磁性層21と接する参照層12cの強磁性層16cの磁化M16cの向きが、反強磁性層21を構成する反強磁性体による反強磁性相互作用によって、強磁性層16cの面内の所定方向に固着される。その結果、強磁性層16cの磁化M16cと層間相互作用により反強磁性的に結合している強磁性層14cの磁化M14cの向きが、強磁性層14cの面内で磁化M16cと反平行な方向に固定される。磁化M14c及び磁化M16cの磁化方向は、磁場中で熱処理することにより、磁化M14c及び磁化M16cをその磁場の方向又はその磁場と反平行な方向に固定することができる。このように、反強磁性層21は、参照層12cの磁化方向を所定方向に固定する。本実施形態では、反強磁性層21は、記録層10cの強磁性層の磁化容易軸方向と概ね平行又は反平行となるように、磁化M14c、磁化M16cを磁場中熱処理により固定している。なお、反強磁性層21を用いなくてもよく、第1実施形態の様に、強磁性層14と強磁性層16との間の層間相互作用によって磁化方向を固定するようにしてもよい。
【0094】
図8Bに示す磁気メモリ素子100dは、磁性積層膜1dの記録層10dに隣接して、障壁層11d、参照層12d、反強磁性層21、キャップ層19の順に形成されており、記録層10d、障壁層11d、参照層12d、反強磁性層21及びキャップ層19でMTJを構成している。磁気メモリ素子100dは、上記の磁気メモリ素子100cとは、記録層10dの強磁性層の磁化M10d及び参照層の強磁性層14d、16dの磁化M14d、M16dが、面内方向で、重金属層2を流れる書き込み電流Iwの方向(
図8Bでは紙面左側から紙面右側に向かう方向)と垂直な方向に磁化している点で異なる。他の構成は、磁気メモリ素子100cと同じである。なお、磁気メモリ素子100dは、図示しない磁場発生装置を磁気メモリ素子100d近傍に備えており、記録層10の強磁性層の磁化M10dを反転させるとき、すなわち、書き込み動作時、磁場発生装置により+z方向又は-z方向(重金属層2のMTJが形成された面と直交する方向)の磁場を磁気メモリ素子100dに印加する必要がある。
【0095】
このように、磁性積層膜1c、1dは、第1実施形態と同じ組成のβ相W1-xTaxで形成された重金属層2を有するので、第1実施形態の磁性積層膜1と同様に、磁気メモリ素子100c、100dの書き込み効率を向上できる。なお、磁性積層膜1c、1dは、重金属層2のかわりに、第2実施形態と同じ組成のα相W1-xTaxで形成された重金属層2aを備えていてもよく、同様の効果を奏する。
【0096】
(変形例2)
上記の実施形態では、磁性積層膜1が1つの重金属層2に1つの記録層10を備え、磁気メモリ素子100が1つの重金属層2に1つのMTJを備えた場合について説明してきたが、本発明はこれに限られない。例えば、
図9に示す磁性積層膜1001の様に、1つの重金属層2に複数の記録層10を備えていてもよく、磁気メモリ素子1000のように、1つの磁気メモリ素子が複数のMTJ(
図9の場合はn個)を備えていてもよい。磁気メモリ素子1000のMTJの構成は、磁気メモリ素子100のMTJの構成と同様である。
図9では、便宜上、記録層10のHf層の図示を省略している。
【0097】
このような磁気メモリ素子1000の書き込み方法について説明する。初期状態として、重金属層2の第1端子T1に接続された第1トランジスタTr1と、各MTJの第3端子T3に接続された第3トランジスタTr3とがすべてオフであるとする。まず、各MTJの第3トランジスタTr3をすべてオンにし、各MTJの記録層10の磁気異方性を小さくする。次いで、書き込み電圧Vwを正の電圧に設定し、第1トランジスタTr1をオンにし、書き込み電流Iwを第1端子T1から第2端子T2へ流す。これにより、すべてのMTJに“0”が一括して書き込まれる。その後、すべての第3トランジスタTr3オフにし、第1トランジスタTr1をオフにする。
【0098】
次いで、“1”を書き込みたいMTJの第3トランジスタTr3をオンにして書き込むMTJを選択する。その後、書き込み電圧Vwを負の電圧にし、第1トランジスタTr1をオンにし、第2端子T2から第1端子T1へ書き込み電流Iwを流す。第3トランジスタTr3をオンにしたMTJのみ記録層10の磁気異方性が小さいので、磁化反転する。その結果、選択したMTJにのみ1が書き込まれる。その後、すべての第3トランジスタTr3オフにし、第1トランジスタTr1をオフにして書き込み動作を終了する。なお、すべてのMTJに一括して1を書き込んだ後、選択したMTJのみ“0”を書き込むようにしてもよい。また、読み出し動作は、第1トランジスタTr1をオンにした後、読み出したいMTJの第3トランジスタをオンにし、読み出したいMTJに読み出し電流Irを流すことで行う。その後の読み出し動作は、第1実施形態と同じであるので、説明は省略する。
【0099】
磁気メモリ素子1000では、磁性積層膜1001の各記録層10の強磁性層の磁化方向が面内方向に対して垂直であり、MTJが垂直磁化タイプのSOT-MRAM素子であるが、磁性積層膜の各記録層の磁化方向を面内方向とし、MTJを面内磁化タイプのSOT-MRAM素子としてもよい。磁気メモリ素子1000のMTJは、垂直磁化タイプ又は面内磁化タイプに揃える方が好ましいが、垂直磁化タイプと面内磁化タイプが混載されていてもよい。
【0100】
このように、磁性積層膜1001は、第1実施形態と同じ組成のβ相W1-xTaxで形成された重金属層2を有するので、スピン生成効率が従来よりも高く、書き込み効率を向上できる。なお、磁性積層膜1001は、重金属層2のかわりに、第2実施形態と同じ組成のα相W1-xTaxで形成された重金属層2aを備えていてもよく、同様の効果を奏する。また、複数の磁気メモリ素子1000を配列することで、磁気メモリを構成することもできる。
【0101】
(検証実験)
(検証実験1)
検証実験1では、β相W
1-xTa
xで形成された重金属層を有する磁性積層膜のスピン生成効率θ
SHを調べるために、β相W
1-xTa
xの組成を変えて
図10Aに示す構成の磁性積層膜を作製した。検証実験1の磁性積層膜では、記録層としてのCoFeB層上に障壁層としてMgOを作製し、磁気メモリ素子として用いた場合に近い状態にしている。さらにMgO層上にTa層をキャップ層として形成し、大気中の酸素などによりMgO層の状態が変化することを抑制している。このような検証実験1の磁性積層膜は、表面に自然酸化膜であるSiO
2層が形成されたSi基板上に、rfマグネトロンスパッタにより各層を順次製膜していくことで作製した。
【0102】
β相W1-xTax層は、タングステン層(0.32nm、アルゴンガス圧2.55Paで成膜)とタンタル層(0.08、0.16、0.32nm、アルゴンガス圧0.39Paで成膜)とを交互に積層し、磁性積層膜のキャップ層を積層後、300℃で熱処理することで作製した。タンタル層の膜厚を変えることで、W0.75Ta0.25、W0.77Ta0.33、W0.5Ta0.5の3つの組成のβ相W1-xTax層を作製した。また、比較のために、同様の手法によりタングステンでなる重金属層を有する磁性積層膜も作製した。
【0103】
作製した磁性積層膜のスピン生成効率θ
SHを、スピンホール磁気抵抗効果(SMR:Spin Hall Magnetoresistance)を測定することで求めた。その結果を
図10Bに示す。
図10Bは、横軸が組成(Taの含有割合)、縦軸がスピン生成効率の絶対値|θ
SH|である。
図10Bを見ると、Xが0.3以下であれば、タングステン層(X=0)よりもスピン生成効率が大きい。書き込み電流密度はスピン生成効率の大きさに反比例するので、β相W
1-xTa
xの組成を0.00<X≦0.30とすることで、書き込み電流密度を減少でき、書き込み効率を向上できることができることが確認できた。さらに
図10Bに示すように、β相W
1-xTa
xの組成は、好ましくは0.10≦X≦0.28、より好ましくは0.17≦X≦0.25とするのが、スピン生成効率をさらに上昇でき、より書き込み効率を向上できるので、好ましい。さらには、スピン生成効率は、0.25付近でピークをもつので、β相W
1-xTa
xの組成を0.20≦X≦0.25とすると、最も書き込み効率を向上でき、特に好ましいことが確認できた。
【0104】
(検証実験2)
検証実験2では、α相W
1-xTa
xとβ相W
1-xTa
xとの相図を作製するために、W
1-xTa
xの膜厚と組成を変えて種々の磁性積層膜を検証実験1と同様の方法で作製した。作製した磁性積層膜の構造は
図10Aに示した磁性積層膜と同様である。組成の変え方は検証実験1と同じであり、膜厚は、W/Ta積層膜の積層回数を変えることで、調整した。その後、作製した磁性積層膜の抵抗値及びスピンホール磁気抵抗比を測定し、組成ごとに、相転移する膜厚を特定した。スピンホール磁気抵抗比は、SMR測定により求めた。また、比較のために、同様の手法によりタングステンでなる重金属層を有する磁性積層膜も膜厚を変えて作製した。
【0105】
抵抗の測定結果を
図11Aに示し、スピンホール磁気抵抗比の測定結果を
図11Bに示す。
図11Aは、横軸がW
1-xTa
x層の膜厚であり、縦軸がコンダクタンスである。
図11Aを見ると、膜厚とコンダクタンスの比例関係が変わっている点(
図11A中の黒矢印)があることが分かる。α相W
1-xTa
xの方がβ相W
1-xTa
xより比抵抗が低いことから、この点が相転移点であり、膜厚が厚くなるとβ相W
1-xTa
xからα相W
1-xTa
xに相転移していることが確認できる。一方、タングステンを重金属層としたときは、膜厚とコンダクタンスの比例関係が膜厚によって変わらず、相転移していないことが分かる。また
図11Bにおいても、W
1-xTa
xでは、スピンホール磁気抵抗比が急激に小さくなっている膜厚があり、その膜厚が転移点である。スピンホール磁気抵抗比の結果においても、タングステンを重金属としたときは相転移していないことが分かる。
【0106】
このようにして求めた転移点に基づいて、相図を作製した。その結果が
図12である。
図12の横軸はW
1-xTa
xの組成であり、縦軸はW
1-xTa
x層の膜厚である。
図12では、組成を百分率で示している。このようにして作成した相図を用いて、α相W
1-xTa
x層とβ相W
1-xTa
x層とを作り分けることができる。なお、X=0のときは、膜厚によらずタングステンである。また、検証試験2の相図はβ相を作製しやすい成膜条件を用いて作成したあくまでも一例であり、W
1-xTa
xの成膜条件によっては、α相とβ相の間の膜厚の転移点が
図12と異なる場合がある。例えば、W
1-xTa
x成膜時のアルゴンガス圧をタングステン層0.39Pa、タンタル層0.13Paとすることで、厚さが2.5nmのα相W
1-xTa
xを作製することができる。
【0107】
(検証実験3)
検証実験3では、α相W
1-xTa
xで形成された重金属層を有する磁性積層膜のスピン生成効率θ
SHを調べるために、α相W
1-xTa
xの組成を変えて
図13Aに示す構成の磁性積層膜を作製した。検証実験3の磁性積層膜では、検証実験1と同様に、記録層としてのCoFeB層上に障壁層としてMgOを作製し、磁気メモリ素子として用いた場合に近い状態にしている。さらにMgO層上にTa層をキャップ層として形成している。このような検証実験3の重金属積層膜は、DCスパッタを用いた点、タングステンとタンタルを同時スパッタして成膜し、成膜時のアルゴンガス圧が0.13Paである点以外は検証実験1と同様の方法で作製した。検証実験3では、W
0.87Ta
0.13、W
0.75Ta
0.25、W
0.77Ta
0.33、W
0.5Ta
0.5の4つの組成のα相W
1-xTa
x層を作製した。また、比較のために、同様の手法によりタングステンでなる重金属層を有する磁性積層膜も作製した。
【0108】
作製した磁性積層膜のスピン生成効率θ
SHを検証実験1と同様の方法で求めた。その結果を
図13Bに示す。
図13Bは、横軸が組成(Taの含有割合)、縦軸がスピン生成効率の絶対値|θ
SH|である。
図13Bを見ると、0.08≦X≦0.43であれば、タングステン層(X=0)及び従来から重金属層に使われているβ相タンタルよりもスピン生成効率が大きく、α相W
1-xTa
xの組成を0.08≦X≦0.43とすることで、書き込み効率を向上できることができることが確認できた。さらに
図13Bに示すように、α相W
1-xTa
xの組成は、好ましくは0.12≦X≦0.33、より好ましくは0.15≦X≦0.30とするのが、スピン生成効率がさらに上昇でき、より書き込み効率を向上できるので、好ましい。さらには、スピン生成効率は、0.25付近でピークをもつので、α相W
1-xTa
xの組成を0.23≦X≦0.28とすると、最も書き込み効率を向上でき、特に好ましいことが確認できた。
【0109】
(検証実験4)
検証実験4では、記録層の強磁性層と重金属層の間にHf層を有することの効果を確認するために、SiO2が表面に形成されたSi基板上に、Ta(1.0nm)、β相W0.75Ta0.25(5.0nm)、Hf(0.3nm又は0.7nm)、CoFeB(1.1nm~1.9nm)、MgO(1.5nm)、Ta(1.0nm)をこの順でrfスパッタにより成膜し、400℃で熱処理して磁気メモリ素子を作製した。極薄のタングステン層及びタンタル層を成膜時のアルゴンガス圧は、検証実験1と同じである。比較のために、Hf層を有さない点以外上記と同じ構造の磁気メモリ素子を作製した。作製した磁気メモリ素子の磁気異方性定数Keffと強磁性層の実効膜厚t*の積と、飽和磁化MsをVSM(Vibrating Sample Magnetometer:振動試料型磁力計)で評価した。
【0110】
VSMで評価した磁気異方性定数Keff、飽和磁化Msの結果を、
図14Aと
図14Bに示す。
図14Aの横軸はHf層の膜厚で、縦軸は磁気異方性定数Keffに強磁性層の膜厚t
*を掛けた値であり、Hf層を有さないときの値との差分で表している。
図14Bは、横軸がHf層の膜厚であり、縦軸が飽和磁化Msである。
【0111】
図14Aを見ると、Hf層を有することで垂直磁気異方性が増大していることが分かる。よって、Hf層を有することによって記録層の強磁性層の垂直磁気異方性が増大し、膜面に対して垂直方向に磁化し易くなり、より強磁性層が厚い領域まで垂直磁化膜を作製することができるため、強磁性層の熱的安定性を向上できることが確認できた。また、
図14Bを見ると、Hf層を有することで、飽和磁化Msが小さくなっている。すなわち、熱処理による飽和磁化Msの増大が抑制されていることが分かる。よって、Hf層を有することで、記録層の強磁性層の飽和磁化Msが増大するのを抑制でき、その結果、書き込み電流密度の上昇も抑制できるので、記録層の書き込み効率を向上できる。また、Hf層17は、厚さが0.7nm以下に形成されるのが好ましいことが確認できた。
【符号の説明】
【0112】
1、1a、1c、1d、1001 磁性積層膜
2、2a 重金属層
10、10c、10d 記録層
11、11c、11d 障壁層
12、12c、12d 参照層
100、100a、100c、100d、102、1000 磁気メモリ素子
Iw 書き込み電流
Ir 読み出し電流