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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-18
(45)【発行日】2024-04-26
(54)【発明の名称】変位の計測用治具
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20240419BHJP
   G01B 5/00 20060101ALI20240419BHJP
【FI】
E04G21/12 104F
E04G21/12 104B
G01B5/00 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021045057
(22)【出願日】2021-03-18
(65)【公開番号】P2022144163
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本谷 幸康
(72)【発明者】
【氏名】西宮 暁
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 将人
【審査官】櫻井 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-147302(JP,A)
【文献】鈴木 聡(他3名),緊張管理の精度向上・省力化を目指して ~主ケーブル用の全自動緊張管理システムの開発~,川田技報,Vol.39,川田テクノロジーズ株式会社,2020年12月31日,論文・報告 6-1~6-6
【文献】齋藤 公生(他3名),緊張管理図自動作成システムの開発と緊張中の圧力損失について,プレストレストコンクリート工学会 第21回シンポジウム論文集,公益社団法人プレストレストコンクリート工学会,2012年10月31日,p.307-310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G21/12、21/18
G01B5/00
E01D1/00
E04C5/00-5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊張ジャッキによりPC鋼より線を緊張することで緊張力を導入する際に計測される変位の計測用治具であって、
前記PC鋼より線に着脱自在に固定される固定部と、
前記固定部から突出するように取り付けられる棒材部と、
前記緊張ジャッキに取り付けられた変位計から延伸される計測用ワイヤの端部を前記棒材部に係止させる係止部とを備え
前記固定部は、前記PC鋼より線の周面を覆う円筒状又は半円筒状の本体部と、前記本体部にねじ込まれて先端を前記PC鋼より線に接触させる固定ボルト部とを有するものであって、
前記本体部は、円筒状の内管と、前記内管より短い外管とによって二重管構造となっていて、前記内管が前記PC鋼より線に着脱自在に固定されるとともに、前記外管に前記棒材部が取り付けられて、前記外管は前記内管に対して回転自在で任意の位置に固定できることを特徴とする変位の計測用治具。
【請求項2】
前記固定ボルト部は、前記PC鋼より線を挟んで少なくとも一対が設けられることを特徴とする請求項に記載の変位の計測用治具。
【請求項3】
前記係止部は、前記棒材部に沿って移動自在となるように設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の変位の計測用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊張ジャッキによりPC鋼より線を緊張することで緊張力を導入する際に計測される変位の計測用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、コンクリート構造体に圧縮応力を作用させるプレストレストコンクリートを構築する際に、コンクリート構造体に埋設されたPC鋼より線の端部を緊張ジャッキにより緊張することで、緊張力を導入する作業が行われることが知られている。
【0003】
このPC鋼より線の緊張管理では、緊張ジャッキの緊張時に圧力とPC鋼より線の伸び量が計測される。一般的には、圧力は圧力計(マノメータ)で計測され、伸び量はスケール(定規)による読み値で管理を行っているが、計測誤差やヒューマンエラーの排除、信頼性の確保、省力化などの観点から自動計測の実施が求められることがある。
【0004】
そこで、圧力は油圧計で計測し、伸び量はワイヤー式の変位計を用いることで、自動計測が可能になる。このワイヤー式の変位計については、堅固な治具でしっかり固定しなければ、正確なデータを取得することはできない。
【0005】
一方において、プレストレスを付与するために構造物に配置されるPC鋼より線は、多数箇所にわたって配置されることが一般的で、その都度、堅固に固定された変位計を撤去して、移動後に設置して調整するには、労力を要し、作業効率が低下することになる。
【0006】
そこで、非特許文献1に開示されているように、ワイヤー式の変位計の計測用ワイヤの先端とPC鋼より線とを接続するための治具として、ワニ型クリップが使用されたり、変位計を緊張ジャッキに取り付けるためにマグネット式の治具が使用されたりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-60934号公報
【文献】特開平9-217493号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】鈴木聡、外3名、「緊張管理の精度向上・省力化を目指して ~主ケーブル用の全自動緊張管理システムの開発~」、川田技報、Vol.39,2020、6-1-6-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ワニ型クリップによる固定は、設置しやすいという利点はあるが、緊張時の衝撃や作業中の接触により、固定箇所が容易に動いてしまうという欠点もある。要するに、固定度と調整機能の両方に優れた治具は存在しない。
【0010】
そこで、本発明は、緊張ジャッキによりPC鋼より線を緊張して緊張力を導入する際にPC鋼より線の変位を計測するために、簡易かつ堅固に設置作業を行うことが可能であるうえに、正確な計測を行うことができるようになる変位の計測用治具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の変位の計測用治具は、緊張ジャッキによりPC鋼より線を緊張することで緊張力を導入する際に計測される変位の計測用治具であって、前記PC鋼より線に着脱自在に固定される固定部と、前記固定部から突出するように取り付けられる棒材部と、前記緊張ジャッキに取り付けられた変位計から延伸される計測用ワイヤの端部を前記棒材部に係止させる係止部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
ここで、前記固定部は、前記PC鋼より線の周面を覆う円筒状又は半円筒状の本体部と、前記本体部にねじ込まれて先端を前記PC鋼より線に接触させる固定ボルト部とを有する構成とすることができる。また、前記固定ボルト部は、前記PC鋼より線を挟んで少なくとも一対が設けられることが好ましい。
【0013】
さらに、前記本体部は、円筒状の内管と、前記内管より短い外管とによって二重管構造となっていて、前記内管が前記PC鋼より線に着脱自在に固定されるとともに、前記外管に前記棒材部が取り付けられて、前記外管は前記内管に対して回転自在で任意の位置に固定できる構成であってもよい。
【0014】
そして、前記係止部は、前記棒材部に沿って移動自在となるように設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
このように構成された本発明の変位の計測用治具は、PC鋼より線に着脱自在に固定される固定部と、固定部から突出するように取り付けられる棒材部と、緊張ジャッキに取り付けられた変位計から延伸される計測用ワイヤの端部を棒材部に係止させる係止部とを備えている。
【0016】
このため、PC鋼より線に固定部によって簡易かつ堅固に設置できるうえに、棒材部に設けられる係止部によってPC鋼より線と計測用ワイヤとが並行になるようにすることで、正確な計測を行うことができるようになる。
【0017】
また、固定部がPC鋼より線の周面を覆う円筒状又は半円筒状の本体部と、本体部にねじ込まれて先端をPC鋼より線に接触させる固定ボルト部とによって構成されていれば、容易に堅固な設置を行うことができる。特に、固定ボルト部は、PC鋼より線を挟んで少なくとも一対が設けられていれば、より堅固な固定とすることができる。
【0018】
さらに、本体部が円筒状の内管と外管との二重管構造となっていて、PC鋼より線に固定される内管に対して棒材部が取り付けられる外管が回転自在で任意の位置に固定できるようになっていれば、様々な方向に延伸されるPC鋼より線に対して、計測用ワイヤをねじらせることなく配置することが容易にできる。
【0019】
また、係止部が棒材部に沿って移動自在となるように設けられていれば、計測用ワイヤの端部の位置を調整することで、PC鋼より線と計測用ワイヤとを容易に並行にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施の形態の変位の計測用治具を使用したPC鋼より線の緊張作業の状況を示した説明図である。
図2】緊張ジャッキに取り付けられる変位計の取り付け状態を説明する拡大図である。
図3】本実施の形態の変位の計測用治具の構成を説明するための側面図である。
図4】本実施の形態の変位の計測用治具の構成を説明するための正面図である。
図5】本実施の形態の変位の計測用治具の構成を説明するための平面図である。
図6】実施例1の変位の計測用治具の構成を説明するための正面図である。
図7】実施例1の変位の計測用治具の構成を説明するための側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の変位の計測用治具3を使用したPC鋼より線Wの緊張作業の状況を示した説明図である。また、図2は、緊張ジャッキ1に取り付けられる変位計2の取り付け状態を説明する拡大図である。さらに、図3図5は、本実施の形態の変位の計測用治具3の構成を説明するための側面図、正面図及び平面図である。
【0022】
図1は、コンクリート構造体となるPC構造物Mに対して、複数のPC鋼より線(マルチストランド)を介して圧縮応力を作用させる際の作業状況を示している。このようなプレストレストコンクリートとなるPC構造物Mを構築する際には、PC構造物Mの内部に挿入されて端部が外部に突出されたPC鋼より線Wを、緊張ジャッキ1により緊張して緊張力を導入する作業が行われる。
【0023】
緊張ジャッキ1により緊張されるPC鋼より線Wは、最終的にはアンカーヘッドとなる定着部Kに端部が固定されることで定着されることになるが、その緊張力は、正確に緊張管理がされる。
【0024】
すなわち、緊張ジャッキ1の緊張時には、圧力と、PC鋼より線Wの伸び量が計測される。ここで、緊張ジャッキ1には、油圧ジャッキが使用される。そして、圧力も、油圧計によって計測することができる。
【0025】
一方、PC鋼より線Wの伸び量となる変位については、ワイヤー式の変位計2によって計測される。ワイヤー式の変位計2は、計測用ワイヤ21が繰り出される量によって変位を計測する計器で、変位計2と計測用ワイヤ21の端部211とがそれぞれしっかりと固定されていないと、それらが取り付けられた物体の変位を正確に計測することができない。
【0026】
ここで、緊張ジャッキ1は、円筒状のジャッキ本体11と、ジャッキ本体11に対して出入りするシリンダであるジャッキラム12とを備えている。そして、ジャッキ本体11は、PC構造物Mに対して相対的に移動することがなく不動点となる。他方、ジャッキラム12の端部は、ジャッキ本体11に対して相対的に変位することになる。
【0027】
そこで、変位計2を不動点となるジャッキ本体11に固定し、そこから引き出される計測用ワイヤ21の端部211をPC鋼より線Wに対して固定する。ここで、緊張力の導入に使用されるPC鋼より線Wが複数本の束のマルチストランドであっても、それらはジャッキラム12の端部にすべて固定されるので、マルチストランドの中の1本のPC鋼より線Wに対して計測用ワイヤ21の端部211の位置が固定されるようにすればよい。
【0028】
変位計2は、図2の拡大図に示すように、ジャッキ本体11に取り付けられる。変位計2は、ジャッキ本体11に対して計測中にずれが生じないように固定されるのであれば、どのように固定されていてもよい。
【0029】
例えば、マグネット式の固定スタンド22から張り出されたフランジ部221に変位計2を取り付ける。固定スタンド22の磁力が強力であれば、変位計2をジャッキ本体11にしっかりと固定することができる。また、必要に応じて、固定スタンド22とジャッキ本体11とをまとめて囲繞する補強バンドを使うことで、固定度を高めることもできる。
【0030】
一方、PC鋼より線Wに対する固定は、計測用治具3を使って行う。PC鋼より線Wは、複数の鋼線を撚って製作されており、周面に凹凸が存在している。このようなPC鋼より線Wに対して、着脱が簡易で、かつ堅固となるような計測用治具3を取り付ける。
【0031】
本実施の形態の変位の計測用治具3は、図3図5に示すように、PC鋼より線Wに着脱自在に固定される固定部30と、固定部30から突出するように取り付けられる棒材部4と、緊張ジャッキ1に取り付けられた変位計2から延伸される計測用ワイヤ21の端部211を棒材部4に係止させる係止部5とによって、主に構成される。
【0032】
本実施の形態の固定部30は、PC鋼より線Wの周面を覆う円筒状の本体部31と、本体部31にねじ込まれて先端をPC鋼より線Wに接触させる固定ボルト部(32,33)とによって、主に構成される。
【0033】
詳細には、本体部31は、円筒状の内管311と、内管311より短い外管312とによって二重管構造に形成される。外管312は、内管311の長手方向の略中央に配置される。
【0034】
内管311の内径は、PC鋼より線Wの外径より一回り大きく、内管311の中空にPC鋼より線Wが挿入される。また、外管312の内径は、内管311の外径より一回り大きく、外管312の中空に内管311が挿入される。
【0035】
内管311には、先端をPC鋼より線Wの周面に接触させるための固定ボルト部(32,33)が装着される。ここで、ねじ込みを容易にするノブが設けられた固定ボルトを、ノブ付きボルト32とする。一方、端面に六角穴が設けられた短い固定ボルトを、短ボルト33とする。
【0036】
ノブ付きボルト32は、図3及び図5に示すように、外管312を挟んだ両側に設けられ、このノブ付きボルト32を先行して回すことで、ノブ付きボルト32の先端をPC鋼より線Wの外周面に押し付けて、仮固定させることができる。
【0037】
一方、短ボルト33は、図4に示すように、PC鋼より線Wを挟んでノブ付きボルト32や他の短ボルト33の反対側に取り付けられる。すなわち、PC鋼より線Wをノブ付きボルト32又は短ボルト33と短ボルト33とによって挟むことで、PC鋼より線Wに対して強固に内管311を固定することができるようになる。
【0038】
ノブ付きボルト32及び短ボルト33を挿入する内管311の周面に設けられた穴に対しては、それぞれ取付ナット34が接合されている。すなわち、ノブ付きボルト32や短ボルト33は、この取付ナット34にねじ込まれることで、内管311に装着される。なお、短ボルト33は、端面の六角穴に六角レンチなどを挿し込むことで、回すことができる。また、内管311の肉厚が厚く、ネジ溝が設けられる場合は、取付ナット34を省略することもできる。
【0039】
例えば図4に示すように、ノブ付きボルト32や短ボルト33の先端によって、PC鋼より線Wが周方向に90度間隔で押さえられていれば、内管311及びそれを含む固定部30は、PC鋼より線Wに対して、安定して固定されることになる。
【0040】
また、固定を解除する場合も、ノブ付きボルト32や短ボルト33を緩めるだけなので、簡単に行うことができる。また、固定に使用されるすべてのノブ付きボルト32及び短ボルト33を緩めなくても、一部のノブ付きボルト32や短ボルト33を緩めるだけで、PC鋼より線Wに対して回転させたりスライドさせたりすることができる。
【0041】
一方、外管312は、少なくとも中央管部312aが内管311の軸周りに回転自在となるように装着される。中央管部312aには、例えばキャンディ型のノブが付いた回転調整ボルト35が取り付けられる。回転調整ボルト35がねじ込まれると、先端は内管311の外周面に接触して、内管311に対して外管312の中央管部312aを任意の位置(回転角度)で固定することができる。
【0042】
また、内管311の軸方向への外管312全体の移動については、例えば端面に六角穴が設けられた止めネジ36を中央管部312aの両側に配置された端管部312bにねじ込んで、先端を内管311の外周面に接触させることで防止する。
【0043】
このようにして任意の角度で内管311に対して固定できる外管312には、外管312の軸方向に対して直交する方向に延伸されるように、中央管部312aに棒材部4を取り付ける。棒材部4は、例えば寸切りボルトによって形成されていて、中央管部312aに接合された取付ナット37に、棒材部4の先端をねじ込むことで、棒材部4を固定部30に固定することができる。
【0044】
すなわち、棒材部4は、内管311をPC鋼より線Wに固定した後に、外管312ごと回転させることで、任意の角度に傾けて固定することができる。棒材部4の長さは任意に設定することができるが、傾けて使用することも想定すると、長めに設けておくことで、適用範囲を広くすることができる。
【0045】
棒材部4には、計測用ワイヤ21の端部211を装着又は引っ掛けるための係止部5が設けられる。寸切りボルトのように棒材部4の周面にネジ溝が設けられている場合は、係止部5を一対のナット(51,52)によって形成することができる。
【0046】
すなわち、上ナット51と下ナット52との隙間に、計測用ワイヤ21のリング状又はフック状の端部211を配置することで、端部211が棒材部4から外れないようにすることができる。また、上ナット51及び下ナット52は、回転させるだけで棒材部4に沿って移動させることができ、棒材部4の軸方向の任意の位置に、計測用ワイヤ21の端部211を係止させることができる。
【0047】
次に、本実施の形態の変位の計測用治具3を使用した変位計2の設置方法について説明する。
まず、図1に示すように、PC構造物Mのプレストレスを付与したい箇所から突出しているPC鋼より線Wに定着部Kとなるアンカーヘッドを装着する。通常は、複数本のPC鋼より線Wが束になったマルチストランドとなっており、その1束に対して1つの定着部Kを装着する。
【0048】
続いて、定着部Kから突出したPC鋼より線Wに対して、緊張ジャッキ1をセッティングする。すなわち、緊張ジャッキ1のジャッキ本体11の端部を定着部Kに押し当てて、PC鋼より線Wに緊張力が導入される直前の初期状態になるまでジャッキラム12を伸長させて、ジャッキラム12の端部にクサビを介してPC鋼より線Wを把持させる。
【0049】
続いて、緊張ジャッキ1のジャッキ本体11の外周面において、ジャッキラム12に近い位置に、変位計2が取り付けられた固定スタンド22を磁力によって固定する。さらに、必要に応じて、ゴムバンドなどの補強バンドによって、固定スタンド22とジャッキ本体11とを一回りさせて締め付ける。これにより変位計2は、ジャッキ本体11に対して移動することがなくなる。
【0050】
一方、ジャッキラム12の端部から突出している複数のPC鋼より線Wに対しては、変位計2から近い位置にあるものなど1本を選んで、計測用治具3の固定部30を取り付ける。詳細には、選んだ1本のPC鋼より線Wの端部を、本体部31の内管311に挿し込む。
【0051】
続いて内管311をPC鋼より線Wに沿ってジャッキラム12側に移動させ、安定する位置でノブ付きボルト32(図3参照)を回して、内管311をPC鋼より線Wに対して仮固定する。そして、下ナット52が取り付けられた棒材部4に対して、変位計2から繰り出された計測用ワイヤ21の端部211を装着して、上から上ナット51をねじ込む。
【0052】
ここで、計測用ワイヤ21は、伸び量を計測するPC鋼より線Wに対して平行に配置されることが理想である。ただし、PC鋼より線Wに対して、数学的な厳密な平行にすることは難しい場合もあるので、平行及び平行に近い状態を並行と表現する。
【0053】
計測用ワイヤ21を固定部30が取り付けられたPC鋼より線Wに並行にするには、係止部5の高さが重要になる。そこで、ナット(51,52)を回転させることで、係止部5を適切な位置に棒材部4に沿って移動させる。
【0054】
また、計測用ワイヤ21に傾きやねじれが生じている場合などには、内管311に対して外管312の中央管部312aが回転自在になる状態にして、棒材部4を傾けることで、計測用ワイヤ21が真っすぐになる位置を見つける。そして、回転調整ボルト35を回すことで、内管311に対して外管312の中央管部312aの位置を固定する。
【0055】
このような各所の調整によって、計測用ワイヤ21が固定部30が取り付けられたPC鋼より線Wに並行になっていることを確認した後に、短ボルト33を六角レンチで回して内管311をPC鋼より線Wに強固に固定する。
【0056】
このようにして変位計2及び計測用ワイヤ21の端部211が堅固に固定された状態で、ジャッキラム12を伸長させることで、PC鋼より線Wの束(マルチストランド)を緊張する。
【0057】
緊張作業は、油圧計によって計測される圧力と、変位計2で計測されるPC鋼より線Wの変位(伸び量)を監視しながら、所望する緊張力が導入される値になるまで、緊張管理しながら行われる。
【0058】
そして、緊張後にPC鋼より線Wを定着部Kで定着させた後には、計測用治具3及び変位計2を取り外し、緊張ジャッキ1も撤去する。続いて、次の緊張作業箇所に移動して、緊張ジャッキ1の設置、並びに変位計2及び計測用治具3の設置を行う。
【0059】
次に、本実施の形態の変位の計測用治具3の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の変位の計測用治具3は、PC鋼より線Wに着脱自在に固定される固定部30と、固定部30から突出するように取り付けられる棒材部4と、緊張ジャッキ1に取り付けられた変位計2から延伸される計測用ワイヤ21の端部211を棒材部4に係止させる係止部5とを備えている。
【0060】
このため、PC鋼より線Wに固定部30によって簡易かつ堅固に設置できるうえに、棒材部4に設けられる係止部5によってPC鋼より線Wと計測用ワイヤ21とが並行になるようにすることで、正確な計測を行うことができるようになる。
【0061】
また、固定部30がPC鋼より線Wの周面を覆う円筒状の本体部31と、本体部31にねじ込まれて先端をPC鋼より線Wに接触させる固定ボルト部(32,33)とによって構成されていれば、容易に堅固な設置や解除を行うことができる。特に、固定ボルト部(32,33)は、PC鋼より線Wを挟んで対峙した位置に少なくとも一対が設けられていれば、より堅固な固定とすることができる。
【0062】
さらに、本体部31が円筒状の内管311と外管312との二重管構造となっていて、PC鋼より線Wに固定される内管311に対して、棒材部4が取り付けられる外管312の例えば中央管部312aが回転自在で任意の位置に固定できるようになっていれば、様々な方向に延伸されるPC鋼より線Wに対して、計測用ワイヤ21を傾けたりねじらせたりすることなく配置する調整が容易にできる。
【0063】
また、係止部5が棒材部4に沿って移動自在となるように設けられていれば、計測用ワイヤ21の端部211の位置を高さ方向で調整することで、PC鋼より線Wと計測用ワイヤ21とを容易に並行にすることができる。
【実施例1】
【0064】
以下、前記実施の形態で説明した変位の計測用治具3とは別の形態の実施例1の変位の計測用治具3Aについて、図6及び図7を参照しながら説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は同一符号を用いて説明する。
【0065】
本実施例1で説明する変位の計測用治具3Aは、固定部30Aが前記実施の形態で説明した固定部30と異なり、図6に示すように、半円筒状の本体部31Aに形成されている。すなわち固定部30Aは、PC鋼より線Wの周面の約半周分を覆う半円筒状の本体部31Aと、本体部31Aにねじ込まれて先端をPC鋼より線Wに接触させる固定ボルト部(32,33)とによって、主に構成される。
【0066】
詳細には、本体部31Aは、半円筒状の内管311Aと、内管311Aより短い外管312Aとによって、半割れの二重管構造に形成される。外管312Aは、内管311Aの長手方向の略中央に配置される。
【0067】
内管311Aの内径は、PC鋼より線Wの外径より一回り大きく、内管311AによってPC鋼より線Wが、ノブ付きボルト32が装着される位置から反対側の短ボルト33が装着される位置まで覆われる。
【0068】
また、外管312Aの内径は、内管311Aの外径より一回り大きく、内管311Aの周面が外管312Aによって覆われる。さらに、実施例1の外管312Aは、図7に示すように、前記実施の形態で説明した外管312のような中央管部312aと両側の端管部312bとが分かれた構造になっておらず、一体となっている。このため、内管311Aの軸周りや軸方向の外管312Aの位置の調整や固定は、端面に六角穴が設けられた止めネジ36によって行われる。
【0069】
このように構成された実施例1の変位の計測用治具3Aは、固定部30Aにおいて内管311Aに対して外管312Aを回転させることができる範囲が制限されることにはなるが、マルチストランドで複数本のPC鋼より線Wが密集している場合でも、固定部30AをPC鋼より線Wに容易に取り付けることができる。
【0070】
なお、実施例1のこの他の構成及び作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
【0071】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0072】
例えば、前記実施の形態及び実施例1では、内管311,311Aと外管312,312Aの二重管構造となる固定部30,30Aの本体部31,31Aを例に説明したが、これに限定されるものではなく、回転機能が必要でなければ、円筒状又は半円筒状の単構造の本体部であってもよい。
【0073】
また、前記実施の形態では、中央管部312aと両側の端管部312bとによって形成される外管312について説明したが、これに限定されるものではなく、一本の円筒管を外管とすることもできる。
【符号の説明】
【0074】
1 :緊張ジャッキ
2 :変位計
21 :計測用ワイヤ
211 :端部
3,3A :計測用治具
30,30A:固定部
31,31A:本体部
311,311A:内管
312,312A:外管
32 :ノブ付きボルト(固定ボルト部)
33 :短ボルト(固定ボルト部)
4 :棒材部
5 :係止部
W :PC鋼より線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7