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特許7475156導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20240419BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240419BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240419BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20240419BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240419BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240419BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240419BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C08L65/00
C08K5/20
C08L101/00
C08K5/5415
B32B27/00 Z
B32B7/025
H01B1/20 A
H01B1/12 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020023175
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021127397
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】和泉 忍
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-169261(JP,A)
【文献】特開2019-137815(JP,A)
【文献】特開2010-070723(JP,A)
【文献】特開2016-023202(JP,A)
【文献】特開2012-097274(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
B32B
H01B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、アクリルアミド化合物と、水を含む水系分散媒と、を含有し、前記アクリルアミド化合物の重合を開始させるラジカル重合開始剤を含有しない、導電性高分子分散液であって、
前記アクリルアミド化合物が、下記式(1)で表される化合物を含み、
前記導電性複合体100質量部に対する前記アクリルアミド化合物の含有量が、400質量部以上5000質量部以下である、導電性高分子分散液。
【化1】
[式(1)中、R は炭素数1~4のアルキル基を表し、R は水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、前記R 又はR のアルキル基に結合する1つ以上の水素原子が水酸基に置換されていてもよく、R は水素原子又はメチル基を表す。]
【請求項2】
前記水系分散媒は、1気圧における沸点が150℃以上250℃以下の範囲内にある高沸点溶剤をさらに含有し、
前記導電性複合体100質量部に対する前記高沸点溶剤の含有割合が、300質量部以上10000質量部以下である、請求項1に記載の導電性高分子分散液。
【請求項3】
前記高沸点溶剤が、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN-メチルアセトアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項2に記載の導電性高分子分散液。
【請求項4】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~3の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項5】
前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1~4の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項6】
前記水系分散媒は、前記導電性複合体1質量部に対して、100~250質量部の水を含む、請求項1~5の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項7】
前記アクリルアミド化合物が、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、及びN-イソプロピルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~6の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項8】
バインダ成分をさらに含有する、請求項1~7の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
【請求項9】
前記バインダ成分が、熱可塑性樹脂、及びアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項8に記載の導電性高分子分散液。
【請求項10】
基材と、前記基材の少なくとも一つの面に形成された、請求項1~9の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の硬化層からなる導電層とを備える、導電性積層体。
【請求項11】
前記導電層の表面抵抗値が10~5,000Ω/sq.である、請求項10に記載の導電性積層体。
【請求項12】
基材の少なくとも一つの面に、請求項1~9の何れか一項に記載の導電性高分子分散液を塗工することを含む、導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子分散液、導電性積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電層を形成するための塗料として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性複合体を含む導電性高分子分散液を使用することがある。
特許文献1には、導電性複合体と、電離放射線硬化型樹脂と、環状エーテルを有するビニル化合物又はアミド基を有するビニル化合物を含むハードコート層を備えたハードコートフィルムが開示されている。また、アミド基を有するビニル化合物としてアクリルアミド化合物が重合してなるハードコート層が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-196202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、特許文献1に記載されているように、アクリルアミド化合物は、重合したポリアクリルアミド樹脂として導電層に含まれ、導電層の膜強度を高めるとともにフィルム基材に対する密着性を向上させるバインダ成分として使用されている。このため、導電層形成用塗料には、アクリルアミド化合物とともにこれを重合させる重合開始剤が含まれる。
【0005】
ところが、本発明者らが鋭意検討したところ、アクリルアミド化合物を含有し、かつ、アクリルアミド化合物同士を重合させる重合開始剤を含有しない導電層形成用塗料を基材に塗布して導電層を形成すると、従来にない優れた効果が得られることを見出した。具体的には、導電層形成用塗料の塗膜においてアクリルアミド化合物を未重合のまま乾燥すると、塗膜の指触乾燥時間が低減し、塗膜の乾燥時の収縮が抑制され、形成される導電層の導電性を向上させることができる。
【0006】
本発明は、従来は重合させていたアクリルアミド化合物を未重合のまま使用することにより、優れた特性を発揮することが可能な導電性高分子分散液と、この導電性高分子分散液の硬化層からなる導電層を備えた導電性積層体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、アクリルアミド化合物と、分散媒と、を含有し、前記アクリルアミド化合物の重合を開始させるラジカル重合開始剤を含有しない、導電性高分子分散液。
[2] 前記分散媒は、1気圧における沸点が150℃以上250℃以下の範囲内にある高沸点溶剤をさらに含有する、[1]に記載の導電性高分子分散液。
[3] 前記高沸点溶剤が、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、N,N-ジメチルホルムアミド、及びN-メチルアセトアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[2]に記載の導電性高分子分散液。
[4] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[3]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[5] 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]~[4]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[6] 前記アクリルアミド化合物が、下記式(1)で表される化合物を含む、[1]~[5]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[7] 前記アクリルアミド化合物が、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、及びN-イソプロピルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]~[6]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[8] バインダ成分をさらに含有する、[1]~[7]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液。
[9] 前記バインダ成分が、熱可塑性樹脂、及びアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[8]に記載の導電性高分子分散液。
[10] 基材と、前記基材の少なくとも一つの面に形成された、[1]~[9]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液の硬化層からなる導電層とを備える、導電性積層体。
[11] 前記導電層の表面抵抗値が10~5,000Ω/sq.である、[10]に記載の導電性積層体。
[12] 基材の少なくとも一つの面に、[1]~[9]の何れか一項に記載の導電性高分子分散液を塗工することを含む、導電性積層体の製造方法。
【0008】
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、前記R又はRのアルキル基に結合する1つ以上の水素原子が水酸基に置換されていてもよく、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
【発明の効果】
【0009】
本発明の導電性高分子分散液によれば、未重合のアクリルアミド化合物を含むので、塗膜の指触乾燥時間を短くすることができる。これにより、乾燥用オーブンに導入する前の塗膜の予備乾燥を迅速に進めることができるので、乾燥用オーブン内に放出される揮発成分の量を低減することができる。
また、本発明の導電性高分子分散液によれば、未重合のアクリルアミド化合物を含むので、塗膜の乾燥時の収縮を抑制することができる。これにより、塗布した領域に所望の厚さの導電層を確実に形成することができる。
さらに、本発明の導電性高分子分散液によれば、未重合のアクリルアミド化合物を含むので、塗膜から形成された導電層の導電性を向上することができる。このように形成された導電層は耐光性にも優れる。
本発明の導電性積層体は、乾燥時の収縮痕が少ない優れた外観と、優れた導電性を有する導電層を備えている。さらに、本発明の導電性積層体の導電層は耐光性に優れる。
本発明の導電性積層体の製造方法にあっては、乾燥用オーブンに導入する前の塗膜の予備乾燥を迅速に進めることができるので、乾燥用オーブン内に放出される揮発成分の量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪導電性高分子分散液≫
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、アクリルアミド化合物と、分散媒と、を含有し、前記アクリルアミド化合物の重合を開始させるラジカル重合開始剤を含有しない、導電性高分子分散液である。
ここで、「ラジカル重合開始剤を含有しない」とは、完全に含有しないことだけでなく、実質的に含有しないことも意味し、アクリルアミド化合物を重合させない程度の極微量のラジカル重合開始剤を含んでいたとしても、それは実質的に含有しない。
【0011】
[導電性複合体]
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
ポリアニオンにおいては、一部のアニオン基のみがπ共役系導電性高分子にドープしており、ドープに関与しない余剰のアニオン基を有している。余剰のアニオン基は親水基であるため、導電性複合体は水分散性を有する。
【0012】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0013】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
これらのπ共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性に優れることから、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0014】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。このポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
このようなポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。ポリアニオンは、単一のモノマーが重合した単独重合体であってもよいし、2種以上のモノマーが重合した共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
前記ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0015】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子を充分に含有させることができるので、充分な導電性を確保できる。
【0016】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体の含有量としては、導電性高分子分散液の総質量に対して、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上3質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2質量%以下がより好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、導電性高分子分散液を塗布して形成する導電層の導電性をより向上させることができる。
上記範囲の上限値以下であると、導電性高分子分散液における導電性複合体の分散性を高め、均一な導電層を形成することができる。
【0017】
[アクリルアミド化合物]
本態様の導電性高分子分散液に含まれている1種以上のアクリルアミド化合物は、(メタ)アクリルアミド基(すなわち、アクリルアミド又はメタクリルアミドの窒素原子に結合した2つの水素原子のうち少なくとも一方が除かれた基)を有する化合物であればよく、下記式(1)で表されるアクリルアミド化合物が好ましい。
【0018】
【化2】
【0019】
前記式(1)中、Rは炭素数1~4のアルキル基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表し、前記R又はRのアルキル基に結合する1つ以上の水素原子が水酸基に置換されていてもよく、Rは水素原子又はメチル基を表す。
前記アルキル基は直鎖状でもよいし、分岐鎖状でもよい。
前記アルキル基の炭素数は、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、1がさらに好ましい。
前記アルキル基に結合する1つ以上の水素原子は、水酸基に置換されず、炭化水素基であることが好ましい。炭化水素基であると、後述する塗膜の指触乾燥時間をより短縮することができる。
【0020】
アクリルアミド化合物の好適な具体例として、例えば、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、N-tert-ブチルアクリルアミド、N-[2-ヒドロキシエチル]アクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-[2-ヒドロキシエチル]メタクリルアミド等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果がより一層優れることから、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、及びN-イソプロピルアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0021】
本態様の導電性高分子分散液において、前記導電性複合体100質量部に対するアクリルアミド化合物の含有量は、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、100質量部以上5000質量部以下がより好ましく、200質量部以上3500質量部以下がさらに好ましく、400質量部以上2000質量部以下が特に好ましい。上記の好適な範囲であると、本発明の効果が一層優れる。
【0022】
[分散媒]
本態様の導電性高分子分散液に含まれる分散媒としては、水、有機溶剤、水と有機溶剤との混合液が挙げられる。
前記アクリルアミド化合物は、本態様の導電性高分子分散液に含まれる分散媒には該当しないものとする。
【0023】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等の一価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール等の二価アルコールが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
上記に分類されない溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシドが挙げられる。
有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本態様の導電性高分子分散液の分散媒としては、導電性複合体の分散性を高める観点から、水、水溶性有機溶剤、又は水と水溶性有機溶剤の混合溶剤が好ましい。
ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤から選択される1種以上が好ましい。
導電性複合体の分散性をより一層高める観点から、アルコール系溶剤は、水と組み合わせて含まれることが好ましい。
【0025】
導電性複合体は水に対する分散性が高いので、本態様の導電性高分子分散液の分散媒は水を含有する水系分散媒であることが好ましい。
本態様の導電性高分子分散液が含む全分散媒に対する水の含有割合は、例えば、20質量%以上99質量%以下が好ましく、30質量%以上95質量%以下がより好ましく、40質量%以上95質量%以下がさらに好ましく、50質量%以上90質量%以下が特に好ましい。また、本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体1質量部に対して、100~250質量部の水が含まれることが好ましい。
水以外の分散媒としては、前述した水溶性有機溶剤が好ましい。
【0026】
(高沸点溶剤)
本態様の導電性高分子分散液は、分散媒として、1気圧(101325パスカル)における沸点が150℃以上250℃以下の範囲内にある高沸点溶剤をさらに含んでいてもよい。高沸点溶剤をアクリルアミド化合物と組み合わせて含むことにより、導電性の向上、指触乾燥時間の短縮、及び塗膜の乾燥時の収縮抑制等の効果をより高めることができる。
前記分散媒は、高沸点溶剤を含む場合、高沸点溶剤以外の分散媒(1気圧における沸点が150℃未満の分散媒)も含む。
前記分散媒が含む高沸点溶剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。また、前記分散媒が高沸点溶剤を含む場合の高沸点溶剤以外の分散媒は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0027】
本態様の導電性高分子分散液において、高沸点溶剤の最も高い沸点と、高沸点溶剤以外の分散媒の最も低い沸点との差は、40℃以上200℃以下が好ましく、50℃以上150℃以下がより好ましく、60℃以上120℃以下がさらに好ましい。
上記範囲の差であると、アクリルアミド化合物と組み合わせることにより、導電性の向上、指触乾燥時間の短縮、及び塗膜の乾燥時の収縮抑制等の効果をより一層高めることができる。
【0028】
高沸点溶剤として、水溶性有機溶剤、非水溶性有機溶剤が例示される。ここで、水溶性有機溶剤と非水溶性有機溶剤の定義は上述と同じである。
【0029】
高沸点の水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤、硫黄原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、エチレングリコール(沸点198℃)、1,2-プロパンジオール(別名:プロピレングリコール、沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点194℃)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃)、1,4-ブタンジオール(沸点228℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃、異性体の混合物)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、等の多価アルコールが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル(沸点162℃)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点188℃)等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、メチルアミルケトン(沸点151℃)、ジアセトンアルコール(沸点168℃)等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン(沸点202℃)、N-メチルアセトアミド(沸点206℃)、ジメチルアセトアミド(沸点165℃)、N,N-ジメチルホルムアミド(沸点153℃)等が挙げられる。
硫黄原子含有溶剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)等が挙げられる。
【0030】
高沸点の非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ノナン(沸点151℃)、デカン(沸点174℃)、ドデカン(沸点216℃)等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、プロピルベンゼン(沸点159℃)、イソプロピルベンゼン(沸点152℃)等が挙げられる。
【0031】
上記例の中でも、導電性向上の効果がより一層得られることから、アルコール系の高沸点溶剤が好ましい。
アルコール系の高沸点溶剤の中でも、アクリルアミド化合物と組み合わせることにより、導電性の向上、指触乾燥時間の短縮、及び塗膜の乾燥時の収縮抑制等の効果が優れることから、エチレングリコール(沸点198℃)、1,2-プロパンジオール(沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、ジメチルスルホキシド(沸点189℃)が好ましく、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオールがより好ましい。
【0032】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる導電性複合体100質量部に対する高沸点溶剤の含有割合は、300質量部以上10000質量部以下が好ましく、500質量部以上5000質量部以下がより好ましく、800質量部以上3000質量部以下がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、形成される導電層の導電性がより一層向上する。
上記範囲の上限値以下であると、塗膜の指触乾燥時間が過度に長くならずに済む。
【0033】
本態様の導電性高分子分散液の総質量に対する高沸点溶剤の含有量は、4質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がより好ましく、6質量%以上12質量%以下がさらに好ましく、7質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、形成される導電層の導電性がより一層向上する。
上記範囲の上限値以下であると、塗膜の指触乾燥時間が過度に長くならずに済む。
【0034】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる高沸点溶剤と高沸点溶剤以外の分散媒(アクリルアミド化合物は該当しない)の割合は、高沸点溶剤の合計質量(M1)<高沸点溶剤以外の分散媒の合計質量(M2)の割合であることが好ましい。また、M2/M1比は、3~25が好ましく、7~20がより好ましく、10~18がさらに好ましい。
上記割合であると、形成される導電層の導電性を高めつつ、導電性高分子分散液の塗膜の指触乾燥時間をより低減し、塗膜の乾燥時の収縮をより抑制することができる。
【0035】
本態様の導電性高分子分散液に含まれる高沸点溶剤とアクリルアミド化合物の割合は、高沸点溶剤の合計質量(M1)≧アクリルアミド化合物の合計質量(M3)の割合であることが好ましい。また、M1/M3比は、1~5が好ましく、1~3がより好ましく、1~2がさらに好ましく、1~1.5が特に好ましい。
上記割合であると、形成される導電層の導電性を高めつつ、導電性高分子分散液の塗膜の指触乾燥時間をより低減し、塗膜の乾燥時の収縮をより抑制することができる。
【0036】
[バインダ成分]
バインダ成分は、π共役系導電性高分子、ポリアニオン、アクリルアミド化合物、及び高沸点溶剤以外の化合物であり、熱可塑性樹脂、及びアルコキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である。熱可塑性樹脂はそのままバインダとなり、シリカは、硬化により形成した硬化物がバインダ(結着材)となる。
バインダ成分由来のバインダの具体例としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン、アルコキシシランの縮合物、シリケートの縮合物等が挙げられる。
本明細書において、アルコキシシランの縮合物とシリケートの縮合物の総称としてシラン化合物ということがある。
本態様の導電性高分子分散液に含まれるバインダ成分は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0037】
バインダ成分が熱可塑性樹脂である場合、バインダ樹脂は、導電性高分子分散液中に分散可能な水分散性樹脂が好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。
水溶性樹脂は、25℃の蒸留水に1質量%以上溶解し、好ましくは5質量%以上溶解し、より好ましくは10質量%以上溶解する。
【0038】
本態様の導電性高分子分散液を塗工する基材がポリエステル樹脂製である場合、バインダ成分は上述の水分散性のポリエステル樹脂から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0039】
本態様の導電性高分子分散液が前記熱可塑性樹脂を含む場合、その固形分(不揮発成分)の含有割合は、導電性複合体100質量部に対して、10質量部以上5000質量部以下が好ましく、50質量部以上2000質量部以下がより好ましく、100質量部以上1000質量部以下がさらに好ましい。
熱可塑性樹脂の含有割合が上記範囲の下限値以上であれば、導電層の強度や基材との密着性をより向上させることができる。
熱可塑性樹脂の含有割合が上記範囲の上限値以下であると、導電性複合体の含有割合が相対的に低下することによる導電性の低下を抑制できる。
【0040】
本明細書においてアルコキシシランとは、分子内にケイ素原子を1つ有し、そのケイ素原子にアルコキシ基が1つ以上結合した化合物をいう。
本態様に含まれるアルコキシシランは、容易に加水分解することから、メトキシ基またはエトキシ基を有することが好ましい。
アルコキシシランは、アルコキシ基以外の官能基として、例えば、エポキシ基、アリル基、ビニル基、グリシジル基等を有していてもよい。
具体的な好ましいアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0041】
本態様の導電性高分子分散液におけるアルコキシシランの好ましい含有量は、導電性複合体100質量部(重量部)に対して、10質量部以上10000質量部以下が好ましく、50質量部以上5000質量部以下がより好ましく、100質量部以上2000質量部以下がさらに好ましい。
シリケートの含有量が前記下限値以上であれば、前記導電性高分子分散液から形成される導電層の硬度を充分に高くでき、前記上限値以下であれば、前記導電性高分子分散液から形成される導電層の導電性低下を防ぐことができる。
【0042】
本明細書においてシリケートとは、1分子内にケイ素原子を2つ以上有し、そのうちの少なくとも1組のケイ素原子同士が1つの酸素原子を介してエーテル結合した化合物である。シリケートが1分子内に有するケイ素原子の数は、本態様の導電性高分子分散液から形成される導電層の硬度がより高くなることから、4つ以上であることが好ましく、6つ以上であることがより好ましく、8つ以上であることがさらに好ましい。また、本態様の導電性高分子分散液におけるシリケートの溶解性を高める観点から、シリケートが1分子内に有するケイ素原子の数は、40個以下が好ましく、30個以下がより好ましい。
シリケートのSiO単位の含有量は、シリケートの総質量に対して15質量%以上70質量%以下であることが好ましく、25質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。シリケートのSiO単位の含有量が前記下限値以上であれば、本態様の導電性高分子分散液から形成される導電層の硬度がより高くなり、前記上限値以下であれば、前記導電層の導電性低下を防ぐことができる。
ここで、シリケートのSiO単位の含有量は、シリケートの分子量100質量%に対する、シリケートに含まれるSiO単位(-O-Si-O-単位)の質量の割合のことであり、元素分析により測定できる。
【0043】
シリケートは、下記化学式(X)で表される化合物が好ましい。
(X)… RO-[(RO-)(RO-)Si-O-]-R
【0044】
式(X)中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立して炭素数1~4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、sは、2~100の整数である。
炭素数1~4のアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状であってもよく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。
sは2~50が好ましく、3~25がより好ましく、4~10がさらに好ましい。
【0045】
シリケートは、下記化学式(x1)で示される化合物及び下記化学式(x2)で示される化合物の少なくとも一方であることがより好ましい。
(x1)… Sim-1(OCH2m+2
(x2)… Sin-1(OCHCH2n+2
上記式(x1)(x2)中、mは2以上100以下であり、nは2以上100以下である。
上記式(x1)(x2)中、SiとOが結合し、Si同士、O同士は隣接しない。
【0046】
導電性高分子分散液におけるシリケートの好ましい含有量は、シリケートのSiO単位の含有量に応じて適宜選択される。シリケートのSiO単位の含有量が前述の好ましい範囲である場合、シリケートの含有量は、導電性複合体100質量部に対し、1質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上10000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2000質量部以下であることがさらに好ましい。
シリケートの含有量が前記下限値以上であれば、前記導電性高分子分散液から形成される導電層の硬度を充分に高くでき、前記上限値以下であれば、前記導電性高分子分散液から形成される導電層の導電性低下を防ぐことができる。
【0047】
本態様の導電性高分子分散液を塗工する基材がガラス製である場合、バインダ成分は上述のアルコキシシランまたはシリケートから選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0048】
シリカとしては、分散性の点からコロイダルシリカが好ましく、有機溶媒分散性のコロイダルシリカ(以下、「オルガノシリカゾル」ともいう。)がより好ましい。市販のオルガノシリカゾルの製品としては、メタノールシリカゾル、MA-ST-M、IPA-ST、IPA-ST-L、IPA-ST-ZL、IPA-ST-UP、EG-ST、EG-ST-ZL、DMAC-ST、DMAC-ST-ZL、NPC-ST-30、PGM-ST、MEK-ST、MEK-ST-L、MEK-ST-ZL、MEK-ST-UP、MIBK-ST、MIBK-SD、PMA-ST、EAC-ST、NBAC-ST、XBA-ST、TOL-ST、MEK-AC-2101、MEK-AC-4101(商品名、日産化学工業社製);OSCAL-1432、OSCAL-1132、OSCAL-1632、OSCAL-1421(商品名、日揮触媒化学社製)を挙げることができる。
【0049】
[その他の添加剤]
本態様の導電性高分子分散液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果を有する限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤(安定剤)、紫外線吸収剤などを使用できる。ただし、添加剤は、前記導電性複合体、アクリルアミド化合物、前記分散媒、及び前記バインダ成分以外の化合物である。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
導電性高分子分散液が上記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性複合体100質量部に対して、0.01質量部以上50質量部以下の範囲とすることができる。
【0050】
<導電性高分子分散液の製造方法>
本態様の導電性高分子分散液を製造する方法としては、例えば、導電性複合体の水分散液に、分散媒、バインダ成分、アクリルアミド化合物等を添加する方法が挙げられる。
導電性複合体の水分散液は、ポリアニオンの水溶液中でπ共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合させて得てもよいし、市販のものを使用しても構わない。
【0051】
前記化学酸化重合は、公知の触媒及び酸化剤を用いて行うことができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0052】
≪導電性積層体≫
本発明の第二態様は、基材と、前記基材の少なくとも一つの面に形成された、第一態様の導電性高分子分散液の硬化層からなる導電層とを備える、導電性積層体である。
【0053】
[導電層]
基材の少なくとも一つの面に備えられた前記導電層の平均厚みとしては、例えば、10nm以上100μm以下であることが好ましく、20nm以上50μm以下であることがより好ましく、30nm以上30μm以下であることがさらに好ましい。
導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層の基材に対する密着性がより向上する。
【0054】
本態様の導電層の良好な導電性の目安として、例えば、10Ω/sq.以上5000Ω/sq.以下の表面抵抗値を有することが好ましく、10Ω/sq.以上2500Ω/sq.以下の表面抵抗値を有することがより好ましく、10Ω/sq.以上1000Ω/sq.以下の表面抵抗値を有することがさらに好ましい。
【0055】
[基材]
本態様の導電性積層体を構成する基材は、絶縁性材料からなる基材であってもよいし、導電性材料からなる基材であってもよい。基材の形状は特に制限されず、例えば、フィルム、基板等の平面を主体とする形状が挙げられる。
絶縁性材料としては、ガラス、合成樹脂、セラミックス等が挙げられる。
導電性材料としては、金属、導電性金属酸化物、カーボン等が挙げられる。
【0056】
(フィルム基材)
前記基材としてフィルム基材を用いると、導電性積層体は導電性フィルムとなる。
前記フィルム基材としては、例えば、合成樹脂からなるプラスチックフィルムが挙げられる。前記合成樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。
フィルム基材と導電層との密着性を高める観点から、フィルム基材用の合成樹脂はバインダ樹脂と同種の樹脂であることが好ましく、なかでも、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が好ましい。
【0057】
フィルム基材用の合成樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
フィルム基材には、導電性高分子分散液から形成される導電層の接着性をさらに向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0058】
フィルム基材の平均厚みは、5μm以上500μm以下が好ましく、20μm以上200μm以下がより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
フィルム基材の平均厚みは、無作為に選択される10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0059】
≪導電性積層体の製造方法≫
本発明の第三態様は、基材の少なくとも一つの面に、第一態様の導電性高分子分散液を塗工することを含む、導電性積層体の製造方法である。本態様の製造方法により、第二態様の導電性積層体を製造することができる。
【0060】
第一態様の導電性高分子分散液を基材の任意の面に塗工(塗布)する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
【0061】
導電性高分子分散液のフィルム基材への塗布量は特に制限されないが、均一にムラなく塗工することと、導電性と膜強度を勘案して、固形分として、0.01g/m以上10.0g/m以下の範囲であることが好ましい。
【0062】
基材上に塗工した導電性高分子分散液からなる塗膜を乾燥させて、分散媒を除去することにより、前記塗膜が硬化してなる導電層(導電膜)が形成された導電性積層体を得ることができる。
塗膜を乾燥する方法としては、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの方法を採用できる。
加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定されるが、通常は、50℃以上150℃以下の範囲内である。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。上記加熱温度の範囲における好適な乾燥時間としては、1分以上30分以下が好ましく、5分以上15分以下がより好ましい。
【0063】
本態様で塗布する導電性高分子分散液の指触乾燥時間は短いので、加熱乾燥を行う前に加熱せずに乾燥させる予備乾燥工程を設けてもよい。予備乾燥を行うことにより、加熱乾燥に供する塗膜から分散媒の一部を予め除去でき、加熱乾燥時に揮発する分散媒が減るので、揮発した分散媒が加熱乾燥機等の周囲に滞留することを防止し易くなる。
予備乾燥の方法としては、室温(20~25℃)で自然に乾燥するのを待ってもよいし、室温で真空環境においてもよいし、室温の空気や不活性ガスを吹き付けてもよい。
室温で自然に乾燥する場合の予備乾燥時間としては、後述の指触乾燥時間以上となる時間が好ましく、例えば、1分~20分程度とすることができる。
室温の空気や不活性ガスを吹き付ける場合、指触乾燥時間をより短縮することができ、例えば、30秒~5分程度とすることができる。
また、予備乾燥時間を短縮できるほど、乾燥中の塗膜に埃が付着するリスクを避けることができる。
なお、予備乾燥しただけの塗膜(導電層)の導電性は、加熱乾燥した塗膜と比べて劣り、製造後に導電性低下が進行する問題が生じる場合がある。このため、予備乾燥工程後に、上述の加熱乾燥を行うことが好ましい。この際の加熱温度は、60℃以上150℃以下が好ましく、80℃以上140℃以下がより好ましく、100℃以上130℃以下がさらに好ましい。
【0064】
塗工した導電性高分子分散液が、バインダ成分として前述のアルコキシシラン、シリケート、シリカ等の酸化ケイ素含有化合物を含む場合には、塗膜を加熱して、バインダ成分同士を反応させることにより、硬化した導電層を形成することができる。
【実施例
【0065】
(製造例1)ポリアニオンの合成
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0066】
(製造例2)導電性複合体の合成
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、製造例1で得た36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。得られた混合溶液を20℃に保ち、攪拌しながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
反応後の反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次に、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去し、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、固形分濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)の水分散液を得た。
【0067】
(実施例1)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液25g(固形分0.3g)に、アクリルアミド化合物としてN,N-ジメチルアクリルアミド5gを加え、分散媒としてメタノール32gと純水30gとエチレングリコール(沸点196℃)5gを加え、バインダ成分として水分散ポリエステル樹脂(高松油脂株式会社製、ペスレジンA6451G、固形分濃度30質量%)3gを加え、室温で混合した後に、安定剤として没食子酸0.05gと、アセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、オルフィンEXP4200)0.005gを加え、さらに1時間攪拌混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0068】
(実施例2)
アクリルアミド化合物をN,N-ジエチルアクリルアミドに変更し、エチレングリコールをジメチルスルホキシド(沸点189℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0069】
(実施例3)
分散媒のメタノールをエタノールに変更し、エチレングリコールを1,3-プロパンジオール(沸点214℃)に変更した以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0070】
(実施例4)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液25gに、アクリルアミド化合物としてN,N-ジメチルアクリルアミド4gを加え、分散媒としてメタノール28gと純水30gとエチレングリコール(沸点196℃)8gを加え、バインダ成分としてテトラエトキシシラン4gとメチルトリエトキシシラン1gを加え、室温で48時間混合した後に、安定剤としてビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド0.05gとシリコーン系界面活性剤(日信化学工業社製、シルフェイスSJM002)0.005gを加え、さらに1時間攪拌混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0071】
(実施例5)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液25gに、アクリルアミド化合物としてN-イソプロピルアクリルアミド3gを加え、分散媒としてエタノール59gとジメチルスルホキシド(沸点189℃)8gを加え、バインダ成分として水分散ポリエステル樹脂(互応化学工業社製、RZ-105、固形分濃度25質量%)3gを加え、室温で混合した後に、安定剤として没食子酸0.05gと、アセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、オルフィンEXP4200)0.005gを加え、さらに1時間攪拌混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0072】
(実施例6)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液25gに、アクリルアミド化合物としてN,N-ジメチルアクリルアミド4gを加え、分散媒として純水60gと1,2-プロパンジオール(沸点188℃)8gを加え、バインダ成分として水分散ポリエステル樹脂(高松油脂株式会社製、ペスレジンA6451G、固形分濃度30質量%)3gを加え、室温で混合した後に、安定剤として没食子酸0.05gと、アセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、オルフィンEXP4200)0.005gを加え、さらに1時間攪拌混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0073】
(実施例7)
N,N-ジエチルアクリルアミドを10gに変更し、エチレングリコールを加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0074】
(実施例8)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液40gに、アクリルアミド化合物としてN,N-ジメチルアクリルアミド5gを加え、分散媒としてメタノール25gと純水20gと1,2-プロパンジオール(沸点188℃)8gを加え、バインダ成分としてテトラエトキシシラン2gを加え、室温で48時間混合した後に、安定剤としてビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド0.05gとシリコーン系界面活性剤(日信化学工業社製、シルフェイスSJM002)0.01gを加え、さらに1時間攪拌混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0075】
(実施例9)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液40gに、アクリルアミド化合物としてN,N-ジメチルアクリルアミド5gを加え、分散媒として純水45gとエチレングリコール(沸点196℃)8gを加え、バインダ成分として水分散ポリエステル樹脂(高松油脂株式会社製、ペスレジンA6451G、固形分濃度30質量%)3gを加え、室温で混合した後に、安定剤として没食子酸0.05gと、アセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、オルフィンEXP4200)0.005gを加え、さらに1時間攪拌混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0076】
(実施例10)
製造例2で得たPEDOT-PSS水分散液70gに、アクリルアミド化合物としてN,N-ジメチルアクリルアミド4gを加え、分散媒として純水14gと1,2-プロパンジオール(沸点188℃)8gを加え、バインダ成分として水分散ポリエステル樹脂(互応化学工業社製、RZ-105、固形分濃度25質量%)3gを加え、室温で混合した後に、安定剤として没食子酸0.1gと、アセチレン系界面活性剤(日信化学工業社製、オルフィンEXP4200)0.01gを加え、さらに1時間攪拌混合して、導電性高分子分散液を得た。
【0077】
(実施例11)
分散媒の純水の量を3gに変更し、1,2-プロパンジオールをエチレングリコールに変更し、水分散性ポリエステル樹脂の量を15gに変更した以外は、実施例10と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0078】
(実施例12)
アクリルアミド化合物をN-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミドに変更した以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0079】
(比較例1)
アクリルアミド化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0080】
(比較例2)
アクリルアミド化合物とエチレングリコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0081】
(比較例3)
アクリルアミド化合物を添加せず、純水の量を64gに変更したこと以外は、実施例6と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
【0082】
(比較例4)
アクリルアミド化合物の代わりにジメチルアセトアミド(沸点165℃)5gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
上記の各例の組成を表1に示す。
【0083】
(比較例5)
アクリルアミド化合物に代えて、1,2-プロパンジオール5gを添加した以外は、実施例1と同様にして、導電性高分子分散液を得た。
上記の各例の組成を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
<評価>
以下の評価項目について、結果を表2に示す。
【0086】
[指触乾燥時間の測定]
上記の各例で得た導電性高分子分散液を、バーコーター(Wet膜厚16μm)を用いてポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ社製、ルミラーT60)に塗布し、塗膜を形成した。この塗膜を24℃40%RHの条件で保管し、一定時間ごとに不織布を20gfの荷重で押し当て、痕跡が残らなくなるまでに要した乾燥時間を指触乾燥時間とした。指触乾燥時間が短いほど塗膜の乾燥が速いことを意味し、歩留まりや生産性が向上する。
【0087】
[表面抵抗値の測定]
上記の各例で得た導電性高分子分散液を、バーコーター(Wet膜厚16μm)を用いてPETフィルム上にバーコーターで塗布し、120℃で5分間の加熱乾燥を行い、導電層が表面に形成された導電性フィルムを得た。この導電層の表面抵抗値を、抵抗率計(三菱ケミカルアナリテック社製ロレスタ)を用い、印加電圧10Vの条件で測定した。
【0088】
[外観の評価]
上記で作製した導電性フィルムの外観を目視で観察し、以下の判定基準で評価した。
A:182mm幅で塗布した塗膜の乾燥時の収縮幅が2mm未満であり、導電層の外観が優れる。
B:182mm幅で塗布した塗膜の乾燥時の収縮幅が2mm以上5mm未満であり、導電層の外観が良好である。
C:182mm幅で塗布した塗膜の乾燥時の収縮幅が5mm以上であり、導電層の外観に問題がある。
D:182mm幅で塗布した塗膜面の一部にハジキが見られ、導電層が均一に形成されていない。
E:182mm幅で塗布した塗膜面の全体にハジキが見られ、導電層が形成されていない。
【0089】
【表2】
【0090】
<結果の考察1>
本発明に係る実施例の導電性高分子分散液によれば、未重合のアクリルアミド化合物を含むので、塗膜の指触乾燥時間を短くすることができた。これにより、乾燥用オーブンに導入する前の塗膜の予備乾燥を迅速に進めることができ、乾燥用オーブン内に放出される揮発成分の量を低減することができた。
また、本発明に係る実施例の導電性高分子分散液によれば、未重合のアクリルアミド化合物を含むので、塗膜の乾燥時の収縮を抑制することができた。これにより、塗布した領域に所望の厚さの導電層を確実に形成することができた。
さらに、本発明に係る実施例の導電性高分子分散液によれば、未重合のアクリルアミド化合物を含むので、塗膜から形成された導電層の導電性を向上することができた。例えば、アクリルアミド化合物と1種類の高沸点溶剤を含む実施例1の導電層の導電性は、アクリルアミド化合物を含まず、2種類の高沸点溶剤を含む比較例5の導電層の導電性よりも優れている。比較例1~3の結果から、高沸点溶剤は導電性向上効果を有することが理解されるが、アクリルアミド化合物と高沸点溶剤を組み合わせて含むと、アクリルアミド化合物(実施例7)のみ又は高沸点溶剤のみ(比較例1,3,5)を含む場合よりも、格段に導電性を向上させることができる。
【0091】
本発明に係る実施例の導電性高分子分散液が、高沸点溶剤を含む場合であっても、未重合のアクリルアミド化合物をともに含むことにより、指触乾燥時間が短くなり、塗膜の乾燥時の収縮を抑制でき、導電層の導電性をより一層高めることができた。導電層の導電性は、高沸点溶剤だけを含む場合、又はアクリルアミド化合物だけを含む場合と比べて、両方を含む方が格段に向上することが分かった。このメカニズムの詳細は未解明であるが、アクリルアミド化合物と高沸点溶剤が共存することで高沸点溶剤の蒸気圧が上昇し、高沸点溶剤の揮発を促進していると推測される。
【0092】
[乾燥温度と耐久性の関係]
(実施例13)
実施例1で得た導電性高分子分散液を、バーコーター(wet膜厚16μm)を用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラーT60)に塗布して、塗膜を形成した。この塗膜を60℃の条件で5分間乾燥し、分散媒を除去して導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は880Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は920Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量はわずか(1.05倍増加)であり、この導電性フィルムの耐久性は高い。
【0093】
(実施例14)
塗膜の乾燥条件を80℃に変更した以外は実施例13と同様にして導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は820Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は840Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量はごくわずか(1.02倍増加)であり、この導電性フィルムの耐久性は高い。
【0094】
(実施例15)
塗膜の乾燥条件を100℃に変更した以外は実施例13と同様にして導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は800Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は800Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量はなく、この導電性フィルムの耐久性は高い。
【0095】
(実施例16)
塗膜の乾燥条件を24℃、3時間に変更した以外は実施例13と同様にして導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は1400Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は2300Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量が大きく(1.64倍増加)、この導電性フィルムの耐久性は低い。
【0096】
<結果の考察2>
実施例13~16の結果から、本発明に係る導電性高分子分散液の塗膜からなる導電層は、塗膜を室温乾燥しただけであると、導電性フィルムの耐久性が低くなることがあると理解される。つまり、本発明に係る導電性高分子分散液の塗膜の乾燥は、60℃、5分以上の加熱条件で行うことが好ましいことが分かった。このメカニズムの詳細は未解明であるが、加熱乾燥を行うことにより、塗膜中の未重合のアクリルアミド化合物が揮発して、塗膜から除去されることが要因であると考えられる。
なお、後述の実施例18の塗膜は、室温乾燥しただけであっても、導電性フィルムの耐久性は高かった。実施例18の導電性高分子分散液は高沸点溶剤を含まないため、室温乾燥だけであっても、塗膜中の未重合のアクリルアミド化合物が充分に揮発したことが要因であると考えられる。
【0097】
(実施例17)
実施例7で得た導電性高分子分散液を用いた以外は、実施例13と同様にして導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は2200Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は2250Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量はわずか(1.02倍増加)であり、この導電性フィルムの耐久性は高い。
【0098】
(実施例18)
塗膜の乾燥条件を24℃、3時間に変更した以外は実施例17と同様にして導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は2300Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は2550Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量はわずか(1.11倍増加)であり、この導電性フィルムの耐久性は高い。
【0099】
(比較例6)
比較例1で得た導電性高分子分散液を用いた以外は、実施例13と同様にして導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は1350Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は2500Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量は大きく(1.85倍増加)、この導電性フィルムの耐久性は低い。
【0100】
(比較例7)
塗膜の乾燥条件を24℃、3時間に変更した以外は比較例6と同様にして導電性フィルムを得た。作製直後の導電層の表面抵抗値は1500Ω/sq.であった。また、この導電性フィルムを24℃40%RHの条件下で10日間保管した後の表面抵抗値は3300Ω/sq.であった。表面抵抗値の変化量は大きく(2.2倍増加)、この導電性フィルムの耐久性は低い。
【0101】
[耐光性の評価]
キセノン耐光性試験機(株式会社DJK社製Ci4000、6500W水冷キセノンアークランプ)を用いて、導電性フィルムの耐光性を評価した。
【0102】
(実施例19)
実施例1で得た導電性高分子分散液を用いて作成した導電性フィルムの耐光性を評価した。キセノン暴露100時間後の表面抵抗値は3800Ω/sq.であり、表面抵抗値の変化量は4.8倍だった。
【0103】
(実施例20)
実施例2で得た導電性高分子分散液を用いて作成した導電性フィルムの耐光性を評価した。キセノン暴露100時間後の表面抵抗値は3900Ω/sq.であり、表面抵抗値の変化量は4.5倍だった。
【0104】
(実施例21)
実施例10で得た導電性高分子分散液を用いて作成した導電性フィルムの耐光性を評価した。キセノン暴露100時間後の表面抵抗値は860Ω/sq.であり、表面抵抗値の変化量は3.1倍だった。
【0105】
(比較例8)
比較例5で得た導電性高分子分散液を用いて作成した導電性フィルムの耐光性を評価した。キセノン暴露100時間後の表面抵抗値は12000Ω/sq.であり、表面抵抗値の変化量は10.9倍だった。
【0106】
<結果の考察3>
本発明に係る実施例の導電性高分子分散液によれば、未重合のアクリルアミド化合物を含むので、形成した導電層の耐光性を向上させることができた。アクリルアミド化合物と1種類の高沸点溶剤を含む実施例19~21(実施例1,2,10)の導電層の導電性は、アクリルアミド化合物を含まず、2種類の高沸点溶剤を含む比較例8(比較例5)の導電層の導電性よりも優れている。