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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】バイオマスのガス化方法
(51)【国際特許分類】
   C10J 3/64 20060101AFI20240419BHJP
   C10J 3/54 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
C10J3/64
C10J3/54 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020033941
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134328
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】田中 琢実
(72)【発明者】
【氏名】黒本 雅哲
(72)【発明者】
【氏名】矢野 都世
(72)【発明者】
【氏名】松永 興哲
(72)【発明者】
【氏名】金澤 一樹
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157122(JP,A)
【文献】国際公開第2012/023479(WO,A1)
【文献】特開2015-229751(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0139432(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10J 3/64
C10J 3/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を実質的に含まない不活性雰囲気下でバイオマスを300℃以上350℃以下に加熱して半炭化バイオマスを得る半炭化工程と、
前記半炭化バイオマスに、少なくともカリウムを含む触媒成分の水溶液を含浸して、前記触媒成分を担持した前記半炭化バイオマスを得る触媒担持工程と、
前記触媒成分を担持した前記半炭化バイオマスを、600℃以上800℃以下の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させるガス化工程と、を含み、
前記ガス化工程によって得られる生成ガスが、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびメタンを含み、
前記ガス化工程における炭素基準のタール収率が0.8%以上2.3%以下である、バイオマスのガス化方法。
【請求項2】
前記触媒担持工程において、前記半炭化バイオマスに対する質量比が1.5%以上10%以下のカリウムを担持する請求項1に記載のバイオマスのガス化方法。
【請求項3】
前記半炭化工程に供する前記バイオマスは、工業分析法による恒湿水分が20%以下である請求項1または2に記載のバイオマスのガス化方法。
【請求項4】
前記半炭化工程に供する前記バイオマスは、工業分析法による灰分が10質量%以下である請求項1~3のいずれか一項に記載のバイオマスのガス化方法。
【請求項5】
前記半炭化工程に供する前記バイオマスは、工業分析法による固定炭素が10%以上30%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオマスのガス化方法。
【請求項6】
前記半炭化工程より先に、前記バイオマスを常温の空気中で全水分が30%を下回るまで乾燥させる乾燥工程をさらに含む請求項1~5のいずれか一項に記載のバイオマスのガス化方法。
【請求項7】
前記ガス化工程は、0.5MPa以上の圧力で実施される請求項1~6のいずれか一項に記載のバイオマスのガス化方法。
【請求項8】
前記ガス化工程は、前記半炭化バイオマス中の炭素原子の物質量Cに対する前記水蒸気Sのモル比であるS/C比が、1以上10以下である請求項1~7のいずれか一項に記載のバイオマスのガス化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスのガス化方法に関する。より詳細には、水蒸気をガス化剤としてバイオマスをガス化して、低温で高発熱量のガスを得る際に、タールの生成を抑制しながら、効率よくガス化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の燃焼に伴う二酸化炭素が地球温暖化の原因となっていると指摘されており、燃焼利用しても大気中の二酸化炭素の純増につながらないカーボンニュートラル燃料に注目が集まっている。バイオマスは、その生育過程で大気中の二酸化炭素を吸収しているので、燃焼利用しても大気中の二酸化炭素の純増につながらないカーボンニュートラル燃料とみなすことができる。バイオマスの中でも、特に農業残渣系のバイオマス、例えば、パーム油を得る過程で発生するパームヤシ空果房、サトウキビ搾汁後の残渣であるバガスなどは、食糧用途との競合がないことから、特に有効活用が期待されている。
【0003】
一方で、バイオマスの活用においては、一般に固体であることから液体や気体の化石燃料と比較して取り扱いにくいこと、水分を多く含むため質量当たりのエネルギー密度が低いこと、かさ密度が低いために体積当たりのエネルギー密度も低いこと、腐敗や変質が起こりやすく長距離輸送や長期の保存に適さないこと、などの問題がある。
【0004】
バイオマスをガス化して水素やメタンなどの可燃性ガスに変換する技術は、バイオマスの利用における上記の課題を解決でき、大きな意義がある。
【0005】
バイオマスは、炭素質の固体という観点で石炭と類似しており、そのガス化にも、基本的に石炭のガス化と同様の技術、すなわち酸素(空気)や水蒸気などをガス化剤として高温でガス化する方法が適用できると考えられる。
【0006】
炭素質固体のガス化反応は、一般に吸熱反応であるので、酸素を酸化剤として添加し、燃焼反応による発熱でガス化の吸熱を賄いながら反応する部分燃焼ガス化を比較的高温(例えば1000℃以上)で行うと、ガス化が速やかに進行して有利である。
【0007】
一方で、ガス化剤として酸素を用いるには、高価な空気分離設備が必要となることが課題となる。一方、ガス化剤として空気を用いる場合には、生成ガスが多量の窒素を含むため、極めて低熱量のガスしか得られないという課題がある。
【0008】
水蒸気をガス化剤とするガス化では、高価な空気分離設備を用いることなく、高熱量のガス化ガスを得ることができる。一方で、水蒸気をガス化剤とする場合、酸素によるガス化と比較すると反応速度が遅い点が課題となる。
【0009】
特許文献1には、低温熱分解および高温ガス化によりバイオマスから合成ガスを生成する方法であって、該方法は過熱水蒸気を酸化剤およびエネルギキャリアとして使用して、バイオマスの熱分解およびガス化を異なる温度で行い、最終的にクリーンな合成ガスを生成するものであり、1)前記バイオマスを粉砕し、該バイオマスを熱分解炉へ送り込む一方で、低温過熱水蒸気を前記熱分解炉へ噴霧し、前記熱分解炉を500~800℃の作動温度に制御し、熱分解反応のために前記バイオマスを前記低温過熱水蒸気と接触させて、粗合成ガスおよびコークスを含む灰を生成する工程と、2)前記灰を冷却して、前記コークスを前記灰から分離する工程と、3)前記粗合成ガスおよび前記コークスをガス化炉へ搬送し、高温過熱水蒸気を前記ガス化炉へ噴霧し、該ガス化炉を1200~1600℃の作動温度に制御し、ガス化反応を行うために前記バイオマスを前記高温過熱水蒸気と接触させて一次合成ガスを生成する工程と、4)クリーンな合成ガスを得るために、前記一次合成ガスに冷却、除塵、脱酸、および乾燥を行う工程とを含む方法が開示されている。
【0010】
この方法では、バイオマスをまず500~800℃の熱分解炉で分解して、粗合成ガスおよびコークスを含む灰を得て、この段階でガス化しなかったコークスはさらに1200~1600℃のガス化炉でガス化されるように構成されているので、水蒸気をガス化剤としても十分な反応速度が得られるものと考えられる。一方で、ガス化炉の運転温度は1200~1600℃という極めて高い温度であり、この温度を維持するためには高温の水蒸気を多量に必要とすると推測され、ガス化のエネルギー効率に課題がある。
【0011】
水蒸気をガス化剤として、比較的低温で炭素質材料のガス化を行う方法として、触媒を用いるガス化が知られている。特許文献2には、704℃(1300°F)における瀝青炭の水蒸気ガス化における、K、NaおよびCaの効果が示されている。非特許文献1には、水酸化カルシウム触媒を用いた各種石炭の水蒸気ガス化を600~700℃で行った結果が示されている。特許文献3には、650℃~700℃において、水蒸気をガス化剤として褐炭をガス化する際の触媒の効果が示されており、KあるいはCa+Naを触媒として添加した場合、ガス化が著しく促進されることが示されている。
【0012】
水蒸気をガス化剤として、例えば700℃程度の比較的低温でガス化を行うと、1000℃以上の高温でガス化を行う場合と比較して、比較的低温であるため耐熱性の制約が小さいことから設備コストが安価になること、放熱ロスが少ないために効率が高くなることがメリットとなる。加えて、1000℃以上の高温でガス化を行うと一酸化炭素を主成分とするガスが得られるのに対し、700℃程度の低温では水素が主成分となるほか、メタンも含まれるようになって、ガス化の効率が高まるメリットがある。
【0013】
これは以下の理由による。炭素のガス化反応(反応式1)は比較的大きな吸熱反応である。一酸化炭素は、毒性が高く、通常そのままの形では燃料として利用できないので、COシフト反応(反応式2)により水素に変換することが安全の観点から望まれる。また都市ガス原料として利用する場合には、メタン化反応(反応式3)により、より安全なメタンに変換する。
C+HO(g)→CO+H ΔH=+131.3kJ/mol(吸熱)(1)
CO+HO(g)→CO+H ΔH=-41.1kJ/mol(発熱)(2)
CO+3H→CH+HO(g) ΔH=-206.2kJ/mol(発熱)(3)
【0014】
COシフト反応もメタン化反応も発熱反応であるため、高温でガス化して一酸化炭素を主成分とするガスを得た場合には、これより低い温度で進行するCOシフト反応やメタン化反応で発生した熱は、吸熱反応であるガス化反応の熱源に利用することができない。
【0015】
700℃程度の低温でガス化して、水素やメタンを多く含むガスを得る場合には、炭素のガス化に伴う吸熱の一部を、COシフト反応およびメタン化反応による発熱が賄うことになるため、本質的に高効率なガス化が可能である。
【0016】
水蒸気をガス化剤として、700℃程度の低温でガス化を行うことには、上記のようなメリットがあるが、一方で多量のタールの生成を伴い、生成したガスの活用が困難になったり、ガス化プラントの運転に支障となったりするなどの問題を生じることが知られている(例えば、非特許文献2)。
【0017】
特許文献4には、バイオマス燃料を熱分解して炭化物を生成させる炭化機と、前記炭化物をガス化する高温ガス化部であるコンバスタおよび前記炭化物の生成時に揮発したタール分を含む可燃性の熱分解ガスの改質を行うガス改質部であるリダクタを有する2段式のガス化炉とを有するバイオマス炭化・ガス化システムにおいて、前記炭化機から前記ガス化炉の前記コンバスタに供給される前記炭化物と前記リダクタから排出される生成ガスとを接触させるタール吸着手段を有することを特徴とするバイオマス炭化・ガス化システムが開示されている。
【0018】
このシステムでは、ガス化により得られたガスを、バイオマス燃料を熱分解して生成した炭化物に接触させて、タールを炭化物に吸着させることで、生成ガス中のタール分を低減している。しかし、この文献には、炭化機や高温ガス化部の運転条件の詳細が記載されていない。また、ガス化剤は酸素を含むガスとされていることから、部分燃焼ガス化に関わる技術と推定される。
【0019】
特許文献5には、多孔質流動媒体にガス化触媒成分が担持された触媒であって、バイオマスの熱分解過程において生じるタールの分解および水蒸気改質反応を促進し、水素および一酸化炭素をはじめとする低分子気体の生成量を増加させることのできる触媒が開示されている。ガス化触媒成分は、ナトリウムなどのアルカリ金属が好ましいことも開示されている。この触媒は、バイオマスを流動床でガス化する際に、流動媒体として添加されることが想定されている。この方法では、気体状態で触媒に接触しうるタールの分解は促進されるものの、固体であるバイオマスのガス化の促進は期待しがたい。また、流動による摩耗によって触媒は消費されていくので、経済的にも有利とは言えない。
【0020】
ガス化炉出口に触媒を設置して、タールを水蒸気改質する技術についても多くの提案がなされている(例えば特許文献6)が、バイオマスをガス化したガスには、タール以外にも種々の物質、例えば硫黄化合物などが含まれるため、触媒を長期に安定して使用することは難しく、劣化した触媒の交換にかかるコストが多大となる恐れがある。
【0021】
以上のように、水蒸気をガス化剤として、タールの発生を抑制しつつ、600℃以上800℃以下の比較的低い温度でバイオマスを効率よくガス化するバイオマスのガス化プロセスは、未だ確立されていないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】特表2013-531122号公報
【文献】特開昭54-122304号公報
【文献】特開2019-157122号公報
【文献】特開2013-241487号公報
【文献】特開2007-23084号公報
【文献】特表2012-527345号公報
【非特許文献】
【0023】
【文献】Yasuo OhtsukaおよびKenji Asami、エネルギー アンド フュエルズ(Energy and Fuels),第9巻,1995年,p.1038-1042
【文献】Hugo de Lasaほか、ケミカル レビューズ(Chemical Reviews),第111巻,2011年,p.5404-5433.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、上記の従来技術に鑑み、水蒸気をガス化剤とするバイオマスのガス化において、タールの発生を抑制しつつ、600℃以上800℃以下の比較的低い温度でバイオマスを効率よくガス化するバイオマスのガス化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係るバイオマスのガス化方法の特徴構成は、酸素を実質的に含まない不活性雰囲気下でバイオマスを300℃以上350℃以下に加熱して半炭化バイオマスを得る半炭化工程と、前記半炭化バイオマスに、少なくともカリウムを含む触媒成分の水溶液を含浸して、前記触媒成分を担持した前記半炭化バイオマスを得る触媒担持工程と、前記触媒成分を担持した前記半炭化バイオマスを、600℃以上800℃以下の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させるガス化工程と、を含み、前記ガス化工程によって得られる生成ガスが、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびメタンを含み、前記ガス化工程における炭素基準のタール収率が0.8%以上2.3%以下である、点にある。
【0026】
上記の構成によれば、水蒸気を含むガスにバイオマスを接触させてガス化するに先立って、バイオマスを300℃以上350℃以下に加熱して半炭化バイオマスとする。この半炭化処理を行うことで、バイオマス中の揮発分の少なくとも一部が揮発し、残る揮発分はガス化時にタールを発生し難い成分に変化する。この半炭化処理の際にもタールは発生するが、発生する領域の温度がガス化炉に比べて低いため、処理が容易であり、ガス化炉の運転を阻害することもない。
【0027】
また、上記の構成によれば、前記のようにして得た半炭化バイオマスに、少なくともカリウムを含む触媒成分を含浸担持してから、600℃以上800℃以下の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤を接触させてガス化する。触媒成分を担持することで、600℃以上800℃以下の温度条件下であっても、水蒸気をガス化剤として、十分な速度でガス化が進行する。
【0028】
したがって、上記の構成によれば、水蒸気をガス化剤とするバイオマスのガス化において、タールの発生を抑制しつつ、600℃以上800℃以下の比較的低い温度でバイオマスを効率よくガス化するので、高い効率で経済的にバイオマスをガス化することができる。
【0029】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0030】
本発明に係るバイオマスのガス化方法のさらなる特徴構成は、一態様として、前記触媒担持工程において、前記半炭化バイオマスに対する質量比が1.5%以上10%以下のカリウムを担持する点にある。
【0031】
この構成によれば、ガス化を促進する効果が得られやすく、かつ費用対効果が高い。
【0032】
本発明に係るバイオマスのガス化方法のさらなる特徴構成は、前記半炭化工程に供する前記バイオマスは、工業分析法による恒湿水分が20%以下である点にある。
【0033】
この構成によれば、半炭化工程においてバイオマスの乾燥に消費されるエネルギーが小さくなるため、ガス化の効率が高まりやすい。
【0034】
本発明に係るバイオマスのガス化方法のさらなる特徴構成は、前記半炭化工程に供する前記バイオマスは、工業分析法による灰分が10質量%以下である点にある。
【0035】
この構成によれば、ガス化炉への灰分の蓄積を抑制できるので、ガス化炉のエネルギー効率が低下しにくい。
【0036】
本発明に係るバイオマスのガス化方法のさらなる特徴構成は、前記半炭化工程に供する前記バイオマスは、工業分析法による固定炭素が10%以上30%以下である点にある。
【0037】
この構成によれば、タールの発生を抑制しやすく、かつガス化速度が速くなりやすい。
【0038】
本発明に係るバイオマスのガス化方法のさらなる特徴構成は、前記半炭化工程より先に、前記バイオマスを常温の空気中で全水分が30%を下回るまで乾燥させる乾燥工程をさらに含む点にある。
【0039】
この構成によれば、半炭化工程において、バイオマスの乾燥のためのエネルギー消費を抑制しうる。
【0040】
本発明に係るバイオマスのガス化方法のさらなる特徴構成は、前記ガス化工程は、0.5MPa以上の圧力で実施される点にある。
【0041】
この構成によれば、メタン化反応の平衡が生成系に有利になるので、メタンが得られやすい。
【0042】
本発明に係るバイオマスのガス化方法のさらなる特徴構成は、前記ガス化工程は、前記半炭化バイオマス中の炭素原子の物質量Cに対する前記水蒸気Sのモル比であるS/C比が、1以上10以下である点にある。
【0043】
この構成によれば、ガス化反応が十分な速度で進行しやすく、かつ水蒸気を生成するために必要なエネルギー量を抑制しやすい。また、メタンの水蒸気改質反応を抑制しうるので、メタンが得られやすい。
【0044】
本発明のさらなる特徴と利点は、以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。本実施形態に係るバイオマスのガス化方法は、バイオマスを加熱して半炭化バイオマスを得る半炭化工程と、半炭化バイオマスに少なくともカリウムを含む触媒成分を担持する触媒担持工程と、触媒成分を担持した半炭化バイオマスをガス化するガス化工程と、を含む。
【0046】
〔バイオマス〕
本実施形態のバイオマスのガス化方法が対象とするバイオマスに特段の制限はないが、好ましくは、工業分析法による恒湿水分が20%以下であることが好ましい。恒湿水分が上記の範囲内であると、半炭化工程においてバイオマスの乾燥に消費されるエネルギーが小さくなるため、ガス化の効率が高まりやすい。
【0047】
また、本実施形態のバイオマスのガス化方法が対象とするバイオマスは、工業分析法による灰分が10質量%以下であることが好ましい。灰分が上記の範囲内であると、ガス化炉への灰分の蓄積を抑制できるので、ガス化炉のエネルギー効率が低下しにくい。
【0048】
加えて、本実施形態のバイオマスのガス化方法が対象とするバイオマスは、工業分析法による固定炭素が10%以上30%以下であることが望ましい。固定炭素が10%以上であると、タールの発生を抑制しやすい。また、固定炭素が30%以下であると、ガス化速度が速くなりやすい。
【0049】
このようなバイオマスとして、パームヤシ空果房、バガス、トウモロコシ穂軸、間伐材、製材などの際に発生する木屑などがあげられるが、これらに限定されない。
【0050】
バイオマスの形状や大きさは、半炭化設備に送入できる限り制約はない。一般的にバイオマスを破砕するには大きなエネルギーが必要となるが、半炭化後は脆くなり、破砕に要するエネルギーも小さくなるため、半炭化処理する前の破砕処理は通常不要である。
【0051】
〔半炭化工程〕
本実施形態のバイオマスのガス化方法では、まず、酸素を実質的に含まない不活性雰囲気下で前記のバイオマスを300℃以上350℃以下に加熱して半炭化バイオマスを得る半炭化工程を実施する。
【0052】
ここで、「酸素を実質的に含まない不活性雰囲気」とは、例えば窒素ガス雰囲気でありうるが、燃焼排ガスのように微量の酸素を含むガスの雰囲気であっても、バイオマスが半炭化工程中に燃焼して失われることがない限りは使用できる。
【0053】
バイオマスが吸湿している場合は、バイオマスの乾燥のためのエネルギー消費が大きくなるため、あらかじめ常温の空気中で全水分が30%を下回るまで十分に乾燥させる乾燥工程の後に、半炭化工程を実施することが望ましい。
【0054】
半炭化工程に供する半炭化設備は特に限定されないが、例えばロータリーキルンのような回転式の炉でありうる。半炭化工程は、回分式に実施してもよいし、連続式に実施してもよい。
【0055】
半炭化工程では、バイオマスからタールが放出されるため、炉内から一定流量でガスを抜き出し、空気を混ぜて燃焼させ、再び炉内に戻すことにより、発生したタールを半炭化の熱源として有効に活用することができる。この際、酸素濃度が低く、気相燃焼が困難な場合は、触媒燃焼を用いることもでき、必要に応じて炉内に触媒を設けてもよい。
【0056】
〔触媒担持工程〕
本実施形態のバイオマスのガス化方法では、次に、触媒担持工程を実施する。触媒担持工程では、半炭化工程で得られた半炭化バイオマスに触媒を担持する。触媒成分は、少なくともカリウム(K)を含む。
【0057】
ここで、カリウムの担持量は、半炭化バイオマス(乾燥質量)に対する金属カリウム換算の質量比で1.5%以上10%以下とするのが好ましい。半炭化バイオマスに対するカリウムの担持量が1.5%以上であると、ガス化を促進する効果が得られやすい。また、半炭化バイオマスに対するカリウムの担持量が10%以下であると、費用対効果が良い。半炭化バイオマスに対するカリウムの担持量は、1.5%以上6%以下とするのがより好ましく、2%以上6%以下とするのがさらに好ましく、2%以上5%以下とするのが特に好ましい。
【0058】
また、本実施形態において半炭化バイオマスに担持する触媒は、カリウムのほかに、鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カルシウム(Ca)などを含んでもよい。カリウム以外の成分を担持する場合は、半炭化バイオマス(乾燥質量)に対するカリウム以外の各成分の質量について、それぞれ1.5%以上6%以下とするのが好ましく、2%以上6%以下とするのがさらに好ましく、2%以上5%以下とするのが特に好ましい。
【0059】
担持は、含浸法により行うことができる。触媒成分の水溶性塩(例えば、硝酸カリウム、硝酸鉄(III)など)を溶解した水溶液を調製し、これに半炭化バイオマスを浸漬し、乾燥することにより触媒を担持する。触媒成分を均一に担持できる限り、半炭化バイオマスに、前記の水溶液を噴霧したり、振り掛けたりする方法で担持してもよい。触媒を担持した半炭化バイオマスは、空気中または不活性ガス中で、水分含有量が15%以下になるまで乾燥した後に、続くガス化工程に供することが好ましい。乾燥工程における乾燥条件は、たとえば、60℃以上150℃以下、1時間以上12時間未満の条件でありうる。なお、乾燥後の水分含有量は、10%以下であることがより好ましい。また、乾燥温度は、より好ましくは100℃以上120℃以下であり、乾燥時間は、より好ましくは1時間以上3時間未満である。
【0060】
〔ガス化工程〕
本実施形態のバイオマスのガス化方法では、次に、ガス化工程を実施する。ガス化工程では、触媒担持工程で得られた、触媒成分を担持させた半炭化バイオマスを、600℃以上800℃以下の温度条件下で水蒸気を含むガス化剤と接触させることで、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびメタンを含む生成ガスを得る。ガス化温度が600℃より低い場合、高活性な触媒を用いても実用的な速度でガス化することが困難になる。一方、ガス化温度が800℃よりも高い場合、設備コストがかさむほか、生成ガスに一酸化炭素が多く含まれるようになり、ガス化の効率が低下する。
【0061】
前記の温度にガス化炉の内部温度を維持する方法として、ガス化炉に送入する水蒸気の温度を十分に高い温度(例えば1000℃)にする方法と、ガス化炉の外部から加熱する(外熱式ガス化炉)とする方法がある。本発明のバイオマスのガス化方法では、従来の技術よりも低い温度でガス化を行うため、外熱式のガス化炉とすることも容易である。
【0062】
ガス化は、例えば流動床式ガス化炉を用いると、触媒成分を担持させた半炭化バイオマスおよび水蒸気を連続的に投入し、生成ガスを連続的に抜き出しながら行うことができる。
【0063】
ガス化反応の圧力は、特に制限はないが、高圧ほど平衡的にメタン生成が有利となる。したがって、メタン生成を目的とする場合は、好ましくは0.5MPa以上、より好ましくは1MPa以上とする。
【0064】
本実施形態において、触媒成分を担持させた半炭化バイオマス中の炭素原子の物質量Cに対する水蒸気(水)Sのモル比(S/C比)が、1以上10以下であることが好ましい。S/C比が1以上であると、ガス化反応が十分な速度で進行しやすい。また、S/C比が10以下であると、水蒸気を生成するために必要なエネルギー量を抑制しやすい。なお、メタン生成を目的とする場合には、メタンの水蒸気改質反応(反応式4および反応式5)を抑制する観点からも、S/C比が10以下であることが好ましい。水蒸気が多く存在する反応系では、メタンの水蒸気改質反応の平衡が生成系に有利になるためである。S/C比は、1以上5以下であることがより好ましく、1.5以上4以下であることがさらに好ましい。
CH+2HO(g)→4H+CO ΔH=+165.0kJ/mol(吸熱)(4)
CH+HO(g)→3H+CO ΔH=+206.2kJ/mol(吸熱)(5)
【0065】
〔生成物〕
本実施形態に係るバイオマスのガス化方法によれば、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびメタンを含む生成ガスが得られる。
【0066】
なお、上記実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【実施例
【0067】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
〔バイオマス〕
試験に供するバイオマスとして、以下に示すEFB1およびEFB2を用いた。
【0069】
《EFB1》
EFB1として、インドネシア産のパームやし空果房を用いた。このEFB1の工業分析結果は、水分9.1%(恒湿基準、質量比)、揮発分74.5%、固定炭素20.7%、灰分4.8%(いずれも乾燥EFB基準、質量比)であった。灰分の主な成分は、K:1.2%、Si:0.87%、Ca:0.32%、Mg:0.12%(金属換算)であった。また、無水無灰基準の元素組成は、C:47.2%、H:6.1%、N:0.50%、S:0.10%であった。
【0070】
《EFB2》
EFB2として、マレーシア産のパームやし空果房を用いた。このEFB2の工業分析結果は、水分9.4%(恒湿基準、質量比)、揮発分78.1%、固定炭素19.8%、灰分2.1%(いずれも乾燥EFB基準、質量比)であった。灰分の主な成分は、K:0.72%、Si:0.25%、Ca:0.06%、Mg:0.06%(金属換算)であった。また、無水無灰基準の元素組成は、C:43.5%、H:6.3%、N:0.21%、S:0.03%であった。
【0071】
〔試験装置および試験方法〕
後述する各試料のガス化試験は、流動床反応器を用いて行った。流動床反応器はステンレス製で、流動部の内径は23.2mm、高さ60mm、容積25mLであり、その上部はテーパー状に内径が拡大して内径42.6mmとなっており、流動部と合わせて高さ210mmの部分までが所定温度に加熱されるようになっている。反応器の底部のステンレスフィルターを介して、水蒸気および窒素の混合ガスがガス化剤として導入される。一方、反応器の上部にはスクリューフィーダーが備えられており、試料が連続的に導入される。スクリューフィーダー部への結露を防止するため、スクリューフィーダー部にも少量の窒素ガスが導入されるように構成されている。ガス化して生成したガスは、氷水(2段)およびドライアイス(1段)のトラップを経て、流量計およびガスクロマトグラフに導入され、分析される。なおここで、窒素は正確な生成ガスの分析を行うため、実験上の都合から導入しているものであって、実際のガス化プラントの運転で必要なものではない。
【0072】
〔試料調製およびガス化率の評価〕
以下に示すように試料A~Fを調製し、ガス化率の評価を行った。なお、試料A、C、およびFは、本発明の実施例である。また、上記の他の試料B、DおよびEは、本発明の比較例である。
【0073】
《試料A》
EFB1を、窒素流通下で、300℃で2時間保持して半炭化処理を行った。半炭化収率(仕込み量に対して得られた半炭化EFBの割合を意味する。以下でも同様とする。)は46%であった。半炭化EFB1の元素組成は、C:59.0%、H:4.10%、N:1.60%、O:30.4%、S:0.15%、灰分4.8%(含水率5.2%の恒湿ベース)であった。
【0074】
上記で得た半炭化EFB1を粉砕し、53~150μmに分級した。硝酸カリウム水溶液を調製し、これに前記の分級した半炭化EFB1を混合して、よく混ぜ合わせ、室温で減圧乾燥し、さらに窒素流通下107℃で2時間乾燥して、試料Aを得た。なおこのとき、混合水溶液に含まれるカリウムの半炭化EFB1の質量に対する質量比が5%となるように、硝酸カリウム水溶液の量を調整した。
【0075】
試料Aを酸分解したのち、ICP分析によって担持量を定量した。試料Aのカリウム含有量は7.2%(試料に含有されるカリウムの、試料全体に対する質量比を意味する。以下でも同様とする。)、ここからEFB1に元から含有されているカリウムを差し引いて算出された、カリウム担持量は5.0%であった。
【0076】
試料Aを用いて、上記の試験装置を用いたガス化試験を行った。反応管内部温度を700℃に制御して、試料Aを毎分21.0mg(炭素の供給速度として0.903mmol/分)の投入速度で150分間連続して流動床反応器に投入した。ガス化剤として、水を47.0mg/分の流量で、窒素40mL/分と混合して導入した。またスクリューフィーダー部からも窒素50mL/分を導入した。水は試料の投入終了後引き続いて60分投入を継続した。また窒素は水の投入後もさらに反応管内のガスの置換が完了するまで流通し、ガス化したガスをすべて回収した。表1に示すように、生成ガスは、水素187mmol、一酸化炭素(CO)31.5mmol、二酸化炭素(CO)74.0mmol、メタン3.7mmol、C2(エタンおよびエチレン)1.0mmol、ならびにC3(プロパンおよびプロピレン)0.6mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は83.5%であった。なお、この試験でのS/C比(〔試料中の水分およびガス化剤として供給された水蒸気〕/〔試料中の炭素〕のモル比。以下でも同様とする。)は4.12であった。また、トラップからは0.04gのタールが回収された。タールの組成をC1H1と仮定して炭素換算すると、炭素基準のタール収率は2.3%となった。
【0077】
《試料B》
試料Aの調製過程で得られた、半炭化EFB1を試料Bとした。試料Bのカリウム含有量は2.6%であった。
【0078】
試料Bを用いて、試料Aの場合と同様の手順で流動床でのガス化試験を行った。反応管内部温度を700℃に制御して、試料Bを毎分32.5mg(炭素の供給速度として1.617mmol/分)の投入速度で150分間連続して流動床反応器に投入した。ガス化剤として、水を73.0mg/分の流量で、窒素40mL/分と混合して導入した。またスクリューフィーダー部からも窒素50mL/分を導入した。水は試料の投入終了後引き続いて60分投入を継続した。また窒素は水の投入後もさらに反応管内のガスの置換が完了するまで流通し、ガス化したガスをすべて回収した。表1に示すように、生成ガスは、水素139mmol、一酸化炭素(CO)19.9mmol、二酸化炭素(CO)52.8mmol、メタン9.1mmol、C2(エタンおよびエチレン)2.6mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.8mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は36.9%であった。なお、この試験でのS/C比は3.56であった。また、トラップからは0.15gのタールが回収された。タールの組成をC1H1と仮定して炭素換算すると、炭素基準のタール収率は4.8%となった。
【0079】
《試料C》
EFB2を、窒素流通下で、300℃で2時間保持して半炭化処理を行った。半炭化収率は43%であった。
【0080】
上記で得た半炭化EFB2を用いて、試料Aと同様にしてカリウムを担持し、試料Cを得た。試料Cの元素組成は、C:60.1%、H:4.45%、N:2.14%、S:0.07%(含水率2.2%の恒湿ベース)であった。また、試料Cのカリウム含有量は6.4%、EFB2に元から含有されているカリウムを差し引いて算出されたカリウム担持量は5.0%であった。
【0081】
試料Cを用いて、試料Aの場合と同様の手順で流動床でのガス化試験を行った。反応管内部温度を700℃に制御して、試料Cを毎分34.3mg(炭素の供給速度として1.693mmol/分)の投入速度で150分間連続して流動床反応器に投入した。ガス化剤として、水を67.0mg/分の流量で、窒素40mL/分と混合して導入した。またスクリューフィーダー部からも窒素50mL/分を導入した。水は試料の投入終了後引き続いて60分投入を継続した。また窒素は水の投入後もさらに反応管内のガスの置換が完了するまで流通し、ガス化したガスをすべて回収した。表1に示すように、生成ガスは、水素330mmol、一酸化炭素(CO)70.4mmol、二酸化炭素(CO)133mmol、メタン9.0mmol、C2(エタンおよびエチレン)2.2mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.8mmolを含んでいた(表1では「C-1」と記した。)。炭素基準のガス化率は86.2%であった。なお、この試験でのS/C比は3.12であった。また、トラップからは0.06gのタールが回収された。タールの組成をC1H1と仮定して炭素換算すると、炭素基準のタール収率は1.7%となった。
【0082】
また、試料Cを用いて、ガス化におけるS/C比が生成ガスの組成に与える影響を検討した。試料Cの投入速度を毎分36.7mg(炭素の供給速度として1.813mmol/分)、ガス化剤としての水の投入速度を126mg/分の流量とした。この試験でのS/C比は5.44であった。表1に示すように、生成ガスは、水素363mmol、一酸化炭素(CO)49.1mmol、二酸化炭素(CO)158mmol、メタン8.5mmol、C2(エタンおよびエチレン)1.6mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.8mmolを含んでいた(表1では「C-2」と記した。)。炭素基準のガス化率は81.5%であった。また、トラップからは0.07gのタールが回収された。タールの組成をC1H1と仮定して炭素換算すると、炭素基準のタール収率は2.0%となった。
【0083】
《試料D》
試料Cの調製過程で得られた、半炭化EFB2を試料Dとした。試料Dの元素組成は、C:70.4%、H:4.82%、N:0.79%、S:0.05%(含水率2.3%の恒湿ベース)であった。試料Dのカリウム含有量は2.4%であった。
【0084】
試料Dを用いて、試料Aの場合と同様の手順で流動床でのガス化試験を行った。反応管内部温度を700℃に制御して、試料Dを毎分43.5mg(炭素の供給速度として2.560mmol/分)の投入速度で150分間連続して流動床反応器に投入した。ガス化剤として、水を95.0mg/分の流量で、窒素40mL/分と混合して導入した。またスクリューフィーダー部からも窒素50mL/分を導入した。水は試料の投入終了後引き続いて60分投入を継続した。また窒素は水の投入後もさらに反応管内のガスの置換が完了するまで流通し、ガス化したガスをすべて回収した。表1に示すように、生成ガスは、水素326mmol、一酸化炭素(CO)48.0mmol、二酸化炭素(CO)144mmol、メタン17.1mmol、C2(エタンおよびエチレン)4.0mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)1.0mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は57.4%であった。なお、この試験でのS/C比は2.91であった。また、トラップからは0.15gのタールが回収された。タールの組成をC1H1と仮定して炭素換算すると、炭素基準のタール収率は2.9%となった。
【0085】
《試料E》
EFB2を、窒素流通下で、250℃で2時間保持して半炭化処理を行った。半炭化収率は72%であった。これを半炭化(250℃)EFB2とした。
【0086】
上記で得た半炭化(250℃)EFB2を用いて、試料Aと同様にしてカリウムを担持した。試料Eの元素組成は、C:49.4%、H:4.92%、N:2.02%、S:0.02%(含水率1.1%の恒湿ベース)であった。また、試料Eのカリウム含有量は5.6%、EFB2に元から含有されているカリウムを差し引いて算出されたカリウム担持量は4.7%であった。
【0087】
試料Eを用いて、試料Aの場合と同様の手順で流動床でのガス化試験を行った。反応管内部温度を700℃に制御して、試料Eを毎分46.2mg(炭素の供給速度として1.862mmol/分)の投入速度で150分間連続して流動床反応器に投入した。ガス化剤として、水を80.0mg/分の流量で、窒素40mL/分と混合して導入した。またスクリューフィーダー部からも窒素50mL/分を導入した。水は試料の投入終了後引き続いて60分投入を継続した。また窒素は水の投入後もさらに反応管内のガスの置換が完了するまで流通し、ガス化したガスをすべて回収した。表1に示すように、生成ガスは、水素288mmol、一酸化炭素(CO)63.1mmol、二酸化炭素(CO)129mmol、メタン11.5mmol、C2(エタンおよびエチレン)4.0mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)1.3mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は77.2%であった。なお、この試験でのS/C比は3.39であった。また、トラップからは0.18gのタールが回収された。タールの組成をC1H1と仮定して炭素換算すると、炭素基準のタール収率は5.0%となった。
【0088】
《試料F》
EFB2を、窒素流通下で、350℃で2時間保持して半炭化処理を行った。半炭化収率は35%であった。これを半炭化(350℃)EFB2とした。
【0089】
上記で得た半炭化(350℃)EFB2を用いて、試料Aと同様にしてカリウムを担持し、試料Fを得た。試料Fの元素組成は、C:65.8%、H:3.78%、N:2.15%、S:0.06%(含水率2.4%の恒湿ベース)であった。試料Fのカリウム含有量は6.5%、EFB2に元から含有されているカリウムを差し引いて算出されたカリウム担持量は4.7%であった。
【0090】
試料Fを用いて、試料Aの場合と同様の手順で流動床でのガス化試験を行った。反応管内部温度を700℃に制御して、試料Fを毎分40.7mg(炭素の供給速度として2.244mmol/分)の投入速度で150分間連続して流動床反応器に投入した。ガス化剤として、水を93.0mg/分の流量で、窒素40mL/分と混合して導入した。またスクリューフィーダー部からも窒素50mL/分を導入した。水は試料の投入終了後引き続いて60分投入を継続した。また窒素は水の投入後もさらに反応管内のガスの置換が完了するまで流通し、ガス化したガスをすべて回収した。表1に示すように、生成ガスは、水素463mmol、一酸化炭素(CO)95.7mmol、二酸化炭素(CO)189mmol、メタン9.3mmol、C2(エタンおよびエチレン)1.3mmol、C3(プロパンおよびプロピレン)0.5mmolを含んでいた。炭素基準のガス化率は88.6%であった。なお、この試験でのS/C比は3.24であった。また、トラップからは0.04gのタールが回収された。タールの組成をC1H1と仮定して炭素換算すると、炭素基準のタール収率は0.8%となった。
【0091】
【表1】
【0092】
〔結果〕
本発明の方法に従い、バイオマスを300℃以上350℃以下で半炭化し、カリウムを触媒として担持したのち、水蒸気でガス化した場合には、81.5~88.6%という高いガス化率が得られるとともに、タール収率は0.8~2.3%程度と低く抑制することができた(試料A、C、D、およびF)。
【0093】
一方、半炭化温度が250℃と低い試料Eでは、ガス化率が77.2%とやや低くなったほか、タール収率は5.0%と実施例(試料A、C、およびF)と比較すると2倍以上となった。
【0094】
また、300℃で半炭化を行ったもののカリウムを含む触媒は担持されていない試料BおよびDでは、ガス化率は、それぞれ36.9%および57.4%と、触媒を担持した場合(試料AおよびC)と比較して大幅に低くなった上に、タール収率はそれぞれ4.8%および2.9%と実施例(試料AおよびC)と比較して顕著に高くなった。
【0095】
以上の結果から、本発明の方法に従い、バイオマスを300℃以上350℃以下で半炭化し、カリウムを触媒として担持したのち、水蒸気でガス化した場合には、水蒸気をガス化剤とするバイオマスのガス化において、タールの発生を抑制しつつ、600℃以上800℃以下の比較的低い温度でバイオマスを効率よくガス化できることが明らかである。