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特許7475071網膜及び/又は脳の温度の変化を決定するための方法及び装置
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  • 特許-網膜及び/又は脳の温度の変化を決定するための方法及び装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】網膜及び/又は脳の温度の変化を決定するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/398 20210101AFI20240419BHJP
   A61F 9/008 20060101ALI20240419BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A61B5/398
A61F9/008 120Z
A61B5/01 250
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2021571542
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-08-03
(86)【国際出願番号】 FI2020050361
(87)【国際公開番号】W WO2020240092
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】20195461
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】521523763
【氏名又は名称】マキュレイザー オーイー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カイッコネン、オッシ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン、テーム
(72)【発明者】
【氏名】ピトゥカネン、マルヤ
(72)【発明者】
【氏名】コスケライネン、アリ
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/174310(WO,A1)
【文献】米国特許第06733490(US,B1)
【文献】特開2019-058667(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 5/01
5/05- 5/0538
5/24- 5/398
A61F 9/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
網膜温度および/または脳温度の変化を決定するための方法であって、
第1の温度で網膜から少なくとも1つの電気応答信号を取得し、
前記第1の温度とは異なる少なくとも第2の温度で網膜から少なくとも1つの電気応答信号を取得し、
前記第2の温度で取得された少なくとも1つの前記電気応答信号を、複数の異なる変換パラメータ値で変換して前記第2の温度における前記電気応答信号の複数の異なる第2の変換信号を取得し、
前記第2の温度における前記電気応答信号の異なる前記第2の変換信号を、前記第1の温度における網膜から取得された前記電気応答信号及び/又は前記第1の温度における網膜から取得された前記電気応答信号を変換した第1の変換信号と比較し、
前記第1の温度において網膜から取得された前記電気応答信号及び/又は前記第1の変換信号との最大の類似度を生成する前記第2の変換信号を選択し、
前記選択された前記第2の変換信号の1つまたは複数の変換パラメータ値を、温度、前記第1の温度と前記第2の温度との間の温度差、および/または温度依存インジケータに変換することを含むことを特徴とする
方法。
【請求項2】
前記方法は、前記第1の温度で取得された前記電気応答信号を、複数の異なる変換パラメータ値で変換して複数の異なる前記第1の変換信号を取得し、
前記第1の温度における前記電気応答信号の異なる前記第1の変換信号を、前記第2の温度における前記電気応答信号の異なる前記第2の変換信号と比較し、
前記第1の温度における異なる前記第1の変換信号の変換された電気応答のうちの1つと、前記第2の温度における異なる前記第2の変換信号の変換された電気応答のうちの1つであって、互いに最も高い類似度を生成するものを選択する
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
網膜からの前記電気応答信号が、刺激フラッシュの間隔が一定又は可変である点滅光刺激装置などの網膜刺激装置を用いて誘発されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気応答信号が、焦点ERG(FERG)信号などのERG(網膜電図)信号であり、時間の経過と共に少なくとも2つの電極間の電圧変化として記録されることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
電極によって収集された前記電気応答信号が、増幅され、バンドパスフィルタリングされ、A/D変換され、及び/又は前処理され、前記前処理は、櫛形フィルタリング、整合フィルタリング、及び/又は平均化などのフィルタリングを含むことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記網膜温度は、網膜レーザー加熱システムなどを用いたレーザー照射によって高められ、網膜からの前記電気応答信号は、前記第2の温度などの温度でレーザー照射中に取得されることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
記決定された温度差に基づいて、温度変調を監視、誘発、制御、及び/又は終了させることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記電気応答信号の信号変換が、前記電気応答信号又は前記電気応答信号の特定の部分の時間軸圧縮及び/又は時間軸伸張であることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記電気応答信号の信号変換が、前記電気応答信号又は前記電気応答信号の特定の部分の振幅又は電圧軸圧縮及び/又は振幅又は電圧軸膨張であることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記電気応答信号の信号変換が、前記電気応答信号の位相シフト、又は前記電気応答信号の特定の部分の位相シフト、及び/又は前記電気応答信号の遅延、又は前記電気応答信号の特定の部分の遅延であることを特徴とする請求項1~9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記電気応答信号の信号変換は、モデルが第1の温度における網膜からの前記電気応答信号に適合された場合の適合パラメータの変化であることを特徴とする請求項1~10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記温度依存インジケータが、請求項8、9、10、および/または11に記載の信号変換の線形または非線形組合せであることを特徴とする請求項8~11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記比較された信号間の類似性が、ある間隔内の類似度を使用して決定されることを特徴とする請求項1~12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記類似度が、信号間の線形相関、二乗和誤差、および/またはRMS差などの相関であることを特徴とする請求項1~13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記類似度が決定される間隔が、刺激単位の開始時または前記刺激単位の開始後に開始し、次の刺激単位の開始時または前記次の刺激単位の開始前に終了することを特徴とする請求項1~14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
最も高い類似度を生成する変換電気応答信号を選択することが、グリッド探索または勾配上昇法などの最適化アルゴリズムによって決定されることを特徴とする請求項1~15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
網膜及び/又は脳の温度変化を決定するための装置であって、前記装置が、網膜から電気的応答を取得するための手段を備え、
前記装置が、
第1の温度で網膜から少なくとも1つの電気応答信号を取得し、
前記第1の温度とは異なる少なくとも第2の温度で網膜から少なくとも1つの電気応答信号を取得し、
前記第2の温度で取得された少なくとも1つの電気応答信号を、複数の異なる変換パラメータ値で変換し、前記第2の温度における前記電気応答信号の複数の異なる第2の変換信号を取得し、
前記第2の温度における前記電気応答信号の異なる前記第2の変換信号を、前記第1の温度における網膜から取得された前記電気応答信号及び/又は前記第1の温度における網膜から取得された前記電気応答信号を変換した第1の変換信号と比較し、
前記第1の温度において網膜から取得された前記電気応答信号及び/又は前記第1の変換信号と最も高い類似度を有する第2の変換信号を選択し、
選択された前記第2の変換信号の1つまたは複数の変換パラメータ値を、温度、前記第1の温度と前記第2の温度との間の温度差、および/または温度依存インジケータに変換するように構成されることを特徴とする
装置。
【請求項18】
前記第1の温度で取得された前記電気応答信号を、複数の異なる前記第1の変換信号をもたらす複数の異なる変換パラメータ値で変換し、
前記第1の温度における電気応答の異なる前記第1の変換信号を、前記第2の温度における電気応答の異なる前記第2の変換信号と比較し、
前記第1の温度における異なる前記第1の変換信号の変換電気的応答の1つと、前記第2の温度における異なる前記第2の変換信号の変換電気的応答の1つであって、互いに最も高い類似度を生じるものを選択するように構成されていることを特徴とする請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記装置が、点滅光などを発する網膜刺激装置を備え、前記装置が、刺激フラッシュ間の間隔が一定又は可変である点滅光刺激装置を用いて網膜から電気応答信号を引き出すように構成されていることを特徴とする請求項17又は18に記載の装置。
【請求項20】
前記装置が少なくとも2つの電極を備え、前記電気応答信号が、焦点ERG(FERG)信号などの網膜電図(ERG)信号であり、前記装置が、前記電気応答信号を、少なくとも2つの電極間の経時的な電圧変化として記録するように構成されていることを特徴とする請求項17~19の何れか1項に記載の装置。
【請求項21】
前記装置は、電極によって収集された前記電気応答信号を増幅、バンドパスフィルタ、A/D変換、及び/又は前処理するように構成され、前記前処理は、櫛形フィルタリング、整合フィルタリング、及び/又は平均化などのフィルタリングを含むことを特徴とする請求項17~20の何れか1項に記載の装置。
【請求項22】
前記装置が少なくとも1つのレーザー光源を備え、前記装置が、網膜レーザー加熱システムなどを用いたレーザー照射によって網膜温度を上昇させ、レーザー照射中に、前記第2の温度などで網膜から前記電気応答信号を取得するように構成されていることを特徴とする請求項17~21の何れか1項に記載の装置。
【請求項23】
前記装置が、前記決定された温度差に基づいて温度変調を監視、誘導、制御、及び/又は終了させるように構成されていることを特徴とする請求項17~22の何れか1項に記載の装置。
【請求項24】
前記電気応答信号の信号変換が、前記電気応答信号又は前記電気応答信号の特定の部分の時間軸圧縮及び/又は時間軸伸張であることを特徴とする請求項17~23の何れか1項に記載の装置。
【請求項25】
前記電気応答信号の信号変換が、前記電気応答信号又は前記電気応答信号の特定の部分の振幅又は電圧軸圧縮及び/又は振幅又は電圧軸伸張であることを特徴とする請求項17~24の何れか1項に記載の装置。
【請求項26】
前記電気応答信号の信号変換が、前記電気応答信号の位相シフト、又は前記電気応答信号の特定の部分の位相シフト、及び/又は前記電気応答信号の遅延、又は前記電気応答信号の特定の部分の遅延であることを特徴とする請求項17~25の何れか1項に記載の装置。
【請求項27】
前記電気応答信号の信号変換は、モデルが第1の温度における網膜からの前記電気応答信号に適合された場合の適合パラメータの変化であることを特徴とする請求項17~26の何れか1項に記載の装置。
【請求項28】
前記温度依存インジケータが、請求項24、25、26、及び/又は27に記載の前記信号変換の線形又は非線形組み合わせであることを特徴とする請求項23~27の何れか1項に記載の装置。
【請求項29】
前記装置が、所定の間隔内の類似度を使用して、前記比較された信号の間の類似度を決定するように構成されていることを特徴とする請求項17~28の何れか1項に記載の装置。
【請求項30】
前記類似度が、信号間の線形相関、二乗和誤差、および/またはRMS差などの相関であることを特徴とする請求項17~29の何れか1項に記載の装置。
【請求項31】
前記類似度が決定される間隔が、刺激単位の開始時または前記刺激単位の開始後に開始し、次の刺激単位の開始時または前記次の刺激単位の開始前に終了することを特徴とする請求項17~30の何れか1項に記載の装置。
【請求項32】
前記装置は、グリッド探索又は勾配上昇のような最適化アルゴリズムによって、最も高い類似度を生成する前記変換された電気応答信号の選択を決定するように構成されていることを特徴とする請求項17~31の何れか1項に記載の装置。
【請求項33】
眼内の網膜組織を加熱する加熱装置(150)の加熱電力を制御する装置(105)であって、
前記装置は、請求項17~32の何れか1に記載の装置と、前記加熱装置の加熱電力を制御する電力制御装置(104)とを含み、
前記装置は、眼球内の網膜組織の温度を測定し、温度が37℃超45℃未満などの所定の範囲に保たれるように前記加熱装置の加熱電力を制御する前記電力制御装置(104)を制御するように構成されていることを特徴とする
装置(105)。
【請求項34】
データ処理装置上で実行される場合に、眼の内部の温度を決定するための請求項1~16の何れか1項に記載の方法のステップを実行するように適合されていることを特徴とするコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜及び/又は脳の温度の変化を決定するための装置及び方法に関する。さらに、本発明は、眼の内側の網膜組織領域、特に関心のある網膜色素上皮領域を加熱するための加熱装置を制御するための装置に関する。
【0002】
本発明は、例えば、レーザー光による、又は発光ダイオード(LED)からの光による、例えば、電磁放射線による、医療介入の分野における用途を見出し、温度上昇を、網膜及び眼の網膜色素上皮において生成し、同時に監視し、制御することができる。
【背景技術】
【0003】
眼の後部における網膜組織または網膜色素上皮(RPE)の加熱が、不健康なRPEに対する様々な有益な効果、例えば、治療的熱ショックタンパク質産生の増加、血管内皮成長因子(VEGF)のダウンレギュレーション、およびBruch膜の薄化を引き起こすという強力な科学的証拠が存在する。非損傷性レーザー治療(閾値下レーザー治療としても知られる)の有益な効果は、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、網膜静脈閉塞(RVO)、および慢性中枢性漿膜脈絡網膜症(cCSC)などの一般的な黄斑疾患の多くの臨床研究、ならびに加齢黄斑変性(AMD)、網膜色素変性症、錐体変性、Stargardt病、および黄斑毛細血管拡張症の散発的臨床研究で実証されている。このような症状は、世界中の何億人もの人々の生活に影響を及ぼしている。
【0004】
また、内頚動脈からの血流によって、脳の深部、網膜、その下にある眼の脈絡膜の両方が供給され、両臓器の温度が同等に保たれている。したがって、網膜温度を決定することは、脳の深部の熱状態に関する正確な情報として与え、これは、いくつかの臨床手順の間に非常に興味深い。したがって、網膜温度の変化を監視するための正確で非侵襲的な方法は、眼科学の分野、および脳の温度に関する分野で様々な用途を有するであろう。
【0005】
ERG(網膜電図)を使用して、刺激された領域または網膜からの網膜温度の変化を決定することができる。全視野網膜刺激は、網膜全体の平均温度の変化を決定するために使用することができる一方、焦点刺激は、関心領域からの局所温度を与える。焦点ERG記録のための技術は、焦点ERG(FERG)、パターンERG(PERG)、および多焦点ERG(mfERG)を含む。これらの網膜誘発信号に加えて、頭皮からのEEG電極で記録された視覚誘発電位(VEP)を、温度決定のために使用してもよい。 網膜誘発電位信号を利用するこれらの技法はすべて、現在ではFERGと呼ばれている。FERG信号は、光によって刺激される領域で発生する。ERG信号の振幅は、刺激領域の大きさに比例するため、刺激領域が小さいと、記録される信号の信号対雑音比が小さくなる。
【0006】
従来技術に現在存在する方法は、フラッシュ誘発FERG信号からの刺激周波数に対応する主高調波のピーク時間又は位相などの温度依存特徴を決定することに依存する。ピーク時間は、ピーク時間の比が応答間の温度の差に比例するという利点を有する。しかし、ピーク時間を決定することは、信号ノイズによりかなりの量の誤差を含み得る。一方、主高調波の周波数を求めると、信号のサンプリング幅が広くなり、ノイズに対する耐性が高くなる。しかし、この方法は、FERG信号が、後続のフラッシュ応答が融合するのに十分高い刺激周波数で引き出されることを必要とする。この方法の1つの欠点は、後続の応答が融合し、位相シフトが温度の正確な指標にならない可能性があることである。また、応答軌跡が正弦波に似ているため、特定のピーク情報が失われ、異なる信号成分の振幅の比率がわずかに変化するだけで、信号の全体的な位相シフトに大きな影響を与える。したがって、信号ノイズに対して堅牢であり、非正弦波応答を処理することができる解決策が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、既知の従来技術に関連する問題を軽減し、排除することである。特に、本発明の目的は、非侵襲的、高速、正確、かつ信頼性の高い方法で眼球内部の網膜組織温度を決定するための方法および装置を提供することである。
【0008】
正確な網膜温度決定の1つの要件は、FERG信号のノイズ又はアーチファクトによる影響を最小限に抑えた温度依存特徴を抽出することである。
【0009】
FERG信号からの正確な網膜温度決定のための別の要件は、基準応答の使用である。異なる人々から記録されたFERG信号間、及び網膜の異なる領域から記録されたFERG信号間に変動があるため、網膜加熱中に記録された応答を、加熱前に記録された応答と比較しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、独立請求項の特徴により達成される。
【0011】
本発明は、請求項1に記載の網膜及び/又は脳温度の変化を測定する方法に関する。また、本発明は、請求項17、34に係る網膜及び/又は脳温の変化を判定する装置及びコンピュータプログラム製品、並びに請求項33に係る眼内の網膜組織を加熱するために用いられる加熱装置の加熱電力を制御する装置に関する。
【0012】
本発明の解決策では、網膜からの少なくとも1つの電気応答信号が第1の温度で取得され、網膜からの少なくとも1つの電気応答信号が少なくとも第2の温度で取得され、第2の温度は第1の温度とは異なる。少なくとも第2の温度で取得された電気応答信号は、複数の異なる変換パラメータ値で変換され、その結果、複数の異なる変換信号が得られる。第2の温度における異なる変換された電気応答信号は、第1の温度において網膜から取得された電気応答信号及び/又は変換された信号と比較される。第1の温度において網膜から取得された電気応答信号及び/又は変換信号との間で最大の類似度を生成する、変換された電気応答信号が選択される。選択された変換信号の1つまたは複数の変換パラメータ値は、第1の温度と第2の温度の間の温度、温度差推定値、および/または温度依存インジケータに変換される。
【0013】
本発明の解決策では、より低い温度で取得された応答から複数の変換を行い、生成された複数の変換された信号をより高い温度で取得された応答と比較することが可能である。本発明の解決策では、より高い温度で取得された応答から複数の変換を行い、生成された複数の変換された信号を、より低い温度、例えば加熱又は冷却前の温度で取得された応答と比較することが可能である。また、より高い温度とより低い温度の両方で得られる応答を変換することも可能である。
【0014】
本発明の一実施形態では、第1の温度で取得された電気応答信号は、複数の異なる変換パラメータ値で変換され、その結果、複数の異なる変換信号が得られる。第1の温度における電気応答の異なる変換された信号は、第2の温度における電気応答の異なる変換された信号と比較される。第1の温度における異なる変換された信号の変換された電気応答の1つが選択され、第2の温度における異なる変換された信号の変換された電気応答の1つが選択され、互いに最も高い類似度を生成する。
【0015】
本発明の解決策は、従来技術の非侵襲的解決策で現在可能であるよりも、深部脳及び網膜温度の変化からより正確で精密な情報を収集することを可能にする。本発明の解決策は、脳、網膜、または臨床的に誘発される全身の低体温症または高体温症の際に使用されて、現在可能であるよりも安全で臨床的により有効な治療をもたらすことができる。
【0016】
本発明の一実施形態では、網膜誘発電位の温度依存性特徴に基づいてリアルタイムで温度を決定し、眼球の後部と脳の低体温症又は高体温症を監視するためのシステム及び方法が提供される。一実施形態では、本発明は、電磁刺激装置、網膜誘発信号を記録する構成、及び収集された情報をリアルタイムで処理して温度情報を抽出する手段を提供する。1つの特定の実施形態では、システムは、眼の後部における眼底の局所加熱のための眼科用レーザー装置を含むことができ、その加熱パワーは、網膜誘発信号から抽出された温度情報に従って制御及び終了することができる。別の特定の実施形態では、システムおよび方法は、網膜誘発信号の変化に基づいて脳温度を決定することによって、臨床処置中に局所または全身低体温症および/または高体温症を監視、制御、予防、および/または終了させるために使用することができる。
【0017】
一実施形態では、本発明は、現在FERG信号と呼ばれている網膜誘発信号から温度依存性インジケータを抽出する手段を提供する。温度依存性インジケータは、生物学的及び電気的ノイズ並びに人工物を含む信号から、異なる患者間で信頼性があり、堅牢性があり、時間の経過と共に安定している手段を用いて抽出されなければならない。本発明のシステムは、局所又は全身の低体温又は温熱療法を誘発する装置又は他の手段、光刺激、例えば点滅光で網膜を刺激するシステム、患者に接続された少なくとも2つの電極間でFERG信号を記録するシステム、及びFERGから収集された情報をリアルタイム又はオフラインで処理して温度依存性インジケータを抽出する手段を含むことができる。
【0018】
本発明の解決策では、網膜誘発電位(例えば、網膜電図(ERG)、焦点ERG、黄斑ERG、または多焦点網膜電図(mFERG)、および視覚誘発電位(VEP))を、少なくとも2つの電極間の電圧変化として記録することができる。FERG信号は、眼の後部にある網膜を刺激光に曝すことによって生成することができる。一実施形態では、装置は、一定の及び/又は変更する光で網膜を焦点刺激するシステム、刺激された眼からのFERGを記録するシステム、及び誘発された低体温又は高体温症によるFERG信号の変化を分析するシステムを含むことができる。さらに、この装置は、電磁放射線で眼底に焦点温熱療法を誘発するシステムを含むことができる。
【0019】
一実施形態によれば、電磁放射線刺激が網膜組織(または網膜色素上皮、以後、網膜組織のみが両方を含むものとして使用される)と相互作用するように提供され、電磁放射線刺激に対する網膜組織の電気的光応答が、例えば、時間の関数として網膜電図法を使用して記録される。電気的光応答は、有利には、電磁放射線(パルス又は連続的に変動する光の何れか)の変化に対する網膜組織の温度依存性光応答である。
【0020】
上記のように、本発明の解決策は、従来技術の非侵襲的解決策で可能であるよりも、深部脳及び/又は網膜温度の変化からより正確で精密な情報を収集することを可能にする。この解決策では、ERG信号のあらゆる予測形式を事前に定義する必要はないが、人又は患者の実際のERG信号が基準テンプレートとして使用される。このようにして、より信頼性の高い結果を達成することができる。また、本発明の解決策を、例えば、信号のピーク時間から温度差を決定することと比較すると、本発明の解決策では、応答のより長い持続時間が利用され、これは、より正確な結果を提供し、信号ノイズに対する堅牢性を提供する。
【0021】
本明細書に提示される例示的な実施形態は、添付の特許請求の範囲の適用可能性を制限するように解釈されるべきではない。”to comprise”という動詞は、このテキストでは、未記載の特徴の存在を排除しないオープンな制限を意味するものとして使用されている。また、従属請求項に記載された構成要素は、特に断りのない限り、相互に自由に組み合わせ可能である。
【0022】
本発明の特徴と考えられる新規な特徴は、特に添付の特許請求の範囲に記載されている。しかし、本発明自体は、その構成およびその動作方法の両方に関して、その追加の目的および利点と共に、添付の図面と併せて読むと、特定の実施形態例の以下の説明から最もよく理解されるであろう。
【0023】
次に、本発明を、添付の図面による例示的な実施形態を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の解決策の例示的な実施形態の応答時間および振幅軸圧縮/膨張変換による加熱前の基準応答と加熱中のERG応答との一致のグラフ図を示す。
図2】本発明の解決策の例示的な実施形態の温度サイクル中の温度に対する時間スケール圧縮/膨張パラメータの依存性を示す。
図3】本発明の一実施形態によれば、眼球内部の網膜組織温度を非侵襲的に決定するための例示的な装置、ならびに眼球内部の網膜組織を加熱するために使用される加熱装置の加熱電力を制御するための装置を使用する構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の目的は、例えば、刺激光を網膜に集束させ、患者の電極を含むシステムでFERG信号を記録することによって達成することができる。
【0026】
以下の段落では、本発明の一実施形態の解決策を説明する。この例示的な実施形態では、FERG応答は、温度変化の前に取得され、応答は、例えば高い信号対雑音比、又は例えば個々のフラッシュ応答と比べて高い信号対雑音比の、強化された信号対雑音比を有する単一のERG応答を生成するように処理される。本発明の一実施形態では、複数の、例えば、数十又は数百の応答信号が取得され、次いで、デジタルフィルタリング、整合フィルタリング、及び信号平均化などのデジタル信号処理技法を利用して1つの信号が生成され、ノイズが低減され、瞬き、眼の動き、及び筋肉の活動などの異なるソースからのアーチファクトが除去される。一旦、温度変化前の応答が取得されると、刺激プロトコルが継続し、低体温症または高体温症の誘発が開始され得る。温度変化時、温度変化前の基準応答と同様に処理される。次いで、温度変化中に記録された応答及び/又は基準応答が、ある数の変換された信号を生成する1つ又は複数の変換パラメータ値で変換される。1つの変換された信号が、複数の変換された信号から選択され、選択されるべき信号は、類似度によって決定され、例えば、可能な限り厳密に基準の形状と一致する信号を選択することができる。次いで、選択された変換信号の変換パラメータ値を使用して、例えば加熱及び/又は処理によって引き起こされる温度変化を決定する。また、一般的なFERG信号テンプレートを、温度が変化し始めた後の基準応答と応答の両方に当てはめることができ、当てはめパラメータの差を温度推定に使用することができる。
【0027】
温度に依存する最適変換パラメータは、例えば、以下の例示的な式を通じて、2つの応答の間の網膜温度の変化に変換することができる。
【数1】

ここで、Nは使用する変換パラメータの総数、ΔTは2つの応答の温度変化、pは2つの応答の類似度を最適化するn番目変換パラメータ、fはn番目パラメータの関数、例えば自然対数、又はf(x)=x-1、kはモデルf(p)における重みである。
【0028】
重みkは、例えば、被験者の網膜温度が様々な既知の温度に変調され、FERG応答が様々な温度で記録され、最適な変換パラメータが様々な温度での応答の間で決定される実験構成を通じて決定することができる。モデル重みkは、ΔTの推定誤差を最小限に抑えることで求めることができる。また、関数fは、ΔTの誤差を最小限にするように選択されてもよい。
【0029】
網膜温度は、網膜加熱手順の前にコア体温であると予想される。網膜加熱手順の間、絶対網膜温度は、この方法によって決定された温度変化に被験者のコア体温を加えることによって決定することができる。
【0030】
本方法の一実施形態は、時間軸の圧縮を変換として利用する。この変換により、フラッシュ刺激の時間に近い圧縮原点を設定することができる。この場合、温度決定に使用されるパラメータは、加熱、例えばレーザー加熱中に記録された応答に適用され、応答とその基準応答との間の最大の類似度、例えば線形相関を生成する時間圧縮の量である。ERG応答g(t)を時間tの関数として表し、例えば、t=0をフラッシュ刺激の時間又はその近傍に設定する場合、変換された応答は、g(t/a)として表すことができ、ここで、aは、時間軸スケーリング変換パラメータである。g(t)とg(t)は異なる温度で記録された2つのERG応答を表す場合、温度依存最適変換パラメータは、所与の間隔t<t<tでの類似度、例えば、g(t/a)とg(t)との間の相関、または代替として、g(t/a)とg(at)との間の相関を最大化するパラメータaである。類似度を計算するために、応答g、gを、例えば線形補間によって新しい時間軸上に再サンプリングすることができる。
【0031】
本発明の一実施形態では、誘発された低体温又は高体温症の間に深部脳又は網膜の温度を決定するためのシステムは、FERGを登録するための少なくとも2つのオン患者センサと、一定の及び/又は変更する刺激光ビームを生成する刺激部と、刺激光を制御し、FERG信号を収集し、FERG信号から特徴を抽出し、温度変化の間の温度変化を計算するためのリソースと、を含むことができる。眼底および網膜に誘発された温熱療法の場合、システムは、温度を変化させるためのレーザービームを生成するレーザー源、レーザービームおよび刺激ビームを所望の領域、例えば、治療領域、ならびに/または刺激光およびレーザービームを制御するためのリソースに誘導する眼底カメラおよび/または眼底顕微鏡を含むことができる。
【0032】
本発明の一実施形態によれば、記録されたERG信号は、コンピュータなどの決定部に送信され、ERG光応答の温度依存特徴が分析されて、網膜組織の温度が決定される。この方法は、例えば、レーザー又は発光ダイオードなどから眼に向けられる近赤外線放射によって、例えば加熱治療などの温度変化中の網膜色素上皮及び網膜の温度変化を監視するために使用することができる。
【0033】
また、経毛細管照射により色素上皮を加熱する場合、加熱照射の波長は、加熱放射線自体が光受容体を過度に刺激しない長波長の光(例えば、700~1100nm、800~900nm、810nm)とすることが望ましい。
【0034】
以下では、患者の局所領域又は全身の加熱/冷却中に温度依存インジケータを決定し、そのインジケータを使用して、加熱又は冷却及び/又は加熱治療などの温度変調を監視、制御、及び/又は終了するシステムの一実施形態を説明する。網膜の光刺激は、網膜上に可変の大きさのスポットを生成することができる少なくとも1つの光源と、網膜上のスポットの位置および大きさを送達および検証する手段とから構成することができる。スポットサイズは、1mmから全視野刺激まで変化し得る。一実施形態では、網膜上のスポット位置及びサイズは、眼底カメラ又は眼底顕微鏡を用いて確認することができる。また、全視野刺激の場合は、スポットの大きさや場所の確認は不要である。さらに、網膜の光刺激は、背景光源を含むことができる。局所または全身低体温症および/または温熱療法を誘発するためのシステムは、臨床手順の間に患者の全身又は局所的な温度を制御するための任意の手段、またはさらに眼の眼底を局所的に加熱するためのシステムとすることができる。眼底を加熱するシステムは、可視又は近赤外波長(有利には810nm付近)のレーザービームを生成するユニットと、ビームを眼底に送達し、その位置及び大きさを制御及び検証する手段とを含むことができる。加熱ビームの大きさは、例えば、1mm~20mm、1~10mm、又は3~5mmとすることができ、刺激光と同軸の治療領域をターゲットとすべきである。刺激の形状は、円形とすることができるが、他の形状を使用することもできる。網膜誘発信号は、患者に接続された電極を用いて記録される。このシステムは、少なくとも2つの電極を含む。有利には、電極の1つは眼に接続され、1つは眼の近くの皮膚に接続される。システムはまた、患者の額に接続された接地電極を含むことができる。電極によって収集された信号は、適切なデータ収集システムを用いて増幅、バンドパスフィルタリング、A/D変換、及び/又は前処理することができる。前処理は、櫛形フィルタリング、整合フィルタリング、平均化、および/または他の信号処理方法などのさらなるフィルタリングを含むことができる。
【0035】
この手順では、局所または全身の低体温症または高体温症を誘発する前に、変更された温度の計画された領域よりも大きさが大きくても、小さくても、または同様であってもよい網膜の全網膜または焦点領域が、例えば、光パルス、または少なくとも1つの光源からの方形波形によって変調された光によって刺激される。また、より広い領域や網膜全体を同時に背景光で照明することができる。変化する刺激光は、FERG信号を生成する。これらの温度変化前の基準FERG信号は、取得され、低体温又は高体温症が誘発された場合にFERG信号が比較される基準として機能する低ノイズFERGテンプレート信号を生成するために使用される。一実施形態では、テンプレートは、複数のFERG応答を含むFERG信号をフィルタリングし、閾値処理、フーリエ変換もしくはウェーブレット変換、および/または整合フィルタリング、ならびに一連の個別の前処理されたFERG応答の平均化などの異なる方法で信号アーティファクトを除去して、単一の低雑音応答を得ることによって作成される。本発明の別の実施形態では、テンプレートは、温度変化の前に記録された一連の前処理された応答または生の応答、あるいは個々の応答に適合された一般的なFERGモデルテンプレートとすることができる。以下、FERGテンプレート信号、すなわち温度変化前に取得された電気応答を単にFERGテンプレートと称する。
FERGテンプレートを作成した後、局所または全身の温度変化の誘発を開始することができる。ここで、誘発される低体温又は高体温の期間を温度変化と称する。一実施形態では、局所網膜温度は、レーザー照射によって高められる。加熱照射は、例えば、定常照射、変調連続照射、又はパルス照射とすることができる。別の実施形態では、全身温度は、臨床手順の間、変更されるか、または安定に保たれる。温度変化の前にFERG信号を得るために使用されたのと同様の網膜の刺激を使用して、網膜を連続的または瞬間的に刺激することができ、温度変化の間にFERG信号を得る。温度変化中に記録された生の、フィルタリングされた、および/または処理されたFERG信号をFERGテンプレートと比較して、例えば、整合フィルタリングによって、または信号を最初に適切な手段で変換し、比較された信号間の相関などの信号類似度を使用して信号をFERGテンプレートと比較することによって、FERG信号からノイズおよびアーチファクトを除去することができ、類似性を分析する。温度変化の間、温度依存特徴値は、生のFERG信号、フィルタリングされたFERG信号、および/または処理されたFERG信号を変換し、調査されたFERG信号と対応するFERGテンプレートとの間の最適な一致を生成する変換パラメータを見つけることによって決定することができる。本発明の一実施形態では、可能な変換は、例えば、FERG刺激ユニットオンセットの原点又は時間の近傍におけるFERG信号又はFERGテンプレートの時間軸のスケーリング又は圧縮、FERG信号又はFERGテンプレートの位相シフト又は遅延、FERG信号又はFERGテンプレートの振幅シフト、又は温度変化中に同じモデルをFERG信号に適合させるためにFERGテンプレートに適合されたモデルのモデルパラメータのシフトを含むことができる。温度変化処理中にFERGテンプレートとFERG信号とを一致させるために使用される類似度は、例えば、比較された信号間の相関又はRMS差を含むことができる。また、類似度を算出する間隔は、刺激単位の立ち上がり時から開始し、次の刺激単位の立ち上がり時までとすることができ、信号単位内の間隔を短くしてもよい。温度依存インジケータ、例えば、応答間の温度変化は、決定された温度依存最適変換パラメータ、又は温度変化中にFERGテンプレートとFERG信号を比較することによって決定されたパラメータの非線形変換を使用して決定することができる。導出されたインジケータは、温度変化および/または治療を監視、制御、および/または終了させるために使用することができる。
別の実施形態では、治療及び/又は温度変化中に決定された温度依存インジケータ又は温度依存FERG信号特徴値は、インジケータ又は特徴値に予期しない変化が生じた場合に治療及び/又は温度変化の終了を誘発するための安全特徴として使用することができる。さらに、FERG信号の信号対雑音比、または温度変化中の決定された変換パラメータの変動を使用して、温度依存インジケータの誤差、例えば温度差を推定することができる。
図1は、FERGテンプレートと一致するためのFERG信号の変換を示す。図には、網膜から記録されたERG信号の例が示されている。実線で示された応答は、正常な体温で記録されたものである。破線で示された応答は、より高い温度で記録され、点線で示された応答は、より高い体温での応答の変換された信号であり、変換は、通常の体温での基準応答との一致、すなわち、第1の温度で記録された応答(例えば、実線)と第2の温度で記録された信号の変換(例えば、点線)との間の最大の類似度を達成するために、最適な時間軸スケーリング変換および電圧軸スケーリング変換で行われる。この図では、選択された変換信号(点線)のみが示されている。本発明の解決策では、例えば、この選択された変換信号の変換パラメータ値が、次に、第1の温度と第2の温度との間の温度差及び/又は温度差に変換される。
【0036】
最適かつ選択された変換パラメータは、最適化アルゴリズムを使用して見出すことができる。最適化アルゴリズムの2つの例は、グリッド探索及び勾配上昇法であり、それらは、ここでは高レベルな観点から簡単に説明される。しかし、他の既知の最適化アルゴリズムも、最大の類似度を生成する1つまたは複数のパラメータ値を見つけ出し、選択する際に、本発明の解決策で利用することができる。
【0037】
グリッド探索は、信号変換(例えば、時間軸のスケーリング)と、可能なパラメータ値の集合(例えば、時間軸のスケーリング量)を用いた類似度とを計算し、最も高い類似度を生成するパラメータ値を見つけるものである。グリッド探索でテストされる可能な変換パラメータ値の集合は、例えば、0.001の目盛りを有する0.7と1.3との間の線形間隔のベクトルとすることができる。最も高い類似度を生成するこの集合からのパラメータは、温度および/または温度変化を決定することができる温度依存特徴として使用される。
【0038】
別の最適化アルゴリズム、勾配上昇法は、変換パラメータ値の初期推測、例えば、1を成分とするベクトルで開始する。次いで、類似度の勾配が計算され、パラメータ値が正の勾配に向かって更新される。パラメータ値は、アルゴリズムが最適値に十分に近いパラメータ値を見つけるまで、正の勾配に向かって更新される。
【0039】
図2は、温度サイクル中の実温度に対する時間スケール圧縮/膨張パラメータの依存性の例示的な図を示す。実線は網膜の真の温度を示している。点線は、異なる温度における選択された変換信号の決定されたパラメータ値、すなわち、基準測定値、例えば第1の温度で測定された測定値との最大の類似度を有する選択された変換パラメータ値を表す。図の左軸は実際の網膜温度(実線グラフ)である。右軸は、選択されたパラメータ値(点線グラフ)を示している。
【0040】
図3は、本発明の有利な実施形態による、眼103内の網膜組織101、102の温度を非侵襲的に決定するための例示的な装置100、ならびに眼内の網膜組織を加熱するために使用される加熱装置(例えば、IRレーザー)105の加熱パワーを制御するための装置104を使用する構成150を示す。眼の内部の網膜組織(網膜色素上皮も含む)の温度を非侵襲的に決定するための装置100は、網膜組織101、102と相互作用する第1及び/又は第2の電磁放射線刺激106a、107aなどの電磁放射線刺激を与えるための第1及び/又は第2の電磁放射線源106、107(適切な制御装置108を有する)を含む。本明細書の他の箇所に示されているように、あらゆる種類の刺激を与えることができることに留意されたい。さらに、この装置は、電磁放射線刺激に対する網膜組織101、102の電気的光応答を時間の関数として測定するための、網膜電図装置などの測定部材109を含む。
【0041】
また、測定部材109は、角膜網膜電図装置などの網膜電図装置によって実現されてもよい。この装置は、検査中の眼の表面に配置されたERG電極114と、身体と接触している他の場所に配置された基準電極115を含むことができる。一実施形態によれば、これらの電極114、115の間の電圧は、次いで、刺激に対する応答として測定される。
装置はまた、提供された電磁放射刺激106a、107aを網膜組織101、102に向けるためのレンズなどの光学部材113を備えてもよい。
【0042】
以下の段落は、本発明の一実施形態をどのように実施することができるかの一例を提示する。この例示的な実施形態では、温度変調が開始される前に、網膜は光フラッシュで刺激され、ERG応答は既知の基準温度、例えば、通常の体温で記録される。以下、これらの応答を温度変化前の基準応答と称する。温度変調の間、ERG応答は、基準応答と同じ刺激プロトコルで記録される。以下、これらの応答を温度判定応答と称する。応答は、例えば、0.1~50Hz、5~20Hz、又は12~18Hzの点滅光刺激で誘発される。また、記録中は、必要に応じて刺激の点滅間隔を異ならせてもよい。
【0043】
信号がフィルタリングされると、第1の温度および第2の温度における応答、例えば、基準応答および温度決定応答が、雑音をさらに軽減するために別々に平均される。平均化の前に、例えば点滅によって引き起こされるアーチファクトを信号から除去することができる。次いで、基準応答と温度決定応答との間の温度差を記述する特徴が抽出される。これらの特徴の1つの部分集合は、基準及び/又は温度決定応答の変換を利用して、それらの間の最適な一致を達成する。変換パラメータの有利な例は、圧縮/伸張などの時間軸スケーリングである。網膜の温度が上昇すると、光応答が速くなる。より高い温度で記録された応答の時間軸が膨張する場合、変換された応答は、より低い温度で記録された応答によりよく似ている。例えば、線形補間を使用して、元の応答を新しい時間軸上に再サンプリングすることができる。
【0044】
本発明の解決策では、基準応答と変換された温度決定応答との間の類似性を、ある間隔内の類似度を使用して決定することができる。類似性メトリックの一例は、信号間隔(例えば、フラッシュ刺激後のある時間、例えば、0msと50msの間)から決定される線形相関である。基準応答と温度判定応答との間の類似度が最も高い変換パラメータを温度依存パラメータとして使用することができる。上述したように、最適変換パラメータは、グリッド探索や勾配上昇などの標準的な最適化アルゴリズムによって求めることができる。
【0045】
ひとたび変換パラメータが決定されると、それらを使用して、基準応答と温度決定応答との間の網膜温度の差の推定値を生成することができる。
【0046】
また、本発明の方法及び装置は、眼内の網膜組織を加熱するための加熱装置の加熱電力を、37℃以上45℃以下のような所定の範囲に保つように制御するために用いることができる。
【0047】
本発明の一実施形態では、網膜温度変調のための方法は、網膜レーザー加熱システムである。
【0048】
本発明の一実施形態では、温度変調のための方法は、臨床手順の間の、脳を含む身体全体または身体の一部の加熱/冷却である。
【0049】
本発明の一実施形態では、網膜/脳の温度は、臨床手順の間に監視される。
【0050】
本発明の一実施形態では、信号アーチファクトは、プリセットテンプレートとFERG信号の類似性に基づいて除去される方法がとられる。
【0051】
本発明の一実施形態では、網膜刺激装置は、0.1~50Hzの周波数で短い(<5ms)フラッシュまたは方形変調波形を網膜に送出する。
【0052】
本発明の一実施形態では、信号変換は、例えば、フラッシュ刺激の開始時又はその付近の原点を用いた線形時間スケールである。また、原点を同一とし、原点との関係でスケーリングを行うように時間軸スケーリングを行うことができる。
【0053】
本発明の一実施形態では、信号変換は位相シフトである。
【0054】
本発明の一実施形態では、信号変換は、モデルが温度変調の前及び間に記録されたFERG応答に適合された場合の適合パラメータの変化である。
【0055】
本発明の一実施形態では、信号変換または温度依存インジケータは、上記に列挙した変換の線形または非線形組合せである。
【0056】
本発明の一実施形態では、類似性メトリック、すなわち類似度は、信号間の線形相関である。
【0057】
本発明の一実施形態では、類似性メトリックは、信号間の二乗和誤差である。
【0058】
本発明の一実施形態では、指標は網膜/脳温度の変化である。
【0059】
本発明の一実施形態では、温度変調は、インジケータによって監視、誘導、制御、または終了される。
【0060】
一実施形態では、本発明は、眼103の内部の網膜101、102の組織温度を非侵襲的に決定するための方法であって、電磁放射線刺激106a、107aを提供して網膜組織と相互作用させるステップと、電磁放射線刺激に対する網膜組織の電気応答109、114を時間の関数として測定するステップと、を含み、応答は、使用される電磁放射線刺激に対する網膜組織の温度依存性の電気応答である、方法に関する。
【0061】
一実施形態では、本発明は、眼103内の網膜組織101、102の温度を非侵襲的に決定するための装置100に関し、この装置は、網膜組織と相互作用するための電磁放射線刺激106a、107aを提供する電磁放射線源106、107と、時間の関数としての電磁放射線刺激に対する網膜組織の電気応答を測定するための測定部材109と、を備え、この電気応答は、使用される電磁放射線刺激に対する網膜組織の温度依存性応答である。
【0062】
一実施形態では、本発明は、眼の内部の網膜組織を加熱するために使用される加熱装置105の加熱パワーを制御する装置150に関し、この装置は、眼の内部の網膜組織の温度を非侵襲的に決定するための本発明の任意の実施形態による装置と、温度が37℃超45℃未満などの所定の範囲に保たれるように前記加熱装置の加熱パワーを制御するパワーコントローラ104とを含む。
【0063】
一実施形態では、本発明は、前記コンピュータプログラム製品がデータ処理装置上で実行される場合に、眼の内部の網膜組織温度の非侵襲的決定のための本発明の方法のいずれかのステップを実行するように適合されたコンピュータプログラム製品に関する。
【0064】
信号処理のステップは、すべて自動的に完了することができ、あるいはFERGテンプレート生成中のアーチファクト除去など、信号処理の一部を、適切なユーザインターフェースを使用して現場の専門家によって手動で行うことができる。所与の説明は、本発明の好ましい実施形態の例示および説明を提示する。それは、本発明を正確に記載された形態に限定することを意図しない。
【0065】
以上、上記実施形態を用いて本発明を説明し、本発明のいくつかの利点を実証した。本発明がこれらの実施形態に限定されるだけでなく、本発明の思想及び以下の特許請求の範囲の精神及び範囲内の全ての可能な実施形態を含むことは明らかである。特に、提供される電磁放射線刺激は、例えば、本明細書に記載されるように、1つ以上の波長、又は波長領域若しくは領域を有する、例えばパルスのシーケンスからなる、又は連続的に変化する強度を有する、例えば交互の短い持続時間のパルス又は連続的に変動する照明を含んでもよいことに留意されたい。
【0066】
また、従属請求項に記載された特徴は、特に断りのない限り、相互に自由に組み合わせ可能である。

図1
図2
図3