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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240419BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240419BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20240419BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20240419BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240419BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C38/60
C22C38/00 303U
C21D9/46 R
C21D6/00 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020062188
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161469
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】安部 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】松橋 透
(72)【発明者】
【氏名】田井 善一
(72)【発明者】
【氏名】小林 稜
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-049606(JP,A)
【文献】特開平08-269640(JP,A)
【文献】特開2013-028825(JP,A)
【文献】特開2003-301245(JP,A)
【文献】特開2002-302747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.001~0.100%、
Si:0.01~3.00%、
Mn:0.01~2.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0100%以下、
Ni:0.01~3.00%、
Cr:9.0~20.0%、
Al:0.001~5.0%、
B:0.0001~0.0100%、
N:0.001~0.050%を含有し、
更に、Ti:0.01~0.30%およびNb:0.001~0.300%のいずれか1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、
下記式(1)を満たし、
磁界10kOeでの磁束密度が1.4T以上であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
12Si+5Al≧Cr … (1)
ただし、式(1)におけるSi、Al、Crはそれぞれの元素の質量%である。
【請求項2】
さらに、Feの一部に替えて、質量%で、
Mo:0.01~0.34%、
Sn:0.001~3.00%、
Cu:0.01~3.00%、
W:0.001~1.00%、
V:0.001~1.00%、
Sb:0.001~0.100%、
Co:0.001~0.500%、
Ca:0.0001~0.0050%、
Mg:0.0001~0.0050%、
Zr:0.0001~0.0300%、
Ga:0.0001~0.0100%、
Ta:0.001~0.050%、
REM:0.001~0.100%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼は、家電製品、電子機器、自動車等の幅広い分野で使用されている。特に、暖房機器、厨房機器、自動車分野等のような、材料が高温になる分野では、適用されるステンレス鋼には耐酸化性や耐食性などが要求される。
【0003】
また、モーターケースやモーターコア等のモーター部品、電子スロットルセンサやEPSセンサのようなセンサ類、リレーや電磁弁、さらにそれらのコア、ヨーク、コネクタやハウジングなどでは、磁気特性が重要となる。
【0004】
磁気特性とは、具体的には、飽和磁束密度(Bs)、透磁率(μ)、残留磁束密度(Br)、保磁力(Hc)の値から判断される。飽和磁束密度Bsとは、材料の磁気力の絶対値を示す指標であり、十分大きな磁界H(A/m)で収束する飽和磁化である。飽和磁束密度Bsが大きいほど、強い磁気含容力で強磁界をシールドする。また、透磁率μとは、磁場に対する敏感さの指標であり、磁界H(A/m)に対する磁化B(T)の勾配(μ=B/H)で算出される。透磁率μが高いほど、磁界に敏感に反応して磁化し易い材料である。更に、残留磁束密度Brとは、飽和磁束密度Bsの状態から磁界Hを0にした際に、材料に残留した磁束密度である。更にまた、保磁力Hcとは、この状態からさらに減磁し、磁束密度が0になった時の磁界値である。残留磁束密度Br及び保磁力Hcが共に小さいほど、磁化の解消が容易である。
【0005】
磁気特性に優れる材料は、高飽和磁束密度、高透磁率、低残留磁束密度、低保磁力を示す材料である。特に飽和磁束密度は、材料中のFe、Ni、Co含有量が反映されるため、高Cr含有フェライト系ステンレス鋼ではFe含有量が低下してしまい飽和磁束密度が低下する傾向にある。一方で、飽和磁束密度を高めるためにCr含有量を低下させると、耐食性が低下してしまい、電磁弁等の水と接触する部品への適用が難しくなってしまう。
【0006】
特許文献1には、磁気特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板として、重量%にて、C≦0.01%、Si:0.1~0.6%、Mn:0.1~1.0%、S≦0.004%、Cr:5~13%、Ti:0.05~0.5%、O≦0.004%、N≦0.015%を含有し、かつC+N≦0.015%であり、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、表層および中心層における(111)面強度の和が10以下であり、最大比透磁率≧4000であるフェライト系ステンレス鋼板が記載されている。銅、銅合金またはセラミックスに比べると、耐衝撃性及び磁気特性に優れるが、磁気特性に関しては、磁気遮断器用の接点材料として満足できる程度の磁気特性を有するものではない。
【0007】
特許文献2には、磁気特性に優れたフェライト系ステンレス鋼板として、重量%で、C:0.015%以下、N:0.015%以下、Si:1.5%以下、Mn:1.0%以下、Cr:10~14%、Ti:0.05~0.30%を含有するスラブを熱間圧延により熱延板としたのち、該熱延板に圧下率:20~60%の冷間圧延を施し、ついで、800~930℃で焼鈍することによって製造されるフェライト系ステンレス鋼板が記載されている。銅、銅合金またはセラミックスに比べると、耐衝撃性及び磁気特性に優れるが、磁気特性に関しては、磁気遮断器用の接点材料として満足できる程度の磁気特性を有するものではない。
【0008】
特許文献3には、C:0.015wt%以下、Si:0.30wt%以下、Mn:0.30wt%以下、Cr:10.0~20.0wt%、Mo:0.5~2.0wt%、Ti:0.05~0.30wt%、Cu:0.3~1.5wt%およびAl:0.05~1.5wt%を含有し、残部は実質的にFeの組成になる高耐食電磁ステンレス鋼が開示されているが、耐食性をMo、Cu添加により確保している。
【0009】
特許文献4には、C:0.02%以下、Si:0.01~0.50%、Mn:0.01~0.50%、Cr:7.00~20.00%、Mo:0.30~2.00%、Cu:0.10~2.00%、Ti:0.05~0.50%、Al:0.05~3.00%、B:0.0005~0.05%およびN:0.05%以下を含み、残部は実質的Feの組成からなる高冷鍛電磁ステンレス鋼が開示されているが、耐食性をTi、B、Mo、Cu複合添加により確保している。
【0010】
しかしながら、従来技術では、上記のように、高耐食性と高磁気特性を両立できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第3629102号公報
【文献】特開平11-61255号公報
【文献】特開平2―305944号公報
【文献】特開平4-318153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐食性と磁気特性を両立したフェライト系ステンレス鋼を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
[1] 質量%で、
C:0.001~0.100%、
Si:0.01~3.00%、
Mn:0.01~2.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0100%以下、
Ni:0.01~3.00%、
Cr:9.0~20.0%、
Al:0.001~5.0%、
B:0.0001~0.0100%、
N:0.001~0.050%を含有し、
更に、Ti:0.01~0.30%およびNb:0.001~0.300%のいずれか1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物であり、
下記式(1)を満たし、
磁界10kOeでの磁束密度が1.4T以上であることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。
12Si+5Al≧Cr … (1)
ただし、式(1)におけるSi、Al、Crはそれぞれの元素の質量%である。
[2] さらに、Feの一部に替えて、質量%で、
Mo:0.01~0.34%、
Sn:0.001~3.00%、
Cu:0.01~3.00%、
W:0.001~1.00%、
V:0.001~1.00%、
Sb:0.001~0.100%、
Co:0.001~0.500%、
Ca:0.0001~0.0050%、
Mg:0.0001~0.0050%、
Zr:0.0001~0.0300%、
Ga:0.0001~0.0100%、
Ta:0.001~0.050%、
REM:0.001~0.100%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする[1]に記載のフェライト系ステンレス鋼。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐食性と磁気特性を両立したフェライト系ステンレス鋼を提供できる。本発明のフェライト系ステンレス鋼は、モーターケースやモーターコア等のモーター部品、電子スロットルセンサやEPSセンサのようなセンサ類、リレーや電磁弁、さらにそれらのコア、ヨーク、コネクタやハウジングなどに好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、磁気特性に優れたフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的として鋭意検討を重ねた。その結果、下記知見を見出した。
【0016】
第一に、Cr含有量が9~20%と比較的低いステンレス鋼において、Al、Si含有量を高くするほど耐食性が向上することを見出した。また、第二に、Al、Si含有量を高くするほど、磁気焼鈍後の磁気特性及び耐食性も向上することを見出した。その含有量のしきい値は、12Si+5Al≧Cr(Si、Al、Crはそれぞれの元素の質量%)で整理可能であることを見出した。
【0017】
耐食性に関して、Alは、発生初期の孔食内部でイオンとして溶け出してから表面に吸着することで、孔食成長の抑制及び再不動態化を促進していると考えられる。また、Siは、孔食内部で酸化物を形成し、孔食成長の抑制及び再不動態化を促進していると考えられる。
【0018】
さらに、磁気焼鈍による酸化時に、Al、Si含有量が高いことで、耐食性の低いFe主体の酸化物が表面に形成され難く、耐食性担保に寄与していると考えられる。
磁気特性に関しては、Al、Siは、フェライト生成元素であり、磁気焼鈍時のγループ回避に寄与することで、磁気特性を改善していると推察される。
【0019】
以下に、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼の化学組成について説明する。なお、%は質量%を意味する。
【0020】
C:0.001~0.100%
Cは、磁気特性、耐粒界腐食性、加工性を低下させるため、その含有量を低く抑える必要がある。そのため、Cの含有量を0.100%以下とする。しかしながら、C含有量を過度に低めることは精練コストを上昇させるため、C含有量を0.001%以上とする。C含有量の好ましい範囲は、0.002~0.050%、より好ましい範囲は0.003~0.030%である。
【0021】
Si:0.01~3.00%
Siは、磁気特性、中低温(500~700℃)の耐酸化性及び高温(700℃以上)の耐酸化性を飛躍的に向上させる。また表面に濃縮して腐食発生を抑制するのみならず、母材の腐食速度も低減する非常に有益な元素である。そのため、Siの含有量を0.01%以上とする。ただし、Siの過度な含有は溶接溶け込み性を低下させるため、Siの含有量を3.00%以下とする。Si量のより好ましい範囲は0.01~2.00%、更に好ましい範囲は0.30~1.50%、更に好ましい範囲は0.80~1.20%である。
【0022】
Mn:0.01~2.00%
Mnは、脱酸元素として有用であるが、過剰量のMnを含有させると、耐食性を劣化させる。そのため、Mn含有量を0.01~2.00%とする。Mn含有量の好ましい範囲は、0.05~1.00%、より好ましい範囲は0.02~0.50%である。
【0023】
P:0.050%以下
Pは、磁気特性、加工性・溶接性を劣化させる元素であるため、その含有量を制限する必要がある。そのため、P含有量を0.050%以下とする。P含有量の好ましい範囲は、0.030%以下である。しかしながら、P含有量を過度に低めることは精練コストを上昇させるため、P含有量を0.001%以上としてもよい。
【0024】
S:0.0100%以下
Sは、耐食性を劣化させる元素であるため、その含有量を制限する必要がある。そのため、S含有量を0.0100%以下とする。S含有量の好ましい範囲は、0.0070%以下である。しかしながら、S含有量を過度に低めることは精練コストを上昇させるため、S含有量を0.0001%以上としてもよい。
【0025】
Ni:0.01~3.00%
Niは、磁気特性や耐食性を向上させるため、0.01%以上の含有が必要である。ただし、多量の含有は合金コスト増加に繋がるため、Ni含有量を3.00%以下とする。Ni含有量の好ましい範囲は0.05~1.00%、より好ましい範囲は0.10~0.50%である。
【0026】
Cr:9.0~20.0%
Crは、耐酸化性及び塩害環境での耐食性を確保するために、9.0%以上の含有が必要である。Crの含有量を増加させるほど、耐酸化性及び耐食性は向上するが、溶接溶け込み性、熱伝導率、加工性、製造性を低下させるため、Cr含有量は20.0%以下とする。Cr含有量の好ましい範囲は、9.5~15.0%、より好ましい範囲は10.5~13.0%である。
【0027】
Al:0.001~5.0%
Alは、本実施形態における重要な元素である。Alは、特に高温(700℃以上)の耐酸化性を飛躍的に向上させる。加えて鋼表面に濃縮して腐食発生を抑制するのみならず、母材の腐食速度も低減する非常に有益な元素である。この効果は特に低Cr系ステンレス鋼で顕著である。そのため、Alの含有量を0.001%以上とする。ただし、Alの過度な含有は材料の伸び減少を引き起こし、加工性を低下させるため、Alの含有量を5.0%以下とする。Al含有量の好ましい範囲は、0.800~3.000%、より好ましい範囲は1.000~2.000%である。
【0028】
B:0.0001~0.0100%
Bは、2次加工性を向上させるのに有用な元素であり、0.0100%以下の含有が必要である。B含有量の下限を、安定した効果が得られる0.0001%以上とする。B含有量の好ましい範囲は0.0005~0.0050%、より好ましい範囲は0.0010~0.0030%である。
【0029】
N:0.001~0.050%
Nは、耐孔食性に有用な元素であるが、磁気特性、耐粒界腐食性、加工性を低下させる。そのため、Nの含有量を低く抑える必要がある。そのため、N含有量を0.050%以下とする。しかしながら、N含有量を過度に低めることは精練コストを上昇させるため、N含有量を0.001%以上とする。N含有量の好ましい範囲は、0.002~0.020%である。
【0030】
Ti:0.01~0.300%およびNb:0.001~0.300%の1種又は2種
Ti及びNbは、ステンレス鋼の鋭敏化を防止するために、Tiの場合は0.01%以上、Nbの場合は0.001%以上を含有する必要がある。ただし、多量の含有は合金コスト増加や靭性の低下、鋼中介在物増加による耐食性低下、製造性低下に繋がるため、Ti量またはNb含有量はそれぞれ0.300%以下とする。Ti含有量及びNb含有量の好ましい範囲はそれぞれ、0.03~0.25%、より好ましい範囲はそれぞれ、0.10~0.17%である。Ti及びNbは、何れか一方が含有されていればよく、Ti及びNbの両方が含有されていてもよい。
【0031】
特に、Tiに関しては、2Al+Si-10Ti≧0(Al、Si及びTiは、フェライト系ステンレス鋼におけるそれぞれの元素の質量%)を満たすことで、耐食性が大幅に向上するため好ましい。
【0032】
以上が、本実施形態のステンレス鋼の基本となる化学組成であるが、本実施形態では、更に、次のような元素を必要に応じて含有させることができる。
【0033】
Mo、Sn、Cu、W、V、Sb、Co、Ca、Mg、Zr、Ga、Ta、REMは、目的に応じて、これらの1種または2種以上が含有されていてもよい。これらの元素の下限は、0%以上、好ましくは0%超である。
【0034】
Mo:0.01~3.00%
Moは、耐食性を向上させるため、0.01%以上含有することができる。しかし、過剰の含有は、加工性を劣化させると共に、高価であるためコストアップに繋がる。そのため、Mo含有量を3.00%以下とする。Mo含有量の好ましい範囲は、0.05~2.00%であり、より好ましい範囲は0.05~1.00%である。
【0035】
Sn:0.001~3.00%
Snは、耐食性を向上させるため、0.001%以上含有することができる。しかし、過剰の含有はコスト増加に繋がる。そのため、Sn含有量を3.00%以下とする。Sn含有量の好ましい範囲は、0.005~1.00%であり、より好ましくは0.010~1.00%である。
【0036】
Cu:0.01~3.00%
Cuは、耐食性を向上させるため、0.01%以上含有することができる。しかし、過剰の含有はコスト増加に繋がる。そのため、Cu含有量を3.00%以下とする。Cu含有量の好ましい範囲は0.02~1.00%、より望ましい範囲は0.05~0.09%である。
【0037】
W:0.001~1.00%
Wは、耐食性を向上させるため、1.00%以下を含有することができる。安定した効果を得るためには、W含有量を0.001%以上とする。W含有量の好ましい範囲は、0.005~0.80%である。
【0038】
V:0.001~1.00%
Vは、耐食性を向上させるため、1.00%以下を含有することができる。安定した効果を得ためには、V含有量を0.001%以上とする。V含有量の好ましい範囲は、0.005~0.50%である。
【0039】
Sb:0.001~0.100%
Sbは、耐全面腐食性を向上させるため、0.100%以下含有することができる。安定した効果を得るためには、Sb含有量を0.001%以上とする。Sb含有量の好ましい範囲は、0.010~0.080%である。
【0040】
Co:0.001~0.500%
Coは、二次加工性と靭性を向上させるために、0.500%以下含有することができる。安定した効果を得るためには、Co含有量を0.001%以上とする。Co含有量の好ましい範囲は、0.010~0.300%である。
【0041】
Ca:0.0001~0.0050%
Caは、脱硫のために含有されるが、過剰に含有すると、水溶性の介在物CaSが生成して耐食性を低下させる。そのため、0.0001~0.0050%の範囲でCaを含有することができる。Ca含有量の好ましい範囲は、0.0005~0.0030%である。
【0042】
Mg:0.0001~0.0050%
Mgは、組織を微細化し、加工性、靭性の向上にも有用である。そのため、0.0050%以下の範囲でMgを含有することができる。安定した効果を得るためには、Mg含有量を0.0001%以上とする。Mg含有量の好ましい範囲は、0.0005~0.0030%である。
【0043】
Zr:0.0001~0.0300%
Zrは、耐食性を向上させるために、0.0300%以下含有することができる。安定した効果を得るためには、Zr含有量を0.0001%以上とする。Zr含有量の好ましい範囲は、0.0010~0.0100%である。
【0044】
Ga:0.0001~0.0100%
Gaは、耐食性と耐水素脆化性を向上させるために、0.0100%以下含有することができる。安定した効果を得るためには、Ga含有量を0.0001%以上とする。Ga含有量の好ましい範囲は、0.0005~0.0050%である。
【0045】
Ta:0.001~0.050%
Taは、耐食性を向上させるために、0.050%以下含有することができる。安定した効果を得るためには、Ta含有量を0.001%以上とする。Ta含有量の好ましい範囲は、0.005~0.030%である。
【0046】
REM:0.001~0.100%
REMは、脱酸効果等を有するので、精練で有用な元素であるため、0.100%以下含有することができる。安定した効果を得るためには、REM量を0.001%以上とする。REM含有量の好ましい範囲は、0.003~0.050%である。
ここで、REM(希土類元素)は、一般的な定義に従い、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。REMは、これら希土類元素から選択される1種以上であり、REMの含有量とは、希土類元素の合計量である。
【0047】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼は、上述してきた元素以外は、Fe及び不純物(不純物には不可避的不純物も含む)からなる。また、以上説明した各元素の他にも、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることが出来る。本実施形態では、例えばBi、Pb、Se、H等を含有させてもよいが、その場合は可能な限り低減することが好ましい。一方、これらの元素は、本発明の課題を解決する限度において、その含有割合が制御され、必要に応じて、Biは0.01%以下、Pbは0.01%以下、Seは0.01%以下、Hは0.01%以下を含有してもよい。
【0048】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼は、10kOe(エルステッド)での磁束密度が1.4T(テスラ)以上を示す。これにより、モーターケースやモーターコア等のモーター部品、電子スロットルセンサやEPSセンサのようなセンサ類、リレーや電磁弁、さらにそれらのコア、ヨーク、コネクタやハウジングなどに好適に用いることができる。
【0049】
また、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼の形態は特に限定されないが、鋼板であることが好ましい。
【0050】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法は、製鋼-熱間圧延-焼鈍・酸洗-冷間圧延-焼鈍の各工程よりなり、各工程の製造条件については、特に規定するものでは無い。ただし、冷間圧延及び焼鈍を施した後に、磁気焼鈍を行う必要がある。
【0051】
製鋼においては、前記必須成分および必要に応じて添加される成分を含有する鋼を、転炉溶製し続いて2次精錬を行う方法が好適である。溶製した溶鋼は、鋳造(連続鋳造)することによりスラブとする。スラブは、所定の温度に加熱され、所定の板厚に連続圧延で熱間圧延される。最終製品の結晶粒度を考慮すると、スラブ厚さは3.0mm厚さ以上が望ましい。熱間圧延後の焼鈍工程は省略しても良く、酸洗後の冷間圧延は、通常のゼンジミアミル、タンデムミルのいずれで圧延しても良いが、鋼板の加工性を考慮するとタンデムミル圧延の方が望ましい。
【0052】
冷間圧延においては、ロール粗度、ロール径、圧延油、圧延パス回数、圧延速度、圧延温度などは一般的な範囲内で適宜選択すれば良い。冷間圧延の途中に中間焼鈍を入れても良く、中間および最終焼鈍はバッチ式焼鈍でも連続式焼鈍でも構わない。また、焼鈍の雰囲気は、必要であれば水素ガスあるいは窒素ガスなどの無酸化雰囲気で焼鈍する光輝焼鈍でも大気中で焼鈍しても構わない。最終焼鈍後は、ソルト処理、酸洗、電解酸洗等を行うとよい。
【0053】
磁気焼鈍は1×10-2~9×10-2Paの真空中で、昇温速度1~100℃/min、均熱温度800~1000℃、均熱時間を1~10時間、好ましくは1~3時間の条件で行うことが望ましい。熱処理後はArガス等による冷却を行っても良いし、空冷や炉冷としても良い。このような磁気焼鈍を行うことで、結晶粒の粗大化が起こり、磁気特性が良好となり、10kOeでの磁束密度を向上させることができる。
【0054】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板によれば、モーターケースやモーターコア等のモーター部品に好適な耐食性と磁気特性に優れたフェライト系ステンレス鋼を提供できる。
【実施例
【0055】
以下、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【0056】
表1A~表1Dに示す組成の鋼を溶製し、厚さ3.0mm以上のスラブを板厚4mmになるまで熱間圧延を施した。次いで、熱間圧延後の鋼板にショット・酸洗を施した。その後、板厚が0.8mmになるまで冷間圧延を施し、920℃で1分間焼鈍を行い、次いでソルト処理及び酸洗を施した。酸洗は、硝酸濃度が150g/Lの溶液中で電解酸洗を行った。このようにしてフェライト系ステンレス鋼板を製造した。さらに1.3×10-2Paの真空中で昇温速度1~100℃/minの速度で昇温し、700~1000℃で2時間の磁気焼鈍を行い、その後、空冷した。
【0057】
作製した鋼板から、幅75mm、長さ150mmの試験片を切り出し、JASO-CCT試験用試験片とした。JASO-CCT試験は、JASO M 610-92に準拠して12サイクル行った。JASO-CCT試験の判定基準として、JIS G 0595に準拠する方法でレイティングナンバを判定し、「3」を境界値とした。レイティングナンバが4~9の鋼種は表1E及び表1F中に符号「○」で示し、レイティングナンバが0~3の鋼種は表1E及び表1F中に符号「×」で示した。
【0058】
また作製した鋼板から、6mm×4mmの試料を放電加工で切り出し、理研電子(株)製の振動試料型磁力計(BHV-50T)を用いて±10kOe(±795kA/m)の磁界を試料長手方向に印加し、その際の磁束密度を測定した。結果を表1E及び表1Fに示した。
【0059】
表1E及び表1Fに結果を示す。12Si+5Al≧Cr(Cr、Al、Siはそれぞれの元素の質量%濃度を示す)を満たす場合は、磁束密度が1.4T以上になり、JASO-CCT試験結果が「○」となることがわかる。
【0060】
比較例B1~9においては、12Si+5Al≧Cr(Cr、Al、Siはそれぞれの元素の質量%濃度を示す)を満たさず、磁束密度が1.4T未満になり、JASO-CCT試験結果は「×」であった。
【0061】
また、比較例A1’~A4’は、発明例A1~A4と同じ化学成分を有する鋼であるが、磁気焼鈍の焼鈍温度が800℃未満であったため、磁束密度が低くなった。
【0062】
【表1A】
【0063】
【表1B】
【0064】
【表1C】
【0065】
【表1D】
【0066】
【表1E】
【0067】
【表1F】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のフェライト系ステンレス鋼は、耐食性と磁気特性を両立することができるので、モーターケースやモーターコア等のモーター部品、電子スロットルセンサやEPSセンサのようなセンサ類、リレーや電磁弁、さらにそれらのコア、ヨーク、コネクタやハウジングなどに好適に用いることができる。即ち、本発明は産業上極めて有益である。