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  • 特許-数値情報の表現方法 図1
  • 特許-数値情報の表現方法 図2
  • 特許-数値情報の表現方法 図3
  • 特許-数値情報の表現方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】数値情報の表現方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
G01N21/65
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021501975
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020006015
(87)【国際公開番号】W WO2020171010
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2023-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2019028939
(32)【優先日】2019-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】300076068
【氏名又は名称】福岡 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100098969
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 正行
(72)【発明者】
【氏名】福岡 隆夫
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0038979(US,A1)
【文献】米国特許第06861263(US,B2)
【文献】並河 英紀他,金属ナノ構造による局在プラズモン増強場の制御,光学,2009年,Vol.38/No.9,PP.462-469
【文献】FUKUOKA et al.,Application of Gold Nanoparticle Self-assemblies to Unclonable Anti-counterfeiting Technology,ICEP-IAAC 2015 Proceedings,2015年,TD3-4,PP.432-435
【文献】LI et al.,Multidimensional SERS Barcodes on Flexible Patterned Plasmonic Metafilm for Anticounterfeiting Appli,ADVANCED OPTICAL MATERIALS,2016年10月,Vol.4/Iss.10,PP.1475-1480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SERS信号と数値情報を関連付けておくとともに、
平均直径100nm以下の貴金属ナノ粒子の拡散律速凝集又は移流集積による自己集合体である凝集体と、前記凝集体の表面もしくは近傍に存在し、SERSを発現するラマン活性な化学物質と
を含む一種類または二種類以上のナノタグを対象物の一または二以上の部位に付与し、付与されたナノタグにレーザーを照射し、照射によって発現するSERS信号を読み取り、そのSERS信号から前記関連付けに基づいて数値情報を取得することを特徴とする、数値情報の表現方法。
【請求項2】
前記ナノタグが、貴金属ナノ粒子の凝集体の分散系にラマン活性な化学物質を加えるか、またはラマン活性な化学物質を含む溶液に凝集する貴金属ナノ粒子を加えて分散系とすることにより調合されるナノタグインキに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザーが、前記ナノタグの局在表面プラズモン共鳴波長と重なる波長を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記対象物に前記ナノタグを付与する手段が、前記ナノタグインキを前記対象物に印刷、吐出、塗布、吹きつけ、または注入する工程を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ナノタグインキの量が、前記対象物の一部位あたり1μL以下である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記化学物質が、色素である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記化学物質が、可視光線を透過するものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノタグの種類の数をn、ナノタグを対象物に付与する部位の数をkとするとき、前記数値情報がn+1個の種類の数をk桁の各位に並べて表される数に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
平均直径100nm以下の貴金属ナノ粒子の拡散律速凝集又は移流集積による自己集合体である凝集体と、
前記凝集体の表面もしくは近傍に存在し、SERSを発現するラマン活性な化学物質と
を含み、対象物に付与されて数値情報を表現するために用いられることを特徴とするナノタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、数値情報を表現する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報化社会において物品に数値情報を付与して識別管理する必要が増加している。多様な物品に数値情報をラベルするとき、その情報を管理するには微小ないわゆるナノサイズの素子の利用が好ましい。
谷口紀男が「ナノテクノロジー」という用語を提唱してから40年の後、K. E. Drexlerは原子レベルの精密さを持った大量生産を「進化したナノテクノロジー」と位置づけ、ナノ粒子の自己集合に重要な役割があると指摘した。
【0003】
自己集合して機能を発現するナノ粒子としては金ナノ粒子や銀ナノ粒子などの貴金属ナノ粒子が知られている。例えば、金ナノ粒子のコロイド液は凝集していない状態では鮮やかな赤色を示すが、凝集するとその凝集の程度に応じて青紫色を呈するようになる。
凝集した貴金属ナノ粒子は表面増強ラマン散乱(SERS)を発現し(非特許文献1)、SERSはセンサーやビーコンへの用途が期待されている。この現象は、貴金属ナノ粒子凝集体に生じる局在プラズモン共鳴の電場増強作用によって説明され(非特許文献2)、また吸収スペクトルを取得することで、凝集体の状態についての情報を得ることができる(非特許文献3)。そこで、貴金属ナノ粒子の凝集を利用してSERSを発現させるためには、自己集合化を適切に制御することが重要である。その手段として、コロイド液中の拡散律速凝集で自己集合的に生成させる凝集体(特許文献1、非特許文献4)や移流集積を用いた自己集合化ナノ粒子(特許文献2、非特許文献5)が提案されている。
【0004】
ナノ粒子からでも検出が可能なほど強い光シグナルを発するSERSの特長を利用して、SERSを発するラマン活性な化学物質をあらかじめナノ粒子に付与しておき、そのSERSの有無を検知することで、そのナノ粒子をタグや情報素子として利用することが種々提案されている。例えば、接合部を持つナノロッド構造(非特許文献6)、マイクロカプセルに封入した貴金属ナノ粒子(特許文献3、非特許文献7)、ナノワイヤ基板のパターン(非特許文献8)、ナノキューブ粒子からなるフィルムのパターン(非特許文献9)、ゲルに封入した貴金属ナノ粒子(非特許文献10)、高度に制御された貴金属ナノ粒子の分散液(特許文献4、非特許文献11)などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4772273号公報「物質の分析方法」
【文献】特開2016-99113号公報「表面増強ラマン測定方法および表面増強ラマン測定装置」
【文献】米国特許第9726609号公報“Wavelength selective SERS nanotags”
【文献】特開2015-165193号公報「ナノビーコンおよびそれを用いた偽造防止技術」
【非特許文献】
【0006】
【文献】Raman spectra of pyridine adsorbed at a silver electrode, M. Fleischmann, P. J. Hendra, and A. J. McQuillan, Chem. Phys. Lett., 26 (2), 163-166(1974).
【文献】Why and how do the shapes of surface- enhanced Raman scattering spectra change? Recent progress from mechanistic studies, Y. S. Yamamoto, T. Itoh, J. Raman Spectrosc., 47, 78-88(2016).
【文献】プラズモンを用いたナノ粒子の観測技術, 福岡隆夫, 森康維, 粉体工学会誌, 44(1), 546-553(2007).
【文献】金ナノ粒子のボトムアッププロセスで表面増強ラマン散乱活性なナノセンサー/ナノビーコンを造る, 福岡隆夫, 山口明啓, 内海裕一, 倉本亮介, 森康維, 分析化学, 66(12), 919 (2017).
【文献】Surface-enhanced Raman Spectroscopy Using a Coffee-ring-type Three-dimensional Silver nanostructure, R. Hara, T. Fukuoka, R. Takahashi, Y. Utsumi and A. Yamaguchi, RSC Adv., 5(2), 1378-1384(2015).
【文献】Nanodisk Codes, L. D. Qin, M. J. Banholzer, J. E. Millstone, C. A. Mirkin, Nano. Lett., 7(12), 3849-3853(2007).
【文献】Surface-enhanced Raman spectroscopy and homeland security: A perfect match?, R. S. Golightly, W. E. Doering, and M. J. Natan, ACS Nano, 3(10), 2859-2869(2009).
【文献】Multiplex Plasmonic Anti-counterfeiting Security Labels Based on Surface-enhanced Raman Scattering, Y. Cui, I. Y. Phang, Y. H. Lee, M. R. Lee, Q. Zhang, and X. Y. Ling, Chem. Commun., 51(25), 5363-5366(2015).
【文献】Multidimensional SERS Barcodes on Flexible Patterned Plasmonic Metafilm for Anticounterfeiting Applications, D. Li, L. Tang, J. Wang, X. Liu, and Y. Ying, Adv. Opt. Mater. 4, 1475-1480 (2016).
【文献】Plasmonic Nanogels for Unclonable Optical Tagging, L. Tian, K. K. Liu, M. Fei, S. Tadepalli, S. Cao, J. A. Geldmeier, V. V. Tsukruk, and S. Singamaneni, ACS Appl. Mater. Interfaces, 8(6), 4031-4041(2016).
【文献】Application of Gold Nanoparticle Self-Assemblies to Unclonable Anti-Counterfeiting Technology, T. Fukuoka, A. Yamaguchi, R. Hara, T. Matsumoto, Y. Utsumi, Y. Mori, 2015 International Conference on Electronics Packaging and iMAPS All Asia Conference (ICEP-IAAC 2015) Proceedings, 432-435, 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらSERS活性ナノ構造体を、物品等の対象物に付与される数値情報として用いるためには、同構造体製造の容易さ、同構造体の安定性、SERS信号の読み取り易さ、及びSERS信号から多種類の数値情報を表す技術が必要である。
しかし、これらをすべて満たす技術はまだ登場していない。例えば、超高感度なSERS信号の有無をデジタル的に扱う技術を開示した非特許文献9でさえ、構造体を微粒子化することは記載されていない。
それ故、SERS活性ナノ構造体の特長を活かし、多種類の数値情報を表現する技術が強く求められる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、この発明の数値情報の表現方法は、
SERS信号と数値情報を関連付けておくとともに、
平均直径100nm以下の貴金属ナノ粒子の自己集合体である凝集体と、前記凝集体の表面もしくは近傍に存在し、SERSを発現するラマン活性な化学物質と
を含む一種類または二種類以上のナノタグを対象物の一または二以上の部位に付与し、付与されたナノタグにレーザーを照射し、照射によって発現するSERS信号を読み取り、そのSERS信号から前記関連付けに基づいて数値情報を取得することを特徴とする。
【0009】
前記凝集体は、自己集合体であって平均直径100nm以下の貴金属ナノ粒子が凝集したものであればよい。前記化学物質は、前記凝集体の表面もしくは近傍に存在することが必須であり、凝集体内の個々の貴金属ナノ粒子の表面もしくは近傍にも存在すれば好ましい。
前記ナノタグを対象物に付与するには、貴金属ナノ粒子の凝集体の分散系にラマン活性な化学物質を加えるか、またはラマン活性な化学物質を含む溶液に凝集する貴金属ナノ粒子もしくはその含有液を加えて分散系とするなどしてナノタグインキを合成し、このナノタグインキを対象物に印刷、吐出、塗布、吹きつけ、注入などした後、インキ中の不要な溶媒を除去することで実現できる。溶媒はSERS信号を読み取ることができる程度に除去されていればよい。組み合わせる貴金属と化学物質とは各々一種類でも複数種類でもよい。一種類であっても、そのナノタグの有無から数値情報を得ることができるし、複数種類であれば複数種類のナノタグが対象物に形成されるので、ナノタグの有無に加えて各ナノタグから異なるSERS信号を観測することにより多種類の数値情報を得ることができる。
[発明の効果]
【発明の効果】
【0010】
対象物に付与されるナノタグが、貴金属ナノ粒子の凝集体とラマン活性な化学物質を含むものであれば足りることから、対象物が小さかったり、歪な形を有していたりしてもよく、多種多様な物品等に数値情報を付与して物品等を効率良く識別・管理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】三種類のラマン活性な化学物質を用意して、三種類の貴金属ナノ粒子のコロイド溶液を合成して得た三種のナノタグインキA、B、DのSERSスペクトルの例である。
図2】対象物の複数の異なる部位に付与されたナノタグのイメージを表す模式図である。
図3図2の対象物のナノタグをレーザーでスキャンしたときに観測されるSERSスペクトルからなる一連の情報を示す。
図4】二種類のナノタグインキA、Bを各々マイクロピペットで紙の異なる部位に吐出し、その部位を含む線上にレーザーを照射したときに、そのナノタグインキが吐出された部位a、bから観測されたSERSスペクトル、および吐出されていない部位cから観測されたラマンスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
表面増強ラマン散乱(SERS)は、特有の局在プラズモン共鳴波長を有する貴金属ナノ粒子の近傍にあるラマン活性な化学物質のラマン散乱強度が、特有の局在プラズモン共鳴波長に対応した波長のレーザーで励起したときに著しく増感する現象である。特許文献1、2、3および非特許文献4、5、6にはSERSを発現する貴金属ナノ粒子の例が開示されている。前記貴金属ナノ粒子の凝集体は、拡散律速凝集や移流集積などで形成される金コロイドまたは銀コロイドの自己集合体である。製造が容易であるうえ、ナノタグインキとして保管、運搬、吐出、印刷などの工程で取り扱いやすいからである。
【0013】
特徴的なSERSを発するラマン活性な化学物質は限定されず、例えば特許文献3や非特許文献8などの前記先行技術文献に開示されているものや、国立研究法人産業技術総合研究所の「有機化合物のスペクトルデータベースSDBS」に登録されているものであってよい。化学物質としてローダミン6Gのような色素を用いればナノタグインキも着色し、対象物に付与させたときにナノタグの付与部位を視認できる利点がある。また逆に、4,4‘-ビピリジンのような非色素を用いれば、対象物に付与させたときにナノタグの視認が困難となり秘匿性が増す利点がある。
【0014】
ラマン活性な化学物質を貴金属ナノ粒子と共存させるタイミングは限定されないが、強いSERSを発現するホットスポットが粒子間隙に現れることが知られているので、ホットスポットにラマン活性な化学物質が入りやすいように、金コロイドまたは銀コロイドの自己集合過程のタイミングで共存させるのが望ましい。
【0015】
ナノタグインキを吐出あるいは印刷等で物品等の対象物に付与する方法は限定されず、一般的なナノ粒子や顔料を含む液体に用いられるディスペンサー、インクジェットプリントなどの公知の技術を利用することができる。対象物の表面に付与してもよく、対象物の内部に付与してもよい。内部に付与するには、注射器等で注入しても良いし、対象物の原料の少なくとも一部にポリマーを用いる場合は重合段階や硬化段階でナノタグインキを混入させておいてもよい。
ナノタグを対象物の内部に付与するときの深さは、レーザー波長およびラマン散乱波長とその物品の性質や添加物に依存するので一概に言えないが、ナノタグが存在する深さまでレーザーが達し、かつラマン散乱光を取り出せるのであれば特に限定されない。
【0016】
ナノタグを付与する部位は、対象物のある特定の部位でもよく、また全面でもよい。ラマン分光器の性能に依存するので一概に言えないが、ラマン分光器のレーザースポットの範囲に少なくとも数個のナノタグが含まれていればSERSを観測できるからである。物品のある特定の部位に付与する場合には、レーザーでスキャンして異なる種類のナノタグインキから異なる形のSERS信号を検出するために、ナノタグインキの量が一部位あたり1μL以下であるとよく、0.2μL以下であればより好ましい。1μL以下であれば付与されたナノタグすなわちインキ痕の面積が半径1mm以下となるし、0.2μL以下であれば20μm以下となるからである。全面に付与する場合は、例えば粒子径が50nmの金ナノ粒子の四個が凝集して一個のナノタグを形成する場合には、ナノタグインキ中に金の重量濃度で5ppm程度があれば10μm角内に少なくとも一個以上のナノタグが存在することになり、レーザーのスポット径からして十分である。
【0017】
SERSの発現は、ナノタグの有する局在プラズモン共鳴の状態に依存するので(非特許文献2の図2)、対象物に付与したナノタグにレーザーを照射してSERS信号を読み取るには、SERS測定のレーザーの波長において、あるいはラマン散乱の波長において、ナノタグに由来する見かけの吸光度が大きく、その状態が一定時間安定して存在するのが好ましい。または、ナノタグの有する局在プラズモン共鳴波長と重なる波長のレーザーを選んでもよい。
【0018】
同じ部位に複数種類のナノタグインキを付与することにより、同じ部位に異なる種類のナノタグを共在させてもよい。一般にラマンスペクトルのピークはシャープであり、複数の形のSERS信号のスペクトルが重なってもナノタグの識別は難しくないし、ケモメトリックスにより複雑なスペクトルでも解析することができるからである。
【0019】
その種類のナノタグがその部位にあるかないかは、ナノタグが有するラマン活性な化学物質に由来するSERS信号のスペクトルの形、例えばピークの数、ピークの位置、ピークの強度などから判断することができる。そして、読み取ったSERS信号を、SERS信号と数値情報の関連づけと照合することにより、数値情報を取得することができる。関連づけは、SERS信号と数値情報との直接的な対応関係を示すテーブルであってもよいし、SERS信号の元になるナノタグインキや信号の演算値を介しての間接的な対応関係を示すテーブルであってもよい。
【0020】
複数の部位に異なる種類のナノタグを付与し、その部位を含む範囲をラマン分光器でスキャンすることにより、一連のSERS信号のスペクトルの集まりを得ることができ、そのナノタグがその部位にあるかないかの一連の情報を得ることができる。
【0021】
この一連の情報から、ナノタグの種類の数をn、付与する部位の数をkとすると、あるひとつの部位で、ナノタグを付与しない場合を加えたn+1種類の数を表すことができ、k個の部位で(n+1)のk乗の数を表すことができる。また、同じ部位に異なる種類のナノタグを共在させることができるが、その場合はナノタグの種類が増えたものとして扱えばよい。
本発明の数の表現は、数学のN進法に例えることができる。N進法とは、予め定められたN種類の記号(数字)を桁の数だけ列べることによって数を表す数の表現方法である。同じように、本発明においては、n種類のナノタグのあるなし、すなわちn+1種類の数字をk個列べることによってk桁の数を表現するのである。
【実施例1】
【0022】
0.3mMの塩化金酸から合成した金ナノ粒子(平均粒子径約60nm)コロイド溶液に塩化ナトリウムを濃度50mMとなるように加え、攪拌によるせん断場によって金ナノ粒子を自己集合化させた。前記撹拌中に、ラマン活性な化学物質として2,3-ジアミノナフタレン、4,4’-ビピリジン、1H-1,2,3-トリアゾールをそれぞれ濃度50μM、50nM、50μMとなるように加えることにより、三種類のナノタグインキA、B、Dを合成した。いずれのインキも、700nm~900nmにおける見かけの吸光度が大きな吸収スペクトルが得られていた。
【0023】
このナノタグインキに直接、ラマン分光モジュールC13560(浜松ホトニクス製)で波長785nmのレーザーを200ms照射した。その結果、図1に示すように、加えた化学物質の種類に応じて形の異なるSERS信号のスペクトルが得られ、ナノタグインキAではラマンシフト835、1265、1399、1471cm-1に(図1A)、ナノタグインキBでは1022、1226、1296m-1に(図1B)、ナノタグインキDでは982、1099、1171cm-1に(図1)、ピークが検出された。
[実施例2]
【実施例2】
【0024】
図2は、物品の7点の異なる部位に付与された三種類のナノタグを表す模式図である。図2の記号a、b、c、dはナノタグを付与すべき部位である。このうち、a、b、dにそれぞれナノタグインキA、B、Dに由来する三種類の異なるナノタグを付与している。一方、cには付与していない。eは物品である。物品の一以上の異なる部位に付与されたナノタグのイメージはこのように表される。
【0025】
図3は、図2のナノタグをレーザーでスキャンしたときに観測される一連のSERS信号のスペクトルからなる一連の情報を示す模式図である。図2におけるa、b、c、dの部位を含む範囲をレーザーを照射して、異なる種類のナノタグが付与された部位からは異なる形のSERSスペクトルが観測され、同じ種類のナノタグが付与された部位からは同じ形のSERSスペクトルが観測され、ナノタグインキが付与していない部位からはSERSスペクトルが観測されないことを模式的に表す。このようにして、ある種類のナノタグキがある部位にあるかないかの情報の集まりを得ることができる。
【実施例3】
【0026】
実施例1のナノタグインキA0.1~2μLを紙にマイクロピペットで吐出し、ナノタグインキB0.1~2μLを同じ紙の別の部位に吐出した。その結果、吐出量が多いとナノタグが拡がる痕も数mmと大きくなった。ラマン分光モジュールC13560で予備的に観測したところ、1μL量あれば観測には十分であることがわかった。位置合わせを行えば0.2μL量以下でもスペクトルの取得に問題はなかった。材質の濡れ性に依存するが、ナノタグが拡がる痕の大きさは0.2μL量の場合で半径20μm程度、1μL量の場合で半径1mm程度であった。
【実施例4】
【0027】
実施例3と同じ紙にナノタグインキA、Bを印刷した。実施例2と同じくナノタグインキAの印刷部位をa、ナノタグインキBの印刷部位をb、部位bに隣接して印刷していない部位をcとした。その後、ラマン分光器RAM100S(ラムダビジョン製)を用いて波長785nmのレーザーを一部位あたり200ms照射して、部位a、b、cを含む線上をスキャンし、SERSスペクトルまたはラマンスペクトルを観測した。観測結果を図4に示す。
【0028】
部位aではラマンシフト811、1243、1372、1443cm-1に(図4a)、部位bでは1000、1197、1270cm-1に(図4b)にピークが検出された。そして、約25cm-1のずれをもって実施例1のピーク位置とよく対応していることが確認された。このずれは異なるラマン分光器を補正せずに用いたためであり、あらかじめ装置の特性を把握していれば実施例4のリファレンスに実施例1の結果を採用して問題ない。よって部位aにはナノタグインキに由来するナノタグが、部位bにはナノタグインキに由来するナノタグが付与されていることが示された。また、部位cではピークが検出されず、ナノタグがないことが示された(図4c)。
[実施例5]
【実施例5】
【0029】
本発明のナノタグを用いる数の表し方の一例を示す。例えば二種類のナノタグa(ナノタグインキに由来)およびb(ナノタグインキに由来)をひとつの部位に付与する場合には、n+1=3、k=1であり、二つとも付与されない場合を0、aを付与される場合を1、bを付与する場合を2という具合にナノタグの有無または種類と数値を関連づけておくことにより、三種類の数を表すことができる。部位が三個の場合、000、001、002、010、011、012、020、021、022,100、101、102、110、111、 112、120、121、122、200、201、202、210、211、212、220、221、222と、0~2の数字を三桁列べて、3の3乗すなわち27個の数を表現することができる。
図1
図2
図3
図4