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特許7475158プライマー塗膜用組成物、プライマー塗膜用組成物セット及びプライマー塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】プライマー塗膜用組成物、プライマー塗膜用組成物セット及びプライマー塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 175/04 20060101AFI20240419BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240419BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240419BHJP
   C08G 18/76 20060101ALI20240419BHJP
   C08G 18/72 20060101ALI20240419BHJP
   C08G 18/48 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C09D175/04
C09D5/00 D
C09D7/61
C08G18/76 057
C08G18/72 040
C08G18/48
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020027367
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2020139150
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2019031919
(32)【優先日】2019-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】392035064
【氏名又は名称】保土谷建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100201226
【弁理士】
【氏名又は名称】水木 佐綾子
(72)【発明者】
【氏名】林 健一
(72)【発明者】
【氏名】生田目 渉
(72)【発明者】
【氏名】前畑 国光
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516829(JP,A)
【文献】特表2002-533543(JP,A)
【文献】特開2013-067699(JP,A)
【文献】特開2000-327956(JP,A)
【文献】特開2004-083696(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
C08G 18/00 - 18/87
C08G 71/00 - 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物と、該被塗物上に設けられたプライマー塗膜と、前記プライマー塗膜上に設けられた塗膜防水材とを備える積層体における、前記プライマー塗膜を形成する無溶剤型のプライマー塗膜用組成物セットであって、
芳香族ポリイソシアネート又はその変性物と、脂肪族ジイソシアネートの変性物とを含有する主剤と、ヒドロキシ化合物を含有する硬化剤と、を含有する、セット。
【請求項2】
前記ヒドロキシ化合物は、ポリアルキレングリコール、天然物由来のポリオール又はその変性物、炭素数2~20の多価アルコール、炭素数2~20の多価アルコール若しくは炭素数6~26の多価フェノールに炭素数2~4のアルキレンオキサイドが付加されたポリオキシアルキレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリジエンポリオール、ポリジエンポリオールの水添物及びアクリル系ポリオールから選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のセット。
【請求項3】
前記芳香族ポリイソシアネート又はその変性物は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性物、ジフェニルメタンジイソシアネートのポリオール変性物、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のセット
【請求項4】
前記脂肪族ジイソシアネートの変性物は、ヘキサメチレンジイソシアネートの変性物である、請求項1~3のいずれか一項に記載のセット
【請求項5】
前記脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量が、前記主剤全量基準で、80質量%未満である、請求項1~のいずれか一項に記載のセット
【請求項6】
前記芳香族ポリイソシアネート又はその変性物の含有量が、前記芳香族ポリイソシアネート又はその変性物、及び前記脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量の合計を基準として、20質量%より大きい、請求項1~のいずれか一項に記載のセット
【請求項7】
前記被塗物は、コンクリートである、請求項1~6のいずれか一項に記載のセット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のセットの硬化物を含む、プライマー塗膜。
【請求項9】
前記硬化物は、セメントを含む、請求項8に記載のプライマー塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー塗膜用組成物、プライマー塗膜用組成物セット及びプライマー塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜防水材は、建物の屋上、ベランダ、廊下等の防水材として使用され、更には、塗床材、スポーツ施設の弾性舗装等の用途にも広く使用されている。気密性の高い室内、ピット等の密閉系構造物内における塗膜防水材においては、塗膜防水材(上塗り塗膜)と被塗物との接着性を高めるために、プライマー塗膜(下塗り塗膜)が塗工される場合がある。
【0003】
プライマー塗膜に用いられる組成物(プライマー塗膜用組成物)においては、被塗物の汚れを除去するため、又は粘度を調整して作業性を改良するために有機溶剤が用いられている。しかし、作業従事者の安全性、及び環境に配慮して、近年では有機溶剤を含まないプライマー塗膜用組成物が開発されている。例えば特許文献1には、鋼材の防食性に優れたウレタン防食塗料に用いられる、無溶剤型の二液反応型ウレタンプライマーが開示されている。このような無溶剤型のプライマー塗膜用組成物では、その接着性を向上させるために種々の研究がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-319704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らの検討によれば、プライマー塗膜用組成物の中には低温環境下で変質するものがあり、このようなプライマー塗膜用組成物は、冬季又は寒冷地での使用に際して安定に貯蔵されることが難しい。したがって、プライマー塗膜用組成物の低温下での貯蔵安定性を改善することが望ましい。
【0006】
本発明の一側面は、低温下での貯蔵安定性に優れたプライマー塗膜用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、芳香族ポリイソシアネート又はその変性物と、脂肪族ジイソシアネートの変性物と、を含有する、プライマー塗膜用組成物を提供する。
【0008】
芳香族ポリイソシアネート又はその変性物は、好ましくは、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性物、ジフェニルメタンジイソシアネートのポリオール変性物、及びポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
脂肪族ジイソシアネートの変性物は、好ましくはヘキサメチレンジイソシアネートの変性物である。
【0010】
脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量は、プライマー塗膜用組成物全量基準で、80質量%未満であってもよい。
【0011】
芳香族ポリイソシアネート又はその変性物の含有量が、芳香族ポリイソシアネート又はその変性物、及び脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量の合計を基準として、20質量%より大きくてもよい。
【0012】
本発明の他の一側面は、上記のプライマー塗膜用組成物からなる主剤と、硬化剤と、を備える、プライマー塗膜用組成物セットを提供する。
【0013】
硬化剤は、好ましくはヒドロキシ化合物を含有する。
【0014】
本発明の他の一側面は、上記のプライマー塗膜用組成物セットにおける主剤及び硬化剤の混合物を含有する硬化物を含む、プライマー塗膜を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温下での貯蔵安定性に優れたプライマー塗膜用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
一実施形態に係るプライマー塗膜(下塗り塗膜)用組成物セットは、主剤と、硬化剤とを備える。主剤は、一実施形態において、芳香族ポリイソシアネート又はその変性物と、脂肪族ジイソシアネートの変性物とを含有する、プライマー塗膜用組成物である。
【0018】
芳香族ポリイソシアネートは、分子内にイソシアネート基を2つ以上有する芳香族化合物(例えば、芳香族炭化水素化合物の水素原子2つ以上がイソシアネート基で置換された化合物)である。芳香族ポリイソシアネートは、分子内にイソシアネート基を2つ有する芳香族ジイソシアネートであってよい。芳香族ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート又はこれらの混合物を含む。)(MDI)、トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート又はこれらの混合物を含む。)(TDI)、キシリレンジイソシアネート(1,2-キシリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート又はこれらの混合物を含む。)(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(1,3-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート又はこれらの混合物を含む)(TMXDI)、ナフタレンジイソシネート(1,5-ナフタレンジイソシネート)(NDI)等が挙げられる。芳香族ポリイソシアネートは、下記式(1)で表されるポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)であってもよい。
【化1】

(式中、nは正の整数を表す。)
【0019】
芳香族ポリイソシアネートは、反応性に優れ硬化時間を短縮できる観点から、好ましくはジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)であり、より好ましくは、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、及びこれらの混合物である。
【0020】
芳香族ポリイソシアネートの変性物は、上述した芳香族ポリイソシアネートに由来する反応生成物である。芳香族ポリイソシアネートの変性物は、例えば、芳香族ポリイソシアネートのカルボジイミド変性物、芳香族ポリイソシアネートのポリオール変性物であってよい。
【0021】
芳香族ポリイソシアネートのカルボジイミド変性物とは、上述した芳香族ポリイソシアネートを公知のカルボジイミド化触媒の下で反応させて得られる、少なくとも1つのカルボジイミド基を有する化合物をいう。本明細書における芳香族ポリイソシアネートのカルボジイミド変性物には、カルボジイミド基に更にイソシアネート基が付加することにより生成されるウレトンイミン構造を有する化合物が含まれていてもよい。芳香族ポリイソシアネートの変性物は、好ましくは、ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性物(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性物、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性物)である。
【0022】
芳香族ポリイソシアネートのポリオール変性物は、芳香族ポリイソシアネートとポリオールとを反応させて得られる化合物である。芳香族ポリイソシアネートのポリオール変性物は、ジフェニルメタンジイソシアネートのポリオール変性物(4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのポリオール変性物、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートのポリオール変性物。MDIプレポリマーとも呼ばれる。)であってもよい。
【0023】
芳香族ポリイソシアネート又はその変性物としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、東ソー(株)製の、ミリオネートMT(4,4’-MDIを含む)、ミリオネートNM(4,4’-MDI及び2,4’-MDIを含む)、ミリオネートMR-100、ミリオネートMR-200、ミリオネートMR-300(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含む)、ミリオネートMTL(MDIのカルボジイミド変性物を含む)、コロネート1050、コロネート1057(ポリオール変性MDIを含む)、BASF INOAC ポリウレタン(株)製の、ルプラネートMS(4,4’-MDIを含む)、ルプラネートMI(4,4’-MDI及び2,4’-MDIを含む)、ルプラネートM20S、ルプラネートM11S、ルプラネートM5S(ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートを含む)、ルプラネートMM103(MDIのカルボジイミド変性物を含む)、ルプラネートMP-102(ウレタン変性MDIを含む)、ルプラネートMB-301(変性MDIを含む)等が挙げられる。
【0024】
芳香族ポリイソシアネート又はその変性物の含有量は、プライマー塗膜用組成物(主剤)全量基準で、2.5質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、又は75質量%以上であってよく、95質量%以下、93質量%以下、又は90質量%以下であってよい。
【0025】
芳香族ポリイソシアネート又はその変性物の含有量は、塗布後のタックを抑制して上塗り塗膜を施工しやすくする観点から、プライマー塗膜用組成物に含まれる芳香族ポリイソシアネート又はその変性物、及び脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量の合計を基準として、20質量%より大きくてよく、25質量%以上、30質量%以上、又は40質量%以上であってもよく、40質量%より大きくてもよい。芳香族ポリイソシアネート又はその変性物の含有量は、上記含有量の合計を基準として、95質量%以下、93質量%以下、又は90質量%以下であってもよい。
【0026】
プライマー塗膜用組成物が、芳香族ポリイソシアネートとして、4,4’-MDI及び2,4’-MDIを含有する場合、2,4’-MDIに対する4,4’-MDIの含有量の比(4,4’-MDI/2,4’-MDI)は、質量比で、5/95以上、10/90以上、30/70以上、40/60以上、又は45/55以上であってよく、95/5以下、80/20以下、70/30以下、又は60/40以下であってよい。
【0027】
プライマー塗膜用組成物は、芳香族ポリイソシアネートのみを含んでいてもよく、芳香族ポリイソシアネートの変性物のみを含んでいてもよい。プライマー塗膜用組成物が芳香族ポリイソシアネート及びその変性物を含有する場合、芳香族ポリイソシアネートの変性物に対する芳香族ポリイソシアネートの含有量の比(芳香族ポリイソシアネート/芳香族ポリイソシアネートの変性物)は、質量比で、10/90以上、20/80以上、40/60以上、60/40以上、65/35以上、又は70/30以上であってよく、90/10以下、85/15以下、又は80/20以下であってよい。
【0028】
脂肪族ジイソシアネートの変性物は、分子内にイソシアネート基を2つ有する脂肪族化合物(例えば、脂肪族炭化水素化合物の水素原子2つがイソシアネート基で置換された化合物)に由来する反応生成物である。脂肪族ジイソシアネートの変性物における脂肪族ジイソシアネートは、トリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート(1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート)、ヘキサメチレンジイソシアネート(1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート)、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート等であってよい。脂肪族ジイソシアネートは、低温下での貯蔵安定性を更に向上させる観点から、好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)である。
【0029】
脂肪族ジイソシアネートの変性物は、上述した脂肪族ジイソシアネートの反応生成物であって、イソシアネート基を2つ以上有する化合物であってよい。脂肪族ジイソシアネートの変性物は、より具体的には、イソシアヌレート基を有する変性物(イソシアヌレート体)、アロファネート基を有する変性物(アロファネート体)、ビュレット基を有する変性物(ビュレット体)、ウレタン基を有する変性物(アダクト体と呼ばれる化合物、及びプレポリマーと呼ばれる化合物を含む)、ウレトジオン基を有する変性物(ウレトジオン体)等であってよい。
【0030】
イソシアヌレート基を有する変性物は、例えば、三分子の脂肪族ジイソシアネート同士の反応によって得られる三量体(トリマー)であってよい。アロファネート基を有する変性物は、例えば、脂肪族ジイソシアネートとアルコールとの反応により形成されたウレタン基を有する化合物と、脂肪族ジイソシアネートとの反応生成物であってよい。ビュレット基を有する変性物は、例えば、脂肪族ジイソシアネートとアミンとの反応により形成されたウレア基を有する化合物と、脂肪族ジイソシアネートとの反応生成物であってよい。ウレタン基を有する変性物は、例えば、脂肪族ジイソシアネートと多価アルコールとの反応生成物であってよい。ウレトジオン基を有する変性物は、例えば、2分子の脂肪族ジイソシアネート同士の反応によって得られる二量体であってよい。
【0031】
脂肪族ジイソシアネートの変性物は、好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の変性物であり、より好ましくは、HDIのイソシアヌレート体(HDIトリマー)、及びHDIのアロファネート体からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0032】
脂肪族ジイソシアネートの変性物としては、市販品を用いることもできる。イソシアヌレート基を有する変性物の市販品としては、コロネートHX、コロネートHXR、コロネートHXLV、コロネートHK(以上、東ソー(株)製)、デュラネートTPA-100、デュラネートTKA-100、デュラネートMFA-75B、デュラネートMHG-80B、デュラネートTUL-100、デュラネートTLA-100、デュラネートSA-100、デュラネートTSS-100、デュラネートTSE-100(以上、旭化成(株)製)等が挙げられる。アロファネート基を有する変性物の市販品としては、コロネート2770(東ソー(株)製)等が挙げられる。ビュレット基を有する変性物の市販品としては、デュラネート18H、デュラネート21S、デュラネート22A、デュラネート24A-100、デュラネート22A-75P、デュラネート21S-75E(以上、旭化成(株)製)等が挙げられる。ウレタン基を有する変性物の市販品としては、コロネートHL、コロネート2349(以上、東ソー(株)製)、デュラネートP301-75E、デュラネートE402-80B、デュラネートE-405-70B、デュラネートX-2347、デュラネートX-3156、デュラネートD101、デュラネートD201、デュラネートA201H(以上、旭化成(株)製)等が挙げられる。ウレトジオン基を有する変性物の市販品としては、コロネート2365(東ソー(株)製)等が挙げられる。また、イソシアヌレート基を有する変性物及びアロファネート基を有する変性物の混合物の市販品としては、コロネート2760(東ソー(株)製)等が挙げられる。
【0033】
脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量は、低温下での貯蔵安定性を更に向上させる観点から、プライマー塗膜用組成物(主剤)全量基準で、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。また、脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量は、塗布後の硬化性を向上させる観点から、プライマー塗膜用組成物(主剤)全量基準で、好ましくは97.5質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下であり、塗布後のタックを抑制して上塗り塗膜を施工しやすくする観点から、80質量%未満、60質量%以下、60質量%未満、55質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下であってもよい。
【0034】
脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量は、塗布後のタックを抑制して上塗り塗膜を施工しやすくする観点から、プライマー塗膜用組成物に含まれる芳香族ポリイソシアネート又はその変性物、及び脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量の合計を基準として、80質量%未満、60質量%以下、60質量%未満、55質量%以下、50質量%以下、又は40質量%以下であってよい。脂肪族ジイソシアネートの変性物の含有量は、上記含有量の合計を基準として、5質量%以上、7質量%以上、又は10質量%以上であってよい。
【0035】
プライマー塗膜用組成物は、芳香族ポリイソシアネート又はその変性物、及び脂肪族ジイソシアネートの変性物以外に、他の添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、可塑剤、湿潤分散剤、消泡剤、レオロジーコントロール剤、表面調整剤、密着性付与剤、光安定剤、触媒等が挙げられる。
【0036】
プライマー塗膜用組成物の粘度は、作業性の観点、及び被塗物への密着性の観点から、23℃において、好ましくは15000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、更に好ましくは3000mPa・s以下、特に好ましくは1000mPa・s以下である。粘度は、単一円筒型回転粘度計(例えば、ビスメトロンVS-A1(芝浦システム(株)))によって測定することができる。
【0037】
硬化剤は、例えばヒドロキシ化合物等の架橋剤を含有してよい。ヒドロキシ化合物は、ポリプロピレングリコール(PPG)等のポリアルキレングリコール、ヒマシ油等の天然物由来のポリオール又はその変性物、炭素数2~20の多価アルコール、炭素数2~20の多価アルコール若しくは炭素数6~26の多価フェノールに炭素数2~4のアルキレンオキサイドが付加されたポリオキシアルキレンポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリジエンポリオール(ポリブタジエンポリオール等)、ポリジエンポリオールの水添物、アクリル系ポリオールなどであってよい。
【0038】
ヒドロキシ化合物がポリアルキレングリコールである場合、ポリアルキレングリコールの数平均分子量(Mn)は、良好な接着性を得る観点から、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下であり、1500以下であってもよい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量(Mw)は、例えば、200以上、400以上、又は1000以上であってよい。
【0039】
数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質として、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される値を意味し、以下の条件で測定することができる。
装置:TOSOH HCL-8320(東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000H+G2500H(7.5mmI.D×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:RI
溶離液:THF
注入量:100μL
流速:1.0mL/分
測定温度:40℃
サンプル濃度:0.3wt/vol%
【0040】
硬化剤に含まれる架橋剤の含有量は、硬化剤全量を基準として、80質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上であってよく、100質量%以下、又は99.5質量%以下であってよい。
【0041】
硬化剤は、架橋剤の他に、可塑剤;溶剤;触媒;炭酸カルシウム、タルク、カオリン、ゼオライト、ケイソウ土等の無機充填材;酸化クロム、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン等の顔料;湿潤分散剤、レオロジーコントロール剤、光安定剤、消泡剤、表面調整剤、密着付与剤等の添加剤などを更に含有してもよい。
【0042】
以上説明したプライマー塗膜用組成物(主剤)と、硬化剤とを含有する混合物を硬化させることにより、プライマー塗膜が得られる。すなわち、一実施形態に係るプライマー塗膜は、上述したプライマー塗膜用組成物及び硬化剤を含有する混合物の硬化物を含む。
【0043】
一実施形態に係るプライマー塗膜の形成方法は、上述したプライマー塗膜用組成物セットにおける主剤及び硬化剤を混合する工程(混合工程)と、混合物を被塗物に塗布する工程(塗布工程)と、を備える。
【0044】
混合工程において、硬化剤に対する主剤の混合比(主剤/硬化剤)は、質量比で、0.4以上、0.6以上、1以上であってよく、4以下、3以下、又は2以下であってよい。
【0045】
硬化剤がヒドロキシ化合物を含有する場合、硬化剤中のOH基に対する主剤中のNCO基の当量比(NCO基/OH基)は、0.7以上、又は1.0以上であってよく、4.0以下、3.0以下、又は2.6以下であってよい。当量比(NCO基/OH基)が上記範囲内であると、所望の可使時間、及び硬化物の物性が確保しやすくなる。また、当量比(NCO基/OH基)が上記範囲内であると、プライマー塗膜(硬化物)と塗膜防水材(上塗り塗膜)との層間接着性も優れる。
【0046】
混合工程では、主剤及び硬化剤に加えて、セメントを更に混合してもよい。セメントは公知のものが用いられてよい。セメントは、例えば、ポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント)、混合セメント(フライアッシュセメント、アルミナセメント)等であってよい。
【0047】
セメントの配合量は、細かな目地部やクラック等における塗布を容易にする観点、及び湿気による発泡を抑制する観点から、主剤及び硬化剤の合計100質量部に対して、好ましくは30質量部以上、40質量部以上、又は50質量部以上であり、100質量部以下、90質量部以下、80質量部以下、75質量部以下、又は70質量部以下であってよい。
【0048】
塗布工程では、得られた混合物が硬化する前に、当該混合物を被塗物に塗布する。被塗物は特に限定されず、家屋又はビルディング等の建築物における壁面、床面等であってよい。本実施形態に係る主剤及び硬化剤の混合物は、十分な可使時間を有するため、手塗りによる塗布(手塗り塗工)にも適している。手塗りによる塗布には、スタティックミキサー、ダイナミックミキサー等の自動混合装置などの機械による塗布、ローラー、リシンガン、エアレスガン、刷毛等の道具を使用した塗布も含まれる。本実施形態に係る混合物は、スプレーによる塗布(スプレー塗工)がされてもよい。
【0049】
上述したプライマー塗膜用組成物セットを用いることにより、プライマー塗膜(下塗り塗膜)及び塗膜防水材(上塗り塗膜)を備える積層体を得ることができる。一実施形態に係る積層体は、被塗物上に設けられたプライマー塗膜と、プライマー塗膜上に設けられた塗膜防水材と、を備える。プライマー塗膜は、上述したプライマー塗膜用組成物セットから得ることができる。被塗物は、上述した態様と同様である。
【0050】
塗膜防水材は特に限定されないが、例えば、ポリウレタン製の塗膜防水材であってよい。ポリウレタン製の塗膜防水材は、一実施形態において、イソシアネート基末端プレポリマーを含有する主剤(塗膜防水材用主剤)と、硬化剤(防水塗膜用硬化剤)との混合物の硬化物であってよい。イソシアネート基末端プレポリマーは、例えばポリアルキレングリコール、ポリエーテルポリオール等を含有するポリオールと、ポリイソシアネートとの反応生成物であってよい。硬化剤は、上述したヒドロキシ化合物であってよく、芳香族ポリアミン、脂環族ポリアミン、脂肪族ポリアミン等のポリアミンであってもよい。
【0051】
プライマー塗膜及び塗膜防水材(上塗り塗膜)を備える積層体の製造方法は、一実施形態において、被塗物上にプライマー塗膜を形成する工程と、プライマー塗膜上に塗膜防水材を形成する工程と、を備える。プライマー塗膜を形成する工程は、上述した、プライマー塗膜の形成方法における態様と同様である。
【0052】
塗膜防水材を形成する工程は、塗膜防水材用主剤と塗膜防水材用硬化剤とを含有する混合物を得る工程(混合工程)と、プライマー塗膜上に混合物を塗布する工程(塗布工程)と、を備える。混合工程において、塗膜防水材用主剤及び塗膜防水材用硬化剤の混合比及び混合条件は、主剤及び硬化剤の種類に応じて適宜設定されてよい。塗布工程において、混合物をプライマー塗膜上に塗布する方法は、上述した、プライマー塗膜用組成物及び硬化剤を含有する混合物を被塗物上に塗布する方法と同様の方法であってよい。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
以下の表において、表中の略称は下記の成分を示す。
(芳香族ポリイソシアネート又はその変性物)
A-1:4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(製品名:ミリオネートMT、東ソー(株)製(以下同様))
A-2:4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート(45質量%)及び2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(55質量%)の混合物(製品名:ミリオネートNM)
A-3:ジフェニルメタンジイソシアネートのカルボジイミド変性物を含む組成物(製品名:ミリオネートMTL)
A-4:ジフェニルメタンジイソシアネートをポリオールにより一部反応させ得られた変性物(製品名:コロネート1050)
A-5:ジフェニルメタンジイソシアネートをポリオールにより一部反応させ得られた変性物(製品名:コロネート1057)
【0055】
(脂肪族ジイソシアネートの変性物)
B-1、B-2、B-3、B-4:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(それぞれ、製品名:コロネートHX、コロネートHXR、コロネートHXLV、コロネートHK)
B-5:ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体及びヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(HDIトリマー)の混合物(製品名:コロネート2760)
B-6:ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体(製品名:コロネート2770)
(可塑剤)
C-1:アジピン酸イソノニル(製品名:DINA、田岡化学工業(株)製)
【0056】
(架橋剤)
D-1:ジオール型ポリプロピレングリコール(Mn=400、製品名:アクトコールD-400、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
D-2:トリオール型ポリプロピレングリコール(Mn=400、製品名:アクトコールT-400、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
D-3:ジオール型ポリプロピレングリコール(Mn=1500、製品名:アクトコールD-1500、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
D-4:トリオール型ポリプロピレングリコール(Mn=1500、製品名:アクトコールT-1500、三井化学SKCポリウレタン(株)製)
D-5:ヒマシ油(製品名:マルトクA、伊藤製油(株)製)
【0057】
<プライマー塗膜用組成物(主剤)の調製>
実施例及び比較例においては、表1~3に示す組成に基づき原料を混合して、下記に示す方法により、プライマー塗膜用組成物を得た。
まず、四つ口フラスコに所定の芳香族ポリイソシアネート又はその変性物と、脂肪族ジイソシアネートの変性物、及び可塑剤を仕込み、窒素ガス雰囲気下で、撹拌しながら10~30℃で30分間混合させて各主剤を得た。
【0058】
<低温貯蔵安定性の評価>
調製したプライマー塗膜用組成物について、下記の方法により-10℃における低温貯蔵性を評価した。容量30mLのサンプル瓶へ主剤を20g封入し、温湿度試験槽(商品名「HIFLEX NEO FX―411N」、楠本化成(株))を用いて、-10℃とした環境下で貯蔵し、目視にて結晶が観察されるまでの日数を評価した。結果を表1~3に示す。観察期間は最大で90日とし、90日間結晶化しなかった(液状を保った)場合は、表において「90日」と示す。30日以上結晶化しない場合に、低温貯蔵安定性に優れているといえる。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
<可使時間の評価>
上述した実施例に係るプライマー塗膜用組成物を主剤として、この主剤と、表4~6に示す硬化剤とを混合して、混合物を得た。混合物の組成を表4~6に示す。
主剤と硬化剤とを混合した後、混合物の23℃での粘度が4000mPa・sに達するまでの時間(分)をそれぞれ測定した。表4~6において、主剤の種類として「1-1」と記載しているものは、上述した実施例1-1の主剤を用いたことを意味し、他の実施例においても同様である。また、「比1-3」は、「比較例1-3」の主剤を用いたことを意味する。
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
【表6】
【0066】
<発泡有無の評価>
23℃、湿度50%の空気循環型環境試験室内において、上述した主剤と硬化剤と、ポルトランドセメント粉(商品名「ポルトランドセメント」、太平洋セメント(株))とを、表7~10に記載の混合比(質量比)で混合して、混合物を下地(コンクリート板)に0.2kg/m塗布し、1日後の状態により発泡の有無を評価した。評価基準としては、目視観察により、発泡がなかったものをA、泡が発生したものをBとした。表7~10において、主剤及び硬化剤の種類として「2-1」と記載しているものは、上述した実施例2-1の主剤及び硬化剤の組み合わせであることを意味し、他の実施例においても同様である。また、「比2-1」又は「比2-2」は、「比較例2-1」又は「比較例2-2」の主剤及び硬化剤の組み合わせであることを意味する。
【0067】
<接着性評価>
23℃、湿度50%の空気循環型環境試験室内において、上述した主剤と、硬化剤と、ポルトランドセメント粉(商品名「ポルトランドセメント」、太平洋セメント(株))とを、表7~10に記載の混合比(質量比)で混合して、混合物を下地(コンクリート板)に塗布した試験片を作製した。上塗り材(商品名「HCエコプルーフET」、保土谷建材(株))を幅3cmの帯状とした不織布に含浸させて、これを混合物の塗布の翌日に試験片に重ねた。同様の方法にて、混合物の塗布から2日後に上塗り材を含浸させた不織布を重ねたもの、及び3日後に上塗り材を含浸させた不織布を重ねたもののそれぞれについて、1週間養生した。養生後、万能材料試験機(商品名「オートグラフAGS-X 10N-10KN」、島津製作所(株))を用いて、JIS K6854-2を参考に、帯状の不織布を180°方向へ引張り、試験片の剥離状態から接着性を評価した。評価基準としては、材料破壊が生じたものをA、材料破壊と界面剥離が混在したものをB、界面剥離が生じたものをCとした。表中、実施例3-19~3-24については、混合物塗布の翌日に混合物が硬化しなかったため、混合物塗布の2日後より評価した。
【0068】
<指触乾燥評価>
23℃、湿度50%の空気循環型環境試験室内において、上述した主剤と硬化剤と、ポルトランドセメント粉(商品名「ポルトランドセメント」、太平洋セメント(株))とを、表7~10に記載の混合比(質量比)で混合して、混合物を下地(コンクリート板)に0.2kg/m塗布した。混合物の塗布から16時間後に、塗布後の混合物を指で触れることにより乾燥の程度を評価した。評価基準としては、タックが全くないもの(上塗り材の施工が可能)をA、若干のタックがあるもの(上塗り材の施工は可能)をB、タックがあるもの(上塗り材の施工が困難)をCとした。
【0069】
【表7】
【0070】
【表8】
【0071】
【表9】
【0072】
【表10】