IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鐵住金ステンレス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図1
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図2
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図3
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図4
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図5
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図6
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図7
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図8
  • 特許-金属板のプレス成形方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】金属板のプレス成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/04 20060101AFI20240419BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20240419BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20240419BHJP
   B21D 5/01 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
B21D24/04 A
B21D22/26 D
B21D24/00 F
B21D24/00 H
B21D5/01 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020107757
(22)【出願日】2020-06-23
(65)【公開番号】P2022002852
(43)【公開日】2022-01-11
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 拓也
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠一朗
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-188403(JP,A)
【文献】国際公開第2013/132821(WO,A1)
【文献】特開2006-061981(JP,A)
【文献】特開2014-176863(JP,A)
【文献】特開2019-049890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/04
B21D 22/26
B21D 24/00
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイとパンチとの間に金属板を配置し、前記ダイとダイクッションパッドにより前記金属板の一部を挟んだ状態で、前記ダイ及び前記パンチによって前記金属板を成形加工する金属板のプレス成形方法であって、
前記ダイクッションパッドによって前記金属板に第1ダイクッション力を加えたまま、前記パンチを下死点に相対的に接近させることにより前記金属板に対する成形加工を開始し、
前記パンチが前記下死点より前の下死点直前位置に相対的に到達したときに、前記パンチを相対的に停止させるとともに、前記ダイクッションパッドによる前記金属板に対する負荷を、前記第1ダイクッション力から、前記第1ダイクッション力より大きな第2ダイクッション力に増加させる動作を開始し、
前記ダイクッションパッドの負荷が前記第2ダイクッション力に到達した後に、前記パンチを動かして前記下死点に相対的に到達させる、ことを特徴とする金属板のプレス成形方法。
【請求項2】
前記パンチが前記下死点に相対的に到達後、前記パンチを前記下死点において相対的に一時停止させることを特徴とする、請求項1に記載の金属板のプレス成形方法。
【請求項3】
前記一時停止する時間が、0.3~1.0秒の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載の金属板のプレス成形方法。
【請求項4】
前記第2ダイクッション力が、前記第1ダイクッション力の3倍以上であることを特徴とする、請求項1に記載の金属板のプレス成形方法。
【請求項5】
前記下死点直前位置は、前記パンチの前記下死点と上死点との間の前記ダイの内部にあって、前記下死点からが5mm~10mm離れた位置である、請求項1または請求項2に記載の金属板のプレス成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板のプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電、家具・雑貨等の各種分野で、プレス成形した製品(以下、プレス成形品という。)が用いられている。プレス成形品は、通常、ダイの周縁部とダイクッションパッド(ブランクホルダまたはしわ押さえともいう。)により挟持された金属板を、ダイの成形凹部とパンチの成形凸部の間で展伸または延伸させ、その金属板を所望形状に塑性変形させることにより得られる。このようなプレス成形を行うことにより、複雑な形状の部材も効率的に量産可能となる。
【0003】
しかしながら、素材の種類に関係なく、金属板(ブランク)に塑性加工を施すことでプレス成形品を製造する場合、弾性回復現象(いわゆるスプリングバック)が発生してしまい、金属板を狙った成形品の形状に加工できないという問題がある。特に、高強度鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板、二相系ステンレス鋼板等では、スプリングバックが顕著に現れる。そこで、スプリングバックを低減するための提案がなされている。
【0004】
特許文献1には、ハット型成形部品の成形において、成形初期からポンチをストロークの途中で停止するまでしわ押さえ力を付加し、ポンチを停止した後、しわ押さえ力を付加しないでポンチを停止位置から逆方向に途中まで戻し、戻した位置から下死点まで再びしわ押さえ力を付加しないで成形するプレス成形方法が記載されている。
【0005】
特許文献2には、成形初期にブランク材をパッドで押さえ、成形が進むに伴いパンチに対するパッドの相対高さを連続的又は間欠的に大きくして、天板部にしわを誘発させながら縦壁部を成形する第1成形工程と、成形部品の成形完了時においてパッドで、決め押しをかける第2成形工程とを有するプレス成形方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4348259号公報
【文献】特許第6179527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1,2に示されるように、スプリングバック低減のための技術は種々提案されているが、スプリングバックを更に抑制することが求められている。そこで本発明は、スプリングバックを更に抑制することが可能な金属板のプレス成形方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1] ダイとパンチとの間に金属板を配置し、前記ダイとダイクッションパッドにより前記金属板の一部を挟んだ状態で、前記ダイ及び前記パンチによって前記金属板を成形加工する金属板のプレス成形方法であって、
前記ダイクッションパッドによって前記金属板に第1ダイクッション力を加えたまま、前記パンチを下死点に相対的に接近させることにより前記金属板に対する成形加工を開始し、
前記パンチが前記下死点より前の下死点直前位置に相対的に到達したときに、前記パンチを相対的に停止させるとともに、前記ダイクッションパッドによる前記金属板に対する負荷を、前記第1ダイクッション力から、前記第1ダイクッション力より大きな第2ダイクッション力に増加させる動作を開始し、
前記ダイクッションパッドの負荷が前記第2ダイクッション力に到達した後に、前記パンチを動かして前記下死点に相対的に到達させる、ことを特徴とする金属板のプレス成形方法
] 前記パンチが前記下死点に相対的に到達後、前記パンチを前記下死点において相対的に一時停止させることを特徴とする、[1]に記載の金属板のプレス成形方法。
] 前記一時停止する時間が、0.3~1.0秒の範囲であることを特徴とする、[2]に記載の金属板のプレス成形方法。
] 前記第2ダイクッション力が、前記第1ダイクッション力の3倍以上であることを特徴とする、[1]に記載の金属板のプレス成形方法。
] 前記下死点直前位置は、前記パンチの前記下死点と上死点との間の前記ダイの内部にあって、前記下死点からが5mm~10mm離れた位置である、[1]または[2]に記載の金属板のプレス成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の金属板のプレス成形方法によれば、ダイクッションパッドによって金属板に第1ダイクッション力を加えたまま、パンチを下死点に相対的に接近させることにより金属板に対する成形加工を開始し、パンチが下死点より前の下死点直前位置に相対的に到達したときに、ダイクッションパッドによる負荷を、第1ダイクッション力から第2ダイクッション力に増加させることで、プレス成形中の金属板の曲げ部及び曲げ部の近傍に引張ひずみを付与することができる。プレス成形後の金属板の曲げ部には、ひずみ中立面の外側に引張ひずみが、内側には圧縮ひずみが存在することにより、曲げ部のひずみ状態が不均一になっているが、本発明のようにプレス成形中の曲げ部に引張ひずみを付与することで、曲げ部におけるひずみ状態の不均一性を軽減することができ、これにより、スプリングバックを抑制できる。
また、本発明の金属板のプレス成形方法によれば、ダイクッションパッドによる負荷が第2ダイクッション力に到達した後にパンチを下死点に到達させるので、プレス成形中の金属板の曲げ部及び曲げ部の近傍に十分な引張応力を付与することができ、これにより、スプリングバックを抑制できる。
【0010】
次に、本発明の金属板のプレス成形方法によれば、金属板に第1ダイクッション力を加えたまま金属板に対する成形加工を開始し、パンチが下死点より前の下死点直前位置に相対的に到達したときに、パンチを相対的に停止させるとともに、ダイクッションパッドによる負荷を、第1ダイクッション力から第2ダイクッション力に増加させることで、プレス成形中の金属板の曲げ部及び曲げ部の近傍に引張ひずみを効率よく付与することができる。これにより、曲げ部におけるひずみ状態の不均一性をより一層軽減することができ、スプリングバックを抑制できる。
【0011】
また、本発明の金属板のプレス成形方法によれば、金属板に第1ダイクッション力を加えたまま金属板に対する成形加工を開始し、パンチが下死点より前の下死点直前位置に相対的に到達したときに、ダイクッションパッドによる負荷を、第1ダイクッション力から第2ダイクッション力に増加させ、この間はパンチを相対的に停止させずに下死点に相対的に接近させる動作を継続させるので、プレス成形中の金属板の曲げ部及び曲げ部の近傍に引張ひずみを付与できるとともに、プレス成形の所要時間を増大させることがなく、これにより、生産性を損なわないまま、曲げ部におけるひずみ状態の不均一性をより一層軽減することができ、スプリングバックを抑制できる。
【0012】
また、本発明の金属板のプレス成形方法によれば、パンチが下死点に相対的に到達後、パンチを下死点において一時停止させることで、ダイ及びパンチによってプレス成形後の金属板を固定して曲げ部における残留応力を軽減させ、これにより、スプリングバックを更に抑制できる。
この場合、一時停止する時間を0.3~1.0秒の範囲とすることで、生産性を損なわずにスプリングバックを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態のプレス成形方法によって成形されるプレス成形品の一例を示す模式図。
図2図2は、本発明の実施形態のプレス成形方法を説明する工程図であって、(a)はプレス成形開始前、(b)はプレス成形開始直後、(c)はパンチの先端が下死点直前位置に到達したとき、(d)はパンチの先端が下死点に到達したとき、を示す図。
図3図3は、本発明の第1の実施形態のプレス成形方法を説明する図であって、下死点に対するパンチの相対位置と、ダイクッション力との関係を示すグラフ。
図4図4は、本発明の第2の実施形態のプレス成形方法を説明する図であって、下死点に対するパンチの相対位置と、ダイクッション力との関係を示すグラフ。
図5図5は、本発明の第3の実施形態のプレス成形方法を説明する図であって、下死点に対するパンチの相対位置と、ダイクッション力との関係を示すグラフ。
図6図6は、プレス成形品の幅変化率を説明する模式図。
図7図7は、試験例1~6の幅変化率を示すグラフ。
図8図8は、試験例1、試験例6及び試験例7の幅変化率を示すグラフ。
図9図9は、試験例1、試験例3及び試験例8の幅変化率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態の金属板のプレス成形方法について、図面を参照して説明する。
図1には、本実施形態の金属板のプレス成形方法によって成形可能なプレス成形品の一例を示す。
図1に示すプレス成形品2は、金属板1をプレス成形することにより製造される。プレス成形品2は、ウエブ部21と、ウエブ部21の幅方向両側に備えられた一対の縦壁部22と、各縦壁部22の幅方向片側に備えられたフランジ部23とを有する。ウエブ部21と縦壁部22との間には第1曲げ部24が設けられ、縦壁部22とフランジ部23との間には第2曲げ部25が設けられている。金属板1をプレス成形して第1曲げ部24及び第2曲げ部25を形成することにより、プレス成形品2が得られる。
【0015】
金属板1の材質は特に限定されるものではなく、材質として例えば、鉄鋼、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、銅または銅合金等を例示できる。
【0016】
また、図1に示すプレス成形品2は、例えば、自動車の骨格部材として用いることができる。プレス成形品2を自動車の骨格部材として用いる場合は、図1に示す形状に限定されるものではなく、ウエブ部21、縦壁部22及びフランジ部23を適宜変形させたものであってもよい。
【0017】
更に、本実施形態の金属板のプレス成形方法に適用可能なプレス成形品は、図1に示すプレス成形品2に限定されることはない。
【0018】
次に、本実施形態の金属板のプレス成形方法に好適に用いられるプレス成形機を説明する。図2は、本実施形態の金属板のプレス成形方法を説明する工程図である。図2(a)に示すプレス成形機30は、いわゆるサーボプレス機であり、ダイ31と、パンチ32と、ダイクッションパッド33とを備えている。ダイクッションパッド33は、一般にはブランクホルダまたはしわ押さえとも呼ばれる。プレス成形機30は、プレス成形時に金属板の一部1aをダイ31の周縁部とダイクッションパッド33とで挟むことで、プレス成形品2の成形性を向上させる。
【0019】
本実施形態におけるダイ31には、駆動源として図示しないサーボモータが接続されている。ダイ31の駆動源としてサーボモータを用いることにより、ダイ31及びパンチ32によるスライド動作モーションを自由に制御できるようになっている。
【0020】
また、本実施形態におけるダイクッションパッド33には、駆動源として、図示しない別のサーボモータが接続されている。ダイクッションパッド33の動作をサーボモータで制御することによって、ダイクッションパッド33によるダイクッション力をプレス成形中に変更できるようになっている。以下のプレス成型機30の動作説明では、パンチ32を固定側とし、ダイ31及びダイクッションパッド33を可動側とする前提で説明する。
【0021】
なお、本実施形態では、パンチ32を固定側とし、ダイ31及びダイクッションパッド33を可動側としているが、本発明はこれに限らず、パンチ32を可動側とし、ダイ31及びダイクッションパッド33を固定側としてもよい。この場合は、パンチ32及びダイクッションパッド33の駆動源としてそれぞれ、サーボモータを用いればよい。更に、パンチ32と、ダイ31及びダイクッションパッド33とをそれぞれ、可動可能なように構成してもよい。この場合は、パンチ32、ダイ31及びダイクッションパッド33の駆動源としてそれぞれ、サーボモータを用いればよい。
【0022】
更に、本実施形態のプレス成形機30には、パンチ32の下死点BDと、下死点直前位置Aとが設定されている。下死点直前位置Aは、パンチ32の下死点BDと上死点との間のダイ31の内部にあって、下死点BDから5mm~10mm離れた位置である。本実施形態の金属板のプレス成形方法では、下死点直前位置Aにおいてダイクッション力を変更する。
【0023】
(第1の実施形態)
次に、図2及び図3を参照しながら、本発明の第1の実施形態の金属板のプレス成形方法について説明する。図3は、本実施形態のプレス成形方法の一例を説明する図であって、下死点に対するパンチ32の相対位置と、ダイクッションパッド33によるダイクッション力との関係を示すグラフである。
【0024】
まず、図2(a)及び図3に示すように、ダイ31とパンチ32との間に金属板1を配置し、更に、ダイ31とダイクッションパッド33により金属板1の一部1a(両端部1a)を挟んだ状態とする。また、ダイクッションパッド33によって金属板1に対して第1ダイクッション力F1を加え、金属板1の両端部1aをダイ31に押し付ける。
【0025】
次に、図2(b)及び図3に示すように、ダイクッションパッド33によって金属板1に第1ダイクッション力F1を加えたまま、ダイ31及びダイクッションパッド33をパンチ32に近づけてパンチ32を下死点BDに相対的に接近させることにより、金属板1に対する成形加工を開始する。
【0026】
次に、図2(c)及び図3に示すように、パンチ32の先端32aが下死点BDより前の下死点直前位置Aに相対的に到達したときに、ダイクッションパッド33による金属板1に対する負荷を、第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2に増加させる動作を開始する。第2ダイクッション力F2は、第1ダイクッション力F1より大きな力とする。このときのダイ31は、パンチ32が下死点直前位置Aに相対的に到達した後も、停止させることなく移動させ続ける。すなわち、図3に示すように、ダイクッションパッド33によるダイクッション力を第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2まで増加させる間も、パンチ32は下死点BDに向けて相対的に移動し続ける。そして、パンチ32の先端32aが下死点BDに相対的に到達する前に、ダイクッション力を第2ダイクッション力F2にまで到達させ、その後、パンチ32が下死点BDに相対的に到達するまで第2ダイクッション力F2を維持する。
【0027】
そして、図2(d)に示すようにパンチ32が下死点BDに相対的に到達するまでダイ31を移動させた後、速やかにダイ31をパンチ32から離してパンチ32を下死点BDから相対的に離間させ、ダイクッションパッド33による拘束も解消させる。
【0028】
ここで、従来のようにダイクッション力を一定にしたままプレス成形を行った場合は、プレス成形後の曲げ部に、ひずみ中立面の外側に引張ひずみが、内側に圧縮ひずみが付与されて、曲げ部のひずみ状態が不均一になり、スプリングバックが顕著になる。一方、本実施形態のように、パンチ32が下死点直前位置Aに相対的に到達したときにダイクッション力を増加させる場合は、プレス成形中の曲げ部(第1曲げ部24及び第2曲げ部25)に引張ひずみを付与することができ、これにより、ひずみ中立面の外側の引張ひずみと、内側の圧縮ひずみとの差が小さくなる。これにより、第1曲げ部24及び第2曲げ部25におけるひずみ状態の不均一性が軽減され、スプリングバックが抑制されるものと推測される。
【0029】
プレス成形後のプレス成形品2のスプリングバックをより効果的に抑制するには、下死点直前位置Aにおいてダイクッション力を第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2に変更する必要がある。ダイクッション力の変更を、下死点直前位置A以外の位置、すなわち、下死点BDから10mm超離れた位置や、下死点BDから5mm未満の位置でダイクッション力を変更したとしても、スプリングバックの抑制効果が得られない。その理由として、下死点BDから10mm超離れた位置でダイクッション力を変更した場合は、プレス成形中の金属板1の第1曲げ部24、第2曲げ部25及びこれらの近傍に十分な引張ひずみを付与できないためと推測される。また、下死点BDから5mm未満の位置でダイクッション力を変更した場合は、ダイクッション力が十分に増加する前にパンチ32が下死点BDに相対的に到達してしまい、プレス成形中の金属板1の第1曲げ部24、第2曲げ部25及びこれらの近傍に十分な引張ひずみを付与できないためである。
【0030】
プレス成形中の金属板1の第1曲げ部24、第2曲げ部25及びこれらの近傍に十分な引張ひずみを付与するためには、第2ダイクッション力F2を高くするほどよく、より具体的には、第2ダイクッション力F2を、第1ダイクッション力F1の3倍以上にすることが好ましく、10倍以上にすることがより好ましい。例えば、第1ダイクッション力F1を10kNとした場合、第2ダイクッション力は30kN以上にすることが好ましく、100kN以上にすることがより好ましく、150kN以上にすることが更に好ましい。また、第1ダイクッション力F1を50kNとした場合、第2ダイクッション力は150kN以上にすることが好ましい。
【0031】
本実施形態の金属板1のプレス成形方法によれば、ダイクッションパッド33によって金属板1に第1ダイクッション力F1を加えたまま、ダイ31をパンチ32に近づけてパンチ32を下死点BDに相対的に接近させることにより金属板1に対する成形加工を開始し、パンチ32が下死点直前位置Aに相対的に到達したときに、ダイクッションパッド33による負荷を、第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2に増加させる動作を開始することで、プレス成形中の金属板1の第1曲げ部24、第2曲げ部25及びこれらの近傍に引張ひずみを付与することができ、これにより、第1曲げ部24及び第2曲げ部25におけるひずみ状態の不均一性を軽減され、スプリングバックを抑制できる。
【0032】
また、本実施形態の金属板1のプレス成形方法によれば、ダイクッションパッド33による負荷を、第2ダイクッション力F2に到達した後、パンチ32が下死点BDに相対的に到達するまで第2ダイクッション力F2のまま維持することで、プレス成形中の金属板1の第1曲げ部24、第2曲げ部25及びこれらの近傍に十分な引張応力を付与することができ、これにより、スプリングバックを抑制できる。
【0033】
また、本実施形態の金属板のプレス成形方法によれば、ダイクッションパッド33によってダイクッション力を増加させる間は、ダイ31を停止させずにパンチ32を下死点BDに相対的に接近させる動作を継続させるので、プレス成形中の金属板1の第1曲げ部24、第2曲げ部25及びこれらの近傍に引張ひずみを付与できるとともに、プレス成形の所要時間を増大させることがなく、これにより、生産性を損なわないまま、スプリングバックを抑制できる。
【0034】
(第2の実施形態)
次に、図2及び図4を参照しながら、本発明の第2の実施形態の金属板のプレス成形方法について説明する。図4は、本実施形態のプレス成形方法の一例を説明する図であって、下死点に対するパンチ32の相対位置と、ダイクッションパッド33によるダイクッション力との関係を示すグラフである。以下の説明では、第1実施形態のプレス成形方法と異なる点を中心に説明する。
【0035】
第1実施形態の場合と同様に、本実施形態のプレス成形方法は、ダイ31とパンチ32との間に金属板1を配置し、ダイ31とダイクッションパッド33により金属板1の両端部1aを挟んだ状態とする。そして、ダイクッションパッド33によって金属板1に対して第1ダイクッション力F1を加えて金属板1の両端部1aをダイ31の周縁部に押し付け、金属板1に第1ダイクッション力F1を加えたまま、ダイ31及びダイクッションパッド33をパンチ32に近づけてパンチ32を下死点BDに相対的に接近させることにより、金属板1に対する成形加工を開始する。
【0036】
次いで、本実施形態のプレス成形方法では、パンチ32が下死点直前位置Aに相対的に到達したときに、ダイ31を一旦停止、すなわちパンチ32を相対的に一旦停止させてから、ダイクッション力を第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2に増加させる動作を開始する。そして、ダイクッションパッド33の負荷が第2ダイクッション力F2に到達した後に、ダイ31の動作を再開してパンチ32を下死点BDに相対的に到達させる。パンチ32が下死点BDに相対的に到達後は、速やかにパンチ32を下死点BDから相対的に離間させ、ダイクッションパッド33による拘束も解消させる。
【0037】
ダイ31の停止時間は、第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2に増加する所要時間よりも長くすればよく、第2ダイクッション力に到達した後は、すみやかにダイ31の停止状態を解除、すなわち、ダイ31に対するパンチ32の相対的な停止状態を解除するとよい。具体的には、プレス成形機30の応答性を考慮し、0.1~0.5秒程度停止させれば十分である。
【0038】
本実施形態によれば、金属板1に第1ダイクッション力F1を加えたまま金属板1に対する成形加工を行い、パンチ32が下死点直前位置Aに相対的に到達したときに、ダイ31を停止、すなわちパンチ32を相対的に停止させるとともに、ダイクッションパッド33による負荷を、第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2まで増加させ、その後、ダイクッションパッド33による負荷を第2ダイクッション力F2に維持したままダイ31の動作を再開してパンチ32を下死点BDの位置に相対的に到達させることで、プレス成形中の金属板1の第1曲げ部24及びその近傍に引張ひずみを効率よく付与できる。これにより、第1曲げ部24及び第2曲げ部25におけるひずみ状態の不均一性をより一層軽減することができ、スプリングバックを抑制できる。
【0039】
(第3の実施形態)
次に、図2及び図5を参照しながら、本発明の第3の実施形態の金属板のプレス成形方法について説明する。図5は、本実施形態のプレス成形方法の一例を説明する図であって、下死点に対するパンチ32の相対位置と、ダイクッションパッド33によるダイクッション力との関係を示すグラフである。以下の説明では、第1実施形態及び第2実施形態のプレス成形方法と異なる点を中心に説明する。
【0040】
第1実施形態及び第2実施形態の場合と同様に、本実施形態のプレス成形方法は、ダイ31とパンチ32との間に金属板1を配置し、ダイ31とダイクッションパッド33により金属板1の両端部1aを挟んだ状態とする。そして、ダイクッションパッド33によって金属板1に対して第1ダイクッション力F1を加えて金属板1の両端部1aをダイ31の周縁部に押し付け、金属板1に第1ダイクッション力F1を加えたまま、ダイ31及びダイクッションパッド33をパンチ32に近づけてパンチ32を下死点BDに相対的に接近させることにより、金属板1に対する成形加工を開始する。
【0041】
次いで、パンチ32の先端32aが下死点直前位置Aに相対的に到達したときに、ダイ31を一旦停止、すなわちパンチ32を相対的に一旦停止させてから、ダイクッション力を第1ダイクッション力F1から第2ダイクッション力F2に増加させる動作を開始する。そして、ダイクッションパッド33の負荷が第2ダイクッション力F2に到達した後に、ダイ31の動作を再開してパンチ32を下死点BDに相対的に到達させる。
【0042】
次に、本実施形態のプレス成形方法では、ダイ31をパンチ32に近づけてパンチ32が下死点BDに相対的に到達後に、ダイ31を下死点BDにおいて一時停止させることにより、パンチ32を相対的に下死点BDにおいて一時停止させ、下死点BDの位置に保持し続ける。一時停止する時間は、0.3~1.0秒の範囲が好ましい。一時停止時間を0.3秒以上とすることでスプリングバックの抑制効果をより高めることができる。一方、一時停止時間が1.0秒を超えてもスプリングバックの抑制効果は飽和し、また、プレス成形品2の生産性が低下するので、一時停止時間の上限は1.0秒以下とする。
【0043】
一時停止時間の経過後は、速やかにダイ31をパンチ32から離してパンチ32を下死点BDから相対的に離間させる。また、ダイクッションパッド33による拘束は、パンチ32が下死点BDに相対的に到達した時点で拘束を解除してもよく、ダイ31の一時停止が終了したと同時に拘束を解除してもよい。
【0044】
本実施形態によれば、パンチ32が下死点BDに相対的に到達後、パンチ32を下死点BDにおいて相対的に一時停止させることで、ダイ31及びパンチ32によってプレス成形後の金属板1を固定して第1曲げ部24及び第2曲げ部25における残留応力を軽減させ、これにより、スプリングバックを更に抑制できる。また、一時停止する時間を0.3~1.0秒の範囲とすることで、生産性を損なわずにスプリングバックを抑制できる。
【0045】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。たとえば、第1実施形態においては、ダイ31をパンチ32に近づけてパンチ32が下死点BDに相対的に到達後、速やかにダイ31をパンチ32から離してパンチ32を下死点BDから相対的に離間させ、ダイクッションパッド33による拘束も解消させたが、本発明はこれに限らず、第1実施形態においてダイ31をパンチ32に近づけてパンチ32が下死点BDに相対的に到達した後に、ダイ31を下死点BDにおいて一時停止さることにより、パンチ32を下死点BDにおいて相対的に一時停止させ、パンチ32を下死点BDの位置に保持し続けてもよい。一時停止する時間は、0.3~1.0秒の範囲が好ましい。これにより、スプリングバックを更に抑制できる。
【0046】
また、上記の実施形態では、ダイ及びダイクッションパッドを可動側とし、パンチを固定側とする場合について説明したが、ダイ及びダイクッションパッドを固定側とし、パンチを可動側としてもよい。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
表1に示す条件で、金属板のプレス成形を行った。金属板は、幅220mm、長さ40mm、板厚1.0mmの二相ステンレス薄鋼板(日鉄ステンレス株式会社製 NSSC2120)とした。プレス成形品は、図1に示す形状のものとし、ウエブ部の幅を70mmとし、縦壁部の高さを50mmとした。
【0048】
【表1】
【0049】
表1において、試験例1は、ダイクッション力を一定のままプレス成形した比較例である。試験例2は、ダイクッション力を一定のままプレス成形した後、下死点においてパンチを0.5秒間停止させた比較例である。
【0050】
試験例3は、プレス成形中に、下死点直前位置においてダイクッション力を10kN以上から150kNに増加する動作を開始すると共にパンチが下死点に相対的に到達する前までに150kNに到達させ、このダイクッション力を増加させる間もパンチは相対的に停止させず、下死点においてパンチを相対的に停止させなかった発明例である。
試験例4は、プレス成形中に、下死点直前位置においてダイクッション力を10kN以上から150kNに増加する動作を開始すると共にパンチが下死点に相対的に到達する前までに150kNに到達させ、このダイクッション力を増加させる間もパンチは相対的に停止させず、下死点においてパンチを0.5秒間停止状態にした発明例である。
試験例5は、プレス成形中に、下死点直前位置においてダイを0.2秒間停止状態にさせるとともにダイクッション力を10kN以上から150kNに増加させ、その後、パンチを下死点に相対的に到達させ、下死点においてパンチを相対的に停止させなかった発明例である。
試験例6は、プレス成形中に、下死点直前位置においてダイを0.2秒間停止状態にさせるとともにダイクッション力を10kN以上から150kNに増加させ、その後、パンチを下死点に相対的に到達させ、更に下死点においてパンチを0.5秒間相対的に停止状態にさせた発明例である。
【0051】
試験例7は、プレス成形中に、下死点直前位置においてパンチを0.2秒間相対的に停止させるとともにダイクッション力を50kN以上から150kNに増加させ、その後、パンチを下死点に相対的に到達させ、更に下死点においてパンチを0.5秒間相対的に停止状態にさせた発明例である。
試験例8は、プレス成形中に、下死点直前位置(試験例3に較べ下死点からより離れた位置)においてダイクッション力を10kN以上から150kNに増加する動作を開始すると共にパンチが下死点に相対的に到達する前までに150kNに到達させ、このダイクッション力を増加させる間もパンチは相対的に停止させず、下死点においてパンチを相対的に停止させなかった発明例である。
ただし、試験例3、4、8は参考例である。
【0052】
スプリングバックは、幅変化率で評価した。幅変化率は、図6に示すように、プレス成形品の目標形状における第2曲げ部同士の間隔をW1とし、各試験例における第2曲げ部同士の間隔をW2とした場合に、幅変化率(%)=W2/W1×100で求めた。幅変化率が小さいほど、スプリングバックが小さいことを意味する。幅変化率が165%以下の場合をスプリングバックの抑制が十分であるとした。
結果を図7図9に示す。
【0053】
図7に示すように、試験例1、2は、幅変化率が165%を超えており、スプリングバックの抑制が不十分であった。試験例1、2では、ダイクッション力を変化させなかったため、プレス成形中の金属板の第1曲げ部、第2曲げ部及びこれらの近傍に十分な引張ひずみを付与できず、スプリングバックが改善しなかったと推測される。
【0054】
一方、試験例3~6は、幅変化率が165%以下となり、スプリングバックの抑制が十分であった。試験例3~6では、パンチが下死点直前位置に位置したときにダイクッション力を変化させたことにより、プレス成形中の金属板の第1曲げ部、第2曲げ部及びこれらの近傍に十分な引張ひずみが与えられたことで、スプリングバックが改善したと推測される。
【0055】
また、試験例4は、下死点においてパンチを相対的に0.5秒間停止させた発明例であり、下死点においてパンチを相対的に停止させなかった試験例3(発明例)に比べて幅変化率が低下しており、下死点においてパンチを停止させた効果が現れた。
また、試験例5は、ダイクッション力を増加させる間、下死点直前位置においてパンチを相対的に0.2秒間停止させた発明例であり、下死点直前位置においてパンチを相対的に停止させなかった試験例3(発明例)に比べて幅変化率が低下しており、下死点直前位置においてパンチを停止させた効果が現れた。
また、試験例6は、ダイクッション力を増加させる間、下死点直前位置においてパンチを相対的に0.2秒間停止させるとともに、下死点において相対的にパンチを0.5秒間停止させた発明例であり、パンチを相対的に停止させなかった試験例3(発明例)に比べて幅変化率が低下しており、下死点直前位置及び下死点において相対的にパンチを停止させた効果が現れた。
【0056】
また、図8に示すように、ダイクッション力を一定のままにした試験例1(比較例)に比べて、ダイクッション力を50kNから150kNに変化させた試験例7や、ダイクッション力を10kNから150kNに変化させた試験例6は、幅変化率が小さくなっている。特に、第1ダイクッション力と第2ダイクッション力との差を大きくすることで、幅変化率がより小さくなることが分かる。
【0057】
また、図9に示すように、ダイクッション力を一定のままにした試験例1(比較例)に比べて、下死点から10mmの位置に下死点直前位置を設定した試験例8や、下死点から5mmの位置に下死点直前位置を設定した試験3は、幅変化率が小さくなっている、特に、下死点直前位置が下死点に近いほど、幅変化率がより小さくなることが分かる。
【0058】
上記の実施例では、金属板として、二相ステンレス薄鋼板を用いた試験例を示したが、一般的なオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304の場合も、二相ステンレス薄鋼板と同様にスプリングバックの改善効果があったことを確認した。
【符号の説明】
【0059】
1…金属板、1a…金属板の一部、2…プレス成形品、21…ウエブ部、22…縦壁部、23…フランジ部、24…第1曲げ部、25…第2曲げ部、30…プレス成形機、31…ダイ、32…パンチ、32a…パンチの先端、33…ダイクッションパッド、A…下死点直前位置、BD…下死点、F1…第1ダイクッション力、F2…第2ダイクッション力。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9