(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】海洋船舶のための近接感知システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B63B 49/00 20060101AFI20240419BHJP
B63B 79/40 20200101ALI20240419BHJP
B63H 21/22 20060101ALI20240419BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20240419BHJP
B63B 43/20 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
B63B79/40
B63H21/22 Z
B63H25/42 Z
B63B43/20
(21)【出願番号】P 2020172164
(22)【出願日】2020-10-12
(62)【分割の表示】P 2019207442の分割
【原出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-08-31
(32)【優先日】2019-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519374287
【氏名又は名称】ブランズウィック コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トラヴィス シー.マルーフ
(72)【発明者】
【氏名】アーロン ジェイ.ワード
(72)【発明者】
【氏名】マシュー イー.デルジネル
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-246998(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0081054(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0214534(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0253314(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0011245(KR,A)
【文献】特開2016-049903(JP,A)
【文献】特開2017-178242(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03182155(EP,A1)
【文献】国際公開第2012/010818(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00
B63B 79/40
B63H 21/22
B63H 25/42
B63B 43/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋船舶上の近接センサシステムであって、
それぞれ前記海洋船舶上のセンサの場所にあり、物体の近接を測定し、近接測定値を生成するように構成された、1つ以上の近接センサと、
前記海洋船舶のナビゲーションポイントに対する前記海洋船舶の二次元船舶輪郭を記憶するメモリと、
プロセッサと、
を備え、前記プロセッサが、
前記海洋船舶上の1つ以上の前記近接センサにより測定された近接測定値を受信し、
前記二次元船舶輪郭に基づいて、正のX方向、負のX方向、正のY方向、及び負のY方向のそれぞれの1つの最も近い近接測定値を含む、4つの直線的に最も近い近接測定値を特定し、
前記4つの直線的に最も近い近接測定値を特定する最重要物体(MIO)データセットを生成する、ように構成される、システム。
【請求項2】
それぞれ前記海洋船舶上の異なる場所にあり、前記海洋船舶の周りの異なる領域をイメージングする、2つ以上の近接センサをさらに備え、
前記プロセッサがさらに、前記4つの直線的に最も近い近接測定値を特定する前に、前記近接測定値を前記海洋船舶の前記ナビゲーションポイントに対する共通の基準系に変換するように構成される、請求項1に記載の近接センサシステム。
【請求項3】
前記二次元船舶輪郭が、前記海洋船舶の前記ナビゲーションポイントに対して定義されるデカルトポイントの組である、請求項1に記載の近接センサシステム。
【請求項4】
前記二次元船舶輪郭が簡略化された船舶形状である、請求項1に記載の近接センサシステム。
【請求項5】
前記二次元船舶輪郭がそのラブレールでの海洋船舶の幅に近似する幅を有する、請求項4に記載の近接センサシステム。
【請求項6】
前記二次元船舶輪郭が海洋船舶の断面に近似する、請求項1に記載の近接センサシステム。
【請求項7】
前記二次元船舶輪郭が前記海洋船舶の最大断面を表す、請求項6に記載の近接センサシステム。
【請求項8】
海洋船舶上の近接センサシステムを動作させる方法であって、
前記海洋船舶のナビゲーションポイントに対する前記海洋船舶の二次元船舶輪郭を定義することと、
前記海洋船舶の前記二次元船舶輪郭をプロセッサにアクセス可能なメモリに記憶することと、
前記プロセッサで、前記海洋船舶上の1つ以上の近接センサにより測定された近接測定値を受信することと、
前記プロセッサで、前記近接測定値を前記海洋船舶の前記ナビゲーションポイントに対する共通の基準系に変換することと、
前記プロセッサで、正のX方向、負のX方向、正のY方向、及び負のY方向のそれぞれの1つの最も近い近接測定値を含む、前記二次元船舶輪郭までの4つの直線的に最も近い近接測定値を特定することと、
前記プロセッサで、前記4つの直線的に最も近い近接測定値を特定する最重要物体(MIO)データセットを生成することと、を含む、方法。
【請求項9】
前記二次元船舶輪郭が、前記海洋船舶の前記ナビゲーションポイントに対して定義されるポイントの組である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記二次元船舶輪郭が、前方ポイント、右舷コーナーポイント、左舷コーナーポイント、右舷後方ポイント、及び左舷後方ポイントを含む、前記ナビゲーションポイントに対して定義される、五角形をなすデカルトポイントを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記二次元船舶輪郭がそのラブレールでの海洋船舶の幅に近似する幅を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記最重要物体(MIO)データセットが、最小の正のヨー角度及び最小の負のヨー角度をさらに含む、
請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記プロセッサで、ナビゲーションポイントと前記二次元船舶輪郭の前方ポイントとの間の半径を有する円として外側ヨー円を定義することと、
前記プロセッサで、前記外側ヨー円内にない近接測定値を除外することと、
2つの回転方向に最も近い近接測定値を特定することと、
をさらに含む、請求項8記載の方法。
【請求項14】
前記プロセッサで、外側ヨー円内の各近接測定値と前記二次元船舶輪郭上のそれぞれの交点との間の少なくとも1つのヨー経路を計算することと、
前記プロセッサで、前記外側ヨー円内の各近接測定値に関する前記それぞれのヨー経路に基づいて正のヨー角度又は負のヨー角度を計算することと、
前記プロセッサで、最小の正のヨー角度と最小の負のヨー角度を2つの回転方向に最も近い近接測定値として特定することと、
をさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記二次元船舶輪郭が、前方ポイント、右舷コーナーポイント、左舷コーナーポイント、右舷後方ポイント、及び左舷後方ポイントを含む、前記ナビゲーションポイントに対して定義される、五角形をなすデカルトポイントを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項16】
前記プロセッサで、ナビゲーションポイントと前記二次元船舶輪郭の前方ポイントとの間の半径を有する円として外側ヨー円を定義することと、
前記プロセッサで、前記ナビゲーションポイントと前記二次元船舶輪郭のコーナーポイントとの間の半径を有する円として内側ヨー円を定義することと、
前記プロセッサで、前記前方ポイント及び前記右舷コーナーポイントと交わる右舷船首ライン、並びに、前記前方ポイント及び前記右舷コーナーポイントと交わる左舷船首ラインを定義することと、
前記外側ヨー円と前記内側ヨー円との間の各近接測定値に関して、
前記プロセッサで、前記ナビゲーションポイントと前記近接測定値との間の半径を有する近接測定値円を定義することと、
前記プロセッサで、前記近接測定値円が前記右舷船首ラインと交わる右舷交点及び前記近接測定値円が前記左舷船首ラインと交わる左舷交点のうちの少なくとも1つを定
義することと、
前記プロセッサで、前記右舷交点に基づく正のヨー角度及び前記左舷交点に基づく負のヨー角度を定めることと、
をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記右舷交点を定めることが、
前記近接測定値円と前記右舷船首ラインとの第1の交点及び第2の交点を含む2つの交点を定めることと、
前記ナビゲーションポイントと前記前方ポイントとの間のゼロラインを定義することと、
前記ナビゲーションポイントと前記第1の交点との間の第1のラインを定義し、前記ゼロラインと前記第1のラインとの間の第1の角度を定めることと、
前記ナビゲーションポイントと前記第2の交点との間の第2のラインを定義し、前記ゼロラインと前記第2のラインとの間の第2の角度を定めることと、
前記ナビゲーションポイントと前記右舷コーナーポイントとの間の第3のラインを定義し、前記ゼロラインと前記第3のラインとの間の角度閾値範囲を定めることと、
をさらに含み、
前記第1の角度が前記角度閾値範囲内の場合、前記第1の交点が右舷交点であり、又は前記第2の角度が前記角度閾値範囲内の場合、前記第2の交点が右舷交点である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ナビゲーションポイントと前記二次元船舶輪郭の後方ポイントとの間の半径を有する円として後方ヨー円を定義することと、
前記内側ヨー円と前記後方ヨー円との両方の内部の各近接測定値に関して、正のヨー角度と負のヨー角度との両方を計算することと、
をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記二次元船舶輪郭が簡略化された船舶形状である、請求項8に記載の方法。
【請求項20】
前記二次元船舶輪郭が前記海洋船舶の最大断面を表す、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般に、海洋船舶上の近接感知のためのシステム及び方法に関し、より詳細には、近接測定データをインテリジェントに分類し、優先順位をつけるべく簡略化された船舶形状を実装し、自律又は半自律船舶制御に用いるための近接感知システムを提供する、近接感知システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の米国特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる:
【0003】
米国特許第6,273,771号は、海洋船舶に取り付け、シリアル通信バス及びコントローラと信号通信で接続することができる、舶用推進システムを組み込む海洋船舶の制御システムを開示する。複数の入力デバイス及び出力デバイスも通信バスと信号通信で接続され、CAN Kingdomネットワークなどのバスアクセスマネージャが、バスとの信号通信で複数のデバイスへの追加デバイスの組み込みを調整するべくコントローラと信号通信で接続され、それにより、コントローラが通信バス上の複数のデバイスのそれぞれと信号通信で接続される。入力及び出力デバイスは、それぞれ、他のデバイスによる受信のためにシリアル通信バスにメッセージを送信することができる。
【0004】
米国特許第7,267,068号は、ジョイスティックなどの手動で操作可能な制御デバイスから受信したコマンドに応答して第1及び第2の舶用推進装置をそれらのそれぞれの操舵軸を中心として独立して回転させることにより操縦される海洋船舶を開示する。舶用推進装置は、海洋船舶の中心線上のポイントで及び回転移動が命令されないときには海洋船舶の重心で交差するそれらの推力ベクトルと位置合わせされる。舶用推進装置を駆動するために内燃機関が設けられる。2つの舶用推進装置の操舵軸は、概して垂直であり、且つ互いに平行である。2つの操舵軸は、海洋船舶の船体の底面を通って延びる。
【0005】
米国特許第9,927,520号は、物体が海洋船舶のあらかじめ定義された距離内にあるかどうかを判定するべく距離センサを用いて感知することと、海洋船舶に対する物体の方向を測位することを含む、海洋船舶の衝突を検出する方法を開示する。方法は、推進制御入力デバイスで推進制御入力を受信することと、推進制御入力の実行により海洋船舶のいずれかの部分が物体に向かって移動するかどうかを判定することとをさらに含む。次いで、衝突警告が発生される。
【0006】
米国特許出願公開第2017/0253314号は、船舶の全地球位置及び向首方向を測位する全地球測位システムと、船舶の近くの物体に対する船舶の相対位置及び方位を判定する近接センサとを含む、海洋船舶を水体において選択された位置及び向きに維持するためのシステムを開示する。位置保持モードで動作可能なコントローラが、GPS及び近接センサと信号通信する。コントローラは、船舶が選択された位置及び向きから移動したかどうかを判定するのに、GPSからの全地球位置及び向首方向データと、近接センサからの相対位置及び方位データとのどちらを用いるかを選択する。コントローラは、船舶を選択された位置及び向きに戻すのに必要とされる推力コマンドを計算し、推力コマンドを舶用推進システムに出力し、舶用推進システムは、船舶の位置を戻すために推力コマンドを用いる。
【0007】
米国特許出願公開第2018/0057132号は、ジョイスティックから海洋船舶の所望の移動を表す信号を受け取ることを含む、物体の近くの海洋船舶の移動を制御するための方法を開示する。センサが、物体と海洋船舶との最短距離と、海洋船舶に対する物体の方向を感知する。コントローラが、海洋船舶の所望の移動を、最短距離及び方向と比較する。比較に基づいて、コントローラは、所望の移動を達成するべく推力を発生させるように舶用推進システムに命令するかどうか、又は代替的に、海洋船舶が物体から少なくとも所定の範囲を確実に維持する修正された移動を達成するべく推力を発生させるように舶用推進システムに命令するかどうかを選択する。舶用推進システムは、次いで、命令された通りに、所望の移動又は修正された移動を達成するべく推力を発生させる。
【0008】
米国特許第10,429,845号は、舶用推進システムにより動力を与えられ、互いに垂直な第1、第2、及び第3の軸に関して移動可能であり、少なくとも6の可能な船舶移動自由度を定める、海洋船舶を開示する。目的地の近くの海洋船舶の位置を制御するための方法は、海洋船舶の現在地を測定することと、船舶の現在地に基づいて、海洋船舶が目的地の所定の範囲内にあるかどうかを判定することを含む。方法は、海洋船舶を現在地から目的地へ平行移動するのに必要な海洋船舶の移動を判定することを含む。海洋船舶が目的地の所定の範囲内にあることに応答して、方法は、制御の所与の繰返し中に一度に1自由度で必要な海洋船舶移動成分を生成するように推進システムを自動制御することを含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態では、海洋船舶上の近接センサシステムは、それぞれ海洋船舶上のセンサの場所にあり、物体の近接を測定し、近接測定値を生成するように構成された、1つ以上の近接センサを含む。プロセッサは、海洋船舶のナビゲーションポイントに対する海洋船舶の二次元船舶輪郭を記憶し、海洋船舶上の1つ以上の近接センサにより測定された近接測定値を受信し、正のX方向、負のX方向、正のY方向、及び負のY方向のそれぞれの1つの最も近い近接測定値を含む、二次元船舶輪郭までの4つの直線的に最も近い近接測定値を特定するように構成される。プロセッサは、次いで、4つの直線的に最も近い近接測定値を特定する最重要物体(MIO)データセットを生成する。或る実施形態では、システムはさらに、MIOデータセットが最小の正のヨー角度及び最小の負のヨー角度をさらに含むように、二次元船舶輪郭までの2つの回転方向に最も近い近接測定値を特定するように構成されてよい。例えば、近接測定値のうちの1つと二次元船舶輪郭の右舷側部の交点との間の最小の正のヨー角度、及び、近接測定値のうちの1つと二次元船舶輪郭の左舷側部の交点との間の最小の負のヨー角度である。
【0010】
一実施形態では、海洋船舶上の近接センサシステムを動作させる方法は、海洋船舶のナビゲーションポイントに対する海洋船舶の二次元船舶輪郭を定義することと、海洋船舶の二次元船舶輪郭をプロセッサにアクセス可能なメモリに記憶することを含む。海洋船舶上の1つ以上の近接センサにより測定された近接測定値がプロセッサで受信されるときに、近接測定値は、海洋船舶のナビゲーションポイントに対する共通の基準系に変換され、次いで、正のX方向、負のX方向、正のY方向、及び負のY方向のそれぞれの1つの最も近い近接測定値を含む、二次元船舶輪郭までの4つの直線的に最も近い近接測定値が特定される。次いで、4つの直線的に最も近い近接測定値を特定する最重要物体(MIO)データセットが生成される。或る実施形態では、方法は、MIOデータセットに含めるための二次元船舶輪郭までの2つの回転方向に最も近い近接測定値を特定することをさらに含んでよい。回転方向に最も近い近接測定値は、例えば、近接測定値のうちの1つと二次元船舶輪郭の右舷側部の交点との間の最小の正のヨー角度、及び、近接測定値のうちの1つと二次元船舶輪郭の左舷側部の交点との間の最小の負のヨー角度であってよい。
【0011】
本発明の種々の他の特徴、目的、及び利点は、図面と共にとられる以下の説明から明らかとなるであろう。
【0012】
本開示は、以下の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】海洋船舶上の例示的な推進システムの略図である。
【
図2】本開示に係る二次元船舶輪郭を用いる最重要物体(MIO)データセットの例示的な計算を示す線図である。
【
図3】本開示に係る二次元船舶輪郭と、MIOデータセットに関する回転方向に最も近い近接測定値を求める計算負荷を低減するための例示的なヨー円を描画する図である。
【
図4】本開示に係るMIOデータセットを計算するためのヨー円の例示的な実装を示す別の線図である。
【
図5A】例示的な船舶断面及び対応する二次元船舶輪郭を例示する線図である。
【
図5B】例示的な船舶断面及び対応する二次元船舶輪郭を例示する線図である。
【
図6】海洋船舶上の近接センサシステムを動作させる方法の実施形態を例示するフローチャートである。
【
図7】海洋船舶上の近接センサシステムを動作させる方法の実施形態を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本開示の一実施形態に従って構成される海洋船舶10上に推進制御システム20を装備した海洋船舶10を示す。推進制御システム20は、例えば、後述するように、他のモードの中でも特に、x/y平面内の船舶移動を制御するべくユーザによりジョイスティックが操作される、ジョイスティッキングモードで動作することができる。推進システム20は、船舶10を推進するべく第1及び第2の推力T1、T2を生成する第1及び第2の推進装置12a、12bを有する。第1及び第2の推進装置12a、12bは、船外モータとして例示されるが、それらは代替的に、船内モータ、スターンドライブ、ジェットドライブ、又はポッドドライブとすることもできる。各推進装置は、プロペラ18a、18bに作動的に接続されるトランスミッション16a、16bに作動的に接続されるエンジン14a、14bを備える。
【0015】
船舶10はまた、推進制御システム20の一部をなす種々の制御要素を収容している。システム20は、例えば米国特許第6,273,771号で説明されるCANバスを介して、例えばコマンド制御モジュール(CCM)などのコントローラ24と、及び、それぞれの推進装置12a、12bに関連する推進制御モジュール(PCM)26a、26bと信号通信するオペレーションコンソール22を備える。コントローラ24及びPCM26a、26bのそれぞれは、メモリ25a及びプログラム可能なプロセッサ25bを含んでよい。従来のように、各制御モジュール24、26a、26bは、コンピュータ可読コード及びデータが記憶される揮発性又は不揮発性メモリを含むコンピュータ可読媒体を備えるストレージシステムに通信可能に接続されるプロセッサを含む。プロセッサは、コンピュータ可読コードにアクセスし、コードを実行すると、詳しく後述するように、ナビゲーション制御の目的で近接感知などの機能及びデータ処理機能を実行することができる。
【0016】
オペレーションコンソール22は、キーパッド28、ジョイスティック30、操舵輪32、及び1つ以上のスロットル/シフトレバー34などのいくつかのユーザ入力デバイスを含む。これらのデバイスのそれぞれは、コントローラ24にコマンドを入力する。コントローラ24は、次に、PCM26a、26bと通信することにより第1及び第2の推進装置12a、12bに制御命令を通信する。操舵輪32及びスロットル/シフトレバー34は、操舵輪32の回転、例えば、船舶10の所望の方向に関する信号をコントローラ24に提供するトランスデューサをアクティブ化するように従来の様態で機能する。コントローラ24は、次に、推進装置12a、12bの所望の向きを達成するべく操舵アクチュエータをアクティブ化する信号をPCM26a、26b(及び/又は提供される場合、TVM又はさらなるモジュール)に送信する。推進装置12a、12bは、それらの操舵軸を中心として独立して操舵可能である。スロットル/シフトレバー34は、トランスミッション16a、16bの所望のギヤ(前進、後進、又はニュートラル)及び推進装置12a、12bのエンジン14a、14bの所望の回転速度に関する信号をコントローラ24に送信する。コントローラ24は、次に、それぞれシフト及びスロットルのためのトランスミッション16a、16b及びエンジン14a、14bの電気機械式アクチュエータをアクティブ化する信号をPCM26a、26bに送信する。ジョイスティック30などの手動で操作可能な入力デバイスも、コントローラ24に信号を提供するのに用いることができる。ジョイスティック30は、船舶10のオペレータが、船舶10の横平行移動又は回転を達成するなどの船舶10の手動操縦を可能にするのに用いることができる。
【0017】
推進制御システム20はまた、1つ以上の近接センサ72、74、76、及び78を含む。船舶10の船首側、船尾側、左舷側、及び右舷側のそれぞれに1つの近接センサが示されているが、各センサの場所に及び/又は船舶10のハードトップ上などの他のセンサの場所に、より少ない又はより多くのセンサを設けることもできる。近接センサ72~78は、距離及び方向センサである。例えば、センサは、船舶10に対する、ドック、防潮堤、係船余地、別の船舶、巨大な岩石又は木などの物体Oの、距離と方向との両方(少なくともおおよその)、すなわち相対位置を個々に判定することができるレーダー、ソナー、カメラ、レーザ(例えば、ライダー又はLeddar)、ドップラー方向探知機、又は他のデバイスとすることもできる。センサ72~78は、海洋船舶10に対する物体の方向と、物体Oと船舶10との最短距離との両方に関する情報を提供する。代替的に、距離を感知するために設けられるセンサとは別個の、方向を感知するためのセンサを設けることもでき、又は船舶10上の単一のセンサの場所に1つよりも多いタイプの距離/方向センサを設けることができる。センサ72~78は、この距離及び/又は方向情報を、より詳しく後述するように、センサをコントローラに接続する専用バス、CANバス、又は無線ネットワーク伝送などにより、センサプロセッサ70及び/又は制御モジュール24などの1つ以上の制御モジュールに提供する。
【0018】
近接センサ72、74、76、78に関して、船舶10と物体Oとの距離に応じて異なるタイプのセンサが用いられてよいことに留意されたい。例えば、遠い距離にある物体を検出するのに1つ又は複数のレーダーセンサ又はライダーセンサが用いられてよい。船舶10が物体の特定の距離内に来ると、超音波、ライダー、Leddar、又はソナーセンサが代わりに用いられてよい。制御モジュール24に物体近接情報を提供するために、カメラセンサが単独で又は上記のセンサのいずれかと組み合わせて用いられてよい。センサは、船舶10が遭遇しそうな物体をそれらが検出するのに適正な高さ及び対向方向にあるように、船舶10上のいくつかのセンサの場所に配置される。最適なセンサの場所及び位置は、船舶のサイズ及び構成に応じて変化することになる。
【0019】
図1では、近接センサは、船舶10の前方、側方、及び船尾のそれぞれに位置決めされ、前方に面するセンサ72、右舷に面するセンサ74、後方に面するセンサ76、及び左舷に面するセンサ78を含む。異なる例示的なセンサ構成では、2つの近接センサが海洋船舶10のハードトップ上に配置され、2つのセンサの組み合わされた視野が船舶10の周囲の360°の領域全体をカバーするように構成されてよい。センサプロセッサ70などの関連するコントローラが、船舶10に対する物体の最短距離及び方向を感知するべく複数のセンサ(レーダー、ライダー、Leddar、超音波、及びカメラを含む)のうちのいずれか1つ又は複数を選択的に動作させてよいことにも留意されたい。代替的に、センサプロセッサは、すべてのセンサタイプからのすべての利用可能なセンサデータを用いてよく、該データは、受信時にリアルタイムでレビューされてよく、又はすべての近接測定データを組み込む1つ以上のマップ又は占有グリッドに編成されてよく、この場合、すべての動作したセンサからマップされたデータは、本明細書で説明するように処理される。このような実施形態では、種々のセンサのそれぞれからの近接測定値はすべて、共通の基準系に変換される。
【0020】
船舶のハンドリング品質の向上のための自律及び/又は高度なオペレータ支援(すなわち、半自律)制御は、船舶10上の複数の近接センサの配置を必要とする。一般に、これらの種々のタイプの近接感知デバイス(前述の例)は、船舶の経路内のドック、泳いでいる人、又は他の障害物などの、海洋船舶10の周囲の海洋環境での物体の存在を検出するように位置決めされる。各センサは、それ自身の基準系に対する近接、すなわち、センサの視野角に沿って測定した場合のセンサから物体までの距離を報告する。センサのタイプ、使用の用途、ボートのサイズ、船体の形状などに応じて、すべての海洋環境での運航のための海洋船舶10の周りの適切な近接感知を提供するのに、複数のセンサタイプ及びセンサ位置が必要とされる場合がある。自律船舶ナビゲーション及び半自律制御(自動操縦-制限制御など)を含む船舶の制御及び船舶のナビゲーションの目的で用いることができる凝集データセットを作成するために、データソースのすべてが、好ましくは、共通の基準系に変換される。これは、測定したデータを適切に変換することができるように、共通の基準系に対する各センサの位置及び向きの正確な知識を必要とする。
【0021】
図1の例では、メイン慣性計測装置(IMU)36が、回転の中心(COR)又は重心(COG)などの、あらかじめ定義されたナビゲーションポイントに対する海洋船舶上の既知の位置に設置される。メインIMU36の設置の向きも既知である。メインIMU36及び各近接センサ72~78の設置位置は、近接感知システムの校正手順の一部として確立される。
【0022】
図1の例を参照すると、メインIMU36は、1つ以上の微小電気機械システム(MEMS)などを含む慣性ナビゲーションシステム(INS)の一部であり得る。例えば、INS60は、レートジャイロ、MEMS加速度計、及び磁力計などのMEMS角速度センサからなってよい。このようなINSシステムは、当該技術分野でよく知られている。他の実施形態では、モーション及び角位置(ピッチ、ロール、及びヨーを含む)は、別に構成されたINS60により、又はジャイロスコープ測定値、加速度計データ、及び磁力計データを組み込むことにより海洋船舶10の3D配向を提供する姿勢方位基準システム(AHRS)により感知されてよい。
【0023】
INS60は、メインIMU36から向き情報を受信し、全地球測位システム(GPS)の一部をなすGPSレシーバ40からも情報を受信してよい。GPSレシーバ40は、船舶10上のあらかじめ選択された固定の位置に存在し、海洋船舶10の全地球位置に関係した情報を提供する。メインIMU36はまた、COR又はCOGなどの、海洋船舶10に関して決定されるナビゲーションの中心に対する既知の固定の位置に存在する。
【0024】
図1では、IMU62~68は、各近接センサ72~78と同じ場所に存在する。これらのセンサIMU62~68は、メインIMUと同様に構成され、それぞれ、レートジャイロ、加速度計、及び磁力計などを備え、対応するIMUデータを生成してよい。各センサIMU62~68からのIMUデータは、近接センサシステムの自動校正及び検証のため、関連する近接センサ72~78による近接測定値を解釈するのに用いられる角測定のため、及び/又はメインIMU36の障害又は故障の場合のバックアップIMUとしてなどの種々の目的で用いられてよい。
【0025】
本発明者らは、自律車両上のセンシングスイートが大量の近接測定データを生じることと、このような大きいデータ量が、組み込みコントローラ上で動作する及び/又はCANバスなどの帯域幅制限のあるネットワークを使用する近接センサシステムを実装するのに実際的ではないことを認識した。本発明者らはさらに、データをフィルタリングし、優先順位付け計算を行うことに関する自律分野での既存の方策が、既存の海洋船舶制御アーキテクチャ内の組み込みコントローラ上での実装に不十分又は不適切であることを認識している。ロボット工学では、例えば、障害物をよけて進み、或る用途ではロボットの個々のセグメントを障害物と又は互いに衝突しないように適正に制御するために、近接測定データで複雑な幾何学的計算が行われる。これらの複雑な幾何学的計算は、通常、モバイルロボットの1つ以上の詳細な三次元モデルを実装し、その計算は高性能のコンピュータ上で行われる。特に海洋環境での自律又は半自律ナビゲーションの正確な制御を依然として提供しながら計算負荷を低減することに向けては、わずかしか取り組みがなされていない。
【0026】
本発明者らは、既存の船舶制御システム内の組み込み制御モジュール上で動作する近接感知システムを開発するために、大容量の近接測定データストリームを、組み込みコントローラでの実装と、ナビゲーションコントローラとの適合性の維持との両方が可能な形式にパースする、改善されたシステム及び方法が必要とされることを認識した。自律及び半自律車両制御のための現在の近接感知システムに伴う前述の課題及び不足を考慮して、本発明者らは、海洋環境内の近接感知と、既存の海洋船舶制御アーキテクチャ及びネットワーク内の近接センサシステムの実装に向けて、開示される方法及びシステムを開発した。開示される方策は、海洋船舶への物体の近接を計算し、データに適宜優先順位をつけるために、特定のボートサイズ及び形状に合わせて容易に校正される船舶の簡略化された二次元表現、すなわち二次元船舶輪郭を使用する。
【0027】
二次元船舶輪郭は、例えば、ナビゲーションポイントP
nに対して定義されるデカルトポイントの組であり得る。例えば、二次元船舶輪郭は、P
nの周りの五角形の形状をなす5つのポイントの組であってよく、その場合の中心点(00)は、海洋船舶のナビゲーションポイントP
n(すなわち、ナビゲーションの中心)である。一実施形態では、二次元船舶輪郭80は、デカルトポイントを3つだけ用いて任意のボートサイズ及び形状を近似するべく校正可能である。
図2を参照すると、3つのデカルトポイントは、前方ポイントA、右舷コーナーポイントB、及び右舷後方ポイントCを含む。長手方向のラインLに関する対称性が仮定され、したがって、右舷コーナーポイントBに基づいて、左舷コーナーポイントB’を、同じX座標値と負に置き換えられるY座標値を有するものとして定義することにより、3つの入力されるポイントに基づいて船舶全体のモデルを自動的に生成することができる。二次元船舶輪郭80の左舷後方ポイントC’は、右舷後方ポイントCに基づいて同様に定義することができる。二次元船舶輪郭は、代わりに、ユーザが左舷側部ポイントを入力することにより校正されてよく、右舷側部ポイントを作成するべく左舷側部ポイントを置き換えることができることを当業者は本開示に照らして理解するであろう。二次元船舶輪郭は、より多くのポイントで構成されてよく、五角形以外の形状を有し得ることも当業者は本開示に照らして理解するであろう。同様に、船舶輪郭は、極座標系、円筒座標系、又は球座標系などの異なる座標系に関して定義され得ることが本開示に照らしてさらに理解されるであろう。
【0028】
この二次元船舶輪郭は、最も近い近接測定値の選択された組を特定する最重要物体(MIO)データセットを生成するために、プロセッサ負荷の低いフィルタリング及び幾何学的計算の基礎をなす。例えば、MIOデータセットは、ボートが制御権限を有する+/-X、+/-Y、及び+/-ヨー方向の6方向のそれぞれの距離を特定してよく、これにより、ナビゲーションコントローラに、海洋船舶の周りの物体Oの場所及び二次元船舶輪郭に基づいて定められる場合の船舶の幾何学的形状に基づくナビゲーション制約を知らせる。次いで、ナビゲーションコントローラは、船舶ナビゲーション命令を計算するため及び/又は船舶推進に対するユーザ制御権限の制限を決定するためにMIOデータセットを使用する。
【0029】
開示される方法及びシステムは、MIO計算の複雑さを低減し、評価される近接測定値の数を減らし、関心ある各ポイントを評価するのに必要とされる計算を減らすべく、幾何学的仮定を用いて近接測定データをインテリジェントにフィルタリングするという点で、従来技術の近接感知の方策とは異なる。開示されるシステム及び方法は、リアルタイムマイクロコントローラを用いて実装することができ、したがって、既存のナビゲーション制御システムに自律能力を付加するために実装することができる。MIOデータセットは、海洋船舶10の各移動方向の最も近い近接測定値を特定するMIOデータセットを生成するべく、さらに後述するように、簡略化されたボートプロファイル及び低計算負荷の幾何学的形状を用いて計算される。一実施形態では、MIOデータセットは、+/-X方向、+/-Y方向、及び+/-ヨー回転方向のそれぞれの1つの最も近い近接測定値を指定する6つの値を含む。
【0030】
或る実施形態では、MIOデータセットは、上述の移動方向のそれぞれの最も近い近接測定値を定義する6つの値を常に含んでよい。したがって、特定の方向の近接測定値が検出されない場合、それぞれの方向の限定ではないと解釈されるデフォルトの大きい数がナビゲーションコントローラに提供されてよい。単なる一例を提供するために、+/-ヨー方向のデフォルトの距離は、+/-180°であってよい。ナビゲーションコントローラは、デフォルトの大きい回転角の範囲を、船舶がヨー方向のどのような物体とも衝突せずに180°方向転換することができることを意味すると解釈することになる。他の実施形態では、デフォルトの大きい数は、180°よりも大きく(さらには360°と同じくらい大きく)てよく、又は180°よりも小さくてよく、90°などであってよい。X及びY方向のデフォルトの大きい値は、10,000メートル、50,000メートル以上などのY値であってよい。いずれのこのようなケースにおいても、デフォルトの距離は、ナビゲーションコントローラが当該デフォルトのMIOデータポイントに基づいてどのような船舶移動も制限しないほど十分に大きい。他の実施形態では、システム20は、6未満の数のMIOデータセットが提供され得るように構成されてよい。したがって、特定の方向の近接測定値90が検出されない場合、MIOデータセットの一部としてヌル値が報告されてよく又は値が報告されなくてよい。
【0031】
図2は、複数の近接測定値90に対する二次元船舶輪郭80が提示される例を示す。X軸及びY軸に沿った各方向の4つの最も近い近接測定値として、4つの直線的に最も近い近接測定値90
+x、90
-x、90
+y、及び90
-yが順次に判定される。すなわち、船舶モデルの最前方ポイントである前方ポイントAからの+X方向の最小距離86を有する近接測定値が、最も近い近接測定値90
+xとして判定される。後方ポイントC及びC’のX値からのX軸に沿って測定した場合の-X方向の最小距離87を有する近接測定値90は、最も近い近接測定値90
-xである。右舷ポイントB及びCのY値からのY軸に沿った最小距離88を有する近接測定値90は、最も近い近接測定値90
+yである。左舷ポイントB’及びC’のY値からの負のY軸の方向の最小距離89を有するのは、最も近い近接測定値90
-yである。
【0032】
4つの直線的に最も近い近接測定値90
+x、90
+yを計算する前に、船舶プロファイルにより定義される関心領域外の値を除外するためにフィルタステップが行われてよい。言い換えれば、海洋船舶が横方向にいずれかの方向に(+/-Y方向に)又は船首/船尾方向に(+/-X方向に)移動する場合、近接測定データが、海洋船舶と交わらない近接測定値を除外するべく最初にフィルタされてよい。
図2での例では、二次元船舶輪郭80を構成するデカルトポイントの最小X値及び最大X値に基づいて、横関心領域92が定義される。これは、船舶が+Y方向又は-Y方向のいずれかに正確に横方向に移動した場合に船舶が占める領域を表す。具体的には、横関心領域92は、前方ポイントAのX値と後方ポイントC、C’のX値により定義される。この範囲外のX値を有するどの近接測定値も除外することができる。同様に、海洋船舶の真正面又は真後ろの領域を特定するべく船首/船尾関心領域94を定義することができる。船首/船尾関心領域94は、右舷コーナーポイントB及び後方コーナーポイントCのY値(描画した実施形態では等しい)と左舷コーナーポイントB’及び左舷後方ポイントC’の-Y値(同じく、描画した実施形態では等しい)により定義される。したがって、該+/-Y範囲外のY値を有するどの近接測定値90も、可能性がある最も近い近接測定値のデータセットから除外することができる。
図2の例では、近接測定値90’は、横関心領域92又は船首/船尾関心領域94のいずれの内部にもなく、したがって、前方ポイントAと近接測定値90’との+X方向の距離が近接測定値90
+xまでの距離86よりも実際には小さいにもかかわらず、解析されるデータセットから除外される。
【0033】
直線的に最も近い近接測定値に加えて、+ヨー方向及び-ヨー方向の最も近い近接測定値である、回転方向に最も近い近接測定値も計算されてよい。言い換えれば、回転方向に最も近い近接測定値は、+ヨー方向(時計回り)にナビゲーションポイントPnを中心として回転する際に二次元船舶輪郭80に最初に触れることになるポイントと、-ヨー方向(反時計回り)にPnを中心として回転する際に二次元船舶輪郭80に最初に触れることになるポイントを含む。2つの回転方向に最も近い近接測定値は、海洋船舶が物体と衝突せずに回転することができるヨー角度を特定するのに用いられる。衝突を回避するべく船舶ナビゲーションコントローラが海洋船舶の移動を適正に制限することができるように、最小の+ヨー角度及び最小の-ヨー角度がMIOデータセットに含められてよい。
【0034】
arctan及びarctan2関数などの、ヨー経路及びヨー角度を計算するための幾何関数は、プロセッサ負荷が高くなる傾向がある。したがって、本発明者らは、これらの関数の使用を制限し、ヨー計算の計算負荷を制限する、正及び負のヨー距離を求めるための方法を開発した。二次元船舶輪郭80に対する1つ以上のヨー円100、102、104を定義することを含む、それを行うための種々の方法が本明細書で説明される。ナビゲーションポイントP
nと二次元船舶輪郭80の前方ポイントAとの間の半径を有する円として外側ヨー円100が定義される。外側ヨー円100の外部のどの近接測定値90’も船舶のヨー経路内になく、したがって、2つの回転方向に最も近い近接測定値を特定するべくヨー角度を計算する前にデータセットから除外することができる。外側ヨー円100内のこれらの値に関して、それぞれの近接測定値と二次元船舶輪郭80上の1つ以上の交点との間の少なくとも1つのヨー経路が計算されることになる。
図3を参照すると、近接ポイント90a、90b、及び90cのそれぞれに関する1つ以上のヨー経路が計算されることになる。各近接測定値90に関して決定される各ヨー経路に関して、+ヨー角度又は-ヨー角度が決定され(回転経路に応じて)、最小の正及び負のヨー角度がMIOデータセットに含められる。
【0035】
近接測定値90a~90cの位置に応じて異なるヨー経路及びヨー角度計算方法が用いられてよい。一実施形態では、ナビゲーションポイントPnと二次元船舶輪郭80のコーナーポイントB、B’との間の半径に基づいて、第2のヨー円である、内側ヨー円102が定義される。内側ヨー円102の内部のポイント(例えば、90b及び90c)は、正の及び/又は負のヨー回転中に海洋船舶の側部のうちの少なくとも1つと交わることになり、この場合、海洋船舶の側部は、各コーナーポイントB、B’とそれぞれの後方ポイントC、C’との間のライン、すなわち、右舷側部ラインSS及び左舷側部ラインPSとして定義される。或いは、内側ヨー円内のポイントは、2つの後方ポイントC、C’間のラインSNとして表される海洋船舶の船尾と当たることがある。内側ヨー円と外側ヨー円との間にある(すなわち、内側ヨー円102の外部にあるが外側ヨー円100の内部にある)近接測定値に関して、例では前方ポイントAと右舷コーナーポイントBとの間の右舷船首ラインBS及び前方ポイントAと左舷コーナーポイントB’との間の左舷船首ラインBPにより表される海洋船舶の船首と近接測定値とのヨー距離を求めるべく計算が行われる。
【0036】
或る実施形態では、ナビゲーションポイントPnと二次元船舶輪郭80の後方ポイントC、C’との間の半径を有する円である、後方ヨー円104も定義されてよい。後方ヨー円104内に入る近接測定値(例えば、90c及び90d)は、それぞれ、180°未満の大きさを有する+ヨー角度及び-ヨー角度を有することになる。したがって、システムは、後方ヨー円104内の各近接測定値90c、90dに関する正のヨー角度と負のヨー角度との両方が確実に計算され、且つ、後方ヨー円104と外側ヨー円100との間のこれらの近接測定値に関する1つだけの正又は負のヨー角度(すなわち、どちらが180°未満であっても)が確実に計算されるように構成されてよい。
【0037】
各近接測定値90に関するヨー経路を計算するために、ナビゲーションポイントP
nと近接測定値90との間の半径を有する円が定義されてよい。
図4は、近接ポイント90に関するヨー経路を計算するために近接測定値円108が定義される1つのこのような計算を表す。近接測定値円(例えば、108)と二次元船舶輪郭80との少なくとも1つの交点が特定される。交点が定められるラインは、近接測定値90のX及びY値に基づいて特定され得る。例えば、近接測定値90が正のY値と後方ポイントCのX座標値よりも大きいX値を有する場合、システムは、右舷側部ラインSS又はBSのうちの1つとの交点を評価することになる。すなわち、近接ポイントが内側ヨー円102内にある場合にはSSラインとの交点が評価されることになり、近接ポイント90が内側ヨー円102と外側ヨー円100との間にある場合にはBSラインとの交点が評価されることになる。同じ論理が左舷側の値にもあてはまる。後方ポイントC、C’のX座標よりも小さい(すなわち、より負の)X値を有する近接測定値90に関して、最初の評価は、近接ポイント90が後方ヨー円104内にあるかどうかを判定してよい。近接ポイント90が後方ヨー円104内にある場合には、海洋船舶の船尾のラインSNに関する交点が評価されることになる。近接ポイント90が後方ヨー円104の外部にある場合には、近接測定値の位置に応じて、右舷側部及び/又は左舷側部又はバウラインとの交点が評価されることになる。
【0038】
図4は、外側ヨー円100と内側ヨー円102との間の近接ポイント90に関するヨー角度を計算するための1つの例示的な方法を描画する。近接測定値90とナビゲーションポイントP
nとの間の半径に基づいて近接測定値円108が描かれる。近接測定値90は負のY値を有するので、測定ポイント90が内側ヨー円102と外側ヨー円100との間にあると仮定して、二次元船舶輪郭80の左舷側部ラインとの交点、具体的には左舷船首ラインBPとの交点が評価される。或る実施形態では、円とラインとの交点を求めるための関数は、ラインBPがデカルトポイントA及びB’により定義される連続するラインであると仮定し、したがって、2つの交点(例えば、110a及び110b)を返すことになる。交点のうちの1つだけが、当該船首ラインBP(又は船舶輪郭80の他方の側部の場合にはBS)上にある。描画した例では、交点110aが真の交点であり、交点110bは計算(すなわち、ラインBPが連続するラインであるという数学的仮定)の誤りのアーチファクトである。
【0039】
一実施形態では、真の交点110aと誤りの交点110bとの区別は、対応するヨー角度が左舷船首ラインBPにより定義される閾値角度範囲内にあるかどうかを判定することにより行われる。ナビゲーションポイントPnと二次元船舶輪郭80の前方ポイントAとの間のゼロライン120が定義される。ナビゲーションポイントPnと第1の交点110aとの間の第1のライン121が定められ、次いで、ゼロライン120と第1のライン121との間の第1の角度αaが特定される。同様に、ナビゲーションポイントPnと第2の交点110bとの間の第2のライン122が定められ、次いで、第2のライン122とゼロライン120との間の角度αbが定められる。ゼロライン120と、ナビゲーションポイントPnと左舷コーナーポイントB’との間の第3のライン123との間の角度として角度閾値範囲Tが定められる。真の交点110a又は110bに関する、すなわち、第1の角度αa及び第2の角度αb間の該当するヨー角度は、角度閾値Tよりも小さい角度である。したがって、αaが、MIOデータセットに加えられるヨー角度、具体的には負のヨー角度である。
【0040】
或る実施形態では、ナビゲーションポイントP
nに対する種々の高さでの船舶の船体を記述する2つ以上の二次元船舶輪郭80が海洋船舶10に関して定義されてよい。二次元船舶プロファイルが1つだけ用いられる場合、通常は海洋船舶の船体の最大寸法を考慮に入れることになる。しかしながら、一部の船体は、上から下にかけて幅及び長さが大いに変化する場合がある。例えば、ほとんどの海洋船舶は、喫水線でよりもラブレールでより広く、いくつかの船舶は、ラブレールでより広いが、フライブリッジの高さでは狭い。したがって、特定の高さでの海洋船舶の断面をそれぞれ近似する、複数の二次元船舶輪郭80が定義されてよい。
図5Aは、船舶が喫水線の領域でよりもラブレールで顕著により広い且つより長い一例を描画する。したがって、ラブレール断面114、喫水線断面116、及び頂部断面118を含む船舶10の種々の断面を記述する二次元船舶輪郭が定義されてよい。他の実施形態では、より多くの又は少ない断面が定義されてよい。
図5Bに例示したように、ラブレール断面114を近似する第1の二次元船舶輪郭80aが定義され、喫水線断面116を近似する第2の二次元船舶輪郭80bが定義されてよい。或る実施形態では、フライブリッジの寸法などの船舶の頂部断面118を近似する第3の二次元船舶輪郭80cも定義されてよい。
【0041】
次いで、測定した物体Oの高さに基づいて各近接測定値に関する適切な船舶モデルが選択されてよい。これにより、より正確な近接値を計算することができる。或る実施形態では、これは、MIOデータセットに含めるための競合値である6以上の近接測定値などの近接測定値の最も近いサブセットに関してなされてよい。各このような近接測定値90に関して、それぞれの近接測定値90により記述される物体Oの高さを表す物体の高さhも測位され処理されてよい(これは前述の距離及び方向に加えてであろう)。
【0042】
次いで、物体の高さhに基づいて適切な二次元船舶モデルが選択されてよい。最大及び最小断面に関する二次元船舶輪郭80a、80b、80cが定義される描画した例では、物体の高さhでの適切な船舶輪郭を計算するために輪郭間の補間が行われてよい。
図5Aを再び参照すると、喫水線112に対する物体の高さhに基づいて断面ライン115が定義されてよい。したがって、例えば各輪郭80a及び80bのポイントA、B、C間に定義されるラインに沿って、船舶輪郭80a及び80b間の交点が計算される。これにより、当該物体の高さhでの海洋船舶10のプロファイルを近似する補間した船舶輪郭80abを定義することができる。この補間した船舶輪郭80abは、MIOデータセットに関する最も近い近接値の判定がなされる適切な二次元船舶モデルとして用いられることになる。
【0043】
別の実施形態では、海洋船舶10に関して定義される二次元船舶輪郭(例えば、80a、80b、又は80c)のうちの最も近い輪郭が物体の高さhに基づいて特定されてよく、この特定した最も近い輪郭が、MIOデータセットの計算に用いられることになる。このような実施形態では、海洋船舶の最も広い/最も長い区域と喫水線112との間に複数の船舶輪郭80が定義されてよい。各船舶輪郭80に関して、船舶輪郭80があてはまる物体の高さの範囲を記述する高さ閾値範囲が定義されてよい。次いで、物体の高さhに関係する高さ閾値範囲を有するものとして適切な二次元船舶輪郭80が選択されてよい。
【0044】
MIOの特定は、制御システム20を有する1つ以上のコントローラにより実行される。
図1を再び参照すると、センサプロセッサ70は、近接センサ72~78のそれぞれから近接測定値を受信し、このような実施形態では、本明細書で説明したようにMIOデータセットの特定を行うためのソフトウェアと共に構成されてよい。センサプロセッサ70はまた、MIOデータセットを特定し、MIOデータセットを中央コントローラ24などのナビゲーションを行うコントローラに提供する前に、近接測定データをフィルタするように構成されてよい。したがって、センサプロセッサ70は、近接センサ72~78からの近接測定データを処理するように構成された専用の特殊用途コンピューティングシステムであってよい。センサプロセッサ70は、メモリを備えるそれ自身のストレージシステムと、センサプロセッサ70のメモリに記憶されたプログラムを実行する及びデータにアクセスするそれ自身の処理システムとを含んでよい。例えば、センサプロセッサ70は、本明細書で説明したMIOの特定を行うべくコンピュータで実行可能な命令を備える1つ以上のMIO特定ソフトウェアモジュールを記憶してよい。
【0045】
近接センサ72~78により大量の近接データが生成されると仮定すると、センサ72~78とセンサプロセッサ70との接続は、専用バス又はネットワーク接続を介してなされてよい。この専用バス又はネットワーク接続は、センサプロセッサ70への大量の近接測定データ(いくつかの実施形態ではIMUデータ)の伝送を可能にするために船舶ネットワークとは別個である。このような大量データ伝送は、複数のデバイスが通信するCANバス又は無線ネットワークなどの通常の船舶ネットワーク上では可能ではない場合がある。ゾーンによりフィルタされたデータセットは、はるかにより小さい、より扱いやすい量のデータであるため、センサプロセッサ70は、CANバス又は無線ネットワークなどの船舶ネットワーク上でフィルタされたデータを通信するように構成されてよい。さらに他の実施形態では、センサプロセッサ70と中央コントローラ24などのナビゲーションコントローラとの間に専用の通信リンクが提供されてよい。
【0046】
図6及び
図7は、海洋船舶上の近接センサシステムを動作させる方法200の実施形態又はその一部を提示する。
図6では、近接センサシステムを動作させる方法200は、ステップ202で、二次元船舶輪郭を定義し、記憶することで始まる。本明細書で説明したように、例えば、二次元船舶輪郭は、海洋船舶のナビゲーションポイントに対して定義されるデカルトポイントの組を含んでよい。或る実施形態では、喫水線に対する異なる高さでの船舶の船体を表すべく複数の二次元船舶輪郭が定義されてよい。ステップ204で、本明細書で説明したようにレーダーセンサ、ライダー、Leddar、ソナーであり得る1つ以上の近接センサ、又はその組み合わせを含む本明細書で説明したように処理される近接情報を提供するために用いられ得るカメラセンサから、近接測定値が受信される。ステップ206で、同じく種々のタイプのセンサを含み得る1つ以上の近接センサのそれぞれからの近接測定値はすべて、共通の基準系に変換される。例えば、共通の基準系は、海洋船舶のナビゲーションポイントに対して定義されてよい。
【0047】
次いで、ステップ208で、近接測定値を適切な二次元船舶輪郭と比較することによりMIOデータセットが特定される。本明細書で説明したように、MIOデータセットは、二次元船舶輪郭に基づいて特定される4つの直線的に最も近いポイント及び/又は2つの回転方向に最も近い近接測定値を含んでよい。次いで、ステップ210で、近接センサにより検出されるどの物体との衝突も回避するために、海洋船舶10のナビゲーションコントローラなどにより、MIOデータセットを用いて海洋船舶の推進を制御する。自律船舶ガイダンスの場合、ガイダンスコントローラが、海洋船舶10をあらかじめ定義された地点間で自律的に移動させるべく計算し、推進装置(例えば、12a及び12b)を制御してよい。代替的に又は加えて、MIOデータセットは、ナビゲーションコントローラにより、例えば海洋船舶10が検出された物体と衝突するのを防ぐために、船舶推進に対するユーザ権限を制限するのに用いられてよい。
【0048】
図7は、MIOデータセットの計算の一実施形態を表す方法200のステップを示す。ステップ220で、本明細書で説明した横及び船首/船尾関心領域などの関心領域が定義される。ステップ222で、関心領域外の近接測定値が考慮事項から除外される。次いで、ステップ224で、正及び負のX及びY方向のそれぞれの最も近い近接測定値を含む直線的に最も近い近接測定値が特定される。次いで、回転方向に最も近い近接測定値を特定するために計算ステップが行われる。描画した実施形態では、ステップ226で外側ヨー円が定義され、これは、
図3及び
図4の例で前述したように、ナビゲーションポイントと船舶輪郭80の前方ポイントAとの間の半径を有する円である。次いで、ステップ228で、外側ヨー円内にないすべての近接測定値が考慮事項から除外され、これにより、計算負荷を低減する。次いで、ステップ230で、正及び負のヨー方向のそれぞれの回転方向に最も近い近接測定値が特定され、この場合、外側ヨー円内の近接測定値のみが考慮される。
【0049】
本明細書での説明は、ベストモードを含む本発明を開示するため、そしてまた当業者が本発明を利用できるようにするために例を用いている。簡潔、明瞭、及び理解のために特定の用語が用いられている。このような用語は単に記述の目的で用いられ、広く解釈されることを意図しているため、従来技術の要件を超えて、不必要な限定がそこから推論されることはない。本発明の特許可能な範囲は、請求項により定められ、当業者が想到する他の例を含み得る。このような他の例は、それらが請求項の文字通りの言葉と相違のない特徴又は構造要素を有する場合に又はそれらが請求項の文字通りの言葉との非実質的相違を有する均等な特徴又は構造要素を含む場合に請求項の範囲内となることを意図している。