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特許7475183低誘電樹脂組成物、成形品、フィルム、及びフレキシブルプリント配線板
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  • 特許-低誘電樹脂組成物、成形品、フィルム、及びフレキシブルプリント配線板 図1
  • 特許-低誘電樹脂組成物、成形品、フィルム、及びフレキシブルプリント配線板 図2
  • 特許-低誘電樹脂組成物、成形品、フィルム、及びフレキシブルプリント配線板 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】低誘電樹脂組成物、成形品、フィルム、及びフレキシブルプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/12 20060101AFI20240419BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20240419BHJP
   C08F 255/08 20060101ALI20240419BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240419BHJP
   C08L 67/03 20060101ALN20240419BHJP
【FI】
C08L101/12
C08L51/06
C08F255/08
H05K1/03 610H
C08L67/03
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020065225
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021161286
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】木戸 雅善
(72)【発明者】
【氏名】今村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】秋永 隆宏
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-250620(JP,A)
【文献】特開平10-330602(JP,A)
【文献】特開平01-193351(JP,A)
【文献】特開平07-062172(JP,A)
【文献】特開2002-064030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 255/00-255/10
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含み、かつ連続領域である海相中に非連続領域である島相が分散した海島構造が形成されている低誘電樹脂組成物であって、
前記海島構造における前記海相が、前記液晶ポリマー(A)及び前記極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)のいずれか一方で形成され、前記島相のサイズが20μm以下であり、
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリメチルペンテンである、低誘電樹脂組成物。
【請求項2】
周波数10GHzにおける比誘電率が、前記液晶ポリマー(A)の周波数10GHzにおける比誘電率より低い値であり、かつ周波数10GHzにおける誘電正接が、前記極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)の周波数10GHzにおける誘電正接よりも低い値である、請求項1に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項3】
周波数10GHzにおける比誘電率が2.80以下である、請求項1又は2に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項4】
周波数10GHzにおける誘電正接が、0.0025以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項5】
さらにオレフィンエラストマー(C)を含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項6】
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)は、100質量部のポリオレフィンが、0.1質量部以上12質量部以下の前記グリシジル(メタ)アクリレートと、0.1質量部以上12質量部以下の前記スチレンとによってグラフト変性された変性ポリオレフィンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項7】
前記グラフト変性ポリオレフィン(B)は、100質量部のポリオレフィンが、0.5質量部以上2質量部以下の前記グリシジル(メタ)アクリレートと、0.5質量部以上2質量部以下の前記スチレンとによってグラフト変性された変性ポリオレフィンである、請求項1~6のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物の製造方法であって、前記液晶ポリマー(A)及び前記極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)を溶融混練する工程を含む、低誘電樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物を用いて形成された成形品。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の低誘電樹脂組成物を用いて形成されたフィルム。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルムを含む、フレキシブルプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電樹脂組成物と、当該低誘電樹脂組成物からなる成形品及びフィルムと、当該低誘電樹脂組成物からなるフィルムを含む、フレキシブルプリント配線板とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の通信機器や、次世代テレビ等の電子機器において、大容量のデータを高速に送受信することが要求されている。これに伴い、電気信号の高周波数化が進んでいる。具体的には、無線通信分野では、2020年頃に、第5世代移動通信システム(5G)の導入が見込まれる。第5世代移動通信システムの導入に際して、10GHz以上の高周波数帯域の使用が検討されている。
【0003】
しかしながら、使用される信号の周波数が高くなるに伴い、情報の誤認識を招きうる出力信号の品質低下、すなわち、伝送損失が大きくなる。この伝送損失は、導体に起因する導体損失と、電子機器や通信機器における基板等の電気電子部品を構成する絶縁用の樹脂に起因する誘電損失とからなるが、導体損失は使用する周波数の0.5乗、誘電損失は周波数の1乗に比例するため、高周波帯、とりわけGHz帯においては、この誘電損失による影響が非常に大きくなる。
【0004】
このため、伝送損失を低減するために、誘電損失に係る因子である比誘電率と、誘電正接とが低い低誘電材料が求められている。このような事情から、高周波数帯域で使用される低誘電材料として、例えば、液晶ポリマーの使用が検討されている。
【0005】
しかしながら、液晶ポリマー等の低誘電樹脂についても、伝送損失をさらに低減させるために、さらなる低誘電特性が求められている。液晶ポリマーにはまた、その異方性に起因して溶融加工が困難である問題がある。例えば、液晶ポリマーを、代表的なフィルム製造方法である押出法によりフィルム化する場合、ダイから吐出される溶融した液晶ポリマーが、吐出方向のせん断力による溶融粘度の低下に起因してすぐに垂れてしまい、フィルムの引き取りが困難である。仮にフィルムを引き取ることができたとしても、フィルムにおける液晶ポリマーの配向に起因して、得られるフィルムは非常に裂けやすい。また、押出成形の際に、Tダイのリップ部分に樹脂塊が発生しやすい問題もある。さらに、液晶ポリマーは、その異方性に起因して、ストランドを切断することによるペレットの製造が困難となる場合がある。具体的には、例えば、ストランドを切断できなかったり、切断できたとしてもきれいな切断面を形成できずペレットにヒゲが発生しやすい問題がある。ペレットの形状の不均一さやペレットにおけるヒゲは、液晶ポリマーの成形加工時の、液晶ポリマーの計量の不安定さの一因となる。
【0006】
こうした事情から、液晶ポリマーにポリオレフィン系樹脂をブレンドし、成形加工性や異方性を改善した組成物が検討されている。例えば特許文献1には、特定の溶融粘度を有する液晶ポリエステル及び熱可塑性樹脂を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物フィルムが開示される。特許文献1には、当該熱可塑性樹脂の例としてエチレンとグリシジルメタクリレートとの共重合体が記載されている。特許文献1に記載の技術では、各樹脂成分として特定の溶融粘度を有するものを使用するとともに、流動開始温度が液晶ポリエステルの同温度より10℃以上低いものでない熱可塑性樹脂が用いられる。これによって、得られる液晶ポリエステル樹脂組成物は、ガスバリア性とフィルム成形性とに優れる。特許文献2には、液晶性樹脂と、オレフィン系樹脂及び非液晶性ポリエステル樹脂とを含有する、柔軟性及び耐衝撃性を有するポリエステル樹脂組成物が開示されている。当該ポリエステル樹脂組成物においては、非液晶性ポリエステル樹脂が連続相を形成し、オレフィン系樹脂が島相として連続相(海相)中に分散している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-012744号公報
【文献】特開2005-023094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、液晶ポリマーのフィルム成形性の改善、及びさらに優れた低誘電特性の付与において、上記のようなポリオレフィン系樹脂のブレンドが常に有効とは限らない。後記する実施例・比較例に示されるように、例えば特許文献1に記載されたようにエチレンとグリシジルメタクリレートとの共重合体を液晶ポリマーにブレンドすると、得られる液晶ポリマー組成物の誘電正接が大きくなる場合がある。特許文献2では、ポリオレフィンへの官能基の導入方法として、共重合の他にグラフトも記載されている。しかし、特許文献2で開示された樹脂組成物では、非液晶性ポリエステル樹脂が連続相(海相)である。このため、特許文献2に開示される樹脂組成物には、液晶ポリマーが有する耐熱性やポリオレフィン樹脂の低誘電特性は期待できない。そもそもこれらの発明は樹脂組成物の成形性や耐衝撃性、ガスバリア性等の改善を目的とする。このため、上記の特許文献1及び特許文献2では誘電特性について何ら言及されていない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、溶融加工性が良好であるとともに高周波帯域における低誘電特性に優れる低誘電樹脂組成物と、当該低誘電樹脂組成物を用いて形成された成形品及びフィルムと、当該フィルムを含むフレキシブルプリント配線板とを提供することとを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、液晶ポリマーに極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)をブレンドし、かつ特定の海島構造を形成することにより、液晶ポリマーの耐熱性を損なうことなく、溶融加工性、特にフィルム成形性に優れ、低誘電特性を有する樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(12)を提供する。
(1)液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含み、かつ連続領域である海相中に非連続領域である島相が分散した海島構造が形成されている低誘電樹脂組成物であって、
海島構造における海相が、液晶ポリマー(A)及び極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)のいずれか一方で形成され、島相のサイズが20μm以下である、低誘電樹脂組成物。
(2)周波数10GHzにおける比誘電率が、液晶ポリマー(A)の周波数10GHzにおける比誘電率より低い値であり、かつ周波数10GHzにおける誘電正接がグラフト変性ポリオレフィン(B)の周波数10GHzにおける誘電正接よりも低い値である、(1)に記載の低誘電樹脂組成物。
(3)周波数10GHzにおける比誘電率が2.80以下である、(1)又は(2)に記載の低誘電樹脂組成物。
(4)周波数10GHzにおける誘電正接が、0.0025以下である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(5)さらにオレフィンエラストマー(C)を含有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(6)極性基が、エポキシ基である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物。
(7)グラフト変性ポリオレフィン(B)が、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンである、(1)~(6)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂素子物。
(8)液晶ポリマー(A)及び極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)を溶融混練する工程を含む、(1)~(7)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物の製造方法。
(9)(1)~(7)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物を用いて形成された成形品。
(10)(1)~(7)のいずれか1つに記載の低誘電樹脂組成物を用いて形成されたフィルム。
(11)(10)に記載のフィルムを含む、フレキシブルプリント配線板。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶融加工性、特にフィルム成形性が良好であるとともに、高周波帯域における低誘電特性に優れる低誘電樹脂組成物と、当該低誘電樹脂組成物からなる成形品及びフィルムと、当該低誘電樹脂組成物からなるフィルムを含むフレキシブルプリント配線板とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る熱可塑性樹脂組成物であって、液晶ポリマー(A)が島相を形成している試料の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
図2】本発明に係る熱可塑性樹脂組成物であって、液晶ポリマー(A)が海相を形成している試料の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
図3】液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)を含有する熱可塑性樹脂組成物であって、共連続構造が形成され、連続領域の一部に島相が形成されている試料の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率1000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪低誘電樹脂組成物≫
低誘電樹脂組成物は、液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含む樹脂組成物である。以下、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)を、単に「グラフト変性ポリオレフィン(B)」とも記す。上記の低誘電樹脂組成物においては、連続領域である海相中に非連続領域である島相が分散した海島構造が形成されている。また、海島構造における海相が、液晶ポリマー(A)及びグラフト変性ポリオレフィン(B)のいずれか一方で形成され、島相のサイズが20μm以下である。
【0015】
低誘電樹脂組成物の10GHzにおける比誘電率は、好ましくは液晶ポリマー(A)の周波数10GHzにおける比誘電率より低い値である。また、低誘電樹脂組成物の10GHzにおける誘電正接は、グラフト変性ポリオレフィン(B)の周波数10GHzにおける誘電正接の値以下であることが好ましい。
【0016】
また、上記の低誘電樹脂組成物の周波数10GHzにおける比誘電率は、好ましくは2.80以下である。低誘電樹脂組成物の10GHzにおける誘電正接は、0.0025以下が好ましい。
【0017】
上記の低誘電樹脂組成物は、低誘電特性を活かし、高周波数帯域で使用される電気、電子部品、情報通信装置、当該情報通信装置の部品等の用途において好適に使用される。
【0018】
液晶ポリマーとグラフト変性ポリオレフィンとを含む樹脂組成物は、両者の混合比率、融点、両者の融点の差、混合時の温度、グラフト変性ポリオレフィンの変性率等の様々な条件に応じて、種々の相状態(相構造)を形成し得る。上記の低誘電樹脂組成物では、連続領域である海相中に非連続領域である島相が分散した海島構造が形成され、当該海島構造における海相が、液晶ポリマー(A)及び極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)のいずれか一方のみで形成されて、共連続構造は形成されない。また、島相のサイズが20μm以下である。
かかる相状態である場合、液晶ポリマー(A)の性質に由来する異方性が緩和され、低誘電樹脂組成物の溶融加工性が良好である。ここでいう「溶融加工性」とは、押出機及び射出成形機等の従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが容易又は可能であることを意味する。
【0019】
低誘電樹脂組成物における海島構造について、液晶ポリマー(A)と、グラフト変性ポリオレフィン(B)とのいずれが海相(連続領域)を構成する成分であってもよい。
液晶ポリマー(A)が海相を形成していることによって、優れた溶融加工性とともに、液晶ポリマー(A)に由来する優れた耐熱性を発現しやすい。グラフト変性ポリオレフィン(B))が海相を形成していることによって、さらに優れた溶融加工性とともに、低い誘電特性を発現しやすい。
【0020】
なお、「島相のサイズが20μm以下」とは、非連続領域である島相の全体の90%以上、通常95%以上、典型的には99%以上の島相のサイズが20μm以下であることを示す。ここで、「サイズ」とは一般に相の直径を指すが、島相の形状が円形とは大きく異なる場合には長径(外接する長方形の長辺の長さ)を「サイズ」として定義する。
本願発明の島相のサイズを確認する方法としては、任意の方法で確認することが可能であるが、例えば、後記する実施例のように低誘電樹脂組成物を用いて形成されたフィルムを熱硬化性樹脂で包埋し、厚み方向の断面をイオンビームで研磨してフィルムの断面出しを行い、フィルムの断面を走査型電子顕微鏡で観察する方法が挙げられる。
こうした島相のサイズは通常、ブレンドした樹脂同士の相溶性を反映しており、一般に相溶性が高い組み合わせほど島相のサイズが小さくなる傾向にある。低誘電樹脂組成物は、島相のサイズが15μm以下、特に10μm以下、中でも5μm以下であることが好ましい。
【0021】
低誘電樹脂組成物は、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合することにより製造される。
液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合する方法は特に限定されない。好ましい混合方法としては、一軸押出機や二軸押出機等の溶融混練装置を用いる方法が挙げられる。
液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを混合する条件は、液晶ポリマー(A)とグラフト変性ポリオレフィン(B)とを均一に混合でき、低誘電樹脂組成物に含まれる各成分が、過度に熱分解したり、昇華したりしない条件であれば特に限定されない。溶融混練装置を用いる場合、例えば、液晶ポリマー(A)の融点と、グラフト変性ポリオレフィン融点とのうちの高い方の融点よりも、好ましくは5℃以上100℃以下高い温度、より好ましくは10℃以上50℃以下高い温度で溶融混練が行われる。
【0022】
低誘電樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、液晶ポリマー(A)、及びグラフト変性ポリオレフィン(B)以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。低誘電樹脂組成物に含まれる樹脂成分の全質量に対する、液晶ポリマー(A)の質量とグラフト変性ポリオレフィン(B)の質量との合計の割合は、典型的には、80質量%が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0023】
その他の樹脂の例としては、グラフト変性されていないポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の非液晶性のポリエステル、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、シリコーン樹脂、及びフッ素樹脂等が挙げられる。
【0024】
低誘電樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤を配合できる。無機充填剤としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、シリカ、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、アルミナ、モンモリロナイト、石膏、ガラスフレーク、ガラス繊維、ミルドガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、ホウ酸アルミニウムウィスカ、及びチタン酸カリウム繊維等が挙げられる。無機充填剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
これらの無機充填剤の使用量は、低誘電樹脂組成物の低誘電特性を損なわない範囲で、低誘電樹脂組成物の用途に応じて適宜決定される。例えば、低誘電樹脂組成物を用いてフィルムを形成する場合には、フィルムの機械強度を著しく損なわない範囲で、無機充填剤の使用量の上限が定められる。
【0025】
低誘電樹脂組成物には、必要に応じて、さらに、有機充填剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、防錆剤、架橋剤、発泡剤、蛍光剤、表面平滑剤、表面光沢改良剤、及び離型改良剤等の各種の添加剤を配合できる。
これらの添加剤は、単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0026】
以下、液晶ポリマー(A)、及びグラフト変性ポリオレフィン(B)について説明する。
【0027】
<液晶ポリマー>
液晶ポリマーは、溶融時に光学的異方性を示すポリマーであって、当業者にサーモトロピック液晶ポリマーと認識されているポリマーを特に制限なく用いることができる。溶融時の光学的異方性は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。
【0028】
液晶ポリマーは、典型的にはフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を重縮合することにより製造される。重縮合は、触媒の存在下に行われるのが好ましい。触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、1-メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。
触媒の使用量は、例えば、モノマー混合物(A)の量100質量部に対し、0.1質量部以下が好ましい。
【0029】
前述の通り、モノマー混合物は、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマーの混合物である。モノマー混合物は、テレフタル酸やイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸等のフェノール性水酸基を持たないモノマーを含んでいてもよい。
【0030】
モノマー混合物の調製方法としては、コストや製造時間の点で、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得る方法が好ましい。
【0031】
液晶ポリマーを構成する構成単位としては、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族アミノオキシ単位、芳香族ジアミノ単位、芳香族アミノカルボニル単位、及び脂肪族ジオキシ単位等が挙げられる。
なお、液晶ポリマー、エステル結合以外の結合として、アミド結合やチオエステル結合を含んでいてもよい。
【0032】
芳香族オキシカルボニル単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する単位である。
芳香族ヒドロキシカルボン酸の好適な具体例としては、p-ヒドロキシ安息香酸、m-ヒドロキシ安息香酸、o-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ヒドロキシカルボン酸と同様に好適に使用できる。
得られる液晶ポリマーの機械的特性や融点を調整しやすいことから、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の中では、p-ヒドロキシ安息香酸、及び6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸が好ましい。
【0033】
芳香族ジカルボニル繰返し単位は、芳香族ジカルボン酸に由来する単位である。
芳香族ジカルボン酸の好適な具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、及び4,4’-ジカルボキシビフェニル等の芳香族ジカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も、芳香族ジカルボン酸と同様に好適に使用できる。
得られる液晶ポリマーの機械物性、耐熱性、融点温度、成形性を適度なレベルに調整しやすいことから、これらの芳香族ジカルボン酸中ではテレフタル酸、及び2,6-ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0034】
芳香族ジオキシ繰返し単位は、芳香族ジオールに由来する単位である。
芳香族ジオールの好適な具体例としては、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテル、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
重縮合時の反応性、及び得られる液晶ポリマーの特性等の点から、これらの芳香族ジオールの中ではハイドロキノン、レゾルシン、及び4,4’-ジヒドロキシビフェニルが好ましい。
【0035】
芳香族アミノオキシ単位は、芳香族ヒドロキシアミンに由来する単位である。
芳香族ヒドロキシアミンの好適な具体例としては、p-アミノフェノール、m-アミノフェノール、4-アミノ-1-ナフトール、5-アミノ-1-ナフトール、8-アミノ-2-ナフトール、4-アミノ-4’-ヒドロキシビフェニル等の芳香族ヒドロキシアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体等が挙げられる。
【0036】
芳香族ジアミノ単位は、芳香族ジアミンに由来する単位である。
芳香族ジアミンの好適な具体例としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、1,8-ジアミノナフタレン等の芳香族ジアミン、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
【0037】
芳香族アミノカルボニル単位は、芳香族アミノカルボン酸に由来する単位である。
芳香族アミノカルボン酸の好適な具体例としては、p-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、6-アミノ-2-ナフトエ酸等の芳香族アミノカルボン酸、これらのアルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体が挙げられる。
芳香族アミノカルボン酸のエステル誘導体、酸ハロゲン化物等のエステル形成性誘導体も液晶ポリマー製造用のモノマーとして好適に使用できる。
【0038】
脂肪族ジオキシ単位を与える単量体の具体例としては、例えばエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール、ならびにそれらのアシル化物が挙げられる。
また、ポリエチレンテレフタレートや、ポリブチレンテレフタレート等の脂肪族ジオキシ単位を含有するポリマーを、前術の芳香族オキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、及びそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等と反応させることによっても、脂肪族ジオキシ単位を含む液晶ポリマーを得ることができる。
【0039】
液晶ポリマーは、チオエステル結合を含むものであってもよい。このような結合を与える単量体としては、メルカプト芳香族カルボン酸、芳香族ジチオール、及びヒドロキシ芳香族チオール等が挙げられる。
これらの単量体の使用量は、芳香族オキシカルボニル繰返し単位、芳香族ジカルボニル繰返し単位、芳香族ジオキシ繰返し単位、芳香族アミノオキシ繰返し単位、芳香族ジアミノ繰返し単位、芳香族アミノカルボニル繰り返し単位、芳香族オキシジカルボニル繰返し単位、及び脂肪族ジオキシ繰返し単位を与える単量体の合計量に対して10モル%以下であるのが好ましい。
【0040】
液晶ポリマーの好適な例としては、以下の1)~26)等が挙げられる。
1)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸共重合体
2)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
3)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
4)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/イソフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
5)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
6)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体
7)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
8)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
9)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
10)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン共重合体
11)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
12)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
13)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
14)4-ヒドロキシ安息香酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
15)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン共重合体
16)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/ハイドロキノン/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
17)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
18)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
19)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4-アミノフェノール共重合体
20)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/4-アミノフェノール共重合体
21)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
22)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
23)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/エチレングリコール共重合体
24)4-ヒドロキシ安息香酸/2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/テレフタル酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/エチレングリコール共重合体
25)4-ヒドロキシ安息香酸/テレフタル酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル共重合体
26)2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸/2,6-ナフタレンジカルボン酸/4,4’-ジヒドロキシビフェニル/ハイドロキノン共重合体。
液晶ポリマーは、より好ましくは全芳香族液晶ポリマー、すなわちエチレンジオキシ単位等の脂肪族系単位不含のポリマーである。全芳香族液晶ポリマーを成分とすることにより、低誘電樹脂組成物はより耐熱性に優れるものとなる。
【0041】
前述の通り、フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物をアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を得るのが好ましい。アシル化は、フェノール性水酸基と、脂肪酸無水物とを反応させることにより行われるのが好ましい。脂肪酸無水物としては、例えば、無水酢酸、及び無水プロピオン酸等を用いることができる。価格と取り扱い性の点から、無水酢酸が好ましく使用される。
【0042】
脂肪酸無水物の使用量は、フェノール性水酸基の量に対して、1.0倍当量以上1.15倍当量以下が好ましく、1.03倍当量以上1.10倍当量以下がより好ましい。
【0043】
フェノール性水酸基を有するモノマーを含むモノマー混合物と、上記の脂肪酸無水物とを混合して加熱することによりアシル化して、フェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物が得られる。
【0044】
以上のようにして得られたフェノール性水酸基を有するモノマーのアシル化物を含むモノマー混合物を加熱するとともに、重縮合により副生する脂肪酸を留去することにより液晶ポリマーが得られる。
溶融重縮合のみにより液晶ポリマーを製造する場合、溶融重縮合の温度は、150℃以上400℃以下が好ましく、250℃以上370℃以下が好ましい。
溶融重縮合と、後述する固相重合との二段階で液晶ポリマーを製造する場合、溶融重縮合の温度は120℃以上350℃以下が好ましく、200℃以上300℃以下が好ましい。重縮合反応の時間は、所望する融点、又は所望する分子量の液晶ポリマーが得られる限り特に限定されない。例えば、重縮合の反応時間としては30分以上5時間以下が好ましい。
上記方法により製造される液晶ポリマーは、必要に応じて、さらに高分子量化するために、固化された状態(固相)で加熱する重縮合に供されてもよい。
【0045】
上記方法により、液晶ポリマー(A)が得られる。液晶ポリマー(A)の融点は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。液晶ポリマー(A)の融点は、250℃以上が好ましく、280℃以上がより好ましい。他方、加工性の観点や、低誘電樹脂組成物製造時のグラフト変性ポリオレフィン(B)の分解の抑制の点等から、液晶ポリマー(A)の融点は、400℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましい。
なお、液晶ポリマー(A)の融点は、例えば、示差走査熱量計(Differential scanning calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/minで測定した際の結晶融解ピークから求めた温度である。より具体的には、液晶ポリマーの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20℃以上50℃以下高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリマーの融点とする。測定用機器としては、例えば、TA Instruments社製DSC Q1000等を使用することができる。
【0046】
<グラフト変性ポリオレフィン(B)>
グラフト変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンがグラフト変性された樹脂であって、極性基を有する樹脂であれば特に限定されない。複数種の変性ポリオレフィンを併用することもできる。
ここで極性基とは、極性のある原子団のことで,この基が有機化合物中に存在すると,その化合物が極性をもつ基のことである。グラフトによりポリオレフィンに導入され得る極性基の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸に由来するカルボキシ基;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル(例えばメチル(メタ)アクリレートやエチル(メタ)アクリレート)等の前述の不飽和カルボン酸の誘導体に由来する酸無水物基、ハロカルボニル基、カルボン酸アミド基、イミド基、及びカルボン酸エステル基;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体に由来するエポキシ基等が挙げられる。これらの極性基の中では、好ましい相状態の低誘電樹脂組成物を得やすいことや、低誘電樹脂組成物を他の材料と接触させて用いる場合に、低誘電樹脂組成物と他の材料との密着性が良好であること等からエポキシ基を含有することが好ましい。
エポキシ基は、フェノール性水酸基やカルボキシ基等の液晶ポリマー(A)が有する官能基と反応し得る。このため、極性基としてエポキシ基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)と、液晶ポリマー(A)とは、低誘電樹脂組成物中において適度に親和し、例えば、海島構造のような好ましい相構造を容易に形成し得る。
【0047】
グラフト変性ポリオレフィン(B)は、主鎖から分枝した箇所に極性基を有しているので、ポリオレフィン系のランダム共重合体やブロック共重合体とは異なる効果を発現する。後記する実施例・比較例でも示すように、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィンを含む低誘電樹脂組成物は、同様の極性基を有するモノマーが共重合されたポリオレフィン系樹脂を含む組成物に比べ、誘電正接が有意に低い。また、分枝部を介して液晶ポリマーと相溶するので、極性基による変性量を大きくする必要がない。一般に、変性ポリオレフィンは極性基による変性量が大きいほど耐熱性が低くなる。しかし、グラフト変性ポリオレフィン(B)によれば少量の変性量で液晶ポリマーとの相溶性が発現する。このため、グラフト変性ポリオレフィン(B)を用いると、耐熱性を犠牲にすることなく低誘電樹脂組成物に良好な低誘電特性と溶融加工性を付すことができる。
【0048】
グラフト変性ポリオレフィン(B)中の極性基の量(変性量)に特に制限はない。液晶ポリマー(A)の化学構造や低誘電樹脂組成物の使用目的に応じて、種々の変性量のグラフト変性ポリオレフィン(B)を用いることができる。しかしながら、極性基含有単位の量が、グラフト変性ポリオレフィン(B)全体に対して0.01質量%以上5質量%以下、さらには0.05以上3質量%以下、特に0.1質量%以上2質量%以下であると、低誘電樹脂組成物により良好な耐熱性及び溶融加工性を付すことができ、好ましい。特に、極性基がエポキシ基である場合、グラフト変性ポリオレフィン(B)のエポキシ価は、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.05質量%以上3質量%以下、特に好ましくは0.1~2質量%であるのが望ましい。
【0049】
典型的には、グラフト変性ポリオレフィン(B)は、ポリオレフィンが、ラジカル重合開始剤の存在下で、極性基を有するビニル単量体でグラフト変性された樹脂である。
グラフト変性ポリオレフィン(B)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリオレフィンであるのが好ましく、グリシジル(メタ)アクリレートと、スチレンとによってグラフト変性されたポリオレフィンであるのがより好ましい。
【0050】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテン、プロピレン-エチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、エチレン/ブテン-1共重合体、及びエチレン/オクテン共重合体等の鎖状ポリオレフィン;シクロペンタジエンとエチレン及び/又はプロピレンとの共重合体等の環状ポリオレフィンが挙げられる。
【0051】
これらのポリオレフィンの中でも、変性反応が容易であることから、ポリメチルペンテン、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びプロピレン-エチレン共重合体が好ましく、耐熱性及び低誘電特性の点から、ポリメチルペンテンがより好ましい。
【0052】
ポリオレフィンをグラフト変性する際に使用し得るラジカル重合開始剤としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、及びメチルアセトアセテートパーオキサイド等のケトンパーオキサイド;1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、及び2,2-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール;パーメタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、及びクメンハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、α,α’-ビス(tert-ブチルパーオキシ-m-イソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等のジアルキルパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;ジ(3-メチル-3-メトキシブチル)パーオキシジカーボネート、及びジ-2-メトキシブチルパーオキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシオクテート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、tert-ブチルパーオキシアセテート、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、及びジ-tert-ブチルパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル等が挙げられる。上記のラジカル重合開始剤は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
ラジカル重合開始剤の使用量は、グラフト変性反応が良好に進行する限り特に限定されない。ラジカル重合開始剤の使用量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.2質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0054】
グラフト変性に使用され得る極性基を有するビニル単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、及びイソクロトン酸等の不飽和カルボン酸;酸無水物、酸ハライド、アミド、イミド、及びエステル等のこれらの不飽和カルボン酸の誘導体;メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノグリシジル、マレイン酸ジグリシジル、イタコン酸モノグリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルコハク酸モノグリシジル、アリルコハク酸ジグリシジル、p-スチレンカルボン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、p-グリシジルスチレン、3,4-エポキシ-1-ブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、及びビニルシクロヘキセンモノオキシド等のエポキシ基含有ビニル単量体が挙げられる。
これらの中でも、エポキシ基含有ビニル単量体が好ましく、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジルがより好ましく、メタクリル酸グリシジルが特に好ましい。
上記の極性基を有するビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
ポリオレフィンのグラフト変性に使用される極性基を有するビニル単量体の添加量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.2質量部以上10質量部以下がより好ましく、0.3質量部以上5質量部以下が特に好ましい。
かかる範囲内の量の極性基を有するビニル単量体を用いて変性されたポリオレフィンを用いることで、好ましい相状態であり、所望する低誘電特性を示す低誘電樹脂組成物を得やすい。
【0056】
前述の通りグラフト変性ポリオレフィン(B)は、極性基を有するビニル単量体、及び芳香族ビニル単量体によりグラフト変性されたポリオレフィンであるのが好ましい。
極性基を有するビニル単量体と、芳香族ビニル単量体とを併用することにより、グラフト反応が安定化することによって、極性基を有するビニル単量体を所望する量グラフトさせやすいためである。
【0057】
芳香族ビニル単量体の具体例としては、スチレン;o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、ジメチルスチレン、及びトリメチルスチレン等のアルキルスチレン類;o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、α-クロロスチレン、β-クロロスチレン、ジクロロスチレン、及びトリクロロスチレン等のクロロスチレン類;o-ブロモスチレン、m-ブロモスチレン、p-ブロモスチレン、ジブロモスチレン、及びトリブロモスチレン等のブロモスチレン類;o-フルオロスチレン、m-フルオロスチレン、p-フルオロスチレン、ジフルオロスチレン、及びトリフルオロスチレン等のフルオロスチレン類;o-ニトロスチレン、m-ニトロスチレン、p-ニトロスチレン、ジニトロスチレン、及びトリニトロスチレン等のニトロスチレン類;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、ジヒドロキシスチレン、及びトリヒドロキシスチレン等のヒドロキシスチレン類;o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、o-ジイソプロペニルベンゼン、m-ジイソプロペニルベンゼン、及びp-ジイソプロペニルベンゼン等のジアルケニルベンゼン類等が挙げられる。
これら芳香族ビニル単量体の中でも、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-ジビニルベンゼン、m-ジビニルベンゼン、p-ジビニルベンゼン、又はジビニルベンゼン異性体混合物が、安価な点で好ましく、特にスチレンが好ましい。
芳香族ビニル単量体は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0058】
ポリオレフィンのグラフト変性に使用される極性基を有する芳香族ビニル単量体の量は、ポリオレフィン100質量部に対して、0.1質量部以上12質量部以下が好ましく、0.2質量部以上10質量部以下がより好ましく、0.3質量部以上5質量部以下が特に好ましい。
【0059】
以上説明した低誘電樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形等の公知の種々の製造方法により種々の成形品に加工される。
以上説明した低誘電樹脂組成物は、高周波帯域における低誘電特性に優れるため、好ましくはフィルムに加工され、当該フィルムを用いて伝送損失の少ないフレキシブルプリント配線板が製造される。
【実施例
【0060】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
〔製造例1〕
(変性ポリオレフィン1の製造)
(a1)ポリメチルペンテン樹脂(三井化学製TPXグレードMX002)100質量部、(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)1.5質量部を、ホッパー口より、シリンダー温度230℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(46mmφ、L/D=63、神戸製鋼社製)に供給して溶融混練を行う際に、シリンダー途中より(c1)スチレン8質量部、(d1)グリシジルメタクリレート8質量部を加えた。その後、ベント口から真空脱揮することにより変性ポリオレフィン樹脂のペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを130℃でキシレンに溶解させた後、再び常温に冷却した際に析出した再結晶樹脂を用いて、JIS K7236に準拠し電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT700)でグリシジルメタクリレート変性量を測定した。変性ポリオレフィン1のグリシジルメタクリレート変性量は2.64質量%だった。
【0062】
〔製造例2~6〕
(変性ポリオレフィン2~6の製造)
(b1)1,3-ジ(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油製:パーブチルP)、(c1)スチレン、及び(d1)グリシジルメタクリレートの添加量を下記のように変更した以外は、製造例1と同一の操作を行い、変性ポリオレフィン2~7を製造した。各変性ポリオレフィンにおけるグリシジルメタクリレート変性量は、以下のとおりであった。
・変性ポリオレフィン2:(b1) 0.15質量部、(c1)0.5質量部、(d1)0.5質量部:グリシジルメタクリレート変性量0.23質量%
・変性ポリオレフィン3:(b1) 0.25質量部、(c1)1質量部、(d1)1質量部:グリシジルメタクリレート変性量0.35質量%
・変性ポリオレフィン4:(b1) 0.50質量部、(c1)2質量部、(d1)2質量部:グリシジルメタクリレート変性量0.74質量%
・変性ポリオレフィン5:(b1) 1.00質量部、(c1)4質量部、(d1)4質量部:グリシジルメタクリレート変性量1.56質量%
・変性ポリオレフィン6:(b1) 2.60質量部、(c1)12質量部、(d1)12質量部:グリシジルメタクリレート変性量4.29質量%
【0063】
〔実施例1~3、及び比較例1~6〕
実施例、及び比較例において、液晶ポリマー(A)((A)成分)として、融点280℃の全芳香族液晶ポリエステル樹脂を用いた。また、実施例において、グラフト変性ポリオレフィン(B)((B)成分)として、製造例1で得た変性ポリオレフィン1を用いた。
比較例において、液晶ポリマー(A)と混合する樹脂として、未変性のポリメチルペンテンと、エチレン/グリシジルメタクリレート/メチルアクリレート共重合体(住友化学株式会社製、ボンドファースト7L(BF-7L))とを用いた。ボンドファースト7Lは、極性基としてエポキシ基を3質量%、メチルアクリレート基を27質量%有する非グラフト変性型の樹脂である。
【0064】
表1に記載の量の各材料を、ホッパー口よりシリンダー温度300℃、スクリュー回転数150rpmに設定した二軸押出機(25mmφ、L/D=40、テクノベル製)に供給して溶融混練し各実施例、及び比較例の樹脂組成物を得た。なお、比較例1については、液晶ポリマー(A)単独での評価であり、比較例4については、変性ポリオレフィン1単独での評価である。各実施例、及び各比較例の樹脂、又は樹脂組成物について、以下の方法に従って、比誘電率、誘電正接、耐熱性、及び加工性の評価を行った。これらの評価結果を表1に記す。
【0065】
[比誘電率・誘電正接]
測定装置として、空洞共振器摂動法複素誘電率評価装置を用い、下記周波数で得られた樹脂組成物の誘電率及び誘電正接を測定した。
測定周波数:10GHz
測定条件:温度22℃~24℃、湿度45%~55%
測定試料:前記測定条件下で、24時間放置した試料を使用した。
【0066】
[耐熱性]
測定装置として、動的粘弾性測定装置を用い、貯蔵弾性率が10MPa以下になる温度(℃)を測定した。測定は以下の条件で行い、耐熱性を下記の基準で評価した。
・サンプル測定範囲;幅5mm、つかみ具間距離20mm
・測定温度範囲;25℃~260℃
・昇温速度;5℃/分
・歪み振幅;0.1%
・測定周波数;1Hz
・最小張力/圧縮力;0.1g
・力振幅初期値;100g
・評価基準
◎:260℃でも貯蔵弾性率が10MPa以下にならなかった。
○:貯蔵弾性率が10MPa以下となる温度が、200℃以上であった。
×:貯蔵弾性率が10MPa以下となる温度が、200℃未満であった。
【0067】
[溶融(押出)加工性]
二軸押出機(25mmφ、L/D=40、テクノベル製)を用いて溶融混練した後のストランドを水冷し、ペレタイザーによりカットした際の加工性を以下の通り評価した。
◎:割れ欠けなく、円柱状のペレットが取得可能
○:割れ欠けが一部含まれ、扁平した形状のペレットとなる。
×:ストランドが切断できずペレット取得ができない。又はペレットのほとんどにヒゲ、割れ欠けが含まれる。
【0068】
[フィルム加工性]
上記で得られた各ペレットを、溶融押出によりTダイにてフィルムに成形した際の加工性を、以下の通り評価した。
◎:異常なし
○:Tダイのリップ部分に樹脂塊が発生/もしくはフィルムの垂れ・裂けが発生したが、フィルム化は可能であった。
×:Tダイのリップ部分に樹脂塊が発生/もしくはフィルムの垂れ・裂けが発生し、フィルム化も不可能であった。
【0069】
[相構造]
各低誘電樹脂組成物をからなるフィルムについて、下記の方法で走査型電子顕微鏡観察を行い、相構造を評価した。
(フィルムの断面出し)
5mm×3mmの範囲をカッターナイフで切り出し、エポキシ系包埋樹脂及びカバーガラスを使用して切り出したフィルムの両面に保護膜層及びカバーガラス層を形成した後、イオンビームによるクロスセクションポリッシャ加工を行った。
(クロスセクションポリッシャ加工)
使用装置:日本電子株式会社製 SM-09020CP相当品
加工条件:加速電圧 6kV。
(フィルム断面観察)
上記得られたフィルムの断面について、走査型電子顕微鏡により観察を行った。
(走査型電子顕微鏡観察)
使用装置:株式会社日立ハイテクノロジーズ製 S-3000N相当品
観察条件:加速電圧 15kV
検出器:反射電子検出(組成モード)
倍率:1000倍。
(観察結果の分類)
観察結果を以下の基準に従い分類した。観察結果を表1に記す。
A:海島構造((A)成分が海相)
B:海島構造((A)成分が島相)
C:共連続構造(連続領域の一部に島相あり)
D:相分離

【0070】
【表1】
【0071】
実施例によれば、液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含有し、かつそれら成分のいずれか一方で海相が形成されている組成物であれば、良好な加工性、特にフィルム加工性と、優れた低誘電特性とを両立できることが分かる。これら実施例の低誘電樹脂組成物では、比誘電率がいずれも2.80以下と液晶ポリマーの値(2.98:比較例1)よりも低く、誘電正接も0.0025以下と変性ポリオレフィン1の値(0.0056:比較例4)に比べて低かった。なお、実施例の樹脂組成物では、島相はいずれもサイズが5μm以下であった。
他方、未変性ポリオレフィンをブレンドした比較例5では、溶融加工性が悪く、フィルム形状に加工することはできなかった。非グラフト変性型のポリオレフィン樹脂であるボンドファースト7Lをブレンドした比較例6では、海島構造が形成され、加工性も良好であったが、誘電正接が大きな値となってしまった。
また、比較例2及び3では、液晶ポリマー(A)と変性ポリオレフィン(B)の両者が共連続構造となり、海島構造が形成された実施例1~3の低誘電樹脂組成物に比べ、フィルム加工性が劣る樹脂組成物となってしまった。
【0072】
〔実施例4~38、及び比較例7~13〕
上記の実施例及び比較例より、樹脂組成物の加工性が相構造に影響されることが判明したので、この点をさらに検証すべく、変性ポリオレフィン2~7を用いて実施例1と同様の操作を行った。各実施例における樹脂組成物の組成、溶融加工性、及び相構造を、表2に示す。参考のため、実施例1~3、並びに比較例2及び3の結果も併記する。
【0073】
【表2】
【0074】
表2より、液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含有し、かつそれら成分のいずれか一方で海相が形成されている低誘電樹脂組成物は、フィルム成形性に優れることが示された。
また、グラフト変性ポリオレフィン(B)として変性量が2質量%以下、特に1質量%以下のものを含有する低誘電樹脂組成物は、海島構造を形成し易く、フィルム成形性に優れることが判明した。
【0075】
実施例4~38及び比較例7~12の低誘電樹脂組成物の幾つかについて、実施例1と同様の物性試験を行った。その結果を、表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
実施例によれば、液晶ポリマー(A)と、極性基を有するグラフト変性ポリオレフィン(B)とを含有し、かつそれら成分のいずれか一方で海相が形成されている組成物であれば、ポリオレフィンの変性量がどのような値であっても、良好な加工性と、優れた低誘電特性とを両立できることが分かる。これら実施例の低誘電樹脂組成物では、比誘電率がいずれも2.80以下であり、液晶ポリマーの値(2.98:比較例1)よりも低かった。なお、変性ポリオレフィン4の誘電正接を測定したところ(比較例13)、0.0027であった。実施例24~28及び32~33の低誘電樹脂組成物では、誘電正接がいずれも0.0025以下であり、変性ポリオレフィン4に比べて低い値であったことが分かる。また、実施例の樹脂組成物では、島相はいずれもサイズが10μm以下であった。
図1
図2
図3