(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20240419BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20240419BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240419BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20240419BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240419BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240419BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240419BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240419BHJP
C12N 15/24 20060101ALI20240419BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20240419BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240419BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20240419BHJP
C07K 16/28 20060101ALN20240419BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240419BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20240419BHJP
C07K 14/52 20060101ALN20240419BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N5/078
A61K35/17
C12N15/86 Z
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C12N15/13 ZNA
C12N15/12
C12N15/24
C12N15/19
A61P35/00
C07K19/00
C07K16/28
C07K14/705
C07K14/54
C07K14/52
(21)【出願番号】P 2023021295
(22)【出願日】2023-02-15
(62)【分割の表示】P 2019560545の分割
【原出願日】2018-12-19
【審査請求日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2017247109
(32)【優先日】2017-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517107531
【氏名又は名称】ノイルイミューン・バイオテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(72)【発明者】
【氏名】玉田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佐古田 幸美
(72)【発明者】
【氏名】安達 圭志
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/056228(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/063419(WO,A2)
【文献】国際公開第2008/143684(WO,A1)
【文献】特表2011-504372(JP,A)
【文献】国際公開第2017/177149(WO,A2)
【文献】国際公開第2010/028795(WO,A1)
【文献】特表2013-517317(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159736(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロホスファミド又はフルダラビンと併用して投与される、
ヒトメソセリン(Human Mesothelin)を特異的に認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)、インターロイキン7(IL-7)、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)を発現する免疫担当細胞と、薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物であって、
前記CARにおける前記一本鎖抗体が、(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体である、前記医薬組成物。
【請求項2】
ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有するウイルスベクターであって、
前記CARにおける前記一本鎖抗体が、(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体である、前記ウイルスベクター。
【請求項3】
ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターを備えるキットであって、
前記CARにおける前記一本鎖抗体が、(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体である、前記キット。
【請求項4】
ヒトメソセリン(Human Mesothelin)を特異的に認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸と、
インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸と、
ケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)をコードする核酸と、の組合せであって、
前記CARにおける前記一本鎖抗体が、(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体である、免疫担当細胞の作製に用いられる、前記組合せ。
【請求項5】
ヒトメソセリン(Human Mesothelin)を特異的に認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)、インターロイキン7(IL-7)、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)を発現する免疫担当細胞であって、
前記CARにおける前記一本鎖抗体が、(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体であり、
前記細胞膜貫通領域が、T細胞受容体のα、β鎖、CD3ζ、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、ICOS、CD154、及びGITR由来の細胞膜貫通領域のポリペプチドからなる群より選択される1つ以上である、前記免疫担当細胞。
【請求項6】
前記シグナル伝達領域が、CD28、4-1BB(CD137)、GITR、CD27、OX40、HVEM、CD3ζ及びFc Receptor-associated γchainからなる群より選択される1つ以上である、請求項5に記載の免疫担当細胞。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の免疫担当細胞と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物。
【請求項8】
ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸、IL-7
をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターであって、前記CARにおける前記一本鎖抗体が、(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体であり、
前記細胞膜貫通領域が、T細胞受容体のα、β鎖、CD3ζ、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、ICOS、CD154、及びGITR由来の細胞膜貫通領域のポリペプチドからなる群より選択される1つ以上である、前記ベクター。
【請求項9】
前記シグナル伝達領域が、CD28、4-1BB(CD137)、GITR、CD27、OX40、HVEM、CD3ζ及びFc Receptor-associated γchainからなる群より選択される1つ以上である、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を生体から分離された免疫担当細胞に導入することを特徴とする、ヒトメソセリンを特異的に認識するCAR、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞の作製方法であって、
前記CARにおける前記一本鎖抗体が、(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体であり、
前記細胞膜貫通領域が、T細胞受容体のα、β鎖、CD3ζ、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、ICOS、CD154、及びGITR由来の細胞膜貫通領域のポリペプチドからなる群より選択される1つ以上である、前記免疫担当細胞の作製方法。
【請求項11】
前記シグナル伝達領域が、CD28、4-1BB(CD137)、GITR、CD27、OX40、HVEM、CD3ζ及びFc Receptor-associated γchainからなる群より選択される1つ以上である、請求項10に記載の免疫担当細胞の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトメソセリン(Human Mesothelin)を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(Interleukin-7:IL-7)、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(chemokine(C-C motif) ligand 19:CCL19)を発現する免疫担当細胞や、かかる免疫担当細胞を含有する医薬組成物や、メソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含む発現ベクターや、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を免疫担当細胞に導入することを特徴とする、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性腫瘍は世界中で多くの罹患者がいる疾患であり、一般的に化学療法、放射線療法、又は外科療法が広く行われている。しかしながら、副作用が生じることや、一部の機能が失われることや、再発若しくは転移を治療できないこと等、様々な問題があった。そこで、より患者のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高く維持すべく、近年、免疫細胞療法の開発が進められている。この免疫細胞療法は、患者から免疫担当細胞を採取し、かかる免疫担当細胞の免疫機能を高めるように処置して増幅し、再度患者に移入する療法である。具体的には、患者からT細胞を採取し、かかるT細胞にキメラ抗原受容体(以下「CAR」ともいう)をコードする核酸を導入して増幅し、再度患者に移入する療法(非特許文献1参照)が知られている。かかる療法は、現在世界中で臨床試験が進行しており、白血病やリンパ腫等の造血器悪性腫瘍等において有効性を示す結果が得られている。
【0003】
一方、本発明者らは、IL-7とCCL19を同時に発現することで、固形がんを顕著に抑制する免疫細胞療法(特許文献1、2参照)を提案した。かかる方法によって、内在性の免疫担当細胞の活性化や腫瘍細胞への集積能を高めることができる。
【0004】
ところで、メソセリンは中皮腫、大腸がん(直腸がん、結腸がん)、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、乳がん、頭頸部がん等のがん細胞において発現することが知られている。かかるメソセリンをターゲットとしたCAR-T細胞が開示されている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/056228号パンフレット
【文献】国際公開第2017/159736号パンフレット
【文献】米国特許出願公開第2014/0301993号明細書
【文献】特開2017-518053号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】中沢洋三 信州医誌 61(4):197~203(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにIL-7とCCL19を同時に発現するCAR発現T細胞やTCR発現T細胞などを用いた免疫細胞療法を開発し、免疫担当細胞の増殖能、生存能、又は宿主の免疫担当細胞の集積能を顕著に向上させ、従来免疫細胞療法で十分な治療効果が認められなかった固形がんに適応できる技術の開発が進んでいる。一方、中皮腫、膵臓がん等のがん細胞に高発現しているメソセリンを標的としたCAR発現免疫担当細胞の開発においては、がん局所への免疫担当細胞の集積が不十分であることや、抗腫瘍効果が短く腫瘍が再発するおそれがあることなど、臨床結果でも満足のいく結果が出ていないのが現状である。そこで本発明の課題は、新たなメソセリンを標的とした免疫担当細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これまで自らが開発してきたCAR、IL-7及びCCL19を発現するT細胞の更なる可能性を検討した。その結果、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子として特定のアミノ酸配列を含有し、ヒトメソセリンに特異的に結合する一本鎖抗体を含有するCARを選択して用いることで、メソセリンを発現するがん細胞に対する細胞傷害活性を有すると共に、メソセリンを発現するがん細胞よって形成された腫瘍による生存率低下を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕ヒトメソセリン(Human Mesothelin)を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びケモカイン(C-C モチーフ)リガンド19(CCL19)を発現する免疫担当細胞。
〔2〕生体から分離された免疫担当細胞であることを特徴とする上記〔1〕記載の免疫担当細胞。
〔3〕外来のヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、外来のIL―7をコードする核酸、及び外来のCCL19をコードする核酸を含有することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕記載の免疫担当細胞。
〔4〕外来のIL-7をコードする核酸、及び外来のCCL19をコードする核酸が、外来のヒトIL-7をコードする核酸、及び外来のヒトCCL19をコードする核酸であることを特徴とする上記〔3〕記載の免疫担当細胞。
〔5〕外来のヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、外来のIL-7をコードする核酸、及び外来のCCL19をコードする核酸がゲノムに組み込まれていることを特徴とする上記〔3〕又は〔4〕記載の免疫担当細胞。
〔6〕ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子が、一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)であることを特徴とする上記〔1〕~〔5〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
〔7〕CARにおける一本鎖抗体が、以下のいずれかである、上記〔6〕記載の免疫担当細胞。
(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体;
(2-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体;
(3-1)配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号25に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体;
〔8〕CARにおける一本鎖抗体が、以下のいずれかである、上記〔6〕又は〔7〕記載の免疫担当細胞。
(1-2)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(2-2)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(3-2)配列番号5に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号6に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(4-2)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(5-2)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
〔9〕CARにおける一本鎖抗体が、以下のいずれかである、上記〔6〕~〔8〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
(1-3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(2-3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(3-3)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(4-3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
(5-3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体;
〔10〕CARにおける細胞膜貫通領域が、配列番号7に示すアミノ酸配列と85%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むことを特徴とする上記〔6〕~〔9〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
〔11〕CARにおける免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域が、配列番号8、9及び10に示すアミノ酸配列を含むことを特徴とする上記〔6〕~〔10〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
〔12〕重鎖可変領域と軽鎖可変領域が2~30個のアミノ酸配列からなるペプチドリンカーを介して結合していることを特徴とする、上記〔7〕~〔11〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
〔13〕ペプチドリンカーが、配列番号26又は配列番号27に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記〔12〕記載の免疫担当細胞。
〔14〕CARにおける一本鎖抗体が、以下のいずれかである、上記〔6〕~〔13〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
(1-4)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体;
(2-4)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体;
(3-4)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体;
(4-4)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体;
(5-4)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体;
(6-4)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体;
(7-4)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体;
(8-4)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体;
(9-4)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体;
〔15〕CARにおける免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域が、CD28の細胞内領域のポリペプチド、4-1BBの細胞内領域のポリペプチド、及びCD3ζの細胞内領域のポリペプチドを含むことを特徴とする上記〔6〕~〔14〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
〔16〕免疫担当細胞がT細胞であることを特徴とする上記〔1〕~〔15〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
〔17〕免疫担当細胞がヒト由来又はヒトから分離されたT細胞であることを特徴とする上記〔1〕~〔16〕のいずれか記載の免疫担当細胞。
〔18〕上記〔1〕~〔17〕のいずれか記載の免疫担当細胞と薬学的に許容される添加剤とを含有する医薬組成物。
〔19〕がんの治療に用いるための、上記〔18〕記載の医薬組成物。
〔20〕ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子コードする核酸、IL―7コードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター。
〔21〕ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を免疫担当細胞に導入することを特徴とする、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL―7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞の作製方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の免疫担当細胞は、ヒトメソセリンを発現するがん細胞傷害活性を有し、ヒトメソセリンを発現する腫瘍形成を抑制することが可能となる。また、本発明の免疫担当細胞は、がん細胞の再発抑制効果をも有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1において、作製した9種類の抗ヒトメソセリン scFvの配置(a)及びアミノ酸配列(b)を示す図である。
【
図2】実施例2において、抗ヒトメソセリンCAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるCARの発現を調べた結果を示す図である。(a)はCAR、IL―7、及びCCL19非発現-T細胞(Non-infection)、(b)~(d)はそれぞれscFv領域としてVH07(15)VL07(シグナルペプチドT)、VH07(15)VL07(シグナルペプチドP)、VH36(15)VL36を有する抗ヒトメソセリンCAR-IL-7/CCL19発現T細胞の結果である。
【
図3】実施例2において、抗ヒトメソセリンCAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるCARの発現を調べた結果を示す図である。(a)はCAR、IL―7、及びCCL19非発現-T細胞(Non-infection)、(b)~(e)はそれぞれscFv領域としてVH07(15)VL07、VL07(15)VH07、VH07(25)VL07、VL07(25)VH07を有する抗ヒトメソセリンCAR-IL-7/CCL19発現T細胞の結果である。
【
図4】実施例3において、腫瘍細胞株におけるメソセリンの発現レベルをフローサイトメーターによって確認した図である。
【
図5】実施例4において、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と、メソセリン陽性腫瘍細胞株又はメソセリン陰性腫瘍細胞株との共培養試験の説明図である。
【
図6A】実施例4において、残存している腫瘍細胞株ACC-MESO-1のフローサイトメトリーでの測定結果を示す図である。
【
図6B】実施例4において、残存している腫瘍細胞株NCI-H2052のフローサイトメトリーでの測定結果を示す図である。
【
図6C】実施例4において、残存している腫瘍細胞株A498のフローサイトメトリーでの測定結果を示す図である。
【
図7A】実施例4において、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞とメソセリン陽性腫瘍細胞株ACC-MESO-1との共培養後の産生されたIFN-γの測定結果を示す図である。
【
図7B】実施例4において、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞とメソセリン陽性腫瘍細胞株NCI-H2052との共培養後の産生されたIFN-γの測定結果を示す図である。
【
図7C】実施例4において、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞とメソセリン陰性腫瘍細胞株A498との共培養後の産生されたIFN-γの測定結果を示す図である。
【
図8】実施例5において、残存している白血球(Lymphocyte number)又はPAN02腫瘍細胞株のフローサイトメトリーでの測定結果を示す図である。
【
図9】実施例5において、抗メソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞とPAN02腫瘍細胞株との共培養後の産生されたIFN-γの測定結果を示す図である。
【
図10】実施例6において腫瘍モデルマウスへのメソセリン CAR-マウスIL-7/マウスCCL19発現マウスT細胞の投与による生存率の結果を示す図である。
【
図11】実施例6において腫瘍モデルマウスへのメソセリン CAR-マウスIL-7/マウスCCL19発現マウスT細胞の投与による腫瘍の体積の測定結果を示す図である。
【
図12A】実施例7において、ACC-MESO-1-GFP-Lucを投与した日をday1として、day1、3、7、10、14、21、31、38のマウスを露光時間30秒で撮影した結果を示す図である。
【
図12B】実施例7において、ACC-MESO-1-GFP-Lucを投与した日をday1として、day45、59、73、87、101、115、129、143のマウスを露光時間30秒で撮影した結果を示す図である。day129の左から2番目の個体は死亡したため写真を省略する。
【
図13】実施例7おいて、投与からの日数とマウスの生存率との関係を示したグラフである。
【
図14】実施例7において、投与からの日数とトータルの蛍光量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の免疫担当細胞は、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL―7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞であればよいが、外来の細胞表面分子をコードする核酸、外来のIL―7をコードする核酸、及び外来のCCL19をコードする核酸を含有する免疫担当細胞であることが好ましく、かかる免疫担当細胞により、ヒトメソセリンを発現するがん細胞による腫瘍形成を抑制することが可能となる。
【0013】
(ヒトメソセリン)
ヒトメソセリンは、40kDaのタンパク質であり、正常細胞ではほとんど発現しておらず、中皮腫、膵臓がん等のがん細胞に高発現している。ヒトメソセリンの配列情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。例えば、ヒトメソセリンのアミノ酸配列情報としては、Genbank アクセッション番号 NP_037536.2、AAV87530.1や、これらのアイソフォームなどを挙げることができる。
【0014】
(細胞表面分子)
ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子としては、ヒトメソセリンを特異的に認識するCAR、ヒトメソセリン由来のペプチドを特異的に認識するT細胞受容体(T cell receptor:TCR)、ヒトメソセリンに特異的に結合するタンパク質若しくは核酸等の、細胞表面に発現することよってヒトメソセリンに対して特異的な識別能を付与する分子又は因子を挙げることができる。なお、CARとは、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体(single chain Fv:scFv)と、T細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を融合させた人工的なキメラタンパク質である。
【0015】
上記細胞表面分子は、シグナルペプチド(リーダー配列)によって免疫担当細胞の細胞表面に局在していることが好ましい。シグナルペプチドとしては、免疫グロブリン重鎖、イムノグロブリン軽鎖、CD8、T細胞受容体のα、β鎖、CD3ζ、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、ICOS、CD154、GITR由来のシグナルペプチド(リーダー配列)のポリペプチドを挙げることができる。具体的には、配列番号11又は12に示すアミノ酸配列において、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号11又は12と同等の作用を有するポリペプチドや、配列番号11又は12に示すアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号11又は12に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドを挙げることができる。なお、シグナルペプチドは、局在化が完了した成熟タンパク質では除去されている。
【0016】
本明細書において、「1若しくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」とは、例えば1~30個の範囲内、好ましくは1~20個の範囲内、より好ましくは1~15個の範囲内、さらに好ましくは1~10個の範囲内、さらに好ましくは1~5個の範囲内、さらに好ましくは1~3個の範囲内、さらに好ましくは1~2個の範囲内の数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列をも包含する。これらアミノ酸残基の変異処理は、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発等の当業者に既知の任意の方法により行うことができる。
【0017】
本明細書において、用語「同一性」は、ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列近似性の程度(これは、クエリー配列と他の好ましくは同一の型の配列(核酸若しくはタンパク質配列)とのマッチングにより決定される)を意味する。「同一性」を計算及び決定する好ましいコンピュータープログラム法としては、例えば、GCG BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(Altschulet al.,J.Mol.Biol.1990,215:403-410;Altschulet al.,Nucleic Acids Res.1997,25:3389-3402;Devereux etal.,Nucleic Acid Res.1984,12:387)、並びにBLASTN 2.0(Gish W.,http://blast.Wustl.edu,1996-2002)、並びにFASTA(Pearson及びLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988,85:2444-2448)、並びに最も長く重複した一対のコンティグを決定及びアライメントするGCG GelMerge(Wibur及びLipman,SIAMJ.Appl.Math.1984,44:557-567;Needleman及びWunsch,J.Mol.Biol.1970,48:443-453)を挙げることができる。
【0018】
(ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体)
細胞表面分子がCARである場合には、ヒトメソセリンを特異的に認識する分子としてヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体(scFv)を含有していることが好ましい。かかるヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体においては、ヒトメソセリンを特異的に認識する抗体の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)が、前記重鎖可変領域及び前記軽鎖可変領域を連結するためのペプチドリンカーによって結合されていればよい。かかるヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体における重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせとしては、例えば、以下の組み合わせを挙げることができる。なお、重鎖可変領域に対して軽鎖可変領域が上流(N末端側)に位置しても下流(C末端側)に位置してもよい。
【0019】
(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR(complementarity determining region)1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域の組み合わせ;
(2-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域の組み合わせ;
(3-1)配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号25に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域の組み合わせ;
【0020】
このほか、たとえば以下の文献(米国特許第8,357,783号、特表2017-518053)等に記載された公知のヒトメソセリンを特異的に認識する抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列に基づき、IMGT、Kabat、Chothia、North、又はContact等の番号付けシステムに基づきヒトメソセリンを特異的に認識する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のCDRを特定し、かかるCDRを備えた重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせも挙げることができる。なお、CDRは、以下のAbodyBuilderウェブサイト(http://opig.stats.ox.ac.uk/webapps/sabdab-sabpred/Modelling.php)により特定することができる。
【0021】
また、上記ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体における重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせとして、以下の組み合わせも挙げることができる。
(1-2)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(2-2)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(3-2)配列番号5に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号6に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(4-2)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(5-2)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
【0022】
このほか、たとえば以下の文献(米国特許第8,357,783号、特表2017-518053)等に記載された公知のヒトメソセリンを特異的に認識する抗体の重鎖可変領域と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、上記公知のヒトメソセリンを特異的に認識する抗体の軽鎖可変領域と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせでてもよい。
【0023】
さらに、上記ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体における重鎖可変領域と軽鎖可変領域の組み合わせとして、以下の組み合わせも挙げることもできる。
(1-3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(2-3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(3-3)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(4-3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
(5-3)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域の組み合わせ;
【0024】
このほか、たとえば以下の文献(米国特許第8,357,783号、特表2017-518053)等に記載された公知のヒトメソセリンを特異的に認識する抗体の重鎖可変領域や軽鎖可変領域の組み合わせであってもよい。
【0025】
(ペプチドリンカー)
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域はペプチドリンカーを介して結合している。かかるペプチドリンカーの長さは、2~30、好ましくは15~25であり、より好ましくは15、又は25である。具体的には、グリシン-セリン連続配列を含む配列番号26又は27に示すアミノ酸配列において、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、配列番号26又は27と同等の作用を有するポリペプチドや、配列番号26又は27に示すアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号26又は27に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドを好適に挙げることができる。
【0026】
上記ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体における重鎖可変領域と軽鎖可変領域、及びペプチドリンカーの組み合わせとして、以下の組み合わせを挙げることもできる。なお、以下の「順次」とは、N末端側から順にという意味である。
(1-4)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む組み合わせ;
(2-4)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを順次含む組み合わせ;
(3-4)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を順次含む組み合わせ;
(4-4)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを順次含む組み合わせ;
(5-4)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む組み合わせ;
(6-4)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む組み合わせ;
(7-4)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む組み合わせ;
(8-4)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む組み合わせ;
(9-4)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む組み合わせ;
【0027】
(IL-7、CCL19)
上記IL-7はT細胞の生存に必須のサイトカインであり、骨髄、胸腺、リンパ器官・組織のストローマ細胞などの非造血細胞によって産生される。一方、T細胞自体の産生能力はほとんど認められない。
【0028】
また、上記CCL19は主にリンパ節の樹状細胞やマクロファージから産生され、その受容体であるCCR7を介してT細胞やB細胞、成熟した樹状細胞の遊走を惹起する機能を有する。
【0029】
IL-7及びCCL19が由来する生物は、特に限定されないが、ヒトであることが好ましい。なお、これらのタンパク質のアミノ酸配列は、GenBank等の公知の配列データベースから入手可能である。例えば、ヒトIL-7のアミノ酸配列の例としては、GenBank アクセッション番号:NM_000880.3(配列番号28)として登録された配列や、これらのアイソフォーム等を挙げることができる。また、ヒトCCL19のアミノ酸配列の例としては、GenBank アクセッション番号:NM_006274.2(配列番号29)として登録された配列や、これらのアイソフォーム等を挙げることができる。なお、IL-7及びCCL19は、シグナルペプチドを有してもよいが、成熟タンパク質では、シグナルペプチドは除去される。例えば、配列番号28に記載のヒトIL-7のアミノ酸配列において、1~25位の配列はシグナルペプチドに該当する。また、例えば、配列番号29に記載のヒトCCL19のアミノ酸配列において、1~21位の配列はシグナルペプチドに該当する。
【0030】
また、IL-7及びCCL19は、上記のような天然タンパク質の変異体であってもよい。IL-7の変異体の例としては、配列番号28に記載のヒトIL-7のアミノ酸配列において、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、IL-7における細胞増殖率又は細胞生存率の亢進作用を有するポリペプチドや、配列番号28に記載のヒトIL-7のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、IL-7における細胞増殖率又は細胞生存率の亢進作用を有するポリペプチドを挙げることができる。ヒトCCL19の変異体の例としては、配列番号29に記載のヒトCCL19のアミノ酸配列において、85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、CCL19における細胞の遊走作用を有するポリペプチドや、配列番号29に記載のヒトCCL19のアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、CCL19における細胞の遊走作用を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0031】
(他の免疫機能制御因子)
本発明の免疫担当細胞は、さらに、IL-15、CCL21、IL-2、IL-4、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IP-10、Interferon-γ、MIP-1alpha、GM-CSF、M-CSF、TGF-beta、TNF-alpha等の他の免疫機能制御因子を発現していてもよいが、上記他の免疫制御因子としては、IL-12以外の免疫機能制御因子であることが好ましいい。
【0032】
(細胞膜貫通領域)
本発明における細胞膜貫通領域としては、CD8、T細胞受容体のα、β鎖、CD3ζ、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、ICOS、CD154、GITR由来の細胞膜貫通領域のポリペプチドを挙げることができ、配列番号7に示すヒトCD8細胞膜貫通領域のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号7に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドや、配列番号7に示すアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号7に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドを好適に挙げることができる。かかる細胞膜貫通領域によって、CARがT細胞の細胞膜に固定される。
【0033】
前記細胞膜貫通領域には、任意のオリゴペプチド又はポリペプチドからなり、長さが1~100アミノ酸、好ましくは10~70アミノ酸のヒンジ領域を含んでもよい。ヒンジ領域としては、ヒトCD8のヒンジ領域を挙げることができる。
【0034】
(免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域)
免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域は、前記細胞表面分子がメソセリンを認識した際に、細胞内にシグナル伝達することが可能な領域であり、CD28、4-1BB(CD137)、GITR、CD27、OX40、HVEM、CD3ζ、又はFc Receptor-associated γchainの細胞内領域のポリペプチドから選択される少なくとも1種又は2種以上を含むことが好ましく、CD28の細胞内領域のポリペプチド、4-1BBの細胞内領域のポリペプチド、及びCD3ζの細胞内領域のポリペプチドの3種のポリペプチドを含むことがより好ましい。CD28の細胞内領域のアミノ酸配列としては、配列番号8に示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号8に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドや、配列番号8に示すアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号8に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドを挙げることができる。4-1BBの細胞内領域のアミノ酸配列としては、配列番号9示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号9に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドや、配列番号9に示すアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号9に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドを挙げることができる。CD3ζの細胞内領域のアミノ酸配列としては、配列番号10示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号10に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドや、配列番号10に示すアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、配列番号10に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドを挙げることができる。なお、免疫担当細胞としてT細胞を用いるときは、T細胞内にシグナル伝達することが可能なポリペプチドを選択すればよく、他の免疫担当細胞を用いるときにも、かかる免疫担当細胞にシグナル伝達することが可能なポリペプチドを選択すればよい。免疫担当細胞としてT細胞を用いる場合における免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域としては、配列番号8、9及び10に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを挙げることができ、N末端側から順に配列番号8、9及び10に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドを好適に挙げることができる。
【0035】
(細胞外ヒンジ領域、スペーサー)
また、メソセリンを認識する細胞表面分子と細胞膜貫通領域との間には、任意のオリゴペプチド又はポリペプチドからなる細胞外ヒンジ領域を設けてもよい。細胞外ヒンジ領域の長さとしては、1~100アミノ酸残基、好ましくは10~70アミノ酸残基を挙げることができ、かかる細胞外ヒンジ領域として、CD8、CD28、CD4等由来のヒンジ領域や、免疫グロブリンのヒンジ領域を挙げることができる。
【0036】
さらに、細胞膜貫通領域と免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域との間には、任意のオリゴペプチド又はポリペプチドからなるスペーサー領域を設けてもよい。スペーサー領域の長さとしては、1~100アミノ酸残基、好ましくは10~50アミノ酸残基を挙げることができ、かかるスペーサー領域として、グリシン-セリン連続配列を挙げることができる。
【0037】
(各領域の配置)
上記CARにおいて、上記の各領域は、N末端から、一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域の順に配置することができる。具体的には、N末端側から、ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体、ヒトCD8の細胞外ヒンジ領域、ヒトCD8の細胞膜貫通領域、ヒトCD28のT細胞活性化シグナル伝達領域、ヒト4-1BBのT細胞活性化シグナル伝達領域、及びヒトCD3ζのT細胞活性化シグナル伝達領域の順に配置されたCARを挙げることができる。
【0038】
(自殺遺伝子によって発現するタンパク質)
また、本発明の免疫担当細胞は、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)又は誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)等の自らの細胞を死に至らしめる機能を有するタンパク質(自殺遺伝子によって発現するタンパク質)を発現してもよい。これら自殺遺伝子に基づくタンパク質が発現することによって直接的に、あるいは二次的に細胞毒性を有する物質を誘導し、自らの細胞を死に至らしめる機能を有することが可能となる。そのため、例えばがんの治療経過に応じて、腫瘍が消失した場合に上記の機能を活性化する薬剤を投与し、生体内にある本発明の免疫担当細胞を制御することができる。すなわち、必要に応じて、本発明の免疫担当細胞におけるサイトカイン放出症候群になるリスクを確実に低減させることが可能となる。
【0039】
単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)又は誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)の機能を活性化する薬剤としては、前者に対してはガンシクロビル、後者に対しては二量体誘導化合物(chemical induction of dimerization:CID)であるAP1903を挙げることができる(Cooper LJ.,et. al. Cytotherapy. 2006;8(2):105-17.,Jensen M. C. et.al. Biol Blood Marrow Transplant. 2010 Sep;16(9):1245-56., Jones BS. FrontPharmacol.2014 Nov 27;5:254., Minagawa K., Pharmaceuticals (Basel). 2015 May8;8(2):230-49., Bole-Richard E., Front Pharmacol. 2015 Aug 25;6:174)。
【0040】
(免疫担当細胞における細胞の種類)
上記免疫担当細胞における細胞の種類としては、免疫応答に関与し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を導入することでヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL―7及びCCL19を発現できる細胞であれば特に制限されないが、生体から分離された免疫担当細胞であることが好ましく、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞等のリンパ球系細胞や、単球、マクロファージ、樹状細胞等の抗原提示細胞や、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞等の顆粒球であって生体から分離されたものを挙げることができる。具体的には、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物由来又は哺乳動物から分離されたT細胞、好ましくはヒト由来又はヒトから分離されたT細胞を好適に挙げることができる。なお、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物由来のT細胞には、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物から分離(採取)されたT細胞を人為的に生体外で培養したT細胞、又は当該T細胞から継代培養されたT細胞が含まれる。また、上記分離されたT細胞としては、T細胞を主として含む細胞集団でよく、T細胞以外に他の細胞も含んでいてもよいが、50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%の割合でT細胞を含んでいることが好ましい。また、T細胞は、血液、骨髄液等の体液や、脾臓、胸腺、リンパ節等の組織、若しくは原発腫瘍、転移性腫瘍、がん性腹水等のがん組織に浸潤する免疫細胞から免疫担当細胞を含む細胞集団を分離して得ることができる。前記細胞集団に含まれるT細胞の割合を高めるため、分離した前記細胞集団を、必要に応じて定法により更に単離又は精製して得ることもできる。さらに、上記免疫担当細胞における細胞としてES細胞やiPS細胞から作製されたものを利用してもよい。かかるT細胞としては、アルファ・ベータT細胞、ガンマ・デルタT細胞、CD8+T細胞、CD4+T細胞、腫瘍浸潤T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、NKT細胞を挙げることができる。なお、免疫担当細胞の由来と投与対象とは同じであっても異なってもよい。さらに、投与対処がヒトの場合において、免疫担当細胞としては、投与対象としての患者本人から採取した自家細胞を用いても、他人から採取した他家細胞を用いてもよい。すなわち、ドナーとレシピエントは一致しても不一致でもよいが、一致することが好ましい。
【0041】
(免疫担当細胞の作製方法)
本発明の免疫担当細胞の作製方法としては、細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を免疫担当細胞に導入して作製する方法を挙げることができ、例えば上記特許文献1又は2に記載の方法などにより、後述する本発明の発現ベクターを免疫担当細胞に導入して作製する方法を好適に挙げることができる。若しくは、受精卵に対して、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及び/又はCCL19を発現するベクターを注入して作製したトランスジェニック哺乳動物から免疫担当細胞を精製して得る方法や、かかるトランスジェニック哺乳動物から精製して得た免疫担当細胞に、さらに必要に応じてヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及び/又はCCL19を発現するベクターを導入して作製する方法も挙げることができる。
【0042】
細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸や、後述する本発明のベクターを免疫担当細胞に導入する場合の核酸又はベクターの導入方法としては、免疫担当細胞に核酸又はベクターを導入する方法であればよく、例えば、エレクトロポレーション法(Cytotechnology,3,133(1990))、リン酸カルシウム法(特開平2-227075号公報)、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,84,7413(1987))、ウイルス感染法等の方法を挙げることができる。かかるウイルス感染法としては、導入するベクターと、パッケージングプラスミドとをGP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、PA317細胞(ATCC CRL-9078)などのパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスを免疫担当細胞細胞に感染させる方法(上記特許文献2)を挙げることができる。
【0043】
上記「ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞」をベクターを用いて作製する場合には、以下のいずれかの方法によって作製することができる。
【0044】
(1)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7及びCCL19を発現するベクターを免疫担当細胞に導入する方法;
(2)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7及びCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(3)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子とIL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(4)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子とCCL19を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(5)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子とIL-7を発現するベクター、及びヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子とCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(6)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とIL-7をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子とIL-7を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7とCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(7)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子とCCL19を発現するベクター、及びIL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7とCCL19を発現するベクター、の2種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
(8)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有し、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子を発現するベクター、IL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクターの3種類のベクターを同時に、又は段階的に免疫担当細胞に導入する方法;
【0045】
さらに、上記「ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞」をベクターを用いて作製する場合には、予めヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫担当細胞を調製し、かかるヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫担当細胞を用いて以下のいずれかの方法によって作製することもできる。
(1)IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有し、IL-7及びCCL19を発現するベクターを上記ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫担当細胞に導入する方法;
(2)IL-7をコードする核酸を含有し、IL-7を発現するベクター、及びCCL19をコードする核酸を含有し、CCL19を発現するベクターの2種類を同時に、又は段階的に上記ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子を発現する免疫担当細胞に導入する方法;
【0046】
上記それぞれの免疫担当細胞を用いる場合には、当該免疫担当細胞の培養物であって、当該免疫細胞を含有するものを用いてもよい。また、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸が免疫担当細胞のゲノムに組み込まれた状態でも、ゲノムに組み込まれない状態(例えば、エピソーマルな状態)で用いてもよい。さらに、上記それぞれの免疫担当細胞を用いる場合には、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸が免疫担当細胞のゲノムに組み込まれた免疫担当細胞と、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸がゲノムに組み込まれない免疫担当細胞の混合物を用いてもよい。
【0047】
また、上記のように「ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞」は、上記ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を、公知の遺伝子編集技術を用いて、適切なプロモーターの制御下で発現可能なように、細胞のゲノムに組み込むことによって製造してもよい。公知の遺伝子編集術としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-Casシステム等のエンドヌクレアーゼを用いる技術が挙げられる。また、例えば、ヒトメソセリンを特異的に認識するCAR(抗ヒトメソセリン CAR)発現-免疫担当細胞に他の外来タンパク質を発現させる場合も同様に、遺伝子編集技術を用いて、他の外来タンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを、適切なプロモーターの制御下で発現可能なように、細胞のゲノムに組み込んでもよい。具体的には、適切なプロモーターに機能的に連結された抗ヒトメソセリン CAR(又は他のタンパク質)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを、細胞ゲノムの非コード領域等に組み込む方法;抗ヒトメソセリン CAR(又は他のタンパク質)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを、細胞ゲノムの内在性プロモーターの下流に組み込む方法等が挙げられる。内在性プロモーターとしては、例えば、TCRα、TCRβのプロモーター等が挙げられる。
【0048】
(投与対象)
上記投与対象としては、哺乳動物又は哺乳動物細胞を好適に挙げることができ、かかる哺乳動物の中でも、ヒト、マウス、イヌ、ラット、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、サル、チンパンジーをより好適に挙げることができ、ヒトを特に好適に挙げることができる。
【0049】
(発現ベクター)
本発明の発現ベクターは、免疫担当細胞又はその前駆細胞と接触させて細胞内に導入し、そこにコードされた所定のタンパク質(ポリペプチド)を免疫担当細胞において発現させることにより、本発明の免疫担当細胞を作製することができるものであればよく、どのような実施形態であるかは特に限定されるものではない。当業者であれば、所望のタンパク質(ポリペプチド)を免疫担当細胞において発現させることのできる発現ベクターを設計し、作製することが可能である。例えば、本発明のヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL―7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターとしては、上記本発明の免疫担当細胞を作製するための以下の(a)~(e)のいずれかの発現ベクター(以下、「IL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン ベクター」ともいう)を挙げることができる。なお、以下の「2つの発現ベクター」とは2種類の発現ベクターのセットを意味し、「3つの発現ベクター」とは3種類の発現ベクターのセットを意味する。
(a)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター:
(b)以下の(b-1)及び(b-2)の2つの発現ベクター:
(b-1)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(b-2)IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c)以下の(c-1)及び(c-2)の2つの発現ベクター:
(c-1)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c-2)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d)以下の(d-1)及び(d-2)の2つの発現ベクター:
(d-1)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d-2)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e)以下の(e-1)及び(e-2)の2つの発現ベクター:
(e-1)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e-2)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(f)以下の(f-1)及び(f-2)の2つの発現ベクター:
(f-1)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(f-2)IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(g)以下の(g-1)及び(g-2)の2つの発現ベクター:
(g-1)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(g-2)IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(h)以下の(h-1)、(h-2)及び(h-3)の3つの発現ベクター:
(h-1)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(h-2)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(h-3)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
【0050】
上記IL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン ベクターは、さらに、IL-15、CCL21、IL-2、IL-4、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IP-10、Interferon-γ、MIP-1alpha、GM-CSF、M-CSF、TGF-β、TNF-α、チェックポイント阻害抗体若しくはその断片等の他の免疫機能制御因子をコードする核酸を含有してもよいが、上記他の免疫制御因子をコードする核酸としては、IL-12以外の免疫機能制御因子をコードする核酸であることが好ましい。
【0051】
(核酸)
本明細書において、「核酸」とは、ヌクレオチド及び該ヌクレオチドと同等の機能を有する分子が重合した分子であればいかなるものでもよく、例えば、リボヌクレオチドの重合体であるRNA、デオキシリボヌクレオチドの重合体であるDNA、リボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチドが混合した重合体、及び、ヌクレオチド類似体を含むヌクレオチド重合体を挙げることができ、さらに、核酸誘導体を含むヌクレオチド重合体であってもよい。また、核酸は、一本鎖核酸又は二本鎖核酸であってもよい。また二本鎖核酸には、一方の鎖に対し、他方の鎖がストリンジェントな条件でハイブリダイズする二本鎖核酸も含まれる。
【0052】
上記ヌクレオチド類似体としては、RNA又はDNAと比較して、ヌクレアーゼ耐性の向上若しくは、安定化させるため、相補鎖核酸とのアフィニティーを上げるため、あるいは細胞透過性を上げるため、あるいは可視化させるために、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、RNA又はDNAに修飾を施した分子であればいかなる分子でもよい。ヌクレオチド類似体としては、天然に存在する分子でも非天然の分子でもよく、例えば、糖部修飾ヌクレオチド類似体やリン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド類似体等が挙げられる。
【0053】
上記糖部修飾ヌクレオチド類似体としては、ヌクレオチドの糖の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の化学構造物質を付加あるいは置換したものであればいかなるものでもよく、その具体例としては、2’-O-メチルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’-O-プロピルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’-メトキシエトキシリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’-O-メトキシエチルリボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’-O-[2-(グアニジウム)エチル]リボースで置換されたヌクレオチド類似体、2’-フルオロリボースで置換されたヌクレオチド類似体、糖部に架橋構造を導入することにより2つの環状構造を有する架橋構造型人工核酸(Bridged Nucleic Acid)(BNA)、より具体的には、2’位の酸素原子と4’位の炭素原子がメチレンを介して架橋したロックド人工核酸(Locked NucleicAcid)(LNA)、及びエチレン架橋構造型人工核酸(Ethylene bridged nucleicacid)(ENA)[Nucleic Acid Research, 32, e175(2004)]が挙げられ、さらにペプチド核酸(PNA)[Acc. Chem. Res., 32, 624(1999)]、オキシペプチド核酸(OPNA)[J. Am.Chem. Soc., 123, 4653 (2001)]、及びペプチドリボ核酸(PRNA)[J.Am. Chem. Soc., 122, 6900 (2000)]等を挙げることができる。
【0054】
上記リン酸ジエステル結合修飾ヌクレオチド類似体としては、ヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の化学構造の一部あるいは全てに対し、任意の化学物質を付加あるいは置換したものであればいかなるものでもよく、その具体例としては、ホスフォロチオエート結合に置換されたヌクレオチド類似体、N3’-P5’ホスフォアミデート結合に置換されたヌクレオチド類似体等を挙げることができる[細胞工学, 16, 1463-1473 (1997)][RNAi法とアンチセンス法、講談社(2005)]。
【0055】
上記核酸誘導体としては、核酸に比べ、ヌクレアーゼ耐性を向上させるため、安定化させるため、相補鎖核酸とのアフィニティーを上げるため、細胞透過性を上げるため、あるいは可視化させるために、該核酸に別の化学物質を付加した分子であればいかなる分子でもよく、その具体例としては、5’-ポリアミン付加誘導体、コレステロール付加誘導体、ステロイド付加誘導体、胆汁酸付加誘導体、ビタミン付加誘導体、Cy5付加誘導体、Cy3付加誘導体、6-FAM付加誘導体、及びビオチン付加誘導体等を挙げることができる。
【0056】
(ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、CCL19等をコードする核酸)
上記ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸はそれぞれ哺乳動物由来の核酸を挙げることができ、ヒト由来の核酸を好適に挙げることができる。上記それぞれの核酸は、本発明の発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、かかるそれぞれの核酸の配列情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0057】
ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸としては、ヒトメソセリンを特異的に認識するCARをコードする核酸を挙げることができる。
【0058】
上記ヒトメソセリンを特異的に認識するCARに含まれる一本鎖抗体をコードする核酸としては、具体的には、以下の(1-1D)~(3-1D)を挙げることができる。
(1-1D)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(2-1D)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(3-1D)配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号25に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体をコードする核酸;
【0059】
上記ヒトメソセリンを特異的に認識するCARに含まれる一本鎖抗体をコードする核酸の他の態様1としては、具体的には、以下の(1-2D)~(5-2D)を挙げることができる。
(1-2D)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(2-2D)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(3-2D)配列番号5に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号6に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(4-2D)配列番号1に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(5-2D)配列番号3に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
【0060】
上記ヒトメソセリンを特異的に認識するCARに含まれる一本鎖抗体をコードする核酸の他の態様2としては、具体的には、以下の(1-3D)~(5-3D)を挙げることができる。
(1-3D)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(2-3D)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(3-3D)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(4-3D)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(5-3D)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域と、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを含む一本鎖抗体をコードする核酸;
【0061】
上記ヒトメソセリンを特異的に認識するCARに含まれる一本鎖抗体をコードする核酸の他の態様3としては、具体的には、以下の(1-4D)~(9-4D)を挙げることができる。
(1-4D)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(2-4D)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号4に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(3-4D)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(4-4D)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(5-4D)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(6-4D)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(7-4D)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号26に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(8-4D)配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
(9-4D)配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、配列番号27に示されるアミノ酸配列からなるペプチドリンカー、及び配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域とを順次含む一本鎖抗体をコードする核酸;
【0062】
上記CARに含まれる細胞膜貫通領域のポリペプチドをコードする核酸としては、配列番号7に示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むヒトCD8細胞膜貫通領域のポリペプチドをコードする核酸を挙げることができる。また、上記CARに含まれる免疫担当細胞活性化シグナル伝達領域におけるCD28、4-1BB、及びCD3ζの細胞内領域のポリペプチドをコードする核酸としては、配列番号8に示すヒトCD28の細胞内領域のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号8に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドをコードする核酸、配列番号9に示すヒト4-1BBの細胞内領域のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列配列を含み、配列番号9に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドをコードする核酸、配列番号10に示すヒトCD3ζの細胞内領域のアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列配列を含み、配列番号10に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドをコードする核酸又はそれらの組み合わせ、好ましくは、上流(5’末端側)から順に配列番号8に示すヒトCD28の細胞内領域のポリペプチドの細胞内領域のポリペプチドをコードする核酸、配列番号9に示すヒト4-1BBの細胞内領域のポリペプチドをコードする核酸、配列番号10に示すヒトCD3ζの細胞内領域のポリペプチドをコードする核酸を挙げることができる。
【0063】
IL-7をコードする核酸としては、配列番号28に示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列配列を含み、配列番号28に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドをコードする核酸、具体的には配列番号30に示す塩基配列からなる核酸を挙げることができ、IL-7における細胞増殖率又は細胞生存率の亢進作用を有する限り、配列番号30に示す塩基配列からなる核酸と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の配列同一性を有する核酸でもよい。CCL19をコードする核酸としては、配列番号29に示すアミノ酸配列と85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号29に示すアミノ酸配列と同等の作用を有するポリペプチドをコードする核酸、具体的には配列番号31に示す塩基配列からなる核酸を挙げることができ、CCL19における細胞の遊走作用を有する限り、配列番号31に示す塩基配列からなる核酸と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の配列同一性を有する核酸を用いてもよい。
【0064】
(自殺遺伝子)
また、本発明の発現ベクターには、自殺遺伝子をコードする核酸を含んでいてもよい。自殺遺伝子とは、発現することによって直接的に、あるいは二次的に細胞毒性を有する物質を誘導し、自らの細胞を死に至らしめる機能を有する遺伝子を意味する。本発明の発現ベクターに自殺遺伝子をコードする核酸を含ませることによって、がんの治療経過に応じて、たとえば腫瘍が消失した場合に自殺遺伝子の機能を活性化する薬剤を投与し、生体内の免疫担当細胞を制御することができる。また、IL-7又はCCL19は他のサイトカインとは異なり、副作用としてサイトカイン放出症候群や遺伝子導入細胞の腫瘍化を引き起こす可能性は低い。しかしながら、本発明の発現ベクターを導入した免疫担当細胞の機能が高まることで、標的のがん組織を攻撃する際に放出するサイトカイン等が予想外にも周辺組織へ影響することがあり得る。かかる場合には、本発明の発現ベクターに自殺遺伝子をコードする核酸を含ませることによって、サイトカイン放出症候群になるリスクを確実に低減させることが可能となる。
【0065】
自殺遺伝子としては、以下の文献に記載された単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)や誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)をコードする遺伝子等を挙げることができ、かかる遺伝子の機能を活性化する薬剤としては、前者に対してはガンシクロビル、後者に対しては二量体誘導化合物(chemical induction of dimerization:CID)であるAP1903を挙げることができる。
【0066】
(核酸配列情報の入手及び核酸の作製)
本発明の発現ベクターに含まれる上記それぞれの核酸は、天然由来の核酸でも人工合成の核酸でもよく、本発明の発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、配列情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0067】
上記それぞれの核酸は、それぞれをコードする核酸の塩基配列の情報に基づき、化学合成する方法や、PCRによって増幅する方法等の公知の技術によって作製することができる。なお、アミノ酸をコードするための選択されるコドンは、目的の宿主細胞における核酸の発現を最適化するために改変されてもよい。
【0068】
(各核酸の配置)
本発明の発現ベクターにおける、(a)ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターは、いずれの核酸がいずれの上流又は下流に配置されてもよい。具体的には、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸として抗ヒトメソセリンCARをコードする核酸を含有する場合を例にすると、上流(5’末端側)から順に抗ヒトメソセリンCARをコードする核酸、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸であっても、抗ヒトメソセリンCARをコードする核酸、CCL19をコードする核酸及びIL-7をコードする核酸であっても、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸及び抗ヒトメソセリンCARをコードする核酸であっても、IL-7をコードする核酸、抗メソセリンCARをコードする核酸及びCCL19をコードする核酸であっても、CCL19をコードする核酸、抗メソセリンCARをコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸であっても、CCL19をコードする核酸、IL-7をコードする核酸及び抗ヒトメソセリンCARをコードする核酸であってもよい。
【0069】
本発明のベクターにおける、(b-2)、(f-2)、及び(g-2)におけるIL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターにおいて、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸の配置は特に制限されず、IL-7をコードする核酸に対してCCL19をコードする核酸が上流に配置されても下流に配置されてもよい。
【0070】
本発明のベクターにおける、(c-1)、(e-1)及び(f-1)におけるヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクターにおいて、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びIL-7をコードする核酸の配置は特に制限されず、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸に対してIL-7をコードする核酸が上流に配置されても下流に配置されてもよい。
【0071】
本発明のベクターにおける、(d-2)、(e-2)及び(g-1)におけるヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターにおいて、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸の配置は特に制限されず、ヒトメソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸に対してCCL19をコードする核酸が上流に配置されても下流に配置されてもよい。
【0072】
(転写)
なお、メソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸、自殺遺伝子をコードする核酸はそれぞれ別のプロモーターにより転写されてもよく、内部リボソームエントリー部位(IRES:internal ribozyme entry site)又は自己切断型2Aペプチドを使用して一つのプロモーターで転写されてもよい。
【0073】
内部リボソームエントリー部位(IRES)又は自己切断型2Aペプチドを使用して一つのプロモーターでIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を転写させる場合における上記各核酸の間や、上記メソセリンを特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含む場合における当該核酸とIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸との間には、それぞれの核酸を発現し得る限り、任意の核酸を含んでもよいが、自己切断型ペプチド(2Aペプチド)、又はIRESをコードする配列、好ましくは2Aペプチドをコードする配列を介して連結されていることが好ましい。かかる配列を用いて連結することにより、それぞれの核酸を効率よく発現させることが可能となる。
【0074】
2Aペプチドとは、ウイルス由来の自己切断型ペプチドであり、配列番号32で示されるアミノ酸配列中のG-P間(C末端から1残基の位置)が小胞体で切断される特徴を有する(Szymczak et al., Expert Opin. Biol. Ther.5(5):627-638(2005))。そのため、2Aペプチドを介してその前後に組み込まれた核酸は、細胞内で互いに独立して発現することとなる。
【0075】
前記2Aペプチドとしては、ピコルナウイルス、ロタウイルス、昆虫ウイルス、アフトウイルス又はトリパノソーマウイルス由来の2Aペプチドであることが好ましく、配列番号33に示すピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)であることがより好ましい。
【0076】
(ベクターの種類)
本発明の発現ベクターにおけるベクターの種類としては直鎖状でも環状でもよく、プラスミド等の非ウイルスベクターでも、ウイルスベクターでも、トランスポゾンによるベクターでもよい。また、かかるベクターには、プロモーターやターミネーター等の制御配列や、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等の選択マーカー配列を含有していてもよい。プロモーター配列の下流に作動可能にIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を配置することで、それぞれの核酸を効率よく転写することが可能となる。
【0077】
上記プロモーターとしては、レトロウイルスのLTRプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター等のウイルス由来プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、Xistプロモーター、β-アクチンプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター等の哺乳類由来プロモーターを挙げることができる。また、テトラサイクリンによって誘導されるテトラサイクリン応答型プロモーター、インターフェロンによって誘導されるMx1プロモーター等を用いてもよい。本発明の発現ベクターにおいて上記特定の物質によって誘導されるプロモーターを用いることによって、たとえば本発明のベクターを含有する免疫担当細胞をがんの治療に用いるための医薬組成物として用いる場合に、がんの治療経過に応じてIL-7及びCCL19の発現の誘導を制御することが可能となる。
【0078】
前記ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターを挙げることができ、レトロウイルスベクターを好適に挙げることができ、pMSGVベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))やpMSCVベクター(タカラバイオ社製)をより好適に挙げることができる。レトロウイルスベクターを用いれば、導入遺伝子はホスト細胞のゲノムへ取り込まれるため、長期間かつ安定に発現することが可能となる。
【0079】
免疫担当細胞における本発明の発現ベクター含有の確認は、例えばCARをコードする核酸を含有する場合には、フローサイトメトリー、ノザンブロッティング、サザンブロッティング、RT-PCR等のPCR、ELISA、ウェスタンブロッティングによってCARの発現を調べることができ、本発明の発現ベクターにマーカー遺伝子を含有する場合には、当該発現ベクターに挿入されたマーカー遺伝子の発現を調べることによって確認することができる。
【0080】
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、本発明の免疫担当細胞と薬学的に許容される添加剤を含有していていればよく、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。また、上記本発明の医薬組成物における免疫担当細胞には、免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えていることから、本発明の医薬組成物はがんの治療に用いるための医薬組成物としてもよい。かかるがんの治療に用いるための医薬組成物には、がんの治療に用いるための使用方法等を記載した添付文書、ラベル、パッケージ等を包含してもよい。さらに、上記本発明の医薬組成物における免疫担当細胞には、腫瘍の再発抑制効果を有することから、本発明の医薬組成物は腫瘍再発の抑制に用いるための医薬組成物としてもよい。かかる腫瘍再発の抑制に用いるための医薬組成物には、腫瘍再発の抑制に用いるための使用方法等を記載した添付文書、ラベル、パッケージ等を包含してもよい。
【0081】
本発明の医薬組成物は、当業者に既知の方法を用いて、それを必要とする被検体に投与することができ、投与方法としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。
【0082】
本発明の医薬組成物は、1日4回、3回、2回又は1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回独立して、一回又は数回に分けて投与する方法を挙げることができる。
【0083】
本発明の医薬組成物におけるがんとしては特に限定されないが、がん組織においてメソセリンを発現するがん種、又はメソセリンを発現するがん細胞由来のがん種であることが好ましく、中皮腫、大腸がん(結腸がん又は直腸がん)、膵臓がん、胸腺がん、胆管がん、肺がん(腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、小細胞がん)、皮膚がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頸部がん、子宮がん、肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、脾臓がん、気管がん、気管支がん、結腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、胆嚢がん、精巣がん、卵巣がん等のがんや、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんのほか、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫等の肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫等の芽腫や、胚細胞腫瘍を挙げることができる。投与量としては、治療的有効量を投与することができ、例えば、1回の投与において、投与細胞の個数として、1×104~1×1010個、好ましくは1×105~1×109個、より好ましくは5×106~5×108個を挙げることができる。
【0084】
本発明の医薬組成物は、他の抗がん剤と併用して用いることができる。他の抗がん剤としては、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ等の分子標的薬、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害薬、イダルビジン、ドキソルビシンマイトマイシンC等の抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシド等の植物アルカロイド、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤、タモキシフェン、ビカルダミド等のホルモン療法薬、インターフェロン、ニボルマブ、ペンブロリズマブ等の免疫制御薬を挙げることができる。
【0085】
上記「本発明の医薬組成物と他の抗がん剤と併用して用いる」方法としては、他の抗がん剤を用いて処理し、その後本発明の医薬組成物を用いる方法や、本発明の医薬組成物と他の抗がん剤を同時に用いる方法や、本発明の医薬組成物を用いて処理し、その後他の抗がん剤を用いる方法を挙げることができる。また、本発明のがんの治療に用いるための医薬組成物と他の抗がん剤と併用した場合には、がんの治療効果がより向上するとともに、それぞれの抗がん剤の投与回数又は投与量を減らすことで、それぞれの抗がん剤による副作用を低減させることが可能となる。また、本発明の医薬組成物に上記他の抗がん剤を含めてもよい。
【0086】
(本発明の別の態様)
本発明の別の態様1として、1)本発明の免疫担当細胞を、がんの治療を必要とする患者に投与することを特徴とするがんの治療方法や、2)医薬組成物として使用するための、本発明の免疫担当細胞や、3)本発明の免疫担当細胞の、医薬組成物の調製における使用を挙げることができる。
【0087】
また、本発明の別の態様2として、以下のいずれかの一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及び免疫担当細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を備えたキメラ抗原受容体(CAR)を挙げることができ、かかるCARを免疫担当細胞に発現させることで、ヒトメソセリンによる刺激によって免疫担当細胞を活性化することが可能となる。
る。
(1-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号16に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体;
(2-1)配列番号13に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号14に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号15に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号19に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号17に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号18に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体;
(3-1)配列番号20に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR1、配列番号21に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR2、及び配列番号22に示されるアミノ酸配列からなる重鎖CDR3を含む重鎖可変領域と、配列番号23に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR1、配列番号24に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR2、及び配列番号25に示されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDR3を含む軽鎖可変領域を含む一本鎖抗体;
【0088】
さらに、本発明の別の態様3として、本発明の発現ベクターを備えている、免疫担当細胞を作製するためのキットを挙げることができ、かかるキットとしては、本発明の発現ベクターを備えていれば特に制限されず、本発明の免疫担当細胞を作製するための説明書や、本発明の発現ベクターを免疫担当細胞に導入するために用いる試薬を含んでいてもよい。
【0089】
さらに、本発明の別の態様4として、細胞表面分子(好ましくは、ヒトメソセリンを特異的に認識する一本鎖抗体を備えたCAR)、IL-7及びCCL19を同時に発現する免疫担当細胞を対象に投与する、がんの再発抑制方法を挙げることができる。
【0090】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0091】
[実施例1]抗ヒトメソセリン CARの作製
(抗ヒトメソセリン CARのscFv配列及びDNA断片の合成)
VL及びVHの配列、順序、及び適切なシグナルペプチドの種類を比較するため、
図1に示す9種類の抗ヒトメソセリン scFvの配列を設計した。
VH07(15)VL07は配列番号1に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号26に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号2に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VH36(15)VL36は配列番号3に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号26に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号4に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VL07(15)VH07は配列番号2に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号26に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号1に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VH07(25)VL07は配列番号1に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号27に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号2に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VL07(25)VH07は配列番号2に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号27に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号1に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VHMO(15)VLMOは配列番号5に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号26に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号6に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VLMO(15)VHMOは配列番号6に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号26に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号5に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VHMO(25)VLMOは配列番号5に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号27に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号6に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。
VLMO(25)VHMOは配列番号6に示す軽鎖可変領域のアミノ酸配列と配列番号27に示すペプチドリンカーのアミノ酸配列と配列番号5に示す重鎖可変領域のアミノ酸配列からなる。なお、配列番号1と配列番号3に示すアミノ酸配列とは、配列番号1における127番目がグリシン(G)であるのに対し、配列番号3に示すアミノ酸配列ではロイシン(L)である点が相違する。また、配列番号2と配列番号4に示すアミノ酸配列は、配列番号2における33番目のチロシン(Y)が配列番号4に示すアミノ酸配列では欠失している点が相違する。
【0092】
次に、上記各抗ヒトメソセリン scFvのアミノ酸配列をコードするDNA断片をそれぞれ合成した。
【0093】
(IL-7/CCL19及びHSV-TKを発現する抗ヒトメソセリン IL-7/CCL19 CAR発現ベクターと、IL-7/CCL19を発現しないコンベンショナル(Conv.)抗ヒトメソセリン CAR発現ベクターの作製)
CAR-T細胞療法では、標的抗原に対する強力な免疫応答によりサイトカイン放出症候群などの全身性の副作用が起こることがある。この問題に対応するため自殺遺伝子としてヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ遺伝子HSV-TKを導入したCARコンストラクトを作製した。このコンストラクトをT細胞に遺伝子導入し、CAR発現T細胞にHSV-TKを発現させるとサイトメガロウイルス治療薬であるガンシクロビルの添加によりCAR-T細胞はアポトーシスを誘導され死滅することから、ガンシクロビル投与により体内のCAR-T細胞の制御が可能となる。
【0094】
上記特許文献2に記載の方法に準じて、最初に、N末端側から抗ヒトメソセリンscFv、ヒトCD8膜貫通領域及びヒトCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナル伝達領域を順次備えた第3世代CARコンストラクトを作製した。当該コンストラクトのC末端に2AペプチドであるF2Aを加え、さらに、その下流にヒトIL-7-F2A-ヒトCCL19-F2A-HSV-TKを加えた。得られたscFv、ヒトCD8膜貫通領域、ヒトCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナル伝達領域、ヒトIL-7、ヒトCCL19、HSV-TKを順次備えたコンストラクトをpMSGV1レトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2012))に挿入して抗ヒトメソセリンscFv、ヒトCD8膜貫通領域、ヒトCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナル伝達領域、ヒトIL-7、ヒトCCL19、及びHSV-TKを発現するpMSGVベクターを作製した。次に、上記pMSGVベクター内の抗ヒトメソセリンscFv領域を、上記「抗ヒトメソセリン CARのscFv配列及びDNA断片の合成」欄で記載の方法で合成した各抗ヒトメソセリンscFv DNA断片で、制限酵素(NcoI及びNotI)処理及びライゲーションにより置き換えて、それぞれの「IL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン CARベクター」を作製した。なお、pMSGV1ベクターはscFvのN末端側に免疫グロブリンG由来のシグナルペプチドT(配列番号11)を備えているが、上記scFv領域をVH07(15)VL07 DNA断片で置き換えたものについては、さらにシグナルペプチドとして、上記配列番号11に示すシグナルペプチドTを、配列番号12に示すシグナルペプチドPに置き換えたものも作製した。さらに、IL-7及びCCL19なしのコントロールとして、上記ヒトIL-7-F2A-ヒトCCL19-F2A-HSV-TKの代わりにHSV-TKを用いた以外は上記と同様の方法で「コンベンショナル抗ヒトメソセリン CARベクター」を作製した。
【0095】
(IL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン CARベクター又はコンベンショナル抗ヒトメソセリン CARベクターを導入したレトロウイルスの作製)
T細胞への遺伝子導入のためレトロウイルスを作製した。リポフェクタミン3000(ライフテクノロジー社製)を用い、上記のそれぞれのIL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン CARベクター又はコンベンショナル抗ヒトメソセリン CARベクターとp-Amphoプラスミド(タカラバイオ社製)をGP2-293パッケージング細胞株(タカラバイオ社製)にトランスフェクションすることで、IL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン CARベクター又はコンベンショナル抗ヒトメソセリン CARベクターを導入したレトロウイルスを作製した。トランスフェクションから48時間後に前記レトロウイルスを含有する上清を回収した。
【0096】
前記GP2-293細胞の培養液としては、10%FCS、1%Penicillin-Streptmycin(和光純薬社製)を加えたDMEMを用いた。また、後述の実施例で用いるT細胞の培養液としては、2.0%ヒトAB型血清(Sigma-Aldrich社製)、1%Penicillin-Streptmycin(和光純薬社製)、2.5μg/mlのアンホテリシンB(ブリストル・マイヤーズスクイブ社製)を含むGT-T551を用いた。
【0097】
(T細胞の形質導入)
健常人ドナーの血液から採取した2×106個の末梢血単核球を、T細胞の活性化のため抗CD3モノクローナル抗体(5μg/ml)及びレトロネクチン(登録商標:タカラバイオ社製、25μg/ml)を固層化したプレート上で、IL-2(Peprotech社製)と共に、37℃、5%CO2インキュベータで3日間培養した。培養開始後2日目に、上記で作製したIL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン CARベクター又はコンベンショナル抗ヒトメソセリン CARベクター導入したレトロウイルスを含有する上清を、あらかじめ25μg/mlのレトロネクチン(タカラバイオ社製)でコートした表面未処理24ウェルプレートに1ウェルあたり500μlずつ添加し、2000g、2時間の遠心によりレトロウイルスプレロードプレートを作製した。プレートは計2枚作製し、遠心終了後1.5%BSA/PBSにて洗浄し、使用するまで4℃で保存した。培養3日目に、活性化させた細胞を上記プレートから回収し、細胞懸濁液(1×105cells/ml)として調整した。この細胞懸濁液を1ウェルあたり1mlずつレトロウイルスプレロードプレートに添加し、IL-2の存在下で37℃、5%CO2インキュベータにて24時間培養し、1回目のレトロウイルス感染を行った。翌日(培養4日目)、各ウェルの細胞溶液を、保存していた2枚目のウイルスプレロードプレートに移し、500gで1分間遠心後、37℃で4時間培養し、2回目の感染を行った。37℃で4時間培養後、各ウェルの細胞懸濁液1mlを新しい12ウェル細胞培養プレートに移し、IL-2を含有する新しい培養液(GT-T551)で4倍に希釈して、37℃、5%CO2インキュベータにて培養した。末梢血単核球の培養開始日から数えて7日目まで培養し、IL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン CARベクターを導入したT細胞である「抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞」又はコンベンショナル抗ヒトメソセリン CARベクターを導入したT細胞である「抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞」を得た。抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞には、外来の抗ヒトメソセリン CARをコードする核酸、外来のIL-7をコードする核酸、及び外来のCCL19をコードする核酸を含有している。抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞には、抗ヒトメソセリン CARをコードする核酸を含有しており、外来のIL-7をコードする核酸、及び外来のCCL19をコードする核酸は含有していない。また同時に、CAR陰性細胞コントロールとして、同一の健常人ドナーから得た末梢血単核球を同様の手法で活性化するがレトロウイルス感染をしていない「CAR、IL-7、及びCCL19非発現-T細胞」(非遺伝子導入細胞:Non-infection)を作製した。
【0098】
ここで、上記のとおりT細胞に抗ヒトメソセリン CARをコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を導入するためにレトロウイルスベクターを用いている。そのため、上記それぞれの核酸を導入したT細胞を培養して増殖した場合には、そのT細胞の細胞質内にレトロウイルスベクターを含んでいるものもあるが、多くはT細胞において、抗ヒトメソセリン CARをコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸がゲノムに組み込まれる。そのT細胞において、抗ヒトメソセリン CARをコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸がゲノムに組み込まれた場合には、抗ヒトメソセリン CAR、IL-7、及びCCL19は導入した外来の組換えコンストラクトから発現することとなる。
【0099】
[実施例2]フローサイトメトリーによるCAR発現測定
(フローサイトメトリー解析)
メソセリンを抗原として認識するCARの発現レベル解析をフローサイトメトリー解析によって行った。作製した抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を、リコンビナントヒトメソセリン(C末端に6-Hisを含むもの)(BioLegend社製)、フィコエリスリン(PE)標識抗6-Hisモノクローナル抗体(abcam社製)、及びアロフィコシアニン(APC)標識抗CD8モノクローナル抗体(Affymetrix社製)と反応させて、染色を行った。フローサイトメーターはEC800(ソニー社製)を用い、データ解析はFlowJo software(Tree Star社製)を用いた。
【0100】
(結果)
まず、scFv領域としてVH07(15)VL07(シグナルペプチドTにより発現)、VH07(15)VL07(シグナルペプチドPにより発現)又はVH36(15)VL36を有する抗ヒトメソセリンCAR-IL-7/CCL19発現T細胞のフローサイトメトリー解析結果を
図2に示す。
図2中、それぞれのグラフにおいて横軸はCARの発現、縦軸はCD8の発現を示す。
図2に示すように、CAR、IL―7、及びCCL19非発現-T細胞(Non-infection)と比較して3種類の抗ヒトメソセリンCAR-IL-7/CCL19発現T細胞はいずれもCARの発現が高いことが確認された。
【0101】
次に、scFv領域としてVH07(15)VL07、VL07(15)VH07、VH07(25)VL07、VL07(25)VH07を有する抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞のフローサイトメトリー解析結果を
図3に示す。
図3中、それぞれのグラフにおいて横軸はCARの発現、縦軸はCD8の発現を示す。(a)はCAR、IL-7、及びCCL19非発現-T細胞(Non-infection)、(b)~(e)はそれぞれのscFv領域を持つ抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の結果である。また、図中の数値はそれぞれのポピュレーションのパーセンテージを表す。
図3(b)~(e)に示すように、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞において、CARの発現が確認された。
【0102】
[実施例3]各腫瘍細胞のメソセリン発現
(フローサイトメトリー解析)
メソセリンを発現する腫瘍細胞株を確認するため、各腫瘍細胞株におけるメソセリンの発現レベルを確認した。悪性中皮腫の細胞株ACC-MESO-1、Y-MESO8A、NCI-H2052、NCI-H226、MSTO211H、腎がんの細胞株A498を、PEで標識した市販のメソシリン抗体(Catalog Number FAB32652P:R&D systems社製)で染色し、フローサイトメトリー解析により各腫瘍細胞におけるメソセリンの発現を測定した。なお、PE標識抗ヒトメソセリン抗体は、3μg/サンプルで染色を行った。フローサイトメーターはEC800(ソニー社製)を用い、データ解析はFlowJo software(Tree Star社製)を用いた。
【0103】
(結果)
結果を
図4に示す。悪性中皮腫の細胞株ACC-MESO-1、Y-MESO8A、NCI-H2052、NCI-H226、MSTO211Hにおいて、メソセリンの発現が確認された。一方、腎がんの細胞株A498においてはメソセリンの発現は確認されなかった。
【0104】
[実施例4]細胞傷害性試験-1
(共培養試験)
抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(scFv領域はVH07(15)VL07又はVH07(25)VL07)をエフェクターとし、メソセリン陽性腫瘍細胞株(ACC-MESO-1、NCI-H2052)又はメソセリン陰性腫瘍細胞株(A498)と共に培養プレート上にてエフェクター:腫瘍細胞比を1:1、1:3、1:5(1:5はIFN-γの測定解析のみ)になるよう調整したうえで、37℃インキュベータにて共培養を行った。かかる共培養の説明を
図5に示す。培養液は10%ウシ胎児血清(Fetal calf serum:FCS)、1%Penicillin-Streptmycin(和光純薬社製)、50μMの2-ME(Gibco社製)及び25mMのHEPES(Sigma-Aldrich社製)を含むRPMIを用いた。共培養開始から2日後に残存している腫瘍細胞株をフローサイトメトリーで測定するとともに培養上清中に産生されたIFN-γを市販のIFN-γELISAキット(BioLegend社製)を用いて測定した。共培養開始から2日後に残存している腫瘍細胞株のフローサイトメトリーでの測定結果を
図6A~6Cに、共培養後の産生されたIFN-γの測定結果を
図7A~7Cに示す。なお、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞のコントロールとして、CAR、IL-7、及びCCL19非発現-T細胞(Non infection)を用いた。フローサイトメトリーに際しては死細胞をZombie Yellow(登録商標:BioLegend社製)で染色して区別し、T細胞をPE標識抗CD45モノクローナル抗体(BioLegend社製)で染色した。フローサイトメーターはBD LSRFortessa X-20(BD Biosciences社製)を用い、データ解析はFlowJo software(Tree Star社製)を用いた。
【0105】
(結果)
図6A~6Cに示すように、コントロールのCAR、IL-7、及びCCL19非発現-T細胞(Non-infection)のそれぞれとターゲット腫瘍細胞との共培養においては、どのターゲット腫瘍細胞も腫瘍のみのウェル(tumor only)と同程度に増殖していることが示された。一方、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞においては、メソセリン陰性ターゲット細胞(A498:
図6C)との共培養では、ターゲット腫瘍細胞は、腫瘍のみのウェル同様に増殖していたが、メソセリン陽性腫瘍細胞(ACC-MESO-1:
図6A、NCI-H2052:
図6B)との共培養では、メソセリン陽性腫瘍細胞のみのウェル及びコントロール細胞との共培養のウェルと比較し、明らかに腫瘍細胞の数が減少していることが観察された。これより、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は抗原特異的に腫瘍細胞を傷害していることが確認できた。
【0106】
さらに、
図7A~Cに示すように、共培養後の上清を用いたIFN-γのELISA解析においても、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞とメソセリン陽性腫瘍細胞(ACC-MESO-1:
図7A、NCI-H2052:
図7B)の共培養の上清においてのみ顕著なIFN-γの産生が確認された。
【0107】
[実施例5]細胞傷害性試験-2
(共培養試験)
実施例4と同様の方法で、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(scFv領域はVHMO(15)VLMO、VLMO(15)VHMO、VHMO(25)VLMO、又はVLMO(25)VHMO)、又は「CAR、IL―7、及びCCL19非発現-T細胞」(非遺伝子導入細胞:Non-infection)を、メソセリン陽性腫瘍細胞株であるPAN02腫瘍細胞株又はメソセリン陰性腫瘍細胞株と共に培養プレート上にてエフェクター:腫瘍細胞比を1:1、1:3になるよう調整したうえで、37℃インキュベータにて共培養を行った。共培養開始から3日後又は5日後に残存している白血球又はPAN02腫瘍細胞株のフローサイトメトリーでの測定結果を
図8に、共培養後の産生されたIFN-γの測定結果を
図9に示す。なお、本実施例及び後述する実施例5の「腫瘍モデルでの治療効果」において用いた抗ヒトメソセリン CAR、IL-7及びCCL19発現するT細胞は、pMSGV1レトロウイルス発現ベクターとして、ヒトIL-7-F2A-ヒトCCL19-F2A-HSV-TKの代わりに、マウスIL-7-F2A-マウスCCL19-F2A-HSV-TK、ヒトCD8膜貫通領域及びヒトCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナル伝達領域の代わりにマウスCD8膜貫通領域及びマウスCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナル伝達領域を挿入されるように調製したpMSGV1レトロウイルス発現ベクターを用い、T細胞としては脾臓及びリンパ球由来のマウスT細胞を用いて実施例1の方法に準じて作製した(以下「抗ヒトメソセリン CAR-マウスIL-7/マウスCCL19発現マウスT細胞」という)。また、本実施例で用いた「CAR、IL-7、及びCCL19非発現-T細胞」(非遺伝子導入細胞:Non-infection)は、T細胞として脾臓及びリンパ球由来のマウスT細胞を用いた。
【0108】
(結果)
図8に示すように、抗ヒトメソセリン CAR-マウスIL-7/マウスCCL19発現マウスT細胞は腫瘍細胞を傷害していることが確認できた。また、
図9に示すように、共培養後の上清を用いたIFN-γのELISAにおいても、抗ヒトメソセリン CAR-マウスIL-7/マウスCCL19発現マウスT細胞とPAN02腫瘍細胞株の共培養の上清においてのみ顕著なIFN-γの産生が確認された。
【0109】
[実施例6]腫瘍モデルでの治療効果
(腫瘍モデルマウスへの抗マウスメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与)
7-10週齢のC57BL/6マウス(SLC社より購入)に5×10
5個のPAN02膵がん細胞株を皮下接種した。接種後7日目に抗がん剤であるシクロホスファミド(Cyclophosphamide:CPA、100mg/kg)を腹腔内に投与し、10日目に1×10
6個の上記実施例5で作製した抗ヒトメソセリン CAR-マウスIL-7/マウスCCL19発現マウスT細胞(scFv領域はVHMO(15)VLMO、VLMO(15)VHMO、VHMO(25)VLMO、又はVLMO(25)VHMO))又は「抗ヒトメソセリン CAR発現マウスT細胞」を静脈内に投与した。VHMO(15)VLMO、VHMO(25)VLMOにおけるマウスの生存率の結果を
図10に、VHMO(15)VLMO、VLMO(15)VHMO、VHMO(25)VLMO、又はVLMO(25)VHMO)における腫瘍の体積の結果を
図11に示す。
図10中、横軸はPAN02を皮下接種後の日数(マウスにPAN02を皮下接種した日を0日とした)、縦軸は生存率である。また、
図11中、横軸はPAN02を皮下接種後の日数、縦軸は腫瘍体積(腫瘍の長軸×(腫瘍の短軸)
2/2(mm
3))である。「no treatment」はCPAのみ投与したグループ、「Conv.」はCPA投与後に抗ヒトメソセリン CAR発現マウスT細胞を投与したグループ、「7×19」はCPA投与後に抗ヒトメソセリン CAR-マウスIL-7/マウスCCL19発現マウスT細胞を投与したグループを示す。なお、上記「抗ヒトメソセリン CAR発現マウスT細胞」は、上記実施例1の記載の「抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞」の作製方法において、pMSGV1レトロウイルス発現ベクターとして、ヒトIL-7-F2A-ヒトCCL19-F2A-HSV-TKの代わりにHSV-TK、ヒトCD8膜貫通領域及びヒトCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナル伝達領域の代わりにマウスCD8膜貫通領域及びマウスCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナル伝達領域を挿入されるように調製したpMSGV1レトロウイルス発現ベクターを用い、T細胞として脾臓及びリンパ球由来のマウスT細胞を用いた以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0110】
(結果)
図10に示すように、本発明の抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与することで、生存率が有意に高くなることが明らかとなった。また、
図11に示すように本発明の抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与することで、腫瘍の増殖が明らかに抑制されることが明らかとなった。これより、腫瘍モデルマウスにおいて、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は優れた抗腫瘍活性を示すことが明らかとなった。
【0111】
[実施例7]腫瘍モデルでの治療効果-2
抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は優れた抗腫瘍活性を示すことが明らかとなったが、さらに長期的な抗腫瘍効果及び膵がん以外での抗腫瘍効果を確認するために、ヒト悪性胸膜中皮腫細胞株を免疫不全マウスに投与して腫瘍を形成させ、その後、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与の有無による143日間の腫瘍再発の有無を調べた。本実施例で用いる「ACC-MESO-1-GFP-Luc株の作製方法」、「T細胞の活性化方法」は以下のとおりである。
【0112】
(ACC-MESO-1-GFP-Luc株の作製)
愛知県がんセンター研究所 関戸好孝先生から分与いただいたメソセリン陽性腫瘍細胞株であるヒト悪性中皮種細胞株ACC-MESO-1にレンチウイルスを用いて緑色蛍光タンパク質-ルシフェラーゼ(GFP-Luc)の遺伝子導入を行った。
【0113】
day0に96 well plateに1×103cells/wellでACC-MESO-1を蒔いた。培地は10%FBS添加RPMI1640(Gibco社製)を使用した。day1に発光細胞作製用レンチウイルス粒子であるRediFect Red-FLuc-GFP(PerkinElmer社製)をMOI 100で加えて形質導入を開始した。その際に遺伝子導入効率を高めるため、Hexadimethrine Bromide(Sigma-aldrich社製)を再終濃度4μg/mLとなるように培地に加えた。ウイルス添加24時間後(day2)にウイルスを含む培地を除去して培地の交換を行った。培養継続後、GFPを発現する細胞のみをSH800(SONY社製)でソーティングし、GFPを発現するACC-MESO-1、すなわち「ACC-MESO-1-GFP-Luc」を得た。
【0114】
(抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞及び抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞の作製)
本実施例7では、実施例1によって得られたIL-7/CCL19発現-抗ヒトメソセリン CARベクター(scFv領域はVH07(15)VL07 DNA断片で置き換え:シグナルペプチドは配列番号11に示すシグナルペプチドT)又はコンベンショナル抗ヒトメソセリン CARベクター(scFv領域はVH07(15)VL07 DNA断片で置き換え:シグナルペプチドは配列番号11に示すシグナルペプチドT)を用いた。
【0115】
(T細胞の活性化)
day0に健常人ドナーから採取した2×106個の末梢血単核球を、レトロネクチン25μL/mL(タカラバイオ社製)と、抗ヒトCD3モノクローナル抗体5μg/mL(invitrogen社製、5μg/mL)を固層化させた細胞培養用6wellプレートで、IL-2(Peprotech社製)と共に37℃、5%CO2インキュベータで培養を開始した。培養液にはOpTmizer CTS(Gibco社製)にL-グルタミン2mM(Gibco社製)、1%ペニシリンーストレプトマイシン(和光純薬工業社製)及びファンギゾン2.5μg/mL(ブリストル・マイヤーズスクイブ社製)を加えたものを用いた。3日間培養し、day3にT細胞が活性化して形態変化が起きていることを顕微鏡下にて確認して活性化T細胞を得た。
【0116】
(腫瘍の再発観察)
まず、day0に8週齢の雌NSG免疫不全マウスに対して2×10
6cells/mouseで上記ACC-MESO-1-GFP-Lucを胸腔内投与した。day1にIn vivoイメージングシステム(in vivo imaging system:IVIS)を用いて胸腔内への腫瘍生着を確認した。day1に実施例1の方法で作製後に凍結していた抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞(scFv領域はVH07(15)VL07)、及び上記方法で活性化したT細胞を解凍した。上記抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞と上記抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞のCAR発現率はそれぞれ49.6%、32.5%であったため、抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞に上記活性化T細胞を加えて両者のCAR発現率を合わせた後、1×10
5cellsの上記抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞を投与する群(N=5)、1×10
5cellsの上記抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞を投与する群(N=5)を準備した。抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞及び抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞の投与は尾静脈より静脈内投与にて行った。さらに、day3以降、IVISを用いた腫瘍蛍光強度の測定(発光量:Total Flux(photons/sec)を行った。結果を
図12A、Bに示す。また、上記結果における投与からの日数とマウスの生存率との関係をグラフ化したものを
図13に、投与からの日数とトータルの蛍光量(photons/second)との関係をグラフ化したものを
図14に示す。
図12A、B、
図13、及び
図14中、抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞を投与したものを「7×19 CAR-T」で示し、抗ヒトメソセリン CAR発現T細胞を投与したものを「Conventional CAR-T」で示している。なお、本実施例7では内在性T細胞が欠損しているNSG免疫不全マウスをレシピエントとして使用しているため、レシピエントの内在性T細胞の影響は除かれており、投与した抗ヒトメソセリン CAR-IL-7-CCL19発現T細胞自体の効果を評価していることとなる。
【0117】
図12A、B、
図13、及び
図14に示すように、day21には7×19 CAR-T、Conventional CAR-Tのいずれも腫瘍蛍光強度がほとんど観察されていない。7×19 CAR-Tにおいては、その後day143まで腫瘍蛍光が観察されておらず、再発が完全に抑制されていることが確認された。一方、Conventional CAR-Tではday45あたりから腫瘍蛍光が観察され始めて、day115には腫瘍蛍光強度が高まり、day129には1匹死亡し、day143には残りの4匹も死亡した。したがって、CAR-IL-7-CCL19発現T細胞の投与により、膵がんだけでなくヒト悪性胸膜中皮腫等のヒトメソセリンを発現するがん細胞に対する細胞傷害活性を有すること、及び長期的な抗腫瘍効果を有することが明らかとなった。
【0118】
本出願は、2017年12月24日に出願された日本国特願2017-247109号を基礎としており、その内容は本明細書にすべて包含されるものである。
【配列表】