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特許7475113パーキンソン病の処置に使用するためのドーパミンを含む医薬溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】パーキンソン病の処置に使用するためのドーパミンを含む医薬溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/137 20060101AFI20240419BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20240419BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20240419BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K9/08
A61K47/02
A61P25/16
【請求項の数】 1
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019042548
(22)【出願日】2019-03-08
(62)【分割の表示】P 2017512420の分割
【原出願日】2015-05-12
(65)【公開番号】P2019085421
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2019-03-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】1454254
(32)【優先日】2014-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】15305352.5
(32)【優先日】2015-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513005017
【氏名又は名称】サントル・ホスピテリエ・レジオナル・エ・ユニヴェルシテール・ドゥ・リール
(73)【特許権者】
【識別番号】518057608
【氏名又は名称】ユニベルシテ・ドゥ・リール
(73)【特許権者】
【識別番号】516340364
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デュ・リトラル・コート・ドパール
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダヴィド・ドゥヴォス
(72)【発明者】
【氏名】カロリーヌ・モロー
(72)【発明者】
【氏名】シャルロット・ラルー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クリストフ・ドゥヴジャン
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】田中 耕一郎
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001493(JP,A)
【文献】ドパミン塩酸塩点滴静注の添付文書,2014年
【文献】Mov. Disord., 1987, Vol.2, No.3, pp.143-158
【文献】生化学辞典,株式会社東京化学同人,2002年,第3版第5刷,第774-775頁
【文献】化学大辞典5,共立出版株式会社,1987年,縮刷版第30刷,第278-281頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-33/44
A61K 9/08
CAPLUS/BIOSIS/EMBASE/MEDLINE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ーパミン塩酸塩及び生理食塩水溶液からなる医薬溶液であって、前記ドーパミン塩酸塩が、前記生理食塩水溶液に溶解しており前記医薬溶液が、5.5~7の間のpHを有し、注射可能であり、酸素を含まず、保存剤を含まない、医薬溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病の処置に使用するためのドーパミンを含む医薬溶液であって、その製剤からその投与まで無酸素性条件(anaerobic conditions)下に保たれる医薬溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病(PD)は、神経系、特にドーパミン作動性ニューロンを含む黒質-線条体系を侵す進行性神経変性疾患である。黒質緻密部(SNpc)における進行性神経変性の結果として、線条体におけるドーパミンの損失は、運動症状の原因となる。
【0003】
パーキンソン病の薬理学的処置は、神経保護療法及び対症療法に分けることができる。パーキンソン病の神経保護療法は、ヒト黒質及び線条体においてドーパミン作動性ニューロンを、早すぎる細胞死及びドーパミンの枯渇を引き起こす複雑な変性過程から保護することに基づいている。しかし、実際には、利用可能な処置のほとんど全ては、本質的に対症的であり、パーキンソン病の自然経過を遅延させるようには又は逆戻りさせるようには思われない。実際、現在のところ市場に出回っている神経保護処置はない。
【0004】
したがって、多数の対症処置はこのドーパミン欠損の弱めることに集中されてきた(Chauduriら、2009;Devosら2013)(1、2)。
【0005】
ドーパミンは、消化管粘膜も血液脳関門も通過しないので、その親油性前駆物質L-ドパ(レボドパ)が、パーキンソン病の症状を緩和するために経口投与薬として開発されてきた。
【0006】
しかし、多数の薬物動態上の欠点が、L-ドパの使用に関連付けられ、L-ドパ関連合併症(LDRC)の出現を誘発している。L-ドパは、血漿中の半減期が短く、波動状のドーパミン作動性刺激(pulsatile dopaminergic stimulation)をもたらす。正常な状態では、黒質緻密部(SNpc)におけるドーパミン作動性ニューロンは連続的に発火し、線条体中のドーパミン濃度は比較的一定のレベルに維持される(Miler及びAbercrombie、1999;Ventonら、2003;Olanowら、2006)(3~5)。しかし、ドーパミン枯渇状態において、レボドパの間欠的経口用量は、線条体ドーパミン受容体の非連続性刺激を誘導するとともに、長期処置後に運動合併症の発症に至るドーパミン作動性経路の障害の一因となる(Fahn及びパーキンソン研究グループ、2005;パーキンソン研究グループ、2009)(6~7)。過少用量及び過剰用量の二者択一の期間に至るこのような波動的経口投与は、パーキンソン病の進行を悪化させる一因となりうる(Devosら、2013)(2)。実際、L-ドパの間欠経口投与により、黒質-線条体の連続的なドーパミン作動性神経伝達は回復できない。
【0007】
連続的なドーパミン作動性投与はより生理的でありうるとともに、これにより、有害な結果を誘導する、ドーパミンレベルにおける大きな変動を予防することが可能である。
【0008】
したがって、一部の処置は、連続的なドーパミン作動性投与に集中されてきた。しかし、レボドパのゲルの十二指腸への直接送達(Olanowら、2014;Devosら、2009)(8、9)又はドーパミンアゴニストであるアポモルヒネの皮下注入(Mansonら、2002;Drapierら、2012)(10~11)により、LDRCを低減する中等度の有効性及び外部ポンプに起因する低質な人間工学性が示された(Syedら、1998;Devosら、2009)(9、12)。長時間作用型ドーパミンアゴニストの使用(Rascolら、2000)(13)、及びドーパミンの排泄半減期を延長するためのカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ阻害剤(COMTI)とのL-ドパの投与(Stocchiら、2010)(14)は、重度のLDRCを有意に改善することはできなかった。
【0009】
連続的な脳内微小潅流時のドーパミン及びメトトレキサートの空間的分布も研究されてきた(Sendelbeck及びUrquhart、1985)(15)。フルオレセインナトリウムを含有する脱酸素人工脳脊髄液に溶解させたドーパミン塩酸塩及びメトトレキサートナトリウムを充填したAlzet 2001ミニ浸透圧ポンプを使用して、脳組織において、より具体的には間脳の中視床領域に、注入を行った。ミニ浸透圧ポンプは移植前に少なくとも16h、前記溶液を充填した。しかし、このような条件下では、酸素がポンプに必ず入り込み、ドーパミンを毒性にすることになる。更に、この研究は、なんらの治療の意図をも持たずに、様々な薬物の拡散をそれらの脂溶性及び極性にしたがって解析するためだけに行われた。
【0010】
Ti02のメソポーラスマトリクスからのドーパミンの連続放出がMX 2012012559に開示されている。ドーパミンが、ゾルゲル法により製造されたマトリクスに包埋されている。しかし、前記マトリクスは、脳の尾状核に移植する必要があるが、この移植は侵襲的であるとともに患者にとって全く不都合である。更に、メソポーラスマトリクスからのドーパミンの連続放出により、なんらの神経保護効果を生じることをもなくパーキンソン病の症状の制御を可能とするのみである。
【0011】
別の治療戦略は、動物において線条体又は側脳室への直接の連続的なドーパミン注入に関する。
【0012】
Yebenesら(1987)(16)は、黒質線条体経路の一側性病変を有するラット及びMPTP処置モンキーで側脳室内注入によるドーパミン又はドーパミンアゴニストの効果について評価した。メタ重亜硫酸ナトリウム等の様々な媒体中のドーパミンを充填したAlzet 2001ポンプに連結したカテーテルを使用して病変に対して同側の大脳側脳室において注入を行った。ドーパミンの自己酸化を低減させるためにメタ重亜硫酸ナトリウムを使用した。運動症状が低下すること及び脳内ドーパミン濃度が上昇することが観察された。
【0013】
しかし、移植して2日後のピーク及び5日の注入期間にわたる緩慢な低下を伴って、ドーパミン又はドーパミンアゴニストの注入により反対側回旋が誘導された。このような効果は、連続的な注入によりタキフィラキシー効果が誘導されることを示すが、注入された動物においてDA受容体数が低減していることにより裏付けられる。これは、その処置により、有効性が進行的に消失する適応現象が誘導されることを意味する。したがって、最大有効性を維持するためにドーパミン用量を漸次高めることが必要である。
【0014】
更に、酸化の問題が観察された。ドーパミンの自己酸化により、細胞毒性の高いキノン及び遊離ラジカルの形成が誘導される。ドーパミンのこのような自己酸化は、周囲の組織及び細胞壁の酸化を誘導する。このような酸化は神経毒性を誘導することが示されており、結果としてパーキンソン病の悪化に作用する恐れがあった。自己酸化のこの問題は、低減したが、ドーパミンがメタ重亜硫酸ナトリウムに溶解している場合には依然として残った。更に、メタ重亜硫酸ナトリウムは亜硫酸塩に対するアレルギー反応等の忍容性問題を誘導する。加えて、神経変性の悪化が錐体ニューロンへの亜硫酸塩の使用により誘導されることが示されてきた(Akdoganら、2011)(17)。このことは、パーキンソン病モデルにおけるメタ重亜硫酸ナトリウムの起こりうる中毒性を示唆する。
【0015】
最後に重要なこととして、Yebenesらに研究された処置は、単に対症療法であり、ヒト黒質において及び線条体においてドーパミン作動性ニューロンを保護することはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】MX 2012012559
【文献】FR0114796
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
このように、上記欠点を呈さない、パーキンソン病の処置の技術に対するニーズがいまだにある。より具体的には、パーキンソン病の神経保護療法を可能とし、単に対症療法ではない、組成物が必要である。また、一方では安定であり、黒質の神経変性の増加及び関連副作用に至る酸化の問題を呈さないとともに、他方ではタキフィラキシーを誘導しない組成物も必要である。最終的には、高度に侵襲性で且つ複雑な移植とはならない治療組成物が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、ドーパミンが、その製剤からその投与まで無酸素性条件下で保たれる医薬溶液に含まれると、上記欠点を克服しうることを見出した。
【0019】
したがって、本発明は、パーキンソン病の処置に使用するためのドーパミンを含む医薬溶液であって、その製剤からその投与まで無酸素性条件下に保たれる医薬溶液を対象とする。
【0020】
「その製剤からその投与まで無酸素性条件下」とは、投与についてそれが所望の部位へ送達されるまで、一般には製剤、(存在する場合には)コンディショニング/貯蔵及び投与の間、ドーパミンの酸化及び自己酸化を予防するため必要な条件の全てを意味する。すなわち、投与について所望の部位へ送達することを含めて、本発明の医薬溶液の製剤、(存在する場合には)貯蔵及び使用は、酸素を本質的に含まない、又は酸素を含まない、すなわち、5%未満の酸素、好ましくは2%未満の酸素、より好ましくは1%未満の酸素、より好ましくは0.5%未満の酸素、より好ましくは約0%の酸素を含む環境中で実施される。更に、本発明の医薬溶液は、それ自身酸素を含まず、つまり、これは5%未満の酸素、好ましくは2%未満の酸素、より好ましくは1%未満の酸素、より好ましくは0.5%未満の酸素、より好ましくは約0%の酸素を含む。
【0021】
実際、本発明は、ドーパミンがその製剤からその投与まで無酸素性条件下で保たれる医薬溶液に存在すると、タキフィラキシーを誘導せずに正常な運動活動を効率的に回復することによりパーキンソン病を処置することが可能であるという予想外の知見に基づいている。更に、上記の無酸素性条件下でドーパミンを使用すると、わずかな自己酸化のみが観察される。
【0022】
このような対症効果に加えて、このような条件下で、ドーパミンは、線条体において及びSNpcにおいて、少なくとも神経保護効果を含めて、ニューロンへの神経可塑性を効率的に誘導するということが好都合に見出された。ドーパミンを有酸素的に製剤及び/又は投与すると、線条体における又はSNpcにおけるニューロンへのかかる神経保護効果を誘導できない。
【0023】
更に、ドーパミンが、その製剤からその投与まで無酸素性条件下で保たれる医薬溶液に存在すると、保存剤なしでもこのような驚くべき効果が得られる。したがってメタ重亜硫酸ナトリウムの使用を必要とせず、本化合物に関連した欠点が克服される。
【0024】
用語「神経可塑性」(又は脳可塑性)とは、新しい神経連絡を形成することによりそれ自身を作り直す脳の能力を指す。本発明では、神経可塑性とは、パーキンソン病の処置を使用せずに本発明の処置を適用した場合、ニューロンの数が多いことを意味する。神経可塑性には、神経保護、ニューロン形成(すなわち、幹細胞からのニューロン形成)、ドーパミン作動性ニューロンへの表現型の変化(すなわち非ドーパミン作動性ニューロンからの)並びに/又はシナプス形成及び樹状突起形成(dentritogenesis)等の可塑性変化が含まれる。
【0025】
用語「ニューロン形成」とは、幹細胞からの新しいニューロンの生成を指す。
【0026】
おそらくドーパミン作動性脱神経の結果として、パーキンソン病に侵された患者の脳室下帯(SVZ)において及び顆粒細胞下帯(SGZ)において前駆細胞の増殖が損傷されていることがこれまでに示されてきた(Hoglingerら2007)(18)。実際、ドーパミンの実験的枯渇により、げっ歯類ではSVZ及びSGZの双方において前駆細胞の増殖が低下することが示されてきた。パーキンソン病の6-ヒドロキシドーパミンマウスモデルでは、SVZにおける増殖がおよそ40%だけ低減していた(Hoglingerら2007)(18)。
【0027】
「神経保護効果」又は「神経保護」とは、パーキンソン病に侵されていない患者と比べた、パーキンソン病に侵されている患者のニューロン構造及び/又は機能の保存性を意味する。好ましくは、これは、パーキンソン病に侵されていない患者と比べた、パーキンソン病に侵されている患者の線条体中の及び/又は黒質緻密部中のニューロン数の保存性を指す。
【0028】
用語「処置」、「処置する」及び由来する用語は、パーキンソン病及び/又はパーキンソン病にリンクする少なくとも1つの症状を逆戻りさせる、緩和させる、停止させる又は予防することを意味する。また用語「処置」とは、パーキンソン病の発症を遅延させることができる予防処置も指す。
【0029】
本発明の医薬溶液は、薬学的に許容されるものであり、すなわち患者に投与した場合好ましくない、アレルギー性の又は他の有害な反応を生じない。
【0030】
「ドーパミン」は、その遊離塩基[4-(2-アミノエチル)ベンゼン-1,2-ジオール]の形態にあるドーパミン分子並びに例えばその塩酸塩等の薬学的に許容される塩を意味する。
【0031】
用語「薬学的に許容される塩」とはドーパミンから得られる任意の塩を指し、前記塩は本発明の前記化合物の生物学的活性と比較してやや類似の生物学的活性を有している。ドーパミンはアミンの1つであり、酸付加塩を形成しうる。適切な酸付加塩は、非毒性塩を形成する酸から形成される。かかる酸の例は、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、酢酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、及びマレイン酸であり、このうち塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、及び酢酸が特に好ましい。好ましくは、薬学的に許容される塩はドーパミン塩酸塩である。
【0032】
本発明の医薬溶液は、パーキンソン病の処置において緩和させうる又は有益でありうる複合体、分子、ペプチド、塩、ベクター又は他の任意の化合物を更に含んでもよい。
【0033】
有利には、本発明の医薬溶液は保存剤を含まない。
【0034】
「保存剤」とは、抗酸化効果を有する又は本発明の医薬溶液を構成しているドーパミン及び他の化合物を保存するのに必須である全ての分子、ペプチド、塩又は他の化合物を意味する。
【0035】
本実施形態の特に好ましい変形では、本発明の医薬溶液は非経口投与向けに製剤されている。
【0036】
好ましくは、医薬溶液は、注射可能な製剤のために薬学的に許容される媒体を含有する。これらは、場合に応じて、滅菌水又は生理的食塩水を添加すると注射可能な溶液を構成できる、特に等張性、無菌性、塩類溶液(リン酸一ナトリウム若しくは二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム若しくは塩化マグネシウム等又はこのような塩の混合物)又は乾燥、とりわけ凍結乾燥された組成物であってもよい。例えば、塩類溶液(又は塩化ナトリウム溶液)に溶解した場合、このようにして得られたドーパミン塩酸塩により、安定な酸性溶液が得られ、希釈に依存して好ましくは4.5から7の間で、より好ましくは5.5から7の間で構成されるpHを有する。
【0037】
本発明の医薬溶液は水性溶液の形態であることが好ましい。
【0038】
ドーパミン溶液の製剤に関し、例えば、ドーパミンを、患者に投与する溶液の形態で直接に供給してもよい。また、適切な溶媒とりわけ水性溶媒に溶解させて投与の少し前に溶液を形成する固体ドーパミン、例えば粉末として提供することも可能である。投与の直前又は少し前にドーパミン溶液を調製することにより、酸化のリスクが更に低減されるとともに、ドーパミン溶液と比べて固体ドーパミンは有効期間が長いという利点を有する。
【0039】
無酸素性条件下でのドーパミンを含む医薬溶液の製剤は、すなわち酸素を含まない又は酸素を本質的に含まない溶液は、当技術分野で公知の任意の方法によって、例えば窒素、フレオン、アルゴン、キセノン、(36)-クリプトン又はネオン等の不活性ガスを使用する脱酸素によって得ることができる。この目的のため、FR0114796に記載のように、ドーパミンがあらかじめ溶解している水性溶液のスパージングを、例えば塩を有する水性溶液において、不活性雰囲気下で実施することができる。
【0040】
医薬溶液の形態(とりわけ濃度)、投与経路、用量及び計画は病気の重度、患者の年齢、体重、及び性別等に当然依存する。
【0041】
本発明の医薬溶液は、任意の生物、よりとりわけ哺乳動物、より具体的にはヒト、より具体的には45歳を超える、より好ましくは65歳を超えるヒトの処置に使用しうる。
【0042】
有利なことに、前記医薬溶液は脳室内投与に適している。より具体的には、前記医薬溶液は、右側脳室内に、好ましくは医薬溶液が第3脳室内に投与可能なように室間孔に近接して投与されるように適合されている。
【0043】
実際、本発明者らは、室間孔に近接してカテーテルを右側脳室に特に配置することにより室間孔に近接して投与することで、医薬溶液を第3脳室に直接投与することが可能となるとともに、脳室壁及び脳室下部領域(SVZ)を通して線条体にドーパミンの両側性濃度がもたらされることを驚くべきことに発見した。このような投与により運動合併症は顕著に低減し、一方脳の前頭部に投与されると、ドーパミンは前頭部及び尾状核に外側性に濃縮され、これは運動合併症及び精神病の発症に対して有利なことではない。
【0044】
したがって、本発明はまた、脳室内に、好ましくは右側脳室内に、好ましくは室間孔に近接して投与されるように適合されている、上記の医薬溶液を提供する。
【0045】
この目的のために及び無酸素性条件下での投与を実施するために、本発明による薬学的に許容される溶液は、無酸素性ポンプを使用して投与されるように適合されている。
【0046】
無酸素性条件下での本発明の溶液の投与はまた、当業者に公知の他の任意の方法により実施することもできる。
【0047】
「無酸素性ポンプ」とは、本発明の溶液の制御放出を可能とするとともに、前記溶液を酸素に曝露することによりその無酸素性を低下させることがない任意のデバイスを意味する。一般には、前記ポンプは、本発明と適合する必要があり、且つドーパミン溶液を投与の所望の部位に無酸素的に送達することが特に可能である。
【0048】
例えば、SYNCHROMED IIポンプ(Medtronic社により市販)、IPRECIOポンプ(Iprecio社により市販)又はALZETポンプ(Alzet社により市販)をこの目的に使用できる。SYNCHROMED IIポンプ(Medtronic社により市販)がヒトに適しており、したがってヒト患者に好ましく使用できる。このポンプにより、完全な無酸素性条件及びドーパミンの卓越した安定性がもたらされる。実際、本発明者らにより、無酸素性条件下のドーパミンは少なくとも1月間安定であることが示された。
【0049】
したがって、このようなポンプの使用により、ドーパミンの酸化又は自己酸化のリスクが極めて低減する。パーキンソン病の処置においてドーパミンを使用する利益/リスクのバランスは、このような無酸素性ポンプの開発以前は負であった。
【0050】
投与に使用される用量は、様々なパラメーターの関数として、特に使用される投与モードの関数として、関連する病理の関数として、又は代替的に処置の所望期間の関数として、適合されうる。
【0051】
本発明はまた、医薬溶液及び上記のその使用も提供し、その際、前記医薬溶液が用量変化を伴って連続的に投与される。好ましくは、前記医薬溶液が優先的昼間用量(predominant diurnal dose)で又は独占的昼間用量(exclusive diurnal dose)で投与される。
【0052】
実際、本発明者らは、この投与プロトコルは、タキフィラキシーが低減し、更には回避さえし、且つ夜間の過剰用量により誘導される精神病発症のリスクを高めることなく、処置の長期有効性をもたらすことを発見した。
【0053】
前記投与プロトコルは、上記の無酸素性ポンプ、例えばSYNCHROMED IIポンプを使用することにより容易に実施することができる。「連続的に投与される」とは、一昼夜すなわち24時間の間、又は数時間の間だけのいずれかの連続する時間、本発明の医薬溶液を投与することを意味する。
【0054】
「優先的昼間用量」とは、夜間用量(nocturnal dose)が昼間用量より低く、好ましくは昼間用量より少なくとも25%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも50%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも70%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも80%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも90%低いことを意味する。
【0055】
「独占的昼間用量」とは、夜間用量がないことを意味する。
【0056】
特定の実施形態では、上記の医薬溶液は以下の投与レジメンによって投与される:
- 連続的且つ安定な昼間用量、
- 午前に(on morning)投与されるボーラス、及び
- 任意選択で、必要な場合少なくともボーラス、及び/又は
- 任意選択で、昼間用量より低い、好ましくは昼間用量より少なくとも25%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも50%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも70%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも80%低い、より好ましくは昼間用量より少なくとも90%低い連続的且つ安定な夜間用量。
【0057】
「ボーラス」とは、即効を達成するために投与される、本発明の医薬溶液の単回の、比較的高い用量を意味する。このボーラスは上記と同様であることが好ましい。ボーラスは午前に及び任意選択で必要なとき、すなわち患者が処置の速効を必要とするとき、投与される。
【0058】
本発明者らは、この投与プロトコルにより患者毎に変動しうる最小有効量を決定することが可能となることを発見した。パーキンソン病の運動症状及び非運動症状が、ドーパミン作動性処置の末梢投与(すなわちL-ドパの波動的経口投与、アポモルヒネの皮下投与、L-ドパゲルの空腸投与)により通常生じるいずれの副作用(ジスキネジア、変動、精神病等)もなく、有酸素性ドーパミンの中枢(側脳室内)投与により観察される自己酸化のリスクもなしで、処置される。本発明による無酸素性ドーパミンによる処置がかかる合併症の発生前に投与されている場合、そのような合併症又は副作用を停止するか又は予防することさえ可能である。更に、最小有効量の使用により少なくとも神経保護が、結局は神経回復さえももたらされる。一般には無酸素性ポンプを使用すると、各ケースに適合される最小有効量を決定することが可能となる。
【0059】
「最小有効量」とは、任意の医学的処置に適用可能な合理的な利益/リスク比で、効果的である十分な量を意味する。しかし、総1日使用量は適切な医学的判断の範囲内で患者の担当医により決定されるであろうと理解される。それを必要とする特定の任意の患者に対する具体的な最小有効量は、患者の年齢、体重、全身健康状態、性別及び食事、投与時間、投与経路、処置期間;組み合わせて又は同時に使用される薬物及び医学界で周知の同様の要因を含めた種々の要因に依存する。例えば、まず所望治療効果を得るのに必要なレベルよりも少ないレベルの化合物の投与を始め、所望効果が得られるまで用量を漸増させることも当業者内で周知である。用量はまた、患者のドーパ感受性にしたがって変動しうる。例えば、経口投与される必要用量と側脳室内(ICV)経路による投与用量の間に1/100から1/300までの比がこれまで観察されてきた(例えば、モルヒネ、バクロフェン)。
【0060】
本明細書においてはまた、それを必要とする患者にドーパミンを投与することを含む、パーキンソン病を処置するための方法であって、ドーパミンは無酸素的に製剤され、コンディショニングされ且つ投与される方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1】無酸素性ポンプ(A:SYNCHROMED II、B:ALZET 2001)における、本発明の溶液の経時安定性の図である。
図2】側脳室内ドーパミン注入又はL-ドパ経口処置の7日後のMPTPマウスにおける運動欠如の回復の図である。ドーパミン用量はμg/日で及びL-ドパはmg/kg/日で表されている。データは、生理食塩水マウスからの百分率平均値±SEMで表されている(n=8~15)。*対生理食塩水マウス、#対未処理MPTPマウス、p<0.05(一元配置ANOVA及びFisherのLSD post-hocテスト)。A:平均スピードB:10分間にわたるアリーナ中の走行距離
図3】側脳室内ドーパミン注入又はL-ドパ経口処置の7日後のMPTPマウスの線条体中の神経伝達物質含量の改変の図である。ドーパミンのポンプ注入に対する同側性線条体中(A、C、E)及び反対側性線条体中(B、D、F)の、ドーパミン、ジヒドロフェニルアセテート(DOPAC)及びホモバニリン酸(HVA)(A、B)、セロトニン(5HT)及びヒドロキシインドールアセトアルデヒド(5HIA)(C、D)並びにノルアドレナリン(NA)(E、F)。ドーパミン処置の用量はμg/日で及びL-ドパはmg/kg/日で表されている。データは、生理食塩水マウスからの百分率平均値±SEMで表されている(n=8)。*対生理食塩水マウス、#対未処理MPTPマウス、p<0.05(一元配置ANOVA及びFisherのLSD post-hocテスト)。
図4】無酸素性条件下で調製且つ投与されたドーパミンの側脳室内ドーパミン注入、有酸素性条件で調製且つ投与されたドーパミンの側脳室内ドーパミン注入、又はL-ドパ経口処置の7日後のMPTPマウスのSNpc及び線条体におけるTH-ir染色の回復の図である。ドーパミンの用量はμg/日で及びL-ドパはmg/kg/日で表されている。データは、生理食塩水マウスからの百分率平均値±SDで表されている(n=10)。「A-ドーパミン」は無酸素性条件下で調製且つ投与されたドーパミンを意味する。「O2-ドーパミン」は有酸素性条件で調製且つ投与されたドーパミンを意味する。*は所定の条件と生理食塩水条件の間の有意差を意味する。#は所定の条件とMPTP条件の間の有意差を意味する。p<0.05(一元配置ANOVA及びFisherのLSD post-hocテスト)。A:SNpc中のTH-irニューロンカウントB:背側線条体中のTH-ir光学的密度
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0062】
(実施例1)
本出願人はMPTPマウスを使用することによりその発明を実行した。このようなマウスは、パーキンソン病により誘導されるものと同一の運動合併症を再現するためにMPTPにより中毒させた。MPTPとは、脳の黒質においてドーパミン作動性ニューロンを破壊することによりパーキンソン病の恒久的な症状を生じる神経毒(1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)である。
【0063】
本発明の種々の溶液を作製し、不活性ガスであらかじめ脱酸素が実施されているカニューレ及びALZETポンプを使用することにより脳室に注入した。
【0064】
前記溶液は、不活性ガス中で窒素フラッシングによりあらかじめ脱酸素された生理食塩水中でドーパミン塩酸塩を希釈することにより実施した。前記溶液は、希釈に依存して5.58から6.84の間で構成されるpHを有する。ドーパミンがプロトン化形態にあるので、図1に示すようにこのpHにより溶液が非常に安定となりうる。
【0065】
MPTPマウスは、処置7日後に0.06mg/日のドーパミン(MPTP DA 0.06)による「正常な」運動機能を得る。その反対に、高用量のL-ドパで処置した対照マウス(MPTP LD)は、図2に示すようにジスキネジア等の異常行動を有していた。
【0066】
マウス群の「脳室壁」を分析した。高用量の有酸素性ドーパミンで処置したマウスの脳室壁は、本発明の溶液で処置したマウスの脳室壁と異なり、多数の黒色帯を含む。
【0067】
黒色はドーパミンキノン及びドーパミン酸化により生じた遊離ラジカルの脳室壁酸化に起因する。
【0068】
最終的に、本発明による溶液を使用すると、図4に示すように、黒質のドーパミン作動性ニューロンに対する神経保護効果が発生することが、本発明者らにより発見された。
【0069】
したがって、パーキンソン病の処置に使用するための溶液を提案するが、その際、前記溶液が右側脳室内に、好ましくは溶液が第3脳室内に直接に投与可能なように室間孔に近接して注入することにより、用量変化を伴って投与される。本発明により、既知の処置よりも高い利益/リスクバランスを得ることが可能となる。
【0070】
(実施例2)
材料及び方法
MPTPマウスモデル及び実験計画
動物は12/12時間の明暗周期で温調ルーム(22±2℃)に集団収容(ケージ当たり10匹)した。ホームケージでは食物及び水が自由に得られた。動物のあらゆる操作の前に、移送後7日の馴化期間を考慮した。
【0071】
雄の5ヶ月齢C57B1/6Jマウス(Elevage Janvier社、Le Genest St Isle、フランス)、体重28~30gを使用した。マウスは、0(「生理食塩水マウス」)又は20mg/kgのMPTP(「MPTPマウス」)(Sigma Aldrich社、St Louis、MO、米国)を含有する塩溶液の腹腔内注射を4回(2h間隔で)受けた。生理食塩水又はMPTPを0日目(D0)に投与し、第7日目から第14日目まで(D7~D14)、ドーパミンの中枢連続注入又はL-ドパの末梢処置を行い、次いでD14に自発運動の測定及び殺処分を実施した。
【0072】
処置
異なる13群を設定した:
- 生理食塩水、非移植マウス(生理食塩水で処置)
- MPTP、非移植マウス(生理食塩水で処置)
- MPTP、無酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン40μg/日である
- MPTP、無酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン60μg/日である
- MPTP、無酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン80μg/日である
- MPTP、無酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン120μg/日である
- MPTP、無酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン240μg/日である。
- MPTP、有酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン60μg/日である
- MPTP、有酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン120μg/日である
- MPTP、有酸素性条件下で充填したポンプを移植、ドーパミン240μg/日である
- MPTP、L-ドパ12.5mpk+ベンゼラシド(benzeraside)12mpk、1日2回のi.p.処置マウス
- MPTP、L-ドパ25mpk+ベンゼラシド12mpk、1日2回のi.p.処置マウス
- MPTP、L-ドパ50mpk+ベンゼラシド12mpk、1日2回のi.p.処置マウス
【0073】
本発明の溶液による処置
本発明の溶液は、不活性ガス中で窒素フラッシングによりあらかじめ脱酸素された生理食塩水(0.9%NaCl)中でドーパミン塩酸塩(以下「ドーパミン」と略称することもある)(レファレンスH8502、Sigma-Aldrich社)を希釈することにより調製した。前記溶液は、希釈に依存して5.58から6.84の間で構成されるpHを有する。ドーパミンがプロトン化形態にあるので、このpHにより溶液が非常に安定となりうる。
【0074】
ALZET 2001浸透圧ポンプにおける本薬物の安定性を、ドーパミンのHPLCアッセイを使用して37℃にて30日を超えて4日毎に試験した(図1Bを参照)。ALZET 2001浸透圧ポンプは、7日にわたり1μl/時間の速度で注入するように調整した。
【0075】
ドーパミン溶液を有酸素性条件下又は無酸素性条件下のいずれかで脳注入カニューレに連結したポンプに注入した。無酸素性実験は、水素5%、二酸化窒素5%及び窒素90%を含む雰囲気中(Bactron anaerobic/environmental chamber、Anaerobe Systems社)で進行させた。酸素が出現した場合、ボトルに採集される水を与えるように酸素は水素と直接に結合させた。更に、酸化還元指示薬が酸素の存在下でその色を変化させたとき、その領域にレサズリンを添加した。次いで、定位手術前に、プライミングのためにポンプは37℃にて4時間にわたりこの条件下に維持した。
【0076】
L-ドパによる処置
L-ドパ(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)を末梢ドーパデカルボキシラーゼ阻害剤と同時投与して、L-ドパからのドーパミン末梢合成を予防した。L-ドパ用量と無関係に、L-ドパメチルエステル塩酸(Sigma-aldrich社)をベンセラジド12mg/kgとともに生理食塩水に溶解し(Cenci及びLundblad、2007)(19)、各注入前にその場で調製した。L-ドパは、先に記載の用量で7日にわたり1日2回腹腔内(i.p.)投与した(Espadasら、2012;Fornaiら、2000;Cenci及びLundblad、2007)(19,21)。
【0077】
ALZETポンプの調製
本研究用に選択したポンプは200μlの貯水容量を有する2001型であり、これにより7日間1時間当たり1μlの注入が可能となった。脳注入キットにより、脳カニューレ(30ゲージ;ID=0.16mm;OD=0.31mm;ペデスタル下の長さ=3mm)及びマウスに適合したカニューレサポートが提供された。キットにはカテーテルチューブが含まれ、これを必要な長さに切断してカニューレをALZETポンプの流量調節計に連結することができる。カニューレをポンプに連結しているカテーテルは、ポンプの皮下部位とカニューレの場所の間の距離より25%長い方がよく、このことにより動物の頭頸部の自由な動きがもたらされる。
【0078】
適合した周囲条件下で、プロトコルにおいて必要な場合無酸素性グローブボックスエンクロージャで種々のドーパミン溶液を溶解し、脳注入アセンブリの様々な部分及び浸透圧ポンプを注射器及び特定の充填チューブを使用してドーパミン溶液を充填した。
【0079】
空気泡の存在を完全に排除し且つポンプを「始動させる」ために、プライミングが必要であり、事前に充填したポンプを37℃にて少なくとも4時間の間、滅菌した0.9%生理食塩水を有する無酸素性の密封したボトルの中に置いた。プライミングの間の溶液のあらゆる混合及び外科移植の間の酸素曝露を回避するために、パラフィルムを使用して、カニューレの末端を覆った。ポンプ及び脳注入アセンブリはここで移植の準備ができている。
【0080】
非移植(NI)であるか又は生理食塩水を充填したAlzetポンプを移植されている(Saline)かのいずれかである生理食塩水マウス及びMPTPマウスの運動活動性能を比較することにより、ALZETポンプが運動活動性能に悪影響を与えることはないことも制御した。
【0081】
手術によるAlzetポンプ移植
マウスを抱水クロラール(300mg/kg、Sigma-Aldrich社)にて麻酔し、定位フレームに置いた。要約すると、頭皮の切開及び頭蓋骨の洗浄/乾燥の後、右側脳室に対して定位座標にて頭蓋骨を通して穿孔を実施した、B-0.34mm、L+1mm(Paxinos及びWatson脳図譜)。次いで、充填したAlzetポンプをマウス背部において皮下挿入し、脳注入カニューレを定位フレームに適合させたカニューレホルダーに固定した。次いでカニューレホルダーを所定の前後及び側方定位座標に配置し、カニューレをトレパンホールを通してゆっくりと引き下げて、側脳室へ送り込んだ。次いでサポートカニューレをアクリルセメントで頭蓋骨に据え付けた。セメント埋め込みの乾燥の後、カニューレサポートの先端をゆるやかに切断し、頭皮を縫合し、そして動物は覚醒するまでウォームランプの下で回復することが可能であった。術後、実験に沿ってデイリーケアを実施した。
【0082】
運動活動の評価
処置(i.p.のL-ドパ又はi.c.vのドーパミン)7日後に、自発的運動活動をアクチメーター(actimeter)(Panlab社、Barcelona、スペイン)において10分間記録した。2つのフレームの赤外線ビームを備えた45x45x35cmの透明プレキシガラス(Plexiglas)エンクロージャを装置とした。この装置により水平運動活動(走行距離、スピード、運動タイプ)及び立ち上がり行動を、赤外線ビームの妨害に基づいて測定することが可能となった。選択したパラメーターはActitrackソフトウェア(Panlab社、Barcelona、スペイン)により採集した。
【0083】
黒質線条体のチロシンヒドロキシラーゼ染色及び解析
処置(i.p.のL-ドパ又はi.c.vのドーパミン)7日後に、動物をペントバルビタールナトリウムにて深く麻酔をかけ、組織固定のため0.1Mリン酸バッファー(pH7.4)の4%パラフォルムアルデヒドにて経心腔的灌流を行った。脳を取り出し、後固定工程の後、凍結保護を行い、凍結した。
【0084】
クライオスタット(Leica社、Nussloch、ドイツ)を使用して線条体及び黒質緻密部(SNpc)/腹側被蓋野(VTA)から40マイクロメーター厚の冠状切片を調製した。連続切片を、線条体についてはブレグマ(Bregma)+0.98mmからブレグマ-0.82mmまでを、SNc/VTAについてはブレグマ-2.92mmからブレグマ-3.42mmまでを採取した。
【0085】
このようなフリーフローティング(free-floating)冠状切片を免疫組織化学解析に使用した。切片は、ウサギのポリクローナル抗チロシンヒドロキシラーゼ抗体(1:1000、Chemicon International社、CA、米国)、ヤギのビオチン標識ポリクローナル抗ウサギ抗体(1:500、Vectastain elite ABCキット、Vector Laboratories社、CA、米国)及び西洋ワサビペルオキシダーゼ標識アビジン/ビオチン複合体(Vectastain elite ABCキット、Vector Laboratories社、CA、米国)と続けてインキュベートした。次いで切片は検出のためジアミノベンジジンに曝露した。
【0086】
SNpcにおけるTH-irニューロン数(「チロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性」)を、全ての実験群のSNpcに関して4番目の切片毎に左半球及び右半球のTH-irニューロンをカウントすることにより評価した。Mercator立体学解析ソフトウェア(Explora Nova社、La Rochelle、フランス)を使用して、TH-irニューロンの不偏立体学的カウント(unbiased stereological count)を実行した。不偏定量化のために、各切片のSNpc周囲にラインを引いた。観察者は実験群に対して盲検化されていた。Nikon Eclipse E600顕微鏡(東京、日本)使用して40Xで細胞をカウントした。ランダム及び系統的カウントフレームを使用した。SNpcのTH-irニューロン数を全ての実験群のSNpcに関して4番目の切片毎に左半球及び右半球のTH-irニューロンをカウントすることにより評価した。左SNp及び右SNpの間に差はみられなかったので、両側のTH-irカウントニューロンをプールし、各動物について各切片においてカウントされたニューロンの合計を算出した。背側線条体については、TH染色を各切片において光学密度として評価し、各動物に対して平均光学密度値を算出した。
【0087】
高速液体クロマトグラフィー
マウスにMPTP若しくは生理食塩水を注入して14日後に又はポンプ移植の7日後に、動物をペントバルビタールナトリウムにて深く麻酔にかけ、新鮮な生理食塩水による経心腔的灌流に付した。脳を迅速に取り出し、解剖して左右の線条体を採取し、これらは液体窒素中で即座に凍結した。ドーパミン、代謝物及び5-システニル-ドーパミンを電量検出(Coulochem III、Thermo Fisher社)によるChromsystems 6100カラム及びChromsystems移動相を使用するHPLCにて決定した。
【0088】
統計学的解析
全てのデータは、平均値±SEM(又は表においてSD)として表した。全てのパラメーターに対して、一元配置ANOVAを使用して群効果を評価し、次いでFisherのLSD post-hocテストを行った(STATISTICA 6.1、Statsoft社、フランス)。データがガウス分布を示さなかった場合、Kruskal-Wallisの分散分析を実施し、続いてMann-Whitneyのpost hocテストを行った(STATISTICA 6.1、Statsoft社、フランス)。p<0.05に有意差をセットした。
【0089】
結果
実験1:MPTPマウスの運動欠如対するドーパミン注入の有効性の決定(アクチメトリーにて記録)
以下の実験では、用語「ドーパミン」の使用は「無酸素性ドーパミン」を意味する。
【0090】
MPTPマウスに対する、中枢ドーパミン注入(すなわち側脳室内ドーパミン注入)対末梢L-ドパの有効性を評価するため、各処置後に総体症状及び運動活動の測定を実施した。図2に示すように及び以前に報告のように(Lalouxら、2012)(22)、MPTPマウスは試験アリーナで平均スピード及び走行距離において低下を示した。
【0091】
MPTP処置マウスにおいて試験した5種類の用量が何であれ、7日の側脳室内ドーパミン注入により平均スピード及び走行距離が回復した。これと反対に、MPTP処置マウスの自発運動活動は50mg/kg/日の末梢L-ドパ処置に対してのみ回復し、一方、25及び100mg/日では効果がなかった(図2)。
【0092】
我々の研究に記載の運動改善により、側脳室内注入により投与されたドーパミンは線条体に透過することができ、パーキンソン病に罹患しているげっ歯類モデルにおいて運動改善を誘導しうることが、実証された。
【0093】
更に、無酸素性ドーパミンの最小有効量は0.06mg/日の用量であり、この用量により正常な運動活動の有意で完全な回復が可能となることが観察された。また、0.04(運動機能に対して有効性はより低い)から0.12mg/日(運動機能に対して過剰用量)までのドーパミンの古典的用量効果も観察された。これは、周知の状態をパーキンソン病を有する患者に完全にもたらす。0.24mg/日の最高用量は過剰投与の状態として有効性が劣ることになる。
【0094】
最後に重要なこととして、無酸素性条件下での側脳室内のドーパミン注入の7日後に正常な運動活動の回復が観察された。ドーパミンが無酸素性条件下で投与されず(Yebenesら)(16)、且つ処置して2又は3日後には運動活動が低下した(これはタキフィラキシーの徴候である)以前の研究とは反対に、本発明の処置による7日によってタキフィラキシーは誘導されない。
【0095】
実験2:大脳ドーパミン注入及びL-ドパ末梢処置によりマウス線条体におけるドーパミン、ノルアドレナリン及びセロトニン含量が差次的に改変された
以下の実験では、用語「ドーパミン」の使用は「無酸素性ドーパミン」を意味する。
【0096】
本発明の溶液で処置したMPTPマウスにおいて運動パラメーターの回復が示された後、両方の処置、すなわち本発明の溶液及びL-ドパにより誘導された、標的大脳構造、すなわち背部線条体上で、神経伝達の改変を解析した。
【0097】
図3に示すように、MPTP中毒により、各線条体においてドーパミン含量で約85~90%(またDOPACに対して70~80%及びHVAに対して60~70%)、ノルアドレナリン含量で35~50%、セロトニン含量で40~40%(またHIAに対して20~50%)の低下が誘導された。
【0098】
大脳ドーパミン注入及びL-ドパ末梢処置により、MPTPマウスにおいてドーパミン線条体含量、ノルアドレナリン線条体含量及びセロトニン線条体含量の有意な改変が誘導された。
【0099】
更に、並行用量効果を、側脳室内注入を通して投与されたドーパミンの用量と線条体内のドーパミン投与量の間で観察しうる。このことにより、ドーパミンは、脳関門を通過することができ、論理上の用量効果とともに線条体の標的帯に達することが示されている。0.12mg/日で最大効果に達する。実際、0.24mg/日へ用量を増加してもドーパミン用量の増加をもたらすことはできなかった。このことはアクチメトリーにより測定した運動機能の結果と完全に相関している。
【0100】
注入側(同側性線条体)において、60及び80μg/日でのドーパミンにより、非処理MPTPマウスと比べて、DA又はDOPAC線条体含量に対して影響することなく及びNA又は5HT神経伝達系を改変することなく、HVAが上昇した。120及び240μg/日のドーパミンのより高用量では、DA及び代謝物を上昇させることが可能であったとともに、240μg/日の用量ではHIA及びNAも上昇させた(図3、A、C、E)。
【0101】
非注入側(反対側性線条体)において、60及び80μg/日でのドーパミンにより影響はなく、一方、より高用量によりNAに対して影響せずにドーパミン及びセロトニン代謝物(DOPAC、HVA、HIA)が上昇した(図3、B、D、F)。
【0102】
25mg/日のL-ドパの末梢注入により、ドーパミン作動性神経伝達は影響を受けなかったが、両線条体中のセロトニン及びノルアドレナリンの上昇が誘導され、これは対照マウスの線条体含量にまさるが、一方で、より高用量、すなわち50及び100mg/日により、セロトニン及びノルアドレナリン含量に対する補足的効果はないが両線条体中のドーパミン及び代謝物の有意な上昇が誘導された(図3C~F)。
【0103】
驚くべきことに、末梢L-ドパ及び中枢ドーパミンは反対の用量依存効果を有していた。低用量のL-ドパによりNA及び5HTにおける上昇が誘導されるとともにより高用量のみがドーパミンを改変することが可能であり、一方、中枢ドーパミン注入によりドーパミンの上昇がまず誘導され、最高用量によりNA及び5HTが上昇した。その他の側では、中枢ドーパミンにより、ドーパミン及び代謝物の上昇が誘導され、一方、L-ドパにより代謝物への影響は小さいがドーパミンがまず上昇し、これらのことは、ドーパミンによりドーパミンン代謝回転の上昇も誘導されたことを示唆する。経口L-ドパにより、より低いドーパミン代謝回転では高レベルの細胞外ドーパミンが誘導され、このことはドーパミンが十分に利用されず且つドーパミン中毒のリスクを示唆する。逆に、ICV投与ドーパミンは、細胞外ドーパミンが低レベルであること及びドーパミン/L-ドパの細胞外投与に関連した中毒性のリスクがより低い状況を伴って使用される。L-ドパの中毒性は、貯蔵レベルが低いことと関連して、より高いこともありうる(すなわち、より低レベルの残存ドーパミン作動性ニューロン:TH+ニューロン)。
【0104】
実験3:MPTPマウスにおける黒質-線条体経路の病変に対するドーパミン注入の影響の決定
図4に示すように、MPTP投与により、生理食塩水注入マウスに比べてSNpcにおいてTH-発現ニューロンの44.3%の低下及び生理食塩水注入マウスに比べて線条体においてTH-発現ニューロンの38.2%の低下がもたらされたので、MPTPモデルは有効であることがまず認められる。
【0105】
興味深いことに、60及び80μg/日での無酸素性ドーパミン注入により、MPTP処置マウスに比べて、それぞれ30.65%及び25.19%の、SNpc中のTH-irニューロンの有意な増加が誘導され、一方、L-ドパ処置又は有酸素性ドーパミン拡散(3hの有酸素)は有意な影響を有さなかった(図4A)。更に、有酸素性条件が12時間維持される場合、240μg/日の用量により全ての動物において死亡が誘導される。
【0106】
側脳室内無酸素性ドーパミン注入の観察された神経保護作用は、驚くべきものであったとともに、かかる効果を再現不可能な末梢L-ドパ又は側脳室内有酸素性ドーパミン注入と比較して、多大な利点を明らかとした。
【0107】
線条体において、40、60及び80μg/日の用量でのi.c.v.無酸素性ドーパミン注入によりMPTPマウスにおけるTH-irターミナル損失が後退し、一方、経口L-ドパ処置又は有酸素性ドーパミン拡散により後退しなかった。
【0108】
これらの結果により、線条体においてSNpcにおいてもi.c.v.連続的無酸素性ドーパミン注入後にTH-irが回復することについて(投与された用量に依存して)、一方、i.c.v.連続的有酸素性ドーパミン注入又は末梢間欠的L-ドパでは回復しないことについて、証拠が提供された。このような機能的回復は、様々な現象、生存しているドーパミン作動性ニューロンからのシナプス発芽又はドーパミン作動性表現型への局所細胞のスイッチング又はニューロン形成ニッチからの新規動員細胞のいずれかを代表できる。
【0109】
このように、60μg/日の無酸素性ドーパミンの最小有効量で、黒質内でドーパミン作動性細胞数が有意に増加しうることが実証された。興味深いことに、神経保護に対する用量効果は運動機能(実験1を参照)及びドーパミン作動性の黒質線条体神経伝達(実験2を参照)に関するこれまでの結果と相関している。
【0110】
最終的に、変性の悪化が観察されなかったので、良好な治療指数が観察された(最高で最小有効量の6倍)。実際、240(40である第1の有効用量の6倍)の用量は中毒性ではなかったので、最低有効量と第1の中毒用量の間の範囲は広かった。
【0111】
実験4:様々な用量に対する、線条体における用量関連自己酸化ドーパミンの評価(5-システニルドーパミン)
以下の実験では、用語「ドーパミン」の使用は「無酸素性ドーパミン」を意味する。
【0112】
黒質線条体ニューロンのTH表現型が変化していなかったとしても、細胞外ドーパミンの過剰による潜在的な中毒効果は残存する。実際、L-ドパ又はドーパミン処置は、ドーパミン含量及びその代謝回転が上昇することに関する自己酸化生成物に起因するさらなる酸化ストレスをもたらすことにより、生存しているニューロンに対して中毒性であることを示してきた。ドーパミンとその前駆物質L-ドパの両方は、自己酸化し、セミキノン基、続いてより安定なキノンを生成ことができ、これらは遊離のシステイン、グルタチオン、又はタンパク質に見いだされるシステインと反応する(Hastings及びZigmond、1994;Pattisonら、2002)(23,24)。ドーパミンキノンとシステインの間の反応により、細胞に対して中毒性である、ドーパミンの安定な酸化代謝物である5-システニル-ドーパミンが形成される。このため、組織に対して有害な結果を有する反応性酸化種の上昇が誘導されうる。
【0113】
したがって、注入された線条体で5-システニルドーパミン誘導体の濃度を決定することにより、中枢ドーパミン注入によりドーパミンの自己酸化が誘導されたかどうか解析した。
【0114】
結果を下のtable 1(表1)に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
5-システニルドーパミンにおける上昇がわずかであることは、ドーパミン自己酸化の上昇がわずかであることを示す。しかし、前に示したように、このわずかな自己酸化により、線条体内及び黒質内の神経変性の悪化は誘導されず、神経保護効果さえ観察された。
【0117】
脳室壁の着色は成された酸化の良い指標である。無酸素性調製されていないドーパミンを使用して行ったこれまでの実験とは反対に(Yebenesら、1987)(16)、無酸素性で調製された且つ適合された用量で調製されたドーパミンにより、脳室壁の酸化は誘導されなかったか又はごくわずかであった(すなわち重度の酸化に相応する、脳室壁の黒色への着色)。
【0118】
ごくわずかな茶色への着色のみが、注入カニューレに近接する脳室壁のごく小さな部分に観察された(表の第1列を参照:8匹のうち3匹のマウスがわずかな茶色への部分的着色のみを示した)。このことは、5-システニルドーパミンにおける並行上昇で実証されるように、ドーパミンの自己酸化がわずかであることにより説明される。
(参考文献)
図1
図2
図3
図4