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  • 特許-水素の製造のための装置 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】水素の製造のための装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/23 20210101AFI20240419BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240419BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240419BHJP
   C25B 11/04 20210101ALI20240419BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C25B9/23
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/04
C25B13/08 301
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2021576861
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2020067658
(87)【国際公開番号】W WO2020260370
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】1909232.9
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】321003751
【氏名又は名称】エナプター エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】カタノルチ ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】フィリピ アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】トリヴァレッリ フェデリカ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ヤンユストゥス
(72)【発明者】
【氏名】チャップマン ショーン クロフォード
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/004343(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/026743(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022775(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/007922(WO,A1)
【文献】特開昭59-202227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置であって、
アノード電極を含むアノードハーフセルと、
カソード電極を含むカソードハーフセルと、
前記アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの間に位置する陰イオン交換膜(AEM)と、
を有してなり、
前記アノード電極と前記カソード電極と前記AEMとは、MEAを形成し、
前記アノードハーフセルと前記カソードハーフセルとの一方のみに、前記含水液体を供給する手段が設けられ、
少なくとも、他方の、実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであり、
前記AEMは、ポリマ主鎖の架橋を含み、官能基と結合した前記ポリマ主鎖から形成されて、
前記官能基は、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、のうちのいずれか1つまたは複数であり、
前記含水液体は、前記アノードハーフセルに供給され、他方の、実質的に乾式の前記ハーフセルは、前記カソードハーフセルである、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記装置は、7以上のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である、
請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記装置は、12と14との間のpHを有する前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である、
請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記装置は、0.1%と10%との間のKOHを含む前記含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置である、
請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記装置は、40℃乃至80℃の範囲の温度において水素と酸素との電解的製造のための装置である、
請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記電極は、再生可能エネルギの供給源である電源に接続される、
請求項1乃至5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記MEAは、
前記ポリマ主鎖と触媒との間の分子間結合力を改善すること、
より大きな膜厚、または、
上記のいずれかの組み合わせ、
のうちの1つまたは複数により、バインダフリーである、
請求項1乃至6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記装置は、1バールを超える高圧で水素を生成する、
請求項1乃至7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
前記アノード電極または前記カソード電極のいずれかは、
触媒被覆膜、
触媒被覆基板、または、
直接堆積、
により製造される、
請求項1乃至8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記触媒被覆基板は、
炭素布と、
炭素紙と、
炭素フェルトと、
ステンレス鋼フォームと、
ニッケルベースのフォームと、
のいずれか1つであることができる、
請求項9記載の装置。
【請求項11】
触媒は、白金族を含まない金属製である、
請求項1乃至10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
酸素発生反応のためのアノードにおける触媒は、非化学量論的遷移金属酸化物を含む、
請求項1乃至11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
水素発生反応のためのカソードにおける触媒は、
カルコゲニド、
ニクトゲン化物、
遷移金属硫化物、
遷移金属リン化物、
導電性基板に分散された遷移金属、または、
スピネル構造もしくはペロブスカイト構造を有する他の非化学量論的な遷移金属酸化物または遷移金属錯体、
を含む、
請求項1乃至12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記官能基は、陰イオンを輸送するのに適していて、
前記ポリマ主鎖は、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニレンオキシド、スチレンブタジエンブロック共重合体、ポリエチレンのいずれか1つである、
請求項1乃至13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記ポリマ主鎖と前記官能基との間にスペーサが存在する、
請求項14記載の装置。
【請求項16】
前記アノード電極と前記カソード電極とは、バインダフリーである、
請求項1乃至15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記アノード電極と前記カソード電極とは、
触媒被覆膜、または、
直接堆積、
により製造される、
請求項1乃至16のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の製造のための装置、特に、必ずしも限定されないが、再生可能エネルギ源を利用する電気分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素には、エネルギ貯蔵から肥料の製造に至るまで、様々な用途が存在する。水素は、多くの供給源から得ることができる。化石燃料など、供給源のなかには明らかな理由で望ましくないものもある。したがって、信頼性が高く且つ持続可能な方法で、水素を製造できることが必要とされている。
【0003】
電気分解装置は、水を分解して水素と酸素とを生成するために使用される装置である。例えば、エネルギ貯蔵の手段としてバッテリではなく水素を使用して、そのような装置に対して余剰の再生可能エネルギを用いて電力供給することが可能である。一般に、電気分解装置は現在利用可能な3つの主要な技術、すなわち、陰イオン交換膜(Anion Exchange Membrane:AEM)と、プロトン交換膜(Proton Exchange Membrane:PEM)と、液体アルカリシステムと、のうちの1つに分類される。液体アルカリシステムは最も確立された技術であり、PEMはある程度確立されている。AEM電解装置は、比較的新しい技術である。固体酸化物電解などの他の技術が利用可能である。
【0004】
AEM電解装置とPEM電解装置とは、水素を生成するために、一方のハーフセルからもう一方のハーフセルへのイオン移動に依存する。AEMシステムは水酸化物イオンOHの動きに依存するのに対して、PEMシステムは水素イオンHの動きに依存する。
【0005】
AEM電解装置における半反応は、次のとおりである。
アノード: 4OH → 2HO + 4e + O
カソード: 4HO + 4e → 2H + 4OH
【0006】
AEMシステムの膜とPEMシステムの膜とは、OHまたはHのいずれかの移動を容易にするために、それぞれ陽イオンと陰イオンとを含む。一般に、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)は、導電率、機械的強度、熱安定性など、接合体の特性を改善するために、アイオノマおよび/またはバインダを含む。バインダの添加は、膜電極接合体の一体性を維持するのに役立つのに対して、アイオノマは、液体電解質がない場合に、固体電解質として機能し、基質と、アイオノマと、電極触媒と、の凝集体を形成することにより三相境界部位の生成を助ける、利用可能な触媒層の厚みを増大させるのに役立つ。アイオノマおよび/またはバインダの添加はコストを追加し、またパフォーマンスの低下につながる可能性がある。例えば、アイオノマは耐久性を低下させる可能性がある一方、バインダは導電率に影響を与える。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、水素の製造のための改良された装置を提供することである。
【0008】
本発明によれば、含水液体からの水素と酸素との電解的製造のための装置が提供され、この装置は、アノード電極を含むアノードハーフセルと、カソード電極を含むカソードハーフセルと、2つのハーフセルの間に位置する陰イオン交換膜(AEM)と、を備え、アノード電極と、カソード電極と、陰イオン交換膜とはMEAを形成し、含水液体をアノードハーフセルとカソードハーフセルとの一方だけに供給する手段であって、少なくとも、他方の、実質的に乾式のハーフセルの電極は、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーである。
【0009】
本明細書で使用される含水液体は、水分子を含む任意の溶液でもよい。AEMシステムであるので、当該溶液は、通常、少なくとも僅かにアルカリ性であり、より好ましくは弱アルカリ性乃至強アルカリ性である。アルカリ性は、任意の適切な化合物(例えば、強塩基、緩衝溶液など)により実現され得ることが想定される。しかしながら、好ましい実施形態では水酸化カリウム(KOH)が使用される。含水液体はまた、水道水、海水、より好ましくは蒸留水または脱イオン水を含み得る。
【0010】
AEM電解装置の利点は、苛性電解液の使用量を少なくできることである。KOHまたは適切な代替物の存在は、1%-30%の範囲であり、より好ましくは、さらに0.1%と10%との間であることが想定される。より好ましくは、KOHは、約0.1%-5%、最も好ましくは0.2%と2%との間である。KOHは、その溶解性と、その炭酸塩の溶解性が沈殿に関連した問題の低減をもたらすため好ましく、代替物には水酸化ナトリウム(NaOH)と水酸化リチウム(LiOH)とが含まれる。
【0011】
本明細書では、「乾式」ハーフセルまたは実質的な乾式ハーフセルへの言及は、液体が直接導入されないハーフセルを指すものである。これは、添付の図面に明確に示されている。乾式カソードでは、浸透抗力により、乾式ハーフセルに一時的に水が存在する可能性があることが認められているが、生じる反応で示されるように、乾式ハーフセルに存在する水は、水素と水酸基イオンとに容易に分解される。水酸基イオンはアノードに戻り、同時に電気浸透抗力により溶媒和水をもたらす。
【0012】
乾式アノードを用いると、電気浸透抗力が乾式ハーフセル内の水酸基イオンを移動させて、酸素と水とを生成する可能性が認められている。生成された水は、浸透抗力によりカソードに戻る。いずれの場合にも、一時的な水の存在は、ハーフセルを乾燥させないために十分であるとは見なされない。
【0013】
当業者は、周辺機器(Balance Of Plant:BOP)に精通しているため、本明細書ではBOPの詳細については述べない。
【0014】
好ましい実施形態において、含水液体の水素イオン指数(pH)は7であるか、または7よりも大きい。通常、pHは12-14の範囲である。好ましくは、pHの範囲は12.5と13.5との間であり、特にpHは13と13.5との間であり、例えば、pHは13.25でもよい。なお、当該システムは、pHが7の実質的に中性である液体を使用し得ることが可能で且つ好ましいことが想定される。
【0015】
本発明による電気分解装置は、広範囲の温度で操作することが可能であるが、当該温度は40℃-80℃の範囲であることが想定される。より好ましくは50℃-70℃の範囲であり、さらに好ましくは実質的に55℃-60℃である。
【0016】
電気分解装置は、再生可能エネルギにより電力を供給されることが好ましく、これには太陽光、風力、水力、地熱、またはそれらの組み合わせが含まれるが、それらに限定されない。ただし、電気分解装置に電力を供給するために、商用電源が使用されてもよい。商用電源の価格の変動によるものであれ、または再生可能エネルギが電気分解装置のユーザの現在の負荷を超えて供給されることに起因するものであれ、電気分解装置は間欠的な動作に適合するようになっている。
【0017】
バインダは、とりわけMEAの機械的安定性を向上させるために使用される。一方、バインダが存在しないことは、膜からの剥離を防ぎ、また触媒と膜との間の密接な接触を確保しつつ、触媒層の安定性を確保する必要があることを意味する。これを実現するために様々な製造方法を使用し得ることが想定され、そのためには膜のポリマ主鎖の架橋、より厚い膜の使用、ポリマと触媒との間の分子間結合力の改善、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。しかしながら、そのような対策はMEAの導電率を低下させ、効率に影響を与える可能性がある。
【0018】
好ましくは、含水液体は、カソードが乾燥しており、また生成した水素が実質的に乾燥し且つ電解質を含まないように、アノードに供給される。あるいは、含水液体は、アノードが乾燥しており、また生成した酸素が実質的に乾燥し且つアノードハーフセル電解質を含まないように、セルのカソード側に供給されてもよいと考えられる。
【0019】
多くの場合、水素は高圧であることが必要とされる。したがって、水素の製造のための装置は、様々な高い出力圧での水素生成を可能にする手段を備え得ることが想定される。水素出力は1バールで可能であるが、たとえば日本では8バールなど、現地の法律で他の要件が規定されていなければ、水素は、好ましくは、5バール-50バールの範囲、より好ましくは30バール-40バールで、通常は35バールなど、1バールより高い圧力で生成される。車両またはその他の用途で使用するためには、700バールを超える高圧が必要になる場合がある。そのような場合には、圧力を増大させるためにコンプレッサまたは他の手段が必要になる。
【0020】
水素の所定の出力圧は、多くの方法で管理できることが想定される。電気分解装置は可変水素生成速度を有するが、電気分解装置の稼働容量には関係なく、明らかな理由で一定の出力圧が望ましい。圧力制御弁または同等の手段は、使用中、または電気分解装置が作動していないときに調整可能であり得る。実際のところ、関連管轄区域の生産に対する制限に準拠するために、またはサービスを受ける管轄区域における最大圧力の準拠を確実にすべく固定されるように、出力圧に対する制限が設けられることが想定される。BOPについてはここでは説明しない。
【0021】
電気分解装置は、MEAを含む単一のセルで動作できるが、複数のセルを使用することが想定される。通常は10個-30個のセルが存在し、好ましい実施形態では、幅48cm(19インチ)のキャビネット内に23個のセルがあるため、各セルの幅は約2cmである。以下、スタックは、一緒に組み立てられた2個以上のセルを構成する。
【0022】
アノード電極とカソード電極との両方は、触媒被覆膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)、触媒被覆基板(Catalyst Coated Substrate:CCS)、または直接堆積(Direct Deposition:DD)など様々なプロセスにより製造され得ることが想定されるが、これらに限定されない。上記のいずれについても、少なくとも1つのアイオノマフリーおよび/またはバインダフリーハーフセルを有することが可能である。
【0023】
水素を高品質の用途での使用に適したものにするために、圧縮、貯蔵、または他の使用の前に、電気分解装置により生成された水素用の乾燥機を提供する必要がある場合がある。 乾燥のための任意の適切な手段を使用することができる。
【0024】
アイオノマおよび/またはバインダの必要性を排除するために、触媒がDDまたはCCMのいずれかに含まれることが想定される。触媒でコーティングされた基板を使用してもよいと考えられ、例えば、炭素ベースの布、紙、またはフェルト、ステンレス鋼フォームまたはニッケルベースのフォームなどであるが、これらに限定されない。好ましくは、カソード上に炭素布または紙と、アノード上にニッケルフォームまたはフェルトとがある。この基板は、ガス拡散層としても機能することができ、生成されたガス、すなわち、それぞれカソードとアノードとで発生した水素と酸素とを放出させることができる。そのような実施形態においては、水素と酸素とを発生する半反応での含水液体と化合物との必要な拡散を可能にするために、基板は十分に多孔性でなければならない。
【0025】
電気分解装置は、ユーザが介入する必要性を低減するために、ソフトウェアなどのエネルギ監視システムにより監視および/または制御すべく適合されることが想定される。この監視システムは、電気分解装置の動作パラメータのリモート監視と制御とを可能にすることを意図したものである。
【0026】
AEMの利点は、白金族金属(Platinum Group Metals:PGM)なしの触媒を使用できることである。PGMまたは他の希土類金属を触媒として使用しないことが好ましい。PGMは、遷移基金属などのより豊富な代替品よりも本質的に持続可能性が低く、コストが嵩む。
【0027】
アノードでは、非化学量論的遷移金属酸化物が適切な触媒であると考えられる。 アノードにおける触媒の例には、CuCoOxが含まれる。
【0028】
水素発生反応用のカソード触媒の例には、Ni/CeO-La/Cが含まれる。他の適切な非PGMカソード触媒を使用してもよい。これには、遷移金属硫化物、遷移金属リン化物などのカルコゲニドおよびニクトゲン化物、または窒素ドープカーボンもしくは大表面積を有するように適合された炭素などの導電性基板に分散された遷移金属、あるいはスピネル構造もしくはペロブスカイト構造を有する他の非化学量論的な遷移金属酸化物または遷移金属錯体が含まれる。
【0029】
使用する任意の膜に必要な特性は、機械的強度と、熱安定性と、化学的安定性と、イオン伝導性と、生成した電子とガスの両方がハーフセル区画の間を通過するのを防止することとである。
【0030】
好ましくは、AEMは陰イオン、すなわち水酸化物イオンを輸送するのに適した官能基と結合したポリマ主鎖から形成される。ポリマには、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリフェニレンオキシド、スチレンブタジエンブロック共重合体、ポリエチレンなどが含まれるが、これらに限定されない。ポリマ主鎖の架橋は、機械的安定性を提供する。官能基について、以下でさらに説明する。それらは、ポリマ主鎖に直接結合するか、またはイオン伝導性ドメインと骨格ドメインとの間のより良い相分離を促進するために、スペーサとしての短い脂肪族鎖もしくは芳香族鎖により分離することができる。ポリマ主鎖と、スペーサもしくはイオン交換基の両方における架橋は、より高い機械的安定性を提供し、より高い化学的と熱的安定性にも寄与し得る。
【0031】
イオンの移動を容易にするためには、イオン交換基の存在が必要である。適切なイオンには、アンモニウム、スルホニウム、またはホスホニウム塩が含まれるが、これらに限定されない。膜の強度と熱安定性とは、ポリマ主鎖に起因する可能性があるのに対して、官能基はイオン伝導性を可能にする。本発明の目的のために、膜は陰イオンに対して伝導性がある。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1A図1Aは、乾式カソードを備えたAEMシステムを示す。
図1B図1Bは、乾式アノードを備えたAEMシステムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の理解を補助するために、その特定の実施形態を、例として添付の図面を参照して説明する。
【0034】
図1A図1Bとは、AEMを利用した本発明の実施形態に関する。図1Aは、実質的に水溶液がアノード側に導入される本発明の実施形態を示している。この実施形態の典型的な動作が、本明細書に記載される。
【0035】
図1Aでは、電解装置セル1aを見ることができ、当該セルは、アノードハーフセル3と、カソードハーフセル4と、MEA10と、を含む。アノードハーフセルに水溶液を導入する入口2が存在する。これはKOHの希薄水溶液でもよいが、代替のアルカリ塩、または場合によりは純水を使用できることも想定される。セルに電力を供給する手段は、よく知られているので示されていない。これは、全ての実施形態に当てはまる。
【0036】
MEA10は、アノード電極(またはアノード)7と、カソード電極(またはカソード)8と、陰イオン交換膜9と、を含む。本発明の本実施形態において、入口2は、アノードハーフセル3を含む区画にあるため、アイオノマフリーおよび/またはバインダフリーであるのはカソード8である。
【0037】
セルのアノード側で生成された酸素は、出口5によりセルを出て行く。酸素は他の場所で使用するために処理される場合があるが、通常は排出される。カソードで生成された水素は、出口6を経由してセルを出て行く。水素の流れは、浸透抗力の結果として微量の水を含む可能性があるため、この流れは、貯蔵のための圧縮の前に乾燥機を通過してよい。乾式カソードを備えた実施形態において、電流密度を変更することは、生成する水素の純度に影響を与える。電流密度を上げると水素生成速度が上がり、カソードに存在する水が少なくなることを意味する。水酸基イオンが移動してアノードに戻されると同時に、電気浸透抗力により溶媒和水がもたらされることにより、水はカソードからさらに除去される。
【0038】
ハーフセルにおける反応は、次のとおりである。
アノード:4OH → 2HO + 4e + O
カソード:4HO + 4e → 2H + 4OH
【0039】
生成した水素は、カソード側に電解質/水がないため、実質的に乾燥している。浸透抗力のために幾らかの水が膜を通過する可能性があることは認められているが、これは最小限であると理解されており、カソードが乾燥していないとは考えられていない。
【0040】
ここで図1Bを参照すると、図1Bの実施形態は、図1Aの実施形態の大部分と類似していることが分かる。相違点は、入口2が、アノードハーフセル3ではなく、カソードハーフセル4を含む区画にあることである。各ハーフセルでの反応は、上記と同じである。水はカソード8で消費されるため、この実施形態は、アノード7からカソード8への水の移動により制限されないことが分かる。しかし、乾燥水素が生成されるのが一般的に好ましいのに対して、この動作モードでは湿った水素が生成される。そのため、水素を精製するために乾燥機(不図示)が使用される。このような段階は、通常、生成された水素の圧縮(不図示)の前に行われる。
【0041】
図1Aでは、カソード8が乾燥しており、少なくともカソード8はアイオノマフリーおよび/またはバインダフリーである。 図1Bでは、アノード7が乾燥しており、少なくともアノード7はアイオノマフリーおよび/またはバインダフリーである。
【0042】
好ましい実施形態では、アノードとカソードとの両方がアイオノマフリーおよび/またはバインダフリーである。これは、アノードまたはカソードにアイオノマが存在しないこと、および/またはアノードもしくはカソード、またはそれらの組み合わせにバインダが存在しないことを意味する。
【0043】
本発明は、AEM以外の特定の膜に限定されることを意図するものではない。一方のハーフセルから他方のハーフセルへのイオンの輸送を可能にするものであれば、必要な特性を示す任意の膜を使用してもよい。
【0044】
さらに、官能基とポリマ主鎖との両方は、いずれか名付けされた例に限定されることを意図しておらず、任意のイオン交換基を含む任意の適切なポリマ主鎖を使用してよく、または補強材として作用する任意の無機もしくは有機の充填剤がその組成に加えられてもよい。
【0045】
本発明は、使用された触媒に限定されることを意図するものではない。適切な特性が示される限り、任意の適切な触媒または膜を使用してもよい。
【0046】
さらにまた、MEAの構造および/または組成は、脱イオン水または実質的に中性のpHを有する別の溶液の利用を可能にするために変更されてよい。緩衝液が使用されてもよい。 いずれの場合にも、これらの適応は、本発明の範囲を超えた拡張を意図するものではない。
図1A
図1B