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特許7475064電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHX)ナノ繊維を含む圧電センサ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHX)ナノ繊維を含む圧電センサ
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/00 20060101AFI20240419BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20240419BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240419BHJP
   D01F 6/62 20060101ALI20240419BHJP
   A61N 1/08 20060101ALI20240419BHJP
   A61N 1/37 20060101ALI20240419BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C08J7/00 Z
A61L27/50
A61L27/18
D01F6/62 305Z
A61N1/08
A61N1/37
C08L67/04
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021515560
(86)(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019052291
(87)【国際公開番号】W WO2020061540
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】62/734,360
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512226882
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ デラウェア
(74)【代理人】
【識別番号】100145126
【弁理士】
【氏名又は名称】金丸 清隆
(72)【発明者】
【氏名】ラボルト,ジョン,エフ
(72)【発明者】
【氏名】ゴン,リャン
(72)【発明者】
【氏名】チェイス,ディー,ブルース
(72)【発明者】
【氏名】イサオ,ノダ
(72)【発明者】
【氏名】ソビエスキ,ブライアン
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/104196(WO,A1)
【文献】特開2006-106592(JP,A)
【文献】特表2014-502416(JP,A)
【文献】特開2016-102152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
C08L 67/04
A61L 27/50
A61L 27/18
D01F 6/62
H10N 30/857
H10N 30/045
H10N 30/077
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/60
A61N 1/08
A61N 1/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分極材料を調製するための方法であって、
a)分極可能なポリマー組成物の膜またはシートを提供する工程であって、分極可能なポリマー組成物は、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)ベースコポリマーを含む工程と、
b)膜またはシートを指向的に摂動させて、以下の(i)~(vi)の少なくとも1つによって分極を誘導する工程と;
(i)溶液からキャストされた膜またはシートをカレンダローリングすること、
(ii)溶液からキャストされた膜またはシートを剪断または圧力下で溶融し結晶化すること、
(iii)ゲル状態の分極可能なポリマー組成物から形成された膜またはシートを機械的に引っ張ること、
(iv)結晶化により剪断を誘導するために、ゲル状態の分極可能なポリマー組成物を凍結させること、
(v)膜またはシートの成形時に剪断または圧力を加えること、
および
(vi)溶融状態の分極可能なポリマー組成物から膜またはシートの成形中に電場を印加すること、
を含み、分極ポリマー組成物は、X線回折により測定して約10%~約99%の量で存在するβ型のPHAベースコポリマーを含む、方法。
【請求項2】
分極材料を調製するための方法であって、
a)以下の(i)~(iv)のうちの少なくとも1つを含む分極可能なポリマー組成物の膜またはシートを提供する工程と;
(i)2種以上のポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)コポリマーのポリマーブレンドであって、かつ、前記2種以上のPHBHxコポリマーはそれぞれ異なるコモノマー含有量を有する、ポリマーブレンド、
(ii)ペンチル側基を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシオクタノエート)(PHBO)、ヘプチル側基を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシデカン酸)(PHBD)、C15側基鎖等の側基を有するPHBOまたはPHBD、および中鎖長分岐ポリヒドロキシアルカノエート(mcl-PHA)から選択される、より長い側鎖を有するPHAベースコポリマー、
(iii)PHBHxのコポリマーと、より長い側鎖を有する1種または複数のPHAベースのコポリマーとのポリマーブレンド、
および
(iv)ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)ベースのコポリマーと、ポリ塩化ビニル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ(シアン化ビニリデン/酢酸ビニル)コポリマー、シアン化ビニリデン/安息香酸ビニルコポリマー、シアン化ビニリデン/イソブチレンコポリマー、シアン化ビニリデン/メチルメタクリレートコポリマー、フッ化ビニリデンコポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、セルロース、タンパク質、合成ポリエステルおよびセルロースのエーテル、ポリ(γ-メチル-L-グルタメート)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、ナイロン-9、ナイロン-11ならびにそれらのブレンドからなる群から選択される1種または複数のポリマー、
b)膜またはシートを指向的に摂動させて、以下の(I)~(VII)の少なくとも1つによって分極を誘導する工程と;
(I)溶液からキャストされた膜またはシートをカレンダローリングすること、
(II)溶液からキャストされた膜またはシートを剪断または圧力下で溶融し結晶化すること、
(III)ゲル状態の分極可能なポリマー組成物から形成された膜またはシートを機械的に引っ張ること、
(IV)結晶化により剪断を誘導するために、ゲル状態の分極可能なポリマー組成物を凍結させること、
(V)膜またはシートの成形時に剪断または圧力を加えること、
(VI)溶融状態の分極可能なポリマー組成物から膜またはシートの成形中に電場を印加すること、
および
(VII)1種または複数の溶媒中の分極可能なポリマー組成物の溶液から繊維のリボンを電界紡糸することによって膜またはシートを形成するの間にin situ分極するステップであって、かつ、電界紡糸された繊維のリボンの各繊維は、β型で形成されたシェルおよびα型で形成されたコアを含むステップ、
を含み、前記分極ポリマー組成物は、X線回折により測定して10%~99%の量で存在するβ型のPHAベースコポリマーを含む、方法。
【請求項3】
膜またはシートを形成する工程が、1種または複数の溶媒中のポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶液から膜またはシートを形成することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
膜またはシートを形成する工程が、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶融組成物から膜またはシートを形成することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
膜またはシートを指向的に摂動させる工程が、クエンチ後に膜またはシートをカレンダローリング、剪断または冷間延伸することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
膜またはシートを形成する工程が、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーのゲル組成物から膜を形成することを含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
膜を指向的に摂動させる工程が、剪断圧力下でゲルを乾燥させる、またはゲルを凍結して、溶媒の結晶化により剪断を誘導することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーが、ヒドロキシブチレート単位、ヒドロキシヘキサノエート単位、ビニル単位、ビニリデン単位、エチレン単位、アクリレート単位、メタクリレート単位、ナイロン単位、カーボネート単位、アクリロニトリル単位、セルロース単位、ペンダントフルオロ、クロロ、アミド、アクリレートおよびメタクリレート単位のエステル以外のエステル、シアン化物、アクリロニトリル単位以外のニトリル、またはエーテル基を有する単位、タンパク質単位、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのモノマー単位を含み、かつ、分極可能なポリマー組成物が、ポリ塩化ビニル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ(シアン化ビニリデン/酢酸ビニル)コポリマー、シアン化ビニリデン/安息香酸ビニルコポリマー、シアン化ビニリデン/イソブチレンコポリマー、シアン化ビニリデン/メチルメタクリレートコポリマー、フッ化ビニリデンコポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、セルロース、タンパク質、合成ポリエステルおよびセルロースのエーテル、ポリ(γ-メチル-L-グルタメート)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、ナイロン-9、ナイロン-11ならびにそれらのブレンドからなる群から選択される1種または複数のポリマーをさらに含む、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項9】
1種または複数のポリマーの実質的な絶縁破壊をもたらす強度より低い強度の高電場を印加することにより、指向的に摂動された膜またはシートのポリマー組成物を分極する工程をさらに備える、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
指向的に摂動された膜またはシートのポリマー組成物を分極する工程が、少なくとも1MV/cmの電場を使用して、約20℃~約120℃の温度で最長5時間行われる工程である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
膜またはシートの分極ポリマー組成物を、分極ポリマー組成物の結晶の溶融温度より低い温度でアニールする工程であって、これにより分極がポリマー組成物の極性結晶の結晶融点まで保持される工程をさらに備える、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
膜またはシートが、約125℃~約150℃の範囲内の温度で少なくとも1時間アニールされる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アクチュエータを1つまたは複数備えるナノモータであって、
前記アクチュエータは、(i)請求項2に記載の方法により得られるポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの電界紡糸された繊維のリボンを含む分極材料、または(ii)請求項1に記載の方法によって得られる分極材料を含む分極材料の、少なくともいずれかを含むPHAベースコポリマー層を含み、
前記層は、圧電効果、焦電効果および強誘電効果のうち1つまたは複数を示すように構成され、
前記分極材料は、X線回折により測定して約10%~約99%の量で存在するβ型のPHAベースコポリマーを含み、かつ、
前記アクチュエータが、PHAべースコポリマー層にわたる電荷の印加に応じて拡張または収縮するように構成される、ナノモータ
【請求項14】
センサを1つまたは複数備えるデバイスであって、
前記センサは、(i)請求項2に記載の方法により得られるポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの電界紡糸された繊維のリボンを含む分極材料、または(ii)請求項1に記載の方法によって得られる分極材料を含む分極材料の、少なくともいずれかを含むPHAベースコポリマー層を含み、
前記層は、圧電効果、焦電効果および強誘電効果のうち1つまたは複数を示すように構成され、
前記分極材料は、X線回折により測定して約10%~約99%の量で存在するβ型のPHAベースコポリマーを含み、
前記センサは、複数のセンサ表面および/または界面を備え、各表面および/または界面は、次の特性:湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、および半金属の付着のうちの1つを監視するように独立して構成され、
前記センサ、PHAベースコポリマー層の寸法の変化に応じて電位差または電圧を生成するように構成されており、
前記寸法の変化、PHAベースコポリマー層の表面における次の特性:湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、および半金属の付着のうちの1つまたは複数の特性の変化により引き起こされ、かつ、
動物またはヒト患者の脈管系構成要素の近くに設置または移植されるように構成され、また、動物またはヒト患者の心拍によりPHAベースコポリマー層の寸法の変化を生成して、監視または処置デバイスを操作するための電位差または電圧を生成するように構成される、デバイス。
【請求項15】
処置または監視デバイスが、ペースメーカ、インスリンポンプ、in-situグルコースモニタ、または血圧モニタを含み、かつ、脈管系構成要素が、患者の心拍に対応する律動で拍動する静脈または動脈を含む、請求項14に記載のデバイス、
【請求項16】
次の特性:湿度、温度、塩分、栄養分の付着または注入、および半金属の付着のうち1つを監視するように構成されるPHAベースコポリマーセンサ層を提供する工程であって、PHAベースコポリマーセンサ層は、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の方法により得られる分極ポリマー組成物を含む工程と、
PHAベースコポリマーセンサ層が前記特性のうちの1つまたは複数の特性の変化により引き起こされる寸法の変化を生じるように、PHAベースコポリマーセンサ層を前記特性のうちの1つまたは複数の特性に曝露する工程と、
PHAベースコポリマーセンサ層の寸法の変化に応じた電位差または電圧を検出する工程と
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月21日に出願された米国仮特許出願第62/734,360号の優先権を主張し、その全開示は参照により全ての目的においてその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
連邦政府資金による研究に関する記述
本発明は、Delaware NSF EPSCoRにより授与された助成金番号1301765、およびDMR Polymersプログラムを通して米国国立科学財団により授与された助成金番号1407255の下で政府援助によりなされた。政府は本発明においてある特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
圧電気を意味するギリシャ語に由来する圧電性(piezoelectricity)という用語は、機械的応力に供されると電荷を生成する(直接圧電効果)、または電場に置かれると拡張もしくは収縮する(間接/逆圧電効果)、ある特定の材料の能力を説明している。圧電効果は、反転対称性を有さない材料における機械的状態と電気的状態との間の電気機械的相互作用として認識されている。圧電効果の性質は、固体における電気双極子モーメントの存在に強く関連しており、これは、非対称電荷に囲まれた結晶格子部位におけるイオンに誘導され得るか、または分子群により直接保持される。圧電材料は、機械的変形に供されると、双極子モーメントの変化により表面間に電位差を示す。この電位差または電圧が回路に電荷を巡らせ(電流)、こうして電気が生成される。あらゆる圧電材料の中でも、圧電ポリマーは、その構造的および寸法的な柔軟性、軽量性、加工の容易性、広い感受性領域、ならびに比較的低コストでの実装のために、ここ20年間にわたり特に注目されている。
【0004】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は、細胞内炭素およびエネルギー貯蔵材料として様々な細菌により合成される生分解性および生体適合性脂肪族ポリエステルのクラスである。それらは、その有望な環境的、電気的、薬学的、および生物医学的な用途のために科学的観点から注目されている。PHAの中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(PHB)ホモポリマーが最も一般的な種類であり、過去30年にわたり広範囲に研究されてきた。しかしながら、完璧に近い立体規則性に起因して、細菌により生成されるPHBは非常に高い結晶化度(60%超)、およびその熱分解温度付近の溶融温度範囲(約180℃)を有する。材料の加工が困難な熱特性、ならびに剛性および脆性の制約が、ほとんどの標準的用途への大きな障害である。他の低分子量モノマー単位、例えば3-ヒドロキシバレレート(3HV)との共重合が試みられたが、特性の改善における成功は比較的少なかった。この驚くべき結果は、3HBおよび3HV単位が同質二像であり、3HV単位がPHB結晶格子内に組み込まれていることに起因する。最近では、PHBの特性を実質的に向上させるために、より長い側鎖を有する少量のヒドロキシアルカン酸モノマー、例えば3-ヒドロキシヘキサノエート(3HHx)が3HB単位と共重合され、同質二像が回避され、得られるコポリマーの剛性および脆性が低減された。これらの中鎖長(mcl)分岐は、分子欠陥として作用し、ポリマー鎖の過度の規則性を乱し、結果として結晶化度および融点(Tm)を低下させる。得られるランダムコポリマー、ポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)は、3HHx含有量が増加するとともに柔軟および可撓性となり、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)と同様の特性をもたらす。化学的、熱的および機械的特性を含むPHBHxの多くの特性は、コモノマー含有量を変更することにより調節され得る。
【0005】
PHBおよびポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシバレレート](PHBV、PHBベースランダムコポリマー)は、加工条件に応じてα型およびβ型の2つの異なる結晶多形を示し得ることが立証されている。α型は、溶融物または溶液結晶化等の典型的な結晶化プロセスから得られるPHBまたはPHBVポリマーの最も一般的な結晶構造である。この結晶多形では、分子鎖は左巻き2らせん構造をとる。単位胞は斜方晶であり、空間群はP2-Dであり、格子定数はa=0.576nm、b=1.320nm、およびc(繊維周期)=0.596nmである。他の結晶多形であるβ型結晶は、極めて伸長した鎖を有する歪み誘起による準結晶構造として認識されている。β型では、鎖はねじれた平面ジグザグ構造をとるが、これはほぼ完全に伸長した鎖の構造である。単位胞は同じく斜方晶であり、格子定数はa=0.528nm、b=0.920nm、およびc(繊維周期)=0.470nmである。130℃で再びα型にアニールされ得るこの準安定な結晶構造は、熱間延伸されたPHB薄膜で最初に観察され、その後冷間延伸PHBV薄膜に見られた。特に、このβ型は、冷間延伸非晶質膜に見られ、これはβ型の生成がα型結晶の事前の整列を必要としないことを示している。その後10年にわたり、準安定なβ型は、異なる後加工条件下でPHBおよびPHBVの薄膜または溶融紡糸繊維での生成に成功し、膜または繊維は高度に引っ張られているが、延伸比は様々となり得る。β型は室温で数か月間比較的変化せずに維持されたことが報告されており、これは、結晶構造が二次結晶化を生じないことを示唆している。
【0006】
β構造は長い間、α型層状結晶間の非晶質相における遊離鎖の配向から生じるものとして受け入れられてきた。強い引張力を受けると、層状結晶間のタイ分子が強く伸長され、引張方向に沿って配向する。遊離鎖が平面ジグザグ構造をとる限り、それらは充填してβ構造を形成する。β型結晶構造の生成は、機械的特性、生分解性、および圧電応答を含む材料の様々な特性に対して大きな効果を有する。
【0007】
電界紡糸は効果的で多用途の技術であり、静電気力を利用して多くの異なる巨大分子系の溶液または溶融物を延伸し、ナノ繊維(10nm~5μm)を生成する。そのような繊維は、複合材、組織工学、エネルギー貯蔵および変換、センサ、ならびに濾過システムを含む領域における用途が見出される。電界紡糸プロセス中の強力な電気により生じる引張力を解明するための取り組みが行われてきた。全延伸比は、25000にまで達すると推定される。さらに、改良型コレクタ、例えば回転コレクタ(回転ドラム、回転ディスク等)およびギャップ付きコレクタ(絶縁ギャップにより隔てられた2つの帯電金属棒または板)を使用することにより、繊維堆積中に繊維上に追加の引張力を導入して、最終的に巻き取り方向に沿って、またはギャップにわたり巨視的に整列した繊維を得ることができる。これらの強力な引張力は、極めて急速な溶媒の蒸発と共に、準安定相または結晶多形の形成を誘導することが観察されている。したがって、電界紡糸は、PHAナノ繊維において準安定なβ構造を誘導するための加工技術として調査された。β構造は、従来の電界紡糸技術により希薄ポリマー溶液から電界紡糸されたPHBナノ繊維において見られた。後に、この準安定な結晶構造は、回転ドラム上に収集された電界紡糸PHBV繊維において観察された。電界紡糸PHBHxにおけるβ型の存在は、Gong, Liangら、「Discovery of β-form crystal structure in electrospun poly [(R)-3-hydroxybutylate-co-(R)-3-hydroxyhexanoate](PHBHx) nanofibers: from fiber mats to single fibers.」、Macromolecules 48、17(2015):6197~6205およびGong, Liangら、「Polymorphic Distribution in Individual Electrospun Poly [(R)-3-hydroxybutylate-co-(R)-3-hydroxyhexanoate](PHBHx) Nanofibers.」、Macromolecules 50、14(2017):5510~5517において最初に報告された。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
当技術分野において、様々な実装でβ型PHBHxを作製、最適化および使用するためのアプリケーションを開発することが依然として望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書において、中鎖長(mcl)分岐を有する3-ヒドロキシブチレートおよび他の3-ヒドロキシアルカノエート単位のバイオベースの生分解性ポリ(ヒドロキシアルカノエート)コポリマー(PHA)、例えばポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシアルカノエート]を含む成功裏に生成された材料を含むセンサが初めて開示され、この材料は、驚くほどに高い含有量のβ型結晶構造を有し、伸長した鎖は、広角X線回折(WAXD)分析により検証される平面ジグザグ構造をとっている。さらに、高含有量のβ型結晶を含むこれらの材料は、予想外にも高いレベルの圧電性、焦電性および強誘電性を示す。したがって、これらの材料は、アクチュエータ、センサ等のデバイスを製造するために使用され得る。さらに、mcl分岐PHAを含む材料は、多くの最終用途により好適となる優れた特性、およびはるかに容易な加工性のために、従来のPHAを超える実質的な利点を有する。このβ型結晶構造は、本発明に係る様々な実施形態に従い、選択された極めて特定の条件下で生成された。プロセス方法は、電極を受容するエアギャップまたは鋭い縁部の高速回転ディスク繊維収集、極めて薄い膜の延伸、2つのスライドガラス間の薄膜の剪断、薄膜の電界紡糸、高圧アニール、熱可逆性ゲル内のナノフィブリル形成、および高圧または高温処理を含む、高度に整列した電界紡糸PHAナノ繊維製造技術を含み得る。
【0010】
また、本明細書において、歪み誘起による準安定β型結晶が開示され、伸長した鎖は、アルミニウム箔上および高速回転ディスクのテーパした縁部上のエアギャップにわたって収集された、ポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)の巨視的に整列した電界紡糸ナノ繊維において、平面ジグザグ構造をとっている。繊維マットにおけるβ型結晶構造の存在は、広角X線回折(WAXD)およびフーリエ変換赤外分光法(FTIR)により確認された。さらに、制限視野電子回折(SAED)およびAFM-IRを利用して、個々の電界紡糸ナノ繊維の形態学的および構造的な詳細を調査した。SAEDの結果では、結晶構造および結晶内の分子鎖の配向レベルに対する収集方法の著しい影響が確認された。単一ナノ繊維のAFM-IRスペクトルは、従来のFTIRスペクトルと十分に一致していたが、AFM-IRスペクトルにおけるより細かい特徴が、より明確およびより良好に分解された。実験結果に基づいて、電界紡糸PHBHxナノ繊維におけるβ型結晶構造の生成の新たなメカニズムが提案される。
【0011】
一実施形態において、PHBHxのβ型はまた、焦電特性および強誘電特性を示す。
【0012】
本発明に係る一態様において、圧電特性、焦電特性または強誘電特性の少なくとも1つを示すポリマーブレンドが提供され、ポリマーブレンドは、例えばセンサおよびアクチュエータ等のデバイスにおける使用のためのものである。一実施形態において、ポリマーブレンドは、1種または複数のPHBHxコポリマーのブレンドであり、1種または複数のPHBHxコポリマーはそれぞれ異なるコモノマー含有量を有する。例えば、ポリマーブレンドは、圧電ブレンドの例として、PHBHx3.9とPHBHx13.0とのブレンドを含み得る。別の実施形態において、ポリマーブレンドは、PHBHxと、組成が異なるポリマーとのポリマーブレンドである。例えば、ポリマーブレンドは、これらに限定されないが、PHBHxと、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVF2)およびそのコポリマー、ならびに/またはナイロン5、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11等とのポリマーブレンドを含み得る。
【0013】
また、本明細書において、これに限定されないが、Nodax(商標)クラスのPHAを含む、ペンチル、ヘプチル等のより長い側鎖を有するPHAが開示される。
【0014】
一般に、本発明に係るPHAコポリマーは、好ましくは、X線回折により測定して約10%~約99%の範囲内、より好ましくは、X線回折分析に基づいて約20%~約80%、より好ましくはさらに約30%~約70%の範囲内で存在するβ型を有する。
【0015】
一態様において、以下の方法の1つが、PHAコポリマーベース圧電材料の作製に使用され得る。
- 電界紡糸プロセスにより生成される繊維(現在最善の方法であることが知られている)
- 高剪断、例えばカレンダローリングに供される膜またはシート
- 剪断または圧力下で溶融物を結晶化することにより作製される膜またはシート
- 剪断圧力下で乾燥されるゲル
- 溶媒の結晶化により剪断を誘導するために凍結されるゲル
- 剪断または圧力下で加工される成形物品
- 電場中で溶融物から作製される物品(極性化)
- 圧電PHBHxを増加させるための他の加工方法は、押出(例えば二軸押出機内で)、射出成形、および従来の繊維紡糸を含む。
【0016】
本明細書において、結晶多形の不均質空間分布を含む単一電界紡糸ポリマーナノ繊維が開示される。PHBHxの2つの結晶多形である、2らせん構造を有する鎖からなる熱力学的に安定なα型、および平面ジグザグ構造を有する鎖からなる準安定なβ型は、α型に富むコアおよびβ型に富むシェルで構成されるコアシェル構造として空間的に分布している。さらに、シェルの厚さは、繊維直径と無関係であることが判明した。個々のナノ繊維における結晶多形分布の特性決定は、原子間力顕微鏡(AFM)および赤外分光法(IR)を組み合わせた技術を利用することにより可能となったが、これはナノスケールの空間分解能および結晶相の特異性を同時に提供する。実験結果に基づいて、この多形不均質コアシェル構造の可能な生成メカニズムが提案される。繊維特性へのこのコアシェルモデルの関与もまた議論される。
【0017】
本明細書において、高度に配向した平面ジグザグ構造の鎖に関連したβ型結晶構造を示す結晶領域を有する、圧電電界紡糸PHBHxナノ繊維が開示される。整列したPHBHxナノ繊維の圧電特性が、変動する結晶構造の関数として調査された。結果は、繊維の圧電応答とβ型結晶構造の存在との間の強い相関を示した。繊維の圧電応答の発生のメカニズムが提案されるが、圧力に対する圧電PHBHxナノ繊維の感度もまた定量された。
【0018】
本明細書において、応力誘導性β結晶化によるPHBHx膜におけるβ構造の形成の方法が開示され、応力は、膜を機械的に引っ張ることにより印加される。
【0019】
本明細書において、室温等温結晶化に続く機械的引張の新規の方法により、PHBHx膜においてβ構造を形成する方法が開示される。β構造の形成の前にα結晶子が存在しなければならないことが確認された。β構造を最初に形成するための理想条件は、28分の等温結晶化に対応した。さらに、このβ構造は可逆的であること、および引張プロセスが最初のβ形成および再引張プロセスで異なることが示された。β構造はまた、48℃という低い温度で再びα構造にアニールされ得る。
【0020】
一態様において、分極ポリマー組成物を調製するための方法であって、
a)分極可能なポリマー組成物の層を提供する工程であって、分極可能なポリマー組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーを含む工程と;
b)層を指向的に摂動させて分極を誘導する工程と;
c)任意選択で、1種または複数のポリマーの実質的な絶縁破壊をもたらす強度より低い強度の高電場を印加することにより、指向的に摂動された層のポリマー組成物を分極する工程と;
d)任意選択で、層の分極ポリマー組成物を、分極ポリマー組成物の結晶の溶融温度より低い温度でアニールする工程であって、これにより分極が、ポリマー組成物の極性結晶の結晶融点まで保持される工程と
を含み、分極ポリマー組成物は、X線回折により測定して約10%~約99%の量で存在するβ型のPHAベースコポリマーを含む、方法が提供される。
【0021】
方法の一実施形態において、層を提供する工程は、1種または複数の溶媒中のポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶液から繊維のリボンを電界紡糸することを含み、電界紡糸された繊維のリボンの各繊維は、β型で形成されたシェルおよびα型で形成されたコアを含む。
【0022】
方法の一実施形態において、層を提供する工程は、1種または複数の溶媒中のポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶液から層を形成すること含む。
【0023】
方法の別の実施形態において、層を提供する工程は、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶融組成物から層を形成することを含み、層を指向的に摂動させる工程は、クエンチ後に層をカレンダローリング、剪断または冷間延伸することを含む。
【0024】
方法の一実施形態において、層を提供する工程は、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーのゲル組成物から膜を形成することを含み、膜を指向的に摂動させる工程は、剪断圧力下でゲルを乾燥させる、またはゲルを凍結して、溶媒の結晶化により剪断を誘導することを含む。
【0025】
方法の一実施形態において、層を提供する工程は、1種または複数の溶媒中のポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶液から電界紡糸繊維マットを形成すること含む。
【0026】
一実施形態において、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーは、ヒドロキシブチレート単位、ヒドロキシヘキサノエート単位、ビニル単位、ビニリデン単位、エチレン単位、アクリレート単位、メタクリレート単位、ナイロン単位、カーボネート単位、アクリロニトリル単位、セルロース単位、ペンダントフルオロ、クロロ、アミド、アクリレートおよびメタクリレート単位のエステル以外のエステル、シアン化物、アクリロニトリル単位以外のニトリル、またはエーテル基を有する単位、タンパク質単位、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのモノマー単位を含む。
【0027】
別の実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、ポリ塩化ビニル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ(シアン化ビニリデン/酢酸ビニル)コポリマー、シアン化ビニリデン/安息香酸ビニルコポリマー、シアン化ビニリデン/イソブチレンコポリマー、シアン化ビニリデン/メチルメタクリレートコポリマー、フッ化ビニリデンコポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、セルロース、タンパク質、合成ポリエステルおよびセルロースのエーテル、ポリ(γ-メチル-L-グルタメート)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、ナイロン-9、ナイロン-11ならびにそれらのブレンドからなる群から選択される1種または複数のポリマーをさらに含む。
【0028】
方法の一態様において、層は、前記ポリマー組成物の複数相組成物から形成された少なくとも2つの層の分極可能なポリマー組成物を含む。一実施形態において、少なくとも2つの層は、共押出しされ、互いに接触している。
【0029】
方法の一実施形態において、任意選択で指向的に摂動された層のポリマー組成物を分極する工程は、少なくとも1MV/cmの電場を使用して、約20℃~約120℃の温度で最長約5時間行われる。別の実施形態において、層は、約125℃~約150℃の範囲内の温度で少なくとも1時間アニールされる。
【0030】
本発明に係る一態様において、請求項1に記載の方法により得られるポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの電界紡糸繊維マットまたは分極ポリマー組成物の少なくとも1つを含むデバイスが提供され、デバイスは、圧電効果、焦電効果および強誘電効果のうち1つまたは複数を示すように構成される。
【0031】
デバイスの一実施形態において、デバイスは、分極ポリマー組成物の2つ以上の層をさらに備え、2つ以上の層は、互いに積層した繊維のリボンの形態である。
【0032】
一態様において、デバイスは、分極ポリマー組成物の層の寸法の変化に応じて電位差または電圧を生成するように構成されるセンサである。一実施形態において、寸法の変化は、分極ポリマー組成物のセンサ層の表面における次の特性:湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、および半金属の付着のうち1つまたは複数の変化により引き起こされる。
【0033】
デバイスの別の態様において、センサは、複数のセンサ表面および/または界面を備え、各表面/界面は、次の特性:湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、および半金属の付着のうち1つを監視するように独立して構成される。
【0034】
一態様において、デバイスは、分極ポリマー組成物の層にわたる電荷の印加に応じて拡張または収縮するように構成されるアクチュエータである。
【0035】
一態様において、本明細書において上述された1つまたは複数の圧電アクチュエータを備えるナノモータが提供される。
【0036】
別の態様において、動物またはヒト患者の脈管系構成要素の近くに設置または移植されるように構成され、また動物またはヒト患者の心拍によりPHAベースコポリマー層の寸法の変化を生成して、監視または処置デバイスを操作するための電位差または電圧を生成するように構成される、本明細書において上で開示された1つまたは複数のアクチュエータを備えるデバイスが提供される。一実施形態において、処置または監視デバイスは、ペースメーカ、インスリンポンプ、in-situグルコースモニタ、または血圧モニタを含む。別の実施形態において、脈管系構成要素は、患者の心拍に対応する律動で拍動する静脈または動脈を含む。
【0037】
一態様において、次の特性:湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、および半金属の付着のうち1つを監視するように構成されるPHAベースコポリマーセンサ層を提供する工程を含む方法が提供され、PHAベースコポリマーセンサ層は、本明細書において上で開示された方法により得られるポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの電界紡糸された繊維のリボンまたは分極ポリマー組成物の少なくとも1つを含む。方法は、PHAベースコポリマーセンサ層が前記特性のうち1つまたは複数の変化により引き起こされる寸法の変化を生じるように、PHAベースコポリマーセンサ層を前記特性のうち1つまたは複数に曝露する工程と、PHAベースコポリマーセンサ層の寸法の変化に応じた電位差または電圧を検出する工程とをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】(a)エアギャップ外のアルミニウム箔上に、(b)エアギャップにわたり、および(c)回転ディスク上に収集された電界紡糸PHBHx繊維のSEM画像である。
図2】Al箔ランダム繊維(a)、エアギャップ整列繊維(b)、および回転ディスク整列繊維(c)の偏光FTIRスペクトルを示す図である。入射IRビームは、整列繊維軸に対して垂直(赤)および平行(黒)な2つの互いに垂直な方向で偏光される。
図3】異なるコレクタを使用して得られた電界紡糸PHBHx繊維のWAXDプロファイルを示す図である。
図4】(a)CDO伸縮領域および(b)C-O-C伸縮領域におけるギャップ外ランダム繊維、ギャップ内整列繊維、および回転ディスク整列繊維のFT-IRスペクトルを示す図である。
図5】異なるコレクタ(a~c)からの単一電界紡糸PHBHxナノ繊維の明視野TEM画像、およびそれらの対応するSAEDパターン(a’~c’)を示す図である。
図6】(a)アルミニウム箔上(473nm)および(b)回転ディスクのテーパした縁部上(324nm)で収集された単一電界紡糸PHBHx繊維のAFM画像である。(c)(a)および(b)に示される繊維のIRスペクトルである。2つの個々の繊維上の赤い点は、AFM先端の位置を示す。
図7】電界紡糸および収集の間のα型結晶構造およびβ型結晶構造の2つの可能な生成メカニズムを示す図である。経路1は、ナノ繊維収集の間のα結晶形態およびβ結晶形態の同時形成を示す。経路2は、α結晶形態がβ型の形成後に生成されることを示している。α結晶形態は、コア内の残留溶媒の存在により緩和した平面ジグザグ鎖(β型)から生じる。この図では、繊維における波線は、α相内の鎖の2らせん骨格を示し、直線は、β相内の鎖の平面ジグザグ骨格を示し、ランダムな曲線は、非晶質相内の遊離した鎖を示す。図中のシアン色は、溶媒を表す。
図8】2つの単一電界紡糸PHBHx繊維のAFM高さ画像(a、a’)、IRピーク画像(b、b’)、およびAFM-IRスペクトル(c、c’)を示す図である。(b)および(b’)における黒いスポットは、AFM-IRスペクトルを収集する際のAFM先端の位置を示す。
図9】それぞれ251nmおよび417nmの2つの個々の電界紡糸PHBHxナノ繊維の元の(a、a’)およびコントラスト反転(b、b’)SAEDパターンを示す図である。挿入図は、2つの繊維の明視野TEM画像である。赤道線に沿った(a)および(a’)の強度プロファイルは、それぞれ(c)および(c’)にプロットされている。
図10】2つの個々の電界紡糸PHBHxナノ繊維上の異なる位置から収集されたAFM-IRスペクトルの比較を示す図である。
図11】2つの個々の電界紡糸PHBHxナノ繊維の断面のAFM高さ画像(a、a’)およびIRピーク画像比率(b、b’)を示す図である。
図12】回転ディスクで収集された電界紡糸PHBHxナノ繊維のコアシェル構造の形成のための可能な生成メカニズムを示す図である。最終的な固化繊維のコアにおける波線は、α結晶形態内の鎖の2らせん骨格を示し、紡糸直後の繊維および最終的な固化繊維のシェルにおける直線は、β結晶形態内の鎖の平面ジグザグ骨格を示し、ランダムな曲線は、非晶質領域内の遊離した鎖を示す。この図中の青色は、溶媒を表す。シェルの厚さは、表示を目的として誇張されている。
図13】圧電カンチレバーの概略図(a)および印加電圧に対するプローブの変位のプロット(b)を示す図である。
図14】圧電応答試験機器の概略図である。
図15】130℃で24時間のアニール前(a、a’)およびアニール後(b、b’)の巨視的に整列したPHBHxナノ繊維のSEM画像およびWAXDパターンを示す図である。
図16】アニール前(黒の信号)およびアニール後(赤の信号)の回転ディスク整列PHBHxナノ繊維の誘導電圧対時間出力を示す図である。
図17】(a)2らせんPHB鎖(α型)および(b)平面ジグザグPHB鎖(β型)における電気双極子を示す図である。
図18】プレス-保持-解放サイクル中の電荷移動を示す図である。黒色の線は、実際の電圧信号を表す。暗緑色の線は、外部回路から繊維への自由電荷輸送を表す。ピンク色の線は、繊維のリボンにおける正味電荷を表す。
図19】(a)印加圧力下におけるPHBHxの繊維のリボンの応答の分析モデルの概略図である。青い文字pおよび赤い文字Aは、それぞれ、印加圧力およびプローブと繊維のリボンとの接触領域を示す。(b)実験(黒)および線形フィッティング(赤)圧力応答曲線である。
図20】未処理のアニールされた3.9(a)および13(b)mol% 3HHx PHBHx膜、ならびにX線ビームと共に引張方向に垂直に配向し引っ張られた(c)13mol% 3HHx PHBHx膜のWAXDプロファイルを示す図である。
図21】増加する歪みの関数としての未処理の13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜のIRスペクトルを示す図である。
図22】歪みの前および後の未処理の13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜のラマンスペクトルを示す図である。
図23】カルボニル領域を中心とした、歪みの前および後の未処理の13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜のラマンスペクトルを示す図である。
図24】引っ張られていないα領域および引っ張られたβ領域を示す、引っ張られた膜を示す図である。
図25】同じ膜の非晶質の引っ張られていないα領域および引っ張られたβ領域のXRDを示す図である。
図26】引っ張られた後、および解放された後の膜のXRDスペクトルを示す図である。
図27】引っ張られた後、解放された後、および張力が回復された後の膜のXRDスペクトルを示す図である。
図28】歪みの関数としてのXRDを示す図である。
図29】48℃で2時間アニールされた、引っ張られた膜のXRDスペクトルを示す図である。
図30】室温での等温結晶化後の引っ張られた膜のXRDスペクトルを示す図である。
図31】室温での等温結晶化後の引っ張られた膜のラマンスペクトルを示す図である。
図32】PHBHx CHCl/DMF溶液における熱可逆的なゾル-ゲル転移を示す図である。
図33】(a)未加工PHBHx粉末および(b)凍結乾燥ゲルのWAXDプロファイルを示す図である。
図34】引張の(a)前および(b)後のゲル膜のWAXDプロファイルを示す図である。
図35】広角X線散乱によりβ結晶形態であることを示す、回転ホイール(3500rpm)上で収集されたPHBHx3.9mol%電界紡糸ナノ繊維の走査型電子顕微鏡画像を示す図である。
図36】電圧を生成してLED電球を点灯させるためにペンチの取手により変形された、電気回路の一部としての図35の整列PHBHx3.9mol%ナノ繊維(赤い楕円を参照)を示す図である。
図37】本発明の例示的実施形態によるセンサ/アクチュエータデバイスの概略図である。
図38】本発明の例示的センサ実施形態を使用する例示的方法に関連するフローチャートを示す概略図である。
図39】生物学的用途における本発明の例示的センサ実施形態を使用する例示的方法に関連するフローチャートを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本明細書において使用される場合、「PHA」は、本発明に係るポリヒドロキシアルカノエートを意味する。本明細書において使用される場合、「PHB」は、ホモポリマーであるポリ(3-ヒドロキシブチレート)を意味する。本明細書において使用される場合、「PHBV」は、コポリマーであるポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)を意味する。本明細書において使用される場合、「PHBHx」は、コポリマーであるポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート]を意味し、xは、コポリマー中に存在するコモノマーであるヒドロキシヘキサノエート(Hx)のmol%としての量を表す。
【0040】
一実施形態において、PHBHxコポリマーは、光学的に純粋な3HBおよび3HHx[R]構造コモノマーのキラル環開環重合により生成される。別の実施形態において、PHBHxコポリマーは、生物学的に生成されたバイオベースのアイソタクチックPHBHxである。
【0041】
電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)ナノ繊維のβ型結晶構造:繊維マットから単一繊維まで
本明細書において、2つの改良型コレクタ、すなわち矩形エアギャップを有するアルミニウム箔およびテーパした縁部を有する回転ディスクを使用して得られた、巨視的に整列した電界紡糸PHBHxナノ繊維におけるβ結晶多形が開示される。繊維マットに対して、走査型電子顕微鏡(SEM)、広角X線回折(WAXD)、および透過型フーリエ変換赤外分光法(FTIR)により、繊維形態、結晶構造、および鎖構造を特性決定した。さらに、制限視野電子回折(SAED)およびAFM-IRを使用して、単一繊維スケールでのPHBHxナノ繊維内の構造および配向を調査した。本明細書において後に開示される実施例1は、電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)ナノ繊維におけるβ型結晶構造を形成する例示的方法を、実験手順および結果を含めて提供する。
【0042】
電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)ナノ繊維における圧電性
BroadhurstおよびDavis(Broadhurst, M. G.およびG. T. Davis、「Piezo-and pyroelectric properties.」 Electrets. Springer、Berlin、Heidelberg、1980. 285~319)によれば、全ての圧電ポリマーには次の4つの重要な要素が存在する:(1)永久的な分子双極子の発生、(2)分子双極子を整列させる能力、(3)一旦達成されたらこの双極子整列を維持する能力、および(4)機械的応力が印加されると大きな歪みを生じる材料の能力。電界紡糸PHBHxナノ繊維は、(1)材料中にO=C-CH双極子が存在するため、(2)電界紡糸中の急速で広範囲な引張により繊維軸に沿って分子鎖が配向し、したがって分子双極子が整列するため、(3)電界紡糸中の急速な溶媒蒸発により、繊維固化を通して双極子整列の保存が容易となるため、および(4)可撓性繊維が大きな変形に耐えることができるため、上記の全ての基準に適合する。
【0043】
一態様において、繊維中に存在する結晶構造に応じた電界紡糸PHBHxナノ繊維の圧電応答が、本明細書において開示される。準安定なβ型結晶構造を含む巨視的に整列したPHBHxナノ繊維は、コレクタとして高速回転ディスクを使用して製造された。対照試料は、アニールされた繊維がα結晶形態のみを含むようにこれらの繊維を130℃で24時間アニールすることにより作製された。圧電カンチレバーを利用して、アニール前およびアニール後両方の整列した繊維の圧電特性を特性決定した。繊維の圧電応答の発生のメカニズムが提案されるが、圧力に対する圧電PHBHxナノ繊維の感度が定量された。本明細書において後に開示される実施例3は、電界紡糸PHBHxナノ繊維において圧電効果を測定する例示的方法を提供する。
【0044】
一実施形態において、PHBHxのβ型はまた、焦電特性および強誘電特性を示す。
【0045】
圧電特性、焦電特性または強誘電特性の少なくとも1つを示す分極可能なコポリマーおよびポリマーブレンド
一態様において、ヒドロキシブチレート単位、ヒドロキシヘキサノエート単位、ビニル単位、ビニリデン単位、エチレン単位、アクリレート単位、メタクリレート単位、ナイロン単位、カーボネート単位、アクリロニトリル単位、セルロース単位、ペンダントフルオロ、クロロ、アミド、アクリレートおよびメタクリレート単位のエステル以外のエステル、シアン化物、アクリロニトリル単位以外のニトリル、またはエーテル基を有する単位、タンパク質単位、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される分極可能なポリマー単位を含むポリヒドロキシアルカノエート(PHA)コポリマーが提供される。
【0046】
別の態様において、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/三フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン/塩化ビニル)およびポリ(フッ化ビニリデン/メチルメタクリレート)からなる群から選択される圧電コポリマーが提供される。
【0047】
コモノマーは、最大1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、または2~30%もしくは3~25%もしくは5~20%の範囲内を含む任意の好適なモル量でポリヒドロキシアルカノエートコポリマー中に存在し得る。一実施形態において、コモノマー単位ヒドロキシヘキサノエートは、最大1%、2%、3%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%を含む任意の好適なモル量でポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)中に存在する。
【0048】
さらに別の態様において、ポリ塩化ビニル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ(シアン化ビニリデン/酢酸ビニル)コポリマー、シアン化ビニリデン/安息香酸ビニルコポリマー、シアン化ビニリデン/イソブチレンコポリマー、シアン化ビニリデン/メチルメタクリレートコポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、セルロース、タンパク質、合成ポリエステルおよびセルロースのエーテル、ならびにポリ(γ-メチル-L-グルタメート)からなる群から選択される1種または複数のポリマーを含む分極可能なポリマー組成物が提供される。
【0049】
一実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、ポリ(フッ化ビニリデン)およびフッ化ビニリデンコポリマーからなる群から選択される1種または複数のポリマーを含む。別の実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/三フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン/塩化ビニル)およびポリ(フッ化ビニリデン/メチルメタクリレート)からなる群から選択される1種または複数のコポリマーを含む。さらに別の実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、可溶性セラミック材料、PHBHx、ポリ(フッ化ビニリデン)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、ナイロン-9およびナイロン-11ならびにそれらのブレンドからなる群から選択される1種または複数のポリマーを含む。
【0050】
本発明に係る一態様において、分極可能なポリマー組成物は、圧電特性、焦電特性または強誘電特性の少なくとも1つを示すポリマーブレンドであり、ポリマーブレンドは、例えばセンサおよびアクチュエータ等のデバイスにおける使用のためのものである。一実施形態において、ポリマーブレンドは、1種または複数のPHBHxコポリマーのブレンドであり、1種または複数のPHBHxコポリマーはそれぞれ異なるコモノマー含有量を有する。例えば、ポリマーブレンドは、圧電ブレンドの例として、PHBHx3.9とPHBHx13.0とのブレンドを含み得る。別の実施形態において、ポリマーブレンドは、PHBHxと、組成が異なるポリマーとのポリマーブレンドである。例えば、ポリマーブレンドは、これらに限定されないが、PHBHxと、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVF2)およびそのコポリマー、ならびに/またはナイロン5、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11等とのポリマーブレンドを含み得る。
【0051】
本発明に係る別の態様において、分極可能なポリマー組成物は、ペンチル、ヘプチル等のより長い側鎖を有するPHAである。一実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、PHBHxと、より長い側鎖を有する1種または複数のPHAとのポリマーブレンドである。別の実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、PHBHxと、より長い側鎖を有する1種または複数のPHAとのコポリマーである。より長い側鎖を有する例示的なPHAは、これらに限定されないが、ペンチル側基を有するPHBO、ヘプチル側基を有するPHBD、およびC15側基鎖等の側基を有する同様のもの、Danimer Scientificから入手可能なNodax(商標)クラスの中鎖長分岐ポリヒドロキシアルカノエート、mcl-PHAを含む。PHBHxを超えるリストについては、参照により本明細書に組み込まれるUS5,602,227およびRE36,584を参照されたい。
【0052】
一実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、PHBHx、ポリ(フッ化ビニリデン)およびフッ化ビニリデン-フッ化ビニル(80/20)コポリマーのブレンドである。別の実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、重量で50:50のPHBHxとフッ化ビニリデン-フッ化ビニル(80/20)コポリマーとのブレンドである。別の実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、重量で50:50のPHBHxとポリ(フッ化ビニリデン)とのブレンドである。
【0053】
PHAコポリマーおよびPHAコポリマーのブレンドにおけるβ型
一般に、本発明に係るPHAコポリマーおよびPHAコポリマーのブレンドは、好ましくは、X線回折により測定して約10%~約99%の範囲内、より好ましくは、X線回折分析に基づいて約20%~約80%、より好ましくはさらに約30%~約70%の範囲内で存在するβ型を有する。
【0054】
指向的摂動下でPHAを含むPHAコポリマーベース圧電材料を作製するプロセス
PHAコポリマーベース圧電材料を作製するために、以下を含むがこれらに限定されない任意の好適な方法が使用され得る。
- 電界紡糸プロセスにより生成される繊維(現在最善の方法であることが知られている)。
- 高剪断、例えばカレンダローリングに供される膜またはシート。本明細書において後に開示される実施例5は、機械的引張によるβ型のPHBHxコポリマーベース膜の生成のための例示的方法を提供する。
- 剪断または圧力下で溶融物を結晶化することにより作製される膜またはシート。本明細書において後に開示される実施例4は、PHBHxコポリマーベース膜の応力誘導性β結晶化の例示的方法を提供する。
- 剪断圧力下で乾燥されるゲル。本明細書において後に開示される実施例6は、機械的引張によるβ型のPHBHxコポリマーベースゲル膜の生成のための例示的方法を提供する。
- 溶媒の結晶化により剪断を誘導するために凍結されるゲル。
- 剪断または圧力下で加工される成形物品。
- 電場中で溶融物から作製される物品。
- 圧電PHBHxを増加させるための他の加工方法は、押出(例えば二軸押出機内で)、射出成形、および従来の繊維紡糸を含む。
【0055】
一態様において、分極ポリマー組成物を調製するための方法であって、
a)分極可能なポリマー組成物の層を提供する工程であって、分極可能なポリマー組成物は、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーを含む工程と;
b)層を指向的に摂動させて分極を誘導する工程と;
c)任意選択で、1種または複数のポリマーの実質的な絶縁破壊をもたらす強度より低い強度の高電場を印加することにより、指向的に摂動された層のポリマー組成物を分極する工程と;
d)任意選択で、層の分極ポリマー組成物を、分極ポリマー組成物の結晶の溶融温度より低い温度でアニールする工程であって、これにより分極がポリマー組成物の極性結晶の結晶融点まで保持される工程と、
を含み、分極ポリマー組成物は、X線回折により測定して約10%~約99%の量で存在するβ型のPHAベースコポリマーを含む、方法が提供される。
【0056】
方法の一実施形態において、層を提供する工程は、1種または複数の溶媒中のポリヒドロキシアルカノエート(PHA)ベースコポリマーの溶液から繊維のリボンを電界紡糸することを含み、電界紡糸された繊維のリボンの各繊維は、β型で形成されたシェルおよびα型で形成されたコアを含む。一実施形態において、希薄溶液、例えば1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)等の好適な溶媒中の最大1wt%または最大2wt%または最大5wt%のPHAベースコポリマーが、本明細書において後に実施例1で開示されるような実験構成を使用して電界紡糸に使用され得る。
【0057】
方法の一実施形態において、層を提供する工程は、1種または複数の溶媒中のポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶液から層を形成すること含む。ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーは、溶液の総重量を基準として1~99%または5~90%または10~80%の量で存在し得る。これらに限定されないが、クロロホルム、トルエン、アセトン等を含む任意の好適な溶媒が使用され得る。層は、キャストなどの任意の好適な方法を使用して形成され得る。
【0058】
方法の別の実施形態において、層を提供する工程は、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの溶融組成物から層を形成することを含み、層を指向的に摂動させる工程は、クエンチ後に層をカレンダローリング、剪断または冷間延伸することを含む。
【0059】
方法の一実施形態において、層を提供する工程は、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーのゲル組成物から膜を形成することを含み、膜を指向的に摂動させる工程は、剪断圧力下でゲルを乾燥させる、またはゲルを凍結して、溶媒の結晶化により剪断を誘導することを含む。ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーのゲル組成物は、本明細書において後に実施例6で開示されるような任意の好適な方法により形成され得る。
【0060】
方法の一実施形態において、ポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーは、ヒドロキシブチレート単位、ヒドロキシヘキサノエート単位、ビニル単位、ビニリデン単位、エチレン単位、アクリレート単位、メタクリレート単位、ナイロン単位、カーボネート単位、アクリロニトリル単位、セルロース単位、ペンダントフルオロ、クロロ、アミド、アクリレートおよびメタクリレート単位のエステル以外のエステル、シアン化物、アクリロニトリル単位以外のニトリル、またはエーテル基を有する単位、タンパク質単位、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも1つのモノマー単位を含む。
【0061】
方法の別の実施形態において、分極可能なポリマー組成物は、ポリ塩化ビニル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ(シアン化ビニリデン/酢酸ビニル)コポリマー、シアン化ビニリデン/安息香酸ビニルコポリマー、シアン化ビニリデン/イソブチレンコポリマー、シアン化ビニリデン/メチルメタクリレートコポリマー、フッ化ビニリデンコポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、セルロース、タンパク質、合成ポリエステルおよびセルロースのエーテル、ポリ(γ-メチル-L-グルタメート)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、ナイロン-9、ナイロン-11ならびにそれらのブレンドからなる群から選択される1種または複数のポリマーをさらに含む。
【0062】
方法の一態様において、層は、前記ポリマー組成物の多相組成物から形成された少なくとも2つの層の分極可能なポリマー組成物を含む。一実施形態において、少なくとも2つの層は、共押出しされ、互いに接触している。
【0063】
方法の一実施形態において、任意選択で指向的に摂動された層のポリマー組成物を分極する工程は、少なくとも1MV/cmの電場を使用して、約20℃~約120℃の温度で最長約5時間行われる。一実施形態において、層は、約125℃~約150℃の範囲内の温度で少なくとも1時間アニールされる。
【0064】
一実施形態において、分極ポリマー組成物は、分極ポリ(ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHx)コポリマーであり、分極は、その極性結晶のほぼ結晶溶融範囲まで本質的に安定である。別の実施形態において、分極ポリマー組成物は、分極ポリ(ヒドロキシブチレート)/ポリ(フッ化ビニリデン)コポリマーである。
【0065】
一実施形態において、分極ポリマー組成物は、分極ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)ベースコポリマーと、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/三フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン/塩化ビニル)およびポリ(フッ化ビニリデン/メチルメタクリレート)からなる群から選択されるコポリマーとのブレンドである。別の実施形態において、分極ポリマー組成物は、PHBHxコポリマーと、可溶性セラミック材料、ポリ(フッ化ビニリデン)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、およびナイロン-11からなる群から選択される1種または複数の成分とのブレンドである。一実施形態において、分極ポリマー組成物は、重量で50:50のナイロン-7およびナイロン-11のそれぞれ、ならびに分極PHAベースコポリマーを含む。分極PHAベースコポリマーは、ブレンド中に任意の好適な量で、例えばブレンド組成物の総重量を基準として1~99%または5~90%または10~80%の量で存在し得る。
【0066】
一実施形態において、分極ポリマー組成物は、PHBHx、ポリ(フッ化ビニリデン)およびフッ化ビニリデン-フッ化ビニル(80/20)コポリマーのブレンドである。別の実施形態において、分極ポリマー組成物は、重量で50:50のPHBHxとフッ化ビニリデン-フッ化ビニル(80/20)コポリマーとのブレンドを含む。別の実施形態において、分極ポリマー組成物は、重量で50:50のPHBHxとポリ(フッ化ビニリデン)とのブレンドを含む。
【0067】
本発明に係る一態様において、請求項1に記載の方法により得られるポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの電界紡糸繊維マットまたは分極ポリマー組成物の少なくとも1つを含むデバイスが提供され、デバイスは、圧電効果、焦電効果および強誘電効果のうち1つまたは複数を示すように構成される。一実施形態において、分極ポリマー組成物の層は、分極ポリマー組成物の自立式シートである。別の実施形態において、分極ポリマー組成物の層は、支持基板上に配置された前記組成物の非自立式層である。
【0068】
デバイスの一実施形態において、デバイスは、分極ポリマー組成物の2つ以上の層をさらに備え、2つ以上の層は、互いに積層した繊維のリボンの形態である。
【0069】
一態様において、デバイスは、分極ポリマー組成物の層の寸法の変化に応じて電圧を生成するように構成されるセンサである。
【0070】
別の態様において、デバイスは、分極ポリマー組成物のセンサ層の表面における次の特性:湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、および半金属の付着のうち1つまたは複数の変化により引き起こされる寸法の変化に応じて電位差または電圧を生成するように構成される汎用センサである。
【0071】
デバイスの別の態様において、センサは、複数のセンサ表面および/または界面を備え、各表面/界面は、次の特性:湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、および半金属の付着のうち1つを監視するように独立して構成される。
【0072】
一態様において、デバイスは、分極ポリマー組成物の層にわたる電荷の印加に応じて拡張または収縮するように構成されるアクチュエータである。
【0073】
一態様において、本明細書において上述された1つまたは複数の圧電アクチュエータを備えるナノモータが提供される。
【0074】
また、本明細書において、いわゆる極性化ポリマー物品(エレクトレット)の製造方法の一例が後に議論される。
【0075】
本明細書において、高度に分極された材料が生成され得る方法が開示され、この材料は、機械的に誘導された配向を有さず、または実質的に有さず、分極は、分極材料のほぼ結晶溶融温度範囲(もしくはガラス転移温度)まで、または、非結晶性の分極材料の場合には、分極材料のほぼ軟化温度範囲もしくはガラス転移温度範囲まで本質的に安定である。この方法は、分極される材料を、その材料用の溶媒または溶剤に溶解することを含む。材料の分極に適合され、分極の間、または分極の前もしくは後の蒸発において望ましい程度まで除去され得る溶媒が選択される。使用される温度は、分極が効果的に生じる温度、通常は実質的な絶縁破壊が生じない高温であり得る。分極に使用されるDC電場は、所望の分極を提供するように選択され得る。本明細書において後に開示される実施例7は、極性化PHAコポリマーベース物品を作製する例示的方法を提供する。
【0076】
また、本明細書において、分極された生成物が提供され、この生成物は、機械的に誘導された配向を有さず、または実質的に有さず、材料のほぼ結晶融点まで、または、非結晶性材料の場合には、材料のほぼ軟化温度範囲もしくはガラス転移温度範囲まで本質的に安定である。現在好ましい材料は、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)のコポリマーであり、特定の例として、ポリ(ヒドロキシブチレート)コポリマーである。
【0077】
本発明に係る一実施形態において、以下のように特徴付けられる分極ポリマー組成物が提供される。
- 機械的に誘導された分子配向を有さない、または実質的に有さない;
- 材料の極性結晶のほぼ結晶溶融温度範囲まで、または、材料が非結晶性である場合には、材料のほぼ軟化温度範囲もしくはガラス転移温度範囲まで本質的に安定である分極を有する;および
- 極性化電場方向に垂直な面内で等方性または実質的に等方性の機械的および電気機械的特性を有し;前記分極材料は、前記材料の本質的に全て、または全てを含む組成物である。
【0078】
一実施形態において、PHBHx3.9mol%の単一電界紡糸繊維は、230ミリボルトのピーク間応答の圧電応答を生じた。
【0079】
電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)ナノ繊維
導入部
電荷による自己組織化およびその印加電場との相互作用に基づく電界紡糸は、数十ナノメートル範囲までの直径を有する超微細繊維を生成するための効率的で多用途の技術である。電界紡糸プロセスに関連した強力な引張力および急速な溶媒蒸発反応速度のために、電界紡糸された繊維は、バルク材料と比較して異なる結晶化挙動を有し得る。これは、準安定な相または結晶多形の形成をもたらし得る。一部のポリマー材料では、電界紡糸ナノ繊維において2つ以上の結晶多形を見出すことができ、各多形の数は、多くの場合、電界紡糸条件を変更することにより制御され得る。例えば、改良型コレクタで収集されたバイオベースのポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)の電界紡糸ナノ繊維では、2つの結晶多形の共存が観察されている。さらに、2らせん構造を示す鎖を有する熱力学的に安定なα型、および平面ジグザグ構造をとる鎖を有する歪み誘起による準安定β型の2つの結晶多形の濃度は、収集方法により影響され得る。ポリマーの結晶構造は加工後に発現されるその特性において重要な役割を果たしていることから、これらの所見の意味するところは幅広い。電界紡糸プロセス中のポリマー鎖の結晶化挙動をさらに解明するために、結晶多形の空間分布を含む、単一電界紡糸ナノ繊維の内部構造に関する研究が必須となる。残念ながら、必要な空間分解能および位相感度/特異性を同時に提供し得る技術は極めて限られている。
【0080】
原子間力顕微鏡(AFM)および赤外(IR)分光法の組合せは、これらの技術的限界を克服し得る。AFM-IRとして知られるこの新たな技術は、光熱誘導性共鳴効果(PTIR)に基づいている。これは、50~100nmの空間分解能で化学的、構造的および分子配向の情報と相関し得る地形情報を提供する強力なツールである。従来のFT-IR分光法とは異なり、AFM-IR技術は、鋭い金被覆AFM先端を使用して、IR放射線の短い(10nsの)パルスの吸収により引き起こされる試料の急速な熱膨張を検出する。単色レーザ放射線が試料中の分子振動を励起するIR周波数に近付くと、光が吸収され、AFM先端と接触している試料の急速な熱膨張を誘導する。これにより、AFM先端の同時偏向がもたらされ、熱が放散するにつれてその自然の偏向共鳴周波数でカンチレバーの「リングダウン」が生じる。カンチレバーのこれらの動きは、カンチレバーの頂部で反射する第2のレーザビームにより「検出」され、この信号が、位置感受性光検出器を使用して測定される。カンチレバーにおいて誘導された共鳴振幅は、試料により吸収されるIR放射線の量に比例する。したがって、最終的なAFM-IRスペクトルは、IR指紋領域上でIRレーザを調整しながらリングダウン振幅を測定することにより得られる。このAFM-IR機器に関するさらなる詳細は、別の場所に見出すことができる。AFM先端により提供される微細空間分解能、およびIR分光法により提供される位相感度を備えたAFM-IR技術の開発は、本明細書において、単一電界紡糸ナノ繊維における結晶多形の空間分布を探査するために使用される。
【0081】
本明細書において、AFMIR技術を利用した単一電界紡糸ナノ繊維における多形分布の調査が開示される。バイオベースPHBHxナノ繊維は、高速回転ディスクのテーパした縁部上に電界紡糸することにより製造された。単一ナノ繊維におけるα型およびβ型結晶多形の共存が、AFM-IR、および低線量TEMによる制限視野電子回折(SAED)の両方によって確認された。さらに、繊維サイズに対するβ含有量および分子配向の依存性が、単一繊維スケールでこれらの2つの技術により調査された。さらに、様々な直径を有する個々の繊維にわたる2つの多形の空間分布が、AFM-IR分光法および50nmの空間分解能での画像化により検査された。
【0082】
また、本明細書において、応力誘導性β結晶化によるPHBHx膜におけるβ構造の形成の方法が開示され、応力は、PHBHx膜を機械的に引っ張ることにより印加される。
【0083】
また、本明細書において、室温等温結晶化に続く機械的引張の新規の方法により、PHBHx膜においてβ構造を形成する方法が開示される。β構造の形成の前にα結晶子が存在しなければならないことが確認された。β構造を最初に形成するための理想条件は、28分の等温結晶化に対応した。さらに、このβ構造は可逆的であること、および引張プロセスが最初のβ形成および再引張プロセスで異なることが示された。β構造はまた、48℃という低い温度で再びα構造にアニールされ得る。
【0084】
PHBHxのβ型の明らかな重要性から、この結晶形態を確実に理解することが望ましい。具体的には、ポリマーがこの相に転移するプロセスを評価することにより、β形成を促進する加工方法の設計が容易となり得る。IRおよびラマン分光法は、β型に起因する振動バンドの数を考慮すると、このプロセスの好ましい分析方法である。さらに、得られるスペクトルは、2DCOSを使用して容易に分析され得、これにより試料中の変化の順番が決定され得る。最も有望な手段は、PHBHxのポリマー膜に対するパーセント歪みの関数としてスペクトルを記録することである。各分光法は、考慮する必要がある独自の制限を有する。赤外では、膜が緩和しないようにするために、透過モードで試料を測定する必要がある。しかしながら、透過測定には薄い試料が必要であり、これにより取扱いおよび引張が困難となる。一方、ラマン分光法は薄い試料を必要としないが、スペクトルはレーザスポットにおいてのみ記録され、歪み領域外で集光される可能性がある。この制限を克服するために、ドッグボーン形状を形成するように膜を切り出すことができ、これによって試料はその領域で強制的に歪む。したがって、ラマンは、赤外を超える利点を有し得る。得られた試料は、可能ならばXRDおよびDSCで測定され得る。XRDプロファイルは、機器内に機械的引張器を位置付け、したがって試料を緊張させたままにすることにより、試料に歪みが残っている状態で得ることができる。しかしながら、DSC分析では、典型的には試料を機械的引張デバイスから取り外す必要がある。α含有量を増加させるがβ型を溶融させないために十分低い温度で応力を受けてアニールされた膜は、歪んだ試料の保持を可能にし得る。予備的な結果は、機械的引張器全体を対流炉に挿入し、膜を約4時間アニールすることが好適となり得ることを示している。アニール温度は3HHx含有量に依存するため、正しいアニール温度を適切に決定するために、β含有量を有する一連の試料が異なる温度でアニールされ、その後XRDで測定され得る。XRDでβピークが消失したら、その試料のアニール温度未満の温度が、歪み構造を固定するために選択され得る。DSC測定はこれらの試料を用いて行うことができるが、試料が加熱されると機械的緩和が生じ得ることに留意すべきである。これを回避するために、試料をDSCパンに挿入する前にアルミニウム片で包み込むことができる。そのような分析は、β型の特定の振動バンドおよびその形成プロセスを明らかにするだけでなく、β結晶の熱挙動、すなわち融点もまた特定する。この情報により、より高いβ含有量を有する試料がより容易に設計され得、熱的制限を留意して用途を生み出すことができる。本明細書において後に開示される実施例2は、個々の電界紡糸PHBHx繊維における多形分布の例示的な精査を、実験手順、結果および考察を含めて提供する。
【0085】
PHAベースコポリマーに基づくデバイス
一態様において、本発明に係るポリ(ヒドロキシブチレート)PHAコポリマーベース圧電材料は、これらに限定されないが、汎用センサ、アクチュエータ、生物電池、ナノモータを含む任意の好適な用途に使用され得る。ナノ繊維形態で使用される場合、例えば、湿度、温度、塩分、栄養物の付着または注入、半金属の付着等により引き起こされた寸法の任意の変化は、その端部間に電位差(電圧)を形成する。これにより、遠隔で検出され得る信号が生じる。そのような多目的センサは存在せず、そのようなセンサの開発は革新的であり、環境上の多くの場面に影響を与える。
【0086】
別の態様において、生体適合性、生分解性および圧電性の本発明に係るPHAコポリマーベース圧電材料は、使い捨てのナノモータおよびセンサに使用される。一実施形態において、本発明に係るPHAコポリマーベース圧電材料は、医療用センサおよびナノモータに使用され得る。
【0087】
図37は、例示的なデバイス100を示し、デバイス100は、請求項1に記載の方法により得られるポリヒドロキシアルカノエートベースコポリマーの電界紡糸された繊維のリボンまたは分極ポリマー組成物の少なくとも1つを含むPHAベースコポリマー層110を備え、層110は、圧電効果、焦電効果および強誘電効果のうち1つまたは複数を示すように構成され、電界紡糸された繊維のリボンおよび分極ポリマー組成物のそれぞれは、X線回折により測定して約10%~約99%の量で存在するβ型のPHAベースコポリマーを含む。
【0088】
一実施形態において、デバイス100は、PHAベースコポリマー層の寸法の変化に応じて破線120に対応する電位差または電圧を生成するように構成されたセンサであり得る。図37に示されるように、センサ用途において、センサであるPHAベースコポリマー110の寸法の変化が、矢印がコポリマー110とは反対方向を指している破線120により示される信号出力(すなわち電荷または電圧)を形成する。
【0089】
別の実施形態において、デバイス100は、PHAベースコポリマー層にわたる破線120に対応する電荷または電圧の印加に応じて寸法を変化させる(例えば拡張または収縮する)ように構成されたアクチュエータであり得る。図37に示されるように、アクチュエータ用途において、矢印がコポリマー110の方向を指している破線120により示される電荷入力が、PHAベースコポリマー110の寸法の変化を引き起こし、この寸法の変化が所望の効果を発動させる。
【0090】
図38に概略的に示される特定の例において、センサ100/230は、張力下に置かれた膜/繊維110を備えることができる。刺激(例えば繊維内に吸着された湿気)の存在が、膜/繊維の寸法の変化220(例えば膨潤)をもたらし得、これが圧電活性により電位差を生成し(210)、この電位差はデジタル的に検出されるか、またはアナログ信号(例えば電球の点灯)に変換される(240)。他の特性(例えば、温度、塩分、栄養物の付着または注入、半金属の付着等)の変化が、同様の結果および出力を生成し得る。
【0091】
図39に概略的に示される別の特定の例において、センサ100/340は、例えばセンサが「生物電池」(例えば、グルコースの検出等、有機化合物により駆動されるエネルギー貯蔵デバイス)である実装において、生物学的刺激により起動され得る。刺激の存在によって、プロセッサ(例えばマイクロコントローラ330)により読み出され、有線または無線であり得る(例えばBluetooth(登録商標)技術による)通信インターフェースにより通信される信号120が、処置デバイス(例えばインスリンポンプ310)に放出され得、次いでこれは関連パラメータ350を調節し得る(例えばインスリンを増加または減少させ得る)。監視用途では、圧電センサ100により放出された信号120は、単に患者環境の構成成分の監視に使用され得る(例えばin-situグルコースモニタ)。実装は、グルコースの検出、または血液中の構成成分の検出に限定されない。別の実装では、生物学的刺激は、動物またはヒト患者の生理学的信号、例えば脈管系構成要素(例えば、心臓、静脈、動脈)により生成される「心拍」等であってもよく、心拍(例えば圧力の局所的変化)による圧電ポリマーの寸法の変化が、プロセッサ330により読み出され、監視または処置デバイス310に通信(320)される電位差または電圧を生成する。例示的な処置デバイス310は、例えばペースメーカを含み得、これは測定結果に応じてペースメーカ信号350を調節し得る。この例における例示的な監視デバイスは、例えば、血圧モニタを含み得る。そのようなセンサの実装は、動物またはヒトの体のいかなる特定の系にも限定されない。
【0092】
別の実施形態において、本明細書で議論されるポリマー生成物(例えば電界紡糸繊維または他の構造)は、例えば参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,897,547号において開示されるように、構造の金属化、および捕捉分子の付加によりセンサとしての使用に構成され得る。
【0093】
より具体的には、以下は、本発明の特定の実施形態を表す。
【0094】
1.材料の極性結晶のほぼ結晶溶融温度範囲まで、または、材料が非結晶性である場合には、材料のほぼ軟化温度範囲もしくはガラス転移温度範囲まで本質的に安定である分極材料。
【0095】
2.分極材料の分極安定性の実質的な損失なしに除去され得る可塑化量の溶媒が分布した、実施形態1の分極材料。
【0096】
3.誘電率を改善する溶媒の存在により、前記溶媒を含まない前記分極材料の誘電率よりも誘電率が実質的に増加する、実施形態1の分極材料。
【0097】
4.誘電率が少なくとも50パーセント増加する、実施形態3の分極材料。
【0098】
5.材料が、分極ポリ(ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHx)コポリマーであり、分極は、その極性結晶のほぼ結晶溶融範囲まで本質的に安定である、実施形態1の分極材料。
【0099】
6.材料が、分極PHBHxコポリマーである、実施形態1の分極材料。
【0100】
7.材料が、分極ポリ(ヒドロキシブチレート)/ポリ(フッ化ビニリデン)コポリマーである、実施形態1の分極材料。
【0101】
8.材料が、可溶性セラミック材料、PHBHxコポリマー、ポリ(フッ化ビニリデン)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、ナイロン-11、およびそれらのブレンドからなる群から選択される1つまたは複数の成分を含む、実施形態1の分極材料。
【0102】
9.材料が、分極され得るポリマー単位を有するポリマーであり、ヒドロキシブチレート単位、ヒドロキシヘキサノエート単位、ビニル単位、ビニリデン単位、エチレン単位、アクリレート単位、メタクリレート単位、ナイロン単位、カーボネート単位、アクリロニトリル単位、セルロース単位、ペンダントフルオロ、クロロ、アミド、アクリレートおよびメタクリレート単位のエステル以外のエステル、シアン化物、アクリロニトリル単位以外のニトリル、もしくはエーテル基を有する単位、タンパク質単位、またはそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の成分を含む、実施形態1の分極材料。
【0103】
10.分極材料を調製するための方法であって、
a)事前に選択された形態で分極され得る膜の形態の1種または複数のポリマーの溶融組成物を提供する工程と;
b)溶融したポリマー組成物をクエンチする工程と;
c)ポリマー組成物を冷間延伸する工程と;
d)ポリマー材料の実質的な絶縁破壊をもたらす強度より低い強度の効果的に高い電場を印加することにより、冷間延伸されたポリマー組成物を分極する工程と;
e)分極ポリマー組成物を、分極ポリマー組成物の結晶の溶融温度より低いアニール温度でアニールする工程であって、これにより分極が保持され、ポリマー組成物の極性結晶の結晶融点またはその付近で分極の熱安定性が提供される工程と
を含む方法。
【0104】
11.前記組成物が、1種または複数のポリマーおよび前記ポリマー用の1種または複数の溶媒の溶液を含む、実施形態10の方法。
【0105】
12.前記ポリマーが、分極され得るポリマー単位を有し、ヒドロキシブチレート単位、ヒドロキシヘキサノエート単位、ビニル単位、ビニリデン単位、エチレン単位、アクリレート単位、メタクリレート単位、ナイロン単位、カーボネート単位、アクリロニトリル単位、セルロース単位、ペンダントフルオロ、クロロ、アミド、アクリレートおよびメタクリレート単位のエステル以外のエステル、シアン化物、アクリロニトリル単位以外のニトリル、もしくはエーテル基を有する単位、タンパク質単位、またはそれらの組合せからなる群から選択される1つまたは複数の成分を含む、実施形態10の方法。
【0106】
13.前記組成物が、ポリ塩化ビニル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ(シアン化ビニリデン/酢酸ビニル)コポリマー、シアン化ビニリデン/安息香酸ビニルコポリマー、シアン化ビニリデン/イソブチレンコポリマー、シアン化ビニリデン/メチルメタクリレートコポリマー、ポリフッ化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、セルロース、タンパク質、合成ポリエステルおよびセルロースのエーテル、ならびにポリ(γ-メチル-L-グルタメート)からなる群から選択される1つまたは複数の成分を含む、実施形態10の方法。
【0107】
14.前記組成物が、ポリ(フッ化ビニリデン)およびフッ化ビニリデンコポリマーからなる群から選択される1つまたは複数の成分を含む、実施形態10の方法。
【0108】
15.前記組成物が、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン)、ポリ(フッ化ビニリデン/三フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン/塩化ビニル)およびポリ(フッ化ビニリデン/メチルメタクリレート)からなる群から選択される1種または複数のコポリマーを含む、実施形態14の方法。
【0109】
16.前記組成物が、可溶性セラミック材料、PHBHx、ポリ(フッ化ビニリデン)、ビニリデンコポリマー、ナイロン-3、ナイロン-5、ナイロン-7、ナイロン-9およびナイロン-11ならびにそれらのブレンドからなる群から選択される1つまたは複数の成分を含む、実施形態10の方法。
【0110】
17.前記組成物が、ナイロン-7およびナイロン-11を含む、実施形態10の方法。
【0111】
18.前記組成物が、重量で約50:50のナイロン-7およびナイロン-11のそれぞれを含む、実施形態10の方法。
【0112】
19.前記組成物が、前記ポリマーの溶融物またはポリマーを含む、実施形態10の方法。
【0113】
20.前記膜が、前記ポリマーの多相組成物から形成される、分極され得る1種または複数のポリマーの少なくとも2つの層を含む、実施形態10の方法。
【0114】
21.前記膜が、共押出しされ、互いに接触している、分極され得る1種または複数のポリマーの少なくとも2つの層を含む、実施形態10の方法。
【0115】
22.前記膜が、前記組成物の自立式シートを含む、実施形態10の方法。
【0116】
23.前記膜が、自立式シート上に配置された前記組成物の非自立式層を含む、実施形態10の方法。
【0117】
24.極性化が、少なくとも1MV/cmの電場を使用して、約20℃~約120℃で最長約5時間行われる、実施形態10の方法。
【0118】
25.膜が、約125℃~約150℃の温度で少なくとも1時間アニールされる、実施形態10の方法。
【0119】
26.組成物が、PHBHx、ポリ(フッ化ビニリデン)およびフッ化ビニリデン-フッ化ビニル(80/20)コポリマーのブレンドを含む、請求項10の方法。
【0120】
27.組成物が、重量で50:50のPHBHxとフッ化ビニリデン-フッ化ビニル(80/20)コポリマーとのブレンドを含む、実施形態10の方法。
【0121】
28.組成物が、重量で50:50のPHBHxとポリ(フッ化ビニリデン)とのブレンドを含む、実施形態10の方法。
【0122】
実施例
【実施例1】
【0123】
電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)ナノ繊維のβ型結晶構造の形成
材料
3.9mol%のHx含有量を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHx)(Mw=843000g/mol、PDI=2.2)は、Procter & Gamble Companyから供給された。ポリマーをクロロホルムに溶解し、続いて濾過し、その後ヘキサン中で沈殿させることにより精製した。溶媒1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)をSigma-Aldrichから購入し、供給されたままの状態で使用した。
【0124】
電界紡糸
精製されたPHBHxをHFIPに溶解し、60℃で一晩撹拌して確実に完全溶解させることにより、1wt%の電界紡糸溶液を調製した。ナノ繊維の電界紡糸のための実験プロトコルの一部として、21ゲージステンレススチールニードルを備えた3mLのBDプラスチックシリンジにポリマー溶液を充填し、これを10kVに保持された高電圧電源の正極に接続した。2つの異なる負に帯電したコレクタ、平行電極コレクタおよび回転ディスクコレクタを使用して、所望の形態を有する電界紡糸ナノ繊維を収集した。平行電極コレクタでは、アルミニウム箔片に矩形のスロットを切り込み、スロットを35mm×10mmのエアギャップとした。回転ディスクコレクタでは、ディスクは、収束電場を形成するために、30°の半角を有するテーパした縁部を有するように設計された。回転ディスクの角速度は、ディスクの縁部での1117m/分の線速度に対応する3500rpmに設定した。ニードルとコレクタとの間の印加電圧は、25kVであった。作動距離および溶液供給速度は、それぞれ25cmおよび0.5mL/時であった。全ての電界紡糸マットは、さらなる調査の前にあらゆる残留溶媒を除去するために、真空中で24時間乾燥させた。
【0125】
特性決定
繊維マット:電界放出走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL JSM 7400F)を使用して、3.0kVの加速電圧で電界紡糸PHBHxナノ繊維の形態を観察した。繊維直径は、ImageJソフトウェアを使用して測定した。X線源としてCu Kα(λ=1.5418Å)を用い、44kVおよび40mAで動作するRigaku Ultima(IV)機器を使用して、周囲条件下で広角X線回折(WAXD)測定を行った。10°~40°の2θ範囲内で、1°/分の速度および0.1°の試料ステップで走査を行った。Thermo Nicolet NEXUS 670を室温で透過モードにて使用して、フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトルを収集した。各試料について、4cm-1のスペクトル分解能で128走査を信号平均化した。
【0126】
単一繊維:120kVの加速電圧での低線量CCDカメラを備えた透過型電子顕微鏡(TEM、Tecnai G2 12)により、制限視野電子回折(SAED)パターンおよび明視野像を記録した。検体の損傷を低減するために、レース状炭素膜で被覆された300メッシュの銅グリッド上にナノ繊維を堆積させた。SAED実験を行う場合、回折パターンは2.1mの固定カメラ長で取得し、TEM画像は97000の一定倍率で撮影した。繊維の堆積の前に、銅グリッドのそれぞれに金多結晶の薄層をスパッタしたが、これはカメラ定数を較正し、あらゆる系の歪みを補正するために使用された。
【0127】
単一電界紡糸繊維の高分解能AFM画像およびIRスペクトルを、NanoIR2 AFM-IR(Anasys Instruments)により取得した。試料と基板との間の良好な接触を維持するために、PHBHxナノ繊維を、900~3600cm-1の中間赤外領域で透明なシリコンウエハ基板上に直接電界紡糸した。2cm-1のスペクトル分解能でNanoIRスペクトルを収集し、各データ点に対して256のカンチレバーリングダウンを同時平均化した。
【0128】
結果および考察
繊維マットに関する研究:近年、多くの研究が、繊維形態、巨視的な整列、および分子配向に対するコレクタの大きな影響について説明している。他の電界紡糸パラメータを同じに維持しながら異なるコレクタを使用して収集された電界紡糸PHBHxナノ繊維の形態をSEMで検査したが、その画像を図1に示す。SEM画像は、コレクタがどのように繊維形態に影響するかを明確に示している。ホイッピング領域における屈曲不安定性のために、ギャップ外のアルミニウム箔上に収集された繊維はランダムであり(Al箔ランダム繊維、図1a)、一方、エアギャップにわたり収集された繊維(エアギャップ整列繊維、図1b)および回転ディスクのテーパした縁部上に収集された繊維(回転ディスク整列繊維、図1c)は十分に整列している。さらに、整列した繊維の平均直径(270±20nm)は、Al箔ランダム繊維の平均直径(500±30nm)よりはるかに小さかったが、これは、形成中の追加的な引張および延伸を示している。長い間、回転収集では、電界紡糸繊維はさらに引っ張られ、巻き取り方向に向かって整列するものと認識されていた。しかしながら、エアギャップ整列繊維の場合、引張は、繊維上の残留正電荷とギャップ縁部上に蓄積した負電荷との間の静電引力によってもたらされる。これらの引力は、エアギャップにおける放出されていない繊維上の残留電荷との間の反発力と協調して、繊維の巨視的な整列をもたらす。
【0129】
この研究において、繊維マットにおける分子配向を、偏光フーリエ変換赤外分光法(p-FTIR)により特性決定した。P-FTIRは、電界紡糸中の分子配向およびポリマー鎖の構造変化を研究するために広く使用されている。入射赤外ビームがある特定の方向に偏光したFTIRスペクトルでは、振動の双極子モーメントの変化が入射ビームの電気ベクトルに沿った成分を有する場合、高い吸光度が測定される。図2は、Al箔ランダム繊維(図2a)、エアギャップ整列繊維(図2b)、および回転ディスク整列繊維(図2c)の平行および垂直p-FTIRスペクトルを示す。図に示されるように、2つの互いに垂直な方向における整列した繊維のp-FTIRスペクトルは、吸光度の明確な違いを示したが、これは、PHBHxポリマー鎖の分子配向の存在を示す。この微視的配向を定量化するために、以下の式(一軸対称性を仮定)を使用していくつかの特性ピークの正規化二色性差異(NDD)を計算した。
【0130】
【0131】
式中、A∥は、巨視的繊維軸に対する平行偏光赤外吸光度であり、A⊥は、垂直偏光赤外吸光度である。この式から分かるように、NDDは-1/2~1の範囲であり、試料が等方性の場合、NDD=0である。表1に列挙されるように、カルボニル伸縮のNDDは、Al箔ランダム繊維、エアギャップ整列繊維および回転ディスク整列繊維に対してそれぞれ0.001、-0.134および-0.100と計算された。NDD<0は、入射赤外ビームの電気ベクトルが繊維軸に対して平行である場合、ベクトルが繊維軸に対して垂直である場合と比較して、C=Oの吸光度がより低い(A∥<A⊥)ことを示す。カルボニル結合は、その化学構造により予測されるように分子骨格に対してほぼ垂直であることから、この結果は、カルボニル結合が繊維軸に対して垂直な配向を示し、ポリマー鎖が繊維軸に沿って配向したことを示唆していた。カルボニル結合のNDDが-1/2に近付くにつれて、鎖はより繊維軸に沿って配向する。一方、分子骨格に沿ったC-O-C結合のNDD>0は、C-O-C結合が繊維軸にほぼ平行に配向したことを示唆している。C-O-C結合のNDDが1(1.0)に近付くにつれて、鎖はより繊維軸に沿って配向する。表1から、エアギャップ整列繊維はC=O伸縮に対して最も低いNDD(最も高い絶対値)を、またC-O-C伸縮に対して最も高いNDDを有したことに留意されたいが、これは、エアギャップ整列繊維が繊維軸に沿った最も高いレベルの鎖配向を有したことを示唆している。特に、3つのバンドのNDDは、Al箔ランダム繊維の場合常に0付近であったことが留意される。この結果は、繊維の巨視的な整列の欠如によるものである。これらの条件下では、個々の繊維内の鎖の整列の程度については何も言うことはできない。
【0132】
電界紡糸PHBHxナノ繊維の結晶形態を、WAXDおよびFTIRにより検査した。図3は、Al箔ランダム繊維、エアギャップ整列繊維、および回転ディスク整列繊維のWAXDプロファイルを示す。全てのプロファイルにおいて、2らせん構造を有するα型に帰属する回折ピークが観察された。さらに、エアギャップ整列繊維および回転ディスク整列繊維のWAXDプロファイルにおいて、平面ジグザグ鎖構造を有するβ型に帰属する回折ピークが、2θ=19.6°で観察された。明らかなように、回転ディスク整列繊維は、エアギャップ整列繊維よりも大幅に多くのβ型を有していた。表示を目的として、全てのプロファイルにおける2θ=13.7°でのα(020)の強度は、1に正規化された。Al箔ランダム繊維ではβ型が見られなかったことを考慮すると、異なる収集戦略(エアギャップ対3500rpmで回転する回転ディスク)は、繊維上の実質的に異なる引張力、およびそれに対応する後者で生成されるβ型の量の増加が関与するため、この伸長した鎖構造は、巨視的に整列した繊維が得られた2つの改良型収集方法により誘導されるはずである。
【0133】
[表1]
表1:異なる振動バンドの正規化二色性差異(NDD)
【0134】
ギャップにわたり、または回転ディスク上で収集された繊維における平面ジグザグ鎖構造の導入は、透過型FT-IRスペクトル(図4)においてさらに確認された。PHAにおけるC=O伸縮は、ポリマー骨格構造と強く相関している。図4aに見られるように、ギャップ外ランダム繊維のC=O伸縮バンドは、結晶相に対応する1725cm-1の強いピークおよび非晶質相に対応する1746cm-1の弱い肩に分解され得る。ランダム繊維から整列繊維まで(正規化WAXD結果)β型の量が増加するにつれて、1725cm-1のピークはより広くなってより高い周波数にシフトし、一方1746cm-1の肩は、その相対的強度が増加してより低い周波数にシフトした。換言すれば、β結晶形態の濃度が増加するにつれてピークおよび肩は徐々に互いに近付き、形状がより類似するようになった。さらに、指紋領域においてもいくつかのスペクトル変化が生じた。図4bにおいて、β型の増加と共に1304、1080、および969cm-1のピークが増大し、一方1277、1047、および950cm-1のピークは低減して肩となった。他の研究でも同様の所見が得られている。これらの所見は、準安定なβ構造の存在(WAXDにより確認される)と、振動スペクトルの変化、特に新たなバンドの出現との間の相関を示しているため、重要である。結果として、上述のピークは、β結晶多形の平面ジグザグ骨格特性の存在を示すものとみなすことができる。
【0135】
単一繊維に対する研究:低線量TEMによる制限視野電子回折(SAED)を使用して、単一繊維スケールでの結晶構造および配向を検査した。図5は、アルミニウム箔上(a、a’)、エアギャップにわたり(b、b’)、および回転ディスクのテーパした縁部上(c、c’)で収集された個々の電界紡糸PHBHx繊維の明視野像およびSAEDパターンを示す。エアギャップ(b)および回転ディスク(c)からの繊維は、サイズがそれぞれ195nmおよび221nmの直径に相当し、一方アルミニウム箔(a)からの繊維は2倍大きく、495nmの直径であった。これらの3種の繊維の対応するSAEDパターンは互いに明確な差異を示し、3つのSAEDパターンは全て斜方晶α型結晶に特徴的な結晶反射を有したが、異なるコレクタを使用した場合、結晶の配向は著しく変化した。本研究において、結晶の配向は、表2に要約されるように、電子回折の接線方向の広がり、または赤道α(020)およびα(110)、子午線α(002)、ならびに層α(111)円弧状反射の中心角度(ψ)によって定量化された。円弧の中心角は、指数付けされた結晶面の角度分布に対応し、したがってより小さいψは、結晶のより高い一軸配向度を示す。表2から、回転ディスクからの繊維が全ての円弧に対して常に最も小さいψを示したことが留意されるが、これは、この単一繊維において、3つの試料の中でもα型結晶が最も高い配向度を有し、結晶中のポリマー鎖は繊維軸に沿って高度に配向していたことを示唆している。β型結晶の結晶反射は、2つの改良型コレクタからの繊維において現れ、新たな赤道円弧の対が4b’および4c’の両方において観察され、これらはβ型結晶面に帰属される。β型結晶構造は歪み誘起による準結晶構造であるため、この所見は、2つの改良型コレクタが確かに、ポリマー鎖を本質的に完全に伸長した形態まで引っ張るのに十分強い追加の引張力を繊維に導入したことを示している。また、β型の円弧は、8°という小さい中心角を常に有していたことが留意される(表2)が、これは、異なる収集条件下での繊維軸に沿ったβ結晶中の分子鎖の高度の配向を示唆している。
【0136】
[表2]
表2:異なる方法で収集された単一繊維のSAEDパターンおよび指数付けされた結晶面の円弧反射の中心角の概略
【0137】
3つのSAEDパターンのそれぞれに対して、赤道線に沿った強度プロファイルを散乱ベクトル(1/d、空間距離の逆数)に対してプロットし、得られたプロファイルを表2に示す。電子ビーム条件および光記録条件等の非構造関連因子の影響を排除するために、分析の前に3つのSAEDパターンの全てのバックグラウンドのグレー値を均等化した。プロファイルのそれぞれにバックグラウンドをフィッティングすることにより、ベースラインを補正した。これらの強度プロファイルから、以下の所見が得られた。まず、左から右に、α(020)およびα(110)ピークの強度は両方とも、βピークの強度が増加する一方で減少したが、これは、α結晶構造含有量の減少およびそれと相関するβ結晶構造含有量の増加を示している。これらの所見は、正に帯電した繊維と負に帯電したギャップ縁部との間の静電引力、および各繊維上の残留正電荷間の静電反発力により生じる絶縁ギャップからの引張力が、回転ディスクからの引張力より大幅に弱いことを示す。さらに、α結晶含有量の減少に伴う相関したβ結晶含有量の増加は、β型結晶構造の形成が、2つの改良型コレクタからの引張力により開始され、α型およびβ型結晶構造は、収集の間の2つの競合する結晶化プロセスにより、非晶質および可動性ポリマー鎖から同時に形成されたことを示唆する。このβ型結晶構造の形成メカニズムは、β結晶がα結晶の後に形成されるIwataおよびIshiiにより提案されたものとは異なることが留意される。第2に、2つのαピークの半値全幅(fwhm)が増加したが、これは、Scherrerの式に従う有効結晶サイズの減少を示している。しかしながら、最後の2つのプロファイルにおけるβピークのfwhmは類似していたが、これは、異なる引張力を受けた場合にβ結晶の有効サイズは同じままであることを示唆している。α結晶の有効サイズの減少は、改良型コレクタを使用した場合のより急速な溶媒蒸発、ひいてはより急速な固化に起因し得る。結果として、ポリマー鎖は、結晶化の初期状態で固定された。つまり、収集プロセス中に改良型コレクタにより提供される追加の引張力が、可動性非晶質鎖を平面ジグザグ構造に伸長することによりβ結晶構造の形成を開始し、これがα結晶構造の形成と競合する。さらに、これらの引張力は、繊維軸に沿ったα結晶の配向を向上させ、その有効サイズを減少させる。しかしながら、β結晶の配向度およびサイズに対する引張力の影響は制限されている。
【0138】
5b’および5c’のSAEDパターンを慎重に調べたところ、特に5b’において、表2に列挙されたそれぞれの指数付けされたα結晶面に対して、方位角方向における異なる幅を有する2つの円弧の重なりが常に存在することが分かった(表2の概略を参照)。一方の円弧はより大きな中心角を有していたがより狭く、他方はより小さな中心角を有していたがより広く、これは、配向度および結晶サイズが異なる2組のα結晶があったことを示している。また、引張力が5a’から5c’に増加するにつれてより狭い円弧ははるかに小さくなり、一方より広い円弧はわずかに小さくなるだけであることが観察されたが、これは、引張が2組のα結晶の配向に対して異なる影響を有していたことを示している。別の興味深い観察は、5b’において子午線にわたる大きなα(001)層線が出現したことであり、一方5c’では2対の異なるα(011)円弧反射が観察された。これらの結果は、繊維軸に沿ったα型結晶構造における分子鎖の充填状態の変化を示している。
【0139】
要約すると、単一繊維に対するSAED実験からの結果は、結晶構造および結晶の配向レベルに対する収集方法の著しい影響を裏付けており、これは、繊維束に対する調査から導出された結論と一致している。さらに、SAED結果はまた、アルミニウム箔上のランダムに収集された繊維においても実質的なポリマー鎖配向が生じることを実証したが、これは以前の繊維束に対する研究では決定され得なかったことである。これらの結果はさらに、電界紡糸プロセス中の引張力が、鎖を部分的に配向させるには十分大きいが、鎖を平面ジグザグ構造に伸長させるには十分大きくはなく、それには収集の間追加の引張力が必要であることをさらに示している。さらに、SAED実験において、回転ディスク整列繊維は、最も高いレベルの鎖配向を有することが観察された。これは、エアギャップ整列繊維の束が3つ全ての試料の中で最も高いレベルの鎖配向を明らかに示す偏光FT-IR実験から得られた結果とは対照的である。この相違は、繊維束にわたる偏光FT-IR信号の平均化をもたらす、束内での回転ディスク整列繊維の不整合およびサイズ/形態不均一性(ビーズ)に起因し得る。結果として、個々のポリマーナノ繊維の調査がますます重要となる。
【0140】
上述のように、SAEDは、単一電界紡糸ナノ繊維の調査のための有力な技術である。しかしながら、SAED実験は、時折困難で時間を要する。これらの結果を補完するために、超微細電界紡糸繊維の結晶相および非晶質相の両方を単一繊維スケールで直接調査することができる新規の技術、AFM-IRを使用した。AFM-IRは、ナノスケールの特性決定のために原子間力顕微鏡(AFM)および赤外分光法(IR)を組み合わせた技術である。これは、100nm未満の特徴のIRスペクトルおよびAFM画像を同時に提供する。光源は調整可能なIRレーザであり、その波長は1分未満で赤外「指紋」領域にわたり掃引され得る。波長の1つが試料により吸収される場合、ナノ秒の時間スケールで試料の熱膨張が生じ、これが振動するAFMカンチレバーの変調をもたらす。これによってその特定周波数で「リングダウン」が生じ、これは熱が放散するにつれて減弱する。振動の正の振幅はIRバンド強度を表し、したがって、周波数がIR領域(900~3600cm-1)にわたり調整されると、IRスペクトルが50~100nmの空間分解能で得られる。この機器のさらなる詳細は、別の箇所で報告されている。
【0141】
この技術の実現可能性を試験するために、単一のAl箔繊維および単一の回転ディスク繊維のIRスペクトルを収集し、対応する繊維マットの透過型FT-IRスペクトルと比較した(図3、黒および青のスペクトル)。図6aおよび図6bは、それぞれ473nmおよび324nmの直径を有する2つの繊維のAFM画像である。これらの2つの単一繊維のIRスペクトルは、図6cに示されている。図に示されるように、Al箔上で収集された繊維のスペクトルは、それぞれα結晶相および非晶質相に対応する1725cm-1の強いピークおよび1746cm-1の弱い肩の2つの特徴に分解され得た。しかしながら、回転ディスク上で収集された繊維のスペクトルでは、1728cm-1および1740cm-1の2つの異なるピークが観察され、これらはそれぞれ、より規則的なα結晶相およびβ結晶相に帰属された。これらのナノ-IRスペクトルは、ピーク/肩の位置および相対強度の点で従来のFT-IRスペクトルと良く一致している。しかしながら、ナノ-IRスペクトルにおけるピークは、若干不整合の繊維の分布にわたる平均化に起因して幅広く不鮮明な対応するFT-IRスペクトルと比較して、より高度に分解されていることが留意される。
【0142】
β型結晶構造の生成メカニズム
β型結晶構造の生成は、材料の様々な特性に著しい影響を有し得る。これまで、この歪み誘起による準安定結晶構造は、等温結晶化後の熱間/冷間延伸膜、2段階延伸繊維、および1段階延伸繊維を含む、異なる様式で加工されたPHBおよびPHBVの高度結晶化材料において報告されている。これらの高度に引っ張られたPHBまたはPHBV薄膜および繊維において、β型は、十分に発達したα層状結晶間の非晶質相における遊離鎖から生じると考えられていた。換言すれば、β型結晶構造は、α結晶の形成後に生成される。しかしながら、加工中に高度に伸長され得ない材料中の大量の非晶質鎖のために、PHBHx52では同様の加工方法を使用することによりβ型結晶構造を得ることができない。
【0143】
本開示において、PHBHxにおけるβ型結晶構造は、高速回転ディスク上でナノ繊維を収集することにより生成に成功したが、得られた繊維の結晶化度は、予備的DSC測定により示唆されるように44±1%と低い(結晶化度がXc=ΔHm/ΔHm0×100%で計算される場合であり、式中、ΔHm0は、100%結晶性PHBホモポリマーの溶融エンタルピー(146J/g53)である)。得られる繊維においてα型およびβ型結晶が同時に共存し、β結晶含有量の増加が収集の間の引張力の増加によるα結晶含有量の減少と相関している(SAEDを参照)という実験的観察に基づいて、α結晶形態およびβ結晶形態の両方が収集の間に形成されると結論付けることができる。両方とも、2つの異なる競合した結晶化プロセスによって非晶質および可動性鎖から形成されるようである。β結晶構造の可能な生成メカニズムを、図7に示す。以前に報告された生成メカニズム(β結晶がα結晶の後に形成される)とは異なり、電界紡糸PHBHxナノ繊維におけるβ型は、実際にはα型の形成と同時(経路1)またはさらにはその前(経路2)に形成される。ランダムコイル状態の溶解したポリマー鎖は、電界紡糸の間に高度に引っ張られ、したがって引張方向に沿って伸長および配向される。結果として、エアギャップまたは回転ディスクに到達する非晶質繊維は、繊維軸に沿って配向したポリマー鎖からなり、残留する溶媒により可塑化される。収集の間、非晶質繊維は、ギャップにわたる引張により、または高速回転ホイールへの巻き上げにより提供される追加的な伸張力によってさらに引っ張られる。最も高度の伸びにおいて、非晶質繊維におけるいくつかの配向した鎖は完全に伸長し、平面ジグザグ構造をとる。高い溶媒蒸発速度では、この準安定β構造が固化繊維内で固定され、したがってβ結晶は、経路1で示されるように、α結晶と同時に形成される。さらなる可能性として、収集の間の強い張力下では、非晶質繊維におけるポリマー鎖のほとんどが完全に伸長し、平面ジグザグ構造をとる。紡糸直後の繊維のコアにおける残留溶媒の捕捉に起因するより低い蒸発速度では、特にコア内の鎖の一部が緩和し、より安定ならせん構造(α型)に変換される。したがって、最終的な固化繊維は、経路2で示されるように、α結晶構造およびβ結晶構造の両方を含む。現実的には、実際の生成メカニズムは両方の組合せとなり得、願わくは継続的な研究によってPHBHxにおけるβ型の形成プロセスについての洞察がさらに得られるであろう。
【0144】
本発明は、本明細書において特定の実施形態を参照しながら例示および説明されているが、本発明は示された詳細に限定されることを意図しない。むしろ、特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、本発明から逸脱せずに、詳細に様々な修正が行われ得る。
【0145】
結論
繊維マットおよび単一ナノ繊維に対して、電界紡糸PHBHxナノ繊維の微細構造の調査を行った。分子鎖構造、結晶構造、および結晶/鎖の配向を、偏光FT-IR、WAXD、SAED、およびAFM-IRにより調査し、収集方法に極めて依存的であることが判明した。より重要なことには、2つの改良型コレクタを使用することにより、電界紡糸PHBHxナノ繊維において初めて歪み誘起による(歪み誘導性)β型結晶構造が得られた。WAXDおよびSAEDにおける新たな結晶反射の出現、ならびにIRスペクトルにおいて観察されたスペクトル変化に基づいてβ型が特定された。さらに、個々の繊維に対するSAED実験からの結果は、引張力とα結晶およびβ結晶の配向度およびサイズとの間の相関に関する洞察を提供した。最後に、AFM-IR技術は、個々の電界紡糸ナノ繊維の微細構造調査のための強力で効率的なツールであることが実証された。さらに、実験結果によれば、いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、以前に報告されたものとは大幅に異なるβ結晶構造の新たな生成メカニズムが提案される。繊維中の配向した遊離鎖から生じるβ結晶は、収集の間、α結晶の形成と同時に、またはさらにはその前に形成された。本研究は、β構造とPHBHxの機械的特性および加工プロトコルとの間の関係のさらなる調査を行うに至った。材料の優れた生分解性および生体適合性と共に、材料の巨視的な性能の対応する変化により、PHBHxは多くの応用分野において有望な材料となる。
【実施例2】
【0146】
個々の電界紡糸されたポリ[(R)-3ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)における多形分布
ポリマー
3.9mol%のヒドロキシヘキサノエート(Hx)コモノマー含有量を有する細菌により生成されたポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHx)(Mw=843000g/mol、PDI=2.2)は、Procter & Gamble Companyから供給された。ポリマーをクロロホルム(Fisher Scientific)に溶解し、続いて濾過し、その後ヘキサン(Fisher Scientific)中で沈殿させることにより精製した。電界紡糸用の溶媒1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)をSigma-Aldrichから購入し、供給されたままの状態で使用した。
【0147】
電界紡糸
精製されたPHBHxをHFIPに溶解し、60℃で一晩撹拌して確実に完全溶解させることにより、1wt%の電界紡糸溶液を調製した。室温で、21ゲージステンレススチールニードルを備えた3mLのBDプラスチックシリンジにポリマー溶液を充填し、これを10kVに保持された高電圧電源の正極に接続した。厚さ5mmの負に帯電した(-5kV)回転ディスクを使用して、巨視的に整列した電界紡糸ナノ繊維を収集した。回転ディスクの角速度は、平坦縁部での1117m/分の線速度に対応する3500rpmに設定した。作動距離および溶液ポンピング速度は、それぞれ25cmおよび0.5mL/時であった。中赤外域(900~3600cm-1)の透明シリコンウエハ(Addison Engineering, Inc.)を5mm(幅)×8mm(長さ)の片に切り出し、回転ディスクの縁部に貼り付けた。電界紡糸の間、繊維と基板との間の良好な接触を維持するために、繊維はシリコンウエハ上に直接電界紡糸された。シリコンウエハ上の繊維の密度は、電界紡糸時間の長さを制御することによって容易に調節することができ、電界紡糸時間は、本研究では2繊維/mm(長さ)の近似的繊維密度を得るために45秒に設定した。繊維堆積後、シリコンウエハは、さらなる調査の前にあらゆる残留溶媒を除去するために、24時間真空中に置いた。
【0148】
ミクロトームによる切断
回転ディスク整列ナノ繊維の束を、ミクロトームによる切断の前に2 Ton epoxy(ITW Devcon)中に平行に埋め込んだ。硬化後、厚さ250nmの切片を、室温でミクロトーム(Leica Ultracut UCT)により切り出した。その後、AFMIR試験のために薄い切片を10mm×10mmの平坦ZnSに移した。
【0149】
制限視野電子回折(SAED)
120kVの加速電圧を使用した低線量CCDカメラを備えた透過型電子顕微鏡(TEM、Tecnai G2 12)により、SAEDパターンおよび明視野像を記録した。検体の損傷を低減するために、炭素で被覆された400メッシュの銅グリッド上にナノ繊維を堆積させた。回折パターンは、2.1mの固定カメラ長で取得した。繊維の堆積の前に、銅グリッドのそれぞれに金多結晶の薄層をスパッタしたが、これはカメラ定数を較正し、あらゆる系の歪みを補正するために使用された。
【0150】
AFM-IR測定:分光法対画像化。調整可能なIRレーザ源からの放射線を上から試料の頂部表面上の位置に集光するnanoIR2プラットフォーム(Anasys Instruments、Santa Barbara、CA)を使用して、ナノスケール赤外測定を行った。20nmの公称先端半径を有する金被覆SiN AFM先端(Anasys Instruments)を使用して、接触モードで繊維を検査した。本研究では、良好なリングダウン信号を得るために、入射IRレーザの出力を開放ビーム強度の約2%に調節した。また、試料の溶融/軟化を回避するために、IRレーザの正面に追加的なメッシュフィルタを設置してビームをさらに減衰させた。IRマッピングには、IR信号の更新および画像のピクセルレートを調和させるように調整した。AFM高さおよびIRピーク画像は、機器の組み込みソフトウェア(Analysis Studio、Anasys Instruments)を使用して一次平坦化した。AFM-IRスペクトルは、2cm-1のデータ点間隔で収集し、スペクトル範囲1680~1780cm-1内で256のカンチレバーリングダウンを同時平均化した。この波数範囲内での実際のスペクトル分解能は4cm-1であり、これはレーザ線幅である。繊維上の各サンプリング点に対して、満足のいく信号対ノイズ比に達するように同じ位置からの5つのスペクトルを平均化した。測定は全て周囲条件下で行った。
【0151】
結果および考察
繊維コレクタとして回転ディスクを使用することにより、巨視的に整列した電界紡糸PHBHxナノ繊維を得ることができた。本研究において、同じバッチからの個々のPHBHxナノ繊維をAFM-IRにより検査した。図8aおよび図8a’は、2つの単一回転ディスク整列繊維のAFM高さ画像を示す。2つの繊維はサイズが異なり、それぞれ263nmおよび390nmの直径を有する。実施例1は、繊維が高速回転ディスク上で収集された場合、伸長したポリマー鎖が平面ジグザグ構造をとっている歪み誘起による準安定β型結晶構造が導入されたことを示した。この結果は、この特定の電界紡糸条件下において、β結晶相の出現がIRスペクトルの1740cm-1での特徴的IR吸収によって示されることを示唆している。1728cm-1のIR吸収ピークは、α結晶相に特徴的であり、これはPHBHxの熱力学的に安定な結晶構造である。ナノ繊維における2つの結晶相の空間分布を調査するために、入射IRレーザの周波数をそれぞれβ型およびα型結晶構造に対応する2つの特徴的周波数である1740cm-1および1728cm-1に調整することにより、2つの単一繊維を画像化した。IR画像を図8bおよび図8b’に示す。各IR画像において、上半分は1740cm-1で記録され、下半分は1728cm-1で記録された。これらのIR画像を慎重に調べると、いくつかの所見を得ることができる。まず、図8bおよび図8b’を比較すると、繊維は両方とも1740cm-1および1728cm-1において検出可能なIR吸収を有することが観察され、これは、単一繊維スケールでのα結晶相およびβ結晶相の共存を示している。さらに、同じマッピング条件下において、より細い繊維(263nm)が1740cm-1でより高い吸収を、一方で1728cm-1でより低い吸収を有し、これは、より細い繊維がより太い繊維(390nm)よりも高いβ含有量を有する傾向があることを示している。2つの繊維は同じ電界紡糸条件下で製造されたため、直径の差は、それらが電界紡糸および収集の間に受けた異なる引張力に起因するはずである。伸長歪みを仮定すると、263nm繊維の延伸比は390nm繊維の延伸比より約2.2倍大きい。より高い延伸比は伸長した鎖に有利であるため、より細い繊維におけるより多くの分子鎖が平面ジグザグ構造で見られ、充填してβ結晶形態を形成する。
【0152】
β型含有量の繊維直径に対する依存性だけでなく、単一PHBHxナノ繊維におけるα型およびβ型結晶構造の両方の共存は、個々のPHBHxナノ繊維のSAEDパターンにより再確認される。図9aおよび図9a’は、同じバッチからの2つの単一PHBHxナノ繊維の元のSAEDパターンを示す。挿入図は、2つの単一繊維の明視野TEM画像を示す。2つの繊維の直径はそれぞれ251nmおよび417nmであり、これらはAFM-IR研究での2つの繊維の直径と同等である。比較目的で、元のSAEDパターンを、図9bおよび図9b’に示されるようにコントラスト反転した。2つの反転SAEDパターンを比較することにより、β型結晶面14に帰属された赤道円弧が図9bにおいて明確に示される(赤い矢印により示される)ことが観察され、一方図2b’では、それらはほとんど認識され得ない。SAEDパターンのそれぞれにおいて、赤道線に沿った強度プロファイルを散乱ベクトル(1/d、空間距離の逆数)に対して図9cおよび図9c’に対応させてプロットした。明らかに、図9cにおけるβピークの強度は、図9c’におけるβピークよりはるかに高く、より細い繊維はより太い繊維よりも多くのβ型結晶を含むことを示している。さらに、図9bにおける円弧は、図9b’における円弧よりも接線方向の広がりがより少ない、またはより小さい中心角を有することも観察され、これは、より細い繊維(251nm)がより太い繊維(417nm)と比較してより高度の分子配向を有することを示している。すなわち、単一電界紡糸PHBHxナノ繊維におけるβ型結晶構造の含有量および分子配向度の両方が、繊維直径の減少と共に増加する。AFM-IRおよびSAED研究の結果に基づいて、単一PHBHx繊維におけるβ型含有量と繊維直径との間の強い相関が観察されたが、これは電界紡糸およびナノ繊維収集プロセスの間に受ける引張力に左右される。繊維がより細い程、β型含有量がより高く、分子配向度がより高い。
【0153】
図8bおよび図8b’におけるIR画像から得ることができる第2の所見は、繊維の両方に対して、1740cm-1での吸収は繊維縁部に沿って常に高く、特に図8b’では吸収は2つの縁部にほぼ完全に集中していることである。この所見は、繊維全体にわたるα結晶構造およびβ結晶構造の不均質な空間分布を示唆している。より重要なことに、これは、シェルがコアよりはるかに多いβ結晶多形を含む興味深いコアシェル構造を示唆している。さらに、2つのIR画像を慎重に調べることにより、繊維縁部に沿った赤い線の幅により示されるシェルの厚さは、繊維サイズとは無関係に約10nmであることが判明した。
【0154】
繊維のコアシェル構造の仮説を試験するために、2つの繊維のそれぞれに対して異なる位置でAFM-IRスペクトルを収集したが、IR画像は不均質性の存在を示す。AFM-IRスペクトルを図8cおよび図8c’に示す。AFM-IRスペクトルは全て、1740cm-1および1728cm-1に2つの特徴的なピークを有し、これらはそれぞれ、β結晶形態およびα結晶形態のカルボニル伸縮に相関することが知られている(14)。しかしながら、2つのピークの相対強度は、繊維サイズおよび繊維内の位置に依存する。例えば、図8cにおいて、繊維縁部E1、E2、およびE3上で収集された3つのスペクトルは、比較的高い1740cm-1ピークを有し、一方繊維中心部C1、C2、およびC3で収集された3つのスペクトルは、比較的高い1728cm-1ピークを有する。図8c’においても同様の所見が得られた。各繊維に対して、縁部または中心部における異なるスポットで収集されたスペクトルは、同じスペクトル形状を有しているが、絶対強度が異なる。これは、スポットごとのAFM先端の繊維表面上への接触に影響する繊維の粗い表面に起因し得る。
【0155】
図10に示すように、スペクトルC1、E1(赤いスペクトル)およびC1’、E1’(黒いスペクトル)を同じ図にプロットした。比較目的で、全てのスペクトルの最大ピークの強度を1.0に正規化した。C1およびC1’を比較することにより、両方のスペクトルが1728cm-1および1740cm-1に特徴的なピークを有するが、C1における1740cm-1ピークはC1’のものよりもはるかに高い強度を有することが観察され、これは、コア領域を通して、直径263nmの繊維が直径390nmの繊維より多くのβ結晶含有量を有することを示している。色別に対となった2つの曲線群、すなわちC1、E1(実線のスペクトル)およびC1’、E1’(破線のスペクトル)を比較することにより、E1およびE1’がC1およびC1’と比較してはるかに高い1740cm-1ピークを常に有する傾向があることに気付くはずである。この所見は、ポリマー鎖の形態が確かに単一繊維全体にわたり不均質性を示し、シェルがコアよりも多くのβ型結晶を含むことを示している。興味深いことに、E1およびE1’を比較すると、バンド形状の点で2つのスペクトルの間に大きな差はなく、これは、シェルにおける結晶構造または鎖形態が繊維サイズと無関係であることを示唆している。
【0156】
回転ディスク整列電界紡糸PHBHxナノ繊維がコアシェル構造を有するという結論のさらなる裏付けは、繊維の断面を調査することから得られる。図11aおよび図11a’は、それぞれ260nmおよび312nmの直径を有する同じバッチからの2つの回転ディスク整列繊維の断面のAFM高さ画像を示す。ここでも、IR画像は、1740cm-1および1728cm-1の2つの特徴的な周波数で捕捉された。試料の厚さ変動および熱ドリフトの影響を排除するために、図11bおよび図11b’に示すように2つのマッピングの比、すなわちI1740/I1728をとった。カラーバーは、紫から赤までのIR吸収の相対強度の増加を示す。2 Ton epoxyは、1740cm-1および1728cm-1に無視できるIRレーザの吸収を有するため、エポキシ領域におけるIRマッピング比は1に等しいはずであり、これは図11bおよび図11b’において緑/黄色により表される。図示されるように、2つの繊維断面のそれぞれにおいて、繊維断面の周縁部に明確な赤い環が観察され、繊維断面およびエポキシの明確な差異が生じた。これは、環領域において、I1740/I1728の比が1より大きい、または1740cm-1でのIR吸収が1728cm-1でのIR吸収より高いことを示す。この所見は、回転ディスク整列電界紡糸PHBHxナノ繊維における、より多くのβ型結晶を含む薄いシェルの存在を裏付けている。さらに、断面の両方において、環の厚さが約10nmであることが一貫して見られ、これは図8bおよび図8b’における繊維縁部に沿った赤い線の幅と同等である。これは、繊維におけるシェルの厚さが、繊維直径とは無関係に約10nmであることを強く示唆している。さらに、図11bにおいて、繊維断面のコア領域における色が黄色であり、エポキシ領域における緑色と比較して赤方向にシフトしていることもまた観察される。これは、コアにおけるα型よりも若干高いβ型の含有量を示す。
【0157】
逆に、図11b’において、コア領域における色は緑色であり、エポキシ領域における黄色と比較して紫方向にシフトしており、α型よりも低い含有量のβ型を示している。この所見は、スペクトルC1での1740cm-1ピークがC1’での1740cm-1ピークより高い図10における所見と一致している。しかしながら、環は繊維断面の周縁部に沿って完全ではなく(図11b)、環を超えていくつかの余分な赤領域が存在する(図11b’)。これはおそらく、ミクロトームプロセス中のポリマーの擦れに起因し、これは、ダイヤモンドナイフがよく切れない、または切断速度が遅い場合にポリマーのランダムな破裂または収縮をもたらす。
【0158】
実験的観察に基づいて、いかなる特定の理論にも束縛されることを望まないが、回転ディスクで収集された電界紡糸PHBHxナノ繊維における多形不均質コアシェル構造の生成の可能なメカニズムが本明細書において提案され、図12に示される。そのランダムコイル状態の溶解ポリマー鎖は、電界紡糸の間に高度に引っ張られ、引張方向に沿った鎖の伸長および配向をもたらす。結果として、回転ディスクに到達する非晶質繊維は、繊維軸に沿った配向ポリマー鎖からなり、これは残留溶媒により可塑化される。収集の間、非晶質繊維は、高速回転ホイールにより提供される追加的な伸張力によってさらに引っ張られる。最も高度の伸びにおいて、非晶質繊維中のポリマー鎖のほとんどは完全に伸長し、図12における紡糸直後の繊維で示されるように、平面ジグザグ構造をとる。繊維表面での極めて急速な溶媒蒸発速度のために、表面近くの平面ジグザグ鎖は動力学的に固定され、準安定なβ型に結晶化する。したがって、被膜またはシェルの薄層が形成される。その後、固化したシェルは、半透過性バリアとして機能し、コア内の残留溶媒の蒸発を制限する。結果として、特にコア内の鎖の一部は、より安定ならせん構造(α型)に変換される。したがって、最終的な固化繊維はコアシェル構造を有し、結晶構造はコアとシェルとで異なる。
【0159】
α型およびβ型多形の空間分布のコアシェルモデルは、PHBHxナノ繊維の構造/加工/特性の関係の理解を大幅に容易にし得る。同じ化学組成を有するが異なる分子充填を有するα型およびβ型結晶構造は、機械的特性、生分解性、および圧電性を含む独特の特性を有することが報告されている。例えば、β型P(3HB)は、そのα型相当物よりもはるかに高い強度および弾性率を有することが広く認識されている。P(3HB)の酵素分解の研究では、オールトランス構造を有するβ相の分解速度は、らせん構造を有するα相の分解速度より高いことが明らかとなった。より興味深いことに、最近の実験結果は、PHBHxナノ繊維の圧電応答が、おそらくはβ型結晶構造の導入に相関していることを示している。したがって、PHBHxナノ繊維の最終的な特性は、電界紡糸条件に大きく依存するα相およびβ相の組成により大きく影響され得る。コアシェルモデルによれば、PHBHxナノ繊維の用途がβ結晶構造により支配される特性を必要とする場合、電界紡糸の間の全体的な引張力を増加させることにより、または溶媒蒸発を促進して半径方向における溶媒拡散より速くすることで、β型の絶対含有量を増加させることができる。さらに、β相に富むシェルの相対的体積分率を増加させるために、繊維直径を低減することによりβ型の相対含有量を増加させることができる。
【0160】
結論
単一電界紡糸ナノ繊維における結晶多形の空間分布を、AFM-IR技術を使用して初めて研究した。2らせん構造を有する鎖からなる熱力学的に安定なα型、および平面ジグザグ構造を有する鎖からなる準安定なβ型の2つの結晶多形を含む電界紡糸PHBHxナノ繊維を調査した。AFM-IRスペクトル、および単一PHBHxナノ繊維の画像化により、単一繊維スケールでのα型およびβ型多形の共存が実証され、SAED結果により再確認された。さらに、β型の分子配向レベルおよび濃度は、繊維直径に極めて依存することが確認された。より重要なことに、AFMIRスペクトルおよび画像化により、2つの結晶多形が、α型に富むコアおよびβ型に富むシェルからなる不均質なコアシェル構造として空間的に分布することが明らかとなった。シェルの厚さは、繊維サイズの変動を通して一定に保たれたが、これは、シェルの形成が溶媒の蒸発と拡散との間の競合により主に制御されることを示している。上記の実験的観察に基づいて、コアシェル構造の可能な生成メカニズムが提案された。繊維固化の間、繊維における高度に配向した遊離鎖から生じる平面ジグザグ鎖は、繊維表面近くで動力学的に固定され、表面における極めて高い溶媒蒸発速度に起因してβ型に富むシェルを形成した。繊維のコア領域におけるジグザグ鎖は緩和し、より安定ならせん鎖に変換されてα型に富むコアを形成する。これは、残留溶媒の存在により可能であり、その蒸発は、より密に充填されたシェルによって阻害された。本研究は、AFM-IR技術が確かに単一電界紡糸繊維のナノスケールの調査に効果的および効率的なツールであり、赤外における回折限界より十分に小さい空間分解能で地形情報および構造情報の両方を提供することを示した。本研究は、ナイロン-6およびポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)等、電界紡糸が準安定な結晶相の形成を促進する場合の様々な多形材料のナノスケール構造調査のためのテンプレートとして考慮することができる。加工/収集条件に応じたナノ繊維の多形分布の調査は、極めて高い剪断/引張力下、および電界紡糸の間の極めて急速な溶媒蒸発下での分子鎖挙動のより深い理解を提供する。構造/特性/プロセスの関係に関するこのレベルの基礎的理解は、使用目的による特定の特性を有するポリマーナノ繊維の合理的設計および製造に向けた重要な第一歩である。
【実施例3】
【0161】
電界紡糸されたポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)ナノ繊維における圧電効果の測定
電界紡糸
高速回転ディスクをコレクタとして使用して、準安定β型結晶構造を含む巨視的に整列したPHBHxナノ繊維を製造した。電界紡糸プロセスの詳細は、実施例1に見出すことができる。具体的には、高度に整列したPHBHxナノ繊維の自立したリボンが回転ディスクの平坦縁部から容易に剥離され得るように、回転ディスクを非接着性アルミニウム箔で慎重に包み込んだ。
【0162】
アニール
PHBHxの準安定β型結晶構造は、130℃に加熱することにより再びα型にアニールされ得ることが報告されている。したがって、任意のβ多形から熱力学的に安定なα多形への変換を促進するために、繊維のリボンをオーブン内で24時間130℃でアニールした。繊維の巨視的な整列を維持するために、繊維のリボンの2つの端部をスライドガラスにクランプし、アニールの間そこに保持した。
【0163】
繊維マットの特性決定
アニールの前および後の回転ディスク整列繊維の形態および結晶構造を、走査型電子顕微鏡(SEM)および広角X線回折(WAXD)により特性決定した。
【0164】
圧電応答の測定
圧電カンチレバーを使用して、巨視的に整列したPHBHxナノ繊維の圧電応答を試験した。図13(a)に示されるように、2つの圧電性チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)シート(T105-H4E-602、Piezo Systems)AおよびBを、長さ32mm×幅3.5mmの矩形ステンレススチール層の頂部および底部に接着した。頂部のPZTシートAは、22mm(長さ)×3.5mm(幅)の寸法を有し、底部のシートBは若干短く、12mm×3.5mmの寸法である。直径1mmの細い真鍮の円柱を、試験プローブとして機能するようにカンチレバーの先端に接着した。圧電カンチレバーに関するさらなる詳細は、別の箇所に見出すことができる。逆圧電効果に起因して、PZTシートAにわたる外部電圧の印加は、カンチレバーおよび試験プローブの軸方向の変位をもたらす。図13(b)は、様々な印加電圧でのプローブの変位を示す。プローブ変位は、0.5μmの分解能を有するレーザ変位センサ(LC-2450、Keynece Corporation)を使用して測定した。外部電圧は、ファンクションジェネレータ(Agilent 33220A、20MHz)により供給した。
【0165】
繊維の圧電応答を測定するために、幅5mm×長さ10mmの繊維のリボンを、可撓性PDMS基板に接合した。バックグラウンドノイズを低減するために、このPDMS基板を絶縁性Kapton(登録商標)テープで被覆した。電極として機能する導電性銅テープ(3M 3313、1/2インチ)を使用して、整列した繊維が負荷なしに完全にまっすぐとなるように繊維のリボンの2つの端部を基板上に接着した。圧電試験は、カンチレバープローブを繊維のリボンの表面上に慎重に係合させることで開始し、ファンクションジェネレータにより供給される方形波電圧をカンチレバーにわたり印加して、10Hzの周波数でカンチレバーの振動を生成した。したがって、繊維のリボンと接触しているプローブは、同調してまっすぐな繊維を変形させた。整列した繊維の変形により生じる誘導電圧を、デジタルオシロスコープ(Agilent Infinitum 1.5 GHz、8GSa/s)で記録した。実験構成を図2に示す。繊維のリボンがないと明らかな電圧信号が観察されないことを検証するために、対照実験を行った。全ての実験は、バックグラウンド振動を最小限にするために、Newport光学テーブル(RS100、Newport Corporation)上で行った。
【0166】
結果および考察
アニールの前および後の巨視的に整列したPHBHxナノ繊維束における形態および結晶構造を、図3に示す。アニール後、繊維の巨視的な整列が一定に保たれたことが観察される。図3b’に示される19.6°でのβ型のX線回折ピークの損失により実証されるように、おそらくは熱力学的に安定なα型への変換によりβ型が消失した。さらに、アニール後にα型の2つの回折ピークはより狭くなった、すなわち2つのαピークのFWHMはより小さくなったが、これは、α結晶のサイズが、アニール中の分子鎖の再組織化に起因して増加したことを示している。
【0167】
アニールの前および後のPHBHxナノ繊維の圧電応答を、10Vの印加電圧で測定した。結果を図4に示す。量的には、アニール前の繊維(黒い信号)は、アニール後の繊維(赤い信号)よりもはるかに高い電圧出力(ピーク間で約240mV)を示し、これは、繊維の圧電性とβ型結晶構造の存在との間の強い相関を示している。
【0168】
β結晶形態は、平面ジグザグ構造を示す分子鎖を含む。図5bに示されるように、C=O基からの電気陰性O原子、および隣接するCH基からの電気陽性H原子が、ポリマー骨格の反対側に存在する。結果として、ポリマー骨格に垂直に正味双極子モーメントが形成される。以前の研究では、回転ディスク整列繊維におけるポリマー鎖は、繊維軸に沿って高度に配向していることが示された。したがって、整列した繊維が屈曲すると、繊維に閉じ込められた配向ポリマー鎖が変形し、それにより双極子モーメントの変化が生じる。その結果、繊維の2つの端部間に電位差が生成され、これが図4において正の黒い電圧スパイクとして現れる。一方、α型の分子鎖には電気双極子が存在するが、左巻き2らせん構造は、全ての双極子モーメントを互いに相殺するように整列させる(図5a)。これは、α結晶においてゼロの正味双極子モーメントをもたらし、したがって、α型の結晶構造のみを含むアニールされた整列した繊維は、圧電応答を示さない。興味深いことに、Andoら(18~20)は、α-PHBの圧電特性を調査し、配向したα型PHBが固有剪断圧電性を示すことを見出した。α型のらせん鎖における非対称炭素原子に関連した双極子原子団(O=C-CH図5a)の内部回転は、剪断応力が印加された場合に電気分極をもたらすようである。しかしながら、この剪断圧電性は、図4では観察されなかった。この差異は、以下に起因し得る:(1)α-PHBの剪断圧電係数は低いため、この実験では分子鎖が剪断圧電性を示すのに十分剪断されていない;または(2)アニールプロセスが鎖の高い配向レベルを低下させた可能性があり、したがってアニール後のα結晶が繊維中にランダムに分布している。この所見についてより良い洞察を得るためには、さらなる調査が必要である。
【0169】
図4における別の興味深い特徴は、正および負の電圧スパイクの交互の出現である。この現象は、プレス-保持-解放サイクル中の圧電PHBHx繊維の充電および放電により説明され得る(図6)。真鍮プローブが繊維のリボンをプレスし始めると、繊維内の配向分子鎖が変形し、これが繊維のリボンの2つの端部間の瞬間的な電位差をもたらす。量的には、この電位差は、図6において119ミリボルトの正電圧信号によって表される。この誘導電位差に応じて、外部自由電荷(緑色の線)が繊維のリボンに駆動され、この電位差を打ち消す。このプロセスの間、繊維のリボン上の正味電荷(ピンク色の線)が増加する。プレスが保持される、すなわち機械的歪みが一定に保たれると、圧電拘束電荷が外部自由電荷によって相殺されるため、誘導電位差および正味電荷が徐々に減少する。電位差ゼロで、繊維のリボンは完全に充電される。プレスが解放されると、組み込まれた電位差が消失し、繊維のリボンの両端に蓄積された外部自由電荷が、蓄積プロセスと反対の方向に流れる。この逆転は、量的な反対の電位差(-123ミリボルト)をもたらし、これが負の電圧信号として観察される。図6に示されるように、反対の電位差および正味電荷もまた、徐々に低減する。電位差がゼロに到達し次第、繊維のリボンの放電が完了する。
【0170】
上記の実験結果は、圧電PHBHxナノ繊維をナノジェネレータとして使用する可能性を示唆している。一方、圧電特性により、繊維のリボンは圧電センサの有望な構成要素となる。繊維のリボンの感度を評価するために、図2に示される装置を使用して誘導電圧と印加圧力との間の関係を探査するように印加電圧が調節される。繊維上に印加される圧力は、以下の式により計算される。
p=(K×D)/A
式中、Kは、カンチレバーのばね定数を表し、Dは、プローブの軸方向変位であり、Aは、プローブと繊維のリボンとの接触面積である。K=128.9±2.2N/m22であることが知られている。
【0171】
Dは、図1bにおいて示されるようにレーザ変位センサにより測定され、A=πrであり、r=0.5mmである。誘導電圧は、4~10Vの印加電圧範囲で記録され、増分は1Vである。印加電圧の関数としての誘導電圧のプロットを図7bに示すが、直線関係が観察された。したがって、繊維のリボンの感度は、直線フィッティングの傾きから計算することができ、7.46mV/kPaであることが分かる。この感度は他の圧電センサと比較してはるかに低いようであるが、これは、1)センサの構成を変更すること、例えば圧電性の繊維のリボンの複数層を互いに積層すること;または繊維内の圧電活性成分(β結晶)の濃度を増加させることを含む方法によって改善され得る。
【0172】
結論
本研究において、結晶構造に応じた電界紡糸PHBHxナノ繊維の圧電特性を調査した。アニールの前および後の回転ディスク整列繊維の圧電応答を特性決定した。結果は、平面ジグザグ鎖からなる準安定β型結晶構造を含むナノ繊維が、機械的に変形されると、明らかな圧電応答(ピーク間で240ミリボルト)を示すことを示した。しかしながら、アニールおよびβ型結晶からα多形への変換後、この圧電応答は消失した。この所見は、繊維の圧電特性とβ型結晶構造の存在との間の強い相関を示した。その後、印加圧力に対する圧電PHBHxナノ繊維の感度を測定した。印加電圧が変化された際の誘導電圧を記録すると、直線関係が観察された。傾きから、繊維の圧電感度は7.46mV/kPaと測定された。PHBHxの圧電性に関するこれらの予備調査の意味するところは幅広い。この材料の圧電性能は、活性なβ型結晶構造の濃度を増加させることにより大幅に改善することができる。その目標は、本明細書において議論されたもの等の革新的なポリマー加工技術を利用することにより達成され得る。圧電PHBHxは、優れた生分解性および生体適合性、環境への優しさ、ならびに最も重要なことに低い製造コストに関して、他の全ての圧電ポリマーより卓越している。これは、携帯および折り畳み可能な電子デバイス、人工電子皮膚、ならびに移植可能なセンサを含む、多くの先進分野における用途を見出すことができる極めて有望な圧電ポリマーである。
【実施例4】
【0173】
膜におけるポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート]の応力誘導性β結晶化
材料
3.9mol%および13mol%の3HHxコモノマー含量を有するポリ[(R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート](PHBHx)コポリマーは、Procter & Gamble Company、Cincinnati、Ohioから供給され、それ以上精製しなかった。3.9mol%および13mol% 3HHxコポリマーの重量平均分子量は、それぞれ843kg/モルおよび792kg/モルであった。クロロホルムをSigma-Aldrich Co., Ltdから購入し、それ以上精製せずに使用した。
【0174】
試料調製
ポリマーをクロロホルムに溶解し、キャスト表面への結合を回避するためにテフロン(登録商標)ブロック上に膜を溶媒キャストすることにより、PHBHxの膜を調製した。アニールした膜をオーブン内で70℃で4時間調整してから分析を行った。IR分光用の試料は3wt%のPHBHx溶液からキャストし、ラマンおよびXRD分析用の試料は10wt%のPHBHx溶液からキャストした。IR測定には、IRビームの全吸収を回避するのに十分薄い膜を生成するために、より低い濃度が必要であった。逆に、ラマンおよびXRDには、ラマンでレーザを集光し、XRDで回折を生成するのに十分厚い試料を提供するために、より高い濃度が必要であった。キャスト膜は、全ての残留クロロホルムを除去するために、真空チャンバ内で約4時間乾燥させた。溶媒の除去後、膜を対流炉内で140℃で20分間溶融してポリマーを完全に溶融し、次いですぐに氷水中で急冷して非晶質状態をTg未満に維持した。膜を-25℃で保存し、-25℃で機械的引張器に装填し、-25℃で約50%の歪みまで引っ張り、室温に戻した。最終的な歪みを約150%の歪みまで連続的に印加しながら、IRまたはラマンスペクトルを収集した。試料が完全に歪んだ後に試料に対してXRD回折プロファイルを収集し、ラマンで測定した。
【0175】
フーリエ変換赤外(FTIR)分光法
DTGS KBr検出器および機械的引張デバイス上に装着されたポリマー膜を透過するKBrビームスプリッタを備えたThermo Nicolet 670 Nexus FTIR分光計を使用して、赤外吸収スペクトルを記録した。スペクトルは、4000~600cm-1の範囲にわたり4cm-1の分解能で16スキャンを同時加算することにより収集した。IRスペクトルは、三次スプラインフィッティングでのベースライン補正により処理し、1550~700cm-1にスペクトルを切り捨て、SNV正規化を使用してそれらを正規化した。切り捨ては、膜の厚さに起因して過剰に吸収するカルボニルによる正規化係数の歪みを回避するために行った。
【0176】
ラマン分光法
785nmでの励起を有するダイオードレーザ(Ondax)およびOndaxプローブヘッド光学フィルタリングモジュールで構成されるラマン機器を使用して、ラマン測定を行った。収集した散乱光を、Andor CCDシステムを装備したKaier Optical Systems Holospec1.4分光器を使用して分析した。Kasier Optical Systems Holospecソフトウェアを使用して、ラマンスペクトルを処理した。20秒の露光時間および10回露光積算でスペクトルを収集し、同等のダーク減算を施した。ラマンスペクトルは、白色光源のスペクトルで除算することにより処理し、三次スプラインフィッティングを用いてベースライン補正し、SNV正規化を用いて正規化した。
【0177】
広角X線回折(WAXD)
Cu管源を有するBruker D8 XRDを40kVおよび40mAで使用し、1.5418ÅのX線ビームを生成して、広角X線回折プロファイルを測定した。LYNXEYE_XE検出器をODモードで利用して、散乱X線を検出した。WAXDプロファイルは、10~25°または10~30°の2θ範囲で、0.025の2θ増分で記録し、各点で1秒回収集した。データ収集は、合理的な信号対ノイズレベルが達成されるまでサイクルおよび同時加算された。X線ビームを歪み方向に対して垂直にして、ポリマー膜を機械的引張器で測定した。
【0178】
結果および考察
PHAにおけるβ型の特性決定は、幾分論争のある分野である。β型は、典型的にはポリマーの結晶形態として議論されるが、真の結晶形態ではなく、むしろ同じ構造を有するポリマー鎖の準安定な部分充填である。したがって、単位胞の構造は未知であり、c(繊維周期)=0.470nmを除いて格子定数は定義されていない。逆に、α結晶形態は、2θ=13.3°のα(020)ピーク、2θ=16.7°のα(110)ピーク、および2θ=21.1°のα(101)ピークを示す。αピークのd間隔は、XRDを用いて試験した際にα型とβ型との間の重複をもたらす。この重複によって、β型の存在を確認するための回折試験は、特に1次元WAXDの場合時折不明瞭となる。α型対β型でポリマー鎖の構造に差があるため、IRおよびラマン分光法は比較分析法として使用されるべきであり、回折試験はβ型の存在を確認するためのものである。スペクトルの骨格領域には、ポリマー鎖におけるC-O-CおよびC-O伸縮によるいくつかの振動モードがあり、これらは、2つの相の間で振動周波数が変化している。しかしながら、単一バンドの試験の単純さから、ポリマーのα対非晶質含有量に対して実行されるように、β含有量を決定するためにカルボニルピークを観察することが好ましい場合がある。問題は、βカルボニルピークの位置にまだ議論の余地があることである。あるグループは約1730cm-1の振動周波数を報告しており、またはあるグループは1740cm-1の振動周波数を報告している。第2のピーク位置が最も問題であり、なぜなら、β型においてカルボニル振動モードが非晶質ポリマーの場合と本当に同じであるならば、カルボニルバンドを使用したPHA試料のβ含有量のいかなる分析も、ポリマーの非晶質含有量における振動として同様に正しく解釈され得るためである。β型カルボニルバンドの位置の差別化を目的として、ラマン、IR、およびWAXDを使用した分析のために、歪み誘起による(歪み誘導性)β型を有する13mol% 3HHx PHBHxの膜を生成した。
【0179】
以前に述べたように、XRD結果はβ型の存在の決定には不明瞭となり得るが、それでもα型との比較のために回折プロファイルを得ることは重要である。さらに、高度に配向した試料では、α回折ピークの大部分は、試料中の結晶配向に起因して、1次元回折試験では観察されない傾向がある。図1は、アニール後の未処理3.9mol%および13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜、および歪みが印加された後の13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜の回折プロファイルを含む。3.9mol% 3HHx PHBHxアニール膜は、引っ張られた膜との比較用にα結晶回折ピークの数を示すために試験に含めた。
【0180】
3.9mol% 3HHx PHBHx WAXDプロファイルは、以前に列挙された3つの回折ピークに加えて、19.5までの2θの別のαピークを含み、一方13mol% 3HHx PHBHxアニール膜は、21.5の2θを中心とする幅広いピークに加えてα(020)および(110)ピークを含む。引っ張られた膜のWAXDプロファイルもまたα(020)および(110)ピークを含むが、19.5の2θを中心にさらなる大きな幅広いピークを示す。この幅広い回折ピークは、β型を含むPHA試料に典型的である。しかしながら、α結晶のより高い2θ回折ピークは、ほぼ観察不可能であることに注目されたい。他の結晶面からの回折の喪失は、2段階の引張の間に試料に導入された高度の配向に起因する。試料は、XRDにおいてX線ビームと垂直な引張方向に配向するため、α結晶ラメラは、引張方向に平行なc軸に配向する。さらに、β型もまた引張方向に平行なc軸に配向する。図1の他の回折プロファイルとの比較は、β型の存在を確認するためのXRDの使用に関する問題を示す。βピークの最大値と同じ位置にα型から生じる回折ピークがあり、3.9mol% 3HHx PHBHx膜に見られる。試料がX線ビーム経路に対してある特定の様式で配向している場合、このピークは相対強度が増加して、特にα結晶の直径が小さく、これによって回折ピークが広がった場合、β型の幻影を生じさせる可能性がある。全般的に、これらのプロファイルは、引っ張られた膜においてβ型が生成されたことを強く示唆しているが、さらなる分析が必要であった。
【0181】
13mol% 3HHx PHBHxの引っ張られた膜におけるβ型の存在を確認するために、第1の歪みがTg未満で印加された後、室温で膜が引っ張られた際のIRスペクトルを測定した。これらのスペクトルは、膜が厚すぎてカルボニルの過剰吸収をもたらしたため、骨格領域を含んでいるだけである。より薄い試料は、機械的引張デバイスにおける使用には機械的に十分安定ではない。図21は、増加する歪みの関数としての正味の13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜のIRスペクトルを含む。
【0182】
全てらせん構造に帰属される1278cm-1、1263cm-1、および1228cm-1におけるバンドの存在および一貫性に基づいて、ポリマーはスペクトル収集が開始する前にα型に結晶化した。Chaturvediらは、β型を含むPHB試料のIRおよびFT-ラマンスペクトルを線形ジグザグPHB鎖の振動力学の量子化学計算と比較し、ポリマーのβ型に関連する振動バンドを決定した。彼らの分析によって多数の振動周波数が得られ、そのいくつかはポリマー鎖の構造の関数ではないが、増加する歪みに応じて増加するIRスペクトルのバンドを含んでいた。具体的には、スペクトルにおいて、1305cm-1、1142cm-1、1080cm-1、969cm-1、および911cm-1のバンドが全て、膜が引っ張られると増加した。これらの振動モードは全て、PHBの非晶質またはα結晶相に起因せず、β構造に関して計算された。XRDからの結果と共に、IRスペクトルは、引っ張られたPHBHxが、試料の高い3HHx含有量にもかかわらず、ちょうどホモポリマーで観察されるようにβ型を誘導し得ることを裏付けている。
【0183】
XRDおよびIR分析は、歪みが印加されるとPHBHx膜にβ型が生成され得ることを明らかにしたが、試料の厚さによりIR測定に課される制限によって、カルボニルの観察は不可能であった。カルボニルは、その局所環境によって大きく影響され、PHAにおける非晶質およびα結晶相の存在を決定するためにしばしば使用される。具体的には、α結晶IRバンドは、1720cm-1を中心とし、非晶質バンドは1740cm-1を中心とする。このため、引っ張られた膜に対してラマンスペクトルもまた収集した。ラマン分光法はIR分光法のように光の吸収を測定することはないが、材料のいわゆるラマン散乱を測定する。Raman分光計におけるレーザからの光が試料と相互作用すると、光子が試料の官能基の振動モードと結合し得る。この結合の前後の光子のエネルギー差は、材料の2つの共鳴状態のエネルギー差に対応する。散乱光子と入射光子との間の周波数差の関数として散乱光の強度をプロットすると、ラマンスペクトルが形成される。したがって、この方法は光が試料を通過することを必要としないため、試料の厚さに起因して強いピークが過剰に吸収され得ない。さらに、IRは双極子モーメントの変化に対してより感受性であり、一方ラマンは分極率の変化に対してより感受性であるため、ラマンにおいてはカルボニルの伸縮振動モードはIRと比較してはるかに弱い。図22は、歪みの前および後の未処理の13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜のラマンスペクトルを含む。
【0184】
ラマンおよびIRスペクトルにおける光子は、異なるように試料と相互作用するため、スペクトルは、図21のスペクトルと比較して幾分異なって見える。しかしながら、バンドの振動周波数は、方法の間で変化はないはずである。それを考慮して、歪みの増加に伴うスペクトルの変化は、IRのものと極めて類似している。具体的には、1451cm-1、1379cm-1、1354cm-1、1177cm-1、1080cm-1、966cm-1、908cm-1、858cm-1、627cm-1、478cm-1、および454cm-1のバンドは全て、ポリマー膜に歪みが印加されると増加する。これらの振動バンドは、全てポリマーのβ構造に帰属され、XRDおよびIR分析の結果を補強するのに役立つ。ラマンにおいてカルボニルピークをより良好に観察するために、図22は、カルボニル領域に焦点を置いた、歪みの前および後の未処理の13mol% 3HHx PHBHxポリマー膜の目盛りを拡大したスペクトルを示す。
【0185】
膜に歪みが印加されると、α結晶ピークと非晶質ピークとの間で交換が生じ、その間に別のピークが存在するようである。α結晶バンドの強度が減少し、一方この新たなバンドおよび非晶質ピークが増加する。新たなピークの位置は約1730cm-1であり、これは、Chaturvediらによりβ型構造について報告された同じ位置である。これらの結果は、βカルボニルピークの正しい位置が1730cm-1であり、1740cm-1ではないことを強く示唆している。しかしながら、カルボニル官能基のラマン散乱が弱いことから、スペクトルに多量のノイズがあり、新たなバンドを分解するのは困難である。パーセント歪みの関数としてより良好なスペクトルを生成するためには、この領域においてさらなる研究が必要である。最終的に、β型に対するカルボニルバンドを決定するためだけでなく、ポリマーが引っ張られた際にβ型が形成されるプロセスを分析するためには、そのようなデータセットに対して2DCOS等のツールを利用したより徹底的な分析が適用されるべきである。
【実施例5】
【0186】
ポリ((R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHx)のβ型の形成のための膜の機械的引張
実験手順
クロロホルム中10重量パーセントのPHBHxの溶液を作製した。PHBHxのHx含有量は、13モルパーセントであった。次いで、各膜に対し2.5mLの溶液を使用して、室温でスライドガラス上に膜をキャストした。これらの膜を室温で最低1時間乾燥させ、次いで真空チャンバ内に一晩置いた。
【0187】
真空チャンバ内で一晩経過した後、膜をテフロンブロック上に置き、炉内で140℃で20分間溶融した。炉から取り出した直後に、膜を氷水中で急冷し、冷凍庫に移した。これらの膜は、ATR FTIRおよびXRD測定により、非晶質であることが示された。
【0188】
次に、膜を冷凍庫から取り出し、室温で所望の時間放置した。次いで膜を図24に示されるように室温で引っ張り、その後分析した。
【0189】
結果および考察
平面ジグザグ形成
室温での等温結晶化に続く室温での1段階の引張により、PHBHxの平面ジグザグ構造の形成に成功した。引っ張られた膜は、β構造を形成する際、同様の様式で一貫した挙動を示した。膜の大部分は伸びようとせず、変化しないままであった。膜のこのセクションは、β構造の形成をもたらさない。引張器のクランプに隣接した膜のセクションは伸び、明確に異なる透明領域を形成したが、これは「ネッキング」と呼ばれるプロセスである。この引っ張られた領域が、β構造が形成される箇所である。最初に、膜のβ領域は、低い伸び量で破断する傾向があった。これを軽減するために、引張器に装着する前に膜の端部にテープを取り付けた。これにより、膜とクランプとの間の直接接触が低減され、膜は破断する前にさらに引っ張られることが可能となった。
【0190】
β構造は、XRDおよびラマンスペクトルを使用して確認された。XRDスペクトルにおいて、13および16の2θ値でのピークは、それぞれ020および110のα結晶面に対応する。22.5の2θ値での見かけのピークは、実際にはα結晶構造からの3つのピークの重なりである。19.2のピークは、平面ジグザグ構造の存在により生じる7,8図25は、それぞれ同じ膜の引っ張られていない部分および引っ張られた部分のXRDスペクトルを示す。機械的歪みがβ構造を形成させることが明確に分かる。さらに、膜の引っ張られた領域におけるα結晶のサイズは、引っ張られていない領域におけるα結晶のサイズより小さい。膜の引っ張られた領域では、平均α結晶ドメインサイズは、020面に対して21.3nm、および110面に対して20.4nmであった。全ての結晶ドメインサイズは、K値を1としたScherrerの式を用いて計算される。これは、平面ジグザグ構造の形成がまたα結晶のサイズの減少をもたらすことを示唆している。そのような結果は、他のPHAでも同様に見られている。
【0191】
この手順により形成されたβ結晶のサイズは、β構造に対応する幅広いピークにより分かるように小さい。定量的には、β結晶ドメインのサイズは平均3.8nmである。これにより、真のβ結晶が形成されているかどうかに関する疑問が生じる。真の結晶の代わりに、この手順は、結晶を形成するには少なすぎる整列鎖を有する規則的な平面ジグザグ相の形成をもたらすことが考えられる。これは、結晶化の前の非晶質における整列の喪失、およびα結晶子の形成に起因し得る。
【0192】
平面ジグザグ可逆性
室温で引っ張られ、平面ジグザグ構造を形成した後、次いで機械的応力から解放された膜は、平面ジグザグ構造を維持しない。張力が解放された後、α結晶のみが維持される。しかしながら、張力の回復後、β構造が戻る。この効果は、図27において、引っ張られた膜、解放された膜、およびすぐに張力が回復された膜のそれぞれにおいて見ることができる。XRDスペクトルに加えて、解放された膜のラマンスペクトルを得て、β構造が消失したことを確認した。
【0193】
これは、室温で24時間放置された解放された膜を再び引っ張った場合には該当しなかった。図28に見られるように、β含有量は、伸びが増加するにつれて徐々に増加した。増加した結晶化に起因して、膜が再び引っ張られると、ネッキングした領域は、膜が伸ばされるにつれてさらに伸び続けた。周りの非ネッキング領域は、ネッキングするにはあまりに結晶性で剛性であったため、すでにネッキングした領域が伸び続けた。β構造に関連したピークが増加する前にα結晶構造に関連するピークのサイズは減少することが分かる。α結晶ドメインのサイズもまた若干減少するようであるが、これはピークの高さの全体的な減少ほど顕著ではない。これは、膜が再び引っ張られると、α結晶がまず溶融して中間状態となり、次いでβ構造を形成することを示している。
【0194】
張力が解放された後、β構造は維持されなかったことが明らかである。
【0195】
48℃で2時間さらなるアニールを行った。この膜のXRDスペクトルを図29に示す。引っ張られた膜のα含有量は、この処理の結果大幅に増加する。さらに、β構造の量は、アニールの結果減少した。解放されると、少量のβ構造が維持され得るようである。しかしながら、この膜はXRD試料ホルダに貼り付けられ、このプロセスが膜に若干の張力をかけ、β構造を回復させることが可能である。
【0196】
β構造の形成を最適化するために、異なる時間、膜を等温的に結晶化に供してから引っ張った。膜は、25分、28分、30分、35分および40分後に引っ張った。25分の結晶化の後に引っ張ると、膜全体が破断の兆候なしに200%超伸びた。25分および28分の結晶化後の引っ張られた膜を、それぞれ図30および図31に見られるように、XRDおよびラマンを使用して分析した。
【0197】
上記のスペクトルは、25分の結晶化後に引っ張られた膜が、いかなるβ構造も形成せず、一方28分後に引っ張られた膜が、多量のβ構造を形成したことを示している。
【0198】
この例では、PHBHx膜中13モルパーセントHxの室温における等温結晶化が、単一引張を使用してβ構造を形成し得ることが示された。しかしながら、この構造のXRDピークは幅広く、このβ構造が非常に小さい結晶の形態であるか、または非結晶性の規則的な相の形態であるかは不明である。
【0199】
膜が様々な温度でアニールされている間、時間の関数としてXRDおよびラマンスペクトルを記録することは、これらの変化、および張力が解放された後のβ構造の固定法に関する洞察を提供する。
【0200】
さらに、本明細書で開示される例は、13モルパーセントのHx含有量を有するPHBHxに対するものである。これは大量のHxモノマーであり、より低いHx含有量を有するPHBHxの多くの組成物が利用可能である。これらのポリマーは、13モルパーセントPHBHxとは異なる挙動を示し、これらのPHBHx組成物のそれぞれの並行研究が、Hx含有量とβ構造の形成との間の関係に関する興味深い結果をもたらすであろう。
【0201】
結論
室温等温結晶化に続く機械的引張の新規な方法により、PHBHxのβ構造が13mol%のHx含有量のPHBHx膜において形成されることが示された。28分の結晶化後に膜の異なる引張領域が見られ、これにより、膜の大きなセクションがβ構造を形成した。これより早期の引張はβ形成を一切もたらさず、またこれより後の引張は、同等に広いβ構造のセクションを形成せず、破断しやすい剛性膜をもたらす。XRDおよびラマン分析により、β構造を形成するためには引張の前にα結晶が存在しなければならないこと、およびα結晶のサイズはこのプロセスの間減少することが確認された。これは、α結晶のタイポイントに関する以前の文献により示唆された形成メカニズムと一致している。
【0202】
β構造は可逆的であることが示され、引張プロセスは最初のβ形成および再引張プロセスで異なる。最初の形成プロセスにおいて、βは即時に形成し、伸びに応じて変化しない。むしろ、伸びが増加するにつれて膜のより多くがβ構造に変換される。解放された後は、β構造は消失する。膜が室温で24時間放置されて再び引っ張られた場合、膜の残りの部分が剛性であり、以前に引っ張られたセクションのみが伸びることができることに起因して、β構造が伸びに応じて徐々に形成する。しかしながら、膜の引っ張られたセクションでは、α含有量は劇的には増加せず、一方膜の引っ張られていないセクションは、α含有量が劇的に増加する。
【0203】
β構造はまた、48℃という低い温度で再びα構造にアニールされ得たが、興味深いことにα結晶のサイズは増加しなかった。したがって、このプロセス中にサイズを変化させることなくα結晶の数が増加しているはずである。
【0204】
PHBHxのβ構造は容易に達成可能な条件下で膜中に容易に形成されることから、その将来的な市販製品への発展が期待される。さらなる調査によって、新規の製品に向けたこの生分解性、生体適合性、耐久性、および圧電性の材料の可能性が実現され得る。
【実施例6】
【0205】
ゲル膜におけるポリ((R)-3-ヒドロキシブチレート-co-(R)-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBHx)のβ型の形成のための引張
CHCl/DMFまたはCHCl/1,4-ジオキサン溶液中のPHBHxにおいて、熱可逆的なゾル-ゲル転移を観察した。PHBHxをCHCl/DMFまたはCHCl/1,4-ジオキサンの二成分溶媒系に撹拌下高温(100℃)で溶解したが、CHClはPHBHxの良好な溶媒として認識され、一方DMFおよび1,4-ジオキサンは、室温ではPHBHxの貧溶媒である。透明なPHBHx溶液を徐々に室温(約20℃)に冷却すると、乳白色ゲルを生成した。図32に見られるように、温度を室温から100℃に上昇させるとゾル-ゲル転移が生じ、この転移は可逆的であることが分かった。
【0206】
熱可逆的ゲルをスライドガラスに擦り付け、その後湿った擦り付けられたゲルを周囲条件下で乾燥させることにより、熱可逆的ゲルの薄膜を生成した。溶媒が蒸発した後、透明で滑らかなゲル膜が得られた。ここでも、ゲル膜の結晶構造をWAXDで特性決定し、得られた回折プロファイルが、図33にプロットされた未加工PHBHx粉末および凍結乾燥されたゲルのものとは極めて異なることが分かった。図34aにおいて、α(111)ピーク(2θ=22°)が消失し、α(110)ピークが幅広くなり弱くなったことに留意されたい。一方、2θ=19.7°における新たな回折ピークが現れた。この新たなピークは、回転ディスク整列繊維のWAXDプロファイルにおいて観察されたβ型回折ピークとピーク位置およびピーク幅(FWHM)の点で極めて類似している。より興味深いことに、引っ張られたゲル膜のWAXDプロファイル(図34b)は、この新たなピークの相対強度の増加、およびα(110)ピークの再出現を示している。これらの所見は、β型結晶子がゲル膜内に存在し得、ゲル膜の引張がα結晶構造およびβ結晶構造の両方の発達を容易にすることを示している。引張の間のゲル膜における動力学的に固定された分子鎖の再結晶化は、系内のエンタルピー変化をもたらし、これは、ゲル膜を引っ張った際の物理的に観察される大量の熱を説明し得る。
【0207】
これらの予備的な結果は、ゲル膜内のβ結晶構造の出現を示し、これは、高濃度のβ結晶を有するPHBHx薄膜を大量に生成することが可能となり得ることを示す。これらのβ型に富むPHBHx薄膜は、多くの新たな用途を見出すことができ、これはα-PHBHxで観察されるβ型結晶性ではなかった。
【0208】
本明細書において本発明の好ましい実施形態を示し説明したが、そのような実施形態は、例示のみを目的として提供されることが理解されるであろう。当業者は、本発明の精神から逸脱せずに、数々の変形、変更および置換を思い付くであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、そのような変形の全てを、本発明の精神および範囲内にあるものとして包含することが意図される。
【実施例7】
【0209】
極性化PHAコポリマーベース物品を作製する方法
5部のPHBHx3.9粉末を、95部のクロロホルム(CHCl)に100~125℃で溶解し、溶液をトレイに移して真空炉内に置く。約80重量%のPHBHx3.9および20重量%のDMFを有するPHBHx溶液が得られるまで、炉を10-3torrに、および120~140℃の温度範囲内に維持する。PHBHx3.9溶液を膜としてプレスに移し、3000PSIの圧力に供し、95~125℃の範囲の様々な温度に加熱する。次いで、膜を氷浴中で急速に冷却する。次いで、2つの研磨された銅板からなる極性化装置に膜を移し、銅板を高電圧DC電源に接続する。膜の温度を融点より若干上まで上昇させ、膜を極性化する。一実施形態において、極性化中、温度を直線的に2℃/分~30℃/分で低下させ、極性化電界Iを直線的に25KV/cm~1000KV/cmに増加させる。室温で、極性化電界をゼロに低減する。
図1
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