(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】超音波診断装置
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240419BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2020102150
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久津 将則
(72)【発明者】
【氏名】川本 幸一郎
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-077393(JP,A)
【文献】特開2004-073620(JP,A)
【文献】特開2002-301071(JP,A)
【文献】特開2013-252182(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0055337(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0054928(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高調波成分画像化法に従う複数回の送信により得られた複数の受信信号列に基づいて、高調波成分信号列及び基本波成分信号列を生成する生成部と、
前記高調波成分信号列に基づいてm(但しmは1以上の整数)個のビームデータからなる第1ビームデータセットを生成し、前記基本波成分信号列に基づいてn(但しnはmを除く1以上の整数)個のビームデータからなる第2ビームデータセットを生成する整相加算部と、
前記第1ビームデータセット及び前記第2ビームデータセットから生成された超音波画像を表示する表示器と、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記mは前記nよりも大きい、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項2記載の超音波診断装置において、
前記nは1又は2である、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の超音波診断装置において、
送信周波数に応じて少なくとも前記mを可変する制御部を含む、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の超音波診断装置において、
送信位置又は送信方位を変更しながら前記複数回の送信を繰り返
して前記送信位置又は前記送信方位ごとに前記第1ビームデータセット及び前記第2ビームデータセットを生成することにより、電子走査方向に部分的に重複しながら並ぶ複数の第1ビームデータセットが生成され、且つ、前記電子走査方向に並ぶ複数の第2ビームデータセットが生成され、
前記複数の第1ビームデータセットに対して送信開口合成を適用することにより第1フレームデータを生成する合成部が設けられ、
前記複数の第2ビームデータセットにより第2フレームデータが構成され、
前記第1フレームデータ及び前記第2フレームデータに基づいて表示用フレームデータを生成する演算部が設けら
れ、
前記表示用フレームデータに基づいて前記超音波画像が生成される、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項6】
請求項5記載の超音波診断装置において、
前記演算部は、
少なくとも前記第2フレームデータに基づいて重み分布を生成する手段と、
前記第1フレームデータに対して前記重み分布を作用させて前記表示用フレームデータを生成する手段と、
を含む、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項7】
請求項6記載の超音波診断装置において、
前記重み分布は、前記表示用フレームデータに含まれる高調波ノイズを抑制するものである、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
請求項1記載の超音波診断装置において、
前記整相加算部の単位動作期間には、前記高調波成分信号列を処理する第1期間、及び、前記基本波成分信号列を処理する第2期間が含まれ、
前記第1期間と前記第2期間の比が前記mと前記nの比により決まる、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波診断装置に関し、特に、高調波成分及び基本波成分の処理に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、通常、ハーモニックイメージングモードを備える。すなわち、生体内からの反射波に含まれる高調波成分を画像化する動作モードを備える。ハーモニックイメージングモードは、典型的には、体内に導入された超音波造影剤に由来する高調波成分を画像化する場合に利用される。もっとも、生体組織に由来する高調波成分が画像化されることもある。高調波成分画像化法として、振幅変調法(AM法)、パルスインバージョン法(PI法)等が知られている。
【0003】
一般に、AM法では、各送信方向に対して、異なる振幅を有する第1超音波及び第2超音波が順次送信される。2回の送信により得られた2つの受信信号に対して、振幅を揃えながら、減算及び加算を行うことにより、高調波成分及び基本波成分が抽出される。PI法では、互いに180度異なる位相を有する2つの超音波が順次送信され、これにより得られた2つの受信信号に対して、減算及び加算を行うことにより、高調波成分及び基本波成分が抽出される。
【0004】
超音波診断装置の中には、並列受信(パラレル受信)機能、及び、送信開口合成機能を備えたものがある。並列受信は、1回の送信当たり、空間的に並んだ複数の受信ビームを同時に形成する技術である。並列受信の結果、複数の受信ビームに対応した複数のビームデータからなるビームデータセットが生成される。並列受信に際しては、整相加算部が時分割動作を行う。送信開口合成は、電子走査方向に部分的に重複しながら並ぶ複数のビームデータセットを受信位置ごとに合成し、これにより複数の合成ビームデータからなる合成フレームデータを生成する機能である。
【0005】
特許文献1には、高調波成分と基本波成分の比を演算する超音波診断装置が開示されている。特許文献2には、AM法を実行する超音波診断装置が開示されている。1つの送信位置ごとに3回の送信が実施されている。いずれの特許文献にも、高調波成分についてのパラレル受信数と基本波成分についてのパラレル受信数を異ならせることは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第6,132,377号明細書
【文献】国際公開第2014/007100号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波診断装置において、高調波成分及び基本波成分についての優劣関係は、診断目的、診断部位、イメージング方式、画像形成条件、等によって変わり得る。例えば、造影剤をより明瞭に画像化したい場合、造影剤に由来する高調波成分についての空間分解能(電子走査方向の空間分解能であり、以下において同じ。)を高めた方がよい。一方、高調波成分に含まれるノイズを抑圧するためだけに基本波成分を利用する場合、基本波成分についての空間分解能が低くても実際上あまり問題にはならない。高調波成分及び基本波成分を取り扱うプロセッサの処理能力は有限であり、高調波成分についての空間分解能及び基本波成分についての空間分解能の両方を同時に高めることは困難である。
【0008】
本開示の目的は、高調波成分についての空間分解能及び基本波成分についての空間分解能を適切に定められるようにすることにある。あるいは、本開示の目的は、整相加算部の処理能力を高調波成分の処理及び基本波成分の処理に対して適切に振り分けられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る超音波診断装置は、高調波成分画像化法に従う複数回の送信により得られた複数の受信信号列に基づいて、高調波成分信号列及び基本波成分信号列を生成する生成部と、前記高調波成分信号列に基づいてm(但しmは1以上の整数)個のビームデータからなる第1ビームデータセットを生成し、前記基本波成分信号列に基づいてn(但しnはmを除く1以上の整数)個のビームデータからなる第2ビームデータセットを生成する整相加算部と、前記第1ビームデータセット及び前記第2ビームデータセットから生成された超音波画像を表示する表示器と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高調波成分についての空間分解能及び基本波成分についての空間分解能を適切に定められる。あるいは、本開示によれば、整相加算部の処理能力を高調波成分の処理及び基本波成分の処理に対して適切に振り分けられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る超音波診断装置を示すブロック図である。
【
図2】成分分離回路及び整相加算部の構成例を示すブロック図である。
【
図7】一般的なパラレル受信を示すタイミングチャートである。
【
図8】実施形態に係るパラレル受信を示す概念図である。
【
図9】実施形態に係るパラレル受信を示すタイミングチャートである。
【
図10】成分分離回路の変形例を示すブロック図である。
【
図12】超音波診断装置の変形例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る超音波診断装置は、生成部、整相加算部及び表示器を有する。生成部は、高調波成分画像化法に従う複数回の送信により得られた複数の受信信号列に基づいて、高調波成分信号列及び基本波成分信号列を生成する。整相加算部は、高調波成分信号列に基づいてm(但しmは1以上の整数)個のビームデータからなる第1ビームデータセットを生成し、基本波成分信号列に基づいてn(但しnはmを除く1以上の整数)個のビームデータからなる第2ビームデータセットを生成する。表示器は、第1ビームデータセット及び第2ビームデータセットから生成された超音波画像を表示する。
【0014】
上記構成において、整相加算部は、高調波成分についてのパラレル受信を実行すると共に、基本波成分についてのパラレル受信を実行する。その場合、高調波成分についてのパラレル受信数m及び基本波成分についてのパラレル受信数nを異ならせることが可能であり、つまり、パラレル受信数m,nを診断目的や診断時の状況に合わせて最適化することが可能である。例えば、高調波成分についての空間分解能を高めたい場合には高調波成分についてのパラレル受信数mを大きくでき、その一方、基本波成分についての空間分解能を低くしても問題が生じない場合には基本波成分についてのパラレル受信数nを小さくできる。換言すれば、高調波成分及び基本波成分の優劣関係に応じて、それらに対して有限なリソースを適切に配分できる。
【0015】
パラレル受信は、複数の受信ビームを同時に並列的に形成するものである。実際には、複数の受信ビームに対応する複数の整相加算が時分割で実施される。実施形態においては、高調波成分画像化法に従う複数回の送受信を実行した結果として、高調波成分についてのm個の受信ビームと基本波成分についてのn個の受信ビームとが形成される。m+n個の受信ビームが時分割で形成されてもよいし、m個の受信ビームが時分割で形成され、その前又は後に、n個の受信ビームが時分割で形成されてもよい。送信開口合成を用いない場合においても上記構成を利用し得る。
【0016】
実施形態において、mはnよりも大きい。例えば、nは1又は2である。実施形態において、制御部は、送信周波数に応じて少なくともmを可変する。送信周波数が低ければ低いほどパラレル受信数mをより大きくできる。
【0017】
実施形態においては、送信位置又は送信方位を変更しながら複数回の送信を繰り返すことにより、電子走査方向に部分的に重複しながら並ぶ複数の第1ビームデータセットが生成され、且つ、電子走査方向に並ぶ複数の第2ビームデータセットが生成される。合成部は、複数の第1ビームデータセットに対して送信開口合成を適用することにより第1フレームデータを生成する。複数の第2ビームデータセットにより第2フレームデータが構成される。演算部は、第1フレームデータ及び第2フレームデータに基づいて表示用フレームデータを生成する。複数の第2ビームデータセットに基づく送信開口合成が実行されてもよい。第2ビームデータセットが1つの第2ビームデータにより構成されてもよい。
【0018】
実施形態において、演算部は、少なくとも第2フレームデータに基づいて重み分布を生成する手段と、第1フレームデータに対して重み分布を作用させて表示用フレームデータを生成する手段と、を含む。第2フレームデータから直接的に超音波画像が生成されないならば、あるいは、第2フレームデータにより超音波画像へ影響が及ぶ範囲が局所的であれば、第2フレームデータの空間分解能が低くて、それに起因する画質低下は問題とならない。寧ろ、第1フレームデータの空間分解能を高めることにより、超音波画像(例えば造影剤画像)の画質を効果的に高められる。実施形態において、重み分布は、表示用フレームデータに含まれる高調波ノイズを抑制するものである。
【0019】
実施形態に係る超音波診断装置は、第1フレームデータに基づいて第1超音波画像を形成する第1画像形成部と、第2フレームデータに基づいて第2超音波画像を形成する第2画像形成部と、第1超音波画像及び第2超音波画像を表示する表示器と、を含む。例えば、第1超音波画像が主たる観察対象であり、第2超音波画像が補助的に観察される画像である場合、m>nとするのが望ましい。
【0020】
実施形態に係る超音波診断装置において、整相加算部の単位動作期間には、高調波成分信号列を処理する第1期間、及び、基本波成分信号列を処理する第2期間が含まれる。第1期間と第2期間の比が、mとnの比により決まる。この構成によれば、高調波成分の整相加算処理及び基本波成分の整相加算処理に対して、整相加算部の有限な処理能力を適切に配分できる。第1期間及び第2期間が時間的に連続してもよいし、第1期間及び第2期間が時分割設定されてもよい。後者の場合、第1期間及び第2期間はそれぞれ積算期間として観念される。
【0021】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る超音波診断装置が示されている。この超音波診断装置は、病院等の医療機関に設置され、生体(被検体)に対して超音波検査を行うための装置である。実施形態に係る超音波診断装置は、振幅変調法(AM法)、パラレル受信法、及び、送信開口合成法に従って、送受信及び信号処理を行う機能、を備えている。送信開口合成法は、パラレル受信法を前提とする技術である。生体への超音波の送受波に先立って、又は、超音波の送受波と共に、生体内に超音波造影剤が導入される。なお、超音波造影剤を使用しない場合においても、実施形態に係る構成を使用し得る。
【0022】
プローブ10は、可搬型の送受波器である。プローブ10の送受波面が生体表面に当接された状態で超音波が送受波される。プローブ10は、一次元配列された複数の振動素子からなる振動素子アレイを備えている。振動素子アレイにより超音波ビームが形成され、超音波ビームが電子走査される。電子走査方式として、電子セクタ走査方式、電子リニア走査方式、等が知られている。プローブ10内に2D振動素子アレイを設けてもよい。
【0023】
送信回路12は、送信ビームフォーマーとして機能する。送信回路12は、送信時において、振動素子アレイに対して複数の送信信号を並列的に供給する。これにより送信ビームが形成される。AM法の実施時においては、個々の送信位置又は送信方位ごとにAM法に従う2回の送信が順次実行される。例えば、50%の振幅で第1送信が実行され、その後、100%の振幅で第2送信が実行される。それらの順序を逆にしてもよい。後述するように、個々の送信位置又は送信方位に対して3回の送信が実行されてもよい。
【0024】
受信時において、生体内からの反射波が振動素子アレイに到達すると、振動素子アレイから複数の受信信号が並列的に出力される。AM法の実施時においては、第1送信後に振動素子アレイから第1受信信号列が出力され、第2送信後に振動素子アレイから第2受信信号列が出力される。2回の送信時の振幅の相違に起因して、第1受信信号列を構成する複数の第1受信信号の振幅に比べて、第2受信信号列を構成する複数の第2受信信号の振幅の方が大きくなる。
【0025】
個々の受信信号には、高調波成分(
図1においてはH成分と表記されている。)及び基本波成分(
図1においてはF成分と表記されている。)が含まれる。例えば、超音波が造影剤で反射して反射波が生じた場合、造影剤の非線形性により、その反射波には高調波成分が含まれる。超音波が生体内を進行していく過程でも、生体の非線形性により、高調波成分が生じる。但し、その場合における高調波成分の強度は一般に小さい。受信信号処理において受信信号の飽和が生じた場合、受信信号の波形が歪み、高調波成分が生じる。それはノイズである。
【0026】
成分分離回路14は、生成部又は生成手段であり、AM法の実施時に機能する回路である。1回目の送信に対応する第1受信信号列及び2回目の送信に対応する第2受信信号列に対して、それぞれ一定の処理を適用した上で、第1受信信号列と第2受信信号列の差を求める計算(減算)を実行し、それと並行して、第1受信信号列と第2受信信号列の和を求める計算(加算)を行う。減算及び加算に際しては、送信時の振幅比を考慮し、第1受信信号列に対して2が乗算される。これにより、第1受信信号列と第2受信信号列の振幅が揃えられる。成分分離回路14から高調波成分信号列及び基本波成分信号列が出力される。受信開口がk個の振動素子により構成される場合、各受信信号列はk個の受信信号により構成され、各高調波成分信号列はk個の高調波成分信号で構成され、各基本波成分信号列はk個の基本波成分信号で構成される。kは通常、数十以上の整数である。
【0027】
続いて、整相加算部16、送信開口合成部20、ビームデータ処理部22、等について説明する。整相加算部16は、図示の構成例において、高調波成分用の整相加算器24及び基本波成分用の整相加算器26により構成される。整相加算器24及び整相加算器26はそれぞれ時分割動作する機能を備え、つまり、パラレル受信を実行する機能を備えている。単一のプロセッサを整相加算器24及び整相加算器26として機能させてもよい。
【0028】
実施形態において、高調波成分についてのパラレル受信数m及び基本波成分についてのパラレル受信数nは、後述する送受信制御部44によって定められる。実施形態においては、mとnをそれぞれ独立して設定することが可能であり、例えば、nは2又は1である。n=1の場合、パラレル受信にはならないが、本願明細書では、便宜上、それを含めてパラレル受信と表現する。nを小さくした分だけ、mを大きくすることが可能であり、つまり、高調波成分についての画質を優先させることが可能である。mとnは相互に異なる1以上の整数であり、実施形態においてはm>nである。従来同様の送受信を行いたい場合には、mとnを一致させればよい。
【0029】
整相加算器24におけるパラレル受信数は、例えば、8、12、16又は20であり、それ以上の数値であってもよい。送信周波数(送信中心周波数)が高い場合に比べてそれが低い場合にはパラレル受信数を増大させ得る。送受信制御部44は、送信周波数に応じて、パラレル受信数mを可変させる。例えば、送信周波数がかなり低い場合、mとして40が設定され得る。
【0030】
整相加算器24における整相加算の結果、整相加算器24から第1ビームデータセットが出力される。同様に、整相加算器26における整相加算の結果、整相加算器24から第2ビームデータセットが出力される。第1ビームデータセットは、電子走査方向に並ぶm個の第1ビームデータ(高調波成分ビームデータ)により構成され、第2ビームデータセットは、電子走査方向に並ぶn個の第2ビームデータ(基本波成分ビームデータ)により構成される。n=1の場合、第2ビームデータセットは、1つの第2ビームデータからなる。送信位置又は送信方位を異ならせながら、AM法に従う2回の送信を繰り返し行うと、互いに部分的に重複しながら電子走査方向に並ぶ複数の第1ビームデータセットが生成され、同時に、電子走査方向に並ぶ複数の第2ビームデータセットが生成される。条件次第、特にnに与える数値が大きくなると、複数の第2ビームデータセットが電子走査方向において部分的に重複して並ぶ。
【0031】
送信開口合成部20は、図示の構成例において、1つの送信開口合成器28により構成される。送信開口合成器28は、互いに部分的にオーバーラップしながら電子走査方向に並ぶ複数の第1ビームデータセットに対して送信開口合成を適用する。個々の受信位置(又は個々の受信方位)ごとに、当該受信位置(又は当該受信方位)に対応する複数の第1ビームデータが加算されて、合成ビームデータが生成される。電子走査方向に並ぶ複数の合成ビームデータにより、第1フレームデータが構成される。
【0032】
整相加算器26の後段に第2ビームデータセットを記憶するメモリを設けてもよい。図示の構成例では、電子走査方向に並ぶ複数の第2ビームデータセットにより第2フレームデータが構成される。整相加算器26の後段に送信開口合成器を設け、第2ビームデータセットに対して送信開口合成が適用されてもよい。その場合には、一般に、nに対して3以上又は4以上の数値が与えられる。
【0033】
ビームデータ処理部22は、高調波成分用のビームデータ処理器30及び基本波成分用のビームデータ処理器32を有する。各ビームデータ処理器30は、各フレームデータを構成する個々のビームデータに対して、検波、対数変換、等を適用する。
【0034】
演算部34は、図示の構成例において、第1フレームデータに対して、第2フレームデータに基づいて生成された重み分布を乗算する回路である。第1フレームデータに、受信信号の飽和により生じる高輝度部分(ノイズ)が含まれる場合がある。その場合、第2フレームデータにも同様の高輝度部分が含まれる。演算部34は、第2フレームデータ内の高輝度部分に基づいて、第1フレームデータ内の高輝度部分(ノイズ)を抑圧する。具体的には、第2フレームデータに基づいてノイズ抑圧用の重み分布が生成されている。
【0035】
DSC(デジタルスキャンコンバータ)は、座標変換機能、画素補間機能等を備える。具体的には、DSCは、表示用フレームデータから超音波画像データ(例えば断層画像データ)を生成する。そのデータは、表示処理部38を介して、表示器40へ送られる。表示器40は、LCD、有機EL表示デバイス、等により構成される。表示器40の画面上に、超音波画像が表示される。表示器40の画面上に、高調波成分断層画像と基本波成分断層画像が並列表示されてもよい。その場合、高調波成分断層画像が主たる画像であり、基本波成分断層画像は補助的に参照される画像である。
【0036】
整相加算部16、送信開口合成部20、ビームデータ処理部22、演算部34、DSC36、及び、表示処理部38は、それぞれ、例えばプロセッサにより構成される。それら全体が単一のプロセッサにより構成されてもよい。
【0037】
制御部42は、プログラムを実行するCPUにより構成される。制御部42により、
図1に示されている各構成の動作が制御される。
図1においては、制御部42が有する送受信制御機能が送受信制御部44として示されている。送受信制御部44は、AM法に従う送受信、パラレル受信、及び、送信合成を制御する。CPUが、整相加算部16、送信開口合成部20、ビームデータ処理部22、演算部34、DSC36、及び、表示処理部38として機能してもよい。制御部42には、操作パネル46が接続されている。操作パネル46は、複数のスイッチ、複数のボタン、トラックボール、キーボード等を備える入力デバイスである。
【0038】
図2には、成分分離回路14及び整相加算部16の構成例が示されている。成分分離回路14は、A/D変換器列50、バッファ列52、及び、加算器列56を有する。A/D変換器列50は、複数の振動素子に対応して設けられた複数のA/D変換器58により構成される。振動素子アレイ上には送信開口及び受信開口が設定される。送信開口及び受信開口が固定的に設定されてもよいいし、それらが電子走査方向に走査されてもよい。個々のA/D変換器58によりアナログ受信信号がデジタル受信信号に変換される。
【0039】
AM法の実施時において、第1送信後に生じる複数の第1受信信号は、バッファ列52を構成する複数のバッファ(メモリ)60に一時的に記憶される。第2送信後に生じる複数の第2受信信号は、複数のバッファ60を通過し又はそれらに一時的に格納される。加算器列56は、高調波成分用の複数の加算器62(第1加算器グループ)、及び、基本波成分用の複数の加算器64(第2加算器グループ)により構成される。
【0040】
個々の加算器62は、第1送信で生じた第1受信信号と第2送信で生じた第2受信信号とを加算する回路である。図示の構成例では、その加算に先立って第1受信信号に対して「-2」が乗算される。加算の結果、基本波成分が打ち消され、高調波成分が抽出される。すなわち、個々の加算器62から高調波成分信号が出力される。
【0041】
個々の加算器64は、第1送信で生じた第1受信信号と第2送信で生じた第2受信信号とを加算する回路である。その加算に先立って第1受信信号に対して「2」が乗算される。加算の結果、高調波成分が打ち消され、基本波成分が抽出される。すなわち、個々の加算器64から基本波成分信号が出力される。
【0042】
超音波ビームの電子走査に伴って、成分分離回路14から、高調波成分信号列が順次出力され、且つ、複数の基本波成分信号列が順次出力される。それらは整相加算部16に入力される。
【0043】
整相加算部16は、図示の構成例では、メモリ66及びプロセッサ68を有する。メモリ66は、2つの記憶部分70,72を有する。記憶部分70には、複数の高調波成分信号列が順次格納され、記憶部分72には、複数の基本波成分信号列が順次格納される。それらの一次記憶が必要でない場合、メモリ66を設けなくてもよい。
【0044】
プロセッサ68は、高調波成分信号列ごとにパラレル受信を実行し且つ基本波成分信号列ごとにパラレル受信処理を実行する。具体的には、メモリ66から読み出された個々の高調波成分信号列に基づいて複数の第1ビームデータを生成する。複数の第1ビームデータにより第1ビームデータセットが構成される。また、メモリ66から読み出された個々の基本波成分信号列に基づいて複数の第2ビームデータを生成する。それらにより第2ビームデータセットが構成される。
【0045】
図2においては、2つの整相加算器に相当する2つの部分24,26が概念的に示されている。プロセッサ68の有限な処理能力が、高調波成分についてのパラレル受信処理、及び、基本波成分についてのパラレル受信処理に振り分けられる。具体的には、パラレル受信数m及びパラレル受信数nの比率が操作される。実施形態においては、nは1又は2であり、m>nである。nを小さくすることにより、mを増大させることができる。つまり、高調波成分についての空間分解能(電子走査方向の空間分解能)を高めることが可能である。その分だけ、基本波成分についての空間分解能が低くなるが、基本波成分が以下に説明するノイズ抑圧等に使用される場合、空間分解能の低下はほとんど問題とならない。なお、m<nという条件を採用することも可能であり、また、m=nという条件を採用することも可能である。
【0046】
図1に示した演算部34は、上述したように、第1フレームデータに対して、第2フレームデータに基づく重み分布を乗算するものであり、具体的には、画素ごとに以下の(1)式に示す重み付けを実行する。
【0047】
S=SH*w ・・・(1)
【0048】
ここで、Sは重み付け後の輝度値であり、SHは高調波成分の輝度値であり、wが重みである。但し、基本波成分の輝度値SFが閾値Fth以下である場合にはwは1であり、基本波成分の輝度値SFが閾値Fthを超える場合にはwは以下の(2)式により定義される。但し、αは定数である。
【0049】
w=-α(SF-Fth)2+1 ・・・(2)
【0050】
上記(1)をグラフ化したものが
図3に示す関数74である。基本波成分の輝度値SFが閾値Fthを超えると、超えた分だけ重みwが小さくなっている。受信信号の振幅が大きく受信信号が飽和した場合、第1フレームデータ内に高輝度部分(高調波ノイズ)が生じ、第2フレームデータ内の同じ位置にも高輝度部分が生じる。後者の高輝度部分を基礎として、第1フレームデータ内の高調波ノイズを抑圧することが可能である。
【0051】
第2フレームデータは重み分布の生成においてだけ使用され、第2フレームデータの空間分解能が低くても、それによる超音波画像の画質低下は僅かである。寧ろ、第1フレームデータの空間分解能を高められるので、それを基礎として生成される超音波画像の画質をかなり高められる。
【0052】
図4には、演算部の変形例が示されている。図示された演算部34Aは、複数の機能を有しており、具体的には、上記した重み付け機能76、比を計算する機能78、及び、合成機能80を有している。比を計算する機能78は、画素ごとに高調波成分の輝度と基本波成分の輝度の比を計算し、その比を画像化するものである。合成機能80は、高調波成分と基本波成分とを一定の割合でブレンドする機能である。このように2つの成分の利用方法として各種のものが挙げられる。
【0053】
図5には、AM法に従う送受信が示されている。第1送信では、第1振幅を有するパルス84が送信され、第2送信では、第2振幅を有するパルス92が送信される。第1振幅の2倍が第2振幅に相当する。送信方位を順次切り替えながら送信方位ごとに2回の送信が順次実施される。第1送信により形成される送信ビームが符号86で示されており、それに対応する複数の受信ビームが符号88で示されている。同様に、第2送信により形成される送信ビームが符号94で示されており、それに対応する複数の受信ビームが符号96で示されている。
【0054】
図6には、一般的なパラレル受信が示されている。S10~S15は複数の送受信工程を示している。
図6の左側部分100は高調波成分についてのパラレル受信の繰り返しを示しており、
図6の右側部分102は基本波成分についてのパラレル受信の繰り返しを示している。送信位置(パラレル受信中心位置)が電子走査方向(y方向)に段階的にシフトされている。
【0055】
送受信工程S10では、AM法に従う2つの送信ビーム104が順次形成される。これにより得られた第1受信信号列及び第2受信信号列に対する成分分離処理及びパラレル受信処理により、第1ビームデータセット106及び第2ビームデータセット107が生成される。第1ビームデータセット106は、図示の例では、8個の第1ビームデータ108により構成される。第2ビームデータセット107は、図示の例では、8個の第2ビームデータ109により構成される。すなわり、m=nである。送受信位置を電子走査方向に段階的に切り替えながら、上記同様の送受信工程S11~S15が順次実行される。
【0056】
高調波成分については、個々の受信位置ごとに、それに対応する複数のビームデータが特定され(符号110を参照)、それらを加算することにより、合成ビームデータ114が生成される。電子走査方向に並ぶ複数の合成ビームデータ114により第1フレームデータ112が構成される。同様に、基本波成分については、個々の受信位置ごとに、それに対応する複数のビームデータが特定され(符号111を参照)、それらを加算することにより、合成ビームデータ115が生成される。電子走査方向に並ぶ複数の合成ビームデータ114により第2フレームデータ113が構成される。
【0057】
図7には、
図6に示したパラレル受信を前提とする一般的なデータ処理が示されている。(A)は、AM法に従う2回の送信Tx1、Tx2の繰り返しを示している。送信方位が電子走査方向に段階的に切り替えられている。(B)は、第1受信信号列r1を示し、また第2受信信号列r2を示している。(C)は、第1受信信号列r1及び第2受信信号列r2から生成される高調波成分信号列及び基本波成分信号列を示している。図示の例では、それらの信号列が順次生成されているが、2つの信号列が時分割で同時に生成されてもよい。(D)には、プロセッサにおける単位処理期間116が示されており、それはAM法に従う2回の送受信期間の全体に相当する。単位処理期間116は、高調波成分用パラレル受信処理期間(時分割処理期間)118と、基本波成分用パラレル受信処理期間(時分割処理期間)120とにより構成され、それらは同じ時間長を有している。
【0058】
上記の一般的なデータ処理では、整相加算部が有するプロセッサの有限な処理能力の内で50%が高調波成分の処理に利用され、残りの50%が基本波成分の処理に利用される。それを前提として、一般に、より多くのパラレル受信数m,n(但しm=n)が決定される。
【0059】
図8には、実施形態に係るパラレル受信が示されている。t10~t15は複数の送受信工程を示している。
図8の左側部分122は高調波成分についてのパラレル受信の繰り返しを示しており、
図8の右側部分124は基本波成分についてのパラレル受信の繰り返しを示している。送信位置(パラレル受信中心位置)が電子走査方向(y方向)に段階的にシフトされる。
【0060】
送受信工程t10では、AM法に従う2つの送信ビーム126が形成される。これにより得られた第1受信信号列及び第2受信信号列に対する成分分離処理及びパラレル受信処理により、第1ビームデータセット128及び第2ビームデータセット138が生成される。第1ビームデータセット128は、図示の例では、14個の第1ビームデータにより構成される。つまり、m=14である。第2ビームデータセット138は、図示の例では、2個の第2ビームデータ109により構成される。つまり、n=2である。加算値m+nは16であり、その点に限っては、上述した一般的なパラレル受信の場合と同じである。実施形態においては、割合が変更されている。送受信位置を電子走査方向に段階的に切り替えながら、上記同様の送受信工程t11~t15が順次実行される。
【0061】
高調波成分については、個々の受信位置ごとに、それに対応する複数のビームデータが特定され(符号130を参照)、それらを加算することにより、合成ビームデータ134が生成される。電子走査方向に並ぶ複数の合成ビームデータ134により第1フレームデータ132が構成される。
【0062】
一方、基本波成分については、t10~t15の実行の結果、電子走査方向に並ぶ複数のビームデータ142が生成される。それらにより、第2フレームデータ140が構成される。基本波成分について送信開口合成を適用してもよい。基本波成分についてはパラレル受信を行わずに1つのビームデータが生成されてもよい。
【0063】
図9には、
図8に示したパラレル受信を前提とする実施形態に係るデータ処理が示されている。(A)は、AM法に従う2回の送信Tx1、Tx2の繰り返しを示している。送信方位が電子走査方向に段階的に切り替えられている。(B)は、第1受信信号列r1を示し、また第2受信信号列r2を示している。(C)は、第1受信信号列r1及び第2受信信号列r2から生成される高調波成分信号列及び基本波成分信号列を示している。図示の例では、それらの信号列が順次生成されているが、2つの信号列が時分割で同時に生成されてもよい。(D)には、プロセッサにおける単位処理期間144が示されており、それはAM法に従う2回の送受信期間の全体に相当する。単位処理期間144は、高調波成分用パラレル受信処理期間(時分割処理期間)146と、基本波成分用パラレル受信処理期間(時分割処理期間)148とにより構成され、前者の時間長は後者の時間長よりもかなり大きい。
【0064】
実施形態に係るデータ処理では、整相加算部が有するプロセッサの有限な処理能力を仮に16とした場合、14/16を高調波成分用の処理に利用できる。残りの2/16が基本波成分用の処理に利用される。逆に言えば、基本波成分についての空間分解能を落とした分だけ高調波成分についての空間分解能を高めることが可能である。mとnの比に応じて有限な処理能力が配分される。
図9においては、高調波成分についてのパラレル受信処理の後に基本波成分についてのパラレル受信処理が実行されていたが、2つのパラレル受信処理を同時進行で実行してもよい。その場合においても、処理能力の配分は上記の場合と変わらない。
【0065】
高調波成分の質が超音波画像の質を支配している状況下では、高調波成分についての空間分解能を高めることの意義は非常に大きい。基本波成分がノイズ抑圧に用いられる場合、それについての空間分解能の低下はあまり問題とならない場合が多い。よって、実施形態に係る方法によれば、超音波画像全体の解像度を高め、同時に、局所的なノイズを効果的に低減して、その画質を総合的に高めることが可能である。
【0066】
AM法において、1つの送信位置又は1つの送信方位ごとに、3回の送信が行われてもよい。例えば、送信電圧を固定し、奇数番目の振動素子を利用した第1送信、偶数番目の振動素子を利用した第2送信、並びに、奇数番目及び偶数番目の振動素子を利用した第3送信、が実行されてもよい。第1送信及び第2送信の振幅は50%に相当し、第3送信の振幅は100%に相当する。3回の送信により得られる第1受信信号列、第2受信信号列、及び、第3受信信号列の加減算処理に際しては、正負の符号調整だけでよく、「2」の乗算は不要となる。
【0067】
上記の送受信を行う場合、
図10に示された成分分離回路14Aを使用し得る。ここでは、1チャンネルに相当する回路部分が示されている。第1受信信号、第2受信信号及び第3受信信号は、それぞれ、A/D変換器列50を構成するA/D変換器においてデジタル信号に変換された後、必要に応じて、バッファ列52を構成するバッファに一時的に記憶される。加算器列56Aにおいて、高調波成分用の加算器150では、第1受信信号及び第2受信信号に「-1」が乗算された上で、それらと第3受信信号が加算される。これにより高調波成分信号が生成される。基本波成分用の加算器151では、第1受信信号、第2受信信号及び第3受信信号が加算される。これにより基本波成分信号が生成される。
【0068】
図11には、PI法に従う送受信が示されている。個々の送信方位又は送信位置ごとに、送信波158が送信され、その後、それとは180度位相の異なる送信波160が送信される。これにより得られた第1受信信号列と第2受信信号列の加減算により高調波成分信号列及び基本波成分信号列が生成される。
【0069】
図12には、超音波診断装置の変形例が示されている。
図12において、
図1に示した構成と同様の構成には同一の符号を付しその説明を省略する。この変形例では、送信開口合成部20Aが送信開口合成器28A及び送信開口合成器28Bを有している。高調波成分に対してのみならず基本波成分に対しても送信開口合成が適用されている。但し、高調波成分についてのパラレル受信数mと基本波成分についてのパラレル受信数nは相違している。高調波成分と基本波成分の品質上の優劣関係に基づいてmとnの比を定めるのが望ましい。
【符号の説明】
【0070】
10 プローブ、14 成分分離回路、16 整相加算部、20 送信開口合成部、22 ビームデータ処理部、34 演算部、44 送受信制御部、122 高調波成分の処理、124 基本波成分の処理、128 第1ビームデータセット、132 第1フレームデータ、138 第2ビームデータセット、140 第2フレームデータ。