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特許7475157画像形成装置、モータを制御するモータ制御装置及びモータの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】画像形成装置、モータを制御するモータ制御装置及びモータの制御方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 21/00 20060101AFI20240419BHJP
   H02P 29/028 20160101ALI20240419BHJP
【FI】
G03G21/00 510
H02P29/028
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020023664
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021056487
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019180716
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅俊
【審査官】山下 清隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-036856(JP,A)
【文献】特開2012-206478(JP,A)
【文献】特開平06-286125(JP,A)
【文献】特開平10-153894(JP,A)
【文献】特開2019-100479(JP,A)
【文献】特開2010-201820(JP,A)
【文献】特開平10-074022(JP,A)
【文献】特開2019-103326(JP,A)
【文献】特開2015-104263(JP,A)
【文献】国際公開第2007/038846(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 21/00
G03G 21/16
B41J 29/00-29/70
B41J 2/00- 3/62
H02P 4/00
H02P 6/00- 6/34
H02P 21/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転部材を有し、前記回転部材を用いて、画像をシートに形成する画像形成手段と、
複数のコイルと、前記複数のコイルのうちの励磁されているコイルの組み合わせにより回転するロータとを有するモータと、
前記画像形成手段に含まれる前記回転部材に対して前記モータの駆動力を伝達する伝達機構であって、バックラッシュを有する前記伝達機構と、
前記回転部材を回転させるために前記ロータを第1方向に回転させる様に前記モータを制御する制御手段と、
を備え、
記制御手段は、
前記モータを起動させる際、前記ロータを前記第1方向に回転させて前記ロータの回転速度を検出するとともに、検出した前記ロータの回転速度が所定速度より小さい場合は前記モータの起動処理に失敗したと判定し、
前記起動処理に失敗した場合、
所定の電圧を印加したときに前記コイルに流れる電流の検知結果から前記ロータの第1停止位置を検知し、
記ロータを前記第1方向とは反対の第2方向に所定量だけ回転させ、
前記第2方向に前記所定量だけ回転させた後に再び所定の電圧を印加して前記ロータの第2停止位置を検知し、
前記第1停止位置と前記第2停止位置とが一致する場合は前記モータの故障と判定し、一致しない場合は、前記モータにより駆動される前記回転部材の故障と判定する、画像形成装置。
【請求項2】
前記所定量は、前記バックラッシュのバックラッシュ量以下である請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記ロータを前記第1方向に前記所定速度より速い回転速度で回転させる制御を行って前記ロータの回転速度を検出し、検出した前記ロータの回転速度が前記所定速度より小さい場合、前記起動処理に失敗したと判定する請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記回転部材は、感光体である請求項1からのいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記伝達機構は、カップリングを有し、
前記バックラッシュは、前記カップリングに設けられる請求項1からのいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
バックラッシュを含む伝達機構により駆動力を回転部材に伝達する様に構成されたモータを制御するモータ制御装置であって、
前記回転部材を回転させるために前記モータのロータを第1方向に回転させる様に前記モータを制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、
前記モータを起動させる際、前記ロータを前記第1方向に回転させて前記ロータの回転速度を検出するとともに、検出した前記ロータの回転速度が所定速度より小さい場合は前記モータの起動処理に失敗したと判定し、
前記起動処理に失敗した場合、
所定の電圧を印加したときに前記モータのコイルに流れる電流の検知結果から前記ロータの第1停止位置を検知し、
前記ロータを前記第1方向とは反対の第2方向に所定量だけ回転させ、
前記第2方向に前記所定量だけ回転させた後に再び所定の電圧を印加して前記ロータの第2停止位置を検知し、
前記第1停止位置と前記第2停止位置とが一致する場合は前記モータの故障と判定し、一致しない場合は、前記モータにより駆動される前記回転部材の故障と判定する、モータ制御装置。
【請求項7】
モータ制御装置によるモータの制御方法であって、
前記モータは、バックラッシュを含む伝達機構により駆動力を回転部材に伝達する様に構成され、
前記制御方法は、
前記モータを起動させる際、前記モータのロータを第1方向に回転させて前記ロータの回転速度を検出するとともに、検出した前記ロータの回転速度が所定速度より小さい場合は前記モータの起動処理に失敗したと判定することと、
前記起動処理に失敗した場合、
所定の電圧を印加したときに前記モータのコイルに流れる電流の検知結果から前記ロータの第1停止位置を検知し、
前記ロータを前記第1方向とは反対の第2方向に所定量だけ回転させ、
前記第2方向に前記所定量だけ回転させた後に再び所定の電圧を印加して前記ロータの第2停止位置を検知し、
前記第1停止位置と前記第2停止位置とが一致する場合は前記モータの故障と判定し、一致しない場合は、前記モータにより駆動される前記回転部材の故障と判定することと、を含むモータの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の回転部材の駆動源として、ホール素子等のロータ位置を検知するセンサを搭載しないセンサレスタイプのモータ(以下、センサレスモータ)が使用されている。特許文献1は、コイルに生じる誘起電圧によりセンサレスモータのロータ位置を検出する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-223970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
誘起電圧が生じない停止状態等において、センサレスモータのロータ位置(ロータの回転位相)を検知するため、ロータ位置に応じてコイルのインダクタンス値が変化する特性が利用されている。具体的には、コイルに所定電圧を印加した際にコイルに流れるコイル電流に基づきコイルのインダクタンス値を検出することでロータ位置を判定することができる。そして、誘起電圧からロータ位置を検出できる様になるまでは強制転流制御によりモータを駆動し、誘起電圧からロータ位置を検出できる様になると、センサレス駆動に切り替えを行う。なお、モータの駆動を開始した後、コイル電流から推定するロータの回転速度が所定の速度範囲内にない場合、起動失敗となる。
【0005】
この様に、ロータの回転速度からモータの起動失敗を判定できるが、この起動失敗の原因が、モータ故障によるものか、モータ負荷の異常によるものかをロータの回転速度から判別することはできない。
【0006】
本発明は、モータの起動失敗の原因が、モータ故障によるものか否かを判定する技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によると、画像形成装置は、回転部材を有し、前記回転部材を用いて、画像をシートに形成する画像形成手段と、複数のコイルと、前記複数のコイルのうちの励磁されているコイルの組み合わせにより回転するロータとを有するモータと、前記画像形成手段に含まれる前記回転部材に対して前記モータの駆動力を伝達する伝達機構であって、バックラッシュを有する前記伝達機構と、前記回転部材を回転させるために前記ロータを第1方向に回転させる様に前記モータを制御する制御手段と、を備え、記制御手段は、前記モータを起動させる際、前記ロータを前記第1方向に回転させて前記ロータの回転速度を検出するとともに、検出した前記ロータの回転速度が所定速度より小さい場合は前記モータの起動処理に失敗したと判定し、前記起動処理に失敗した場合、所定の電圧を印加したときに前記コイルに流れる電流の検知結果から前記ロータの第1停止位置を検知し、前記ロータを前記第1方向とは反対の第2方向に所定量だけ回転させ、前記第2方向に前記所定量だけ回転させた後に再び所定の電圧を印加して前記ロータの第2停止位置を検知し、前記第1停止位置と前記第2停止位置とが一致する場合は前記モータの故障と判定し、一致しない場合は、前記モータにより駆動される前記回転部材の故障と判定する
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、モータの起動失敗の原因が、モータ故障によるものか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態による画像形成装置の構成図。
図2】一実施形態による感光体の駆動構成図。
図3】一実施形態によるモータの制御構成図。
図4】一実施形態によるモータの構成図。
図5】励磁相と合成インダクタンスとの関係と、合成インダクタンスの検出方法を示す図。
図6】一実施形態によるモータ起動処理の説明図。
図7】一実施形態による原因特定処理のフローチャート。
図8】一実施形態による定着部の駆動構成図。
図9】一実施形態による原因特定処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態による画像形成装置の構成図である。図1の画像形成装置は、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色のトナー像を重ね合わせてフルカラーの画像を形成する。図1において、参照符号の末尾のY、M、C及びKは、参照符号により示される部材が形成に関わるトナー像の色が、それぞれ、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックであることを示している。なお、以下の説明において、色を区別する必要がない場合には、末尾のY、M、C及びKを除いた参照符号を使用する。感光体13は、画像形成時、図の時計回り方向に回転駆動される。帯電ローラ15は、対応する感光体13の表面を一様な電位に帯電させる。露光部11は、対応する感光体13の表面を光で露光して感光体13に静電潜像を形成する。現像部12の現像ローラ16は、対応する感光体13の静電潜像をトナーで現像してトナー像として可視化する。一次転写ローラ18は、一次転写バイアスにより、対応する感光体13に形成されたトナー像を中間転写ベルト19に転写する。クリーナ14は、中間転写ベルト19に転写されず、対応する感光体13に残留したトナーを除去する。なお、各感光体13に形成されたトナー像を中間転写ベルト19に重ねて転写することでフルカラーの画像が中間転写ベルト19に形成される。
【0012】
中間転写ベルト19は、画像形成時、図の反時計回り方向に回転駆動される。これにより中間転写ベルト19に転写されたトナー像は、二次転写ローラ29の対向位置へと搬送される。一方、カセット22に格納されたシート21は、搬送路に沿って設けられた各ローラの回転によりカセット22から搬送路に給送され、二次転写ローラ29の対向位置へと搬送される。二次転写ローラ29は、二次転写バイアスにより中間転写ベルト19のトナー像をシート21に転写する。その後、シート21は、定着部30へと搬送される。定着部30は、シート21を加熱・加圧してトナー像をシート21に定着させる。トナー像の定着後、シート21は、画像形成装置の外部に排出される。画像形成装置の全体を制御する制御部31は、CPU32を備えている。
【0013】
図2は、感光体13Y、13M及び13Cの駆動構成を示している。モータ101の駆動伝達ギアと、感光体13Y、13M及び13Cの駆動伝達ギアは、それぞれ、カップリング17Y、17M及び17Cにおいて連結される。よって、モータ101の駆動力は、カップリング17Y、17M及び17Cを介して、感光体13Y、13M及び13Cに伝達される。カップリング17Y、17M及び17Cにおける駆動伝達ギアの連結を解除することによって、感光体13Y、13M及び13Cを画像形成装置から取り外すことができる。カップリング17Y、17M及び17Cには、感光体13Y、13M及び13Cを装着した際にスムーズにギア連結できる様に、バックラッシュが設けられている。
【0014】
図3は、モータ101の制御構成図である。モータ制御部120は、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと表記)121を有する。マイコン121の通信ポート122は、制御部31とシリアル通信を行う。制御部31は、シリアル通信を介してモータ制御部120を制御することで、モータ101の回転を制御する。基準クロック生成部125は、水晶発振子126の出力に基づき基準クロックを生成する。カウンタ123は、この基準クロックに基づきパルスの周期の計測等を行う。不揮発性メモリ124は、モータの制御に使用するプログラム及び各種データ等を格納する。マイコン121は、パルス幅変調信号(PWM信号)をPWMポート127から出力する。本実施形態において、マイコン121は、モータ101の3つの相(U、V、W)それぞれについて、ハイ側のPWM信号(U-H、V-H、W-H)と、ロー側のPWM信号(U-L、V-L、W-L)の計6つのPWM信号を出力する。このため、PWMポート127は、6つの端子U-H、V-H、W-H、U-L、V-L、W-Lを有する。
【0015】
PWMポート127の各端子は、ゲートドライバ132に接続され、ゲートドライバ132は、PWM信号に基づき、3相のインバータ131の各スイッチング素子のオン・オフ制御を行う。なお、インバータ131は、各相についてハイ側3個、ロー側3個の計6つのスイッチング素子を有し、ゲートドライバ132は、各スイッチング素子を対応するPWM信号に基づき制御する。スイッチング素子としては、例えばトランジスタやFETを使用することができる。本実施形態においては、PWM信号がハイであると、対応するスイッチング素子がオンとなり、ローであると、対応するスイッチング素子がオフになるものとする。インバータ131の出力133は、モータ101のコイル135(U相)、136(V相)及び137(W相)に接続されている。インバータ131の各スイッチング素子をオン・オフ制御することで、各コイル135、136、137の励磁電流(コイル電流)を制御することができる。この様に、マイコン121、ゲートドライバ132及びインバータ131は、複数のコイル135、136及び137に印加する電圧を制御する電圧制御部として機能する。
【0016】
電流センサ130は、各コイル135、136、137に流れたコイル電流の値に応じた検出電圧を出力する。増幅部134は、各相の検出電圧を増幅し、かつ、オフセット電圧の印加を行ってアナログ・デジタルコンバータ(ADコンバータ)129に出力する。ADコンバータ129は、増幅後の検出電圧をデジタル値に変換する。電流値算出部128は、ADコンバータ129の出力値(デジタル値)に基づき各相のコイル電流を判定する。例えば、電流センサ130が、1A当たり、0.01Vの電圧を出力し、増幅部134での増幅率(ゲイン)を10倍とし、増幅部134が印加するオフセット電圧を1.6Vとする。モータ101に流れるコイル電流の範囲が-10A~+10Aであるとすると、増幅部134が出力する電圧範囲は、0.6V~2.6Vになる。例えば、ADコンバータ129が、0~3Vの電圧を、0~4095のデジタル値に変換して出力するのであれば、-10A~+10Aの励磁電流は、凡そ、819~3549のデジタル値に変換される。なお、インバータ131からモータ101への方向に励磁電流が流れているときを正の電流値とし、その逆を負の電流値とする。
【0017】
電流値算出部128は、デジタル値からオフセット電圧に対応するオフセット値を減じ、所定の変換係数を乗ずることで励磁電流を求める。本例では、オフセット電圧(1.6V)に対応するオフセット値は、約2184(1.6×4095/3)である。また、変換係数は、約0.000733(3/4095)である。この様に、電流センサ130と、増幅部134と、ADコンバータ129と、電流値算出部128は、電流検知部を構成する。
【0018】
図4は、モータ101の構成図である。モータ101は、センサレスモータである。モータ101は、6スロットのステータ71と、4極のロータ72からなり、ステータ71はU相、V相、W相の各コイル135、136、137を備える。ロータ72は、永久磁石により構成され、2組のN極/S極を備える。ロータ72は、励磁されているコイル135、136及び137の組み合わせ、すなわち励磁相に応じて、停止する位置が決まる。なお、ロータ72は、回転するものであるため、ロータ72の位置は、ロータ72の回転位相でもある。例えば、U相のコイル135からV相のコイル136にコイル電流が流れるように励磁すると、ロータ72は、図4(A)に示す位置で停止する。なお、U相のコイル135からV相のコイル136にコイル電流を流すと、U相がN極になり、V相がS極になるものとする。その後、U相のコイル135からW相のコイル137にコイル電流が流れるように励磁すると、U相がN極、W相がS極となり、ロータ72は、図4(B)に示す位置で停止する。
【0019】
以下の説明において、励磁する2つの相を励磁相と表記する。なお、励磁相がX-Y相である場合、X相のコイルからY相のコイルにコイル電流を流して励磁する。なお、この際、X相がN極となり、Y相がS極となるものとする。モータ101の駆動を停止し、コイル電流が流れない様にすると、ロータ72をホールドする力が働かなくなる。この状態において、ロータ72に外部から力が加わるとロータ72は回転する。また、画像形成装置の電源投入時、画像形成装置は、ロータ72の停止位置が判らない。したがって、強制転流制御によりモータ101の回転を開始する際、画像形成装置は、まず、ロータ72の停止位置を検知する必要がある。
【0020】
一般的に、コイルは、電磁鋼板を積層したコアに銅線を巻いた構成となっている。ここで、電磁鋼板の透磁率は、外部磁界が有る場合には小さくなる。したがって、コアの透磁率に比例するコイルのインダクタンスは、外部磁界が有ると小さくなる。例えば、図4(A)の、U相のコイル135の様に、ロータ72のS極のみが対向している状態では、ロータ72による外部磁界の影響が大きいため、U相のコイル135のインダクタンスの低下率は大きくなる。なお、外部磁界が有る場合においては、コイル電流によって生じる磁界の方向が、外部磁界の方向と同じ場合、逆方向の場合よりもインダクタンスの低下量が大きくなる。図4(A)の状態において、U相にはロータ72のS極が対向しているため、U相をN極とする方向にコイル電流を流した場合のインダクタンスの低下量は、U相をS極とする方向にコイル電流を流した場合より大きくなる。
【0021】
一方、図4(A)の状態において、W相のコイル137には、ロータ72のS極とN極の中間部分が対向しているため、ロータ72による外部磁界の影響が小さく、インダクタンスの低下率は小さくなる。この様に、ロータ72の停止位置に応じて、U相のコイル135、V相のコイル136及びW相のコイル137のインダクタンスが変化する。ロータ72が図4(A)の状態で停止している場合において、各励磁相を励磁した際の合成インダクタンスの一例を図5(A)に示す。なお、以下の説明において、X-Y相を励磁した場合にロータ72が停止する位置を"X-Y相の位置"と表記する。
【0022】
ロータ72はU-V相の位置に停止しているため、図5(A)に示す様に、U-V相を励磁した際のU-V相の合成インダクタンスが最も小さくなっている。したがって、各励磁相を励磁することで各励磁相の合成インダクタンスを求めて比較することで、ロータ72の停止位置を判定することができる。以下の説明において、励磁相を励磁して、当該励磁相の合成インダクタンスを求め、相対的な大小関係を判定することを、相対値検知処理と表記する。
【0023】
本実施形態では、全6つの励磁相それぞれを順に励磁し、所定時間後のコイル電流を測定することで合成インダクタンスを判定する。合成インダクタンスが小さくなる程、コイル電流の立ち上がりは速くなるため、ロータ72がU-V相の位置に停止している場合、U-V相を励磁した際の所定時間後のコイル電流は、他の励磁相を励磁した場合より大きくなる。なお、ロータ72が、電気角的に隣接する2つの励磁相の中間、つまり、例えば、U-V相の位置とU-W相の位置との中間に停止しているものとする。この場合、U-V相を励磁した際と、U-W相を励磁した際の所定時間後のコイル電流は同程度の値であり、かつ、他の励磁相を励磁した際より大きくなる。本実施形態では、いずれか1つの励磁相を励磁した際のコイル電流が、他の励磁相を励磁した際のコイル電流より大きいと、当該1つの励磁相の位置にロータ72が停止していると判定する。また、電気角的に隣り合う2つの励磁相を励磁した際のコイル電流が同程度の値であり、かつ、他の励磁相を励磁した際より大きい場合、当該2つの励磁相の中間位置にロータ72が停止していると判定する。
【0024】
以下、本実施形態の相対値検知処理について具体的に説明する。例えば、U-V相を励磁する場合、PWMポート127のU-H端子及びV-H端子から、図5(B)に示す様にデューティ(duty)が変化するPWM信号を出力する。具体的には、A区間(0.5ms)において、U-H端子から出力するPWM信号のデューティを半波の正弦波状に変化させる。なお、デューティの最大値は、例えば80%とする。この間、V-L端子はハイレベル(デューティ100%)とし、その他の端子はローレベル(デューティ0%)とする。A区間に続くB区間(0.5ms)において、V-H端子から出力するPWM信号のデューティを半波の正弦波状に変化させる。この間、U-L端子はハイレベル(デューティ100%)とし、その他の端子はローレベル(デューティ0%)とする。A区間及びB区間の期間は、検知精度を確保し、かつ、ロータ72を回転させない様に決定され、本実施形態においてはそれぞれ0.5msとしている。A区間のデューティの最大値は、十分な検知精度となるコイル電流が流れる様に決定する。また、B区間のデューティの最大値は、A区間及びB区間でのコイルのインダクタンス成分に生じたそれぞれの電圧時間積の和が、凡そ零となる様に設定する。このように設定することで、図5(B)に示すように、B区間の間、コイル電流は滑らかに減少し、B区間の終了時点においてコイル電流が略0となる。
【0025】
図6は、モータ101の起動処理の説明図である。なお、以下の説明において、感光体13Y、13M及び13Cを画像形成時の回転方向に回転させるためのロータ72の回転方向を正方向と呼び、正方向とは反対の方向を逆方向と呼ぶものとする。まず、制御部31は、相対値検知処理を行って、ロータ72の停止位置を検知する。ロータ72の停止位置、つまり、回転開始時の初期位置を検知すると、制御部31は、初期位置に基づき強制転流制御を行ってロータ72を正方向に回転させる。強制転流制御において、制御部31は、励磁相の切り替えを徐々に速くし、これにより、ロータ72の回転速度を上げていく。ロータ72の回転速度が所定の閾値に達すると、モータ制御部120は、強制転流制御からセンサレス駆動に切り替える。センサレス駆動においては、誘起電圧に基づきロータ72の位置及び回転速度を推定する。なお、強制転流制御の期間において、制御部31は、励磁相の切り替え速度に基づきロータ72の回転速度を判定する。制御部31は、異常判定タイミングにおいて、ロータ72の回転速度を検出し、検出したロータ72の回転速度が所定速度より小さいと、制御部31は、モータ101の起動、つまり、ロータ72を正方向に回転させる制御が失敗したと判定する。なお、異常判定タイミングにおいて、制御部31は、ロータ72が当該所定速度より速い回転速度で回転する様に制御を行っているものとする。
【0026】
この様に、制御部31は、ロータ72の回転速度からモータ101の起動の失敗を検出できるが、起動失敗の原因が、モータ101の故障であるか、モータ101の負荷異常であるかを判別することができない。ここで、図2において説明した様に、カップリング17Y、17M及び17Cには、バックラッシュが設けられている。したがって、バックラッシュ量以内であれば、モータ101の動力が負荷に伝達されない状態で、ロータ72を逆方向に回転させることができる。つまり、モータ101が正常であれば、バックラッシュ量以内の回転量でロータ72を逆方向に回転させることができる。なお、モータ101が故障している場合、ロータ72を逆回転方向に回転させることはできない。本実施形態では、異常判定タイミングにおいて、モータ101の起動が失敗すると、上記特性を利用して以下に説明する原因特定処理を実行する。
【0027】
図7は、本実施形態による原因特定処理のフローチャートである。制御部31は、S10において、相対値検知処理を行って、ロータ72の停止位置Aを検知する。制御部31は、S11で、強制転流制御により、ロータ72を所定量だけ逆方向に回転させる。逆方向への回転量は、カップリング17Y、17M及び17Cにおけるバックラッシュ量以下である。つまり、逆方向への回転量は、負荷である感光体13Y、13M及び13Cにモータ101の動力が伝わらず、よって、モータ101の負荷が略0となる量とする。また、逆方向への回転量は、逆方向への回転後のロータ72の停止位置が、停止位置Aにならない様に設定する。制御部31は、S12において、相対値検知処理を行って、ロータ72の停止位置Bを検知する。制御部31は、S13において停止位置Aと停止位置Bが同じであるか否かを判定する。停止位置Aと停止位置Bが同じであることはロータ72が回転していないことを意味するため、制御部31は、S14で、モータ101の故障と判定する。一方、停止位置Aと停止位置Bとが同じではないと、モータ制御部120は、S15において、負荷異常、つまり、感光体13Y、13M及び13Cの故障と判定する。
【0028】
制御部31は、図7の処理により、モータ101の起動失敗の原因がモータ101の故障によるものか、モータ101の負荷異常によるものかを判定することができる。制御部31は、判定結果に応じて負荷である感光体13Y、13M、13Cを交換すべきか、モータ101を交換すべきかをユーザに通知することができる。
【0029】
以上、モータ101の動力を負荷に伝達する伝達機構にバックラッシュを設け、ロータ72をこのバックラッシュ量だけ逆回転させても負荷に動力が伝わらない様にする。つまり、モータ101をバックラッシュ量だけ略無負荷で逆回転可能な様に構成する。そして、モータ101の起動が失敗すると、ロータ72をバックラッシュ量以内の所定量だけ逆回転させ、ロータ72が逆回転しているか否かを判定する。この構成により、モータ101の起動失敗が負荷異常によるものか、モータ101自体の故障によるものかを判定することができる。なお、本例においては、カップリング17Y、17M及び17Cにバックラッシュを設けていたが、本発明は、その様な構成に限定されない。具体的には、モータ101の動力を負荷(感光体)に伝達する伝達機構の中にバックラッシュが設けられていれば良い。
【0030】
なお、図7のS13において、停止位置Aと停止位置Bが同じであるとモータ101の故障と判定し、それ以外の場合には負荷異常と判定していた。しかしながら、停止位置Aと停止位置Bとの差(位相差)が所定値より小さいと、モータ101の故障と判定し、それ以外の場合には負荷異常と判定する構成であっても良い。なお、この場合、S11での逆方向に回転させる所定量は、停止位置Aと停止位置Bとの位相差を当該所定値以上にする量に設定する。
【0031】
また、停止位置Aにあるロータ72が所定量だけ逆回転したと仮定して、逆回転後のロータ72の計算上の停止位置Zを求め、S12で検知した実際の停止位置Bと停止位置Zとを比較することでモータ101の故障であるか否かを判定する構成とすることもできる。この場合、停止位置Zと停止位置Bとの位相差が所定値以上であると、モータの故障と判定し、所定値より小さいと負荷異常と判定する。なお、この場合、S11での逆方向に回転させる所定量は、当該所定値以上に設定する。
【0032】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について第一実施形態との相違点を中心に説明する。図8は、定着部30の駆動構成を示している。定着部30は、加熱ローラと、加圧ローラ203と、を有し、加熱ローラは、加圧ローラ203の回転に従属して回転する。モータ102は、駆動力の伝達機構を介して、その動力を加圧ローラ203及び当接離間機構207に伝達する。なお、伝達機構は、モータ102が正方向に回転すると、その動力を加圧ローラ203に伝達し、モータ102が逆方向に回転すると、その動力を当接離間機構207に伝達する様に構成される。当接離間機構207は、モータ102の回転に応じて不図示のカムを動作させ、加圧ローラ203を加熱ローラに当接させる当接状態と、加圧ローラ203を加熱ローラから離間させる離間状態に定着部30を設定する様に構成される。なお、定着部30の状態が、当接状態及び離間状態のいずれであるかは、不図示のセンサが検出する。画像形成装置は、電源OFF時やスリープモードへの遷移時、定着部30を離間状態にすることで、加熱ローラの劣化を抑え、加熱ローラの不良により画像不良が発生することを抑える。なお、モータ102の構成及びその制御構成は、モータ101の構成及びその制御構成と同様であり、その説明は省略する。
【0033】
図9は、本実施形態による原因特定処理のフローチャートである。制御部31は、S20において、相対値検知処理を行って、ロータ72の停止位置Cを検知する。制御部31は、S21で、強制転流制御により、ロータ72を逆方向に回転させ、ロータ72の回転数が閾値以上になると、S22で、センサレス駆動によりロータ72を逆方向に回転させる。制御部31は、S23で、ロータ72の回転速度が所定速度以上であるかを判定する。つまり、S20~S23の処理は、ロータ72を正方向に回転させる際の起動失敗の判定と同じ処理を、逆回転においても行うものである。なお、正方向と逆方向の起動失敗を判定するための所定速度は同じである必要はない。
【0034】
S23において、ロータ72の回転速度が所定速度以上ではないと、制御部31は、S27で、モータ102の故障と判定する。一方、S23において、ロータ72の回転速度が所定速度以上であると、制御部31は、S24で、定着部30の故障と判定する。さらに、制御部31は、S25において、不図示のセンサにより定着部30が離間状態となったかを判定する。離間状態になっていると、定着部30は、定着部30は故障しているが、当接離間機構207は正常であると判定する。一方、離間状態にならないと、定着部30は、S26で、定着部30に加えて当接離間機構207も故障と判定する。
【0035】
以上、モータ102の回転方向に応じて異なる負荷に動力が伝わる様に伝達機構を構成する。そして、両方向において起動が失敗する場合、モータ102の故障と判定する。これに対して、一方の回転方向における起動が失敗するが、他方の回転方向における起動が成功する場合、当該一方の回転方向にモータ102を回転させた場合に回転する負荷の異常と判定する。この構成により、モータ102の起動失敗が負荷異常によるものか、モータ102自体の故障によるものかを判定することができる。
【0036】
<その他>
なお、第一実施形態では負荷を感光体とし、第二実施形態では負荷を定着部30及び当接離間機構207としたが例示であり、負荷は、これらに限定されない。具体的には、逆方向に所定量だけ略無負荷で回転できる様に構成された伝達機構を利用するのであれば、任意の負荷に対して第一実施形態の構成を適用できる。また、回転方向に応じて異なる負荷に動力が伝わる様に構成された伝達機構を利用するのであれば、任意の負荷に対して第二実施形態の構成を適用できる。また、上記各実施形態では、異常判定タイミングにおいて所定の回転速度に達していないと起動失敗と判定したが、他の基準による起動の失敗を判定する構成であっても良い。
【0037】
さらに、画像形成装置を例にして上記各実施形態を説明したが、本発明は、上記の伝達機構を利用してモータの動力を負荷に伝達する任意の装置に対して適用することができる。さらに、本発明は、上記の伝達機構を利用して負荷に動力を伝達するモータを制御するモータ制御装置として実現することもできる。モータ制御装置は、図3のモータ制御部120と、制御部31のモータ制御に係る機能ブロックと、を有する。さらに、本発明は、当該モータ制御装置におけるモータの制御方法として実現することもできる。
【0038】
[その他の実施形態]
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0039】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0040】
101:モータ、17Y、17M、17C:カップリング、31:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9