(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】アーク溶接方法及びアーク溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/09 20060101AFI20240419BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20240419BHJP
B23K 9/173 20060101ALI20240419BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
B23K9/09
B23K9/095 501A
B23K9/095 501G
B23K9/173 C
B23K9/23 B
(21)【出願番号】P 2020113469
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019235022
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 勇人
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/155041(WO,A1)
【文献】特開昭55-106687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/09
B23K 9/095
B23K 9/173
B23K 9/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接方法であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、
溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップと
を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える
と共に、溶接ワイヤ及び母材間に印加される電圧の設定電圧を10Hz以上1000Hz以下で変動させる
アーク溶接方法。
【請求項2】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接方法であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、
溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップと、
前記第1溶接条件における設定電圧及び前記第2溶接条件における設定電圧よりも高い設定電圧を含み、溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件を設定するスプレー化ステップと
を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、
電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、前記第1溶接条件及び前記
第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える
アーク溶接方法。
【請求項3】
前記スプレー化ステップは、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換えて行う溶接を開始する前に、所定時間、溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件を設定する
請求項2に記載のアーク溶接方法。
【請求項4】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接方法であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、
溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップと
を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、
溶接電流が低電流であるときも溶滴移行形態がスプレー移行となる設定電圧を含み、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える
アーク溶接方法。
【請求項5】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接方法であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、
溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップと
を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、
アークによって母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に溶接ワイヤの先端部、又は該先端部に形成された液柱におけるアーク発生点が進入する溶接条件であって、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換え
、
更に、
母材を多層溶接する場合、ソリッドワイヤを用い、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換えて非最終層の溶接を行うステップと、
母材を多層溶接する場合、フラックスコアードワイヤを用いて最終層の溶接を行うステップと
を備えるアーク溶接方法。
【請求項6】
前記第1溶接条件又は前記第2溶接条件は、
アークによって母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に溶接ワイヤの
先端部、又は該先端部に形成された液柱におけるアーク発生点が進入する溶接条件である
請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載のアーク溶接方法。
【請求項7】
溶接対象の母材はステンレス鋼である
請求項1から
請求項6のいずれか1項に記載のアーク溶接方法。
【請求項8】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件と、溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件とを切り換えて設定する設定回路を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、
前記設定回路は、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える
と共に、溶接ワイヤ及び母材間に印加される電圧の設定電圧を10Hz以上1000Hz以下で変動させる
アーク溶接装置。
【請求項9】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件と、溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件とを切り換えて設定する設定回路を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、
前記設定回路は、
前記第1溶接条件における設定電圧及び前記第2溶接条件における設定電圧よりも高い設定電圧を含み、溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件を設定し、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える
アーク溶接装置。
【請求項10】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件と、溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件とを切り換えて設定する設定回路を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、
溶接電流が低電流であるときも溶滴移行形態がスプレー移行となる設定電圧を含み、
前記設定回路は、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える
アーク溶接装置。
【請求項11】
アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、
溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件と、溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件とを切り換えて設定する設定回路を備え、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、
アークによって母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に溶接ワイヤの先端部、又は該先端部に形成された液柱におけるアーク発生点が進入する溶接条件であって、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、
前記設定回路は、
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換え、
更に、
母材を多層溶接する場合、ソリッドワイヤを用い、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換えて非最終層の溶接を行い、
母材を多層溶接する場合、フラックスコアードワイヤを用いて最終層の溶接を行う
アーク溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極式のアーク溶接方法及びアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接において発生する溶接欠陥のひとつにブローホールがある。ブローホールは、溶融金属内に低沸点のガス蒸気が巻き込まれた状態で溶融金属が凝固することにより、溶接金属内に球状の空洞が形成される欠陥である。一般的には水素や酸素、窒素などが原因となることが多い。例えば、それらの元素の大気からの混入を防ぐために、シールドガス流量を増やしたり、溶接トーチのノズルを工夫するなどしてシールド状態を良好にする対策が取られる。また溶接母材や溶接ワイヤが濡れていたり汚れていたりすると、同様に上記元素の混入原因となるため、母材やワイヤの清浄度を高める対策も取られる。また例えばプラズマ切断材の溶接では、切断面に形成された窒化層などから上記元素が混入する場合もあるため、切断面の窒化層をグラインダで除去するといった対策も取られる。
上記のように、ブローホール抑制のためには、原因となる元素の混入を防ぐのが最も一般的である。しかし、この対策が取れない場合も存在する。例えば亜鉛メッキ鋼板の溶接では、溶接入熱により気化した低沸点の亜鉛蒸気がブローホールの原因となることが知られているが、溶接部の亜鉛メッキを完全に除去して溶接するのは困難であり、通常、メッキのまま溶接を行う。そこで、亜鉛メッキ鋼板溶接においてブローホールを防ぐ方法として、特許文献1及び特許文献2の従来技術がある。これらは、溶融金属を振動させることで、蒸気が溶融金属外に排出されるのを促進することにより、ブローホール抑制を狙った技術である。
特許文献1には、溶接開始時又はベース電流を供給している期間にワイヤと被溶接物とを短絡させ、亜鉛メッキ鋼板表面に形成された溶融池の溶融金属を振動させることによって、ブローホールの発生を抑制する技術が開示されている。
特許文献2には、溶接ワイヤの送り速度を数十Hzで繰り返し変化させることによって、溶融金属を振動させ、ブローホールの発生を抑制する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-069226号公報
【文献】特開2005-219086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、一般的なアーク溶接や、ブローホールが発生しやすい亜鉛メッキ鋼板の溶接においては、ブローホール抑制方法が十分検討されてきている。
【0005】
一方、近年は新しい溶接プロセスも多く、それらの中にはブローホールが発生しやすい特有のプロセスも存在する。例えば、アルゴンを含有するシールドガスを用いた消耗電極式のアーク溶接方法において、溶接電流を350A~600Aとすると、ブローホールが大量発生するという知見が本願発明者等によって得られている。このとき発生するブローホールは、シールド状態を十分良好にしても低減されないことから、シールドガス中のアルゴンを溶接金属中に巻き込んだものと考えられる。
溶接電流が350A~600Aの溶接プロセスにおいては、ときおり短絡が発生するが、その際にアーク雰囲気及び溶融池が一時的に乱れてアルゴンガスを溶融池に巻き込むと考えられる。ただし短絡は稀であり、アーク雰囲気及び溶融池は基本的には安定しており振動が少ないため、巻き込まれたアルゴンガスが溶融池の表面に浮上しにくく、ブローホールの発生につながると考えられている。かかる溶接プロセスでは、短絡によって十分に溶融池を振動させることができず、ブローホールの発生を抑制することができない。
また、溶接電流が350A~600Aの大電流溶接プロセスにおいては、溶接ワイヤを高速で送給する必要があり、送給速度を数十Hzもの高い周波数で変動させることは好ましく無い。
【0006】
本発明の目的は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接であって、平均溶接電流が350A以上の溶接プロセスにおけるブローホールの発生を抑制することができるアーク溶接方法及びアーク溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
アーク溶接方法は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接方法であって、溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件を設定するステップと、溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件を設定するステップとを備え、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える。
【0008】
アーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接装置であって、溶接ワイヤに第1の溶接電流が供給される第1溶接条件と、溶接ワイヤに第2の溶接電流が供給される第2溶接条件とを切り換えて設定する設定回路を備え、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、前記溶接電流の基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件であり、前記設定回路は、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える。
【0009】
本態様にあっては、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のアーク溶接において、第1溶接条件と、第2溶接条件とを周期的に変動させることにより、溶融金属を振動させ、溶融金属に巻き込まれた気泡の排出を促し、ブローホールの発生を抑制する。特に、溶融金属に振動を与えるためには溶接電流を上記のように変動させることが効果的である(
図8参照)。以下、溶接電流を周期的に変動させる制御を、電流振幅制御と呼ぶ。
【0010】
前記第1溶接条件又は前記第2溶接条件は、アークによって母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に溶接ワイヤの先端部(溶融した領域を含む。以降の同様の表現では割愛する。)、又は該先端部に形成された液柱におけるアーク発生点が進入する溶接条件である構成が好ましい。
【0011】
本態様にあっては、母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に溶接ワイヤの先端部、又は該先端部に形成された液柱におけるアーク発生点が進入する(
図4参照)。以下、凹状の溶融部分によって囲まれる空間を埋もれ空間と呼び、埋もれ空間に進入した溶接ワイヤの先端部、又は該先端部に形成された液柱におけるアーク発生点と、母材又は溶融部分との間に発生するアークを、適宜、埋もれアークと呼ぶ。また埋もれアークにて行う溶接を埋もれアーク溶接と呼ぶ。埋もれアーク溶接は、例えば、溶接ワイヤを約5~100m/分で送給し、300A以上の大電流を供給することによって、実現される。
一方、凹状の溶融部分が形成されないアーク、又は凹状の溶融部分に溶接ワイヤ先端部及びアーク発光点が侵入しない通常のアークを、非埋もれアークと呼ぶ。
埋もれアーク溶接においては、深い溶融池が形成されるため、シールドガス中のアルゴンが溶融金属に残留し、ブローホールが発生しやすい。本態様に係るアーク溶接方法にあっては、埋もれアーク溶接により深溶込みが得られると共に、ブローホールの発生を抑制することができる。
【0012】
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換えると共に、溶接ワイヤ及び母材間に印加される電圧の設定電圧を10Hz以上1000Hz以下で変動させるステップを備える構成が好ましい。
【0013】
本態様にあっては、埋もれアーク溶接においては、設定電圧を10Hz以上1000Hz以下で変動させることによって、埋もれアーク溶接に係る溶融池を安定化させることができる。埋もれアーク溶接における溶融金属は、大きく波打つおそれがあるが、設定電圧を10Hz以上1000Hz以下で変動させることによって、当該波打ち周期よりも高周波数で溶融金属を微振動させ、溶融金属の大きな波打ちを抑えることができる。
従って、微振動によって溶融池を安定化させることによってビードの乱れ及び垂れの発生を防止することができ、かつ1Hz以上5Hzの周波数で溶融池をゆっくりかつ大きく振動させることによって、ブローホールの発生を抑制することができる。
【0014】
溶接対象の母材はステンレス鋼である構成が好ましい。
【0015】
本態様にあっては、ブローホールの発生を抑え、ステンレス鋼を溶接することができる。
【0016】
溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件を設定するスプレー化ステップを備える構成が好ましい。
【0017】
本態様にあっては、溶滴移行形態をスプレー移行で安定化させることができ、短絡の発生を抑制し、溶接を安定化させることができる。
【0018】
前記スプレー化ステップは、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換えて行う溶接を開始する前に、所定時間、溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件を設定する構成が好ましい。
【0019】
本態様にあっては、溶接電流を周期的に変動させて行う溶接を開始する前に、溶滴移行形態をスプレー移行で安定化させることができる。
【0020】
溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件は、前記第1溶接条件における設定電圧及び前記第2溶接条件における設定電圧よりも高い設定電圧を含む構成が好ましい。
【0021】
本態様にあっては、第1溶接条件及び第2溶接条件における設定電圧よりも高い設定電圧で溶接を行うことにより、溶滴移行形態を確実にスプレー移行化することができる。
【0022】
前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件は、溶接電流が低電流であるときも溶滴移行形態がスプレー移行となる設定電圧を含む構成が好ましい。
【0023】
本態様にあっては、第1溶接条件及び第2溶接条件は、溶接電流が低電流であるときも溶滴移行形態がスプレー移行となる設定電圧を含むため、より確実に溶滴移行形態をスプレー移行で安定化させることができる。
【0024】
前記第1溶接条件又は前記第2溶接条件は、アークによって母材に形成された凹状の溶融部分によって囲まれる空間に溶接ワイヤの先端部、又は該先端部に形成された液柱におけるアーク発生点が進入する溶接条件であり、母材を多層溶接する場合、ソリッドワイヤを用い、前記第1溶接条件及び前記第2溶接条件を周期的に切り換えて非最終層の溶接を行うステップと、母材を多層溶接する場合、フラックスコアードワイヤを用いて最終層の溶接を行うステップとを備える構成が好ましい。
【0025】
本態様にあっては、ソリッドワイヤを用いた埋もれアーク溶接により、溶接能率の向上及び溶接コストの低減が可能になり、更に最終層をソリッドワイヤ用いて溶接することにより良好なビード外観を得ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、アルゴンを含有するシールドガスを用いた、平均溶接電流が350A以上の消耗電極式のアーク溶接において、ブローホールの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態1に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。
【
図2】本実施形態1に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【
図5】実施形態1に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。
【
図7】本実施形態1に係る電流振幅制御を行わなかったときの溶接継手の放射線透過試験結果を示す画像である。
【
図8】本実施形態1に係る電流振幅制御を行ったときの溶接継手の放射線透過試験結果を示す画像である。
【
図9】本実施形態2に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【
図10】本実施形態2に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。
【
図11】本実施形態3に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【
図12】実施形態3に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。
【
図13】本実施形態4に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【
図14】実施形態4に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。
【
図15】本実施形態5に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0029】
以下、本発明をその実施形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施形態1)
<アーク溶接装置>
図1は、本実施形態に係るアーク溶接装置の一構成を示す模式図である。本実施形態に係るアーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用いる消耗電極式のガスシールドアーク溶接機であり、溶接電源1、トーチ2及びワイヤ送給部3を備える。本実施形態に係るアーク溶接装置は、埋もれアーク溶接及び非埋もれアーク溶接のいずれの溶接も行うことができる。
【0030】
トーチ2は、銅合金等の導電性材料からなり、母材4の被溶接部へ溶接ワイヤ5を案内すると共に、アーク7a、7b(
図4参照)の発生に必要な溶接電流Iを供給する円筒形状のコンタクトチップを有する。コンタクトチップは、その内部を挿通する溶接ワイヤ5に接触し、溶接電流Iを溶接ワイヤ5に供給する。また、トーチ2は、コンタクトチップを囲繞する中空円筒形状をなし、被溶接部へシールドガスを噴射するノズルを有する。シールドガスは、アーク7a、7bによって溶融した母材4及び溶接ワイヤ5の過度な酸化を防止するためのものである。シールドガスは、例えば炭酸ガス及びアルゴンガスの混合ガス、酸素及びアルゴンガスの混合ガス、アルゴン等の不活性ガス等である。
【0031】
溶接ワイヤ5は、例えばソリッドワイヤであり、その直径は0.9mm以上1.6mm以下であり、消耗電極として機能する。溶接ワイヤ5は、例えば、螺旋状に巻かれた状態でペールパックに収容されたパックワイヤ、あるいはワイヤリールに巻回されたリールワイヤである。
【0032】
ワイヤ送給部3は、溶接ワイヤ5をトーチ2へ送給する送給ローラと、当該送給ローラを回転させるモータとを有する。ワイヤ送給部3は、送給ローラを回転させることによって、ペールパック又はワイヤリールから溶接ワイヤ5を引き出し、引き出された溶接ワイヤ5をトーチ2へ所定速度で供給する。埋もれアーク溶接の場合、溶接ワイヤ5の送給速度は、例えば、約5~100m/分である。非埋もれアーク溶接の場合、溶接ワイヤ5の送給速度は、例えば、約1~22m/分である。なお、かかる溶接ワイヤ5の送給方式は一例であり、特に限定されるものでは無い。
【0033】
溶接電源1は、給電ケーブルを介して、トーチ2のコンタクトチップ及び母材4に接続され、溶接電流Iを供給する電源部11と、溶接ワイヤ5の送給速度を制御する送給速度制御回路12とを備える。なお、電源部11及び送給速度制御回路12を別体で構成しても良い。電源部11は、定電圧特性の電源であり、PWM制御された直流電流を出力する電源回路11a、電圧制御回路11b、設定回路11c、電流等設定回路11d、電圧検出部11e及び電流検出部11fを備える。
【0034】
設定回路11cは、埋もれアーク溶接に係る第1溶接条件と、第2溶接条件とを周期的に切り換えて設定し、設定された溶接条件を示す溶接条件設定信号を電圧制御回路11b及び電流等設定回路11dへ出力する回路である。
第1溶接条件及び第2溶接条件は、少なくとも溶接電流Iの基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする溶接条件である。溶接電流Iの基準電流は、400A以上がより好ましい。
例えば、第1溶接条件は溶接電流Iが350A、第2溶接条件は溶接電流Iが450Aとなる条件である(400A±50A)。
また、第1溶接条件は溶接電流Iが300A、第2溶接条件は溶接電流Iが500Aとなる条件としてもよい(400A±100A)。
更に、第1溶接条件は溶接電流Iが250A、第2溶接条件は溶接電流Iが550Aとなる条件としてもよい(400A±150A)。
設定回路11cは、第1溶接条件及び第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換える。より好ましくは、第1溶接条件及び第2溶接条件を2Hz以上3Hz以下の周期で切り換えるように設定回路11cを構成するとよい。
【0035】
電流等設定回路11dは、溶接電流Iの設定電流値を示す電流設定信号Irを電圧制御回路11b及び送給速度制御回路12へ出力する。設定回路11cにて第1溶接条件が設定された場合、電流等設定回路11dは、低電流値を示す電流設定信号Irを、電圧制御回路11b及び送給速度制御回路12へ出力する。設定回路11cにて第2溶接条件が設定された場合、高電流値を示す電流設定信号Irを、電圧制御回路11b及び送給速度制御回路12へ出力する。送給速度制御回路12は、ワイヤの送給を指示する送給指示信号を、ワイヤ送給部3へ出力し、電流設定信号Irに応じた速度で溶接ワイヤ5を送給させる。電流設定信号Irが高電流値を示す場合、高送給速度値を示す送給指示信号を出力し、電流設定信号Irが低電流値を示す場合、低送給速度値を示す送給指示信号を出力する。
また、電流等設定回路11dは、溶接電源1の設定電圧を示した出力電圧設定信号Erを電圧制御回路11bへ出力する回路である。
【0036】
電圧検出部11eは、アーク電圧Vを検出し、検出した電圧値を示す電圧値信号Vdを電圧制御回路11bへ出力する。
【0037】
電流検出部11fは、例えば、溶接電源1からトーチ2を介して溶接ワイヤ5へ供給され、アーク7a、7bを流れる溶接電流Iを検出し、検出した電流値を示す電流値信号Idを電圧制御回路11b及び送給速度制御回路12へ出力する。
【0038】
電圧制御回路11bは、定電圧特性で動作し、出力電圧設定信号Erに応じた電圧が電源回路11aから出力されるように、電源回路11aの動作を制御する回路である。電圧制御回路11bは、溶接電源1の通電経路に存在する電気抵抗R及びリアクトルLを電子的に制御し、定電圧特性を実現する。
電圧制御回路11bは、電圧検出部11eから出力された電圧値信号Vdと、電流検出部11fから出力された電流値信号Idと、電流等設定回路11dから出力された電流設定信号Ir及び出力電圧設定信号Erとに基づいて、差分信号Eiを算出し、算出した差分信号Eiを電源回路11aへ出力する。差分信号Eiは、検出された電流値と、電源回路11aから出力されるべき電流値との差分を示す信号である。
【0039】
電源回路11aは、商用交流を交直変換するAC-DCコンバータ、交直変換された直流をスイッチングにより所要の交流に変換するインバータ回路、変換された交流を整流する整流回路等を備える。電源回路11aは、電圧制御回路11bから出力された差分信号Eiに従って、差分信号Eiが小さくなるようにインバータをPWM制御し、電圧を溶接ワイヤ5へ出力する。その結果、母材4及び溶接ワイヤ5間に、所定のアーク電圧Vが印加され、溶接電流Iが通電する。
なお、溶接電源1には、図示しない制御通信線を介して外部から出力指示信号が入力されるように構成されており、電源部11は、出力指示信号をトリガにして、電源回路11aに溶接電流Iの供給を開始させる。出力指示信号は、例えば、トーチ2側に設けられた手元操作スイッチが操作された際にトーチ2側から溶接電源1へ出力される信号である。
【0040】
<電流振幅制御>
図2は、本実施形態に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャート、
図3は、溶接対象の母材4を示す側断面図である。まず、溶接により接合されるべき一対の母材4をアーク溶接装置に配置し、溶接モード等、各種設定を行う(ステップS111)。具体的には、
図3に示すように板状の第1母材41及び第2母材42を用意し、被溶接部である端面41a、42aを突き合わせて、所定の溶接作業位置に配する。第1母材41及び第2母材42は、例えばステンレス鋼である。なお、必要に応じて、第1母材41及び第2母材42にY形、レ形等の任意形状の開先を設けても良い。また第1及び第2母材41、42は、例えば軟鋼、機械構造用炭素鋼、機械構造用合金鋼等の鋼板であってもよい。なお上記は突合せ溶接継手の例の説明であるが、すみ肉溶接継手やT継手などを含め、溶接継手の種類によって制限されるものではない。
【0041】
各種設定が行われた後、溶接電源1は、溶接電流Iの出力開始条件を満たすか否かを判定する(ステップS112)。具体的には、溶接電源1は、溶接の出力指示信号が入力されたか否かを判定する。出力指示信号が入力されておらず、溶接電流Iの出力開始条件を満たさないと判定した場合(ステップS112:NO)、溶接電源1は、出力指示信号の入力待ち状態で待機する。
【0042】
溶接電流Iの出力開始条件を満たすと判定した場合(ステップS112:YES)、設定回路11cは、例えば初期状態として第1溶接条件を設定する(ステップS113)。そして、溶接電源1は、設定回路11cによって設定された溶接条件に基づいて、溶接ワイヤ5の送給、電源部11の出力を制御することによって溶接制御を行う(ステップS114)。具体的には、溶接電源1の送給速度制御回路12は、ワイヤの送給を指示する送給指示信号を、ワイヤ送給部3へ出力し、電流設定信号Irに応じた速度で溶接ワイヤ5を送給させる。また、溶接電源1の電源部11は、電圧検出部11e及び電流検出部11fにてアーク電圧V及び溶接電流Iを検出し、検出されたアーク電圧V及び溶接電流I並びに溶接電源1の外部特性が、設定された溶接条件に一致するように、電源部11の出力をPWM制御する。
平均電流が400A以上とする第1溶接条件及び第2溶接条件が設定されると、埋もれアーク状態となる。なお、第1溶接条件又は第2溶接条件の少なくとも一方が、埋もれアークの条件を満たせば良い。低電流条件、特に350A以下では埋もれアークを維持することが困難であるが、高電流条件時に埋もれアークとなっていれば、深溶込みが得られる。また埋もれアークは、後述の完全埋もれアークと、準埋もれアークとの両方を含む。
電源部11は、100Aの溶接電流Iの増加に対するアーク電圧Vの低下が2V以上20V以下となる外部特性を有するように構成するとよい。電源部11の外部特性をこのように設定することにより、埋もれアーク状態を維持することが容易となる。
【0043】
図4は、埋もれアーク状態の説明図である。アルゴンを含有するシールドガスを用いる埋もれアーク溶接であって、平均電流が350A以上の大電流が溶接ワイヤ5に供給され、約5~100m/分で溶接ワイヤ5が送給されている場合、溶接ワイヤ5の先端部5aには溶融したワイヤが細長く伸びた液柱8が形成される。また母材4及び溶接ワイヤ5の溶融金属からなる凹状の溶融部分6が母材4に形成される。液柱8の比較的下部と凹状の溶融部分6の間には、輝度の強いアーク7aが形成される。一方、液柱8の比較的上部あるいは固体の溶接ワイヤ5と凹状の溶融部分6の間には、比較的輝度の弱いアーク7bが形成される。
図4Aは、溶接ワイヤ5あるいは液柱8側における、アーク7a及び7bの発生点が、凹状の溶融部分6に取り囲まれた埋もれ空間に進入していないアーク状態を示している。
図4Bは、液柱8側におけるアーク7bの発生点のみが埋もれ空間に進入した準埋もれアーク状態、
図4Cは、溶接ワイヤ5あるいは液柱8側におけるアーク7aの発生点まで埋もれ空間に進入した完全埋もれアーク状態を示している。
準埋もれアーク溶接あるいは埋もれアーク溶接では、凹状の溶融部分6の底部61に照射されるアーク7a又は7bによって、深い溶込みが得られる。
【0044】
次いで、設定回路11cは、切り換え周期が到来したか否かを判定する(ステップS115)。切り換え周波数は1Hz~5Hzであり、設定回路11cは現在の溶接条件が設定されてから、当該切り換え周波数の周期に相当する時間が経過したか否かを判定する。切り換え周期が到来したと判定した場合(ステップS115:YES)、設定回路11cは、溶接条件を切り換える(ステップS116)。第1溶接条件が設定されている場合、設定回路11cは、第2溶接条件を設定する。第2溶接条件が設定されている場合、設定回路11cは、第1溶接条件を設定する。
【0045】
図5は、実施形態1に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。横軸は時間、縦軸は溶接電流Iを示している。ステップS115及びステップS116の処理によって、第1及び第2溶接条件が周期的に切り換えられ、
図5に示すように、溶接電流Iが周期的に変動する。
【0046】
ステップS116の処理を終えた場合、又は切り換え周期が到来していないと判定した場合(ステップS115:NO)、溶接電源1の電源部11は、溶接電流Iの出力を停止するか否かを判定する(ステップS117)。具体的には、溶接電源1は、出力指示信号の入力が継続しているか否かを判定する。出力指示信号の入力が継続しており、溶接電流Iの出力を停止しないと判定した場合(ステップS117:NO)、電源部11は、処理をステップS114へ戻し、溶接電流Iの出力を続ける。
【0047】
溶接電流Iの出力を停止すると判定した場合(ステップS117:YES)、電源部11は、処理をステップS112へ戻す。
【0048】
<電流振幅制御の作用効果>
図6は、溶接継手を模式的に示す断面図である。
図6Aは非埋もれアーク溶接によって得られる溶接継手の断面図であり、
図6Bは埋もれアーク溶接によって得られる溶接継手の断面図である。埋もれアーク溶接では、
図6Bに示すように、ビード9中央部の溶込みが通常のアーク溶接で得られるビード9よりも深い、いわゆるフィンガー状の溶込みを呈する。この傾向は、シールドガス中のAr含有量が増加するほど顕著であり、最深部にブローホールが残留しやすいことが知られている。またアルゴンは不活性ガスであり、溶融金属内に巻き込まれるとブローホールの一因となる。従って、アルゴンを含有するシールドガスを用いる埋もれアーク溶接では、ブローホールが非常に発生しやすい。
【0049】
図7は、本実施形態1に係る電流振幅制御を行わなかったときの溶接継手の放射線透過試験結果を示す画像である。例えばステンレス鋼板SUS304に対して、ステンレスソリッドワイヤを用いて、溶接電流400A、溶接速度30cm/分で埋もれアーク溶接を行うと、
図7の放射線透過試験結果のように多くのブローホールが発生する。
【0050】
そこで本実施形態1では、溶接電流Iの基準電流を350A以上、電流変動幅を50A以上150A以下とする第1溶接条件及び第2溶接条件を1Hz以上5Hz以下の周期で切り換えて変動させることによって、ブローホールの発生を抑制する。
【0051】
図8は、本実施形態1に係る電流振幅制御を行ったときの溶接継手の放射線透過試験結果を示す画像である。
図8中、「A(優)」は、ブローホールが発生していないことを示し、「B(良)」は、ブローホールの発生量が減少していることを示し、「C(可)」は、ブローホールの発生量がやや減少していることを示す。
図8中段に示すように、例えば、平均溶接電流(基準電流)400A、アーク電圧31.5V、ワイヤ突出し長さ20mm、溶接速度30cm/分の条件で、母材4としてステンレス鋼板SUS304、溶接ワイヤ5としてステンレスソリッドワイヤを用いて溶接を行うとき、溶接電流Iを300Aとする第1溶接条件と、溶接電流Iを500Aとする第2溶接条件とを、周波数2Hz又は3Hzで変動させて溶接を行うことにより、ブローホールの発生を抑制することができる。なお、上記第1溶接条件と、第2溶接条件とを、周波数1Hzで変動させた場合、周波数2Hz以上の場合と比べて効果は劣るものの、ブローホールの発生量を低減させることはできる。
また、
図8上段に示すように、上記と同様の条件で、溶接電流Iを350Aとする第1溶接条件と、溶接電流Iを450Aとする第2溶接条件とを、周波数1Hz以上で変動させて溶接を行うことにより、ブローホールの発生量がやや低減させることができる。
更に、
図8下段に示すように、上記と同様の条件で、溶接電流Iを250Aとする第1溶接条件と、溶接電流Iを550Aとする第2溶接条件とを、周波数1Hzで変動させて溶接を行うことにより、ブローホールの発生を抑制することができる。
以上の放射線透過試験の結果から、電流変動幅を50A以上、より好ましくは100A以上とすることで、ブローホールを効果的に抑制することができることが分かる。また変動周波数を1Hz以上、より好ましくは2Hz以上とすることで、ブローホールを効果的に抑制することができることが分かる。
【0052】
以上の通り、本実施形態1に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置によれば、アルゴンを含有するシールドガスを用いた、平均溶接電流が350A以上の消耗電極式のアーク溶接において、ブローホールの発生を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態1によれば、埋もれアーク溶接により深溶込みが得られると共に、ブローホールの発生を抑制することができる。
【0054】
更に、本実施形態1によれば、ステンレス鋼の埋もれアーク溶接において、ブローホールの発生を効果的に抑制することができる。
【0055】
なお、本実施形態1では、第1溶接条件と、第2溶接条件の2条件を周期的に変動させる例を説明したが、3つ以上の溶接条件を周期的に切り換えるように構成してもよい。
【0056】
また、本実施形態1では主に埋もれアーク溶接におけるブローホールの発生を抑制する例を説明したが、非埋もれアーク溶接に本発明を適用してもよい。
【0057】
(実施形態2)
実施形態2に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置は、更に設定電圧を10Hz以上1000Hz以下で変動させる点が実施形態1と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0058】
図9は本実施形態2に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
図10は本実施形態2に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。
図10中、横軸は時間、
図10Aの縦軸は溶接電流Iを示し、
図10Bの縦軸は設定電圧を示している。ただし、
図10Aは、第1及び第2溶接条件に対応する第1溶接電流及び第2溶接電流を示しており、設定電圧の高周波振動による変動は図示されていない。
【0059】
本実施形態2に係る溶接電源1は、実施形態1のステップS111~114と同様の処理をステップS211~ステップS214にて実行する。実施形態2に係る電圧制御回路11bは、更に、設定電圧を10Hz以上1000Hz以下の周波数、好ましくは50Hz以上300Hz以下の周波数、より好ましくは80Hz以上200Hz以下の周波数で設定電圧を周期的に変動させる(ステップS215)。設定電圧の変動により、溶接電流Iは例えば電流振幅50A以上で変動する。以下、ステップS216~ステップS218の処理は、実施形態1のステップS115~ステップS117と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0060】
実施形態2に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置によれば、微振動によって溶融池を安定化させることによってビード9の乱れ及び垂れの発生を防止することができ、かつ1Hz以上5Hzの周波数で溶融池をゆっくりかつ大きく振動させることによって、ブローホールの発生を抑制することができる。
【0061】
(実施形態3)
実施形態3に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用い、電流振幅制御を行う埋もれアーク溶接において、溶接開始時にスプレー移行の溶接条件を短時間与えることによって、本溶接期間における溶滴移行のスプレー化を促し、溶接を安定化させつつブローホールを低減する点が実施形態1及び実施形態2と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1又は実施形態2と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0062】
実施形態1及び2に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置においては、ブローホールの発生を抑制することができるが、溶融池を振動させる結果、溶接が不安定化することがある。埋もれアーク溶接においては、高電流溶接で溶融金属量が多く、溶接電流Iの変動も大きいため、短絡が発生すると、溶接が著しく不安定化すると共に、大粒かつ多量のスパッタが発生する。
【0063】
短絡を避ける一つの方法として、溶滴移行を常にスプレー移行とする方法がある。例えばワイヤ径φ1.6のステンレスソリッドワイヤ、突出し長さ20mmの場合、250A以上の電流域であれば、溶滴移行をスプレー移行とすることができる。ただし、250A以上400A以下の電流域は、反発移行とスプレー移行の混在領域であり、必ずしも溶滴移行がスプレー移行とならない。溶滴移行が反発移行になると、しばしば短絡が生じ、アークが不安定化する。
【0064】
溶滴移行形態は、主にグロビュール移行、短絡移行、スプレー移行の3形態に分類される。グロビュール移行は、溶滴が溶接ワイヤ5の直径以上の大きさになって移行する形態であり、ドロップ移行と、反発移行とに細分される。反発移行は、溶接ワイヤ5の先端部5aに、ワイヤ径よりも大きな溶滴が形成され、アークの反力によって押し上げられ、溶滴が不規則で不安定な挙動を示す移行形態である。上記の通り、反発移行になると、アークが不安定化する。スプレー移行は、溶接ワイヤ5より小さい溶滴が移行する形態であり、アークは安定化する。
【0065】
反発移行とスプレー移行の混在領域において、溶滴移行のスプレー化を促進する最も簡単な方法としては、アーク電圧を上昇させ、アーク長を長くとればよい。しかしアーク長が長くなると、アークの集中性が低下し、溶込みの減少やアークのふらつき、磁気吹きによるアーク不安定化につながる。実施形態1及び2に係る埋もれアーク溶接においては、アーク長を相当長くとる必要があり、実用上現実的でない。
【0066】
一方、一旦溶滴移行がスプレー化すると、電流振幅制御を用いても溶接が不安定化しにくく、スプレー移行が安定維持される傾向にある。また溶滴移行として反発移行とスプレー移行が混在する電流域では、一旦溶滴移行がスプレー化すると、反発移行に戻らずスプレー移行を維持しようとする傾向がある。
【0067】
そこで本実施形態3では、溶接開始時に、溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件を短時間与えることで、本溶接における溶滴移行のスプレー化を促進することを目的とする技術について説明する。
【0068】
図11は、本実施形態3に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャート、
図12は、実施形態3に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。
図12中、横軸は時間、上図の縦軸は溶接電流I、下図の縦軸は設定電圧を示している。
【0069】
まず、母材4の配置、溶接モード等の各種設定を行う(ステップS311)。各種設定が行われた後、溶接電源1は、溶接電流Iの出力開始条件を満たすか否かを判定する(ステップS312)。溶接電流Iの出力開始条件を満たさないと判定した場合(ステップS312:NO)、溶接電源1は、出力指示信号の入力待ち状態で待機する。溶接電流Iの出力開始条件を満たすと判定した場合(ステップS312:YES)、設定回路11cは、所定の溶接初期条件を設定し(ステップS313)、当該溶接初期条件で溶接を行う(ステップS314)。溶接初期条件は、電流振幅制御を用いた埋もれアーク溶接である本溶接を開始する前に行われる初期溶接の条件である。溶接初期条件の溶接電流I及び設定電圧は本溶接に比べて低い設定値となっており、本溶接前に溶接初期条件で溶接を行うことにより、スムーズに本溶接に移行することができる。溶接初期条件の溶接電流Iは例えば200Aであり、設定電圧は32Vである。初期溶接は例えば2~3秒行われる。
【0070】
次いで、設定回路11cは、
図12に示すようにスプレー化条件を設定し(ステップS315)、当該スプレー化条件で溶接を行う(ステップS316)。スプレー化条件は、少なくとも設定電圧は、電流振幅制御における高電流側の設定電圧よりも高い電圧を設定電圧とする。溶接電流Iの大きさは、特に限定されるものでは無いが、電流振幅制御における低電流値及び高電流値の間の電流をスプレー化条件の設定電流値とすればよい。
【0071】
例えば、平均電流400A、ワイヤ突出し長さ20mm、溶接速度30cm/分の条件で、母材4としてステンレス鋼板SUS304、溶接ワイヤ5としてワイヤ径φ1.6ステンレスソリッドワイヤを用いる埋もれアーク溶接において、溶接電流Iを300A(低電流側)と500A(高電流側)の2条件で、周波数2Hzで変化させて溶接を行う。300A(低電流側)時の設定電圧は33V、500A(高電流側)時の設定電圧は35Vである。溶接電流300A(低電流側)、設定電圧は33Vの条件においては、溶滴移行は反発移行とスプレー移行が混在する。また、溶接電流500A(高電流側)時、設定電圧35Vの条件においては、溶滴移行はスプレー移行となる。
【0072】
このような本溶接条件の場合、溶接初期条件終了後、本条件への移行前に、短時間、溶接電流400A、設定電圧37Vの溶接条件を、スプレー化条件として設定するとよい。このスプレー化条件では、溶滴移行は完全にスプレー移行となる。一旦溶滴移行が完全スプレー化するため、以降の本条件では、低電流側及び高電流側ともにスプレー移行が安定維持され、溶接が安定する。
【0073】
スプレー化条件での溶接は、短時間、例えば0.5秒間行われる。スプレー化条件での溶接を行う時間は、例えば電流振幅制御の1周期又は2周期の時間とすればよい。また、スプレー化条件での溶接を行う時間は、初期溶接を行う時間よりも短く設定するとよい。
【0074】
次いで、設定回路11cは、実施形態1又は実施形態2に係る電流振幅制御を用いた埋もれアーク溶接を本溶接として実施する(ステップS317)。以下のステップS318の処理は、実施形態1のステップS117と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0075】
実施形態3に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置によれば、電流振幅制御を用いた埋もれアーク溶接において、溶接開始時に溶滴移行形態をスプレー移行で安定化させることができる。具体的には、電流振幅制御における高電流側の設定電圧よりも高い電圧で溶接することによって、溶滴移行形態を確実にスプレー移行にすることができる。
従って、溶滴移行形態がスプレー移行で安定化させることにより、短絡の発生を抑制することができ、安定した本溶接を行うことができる。
【0076】
なお、本実施形態3では埋もれアーク溶接における電流振幅制御及びスプレー移行化を説明したが、非埋もれアーク溶接に本実施形態3を適用してもよい。
また、溶接開始時、具体的には初期溶接後、本溶接開始前にスプレー化条件で溶接を行う例を説明したが、本溶接中にスプレー化条件で短時間溶接を行うようにしてもよい。例えば、本溶接中に短絡が発生した場合、アーク再点弧時にスプレー化条件で短時間溶接を行うとよい。短絡発生時、スプレー移行化を促進することにより、溶接を安定化させることができる。
【0077】
(実施形態4)
実施形態4に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置は、アルゴンを含有するシールドガスを用い、電流振幅制御を行う埋もれアーク溶接において、低電流条件時の設定電圧を、直流GMA(Gas Metal Arc)溶接に係る標準電圧より高めに補正することによって、短絡発生を防止して溶接を安定化させつつブローホールを低減する点が実施形態1~3と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1~実施形態3と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0078】
実施形態4では、電流振幅制御を用いない非埋もれアーク溶接、例えば直流GMA溶接で用いられる第1溶接条件と、第2溶接条件とを用いて、溶接電流Iの振幅制御を行う場合を説明する。実施形態4の溶接電源1は、第1溶接条件及び第2溶接条件を、標準的な溶接条件として予め記憶している。
【0079】
350A以下の直流GMA溶接においては、溶滴移行形態が短絡移行となるように溶接条件のパラメータが調整されている。このため、実施形態1~3のような電流振幅制御を行うと、低電流条件時に短絡が生じやすくなる傾向がある。特に平均電流400A以上の高電流溶接では、溶融金属量が多く、短絡が発生すると溶接が著しく不安定化する。溶接を不安定化させることなく、ブローホールの発生を抑制する制御方法が望まれる。
【0080】
そこで本実施形態4では、少なくとも電流振幅制御の低電流側条件における設定電圧を高めに補正し、短絡の発生を抑制することで、溶接の安定化を防止しつつブローホールの低減を可能にする技術について説明する。
【0081】
図13は、本実施形態4に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャート、
図14は、実施形態4に係る溶接条件の切り換え方法を示すタイミングチャートである。
図14中、横軸は時間、
図14Aの縦軸は溶接電流I、
図14B及び
図14Cの縦軸は設定電圧を示している。
図14Bは、補正前の設定電圧を示しており、
図14Cは補正後の設定電圧を示している。
【0082】
本実施形態4に係る溶接電源1は、実施形態1のステップS111~112と同様の処理をステップS411~ステップS412にて実行する。ステップS412において溶接電流Iの出力開始条件を満たすと判定した場合(ステップS412:YES)、設定回路11cは、例えば初期状態として直流GMA溶接における標準の第1溶接条件を補正して設定する(ステップS413)。具体的には、
図14B及び
図14Cに示すように、第1溶接条件に係る設定電圧を高めに設定する。より具体的には、第1溶接条件に係る設定電圧より4V高い電圧を設定する。補正前の設定電圧は溶滴移行形態が短絡移行となる設定であるところ、補正後の設定電圧は溶滴移行形態がスプレー移行となる溶接条件である。
【0083】
そして設定回路11cは、設定電圧を10Hz以上1000Hz以下の周波数、好ましくは50Hz以上300Hz以下の周波数、より好ましくは80Hz以上200Hz以下の周波数で設定電圧を周期的に変動させる。但し、ステップS416において溶接条件を切り換える際、設定回路11cは、溶接条件を補正して切り換える(ステップS416)。第1溶接条件が設定されている場合、設定回路11cは、第2溶接条件を補正して設定する。第2溶接条件が設定されている場合、設定回路11cは、第1溶接条件を補正して設定する。いずれの場合も設定回路11cは、第1溶接条件及び第2溶接条件における設定電圧より所定電圧、高い電圧を設定する。具体的には、設定回路11cは、低電流側条件である第1溶接条件を、溶滴移行形態がスプレー移行となるように、設定電圧を補正する。より具体的には、標準の設定電圧より4V高い電圧を設定する。同様に、設定回路11cは、第2溶接条件における設定電圧を、標準の設定電圧より4V高い電圧を設定する。
設定電圧の補正を除くステップS414~ステップS417の処理は、実施形態1のステップS114~ステップS117と同様の処理であるため、詳細な説明を省略する。
【0084】
(実施例)
溶接ワイヤ5としてワイヤ径φ1.6のステンレスソリッドワイヤを、シールドガスとして98%アルゴンAr及び2%酸素O2を用いる、基準電流400Aの埋もれアーク溶接で、溶接電流Iを±100Aを2Hzで変動させる。設定電圧は、基準設定電流である400Aに対応する標準電圧(具体的には31V)とする。このとき溶接電流Iは、高電流側条件の500Aと、低電流側条件の300Aを周期的に繰り返す。高電流側条件である500Aに対応する標準の設定電圧は33Vである。低電流側条件である300Aに対応する標準の設定電圧は29Vであり、通常溶滴移行は短絡移行となる。そこで、低電流側条件における設定電圧を+4V高めに補正し、33Vとする。このように設定電圧を補正することにより、本溶接中の溶滴移行形態をスプレー移行で安定化させることができ、短絡を防止し、短絡発生による溶接不安定化を防止しつつ、電流振幅変動によりブローホールを効果的に低減することができる。
【0085】
実施形態4に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置によれば、溶接電流Iが低電流であるときも溶滴移行形態がスプレー移行となる設定電圧とすることにより、より確実に溶滴移行形態をスプレー移行で安定化させることができ、短絡発生を防止して溶接を安定化させつつブローホールを低減することができる。
【0086】
本実施形態4では、高電流側条件である第1溶接条件における設定電圧と、低電流側条件である第2溶接条件における設定電圧とを共に補正する例を説明したが、第2溶接条件における設定電圧のみを補正するように構成してもよい。
【0087】
(実施形態5)
実施形態5に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置は、ソリッドワイヤを用いた埋もれアーク溶接と、フラックスコアードワイヤを用いたGMA溶接の併用により、溶接能率の向上、溶材コストの低減、及びビード表面外観の向上を実現する点が実施形態1~実施形態4と異なるため、以下では主に上記相違点を説明する。その他の構成及び作用効果は実施形態1~実施形態4と同様であるため、対応する箇所には同様の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0088】
ステンレスの溶接方法には、GMA溶接やTIG溶接、サブマージアーク溶接、レーザ溶接など様々な溶接方法がある。GMA溶接は、これらの中でも特に汎用な溶接方法のひとつであり、溶接ワイヤ5としてフラックスコアードワイヤを使用する方法と、ソリッドワイヤを使う方法の、大きく2種類に代表される。
【0089】
フラックスコアードワイヤを用いる場合は、シールドガスに二酸化炭素を用いる場合が多い。ソリッドワイヤを用いる場合と比較して、スパッタ発生量が少なく、溶接安定性に優れ、ビード外観が美しいことが特徴である。このような特徴が好まれ、ステンレスの特に厚板の溶接においては、フラックスコアードワイヤが使用される場合が多い。
【0090】
一方ソリッドワイヤを用いる場合は、アルゴンを主体とするシールドガスに溶接安定化の目的で2%程度の酸素を混合される場合が多い。シールドガスは二酸化炭素より高コストであるが、ワイヤはフラックスコアードワイヤよりも低コストである。総合的な溶材コストとしては、フラックスコアードワイヤを用いる場合よりも、ソリッドワイヤを用いる場合の方が低コストである場合が多い。ただし、高電流域ではブローホールが発生しやすく、またビード表面が著しく酸化し外観が悪いため、厚板溶接ではあまり使用されていない。
【0091】
そこで、本実施形態5では、ソリッドワイヤを用いた電流300A以上の高電流埋もれアーク溶接と、フラックスコアードワイヤを用いたGMA溶接を併用することで、溶接能率の向上、溶接コストの低減、及び良好なビード外観を実現する技術について説明する。
【0092】
ビード外観が重要となるのは溶接の最表面のみであるため、最終パス以外を、ソリッドワイヤを用いた高電流埋もれアーク溶接により高能率及び低コストで溶接する。そして、最終パスをフラックスコアードワイヤを用いて溶接することで、良好なビード外観を得ることができる。
【0093】
図15は、本実施形態5に係るアーク溶接方法の手順を示すフローチャートである。
母材4を多層溶接する場合、まず、ソリッドワイヤを用いた埋もれアーク溶接により非最終層の溶接を行う(ステップS511)。ステップS511では、実施形態1~4に係るアーク溶接方法を用いて、電流振幅制御を行いながら埋もれアーク溶接を行う。ソリッドワイヤを用いた埋もれアーク溶接によれば、溶接パス数を低減し、安価なソリッドワイヤを用いることにより、効率的、低コストで母材4を溶接することができる。また、上記の通り、電流振幅制御により、ブローホールの発生を抑えることができる。
【0094】
次いで、フラックスコアードワイヤを用いたGMA溶接により最終層の溶接を行う(ステップS512)。最終層の溶接は、埋もれアークである必要は無く、非埋もれアーク、例えば通常のGMA溶接で足りる。もちろん、最終層も、埋もれアーク溶接により溶接することもできる。なお、フラックスコアードワイヤによる溶接は、最終パスだけでなくてもよい。例えば2パス目以降を全てフラックスコアードワイヤで溶接してもよい。
【0095】
(実施例)
母材4の板厚19mm、裏当て板厚6mm、開先角度35°のレ型開先、ギャップ6mmのSUS304突合せ溶接継手において、1層目及び2層目はソリッドワイヤを用いた平均電流450Aの埋もれアーク溶接で溶接し、3層目はフラックスコアードワイヤによる250Aの直流GMA溶接で溶接する。フラックスコアードワイヤによる従来溶接法で全パスを溶接する場合と比較して、溶接パス数、溶材コストを低減しつつ、良好なビード表面外観を得ることができる。
【0096】
実施形態5に係るアーク溶接方法及びアーク溶接装置によれば、ステンレスの厚板溶接において、溶接能率の向上、溶接コストの低減、及び良好なビード外観を実現できる。
【符号の説明】
【0097】
1溶接電源、2トーチ、3ワイヤ送給部、4母材、5溶接ワイヤ、6溶融部分、11電源部、11a電源回路、11b電圧制御回路、11c設定回路、11d電流等設定回路、12送給速度制御回路