(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】監視システム
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
G08B17/00 D
(21)【出願番号】P 2019089587
(22)【出願日】2019-05-10
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】外村 賢昭
【審査官】山岸 登
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-293344(JP,A)
【文献】特開2018-169893(JP,A)
【文献】特開2002-352359(JP,A)
【文献】特開2010-244160(JP,A)
【文献】特開2007-213414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08B17/00
23/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信盤と検知器を信号線で接続して異常を監視する監視システムであって、
前記受信盤は、前記信号線を介し、
前記検知器に試験指示信号を定期的に送信して、当該検知器の劣化度合いを判定するための感度試験又は汚れ試験を含む所定の試験を行わせて試験結果を示す試験応答信号を受信し、前記試験応答信号が受信されない場合は前記試験指示信号を再度送信して再試験を行わせる試験指示部と、
前記信号線ごとに、前記再試験の回数に基づいて前記信号線を含む伝送系統の劣化予兆を判断する劣化予兆判断部と、
を備え
、
前記劣化予兆判断部は、前記再試験の累積回数から所定期間ごとの再試験発生率を求め、当該再試験発生率が所定の劣化予兆判断閾値に達したときに前記伝送系統の劣化予兆と判断して報知することを特徴とする監視システム。
【請求項2】
受信盤と検知器を信号線で接続して異常を監視する監視システムであって、
前記受信盤は、前記信号線を介し、
前記検知器に試験指示信号を定期的に送信して、当該検知器の劣化度合いを判定するための感度試験又は汚れ試験を含む所定の試験を行わせて試験結果を示す試験応答信号を受信し、前記試験応答信号が受信されない場合は前記試験指示信号を再度送信して再試験を行わせる試験指示部と、
前記再試験の回数を前記信号線ごとに累積し、何れかの前記信号線に対応する前記再試験の累積回数が所定の劣化予兆判断条件を充足したときに、当該劣化判断条件を充足した前記信号線を含む伝送系統の劣化予兆と判断する劣化予兆判断部と、
を備え
、
前記劣化予兆判断部は、前記再試験の累積回数から所定期間ごとの再試験発生率を求め、当該再試験発生率が所定の劣化予兆判断閾値に達したときに前記伝送系統の劣化予兆と判断して報知することを特徴とする監視システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の監視システムにおいて、
前記劣化予兆判断部は、前記再試験の累積回数が所定の劣化予兆判断閾値回数に達したときに前記伝送系統の劣化予兆と判断して報知することを特徴とする監視システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の監視システムにおいて、
前記試験指示部は、前記検知器に前記試験指示信号を送信してから前記試験結果を示す試験応答信号を受信するまでの時間が所定時間を超えた場合は当該試験応答信号が受信されなかったと判断し、前記試験指示信号を再度送信して再試験を行わせることを特徴とする監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防災受信盤から引き出された信号線に接続された火災検知器によりトンネル内の火災を監視するトンネル防災システム等の監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、トンネル内の異常として火災事象を監視する監視システムとして、トンネル防災システムがある。
【0003】
このようなトンネル防災システムは、自動車専用道路等のトンネルに、トンネル内で発生する火災事故から人身及び車両等を守るため、火災を監視する検知器(火災検知器)が設置され、これを管理室等に設置された受信盤(防災受信盤)から引き出された信号線に接続して火災を監視するものである。
【0004】
火災検知器は左右の両方向に検知エリアを持ち、トンネルの長手方向に沿って、隣接して配置される火災検知器との検知エリアが相互補完的に重なるように、例えば、25m間隔、或いは50m間隔で連続的に配置されている。
【0005】
また、火災検知器は透光性窓を介してトンネル内で発生する火災炎からの放射線、たとえば赤外線を監視しており、炎の監視機能を維持するために、受光素子の感度を点検するための感度試験や透光性窓の汚れを監視するための汚れ試験を行っている。
【0006】
しかしながら、このような従来の火災検知器にあっては、運用期間が長くなって火災検知器の劣化が進んだ場合、感度試験による感度障害や汚れ試験による汚れ障害が検出されることなく正常に運用されていると思われる状態でも、火災検知器が火災検知信号を出力して防災受信盤から非火災報が出される事態が発生する可能性があり、このような場合、それが非火災報であることを確認するまでは、警報表示板設備などにより進入禁止警報を行って車両のトンネル通行を禁止し、担当者が現場に出向いて確認する必要があり、トンネル通行を再開するまでに手間と時間がかかり、交通渋滞を招くなどの影響が小さくない。
【0007】
このため、防災受信盤で火災検知器の温度、湿度、衝撃振動及び電気的ノイズ等の環境ストレスに基づいて劣化の度合いを判定して報知するようにしたトンネル防災システムが提案されており、火災検知器の劣化の進み具合が把握できることで、非火災報が出されてしまう前に、火災検知器を予備の火災検知器に交換する等の対応を可能としている。
【0008】
また、従来のトンネル防災システムは、防災受信盤が火災検知器からの火災信号を受信したときに、非火災報を防止するために、所定時間後に火災検知器を一旦復旧し、再度、所定時間以内に火災信号を受信したときに火災と判断して警報表示板設備などにより進入禁止警報を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-246962号公報
【文献】特開2016-128796号公報
【文献】特開2018-169893号公報
【発明の概要】
【0010】
ところで、このような従来のトンネル防災システムにあっては、信号線が断線等して伝送に異常をきたした場合には、これを伝送障害として検出して報知するようにしている。しかしながら、長期間に亘り運用している間に、防災受信盤と火災検知器を接続している信号線の絶縁劣化等が徐々に進み、断線等伝送障害に至らないものの、伝送系統の信号品質が低下し、信号伝送が正常に行われない伝送系統の異常が生じる可能性がある。
【0011】
しかしながら、このような信号線の絶縁劣化等による伝送系統の異常は日常的に監視されておらず、トンネル内で火災が発生しても火災信号が受信できない失報が起きる可能性がある。このため信号線を含む伝送系統の劣化の進行状況を監視することが求められる。
【0012】
本発明は、受信盤と検知器を接続する信号線を含む伝送系統の劣化の予兆を捉え、伝送障害となる前にも、適切に対処可能とする監視システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(トンネル防災システム)
本発明は、受信盤と検知器を信号線で接続して異常を監視する監視システムであって、
受信盤は、信号線を介し、
検知器に試験指示信号を定期的に送信して、当該検知器の劣化度合いを判定するための感度試験又は汚れ試験を含む所定の試験を行わせて試験結果を示す試験応答信号を受信し、試験指示信号を送信してから試験応答信号を受信するまでの時間が所定時間を超えた場合は当該試験応答信号が受信されなかったと判断し、試験指示信号を再度送信して再試験(リトライ)を行わせる試験指示部と、
信号線ごとに、再試験の回数に基づいて信号線を含む伝送系統の劣化予兆と判断する劣化予兆判断部と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
(トンネル防災システム)
本発明は、受信盤と検知器を信号線で接続して異常を監視する監視システムであって、
受信盤は、信号線を介し、
検知器に試験指示信号を定期的に送信して、当該検知器の劣化度合いを判定するための感度試験又は汚れ試験を含む所定の試験を行わせて試験結果を示す試験応答信号を受信し、試験指示信号を送信してから試験応答信号を受信するまでの時間が所定時間を超えた場合は当該試験応答信号が受信されなかったと判断し、試験指示信号を再度送信して再試験(リトライ)を行わせる試験指示部と、
再試験の回数を信号線ごとに累積し、何れかの信号線に対応する再試験の累積回数が所定の劣化予兆判断条件を充足したときに、当該劣化予兆判断条件を充足した信号線を含む伝送系統の劣化予兆と判断する劣化予兆判断部と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
(再試験累積回数による劣化予兆の判断)
劣化予兆判断部は、再試験の累積回数が所定の劣化予兆判断閾値回数に達したときに伝送系統の劣化予兆と判断して報知する。
【0016】
(再試験累積回数の発生頻度による劣化予兆の判断)
劣化予兆判断部は、再試験の累積回数から所定期間ごとの再試験発生率を求め、当該再試験発生率が所定の劣化予兆判断閾値に達したときに伝送系統の劣化予兆と判断して報知する。
【発明の効果】
【0017】
(基本的な効果)
本発明は、受信盤と検知器を信号線で接続して異常を監視する監視システムに於いて、受信盤は、信号線を介し、検知器に試験指示信号を送信して所定の試験を行わせて試験結果を示す試験応答信号を受信し、試験応答信号が受信されない場合は試験指示信号を再度送信して再試験(リトライ)を行う試験指示部と、試験指示部による検知器の再試験の回数を信号線ごとに累積し、再試験の回数に基づいて、具体的には累積回数が所定の劣化予兆判断条件を充足したときに、信号線を含む伝送系統の劣化予兆と判断する劣化予兆判断部とを備えたため、例えば1日1回行われる検知器の感度試験や汚れ試練等の試験を行ったときに、信号線を含む伝送系統の劣化が進んで信号品質が低下していると、検知器から送信される試験応答信号が受信されずに再試験を行う回数が増加する傾向にあることから、信号線ごとの再試験の累積回数が伝送系統の劣化の進み具合を示しており、再試験の累積回数が所定の劣化予兆判断条件を充足したときに信号線、信号伝送回路等の、伝送系統の劣化予兆を判断することで、例えばトンネル防災システム等において、伝送障害に至る前にも、伝送系統の劣化(伝送品質低下)により防災受信盤で火災検知器からの火災信号の受信が正常に行われず火災失報する、或いは火災信号でない信号を火災信号と認識してしまい非火災報を発生するといった事態が発生しないよう、管理担当者等は近い将来、伝送系統の劣化が限界に近付いて劣化故障か起きる可能性が高まったことを知り、信号線の交換計画等を速やかに立案して交換する等の適切な対処を可能とする。
【0018】
(再試験累積回数による劣化予兆の判断による効果)
また、劣化予兆判断部は、再試験の累積回数が所定の劣化予兆判断閾値回数に達したときに伝送系統の劣化予兆と判断して報知するようにししため、信号線を含む伝送系統ごとに求めている再試験の累積回数が所定の上限に達したときに劣化予兆と判断して報知することで、適切に対処することを可能とする。
【0019】
(再試験累積回数の発生頻度による劣化予兆の判断による効果)
また、劣化予兆判断部は、再試験の累積回数から所定期間ごとの再試験発生率を求め、当該再試験発生率が所定の劣化予兆判断閾値に達したときに伝送系統の劣化予兆と判断して報知するようにしたため、信号線を含む伝送系統の劣化が進んでくると、再試験の累積回数の増加傾向が強くなってくることから、所定期間ごとの再試験発生率(例えば1日1回の試験では所定期間例えば30日の再試験累積回数を30日で割った値)を求め、再試験発生率が所定の上限に達したときに劣化予兆と判断して報知することで、適切に対処することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】防災受信盤の機能構成の概略を示したブロック図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[監視システム]
本発明の監視システムの実施形態として、トンネル内の火災を監視するトンネル防災システムを例にとって説明する。即ち、監視対象空間をトンネル内、監視対象としての異常を火災、検知器を火災検知器、受信盤を防災受信盤(火災信号受信装置)とした場合を説明する。
【0022】
[トンネル防災システム]
[実施形態の基本的な概念]
図1はトンネル防災システムの概要を示した説明図である。本実施形態におけるトンネル防災システムの基本的な概念は、
図1に示すように、防災受信盤10はトンネル内に敷設された信号線(信号ケーブル)14a,14bに火災検知器12を接続して火災を監視しており、防災受信盤10は、例えば1日1回の定期に、火災検知器12に試験指示信号を送信して感度試験や汚れ試験を含む所定の試験を行わせて試験結果を示す試験応答信号を受信し、試験応答信号が受信されない場合は試験指示信号を再度送信して再試験(リトライ)を行っており、例えば、この火災検知器12の試験に伴う再試験の累積回数を信号線14a,14bごとに求め、再試験の累積回数が所定の劣化予兆判断条件として設定した例えば所定の劣化予兆判断閾値回数に達したときに劣化予兆と判断して劣化予兆を報知する、というものである。
【0023】
信号線14a,14bの配線について絶縁劣化等が進んでくると、信号線14a,14bを含む伝送系統の信号品質が不安定となり、防災受信盤からの指示により例えば1日1回行われる火災検知器の感度試験や汚れ試練等の試験を行ったときに火災検知器から送信される試験応答信号が受信されずに再試験を行う回数が増加する傾向が現れる。即ち、再試験の累積回数が伝送系統の劣化度合を示しており、再試験の累積回数から信号線14a,14b、伝送(信号送受信)回路等を含む伝送系統の劣化の進み具合を観測して劣化予兆を判断して報知することで、伝送系統の劣化により火災信号の受信不能(火災失報)等の事態が起きる前に、信号線の交換計画等を立案することで、適切に対処可能とする
ここで、伝送系統の劣化予兆とは、信号線14a,14b、伝送回路等を含む伝送系統に伴い将来に起こり得る劣化故障を予知させる現象を意味し、劣化故障のきざし、劣化故障の前兆、劣化故障の前ぶれ等ということもでき,本実施形態では、火災検知器12の試験に伴う再試験の信号系統ごとの累積回数を各伝送系統の劣化故障を予測させる現象として捉え、これに基づき劣化予兆を判断する。以下詳細に説明する。
【0024】
[トンネル防災システムの概要]
図1に示すように、自動車専用道路のトンネルとして、上り線トンネル1aと下り線トンネル1bが構築されている。上り線トンネル1aと下り線トンネル1bの内部には、トンネル長手方向の壁面に沿って例えば25メートル又は50メートル間隔で火災検知器12が設置され、火災検知器12は防災受信盤10から引き出された電源信号線および信号線14a,14bに接続され、固有のアドレスが設定されている。
【0025】
図2は火災検知器の検知エリアを示した説明図である。
図2に示すように、火災検知器12は右眼、左眼の2組の火災検知部を備えることで、監視対象空間であるトンネル内の長手方向上り側および下り側の両方向に検知エリア15を持ち、トンネルの長手方向に沿って、隣接して配置される火災検知器12との検知エリア15が例えば右眼13Rと左眼13Lで相互補完的に重なるように連続的に配置され、検知エリア15内で起きた火災に伴う炎からの赤外線を観測して火災を検知する。
【0026】
また、上り線トンネル1aと下り線トンネル1bには、非常用施設として、火災通報のために手動通報装置や非常電話が設けられ、また、火災の消火や延焼防止のために消火栓装置が設けられ、更にトンネル躯体やダクト内を火災から防護するために水噴霧ヘッドから消火用水を散水させる水噴霧などが設置されるが、図示を省略されている。
【0027】
管理室等に設置された防災受信盤10からは上り線トンネル1aと下り線トンネル1bに対し、それぞれの信号系統として電源線および信号線を含む信号線14a,14bを引き出して火災検知器12が接続されており、火災検知器12には回線単位に固有のアドレスが設定されている。以下の説明では、信号線14a,14bについて、区別する必要がない場合は信号線14という場合がある。
【0028】
また、防災受信盤10に対しては、消火ポンプ設備16、ダクト用の冷却ポンプ設備18、IG子局設備20、換気設備22、警報表示板設備24、ラジオ再放送設備26、テレビ監視設備28及び照明設備30等が設けられており、火災検知器12と防災受信盤10は信号回線14を介して所謂R型(Record-type)伝送で通信する。
【0029】
ここで、IG子局設備20は、防災受信盤10と外部に設けた上位設備である遠方監視制御設備32とネットワークを経由して結ぶ通信設備である。
【0030】
換気設備22は、トンネル内の天井側に設置されているジェットファンの運転によってトンネル長手方向に換気流を発生する設備である。
【0031】
警報表示板設備24は、利用者に対して、火災に伴う進入禁止警報等のトンネル内の異常を、電光表示板に表示して知らせる設備である。ラジオ再放送設備26は、トンネル内で運転者等が道路管理者からの情報を受信できるようにするための設備である。テレビ監視設備28は、火災の規模や位置を確認したり、水噴霧設備の作動、避難誘導をしたりする場合のトンネル内状況を把握するための設備である。照明設備30はトンネル内の照明機器を駆動して管理する設備である。
【0032】
[火災検知器]
(構造)
火災検知器12は、筐体に、左右に分けて2組の透光性窓が設けられ、透光性窓各々に対応して、火災検知部が内蔵されている。火災検知部は炎からの赤外線を受光するセンサ部を備える。また、透光性窓の近傍の、各火災検知部のセンサ部を見通せる位置に、透光性窓の汚れ試験に使用される外部試験光源を収納した2組の試験光源用透光窓が設けられている。また、火災検知に12内部の各センサ部近傍には、火災検知部の火災感度の試験に使用される2組の内部試験光源が内蔵されている。
【0033】
(火災検知)
本実施形態の火災検知器12は、火災検知部により例えば3波長式の炎観測を行って火災を監視している。火災検知部は、透光性窓を介してセンサ部に入射した赤外線エネルギーの中から、炎に特有なCO2の共鳴放射帯である4.5μm帯の赤外線を光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、受光センサにより該赤外線を受光して光電変換したうえで増幅等所定の処理を施して受光エネルギー量に対応する炎受光信号E1を生成する。
【0034】
また、火災検知部は、透光性窓を介してセンサ部に入射した赤外線エネルギーの中から、第1の非炎波長帯域となる、例えば5.0μm帯の赤外線エネルギーを光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、受光センサにより受光して光電変換したうえで、増幅等所定の処理を施して受光エネルギー量に対応する第1の非炎受光信号E2を生成する。
【0035】
更に、火災検知部は、透光性窓を介してセンサ部に入射した赤外線エネルギーの中から、第2の非炎波長帯域となる、例えば2.3μm帯の赤外線エネルギーを光学波長バンドパスフィルタにより選択透過(通過)させて、受光センサにより受光して光電変換したうえで、増幅等所定の処理を施して受光エネルギー量に対応する第2の非炎受光信号E3を生成する。
【0036】
(火災判断)
火災検知器12の火災判断は、例えば次の3段階で行う。まず、炎受光信号E1と第1の非炎受光信号E2との相対比(E1/E2)が所定の閾値を超えた場合に、第1段階の火災判定条件を充足したとして、火災(火災候補)と判定し、次の第2段階の火災判定を行う。
【0037】
第2段階の火災判定は、炎受光信号E1について、第2の非炎受光信号E3との相対比(E1/E3)が所定の閾値を超えた場合に、第2段階の火災判定条件を充足したとして火災と判定する。
【0038】
第3段階の火災判定は、炎受光信号E1を高速フーリエ変換(FFT)して結果を分析し,例えば4Hz以下の低周波側成分の相対強度と4Hz超8Hz以下の高周波側成分の相対強度の相対比を算出し、この相対化が所定の閾値以上又はこれを上回った場合に、第3段階の火災判定条件を充足したとして火災と判定する。
【0039】
更に、第1乃至第3段階の火災判定条件が所定回数連続して充足された場合に、所定の火災判断蓄積条件を満足したとして火災と判断(火災検知)し、この場合火災検知器12は、伝送回路等で構成される伝送部から、信号線14を介し、防災受信盤10に火災信号を送信する制御を行う。
【0040】
(汚れ試験)
火災検知器12は、防災受信盤10から自己アドレス指定の汚れ試験の試験指示信号を受信した場合に、外部試験光源を発光駆動して、外部試験光源を順番に発光駆動して、例えばこのときの炎受光信号E1のレベルと、工場出荷時の無汚損の状態において同様にして取得した炎受光信号E1のレベルとを比較することにより、透光性窓の汚れ度合いを評価して汚れ障害(汚れにより赤外線透過性能が低下する異常)を検出する汚れ試験を行い、試験結果を示す試験応答信号を防災受信盤10に送信する。第1の非炎受光信号E2、第2の非炎受光信号E3についても同様に行うことができるが、汚れ試験は例えば炎受光信号E1のみで代表するようにしても良い。
【0041】
(感度試験)
火災検知器12は、防災受信盤10から自己アドレス指定の感度試験の試験指示信号を受信した場合に、内部試験光源を発光駆動して、例えばこのときの炎受光信号E1のレベルと、工場出荷時において同様にして取得した炎受光信号E1のレベルとを比較することによって、右眼火災検知部60Rの感度を評価して感度障害(センサ故障等により感度が低下する等適切な範囲に無い異常)を検出する感度試験を行い、試験結果を示す試験応答信号を防災受信盤10に送信する。第1の非炎受光信号E2、第2の非炎受光信号E3についても同様に行うことができる。
【0042】
汚れ試験と感度試験は、共通の試験指示信号に基づいて実施し、両方の試験結果を共通の試験応答信号として返信するようにしても良い。
【0043】
[防災受信盤]
(防災受信盤の概略)
図3は防災受信盤の機能構成の概略を火災検知器と共に示したブロック図である。
図3に示すように、防災受信盤10は盤制御部34を備え、盤制御部34はCPU、メモリ、各種の入出力ポート等を備えたコンピュータ回路等を使用し、プログラムの実行により実現される火災監視制御部44、試験指示部46及び劣化予兆判断部48の機能が設けられている。
【0044】
盤制御部34に対しては伝送部36a,36bが設けられ、伝送部36a,36bから引き出した信号線14a,14bに上り線トンネル1aと下り線トンネル1bに設置した火災検知器12がそれぞれ複数台接続されている。
【0045】
また、盤制御部34に対しスピーカ、警報表示灯等を備えた警報部38、液晶ディスプレイ、プリンタ等を備えた表示部40、各種スイッチ等を備えた操作部41、IG子局設備20を接続するモデム42が設けられ、更に、
図1に示した消火ポンプ設備16、冷却ポンプ設備18、換気設備22、警報表示板設備24、ラジオ再放送設備26、テレビ監視設備28及び照明設備30が接続されたIO部43が設けられている。
【0046】
(火災監視制御部)
火災監視制御部44は、伝送部36a,36bに指示して火災検知器12のアドレスを順次指定したポーリングコマンドを含む呼出信号を繰り返し送信しており、火災検知器12は自己アドレスに一致する呼出信号を受信すると、火災信号等の応答信号を返信する。
【0047】
また、火災監視制御部44は、火災検知器12からの火災信号の受信に基づき火災を判断した場合は、警報部38により火災警報を出力させると共にIO部43を介して他設備の連動制御、例えば警報表示板設備24に進入禁止警報の表示を指示する等所定の火災処理を行う。
【0048】
(試験指示部)
試験指示部46は、システムの起動時及び運用中の所定の周期、例えば1日1回の周期で、火災検知器12のアドレスを順次指定した試験指示信号を送信し、火災検知器12に汚れ試験及び感度試験を行わせ、それぞれの試験結果を示す試験応答信号を受信し、これに基づき火災検知器12のアドレスを特定した汚れ障害又は感度障害を示す障害警報を警報部38の警報音、表示部40のディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0049】
また、試験指示部46は、試験指示信号を送信してから試験応答信号を受信するまでの時間が所定時間を超えた場合、試験応答信号が受信されなかったと判断し、試験指示信号を再度送信する再試験(リトライ)を行う。
【0050】
また、試験指示部46は、再試験の回数(リトライ回数)が所定の閾値回数(再試験の上限回数)に達した場合に試験エラー(リトライエラー)と判定し、試験エラーを示す障害警報を警報部38の警報音、表示部40のディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0051】
(劣化予兆判断部)
劣化予兆判断部48は、信号線14を含む伝送系統ごとに劣化予兆を判断する。ここで、伝送系統とは、信号線14a,14b、防災受信盤10の伝送部36a,36b、火災検知器12の伝送部からなる劣化予兆の判断対象となる伝送系統をいう。このうち防災受信盤10の伝送部36a,36b、火災検知器12の伝送部については、伝送回路に付属して信号線14の接続側に設けられるサージ吸収回路部やノイズ除去回路部等の任意の入力回路部が劣化予兆の判断対象となる。
【0052】
劣化予兆判断部48は、火災検知器12の各々に対する試験の再試験の回数(試験エラー(リトライエラー)となった再試験の回数は除く)を、信号線14を含む伝送系統ごとに累積して再試験の累積回数Nを求めており、再試験の累積回数Nが所定の劣化予兆判断条件を充足したとき、例えば再試験の累積回数Nが所定の劣化予兆判断閾値回数に達したときに、当該伝送系統の劣化予兆と判断し、警報部38の警報音、表示部40のディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。
【0053】
このような報知により伝送系統の劣化予兆を知った管理担当者等は、信号線の絶縁低下試験等の試験作業をスケジュールし、その結果から信号線の交換計画等を立案してリニューアル作業を進めるといった適切な対処が可能となる。
【0054】
また、劣化予兆判断部48による劣化予兆判断の他の実施形態として、再試験の累積回数から所定期間ごと、例えば定期に試験を実施する場合には所定の試験回数ごとに再試験発生率を求め、当該再試験発生率が所定の劣化予兆判断閾値を充足したときに伝送系統の劣化予兆と判断して報知するようにしても良い。
【0055】
例えば、試験指示部46は1日1回の周期で火災検知器12の試験を指示していることから、劣化予兆判断部48は所定期間ごとの再試験発生率として、例えば、所定期間30日の再試験累積回数を所定期間30日(定期試験回数30回)で割った再試験発生率(発生度合)を求め、この再試験発生率が所定の劣化予兆判断閾値に達したときに、当該伝送系統の劣化予兆と判断し、警報部38の警報音、表示部40のディスプレイ表示、印刷により報知させる制御を行う。なお、更に、再試験発生率の推移から再試験増加率を求め、これにも基づき劣化予兆を判断するようにしても良い。
【0056】
[本発明の変形例]
(試験指示)
上記の実施形態は、防災受信盤から火災検知器に汚れ試験と感度試験を指示して伝送系統ごとに再試験の累積回数を求めて伝送系統の劣化予兆を判断しているが、これに限定されず、防災受信盤から信号送信して火災検知器がこれに応答し、応答が無かった場合に防災受信盤10から信号を再送信して応答を求める任意の信号について、同様に伝送系統ごとに再送信の累積回数を求めて伝送系統の劣化予兆を判断しても良い。
【0057】
(火災検知器)
また、上記の実施形態は、3波長方式の火災検知器を例にとっているが、他の方式でも良く、例えば、CO2の共鳴放射帯である4.5μm帯と、その短波長側の例えば、5.0μm付近の波長帯域における赤外線エネルギーを検知し、これらの2波長帯域における各受光信号の相対比によって炎の有無を判定する2波長式の炎検知器としても良い。
【0058】
(監視システム)
上記の実施形態は、監視システムとして、トンネル内の異常である火災を監視するR型のトンネル防災システムを例にとっているが、P型(Proprietary-type)としても良い。
【0059】
また、本発明はトンネル防災システム以外の監視システムについても適用できる。例えば建物内の火災を監視する自動火災報知システムや、プラント等の火災を監視する防災システム等、適宜の監視システムに適用することができる。また、監視対象とする異常事象としては火災に限らず各種の災害事象等を監視するものであっても良いし、例えば人体検知や侵入検知の機能を有する防犯検知器と防犯受信盤によって構成される防犯用途の監視システムであっても良い。
【0060】
(その他)
また本発明は、その目的と利点を損なわない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0061】
1a:上り線トンネル
1b:下り線トンネル
10:防災受信盤
12:火災検知器
14a,14b:信号線
16:消火ポンプ設備
18:冷却ポンプ設備
20:IG子局設備
22:換気設備
24:警報表示板設備
26:ラジオ再放送設備
28:テレビ監視設備
30:照明設備
32:遠方監視制御設備
34:盤制御部
36a,36b:伝送部
44:火災監視制御部
46:試験指示部
48:劣化予兆判断部