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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】コンクリート堤体の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 7/00 20060101AFI20240419BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
E02B7/00 Z
E04G21/02 104
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020200558
(22)【出願日】2020-12-02
(65)【公開番号】P2022088236
(43)【公開日】2022-06-14
【審査請求日】2023-05-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾口 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】岡山 誠
(72)【発明者】
【氏名】増村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】金戸 崇史
(72)【発明者】
【氏名】坂井 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】林 健二
(72)【発明者】
【氏名】大内 斉
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-360333(JP,A)
【文献】特開2019-007162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 7/00
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート堤体の構築方法であって、
コンクリート打設領域を画定する枠体に沿って第1熱伝達媒体流通管を配置し、
前記第1熱伝達媒体流通管の周囲を覆うように前記コンクリート打設領域にコンクリートを打設し、
前記コンクリートの打設後に前記第1熱伝達媒体流通管に加温媒体を流通させる構築方法であり、
前記枠体は、前記コンクリート堤体の内部に通路を形成する通路部であり
前記第1熱伝達媒体流通管を前記通路部の周囲に配置する、
コンクリート堤体の構築方法。
【請求項2】
コンクリート堤体の構築方法であって、
コンクリート打設領域を画定する枠体に沿って第1熱伝達媒体流通管を配置し、
前記第1熱伝達媒体流通管の周囲を覆うように前記コンクリート打設領域にコンクリートを打設し、
前記コンクリートの打設後に前記第1熱伝達媒体流通管に加温媒体を流通させる方法であり
前記枠体は、前記コンクリート堤体の一部における側面を形成する側面形成型枠であり、
前記第1熱伝達媒体流通管を前記側面形成型枠に沿って配置し、
前記コンクリートの打設後に前記側面形成型枠を撤去して前記側面を露出し、
前記第1熱伝達媒体流通管に前記加温媒体を流通させ、前記側面を加温した状態で前記側面が臨む領域に新たなコンクリートを打設する、
コンクリート堤体の構築方法。
【請求項3】
前記コンクリートの打設前に、前記第1熱伝達媒体流通管よりも前記枠体から離れて第2熱伝達媒体流通管を配置し、
前記第2熱伝達媒体流通管の周囲を覆うように前記コンクリートを打設し、
前記コンクリートの打設後に前記第2熱伝達媒体流通管に冷却媒体を流通させる、
請求項1又は2に記載のコンクリート堤体の構築方法。
【請求項4】
前記第1熱伝達媒体流通管と前記第2熱伝達媒体流通管とを連通し、前記第1熱伝達媒体流通管への流通によって冷却された前記加温媒体を前記冷却媒体として前記第2熱伝達媒体流通管に流通させる、又は前記第2熱伝達媒体流通管への流通によって加温された前記冷却媒体を前記加温媒体として前記第1熱伝達媒体流通管に流通させる、
請求項に記載のコンクリート堤体の構築方法。
【請求項5】
前記コンクリートの打設前に、前記枠体に沿って温度計を配置し、
前記コンクリートの打設後、前記温度計により測定される温度が設定温度より低い場合に、前記第1熱伝達媒体流通管に前記加温媒体を流通させる、請求項1からのいずれか1項に記載のコンクリート堤体の構築方法。
【請求項6】
一年の内の低温季に前記第1熱伝達媒体流通管に前記加温媒体を流通させる、
請求項1からのいずれか1項に記載のコンクリート堤体の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート堤体の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダム堤体の内部には、放流管や監査廊等の通路部が設けられる。特許文献1には、放流管を内部に有するコンクリート堤体を構築する方法が開示されている。特許文献1に開示された方法では、まず、架台を構築して放流管を所定の位置に据付ける。次に、放流管を覆うようにコンクリートを打設する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-261008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
打設されたコンクリートの温度は、水和熱により上昇する。一方、コンクリートの熱は、放流管や監査廊等の通路部の内部や、コンクリート堤体の側面から外部に放出されるため、通路部の周囲及び側面近傍ではコンクリートの温度勾配が大きくなる。温度勾配が大きいと、コンクリートに過大な引張応力が発生し、ひび割れが生じるおそれがある。このような理由から、コンクリートの温度勾配を小さくすることが求められている。
【0005】
本発明は、コンクリートの温度勾配を小さくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、コンクリート堤体の構築方法であって、コンクリート打設領域を画定する枠体に沿って第1熱伝達媒体流通管を配置し、第1熱伝達媒体流通管の周囲を覆うようにコンクリート打設領域にコンクリートを打設し、コンクリートの打設後に第1熱伝達媒体流通管に加温媒体を流通させる構築方法であり、枠体は、コンクリート堤体の内部に通路を形成する通路部であり、第1熱伝達媒体流通管を通路部の周囲に配置する
また、本発明は、コンクリート堤体の構築方法であって、コンクリート打設領域を画定する枠体に沿って第1熱伝達媒体流通管を配置し、第1熱伝達媒体流通管の周囲を覆うようにコンクリート打設領域にコンクリートを打設し、コンクリートの打設後に第1熱伝達媒体流通管に加温媒体を流通させる方法であり、枠体は、コンクリート堤体の一部における側面を形成する側面形成型枠であり、第1熱伝達媒体流通管を側面形成型枠に沿って配置し、コンクリートの打設後に側面形成型枠を撤去して側面を露出し、第1熱伝達媒体流通管に加温媒体を流通させ、側面を加温した状態で側面が臨む領域に新たなコンクリートを打設する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コンクリートの温度勾配を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1実施形態に係る構築方法により構築されるコンクリート堤体の断面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るコンクリート堤体の構築方法を説明するための図であり、(a)は、打設済コンクリートの上方に放流管を据付けた状態を図1に示すIIA-IIA線に沿う断面に対応して示す図であり、(b)は、図2(a)に示すIIB-IIB線に沿う断面図であり、(c)は、図2(a)に示すIIC-IIC線に沿う断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るコンクリート堤体の構築方法を説明するための図であり、(a)は、放流管の周囲を覆うようにコンクリートを打設した状態を図2(a)に対応して示す図であり、(b)は、図3(a)に示すIIIB-IIIB線に沿う断面図であり、(c)は、図3(a)に示すIIIC-IIIC線に沿う断面図である。
図4】設定温度の一例を示すグラフである。
図5】(a)は、本発明の第2実施形態に係る構築方法により構築されるコンクリート堤体の平面図であり、(b)は、図5(a)に示すVB-VB線に沿う断面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係るコンクリート堤体の構築方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係るコンクリート堤体の構築方法について、図面を参照して説明する。
【0010】
<第1実施形態>
まず、図1から図4を参照して、本発明の第1実施形態に係るコンクリート堤体100の構築方法について説明する。コンクリート堤体100の断面図である。
【0011】
図1に示すように、コンクリート堤体100の内部には、放流路2や監査廊3といった通路が設けられる。放流路2における上流側開口及び下流側開口の近傍には、開閉扉4が設けられる。
【0012】
以下では通路が放流路2である場合について説明するが、通路は、監査廊3であってもよい。
【0013】
コンクリート堤体100の構築方法では、まず、コンクリートを所定の高さまで打設する。次に、コンクリートの打設を一旦停止した状態で、放流路2を形成する放流管(通路部)2aを不図示の架台を介して据付ける。次に、放流管2aとして区画される領域の境界に枠体(不図示)を設置して枠体の外側の領域にコンクリートを打設する。コンクリートが硬化した後に枠体は撤去されて放流管2aの区画が構築され、内部が放流路2として確保される。なお、枠体は残置するなどして放流管2aのコンクリート打設領域を画定する放流管2aの一部として機能してもよい。その後、放流管2aにおける上流側開口及び下流側開口の近傍に開閉扉4を設けることにより、コンクリート堤体100が完成する。
【0014】
打設されたコンクリートの温度は、水和熱により上昇する。一方、コンクリートの熱は、放流路2に放出される。そのため、放流管2aの周囲ではコンクリートの温度勾配が大きくなる。温度勾配が大きいと、コンクリートに過大な引張応力が発生し、ひび割れが生じるおそれがある。
【0015】
本実施形態では、後述する構成により、放流管2aの周囲におけるコンクリートを加温する。したがって、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、ひび割れを防止することができる。
【0016】
図2乃至図4を参照して、コンクリート堤体100の構築方法について詳述する。ここでは、打設済コンクリートの上方に放流管2aを不図示の架台を介して据付けた後の工程について説明する。
【0017】
図2及び図3は、コンクリート堤体100の構築方法を説明するための図である。図2(a)は、打設済コンクリートの上方に放流管2aを据付けた状態を図1に示すIIA-IIA線に沿う断面に対応して示す図である。図2(b)は、図2(a)に示すIIB-IIB線に沿う断面図であり、図2(c)は、図2(a)に示すIIC-IIC線に沿う断面図である。図3(a)は、放流管2aの周囲を覆うようにコンクリートを打設した状態を図2(a)に対応して示す図である。図3(b)は、図3(a)に示すIIIB-IIIB線に沿う断面図であり、図3(c)は、図3(a)に示すIIIC-IIIC線に沿う断面図である。
【0018】
コンクリート堤体100の構築方法では、まず、図2に示すように、放流管2aの周囲に、第1熱伝達媒体流通管10、第2熱伝達媒体流通管20及び温度計測用の光ファイバケーブル(温度計)30を配置する。第1熱伝達媒体流通管10及び第2熱伝達媒体流通管20は、例えば電縫鋼管である。第2熱伝達媒体流通管20は、第1熱伝達媒体流通管10よりも放流管2aから離れて配置される。光ファイバケーブル30は、第1熱伝達媒体流通管10と同程度、放流管2a(前述した枠体)から離れて配置される。
【0019】
図2(b)では、第2熱伝達媒体流通管20の図示が省略されており、図2(c)では、第1熱伝達媒体流通管10及び光ファイバケーブル30の図示が省略されている。
【0020】
図2(a)及び(b)に示すように、第1熱伝達媒体流通管10は、上流側と下流側で交互に折り返されて一続きとされた状態で、不図示の架台や鋼材に支持されて据付けられる。図2(a)及び(c)に示すように、第2熱伝達媒体流通管20は、上流側と下流側で交互に折り返されて一続きとされた状態で、不図示の架台や鋼材に支持されて据付けられる。
【0021】
第1熱伝達媒体流通管10は、放流管2aの軸方向に沿って延びるように放流管2aの周方向に間隔を空けて複数配置されていてもよいし、放流管2aの周りに螺旋状に、又は周回して配置されていてもよい。第2熱伝達媒体流通管20も同様である。
【0022】
図2(a)及び(b)に示すように、光ファイバケーブル30は、放流管2aの上方、下方、並びに、放流管2aを上流側から見て放流管2aの左方及び右方に放流管2aの軸方向に沿って配置される。光ファイバケーブル30は、放流管2aの周りに螺旋状に、又は周回して配置されていてもよい。
【0023】
次に、図3に示すように、放流管2aの外側の領域に新たなコンクリートを下から順次に打継ぎ、放流管2a、第1熱伝達媒体流通管10、第2熱伝達媒体流通管20及び光ファイバケーブル30の周囲をコンクリートで覆う。
【0024】
次に、第1熱伝達媒体流通管10を加温媒体槽11に接続する共に、第2熱伝達媒体流通管20を冷却媒体槽21に接続する。加温媒体及び冷却媒体は、例えば水である。また、光ファイバケーブル30を温度測定器31に接続する。
【0025】
コンクリートは、打設後、水和熱を発し、コンクリートの温度が上昇する。コンクリートの熱は、放流管2aから離れるほど放流路2に放出されにくくなるため、コンクリートの温度は放流管2aから離れるほど高くなる。コンクリートの最高到達温度が高過ぎると、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配が大きくなり、ひび割れが生じるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態では、コンクリートの打設後、不図示のモータを用いて冷却媒体ポンプ(冷却媒体供給装置)22を駆動して冷却媒体を第2熱伝達媒体流通管20に流通させる。冷却媒体の温度は、第2熱伝達媒体流通管20の周囲の温度よりも低くなるように調整されており、冷却媒体は、第2熱伝達媒体流通管20に流通することによって第2熱伝達媒体流通管20の周囲を冷却する。第2熱伝達媒体流通管20が第1熱伝達媒体流通管10よりも放流管2aから離れて配置されるため、第1熱伝達媒体流通管10の近傍におけるコンクリートは水和熱を放流路2に放出して冷却される一方で、第2熱伝達媒体流通管20の近傍におけるコンクリートは第2熱伝達媒体流通管20を流通する冷却媒体により冷却される。したがって、コンクリートの最高到達温度を低くすることができ、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、ひび割れを防止することができる。
【0027】
冷却媒体の流通は、打設されたコンクリートの温度が水和熱により最高温度に到達するまで行われる。コンクリートの温度が最高温度に到達したかは、光ファイバケーブル30を用いて測定される温度に基づいて判断される。
【0028】
光ファイバケーブル30には、入射されたパルス光を僅かに後方に散乱させる性質があり、散乱光の周波数は光ファイバケーブル30の温度に依存する。温度測定器31は、光ファイバケーブル30において生じた散乱光の周波数に基づいて温度を測定する。なお、温度の測定は光ファイバケーブ30によらず、光ファイバケーブ30とは異なる温度計を用いてもよいし、熱電対(不図示)と温度測定器31の組合せによって温度を測定してもよい。
【0029】
コンクリートの温度は、最高温度に到達した後、水和熱の放出により徐々に低下する。コンクリートの熱は、放流管2aに近いほど放流路2に放出されやすいため、コンクリートの温度は放流管2aに近いほど低くなる。放流管2aの近傍におけるコンクリートの温度が低くなり過ぎると、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配が大きくなり、ひび割れが生じるおそれがある。
【0030】
そこで、本実施形態では、冷却媒体の流通を停止した後、不図示のモータを用いて加温媒体ポンプ(加温媒体供給装置)12を駆動して加温媒体を第1熱伝達媒体流通管10に流通させる。加温媒体の温度は、第1熱伝達媒体流通管10の周囲の温度よりも高くなるように調整されており、加温媒体は、第1熱伝達媒体流通管10に流通することによって第1熱伝達媒体流通管10の周囲を加温する。そのため、放流管2aの周囲におけるコンクリートは、加温媒体によって加温される。したがって、放流管2aの周囲における温度勾配を小さくすることができる。これにより、ひび割れを防止することができる。
【0031】
加温媒体の流通は、光ファイバケーブル30を用いて測定される温度が予め定められた設定温度より低い場合に行われる。そのため、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度の低下に応じてコンクリートが加温媒体により加温される。したがって、放流管2aの周囲における温度勾配をより小さくすることができる。
【0032】
加温媒体及び冷却媒体の温度は、予め定められた設定温度に媒体温度調節装置40を用いて調節される。媒体温度調節装置40の駆動は、温度測定器(温度制御装置)31から出力された温度情報に基づいて媒体温度管理装置50によって制御される。
【0033】
図4は、設定温度の一例を示すグラフである。図4では、日平均気温が併記されている。日平均気温は冬季の到来に伴って低下する一方で、打設されたコンクリートの温度は最高温度に到達した後は水和熱の発生に対して放出が促進され複数年のスパン(例えば4年程度)かけて徐々に低下して外気温に近づく。コンクリートの打設後1年目の冬季では、コンクリートの温度と日平均気温との差が大きい。そのため、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配を小さくするためにはコンクリートを十分に加温する必要がある。一方で、コンクリートの打設から例えば3年目の冬季では、コンクリートの温度と日平均気温との差は小さい。そのため、コンクリートの打設後1年目の冬季と同じようにコンクリートを加温した場合には、コンクリートを必要以上に加温することになり、コンクリート堤体100の品質低下を招き、また構築コストが増加する。
【0034】
本実施形態では、図4に示すように、設定温度は、コンクリートの打設から時間の経過に伴って低くなるように設定されている。例えば、コンクリートの打設後1年までの期間では、設定温度はT1に設定され、コンクリート打設後1年~2年までの期間では、設定温度はT1よりも低いT2に設定され、コンクリート打設後2年~3年までの期間では、設定温度はT2よりも低いT3に設定される。そのため、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配を小さくしつつ、コンクリートの必要以上の過熱を防止することができる。したがって、ひび割れを防止することができると共にコンクリート堤体100の構築コストを低減することができる。
【0035】
加温媒体を流通させるときには、放流路2における上流側開口及び下流側開口の近傍に開閉扉4(図1参照)を設け、開閉扉4を閉めておくことが好ましい。この場合には、放流路2から熱が逃げるのを防止することができる。したがって、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配をより小さくすることができる。
【0036】
コンクリートの打設から更に十分に時間(例えば4年)が経過し打設されたコンクリートの温度が外気温に近づいた後、加温媒体の流通を停止し、第1熱伝達媒体流通管10及び第2熱伝達媒体流通管20にグラウトを充填する。
【0037】
以上により、コンクリート堤体100の構築が完了する。
【0038】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0039】
本実施形態では、放流管2aの周囲に配置された第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させる。そのため、放流管2aの周囲におけるコンクリートは、加温媒体によって加温される。したがって、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、ひび割れを防止することができる。
【0040】
また、第1熱伝達媒体流通管10よりも放流管2aから離れて第2熱伝達媒体流通管20を配置し、コンクリートの打設後に第2熱伝達媒体流通管20に冷却媒体を流通させる。第1熱伝達媒体流通管10の近傍におけるコンクリートは水和熱を放流路2に放出して冷却される一方で、第2熱伝達媒体流通管20の近傍におけるコンクリートは第2熱伝達媒体流通管20を流通する冷却媒体により冷却される。したがって、コンクリートの最高到達温度を低くすることができ、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、ひび割れを防止することができる。
【0041】
また、放流管2aに沿ってコンクリートに光ファイバケーブル30を配置し、光ファイバケーブル30を用いて測定される温度が設定温度より低い場合に、第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させる。そのため、放流管2aの周囲におけるコンクリートの温度の低下に応じてコンクリートが加温媒体により加温される。したがって、放流管2aの周囲における温度勾配をより小さくすることができる。
【0042】
上記の実施形態では、光ファイバケーブル30を用いて測定される温度に基づいて加温媒体の流通を制御しているが、光ファイバケーブル30を用いて測定される温度を用いず、一年の内の低温季に加温媒体を流通させてもよい。この場合には、光ファイバケーブル30及び温度測定器31が不要になり、コンクリート堤体100の構築コストを低減することができる。低温季は、例えば、日平均気温が5℃以下となる期間である。低温季は、日平均気温が年平均気温以下となる期間であってもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、打設されたコンクリートの温度が水和熱により最高温度に到達するまで冷却媒体を第2熱伝達媒体流通管20に流通させるが、最高温度に到達した後も冷却媒体を第2熱伝達媒体流通管20に流通させてもよい。つまり、冷却媒体を第2熱伝達媒体流通管20に流通させた状態で加温媒体を第1熱伝達媒体流通管10に流通させてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、第2熱伝達媒体流通管20に冷却媒体を流通させてコンクリートを冷却しているが、第2熱伝達媒体流通管20に冷却媒体を流通させなくてもよい。この場合には、第2熱伝達媒体流通管20を放流管2aの周囲に配置しなくてもよい。
【0045】
また、上記実施形態では、打設されたコンクリートの温度が水和熱により最高温度に到達した後に第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させているが、打設されたコンクリートの温度が水和熱により最高温度に到達する前に第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させてもよい。
【0046】
また、第1熱伝達媒体流通管10と第2熱伝達媒体流通管20とを互いに接続して連通し、第1熱伝達媒体流通管10への流通によって冷却された加温媒体(熱伝達媒体)を冷却媒体として第2熱伝達媒体流通管20に流通させる、又は第2熱伝達媒体流通管20への流通によって加温された冷却媒体(熱伝達媒体)を加温媒体として第1熱伝達媒体流通管10に流通させてもよい。つまり、第1熱伝達媒体流通管10及び第2熱伝達媒体流通管20の一方に流通した熱伝達媒体(水)を他方に流通させてもよい。第2熱伝達媒体流通管20に冷却媒体として熱伝達媒体(水)を流通させつつ、温度が上昇した熱伝達媒体(水)を加温媒体として第1熱伝達媒体流通管10に流通させても、第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体として熱伝達媒体(水)を流通させつつ、温度が降下した熱伝達媒体(水)を冷却媒体として第2熱伝達媒体流通管20に流通させても、放流管2aの周囲における温度勾配をより小さくすることができる。加えて、媒体温度調節装置40を用いた熱伝達媒体の温度調節が不要になるため、コンクリート堤体100の構築コストを低減することができる。
【0047】
第1熱伝達媒体流通管10への流通によって冷却された加温媒体(熱伝達媒体)を冷却媒体として第2熱伝達媒体流通管20に流通させると共に、第2熱伝達媒体流通管20への流通によって加温された冷却媒体(熱伝達媒体)を加温媒体として第1熱伝達媒体流通管10に流通させてもよい。つまり、第1熱伝達媒体流通管10と第2熱伝達媒体流通管20との間で熱伝達媒体(水)を循環させてもよい。この場合にも、放流管2aの周囲における温度勾配をより小さくすることができると共に、コンクリート堤体100の構築コストを低減することができる。
【0048】
<第2実施形態>
次に、図5及び図6を参照して、本発明の第2実施形態に係るコンクリート堤体200の構築方法について説明する。図5(a)は、コンクリート堤体200の平面図であり、図5(b)は、図5(a)に示すVB-VB線に沿う断面図である。図5(a)及び図5(b)では、図1に示す放流路2及び監査廊3の図示を省略している。
【0049】
図5(a)及び(b)に示すように、コンクリート堤体200は、上流側から見て左側に構築される左岸側堤体201と、右側に構築される右岸側堤体202と、を備えている。コンクリート堤体200の構築方法では、まず、左岸側堤体201を構築し、その後、右岸側堤体202を構築する。
【0050】
左岸側堤体201における水和熱は、右岸側堤体202が構築されていない状態では、左岸側堤体201の右側面201aから放出される。そのため、左岸側堤体201における右側面201a付近ではコンクリートの温度勾配が生じる。温度勾配が大きいと、コンクリートに過大な引張応力が発生し、左岸側堤体201にひび割れが生じるおそれがある。
【0051】
また、右岸側堤体202の構築は、左岸側堤体201の構築完了後(例えば3年程度の時間差)に開始される。そのため、左岸側堤体201の水和熱は放出され左岸側堤体201の温度は低下している。この状態で右岸側堤体202を構築すると、右岸側堤体202の左側面202aが左岸側堤体201により冷却され、右岸側堤体202の左側面202a付近ではコンクリートの温度勾配が生じる。温度勾配が大きいと、コンクリートに過大な引張応力が発生し、右岸側堤体202にひび割れが生じるおそれがある。
【0052】
本実施形態では、後述する構成により、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートを加温する。したがって、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、左岸側堤体201のひび割れを防止することができる。
【0053】
また、右岸側堤体202の構築時には、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートを加温した状態で右岸側堤体202のコンクリートを打設する。したがって、右岸側堤体202の左側面202a付近におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、右岸側堤体202のひび割れを防止することができる。
【0054】
図6は、コンクリート堤体200の構築方法を説明するための図である。図6(a)、(c)及び(e)は、図5(b)に対応して示す断面図であり、図6(b)、(d)及び(f)は、それぞれ、図6(a)、(c)及び(e)に示すVIB-VIB線、VID-VID線及びVIF-VIF線に沿う断面図である。図6において、2点鎖線は、左岸側堤体201及び右岸側堤体202の最終的な輪郭を示す。
【0055】
コンクリート堤体200の構築方法では、まず、図6(a)及び(b)に示すように、枠体261aを左岸から離して地盤上に配置し、枠体261bを左岸と枠体261aとの間に渡って配置し、枠体261cを左岸と枠体261aとの間に渡って枠体261bよりも下流側に配置する。左岸と枠体261a,261b,261cとによって、左岸側堤体201を構築するためのコンクリート打設領域が画定される。枠体261a,261b,261cは、それぞれ、左岸側堤体201の右側面201a、下流側面201b及び上流側面201cを形成する側面形成型枠である。
【0056】
次に、枠体261aに沿って第1熱伝達媒体流通管10を配置する。第1熱伝達媒体流通管10は、上流側と下流側で交互に折り返されて一続きとされた状態で、不図示の架台や鋼材に支持されて据付けられる。
【0057】
次に、左岸と枠体261a,261b,261cとによって画定されるコンクリート打設領域にコンクリートを打設する。これにより、第1熱伝達媒体流通管10の周囲がコンクリートにより覆われる。
【0058】
図示を省略するが、コンクリートの硬化後、枠体261a,261b,261cを上方にスライドさせて新たなコンクリート打設領域を画定し、新たな第1熱伝達媒体流通管10を枠体261aに沿って配置し、コンクリート打設領域に新たにコンクリートを打設する。
【0059】
コンクリート打設領域の画定、第1熱伝達媒体流通管10の配置、及びコンクリートの打設を繰り返すことにより、図6(c)及び(d)に示すように、左岸側堤体201におけるコンクリートの打設が完了する。左岸側堤体201におけるコンクリートの打設完了後、枠体261a,261b,261cを撤去し、左岸側堤体201の右側面201a、下流側面201b及び上流側面201cを露出する。なお、枠体261a,261b、261cは撤去せずに、例えば、埋設型枠として残置しておいてもよい。
【0060】
次に、加温媒体を第1熱伝達媒体流通管10に流通させる。第1熱伝達媒体流通管10は、左岸側堤体201の右側面201aを形成する枠体261aに沿って配置されるため、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートは、加温媒体によって加温される。したがって、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、左岸側堤体201のひび割れを防止することができる。
【0061】
加温媒体を流通させるときには、第1実施形態と同様に、第1熱伝達媒体流通管10を図3に示す加温媒体槽11に接続し、不図示のモータを用いて加温媒体ポンプ12を駆動すればよい。
【0062】
次に、図6(e)及び(f)に示すように、枠体262bを右岸と左岸側堤体201との間に渡って配置し、枠体262cを右岸と左岸側堤体201との間に渡って枠体262bよりも上流側に配置する。右岸と左岸側堤体201の右側面201aと枠体262b,262cとによって、右岸側堤体202を構築するためのコンクリート打設領域が画定される。つまり、左岸側堤体201の右側面201aは、右岸側堤体202の左側面202aを形成する側面形成型枠として機能する。
【0063】
次に、第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させ左岸側堤体201の右側面201aを加温媒体した状態で、右岸と左岸側堤体201の右側面201aと枠体262b,262cとによって画定されるコンクリート打設領域に新たなコンクリートを打設する。そのため、左岸側堤体201による右岸側堤体202の左側面202aの冷却を防止することができる。したがって、右岸側堤体202の左側面202a付近におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、右岸側堤体202のひび割れを防止することができる。
【0064】
コンクリートの硬化後、枠体262b,262cを上方にスライドさせて新たなコンクリート打設領域を画定し、コンクリートを打設する。コンクリート打設領域の画定、及びコンクリートの打設を繰り返すことにより、右岸側堤体202におけるコンクリートの打設が完了する。
【0065】
右岸側堤体202におけるコンクリートは、加温媒体を第1熱伝達媒体流通管10に流通させながら打設してもよいし、左岸側堤体201の右側面201aが十分に加温されている場合には第1熱伝達媒体流通管10への加温媒体の流通を停止した状態で打設してもよい。
【0066】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0067】
本実施形態では、第1熱伝達媒体流通管10を、左岸側堤体201の右側面201aを形成する枠体261aに沿って配置する。そのため、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートは、加温媒体によって加温される。したがって、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、左岸側堤体201のひび割れを防止することができる。
【0068】
また、本実施形態では、第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させて左岸側堤体201の右側面201aを加温した状態で、右側面201aが臨む領域に新たなコンクリートを打設する。そのため、左岸側堤体201による右岸側堤体202の左側面202aの冷却を防止することができる。したがって、右岸側堤体202の左側面202a付近におけるコンクリートの温度勾配を小さくすることができる。これにより、右岸側堤体202のひび割れを防止することができる。
【0069】
上記の実施形態では、左岸側堤体201を構築した後に右岸側堤体202を構築する場合について説明したが、本発明は、右岸側堤体202を構築した後に左岸側堤体201を構築する場合についても適用可能である。
【0070】
第2実施形態において、第1実施形態と同様に、左岸側堤体201のコンクリートの打設前に、第2熱伝達媒体流通管20を第1熱伝達媒体流通管10よりも枠体261aから離れて配置し、コンクリートの打設後に第2熱伝達媒体流通管20に冷却媒体を流通させてもよい。
【0071】
第2熱伝達媒体流通管20を第1熱伝達媒体流通管10よりも枠体261aから離れて配置する場合には、第1熱伝達媒体流通管10と第2熱伝達媒体流通管20とを互いに接続して連通し、第1熱伝達媒体流通管10及び第2熱伝達媒体流通管20の一方に流通した熱伝達媒体(水)を他方に流通させてもよい。第1熱伝達媒体流通管10と第2熱伝達媒体流通管20との間で熱伝達媒体(水)を循環させてもよい。この場合、左岸側堤体201の右側面201a付近におけるコンクリートの温度勾配をより小さくすることができると共に、コンクリート堤体200の構築コストを低減することができる。
【0072】
また、第2実施形態において、第1実施形態と同様に、左岸側堤体201のコンクリートの打設前に、光ファイバケーブル30を枠体261aに沿って配置し、コンクリートの打設後、光ファイバケーブル30を用いて測定される温度が設定温度より低い場合に第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させてもよい。
【0073】
一年の内の低温季に加温媒体を第1熱伝達媒体流通管10に流通させてもよい。
【0074】
また、第2実施形態において、右岸側堤体202のコンクリートの打設前に、第1熱伝達媒体流通管10を左岸側堤体201の右側面201aに沿って配置し、コンクリートの打設後に第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させてもよい。この場合、右岸側堤体202のコンクリートの打設前に、第2熱伝達媒体流通管20を第1熱伝達媒体流通管10よりも左岸側堤体201の右側面201aから離れて配置し、コンクリートの打設後に第2熱伝達媒体流通管20に冷却媒体を流通させてもよい。またこの場合、右岸側堤体202のコンクリートの打設前に、光ファイバケーブル30を左岸側堤体201の右側面201aに沿って配置し、コンクリートの打設後、光ファイバケーブル30を用いて測定される温度が設定温度より低い場合に第1熱伝達媒体流通管10に加温媒体を流通させてもよい。
【0075】
第2熱伝達媒体流通管20を第1熱伝達媒体流通管10よりも左岸側堤体201の右側面201aから離れて配置する場合には、第1熱伝達媒体流通管10と第2熱伝達媒体流通管20とを互いに接続して連通し、第1熱伝達媒体流通管10及び第2熱伝達媒体流通管20の一方に流通した熱伝達媒体(水)を他方に流通させてもよい。第1熱伝達媒体流通管10と第2熱伝達媒体流通管20との間で熱伝達媒体(水)を循環させてもよい。この場合、右岸側堤体202の左側面202a付近におけるコンクリートの温度勾配をより小さくすることができると共に、コンクリート堤体200の構築コストを低減することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0077】
100,200・・・コンクリート堤体
2a・・・放流管(枠体、通路部)
10・・・第1熱伝達媒体流通管
20・・・第2熱伝達媒体流通管
30・・・光ファイバケーブル(温度計)
201・・・左岸側堤体
201a・・・右側面
202・・・右岸側堤体
202a ・・・左側面
261a ・・・枠体(側面形成型枠)
図1
図2
図3
図4
図5
図6