IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7475221シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法
<>
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図1
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図2
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図3
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図4
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図5
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図6
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図7
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図8
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図9
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図10
  • 特許-シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240419BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
B29C59/02 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020115987
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013430
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 貴博
(72)【発明者】
【氏名】大口 雄一郎
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-212833(JP,A)
【文献】特開2019-067918(JP,A)
【文献】特表2017-509161(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059686(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0076590(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 43/02
59/02
G03F 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、
前記第1部材または前記第2部材が有するパターン要素の特徴量、前記第1部材と前記第2部材との距離、および、前記硬化性組成物の流動のしやすさの相互の関係を示す特性情報に基づいて、前記挙動を計算する計算工程を含む、
ことを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記計算工程は、
前記距離を計算する距離計算工程と、
前記距離計算工程で計算された前記距離、前記特徴量および前記特性情報に基づいて前記挙動を計算する挙動計算工程と、を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記特性情報は、前記パターン要素の主軸に平行な方向および前記主軸に垂直な方向に関して前記流動のしやすさを示す情報を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記特性情報は、前記硬化性組成物の物性値に代えて用いられる実効物性値を特定するための特定情報を含み、前記計算工程では、前記実効物性値に基づいて前記挙動を計算する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記特定情報は、前記物性値に対する比率として与え、前記実効物性値は、前記物性値に前記比率を乗じた値を有する、
ことを特徴とする請求項4に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記物性値は、前記硬化性組成物の粘度を示す値を含む、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記物性値は、前記硬化性組成物の表面張力を示す値を含む、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記特徴量は、前記パターン要素の幅、ピッチおよび深さを含む、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記特性情報における前記距離は、前記パターン要素の深さで規格化された情報である、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記特性情報を生成する生成工程を更に含む、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記第1部材または前記第2部材が有するパターン要素の特徴量、前記第1部材と前記第2部材との距離、および、前記硬化性組成物の流動のしやすさの相互の関係を示す特性情報に基づいて、前記挙動を計算する、
ことを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項13】
第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーションを実行するシミュレーション装置によって前記シミュレーションのために参照されるデータベースであって、
前記データベースは、前記第1部材または前記第2部材が有するパターン要素の特徴量、前記第1部材と前記第2部材との距離、および、前記硬化性組成物の流動のしやすさの相互の関係を示す特性情報を格納していて、前記シミュレーション装置が、前記パターン要素の特徴量、前記第1部材と前記第2部材との距離をキーとして参照することによって前記硬化性組成物の流動のしやすさを得ることができるように構成され、
前記シミュレーション装置は、前記パターン要素の特徴量、前記第1部材と前記第2部材との距離をキーとして参照することによって前記硬化性組成物の流動のしやすさを得て、得られた前記硬化性組成物の流動のしやすさに基づいて前記挙動を計算する、
ことを特徴とするデータベース。
【請求項14】
請求項12に記載のシミュレーション装置が組み込まれた膜形成装置であって、
第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理を、前記シミュレーション装置による前記硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する、
ことを特徴とする膜形成装置。
【請求項15】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のシミュレーション方法を繰り返しながら、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、
前記条件に従って前記処理を実行する工程と、
を含むことを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、プログラム、シミュレーション装置、データベース、膜形成装置および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板の上に硬化性組成物を配置し、該硬化性組成物と型とを接触させ、該硬化性組成物を硬化させることによって該基板の上に硬化性組成物の硬化物からなる膜を形成する膜形成方法がある。このような膜形成方法は、インプリント方法および平坦化方法等に適用されうる。インプリント方法では、パターンを有する型を用いて、基板の上の硬化性組成物に該型のパターンが転写される。平坦化方法では、平坦面を有する型を用いて、基板の上の硬化性組成物と該平坦面とを接触させ該硬化性組成物を硬化させることによって平坦な上面を有する膜が形成される。
【0003】
基板の上には、硬化性組成物が液滴もしくは膜の状態で配置されうる。その後、基板の上の硬化性組成物に型が接触させられうる。これにより、型と基板との間に硬化性組成物が充填される。このような処理においては、例えば、厚さが均一な硬化性組成物の膜を形成すること、膜中に気泡がないことなどが重要であり、これを実現するために、硬化性組成物への型の接触方法および条件等が調整されうる。このような調整を、膜形成装置を使った膜形成を伴う試行錯誤によって実現するためには、膨大な時間と費用を必要とする。そこで、このような調整を支援するシミュレータの登場が望まれる。
【0004】
硬化性組成物が型と基板との間に充填される過程では、型と基板との間の空間を硬化性組成物が流動する。この時の硬化性組成物の流動のしやすさを表す指標を流抵抗と呼ぶ。流抵抗が大きい場合は流動しにくく、流抵抗が小さい場合は流動しやすい。流抵抗は、型が有するパターンの形状に依存しうる。したがって、硬化性組成物の充填過程を正確に計算するためには型が有するパターンの形状を考慮する必要がある。特許文献1には、濡れ性データベースを使い、型の凹凸パターンに対応した濡れ性を規定して解析することによって、型のパターン形状を考慮した充填過程の計算を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5599356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、硬化性組成物の充填過程における流抵抗は、型のパターンの形状に加えて、型と基板との距離にも依存しうる。特許文献1では、型と基板との距離が考慮されていない。
【0007】
本発明は、硬化性組成物の膜を形成する処理における該硬化性組成物の挙動を計算するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの側面は、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法に係り、前記シミュレーション方法は、前記第1部材または前記第2部材が有するパターン要素の特徴量、前記第1部材と前記第2部材との距離、および、前記硬化性組成物の流動のしやすさの相互の関係を示す特性情報に基づいて、前記挙動を計算する計算工程を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化性組成物の膜を形成する処理における該硬化性組成物の挙動を計算するために有利な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態における充填過程を示す断面図。
図2】実施形態における型のパターン領域を示す俯瞰図。
図3】型と基板との距離と流抵抗比との関係を例示する図。
図4】実施形態における充填過程を示す俯瞰図。
図5】実施形態の充填過程における流速分布を示す図。
図6】実施形態におけるインプリント装置およびシミュレーション装置の構成を示す概略図。
図7】一般的な手法における計算格子を例示する図。
図8】実施形態のシミュレーション方法を説明するためのフローチャート。
図9】データベースの構造を例示する図。
図10】実施形態における計算領域、計算格子および計算要素を例示する図。
図11】物品製造方法を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0012】
図1は、基板103の上に配置された硬化性組成物102にパターン104を有する型101を接触させたときの状態を模式的に示す断面図である。基板103の上に配置された硬化性組成物102に型101を接触させることによって、基板103と型101との間の空間に硬化性組成物102が広がって、該空間に硬化性組成物102が充填されうる。基板103に対して、硬化性組成物102は、複数の液滴の形態で、又は、膜の形態で、供給されうる。図2は、型101の一部分を模式的に示す俯瞰図である。図2において、パターン104は、複数のパターン要素201と複数の非パターン要素202とで構成される。図2の例では、パターン要素201および非パターン要素202は、X方向の幅が同じで、かつ、繰り返しパターンを構成するように配置され、これによりパターン104が構成されているが、パターン104の形状はこれに限らない。パターン要素201は、型101のパターン領域に形成された凹部であり、その中に硬化性組成物102が充填される部分でありうる。非パターン要素202は、パターン領域におけるパターン要素201以外の部分でありうる。
【0013】
硬化性組成物102に型101が接触させられて型101と基板103との距離Gが小さくされると、基板103と型101との間の空間に対する硬化性組成物102の充填が促進される。硬化性組成物102の充填過程における流抵抗は、パターン104を構成するパターン要素201の形状および配置等の特徴量と、距離Gとに依存しうる。ここでは、パターン104を構成するパターン要素201の形状における最も特徴的な軸が主軸として定義される。一つの例において、パターン要素を矩形で近似した場合にそのパターン要素が延びている方向を示す1又は複数の角度情報を抽出し、最も特徴的な角度方向を主軸とすることができる。図2に例示されるパターン104は、パターン要素201がラインパターンであり、Y軸方向が主軸である。
【0014】
型101と基板103との距離Gが同じであれば、型101がパターン104(パターン要素201)を有しない場合の硬化性組成物の流抵抗の値K0よりも型101がパターン104(パターン要素201)を有する場合の硬化性組成物の流抵抗の値Kが小さい。これは、パターン要素201が配置された領域においてパターン深さDの分だけ流路が広がることによる。
【0015】
図3には、型101と基板103との距離Gをパターン深さDで規格化した値(G/D)を横軸とし、流抵抗比K/K0を縦軸としてグラフが例示されている。実線は、主軸と垂直な方向(X方向)に硬化性組成物102が流動する場合の流抵抗比を例示し、破線は、主軸と平行な方向(Y方向)に流動する場合の流抵抗比を例示している。距離Gがゼロに近づくに従って、型101がパターン104を有しない場合の流抵抗の値K0は、型101がパターン104を有する場合の流抵抗の値Kより大きくなる。結果として、距離Gがゼロに近づくに従って流抵抗比K/K0が小さくなる。距離Gがゼロの近傍では、硬化性組成物102は主軸と垂直な方向(X方向)には流動できなくなる。つまり、距離Gがゼロに近づくに従って、主軸と垂直な方向(X方向)における流抵抗が無限大に漸近してゆく。一方、主軸と平行な方向(Y方向)においては、パターン要素201を流動することができるため、距離Gがゼロの近傍において流抵抗が有限の値を持つ。また、距離Gがゼロに近づくに従って、主軸と平行な方向(Y方向)についての流抵抗値と主軸と垂直な方向(X方向)についての流抵抗比との差が大きくなってゆく。すなわち、距離Gがゼロに近づくに従って硬化性組成物102の流動のしやすさについての異方性が大きくなる。あるいは、主軸に対する方向ごとの流抵抗比(K/K0)は、硬化性組成部102の流動のしやすさについての異方性を示す。
【0016】
パターン104を有する型101における硬化性組成物102の充填過程をシミュレーションするためには、流動のしやすさについての異方性が考慮されるべきである。型と基板との距離Gが時間の経過に伴って変化するときの充填過程をシミュレーションする場合、各時刻(経過時間)について、型と基板との距離Gにおける流動のしやすさについての異方性が考慮されるべきである。これは、種々の特徴量のパターン要素の各々について、主軸を基準とする流動の方向毎の流抵抗比と距離Gとの関係を計算し、パターン要素の特徴量、距離Gおよび流抵抗比の相互の関係を示す特性情報を格納したデータベースを生成しておくことで容易化されうる。このようなデータベースを生成しておくことにより、パターン要素の特徴量および距離Gをキーとして、硬化性組成物の流動のしやすさ、即ち主軸に対する方向毎の流抵抗比(K/K0)をデータベースから得ることができる。ここで、距離Gをパターン深さDで規格化することによって、データベースを構成するデータの量を抑制することができる。例えば、パターン深さDが変更になった場合でも、距離Gとパターン深さDとの比を求めれば、同じデータベースから流抵抗比(K/K0)を得ることができるため、パターン深さD毎の流抵抗比(K/K0)のデータを作る必要はない。データベースは、離散データの集合として生成されてもよい。その場合、データベースに含まれていない条件については補間手法によって求めることができる。また、データベースに相当する情報は、数式で与えられてもよい。一例において、数式は、曲面が表現できるものでありうる。
【0017】
データベースを生成する生成工程において、データベースを構成するデータは、パターン要素の形状を示す特徴量毎に、距離Gを振りながら一般的な3次元流体シミュレーションを実行することによって計算されうる。各々の3次元流体シミュレーションは、例えば、次のような方法で行われうる。少なくとも1周期分のパターンが含まれる領域をパターン領域から切り出し、流れの方向の境界部に圧力差を与えて、設定された流路高さについて、3次元流体シミュレーションを実行することで、その流路高さにおける流量の値を算出できる。その流量を圧力勾配で割ることで、流抵抗Kを算出することができる。このように1周期分のパターンが含まれる領域をパターン領域から切り出して計算することで、計算領域を小さくすることができ、計算コストを削減することができる。1周期分のパターンは、例えば、パターン領域に配置されたパターンがラインアンドスペースパターンである場合には、ラインパターンを構成する1つのパターン要素とそれに隣接する1つの非パターン要素で構成される。
【0018】
また、ラインパターンに対しては、上記の一般的な3次元流体シミュレーションを用いずに、より簡便に流抵抗を算出することも可能である。例えば、ラインパターンに対して平行な方向に対しては、以下の式1で示される方程式を解くことで、流速分布が得られる。
【0019】
【数1】
・・・(式1)
【0020】
ここで、uはラインパターンに平行な方向の流速であり、dp/dzはz方向の圧力勾配、μは硬化性組成物の粘度である。uをxy面内で積分することで総流量Qzが求まり、Qzを圧力勾配dp/dzと計算領域の幅で割ることで、パターンの影響が考慮された流抵抗Kを算出することが可能である。この方程式は2次元となるため、一般的な3次元流体シミュレーションと比較して計算コストが大幅に削減できる。一方、ラインパターンに直交する方向の流れについては、流れ関数φに関する以下の式2で示される方程式を解くことによって求めることができる。
【0021】
【数2】
・・・(式2)
【0022】
ここで、x軸方向がラインパターンに直交する方向、y軸方向が流路高さの方向に対応する。ここで、流速uは流れ関数φをy軸方向に偏微分することによって算出される。uを流路高さの方向(y軸方向)に積分した値が、ラインパターンに直交する方向のフラックスQとなる。一方、x方向の圧力は以下の式3で記述される。
【0023】
【数3】
・・・(式3)
【0024】
この圧力勾配dp/dzとフラックスQとの比から、ラインパターンの影響が考慮された流抵抗Kを求めることができる。この方程式も2次元となるため、一般的な3次元流体シミュレーションよりも計算コストが大幅に低くなる利点がある。上記の手法は、ラインパターンを例にとって説明をしたが、パターンの主軸方向に一様なパターン形状であれば、ラインパターン以外の形状のパターンに対しても適用可能である。
【0025】
図4には、硬化性組成物が異方性を有しながら基板と型101との間の空間およびパターン要素201に充填されてゆく過程が模式的に示されている。図4は型101のパターン104の部分的な俯瞰図であり、充填エリア401は硬化性組成物の充填が完了した領域を示す。図4の中央付近から周辺方向に硬化性組成物が広がってゆく様子が充填エリア401の矢印で表されている。パターン要素201の主軸と平行な方向(Y軸方向)に早く充填が進み、パターン要素201の主軸と垂直な方向(X方向)の充填が遅いことが分かる。
【0026】
図5には、図4で例示された充填過程における流速分布の一例が示されている。図5は、型101のパターン104の部分的な断面図であり、図5(a)における白線は紙面垂直方向の速度コンターを示し、図5(b)における白線は流線501を、白黒の濃淡は流速を表している。図5(a)は、パターン要素201の主軸と平行な方向(Y方向)における硬化性組成物102の流速分布の計算結果を示している。白黒の濃淡において、より白い領域の流速が早いことを示しており、パターン要素201内の流速が早いことが分かる。図5(b)は、主軸と垂直な方向(X方向)における硬化性組成物102の流れの計算例を示している。パターン要素201内は流速が遅く、ほとんど流れが発生していないことが分かる。このように、パターン要素の201のパターン深さDが型と基板との距離Gと同じか、それより小さくなるような状況では、特にパターン要素201の主軸に対して平行な方向(Y方向)と垂直な方向(X方向)との間で充填速度に差が生じ、異方性が大きくなる。
【0027】
以上の説明では、例示的にパターン要素201の主軸に対して平行な方向と垂直な方向についての流抵抗比を示したが、その他の角度方向に対しても計算を行い、その計算結果を含むデータベースを作成しておいてもよい。
【0028】
本実施形態では、硬化性組成物の流動のしやすさに対してパターン要素が与える影響を実効物性値によって表現することによって、パターン要素の形状を解像できる大きさで計算対象空間をメッシュ分割することなく硬化性組成物の流動を予測する。具体的には、パターン要素が無い状態での硬化性組成物の流動のしやすさに対する、パターン要素がある状態での硬化性組成物の流動のしやすさの相違を、硬化性組成物の物性値を疑似的に変化させて表現する。一例としての硬化性組成物の物性値は、粘度、表面張力、密度、誘電率、透磁率、磁化率、導電率、熱伝導率、線膨張率、沸点、融点、弾性係数、ポアソン比、のうち少なくとも一つを含みうる。
【0029】
実効物性値の使用の一例として、粘度を疑似的に変化させる方法を挙げることができる。上述のように、パターン要素の特徴的な方向に対して、流動のしやすさは異方性を有する。そこで、流動しやすい方向に対しては疑似的に粘度を減少させ、流動しにくい方向に対しては疑似的に粘度を上昇させる方法を採用しうる。あるいは、表面張力を疑似的に変化させることもできる。この場合には、流動しやすい方向については疑似的に表面張力を増大させ、流動しにくい方向については疑似的に表面張力を減少させうる。つまり、この方法では、実効物性値が異方性を有すると考える。このように、実効物性値は、パターン要素の影響による流動のしやすさの変化が反映された硬化性組成物の物性値として理解されうる。この実効物性値は、計算空間(計算モデル)をメッシュ分割した場合の計算のための最小単位である計算要素毎に割り当てられうる。実効物性値を適用することによって、硬化性組成物の流動のしやすさに対するパターン要素の影響を、パターン要素を解像できるような細かいメッシュ分割を行うことなく表現可能になる。これにより、より大きな計算要素(メッシュ)の採用が可能となることで、計算コストの大幅な削減が実現される。
【0030】
なお、ピラーやホールのような異方性が低いパターン要素や計算要素(メッシュ)より十分に大きいパターン要素等、パターン要素の影響による流れの異方性について考慮する必要が低い場合がある。このような場合については、前述のように方向によって実効物性値を変えることなく、単一の値を用いる事によって、パターン深さの影響を反映させることができる。
【0031】
実効物性値は、型のパターン領域に配置されたパターンを構成するパターン要素の特徴量に基づいて決定されうる。特徴量は、パターンあるいはパターン要素の種類によって異なりうる。図3に示されるような直線的な繰り返しパターン(ラインアンドスペースパターン)の場合には、パターン要素の幅(ライン幅)、ピッチ、パターン深さ、などが特徴量となりうる。採用されうるパターンあるいはパターン要素から抽出される特徴量に応じて、実効物性値をあらかじめ決定し、データベースを作成しておくことができる。データベースの作成には、一般的な流体力学シミュレーションを用いても良いし、実験的な手法を用いてもよい。一般的な流体力学シミュレーションソフトとしては、例えばAnsys Fluent(Ansys社製)がある。
【0032】
パターン要素の寸法が計算要素よりも小さい場合、各計算要素内のパターン要素の平均的な値が各計算要素の特徴量とされてもよい。もしくは、パターン要素を解像できる程度に計算要素の寸法を定めて各計算要素の特徴量の値を求めてもよい。例えば、図3に示されるように、直線的なパターン要素の繰り返しで構成されるパターン(ラインアンドスペースパターン)におけるパターン要素の一部しか計算要素内に含まれない場合がありうる。この場合でも、各計算要素内の平均的な特徴量としてその影響が考慮されうる。また、XY方向に平行でない、例えば斜め45度の繰り返しパターン(ラインアンドスペースパターン)の場合、X方向・Y方向それぞれに平行なパターン要素の特徴量の平均値を用いてもよい。
【0033】
図9には、実効物性値を示す指標(以下、実効物性値指標)を含むデータベースが例示されている。図9では、実効物性値指標として粘度比および表面張力比が例示されている。実効物性値指標としての粘度比、表面張力比は、例えば、パターン要素の影響が反映された硬化性組成物の実効的な粘度、表面張力と、硬化性組成物のバルク流体(型と接する前の流体)の対応する物性値との比率でありうる。つまり、実効物性値は、バルクの物性値に実効物性値指標(比率)を乗じた値を有しうる。実効物性値指標は、硬化性組成物の物性値に代えて用いられる実効物性値を特定するための特定情報としても理解されうる。あるいは、実効物性値指標は、硬化性組成物の物性値を実効物性値に変換するための変換情報としても理解されうる。
【0034】
図9の例では、型と基板との距離Gが大きい場合(距離G=1000の場合)、即ち硬化性組成物が型と接する前の場合、計算モデルの硬化性組成物の粘度および表面張力の値はバルク流体(型と接する前の流体)の値と等しくなるため、上記比の値が1である。一方で、距離Gが小さくなり硬化性組成物と型とが接した後の場合(距離G=100の場合)、型のパターンが硬化性組成物の流動のしやすさに影響を与える。図4を参照して説明したように、パターン要素の主軸と平行な方向には硬化性組成物が流動しやすいので、粘度比は小さく、表面張力比は大きく設定される。一方で、パターン要素の主軸と垂直な方向には硬化性組成物が流動しにくいので、粘度比は大きく、表面張力比は小さく設定される。
【0035】
図9の例では、硬化性組成物の流動のしやすさを粘度と表面張力の2つの物性値を使って示したが、粘度、表面張力、密度、誘電率、透磁率、磁化率、導電率、熱伝導率、線膨張率、沸点、融点、弾性係数、ポアソン比、のうち少なくとも一つが使われてもよい。また、型のパターン要素の主軸方向を基準とする硬化性組成物の流動の方向によって流動のしやすさへの影響度が異なるので、実効物性値も該流動の方向によって異なる。図9では、パターン要素に関する特徴量が数値で表現されている。図3に示されるような直線的な繰り返しパターン(ラインアンドスペースパターン)の場合には、線幅(特徴量1)、ピッチ(特徴量2)、および、パターン深さ(特徴量3)、などが特徴量となりうる。
【0036】
図9では、例示的にラインアンドスペースパターンの主軸に対して平行な方向と垂直な方向についての粘度比および表面張力比が例示されているが、その他の角度方向に対しても計算を行い、データベースを作成しておいてもよい。また、図9では、ラインアンドスペース以外のパターン要素の例としてホールパターンも示されている。ホールパターンとは、例えば円柱状(凸形状)のパターンのことである。均一な密度でホールパターンが配置される場合、図9に示すように、流動の方向に対する異方性はなく、距離Gに応じて実効物性値(実効物性値指標)が変化する。図9では、一例として型と接する前の硬化性組成物102の物性値に対する実効物性値の比率が実効物性値指標として挙げられているが、他の情報が実効物性値指標として採用されてもよい。例えば、型と接する前の硬化性組成物の物性値に対する実効物性値の差分が実効物性値指標として採用されてもよい。あるいは、実効物性値指標の代わりに、型と接した後の硬化性組成物の物性値である実効物性値そのものをデータベースに格納してもよい。
【0037】
図6には、実施形態の膜形成装置IMP及びシミュレーション装置1の構成が示されている。シミュレーション装置1は、膜形成装置IMPに組み込まれているものとして理解されてもよい。膜形成装置IMPは、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する。膜形成装置IMPは、例えば、インプリント装置または平坦化装置として構成されうる。ここで、基板Sと型Mとは相互に入れ替え可能であり、型Mの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と基板Sとを接触させ、型Mと基板Sとの間の空間に硬化性組成物IMの膜が形成されてもよい。従って、包括的には、膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と第2部材とを接触させ、第1部材と第2部材との間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する装置である。本実施形態では、第1部材を基板Sとし、第2部材を型Mとして説明するが、第1部材を型Mとし、第2部材を基板Sとしてもよい。この場合、以下の説明における基板Sと型Mとを相互に入れ替えればよい。
【0038】
インプリント装置では、パターンを有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターンが転写されうる。インプリント装置では、パターンが設けられたパターン領域PRを有する型Mが用いられる。インプリント装置では、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mのパターン領域PRとを接触させ、基板Sのパターンを形成すべき領域と型Mとの間の空間に硬化性組成物IMを充填させ、その後、硬化性組成物IMを硬化させる。これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRのパターンが転写される。インプリント装置では、例えば、基板Sの複数のショット領域のそれぞれに硬化性組成物IMの硬化物からなるパターンが形成される。
【0039】
平坦化装置では、平坦面を有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mの平坦面とを接触させ、硬化性組成物IMを硬化させることによって、平坦な上面を有する膜が形成されうる。平坦化装置では、一般的に、基板Sの全域をカバーする寸法(大きさ)を有する型Mが用いられ、基板Sの全域に硬化性組成物IMの硬化物からなる膜が形成される。
【0040】
硬化性組成物としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nM以上1MM以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。このように、硬化性組成物は、光の照射、或いは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。硬化性組成物の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1MPa・S以上100MPa・S以下である。
【0041】
基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスを含む。
【0042】
本明細書及び添付図面では、基板Sの表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転及びZ軸周りの回転のそれぞれをθX、θY及びθZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御又は駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸及びZ軸の座標に基づいて特定される情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸及びθZ軸の値で特定される情報である。位置決めは、位置及び/又は姿勢を制御することを意味する。
【0043】
インプリント装置IMPは、基板Sを保持する基板保持部SHと、基板保持部SHを駆動することで基板Sを移動させる基板駆動機構SDと、基板駆動機構SDを支持するベースSBとを有する。また、インプリント装置IMPは、型Mを保持する型保持部MHと、型保持部MHを駆動することで型Mを移動させる型駆動機構MDとを有する。
【0044】
基板駆動機構SD及び型駆動機構MDは、基板Sと型Mとの相対位置が調整されるように、基板S及び型Mの少なくとも一方を移動させる相対移動機構を構成する。かかる相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触のための駆動、及び、基板Sの上の硬化した硬化性組成物IMからの型Mの分離のための駆動を含む。また、相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sと型Mとの位置合わせを含む。基板駆動機構SDは、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸及びθZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸及びθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。型駆動機構MDは、型Mを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸及びθY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸及びθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。
【0045】
膜形成装置IMPは、基板Sと型Mとの間の空間に充填された硬化性組成物IMを硬化させるための硬化部CUを有する。硬化部CUは、例えば、型Mを介して硬化性組成物IMに硬化用のエネルギーを与えることによって、基板Sの上の硬化性組成物IMを硬化させる。
【0046】
膜形成装置IMPは、型Mの裏面側(基板Sに対面する面の反対側)に空間SPを形成するための透過部材TRを有する。透過部材TRは、硬化部CUからの硬化用のエネルギーを透過させる材料で構成され、基板Sの上の硬化性組成物IMに対して硬化用のエネルギーを与えることを可能にする。
【0047】
膜形成装置IMPは、空間SPの圧力を制御することによって、型MのZ軸方向への変形を制御する圧力制御部PCを有する。例えば、圧力制御部PCが空間SPの圧力を大気圧よりも高くすることによって、型Mは、基板Sに向けて凸形状に変形する。
【0048】
膜形成装置IMPは、基板Sの上に硬化性組成物IMを配置、供給又は分配するためのディスペンサDSPを有する。但し、膜形成装置IMPには、他の装置によって硬化性組成物IMが配置された基板Sが供給(搬入)されてもよい。この場合、膜形成装置IMPは、ディスペンサDSPを有していなくてもよい。
【0049】
膜形成装置IMPは、基板S(又は基板Sのショット領域)と型Mとの位置ずれ(位置合わせ誤差)を計測するためのアライメントスコープASを有していてもよい。
【0050】
シミュレーション装置1は、膜形成装置IMPにおいて実行される処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。具体的には、シミュレーション装置1は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。
【0051】
シミュレーション装置1は、例えば、汎用又は専用のコンピュータにシミュレーションプログラム21を組み込むことによって構成される。なお、シミュレーション装置1は、FPGA(Field PrograMMable Gate Array)などのPLD(PrograMMable Logic Device)によって構成されてもよい。また、シミュレーション装置1は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)によって構成されてもよい。
【0052】
シミュレーション装置1は、本実施形態では、プロセッサ10と、メモリ20と、ディスプレイ30と、入力デバイス40とを有するコンピュータにおいて、メモリ20にシミュレーションプログラム21を格納することによって構成される。メモリ20は、半導体メモリであってもよいし、ハードディスクなどのディスクであってもよいし、他の形態のメモリであってもよい。シミュレーションプログラム21は、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納されて、又は、電気通信回線などの通信設備を介してシミュレーション装置1に提供されてもよい。
【0053】
以下、図8を参照しながらシミュレーション装置1によって実行されるシミュレーション方法を説明する。このシミュレーション方法は、工程として、S001、S002、S003、S004、S005を含みうる。S001、S002、S003、S004、S005は、シミュレーションプログラム21を実行するプロセッサ10によって実行される。S001は、シミュレーションに必要な条件(シミュレーションの条件)を設定する工程である。S002は、S001で設定されたシミュレーション条件に基づいて、硬化性組成物IMの初期状態を設定する工程である。S001及びS002は、それらを併せた1つの工程、例えば、準備工程として理解されてもよい。S003は、型Mの運動を計算して、型Mの位置(基板Sと型Mとの距離G)を更新あるいは計算する工程(距離計算工程)である。S004は、S003で更新された型Mの位置に基づいて、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれについて、型Mと基板Sとの間に広がる液滴の挙動(液滴の流動)を計算する工程(挙動計算工程)である。S004において、プロセッサ10は、上記のデータベースを参照し、パターン要素の特徴量に基づいて、液的の挙動を計算するために使用する実効物性値を更新あるいは決定しうる。S005は、計算(シミュレーション)における時刻が終了時刻に達したかどうかを判定する工程である。プロセッサ10は、計算における時刻が終了時刻に達していなければ、時刻を次の時刻に進めて、S003に移行する。一方、計算における時刻が終了時刻に達していれば、プロセッサ10は、シミュレーション方法を終了する。シミュレーション装置1は、S001、S002、S003、S004、及びS005をそれぞれ実行するハードウェア要素の集合体として理解されてもよい。ミュレーション装置1によって実行されるシミュレーション方法は、上記のデータベースを生成する生成工程を含んでもよい。
【0054】
以下、S001、S002、S003、S004、及びS005のそれぞれについて詳細に説明する。S001では、プロセッサ10は、シミュレーションに必要な条件として各種のパラメータを設定する。パラメータは、基板Sの上における硬化性組成物の液滴の配置、各液滴の体積、硬化性組成物の物性値、型Mの表面の凹凸(例えば、パターン領域PRのパターン要素の情報)に関する情報、基板Sの表面の凹凸に関する情報などを含みうる。また、パラメータは、型駆動部MDが型Mに与える力の時間プロファイル、圧力制御部PCが空間SP(型M)に与える圧力のプロファイルなどを含んでもよい。
【0055】
S002では、プロセッサ10は、硬化性組成物IMの複数の液滴のそれぞれの初期状態を設定する。この初期状態は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの各液滴が濡れ広がった際の各液滴の輪郭(の形状)及び高さを含みうる。また、この初期状態は、硬化性組成物IMの物性値を用いて静的な釣り合い状態を仮定して算出されてもよい。また、硬化性組成物IMの物性値に加えて、硬化性組成物IMの液滴を基板Sの上に配置してからの経過時間などを入力とし、一般的な流体シミュレーションを実行することで、動的な濡れ広がり挙動から初期状態が算出されてもよい。また、S002では、プロセッサ10は、S001で設定された型Mの表面の凹凸(例えば、パターン領域PRのパターンの情報)に関する情報から各計算要素に含まれるパターン要素の主軸を算出あるいは決定しうる。
【0056】
S003では、プロセッサ10は、型Mの運動を計算し、これにより、型Mの位置(距離G)を更新する。型Mの運動は、硬化性組成物IMの液滴や液滴同士が接合した液膜が押しつぶされる際に発生する力、気体の流動に起因する力、型Mに印加する荷重、型Mの弾性変形の影響などを考慮した力学計算によって計算されうる。また、予め求めた計算における各時刻に対応する型Mの位置を用いて、現在の時刻に対応する型Mの位置が更新されてもよい。
【0057】
S004では、プロセッサ10は、型Mと基板Sとの間に広がる硬化性組成物IMの液滴の挙動を計算する。S004は、液滴が型Mと接触しているかどうかを判定する工程を含んでもよい。S004では、計算上の現在時刻における型-基板間の距離の分布、型の速度分布、型-基板間の空隙内における硬化性組成物の分布、硬化性組成物の物性値を入力として一般的な流体シミュレーションによって、硬化性組成物の新しい時刻における分布が得られる。型Mがパターンを有する場合には、硬化性組成物IMの流動は、図4に例示されるように、型Mのパターンを構成するパターン要素の主軸の方向に応じた異方性を有しうる。したがって、一般的な手法においては、パターン(パターン要素)の影響を考慮するために、パターン要素を解像できる大きさの計算要素(サイズ)を用いる必要がある。そのため、一般的な手法においては、非現実的な個数の計算要素を定義する必要があり、特にショット領域の全体(例えば26x33mm)のようなmmオーダー以上の計算領域を設定した場合、計算量はかなり膨大になりうる。
【0058】
図7は、一般的な手法において基板Sと型Mとの間の空間における硬化性組成物IMの挙動をシミュレーションする際に定義されうる計算格子を例示する図である。計算格子は、計算のための最小単位である計算要素の集合体である。図7において、格子を構成するように配置された複数の微小な矩形の各々が計算要素である。基板Sの解析対象の領域、例えば、ショット領域に計算格子が定義されうる。一般的な手法では、硬化性組成物IMの液滴の挙動を解析するために、硬化性組成物IMの液滴の寸法よりも十分に小さい計算要素からなる計算格子が定義される。そして、各計算要素に対応した型Mのパターン情報が抽出され、硬化性組成物IMの液滴の体積が各々の計算要素の体積に対して占める割合として表現されうる。
【0059】
本実施形態では、実効物性値を用いることによって計算量を低減する。S004では、パターン要素の特徴量、S002で求めた主軸に対する角度、S003で求めた型Mの位置情報(距離G)に基づいて、データベースを参照して、硬化性組成物の挙動を計算するために使用する実効物性値が更新あるいは決定されうる。更新あるいは決定された実効物性値を用いることによって、各計算要素に含まれる硬化性組成物の流動の異方性を考慮しながら、硬化性組成物IMの液滴の挙動を計算することができる。
【0060】
図10には、本実施形態における計算領域、計算格子および計算要素が例示されている。図10では計算格子が直交格子である例が示されているが、計算格子の形状はそれに限られるものではない。一般的な流体シミュレーションを用いる場合は、パターンを解像できる大きさの計算要素を用いる必要があり、XY平面内の計算要素数、Z方向の計算要素数ともに莫大な量になる。一方、実効物性値を用いることによって、パターンを解像する必要がなくなるため、XY平面、Z方向ともに計算要素のサイズを大きくすることができる。その結果、計算要素数を大幅に削減することができ、現実的な時間内に計算結果が得られることが期待される。
【0061】
S003及びS004を含む計算工程は、予め設定された複数の時刻について実行されうる。複数の時刻は、例えば、型Mが初期位置から降下を開始する時刻から、型Mが複数の液滴と接触し、複数の液滴が潰されながら広がり、複数の液滴が相互に結合し、最終的に1つの膜を形成し、硬化性組成物の硬化がなされるべき時刻までの期間内で任意に設定される。複数の時刻は、典型的には、一定の時間間隔で設定されうる。
【0062】
S005では、計算における時刻が終了時刻に達したかどうかが判定される。上述したように、計算における時刻が終了時刻に達していなければ、時刻を次の時刻に進めてS003に移行し、計算における時刻が終了時刻に達していれば、シミュレーション方法が終了する。一例において、S005からS003への移行の際に、現在の時刻が指定された時間刻み分だけ進められて、新たな時刻とされる。
【0063】
S003およびS004の実行順番は入れ替えられてもよい。例えば、S004、S003の順番で実施する場合、硬化性組成物IMの液滴の挙動の計算に用いる型Mの位置を、1つ前の時刻に対応する型Mの位置とすることによって、同様に処理することができる。
【0064】
本実施形態によれば、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの各液滴が型Mと基板Sとの間に広がり、互いに接合していく挙動を、型Mのパターン形状および基板Sと型Mとの距離に応じた異方性を考慮して、かつ少ない計算コストで実現可能である。
【0065】
シミュレーション装置1が組み込まれた膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に硬化性組成物の膜を形成する処理を、シミュレーション装置1による硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御しうる。
【0066】
実施形態の物品製造方法は、上記シミュレーション方法を繰り返しながら第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に硬化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、該条件に従って該処理を実行する工程とを含みうる。
【0067】
ここまでは、型がパターンを有する形態について説明したが、本発明は、基板がパターンを有する形態にも適用できる。
【0068】
図11には、物品製造方法のより具体的な例が示されている。図11(a)に示すように、絶縁体等の被加工材2zが表面に形成されたシリコンウエハ等の基板1zを用意し、続いて、インクジェット法等により、被加工材2zの表面にインプリント材3zを付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材3zが基板上に付与された様子を示している。
【0069】
図11(b)に示すように、インプリント用の型4zを、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材3zに向け、対向させる。図11(c)に示すように、インプリント材3zが付与された基板1zと型4zとを接触させ、圧力を加える。インプリント材3zは型4zと被加工材2zとの隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型4zを介して照射すると、インプリント材3zは硬化する。
【0070】
図11(d)に示すように、インプリント材3zを硬化させた後、型4zと基板1zを引き離すと、基板1z上にインプリント材3zの硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材3zに型4zの凹凸パターンが転写されたことになる。
【0071】
図11(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材2zの表面のうち、硬化物が無いか或いは薄く残存した部分が除去され、溝5zとなる。図11(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材2zの表面に溝5zが形成された物品を得ることができる。ここでは硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子等に含まれる層間絶縁用の膜、つまり、物品の構成部材として利用してもよい。
【0072】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0073】
101:型、102:硬化性組成物、103:基板、104:パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11