(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】走行支援方法、及び、走行支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20240419BHJP
B60W 40/04 20060101ALI20240419BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240419BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W40/04
B60W60/00
G08G1/16 C
(21)【出願番号】P 2020073694
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高野 博幸
(72)【発明者】
【氏名】武井 翔一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 千加夫
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-203638(JP,A)
【文献】特開2011-106929(JP,A)
【文献】特開2012-066732(JP,A)
【文献】特開2017-140857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/10
B60W 40/04
B60W 60/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定された走行経路が、本線から分岐車線へ進入する経路である場合に
前記分岐車線に存在する渋滞車列を検出
すると、自車両の前記渋滞車列への割り込みを支援する
ための割り込み関連制御を開始する走行支援方法であって、
前記割り込み関連制御では、
前記本線と前記分岐車線との間に設けられた車線の分離帯の開始点を検出し、
前記自車両の割り込みを行うための前記渋滞車列への割り込み箇所を特定し、
前記分離帯の開始点の手前において前記本線への再合流が可能な割り込み中止位置のうち、進行方向の最前方の最終中止位置を決定して、前記分離帯の開始点から前記最終中止位置までの距離である第1距離を求め、
前記本線から前記割り込み箇所への割り込みに必要な前記最終中止位置までの距離である第2距離を求め、
前記自車両が前記最終中止位置よりも前記第2距離だけ手前の位置よりも後方に存在する場合には、
前記自車両の前記割り込み箇所への割り込みを支援する割り込み制御を開始し、
前記自車両が前記最終中止位置に到着すると、前記割り込み制御を中止して前記自車両を前記本線へ再合流させ、
前記自車両が前記最終中止位置よりも前記第2距離だけ手前の位置よりも前方に存在する場合には、
前記割り込み制御を開始せず、
前記第1距離を前記渋滞車列への割り込み時の割り込み速度と、前記本線への再合流時の車速として定められる再合流目標速度と、に基づいて算出し、該第1距離を前記割り込み速度と前記再合流目標速度との速度差が大きいほど長く定め、
前記第2距離を前記渋滞車列への割り込み時の上限速度と、前記自車両の現在車速と、に基づいて算出し、該第2距離を前記上限速度と前記現在車速との速度差が大きいほど長く定める、走行支援方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の走行支援方法であって、
前記第1距離または前記第2距離は、前記本線が2車線以上である場合には、前記本線が1車線である時よりも、短い、走行支援方法。
【請求項3】
請求項
1に記載の走行支援方法であって、
前記第1距離
を、前記本線の車線幅が狭いほど長くするか、または
前記第2距離
を、前記本線の車線幅が狭いほど
短くする、走行支援方法。
【請求項4】
請求項
1に記載の走行支援方法であって、
前記第1距離の算出に用いられる前記再合流目標速度は、前記本線の後続車両の速度が速いほど、速く、また、
前記第2距離の算出に用いられる前記
上限速度は、前記渋滞車列の車速が速いほど、速い、走行支援方法。
【請求項5】
請求項
1に記載の走行支援方法であって、
前記第1距離は、前記割り込み
制御を中止して前記本線へ再合流する場合において、横方向加速度が所定範囲内となる距離、もしくは
前記第2距離は、前記自車両が前記本線から前記割り込み箇所へと割り込む場合において、横方向加速度が所定範囲内となるように定められる、走行支援方法。
【請求項6】
自車両の周辺環境を検出するセンサと、
前記センサにより検出された前記周辺環境の情報に基づいて走行経路を設定し、当該走行経路に沿って前記自車両の走行を支援するコントローラと、を備える、走行支援装置であって、
前記コントローラは、
設定された前記走行経路が、本線からの分岐車線へ進入する
経路である場合に
前記分岐車線に存在する渋滞車列を検出
すると、前記自車両の前記渋滞車列への割り込みを支援するための割り込み関連制御を開始し、
前記割り込み関連制御では、
前記本線と前記分岐車線との間に設けられた車線の分離帯の開始点を検出し、
前記自車両の割り込みを行うための前記渋滞車列への割り込み箇所を特定し、
前記分離帯の開始点の手前において前記本線への再合流が可能な割り込み中止位置のうち、進行方向の最前方の最終中止位置を決定し、
前記分離帯の開始点から前記最終中止位置までの距離である第1距離を求め、
前記本線から前記割り込み箇所への割り込みに必要な前記最終中止位置までの距離である第2距離を求め、
前記自車両が前記最終中止位置よりも前記第2距離だけ手前の位置よりも後方に存在する場合には、
前記自車両の前記割り込み箇所への割り込みを支援する割り込み制御を開始し、
前記自車両が前記最終中止位置に到着すると、前記割り込み制御を中止して前記自車両を前記本線へ再合流させ、
前記自車両が前記最終中止位置よりも前記第2距離だけ手前の位置よりも前方に存在する場合には、
前記割り込み制御を開始せず、
前記第1距離を前記渋滞車列への割り込み時の割り込み速度と、前記本線への再合流時の車速として定められる再合流目標速度と、に基づいて算出し、該第1距離を前記割り込み速度と前記再合流目標速度との速度差が大きいほど長く定め、
前記第2距離を前記渋滞車列への割り込み時の上限速度と、前記自車両の現在車速と、に基づいて算出し、該第2距離を前記上限速度と前記現在車速との速度差が大きいほど長く定める、走行支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援方法、及び、走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行を支援する方法の1つとして、渋滞車列への割り込みを支援する方法が知られている。例えば、特許文献1には、渋滞車列への割り込みを支援する技術の一例が開示されている。この技術によれば、本線から分岐する分岐車線に存在する渋滞車列に対して割り込みを行う時に、割り込みが完了する前に自車両が本線と分岐車線との間に設けられる分離帯の開始点に到着してしまう場合には、渋滞車列への割込み支援を中止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された技術を用いる場合において、本線からの分岐車線に渋滞車列が存在し、その渋滞車列への割り込み前に分離帯の開始点へ到達した場合には、渋滞車列への割り込み支援を中止する。しかしながら、分離帯の開始点の直前で割り込みを中止してしまうと、割り込み支援の中止後において本線への再合流を滞りなく行うことが難しくなるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、渋滞車列への割り込み支援の中止後に、滞りなく本線へ再合流することが可能となるような走行支援方法、及び、走行支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様の走行支援方法によれば、設定された走行経路が、本線から分岐車線へ進入する経路である場合に分岐車線に存在する渋滞車列を検出すると、自車両の前記渋滞車列への割り込みを支援する割り込み関連制御を開始する。割り込み関連制御では、本線と分岐車線との間に設けられた車線の分離帯の開始点を検出し、自車両の割り込みを行うための前記渋滞車列への割り込み箇所を特定し、分離帯の開始点の手前において本線への再合流が可能な割り込み中止位置のうち、進行方向の最前方の最終中止位置を決定して、分離帯の開始点から前記最終中止位置までの距離である第1距離を求め、本線から割り込み箇所への割り込みに必要な最終中止位置までの距離である第2距離を求め、自車両が最終中止位置よりも第2距離だけ手前の位置よりも後方に存在する場合には、自車両の割り込み箇所への割り込みを支援する割り込み制御を開始し、自車両が前記最終中止位置に到着すると、割り込み制御を中止して自車両を前記本線へ再合流させ、自車両が最終中止位置よりも第2距離だけ手前の位置よりも前方に存在する場合には、割り込み制御を開始しない。そして、第1距離を渋滞車列への割り込み時の割り込み速度と、本線への再合流時の車速として定められる再合流目標速度と、に基づいて算出し、当該第1距離を割り込み速度と再合流目標速度との速度差が大きいほど長く定める。また、第2距離を、渋滞車列への割り込み時の上限速度と、自車両の現在車速と、に基づいて算出し、上限速度と現在車速との速度差が大きいほど長く定める。
【発明の効果】
【0007】
本発明の走行支援方法によれば、渋滞車列への割り込みの中止後に、滞りなく本線へ再合流することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る走行支援装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、渋滞車列の近傍における自車両の走行状況を示す図である。
【
図3】
図3は、渋滞車列への割り込みの中止後に本線へ再合流する自車両の走行状況を示す図である。
【
図4】
図4は、運転支援制御を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、割り込み関連制御を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、変形例における割り込み関連制御を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る、渋滞車列への割り込みをする自車両の走行状況を示す図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態に係る、自車両の走行状況を示す図である。
【
図9】
図9は、割り込み関連制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。なお、本明細書における「運転支援」は、車両のドライバによる運転操作の一部を補助する車両の動作制御(自動運転レベル1~4)の他、ドライバによる操作無しの車両の動作制御(自動運転レベル5)も含む概念である。
【0010】
図1は、本実施形態に係る走行支援装置1の概略構成図である。なお、この走行支援装置1は、車両などに搭載され、自車の周辺環境を検出し、検出された周辺環境の情報に基づいて走行環境を推定する。そして、走行支援装置1は、走行環境の推定結果に基づいて、加減速や車線変更など
を実行することで走行支援を行う。走行支援装置1は、走行経路や加減速のタイミングを、モニタ等による表示や音声による報知等により走行支援を行ってもよい。
【0011】
走行支援装置1は、物体検出センサ11と、物体認識部12と、自車位置取得センサ13と、地図記憶部14と、地図内自車位置推定部15と、走行経路生成部20と、車両制御部31とを有する。
【0012】
なお、本実施形態の例においては、走行支援装置1のうちの一部の構成、例えば、物体認識部12と、地図記憶部14と、地図内自車位置推定部15と、走行経路生成部20と、車両制御部31とが、1つのコントローラにより構成されている。コントローラは、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RΑM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたコンピュータで構成される。なお、コントローラは一つの装置として構成されていても良いし、複数のブロックに分けられ、本実施形態の各処理を当該複数のブロックで分散処理するように構成されていても良い。
【0013】
以下、走行支援装置1におけるそれぞれの構成について、詳細に説明する。
【0014】
物体検出センサ11は、自車の周辺に存在する物体(例えば、車両やバイク、歩行車、障害物等)について、その位置、進行方向、大きさ、速度等を取得する。なお、物体検出センサ11は、LiDAR(Light Detection And Ranging)、ミリ波レーダー、及び、カメラ等である。物体検出センサ11による物体の検出結果には、自車が走行する路面における物体の位置、進行方向、大きさ、速度等が含まれる。物体検出センサ11は、物体の検出結果を物体認識部12に出力する。
【0015】
物体認識部12は、物体検出センサ11による物体の検出結果を用いて、センサにおける誤差の補正などを行い、検出結果における物体ごとに誤差が最小となる合理的な位置、進行方向、大きさ、速度等を求める。さらに、物体認識部12は、異なる時刻の検出結果における物体の同一性の検証(対応付け)を行い、その対応付けに基づいて物体の速度を推定する。物体認識部12は、自車の周囲に存在する物体の位置、進行方向、大きさ、速度等の認識結果を、走行経路生成部20に出力する。物体認識部12による認識結果は、自車を中心とした相対座標を用いて示される。
【0016】
自車位置取得センサ13は、GPS(Global Positioning System)やオドメトリ等の絶対位置を計測するセンサにより、自車の絶対位置、進行方向、速度等を計測する。自車位置取得センサ13は、自車の位置情報を、地図内自車位置推定部15に出力する。
【0017】
地図記憶部14は、高精度地図データを記憶しており、高精度地図データから縁石や車線等の絶対位置、車線の接続関係や相対位置関係等の地図情報を提供する。地図記憶部14は、記憶している地図情報を、地図内自車位置推定部15に出力する。
【0018】
地図内自車位置推定部15は、自車位置取得センサ13により得られた自車の位置情報と、地図記憶部14に記憶されている地図情報とに基づいて、地図内における自車の位置を推定する。地図内自車位置推定部15は、地図内の自車の位置情報を、走行経路生成部20に出力する。
【0019】
走行経路生成部20は、物体認識部12による認識結果、及び、地図内自車位置推定部15により得られる地図内の自車の位置情報を用いて、走行経路を生成する。また、例えば生成した走行経路上に渋滞車列が存在する場合になどの渋滞車列への割り込みが必要な場合には、走行経路生成部20は、渋滞車列を構成する車両の前後距離が比較的長い割り込み箇所を特定し、その割り込み箇所へと進行するような走行経路を生成することで、割り込み支援を行う
【0020】
図2及び3は、渋滞車列への割り込みを行う場合の車両の走行状況を示す図である。これらの図においては、図下から上に向かって車両が進行するものとする。
【0021】
図2には、図右側の本線L1と、本線L1から分岐する分岐路L2(または、分岐車線L2)とが示されている。本線L1と分岐路L2とは、開始点Xから開始される分離帯により分離されている。なお、分岐路L2は、分離帯の開始点Xよりも進行方向手前の分岐点Pから開始している。本線L1において、自車両Aが走行し、分岐路L2において、n台の車両B(車両B1~Bn)により構成される渋滞車列Cが存在する。この例においては、渋滞車列Cは、分岐路L2の分岐が開始される分岐点Pよりも手前の路側帯にまで伸びているが、渋滞車列Cは、分岐点Pよりも前方で終了していてもよい。
【0022】
このような状況において、走行経路生成部20は、渋滞車列Cを構成する車両B1~Bnそれぞれの走行速度及び走行経路を予測し、渋滞車列C中において前後方向に隣接する任意の2つの車両Bの間隔(車間距離)が、割り込み可能長よりも長くなる割り込み箇所を特定する。そして、走行経路生成部20は、割り込み箇所へと向かうような走行経路を生成する。例えば、割り込み可能長は、自車両Aの前後方向の全長に対してマージンを加えた距離である。また割り込み可能長は、任意の2つの車両Bの相対速度に対して無理なく割り込みが実施可能な程度の予め定めた所定時間を乗算した距離(すなわちTTCが所定時間以上となる距離)、あるいは任意の2つの車両Bのうちの後続車の車速に対して無理なく割り込みが実施可能な程度の予め定めた所定時間を乗算した距離(すなわち車頭時間が所定時間以上となる距離)であっても良い。
【0023】
しかしながら、自車両Aが割り込み箇所に近づいた時に、割り込み箇所の前後に存在する車両Bの間隔が割り込み可能長よりも短くなる場合がある。このような場合には、走行経路生成部20は、さらに、他の割り込み箇所を推定し、その割り込み箇所において割り込みが行われるような走行経路を再生成する。このような走行経路の生成を繰り返すことによって、自車両の渋滞車列Cへの割り込みを支援する。
【0024】
一方で、渋滞車列Cへの割り込みの失敗と試行とを複数回行う間に、自車両Aは分離帯の開始点Xに接近してしまう。そこで、自車両Aが分岐路L2ではなく本線L1を走行しても最終目的地に到着できる場合には、走行経路生成部20は、分岐路L2に替えて本線L1を走行する経路に変更する。このような場合には、走行経路生成部20は、渋滞車列Cへの割り込みを中止して、本線L1へと再合流するような走行経路を生成する。なお、分離帯の開始点Xとは、物理的あるいは交通規則上で本線L1から分岐路L2への車線変更ができなくなる位置であり、例えば本線L1と分岐路L2とを分離する縁石やガードレールの開始位置や、車線変更禁止区間の開始位置や進入禁止区域の開始位置等を意味する。
【0025】
図3には、自車両Aが渋滞車列Cへの割り込みの中止後に、本線L1へと再合流する経路が示されている。
【0026】
本線L1を走行する後続の他車両(不図示)の走行の妨げとならずに、自車両Aが本線L1に再合流するためには、再合流する際に自車両Aは一定の速度である必要がある。そのため、割り込み中止後に本線L1へ再合流するまでの間に、自車両Aは目標となる再合流目標速度まで加速しなければならない。しかしながら、走行距離が短ければ、再合流目標速度となるまでに急加速しなければならないので、運転者に不快感を与えるおそれがある。そのため、急加速とならないように、分離帯の開始点Xから所定の距離だけ離れた位置において割り込みを中止し、本線L1への再合流を開始する必要がある。以下では、このような、急加速とならずに本線L1へと再合流するような割り込み中止位置のうちの最も前方の位置は、割り込みを中止する最終位置であるため、以降では、最終中止位置Yと称されるものとする。
【0027】
ここで、以下のようにパラメータを設定するものとする。
【0028】
D :分離帯の開始点Xから最終中止位置Yまでの進行方向の距離
v1:本線L1に再合流する際の下限速度(再合流目標速度)
v2:割り込み中止時の自車両Aの車速(割り込み速度)
a :許容される前後方向の最大加速度
l1:最終中止位置Yにおける渋滞車列Cから、分離帯の開始点Xの側方の本線L1までの距離(再合流までの走行距離)
l2:渋滞車列Cから本線L1までの車線幅方向の距離
【0029】
ここで、最終中止位置Yにおける渋滞車列Cから、分離帯の開始点Xの側方の本線L1まで走行する間に、自車両Aが割り込み速度v2から再合流目標速度v1へと等加速度で加速する場合において、距離l1と加速時間tとの関係について、次式が成立する。
(v1+v2)t/2=l1・・・(1)
【0030】
(1)式を変形すると、次式が得られる。
t=2・l1/(v1+v2)・・・(2)
【0031】
ここで、最大加速度aとは予め定められた、乗員に不快感を与えない範囲で許容される前後方向加速度のうちの最大の加速度である。最大加速度aで車速をv2からv1へと加速するのに要する時間は「(v2―v1)/a」である。運転者にとって不快とならずに加速するためには、加速時間tは、「(v2―v1)/a」よりも長くなる必要があるので、次式が求められる。
t>(v2―v1)/a・・・(3)
【0032】
(2)式を(3)式に代入して変形すれば、以下の関係が求められる。
l1>(v2―v1)/2a(v1+v2)・・・(4)
【0033】
これにより、l1の下限値を求めることができる。
【0034】
また、l1、l2、Dには、以下の関係が成立する。
l1
2=l2
2+D2・・・(5)
【0035】
そこで、渋滞車列Cから本線L1までの車線幅方向の距離l2を用いれば、(5)式に従って、距離Dを求めることができる。これにより、分離帯の開始点Xから距離Dだけ手前の最終中止位置Yが求められる。
【0036】
再び、
図1を参照すれば、
図3に示されるような最終中止位置Yの算出は、走行経路生成部20により行われる。走行経路生成部20は、経路設定部21、割り込み経路生成部22、及び、割り込み関連処理部23を含む。
【0037】
経路設定部21は、地図記憶部14に記憶されている地図情報、及び、地図内自車位置推定部15により得られる地図内の自車の位置情報を取得する。地図情報には、例えば自車両の走行開始時に、不図示の入力装置を乗員が操作して入力した地図上の目的地と地図内の自車の位置情報に基づいて、自車両が現在地から目的地まで走行するための推奨される走行経路が予め算出して記憶されており、経路設定部21は、自車の走行経路となる情報を抽出して走行経路を設定する。
【0038】
経路設定部21は、地図情報を取得できない場合には、物体検出センサ11により取得される画像情報などに基づいて、走行経路を設定する。経路設定部21による走行経路の設定には、カメラなどの車載センサにより取得される情報が用いられてもよく、また、地図データに含まれる道路表示、構造物、及び、旋回先の車線などの情報を補助的に用いてもよい。
【0039】
割り込み経路生成部22は、自車両Aの走行経路に渋滞車列Cが存在する場合には、渋滞車列Cにおける割り込み箇所を検出し、割り込み箇所へと向かうような割り込み経路を生成する。これにより、走行経路は割り込み経路を含むように変更されて、自車両Aの割り込みが支援される。
【0040】
割り込み経路生成部22は、渋滞車列判定部221と、割り込み箇所検出部222とを有しており、これらのブロックは、以下の処理を行う。
【0041】
渋滞車列判定部221は、物体認識部12による認識結果に基づいて、前後方向に列をなした複数の車両を検出すると、それらの車両の前後方向の車間距離が所定の距離より短く、かつ、車両の平均車速が所定の速度よりも遅い場合には、当該複数の車両により渋滞車列Cが構成されていることを判定する。なお、渋滞車列判定部221は、渋滞車列Cの終了位置を検出することができる。また、この渋滞車列Cの先頭位置は、通信を介してネットワークから取得してもよい。
【0042】
割り込み箇所検出部222は、渋滞車列Cを構成する車両Bのそれぞれの走行経路及び速度を予測することで、前後方向に隣り合う2つの車両Bの全ての車間距離を予測する。そして、割り込み箇所検出部222は、車間距離が割り込みに必要な予め定められた距離である割り込み可能長を上回ると予測される場所を、割り込み箇所として検出する。
【0043】
ここで、上述のように、自車両Aが割り込み箇所に接近する間に、前後方向に隣り合う2つの車両Bのうちの後続車が加速する、あるいは先行車が減速するなどによって車両B間の関係に変化が生じ、自車両Aが割り込み箇所に接近した場合において、割り込み箇所の前後にある車両Bの車間距離が割り込み可能長を上回らないことがある。このような場合には、割り込み箇所検出部222は、再度、渋滞車列Cにおいて割り込み箇所を検出し、割り込み経路を再生成する。
【0044】
しかしながら、
図3に示されるように、自車両Aが分離帯の開始点Xに近づき、最終中止位置Yに到達すると、走行経路生成部20は、渋滞車列Cへの割り込み支援を中止し、本線L1へと再合流するような走行経路を生成する。このような最終中止位置Yは、割り込み関連処理部23によって求められる。
【0045】
割り込み関連処理部23は、車両情報読み出し部231、速度読み出し部232、限界位置算出部233、及び、道路構造特定部234を有しており、これらのブロックは、以下の処理を行う。
【0046】
車両情報読み出し部231は、割り込みを行っている自車両Aの割り込み速度v2、及び、渋滞車列Cから本線L1の中心までの車線幅方向の距離l2を検出する。また、車両情報読み出し部231は、運転者に不快とならない最大加速度aを予め記憶しているものとする。
【0047】
速度読み出し部232は、地図記憶部14に記憶されている地図情報に含まれている本線L1の法定速度を読み出し、その法定速度に応じて、本線L1に再合流する際の下限である再合流目標速度v1を定める。また、速度読み出し部232は、物体認識部12の認識結果を用いて、本線L1を走行する車両の走行速度を求め、その走行速度を再合流目標速度v1としてもよい。
【0048】
限界位置算出部233は、車両情報読み出し部231により求められた、現在の自車両Aの割り込み速度v2、及び、許容される最大加速度aと、速度読み出し部232より得られる再合流目標速度v1とを用いて、式(4)により、再合流するまでに走行する距離l1を求める。そして、限界位置算出部233は、算出された距離l1、及び、渋滞車列Cからの本線L1までの車線幅方向の距離l2を用いて、式(5)により、距離Dを求める。
【0049】
道路構造特定部234は、進行方向において分離帯の開始点Xから距離Dだけ手前の位置を最終中止位置Yとして設定し、最終中止位置Yよりも進行方向の側の領域を、渋滞車列Cへの割り込みを禁止する割り込み不可領域として特定する。これにより、自車両Aが割り込み不可領域に到達すると、渋滞車列Cへの割り込みを中止して、本線L1へ再合流するような走行経路が生成される。このようにすることで、自車両Aは、許容される最大加速度aで加速し、目標となる再合流目標速度v1を上回った車速で本線L1へ再合流することができる。なお、本線L1へ再合流する走行経路を生成し、生成した走行経路を最大加速度aで加速した場合に発生する横方向加速度を予測し、予測した横方向加速度が予め定めた乗員に不快感を与えない程度の所定の横方向加速度を超える場合には、最大加速度aを所定量減少補正し、減少補正した最大加速度aを用いて再度距離Dを求め、生成した走行経路を走行した際に発生すると予測される横方向加速度が予め定めた乗員に不快感を与えない程度の所定の横方向加速度以下となるまで繰り返し走行経路を生成する事により、前後方向加速度に加えて横方向加速度においても乗員に不快感を与えない走行経路とすることが望ましい。
【0050】
図4は、走行支援装置1により行われる運転支援制御を示すフローチャートである。なお、この運転支援制御は、所定の周期で繰り返し実行される。また、この運転支援制御は、走行支援装置1が備えるコントローラに記憶されたプログラムが実行されることにより行われてもよい。
【0051】
ステップS1において、コントローラ(物体認識部12)は、物体検出センサ11による自車周囲の物体の検出結果を用いて、自車周囲に存在する物体ごとの位置、進行方向、大きさ、速度等の認識結果を取得する。検出結果には、例えば、自車両を空中から眺める天頂図において、物体の2次元位置、姿勢、大きさ、速度などが含まれる。
【0052】
ステップS2において、コントローラ(物体認識部12)は、ステップS1における物体の検出結果を基に物体検出センサ11の誤差を補正し、さらに、異なる時刻に出力された物体の検出結果において物体の同一性検証(対応付け)を行う。このようにして、コントローラ(物体認識部12)は、自車両の周囲に存在する物体の位置、進行方向、大きさ、速度等の認識結果を、走行経路生成部20に出力する。
【0053】
ステップS3において、コントローラ(地図内自車位置推定部15)は、自車位置取得センサ13の検出結果に基づいて、自車位置を取得する。
【0054】
ステップS4において、コントローラ(地図内自車位置推定部15)は、地図記憶部14に記憶されている高精度地図データを取得する。
【0055】
ステップS5において、コントローラ(地図内自車位置推定部15)は、ステップS3において取得された自車位置と、ステップS4において取得された地図データとを用いて、地図内における自車位置を特定する。
【0056】
ステップS6において、コントローラ(走行経路生成部20)は、ステップS2において取得された自車の近傍に存在する物体の検出結果、及び、ステップS5において取得された地図内における自車位置や、目的地の情報を用いて、自車の走行経路を生成する。
【0057】
ステップS7において、コントローラ(走行経路生成部20)は、渋滞車列Cを検出し、渋滞車列Cにおいて特定された割り込み箇所への割り込みを支援するような割り込み経路を生成する。そして、ステップS6において生成された走行経路は、割り込み経路を含むように再生成される。なお、ステップS7における割り込み関連制御の詳細な処理は、
図5を用いて後に説明する。また、生成された走行経路上に渋滞車列Cが検出されない場合には、ステップS7の処理は省略されてもよい。
【0058】
ステップS8において、コントローラ(車両制御部31)は、ステップS6において生成された、または、ステップS7において再生成された走行経路に沿って、自車両を走行させるように自車両の転舵角やブレーキ油圧、アクセル開度等の走行に関連するアクチュエータを制御する。コントローラ(車両制御部31)は、走行に関連するアクチュエータの一部を制御する、あるいは走行経路をディスプレイに表示するなどにより、乗員の走行経路に沿って走行する操作を支援する、走行支援を行ってもよい。
【0059】
図5は、
図4のステップS7に示された割り込み関連制御の詳細を示すフローチャートである。
【0060】
ステップS71において、コントローラ(渋滞車列判定部221、及び、割り込み箇所検出部222)は、物体認識部12の認識結果に基づいて自車両Aの周囲に存在する渋滞車列Cを検出し、渋滞車列Cを構成する任意の車両Bの前後方向の間隔が割り込み可能長を上回ると予測される割り込み箇所を特定する。そして、コントローラは、割り込み箇所へと向かう割り込み経路を生成し、生成された割り込み経路を含むように再生成された走行経路に沿うように走行を支援する。
【0061】
ステップS72において、コントローラ(割り込み経路生成部22)は、自車両Aの渋滞車列Cへの割り込みが失敗したか否かを判定する。詳細には、コントローラは、割り込み箇所の前後に存在する車両Bの車間距離が割り込み可能長を上回らない場合には、割り込みができないと判断して、割り込み失敗と判定する。一方、コントローラは、割り込み箇所の車間距離が割り込み可能長を上回る場合には、その割り込み箇所への自車両Aの走行が支援されて、割り込み制御が完了する。
【0062】
コントローラは、自車両Aの渋滞車列Cへの割り込みが失敗していない(成功した)場合には(S72:No)、割り込み制御処理を終了する。一方、コントローラは、自車両Aの渋滞車列Cへの割り込みが失敗した場合には(S72:Yes)、次に、ステップS73の処理を実行する。
【0063】
ステップS73において、コントローラ(割り込み関連処理部23)は、車両情報読み出し部231により求められた、現在の自車両Aの割り込み速度v2、及び、許容される最大加速度aと、速度読み出し部232より求められた再合流目標速度v1とを用いて、式(4)により、運転者にとって不快とならない加速度で再合流目標速度v1まで加速して本線L1に再合流するまでに走行する距離l1を算出する。
【0064】
コントローラは、算出された距離l1に対して、渋滞車列Cから本線L1までの車線幅方向の距離l2を用いて、式(5)に基づいた計算を行う。これにより、距離l1は進行方向の距離に変換されて、分離帯の開始点Xから最終中止位置Yまでの距離Dが求められる。なおここで、上述の通り運転者にとって不快とならない加速度とは前後方向加速度だけでなく、横方向加速度においても運転者にとって不快とならない加速度となる走行経路を設定できるような距離Dであることが望ましい。
【0065】
そして、コントローラは、分離帯の開始点Xから距離Dだけ手前の位置を、最終中止位置Yとして定め、最終中止位置Yから分離帯の開始点Xまでの領域を割り込み不可領域として設定する。
【0066】
ステップS74において、コントローラ(割り込み関連処理部23)は、自車両Aが割り込み不可領域に到達したか否かを判定する。自車両Aが割り込み不可領域に到達していない場合には(S74:No)、コントローラは、次に、ステップS75の処理を行う。自車両Aが割り込み不可領域に到達している場合には(S74:Yes)、次に、ステップS76の処理を行う。
【0067】
ステップS75において、コントローラ(割り込み経路生成部22)は、ステップS71の処理と同様に、渋滞車列Cにおいて割り込み箇所を再度特定する。そして、コントローラは、その割り込み箇所へと進むような割り込み経路を生成し、生成された割り込み経路を含むように走行経路を再設定する。このようにして、新たに特定された割り込み箇所において渋滞車列Cへ自車両Aの割り込みが行われるように走行支援される。
【0068】
ステップS76において、コントローラ(割り込み関連処理部23)は、これ以上の渋滞車列Cへの割り込みを試みることは難しいと判断し、割り込み支援と中止して、元の本線L1へ再合流するような経路を生成する。このように生成された再合流する経路を含むように走行経路を再設定することで、自車両Aの本線L1への再合流が支援される。
【0069】
なお、渋滞車列Cから本線L1の中心までの車線幅方向の距離に替えて、渋滞車列Cへの割り込みを中止した時点における自車両Aから本線L1の中心までの車線幅方向の距離をl2としてもよい。このように設定することで、より精度よく、自車両Aが本線L1に再合流する場合における最終中止位置Yを求めることができる。
【0070】
また、渋滞車列Cへの割り込み中止後に再合流をする場合に再合流経路は、自車両Aにおいて発生する車幅方向の(横方向の)加速度である横方向加速度が運転者に不快感を与えない程度の所定範囲内となるように設定される事が望ましい。割り込み中止後から再合流するまでの間において、走行する間に発生する横方向の加速度を低減することで、運転者が好ましくない横方向加速度を感じることを抑制できる。
【0071】
また、再合流目標速度v1は、本線L1の後続車両の速度が速いほど、速く設定されてもよい。このようにすることで、再合流後に後続車両が自車両Aへと接近するおそれを低減することができる。
【0072】
このような第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0073】
第1実施形態の走行支援方法によれば、コントローラは、渋滞車列Cへの割り込み箇所を特定して、その割り込み箇所において自車両Aが渋滞車列Cに割り込みを行うように支援を行い(S71)、本線L1と分岐路L2との間に設けられた両車線の分離帯の開始点Xを検出する(S72)。コントローラは、分岐路L2に存在する渋滞車列Cへの割り込みを中止して本線L1へ再合流する場合には、本線L1への再合流が分離帯の開始点Xの手前となるような割り込み中止位置のうちの最も前方にある最終中止位置Yを決定し(S73)、自車両が最終中止位置Yに到着すると、割り込みを中止して本線L1へ再合流するように走行支援する(S76)。
【0074】
ここで、式(4)に示されるように、車線分離帯の開始点Xから最終中止位置Yまでの距離D(第1距離)は、渋滞車列Cへの割り込み時の割り込み速度v2と本線への再合流時に目標となる再合流目標速度v1との速度差(v2―v1)が大きいほど、長い。
【0075】
このような構成となることにより、本線L1に再合流する際の再合流目標速度v1と現在の割り込み速度v2との差が大きいほど、最終中止位置Yは、進行方向の手前側に設定される。そのため、割り込みを中止後に本線L1に再合流する場合に、加速するための十分な走行距離を確保することができるため、運転者にとって不快とならない加速度で再合流目標速度v1を上回ることができる。その結果、再合流後に後続の他車両に追い付かれるおそれを低減することができるので、より円滑に本線L1への再合流を行うことができる。
【0076】
第1実施形態の走行支援方法によれば、割り込みを中止して本線L1へ再合流する場合における再合流経路は、前後方向加速度が自車両Aの乗員に不快感に不快感を与えない程度の所定の加速度である最大加速度a以下となるように、設定される。割り込み中止から再合流までの経路における前後方向加速度を最大加速度a以下とすることで、運転者に対して不快感を与えることを抑制することができる。
【0077】
第1実施形態の走行支援方法によれば、割り込みを中止して本線L1へ再合流するまでに走行する距離Dを算出する時に、再合流目標速度v1は、本線L1の後続車両の速度が速いほど、速く設定される。このようにすることで、再合流後に後続の他車両が自車両Aへと接近するおそれを低減することができる。なお、再合流目標速度v1は、後続車両とのTTC(Time to Collision:衝突余裕時間)が長くなるように設定されてもよい。
【0078】
(変形例)
第1実施形態においては、式(4)、(5)に基づいて、割り込み不可領域を設定したが、これに限らない。式(4)、(5)に基づいて設定する割り込み不可領域を、他のパラメータを用いて補正してもよい。
【0079】
図6は、本変形例における割り込み制御のフローチャートである。本フローチャートによれば、
図5に示された第1実施形態のフローチャートと比較すると、ステップS73の処理の後段に、ステップS731の補正処理が追加されている。
【0080】
ステップS731において、コントローラ(割り込み関連処理部23)は、種々のパラメータに応じて、ステップS73において算出される距離Dを補正する。これにより、分離帯の開始点Xから距離Dだけ手前の最終中止位置Yが変更されるので、割り込み不可領域が補正される。
【0081】
例えば、コントローラは、渋滞車列Cが長いほど、より長くなるように距離Dを補正する。一般に、渋滞車列Cが長い場合には、割り込み失敗後の割り込みの再試行回数は多い。そのため、距離Dが長くなり、最終中止位置Yがより手前に設定されたとしても、最終中止位置Yの手前において十分に割り込みの試行をしているため、割り込みの中止に対して運転者が不快に思う可能性を低減できる。そのため、より滞りなく本線L1へ再合流することができる。
【0082】
また、コントローラは、本線L1の形状に応じて、距離Dを補正してもよい。
【0083】
例えば、本線が2車線以上である場合には、本線が1車線である時よりも、距離Dを短く補正する。一般に、再合流する本線L1が2車線以上である場合には、それらの車線のうち分岐路L2と隣接する車線においては、走行する他車両の数が少ないため、再合流後に後続車両が自車両Aへと接近するおそれが少ない。
【0084】
そこで、距離Dを短くし、最終中止位置Yがより前方に設定される。これにより、割り込み中止後に本線L1へと再合流するまでの走行距離が短くなるが、本線L1への再合流後に走行する後続車両が少ないため、後続車両が自車両へと接近するおそれが少ない。そのため、再合流目標速度v1まで加速できなくても後続車両が自車両へと接近するおそれが少なく、また、許容される最大加速度aを超えた加速度で加速しても、再合流時に前方車両へ接近するおそれが少ない。そのため、最終中止位置Yがより前方に設定されても、円滑に本線L1へ再合流することができる。
【0085】
他の例として、本線L1の車線幅が狭い場合には、広い時よりも、距離Dを長く補正する。一般に、再合流する本線L1が狭い場合には、再合流中に後続車両が接近することはより好まれない。そこで、距離Dを長くすることで、再合流までの時間が長くなるので、後続車両を確認しながら滞りなく再合流することができる。
【0086】
(第2実施形態)
第1実施形態においては、自車両Aが渋滞車列Cへの割り込みを中止して、本線L1に再合流するまでに必要な距離Dを求めた。第2実施形態においては、距離Dに加えて本線L1上の自車両Aが分岐路L2に存在する渋滞車列Cへの割り込みを行うまでに必要な距離D’を考慮して、割り込み開始前に割り込みを中止する例について説明する。すなわち、第1実施形態においては、渋滞車列Cへの割り込み中に、割り込みを中止して本線L1に再合流することを考慮し、本線L1に再合流するために必要な距離Dを求めたが、本第2実施形態では割り込み開始前に本線L1に再合流することを考慮し、距離Dに加えて本線L1上の自車両Aが分岐路L2に存在する渋滞車列Cへの割り込みを行うまでに必要な距離D’を求める。ここで、本第2実施形態における距離Dの算出に関しては上記した第1実施形態と同様であるので、以下ではまず距離D’の算出に関して説明する。
【0087】
図7には、2車線の道路において、自車両Aが右側車線L1から左側車線L2における渋滞車列Cへ割り込みをする経路が示されている。なお、この図においては、
図1とは異なり、分離帯によって車線は分岐していないものとする。
【0088】
渋滞車列Cの車両Bの運転手の走行を大きく妨げないために、渋滞車列Cに割り込む直前において自車両Aは一定の速度以下となるまで、減速しなければならない。しかしながら、一定の走行距離がなければ、運転者にとって不快とならない減速をすることができない。そのため、割り込みに必要な距離D’が存在する。
【0089】
ここで、以下のようにパラメータが設定されている。
【0090】
D’ :自車両Aから割り込み箇所までの進行方向の距離
v1’:渋滞車列Cに割り込む際の上限速度(割り込み目標速度)
v2’:自車両Aの現在の車速
a’ :許容される最大減速度
l1’:本線L1の自車両Aから渋滞車列Cの割り込み箇所までの距離(割り込みまでの走行距離)
l2’:自車両Aから割り込み箇所までの車線幅方向の距離
【0091】
ここで、自車両Aが本線L1から渋滞車列Cの割り込み箇所まで走行する間に、自車両Aが車速をv2’からv1’へと減速する場合において、距離l1と減速時間t’との関係について、次式が成立する。
(v1’+v2’)t’/2=l1’・・・(6)
【0092】
(6)式を変形すると、次式が得られる。
t’=2・l1’/(v1’+v2’)・・・(7)
【0093】
ここで、最大減速度a’は上記した第1実施形態における最大加速度aと同様に、予め定められた、乗員に不快感を与えない範囲で許容される前後方向加速度のうちの最大の加速度である。最大減速度a’で車速をv2’からv1’へと減速するのに要する時間は「(v2’―v1’)/a’」である。運転者にとって不快とならずに減速するためには、減速時間t’は、「(v2’―v1’)/a’」よりも長くなる必要があるので、次式が求められる。
t’>(v2’―v1’)/a’・・・(8)
【0094】
(7)式を(8)式に代入して変形すれば、以下の関係が求められる。
l1’>(v2’―v1’)/2a’(v1’+v2’)・・・(9)
【0095】
これにより、l1’の下限値を求めることができる。
【0096】
また、l1’、l2’、D’には、以下の関係が成立する。
l1’2=l2’2+D’2・・・(10)
【0097】
そこで、本線L1からの割り込み箇所までの車線幅方向の距離l2’を求め、(10)式に従って、距離D’を求めることができる。これにより、割り込みに必要な距離D’を求めることができる。
【0098】
第2実施形態の走行支援装置1は、
図1に示される第1実施形態の走行支援装置1と同様の構成である。割り込みに必要な距離D’は、割り込み関連処理部23によって算出される。
【0099】
車両情報読み出し部231は、自車両Aの現在の速度v2’、及び、自車両Aから割り込み箇所までの車線幅方向の距離l2’を検出する。また、車両情報読み出し部231は、運転者に不快とならない最大減速度a’を予め記憶しているものとする。
【0100】
速度読み出し部232は、物体認識部12の認識結果に基づいて渋滞車列Cを構成する車両Bの速度を読み出し、読みだした速度に応じて、渋滞車列Cに割り込む際に目標となる割り込み目標速度v1’を定める。
【0101】
限界位置算出部233は、車両情報読み出し部231により求められた、現在の自車両Aの速度v2’、及び、許容される最大減速度a’と、速度読み出し部232より得られる割り込み目標速度v1’とを用いて、式(9)により、割り込むまでの距離l1’を求める。そして、限界位置算出部233は、算出された距離l1’、及び、自車両Aから割り込み箇所までの車線幅方向の距離l2’を用いて、式(10)により、距離D’を求める。なおここで、距離D’は距離Dと同様に、運転者にとって不快とならない前後方向減速だけでなく、横方向加速度においても運転者にとって不快とならない加速度となる走行経路を設定できるような距離D’であることが望ましい。
【0102】
このような構成の走行支援装置1により、渋滞車列Cへの割り込みに必要な距離D’を求めることができる。
【0103】
また、割り込み支援を行う場合の割り込み経路は、自車両Aにおいて発生する車幅方向の(横方向の)加速度である横方向加速度が所定範囲内となるように、設定されることが望ましい。割り込み経路における横方向加速度を低減することで、運転者に対して不快感を与えることを抑制することができる。
【0104】
割り込み支援に必要な距離D’を算出する時に、渋滞車列Cに割り込む際の上限速度である割り込み目標速度v1’は、渋滞車列Cの車両の速度が速いほど、速く設定される。
【0105】
また、渋滞車列Cが長いほど、より長くなるように距離D’を補正してもよい。
【0106】
また、コントローラは、本線L1の形状に応じて、距離D’を補正してもよい。
【0107】
例えば、本線が2車線以上である場合には、本線が1車線である時よりも、距離D’を短く補正する。一般に、渋滞車列Cに割り込む前に走行する本線L1が2車線以上である場合には、それらの車線のうち隣接車線L2と隣接する本線L1においては、走行する車両の数が少ない。そこで、距離D’を短くして減速度が大きくなったとしても、本線L1において後続車両が自車両へと接近するおそれが少ないため、より円滑に割り込みを行うことができる。
【0108】
また、本線の車線幅が狭い場合には、広い時よりも、距離D’を短く補正する。一般に、本線L1の比較的狭い場合には、割り込み支援中に後続車両が接近することはより好まれない傾向にある。そこで、距離D’を長くすることで、割り込みまでの時間が長くなるので、後続車両を確認しながら滞りなく割り込みをすることができる。
【0109】
第2実施形態においては、第1実施形態と同様に算出した距離Dと、上述したD’の和を算出することで、割り込みを中止する可能性がある場合において、割り込み支援を開始するか否かの判断をする。
【0110】
図8には、本第2実施形態における自車両Aの走行状況が示されている。
【0111】
この図によれば、自車両Aが渋滞車列Cへ割り込みを試みた後に、最終中止位置Yにおいて割り込みを中止して、分離帯の開始点Xの手前において本線に再合流する経路が示されている。
【0112】
この図においては、渋滞車列Cへ割り込みに必要な距離D’は、第2実施形態に示されるように、式(9)、(10)に基づいて求めることができる。また、渋滞車列Cへの割り込みを中止後に本線へ再合流するのに必要な距離Dは、第1実施形態に示されるように、式(4)、(5)に基づいて求めることができる。なお、図示されるように、渋滞車列Cから本線L1の中心までの車線幅方向の距離は、式(5)、(10)において同じ値のものが使用されるため、「l2=l2’」が成立するものとする。また、式(4)における割り込み速度v2は、式(9)における割り込み目標速度v1’と等しいものとする。
【0113】
図9は、第2実施形態における割り込み制御のフローチャートである。本フローチャートによれば、
図5に示された第1実施形態のフローチャートと比較すると、ステップS71の処理の前段に、ステップS70の判定が追加され、ステップS73に替えてステップS73’が設けられている。
【0114】
第1実施形態においては、ステップS73において、分離帯の開始点Xから最終中止位置Yまでの距離Dの算出が行われていた。これに対して、本実施形態においては、距離Dの算出は、ステップS70において行われるものとする。一方、ステップS73’においては、距離Dの算出は行われず、割り込み不可領域の特定のみが行われるものとする。
【0115】
ステップS70においては、第1実施形態におけるステップS73における処理と同様に、コントローラ(割り込み関連処理部23)は、式(4)に基づいて距離l1を算出し、その後、式(5)に基づいて距離Dを求める。さらに、コントローラは、式(9)に基づいて距離l1’を算出し、その後、式(10)に基づいて距離D’を求める。
【0116】
そして、コントローラは、自車両Aが、分離帯の開始点Xから、距離D+D’だけ手前よりも手前に存在するか否かを判定する。
【0117】
自車両Aが、分離帯の開始点Xから距離D+D’だけ手前よりも後方に存在する場合には、
図8に示されるように、自車両Aが渋滞車列Cへの割り込みを試みた後に、割り込みを中止して本線に再合流することができるため、次に、ステップS71の処理を行って、割り込み制御を開始する。
【0118】
一方、自車両Aが、分離帯の開始点Xから距離D+D’だけ手前よりも前方に存在する場合には、自車両Aが渋滞車列Cへの割り込みを試みた場合に、割り込みを中止した後に本線L1に再合流することが難しい。そこで、コントローラは、割り込み制御を開始せずに割り込み関連制御を終了する。このようにすることで、不要な割り込み制御を抑制することができる。
【0119】
このような第2実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0120】
第2実施形態の走行支援方法によれば、さらに、自車両Aが本線L1から分岐路L2に存在する渋滞車列Cの割り込み箇所へと割り込みに必要な距離D’(第2距離)を求め、自車両Aが最終中止位置Yよりも距離D’だけ手前の位置よりも前方に存在する場合には、割り込みの支援を開始しない。そして、距離D’は、渋滞車列Cへの割り込み時の割り込み目標速度v1’と本線L1における速度v2’との速度差が大きいほど、長い。
【0121】
このような構成となることにより、渋滞車列Cへの割り込みを中止して本線L1に再合流する最終中止位置Yよりも距離D’だけ手前の位置において、割り込み制御が開始可能か否かを判定することができる。本線L1から渋滞車列Cへの割り込みには距離D’だけの距離が必要であるので、最終中止位置Yよりも距離D’だけ手前の位置よりも前方に自車両Aが存在する場合には、割り込みを開始した後に、割り込みを中止して本線L1に再合流することが難しくなる。
【0122】
そこで、予め、自車両Aが最終中止位置Yよりも距離D’だけ手前の位置よりも前方に存在する場合には、割り込み支援を開始しないことにより、不要な走行支援を抑制することができる。
【0123】
なお、渋滞車列Cへの割り込みの中止や、開始の判定は、本線L1及び分岐路L2を含む全ての走行経路をもとに判定してもよい。また、他の分岐路なども考慮して、走行距離が短くなる、または、目的地までの到達時間が短くなるように、割り込みの中止や、開始の判定を行ってもよい。
【0124】
また、上記各実施形態は、矛盾を生じない範囲の任意の組み合わせで相互に組み合わせることが可能である。
【0125】
上記各実施形態で説明した処理をコンピュータであるコントローラに実行させるための制御プログラム、及び当該制御プログラムを記憶した記憶媒体も、本出願における出願時の明細書等に記載された事項の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0126】
1 走行支援装置
11 物体検出センサ
12 物体認識部
20 走行経路生成部
21 経路設定部
22 割り込み経路生成部
23 割り込み関連処理部
31 車両制御部
221 渋滞車列判定部
222 割り込み箇所検出部
231 車両情報読み出し部
232 速度読み出し部
233 限界位置算出部
234 道路構造特定部