(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】高周波回路
(51)【国際特許分類】
H03F 3/20 20060101AFI20240419BHJP
H01P 5/02 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
H03F3/20
H01P5/02 603A
(21)【出願番号】P 2020113931
(22)【出願日】2020-07-01
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591036457
【氏名又は名称】三菱電機エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南條 裕太
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-157395(JP,A)
【文献】特開2005-217579(JP,A)
【文献】特開平8-335836(JP,A)
【文献】特開昭62-219801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F1/00-3/72
H01P5/00-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号線路が設けられたメイン基板と、
高周波回路要素が設けられたサブ基板と、
前記メイン基板と前記サブ基板との間に設けられた誘電体シートと、
前記メイン基板と前記サブ基板との間に設けられた導電性スペーサと、を備え、
前記メイン基板、前記サブ基板及び前記導電性スペーサがねじにより
貫通されてキャリアに固定されており、
前記導電性スペーサにより前記サブ基板のグラウンド部が前記メイン基板のグラウンド部と電気的に接続されており、
前記メイン基板と前記サブ基板との間における前記誘電体シートを介した共振結合部により前記高周波回路要素が前記高周波信号線路と電気的に接続されるものである
ことを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
前記誘電体シートは、低硬度放熱シリコーンゴムシートを用いたものであることを特徴とする請求項1記載の高周波回路。
【請求項3】
前記高周波回路要素は、高周波電力増幅器、
一端側が前記高周波電力増幅器
の入力側に接続される入力整合回路、及び
一端側が前記高周波電力増幅器
の出力側に接続される出力整合回路を含み、
前記高周波信号線路は、前記入力整合回路に対する電力入力用の第1高周波信号線路、及び前記出力整合回路による電力出力用の第2高周波信号線路を含み、
前記共振結合部は、
一端側が前記第1高周波信号線路に接続され且つ他端側が前記入力整合回路の他端側に接続され、前記第1高周波信号線路と前記入力整合回路との間における直流成分遮断用の第1キャパシタの機能を果たす第1共振結合部、及び
一端側が前記出力整合回路の他端側に接続され且つ他端側が前記第2高周波信号線路に接続され、前記出力整合回路と前記第2高周波信号線路との間における直流成分遮断用の第2キャパシタの機能を果たす第2共振結合部を含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高周波回路。
【請求項4】
前記高周波回路要素は、前記高周波信号線路に対するショートスタブ型共振器におけるショートスタブを含み、
前記共振結合部は、前記ショートスタブ型共振器における第3キャパシタの機能を果たす第3共振結合部を含む
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高周波回路。
【請求項5】
前記メイン基板にバンドパスフィルタが設けられており、
前記高周波信号線路は、前記バンドパスフィルタの第1端部又は前記バンドパスフィルタの第2端部と電気的に接続された第3高周波信号線路を含む
ことを特徴とする請求項4記載の高周波回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の高周波回路が開発されている。高周波回路は、高周波信号用の伝送線路(以下「高周波信号線路」という。)を含むものであり、かつ、高周波用の回路素子等(以下「高周波回路要素」という。)を含むものである。高周波信号線路及び高周波回路要素は、プリント基板に設けられている。かかるプリント基板は、誘電体基板を用いたものである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の高周波回路においては、高周波信号線路及び高周波回路要素が互いに同一のプリント基板に設けられている。このため、かかるプリント基板において、高周波信号線路を配置するための領域を確保するとともに、高周波回路要素を配置するための領域を確保することが要求される。ここで、かかるプリント基板の板面に沿う方向(以下「板面方向」という。)に対する高周波回路要素のサイズは、使用される高周波信号の周波数に応じて定まるものであり、かつ、かかるプリント基板における誘電体基板の材料が有する誘電率に応じて定まるものである。このため、板面方向に対する高周波回路の小型化が困難であるという問題があった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、板面方向に対する小型化が容易な構造を有する高周波回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る高周波回路は、高周波信号線路が設けられたメイン基板と、高周波回路要素が設けられたサブ基板と、メイン基板とサブ基板との間に設けられた誘電体シートと、メイン基板とサブ基板との間に設けられた導電性スペーサと、を備え、メイン基板、サブ基板及び導電性スペーサがねじにより貫通されてキャリアに固定されており、導電性スペーサによりサブ基板のグラウンド部がメイン基板のグラウンド部と電気的に接続されており、メイン基板とサブ基板との間における誘電体シートを介した共振結合部により高周波回路要素が高周波信号線路と電気的に接続されるものである。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、上記のように構成したので、板面方向に対する小型化が容易な構造を有する高周波回路を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る高周波回路の要部を示す分解断面図である。
【
図2】実施の形態1に係る高周波回路の要部を示す断面図である。
【
図3】実施の形態1に係る高周波回路に対応する等価回路を示す回路図である。
【
図4】実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す分解斜視図である。
【
図5】実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す分解断面図である。
【
図6】実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す断面図である。
【
図7】実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す平面図である。
【
図8】実施の形態2に係る高周波回路に対応する等価回路を示す回路図である。
【
図9】実施の形態2に係る高周波回路における反射特性及び通過特性を示す特性図である。
【
図10】バンドパスフィルタの要部を示す平面図である。
【
図11】バンドパスフィルタに対応する等価回路を示す回路図である。
【
図12】バンドパスフィルタにおける通過特性を示す特性図である。
【
図13】バンドパスフィルタの両端部にショートスタブ型の共振器を配置してなる高周波回路の要部を示す平面図である。
【
図14】バンドパスフィルタの両端部にショートスタブ型の共振器を配置してなる高周波回路に対応する等価回路を示す回路図である。
【
図15】バンドパスフィルタの両端部にショートスタブ型の共振器を配置してなる高周波回路における通過特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る高周波回路の要部を示す分解断面図である。
図2は、実施の形態1に係る高周波回路の要部を示す断面図である。
図3は、実施の形態1に係る高周波回路に対応する等価回路を示す回路図である。
図1~
図3を参照して、実施の形態1に係る高周波回路について説明する。
【0010】
図1及び
図2に示す如く、プリント基板(以下「メイン基板」という。)1の表面部に他のプリント基板(以下「サブ基板」という。)2の裏面部が対向配置されている。メイン基板1の表面部とサブ基板2の裏面部との間には、誘電体製のシート(以下「誘電体シート」という。)3が設けられている。ここで、誘電体シート3は、放熱用の低硬度シリコーンゴム製のシート(以下「低硬度放熱シリコーンゴムシート」という。)を用いたものである。具体的には、例えば、誘電体シート3は、信越化学工業株式会社による「TC-CA」シリーズを用いたものである。
【0011】
メイン基板1及びサブ基板2の各々は、誘電体基板を用いたものである。メイン基板1及びサブ基板2の各々における誘電体基板の材料は、所定の誘電率ε1を有するものである。これに対して、誘電体シート3の材料は、誘電率ε1と異なる誘電率ε2を有するものである。より具体的には、誘電体シート3の材料は、誘電率ε1よりも大きい誘電率ε2を有するものである。
【0012】
誘電体シート3に複数個の貫通孔が設けられており、当該複数個の貫通孔の各々に導電性を有するスペーサ(以下「導電性スペーサ」という。)4が設けられている。これにより、メイン基板1の表面部とサブ基板2の裏面部との間に複数個の導電性スペーサ4が設けられている。
図1及び
図2に示す例においては、2個の導電性スペーサ4_1,4_2が設けられている。
【0013】
個々の導電性スペーサ4は、所定の肉厚T1を有するものである。これにより、メイン基板1とサブ基板2の間隔Dは、肉厚T1と同等の値に設定されている。また、メイン基板1とサブ基板2間に挟まれた状態における誘電体シート3の肉厚T2も、肉厚T1と同等の値に設定されている。このように、複数個の導電性スペーサ4は、間隔Dを所定の値に設定する機能を果たすものである。
【0014】
メイン基板1及びサブ基板2は、複数個の導電性スペーサ4に対応する複数本のねじ5により、導体製(例えば金属製)のキャリア6に固定されている。すなわち、個々のねじ5は、サブ基板2を貫通しており、かつ、対応する導電性スペーサ4を貫通しており、かつ、メイン基板1を貫通している。また、個々のねじ5の先端部は、キャリア6のねじ穴(不図示)に螺合している。
図1及び
図2に示す例においては、2個の導電性スペーサ4_1,4_2に対応する2本のねじ5_1,5_2により、メイン基板1及びサブ基板2がキャリア6に固定されている。
【0015】
図1及び
図2に示す例において、メイン基板1は、両面基板を用いたものである。すなわち、メイン基板1の表面部及びメイン基板1の裏面部の各々に導体製(例えば金属製)のパターンが設けられている。これらのパターンは、適宜、メイン基板1のスルーホールにより互いに電気的に接続されている。
【0016】
図1及び
図2に示す例において、サブ基板2は、両面基板を用いたものである。すなわち、サブ基板2の表面部及びサブ基板2の裏面部の各々に導体製(例えば金属製)のパターンが設けられている。これらのパターンは、適宜、サブ基板2のスルーホールにより互いに電気的に接続されている。
【0017】
サブ基板2に高周波電力増幅器E_1が設けられている。
図1及び
図2に示す例においては、サブ基板2の表面部に高周波電力増幅器E_1が設けられている。高周波電力増幅器E_1は、例えば、FET(Field Effect Transistor)を用いたものである。高周波電力増幅器E_1は、例えば、複数個の高周波電力増幅器を有するHPA(High Power Amplifier)モジュールにおける個々の高周波電力増幅器に対応するものである。
【0018】
ここで、メイン基板1におけるパターンは、以下のような部位を含むものである。また、サブ基板2におけるパターンは、以下のような部位を含むものである。
【0019】
第一に、メイン基板1におけるパターンは、グラウンドの機能を果たす部位を含むものである。また、サブ基板2におけるパターンは、グラウンドの機能を果たす部位を含むものである。以下、これらの部位を総称して「グラウンド部」という。メイン基板1のグラウンド部とサブ基板2のグラウンド部とは、個々の導電性スペーサ4により互いに電気的に接続されている。換言すれば、個々の導電性スペーサ4により、サブ基板2のグラウンド部がメイン基板1のグラウンド部と電気的に接続されている。
【0020】
第二に、サブ基板2におけるパターンは、高周波電力増幅器E_1用の入力整合回路E_2の機能を果たす部位P1を含むものである(
図2参照)。すなわち、サブ基板2におけるパターンは、入力整合回路E_2に対応する形状を有する部位P1を含むものである。以下、かかる部位P1を「入力整合回路部」という。
図2に示す例において、入力整合回路部P1は、サブ基板2の表面部に設けられている。
【0021】
第三に、サブ基板2におけるパターンは、高周波電力増幅器E_1用の出力整合回路E_3の機能を果たす部位P2を含むものである(
図2参照)。すなわち、サブ基板2におけるパターンは、出力整合回路E_3に対応する形状を有する部位P2を含むものである。以下、かかる部位P2を「出力整合回路部」という。
図2に示す例において、出力整合回路部P2は、サブ基板2の表面部に設けられている。
【0022】
第四に、メイン基板1におけるパターンは、入力整合回路E_2に対する電力入力用の高周波信号線路(以下「第1高周波信号線路」という。)L_1の機能を果たす部位を含むものである。以下、かかる部位を「第1高周波信号線路部」という。図中、S_1は、第1高周波信号線路部における高周波信号を示している。すなわち、S_1は、高周波電力増幅器E_1による増幅前の高周波信号を示している。高周波信号S_1は、所定の周波数fを有するものである。
【0023】
第五に、メイン基板1におけるパターンは、出力整合回路E_3による電力出力用の高周波信号線路(以下「第2高周波信号線路」という。)L_2の機能を果たす部位を含むものである。以下、かかる部位を「第2高周波信号線路部」という。図中、S_2は、第2高周波信号線路部における高周波信号を示している。すなわち、S_2は、高周波電力増幅器E_1による増幅後の高周波信号を示している。高周波信号S_2は、所定の周波数fを有するものである。
【0024】
第六に、メイン基板1の表面部におけるパターンの一部とサブ基板2の裏面部におけるパターンの一部との間にて、誘電体シート3を介した共振結合が発生する(図中P3_1)。以下、これらの部位P3_1を総称して「第1共振結合部」という。第1共振結合部P3_1は、第1高周波信号線路L_1と入力整合回路E_2との間における直流成分遮断用のキャパシタ(以下「第1キャパシタ」という。)C_1の機能を果たすものである。
【0025】
第七に、メイン基板1の表面部におけるパターンの一部とサブ基板2の裏面部におけるパターンの一部との間にて、誘電体シート3を介した共振結合が発生する(図中P3_2)。以下、これらの部位P3_2を総称して「第2共振結合部」という。第2共振結合部P3_2は、出力整合回路E_3と第2高周波信号線路L_2との間における直流成分遮断用のキャパシタ(以下「第2キャパシタ」という。)C_2の機能を果たすものである。
【0026】
このようにして、高周波回路100の要部が構成されている。すなわち、高周波回路100においては、メイン基板1に高周波信号線路Lが設けられている。高周波信号線路Lは、第1高周波信号線路L_1及び第2高周波信号線路L_2を含むものである。また、高周波回路100においては、サブ基板2に高周波回路要素Eが設けられている。高周波回路要素Eは、高周波電力増幅器E_1、入力整合回路E_2及び出力整合回路E_3を含むものである。また、高周波回路100においては、メイン基板1とサブ基板2との間に誘電体シート3を介した共振結合部P3が形成されるものである。共振結合部P3は、第1共振結合部P3_1及び第2共振結合部P3_2を含むものである。
【0027】
図3は、高周波回路100に対応する等価回路を示している。
図3に示す如く、高周波電力増幅器E_1に対する入力側に入力整合回路E_2が設けられており、かつ、高周波電力増幅器E_1に対する出力側に出力整合回路E_3が設けられている。入力整合回路E_2は、直流成分遮断用の第1キャパシタC_1を介して第1高周波信号線路L_1と電気的に接続されている。出力整合回路E_3は、直流成分遮断用の第2キャパシタC_2を介して第2高周波信号線路L_2と電気的に接続されている。
【0028】
図中、Sinは、高周波回路100における高周波信号S_1が入力される部位を示している。また、Soutは、高周波回路100における高周波信号S_2が出力される部位を示している。また、Vin1は、高周波回路100における高周波電力増幅器E_1用のゲート電圧が入力される部位を示している。また、Vin2は、高周波回路100における高周波電力増幅器E_1用のドレイン電圧が入力される部位を示している。
【0029】
次に、従来の高周波回路100’(不図示)における課題について説明する。また、高周波回路100を用いることによる効果について説明する。
【0030】
従来の高周波回路100’は、メイン基板1に相当するプリント基板1’を有するものである。プリント基板1’における誘電体基板の材料は、誘電率ε1と同等の誘電率ε1’を有するものである。
【0031】
従来の高周波回路100’においては、プリント基板1’に高周波回路要素E’が設けられている。高周波回路要素E’は、高周波電力増幅器E_1に相当する高周波電力増幅器E’_1、入力整合回路E_2に相当する入力整合回路E’_2、出力整合回路E_3に相当する出力整合回路E’_3、第1キャパシタC_1に相当するキャパシタC’_1、及び第2キャパシタC_2に相当するキャパシタC’_2を含むものである。
【0032】
従来の高周波回路100’においては、プリント基板1’に高周波信号線路L’が設けられている。高周波信号線路L’は、第1高周波信号線路L_1に相当する高周波信号線路L’_1、及び第2高周波信号線路L_2に相当する高周波信号線路L’_2を含むものである。高周波信号線路L’_1においては、高周波電力増幅器E’_1による増幅前の高周波信号S’_1が伝送する。高周波信号線路L’_2においては、高周波電力増幅器E’_1による増幅後の高周波信号S’_2が伝送する。高周波信号S’_1及び高周波信号S’_2の各々は、周波数fと同等の周波数f’を有するものである。
【0033】
従来の高周波回路100’においては、以下のような課題があった。
【0034】
第一に、高周波電力増幅器E’_1は、他の高周波回路要素(E’_2,E’_3,C’_1,C’_2)に比して破損しやすいものである。かかる破損が発生したとき、高周波回路100’を修理する観点から、高周波電力増幅器E’_1を交換することが要求される。ここで、高周波電力増幅器E’_1は、プリント基板1’にはんだ付けされている。このため、高周波電力増幅器E’_1を交換する作業に時間がかかる問題があった。または、かかる破損が発生したとき、高周波回路100’を修理する観点から、プリント基板1’全体を交換することが要求される。プリント基板1’全体を交換することにより、修理費用が増加する問題があった。
【0035】
第二に、プリント基板1’において、高周波信号線路L’を配置するための領域を確保するとともに、高周波回路要素E’を配置するための領域を確保することが要求される。ここで、板面方向に対する個々の整合回路(E’_2,E’_2)のサイズは、周波数f’に応じて定まるものであり、かつ、誘電率ε1’に応じて定まるものである。このため、板面方向に対する高周波回路100’の小型化が困難であるという問題があった。
【0036】
第三に、個々のキャパシタ(C’_1,C’_2)は、対応する高周波信号線路(L’_1,L’_2)に対して電気的に直列に設けられており、かつ、はんだ付けによりプリント基板1’に実装されている。このため、かかる実装の状態に応じて、高周波回路100’における特性が変動する問題があった。
【0037】
これに対して、高周波回路100の構造は、以下のような効果を有するものである。
【0038】
第一に、高周波電力増幅器E_1が破損したとき、サブ基板2全体を交換することにより、高周波回路100を修理することができる。ここで、ねじ5により固定されているサブ基板2の交換は、はんだ付けにより固定されている高周波電力増幅器E’_1の交換に比して容易である。このため、高周波電力増幅器E’_1を交換する場合に比して、修理時間を短縮することができる。また、通常、サブ基板2全体は、プリント基板1’全体に比して安価である。このため、プリント基板1’全体を交換する場合に比して、修理費用を低減することができる。
【0039】
第二に、メイン基板1において、高周波回路要素Eを配置するための領域を確保することが不要である。ここで、誘電体シート3における誘電率ε2を大きくすることにより、板面方向に対する個々の整合回路(E_2,E_3)の小型化を図ることができる。具体的には、例えば、誘電率ε2の値を3から9に変更することにより、板面方向に対する個々の整合回路(E_2,E_3)のサイズを約35%小型にすることができる。このようにして、板面方向に対する高周波回路100の小型化を図ることができる。
【0040】
第三に、高周波回路100においては、キャパシタC’_1に代えて第1共振結合部P3_1が直流成分の遮断に用いられるものであり、かつ、キャパシタC’_2に代えて第2共振結合部P3_2が直流成分の遮断に用いられるものである。これにより、個々のキャパシタ(C’_1,C’_2)の実装の状態に応じた特性の変動の発生を回避することができる。換言すれば、かかる特性の変動を低減することができる。
【0041】
第四に、高周波回路100においては、個々の導電性スペーサ4の肉厚T1を変更することにより、メイン基板1とサブ基板2の間隔Dを容易に変化させることができる。これにより、共振結合部P3における結合量を容易に変化させることができる。
【0042】
第五に、誘電体シート3に低硬度放熱シリコーンゴムシートが用いられている。これにより、高周波電力増幅器E_1の熱をサブ基板2、誘電体シート3及びメイン基板1を介してキャリア6に逃がすとき、かかる放熱を効率良くすることができる。
【0043】
なお、高周波回路100の用途は、HPAモジュールにおける個々の高周波電力増幅器に限定されるものではない。高周波回路100は、高周波電力増幅器E_1、入力整合回路E_2及び出力整合回路E_3を含む回路であれば、如何なる回路に用いられるものであっても良い。
【0044】
以上のように、実施の形態1に係る高周波回路100は、高周波信号線路Lが設けられたメイン基板1と、高周波回路要素Eが設けられたサブ基板2と、メイン基板1とサブ基板2との間に設けられた誘電体シート3と、メイン基板1とサブ基板2との間に設けられた導電性スペーサ4と、を備え、メイン基板1、サブ基板2及び導電性スペーサ4がねじ5により固定されており、導電性スペーサ4によりサブ基板2のグラウンド部がメイン基板1のグラウンド部と電気的に接続されており、メイン基板1とサブ基板2との間における誘電体シート3を介した共振結合部P3により高周波回路要素Eが高周波信号線路Lと電気的に接続されるものである。これにより、高周波回路要素E(例えば高周波電力増幅器E_1)が破損したとき、修理を容易にすることができるとともに、修理にかかる時間を短縮することができる。また、板面方向に対する高周波回路100の小型化を図ることができる。また、高周波回路100における特性の変動を低減することができる。
【0045】
また、誘電体シート3は、低硬度放熱シリコーンゴムシートを用いたものである。これにより、高周波回路要素E(例えば高周波電力増幅器E_1)の放熱を効率良くすることができる。
【0046】
また、高周波回路要素Eは、高周波電力増幅器E_1、高周波電力増幅器E_1用の入力整合回路E_2、及び高周波電力増幅器E_1用の出力整合回路E_3を含み、高周波信号線路Lは、入力整合回路E_2に対する電力入力用の第1高周波信号線路L_1、及び出力整合回路E_3による電力出力用の第2高周波信号線路L_2を含み、共振結合部P3は、第1高周波信号線路L_1と入力整合回路E_2との間における直流成分遮断用の第1キャパシタC_1の機能を果たす第1共振結合部P3_1、及び出力整合回路E_3と第2高周波信号線路L_2との間における直流成分遮断用の第2キャパシタC_2の機能を果たす第2共振結合部P3_2を含む。これにより、例えば、かかる構造をHPAモジュールにおける個々の高周波電力増幅器に用いることができる。
【0047】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す分解斜視図である。
図5は、実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す分解断面図である。
図6は、実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す断面図である。
図7は、実施の形態2に係る高周波回路の要部を示す平面図である。
図8は、実施の形態2に係る高周波回路に対応する等価回路を示す回路図である。
図4~
図8を参照して、実施の形態2に係る高周波回路について説明する。なお、
図4~
図8において、
図1~
図3に示す要素と同様の要素には同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
高周波回路100aは、メイン基板1、サブ基板2、誘電体シート3、導電性スペーサ4、ねじ5及びキャリア6を含むものである。ここで、メイン基板1におけるパターンは、以下のような部位を含むものである。また、サブ基板2におけるパターンは、以下のような部位を含むものである。
【0049】
第一に、メイン基板1におけるパターンは、グラウンドの機能を果たす部位(すなわちグラウンド部)を含むものである。また、サブ基板2におけるパターンは、グラウンドの機能を果たす部位(すなわちグラウンド部)を含むものである。メイン基板1のグラウンド部とサブ基板2のグラウンド部とは、個々の導電性スペーサ4により互いに電気的に接続されている。換言すれば、個々の導電性スペーサ4により、サブ基板2のグラウンド部がメイン基板1のグラウンド部と電気的に接続されている。
【0050】
第二に、メイン基板1におけるパターンは、高周波信号線路(以下「第3高周波線路」という。)L_3の機能を果たす部位P4を含むものである。以下、かかる部位P4を「第3高周波線路部」という。第3高周波信号線路L_3は、例えば、後述するバンドパスフィルタFに対する入力側又は出力側に設けられている。すなわち、第3高周波信号線路L_3は、バンドパスフィルタFにおける入力側の端部(以下「第1端部」という。)又はバンドパスフィルタFにおける出力側の端部(以下「第2端部」という。)と電気的に接続されている。
【0051】
第三に、サブ基板2におけるパターンは、第3高周波信号線路L_3に対するショートスタブ型の共振器(以下「ショートスタブ型共振器」ということがある。)RにおけるショートスタブE_4の機能を果たす部位(以下「ショートスタブ部」という。)P5を含むものである。
【0052】
第四に、メイン基板1の表面部におけるパターンの一部とサブ基板2の裏面部におけるパターンの一部との間にて、誘電体シート3を介した共振結合が発生する(図中P3_3)。以下、かかる部位P3_3を「第3共振結合部」という。第3共振結合部P3_3は、共振器Rにおけるキャパシタ(以下「第3キャパシタ」という。)C_3の機能を果たすものである。
【0053】
このようにして、高周波回路100aの要部が構成されている。すなわち、高周波回路100aにおいては、メイン基板1に高周波信号線路Lが設けられている。高周波信号線路Lは、第3高周波信号線路L_3を含むものである。また、高周波回路100aにおいては、サブ基板2に高周波回路要素Eが設けられている。高周波回路要素Eは、ショートスタブE_4を含むものである。また、高周波回路100aにおいては、メイン基板1とサブ基板2との間に誘電体シート3を介した共振結合部P3が形成されるものである。共振結合部P3は、第3共振結合部P3_3を含むものである。
【0054】
図8は、高周波回路100aに対応する等価回路を示している。
図8に示す如く、第3高周波信号線路L_3に対して、ショートスタブ型の共振器Rが設けられている。共振器Rは、第3キャパシタC_3及びショートスタブE_4を含むものである。
【0055】
図中、S11及びS21の各々は、高周波回路100aにおけるSパラメータに対応している。より具体的には、S11は、高周波回路100aに入力される電力に対する高周波回路100aにより反射される電力を示す特性(以下「反射特性」という。)に対応している。また、S12は、高周波回路100aに入力される電力に対する高周波回路100aにより出力される電力を示す特性(以下「通過特性」という。)に対応している。
【0056】
ここで、共振器Rにおける共振周波数は、誘電体シート3の肉厚T2に応じて異なる値となる。実施の形態1にて説明したとおり、誘電体シート3の肉厚T2は、個々の導電性スペーサ4の肉厚T1により設定することができる。すなわち、高周波回路100aにおいては、個々の導電性スペーサ4の肉厚T1により、共振器Rにおける共振周波数を容易に変更することができる。
【0057】
図9は、高周波回路100aにおける反射特性S11及び通過特性S21の例を示している。図中、特性線Iは、T1=T2=0.3mmに設定されているときの反射特性S11を示している。特性線IIは、T1=T2=0.3mmに設定されているときの通過特性S21を示している。特性線IIIは、T1=T2=0.5mmに設定されているときの反射特性S11を示している。特性線IVは、T1=T2=0.5mmに設定されているときの通過特性S21を示している。
図9に示す如く、肉厚T1に応じて、共振器Rにおける共振周波数が変化することがわかる。
【0058】
高周波回路100aの構造は、以下のような効果を有するものである。
【0059】
第一に、高周波回路100aにおける共振器Rの周波数特性の変更が要求されたとき、サブ基板2全体を交換することにより、かかる変更を容易にすることができる。
【0060】
第二に、メイン基板1において、ショートスタブE_4を配置するための領域を確保することが不要である。また、誘電体シート3における誘電率ε2を大きくすることにより、板面方向に対する共振器Rの小型化を図ることができる。このようにして、板面方向に対する高周波回路100aの小型化を図ることができる。
【0061】
第三に、高周波回路100においては、第3共振結合部P3_3が第3キャパシタC_3の機能を果たすものである。これにより、第3キャパシタC_3の実装の状態に応じた特性の変動の発生を回避することができる。
【0062】
第四に、高周波回路100aにおいては、個々の導電性スペーサ4の肉厚T1を変更することにより、メイン基板1とサブ基板2の間隔Dを容易に変化させることができる。これにより、共振結合部P3における結合量を容易に変化させることができる。
【0063】
次に、高周波回路100aの用途の具体例について説明する。
【0064】
いま、
図10に示す如く、メイン基板1にバンドパスフィルタFが設けられているものとする。
図11は、バンドパスフィルタFに対応する等価回路を示している。
図12における特性線Vは、バンドパスフィルタFにおける通過特性S21を示している。
【0065】
これに対して、
図13は、バンドパスフィルタFの両端部に共振器Rを配置してなる高周波回路200を示している。個々の共振器Rは、高周波回路100aを用いたものである。
図13において、高周波回路100aの各部の符号は図示を省略している。
図14は、高周波回路200に対応する等価回路を示している。
図14において、共振器Rの各部の符号は図示を省略している。
図15における特性線VIは、高周波回路200における通過特性S21を示している。
【0066】
図12及び
図15に示す如く、バンドパスフィルタFの両端部に共振器Rを設けることにより、いわゆる「スカート特性」を急峻することができる(
図12及び
図15の各々における領域A参照)。このように、高周波回路100aは、バンドパスフィルタFにおけるスカート特性の向上に用いることができる。
【0067】
なお、高周波回路100aの用途は、バンドパスフィルタFにおけるスカート特性の向上に限定されるものではない。高周波回路100aは、スタブ(例えばショートスタブE_4)及びキャパシタ(例えば第3キャパシタC_3)を含む回路であれば、如何なる回路に用いられるものであっても良い。
【0068】
以上のように、実施の形態2に係る高周波回路100aは、高周波信号線路Lが設けられたメイン基板1と、高周波回路要素Eが設けられたサブ基板2と、メイン基板1とサブ基板2との間に設けられた誘電体シート3と、メイン基板1とサブ基板2との間に設けられた導電性スペーサ4と、を備え、メイン基板1、サブ基板2及び導電性スペーサ4がねじ5により固定されており、導電性スペーサ4によりサブ基板2のグラウンド部がメイン基板1のグラウンド部と電気的に接続されており、メイン基板1とサブ基板2との間における誘電体シート3を介した共振結合部P3により高周波回路要素Eが高周波信号線路Lと電気的に接続されている。これにより、実施の形態1にて説明したものと同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、高周波回路要素Eは、高周波信号線路Lに対するショートスタブ型共振器RにおけるショートスタブE_4を含み、共振結合部P3は、ショートスタブ型共振器Rにおける第3キャパシタC_3の機能を果たす第3共振結合部P3_3を含む。これにより、かかる構造をショートスタブ型の共振器Rに用いることができる。
【0070】
また、メイン基板1にバンドパスフィルタFが設けられており、高周波信号線路Lは、バンドパスフィルタFの第1端部又はバンドパスフィルタFの第2端部と電気的に接続された第3高周波信号線路L_3を含む。これにより、共振器RをバンドパスフィルタFにおけるスカート特性の向上に用いることができる。
【0071】
なお、本願開示はその開示の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 メイン基板、2 サブ基板、3 誘電体シート、4 導電性スペーサ、5 ねじ、6 キャリア、100,100a 高周波回路。